2018年12月03日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が2人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258 


2018年12月02日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに
貢献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年11月29日

◆将来に禍根残しかねない入管法改正案

櫻井よしこ


「将来に禍根残しかねない入管法改正案 日本は外国人政策の全体像
を見直す時だ」

安倍晋三首相も自民党も一体どうしたのか。まるで無責任な野党と同じで
はないか。

外国人労働者受け入れを大幅に拡大する出入国管理法改正案についての国
会論戦を聞いていると、普段は無責任な野党の方がまともに見える。それ
程、自民・公明の政権与党はおかしい。

11月2日の閣議決定に至るまで、同法について自民党の部会で激しい議論
が何日間も続き、発言者の9割が法案に強く反対した。しかし結局、外国
人労働者の受け入れを大枠で了承し、法律の詳細は省令で決定するという
異例の決着を見た。

深刻な人手不足ゆえに倒産が相ついでいるといわれる建設業界や介護業界
の悲鳴のような要請を無視できないという事情はあるにしても、この法改
正は将来に深刻な禍根を残しかねない。

今回の改正で受け入れる外国人の資格として「特定技能1号」と「2号」が
設けられ、「1号」の労働者の「技能水準」は「相当程度の知識又は経験
を必要とする技能」とされた。「2号」の労働者の技能水準は「熟練した
技能」とされた。

前者の「相当程度」とはどんな程度なのか。後者の「熟練」とはどの程度
か。いずれも定義されていない。

眼前の人手不足解消のために何が何でも外国人を入れたいという姿勢が見
てとれる。あえていえば政府案は外国人の野放図な受け入れ策でしかない。

外国人は単なる労働者ではない。誇りも独自の文化も家族もある人間だ。
いったん来日して3年、5年と住む内に、安定した日本に永住したくなり、
家族を呼び寄せたくなる人がふえるのは目に見えている。その時彼らが機
械的に日本を去るとは思えない。すると日本社会にどんな影響が出るだろ
うか。欧州諸国は移民を入れすぎて失敗した。政府は今回の受け入れは移
民政策ではないと繰り返すが、5年間で最大34万人とみられる労働者が事
実上の移民にならないという保証はない。

日本にはすでに258万人の外国人が住んでいるのである。その中で目立つ
のは留学生の急増だ。2013年末に19万人だったのが17年末までの4年間に
31万人にふえた。技能実習生は16万人から27万人に、一般永住者は66万人
から75万人にふえた。

日本には特別永住者と一般永住者の2種類がある。前者は戦前日本の統治
下にあった朝鮮半島や台湾の人々、その子孫に与えられている地位であ
る。彼らは日本に帰化したり日本人と結婚したりで、日本への同化が進
み、その数はこの4年間で37万人から33万人に減少した。

問題は一般永住者である。シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の
西岡力氏の調査によると、17年末で75万人の一般永住者の3分の1、25万人
が中国人だ。一般永住者は日本人と同等の権利を与えられた外国人と考え
てよい。滞在期間は無制限で、配偶者や子供にも在留資格が与えられる。
活動も日本国民同様、何ら制限もない。彼らが朝鮮総連のような祖国に忠
誠を誓う政治組織を作ることも現行法では合法だ。

他方中国政府は10年に国防動員法を制定し、緊急時には海外在住の中国国
民にも国家有事の動員に応ずることを義務づけた。仮に、日中両国が紛争
状態に陥った時、在日中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害するために後方
を攪乱する任務に就くことも十分に考えられる。

一般永住資格はかつて日本に20年間居住していなければ与えられなかった
が、98年に国会審議もなしに、法務省がガイドラインで「原則10年以上の
居住」に緩和した。その結果、20年間で9万人から75万人へと、8倍以上に
ふえた。今回の外国人労働者の扱いだけでなく、一般永住者の資格も含め
て日本国として外国人政策の全体像を見直す時であろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1257

2018年11月28日

◆米中対立、中国の逃れられない弱み

櫻井よしこ


「米中対立、中国の逃れられない弱み」

11月9日にワシントンで米中外交・安全保障対話がもたれた。米国側から
ポンペオ国務長官、マティス国防長官、中国側から楊潔篪(ようけっち)共
産党政治局員、魏鳳和(ぎほうわ)国防相が参加した。

