水野 俊平
韓国のソウル東部地検は11月19日までに、旧日本軍の元従軍慰安婦問題の研究書・『帝国の慰安婦』において元慰安婦女性らの名誉を毀損したとして、著者の朴裕河・世宗大教授を在宅起訴した。
一連の事態の流れを整理し、あわせて報道だけでは知ることができない韓国内の雰囲気についても触れていこうと思う。韓国内の雰囲気を理解しなければ、一連の事態の背景にあるものが見えてこないからである。(
まずは事態の流れから見渡していく。『帝国の慰安婦』(韓国語版)が出版されたのは、2013年8月であった。出版当初は著書に対する批判は少なく、むしろ好意的な評価がほとんどであった。
ところが、昨年6月、元慰安婦女性9人が、『帝国の慰安婦』によって自らの名誉が毀損されたとして、同書の出版差し止めと損害賠償を求めて提訴する。朴教授と著書が批判にさらされるようになったのは、この提訴の後であった。
この訴訟は、実質的には元慰安婦女性が集団で居住する施設「ナヌムの家」の所長が中心になっている、と朴教授は語っている。
さらに朴教授は「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」も同様の訴訟を検討した形跡がある、とも述べている。この団体は元慰安婦女性への謝罪と補償を求め、ソウルの日本大使館前で毎週集会を開いている団体である。
今年の2月にソウル地裁は、原告である元慰安婦女性の訴えを部分的に認め、『帝国の慰安婦』の内容のうち34カ所の削除を求める仮処分を決定した。
また、今年4月から10月までの原告と被告との刑事調停が不成立となった結果を受けて、11月18日、ソウル東部地検は『帝国の慰安婦』の内容が元慰安婦女性の人格・名誉を著しく毀損し、学問の自由を逸脱したと判断し、朴教授を名誉毀損罪で在宅起訴した。これに対して日韓の政治家や研究者から起訴を憂慮する声明が発せられもした。
まず、理解しておかなければならないのは、韓国では元慰安婦女性の発言や意思、元慰安婦女性の支援団体の方針に反する主張は社会的にほとんど容認されない、ということである。
もちろん、韓国でも言論の自由は保障されているから、そうした主張を行うこと自体は自由である。しかし、その結果、日本に利する発言を行った「親日派=売国奴」と認定され、糾弾の対象になるだけではなく、民事・刑事上の責任を問われて訴えられる恐れもあるのである。
少なくとも、このこと自体を否定できる韓国人はいないはずである。過去に起こった事例を振り返ってみれば、それは明らかだからである。
2004年、タレントの李丞涓が慰安婦を題材とした自らのヌード写真集の制作を行ったことから、元慰安婦を支援する市民団体から「苦痛を受けた」と非難され、写真集の販売を中断、ナヌムの家(元慰安婦女性が生活する施設)を訪問して元慰安婦女性に謝罪し、芸能活動を中断するという事件が起こっている。
2012年4月、お笑いタレントの金(キム)グラがインターネットラジオ放送で「娼婦たちが貸し切りバス2台に分かれて乗っているのを見て、過去の従軍慰安婦を見ているようだった」と述べたことが明らかになり、一時、すべての放送から降板するという事件が起こっている(その後、元慰安婦女性への謝罪・奉仕活動を経て、芸能界に復帰)。
李丞涓のケースはどう見ても元慰安婦女性を商業的に利用しようとするものであったし、金グラのケースは元慰安婦女性ばかりか性風俗に従事する女性までをも貶める暴言であったから、批判の対象になるのは当たり前であった。
しかし、事件の当事者が一時的にせよ恒久的にせよ、芸能活動を中断することを余儀なくされ、元慰安婦女性に対する直接的な謝罪がなされるまで糾弾と批判がやまなかったことは、韓国においてこの従軍慰安婦問題がどのように認識されているかを端的にあらわしていると言えよう。
また、ソウル大学校の李栄薫教授は2004年9月に行われた韓国のテレビ討論番組で「朝鮮戦争当時、韓国人による慰安所や米軍部隊近くのテキサス村(風俗街−引用者)に対する韓国人の反省と省察がない」、「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員した事実はない」、「日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ」という趣旨の主張を行い、これが騒動となった。
