2019年01月27日

◆法を無視する「力治」思想の国家に対し

櫻井よしこ


「法を無視する「力治」思想の国家に対し日本は力なき国である限り
苦しい立場だ」

1月14日、河野太郎外相とロシアのラブロフ外相が、安倍・プーチン会談
の前座としてモスクワで会った。ラブロフ氏の表情は硬く、視線は険し
く、まるで領土返還への日本の期待を憎んでいるかのようだった。

ラブロフ氏は2004年の外相就任以来、河野氏を含め日本の外相11人と協議
してきたベテランである。片や河野氏は祖父の一郎が日ソ交渉に携わり、
当時の日本の国力の貧弱さ、ソ連に抑留されていた幾万の日本軍兵士の身
柄返還のこともあり、ソ連側に事実上屈服した。

「産経新聞」は、今回ラブロフ氏が国境画定問題に入る前に、歴史的経緯
や国際法の解釈などあらゆる角度から攻めてきたとして、「日本の北方領
土という呼称は受け入れ難い。日本の国内法に北方領土という呼称が規定
されている問題をどう解釈していく考えか」と質したと報じた。

安倍晋三首相が1月4日の年頭記者会見で、北方領土交渉に関連して「ロシ
ア人の住民に帰属が変わることを納得、理解してもらうことも必要だ」と
述べた件では、駐ロシア日本大使を呼びつけて「日本のシナリオを押しつ
けようとするもの」だと非難した。

この一方的主張や姿勢こそ日本側は受け入れ難いが、こんな厳しい雰囲気
が全てなら、安倍首相とロシアのプーチン大統領が24回も会うことはな
かったのではないか。表に出ない部分でより深い相互理解が生まれ、それ
ゆえに交渉は継続されてきたと考えられる。

1月9日に在日米軍司令官、マルティネス氏が「現時点で米軍が(北方領土
に)基地を置く計画はない」と発言した。司令官一人の判断でできる発言
ではなく、国防総省、ホワイトハウスの了承があったと考えるのが普通
だ。つまり、北方領土への米軍の展開に対するロシア側の根強い不安を解
消するために、安倍首相がトランプ米大統領にあらかじめ説明し、要請し
た結果ではないのか。だとすれば、両首脳の話し合いはそこまでは進んで
いると見てよいということか。

ロシアは「力治国家」だ。法や道義よりも力を優先させる国、という意味
だ。力治国家の実態をわが国はまさに北方領土の不幸な体験で承知してい
るが、国際社会も同じように実感したのはクリミア半島奪取の時であろう。

小野寺五典前防衛相が1月11日、「プライムニュース」で、ロシアがウク
ライナからクリミアをどのようにして奪ったかについて、ざっと以下のよ
うに語っていた。

14年3月、ウクライナ全土で突然携帯電話がつながらなくなった。次に
GPSが狂った。その直後にSNS及びラジオで偽情報が流され始めた。
軍を含めてウクライナ全体が右往左往している内に、クリミア半島に知ら
ない集団が入ってきた。気がつくとそれはロシア軍で、あっという間に占
領されてしまった。ウクライナ軍は出来得る限りのドローンを飛ばした
が、どんどん落とされた。ドローン積載の爆弾も信管を電磁波で破壊さ
れ、どれも全て不発弾になって落とされた、と。

実は小野寺氏は、ロシアが従来のミサイルや砲を前面に出す方法から、サ
イバー攻撃などを先行させる方法に戦い方を変えたので日本も対応しなけ
ればならないという文脈で右のように語ったのだが、このような攻め方は
すでにロシアがグルジア(現在はジョージア)に侵攻した08年に実証済み
だった。サイバー攻撃で相手の機能を全滅させたうえでロシア軍はグルジ
アに侵攻し、力任せに奪った。理屈は如何様にもつけられる。

法を無視する力治の思想はロシアだけではない。中国、北朝鮮、韓国も同
じだ。領土も拉致も、日本が力なき国にとどまる限り、交渉では非常に苦
しい立場にある。日本人はそうしたことを覚悟しなければならない。

『週刊ダイヤモンド』 2018年1月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1264 

2019年01月26日

◆現在革命続行中、文在寅政権の異常さ

櫻井よしこ


個人的な感想だが、韓国の文在寅大統領は「信用できない男」の典型では
ないか。とりわけ1月10日、韓国大統領府で開かれた年頭の記者会見での
発言や表情は、知的に耐えきれないものだった。

韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機に、日本の排他的経済水域
(EEZ)内で、火器管制用レーダーを照射した問題でも、「朝鮮人戦時
労働者問題」(自称徴用工問題)でも、文氏以下韓国側は自らの非を認め
ず、逆ギレを続けている。

レーダー照射問題に関して、韓国は、自衛隊機が低空で威嚇的に飛行した
と言った。ではなぜ、その場で抗議しなかったのか。日本側が低空飛行な
どしていなかったから、抗議できなかったのであろう。

加えて、彼らは当初、レーダー照射をしなかったとは言っていない。低空
飛行を持ち出して問題をすり替えたのは、なぜか。

日本のEEZ内で韓国の大きな艦船が2隻も目視され、しかもまん中に漁
船らしき小さな船をはさんでいるとなれば、日本の海や空を守る哨戒任務
についている自衛隊機が、上空から様子を見るべく接近しないほうがおか
しい。当然の責務として近づいた自衛隊機にレーダーを照射して追い払お
うとしたのは、韓国側に隠したいことがあったからだろう。

