櫻井よしこ
世界中が武漢ウイルスの襲来で右往左往する中でじっと目を凝らし、この混乱を如何に利用するか、世界を舞台にしたグランドチェスゲームを考えている国がある。他ならぬ中国だ。
彼らは武漢ウイルスへの初期対応を誤り、中国全土のみならず世界全体にウイルスを拡散させた張本人だ。その結果、3月24日現在、世界の感染者は37万4921人、死者は1万6381人に上る。経済はどの国もどの業種も史上最大の下げ幅や落ち込みに苦しんでいる。
中国は全世界にまさに疫病をもたらしたのである。もし、日本が感染源であるとしたら、日本政府も日本国民も、心からのお詫びを全世界に発信していたことだろう。
ところが中国は正反対だ。中国政府の代弁メディアである新華社は3月4日、社説でこう主張した。
「我々には、米国は中国に謝罪し、世界は中国に感謝すべきだと言う権利がある」
周知のように彼らは武漢発のウイルスが恰も米国発であるかのように情報操作中だ。余りに白々しい嘘に、嘘をついてはならないと教育されて育った日本人はどう反応してよいか分からず、笑って、次に深く嘆息する。
中国の企みを軽くとらえてはならない。彼らが如何に熱心に、かつ執拗に事実の書き換えを行うか。その結果、一かけらの真実も含んでいなかった虚偽が事実と認定されてきた。この種の中国の捏造に散々苦しめられてきたのが、私たち日本人である。
「南京大虐殺」も「慰安婦性奴隷」も中国に捏造されてきた。捏造は世界に拡散され、それを信ずる一定の国際世論が形成されてしまった。当初、日本人は余りに見え透いた嘘であるから、時間の経過と共に忘れ去られると考えたが、事実は正反対となった。
従って、今回も武漢ウイルスの発生由来の書き換えを断じて許してはならないのである。そのために私はCOVID-19などという紛らわしい呼称ではなく、このウイルスを武漢ウイルスと呼んでいる。
「米国を恫喝」
中国共産党は建国百年の年までに、人類運命共同体である地球の盟主として世界の諸民族の中にそびえ立つことを目指している。中華民族の偉大なる復興を切望する彼らは武漢ウイルスという禍禍しいものは中華世界の産物であってはならないと固く信じている。禍禍しさや非難されるべき事柄は中国以外の野蛮国の問題であるべきで、中国とは無関係でなければならないと考える。
たとえば戦時においては中国軍こそ住民を虐殺したが、そのような蛮行は全て日本軍によるものでなければならないと考え、彼らは歴史を捏造した。同様に彼らは、いまウイルス禍は米国由来でなければならないと決めているのであろう。
世界の盟主たる中国はむしろ武漢ウイルスを賢く克服したモデル国であり、世界のリーダーたる資格は米国ではなく中国にあると思いを定めているのである。
そこで俄かに浮上したのが中国の強力な武器としての医薬品である。先の新華社の社説はこうも主張した。
「中国は医薬品の輸出規制をすることも可能だ。その場合、米国はコロナウイルスの大海に沈むだろう」
鮮やかな記憶が蘇る。レアアースだ。尖閣諸島の海で中国船が海上保安庁の船に体当たりし、中国人船長らの身柄を日本側が確保したとき、中国は日本に対するレアアースの輸出制限に踏み切った。今回はレアアースの代わりに医薬品だ。
中国の国営メディアの右の発信は中国政府の意思表示そのものである。3月11日、フロリダ州選出の共和党上院議員マルコ・ルビオ氏が「FOX
NEWS」で警戒心もあらわに語ったのは当然であろう。ルビオ氏は率直に述べている。
「中国は医薬品供給を断つと言って米国を恫喝できる。その場合、我々が彼らと戦うことは非常に難しくなる」
実情を見ると、ルビオ氏の発言は米国の置かれた苦しい立場を表現したものといえる。中国はまさに世界の医薬品生産の主力にのし上がって久しいのである。医薬品の研究・開発においては米国が世界のトップ水準を保っているが、製薬業の主体を担う力はすでに中国に移っている。たとえば中国の医薬品市場は2017年に1230億ドル(約13兆5000億円)規模だったが、22年までに1750億ドル(約19兆3000億円)規模に成長すると見られている。
他方、米国における薬の製造は下降線を辿る一方だ。多くの人の命を救ったペニシリンは米国が製造した最後の主要な医薬品となった。それ以降、米国は抗生物質の80〜90%、鎮痛・解熱剤の70%、血栓症防止薬としてのヘパリンの40%などを中国に依存してきた。
米国の消費者向け医薬品の主要成分の80%以上が主に中国からの輸入品だとする統計もある。
諸国民の命を左右
このような状況下では、中国は特定の医薬品輸出を止めたり、逆に加速したりすることで、相手国に甚大な被害を与えることが出来る。人命に関わるだけに、レアアースよりも切実な影響を及ぼすだろう。それだけ中国の立場は有利になるということでもある。
米中貿易戦争の中で焦点のひとつとなったのが強力な鎮痛薬、合成オピオイドのフェンタニルだった。効果はモルヒネの100倍とも言われる。米国の疾病予防センター(CDC)の発表では17年の米国の薬物過剰摂取による死者は7万人余り、内2万8000人余りがフェンタニルが原因だった。こうした事態を受けて、17年10月、トランプ大統領はフェンタニルをはじめとする鎮痛剤の不正利用の蔓延を防ぐべく、非常事態を宣言した。
18年12月、トランプ氏がアルゼンチンにおける習近平氏との首脳会談で、フェンタニルの対米輸出を取り締まるよう強く要請したのには十分な理由があったのだ。
だが、トランプ氏が要請しても、中国からのフェンタニルの対米輸出がすぐに減少したわけではない。中国の科学技術部が、フェンタニルを米国に輸出する企業に助成金を支払い続けていた事実も報道された。
19年4月になって中国の公安部、国家衛生健康委員会はようやく、フェンタニルの規制を翌月1日から実施すると発表した。但し、中国側は「米国におけるフェンタニル類物質の主要流入元は中国ではない」との主張を最後まで取り下げなかった。
中国は、世界の生産量の圧倒的シェアを握るマスクなどを救援物資として与えて、諸国から賛辞を受けている。しかし、武漢ウイルスで表面化したサプライチェーン問題は、中国が世界の医薬品をコントロールし、わずかな戦略の変更で諸国の国民の命を左右する力を手にした事実も明らかにした。日本も米国も、あらゆる意味で中国への依存度を急いで下げていかなければならない。
『週刊新潮』 2020年4月2日号
日本ルネッサンス 第895回
2020年04月05日
◆医薬品で世界を支配する中国
at 07:44
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| 櫻井よしこ
2020年04月02日
◆メディアこそ武漢ウイルス克服の最大の障害
櫻井よしこ
安倍晋三首相のメッセージをどう受けとめ、どう活かすか。それは日本人が武漢ウイルスとどのように戦い、どのように日本を守っていくかという問いでもある。
武漢ウイルス感染症に関する特別措置法の改正を受けて行った3月14日の会見で、首相は終始謙虚だったと私は思う。まず、法案成立に協力した与野党に感謝し、緊急事態に至ったと判断した場合、同法に基づいて、蔓延防止と社会機能の維持のため、様々な措置を取ることが可能となるが、それはあくまで万が一のための備えであると説明した。
「そうした事態にならないよう、国民の皆様に大変な御苦労と御不便をお願いしながら、政府と自治体が一体となって懸命に感染拡大防止策を講じております」と丁寧に語り、いま休校で卒業式にも出られないかもしれない児童や生徒には「思い出を作る大切な時期」なのに、「大変申し訳なく思っています」と気配りを示した。
医学専門誌「ランセット」は3月9日の論文で各国政府に向けて「新型コロナウイルスによる死者の最少化と、ウイルス拡散による経済損失の最小化は両立できない」と発表した。つまりウイルスの犠牲者を出さないためには人々の行動を制限せざるを得ず、そうすれば経済成長など全く期待できない。二つを同時に実現することは困難だということだ。
その厳しい現実を踏まえて、首相は、現在は感染拡大の防止が最優先であること、しかしその後は日本経済を成長軌道に戻すためにこれまでにない発想で思い切った措置を講ずると決意を語り、会見をこう結んだ。
「いかなる困難も力を合わせれば必ずや克服することができる。打ち勝つことができる。私はそう確信しています」
これはまさしく国民への信頼の表明であり、政府は国民と共に全力を尽くすという誓いの言葉でもある。欧州でも米国でも急速に拡散しているウイルスに対処するには何よりも力を合わせることが大事だ。私たちは、今、力を合わせられるか、その分岐点にいる。
「安倍独裁」
