2017年11月18日

◆めぐみさん拉致から40年、母の想い

                      櫻井よしこ

北朝鮮相手の過去20年余の交渉の歴史は常に北朝鮮の騙し勝ちに終わって
きた。拉致問題の解決も非常に厳しい。解決の可能性があるとすれば、そ
れはやはり、安倍政権下でのことだろう。

11月6日、横田早紀江さんら拉致被害者10家族17人の皆さんがドナルド・
トランプ大統領と面会した。同日の夕方、早紀江さんと電話で語った。彼
女の声がかすれている。

「主人がいまデイ・ケアから戻ってきました。ソファで一休みしてもらっ
ています。私も大統領や総理とお会いして先程戻ったばかりです」

めぐみさんがいなくなって来週で40年になる。北朝鮮による拉致が判明
し、家族会を結成してから20年だ。13歳のめぐみさんが53歳になり、早紀
江さんも滋さんも年を重ねた。長い年月の余りにも多くの悲しみや絶望、
怒りや祈りが、横田さん夫妻の健康に影を落とす。そうした中、早紀江さ
んは同日、トランプ大統領に伝えたという。

「国連で拉致問題を取り上げ世界中に発信して下さったことに本当に驚
き、感謝したこと、ご多忙の中で私たち家族にお会い下さって心からお礼
を言いたかったことを話しました。1人1分が目途でしたので、私はその2
点を申し上げました」

トランプ夫妻も安倍晋三夫妻も、非常に近い距離で車座になるような形で
話を聞いてくれたそうだ。トランプ大統領はめぐみさんの弟の拓也さんが
持っていた写真を手に取り、メラニア夫人と共にずっと見入っていたという。

早紀江さんの次に曽我ひとみさんが今も行方の知れない母のミヨシさんに
ついて語ったが、拉致被害者本人の話をアメリカの大統領が聞くのは初め
てのはずだ。

「トランプさんはテレビで見るような猛々しいイメージの人では全くあり
ませんでした。むしろ、とてもあたたかい、家族想いの人だと感じまし
た。大統領も夫人も大きくて、152センチの私はまるで小人のように感じ
ました」

「北朝鮮は悪魔の国」

語る早紀江さんは、これまで3人のアメリカの現職大統領に会っている。
ブッシュ、オバマ、そして今回のトランプの各大統領だ。ブッシュ大統領
にはホワイトハウスに招かれた。明るい性格で、早紀江さんを「マム」と
呼び肩を抱き寄せた。

オバマ大統領とは東京の迎賓館で会った。仲々姿を見せず会談は遅れて始
まったが、オバマ氏は最後まで立ちっ放しで語った。冷静で感情を表に出
さないという印象を残した。

トランプ大統領はそうした中、国連でのスピーチで拉致問題に言及するな
ど、これまでよりも心情的に多くを共有してくれている印象だ。

「めぐみちゃんの拉致からここまで必死で来ましたが、長い道のりです
ね。北朝鮮は悪魔の国です。向こうの国民も可哀想です。私は何十年も同
じことを訴えてきました。最初は聞いてもらえませんでしたが、今、アメ
リカの大統領も耳を傾け、世界に発信して下さる。北朝鮮の異様な在り方
も世界の前に、明らかになってきました。この40年は信じ難い程、長かっ
たのですが、ここまで来るのに40年が必要だったということでしょうか」

早紀江さんは自身の人生を宿命だと受けとめているという。めぐみさんの
人生も同じく宿命だと早紀江さんは考える。そのうえで大変な人生だと、
深い息を吐くように語った。

早紀江さんも他の家族の皆さんも、トランプ大統領には肉親を奪われた一
人の家族としての思いを伝えたという。この点について、20年間拉致問題
に関わり続けてきた「救う会」会長の西岡力氏が語った。

「アメリカの圧力は日本にとって大きな支援ですが、家族の皆さんはよく
理解しているのです。拉致問題はアメリカの問題ではなく、あくまでも日
本の問題だということを。従って、大統領には拉致問題の深刻さを聞いて
もらうのがよいのであり、アメリカ政府に何かしてほしいと頼むのは筋違
いだと、皆さん認識していました。その意味では、家族の皆さん方は本当
に立派な大人であり、立派な日本人です」

これまでアメリカの大統領が家族に会うとき、日程はギリギリまで発表さ
れず、家族も待たされた。だが、今回は対照的だった。大統領の正式日程
に、安倍晋三首相主催の家族との面会の席に参加すると明記されていた。
家族との面会が、自衛隊や在日米軍と会うのと同列の公式行事になったの
だ。これだけで北朝鮮には大きな圧力となる。再び西岡氏が語る。

「このように正式な形で家族の話を聞こうという気持にトランプ大統領が
なった。そういう気持に安倍首相がトランプ大統領をさせた。これは大変
なことです。これで、たとえば追い詰められた金正恩が、或いは金正恩を
除去した次の政権が、核よりも拉致を先に解決したいと言ってきたとき、
日本政府は核解決の前に拉致解決で動くことができます」

日本独自の制裁

これまでは核が解決されていないのに拉致問題で日本が動けば、アメリカ
は日本が裏切ったと疑う可能性があった。だが、ここまで大統領に家族の
声を聞いてもらえば、そのようには考えないだろうというのだ。

加えて、日本が北朝鮮の核問題でアメリカの意図に反する行動をとること
は、理性的に考えればあり得ない。北朝鮮の核は、アメリカ以前に日本に
とってより深刻な脅威であるからだ。

これから嵐が吹き荒れるかもしれない北朝鮮問題で、拉致解決につながる
どんな細い道筋も、日本政府は逃すことはできない。安倍首相はその細い
ひと筋の、解決への道をたぐり寄せるためにアメリカをはじめとする国際
社会を動かして強い圧力をかけ、金正恩氏が命乞いをしてくるところまで
追い詰めようとしてきた。

こう書くと、朝日新聞などは、即、「もっと北朝鮮と話し合うべきだ」と
主張するのであろう。だが、昨年9月に安倍首相が国連で行った演説を読
んでみることだ。90年代前半以降、今日まで、日本のみならず世界が北朝
鮮に騙されてきたことを、具体的にきちんと説明している。首相の、事実
を踏まえた説得に、世界が納得して制裁を科したのだ。