どうしても見られたくない現場がそこにあったために、レーダーを照射し
たのではないか。隠したいことはよほど重要なことである可能性も高い。
その点も含めて韓国側は重大な嘘をついていると考えてよいだろう。

もう一方の朝鮮人戦時労働者問題を、文氏は、「韓国政府がつくり出した
のではなく、不幸な歴史のために生じた問題」だと語り、日本政府に「も
う少し謙虚になるよう」求めた。

韓国大法院(最高裁)が下した判断を、韓国は三権分立の国であるが故
に、韓国政府は尊重せざるを得ない、そのことを日本政府も認識せよと、
文氏は言ったが、同問題の背景に、文氏の遠大な企みがあったと見るのは
決して深読みのしすぎではないだろう。

親北朝鮮の完全な左翼集団

日本企業に慰謝料の支払いを命ずる判決を下した大法院長は金命洙(キム
ミョンス)氏だ。一昨年9月に文氏が大抜擢した。金氏は「ウリ法研究会」
の一員で「親北朝鮮、反日反韓国」の極左思想の持ち主だ。金氏を大法院
長に任命したときに、すでに今回の判決の流れが決まったといえる。

韓国で朝鮮人戦時労働者問題の訴訟を支えるのは「法務法人ヘマル」の弁
護士達だ。「太平洋戦争犠牲者補償推進協議会」や「民族問題研究所」が
支援組織として名を連ねている。

「ヘマル」の中心人物、張完翼(チャンワンイク)弁護士は、2000年に元朝
日新聞の松井やより氏(故人)らと共に、昭和天皇を裁き有罪にした女性
国際戦犯法廷を開催し、検事役を務めた。また、民族問題研究所は親北朝
鮮の完全な左翼集団である。

留意しておくべきことは、文氏が大統領選挙に出馬したとき、法務法人ヘ
マルが全面的に支えたという事実だ。後述するように、朴槿恵前大統領を
弾劾して行った選挙はまさに「革命」と呼ぶべき異常なものだった。その
異常な選挙を乗り切るのに法的支援をしたのが法務法人ヘマルだった。両
者はまさに一心同体と言えるのではないか。

こうしてみると大法院を支配する価値観と、戦時労働者訴訟の原告団を支
援する勢力の価値観は重なる。私たちはこうした人々相手の尋常ならざる
闘いに直面しているのだ。

右のような陣容で裁判をおこし、その中で下された判決を、韓国側は三権
分立を盾にして日本も尊重せよと言う。だが日本にも最高裁が存在する。
日本の最高裁は朝鮮人戦時労働者の件はすべて解決済みと判断した。日本
も三権分立の国だ。日本政府も日本の最高裁判決に従わなければならな
い。その事実を、韓国政府こそ、認識すべきであろう。

現在の韓国政府にはいちいち違和感を覚えるが、日本で発行されている韓
国の週刊新聞、『統一日報』の1月1日版に韓国の常識派の論文が複数、掲
載されていた。そのひとつが、ソウル大学経済学部教授を経て、昨年から
「李承晩学堂」の校長を務める李栄薫(イヨンフン)氏の講演である。

李氏は「反日種族主義を打破しよう」という題で語っている。李氏は「精
神文化の遅滞が、20世紀の韓国史を貫通してきた」と断じ、20世紀の韓国
の近代化を、韓国人は「無賃乗車」で成し遂げたと指摘する。「近代文明
の法、制度、機構は日本の支配と共にこの地(韓国)に移植された」ので
あり、国が滅びたのも国を建てたのも「自力」ではなかったと、韓国人が
一番聞きたくないことを、李氏は語っている。

精神文化の遅滞

それでも韓国がこの70年間大きな成果をおさめたのは、李承晩、朴正煕両
大統領をはじめとする「創造的少数」の功績だと李氏は続ける。その上で
韓国がいま、失敗の中にあるのは「種族主義」のためだと言う。種族主義
とは何かと、『統一日報』担当者に問い合わせると、民族主義以前の閉鎖
的で遅れた段階を指すとの説明だった。

李氏は、そのような精神文化の遅滞ゆえに、韓国は「国際感覚において不
均衡」、「日本に対しては無期に敵対的である反面、中国に対しては理解
できないほど寛大だ」と分析する。

もうひとつ『統一日報』には、前大統領、朴槿恵氏の弾劾及びその後の有
罪判決に関して、非常に重要な論文が掲載されている。

朴槿恵氏は過日、32年の懲役刑を下された。66歳の氏は、98歳まで獄に留
め置かれるということだ。このような結果になった朴氏弾劾事件を同紙
は、「韓国憲政史上、最も恥辱的な出来事」と痛烈に非難している。弾劾
の引き金となった唯一の物的証拠が「タブレットPC」だったが、これは
後に偽物だと証明された。このPCへの疑惑を提起したジャーナリストは
逮捕され、実刑を言い渡された。

どこを調べても朴氏は一ウォンのお金も不正に得ていなかったが、韓国司
法は朴氏に罰金200億ウォン(約20億円)を宣告した。収賄の証拠が皆無
だったために、裁判官の心証に基づいて「暗黙的請託」という新たな論理
をひねり出し、重罪に処するために韓国の刑法にない「国政壟断罪」も急
遽作り出した。