この閣僚会議は、昨年、習近平主席が米国を訪問した際に、トランプ大統
領と合意して設置したものだ。昨年6月に第1回目が開かれ、今回が2回目
となる。

ポンペオ氏が、「米国は中国との新冷戦を望んでいないし、封じこめるつ
もりもない」と発言し、楊氏が「中国は改革と平和発展の道にとどまり続
ける」と答えたこの対話は、互いに関係を損なわないよう、相手の意図を
探り合い、それなりに繕ったことを窺わせる。しかし、内容に踏み込んで
みれば、現在の米中関係の厳しさは明白だ。

明らかな対立点は、南シナ海、台湾、人権、北朝鮮の各問題である。南シ
ナ海問題では米国側は中国による島々の軍事拠点化に強い懸念を示した。
国務省はメディア向けの説明の中で、以下のように重要なことを明らかに
している。

「米国は、中国が南沙諸島の人工島に配備したミサイルシステムを取り除
くよう要求し、全ての国々は問題解決に強制や恫喝という手法をとっては
ならないことを確認した」

中国がフィリピンなどから奪った南沙諸島を埋め立てて軍事拠点を作って
以来、このようにミサイル装備を取り外せと具体的に要求したのは、恐ら
く初めてだ。トランプ政権が一歩踏み込んで要求したと見てよいだろう。

そのうえで、米国側は従来どおり、国際法に基づいて南シナ海の航行と飛
行を続けると明言している。

これに対して楊氏は、南シナ海に配備した施設の大部分は民間用だと、
白々しくも主張し、米国が「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣するのはや
めるべきだと反論している。

異常に男児が多い

台湾問題について、中国が台湾と国交を結んでいる国々に働きかけ、次々
に断交させて台湾を孤立させている手法を、米国は批判した。すると、楊
氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部だ」と主張し、魏氏も「中国は如
何なる犠牲を払っても祖国統一を維持する。米国が南北戦争で払ったよう
な犠牲を払ってでもだ」と強い口調で語っている。

南北戦争は、1861年から4年間も続いた激しい内戦だった。犠牲者は60万
人以上とされる。それ程の犠牲を払っても、中国は台湾の独立を許さない
と力んだのだ。

イスラム教徒であるウイグル人に対する弾圧、虐殺についても米中両国の
溝は全く埋まっていない。北朝鮮の核に関しても、明確な核の放棄までは
北朝鮮に見返りを与えないとする米国と、核廃棄と援助を同時進行で行い
条件を緩和することもあり得るとする中国側の立場は、完全に合致するこ
とはない。

11月末に予定される米中首脳会談への瀬踏みの米中閣僚会議だったが、両
国の基本的対立が解決に向かうとは思えない。

習主席は、自身にその力さえあれば、終身、中国の国家主席の地位にとど
まることができる道を開いた。選挙によって指導者が入れ替わる民主主義
国と較べて、優位に立っていると、習氏は思っているであろう。だが、11
月の中間選挙でトランプ氏の共和党が下院で民主党に過半数を奪われ相対
的に力を弱めたとはいえ、民主党は共和党よりはるかに保護主義的で人権
問題にも厳しい。トランプ政権以降に希望をつなぐのは早計というもので
あろう。

10月4日にペンス副大統領が行った演説の対中批判の厳しさについては、
10月18日号の本誌当欄でもお伝えしたが、米国で超党派勢力が結束して中
国に本気で怒っている理由は、習氏が高らかに謳い上げた「中国製造
2025」という大目標にある。

中国は経済的にも軍事的にも世界最強の国となり、科学、技術の全分野に
おいて世界最先端の地位を確立すると誓った。だがそのための手段は知的
財産の窃盗であり、騙しであり、恫喝に他ならない。こんな不公正な中国
に、世界最強国の地位を明け渡してはならない、という米国の闘争心が掻
き立てられたのだ。

中国が米国に取って代り、中国風の支配構造の中に組み込まれることな
ど、我々日本にとっても願い下げだ。だが、そんな時代は恐らくやってく
るまい。

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は今年5月、シンクタ
ンク「国家基本問題研究所」創立10周年の記念シンポジウムで、全世界の
人口学者の一致した見方だとして、中国は基本的に異常事態の中に在る
と、以下のように語った。

長年の一人っ子政策と女児よりも男児優先の価値観により、中国では女児
100人に対して男児118人が生まれている。通常の100対105乃至106に較べ
て異常に男児が多い。結果、人口学的な不均衡が生じ、現時点でも3000万
人の男性が結婚相手を見つけることができないでいる。

