2016年11月05日

◆韓国教授、慰安婦=性奴隷説を否定

櫻井よしこ



韓国のソウル大学経済学部教授、李榮薫(イ・ヨンフン)氏が「日本軍
慰安婦は単なる『軍部隊の公娼』」、「軍や警察に『不正に拉致』された
という主張は、ほとんどが口述記録であり、客観的資料としての信憑性が
ない」などと述べ、慰安婦強制連行説及び性奴隷説を否定した。
 
これは、韓国近現代史のネット連続講義「李榮薫教授の幻想の国」の最終
回、「第12回慰安所の女性たち」の内容である。2時間超の講義は、8月22
日と23日に公開された。
 
李氏は韓国近代経済史研究の第一人者といってよい。氏はこれまでに
『大韓民国の物語』(文藝春秋)、『代案教科書』などの「問題作」を世
に問うてきた。

実証的研究に基づく著作は、いずれも日本に対して驚く程、公正で、それ
故に韓国で批判された。同時に、親北朝鮮の左翼的教科書を真っ向から否
定し、挑戦した『代案教科書』は驚異的多数の韓国人が読んだ作品でもある。
 
かつて私は氏に尋ねたことがある。如何にして観念論やイデオロギーの呪
縛を逃れ得たのかと。氏は、自分が政治学者ではなく、客観的な数字を基
に研究する経済学者であることが、イデオロギーの呪縛を回避できた理由
だと考える旨を語った。
 
今回のネット講義も実証的で公正である。日本では未発表の『日本軍慰安
所管理人の日記』や元慰安婦の証言など、引用された史料から見えてくる
のは、挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)や『朝日新聞』の主張する
「慰安婦強制連行説」や「性奴隷説」の明確な否定である。

「1938年以降に軍慰安所市場が開かれて、多くの韓国人が慰安所を直接経
営した。(女性たちは)慰安婦として働くために、中国や台湾、ビルマな
どで、軍部隊について移動した」「女性たちは主に『人身売買』(親がお
金を貰って娘を売るなど)や『就職詐欺』の形で慰安婦になるのが一般的
だった」と、李氏は率直に語っている。

働く自由、廃業の自由
 
詳しい記録が残されている元慰安婦、文玉珠(ムン・オクジュ)氏の例
も引いて、女性たちは公娼制度の下で法的に営業許可を受けなければ働け
なかったこと、契約期間満了時点で廃業申請すれば帰宅できたことを李氏
は指摘している。文氏が自身の一代記で、「病気」を理由に廃業を申請し
て、日本軍の許可を得たと披露しているが、こうしたことは当時を知る
人々にとっては常識である。
 
それでも性奴隷だったと言い張る人々は強弁するだろう。廃業申請が容易
に許可されたはずがないと。李氏は『ビルマ戦線の日本軍慰安婦ムン・オ
クジュ』や前述の『管理人の日記』などの史料に基づいて、「最前線でな
い場合は、だいたい受け入れられた」「契約期間中に特定の区域を離れる
ことができないというレベルで身体の自由を奪われるのは、当時の公娼制
においては特別(例外的)なことだった」と語る。
 
働く自由、廃業の自由に加えて女性たちは日々の生活でも、月2回の休
日と休日に勤務地を離れる自由があった。「慰安所での仕事は『高労働高
収入』の産業だったので、普通の数百円程度の借金では、人身を拘束する
ことはできなかった」と李氏。
 
ちなみに前出の文氏は、家に5000円を送り、2万6000円を貯蓄していたこ
とで知られる。2万6000円は当時の相場で家を26軒も建てられる金額だった。
 
中韓両国は、慰安婦は日本軍によるひどい暴力の被害を受けたと主張す
るが、李氏はこの点も否定する。

「広く知られている『マンダレー慰安所の規則』は慰安所に出入りする将
校と兵士は必ず階級章をつけなくてはならず、いかなる場合でも罵ったり
暴力をふるってはならないという点を明示している」「パトロールの将校
と娯楽指導官は、慰安所での軍規の徹底を厳密に実施しており、衛生的な
面では毎週1回慰安婦の身体検査を実施していた」という。
 