6か国協議などで、北朝鮮の言葉を信じて資金や石油を渡してきた。その
結果、94年段階で核も弾道ミサイルもなかった北朝鮮がいま、水爆と
ICBMを手にしようとしている。であれば、解決の道はもはや話し合い
ではなく、圧力で北朝鮮に悟らせるしかない。

自身の命を守るには核とミサイルを諦め、拉致被害者を日本に戻すしかな
いと、金正恩氏に悟らせるところまで追い詰めることが必要なのだ。安倍
首相は6日、北朝鮮の35団体・個人を特定して資産凍結するという、日本
独自の制裁を加えることにした。それがめぐみさんたちを救う道だと思う。

『週刊新潮』 2017年11月16日号 日本ルネッサンス 第778回

2017年11月17日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

                       櫻井よしこ

「北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り
方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。

それだけでなく、本来なら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値
観を共有する米韓両国と共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がお
かしくなり、米軍は地上戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたよ
うに、自衛隊は憲法で縛られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いず
れにしても米韓両国軍と共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないの
である。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。

『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年11月16日

◆ユネスコ巡る日本外交は

                    櫻井よしこ



「ユネスコ巡る日本外交は3連勝も中韓との歴史戦争はまだこれから」

久々にほっとするニュースだ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の国際
諮問委員会(IAC)が、中韓両国等9カ国15団体が「世界の記憶」とし
て共同申請した慰安婦資料の登録の見送りを10月31日、正式決定した。

彼らの申請資料は2744点、慰安婦を「強制連行の被害者」「性奴隷」とと
らえて日本を非難するものだ。

2年前、中国によって「南京大虐殺」が登録された。30万人もの大虐殺が
存在しなかったことは、学術的研究によってすでに明らかだ。にもかかわ
らず、中国は登録に成功した。

当時の日本の外務省もユネスコの担当省である文部科学省も寝耳に水で、
虚を突かれた隙に登録申請は進んだ。

だが非常におかしいのは、今日に至るまで、何をもって「30万人大虐殺の
記憶」とするのか。目録のみで資料が全く開示されていないことだ。

日本側の開示請求に中国側は応えない。恐らく、中国側の主張を支える資
料はないのだろう。では、なぜこんな正体不明の、「日本軍は南京で大虐
殺を行った」という大スローガンだけが、根拠も存在さえも明らかではな
い形で登録されたのか。ユネスコの「世界の記憶」登録制度に深刻な欠陥
がある、と考えて日本政府は対策に乗り出した。これが南京事件登録のあ
と、つまり2年前のことだ。

日本側は、直接南京事件や慰安婦問題に触れることなく、人類が共有すべ
き貴重な記憶が、政治的に偏ったり、利用されたりしてはならない、政治
利用されがちな案件では必ず当事国全ての意見を聞き、当事国全ての理解
が得られるまで登録しないという点を柱に主張を展開した。

働きかける対象を、ユネスコ全体を取り仕切る執行委員会に絞った。執行
委員会は日本の趣旨をよく理解し、全会一致で日本の制度改革案を決議し
て受け入れた。これが10月18日だった。執行委員会は、ユネスコの事務局
長以下、「世界の記憶」登録を直接決定するIACの上部組織である。

日本が執行委員会というユネスコのトップ組織に働きかけたのは正解だっ
たが、逆に見れば時間がない中ではその選択しかなかったとも言える。

どの申請資料が「世界の記憶」に値するのかを第一段階で審査するのは登
録小委員会だ。14人で構成されるが、全員がアーキビスト、公文書の記録
や保管の専門家であり、歴史問題についての専門性は全くない。

登録小委員会は審査の結論をIACに提出する。IACにも14人の委員が
いるが、歴史問題の専門家はおらず、議論は全て非公開である。彼らが登
録小委員会の勧告をそのまま受け入れる事例が多いため、決定的に重要な
のが登録小委員会だと言われている。

中韓両国は長年この2つの委員会に働きかけていた。彼らは反日情報の拡
散、浸透に努め、中国は南京事件登録に成功した。その間のユネスコ事務
局長はイリナ・ボコバ氏、ブルガリア出身の共産党員、名うての親中派だ。

日本は巻き返しに出たものの、次の登録までには2年しかない。登録小委
員会やIACの計28人の委員に個別に働きかける時間も人材もない。そこ
で執行委員会に的を絞った。トップでは日本の正論は受け入れられたが、
親中派の共産党員のボコバ氏が最終決定権を持つのだ。日本側は手に汗を
握る思いで見詰めていた。そして成功した。

外務省、民間の専門家、有志団体が一体となって反撃した成果である。

慰安婦資料登録の阻止、制度改革の実現、次期ユネスコ事務局長の座を中
国に与えずフランスを勝たせた。日本外交の3連勝だ。やれば出来るでは
ないか。これは、しかし、安倍晋三首相が明確な旗を立てたから可能だっ
た。政治主導の重要性と共に、中韓両国との歴史戦争はまだこれからだと
強調したい。

『週刊ダイヤモンド』 2017年11月11日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1206 


2017年11月15日

◆ユネスコ巡る日本外交は

                       櫻井よしこ


「ユネスコ巡る日本外交は3連勝も中韓との歴史戦争はまだこれから」

久々にほっとするニュースだ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の国際
諮問委員会(IAC)が、中韓両国等9カ国15団体が「世界の記憶」とし
て共同申請した慰安婦資料の登録の見送りを10月31日、正式決定した。

彼らの申請資料は2744点、慰安婦を「強制連行の被害者」「性奴隷」とと
らえて日本を非難するものだ。

2年前、中国によって「南京大虐殺」が登録された。30万人もの大虐殺が
存在しなかったことは、学術的研究によってすでに明らかだ。にもかかわ
らず、中国は登録に成功した。

当時の日本の外務省もユネスコの担当省である文部科学省も寝耳に水で、
虚を突かれた隙に登録申請は進んだ。

だが非常におかしいのは、今日に至るまで、何をもって「30万人大虐殺の
記憶」とするのか。目録のみで資料が全く開示されていないことだ。

日本側の開示請求に中国側は応えない。恐らく、中国側の主張を支える資
料はないのだろう。では、なぜこんな正体不明の、「日本軍は南京で大虐
殺を行った」という大スローガンだけが、根拠も存在さえも明らかではな
い形で登録されたのか。ユネスコの「世界の記憶」登録制度に深刻な欠陥
がある、と考えて日本政府は対策に乗り出した。これが南京事件登録のあ
と、つまり2年前のことだ。