「非常に脆い国」

他方中国の教育水準は全体的に見れば低く、若い世代の高等教育進学率は
6%だ。日本や欧米先進国のそれに較べれば非常に低い。

人口の出入りで見ると、すべての欧州諸国、加えて日本も、流入人口が流
出人口を上回っている。だが中国は違う。中国の統計は信頼できない面も
あるが、通常使われる数字によると、毎年150万人が中国から外国に流出
している。彼らの多くが中国には戻らない。だが流出する彼らこそ、中国
人の中で最も活力があり、開明的な人々である。

トッド氏が結論づけた。

「こうして考えると、中国は大国ですが、非常に脆い国なのです。将来的
に危機を回避できない国であると、考えています」

北京発、原田逸策記者の非常に興味深い記事が11月10日の「日経新聞」に
掲載されていた。中国が産児制限の撤廃を検討中という記事だ。中国の現
在の出生率1.3が続くと、今世紀末までに中国の総人口は現在の13億人強
から約6億人に半減する。他方、現在3億2000万人の米国の総人口は4億
5000万人に増えるというのだ。

となると、習氏が高らかに謳い上げたように、2030年前後までには経済
(GDP)で米国を追い抜くことができるとしても、今世紀後半には再び
逆転される可能性があるという。

日本は米中の戦いに、そこまで考えて対処しなければならない。日本の選
択は短期的に見て米国との協調、同盟路線を続ける以外にないのだが、
中・長期的展望を考えてみても、やはり答えは同じになる。

隣国中国とのつき合い方は、中国が共産党一党支配をやめない限り、最大
限の警戒心を持って対処するということに尽きる。

『週刊新潮』 2018年11月22日 日本ルネッサンス 第828回

2018年11月27日

◆禍根残しかねない入管法改正案

櫻井よしこ


「将来に禍根残しかねない入管法改正案 日本は外国人政策の全体像を
見直す時だ」
>
> 安倍晋三首相も自民党も一体どうしたのか。まるで無責任な野党と同じ
ではないか。
>外国人労働者受け入れを大幅に拡大する出入国管理法改正案についての
国会論戦を聞

いていると、普段は無責任な野党の方がまともに見える。それ程、自民・
公明の政権
与党はおかしい。
>
> 11月2日の閣議決定に至るまで、同法について自民党の部会で激しい議
論が何日間も

続き、発言者の9割が法案に強く反対した。しかし結局、外国人労働者の
受け入れを大

枠で了承し、法律の詳細は省令で決定するという異例の決着を見た。
>
>深刻な人手不足ゆえに倒産が相ついでいるといわれる建設業界や介護業
界の悲鳴のよ
うな要請を無視できないという事情はあるにしても、この法改正は将来に
深刻な禍根を
残しかねない。
>
>今回の改正で受け入れる外国人の資格として「特定技能1号」と「2号」
が設けられ、

「1号」の労働者の「技能水準」は「相当程度の知識又は経験を必要とす
る技能」とさ

れた。「2号」の労働者の技能水準は「熟練した技能」とされた。
>
>前者の「相当程度」とはどんな程度なのか。後者の「熟練」とはどの程
度か。いずれ
も定義されていない。
>
>眼前の人手不足解消のために何が何でも外国人を入れたいという姿勢が
見てとれる。

あえていえば政府案は外国人の野放図な受け入れ策でしかない。
>
>外国人は単なる労働者ではない。誇りも独自の文化も家族もある人間
だ。いったん来日

して3年、5年と住む内に、安定した日本に永住したくなり、家族を呼び寄
せたくなる人

がふえるのは目に見えている。その時彼らが機械的に日本を去るとは思え
ない。すると

日本社会にどんな影響が出るだろうか。欧州諸国は移民を入れすぎて失敗
した。政府は

今回の受け入れは移民政策ではないと繰り返すが、5年間で最大34万人と
みられる労働者

が事実上の移民にならないという保証はない。
>
>日本にはすでに258万人の外国人が住んでいるのである。その中で目立つ
のは留学生の急

増だ。2013年末に19万人だったのが17年末までの4年間に31万人にふえ
た。技能実習生は

16万人から27万人に、一般永住者は66万人から75万人にふえた。
>
> 日本には特別永住者と一般永住者の2種類がある。前者は戦前日本の統
治下にあった朝

鮮半島や台湾の人々、その子孫に与えられている地位である。彼らは日本
に帰化したり

日本人と結婚したりで、日本への同化が進み、その数はこの4年間で37万
人から33万人に

減少した。
>
> 問題は一般永住者である。シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員
の西岡力氏の調