李教授の発言の後、韓国挺身隊問題対策協議会は「李教授の発言は日本の右翼の中でも極右からやっと出てくる主張で、私たちを驚愕と怒りに震えさせる」という声明を出し、李教授の辞職を要求した。李教授は辞職に追い込まれることはなく、告訴されることもなかったが、元慰安婦女性の前で土下座して謝罪と釈明を行わざるを得なかった。
李丞涓のケースはどう見ても元慰安婦女性を商業的に利用しようとするものであったし、金グラのケースは元慰安婦女性ばかりか性風俗に従事する女性までをも貶める暴言であったから、批判の対象になるのは当たり前であった。
しかし、事件の当事者が一時的にせよ恒久的にせよ、芸能活動を中断することを余儀なくされ、元慰安婦女性に対する直接的な謝罪がなされるまで糾弾と批判がやまなかったことは、韓国においてこの従軍慰安婦問題がどのように認識されているかを端的にあらわしていると言えよう。
また、ソウル大学校の李栄薫教授は2004年9月に行われた韓国のテレビ討論番組で「朝鮮戦争当時、韓国人による慰安所や米軍部隊近くのテキサス村(風俗街−引用者)に対する韓国人の反省と省察がない」、「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員した事実はない」、「日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ」という趣旨の主張を行い、これが騒動となった。
李教授の発言の後、韓国挺身隊問題対策協議会は「李教授の発言は日本の右翼の中でも極右からやっと出てくる主張で、私たちを驚愕と怒りに震えさせる」という声明を出し、李教授の辞職を要求した。
李教授は辞職に追い込まれることはなく、告訴されることもなかったが、元慰安婦女性の前で土下座して謝罪と釈明を行わざるを得なかった。
李丞涓のケースはどう見ても元慰安婦女性を商業的に利用しようとするものであったし、金グラのケースは元慰安婦女性ばかりか性風俗に従事する女性までをも貶める暴言であったから、批判の対象になるのは当たり前であった。しかし、事件の当事者が一時的にせよ恒久的にせよ、芸能活動を中断することを余儀なくされ、元慰安婦女性に対する直接的な謝罪がなされるまで糾弾と批判がやまなかったことは、韓国においてこの従軍慰安婦問題がどのように認識されているかを端的にあらわしていると言えよう。
また、ソウル大学校の李栄薫教授は2004年9月に行われた韓国のテレビ討論番組で「朝鮮戦争当時、韓国人による慰安所や米軍部隊近くのテキサス村(風俗街−引用者)に対する韓国人の反省と省察がない」、「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員した事実はない」、「日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ」という趣旨の主張を行い、これが騒動となった。
李教授の発言の後、韓国挺身隊問題対策協議会は「李教授の発言は日本の右翼の中でも極右からやっと出てくる主張で、私たちを驚愕と怒りに震えさせる」という声明を出し、李教授の辞職を要求した。李教授は辞職に追い込まれることはなく、告訴されることもなかったが、元慰安婦女性の前で土下座して謝罪と釈明を行わざるを得なかった。
李丞涓のケースはどう見ても元慰安婦女性を商業的に利用しようとするものであったし、金グラのケースは元慰安婦女性ばかりか性風俗に従事する女性までをも貶める暴言であったから、批判の対象になるのは当たり前であった。しかし、事件の当事者が一時的にせよ恒久的にせよ、芸能活動を中断することを余儀なくされ、元慰安婦女性に対する直接的な謝罪がなされるまで糾弾と批判がやまなかったことは、韓国においてこの従軍慰安婦問題がどのように認識されているかを端的にあらわしていると言えよう。
また、ソウル大学校の李栄薫教授は2004年9月に行われた韓国のテレビ討論番組で「朝鮮戦争当時、韓国人による慰安所や米軍部隊近くのテキサス村(風俗街−引用者)に対する韓国人の反省と省察がない」、「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員した事実はない」、「日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ」という趣旨の主張を行い、これが騒動となった。