日本側は、直接南京事件や慰安婦問題に触れることなく、人類が共有すべ
き貴重な記憶が、政治的に偏ったり、利用されたりしてはならない、政治
利用されがちな案件では必ず当事国全ての意見を聞き、当事国全ての理解
が得られるまで登録しないという点を柱に主張を展開した。

働きかける対象を、ユネスコ全体を取り仕切る執行委員会に絞った。執行
委員会は日本の趣旨をよく理解し、全会一致で日本の制度改革案を決議し
て受け入れた。これが10月18日だった。執行委員会は、ユネスコの事務局
長以下、「世界の記憶」登録を直接決定するIACの上部組織である。

日本が執行委員会というユネスコのトップ組織に働きかけたのは正解だっ
たが、逆に見れば時間がない中ではその選択しかなかったとも言える。

どの申請資料が「世界の記憶」に値するのかを第一段階で審査するのは登
録小委員会だ。14人で構成されるが、全員がアーキビスト、公文書の記録
や保管の専門家であり、歴史問題についての専門性は全くない。

登録小委員会は審査の結論をIACに提出する。IACにも14人の委員が
いるが、歴史問題の専門家はおらず、議論は全て非公開である。彼らが登
録小委員会の勧告をそのまま受け入れる事例が多いため、決定的に重要な
のが登録小委員会だと言われている。

中韓両国は長年この2つの委員会に働きかけていた。彼らは反日情報の拡
散、浸透に努め、中国は南京事件登録に成功した。その間のユネスコ事務
局長はイリナ・ボコバ氏、ブルガリア出身の共産党員、名うての親中派だ。

日本は巻き返しに出たものの、次の登録までには2年しかない。登録小委
員会やIACの計28人の委員に個別に働きかける時間も人材もない。そこ
で執行委員会に的を絞った。トップでは日本の正論は受け入れられたが、
親中派の共産党員のボコバ氏が最終決定権を持つのだ。日本側は手に汗を
握る思いで見詰めていた。そして成功した。

外務省、民間の専門家、有志団体が一体となって反撃した成果である。

慰安婦資料登録の阻止、制度改革の実現、次期ユネスコ事務局長の座を中
国に与えずフランスを勝たせた。日本外交の3連勝だ。やれば出来るでは
ないか。これは、しかし、安倍晋三首相が明確な旗を立てたから可能だっ
た。政治主導の重要性と共に、中韓両国との歴史戦争はまだこれからだと
強調したい。

『週刊ダイヤモンド』 2017年11月11日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1206 


2017年11月14日

◆政府高官が語る、北朝鮮有事近し

櫻井よしこ


米朝間の緊張は緩む気配がない。朝鮮半島有事が現実のものとなる日が極
めて近いことが読みとれる。政府中枢にいる人物が匿名で語った。

「米軍の攻撃は今年末から来年早々だと思います」

同じく匿名で自民党幹部も語った。

「米軍の攻撃は2日で完了すると、日本に伝わってきています」

別々に取材した両氏の証言は、アメリカの北朝鮮攻撃が近いこと、軍事攻
撃がないと断言できるのはドナルド・トランプ大統領が11月5日から日
本、韓国、中国を歴訪し、ベトナムのダナンでAPEC首脳会議に出席す
るなどして帰国する11月中旬までであるという点で一致した。

アメリカはそれまで外交交渉で、金正恩朝鮮労働党委員長が核兵器とミサ
イルを放棄するよう働きかける。アメリカの望む結果が得られない場合、
北朝鮮情勢は「未知の領域に入る」と、政府高官は断言する。つまり北朝
鮮有事は、早ければ11月半ば以降にもあり得るのだ。

アメリカでは、9月18日にジェームズ・マティス国防長官が、ソウルを無
傷のまま守りながら北朝鮮を攻撃できると断言した。トランプ大統領は10
月1日、北朝鮮との外交交渉に言及したレックス・ティラーソン国務長官
に対し、「小さなロケットマンとの交渉は時間の無駄だと伝えた」とツ
イートした。

他方日本では、9月8日、インターネット配信の「言論テレビ」で小野寺五
典防衛相が敵基地攻撃について詳しく語った。氏は自民党の弾道ミサイル
防衛に関する検討チームの座長として、敵基地攻撃に関する党の案をまと
めた。

「従前の専守防衛論は戦闘機や爆撃機が飛来して、或いは軍艦が近寄って
きて攻撃する、それに対して日本を守るというのが前提の議論でした。し
かし、自民党は弾道ミサイルを撃ち落とすことも専守防衛の一環だととら
えました」

核攻撃もあり得る

では一番撃ち落とし易いのはどの時点か。小野寺氏は語る。

「いま、日本が撃とうとしているのは、ミサイルが高く上がったあと落下
してくるところです。しかし、これはむしろ撃ちにくい。狙い易いのは、
ミサイル発射前か、発射後のブースト・フェーズ、ミサイルがグーッと上
がってくるところです。ゆっくり上がってきますから、ここが一番撃ち落
とし易いのです」

「日本に飛んでくるミサイルを食い止めるのが専守防衛で、たまたまそれ
が発射前には北朝鮮の領土にある。発射後はブースト・フェーズでは北朝
鮮の領空にある。これを落とすには、北朝鮮の領土に届く装備が必要にな
ります。このことを議論すべきだというのが自民党の考えです」(同)

相手から撃たれて犠牲が出てはじめて反撃が許されるのが専守防衛である
との解釈では到底、日本を守り切れない。実際に北朝鮮のミサイル攻撃、
核攻撃もあり得る中で、自民党の議論は現実的であり、評価したい。

但し、安倍首相は自民党が提言した能力や装備については、現在のとこ
ろ、保有は検討しないとしている。

他方、小野寺氏はこうも語った。

「相手に日本攻撃の意図が明々白々にあるとき、攻撃の手順に着手した段
階で、武力攻撃を受けたという事態認定をすれば、自衛隊に武力行使を下
令できる。これが、歴代内閣の考えです」

