2018年12月29日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

                          桜井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号 日本ルネッサンス 第833回

2018年12月28日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや

2018年12月27日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月26日

◆手強い存在と心して戦うことが必要だ

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に2度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月25日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に2度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月24日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261 

2018年12月23日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月22日

◆韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈

櫻井よしこ


「韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈」

韓国大法院(最高裁判所)が10月末及び11月末に下した朝鮮人戦時労働者
問題に関する判決書にはとんでもないことが書かれている。

「とんでもない」という意味は、単に日韓両政府が1965年に合意した日韓
請求権協定に違反するというだけではない。それよりもはるかに深刻で国
際法軽視の対日非難であるという意味だ。

12月7日、インターネット配信の「言論テレビ」で女性の論客5人と男性の
論客1人の構成でこの問題を中心に2時間にわたって論じた。男性ゲスト
は、いま朝鮮問題で引っ張り凧の西岡力氏だ。

韓国大法院の判決を貫く主張は「日本統治不法論」である。日本の有志の
弁護士が仮訳したものを参考に、私たちが問題にした韓国最高裁判決の最
重要のくだりは以下の部分だ。

「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地
支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前
提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(である)とい
う点を明確にしておかなければならない」

判決は続いてこう述べる。

「原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、
上記のような慰謝料を請求しているのである」

判決の他の部分には、原告らは日本で同様の裁判を起こして敗訴している
が、日本の司法判決は受け入れられない、その理由は日本の判決が「日本
の朝鮮半島と韓国人に対する植民地支配が合法であるという規範的認識を
前提に」しているからだと書かれている。

そのうえで、「日本での判決をそのまま承認するのは、大韓民国の善良な
風俗や、その他の社会秩序に違反する」というのだ。

頑として譲らないこと

日本の朝鮮統治は不法だと決めつけ、日本側の主張は全く受け入れないと
いうわけだ。西岡氏が指摘した。

「新日鐵住金を訴えた原告4人は募集に応じて普通に日本に来て、普通に
企業で働いて、給料を貰った。未払い給料があったとしても、それらを清
算する機会は戦後2回もあった。彼らは無事に帰国し、怪我もしていな
い。だから韓国政府も彼らには特別な支払いはしていません。しかし、日
本統治が不法だったからという理屈をいま持ち出して、慰謝料が発生する
と言っているのです」

慰謝料という理屈を適用すれば、およそすべてが対象となる。日本統治下
で日本語を習わせられた、神社を参拝させられた、姓名を変えさせられ
た、精神的に苦しんだなど、何でも慰謝料請求の根拠とされるだろう。

このような要求を日本につきつける土台となる論理が日本統治不法論だ。
日韓基本条約と日韓請求権協定の締結までに日韓両国政府は延々14年間も
交渉を重ねた。当時も日本の韓国統治は合法だったか否かが激しく議論さ
れたのは確かだ。互いに折り合えず交渉は長引いた。そこで双方が智恵を
働かせた。

日韓基本条約第2条には「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との
間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認さ
れる」とある。

1910(明治43)年8月22日は韓国併合条約の調印の日である。日本の韓国
併合はそれ以前の種々の条約、協定の積み重ねで、米英露など諸外国も認
めるものだった。従ってそれらはすべて国際法に適い合法だとする日本の
主張は当然だ。だが、日韓の外交関係を進めるために両政府は以下の案を
生み出した。

前述のように、1910年8月22日以前(中略)の条約及び協定は、「もはや
無効」としたのだ。

西岡氏が説明した。

「日本側にとっては、韓国は1948年に独立した、もはや日本は韓国を併合
していない、だから韓国併合の根拠だった1910年8月22日以前の条約も協
定も、もはや無効になった、それ以前は合法で有効だったという意味で
す。他方韓国側は、『もはや』は副詞みたいなもので関係がない、だか
ら、そんな言葉は無視して、当初から無効だったと解釈したのです」

両者の解釈が異なるときは、両国が合意した英文によって解釈することに
なっている。英文は日本の解釈が正しいことを示している。

韓国側の主張は不当極まるが、不当判決が出されたいま、65年の協定で請
求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と言うだけでは、日本側は闘
いきれないかもしれない。次なる一手も二手も準備する必要がある。