李教授の発言の後、韓国挺身隊問題対策協議会は「李教授の発言は日本の右翼の中でも極右からやっと出てくる主張で、私たちを驚愕と怒りに震えさせる」という声明を出し、李教授の辞職を要求した。李教授は辞職に追い込まれることはなく、告訴されることもなかったが、元慰安婦女性の前で土下座して謝罪と釈明を行わざるを得なかった。
李丞涓のケースはどう見ても元慰安婦女性を商業的に利用しようとするものであったし、金グラのケースは元慰安婦女性ばかりか性風俗に従事する女性までをも貶める暴言であったから、批判の対象になるのは当たり前であった。
しかし、事件の当事者が一時的にせよ恒久的にせよ、芸能活動を中断することを余儀なくされ、元慰安婦女性に対する直接的な謝罪がなされるまで糾弾と批判がやまなかったことは、韓国においてこの従軍慰安婦問題がどのように認識されているかを端的にあらわしていると言えよう。
また、ソウル大学校の李栄薫教授は2004年9月に行われた韓国のテレビ討論番組で「朝鮮戦争当時、韓国人による慰安所や米軍部隊近くのテキサス村(風俗街−引用者)に対する韓国人の反省と省察がない」、「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員した事実はない」、「日本は挺身隊を管理した責任があるが、韓国民間人の問題も取り上げるべきだ」という趣旨の主張を行い、これが騒動となった。
李教授の発言の後、韓国挺身隊問題対策協議会は「李教授の発言は日本の右翼の中でも極右からやっと出てくる主張で、私たちを驚愕と怒りに震えさせる」という声明を出し、李教授の辞職を要求した。李教授は辞職に追い込まれることはなく、告訴されることもなかったが、元慰安婦女性の前で土下座して謝罪と釈明を行わざるを得なかった。
言うまでもないことであるが、李教授は「日本の右翼(極右)」などではない。李教授の著書を読めば分かるように、李教授は朝鮮に対する日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本を免責しているわけでもない。
「日本の右翼(極右)」ならば、間違っても著書にそうしたことを書かないだろう。しかし、従軍慰安婦問題に対して、元慰安婦女性や支援団体の意に染まない発言をした場合、容易に「日本の右翼(極右)=売国奴」と認定され、糾弾の対象となるということは認識しておく必要がある。
こうした事情があるため、挺対協をはじめとする支援団体は民間団体でありながら、従軍慰安婦問題に関して大きな影響力を持っている。
毎日新聞元ソウル支局長の澤田克己氏は、その著書である『韓国「反日」の真相』(文春新書)の中で、2012年に日本国政府が韓国政府に提示した解決策に対し、韓国外交部は「日本の国家責任を認めていない案を被害者と関連団体が受け入れるとは思えない」として拒否したと述べている。
ここで述べられている「関連団体」が「挺対協」をはじめとする支援団体を指す。澤田氏は「一市民団体であるはずの挺対協が、事実上の拒否権を持つにいたったということだ。ただ、民主化以降の韓国社会の動きを考えて見ると、それは必然の流れのように思える」と述べている。
朴教授も前述の李教授の場合と同様、日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本政府の主張を支持しているわけではない。
しかし、かといって韓国政府の主張に同調しているわけではないし、挺対協の主張を支持しているわけでもない。このことは教授の著書やフェイスブック上にUPされた教授の主張を読めば誰でもすぐに理解できるだろう。例えば、朴教授がネット上で公開した「帝国の慰安婦−植民地支配と記憶の闘い(要約)」には次のように書かれている。
韓国のソウル東部地検は11月19日までに、旧日本軍の元従軍慰安婦問題の研究書・『帝国の慰安婦』において元慰安婦女性らの名誉を毀損したとして、著者の朴裕河・世宗大教授を在宅起訴した。一連の事態の流れを整理し、あわせて報道だけでは知ることができない韓国内の雰囲気についても触れていこうと思う。韓国内の雰囲気を理解しなければ、一連の事態の背景にあるものが見えてこないからである。(iRONNA)
まずは事態の流れから見渡していく。『帝国の慰安婦』(韓国語版)が出版されたのは、2013年8月であった。出版当初は著書に対する批判は少なく、むしろ好意的な評価がほとんどであった。ところが、昨年6月、元慰安婦女性9人が、『帝国の慰安婦』によって自らの名誉が毀損されたとして、同書の出版差し止めと損害賠償を求めて提訴する。朴教授と著書が批判にさらされるようになったのは、この提訴の後であった。この