弾劾から裁判に至る過程を見れば背後に広範な工作があり、それは北朝鮮
との共謀関係の中でこそ可能だったと思わせられる。

論文には「韓国では嘘をつくことは、特に左翼勢力の嘘はほとんど処罰さ
れない」と書かれている。

こんな国が文政権下の隣国だと肝に銘じつつ、常識と良識を備えた韓国人
の存在も忘れないようにしよう。

『週刊新潮』 2018年1月24日号日本ルネッサンス 第836回

2019年01月25日

◆現在革命続行中、文在寅政権の異常さ

櫻井よしこ


個人的な感想だが、韓国の文在寅大統領は「信用できない男」の典型では
ないか。とりわけ1月10日、韓国大統領府で開かれた年頭の記者会見での
発言や表情は、知的に耐えきれないものだった。

韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機に、日本の排他的経済水域
(EEZ)内で、火器管制用レーダーを照射した問題でも、「朝鮮人戦時
労働者問題」(自称徴用工問題)でも、文氏以下韓国側は自らの非を認め
ず、逆ギレを続けている。

レーダー照射問題に関して、韓国は、自衛隊機が低空で威嚇的に飛行した
と言った。ではなぜ、その場で抗議しなかったのか。日本側が低空飛行な
どしていなかったから、抗議できなかったのであろう。

加えて、彼らは当初、レーダー照射をしなかったとは言っていない。低空
飛行を持ち出して問題をすり替えたのは、なぜか。

日本のEEZ内で韓国の大きな艦船が2隻も目視され、しかもまん中に漁
船らしき小さな船をはさんでいるとなれば、日本の海や空を守る哨戒任務
についている自衛隊機が、上空から様子を見るべく接近しないほうがおか
しい。当然の責務として近づいた自衛隊機にレーダーを照射して追い払お
うとしたのは、韓国側に隠したいことがあったからだろう。

どうしても見られたくない現場がそこにあったために、レーダーを照射し
たのではないか。隠したいことはよほど重要なことである可能性も高い。
その点も含めて韓国側は重大な嘘をついていると考えてよいだろう。

もう一方の朝鮮人戦時労働者問題を、文氏は、「韓国政府がつくり出した
のではなく、不幸な歴史のために生じた問題」だと語り、日本政府に「も
う少し謙虚になるよう」求めた。

韓国大法院(最高裁)が下した判断を、韓国は三権分立の国であるが故
に、韓国政府は尊重せざるを得ない、そのことを日本政府も認識せよと、
文氏は言ったが、同問題の背景に、文氏の遠大な企みがあったと見るのは
決して深読みのしすぎではないだろう。

親北朝鮮の完全な左翼集団

日本企業に慰謝料の支払いを命ずる判決を下した大法院長は金命洙(キム
ミョンス)氏だ。一昨年9月に文氏が大抜擢した。金氏は「ウリ法研究会」
の一員で「親北朝鮮、反日反韓国」の極左思想の持ち主だ。金氏を大法院
長に任命したときに、すでに今回の判決の流れが決まったといえる。

韓国で朝鮮人戦時労働者問題の訴訟を支えるのは「法務法人ヘマル」の弁
護士達だ。「太平洋戦争犠牲者補償推進協議会」や「民族問題研究所」が
支援組織として名を連ねている。

「ヘマル」の中心人物、張完翼(チャンワンイク)弁護士は、2000年に元朝
日新聞の松井やより氏(故人)らと共に、昭和天皇を裁き有罪にした女性
国際戦犯法廷を開催し、検事役を務めた。また、民族問題研究所は親北朝
鮮の完全な左翼集団である。

留意しておくべきことは、文氏が大統領選挙に出馬したとき、法務法人ヘ
マルが全面的に支えたという事実だ。後述するように、朴槿恵前大統領を
弾劾して行った選挙はまさに「革命」と呼ぶべき異常なものだった。その
異常な選挙を乗り切るのに法的支援をしたのが法務法人ヘマルだった。両
者はまさに一心同体と言えるのではないか。

こうしてみると大法院を支配する価値観と、戦時労働者訴訟の原告団を支
援する勢力の価値観は重なる。私たちはこうした人々相手の尋常ならざる
闘いに直面しているのだ。

右のような陣容で裁判をおこし、その中で下された判決を、韓国側は三権
分立を盾にして日本も尊重せよと言う。だが日本にも最高裁が存在する。
日本の最高裁は朝鮮人戦時労働者の件はすべて解決済みと判断した。日本
も三権分立の国だ。日本政府も日本の最高裁判決に従わなければならな
い。その事実を、韓国政府こそ、認識すべきであろう。

現在の韓国政府にはいちいち違和感を覚えるが、日本で発行されている韓
国の週刊新聞、『統一日報』の1月1日版に韓国の常識派の論文が複数、掲
載されていた。そのひとつが、ソウル大学経済学部教授を経て、昨年から
「李承晩学堂」の校長を務める李栄薫(イヨンフン)氏の講演である。

李氏は「反日種族主義を打破しよう」という題で語っている。李氏は「精
神文化の遅滞が、20世紀の韓国史を貫通してきた」と断じ、20世紀の韓国
の近代化を、韓国人は「無賃乗車」で成し遂げたと指摘する。「近代文明
の法、制度、機構は日本の支配と共にこの地(韓国)に移植された」ので
あり、国が滅びたのも国を建てたのも「自力」ではなかったと、韓国人が
一番聞きたくないことを、李氏は語っている。

精神文化の遅滞

それでも韓国がこの70年間大きな成果をおさめたのは、李承晩、朴正煕両
大統領をはじめとする「創造的少数」の功績だと李氏は続ける。その上で
韓国がいま、失敗の中にあるのは「種族主義」のためだと言う。種族主義
とは何かと、『統一日報』担当者に問い合わせると、民族主義以前の閉鎖
的で遅れた段階を指すとの説明だった。