こうした中、いまアメリカでは「着手論」が議論されていると、前出の政
府高官が指摘した。

9月の段階でアメリカ世論の58%が北朝鮮への軍事行動を支持していた
が、米軍は伝統的に先制攻撃よりも、攻撃を受けて反撃する傾向が強い。
パールハーバーも、日本に先に攻撃させるように流れを作ったと、著名な
歴史学者、チャールズ・ビーアドも指摘している。

「先制攻撃のイメージを避けたいアメリカが着手論を言い始めています。
これは自国への攻撃が明白になり、敵が攻撃の手順に着手したと判断した
とき、反撃が許されるという考えです。何を自国への攻撃と見るのかは、
その国の判断です」と、政府高官。

日本は北朝鮮有事にどう対処するのか、自民党で議論された敵基地攻撃を
可能にする装備などは予算措置をしているのかと質問すると、この人物は
明言した。

「北朝鮮のゴールは遠くないのです。この暮れにも、来年早々にもという
緊急事態です。先のことを考えて具体的に手当するような猶予はないのです」

安倍首相は今月22日の総選挙を国難突破の選挙だと宣言した。そのとおり
の展開になりつつある。北朝鮮に関するアメリカの狙いはこの国から核を
取り除くことだ。アメリカは恐らく金正恩氏の斬首作戦も決行するだろ
う。ここまでは明白だ。その後はどうなるのか。

拉致被害者を救出

まず、北朝鮮有事で日本は何を目指すのか。まっ先に横田めぐみさんをは
じめ拉致被害者を救出することだ。この件の担当は外務省だが、彼らの手
元に拉致被害者についての情報はない。アメリカにも恐らく、ない。

一人ひとりがどこにいるのかを把握することなしには、救出作戦は不可能
である。厳しい現実の中で、国民を救出することさえできない日本の現状
を如何にして変えていくか、私たちは日本国民の責任として考え、実行し
なければならない。それは究極的には憲法改正につながるはずだ。

もう一点、日本が北朝鮮有事の先に見据えるべきは、中国の脅威である。

「中国は北朝鮮問題に世界の注意が集まるのを歓迎しているでしょう。し
かし、北朝鮮問題は中国問題なのです」と、高官氏。

中国はいま、ソマリア沖の海賊対策を名目に、インド洋からアラビア海に
かけての海洋調査を行っている。中国がアメリカの空母に対処するひとつ
の手段が潜水艦の活用である。71隻以上保有しており、それを世界の海に
潜航させてアメリカの動きを牽制するのである。

潜水艦の展開にはしかし、海の調査が欠かせない。海底の地形は無論、海
流、水温、塩分濃度などを季節要因も含めて把握しておかなければならな
い。それを中国は各国の眼前で堂々と行っているというのだ。

「彼らは日本周辺の海域でも同様の調査に余念がありません。日本もアメ
リカも、インドもオーストラリアも皆、中国の意図を読みとっています。
世界に覇権を打ち立てようと、一歩ずつ実行する中国の前で、日印米豪の
連携は着実に進んでいます」

22日の選挙は、小池百合子氏ら野党のいうモリカケ隠しなどという「しょ
ぼい」話ではない。北朝鮮危機、中国の脅威に軍事的にも対応し、国と国
民を守れる国になるための選挙なのだ。

『週刊新潮』 2017年10月26日 日本ルネッサンス 第775回

             

2017年11月12日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ


「北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り
方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないの
である。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年11月11日

◆日本の悪夢、米中の大取り引きはあるか

櫻井よしこ


11月5日からドナルド・トランプ米大統領がアジアを歴訪する。北朝鮮情
勢が緊迫する中で最も注目したいのが中国訪問である。
 
折しも習近平国家主席は第19回中国共産党大会を乗り切ったばかりだ。
自身への権力集中で専制独裁者並みになった習氏にトランプ氏はどう向き
合うのか。アメリカは価値観の旗を掲げ公正な秩序の形成と維持に貢献し
続けられるか。トランプ・習会談は、間違いなく、アジア、とりわけ日本
の命運を大きく左右する。
 
気になる記事が10月28日号の「ニューズウィーク」誌に掲載された。同誌
や雑誌「タイム」の執筆者として知られるビル・パウエル氏による米中関
係の分析である。
 
トランプ大統領が北朝鮮問題で中国と「大取り引き」(grand bargain)
するのではないかというのだ。氏の分析はヘンリー・キッシンジャー元国
務長官が10月にホワイトハウスを訪れたことに端を発している。
 
キッシンジャー氏の親中振りは周知のことだ。「年老いて弱くなったキッ
シンジャー氏がホワイトハウスに入ったそのタイミングが重要だ」と、パ
ウエル氏は書いた。トランプ政権がアジア歴訪を前にアメリカのアジア政
策を検討中に、大統領に助言することの意味は大きい。
 
パウエル氏の書く中国との大取り引きとは、➀中国は全ての手段を用いて
金正恩氏に核計画を諦めさせる、➁アメリカが検証し納得する、➂アメリカ
が北朝鮮を正式に認め経済援助する、➃在韓米軍2万9000人を撤退させる、
である。
 
在韓米軍の撤退は北朝鮮だけでなく、中国にとっても願ってもないこと
だ。反対に、韓国の安全にとっては危険を意味し、日本にとっては最悪の
事態である。
 
米中のこのような取り引きの前提と見做されているのが、ティラーソン
国務長官が繰り返し表明してきた「4つのノー」の原則である。
 
つまり、➀北朝鮮の政権交代(レジームチェンジ)は望まない、➁北朝鮮の
政権は滅ぼさない、➂朝鮮半島統一は加速させない、➃米軍を38度線の北に
派遣しない、である。

米韓同盟は消滅する
 
米軍が北朝鮮に入らない、つまり北朝鮮における中国の権益は侵害しな
いと言っているのであり、中国側が4つのノー政策に強い関心を寄せるの
も当然だ。いま北京を訪れるアメリカの要人は皆、4つのノー政策に関し
て国務長官はトランプ大統領の承認を得ているのか、どこまで真剣な提案
なのか、トランプ大統領はこれを正式な政策にするのかなど、質問攻めに
あうそうだ。
 
キッシンジャー氏も、別の表現で、アメリカは中国の思いを掬い上げるべ
きだとの主張を展開している。たとえば今年8月11日の「ウォール・スト
リート・ジャーナル」紙への寄稿である。その中で、年来のアメリカの対
北外交は全く効果を生んでいない、その原因は「米中の目的を融合させる
ことができなかったから」だと指摘している。
 
