2019年01月10日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うこと
が必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に2度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2019年01月08日

◆韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈

櫻井よしこ


韓国大法院(最高裁判所)が10月末及び11月末に下した朝鮮人戦時労働者
問題に関する判決書にはとんでもないことが書かれている。

「とんでもない」という意味は、単に日韓両政府が1965年に合意した日韓
請求権協定に違反するというだけではない。それよりもはるかに深刻で国
際法軽視の対日非難であるという意味だ。

12月7日、インターネット配信の「言論テレビ」で女性の論客5人と男性の
論客1人の構成でこの問題を中心に2時間にわたって論じた。男性ゲスト
は、いま朝鮮問題で引っ張り凧の西岡力氏だ。

韓国大法院の判決を貫く主張は「日本統治不法論」である。日本の有志の
弁護士が仮訳したものを参考に、私たちが問題にした韓国最高裁判決の最
重要のくだりは以下の部分だ。

「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地
支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前
提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(である)とい
う点を明確にしておかなければならない」

判決は続いてこう述べる。

「原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、
上記のような慰謝料を請求しているのである」

判決の他の部分には、原告らは日本で同様の裁判を起こして敗訴している
が、日本の司法判決は受け入れられない、その理由は日本の判決が「日本
の朝鮮半島と韓国人に対する植民地支配が合法であるという規範的認識を
前提に」しているからだと書かれている。

そのうえで、「日本での判決をそのまま承認するのは、大韓民国の善良な
風俗や、その他の社会秩序に違反する」というのだ。

頑として譲らないこと

日本の朝鮮統治は不法だと決めつけ、日本側の主張は全く受け入れないと
いうわけだ。西岡氏が指摘した。

「新日鐵住金を訴えた原告4人は募集に応じて普通に日本に来て、普通に
企業で働いて、給料を貰った。未払い給料があったとしても、それらを清
算する機会は戦後2回もあった。彼らは無事に帰国し、怪我もしていな
い。だから韓国政府も彼らには特別な支払いはしていません。しかし、日
本統治が不法だったからという理屈をいま持ち出して、慰謝料が発生する
と言っているのです」

慰謝料という理屈を適用すれば、およそすべてが対象となる。日本統治下
で日本語を習わせられた、神社を参拝させられた、姓名を変えさせられ
た、精神的に苦しんだなど、何でも慰謝料請求の根拠とされるだろう。

このような要求を日本につきつける土台となる論理が日本統治不法論だ。
日韓基本条約と日韓請求権協定の締結までに日韓両国政府は延々14年間も
交渉を重ねた。当時も日本の韓国統治は合法だったか否かが激しく議論さ
れたのは確かだ。互いに折り合えず交渉は長引いた。そこで双方が智恵を
働かせた。

日韓基本条約第2条には「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との
間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認さ
れる」とある。

1910(明治43)年8月22日は韓国併合条約の調印の日である。日本の韓国
併合はそれ以前の種々の条約、協定の積み重ねで、米英露など諸外国も認
めるものだった。従ってそれらはすべて国際法に適い合法だとする日本の
主張は当然だ。だが、日韓の外交関係を進めるために両政府は以下の案を
生み出した。

前述のように、1910年8月22日以前(中略)の条約及び協定は、「もはや
無効」としたのだ。

西岡氏が説明した。

「日本側にとっては、韓国は1948年に独立した、もはや日本は韓国を併合
していない、だから韓国併合の根拠だった1910年8月22日以前の条約も協
定も、もはや無効になった、それ以前は合法で有効だったという意味で
す。他方韓国側は、『もはや』は副詞みたいなもので関係がない、だか
ら、そんな言葉は無視して、当初から無効だったと解釈したのです」

両者の解釈が異なるときは、両国が合意した英文によって解釈することに
なっている。英文は日本の解釈が正しいことを示している。

韓国側の主張は不当極まるが、不当判決が出されたいま、65年の協定で請
求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と言うだけでは、日本側は闘
いきれないかもしれない。次なる一手も二手も準備する必要がある。

まず、法律上の問題だ。キモは頑として譲らないことだ。韓国弁護団は強
気で、12月4日、被告の新日鐵住金本社を訪れた。新日鐵住金側は韓国弁
護団を全く相手にしなかったが、彼らは要請書を置いて帰った。損害賠償
の履行方法や、賠償金の伝達方式を含む被害者の権利回復の措置につい
て、今月24日午後までの返答を求める内容だった。