では慰安所で軍規はどの程度まで徹底されていたのか。李氏が挙げた事
例、文氏の実体験は驚きであろう。

「慰安所で、ある日本軍人が激しい乱暴をした。ムン(文)さんはもみ合
いの末に、日本刀を奪い、その兵士を刺し殺した」
 
女性の方が日本兵を軍刀で殺害したというのだ。で、殺した文氏はどう
なったのか。李氏は続ける。

「(文さんは)兵士の不当と自らの自己防衛を主張し、無罪になった。日
本軍の軍法裁判所が無罪判決を下したのである」
 
李氏はさらに考察を深めている。弁護士の戸塚悦朗氏が考えついたとさ
れる性奴隷という言葉はいまや世界に流布されているが、奴隷の定義は慰
安婦に当てはまらない。奴隷には「法的人格」は認められないが、慰安婦
には認められていたからだ。李氏はそれを次のように説明する。

良識の声の表明
 
過去の米国の黒人奴隷は殺人現場を目撃しても法廷で証言できなかった。
奴隷は法的に人間ではないからである。対照的に慰安婦の立場は、文氏の
事例に見られるように全く異っていた。奴隷であれば、裁判を受ける権利
すらないが、彼女は自己防衛と兵士の不当を主張し、現実に無罪になった
のである。従って李氏は「日本軍慰安婦性奴隷説」を見直すべきだと結論
づけている。
 
朝鮮人慰安婦の数についても、氏は韓国が主張する20万人説を退け、最大
でも5000人だったと根拠をあげて示し、韓国国民にざっと次のように呼び
かけている。

「私たちが先進国になるためには、すべての幻想を消さなければならな
い。まず外交的な葛藤にまでなった歴史から解放されてこそ、本当の意味
で近代人になれる」
 
李氏の指摘を肝心の韓国国民はどう受けとめたか。かつて氏はその主張の
客観性と公正さ故に反日勢力の怒りを買い、「親日派」のレッテルを貼ら
れて、厳しく糾弾された。今回、氏は、これまで以上に率直公正に歴史の
真実を語っている。
 
東京基督教大学教授、西岡力氏がハングルの飛び交うネットを分析した。

「今回は様子が違います。ネットに上げてすでに50日ですが、炎上してい
ません。昨年末の日韓合意後、韓国の対日認識が確実に変化しています。
生存する元慰安婦の8割近くが、日本出資の資金を受けとりたいと表明
し、挺対協など反日運動団体の影響力が落ちているのです」
 
官房副長官の萩生田光一氏は歴史の真実を共有しようとする人々に期待する。
「これまで抑制されてきた良識の声が表明されたと受けとめています。日
韓双方が歴史に誠実に向き合うことで、両国はもっと歩み寄り、支え合え
るはずです」
 
だからこそ歴史の真実の情報発信を強化することが重要である。
『週刊新潮』 2016年10月20日号 日本ルネッサンス 第725回

2016年11月04日

◆沖縄米軍用地を中国資本が買っていた

櫻井よしこ



日本の国土を外国資本が買い漁っている事実は旧聞に属する。日本政府
が、自民党政権の時も民主党政権の時も有効な対策を講じてこなかったの
も周知のことだ。外国資本に好き放題の国土買収を許してきた日本は異常
だが、それでも沖縄の米軍用地の1割を中国人が買収していると聞けば、
心底、驚かざるを得ない。
 
10月21日、インターネット配信の「言論テレビ」で中田宏元衆院議員が
語った内容は、日本国の土台が浸食されているというものだった。
 
氏は国会議員だった2013年、対馬を調査して驚いた。自衛隊基地周辺の土
地の殆どが韓国資本に買収され、基地は韓国人の土地にぐるりと囲まれて
いた。万一の時、これでは自衛隊の動きが阻止されかねない。その危機的
状況に対処するべく、氏は土地売買に関して規制する法案を国会に提出した。

「私の法案は廃案にされました。それから3年、事態はより深刻です。沖
縄の米軍用地の10%が中国資本に買われているのです」
 
中国は尖閣諸島を自国領だと主張し、沖縄に関しても日本の領有権に異議
を申し立てる。彼らの真の狙いは、いずれ沖縄全体を中国領とすることに
あると見てよいだろう。沖縄に迫る中国の脅威を実感するからこそ、わが
国は日米同盟を強化すべく努力してきた。米軍への基地提供にも心を砕い
てきた。
 