訴訟は、実質的には元慰安婦女性が集団で居住する施設「ナヌムの家」の所長が中心になっている、と朴教授は語っている。さらに朴教授は「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」も同様の訴訟を検討した形跡がある、とも述べている。この団体は元慰安婦女性への謝罪と補償を求め、ソウルの日本大使館前で毎週集会を開いている団体である。
今年の2月にソウル地裁は、原告である元慰安婦女性の訴えを部分的に認め、『帝国の慰安婦』の内容のうち34カ所の削除を求める仮処分を決定した。朝鮮慰安婦の一部は、最前線においても行動を共にしながら、銃弾の飛び交うような戦場の中で兵士のあくなき欲望の対象になり、銃撃や爆弾の犠牲になるような過酷な体験をした。つまり、たとえ契約を経てお金を稼いだとしても、朝鮮の女性たちをそのような境遇においたのは「植民地化」であった。したがって、朝鮮人慰安婦に対する日本の責任は、「戦争」責任以前に「植民地支配」責任として問われるべきである。
朴裕河教授の主張の特徴は、従軍慰安婦問題における韓国政府の対応や支援団体である挺対協の主張にも批判を加えている点である。特にアジア女性基金からの償い金受け取りを妨害したこと、償い金を受け取った元慰安婦女性を背信者として排斥したこと、挺対協が日本に対して主張している補償要求の内容が根拠と実現性に乏しいことを批判している。また、ソウルの日本大使館前に建てられた従軍慰安婦像と関連して、「(慰安婦の銅像が)韓国に好意的だった日本人にも韓国に背を向けさせ、無関心にさせた」と批判してもいる。
さらに、朴教授は従軍慰安婦に関して韓国社会一般に信じられている誤った俗説についても検証し、批判を加えている。例えば、韓国では「強制的に従軍慰安婦にさせられた女性が20万人だった」と広く信じられているが、これについて次のように述べている。
言うまでもないことであるが、李教授は「日本の右翼(極右)」などではない。李教授の著書を読めば分かるように、李教授は朝鮮に対する日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本を免責しているわけでもない。「日本の右翼(極右)」ならば、間違っても著書にそうしたことを書かないだろう。しかし、従軍慰安婦問題に対して、元慰安婦女性や支援団体の意に染まない発言をした場合、容易に「日本の右翼(極右)=売国奴」と認定され、糾弾の対象となるということは
認識しておく必要がある。
こうした事情があるため、挺対協をはじめとする支援団体は民間団体でありながら、従軍慰安婦問題に関して大きな影響力を持っている。毎日新聞元ソウル支局長の澤田克己氏は、その著書である『韓国「反日」の真相』(文春新書)の中で、2012年に日本国政府が韓国政府に提示した解決策に対し、韓国外交部は「日本の国家責任を認めていない案を被害者と関連団体が受け入れるとは思えない」として拒否したと述べている。
ここで述べられている「関連団体」が「挺対協」をはじめとする支援団体を指す。澤田氏は「一市民団体であるはずの挺対協が、事実上の拒否権を持つにいたったということだ。ただ、民主化以降の韓国社会の動きを考えて見ると、それは必然の流れのように思える」と述べている。
朴教授も前述の李教授の場合と同様、日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本政府の主張を支持しているわけではない。しかし、かといって韓国政府の主張に同調しているわけではないし、挺対協の主張を支持しているわけでもない。このことは教授の著書やフェイスブック上にUPされた教授の主張を読めば誰でもすぐに理解できるだろう。例えば、朴教授がネット上で公開した「帝国の慰安婦−植民地支配と記憶の闘い(要約)」には次のように書かれている。
言うまでもないことであるが、李教授は「日本の右翼(極右)」などではない。李教授の著書を読めば分かるように、李教授は朝鮮に対する日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本を免責しているわけでもない。「日本の右翼(極右)」ならば、間違っても著書にそうしたことを書かないだろう。しかし、従軍慰安婦問題に対して、元慰安婦女性や支援団体の意に染まない発言をした場合、容易に「日