査によると、17年末で75万人の一般永住者の3分の1、25万人が中国人だ。
一般永住者は

日本人と同等の権利を与えられた外国人と考えてよい。滞在期間は無制限
で、配偶者や

子供にも在留資格が与えられる。活動も日本国民同様、何ら制限もない。
彼らが朝鮮総

連のような祖国に忠誠を誓う政治組織を作ることも現行法では合法だ。
>
> 他方中国政府は10年に国防動員法を制定し、緊急時には海外在住の中国
国民にも国家

有事の動員に応ずることを義務づけた。仮に、日中両国が紛争状態に陥っ
た時、在日

中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害するために後方を攪乱する任務に就く
ことも十分に

考えられる。
>
> 一般永住資格はかつて日本に20年間居住していなければ与えられなかっ
たが、98年に

国会審議もなしに、法務省がガイドラインで「原則10年以上の居住」に緩
和した。その結

果、20年間で9万人から75万人へと、8倍以上にふえた。今回の外国人労働
者の扱いだけで

なく、一般永住者の資格も含めて日本国として外国人政策の全体像を見直
す時であろう。
>

2018年11月26日

◆将来に禍根残しかねない入管法改正案

櫻井よしこ


「将来に禍根残しかねない入管法改正案 日本は外国人政策の全体像を見
直す時だ」
安倍晋三首相も自民党も一体どうしたのか。まるで無責任な野党と同じで
はないか。

外国人労働者受け入れを大幅に拡大する出入国管理法改正案についての国
会論戦を聞いていると、普段は無責任な野党の方がまともに見える。それ
程、自民・公明の政権与党はおかしい。

11月2日の閣議決定に至るまで、同法について自民党の部会で激しい議論
が何日間も続き、発言者の9割が法案に強く反対した。しかし結局、外国
人労働者の受け入れを大枠で了承し、法律の詳細は省令で決定するという
異例の決着を見た。

深刻な人手不足ゆえに倒産が相ついでいるといわれる建設業界や介護業界
の悲鳴のような要請を無視できないという事情はあるにしても、この法改
正は将来に深刻な禍根を残しかねない。

今回の改正で受け入れる外国人の資格として「特定技能1号」と「2号」が
設けられ、「1号」の労働者の「技能水準」は「相当程度の知識又は経験
を必要とする技能」とされた。「2号」の労働者の技能水準は「熟練した
技能」とされた。

前者の「相当程度」とはどんな程度なのか。後者の「熟練」とはどの程度
か。いずれも定義されていない。

眼前の人手不足解消のために何が何でも外国人を入れたいという姿勢が見
てとれる。あえていえば政府案は外国人の野放図な受け入れ策でしかない。

外国人は単なる労働者ではない。誇りも独自の文化も家族もある人間だ。
いったん来日して3年、5年と住む内に、安定した日本に永住したくなり、
家族を呼び寄せたくなる人がふえるのは目に見えている。その時彼らが機
械的に日本を去るとは思えない。すると日本社会にどんな影響が出るだろ
うか。欧州諸国は移民を入れすぎて失敗した。政府は今回の受け入れは移
民政策ではないと繰り返すが、5年間で最大34万人とみられる労働者が事
実上の移民にならないという保証はない。

日本にはすでに258万人の外国人が住んでいるのである。その中で目立つ
のは留学生の急増だ。2013年末に19万人だったのが17年末までの4年間に
31万人にふえた。技能実習生は16万人から27万人に、一般永住者は66万人
から75万人にふえた。

日本には特別永住者と一般永住者の2種類がある。前者は戦前日本の統治
下にあった朝鮮半島や台湾の人々、その子孫に与えられている地位であ
る。彼らは日本に帰化したり日本人と結婚したりで、日本への同化が進
み、その数はこの4年間で37万人から33万人に減少した。

問題は一般永住者である。シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の
西岡力氏の調査によると、17年末で75万人の一般永住者の3分の1、25万人
が中国人だ。一般永住者は日本人と同等の権利を与えられた外国人と考え
てよい。滞在期間は無制限で、配偶者や子供にも在留資格が与えられる。
活動も日本国民同様、何ら制限もない。彼らが朝鮮総連のような祖国に忠
誠を誓う政治組織を作ることも現行法では合法だ。

他方中国政府は10年に国防動員法を制定し、緊急時には海外在住の中国国
民にも国家有事の動員に応ずることを義務づけた。仮に、日中両国が紛争
状態に陥った時、在日中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害するために後方
を攪乱する任務に就くことも十分に考えられる。