だが首相の発言を受けての質疑応答を聞いて、一部メディアの姿勢に私は強い違和感を抱いた。まず内閣記者会の幹事社、東京・中日新聞の後藤氏は、特別措置法改正で、首相が緊急事態宣言を出せるようになったが、国民の間には権利が制限されることへの懸念が根強い、どういう状況で発令されるのかと、質した。
会見の最後の質問も、ある意味右の質問に重複する内容だった。インターネット報道メディアのIWJ代表、岩上安身氏の質問である。論点は以下のとおりだ。
緊急事態宣言発令で言論・報道の自由は担保されるのか。首相は改憲に大変熱心だが、今回の緊急事態宣言で国民をならし、その後に自民党改憲案に盛り込まれている緊急事態条項を導入するのではないか。安倍独裁を可能にする内容を含んでいる。その点について答えよというものだ。
岩上氏は「安倍独裁」といとも簡単に口にしたが、緊急事態宣言について理解したうえで質したのだろうか。確かに緊急事態を宣言するのは首相である。しかしこれまで繰り返し説明があったように、宣言に当たってはまず専門家の意見を聞き入れると首相は言っている。その上で、首相が緊急事態を宣言した場合、そこから先は都道府県の知事たちの仕事だ。岩上氏や後藤氏が言う「私権の制限」は知事の指示を受けて各自治体が行う。
従って本来考えなければならない課題は、各自治体がどのような具体策を打ち出すかということだ。地元の医師会も教育界も経済界も、知事と問題意識を共有し、相互に意思疎通をはかれるようにしておかなければならない。まさに自治体の問題意識と能力が問われるのである。
しかし現実を見れば、適切に決定し、実行できる自治体ばかりではないだろう。だからこそ、万一の場合、どのような基準とタイミングで具体策に踏み切るのか、危機対応の手引きが必要だろう。この枠組みの中で心配すべきは首相による独裁でもなく、言論の自由の制限でもなく、各知事と自治体のための緊急計画の作成と吟味ではないのか。
首相会見を受けて、朝日新聞は15日、3面に大きな記事を掲載した。「会見打ち切りめぐり騒然」という見出しが印象的だった。首相会見は52分間行われ、12人が質問したと書いていたが、それでも不十分だと不満ばかりの記事だった。
丁度同じ頃手元に届いた米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)の社説に、私は心引かれた。米国で感染が拡大中なのは周知のとおりだ。この社説が掲げられた日に、トランプ大統領は非常事態を宣言し、500億ドル(5兆4000億円)の予算で検査・治療態勢を拡充すると発表した。出遅れた感のある米国が全力でウイルス対策をとり始めた局面での社説は「アメリカは自ら閉じる」という見出しで、次のような書き出しだ。
米国人の精神は前向き
「米国民が新型コロナウイルスと対峙する姿はフロンティア精神を想起させ心打たれる。大多数の米国人は自らの命と共同体への明確かつ直接的な脅威に向き合い、生き残るために自らの責任を果たしている」
米国人はいつもフロンティア精神で困難を乗り越えてきた。各自がやるべきことをやり遂げて自身を守り、国を守った。そのよき伝統が眼前に蘇っている、というのである。
米国人が実践し始めた「距離を置く社会」の例として、企業は社員に在宅勤務を勧め、多数が集まる催し物は取りやめたと書く。株式市場は前代未聞の大幅な下げを記録したが、距離を置くことで初めてウイルス禍は緩和できるとも言う。ウイルスとの戦いと経済の維持は両立しないため、耐えなければならない。全ての関係当局はその件について、現状を心配してはいるが、忍耐強く活力ある米国民に語りかけよ、というのである。
米国人の精神は前向きだ。国民のその心に語りかけ、ウイルスと戦う重要性を説けということだ。ウイルスと戦う過程でとてつもない経済的損失を蒙るのは避けられないが、そのことについても十分に知らせて、共に乗り切っていこうという、極めて健全な前向きの精神の発露が、WSJの社説だった。
14日の日本経済新聞で知ったのだが、株式市場における今回の史上最大の下げ幅は、野村証券の高田将成氏の計算によると、「1600億年に一度」の発生確率だそうだ。
予想を超える株式市場の混乱。予想しにくいウイルスの振舞い。世界の政治も力学も予想をはるかに超越していきつつある。こんな時こそ、勇気を奮って前向きにならずしてどうするのだ。日本人よ、いま、しっかりすべきときだ。
『週刊新潮』 2020年3月26日号
日本ルネッサンス 第894回
安倍晋三首相のメッセージをどう受けとめ、どう活かすか。それは日本人が武漢ウイルスとどのように戦い、どのように日本を守っていくかという問いでもある。
武漢ウイルス感染症に関する特別措置法の改正を受けて行った3月14日の会見で、首相は終始謙虚だったと私は思う。まず、法案成立に協力した与野党に感謝し、緊急事態に至ったと判断した場合、同法に基づいて、蔓延防止と社会機能の維持のため、様々な措置を取ることが可能となるが、それはあくまで万が一のための備えであると説明した。
「そうした事態にならないよう、国民の皆様に大変な御苦労と御不便をお願いしながら、政府と自治体が一体となって懸命に感染拡大防止策を講じております」と丁寧に語り、いま休校で卒業式にも出られないかもしれない児童や生徒には「思い出を作る大切な時期」なのに、「大変申し訳なく思っています」と気配りを示した。
医学専門誌「ランセット」は3月9日の論文で各国政府に向けて「新型コロナウイルスによる死者の最少化と、ウイルス拡散による経済損失の最小化は両立できない」と発表した。つまりウイルスの犠牲者を出さないためには人々の行動を制限せざるを得ず、そうすれば経済成長など全く期待できない。二つを同時に実現することは困難だということだ。
その厳しい現実を踏まえて、首相は、現在は感染拡大の防止が最優先であること、しかしその後は日本経済を成長軌道に戻すためにこれまでにない発想で思い切った措置を講ずると決意を語り、会見をこう結んだ。
「いかなる困難も力を合わせれば必ずや克服することができる。打ち勝つことができる。私はそう確信しています」
これはまさしく国民への信頼の表明であり、政府は国民と共に全力を尽くすという誓いの言葉でもある。欧州でも米国でも急速に拡散しているウイルスに対処するには何よりも力を合わせることが大事だ。私たちは、今、力を合わせられるか、その分岐点にいる。
「安倍独裁」
だが首相の発言を受けての質疑応答を聞いて、一部メディアの姿勢に私は強い違和感を抱いた。まず内閣記者会の幹事社、東京・中日新聞の後藤氏は、特別措置法改正で、首相が緊急事態宣言を出せるようになったが、国民の間には権利が制限されることへの懸念が根強い、どういう状況で発令されるのかと、質した。
会見の最後の質問も、ある意味右の質問に重複する内容だった。インターネット報道メディアのIWJ代表、岩上安身氏の質問である。論点は以下のとおりだ。
緊急事態宣言発令で言論・報道の自由は担保されるのか。首相は改憲に大変熱心だが、今回の緊急事態宣言で国民をならし、その後に自民党改憲案に盛り込まれている緊急事態条項を導入するのではないか。安倍独裁を可能にする内容を含んでいる。その点について答えよというものだ。
岩上氏は「安倍独裁」といとも簡単に口にしたが、緊急事態宣言について理解したうえで質したのだろうか。確かに緊急事態を宣言するのは首相である。しかしこれまで繰り返し説明があったように、宣言に当たってはまず専門家の意見を聞き入れると首相は言っている。その上で、首相が緊急事態を宣言した場合、そこから先は都道府県の知事たちの仕事だ。岩上氏や後藤氏が言う「私権の制限」は知事の指示を受けて各自治体が行う。
従って本来考えなければならない課題は、各自治体がどのような具体策を打ち出すかということだ。地元の医師会も教育界も経済界も、知事と問題意識を共有し、相互に意思疎通をはかれるようにしておかなければならない。まさに自治体の問題意識と能力が問われるのである。
しかし現実を見れば、適切に決定し、実行できる自治体ばかりではないだろう。だからこそ、万一の場合、どのような基準とタイミングで具体策に踏み切るのか、危機対応の手引きが必要だろう。この枠組みの中で心配すべきは首相による独裁でもなく、言論の自由の制限でもなく、各知事と自治体のための緊急計画の作成と吟味ではないのか。
首相会見を受けて、朝日新聞は15日、3面に大きな記事を掲載した。「会見打ち切りめぐり騒然」という見出しが印象的だった。首相会見は52分間行われ、12人が質問したと書いていたが、それでも不十分だと不満ばかりの記事だった。
丁度同じ頃手元に届いた米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)の社説に、私は心引かれた。米国で感染が拡大中なのは周知のとおりだ。この社説が掲げられた日に、トランプ大統領は非常事態を宣言し、500億ドル(5兆4000億円)の予算で検査・治療態勢を拡充すると発表した。出遅れた感のある米国が全力でウイルス対策をとり始めた局面での社説は「アメリカは自ら閉じる」という見出しで、次のような書き出しだ。
