小雲 規生
新たなチャイナリスクに 「IMFは大局観を失っている」との声
国際通貨基金(IMF)は11月30日の理事会で、人民元を準備資産 「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に加えることを正式に決めた。
採用に消極的だったオバマ政権も賛成に回り、人民元採用を強く求めてきた中国の国際金融市場での存在感拡大を容認する形となった。
IMFには 人民元採用で金融制度改革を後押し、中国経済を安定成長の軌道に乗せよ うとする思惑もちらつく。しかし人民元の採用は資本流出を招くなどして 中国経済をかえって混乱させかねないというリスクもあり、場合によって は、国際金融情勢が一気に緊迫する可能性も指摘されている。
悔しさにじむコメント
「中国経済の世界の金融システムへの統合に向けた重要な一里塚だ」。IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)は11月30日、 IMF内で記者会見を開き、人民元の国際化に期待を示した。
理事会での構成通貨の見直しには議決権ベースで70%以上の賛成が必要。このため約17%の議決権を握る米国が反対し、それに日本や欧州の一部が同調すれば人民元の採用が見送られる可能性もありえた。しかし実際には欧州各国が早くから人民元採用の原則支持を表明。米国も理事会での投票で賛成に回らざるを得なかった。
人民元採用の正式決定後、米財務省は「IMFスタッフが人民元の構成通貨への採用を提言した。本日、米国はその提言を支持した」とするごく短いコメントを発表。中国の思惑を阻止できなかった悔しさをにじませた。
新たなチャイナリスク
人民元が構成通貨に採用されたことは、人民元がIMFが定める「自由に取り引きできる通貨」という条件をクリアしたことを意味する。これで人民元は国際通貨のステータスを得たといえ、各国の中央銀行は外貨準備に占める人民元の割合を増やすもようだ。
IMFによると、現状では各国 中銀が保有する人民元の割合はわずかとみられるが、通貨アナリストの間 では「外貨準備に占める人民元の割合は5%に達し、円を抜いてポンドと 肩を並べる」との見方も出ている。
IMFには人民元に国際通貨としてのお墨付きを与えることで、人民元取引の自由化など中国の金融制度のさらなる改革につなげようという思惑がある。
中国人民銀行(中央銀行)の周小(ししゅうょうせ ん)川総裁(67)ら中国の金融改革派と連携して、習近平国家主席 (62)ら中国指導部に改革の重要性を認識させ、改革の推進力を得よう という戦略だ。ラガルド氏は30日の声明で「改革努力の継続と深化がよ り頑強な国際金融システムをもたらし、中国経済と世界経済の成長と安定 を支えることになる」
とした。
しかしこうした戦略にはジレンマもある。中国が人民元取引の自由化を進めることがはっきりすれば、中国経済が減速している現状では、人民元の先安感から中国からの資本流出が進むリスクがあるからだ。これは中国経済に新たな不安要素が加わることを意味する。
「大局観失ったIMF」
実際、米財務省の試算によると、今年1〜8月の間、中国からは約 5000億ドル(約62兆円)の資本が流出している。中国が8月に輸出 促進を狙った事実上の人民元の切り下げに踏み切った際は資本流出が加速 したとみられ、中国は7〜9月にかけて、人民元買い支えのための大規模 な市場介入を行うなど、市場の安定化に躍起になった。
人民元安は中国にとって輸出の追い風となる好条件だ。しかしペースが速すぎれば中国経済への不安が拡大し、海外企業などが中国への投資を敬遠する要因になりかねない。
人民元の構成通貨採用はこうした事態を起こ りやすくするリスクをはらんでおり、ある国際金融筋は「経済の減速が鮮 明になっている中国から資本流出が進めば、中国経済の停滞につながるこ とは必至。こうした事態は米国も含めて誰も望んでおらず、IMFは大局 観を失っている」と懐疑的だ。
しかしこうした戦略にはジレンマもある。中国が人民元取引の自由化を進めることがはっきりすれば、中国経済が減速している現状では、人民元の先安感から中国からの資本流出が進むリスクがあるからだ。これは中国経済に新たな不安要素が加わることを意味する。
「大局観失ったIMF」
実際、米財務省の試算によると、今年1〜8月の間、中国からは約5000億ドル(約62兆円)の資本が流出している。中国が8月に輸出促進を狙った事実上の人民元の切り下げに踏み切った際は資本流出が加速したとみられ、中国は7〜9月にかけて、人民元買い支えのための大規模な市場介入を行うなど、市場の安定化に躍起になった。
人民元安は中国にとって輸出の追い風となる好条件だ。しかしペースが速すぎれば中国経済への不安が拡大し、海外企業などが中国への投資を敬遠する要因になりかねない。人民元の構成通貨採用はこうした事態を起こりやすくするリスクをはらんでおり、ある国際金融筋は「経済の減速が鮮明になっている中国から資本流出が進めば、中国経済の停滞につながることは必至。こうした事態は米国も含めて誰も望んでおらず、IMFは大局観を失っている」と懐疑的だ。
国際通貨基金(IMF)は11月30日の理事会で、人民元を準備資産 「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に加えることを正式に決めた。 採用に消極的だったオバマ政権も賛成に回り、人民元採用を強く求めてきた中国の国際金融市場での存在感拡大を容認する形となった。
IMFには 人民元採用で金融制度改革を後押し、中国経済を安定成長の軌道に乗せよ うとする思惑もちらつく。しかし人民元の採用は資本流出を招くなどして 中国経済をかえって混乱させかねないというリスクもあり、場合によって は、国際金融情勢が一気に緊迫する可能性も指摘されている。
悔しさにじむコメント
「中国経済の世界の金融システムへの統合に向けた重要な一里塚だ」。IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)は11月30日、 IMF内で記者会見を開き、人民元の国際化に期待を示した。
理事会での構成通貨の見直しには議決権ベースで70%以上の賛成が必要。このため約17%の議決権を握る米国が反対し、それに日本や欧州の一部が同調すれば人民元の採用が見送られる可能性もありえた。しかし実際には欧州各国が早くから人民元採用の原則支持を表明。米国も理事会での投票で賛成に回らざるを得なかった。(ワシントン支局)
産経ニュース【アメリカを読む】2015.12.18