一般永住資格はかつて日本に20年間居住していなければ与えられなかった
が、98年に国会審議もなしに、法務省がガイドラインで「原則10年以上の
居住」に緩和した。その結果、20年間で9万人から75万人へと、8倍以上に
ふえた。今回の外国人労働者の扱いだけでなく、一般永住者の資格も含め
て日本国として外国人政策の全体像を見直す時であろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1257

2018年11月24日

◆中国の逃れられない弱み

櫻井よしこ


「米中対立、中国の逃れられない弱み」

11月9日にワシントンで米中外交・安全保障対話がもたれた。米国側から
ポンペオ国務長官、マティス国防長官、中国側から楊潔篪(ようけっち)共
産党政治局員、魏鳳和(ぎほうわ)国防相が参加した。

この閣僚会議は、昨年、習近平主席が米国を訪問した際に、トランプ大統
領と合意して設置したものだ。昨年6月に第1回目が開かれ、今回が2回目
となる。

ポンペオ氏が、「米国は中国との新冷戦を望んでいないし、封じこめるつ
もりもない」と発言し、楊氏が「中国は改革と平和発展の道にとどまり続
ける」と答えたこの対話は、互いに関係を損なわないよう、相手の意図を
探り合い、それなりに繕ったことを窺わせる。しかし、内容に踏み込んで
みれば、現在の米中関係の厳しさは明白だ。

明らかな対立点は、南シナ海、台湾、人権、北朝鮮の各問題である。南シ
ナ海問題では米国側は中国による島々の軍事拠点化に強い懸念を示した。
国務省はメディア向けの説明の中で、以下のように重要なことを明らかに
している。

「米国は、中国が南沙諸島の人工島に配備したミサイルシステムを取り除
くよう要求し、全ての国々は問題解決に強制や恫喝という手法をとっては
ならないことを確認した」

中国がフィリピンなどから奪った南沙諸島を埋め立てて軍事拠点を作って
以来、このようにミサイル装備を取り外せと具体的に要求したのは、恐ら
く初めてだ。トランプ政権が一歩踏み込んで要求したと見てよいだろう。

そのうえで、米国側は従来どおり、国際法に基づいて南シナ海の航行と飛
行を続けると明言している。

これに対して楊氏は、南シナ海に配備した施設の大部分は民間用だと、
白々しくも主張し、米国が「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣するのはや
めるべきだと反論している。

異常に男児が多い

台湾問題について、中国が台湾と国交を結んでいる国々に働きかけ、次々
に断交させて台湾を孤立させている手法を、米国は批判した。すると、楊
氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部だ」と主張し、魏氏も「中国は如
何なる犠牲を払っても祖国統一を維持する。米国が南北戦争で払ったよう
な犠牲を払ってでもだ」と強い口調で語っている。

南北戦争は、1861年から4年間も続いた激しい内戦だった。犠牲者は60万
人以上とされる。それ程の犠牲を払っても、中国は台湾の独立を許さない
と力んだのだ。

イスラム教徒であるウイグル人に対する弾圧、虐殺についても米中両国の
溝は全く埋まっていない。北朝鮮の核に関しても、明確な核の放棄までは
北朝鮮に見返りを与えないとする米国と、核廃棄と援助を同時進行で行い
条件を緩和することもあり得るとする中国側の立場は、完全に合致するこ
とはない。

11月末に予定される米中首脳会談への瀬踏みの米中閣僚会議だったが、両
国の基本的対立が解決に向かうとは思えない。

習主席は、自身にその力さえあれば、終身、中国の国家主席の地位にとど
まることができる道を開いた。選挙によって指導者が入れ替わる民主主義
国と較べて、優位に立っていると、習氏は思っているであろう。だが、11
月の中間選挙でトランプ氏の共和党が下院で民主党に過半数を奪われ相対
的に力を弱めたとはいえ、民主党は共和党よりはるかに保護主義的で人権
問題にも厳しい。トランプ政権以降に希望をつなぐのは早計というもので
あろう。

10月4日にペンス副大統領が行った演説の対中批判の厳しさについては、
10月18日号の本誌当欄でもお伝えしたが、米国で超党派勢力が結束して中
国に本気で怒っている理由は、習氏が高らかに謳い上げた「中国製造
2025」という大目標にある。

中国は経済的にも軍事的にも世界最強の国となり、科学、技術の全分野に
おいて世界最先端の地位を確立すると誓った。だがそのための手段は知的
財産の窃盗であり、騙しであり、恫喝に他ならない。こんな不公正な中国
に、世界最強国の地位を明け渡してはならない、という米国の闘争心が掻
き立てられたのだ。