米国人の精神は前向き
「米国民が新型コロナウイルスと対峙する姿はフロンティア精神を想起させ心打たれる。大多数の米国人は自らの命と共同体への明確かつ直接的な脅威に向き合い、生き残るために自らの責任を果たしている」
米国人はいつもフロンティア精神で困難を乗り越えてきた。各自がやるべきことをやり遂げて自身を守り、国を守った。そのよき伝統が眼前に蘇っている、というのである。
米国人が実践し始めた「距離を置く社会」の例として、企業は社員に在宅勤務を勧め、多数が集まる催し物は取りやめたと書く。株式市場は前代未聞の大幅な下げを記録したが、距離を置くことで初めてウイルス禍は緩和できるとも言う。ウイルスとの戦いと経済の維持は両立しないため、耐えなければならない。全ての関係当局はその件について、現状を心配してはいるが、忍耐強く活力ある米国民に語りかけよ、というのである。
米国人の精神は前向きだ。国民のその心に語りかけ、ウイルスと戦う重要性を説けということだ。ウイルスと戦う過程でとてつもない経済的損失を蒙るのは避けられないが、そのことについても十分に知らせて、共に乗り切っていこうという、極めて健全な前向きの精神の発露が、WSJの社説だった。
14日の日本経済新聞で知ったのだが、株式市場における今回の史上最大の下げ幅は、野村証券の高田将成氏の計算によると、「1600億年に一度」の発生確率だそうだ。
予想を超える株式市場の混乱。予想しにくいウイルスの振舞い。世界の政治も力学も予想をはるかに超越していきつつある。こんな時こそ、勇気を奮って前向きにならずしてどうするのだ。日本人よ、いま、しっかりすべきときだ。
『週刊新潮』 2020年3月26日号
日本ルネッサンス 第894回
at 07:56
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| 櫻井よしこ
2020年03月27日
◆武漢肺炎、制圧に向けさらに力を尽くそう
櫻井よしこ
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
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| 櫻井よしこ
2020年03月24日
◆武漢肺炎、制圧に向けさらに力を尽くそう
櫻井よしこ
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
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| 櫻井よしこ
2020年03月21日
◆武漢肺炎、制圧に向けさらに力を尽くそう
櫻井よしこ
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
小中高全校休校などの緊急措置はいつ解除できるのか。武漢ウイルスとの国を挙げての戦いについて、3月9日、政府の専門家会議は、あと10日間、19日頃まで「大規模イベントの自粛など感染防止措置は続けてほしい」と、呼びかけた。
加藤勝信厚労大臣も専門家会議の意見を踏まえて、15日を目途に次の段階を示す方針を発表する予定だ。
現在までの所、日本と日本国民は頑張っている。初動段階で対策が遅れたことは否めない。しかし、クルーズ船を除けば、3月10日時点で日本の死者は9名、感染者は530名だ。他方、イタリア、フランスの死者は各々463名と30名、感染者は四桁台である。米国の有力紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は日本の対応が悪いと批判したが、米国での死者22名も感染者754名も日本のそれを超えている。数字で見る日本の対応は一応評価に値するのではないか。
但し、問題はこれからだ。私たちは武漢ウイルスの蔓延を防げるのか、その瀬戸際に立たされている状況に変化はない。これからもう少しの期間が本当に頑張り時だ。国民全員が協力し合い、とりわけ、感染した場合の危険が大きいお年寄りや基礎疾患のある人たちを守りきることが最重要課題だ。まさに私たちの力が試されている。
そこで強調したい。こういう時こそ、全てのエネルギーと時間を前向きに活用しよう、と。不平不満や文句を、前向きの提言に変えていこう。不平不満は往々にして不毛の結果しか生まない。文句ばかり言う人は人の心を打たず、従って他者に前向きの動きを促すこともできない。その一例が元外務審議官の田中均氏ではあるまいか。
厳しい政権批判
氏は3月9日、BSフジの「プライムニュース」で政府の全校休校措置を批判した。大事なのは子供よりも高齢者への措置だというのだ。
前述のように高齢者のリスクは高い。従って氏の指摘は正しい。しかし、周りを見ると、お年寄りを預かる各種施設や病院はすでに対策をとっている。2月の早い段階で外来の見舞いを断り、家族でさえも会えなくなっているケースが圧倒的だ。
田中氏は安倍晋三首相の一連の措置は不適切で、説明責任を果たしていないと再三批判したが、私は釈然としない想いでそれを聞いた。氏は安倍首相にお年寄りのための施策を打ち出すよう前向きに提言すればよいだけだろう。すでに多くの手が打たれてはいるが、不足の分は補われていくに違いない。氏の不平だらけの姿勢からは物事を前に進める力は生まれてこないのではないかと思う。そして私はつい、昔のことを思い出す。
小泉純一郎政権当時、氏は外務省アジア大洋州局長として、北朝鮮の代理人である「ミスターX」らと非公式に30回近く交渉した。2006年頃、安倍氏は日朝交渉の全記録を読もうとしたが、2回分が欠落していた。欠落部分について質された田中氏は「私は知らない」と答えたが、その2回分の記録の中に、日朝国交正常化に当たって1兆円規模の経済協力資金を提供するとの重要な合意が記載されていたのではないかという疑念が持たれている。「知らない」で済まされるような事案ではないが、氏は未だに説明責任を果たしていない。このような人物だから、安倍首相が不信感を抱き氏を重用しなかったのは当然であろう。
田中氏がいま武漢ウイルスの件でとりわけ厳しい政権批判を展開しているのにはこうした背景も、或いは影響しているのかと、考えてしまう。少なくとも、氏の非難一方の論調からは、武漢ウイルス禍に力を合わせて戦おうという今、日本に必要な前向きの力は感じられない。
立憲民主党の枝野幸男氏も蓮舫氏も同様だ。両氏は居丈高に首相の措置を非難するが、インターネット上の「Dappiさん」の国会分析を見ると、彼らこそ反省が必要だと思えてくる。Dappiさんは各党がどんな質問にどれくらいの時間を費やしているかを円グラフにした。
それによると、1月27日から30日までの間、立憲民主党は衆参両院で国会質問時間の58%、約6割を「桜を見る会」の質問に当てているが、これは共産党と共に突出している。さらに2月17日の衆議院予算委員会では、3時間1分の質問時間の全てを「桜」に費やした。
2月17日は政府のチャーター機第5便が到着しててんやわんやの日だった。しかし、立憲民主党はそんなことは全く気にしないのか。ひたすら「桜を見る会」を追及した。国民の命を脅かす武漢ウイルスへの危機感はあったのか、疑問である。
中国ベタ褒めのWHO
ようやく武漢ウイルスに取り組む姿勢を見せ始めたのはよいが、立憲民主党も田中氏も反対のための反対、批判のための批判に終始するのでなく、もっと与党に協力したらどうか。3.11の大悲劇が発生したとき、当時野党だった自民党は全面的に民主党政権に協力した。
武漢ウイルスに関して、眼前のマスクやトイレットペーパーも大事かもしれないが、政治家、とりわけ首相は同時にもうひとつの大事なことに目を向ける必要がある。日本国の危機管理だ。
中国は武漢ウイルスは中国発ではないという、黒を白と言いくるめる虚偽宣伝を展開中だ。「人民網」は3月8日、中国の新たな感染者は4人にとどまり、全員が海外からの輸入症例だと報じた。彼らは、中国は「人類運命共同体」の理念で「世界保健機関(WHO)や国際社会と情報を共有し、感染の世界的拡大を防いできた」と主張する。WHO事務局長のテドロス氏は「中国の講じた大規模な感染予防・抑制行動によって世界はより安全になった」、国連事務総長のグテーレス氏は「中国国民は正常な生活を犠牲にすることで全人類に貢献した」と各々称賛した。
中国ベタ褒めのWHOに、中国政府は7日、2000万ドルの寄付を発表したが、資金力で国連を自家薬籠中の物としつつ、いまやウイルスを持ち込んだのは米国だとの情報さえ流布している。ウイルス抑制に成功した中国と失敗した日本という対比も強調する。