米中は核不拡散で原則的に一致していても、各々の主張の度合は異なる
として、キッシンジャー氏は中国の2つの懸念を説明している。ひとつは
北朝鮮の分裂又は混乱がもたらす負の影響への中国側の恐れである。もう
ひとつは、半島全体を非核化したい、国際社会の合意形成はともかくとし
て、朝鮮半島全体を非核化地域として確定したいとの中国の思いについて
の指摘だ。
 
ティラーソン氏の4つのノーに従えば、米軍は朝鮮半島から撤退する。即
ち米韓同盟は消滅する。当然、中国の影響力は格段に強まる。アメリカは
それを受け入れ、さらに朝鮮半島からの難民の流入や多くの少数民族への
影響を中国が恐れていることに留意してやるべきだと、キッシンジャー氏
は言っているのである。
 
氏の中国への配慮は非常にきめ細やかだが、日本に対してはどうか。朝
鮮半島の非核化を固定化したいという中国とそれに同調するキッシン
ジャー氏の頭の中には、その先に、日本には未来永劫核武装を許さないと
いう信条があると考えるべきだ。この寄稿を読んで、私は1971年に周恩来
首相に、在日米軍は中国に向けられたものではなく、日本の暴走を許さな
いための配備だと氏が語っていたことを思い出した。
 
斯様にキッシンジャー氏は論文で中国の主張を代弁しているのであり、
氏は同じようなことをトランプ大統領に助言したはずだ。
 
北京の代弁者としてのキッシンジャー氏が中国政府にとって如何に重要
な人物かは容易に推測できる。そのことを示すスピーチが、今年6月にロ
ンドンで行われていた。

最悪の事態
 
マーガレット・サッチャー元首相の名を冠した安全保障関連のセミナーで
のことだ。氏はサッチャー氏の先見性のある戦略論を讃えた後、中国につ
いて論じ、習氏を20世紀初頭の大戦略家、ハルフォード・マッキンダーに
とって替わる存在と位置づけた。一帯一路構想で習氏が世界の中心を大西
洋からユーラシア大陸に移行させたと持ち上げた。古代文明、帝国、グ
ローバル経済と発展した中国が、西洋哲学とその秩序に依拠していた世界
を新たな世界へと転換させていると評価した。

「この進化は中国の過去半世紀間での3つ目の大転換だ。毛沢東が統一
を、ケ小平が改革を、習近平が2つの100年を通して中国の夢を実現しよう
としている」と、氏は語った。
 
中国共産党成立100年に当たる2021年、中華人民共和国建国100年に当た
る2049年、2つの100年で、中国はそれまでの人類が体験したこともない程
強力な国家となり、並び立つものがない程豊かな国民1人当たりの富を実
現すると、描写している。
 
共産党大会で中華民族の復興の夢を3時間余りも語った習氏の主張と、
キッシンジャー氏の演説は重なっている。高揚した気分も同様だ。注目す
べきことは、この演説が今年6月27日に行われていることだ。習氏の第19
回共産党大会での演説は10月18日であるから、習演説の約4カ月も前に、
その内容を先取りして行われたのだ。氏は習氏の考え方の全容をずっと前
から聞いていたのだ。
 
田久保忠衛氏が語る。

「習体制と一心同体のようなキッシンジャー氏が、トランプ氏がアジア外
交を考えている最中にホワイトハウスに招かれ耳打ちをした。米中関係が
氏の思い描く方向に行けば、米朝の軍事衝突などあり得ない。日本は取り
残され拉致被害者救出も含め、中・長期的に日本の出番はないでしょう。
日本にとっての最悪の事態です」
 
自力で国も国民も守れない日本はどうするのか。もう遅いかもしれない
と思う。それでも、強調したい。1日も早く、独立不羈の精神を取り戻
し、憲法改正を実現することだ。それが安倍晋三首相の使命である。
『週刊新潮』 2017年11月9日 日本ルネッサンス 第777回

2017年11月08日

◆先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ

「北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り
方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないの
である。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年11月07日

◆米国の日本核武装論の正体

                     櫻井よしこ



アメリカのテレビネットワークNBCは10月4日午前、国務長官のレック
ス・ティラーソン氏がドナルド・トランプ大統領を「moron」と評し、辞
任も考えていたと報じた。moronはidiot同様、バカ者、或いは知能の低い
者の意味だ。

同日、ティラーソン氏は突然記者会見を開き、辞任は考えたこともないと
否定し、トランプ氏を激賞した。トランプ氏もティラーソン氏への「全面
的な信頼」を表明した。だが、アメリカのメディアは一斉に、ティラーソ
ン氏がトランプ氏との政策上の対立ゆえに辞任する、或いは解任されると
の推測記事を報じた。

「ワシントン・ポスト」紙は5日、政権関係者19人への取材をまとめて報
じたが、全員匿名で登場した19人は、国務長官は遅かれ早かれ辞任に追い
込まれるという点で意見が一致していた。有力シンクタンク、外交問題評
議会会長のリチャード・ハース氏は「政権内での意思の疎通がはかれない
ティラーソン氏は辞任すべきだ」とコメントを出した。

ティラーソン氏の身の処し方は、対日外交も含めてアメリカの外交政策に
大きな影響を与える。

トランプ、ティラーソン両氏がイラン核合意、ペルシャ湾岸諸国の覇権争
い、パリ協定など重要問題で対立しているのは明らかだ。日本も深刻な被
害を避けられない北朝鮮問題で両氏の考え方は正反対だ。

9月30日、ティラーソン氏は訪問先の北京で「アメリカは北朝鮮政府と直
接接触(direct contact)している」「アメリカには2〜3のルートがあ
る」として、北朝鮮との話し合い路線を強調した。

するとトランプ大統領が翌日のツイッターで「小さなロケットマンとの交
渉は時間の無駄だ」とティラーソン氏に告げたと公表、「レックス、エネ
ルギーを温存して、やるべきことをやろう」と呼びかけた。