本の右翼(極右)=売国奴」と認定され、糾弾の対象となるということは認識しておく必要がある。
こうした事情があるため、挺対協をはじめとする支援団体は民間団体でありながら、従軍慰安婦問題に関して大きな影響力を持っている。毎日新聞元ソウル支局長の澤田克己氏は、その著書である『韓国「反日」の真相』(文春新書)の中で、2012年に日本国政府が韓国政府に提示した解決策に対し、韓国外交部は「日本の国家責任を認めていない案を被害者と関連団体が受け入れるとは思えない」として拒否したと述べている。
ここで述べられている「関連団体」が「挺対協」をはじめとする支援団体を指す。澤田氏は「一市民団体であるはずの挺対協が、事実上の拒否権を持つにいたったということだ。ただ、民主化以降の韓国社会の動きを考えて見ると、それは必然の流れのように思える」と述べている。
朴教授も前述の李教授の場合と同様、日本の植民地支配を肯定しているわけでもないし、従軍慰安婦問題において日本政府の主張を支持しているわけではない。しかし、かといって韓国政府の主張に同調しているわけではないし、挺対協の主張を支持しているわけでもない。このことは教授の著書やフェイスブック上にUPされた教授の主張を読めば誰でもすぐに理解できるだろう。例えば、朴教授がネット上で公開した「帝国の慰安婦−植民地支配と記憶の闘い(要約)」には次のように書かれている。
朝鮮人慰安婦の一部は、最前線においても行動を共にしながら、銃弾の飛び交うような戦場の中で兵士のあくなき欲望の対象になり、銃撃や爆弾の犠牲になるような過酷な体験をした。つまり、たとえ契約を経てお金を稼いだとしても、朝鮮の女性たちをそのような境遇においたのは「植民地化」であった。したがって、朝鮮人慰安婦に対する日本の責任は、「戦争」責任以前に「植民地支配」責任として問われるべきである。
朴裕河教授の主張の特徴は、従軍慰安婦問題における韓国政府の対応や支援団体である挺対協の主張にも批判を加えている点である。特にアジア女性基金からの償い金受け取りを妨害したこと、償い金を受け取った元慰安婦女性を背信者として排斥したこと、挺対協が日本に対して主張している補償要求の内容が根拠と実現性に乏しいことを批判している。また、ソウルの日本大使館前に建てられた従軍慰安婦像と関連して、「(慰安婦の銅像が)韓国に好意的だった日本人にも韓国に背を向けさせ、無関心にさせた」と批判してもいる。
さらに、朴教授は従軍慰安婦に関して韓国社会一般に信じられている誤った俗説についても検証し、批判を加えている。例えば、韓国では「強制的に従軍慰安婦にさせられた女性が20万人だった」と広く信じられているが、これについて次のように述べている。
朝鮮人慰安婦の一部は、最前線においても行動を共にしながら、銃弾の飛び交うような戦場の中で兵士のあくなき欲望の対象になり、銃撃や爆弾の犠牲になるような過酷な体験をした。つまり、たとえ契約を経てお金を稼いだとしても、朝鮮の女性たちをそのような境遇においたのは「植民地化」であった。したがって、朝鮮人慰安婦に対する日本の責任は、「戦争」責任以前に「植民地支配」責任として問われるべきである。
朴裕河教授の主張の特徴は、従軍慰安婦問題における韓国政府の対応や支援団体である挺対協の主張にも批判を加えている点である。特にアジア女性基金からの償い金受け取りを妨害したこと、償い金を受け取った元慰安婦女性を背信者として排斥したこと、挺対協が日本に対して主張している補償要求の内容が根拠と実現性に乏しいことを批判している。また、ソウルの日本大使館前に建てられた従軍慰安婦像と関連して、「(慰安婦の銅像が)韓国に好意的だった日本人にも韓国に背を向けさせ、無関心にさせた」と批判してもいる。
さらに、朴教授は従軍慰安婦に関して韓国社会一般に信じられている誤った俗説についても検証し、批判を加えている。例えば、韓国では「強制的に従軍慰安婦にさせられた女性が20万人だった」と広く信じられているが、これについて次のように述べている。
「20万」という数字は、日韓を合わせた、「国民動員」された「挺身隊」の数だったことが、1970年頃の韓国の新聞記事から推測可能だ。新聞は、日本人女性が15万、朝鮮人が5〜6万、と言及している。こうした誤解も手伝ってその後そのまま「慰安婦」の数と理解されてきたものと考えられる。しかもその「慰安婦」の全てが必ずしも「軍が作った」「軍慰安所」にいたわけではないことはこれまで述べてきた通りである。