武漢ウイルスを含めて中国渡来の少なからぬ禍で、最も直接的な影響を受けるのがわが国だ。だからこそ、中国と助け合うにしても日本は虚偽宣伝に負けないよう情報発信能力を高め、自らの国益を守らなくてはならない。国際社会で生き残るには、日本をきちんと理解できる味方が必要であるから、情報発信が鍵となる。
加えて、緊急時において「要請」どまりになってしまう現在の政府権限ではウイルス対策は機能しない。政府に強制力を持たせるべく法を整備し、根拠を憲法に定めるべきだ。
『週刊新潮』 2020年3月19日号
日本ルネッサンス 第893回
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| 櫻井よしこ
2020年03月18日
◆ウイルス・経済・外交、行き詰まった習近平
櫻井よしこ
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日
at 12:21
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| 櫻井よしこ
2020年03月17日
◆ウイルス・経済・外交、行き詰まった習近平
櫻井よしこ
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日 日本ルネッサンス 第892回
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日 日本ルネッサンス 第892回
at 12:40
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| 櫻井よしこ
2020年03月13日
◆ウイルス・経済・外交、行き詰まった習近平
櫻井よしこ
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日日本ルネッサンス 第892回
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス封じで、安倍晋三首相が矢継ぎ早に対策を打ち出した。
2月25日には基本方針を決定し、各種イベントの一律自粛は求めないが、各団体は開催の必要性を再検討してほしいと要請した。
26日、日本が武漢ウイルス蔓延を防げるか否か、今後2週間が岐路になるとの専門家の意見を容れて、首相は多数の観客が集まるスポーツ・文化事業の主催団体に対し、同期間の行事の中止、延期、規模縮小などを明確に要請した。
「首相要請」の影響は大きく、朝日新聞はこれを同日夕刊の1面トップで報道し、以降、全国にイベント中止の動きが広がった。
27日、首相はすべての小・中・高及び特別支援学校に週明けの3月2日から春休みまで臨時休校にするよう要請した。
一連の首相判断があって初めて、世の中全体が武漢ウイルスと戦う形ができたといえる。いまは日本全体が小異を捨て、一致して首相判断に基づきウイルス蔓延を防ぐときだ。
無論批判もある。「唐突で急拵えだ」(岸田文雄政調会長)、「撤回すべきだ」(立憲民主党副代表・蓮舫氏)などを筆頭に地方自治体の首長らからも不満や批判の声があるが、本気か。ウイルス襲来に十分な体制で臨めるのであればそれが最善だ。が、首相も言っている。「判断に時間をかけているいとまがない中、政治的判断をしなければならない」と決意したと。
走りながらの対策が必要なのが今であろう。現場の混乱は十分承知だが、今はウイルス拡散を抑えることが最重要だ。与党も野党もなく、武漢ウイルスを国難ととらえ、全員が努力する時期だ。私は首相の決断を高く評価する。
日本政府、とりわけ厚労省の初動の遅れは中国や中国の影響下にある世界保健機関(WHO)の情報を信じたことが原因のひとつである。中国における武漢ウイルス拡散の実態は発表されているよりはるかに悪い。私はその点を先週当欄で報告したが、中国側から興味深い反応があった。
「ザーサイ指数」
武漢ウイルスの感染拡大を中国当局が隠蔽していると報じた中で、私は、感染が広東省にも広がっていること、そのひとつの証左として病院とはいえない鉄格子つきのプレハブ収容施設が突貫工事で建設されていることを報じた。
同じ内容の情報を私は2月23日、フジテレビの朝の番組「日曜報道 THE
PRIME」でも語ったのだが、私の引用した中国メディアの「21財経」がすぐに「追加取材」して、病院建設は中止されていると報じたのである。広東省での感染拡大を否定しようという意図だろうか。
少なくともこの素早い反応から読みとれるのは、中国側が武漢ウイルスに関する国際社会の報道を隅々まで監視しているという点だ。「独立系メディア」と思われていた「21財経」も、当然といえば当然だが、中国政府の手の内にあることを忘れてはいけないということだ。
中国で育ち、中国社会を知悉している産経新聞外信部次長の矢板明夫氏が中国情報の危うさに関して「ザーサイ指数」という言葉を教えてくれた。ざっと以下のような意味だ。
中国の統計が信じ難いことは、中国経済の責任者である李克強首相も公に認めてきた。地方政府など下から上がってくる数字は全て、中央政府の喜ぶ傾向を示しており、そんなものを信用していたのでは判断を誤る。
そこで李氏らは農民工とザーサイの関係に目をつけた。社会の底辺で働く農民工の増加はすなわち、実体経済が盛んであることを意味する。農民工の増減をどのように調べるか。彼らは貧しく多くが男性で、食事はたっぷりのザーサイをおかずにした山盛りのご飯だ。よって、ザーサイの売り上げ増加は農民工の増加、生産活動の活発化、景気の拡大を意味するとの理屈で中国政府はザーサイの売り上げを参考にするようになった。
しかし、そこから先がいかにも中国らしいと矢板氏は笑う。
「数年前にザーサイ指数について報じられると、地方政府がザーサイ売り上げの水増し報告を始めたのです。結局旧(もと)の木阿弥です」
中国経済の実態を一番正確に示すのが➀中長期貸出残高、➁電力消費量、➂鉄道貨物輸送量の対前年比伸び率を一定の方式で組み合わせて計算された数字だと言われている。この点も矢板氏は疑問視する。
「地方政府は何とか認めてもらおうと、中央政府の聞きたい数字を作成します。基礎的統計でさえもそこに中央政府が注目していると判断すれば、地方政府は当然、手を加えます」
人民の政府への怒り
最も信頼できると言われる統計でさえも全面的に信じることは難しい。中華民族はどこまで行っても融通無碍なのだ。だがいま、中国経済はもはや隠しようもなく大きく落ち込んでいる。「日本経済新聞」が3月1日付で、景気指数で最も信頼できるといわれる製造業の購買担当者景気指数(PMI)が、2月は市場予想の46を大きく下回る35.7だったと報じた。リーマン危機よりもっと深刻だ。
こうした緊急事態で、習近平政権は情報のコントロールにしても、人民の統制にしても、国家の秩序を維持し自身の政権基盤を守るための、より強硬な締めつけ策に走っている。
今回、武漢ウイルス撲滅の現場に中国人民解放軍(PLA)の姿が全く見えない。地震などの場合、いち早くPLAが投入され、国民に奉仕する軍として喧伝されてきたのとは対照的だ。これは、湖北省を捨て、軍は北京を守るために温存するという習氏の決断の反映ではないか。
中国歴代の王朝は、明も清もペストなどの疫病を一つのきっかけとして滅びた。習氏は、疫病を抑制できなかった場合の人民の政府に対する怒り、その結果としての革命と政権交代の恐さを知っているのである。氏が最も恐れるのは人民の怒りであり、今回の武漢ウイルスを、建国以来の大危機ととらえているはずだ。
中国は事実、49年の成立以来の最大の危機に直面している。数年前から経済が悪化する中、トランプ米大統領に貿易戦争を仕掛けられ、経済はさらに落ち込み続けている。ウイグルをはじめとする民族問題について、その非人道的抑圧の実態が、あろうことか中国共産党内部からの告発で国際社会の知るところとなった。ウイグル問題が香港問題につながり、さらに台湾で民進党の蔡英文氏に大勝利をもたらした。中国共産党は深い傷を受けてのた打ち回っている。
米中の対立はこれからも続く。日本がすべきことは、日米両国が他の多くの国々と共有する価値観に基づいて、国際社会を中国化する如何なる動きも抑制していくことだ。武漢ウイルスへの対応で当初見せたように、中国からの情報に惑わされることは決して繰り返してはならない。
『週刊新潮』 2020年3月12日日本ルネッサンス 第892回
at 08:20
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| 櫻井よしこ
2020年03月08日