李氏は、そのような精神文化の遅滞ゆえに、韓国は「国際感覚において不
均衡」、「日本に対しては無期に敵対的である反面、中国に対しては理解
できないほど寛大だ」と分析する。

もうひとつ『統一日報』には、前大統領、朴槿恵氏の弾劾及びその後の有
罪判決に関して、非常に重要な論文が掲載されている。

朴槿恵氏は過日、32年の懲役刑を下された。66歳の氏は、98歳まで獄に留
め置かれるということだ。このような結果になった朴氏弾劾事件を同紙
は、「韓国憲政史上、最も恥辱的な出来事」と痛烈に非難している。弾劾
の引き金となった唯一の物的証拠が「タブレットPC」だったが、これは
後に偽物だと証明された。このPCへの疑惑を提起したジャーナリストは
逮捕され、実刑を言い渡された。

どこを調べても朴氏は一ウォンのお金も不正に得ていなかったが、韓国司
法は朴氏に罰金200億ウォン(約20億円)を宣告した。収賄の証拠が皆無
だったために、裁判官の心証に基づいて「暗黙的請託」という新たな論理
をひねり出し、重罪に処するために韓国の刑法にない「国政壟断罪」も急
遽作り出した。

弾劾から裁判に至る過程を見れば背後に広範な工作があり、それは北朝鮮
との共謀関係の中でこそ可能だったと思わせられる。

論文には「韓国では嘘をつくことは、特に左翼勢力の嘘はほとんど処罰さ
れない」と書かれている。

こんな国が文政権下の隣国だと肝に銘じつつ、常識と良識を備えた韓国人
の存在も忘れないようにしよう。

『週刊新潮』 2018年1月24日号 日本ルネッサンス 第836回

             

2019年01月24日

◆米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性

櫻井よしこ


「米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明
が映す米国の分裂」

1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招
集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲
載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員
も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた
人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて
登院したということだろうか。

改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取っ
た。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様
化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用
意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領
だけではないのである。一人一人の議員も誓ってようやく正式に議員にな
れる。大事なことだと思う。

アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。
米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。

8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)
は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求め
ペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工
作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が
初めてだ。

民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は
喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員
となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏
に関連して次のように報じた。

「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてに
こやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、
共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」

若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた
女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。

そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統
領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名
乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。

彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調する
ためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結
果を公表して話題を集めた。

鑑定結果は、6〜10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地
元の新聞は彼女の血の「64〜1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報
じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるの
か」という意味合いであろうか。

彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、
現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗り
を上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起
き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。

ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙
資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選し
た。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツ
の庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集
めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈
な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の
出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263

2019年01月23日

◆米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性

櫻井よしこ


「米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明が
映す米国の分裂」

1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招
集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲
載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員
も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた
人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて
登院したということだろうか。

改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取っ
た。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様
化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用
意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領
だけではないのである。ひとり一人の議員も誓ってようやく正式に議員に
なれる。大事なことだと思う。

アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。
米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。

8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)
は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求め
ペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工
作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が
初めてだ。

民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は
喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員
となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏
に関連して次のように報じた。

「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてに
こやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、
共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」

若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた
女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。

そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統
領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名
乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。

彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調する
ためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結
果を公表して話題を集めた。

鑑定結果は、6〜10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地
元の新聞は彼女の血の「64〜1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報
じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるの
か」という意味合いであろうか。

彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、
現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗り
を上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起
き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。

ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙
資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選し
た。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツ
の庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集
めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈
な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の
出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263 

2019年01月22日

◆米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性

櫻井よしこ


「米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明が
映す米国の分裂」

1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招
集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲
載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員
も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた
人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて
登院したということだろうか。

改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取っ
た。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様
化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用
意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領
だけではないのである。一人一人の議員も誓ってようやく正式に議員にな
れる。大事なことだと思う。

アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。
米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。

8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)
は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求め
ペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工
作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が
初めてだ。

民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は
喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員
となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏
に関連して次のように報じた。

「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてに
こやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、
共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」

若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた
女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。

そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統
領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名
乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。

彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調する
ためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結
果を公表して話題を集めた。

鑑定結果は、6〜10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地
元の新聞は彼女の血の「64〜1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報
じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるの
か」という意味合いであろうか。

彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、
現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗り
を上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起
き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。

ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙
資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選し
た。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツ
の庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集
めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈
な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の
出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263

2019年01月21日

◆最初に名乗り出た女性

櫻井よしこ

「米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明が
映す米国の分裂」

1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招
集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲
載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員
も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた
人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて
登院したということだろうか。

改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取っ
た。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様
化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用
意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領
だけではないのである。一人一人の議員も誓ってようやく正式に議員にな
れる。大事なことだと思う。

アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。
米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。

8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)
は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求め
ペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工
作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が
初めてだ。

民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は
喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員
となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏
に関連して次のように報じた。

「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてに
こやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、
共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」

若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた
女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。

そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統
領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名
乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。

彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調する
ためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結
果を公表して話題を集めた。

鑑定結果は、6〜10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地
元の新聞は彼女の血の「64〜1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報
じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるの
か」という意味合いであろうか。

彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、
現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗り
を上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起
き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。

ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙
資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選し
た。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツ
の庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集
めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈
な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の
出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263

      

2019年01月20日

◆米大統領選挙に向け最初に

櫻井よしこ


「米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明が
映す米国の分裂」

1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招
集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲
載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員
も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた
人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて
登院したということだろうか。