まず、法律上の問題だ。キモは頑として譲らないことだ。韓国弁護団は強
気で、12月4日、被告の新日鐵住金本社を訪れた。新日鐵住金側は韓国弁
護団を全く相手にしなかったが、彼らは要請書を置いて帰った。損害賠償
の履行方法や、賠償金の伝達方式を含む被害者の権利回復の措置につい
て、今月24日午後までの返答を求める内容だった。

法的闘争の準備を

日本側が応じなければ、彼らは日本企業の資産差し押さえなどに着手する
可能性がある。日本側も報復の差し押さえ措置など法的闘争の準備を万全
にすることだ。

もうひとつは国際世論を意識した歴史戦への備えだ。日本統治の合法性と
は別に、日本が朝鮮人労働者をどのように処遇していたかを事実に基づい
て内外に知らせ、慰謝料要求などは筋違いであり不条理だと納得してもら
えるだけの情報を十分に伝えておくことが、この種の歴史戦ではとても大
事である。その点において日本側は非常に手立てが遅れていると、西岡氏
は懸念する。

「現在の外交官は、当時の労働条件や賃金の支払い状況などについてよく
知りません。対照的に反日勢力の側は、実は彼らは日本人なのですが、80
年代から日本統治不法論を考え、その論理を磨き上げてきました。事実関
係については、すべてを反日的視点から資料収集しています。これら反日
日本人が韓国側に論理と資料を提供しているのです。彼らの資料は、私た
ちの側が集めた資料や研究の10倍はあると言っても過言ではありません。
彼らの反日闘争は私たちよりずっと早くから準備されていたのです」

それでも日本の企業には、どれだけの賃金を朝鮮の誰々に支払った、朝鮮
の誰々はどの募集に応じて、どのような待遇を受けたといった資料が豊富
に残っている。事実こそ最も強い説得力を持つはずだ。こうした資料を早
く、全面的に公開すべきだ。

これから短期間に、反日学者を除く、少数ではあってもまともな学者や研
究者が、企業及び政府とも協力し、日本統治下の朝鮮人の扱いについての
実態を最速で明らかにし、韓国司法の不条理を訴えていかなければならない。
『週刊新潮』 2018年12月20日号日本ルネッサンス 第832回


2018年12月21日

◆韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈

櫻井よしこ


「韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈」

韓国大法院(最高裁判所)が10月末及び11月末に下した朝鮮人戦時労働者
問題に関する判決書にはとんでもないことが書かれている。

「とんでもない」という意味は、単に日韓両政府が1965年に合意した日韓
請求権協定に違反するというだけではない。それよりもはるかに深刻で国
際法軽視の対日非難であるという意味だ。

12月7日、インターネット配信の「言論テレビ」で女性の論客5人と男性の
論客1人の構成でこの問題を中心に2時間にわたって論じた。男性ゲスト
は、いま朝鮮問題で引っ張り凧の西岡力氏だ。

韓国大法院の判決を貫く主張は「日本統治不法論」である。日本の有志の
弁護士が仮訳したものを参考に、私たちが問題にした韓国最高裁判決の最
重要のくだりは以下の部分だ。

「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地
支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前
提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(である)とい
う点を明確にしておかなければならない」

判決は続いてこう述べる。

「原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、
上記のような慰謝料を請求しているのである」

判決の他の部分には、原告らは日本で同様の裁判を起こして敗訴している
が、日本の司法判決は受け入れられない、その理由は日本の判決が「日本
の朝鮮半島と韓国人に対する植民地支配が合法であるという規範的認識を
前提に」しているからだと書かれている。

そのうえで、「日本での判決をそのまま承認するのは、大韓民国の善良な
風俗や、その他の社会秩序に違反する」というのだ。

頑として譲らないこと

日本の朝鮮統治は不法だと決めつけ、日本側の主張は全く受け入れないと
いうわけだ。西岡氏が指摘した。

「新日鐵住金を訴えた原告4人は募集に応じて普通に日本に来て、普通に
企業で働いて、給料を貰った。未払い給料があったとしても、それらを清
算する機会は戦後2回もあった。彼らは無事に帰国し、怪我もしていな
い。だから韓国政府も彼らには特別な支払いはしていません。しかし、日
本統治が不法だったからという理屈をいま持ち出して、慰謝料が発生する
と言っているのです」