◆日本も世界も知らされない、中国恐怖の実態
櫻井よしこ
中国の習近平政権が最大の危機に直面している。中国の危機からわが国は何を学ぶのか。中国と同じ過ちを犯さないために、わが国は何をすればよいのか、安倍政権の正念場である。
歴史上、中国は日本にとって永遠の艱難である。災いを回避するには、なんとしてでも賢く対処することだ。
いま世界に広がりつつある新型コロナウイルスの流行は東西南北、どの方向からみても中国の中心部といってよい湖北省から始まった。広がりはおさまらず、3月5日に開幕予定だった第13期全国人民代表大会(全人代)の延期が2月24日、正式決定された。全人代に合わせて開幕予定だった国政助言機関の人民政治協商会議も延期された。中国政府はその後の予定については全く何の見通しも示せていない。
習主席の面子をかけて、どうしても開きたかったであろう全人代が最後の最後に延期へと追い込まれたことは、事態の深刻さと、中国全土にどれほど広く新型ウイルスが広がっているかを物語るものだ。当然、4月上旬に予定されている習氏の国賓来日にも、大幅延期などの影響が出るのは避けられないだろう。
中国はあらゆる意味で情報を操ることで国力を強化してきた国だ。自国に不利な情報は本能的に隠す国柄だと心得ていて間違いない。その意味で現在、中国当局が発表している新型コロナウイルスによる肺炎についての情報も、実態を正しく伝えていると考えてはならない。たとえば2月20日の発表では、今回の新型コロナウイルス禍が始まった湖北省の次に感染者が多い省として、広東省が名を連ねている。ここには多くの日本企業が進出しており、香港・マカオが隣接する。
以下、感染者の多い順に河南省、浙江省、湖南省が続いているが、広東省を含め各省の感染者数はいずれも1000人台、死者は各々、5、19、1、4人にとどまっているというありえない内容の発表だ。
民間資源の強制徴用
これら一連の当局の数字は事実の反映ではなく、中国政府が、「事態をこの程度でおさめたい」と考える数字にすぎず、信用に値しないだろう。
米国、その米国と情報を共有する台湾、それに加えて香港は、たとえば広東省に対し2月の早い時期に厳格な措置をとった。米国は外交官だけでなく、広東省滞在の米国市民の多くを脱出させた。台湾は早くも2日に広東省から台湾への入境を禁止し、8日には広東省を湖北省と同じ警戒レベルの「一級疫区」に指定した。
さらに、香港特別行政区政府は中国大陸との境界を一部を除き全て封鎖し、大陸からの入境者全員に2週間の隔離を義務づけた。ちなみに同措置によって、共同通信、朝日、読売の三社は全員が香港に退避した。広東省(広州、深等)に残っているのはNHKと日経のみだ。BBCやCNNなどはここには支局を設けていない。ロイターとAPは深に支局を置いているが、記者は中国専門というよりハイテク産業に特化した報道を得意とする。
広東省で実際に起きていることを見ると、いかにも中国らしい。域内感染は全く終息していないにも拘わらず、中国政府の決定に従って、2月10日、広東省政府は「復工」を実行した。つまり、人々の勤務を通常に戻したのである。これによって、人口約1.1億人の広東省で職場、通勤、食事等を通じたヒトヒト感染が再度爆発する結果となった。
同事態に対して広東省政府は11日、コロナウイルスによる新型肺炎に関する緊急立法を成立させ、即日施行した。その内容は人の移動や町の封鎖、市場活動に関する行政措置を定める権限を、省政府から県級以上の地方政府に移すというものだ。
広東省は同時に、民間資源としての不動産や物資を徴用する戦時体制下同様の強権体制を確立した。省内の移動を制限し、封鎖や管理を可能にする最も強い拘束力を有する緊急立法(広東省通告第55号)も施行した。
有り体にいえば、人の移動制限や地域の封鎖、市場活動についての行政措置や立法権限を、下位の地方政府に移し、省の責任を回避しようとするものだ。同時に、省政府が不動産や各種物資といった民間資源をフリーハンドで利用できるようにするための措置である。
広東省がこのような緊急立法を行ったのに合わせて、省内の大都市である広州市や深市も、民間資源の強制徴用を可能にする戦時下同様の通告を発表した。当局がコロナウイルスに如何に強い危機感を抱き、全ての手段を、それも必要とあらば瞬時に駆使して、何が何でも力で押さえこもうとしているかが見てとれる。
鉄格子付きのプレハブ
こうした非常事態措置をとる一方で、広東省政府は武漢に見習う形でプレハブの隔離収容施設を突貫工事で建設し始めた。武漢をモデルとしたプレハブの隔離収容施設は、報じられているだけで3か所に上る。まず、広州市白雲区にある1000床の隔離施設だ。これは調査報道に強い独立系メディアの「財新」「21財経」が報じた。
2か所目は深市第三人民病院の拡大隔離収容施設だ。
3か所目は中山市の第二人民病院にわずか10日間で新設された200床の病院だ。ちなみにここではさらに300床の建物が追加されつつある。各病室には2名が収容されるが、写真で見るかぎりこの病院は、「病院というより鉄格子付きのプレハブのコンテナ」である。
わかっているだけで右の3か所で突貫工事が行われている。このこと自体、広東省が武漢と同じく制御不能の事態に陥っている事実を証明しているのではないか。
広東省政府は同省の患者収容能力は1万272床に上り、病院のベッド数に不足はないと発表している。仮にそれが事実なら、なぜ1000床のプレハブ隔離施設や、10日間の突貫工事による病院などを作るのだろうか。答えは明らかであろう。広州をはじめとする町々を包摂する広東省全体が、武漢を含む湖北省と同じく、制御不能の事態に陥っている可能性が高いのではないか。
中国の実態は想像以上に酷いとみて間違いないだろう。そこでいまわが国がすべきことは、まず第一に、中国との人の交流を厳しくコントロールする措置により国内の感染者をふやさないことである。次に国内の感染者には全ての情報を開示して、軽症者は自宅で療養してもらい、重症患者は病院で手当てして、重症化させず、その命を救うことである。徹底した情報開示さえ行えば、危機対処能力、他者を思いやる精神を備えている日本国民なら、必ず乗り越えられるはずだ。いま日本国民が団結するときだ。
『週刊新潮』 2020年3月5日号
日本ルネッサンス 第891回
中国の習近平政権が最大の危機に直面している。中国の危機からわが国は何を学ぶのか。中国と同じ過ちを犯さないために、わが国は何をすればよいのか、安倍政権の正念場である。
歴史上、中国は日本にとって永遠の艱難である。災いを回避するには、なんとしてでも賢く対処することだ。
いま世界に広がりつつある新型コロナウイルスの流行は東西南北、どの方向からみても中国の中心部といってよい湖北省から始まった。広がりはおさまらず、3月5日に開幕予定だった第13期全国人民代表大会(全人代)の延期が2月24日、正式決定された。全人代に合わせて開幕予定だった国政助言機関の人民政治協商会議も延期された。中国政府はその後の予定については全く何の見通しも示せていない。
習主席の面子をかけて、どうしても開きたかったであろう全人代が最後の最後に延期へと追い込まれたことは、事態の深刻さと、中国全土にどれほど広く新型ウイルスが広がっているかを物語るものだ。当然、4月上旬に予定されている習氏の国賓来日にも、大幅延期などの影響が出るのは避けられないだろう。
中国はあらゆる意味で情報を操ることで国力を強化してきた国だ。自国に不利な情報は本能的に隠す国柄だと心得ていて間違いない。その意味で現在、中国当局が発表している新型コロナウイルスによる肺炎についての情報も、実態を正しく伝えていると考えてはならない。たとえば2月20日の発表では、今回の新型コロナウイルス禍が始まった湖北省の次に感染者が多い省として、広東省が名を連ねている。ここには多くの日本企業が進出しており、香港・マカオが隣接する。
以下、感染者の多い順に河南省、浙江省、湖南省が続いているが、広東省を含め各省の感染者数はいずれも1000人台、死者は各々、5、19、1、4人にとどまっているというありえない内容の発表だ。
民間資源の強制徴用
これら一連の当局の数字は事実の反映ではなく、中国政府が、「事態をこの程度でおさめたい」と考える数字にすぎず、信用に値しないだろう。
米国、その米国と情報を共有する台湾、それに加えて香港は、たとえば広東省に対し2月の早い時期に厳格な措置をとった。米国は外交官だけでなく、広東省滞在の米国市民の多くを脱出させた。台湾は早くも2日に広東省から台湾への入境を禁止し、8日には広東省を湖北省と同じ警戒レベルの「一級疫区」に指定した。