改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取っ
た。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様
化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用
意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領
だけではないのである。一人一人の議員も誓ってようやく正式に議員にな
れる。大事なことだと思う。

アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。
米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。

8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)
は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求め
ペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工
作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が
初めてだ。

民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は
喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員
となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏
に関連して次のように報じた。

「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてに
こやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、
共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」

若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた
女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。

そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統
領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名
乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。

彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調する
ためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結
果を公表して話題を集めた。

鑑定結果は、6〜10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地
元の新聞は彼女の血の「64〜1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報
じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるの
か」という意味合いであろうか。

彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、
現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗り
を上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起
き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。

ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙
資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選し
た。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツ
の庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集
めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈
な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の
出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263

2019年01月19日

◆見えないトランプ大統領

櫻井よしこ


「「同盟重視論」が見えないトランプ大統領 米国の攻勢に中国・習政権
は後退の一年か」

2018年は最後まで気の抜けない1年だった。19年の今年はその延長線上
で、より大きな変化と試練が生じるだろう。そうしたことを念頭に置いて
決断を下せば、逆に日本にとっては好機の年になる。世界情勢に油断なく
気を配り、気概を持ち続けることが必須だ。

昨年12月、ジェームズ・マティス米国防長官はドナルド・トランプ米大統
領に辞任の意向を伝えた。トランプ氏のシリアからの米軍撤退に同意でき
ず、2月末に政府を去るとしたマティス氏をトランプ氏は、今年1月1日を
もって辞任させた。

日本が注目しておくべきことは、マティス氏が「米国は自由世界に不可欠
の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ国益を守る
ことはできない」として、同盟関係の重要性を説いたのに対し、トランプ
氏にその気がないことだ。

昨年10月にマイク・ペンス副大統領が行った激烈な中国批判の演説を、日
本は歓迎した。確かに日本にとって基本的に歓迎すべき内容だった。しか
しここでも注目したいのは、ペンス氏の演説には、トランプ氏同様、「同
盟重視論」がないことだ。

シリアで米軍と共に戦ったクルド人勢力を見捨てる決定をしたトランプ氏
の立場で見れば、米国大統領として自分はかねてシリアからの撤退を明言
していた。それは自分の公約だという思いがあるのだろう。

トランプ氏の特徴は、ひとつひとつの公約をその善し悪しは別として、実
行することだ。氏の価値観はあくまでも「米国第一」で、同盟国は大事だ
が、米国の国益を揺るがせにすることはない。日米同盟に大きな比重を置
く日本にとって、自力を強めることなしに米国に依存し続けることの危険
は承知しておいた方がよいだろう。

中国の現状をよく伝えていたのが習近平中国国家主席のブレーンの一人、
ヤン・スウエトン氏が「フォーリン・アフェアーズ」の2019年1〜2月号に
書いた論文だ。題名は「容易ならざる平和の時代 分断世界における中国
の力」である。明らかに中国政府の意向を反映していると思われる論文で
目を引くのは「中国はジュニア・スーパーパワーの役割を果たす」という
表現だ。

この件りは、中国のあらゆる側面を厳しく批判し敵対視した10月のペンス
演説を「誤解を招く」としながらも、「一面の真実がある」と評価した中
で出てきたものだ。そこにはこう書いている。

「ポスト冷戦期の米国一強時代は終わり、二極時代が戻ってきた。中国が
ジュニア・スーパーパワーの役割を果たす時代だ」

確かに米国一強時代は終わった。その点では米国が抱く脅威には理由があ
る。しかし、中国は米国を排除するのでなく、米国をいわば兄貴分と見做
す。中国は弟分でよいと、言っているのである。中国はかつてのように米
国に対して弱者としての立場を強調する外交に転じようとしていると読み
とれる。

12月21日に「ニューヨーク・タイムズ」紙に、コーネル大学のエスワー・
プラサド教授が「中国は米国と妥協したがっている」と書いていた。

中国での広範な意見交換の結果、指導者の多くが中国経済の先行きに非常
に深刻な懸念を抱いており、改革志向の人々はトランプ氏の強圧を、中国
の改革を進める上での追い風として評価さえしているとの内容だ。

習氏は本来なら昨年中に開催していなければならない中国共産党中央総会
を遂に開催できずに年を越した。その年毎の基本政策を決める中央総会が
開かれなかったのは毛沢東時代以来約60年振りの異常事態だ。米国の攻勢
の前に習政権がじりじりと後退する1年になるのか。日本にとっても難し
い外交が待っている。だから覚悟が必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1262 

2019年01月18日

◆新年に考えた日本の問題あれこれ

櫻井よしこ


「新年に考えた、日本の問題あれこれ」

元旦、各紙の社説を読み較べた。まず「読売新聞」である。兎に角、長す
ぎる。内外の事情に万遍なく触れているが、何か特別に心に残る発信があ
るわけでもないのが残念だった。

「朝日新聞」は「権力のありかを問い直す」として、事実上、朝日定番の
安倍政権批判を展開した。

小見出しのひとつが「弱い国会を強くせよ」である。これには大賛成だ。
米国議会と較べると日本の国会の余りにもお粗末な働き振りに、ウンザリ
する。米国議会では共和、民主両党が少なからぬ案件で激しく対立する。
その一方で、国益のために超党派で協力して仕上げる法案や行政府(ホワ
イトハウス)への働きかけも非常に多い。私は日本国民だが、米議会の動
きによくぞやってくれたと双手をあげて支持する法案や採決は少なくない。