韓国において、従軍慰安婦とはあくまで日本の官憲に強制連行された「性奴隷」であり、その総数は20万人である、というのがゆるぎない「常識」である。そして従軍慰安婦問題の「解決」が膠着状態にあるのは、全面的に日本政府の責任であり、日本政府が誠意ある態度を見せないからだという論調が大勢を占めている。
そうした韓国において、朴教授の主張は非常に挑戦的なものであり、従軍慰安婦運動を主導してきた支援団体にとって、座視できないものであっただろう。朴教授を起訴した検察も支援団体や韓国内の一般世論を無視できなかったことは容易に想像がつく。
今回の朴教授の起訴に対して、日韓両国では「言論の自由と学問の発展を阻害する」という憂慮の声が上がっている。しかし、より直接的な影響として、従軍慰安婦問題に関する自由闊達な論議を委縮させる、という結果を生むことは確かだろう。つまり「もの言わば唇寒し」といった状況である。従軍慰安婦問題の「解決」があるとするならば、その「解決」の前提になるのは「真相究明」であろ
う。
「20万」という数字は、日韓を合わせた、「国民動員」された「挺身隊」の数だったことが、1970年頃の韓国の新聞記事から推測可能だ。新聞は、日本人女性が15万、朝鮮人が5〜6万、と言及している。こうした誤解も手伝ってその後そのまま「慰安婦」の数と理解されてきたものと考えられる。
しかもその「慰安婦」の全てが必ずしも「軍が作った」「軍慰安所」にいたわけではないことはこれまで述べてきた通りである。 韓国において、従軍慰安婦とはあくまで日本の官憲に強制連行された「性奴隷」であり、その総数は20万人である、というのがゆるぎない「常識」である。そして従軍慰安婦問題の「解決」が膠着状態にあるの
は、全面的日本政府の責任であり、日本政府が誠意ある態度を見せないからだという論調が大勢を占めている。そうした韓国において、朴教授の主張は非常に挑戦的なものであり、従軍慰安婦運動を主導してきた支援団体にとって、座視できないものであっただろう。朴教授を起訴した検察も支援団体や韓国内の一般世論を無視できなかったことは容易に想像がつく。
今回の朴教授の起訴に対して、日韓両国では「言論の自由と学問の発展を阻害する」という憂慮の声が上がっている。しかし、より直接的な影響として、従軍慰安婦問題に関する自由闊達な論議を委縮させる、という結果を生むことは確かだろう。つまり「もの言わば唇寒し」といった状況である。従軍慰安婦問題の「解決」があるとするならば、その「解決」の前提になるのは「真相究明」であろう。
かつて、「河野談話」の前提となった日本政府による「調査結果」の内容が、日韓の政治家の「協議」によって決められた、という経緯があった。このような「調査結果」は到底、真の「真相究明」とは言えない。本当の意味での「真相究明」のためには研究者の真摯で公平な研究姿勢と、客観性と普遍性を備えた研究結果が不可欠である。一般に信じられている俗説を批判したり、持論が特定の民間団体の主張と合致しないという理由だけで売国奴呼ばわりされるのであったら、誰しもそうした研究に尻ごみせざるを得ないだろう。ましてや刑事告訴される可能性があるというのでは、
なおさらである。
韓国国内ではそうした状況は広く一般に容認されるであろうが、日本ではそうではない。今回の朴教授の起訴は、これまで従軍慰安婦問題の「解決」を願ってきた日本人からも関心と意欲を失わせ、「真相究明」を彼岸のかなたに押しやってしまう、という否定的な効果を生む恐れがあるのである。
■水野俊平
みずの・しゅんぺい 1968年生まれ。韓国語学者。天理大学外国語学部朝鮮学科へ進学。同大学を卒業後、韓国・全南大学校大学院国語国文学科に学び、博士課程修了。同大学講師を経て、北海商科大学教授。16 年間にわたる韓国在住時では、韓国各局のテレビ番組にレギュラー出演し、「全羅道方言をしゃべる日本人学者」として大ブレイク、「韓国で一番有名な日本人」となった。 2006年に日本に帰国、北海商科大学で教授に就任し、朝鮮語を教えている。著書に『韓国の若者を知りたい』(岩波書店)、『韓国の歴史』(河出書房新社)、『韓VS日「偽史ワールド」』(小学館)など多数。
産経ニュース【iRONNA発】2015.12.19