慰謝料という理屈を適用すれば、およそすべてが対象となる。日本統治下
で日本語を習わせられた、神社を参拝させられた、姓名を変えさせられ
た、精神的に苦しんだなど、何でも慰謝料請求の根拠とされるだろう。

このような要求を日本につきつける土台となる論理が日本統治不法論だ。
日韓基本条約と日韓請求権協定の締結までに日韓両国政府は延々14年間も
交渉を重ねた。当時も日本の韓国統治は合法だったか否かが激しく議論さ
れたのは確かだ。互いに折り合えず交渉は長引いた。そこで双方が智恵を
働かせた。

日韓基本条約第2条には「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との
間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認さ
れる」とある。

1910(明治43)年8月22日は韓国併合条約の調印の日である。日本の韓国
併合はそれ以前の種々の条約、協定の積み重ねで、米英露など諸外国も認
めるものだった。従ってそれらはすべて国際法に適い合法だとする日本の
主張は当然だ。だが、日韓の外交関係を進めるために両政府は以下の案を
生み出した。

前述のように、1910年8月22日以前(中略)の条約及び協定は、「もはや
無効」としたのだ。

西岡氏が説明した。

「日本側にとっては、韓国は1948年に独立した、もはや日本は韓国を併合
していない、だから韓国併合の根拠だった1910年8月22日以前の条約も協
定も、もはや無効になった、それ以前は合法で有効だったという意味で
す。他方韓国側は、『もはや』は副詞みたいなもので関係がない、だか
ら、そんな言葉は無視して、当初から無効だったと解釈したのです」

両者の解釈が異なるときは、両国が合意した英文によって解釈することに
なっている。英文は日本の解釈が正しいことを示している。

韓国側の主張は不当極まるが、不当判決が出されたいま、65年の協定で請
求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と言うだけでは、日本側は闘
いきれないかもしれない。次なる一手も二手も準備する必要がある。

まず、法律上の問題だ。キモは頑として譲らないことだ。韓国弁護団は強
気で、12月4日、被告の新日鐵住金本社を訪れた。新日鐵住金側は韓国弁
護団を全く相手にしなかったが、彼らは要請書を置いて帰った。損害賠償
の履行方法や、賠償金の伝達方式を含む被害者の権利回復の措置につい
て、今月24日午後までの返答を求める内容だった。

法的闘争の準備を

日本側が応じなければ、彼らは日本企業の資産差し押さえなどに着手する
可能性がある。日本側も報復の差し押さえ措置など法的闘争の準備を万全
にすることだ。

もうひとつは国際世論を意識した歴史戦への備えだ。日本統治の合法性と
は別に、日本が朝鮮人労働者をどのように処遇していたかを事実に基づい
て内外に知らせ、慰謝料要求などは筋違いであり不条理だと納得してもら
えるだけの情報を十分に伝えておくことが、この種の歴史戦ではとても大
事である。その点において日本側は非常に手立てが遅れていると、西岡氏
は懸念する。

「現在の外交官は、当時の労働条件や賃金の支払い状況などについてよく
知りません。対照的に反日勢力の側は、実は彼らは日本人なのですが、80
年代から日本統治不法論を考え、その論理を磨き上げてきました。事実関
係については、すべてを反日的視点から資料収集しています。これら反日
日本人が韓国側に論理と資料を提供しているのです。彼らの資料は、私た
ちの側が集めた資料や研究の10倍はあると言っても過言ではありません。
彼らの反日闘争は私たちよりずっと早くから準備されていたのです」

それでも日本の企業には、どれだけの賃金を朝鮮の誰々に支払った、朝鮮
の誰々はどの募集に応じて、どのような待遇を受けたといった資料が豊富
に残っている。事実こそ最も強い説得力を持つはずだ。こうした資料を早
く、全面的に公開すべきだ。

これから短期間に、反日学者を除く、少数ではあってもまともな学者や研
究者が、企業及び政府とも協力し、日本統治下の朝鮮人の扱いについての
実態を最速で明らかにし、韓国司法の不条理を訴えていかなければならない。