たとえば共和党のマルコ・ルビオ上院議員と同党のスミス下院議員が共同
議長としてまとめた中国に関する年次報告書である。同報告書で米国議会
は、中国政府が100万人以上のウイグル人を強制収容し「アパルトヘイト
さながらの公的な人種差別政策」をとっていると非難した。

今年1月4日には上院情報特別委員会の副委員長、民主党のウォーナー上院
議員と前出の共和党ルビオ氏が、中国などによる先端技術窃取防止に向け
て、ホワイトハウスに「枢要技術安全室」を専門部局として設置するよ
う、超党派の議員団をまとめて法案を提出した。

いずれも非常に大事な案件だ。この種の働きを日本の国会はどれだけ見せ
てくれているだろうか。私たちが目にしてきたのは、あの膨大な時間を浪
費したモリカケ論争であり、また「安倍首相の下では憲法改正は論議しな
い」という理屈にならない理屈で、国会議員としての責任を放棄してし
まった姿だ。

こんな惨憺たる現実があるからこそ、朝日の「弱い国会を強くせよ」とい
う小見出しに賛成するのだが、この小見出しは「働かない国会を働く国会
にせよ」と変えるのがよいのではないか。

憲法改正案を発議せよ

朝日の社説は、終わり近くになって安倍首相非難の“朝日流予定調和”に落
ち着き、訴える。首相の解散権を何とかしたい、「権力の淵源(えんげん)
は、主権者たる国民である」と。

本当に国民を主権者だと朝日が考えているのなら、尋ねたい。なぜ、国会
による憲法改正の発議に反対するのかと。改正案の是非を決定するのは、
国民なのである。国の形の根幹について、国民が最終的に判断する。これ
こそ、究極の主権の行使であるが、戦後70年余り、国民はただの一度も主
権行使の機会を与えられていない。

社論として朝日が憲法改正に反対しているのは承知しているが、「主権者
たる国民」の「主権」をそれ程大事に思うなら、主権を発揮する機会とし
ての、憲法改正の是非を問う国民投票に賛成してほしいものだ。国会は国
民主権を実現せよ、その具体例として、憲法改正案を発議せよと叱咤して
ほしいものである。

「日経新聞」は日本の景気は戦後最長の74か月の拡大を記録する、消費税
増税は手厚すぎる程の対策を講じており、消費の腰折れリスクは小さい
と、安心材料を提示し、人手不足は生産性向上のチャンス、日本の社会的
政治的安定は突出している、と明るい要素を書き出した。

確かに日本の景気はよいのだ。加えて人の心の在り様に景気は大きく左右
される。朝日のように何でも悪い方へ、暗い方へと考えていては景気も悪
くなり、問題解決の道も狭まるだろう。それでも、1000兆円を超える国の
借金を考えると、心配にならない道理はない。大胆で有効な解決策を示し
てほしいと、日経には要望するものだ。

そんな思いで「産経新聞」に辿りついた。「平成は『敗北』の時代だっ
た」という書き出しにハッとした。論説委員長の乾正人氏が数字を列挙し
て説いている。平成元年、日本の国内総生産(GDP)は世界全体の
15%、米国は28%だった。いま、日本は6%、米国は25%だ。

同じく、かつて世界上位50社(時価総額)中、日本企業は32社を占めてい
たが、今やトヨタ1社のみだ。30年前の実績はもはや信じ難い。産経は、
増えたのは国債という名の借金だけだと、厳しく現実を指摘する。

「平成時代の敗北」の原因を、産経は3点、挙げた。➀戦後の経済復興によ
る慢心、➁政治の不安定と混迷、➂中国への支援、である。

とりわけ➂が取り返しのつかない失敗だったと説く。日本の大規模援助で
中国は、今や日本に脅威をもたらす軍事力及び経済力の基盤を築いた。日
本の甘い対中政策で中国は、天安門事件当時の世界の制裁網を解いて再び
世界に受け入れられた。

国内状況の異常さ

そのとおりだ。では、日本はこれからどうすればよいのか。産経は「日米
安保さえあれば大丈夫だ、という思考停止」から脱せよと説いた。異論は
ないが、思考停止から脱するためには現実に目覚めることが必要だ。日本
の現実がどれだけ酷いかを、国民が知らなければならない。

たとえば皇室を取り巻く状況である。あと10年もしない内に、多くの女性
皇族が結婚で皇籍を離れられ、皇族はいずれ皇后陛下の他、皇嗣殿下とな
られた秋篠宮御夫妻と悠仁さまだけになる可能性がある。2700年近い皇統
を、悠仁さまがお一人でつないでいけるのか。万人が心配していることだ
が、まだ手立ては講じられていない。
 
国民が賢ければその国、その民族の未来は安心できるが、日本の教育は
賢い日本人を育てているか。最高学府である大学は今や半分近くが定員割
れで、中国人をはじめ、質を問わず留学生を掻き集めるだけだ。こんな教
育で賢い国民が育つのか。

国家は国土があって初めて成り立つが、その国土が売られ続けている。し
かも、反日教育で育った中国人がその多くを買い続けている。すでに10年
も前から国土売却は問題視されてきた。なぜ、国会は外国資本による土地
購入を制限出来ないのか。

経済の基盤のひとつが安定したエネルギーの供給だ。産油大国のサウジア
ラビアさえ、原子力発電の導入に熱心だ。中国は100万キロワット級の原
発200基の建造計画に加えて、この2年間で20万キロワット級の原発143基
を建てる。