中国が米国に取って代り、中国風の支配構造の中に組み込まれることな
ど、我々日本にとっても願い下げだ。だが、そんな時代は恐らくやってく
るまい。

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は今年5月、シンクタ
ンク「国家基本問題研究所」創立10周年の記念シンポジウムで、全世界の
人口学者の一致した見方だとして、中国は基本的に異常事態の中に在る
と、以下のように語った。

長年の一人っ子政策と女児よりも男児優先の価値観により、中国では女児
100人に対して男児118人が生まれている。通常の100対105乃至106に較べ
て異常に男児が多い。結果、人口学的な不均衡が生じ、現時点でも3000万
人の男性が結婚相手を見つけることができないでいる。

「非常に脆い国」

他方中国の教育水準は全体的に見れば低く、若い世代の高等教育進学率は
6%だ。日本や欧米先進国のそれに較べれば非常に低い。

人口の出入りで見ると、すべての欧州諸国、加えて日本も、流入人口が流
出人口を上回っている。だが中国は違う。中国の統計は信頼できない面も
あるが、通常使われる数字によると、毎年150万人が中国から外国に流出
している。彼らの多くが中国には戻らない。だが流出する彼らこそ、中国
人の中で最も活力があり、開明的な人々である。

トッド氏が結論づけた。

「こうして考えると、中国は大国ですが、非常に脆い国なのです。将来的
に危機を回避できない国であると、考えています」

北京発、原田逸策記者の非常に興味深い記事が11月10日の「日経新聞」に
掲載されていた。中国が産児制限の撤廃を検討中という記事だ。中国の現
在の出生率1.3が続くと、今世紀末までに中国の総人口は現在の13億人強
から約6億人に半減する。他方、現在3億2000万人の米国の総人口は4億
5000万人に増えるというのだ。

となると、習氏が高らかに謳い上げたように、2030年前後までには経済
(GDP)で米国を追い抜くことができるとしても、今世紀後半には再び
逆転される可能性があるという。

日本は米中の戦いに、そこまで考えて対処しなければならない。日本の選
択は短期的に見て米国との協調、同盟路線を続ける以外にないのだが、
中・長期的展望を考えてみても、やはり答えは同じになる。

隣国中国とのつき合い方は、中国が共産党一党支配をやめない限り、最大
限の警戒心を持って対処するということに尽きる。

『週刊新潮』 2018年11月22日号 日本ルネッサンス 第828回

2018年11月23日

◆中国の逃れられない弱み

櫻井よしこ


「米中対立、中国の逃れられない弱み」

11月9日にワシントンで米中外交・安全保障対話がもたれた。米国側から
ポンペオ国務長官、マティス国防長官、中国側から楊潔篪(ようけっち)共
産党政治局員、魏鳳和(ぎほうわ)国防相が参加した。

この閣僚会議は、昨年、習近平主席が米国を訪問した際に、トランプ大統
領と合意して設置したものだ。昨年6月に第1回目が開かれ、今回が2回目
となる。

ポンペオ氏が、「米国は中国との新冷戦を望んでいないし、封じこめるつ
もりもない」と発言し、楊氏が「中国は改革と平和発展の道にとどまり続
ける」と答えたこの対話は、互いに関係を損なわないよう、相手の意図を
探り合い、それなりに繕ったことを窺わせる。しかし、内容に踏み込んで
みれば、現在の米中関係の厳しさは明白だ。

明らかな対立点は、南シナ海、台湾、人権、北朝鮮の各問題である。南シ
ナ海問題では米国側は中国による島々の軍事拠点化に強い懸念を示した。
国務省はメディア向けの説明の中で、以下のように重要なことを明らかに
している。

「米国は、中国が南沙諸島の人工島に配備したミサイルシステムを取り除
くよう要求し、全ての国々は問題解決に強制や恫喝という手法をとっては
ならないことを確認した」

中国がフィリピンなどから奪った南沙諸島を埋め立てて軍事拠点を作って
以来、このようにミサイル装備を取り外せと具体的に要求したのは、恐ら
く初めてだ。トランプ政権が一歩踏み込んで要求したと見てよいだろう。