さらに、香港特別行政区政府は中国大陸との境界を一部を除き全て封鎖し、大陸からの入境者全員に2週間の隔離を義務づけた。ちなみに同措置によって、共同通信、朝日、読売の三社は全員が香港に退避した。広東省(広州、深等)に残っているのはNHKと日経のみだ。BBCやCNNなどはここには支局を設けていない。ロイターとAPは深に支局を置いているが、記者は中国専門というよりハイテク産業に特化した報道を得意とする。
広東省で実際に起きていることを見ると、いかにも中国らしい。域内感染は全く終息していないにも拘わらず、中国政府の決定に従って、2月10日、広東省政府は「復工」を実行した。つまり、人々の勤務を通常に戻したのである。これによって、人口約1.1億人の広東省で職場、通勤、食事等を通じたヒトヒト感染が再度爆発する結果となった。
同事態に対して広東省政府は11日、コロナウイルスによる新型肺炎に関する緊急立法を成立させ、即日施行した。その内容は人の移動や町の封鎖、市場活動に関する行政措置を定める権限を、省政府から県級以上の地方政府に移すというものだ。
広東省は同時に、民間資源としての不動産や物資を徴用する戦時体制下同様の強権体制を確立した。省内の移動を制限し、封鎖や管理を可能にする最も強い拘束力を有する緊急立法(広東省通告第55号)も施行した。
有り体にいえば、人の移動制限や地域の封鎖、市場活動についての行政措置や立法権限を、下位の地方政府に移し、省の責任を回避しようとするものだ。同時に、省政府が不動産や各種物資といった民間資源をフリーハンドで利用できるようにするための措置である。
広東省がこのような緊急立法を行ったのに合わせて、省内の大都市である広州市や深市も、民間資源の強制徴用を可能にする戦時下同様の通告を発表した。当局がコロナウイルスに如何に強い危機感を抱き、全ての手段を、それも必要とあらば瞬時に駆使して、何が何でも力で押さえこもうとしているかが見てとれる。
鉄格子付きのプレハブ
こうした非常事態措置をとる一方で、広東省政府は武漢に見習う形でプレハブの隔離収容施設を突貫工事で建設し始めた。武漢をモデルとしたプレハブの隔離収容施設は、報じられているだけで3か所に上る。まず、広州市白雲区にある1000床の隔離施設だ。これは調査報道に強い独立系メディアの「財新」「21財経」が報じた。
2か所目は深市第三人民病院の拡大隔離収容施設だ。
3か所目は中山市の第二人民病院にわずか10日間で新設された200床の病院だ。ちなみにここではさらに300床の建物が追加されつつある。各病室には2名が収容されるが、写真で見るかぎりこの病院は、「病院というより鉄格子付きのプレハブのコンテナ」である。
わかっているだけで右の3か所で突貫工事が行われている。このこと自体、広東省が武漢と同じく制御不能の事態に陥っている事実を証明しているのではないか。
広東省政府は同省の患者収容能力は1万272床に上り、病院のベッド数に不足はないと発表している。仮にそれが事実なら、なぜ1000床のプレハブ隔離施設や、10日間の突貫工事による病院などを作るのだろうか。答えは明らかであろう。広州をはじめとする町々を包摂する広東省全体が、武漢を含む湖北省と同じく、制御不能の事態に陥っている可能性が高いのではないか。
中国の実態は想像以上に酷いとみて間違いないだろう。そこでいまわが国がすべきことは、まず第一に、中国との人の交流を厳しくコントロールする措置により国内の感染者をふやさないことである。次に国内の感染者には全ての情報を開示して、軽症者は自宅で療養してもらい、重症患者は病院で手当てして、重症化させず、その命を救うことである。徹底した情報開示さえ行えば、危機対処能力、他者を思いやる精神を備えている日本国民なら、必ず乗り越えられるはずだ。いま日本国民が団結するときだ。
『週刊新潮』 2020年3月5日号
日本ルネッサンス 第891回
at 07:55
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| 櫻井よしこ
2020年03月06日
◆日本も世界も知らされない、中国恐怖の実態
櫻井よしこ
中国の習近平政権が最大の危機に直面している。中国の危機からわが国は何を学ぶのか。中国と同じ過ちを犯さないために、わが国は何をすればよいのか、安倍政権の正念場である。
歴史上、中国は日本にとって永遠の艱難である。災いを回避するには、なんとしてでも賢く対処することだ。
いま世界に広がりつつある新型コロナウイルスの流行は東西南北、どの方向からみても中国の中心部といってよい湖北省から始まった。広がりはおさまらず、3月5日に開幕予定だった第13期全国人民代表大会(全人代)の延期が2月24日、正式決定された。全人代に合わせて開幕予定だった国政助言機関の人民政治協商会議も延期された。中国政府はその後の予定については全く何の見通しも示せていない。
習主席の面子をかけて、どうしても開きたかったであろう全人代が最後の最後に延期へと追い込まれたことは、事態の深刻さと、中国全土にどれほど広く新型ウイルスが広がっているかを物語るものだ。当然、4月上旬に予定されている習氏の国賓来日にも、大幅延期などの影響が出るのは避けられないだろう。
中国はあらゆる意味で情報を操ることで国力を強化してきた国だ。自国に不利な情報は本能的に隠す国柄だと心得ていて間違いない。その意味で現在、中国当局が発表している新型コロナウイルスによる肺炎についての情報も、実態を正しく伝えていると考えてはならない。たとえば2月20日の発表では、今回の新型コロナウイルス禍が始まった湖北省の次に感染者が多い省として、広東省が名を連ねている。ここには多くの日本企業が進出しており、香港・マカオが隣接する。
以下、感染者の多い順に河南省、浙江省、湖南省が続いているが、広東省を含め各省の感染者数はいずれも1000人台、死者は各々、5、19、1、4人にとどまっているというありえない内容の発表だ。
民間資源の強制徴用
これら一連の当局の数字は事実の反映ではなく、中国政府が、「事態をこの程度でおさめたい」と考える数字にすぎず、信用に値しないだろう。
米国、その米国と情報を共有する台湾、それに加えて香港は、たとえば広東省に対し2月の早い時期に厳格な措置をとった。米国は外交官だけでなく、広東省滞在の米国市民の多くを脱出させた。台湾は早くも2日に広東省から台湾への入境を禁止し、8日には広東省を湖北省と同じ警戒レベルの「一級疫区」に指定した。
さらに、香港特別行政区政府は中国大陸との境界を一部を除き全て封鎖し、大陸からの入境者全員に2週間の隔離を義務づけた。ちなみに同措置によって、共同通信、朝日、読売の三社は全員が香港に退避した。広東省(広州、深等)に残っているのはNHKと日経のみだ。BBCやCNNなどはここには支局を設けていない。ロイターとAPは深に支局を置いているが、記者は中国専門というよりハイテク産業に特化した報道を得意とする。
広東省で実際に起きていることを見ると、いかにも中国らしい。域内感染は全く終息していないにも拘わらず、中国政府の決定に従って、2月10日、広東省政府は「復工」を実行した。つまり、人々の勤務を通常に戻したのである。これによって、人口約1.1億人の広東省で職場、通勤、食事等を通じたヒトヒト感染が再度爆発する結果となった。
同事態に対して広東省政府は11日、コロナウイルスによる新型肺炎に関する緊急立法を成立させ、即日施行した。その内容は人の移動や町の封鎖、市場活動に関する行政措置を定める権限を、省政府から県級以上の地方政府に移すというものだ。
広東省は同時に、民間資源としての不動産や物資を徴用する戦時体制下同様の強権体制を確立した。省内の移動を制限し、封鎖や管理を可能にする最も強い拘束力を有する緊急立法(広東省通告第55号)も施行した。
有り体にいえば、人の移動制限や地域の封鎖、市場活動についての行政措置や立法権限を、下位の地方政府に移し、省の責任を回避しようとするものだ。同時に、省政府が不動産や各種物資といった民間資源をフリーハンドで利用できるようにするための措置である。
広東省がこのような緊急立法を行ったのに合わせて、省内の大都市である広州市や深市も、民間資源の強制徴用を可能にする戦時下同様の通告を発表した。当局がコロナウイルスに如何に強い危機感を抱き、全ての手段を、それも必要とあらば瞬時に駆使して、何が何でも力で押さえこもうとしているかが見てとれる。
鉄格子付きのプレハブ
こうした非常事態措置をとる一方で、広東省政府は武漢に見習う形でプレハブの隔離収容施設を突貫工事で建設し始めた。武漢をモデルとしたプレハブの隔離収容施設は、報じられているだけで3か所に上る。まず、広州市白雲区にある1000床の隔離施設だ。これは調査報道に強い独立系メディアの「財新」「21財経」が報じた。
2か所目は深市第三人民病院の拡大隔離収容施設だ。