沖縄の米軍用地は約2万3300ヘクタール。内、国有地と県、市町村有地が
約1万5700ヘクタール、残りの約7600ヘクタール、全体の約33%が民有地だ。

「この民有軍用地の約3分の1を中国資本が買い取っているのです」と、中
田氏は説明する。
 
事実なら、まさしくブラックジョークではないか。中国人の所有とされる
民有軍用地は2500ヘクタール強になる。坪数で756万2500。沖縄軍用地の
借地料は政治的配慮も働いて日本一高い。場所によって異なるが那覇軍港
なみの最高レベルの賃料なら坪1万9000円、浦添市などでは坪6000円だ
と、「産経新聞」の宮本雅史氏が『報道されない沖縄』(角川学芸出版)
で報じている。

国土は即ち国
 
坪6000円として中国人の手に渡る賃料は453億7500万円にもなる。防衛省
に問い合わせたが回答が得られなかったために、果たしてこの数字が正し
いのか否か、判然としない。しかし、少なくとも百億円単位の日本国民の
税金を、毎年、日本政府が中国人に支払っている可能性がある。
 
中田氏は、防衛省も中国人による軍用地の取得については知っているので
はないかと語る。政府や地方自治体がこうした事実をどれだけ把握してい
るかについて、沖縄県石垣市議会議員の砥板芳行氏のコメントが興味深
い。私の取材に対して氏は、当初こう語った。

「中国資本が軍用地を買っているとは、余り知りませんでした」
 
しかし、少し時間をかけて調べたあと、氏はこう語った。

「そのようなケースがあっても中国人は表に出てきません。しかし、注意
深く情報を精査すれば、確かに中国人の動きが見えてきます」
 
中田氏が指摘した。

「竹富町が所管する離れ小島にウ離島(ウばなりじま)というのがありま
す。広さ1万坪の岩だらけの無人島で、水もありません。この島を中国が5
億円という法外な価格で買おうとしたのです」
 
中国はこの島をなぜ買おうとしたのか。現地の人は、考えられる理由と
して、海上保安庁の船が尖閣諸島海域に向かうとき、海保の船の動きを逐
一監視できる場所がウ離島であることを挙げた。売却話は、しかし、メ
ディアの知るところとなって、結局、立ち消えになった。
 
砥板氏が説明した。

「いまこの島は地元の不動産業者が管理しています。安全保障上、大事な
所にあるだけに監視を続けることが重要です」
 
このような水もない島を買う理由が経済的要因にあるとは思えない。どう
見ても安全保障上の理由であろう。事実、島を買いにきたのは「中国国際
友好連絡会」(友連会)という組織だった。人民解放軍(PLA)の工作
機関と考えてよい組織だ。
 
彼らは宮古島市の下地島空港周辺の土地も買いたいと申し出た。同空港
には3000メートルの滑走路がある。中国に対処するために、下地島に自衛
隊の拠点をつくることが大事だという指摘は多い。それだけ重要な空港周
辺の土地をPLA関連組織が買いにきたのである。
 
国土は即ち国である。国土があって、そこに人が住み、経済活動をして
はじめて国が形成される。それを守ってはじめて独立国と呼べる。国の基
(もとい)である国土を、わが国は今日に至っても外国資本に買われるに
任せている。

1平方ミリでさえも外国人に売らないのは中国だけではない。フィリピン
も外国人には売らない。なのになぜ、日本政府は有効な手を打たないの
か。国政レベルの動きは信じ難い程鈍いが、地方自治体の憤りは強い。全
国市長会会長代理で山口県防府市長の松浦正人氏が語る。

外国人土地法

「10月19日に、北海道旭川市で北海道市長会が開かれ、皆さん憤っておら
れました。地方自治体の条例だけでは、外資の日本国土買収は全く防げま
せん。これ以上外国人に土地を買われてしまうわけにはいかないと、革新
色の強い市長さんも含めて全員の意見が一致しました。来年1月中に案を
まとめて、政府に強く申し入れることになりました」
 
市町村の行政は住民生活に直結する。行政の現場には山林や水源地、防
衛施設周辺の土地を中国人が買い付けようと蠢く情報が入ってくる。殆ど
の首長は山林や水源地の所有者を説得して外国人への売却を思いとどまら
せようとする。しかし、悪貨は現金でやってくる。その現金に動かされる
人もいる。
 
しかし、国土を他国に売ってしまっては、もう戻ってこないのだ。にも拘
わらず、日本政府が規制できずにきた理由のひとつに、95年のWTO(世
界貿易機関)加盟時に外務省が犯した致命的なミスがある。
 