前述の「moron」報道は、このやりとりの直後に出たことになる。

有事発生もあり得る

そうした中、上院外交委員長で共和党の重鎮の1人、ボブ・コーカー氏は
ティラーソン氏を高く評価し、国防長官のジェームズ・マティス氏、ホワ
イトハウスの首席補佐官ジョン・ケリー氏と彼の三氏のお陰でアメリカは
混乱に陥らずにすんでいると語った(「ウォール・ストリート・ジャーナ
ル」(WSJ)10月5日)。

伝統的な共和党の政策を重視する人々と、前例に全く縛られないトランプ
大統領とのせめぎ合いである。

トランプ政権内の外交・軍事政策の亀裂は日本の核武装についても顕著
だ。約ひと月前の9月5日、ハドソン研究所研究員でバード大学教授のウォ
ルター・ラッセル・ミード氏がWSJに、日本の核武装についてトランプ
政権の考え方が二分されているとの論説を寄稿した。

第一の勢力は日本の核武装はアメリカの国益だと考えるトランプ氏自身
で、日本が核武装すれば韓国も台湾も日本に倣い、アメリカの軍事費は削
減され、中国に対してより強固な抑止力を構築できるという考え方だ。

ここで私たちが忘れてならないのは、北朝鮮の核に対して日韓両国は自前
の核保有をひとつのオプションとして考えよと大統領選挙で主張したトラ
ンプ氏を、アメリカの有権者が選んだという事実だ。

トランプ大統領にも強い影響を与えている「アメリカ第一主義」の元祖、
パット・ブキャナン氏は、アメリカが考えるべきことを以下のように書い
ている。

GDPで日本は北朝鮮の100倍、韓国は40倍。北朝鮮はGDPの25%を軍
事費に回し、韓国は2.6%、日本は1%だ。日韓両国は対米貿易で巨額の利
益を得ながら、アメリカに、隣の小国、北朝鮮の脅威から守ってくれと言う。

眼前の北朝鮮危機が一段落するとき、日韓両国はアメリカ同様、国防の努
力をせよ。自力で核抑止力を持て。そうすることで中国のアジアを席巻す
る勢いも止まる、という主張だ。このような考え方にトランプ氏は影響を
受けていると思われる。

これに対して、ミード氏のいう第二の勢力は、日本のみならず、韓国、台
湾の核武装にも反対する人々だ。アメリカが核の傘を担保し、現状維持で
核拡散を防げという意見だ。

ティラーソン、マティス、ケリー三氏らがこの第二勢力に当たる。しか
し、彼らは閣僚で、人事権を持つのはトランプ氏だ。両者間に齟齬がある
場合、最終的に任命権者のトランプ氏の判断が優先されるのは明らかだ。
従って、北朝鮮には話し合いではなく強硬な軍事戦略が選択され、日本に
は核保有のオプションを含む国防力の顕著な強化が要求されると考えてよ
いだろう。

北朝鮮情勢は日々変化している。年末或いは年明け早々の有事発生もあり
得る。そのとき日本は国として国民を守れるのか。行動できるのか。ミー
ド氏は、数か月で核爆弾を作る能力を日本は有していると書いた。技術的
にはそうかもしれない。しかし日本国民は憲法の一文字を変えることにさ
え後ろ向きのまま今日に至る。核武装を日本人が許容することなど予想で
きない。

安倍自民党しかない

日本人の究極のパシフィズム(平和主義)を見透かしたかのようなアメリ
カの日本核武装論は、同盟国日本への究極の軽視の表現にも思える。ミー
ド氏も含めてアメリカの戦略研究家の多くは、日本の核武装を対中カード
として使う。北朝鮮が核保有国になれば、日本は防衛のために核武装す
る。日本の核保有は中国への大きな脅威となる。日本をとめるために中国
の影響力で北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせろという主張である。

価値観を共有し、信頼関係を築いてきた同盟国日本の核武装を阻止するた
めに、政治体制も価値観も異なり、「偉大なる中華民族の復興」を掲げる
野望大国、中国と手を結ぼうというのが日本核武装に関してのアメリカの
姿勢である。同盟国の核武装をあってはならないことのように位置づけ、
中・長期的に見て事実上の敵である中国と協力するというアメリカに、日
本は提言すべきだ。

日本はアメリカの誠実な同盟国だ。これからもそうありたいと願ってい
る。国際社会にも誠実に貢献してきた。日本は侵略戦争をしない。憲法を
改正するのは、強固な軍事力を整備して日本国民を守り、世界に貢献する
ためだ。強い日本はアメリカの国益でもある。核武装も含めての議論こ
そ、北朝鮮への抑止力となる、と。このように議論できる信頼関係を、日
米両国はすでに築いているはずだ。

今月の総選挙は、こうした危機的問題にどう対応すべきかという国家とし
ての根本を問う選挙だ。北朝鮮有事近しという状況下で日本国民の命と日
本を任せられるのは、事実上の旧民進党と小池百合子氏ではあるまい。安
保法制反対の枝野幸男氏でも、日本共産党でもあるまい。やはり安倍自民
党しかないであろう。

『週刊新潮』 2017年10月19日号  日本ルネッサンス 第774回


2017年11月05日

◆与党大勝の今、憲法改正を進めよ

櫻井よしこ

10月22日の総選挙は、安倍自民党の圧勝、改憲勢力の大勝に終わった。ひ
と月足らずの選挙戦はどんでん返しの連続だったが、日本が取り組むべき
重要課題、即ち憲法改正に積極的に取り組める枠組みができた。

日本の前には数々の難題や課題がある。今回の総選挙で国民は、まさにそ
れら国難に立ち向かい、日本の愁眉を開く道を、選んだのだ。

まず、足下の北朝鮮問題である。見通しは非常に厳しい。日本は直ちに堅
固な国防体制を整えなければならない。だが、中・長期的に見て日本のみ
ならず、西側陣営全体が警戒しなければならないのは中国である。

この原稿を執筆中の10月22日、北京では5年に1度の中国共産党大会が開催
中だ。開幕当日の習近平国家主席の演説から多くが読み取れる。3時間半
の演説で私が最も注目したのは「人類運命共同体」という言葉である。