そのうえで、米国側は従来どおり、国際法に基づいて南シナ海の航行と飛
行を続けると明言している。

これに対して楊氏は、南シナ海に配備した施設の大部分は民間用だと、
白々しくも主張し、米国が「航行の自由」を掲げて軍艦を派遣するのはや
めるべきだと反論している。

異常に男児が多い

台湾問題について、中国が台湾と国交を結んでいる国々に働きかけ、次々
に断交させて台湾を孤立させている手法を、米国は批判した。すると、楊
氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部だ」と主張し、魏氏も「中国は如
何なる犠牲を払っても祖国統一を維持する。米国が南北戦争で払ったよう
な犠牲を払ってでもだ」と強い口調で語っている。

南北戦争は、1861年から4年間も続いた激しい内戦だった。犠牲者は60万
人以上とされる。それ程の犠牲を払っても、中国は台湾の独立を許さない
と力んだのだ。

イスラム教徒であるウイグル人に対する弾圧、虐殺についても米中両国の
溝は全く埋まっていない。北朝鮮の核に関しても、明確な核の放棄までは
北朝鮮に見返りを与えないとする米国と、核廃棄と援助を同時進行で行い
条件を緩和することもあり得るとする中国側の立場は、完全に合致するこ
とはない。

11月末に予定される米中首脳会談への瀬踏みの米中閣僚会議だったが、両
国の基本的対立が解決に向かうとは思えない。

習主席は、自身にその力さえあれば、終身、中国の国家主席の地位にとど
まることができる道を開いた。選挙によって指導者が入れ替わる民主主義
国と較べて、優位に立っていると、習氏は思っているであろう。だが、11
月の中間選挙でトランプ氏の共和党が下院で民主党に過半数を奪われ相対
的に力を弱めたとはいえ、民主党は共和党よりはるかに保護主義的で人権
問題にも厳しい。トランプ政権以降に希望をつなぐのは早計というもので
あろう。

10月4日にペンス副大統領が行った演説の対中批判の厳しさについては、
10月18日号の本誌当欄でもお伝えしたが、米国で超党派勢力が結束して中
国に本気で怒っている理由は、習氏が高らかに謳い上げた「中国製造
2025」という大目標にある。

中国は経済的にも軍事的にも世界最強の国となり、科学、技術の全分野に
おいて世界最先端の地位を確立すると誓った。だがそのための手段は知的
財産の窃盗であり、騙しであり、恫喝に他ならない。こんな不公正な中国
に、世界最強国の地位を明け渡してはならない、という米国の闘争心が掻
き立てられたのだ。

中国が米国に取って代り、中国風の支配構造の中に組み込まれることな
ど、我々日本にとっても願い下げだ。だが、そんな時代は恐らくやってく
るまい。

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は今年5月、シンクタ
ンク「国家基本問題研究所」創立10周年の記念シンポジウムで、全世界の
人口学者の一致した見方だとして、中国は基本的に異常事態の中に在る
と、以下のように語った。

長年の一人っ子政策と女児よりも男児優先の価値観により、中国では女児
100人に対して男児118人が生まれている。通常の100対105乃至106に較べ
て異常に男児が多い。結果、人口学的な不均衡が生じ、現時点でも3000万
人の男性が結婚相手を見つけることができないでいる。

「非常に脆い国」

他方中国の教育水準は全体的に見れば低く、若い世代の高等教育進学率は
6%だ。日本や欧米先進国のそれに較べれば非常に低い。

人口の出入りで見ると、すべての欧州諸国、加えて日本も、流入人口が流
出人口を上回っている。だが中国は違う。中国の統計は信頼できない面も
あるが、通常使われる数字によると、毎年150万人が中国から外国に流出
している。彼らの多くが中国には戻らない。だが流出する彼らこそ、中国
人の中で最も活力があり、開明的な人々である。

トッド氏が結論づけた。

「こうして考えると、中国は大国ですが、非常に脆い国なのです。将来的
に危機を回避できない国であると、考えています」

北京発、原田逸策記者の非常に興味深い記事が11月10日の「日経新聞」に
掲載されていた。中国が産児制限の撤廃を検討中という記事だ。中国の現
在の出生率1.3が続くと、今世紀末までに中国の総人口は現在の13億人強
から約6億人に半減する。他方、現在3億2000万人の米国の総人口は4億
5000万人に増えるというのだ。

となると、習氏が高らかに謳い上げたように、2030年前後までには経済
(GDP)で米国を追い抜くことができるとしても、今世紀後半には再び
逆転される可能性があるという。

日本は米中の戦いに、そこまで考えて対処しなければならない。日本の選
択は短期的に見て米国との協調、同盟路線を続ける以外にないのだが、
中・長期的展望を考えてみても、やはり答えは同じになる。