法的闘争の準備を

日本側が応じなければ、彼らは日本企業の資産差し押さえなどに着手する
可能性がある。日本側も報復の差し押さえ措置など法的闘争の準備を万全
にすることだ。

もうひとつは国際世論を意識した歴史戦への備えだ。日本統治の合法性と
は別に、日本が朝鮮人労働者をどのように処遇していたかを事実に基づい
て内外に知らせ、慰謝料要求などは筋違いであり不条理だと納得してもら
えるだけの情報を十分に伝えておくことが、この種の歴史戦ではとても大
事である。その点において日本側は非常に手立てが遅れていると、西岡氏
は懸念する。

「現在の外交官は、当時の労働条件や賃金の支払い状況などについてよく
知りません。対照的に反日勢力の側は、実は彼らは日本人なのですが、80
年代から日本統治不法論を考え、その論理を磨き上げてきました。事実関
係については、すべてを反日的視点から資料収集しています。これら反日
日本人が韓国側に論理と資料を提供しているのです。彼らの資料は、私た
ちの側が集めた資料や研究の10倍はあると言っても過言ではありません。
彼らの反日闘争は私たちよりずっと早くから準備されていたのです」

それでも日本の企業には、どれだけの賃金を朝鮮の誰々に支払った、朝鮮
の誰々はどの募集に応じて、どのような待遇を受けたといった資料が豊富
に残っている。事実こそ最も強い説得力を持つはずだ。こうした資料を早
く、全面的に公開すべきだ。

これから短期間に、反日学者を除く、少数ではあってもまともな学者や研
究者が、企業及び政府とも協力し、日本統治下の朝鮮人の扱いについての
実態を最速で明らかにし、韓国司法の不条理を訴えていかなければならない。

『週刊新潮』 2018年12月20日号 日本ルネッサンス 第832回

2019年01月07日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号 日本ルネッサンス 第833回

2019年01月06日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261 

2019年01月05日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号 日本ルネッサンス 第833回

2019年01月01日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

                          櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

2018年12月31日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号  日本ルネッサンス 第833回
     
        

2018年12月30日

◆ 横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


「横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ」

中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号日本ルネッサンス 第833回

◆ 横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


「横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ」

中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号 日本ルネッサンス 第833回

2018年12月29日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

                          桜井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや
ZTEを国ぐるみで後押しするが、ハイテク通信で世界の最前線を走った
としても、世界一の国にはなれないだろう。彼らはハイテク通信を何のた
めに利用するのか。自国民を支配するのと同様に世界を支配する道具にす
るのではないか。ハイテク通信で自由な情報の流れを実現するわけでもな
い。自由な発想も創造も許さない。その反対に、21世紀の今日、いわば終
身皇帝を誕生させるなどバカバカしい所業を許している。

人間を抑圧する中国は、米国や日本、欧州諸国のように人間を羽ばたかせ
る陣営には金輪際、勝てない。米中のせめぎ合いは日中の戦いでもある。
そのことを念頭に、安倍晋三首相も菅義偉官房長官ももっと発言してよい
のである。中国にスパイ容疑で拘束され、情報開示もないまま、有罪判決
を下されていく日本人8人の即時釈放を要求すべきだ。中国の蛮行を許し
てはならない。大きな声で抗議すべきなのだ。

『週刊新潮』 2018年12月27日号 日本ルネッサンス 第833回

2018年12月28日

◆横暴中国に抗議し、日本人を取り戻せ

櫻井よしこ


中国共産党機関紙「人民日報」系で、国際版もある「環球時報」のもの凄
い社説から、中国の正体が見える。

12月1日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟
晩舟(もうばんしゅう)氏が米国の要請によってカナダで身柄を拘束され
た。11日に保釈されたが、現在も24時間監視態勢下に置かれ、カナダから
出国もできない。米国への引き渡し手続きはこれからだろうが、中国は政
府を挙げて引き渡し阻止に動いている。

「環球時報」は孟氏逮捕当初から非常に強い関心をもって何本もの社説を
掲げているが、直近の12月15日のそれは中国得意の政治的恫喝の典型だった。

一連の主張から読みとれる中国の特性こそ、彼らが世界で力を確立すれば
するほど国際社会に浸透させようとする価値観であろう。私たちはいま、
その正体をじっくりと見つめる好機を与えられている。その第一の点が、
中国の司法は米国やカナダの司法とは異なるという主張だ。

たとえば環球時報はこう書いた。

「中国がカナダ人二人を拘束したことを、米加両国はどういう理由で違法
だと言えるのか。結局我々の司法は全く異なる。米国やカナダで違法だか
らといって中国でもそうだとは言えないだろう」