脱CO2の視点から、中国だけでなく、国際社会の大勢が原発に向かって
いるとき、なぜ、日本だけが原発から遠ざかり火力発電に傾くのか。

取り上げたいことはまだ多い。世界の多くの現実と較べて国内状況の異常
さを日本人が理解するとき初めて、この国に変化が生まれるだろう。日本
の抱える問題の多さに立ちすくみそうになる時もあるが、それだけ働く材
料があるのだと前向きに考えて、今年も問題提起していこう。

『週刊新潮』 2019年1月17日号日本ルネッサンス 第835回

2019年01月17日

◆見えないトランプ大統領

櫻井よしこ


「「同盟重視論」が見えないトランプ大統領 米国の攻勢に中国・習政権
は後退の1年か 

2018年は最後まで気の抜けない1年だった。19年の今年はその延長線上
で、より大きな変化と試練が生じるだろう。そうしたことを念頭に置いて
決断を下せば、逆に日本にとっては好機の年になる。世界情勢に油断なく
気を配り、気概を持ち続けることが必須だ。

昨年12月、ジェームズ・マティス米国防長官はドナルド・トランプ米大統
領に辞任の意向を伝えた。トランプ氏のシリアからの米軍撤退に同意でき
ず、2月末に政府を去るとしたマティス氏をトランプ氏は、今年1月1日を
もって辞任させた。

日本が注目しておくべきことは、マティス氏が「米国は自由世界に不可欠
の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ国益を守る
ことはできない」として、同盟関係の重要性を説いたのに対し、トランプ
氏にその気がないことだ。

昨年10月にマイク・ペンス副大統領が行った激烈な中国批判の演説を、日
本は歓迎した。確かに日本にとって基本的に歓迎すべき内容だった。しか
しここでも注目したいのは、ペンス氏の演説には、トランプ氏同様、「同
盟重視論」がないことだ。

シリアで米軍と共に戦ったクルド人勢力を見捨てる決定をしたトランプ氏
の立場で見れば、米国大統領として自分はかねてシリアからの撤退を明言
していた。それは自分の公約だという思いがあるのだろう。

トランプ氏の特徴は、ひとつひとつの公約をその善し悪しは別として、実
行することだ。氏の価値観はあくまでも「米国第一」で、同盟国は大事だ
が、米国の国益を揺るがせにすることはない。日米同盟に大きな比重を置
く日本にとって、自力を強めることなしに米国に依存し続けることの危険
は承知しておいた方がよいだろう。

中国の現状をよく伝えていたのが習近平中国国家主席のブレーンの一人、
ヤン・スウエトン氏が「フォーリン・アフェアーズ」の2019年1〜2月号に
書いた論文だ。題名は「容易ならざる平和の時代 分断世界における中国
の力」である。明らかに中国政府の意向を反映していると思われる論文で
目を引くのは「中国はジュニア・スーパーパワーの役割を果たす」という
表現だ。

この件りは、中国のあらゆる側面を厳しく批判し敵対視した10月のペンス
演説を「誤解を招く」としながらも、「一面の真実がある」と評価した中
で出てきたものだ。そこにはこう書いている。

「ポスト冷戦期の米国一強時代は終わり、二極時代が戻ってきた。中国が
ジュニア・スーパーパワーの役割を果たす時代だ」

確かに米国一強時代は終わった。その点では米国が抱く脅威には理由があ
る。しかし、中国は米国を排除するのでなく、米国をいわば兄貴分と見做
す。中国は弟分でよいと、言っているのである。中国はかつてのように米
国に対して弱者としての立場を強調する外交に転じようとしていると読み
とれる。

12月21日に「ニューヨーク・タイムズ」紙に、コーネル大学のエスワー・
プラサド教授が「中国は米国と妥協したがっている」と書いていた。

中国での広範な意見交換の結果、指導者の多くが中国経済の先行きに非常
に深刻な懸念を抱いており、改革志向の人々はトランプ氏の強圧を、中国
の改革を進める上での追い風として評価さえしているとの内容だ。

習氏は本来なら昨年中に開催していなければならない中国共産党中央総会
を遂に開催できずに年を越した。その年毎の基本政策を決める中央総会が
開かれなかったのは毛沢東時代以来約60年振りの異常事態だ。米国の攻勢
の前に習政権がじりじりと後退する1年になるのか。日本にとっても難し
い外交が待っている。だから覚悟が必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1262 

2019年01月16日

◆見えないトランプ大統領

櫻井よしこ

 
「「同盟重視論」が見えないトランプ大統領 米国の攻勢に中国・習
政権は後退の一年か」


2018年は最後まで気の抜けない1年だった。19年の今年はその延長線上
で、より大きな変化と試練が生じるだろう。そうしたことを念頭に置いて
決断を下せば、逆に日本にとっては好機の年になる。世界情勢に油断なく
気を配り、気概を持ち続けることが必須だ。

昨年12月、ジェームズ・マティス米国防長官はドナルド・トランプ米大統
領に辞任の意向を伝えた。トランプ氏のシリアからの米軍撤退に同意でき
ず、2月末に政府を去るとしたマティス氏をトランプ氏は、今年1月1日を
もって辞任させた。

日本が注目しておくべきことは、マティス氏が「米国は自由世界に不可欠
の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ国益を守る
ことはできない」として、同盟関係の重要性を説いたのに対し、トランプ
氏にその気がないことだ。

昨年10月にマイク・ペンス副大統領が行った激烈な中国批判の演説を、日
本は歓迎した。確かに日本にとって基本的に歓迎すべき内容だった。しか
しここでも注目したいのは、ペンス氏の演説には、トランプ氏同様、「同
盟重視論」がないことだ。