『週刊新潮』 2018年12月20日号日本ルネッサンス 第832回

2018年12月20日

◆「赤札大王」でハクビシン撃退に成功も

櫻井よしこ


「赤札大王」でハクビシン撃退に成功もまだ残るペットの飼い主のお行儀
問題」

庭に出没して食べ頃に熟した柿の実を食い散らしてしまうハクビシンの撃
退に、私はこの夏、見事に成功した。ハクビシンの苦手な赤い色の、長さ
30センチメートル、幅15センチメートル程の札を吊したのだ。札の下の方
の袋には唐辛子、ニンニクなど多種類の強烈な刺激臭を発する素材が詰
まっている。

箱から出した途端、人間の私たちも顔をそむけたくなる程の強い刺激臭
だ。私はこの札を「赤札大王」と勝手に名づけて柿の木に3枚も吊した。
効果てきめん、以来ハクビシンは我が家から退散した。人間が眠っている
間に鋭い爪で木の肌をひっかくことも実を食い散らすことも含めて、彼ら
の来襲の形跡はまったく見られなくなった。ミッション・コンプリー
ティッドである。

しかし、小鳥も来なくなった。我が家常連の幾十羽の雀の群れは無論、ひ
よ鳥も目白の群れも四十雀も、カラスさえ来なくなった。余程臭いがきつ
く、繊細な鳥たちにはこたえるのであろう。いつでも大歓迎な鳥たちなの
に、ハクビシン退治に集中すれば、彼らもいなくなる。私の本意ではない
のにそうなってしまう。どうすればよいのか。そうだ、時間差を活用すれ
ばよいのだと、思いついた。

ハクビシンは夜行性である。小鳥は暗くなる前に巣に戻る。ならば、昼間
は赤札大王を物置にしまい、庭を鳥たちの居心地のよい環境にする。夕方
に赤札大王を取り出して柿の木に吊せばよい。とても簡単なことだ。私は
その通りに実行した。大成功だった。鳥たちは戻り、水浴びをし、歌って
くれるようになった。庭に賑わいが戻ってきたのは、この上ない幸せである。

しかしその直後に新たな事件が発生した。ハクビシンは今度は2階のベラ
ンダを襲ったのだ。そこには大き目の鉢にレモン、ミカン、デコポン、キ
ンカンの木を植えている。それぞれ2メートル程の高さの果樹は、例年精
一杯花を咲かせ、実をつける。

或る日大きくなったミカンの実がかじられていた。木の下にはスズランが
植わっている。花は終わっているが、葉を青々と広げ、太陽光を浴び、養
分をつくり来年のために球根を太らせようと頑張っている。そのスズラン
が踏みしだかれていた。

ハクビシンの仕業だと断定せざるを得なかった。私は新たに赤札大王をこ
こにも吊り下げ、大成功をおさめた。

この間に、私は少し悩んでいた問題も赤札大王の活用で解決できるのでは
ないかと考え始めた。

実は、拙宅はペットの散歩コースに当たるらしい。散歩する犬と飼い主
を、当初はほほえましく見ていたが、いつの間にか余り好意を抱けなく
なった。理由はペットが玄関前で用を足し、飼い主が片付けないことであ
る。犬のフンの掃除が我が家の日常業務になって久しい時間が過ぎた頃、
「ペットのトイレの始末は飼い主にお願いします」という控え目な札を立
てるようになった。

よく見ると、ご近所のあちこちに同じような札が立っていた。皆困ってい
るのである。だから札を立てる。けれど、効果がないのである。お互いに
暮らし易い社会をつくる常識が少し欠けている飼い主がいるのである。

そこで、私はまたまた考えた。赤札大王の臭いは犬だって好きではないは
ずだ。人間よりはるかに優れた嗅覚を持つ犬は、赤札大王の近くには金輪
際寄ってこないに違いない。試しにいつもフンが置きざりにされる玄関の
前、その横の椿や寒椿、千両の木々の近くに下げてみた。

なるべく見苦しくないように、木の枝の後ろの方などを選んだ。その効果
かどうかわからないが、犬のオシッコの跡がなくフンの片付けをしなくて
よくなったのは確かである。当面の問題は解決されたが、ペットの飼い主
の皆さんがお行儀よくして下さるにはどうしたらよいのだろうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年12月15日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1260

2018年12月19日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回

2018年12月18日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。
『週刊新潮』 2018年12月13日号日本ルネッサンス 第831回

            

2018年12月17日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を 

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回