習氏は中国人民だけでなく、人類全体を中国共産党の支配下に置くべき存
在だと見做しているのだろうか。この表現はざっと以下のような文脈の中
で使われている。

習政権の下で5年が過ぎた。この間の成果は反腐敗を徹底し、貧困率を改
善し、気候変動対策(パリ協定)の国際協力を主導し、南シナ海の島嶼建
設を積極的に進めた。広域経済圏構想の一帯一路を提唱し、アジアインフ
ラ投資銀行も創立した。こうしたことによって人類運命共同体の構築を提
唱した、という主張である。

アメリカがパリ協定から脱退を表明したのを好機として、中国はパリ協定
を擁護し、積極的にCO2削減に取り組むと、言葉の上では賛成した。中
国がその言葉通りに行動するという保証は全くと言ってよいほどないが、
こうした事例を挙げて、習氏は「人類運命共同体の構築」と言っているの
である。これからの中国を見詰める際に、この言葉は重要な意味を持つ
が、その構想は「偉大なる中華民族の復興」「中国の夢」と対であること
を忘れてはならない。

専制政治の強権志向

偉大なる中華民族を政治経済面で分析すると、「現代化した社会主義強
国」に行きつく。習氏は自身の思想を「新時代の中国の特色ある社会主
義」思想と呼び、中国共産党の行動指針であると宣言する。人類は皆、中
国と運命共同体になることを期待されているのであるから、習氏の思想は
中国共産党と中国人民のみならず、日本を含む人類全体が信奉しなければ
ならない価値観だと決めつける思想である。

強い違和感が先立つ。習氏の演説には到底受け入れ難い強硬な言葉もちり
ばめられている。たとえば「台湾独立勢力のいかなる形の分裂活動も打ち
破る断固たる意志と自信、十分な能力がある」として、現実には存在しな
い「92年コンセンサス」(ひとつの中国の原則を中台双方が認め合ったと
するもの)の受け入れが中台間の対話の条件だと、蔡英文台湾総統に突き
付けている。

チベットなどを念頭に、宗教は「中国化の方向を堅持し、社会主義社会に
適応するよう導く」と言う。チベット人がチベット仏教を禁止され毛沢東
語録を学ばせられているようなことを指すのであろう。

習氏は、建国100年の2049年までに中国は「社会主義現代化強国」とな
り、そのとき「中華民族は世界の諸民族のなかにそびえ立つ」と展望して
みせる。その実現のために、国防、軍隊の現代化を35年までにやり遂げ、
今世紀半ばには世界一流の軍隊を築き上げるという。

こうした一連の目的達成のためには共産党の指導を全党員全国民に徹底さ
せなければならない。その仕組みを完全に作り上げると豪語する。

専制政治の強権志向が、新たなる習体制の特徴である。中国人民のみなら
ず、日本を含めた全人類を中華圏に組み込むべく、軍の強大化を軸に強権
を振るうという野望は、「世界制覇宣言」とでも呼ぶのがよいだろうか。

中国の姿勢を異例の率直さで批判したのが、アメリカの国務長官、レック
ス・ティラーソン氏である。氏はアメリカ東部時間の10月18日、有力シン
クタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で「次の世紀を見据えた米印関
係」と題して講演し、質問に答えたが、その内容は驚くほど、踏み込んだ
ものだった。

ティラーソン氏はインドと中国を比較してこう語ったのだ。

「米国はインド・太平洋地域が平和、安定、継続的成長の繁栄の地とな
り、無秩序と摩擦と略奪の経済圏とはならないように、インドと協力して
いく必要がある」

膨大な債務

CSIS所長のジョン・ハムレ氏がその意味を尋ねると、ティラーソン氏
はざっと以下のように答えた。

この地域において中国の活動、たとえば中国式の金融は、地域諸国に膨大
な債務を負わせるだけだ。通常なら多くの雇用を生み出すインフラ整備事
業でさえ、中国は労働者を連れて来る。中国式の融資に乗る限り、アジア
諸国の将来展望は暗い、と。

ティラーソン氏は今年8月に行われた東アジア首脳会議で各国と、中国と
は異なる融資制度を考えようと相談したという。中国が政治的思惑で大規
模融資を繰り出してくるとき、こちら側は対抗できないかもしれない。し
かし健全な金融、経済を営むには、こちら側の制度に寄り添う方が合理的
だ。国の主権を守り、自国の将来を自らの手に握り続けるために、アジア
諸国はよく考え、正しい道を選ばなければならない、とティラーソン氏は
強調する。

だが、貧しく弱い国にとっては、中国が差し出す法外な額の無利子融資や
無償供与の資金は喉から手が出る程欲しい。受け取ったが最後、中国の支
配下に組み込まれてしまうと解っていても、受け取りたくなる。中国に頼
ると、見返りに国土を奪われ、やがて国そのものを土台から奪われる。中
国は周辺諸国を奪い、呑み込む国なのである。

「その国は誰のものか。誰が支配するのか。その国はその国民のものであ
り、その国の政府が統治すべきだ」とティラーソン氏はアジアの小国に言
い続けているという。アメリカの国務長官として中国と激しく闘っている
ことが窺える。

ティラーソン氏の考える闘いは、中国への対抗軸としてアメリカ、イン
ド、日本、オーストラリアの4か国連合を形成することだ。このような戦
略は、日本にとって測り知れない国益である。

日本こそが旗振り役となるべきである。今回の選挙結果は、習氏が築こう
としている中華帝国ではなく、より普遍的な価値観を軸にした自由陣営の
基軸国のひとつに、日本がなる道を切り拓く力である。そのために日本は
アメリカ、インド、オーストラリアなどと真の意味で対等な国にならなけ
ればならない。憲法改正を進める時である。安倍首相の背中を今や国民が
押している。

『週刊新潮』 2017年11月2日号 日本ルネッサンス 第776

2017年11月02日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ


「北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り
方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れない。

ある。そのことを問うていたのが今回の選挙なのである。

『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年10月31日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ

「中国支配の朝鮮半島へ守り方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないの
である。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年10月30日

◆政府高官が語る、北朝鮮有事近し

櫻井よしこ

米朝間の緊張は緩む気配がない。朝鮮半島有事が現実のものとなる日が極
めて近いことが読みとれる。政府中枢にいる人物が匿名で語った。

「米軍の攻撃は今年末から来年早々だと思います」

同じく匿名で自民党幹部も語った。

「米軍の攻撃は2日で完了すると、日本に伝わってきています」

別々に取材した両氏の証言は、アメリカの北朝鮮攻撃が近いこと、軍事攻
撃がないと断言できるのはドナルド・トランプ大統領が11月5日から日
本、韓国、中国を歴訪し、ベトナムのダナンでAPEC首脳会議に出席す
るなどして帰国する11月中旬までであるという点で一致した。