3か所目は中山市の第二人民病院にわずか10日間で新設された200床の病院だ。ちなみにここではさらに300床の建物が追加されつつある。各病室には2名が収容されるが、写真で見るかぎりこの病院は、「病院というより鉄格子付きのプレハブのコンテナ」である。
わかっているだけで右の3か所で突貫工事が行われている。このこと自体、広東省が武漢と同じく制御不能の事態に陥っている事実を証明しているのではないか。
広東省政府は同省の患者収容能力は1万272床に上り、病院のベッド数に不足はないと発表している。仮にそれが事実なら、なぜ1000床のプレハブ隔離施設や、10日間の突貫工事による病院などを作るのだろうか。答えは明らかであろう。広州をはじめとする町々を包摂する広東省全体が、武漢を含む湖北省と同じく、制御不能の事態に陥っている可能性が高いのではないか。
中国の実態は想像以上に酷いとみて間違いないだろう。そこでいまわが国がすべきことは、まず第一に、中国との人の交流を厳しくコントロールする措置により国内の感染者をふやさないことである。次に国内の感染者には全ての情報を開示して、軽症者は自宅で療養してもらい、重症患者は病院で手当てして、重症化させず、その命を救うことである。徹底した情報開示さえ行えば、危機対処能力、他者を思いやる精神を備えている日本国民なら、必ず乗り越えられるはずだ。いま日本国民が団結するときだ。
『週刊新潮』 2020年3月5日号
日本ルネッサンス 第891回
中国の習近平政権が最大の危機に直面している。中国の危機からわが国は何を学ぶのか。中国と同じ過ちを犯さないために、わが国は何をすればよいのか、安倍政権の正念場である。
歴史上、中国は日本にとって永遠の艱難である。災いを回避するには、なんとしてでも賢く対処することだ。
いま世界に広がりつつある新型コロナウイルスの流行は東西南北、どの方向からみても中国の中心部といってよい湖北省から始まった。広がりはおさまらず、3月5日に開幕予定だった第13期全国人民代表大会(全人代)の延期が2月24日、正式決定された。全人代に合わせて開幕予定だった国政助言機関の人民政治協商会議も延期された。中国政府はその後の予定については全く何の見通しも示せていない。
習主席の面子をかけて、どうしても開きたかったであろう全人代が最後の最後に延期へと追い込まれたことは、事態の深刻さと、中国全土にどれほど広く新型ウイルスが広がっているかを物語るものだ。当然、4月上旬に予定されている習氏の国賓来日にも、大幅延期などの影響が出るのは避けられないだろう。
中国はあらゆる意味で情報を操ることで国力を強化してきた国だ。自国に不利な情報は本能的に隠す国柄だと心得ていて間違いない。その意味で現在、中国当局が発表している新型コロナウイルスによる肺炎についての情報も、実態を正しく伝えていると考えてはならない。たとえば2月20日の発表では、今回の新型コロナウイルス禍が始まった湖北省の次に感染者が多い省として、広東省が名を連ねている。ここには多くの日本企業が進出しており、香港・マカオが隣接する。
以下、感染者の多い順に河南省、浙江省、湖南省が続いているが、広東省を含め各省の感染者数はいずれも1000人台、死者は各々、5、19、1、4人にとどまっているというありえない内容の発表だ。
民間資源の強制徴用
これら一連の当局の数字は事実の反映ではなく、中国政府が、「事態をこの程度でおさめたい」と考える数字にすぎず、信用に値しないだろう。
米国、その米国と情報を共有する台湾、それに加えて香港は、たとえば広東省に対し2月の早い時期に厳格な措置をとった。米国は外交官だけでなく、広東省滞在の米国市民の多くを脱出させた。台湾は早くも2日に広東省から台湾への入境を禁止し、8日には広東省を湖北省と同じ警戒レベルの「一級疫区」に指定した。
さらに、香港特別行政区政府は中国大陸との境界を一部を除き全て封鎖し、大陸からの入境者全員に2週間の隔離を義務づけた。ちなみに同措置によって、共同通信、朝日、読売の三社は全員が香港に退避した。広東省(広州、深等)に残っているのはNHKと日経のみだ。BBCやCNNなどはここには支局を設けていない。ロイターとAPは深に支局を置いているが、記者は中国専門というよりハイテク産業に特化した報道を得意とする。
広東省で実際に起きていることを見ると、いかにも中国らしい。域内感染は全く終息していないにも拘わらず、中国政府の決定に従って、2月10日、広東省政府は「復工」を実行した。つまり、人々の勤務を通常に戻したのである。これによって、人口約1.1億人の広東省で職場、通勤、食事等を通じたヒトヒト感染が再度爆発する結果となった。
同事態に対して広東省政府は11日、コロナウイルスによる新型肺炎に関する緊急立法を成立させ、即日施行した。その内容は人の移動や町の封鎖、市場活動に関する行政措置を定める権限を、省政府から県級以上の地方政府に移すというものだ。
広東省は同時に、民間資源としての不動産や物資を徴用する戦時体制下同様の強権体制を確立した。省内の移動を制限し、封鎖や管理を可能にする最も強い拘束力を有する緊急立法(広東省通告第55号)も施行した。
有り体にいえば、人の移動制限や地域の封鎖、市場活動についての行政措置や立法権限を、下位の地方政府に移し、省の責任を回避しようとするものだ。同時に、省政府が不動産や各種物資といった民間資源をフリーハンドで利用できるようにするための措置である。
広東省がこのような緊急立法を行ったのに合わせて、省内の大都市である広州市や深市も、民間資源の強制徴用を可能にする戦時下同様の通告を発表した。当局がコロナウイルスに如何に強い危機感を抱き、全ての手段を、それも必要とあらば瞬時に駆使して、何が何でも力で押さえこもうとしているかが見てとれる。
鉄格子付きのプレハブ
こうした非常事態措置をとる一方で、広東省政府は武漢に見習う形でプレハブの隔離収容施設を突貫工事で建設し始めた。武漢をモデルとしたプレハブの隔離収容施設は、報じられているだけで3か所に上る。まず、広州市白雲区にある1000床の隔離施設だ。これは調査報道に強い独立系メディアの「財新」「21財経」が報じた。
2か所目は深市第三人民病院の拡大隔離収容施設だ。
3か所目は中山市の第二人民病院にわずか10日間で新設された200床の病院だ。ちなみにここではさらに300床の建物が追加されつつある。各病室には2名が収容されるが、写真で見るかぎりこの病院は、「病院というより鉄格子付きのプレハブのコンテナ」である。
わかっているだけで右の3か所で突貫工事が行われている。このこと自体、広東省が武漢と同じく制御不能の事態に陥っている事実を証明しているのではないか。
広東省政府は同省の患者収容能力は1万272床に上り、病院のベッド数に不足はないと発表している。仮にそれが事実なら、なぜ1000床のプレハブ隔離施設や、10日間の突貫工事による病院などを作るのだろうか。答えは明らかであろう。広州をはじめとする町々を包摂する広東省全体が、武漢を含む湖北省と同じく、制御不能の事態に陥っている可能性が高いのではないか。
中国の実態は想像以上に酷いとみて間違いないだろう。そこでいまわが国がすべきことは、まず第一に、中国との人の交流を厳しくコントロールする措置により国内の感染者をふやさないことである。次に国内の感染者には全ての情報を開示して、軽症者は自宅で療養してもらい、重症患者は病院で手当てして、重症化させず、その命を救うことである。徹底した情報開示さえ行えば、危機対処能力、他者を思いやる精神を備えている日本国民なら、必ず乗り越えられるはずだ。いま日本国民が団結するときだ。
『週刊新潮』 2020年3月5日号
日本ルネッサンス 第891回
at 08:57
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| 櫻井よしこ
2020年03月02日
◆日本人の連帯力がウイルス克服の鍵
櫻井よしこ
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者2人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは三次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。
そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府の在り方、国柄の違いでこの危機を乗り越えよう。
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者2人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは三次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。
そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府の在り方、国柄の違いでこの危機を乗り越えよう。
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
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| 櫻井よしこ
2020年02月29日
◆日本人の連帯力がウイルス克服の鍵
櫻井よしこ
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者二人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは三次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者二人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは三次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
at 08:02
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2020年02月28日
◆日本人の連帯力がウイルス克服の鍵
櫻井よしこ
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者2人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは3次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府の在り方、国柄の違いでこの危機を乗り越えよう。
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
新型コロナウイルスの感染が日本国内で広がりつつある。2月14日、東京、神奈川、沖縄、和歌山、北海道、愛知の6都道県で新たに8人の感染が判明した。
気になるのは感染ルートを辿れる場合とできない場合が混在していることだ。たとえば東京の感染者2人は、その前日に感染が確認されたタクシー運転手の男性と濃厚接触があった。タクシー運転手は屋形船で遊覧しており、そこには武漢からの旅行者を世話した屋形船の従業員がいた。
神奈川県の感染者はダイヤモンド・プリンセス号の乗客の搬送などに携わった消防局職員だ。
沖縄の女性タクシー運転手はダイヤモンド・プリンセス号の乗客を乗せて観光案内をしていた。
他方、北海道の感染者は感染ルートがはっきりしない。愛知の男性感染者は2月7日までハワイ旅行をしていたが、やはり感染ルートは不明だ。
中国人との接触も中国への渡航歴もなく感染が起きたとすれば、それは3次感染以上の感染が国内で起きている、つまり日本にはすでに感染が広がっているということだ。私たちは新たな段階に入ってしまったと考えるのが正しいだろう。そこで大事なのは、大感染のパニックを引き起こさずに、ウイルスを管理していくことだ。目に見えない敵のコントロールは極めて難しい。だが、ウイルスの性質と日本人の資質を考えれば、可能だと私は思う。
まず、新型コロナウイルスの性質を見ておこう。これまでに判明しているのは、新型コロナウイルスの感染力は一般のインフルエンザウイルスと異なり、未発症の段階でもヒトヒト感染を起こすが、致死率は0.6%から1%と見られることだ。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の致死率10%より低く、インフルエンザの0.1%より高い。
助け合いの精神
東京大学医学部教授の橋本英樹氏は「たちの悪いインフルエンザと考えればよいでしょう」と、語る。
であれば、新型コロナウイルスは、十分注意しなければならないが、かといって過度に恐れる相手ではない。新型コロナウイルスの決定打となる治療薬はまだ開発されていないため、現在は対症療法しかない。それでも普通に健康で普通に体力のある人は、基本的なルールを守ることでウイルスに打ち勝てるという。
そのためには外出から戻ったらまず、十分な手洗い、うがいを欠かさないことだ。余り無理をせず睡眠と栄養をとり、ウイルスと戦う体力を維持することに尽きる。医療水準だけでなく、一人一人の行動と心構えが大事な要素であり、その意味で私は日本人は大丈夫だと考えている。
2009年に日本列島を襲った新型インフルエンザのことを想い出したい。感染力は強く、とりわけ高齢者の致死率が高いとして恐れられた。私は当時百歳近い母と暮らしていたために、この新型インフルエンザウイルスから母を守るべく心掛けたことなどを鮮明に記憶している。
当初政府は、今回と同じく新型インフルエンザウイルスの上陸を阻止する水際作戦に力点を置いていた。しかしそうした中で海外渡航歴のない人々の集団感染が判明したのだ。その時点で政府の対処方針は、今回と同様、水際作戦から重症化を防ぐ作戦へと転換した。軽症患者には十分な注意と指導を徹底して、地元の病院、或いは自宅で療養してもらい、重い症状の人をふやさないという作戦である。
当時、私も即、母の生活パターンを変えた。週3回から4回に上っていた母の外出を減らして自宅ですごしてもらうようにしたのだ。その上で私も、そしてわが家に出入りする人々全員に、手洗い、うがいを徹底してもらった。橋本氏は「まず、自分が感染源にならないようにすることが大事」だと強調したが、私もこうして自身を守り、周囲の高齢者や弱い存在を守れるよう心掛けた。そしてそれは成功した。
自分の健康と周りの人、他者、さらに社会全体の健康を重ね合わせて考えることが大事である。それは連帯意識と助け合いの精神に直結する。
あの3.11の東日本大震災で大地震と大津波に襲われたとき、東北地方の人々を中心に、日本人は全員が助け合った。自分の身を守ったうえで、自分より弱い人たち、お年寄りを、皆が助けた。一緒に頑張った。こうした日本人の資質から見ても、このコロナウイルスを管理していくことは、日本人には出来るはずだ。
高齢者は感染すれば、20%から30%の確率で重症に陥り易いという。とりわけ糖尿病などの基礎的疾患のある高齢の人はリスクが高い。
万が一、感染すれば、呼吸器をつけたりして全身を管理する必要も生じてくる。感染者がどっとふえて集中すれば、大病院といえども限界にぶつかる。高度の治療を供給できる十分な病室の準備は容易でなくなるだろう。このウイルスには前述のような感染力があって広がり易いのである。それだけに爆発的な流行を抑えることが大事である。
中国人は本当に気の毒
そのために何をしたらよいのか。前述のように自身の健康管理の徹底が第一だが、感染した場合、私たちは保健所や厚労省に殺到するのでなく、地元の医師や病院を活用することが大事になる。そしてここに政府のリーダーシップが求められる。十分な情報を国民に提供し、感染しても、どこでも良質な医療が受けられる態勢を、各地域の医療機関を有機的に結んで作り上げることだ。そのことへの信頼や安心感さえ築くことができればパニックは起こらない。症状が軽い場合、普通のインフルエンザの患者同様に各地の病院が治療し、或いは患者は自宅で静養して、コロナウイルスに打ち勝てるのではないか。それができるのが日本の文明・文化の本当の力ではないかと思う。
武漢で何が起きているのか、正確には見えてこないが、武漢に封じ込められている中国人は本当に気の毒だ。いま、武漢では夜から朝までの「アルバイト」募集が盛んに行われているという。夜を徹して「死体」を搬送するのだそうだ。新型コロナウイルスで亡くなった人々の遺体である。火葬場は一日中フル回転しても間に合わないといわれる。
国民のための医療などが整っていない国では弱い人ほど真っ先に犠牲になる。それでも中国の惨状の実態は外部世界には説明されない。国民のための情報開示よりも、習近平国家主席や中国共産党を守るための情報隠蔽が先行するからだ。しかし隠しても隠しきれない。習氏も共産党も、決定的に国民の、そして国際社会の信頼を失いつつある。
日本にも新型ウイルスの感染が広がるいま、わが国は国民、人間中心の体制を作り上げよう。国民の資質、政府の在り方、国柄の違いでこの危機を乗り越えよう。
『週刊新潮』 2020年2月27日号
日本ルネッサンス 第889回
at 08:29
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| 櫻井よしこ