隣国中国とのつき合い方は、中国が共産党一党支配をやめない限り、最大
限の警戒心を持って対処するということに尽きる。

『週刊新潮』 2018年11月22日号 日本ルネッサンス 第828回

2018年11月22日

◆韓国の徴用工問題の背後に

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告四人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256

2018年11月21日

◆問題の背後に広がる深い闇

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告四人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256

2018年11月20日

◆韓国の徴用工問題の背後に

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告4人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256

2018年11月19日

◆韓国の徴用工問題の背後

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告4人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256

2018年11月18日

◆韓国の徴用工問題の背後

櫻井よしこ


「韓国の徴用工問題の背後に広がる深い闇 ネット媒体も駆使して実態を
伝えたい」

ネット配信の「言論テレビ」を始めてよかったと思うことがふえている。
本が好きで、雑誌も新聞も紙で読むことが一番しっくりする私でさえも、
ネットの力、その可能性に驚かされる毎日である。

11月2日に配信した言論テレビの2時間の特別番組では韓国大法院(最高
裁)判決を論じ、多くの視聴者に届けた。元徴用工問題に関する韓国側の
判決は周知のとおり、日本企業(新日鐵住金)に戦時中、非人道的で不法
な労働を強要されたと訴え出ていた労働者4人に4億ウォン(約4000万円)
の支払いを命ずるものだった。

1965年の協定によって、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」の
であり、日本にとっては受け入れられない判決だ。

加えて、安倍晋三首相が国会で明言したように、原告4人は元徴用工では
ない。これは朝鮮問題専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」の研
究員である西岡力氏が、韓国大法院の資料を読み解く中で発見した。

朝鮮半島の人々を日本企業が募集し始めたのは1939年である。徴用は44年
9月に始まり、翌年3月頃まで約半年間続いた。注目すべきことは、この間
ずっと、募集枠を大きく超えて万単位の労働者が日本に働きに来ていたこ
とだ。統計を見ると、少なくとも1万6000人の労働者が不正渡航を理由に
朝鮮半島に送り返されている。それだけ日本における労働条件がよかった
ということであろう。

今回の裁判の原告四人も企業の募集広告を見たり、役場から勧められて応
募したりして、民間企業の賃金、待遇の諸条件に納得して働きに来た。彼
ら全員が徴用の始まる44年9月以前に渡日しており徴用とは無関係だ。

だが、韓国の司法は民間企業の募集で渡日した労働者も含めて全員を「徴
用」と見做す。その理論構成の少なからぬ部分を、日本の知識人が担って
きたと、西岡氏は語る。

「60年代に日本の朝鮮統治は犯罪だったという研究が始まっているので
す。その典型が『朝鮮人強制連行の記録』という朝鮮大学校の教員だった
朴慶植氏が書いた本です。彼の弟子だった人が、いま東京大学の先生に
なったりしています」

彼らは日本の朝鮮半島統治が如何に不法であり犯罪的であったかを研究
し、そうした主張に共鳴する弁護士や運動家が90年代に韓国に渡り、日本
を訴えるための原告を探した。この構図は慰安婦問題と酷似している。西
岡氏は語る。

「日本に来て、日本で裁判を起こす。費用は日本側が持ち、手続きも全て
日本側が行う。日本も旅行できるということで始まったのが戦後補償裁判
でした。しかし、日本では全て敗訴だった。この原告たちは言っていま
す。日本の運動家の皆さんが励ましてくれて、もう一回、韓国で裁判を起
こした、と」

日本は法治国家であり、条約も法律も厳格に守られるために、韓国の原告
が勝利する余地はなかったが、韓国での裁判となると、今回の事例に見ら
れるように状況は異なってくる。

関連して、菅直人氏が首相の時、怪し気な動きがあったと、西岡氏は言う。

「左派的な日韓知識人の連帯の中で、菅氏に談話を出させ、日朝併合条約
は無効、つまり日韓併合は非合法的だったと言わせようとしたのです。こ
れは実現しませんでしたが、併合条約が無効だとされれば、日韓関係の根
本は崩れます。それが彼らの狙いです」

韓国には常に、日本による併合は違法で無効だと決めつけようとする勢力
が存在する。しかし、反日政権だった盧武鉉氏でさえ日韓請求権協定の内
容は否定できなかった。それがいま最高裁で否定される次元にきてしまっ
た。この背後にある深い闇の実態を、紙媒体だけでなく大きな広がりを持
つネットを駆使して伝えていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1256