他の加盟国がおよそ全て、その国なりの留保をつけて加盟したのに対
し、日本は無条件で加盟したのだ。だから今更、国土は外国資本に売らな
いとは言えないのである。当時の外務省の目は節穴だったが、現在の国会
議員にもできることがある。日本には大正時代の外国人土地法がある。そ
こには相互主義と、国防上の観点から土地取引は制限できることが書かれ
てある。相手国が日本人に土地を売れば日本も売るということだ。国防上
の懸念ゆえに取引を制限できるということだ。その戦前の法律を現在に通
用させるための工夫をすればよいだけである。いま、政治がその工夫をし
ないのであれば、それは国民と国家に対する背信である。

『週刊新潮』 2016年11月3日号  日本ルネッサンス 第727回

2016年11月02日

◆フィリピンが中国に擦り寄る

櫻井よしこ



フィリピンが中国に擦り寄る理由は大統領の思想と米政府の失策にあり 
当欄の原稿執筆中のいま、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が中
国を訪問中である。大統領は10月19日までに中国国営中央テレビの取材に
応じ、「中国がフィリピン経済にとって唯一の希望だ」と語った。20日の
習近平国家主席との会談では、南シナ海問題が事実上棚上げにされる。
 
オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国の主張を全面的に退けた裁定
を、なぜ中国に突き付けないのか。フィリピンの国土と領海を奪い、軍事
要塞化を続ける中国に「礼を重んじる東洋的なやり方」で応じるのはなぜか。

反対に少なくとも南シナ海問題でフィリピン側に立つ米国に、なぜ、罵詈
雑言を投げ付けるのか。
 
一連の疑問への答えは、ドゥテルテ氏の背景から見えてくる。中国の軍
事力の分析で知られる米国のシンクタンク「国際評価戦略センター」主任
研究員、リチャード・フィッシャー氏が驚くべきことを語った。

「ドゥテルテ氏の無二の親友がフィリピン共産党創設者、ジョマ・シソン
氏でした。シソン氏はもう死亡していますが、ドゥテルテ氏自身が半ば共
産主義者なのです」
 
ドゥテルテ氏が駐北京大使に新たに任命したホセ・サンタロマーナ氏も興
味深い経歴を持つと、フィッシャー氏は指摘する。サンタロマーナ氏はシ
ソン氏らと共にフィリピン共産党創設間もないころからマルコス政権打倒
の運動に従事してきたという。

その彼は中国の軍事援助を受けるために北京に送り込まれ、トロール船に
武器を山積みにして帰国しようとした。ところが毛沢東がこれを爆撃させ
たというのだ。
 
再びフィッシャー氏の説明だ。

「同事件をきっかけに1974年、フェルディナンド・マルコス大統領は北京
を承認しました。一方、毛主席は中国におけるフィリピン人共産主義者の
活動を厳しく取り締まったのです。サンタロマーナ氏は中国に残りまし
た。中国語を学び、中国を研究し、中国について報じ続けました。マルコ
ス政権が倒れたときに帰国し、中国問題専門家としてフィリピンの大学で
も教えました。ドゥテルテ氏が政権を取ると、ご存じのように彼は駐北京
大使に任命されたのです」
 
アキノ政権下で要職から追放されていた親中派人士の多くが、いま息を吹
き返している。中国には、サンタロマーナ氏をはじめ、将来利用できるか
もしれない人物を長く手元に置いて世話をする長期戦略がある。米国には
それがないと、フィッシャー氏は語る。

「80年代の終わりに、コラソン・アキノ政権の外相だったラウル・マング
ラパス氏は、南シナ海でフィリピンが領有権を主張する島々や海を守って
ほしいと、米国に訴えました。ところが米国政府はこれを拒否したので
す。マングラパス氏は心底立腹し、その後フィリピンで反米軍運動が起き
たとき、その動きに乗りました」
 
米国がフィリピンの訴えに耳を貸さなかったのには、冷戦が終わったこ
とによる油断があったとしか思えない。フィリピンで高まった反米軍運動
にブッシュ(父)大統領は、基地閉鎖を決断した。米軍基地は91年末まで
に閉鎖され、米軍が去った直後の92年1月に、中国は南シナ海のフィリピ
ンの海に調査船を派遣した。フィリピンは対抗したが、打つ手はない。ス
プラトリー諸島のミスチーフ礁に中国軍が上陸したのは95年1月だった。
 