続いて、環球時報は次のように警告する。

「司法権は一国の主権の重要な構成要素だ。中国にいるすべての外国籍の
者は、その母国の法律によって守ってもらえるなどという幻想を抱くかわ
りに、中国の法律に従わなければならない」

中国の体制は外の世界とは異なるのだ、米国流もカナダ流も欧州流も日本
流も、中国には一切通じない。そのことを外国人は認識せよ、というこの
強い自我意識は、昨年10月の共産党大会で、中国が世界最強の国になる
2049年には、中華民族が世界の諸民族の中にそびえ立ち、中国共産党の教
えで世界を指導するとしたあの宣言に通ずる考えだ。それを彼らは「人類
運命共同体」と表現したが、その本心は中国主導の世界の確立ということだ。

21世紀の大中華思想の恐さ

12月13日の社説は、孟氏が拘束されたあと、まるで報復のような形でカナ
ダ人二人が拘束された件について、こんな主張も展開する。

「中国で拘束されたカナダ市民二人に関しては保釈請求の審理を開催して
やるなど、開かれた透明な司法手続きが行われるべきだと米加両国は考え
ている。中国では法体系も情報発信の在り方も異なる。そのようなことは
できないと、彼らはよく知っているはずだ。従って(米加両国と同件につ
いて)意思の疎通をはかるのは困難だ」

なるほど、だから彼らは、南シナ海の島々の領有権問題でハーグの常設仲
裁裁判所が下した、フィリピンの訴えを全面的に支持し中国の領有権を全
否定した判決を「紙クズ」だと言って無視したのであろう。

そもそも司法制度が異なるのだから、米国ともカナダとも、さらに国際社
会とも解り合うことは不可能だと言っているのである。そのうえで彼らは
要求する。

「カナダ及び米国の外相は中国のこうした原則を十分に弁(わきま)えてお
くべきだ」(15日社説)

彼らの中・長期的目標である21世紀の大中華思想の恐さを肝に銘じておこ
う。威嚇したかと思えば、「環球時報」は同じ社説で恥ずかし気もなく、
こうも言う。

「異なる国々の間の意思の疎通は相互尊重に基づくべし」

全く同感だ。そうしてほしいが、中国には相互尊重の考えが欠落していて
自国尊重しかない。だから結局最後は予想どおり恫喝で終わる。

「カナダは米国の支持があるからといって何かが変わると思ってはならな
い。台湾問題での火遊びは北京には何の圧力にもならない。オタワよ、中
国の手には何枚ものカードがあることを覚えておけ。北京の意向に逆らえ
ばいいことはないぞ。米中問題には距離を置くのが一番だと弁えろ」

人口約3600万人、GDP1兆6530億ドル(約187兆円)と、中国と比べれば
小振りとはいえ、カナダはG7の一員だ。立派な民主主義の国をこんなふ
うに脅すのである。裏を返せば、中国は死に物狂いだということだ。

なんと言ってもファーウェイは中国を代表するハイテク企業だ。「産経新
聞」の報道によると、世界170か国・地域で事業を展開中だが、現在も非
上場を貫いている。創業者は人民解放軍出身の元軍人で、74歳の任正非
(にんせいひ)氏だ。人民解放軍、さらには共産党と一体化している人物
だ。その娘が孟氏で現在46歳、事実上、任氏の後継者と見られている。

世界一の国にはなれない

ファーウェイをはじめ、中国の通信大手企業が世界に張り巡らせつつある
のが、第5世代の移動通信システム(5G)だ。中国はすでに5Gの基地局
を世界各地に張り巡らし、その数は米国のそれの10倍にもなるとの数字も
ある。米国は必死に巻き返しており、欧州諸国も日本も、米国と共に
ファーウェイ及びもうひとつの中国のハイテク通信企業、中興通訊
(ZTE)の排除に乗り出した。国や社会の在り方、自由や民主主義の擁
護を考えれば、当然だろう。

10月4日に米国のペンス副大統領が凄まじい演説をした。その直後に共和
党上院議員のマルコ・ルビオ氏らが民主・共和両党の合意の下で対中非難
の声明を出した。その中で中国の不公正、非人道的な体質を非難し、中国
社会はジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだと論難した。米中の
戦いは単なる貿易戦争ではなく、次の時代の世界の在り方をめぐる戦い
だ。米国は行政府も立法府も、「1984」のような国になり果てようとする
中国の意図を挫きたいのである。

5Gのハイテク通信で世界を制覇すべく、中国共産党はファーウェイや

2018年12月27日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月26日

◆手強い存在と心して戦うことが必要だ

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に2度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261