アメリカはそれまで外交交渉で、金正恩朝鮮労働党委員長が核兵器とミサ
イルを放棄するよう働きかける。アメリカの望む結果が得られない場合、
北朝鮮情勢は「未知の領域に入る」と、政府高官は断言する。つまり北朝
鮮有事は、早ければ11月半ば以降にもあり得るのだ。

アメリカでは、9月18日にジェームズ・マティス国防長官が、ソウルを無
傷のまま守りながら北朝鮮を攻撃できると断言した。トランプ大統領は10
月1日、北朝鮮との外交交渉に言及したレックス・ティラーソン国務長官
に対し、「小さなロケットマンとの交渉は時間の無駄だと伝えた」とツ
イートした。

他方日本では、9月8日、インターネット配信の「言論テレビ」で小野寺五
典防衛相が敵基地攻撃について詳しく語った。氏は自民党の弾道ミサイル
防衛に関する検討チームの座長として、敵基地攻撃に関する党の案をまと
めた。

「従前の専守防衛論は戦闘機や爆撃機が飛来して、或いは軍艦が近寄って
きて攻撃する、それに対して日本を守るというのが前提の議論でした。し
かし、自民党は弾道ミサイルを撃ち落とすことも専守防衛の一環だととら
えました」

核攻撃もあり得る

では一番撃ち落とし易いのはどの時点か。小野寺氏は語る。

「いま、日本が撃とうとしているのは、ミサイルが高く上がったあと落下
してくるところです。しかし、これはむしろ撃ちにくい。狙い易いのは、
ミサイル発射前か、発射後のブースト・フェーズ、ミサイルがグーッと上
がってくるところです。ゆっくり上がってきますから、ここが一番撃ち落
とし易いのです」

「日本に飛んでくるミサイルを食い止めるのが専守防衛で、たまたまそれ
が発射前には北朝鮮の領土にある。発射後はブースト・フェーズでは北朝
鮮の領空にある。これを落とすには、北朝鮮の領土に届く装備が必要にな
ります。このことを議論すべきだというのが自民党の考えです」(同)

相手から撃たれて犠牲が出てはじめて反撃が許されるのが専守防衛である
との解釈では到底、日本を守り切れない。実際に北朝鮮のミサイル攻撃、
核攻撃もあり得る中で、自民党の議論は現実的であり、評価したい。

但し、安倍首相は自民党が提言した能力や装備については、現在のとこ
ろ、保有は検討しないとしている。

他方、小野寺氏はこうも語った。

「相手に日本攻撃の意図が明々白々にあるとき、攻撃の手順に着手した段
階で、武力攻撃を受けたという事態認定をすれば、自衛隊に武力行使を下
令できる。これが、歴代内閣の考えです」

こうした中、いまアメリカでは「着手論」が議論されていると、前出の政
府高官が指摘した。

9月の段階でアメリカ世論の58%が北朝鮮への軍事行動を支持していた
が、米軍は伝統的に先制攻撃よりも、攻撃を受けて反撃する傾向が強い。
パールハーバーも、日本に先に攻撃させるように流れを作ったと、著名な
歴史学者、チャールズ・ビーアドも指摘している。

「先制攻撃のイメージを避けたいアメリカが着手論を言い始めています。
これは自国への攻撃が明白になり、敵が攻撃の手順に着手したと判断した
とき、反撃が許されるという考えです。何を自国への攻撃と見るのかは、
その国の判断です」と、政府高官。

日本は北朝鮮有事にどう対処するのか、自民党で議論された敵基地攻撃を
可能にする装備などは予算措置をしているのかと質問すると、この人物は
明言した。

「北朝鮮のゴールは遠くないのです。この暮れにも、来年早々にもという
緊急事態です。先のことを考えて具体的に手当するような猶予はないのです」

安倍首相は今月22日の総選挙を国難突破の選挙だと宣言した。そのとおり
の展開になりつつある。北朝鮮に関するアメリカの狙いはこの国から核を
取り除くことだ。アメリカは恐らく金正恩氏の斬首作戦も決行するだろ
う。ここまでは明白だ。その後はどうなるのか。

拉致被害者を救出

まず、北朝鮮有事で日本は何を目指すのか。まっ先に横田めぐみさんをは
じめ拉致被害者を救出することだ。この件の担当は外務省だが、彼らの手
元に拉致被害者についての情報はない。アメリカにも恐らく、ない。

一人一人がどこにいるのかを把握することなしには、救出作戦は不可能で
ある。厳しい現実の中で、国民を救出することさえできない日本の現状を
如何にして変えていくか、私たちは日本国民の責任として考え、実行しな
ければならない。それは究極的には憲法改正につながるはずだ。

もう一点、日本が北朝鮮有事の先に見据えるべきは、中国の脅威である。

「中国は北朝鮮問題に世界の注意が集まるのを歓迎しているでしょう。し
かし、北朝鮮問題は中国問題なのです」と、高官氏。

中国はいま、ソマリア沖の海賊対策を名目に、インド洋からアラビア海に
かけての海洋調査を行っている。中国がアメリカの空母に対処するひとつ
の手段が潜水艦の活用である。71隻以上保有しており、それを世界の海に
潜航させてアメリカの動きを牽制するのである。

潜水艦の展開にはしかし、海の調査が欠かせない。海底の地形は無論、海
流、水温、塩分濃度などを季節要因も含めて把握しておかなければならな
い。それを中国は各国の眼前で堂々と行っているというのだ。

「彼らは日本周辺の海域でも同様の調査に余念がありません。日本もアメ
リカも、インドもオーストラリアも皆、中国の意図を読みとっています。
世界に覇権を打ち立てようと、一歩ずつ実行する中国の前で、日印米豪の
連携は着実に進んでいます」

22日の選挙は、小池百合子氏ら野党のいうモリカケ隠しなどという「しょ
ぼい」話ではない。北朝鮮危機、中国の脅威に軍事的にも対応し、国と国
民を守れる国になるための選挙なのだ。

『週刊新潮』 2017年10月26日  日本ルネッサンス 第775回