こうして見ると米中のフィリピンへの対応は大きく異なる。米国が長期戦
略を欠く一方で、中国は長期戦略を保持し続け、その果実を手にしつつある。
 
ドゥテルテ氏が一見多額の、しかし国の運命を決めるにはあまりにもわず
かな援助によって中国側に付けば、米国のみならず日本の国益も大いに損
なわれる。国の戦略的思考について考えさせられる。

『週刊ダイヤモンド』 2016年10月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1155

2016年10月16日

◆外国資本による国土買収が深刻化

櫻井よしこ



「外国資本による国土買収が深刻化 100年後まで守り抜く立法が必要」

衆院予算委員会で安倍晋三首相が、外国人や外国資本による森林や水源地
の買収が急速に進んでいる事態について問われ、こう答えた。

「安全保障上、重要な国境離島や防衛施設周辺での外国人や外国資本によ
る土地取引・取得に関しては国家安全保障に関わる重要な問題と認識して
いる。水源の保全についても重要な観点と思っており(対応を)検討して
いきたい」
 
国家の安全保障上、外資による国土買収がどれほど懸念すべき事態であ
るかは長年、指摘されてきた。民間の側からの警告や提言はこの10年間、
頻繁に発せられ、私自身も少なからぬ与野党議員に立法を働き掛けてきた。
 
2013年には日本維新の会の中田宏氏が法案を提出した。三自衛隊、海上保
安庁、原子力発電所周辺の土地は危機管理上、A分類に指定し、政府の許
可なしには取引不可とする。その他水源地など国家的に重要な土地はB分
類に指定し、国が監視できるようにする内容だった。
 
中田氏らはもっと厳しい内容にしたかったのだが、外務省の失態で不可
能だった。わが国はWTO(世界貿易機関)加盟時、条件を付けずに加盟
したからだ。各国の事例を見ると、その国にとって譲れないことを加盟の
条件として付けている。例えば「国土は外国人には売らない」「国土は売
るがそれは互恵平等の原則による」などだ。
 
こうすれば、国土を売らない選択も、あるいは、中国は売らないのだから
わが国も中国資本には売らないという選択もできる。外務省はこのような
ことも考えずにWTO加盟を進めた。
 
こうした制限故に、中田氏らの法案はどうしても完璧にはなり得なかっ
た。それでもないよりずっとましだった。だが法案は国会に上程されて
も、全く審議されずに廃案になった。

「(法案が)つるされちゃって」──と、廃案で一件落着であるかのように
語った自民党議員、外資による国土買収への対処のことなど、全く念頭に
ないかのように構えていた旧民主党議員──。こうした政治家の顔がいまも
脳裡に浮かぶ。私はこの点に関しては、日本の政治家のほぼ全員に重い責
任があると思う。
 
国土を買い取られることは、国を奪われることだ。わが国の国土を猛烈
な勢いで買い取る中国を注意深く見るべきだ。北海道で数百ヘクタールの
土地が買われた、水源地が買われたなどの個別の現地情報を追っても全体
像は見えない。日本列島全体で、離島、水際、戦略的な土地を中心に中国
の買収の手は広がっている。中国の膨張政策が国土買収に反映されている。

「産経新聞」の宮本雅史氏、『日本、買います』(新潮社)の著者である
平野秀樹氏なども指摘するように、沖縄県での中国資本による買収は凄ま
じい。鹿児島県奄美でも長崎県五島列島でも、島根県隠岐、北海道、新潟
県佐渡でも同様だ。中田氏が語る。

「2013年、私は対馬の問題を国会で取り上げました。自衛隊基地周辺がほ
とんど韓国資本に買われている現状を指摘し、政府の対応を求めました」
 
そのときの安倍首相の回答は、今回とほとんど変わらない。この3年間、
政府は、何もなし得ていない。

「去年は安保法制、今年は離島復興に力を注いだ。来年の通常国会が1つ
の機会ではないか」と、関係者。
 
安倍政権が大きな課題を手掛けてきたことは確かだ。しかし中国資本に
日本を買い取られないためには、いま首相の本気度が問われている。自民
党幹事長の二階俊博氏は、外資の土地購入制限に否定的といわれるが、実
力者としてこの点について首相をどこまで強力に支えるかも、決定的要素
だ。従来の経緯だけを見れば、また失望しかねない状況が頭に浮かぶ。そ
うではなく、100年後まで日本を守り通す気持ちで是非立派な法律を作っ
てほしい。

『週刊ダイヤモンド』 2016年10月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1153