シリアで米軍と共に戦ったクルド人勢力を見捨てる決定をしたトランプ氏
の立場で見れば、米国大統領として自分はかねてシリアからの撤退を明言
していた。それは自分の公約だという思いがあるのだろう。

トランプ氏の特徴は、ひとつひとつの公約をその善し悪しは別として、実
行することだ。氏の価値観はあくまでも「米国第一」で、同盟国は大事だ
が、米国の国益を揺るがせにすることはない。日米同盟に大きな比重を置
く日本にとって、自力を強めることなしに米国に依存し続けることの危険
は承知しておいた方がよいだろう。

中国の現状をよく伝えていたのが習近平中国国家主席のブレーンの一人、
ヤン・スウエトン氏が「フォーリン・アフェアーズ」の2019年1〜2月号に
書いた論文だ。題名は「容易ならざる平和の時代 分断世界における中国
の力」である。明らかに中国政府の意向を反映していると思われる論文で
目を引くのは「中国はジュニア・スーパーパワーの役割を果たす」という
表現だ。

この件りは、中国のあらゆる側面を厳しく批判し敵対視した10月のペンス
演説を「誤解を招く」としながらも、「一面の真実がある」と評価した中
で出てきたものだ。そこにはこう書いている。

「ポスト冷戦期の米国一強時代は終わり、二極時代が戻ってきた。中国が
ジュニア・スーパーパワーの役割を果たす時代だ」

確かに米国一強時代は終わった。その点では米国が抱く脅威には理由があ
る。しかし、中国は米国を排除するのでなく、米国をいわば兄貴分と見做
す。中国は弟分でよいと、言っているのである。中国はかつてのように米
国に対して弱者としての立場を強調する外交に転じようとしていると読み
とれる。

12月21日に「ニューヨーク・タイムズ」紙に、コーネル大学のエスワー・
プラサド教授が「中国は米国と妥協したがっている」と書いていた。

中国での広範な意見交換の結果、指導者の多くが中国経済の先行きに非常
に深刻な懸念を抱いており、改革志向の人々はトランプ氏の強圧を、中国
の改革を進める上での追い風として評価さえしているとの内容だ。

習氏は本来なら昨年中に開催していなければならない中国共産党中央総会
を遂に開催できずに年を越した。その年毎の基本政策を決める中央総会が
開かれなかったのは毛沢東時代以来約60年振りの異常事態だ。米国の攻勢
の前に習政権がじりじりと後退する1年になるのか。日本にとっても難し
い外交が待っている。だから覚悟が必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1262
            

2019年01月15日

◆見えないトランプ大統領

櫻井よしこ

 
「「同盟重視論」が見えないトランプ大統領 米国の攻勢に中国・習政
権は後退の一年か」

2018年は最後まで気の抜けない1年だった。19年の今年はその延長線上
で、より大きな変化と試練が生じるだろう。そうしたことを念頭に置いて
決断を下せば、逆に日本にとっては好機の年になる。世界情勢に油断なく
気を配り、気概を持ち続けることが必須だ。

昨年12月、ジェームズ・マティス米国防長官はドナルド・トランプ米大統
領に辞任の意向を伝えた。トランプ氏のシリアからの米軍撤退に同意でき
ず、2月末に政府を去るとしたマティス氏をトランプ氏は、今年1月1日を
もって辞任させた。

日本が注目しておくべきことは、マティス氏が「米国は自由世界に不可欠
の国だが、強い同盟関係を維持し同盟国に敬意を示さなければ国益を守る
ことはできない」として、同盟関係の重要性を説いたのに対し、トランプ
氏にその気がないことだ。

昨年10月にマイク・ペンス副大統領が行った激烈な中国批判の演説を、日
本は歓迎した。確かに日本にとって基本的に歓迎すべき内容だった。しか
しここでも注目したいのは、ペンス氏の演説には、トランプ氏同様、「同
盟重視論」がないことだ。

シリアで米軍と共に戦ったクルド人勢力を見捨てる決定をしたトランプ氏
の立場で見れば、米国大統領として自分はかねてシリアからの撤退を明言
していた。それは自分の公約だという思いがあるのだろう。

トランプ氏の特徴は、ひとつひとつの公約をその善し悪しは別として、実
行することだ。氏の価値観はあくまでも「米国第一」で、同盟国は大事だ
が、米国の国益を揺るがせにすることはない。日米同盟に大きな比重を置
く日本にとって、自力を強めることなしに米国に依存し続けることの危険
は承知しておいた方がよいだろう。

中国の現状をよく伝えていたのが習近平中国国家主席のブレーンの一人、
ヤン・スウエトン氏が「フォーリン・アフェアーズ」の2019年1〜2月号に
書いた論文だ。題名は「容易ならざる平和の時代 分断世界における中国
の力」である。明らかに中国政府の意向を反映していると思われる論文で
目を引くのは「中国はジュニア・スーパーパワーの役割を果たす」という
表現だ。

この件りは、中国のあらゆる側面を厳しく批判し敵対視した10月のペンス
演説を「誤解を招く」としながらも、「一面の真実がある」と評価した中
で出てきたものだ。そこにはこう書いている。

「ポスト冷戦期の米国一強時代は終わり、二極時代が戻ってきた。中国が
ジュニア・スーパーパワーの役割を果たす時代だ」

確かに米国一強時代は終わった。その点では米国が抱く脅威には理由があ
る。しかし、中国は米国を排除するのでなく、米国をいわば兄貴分と見做
す。中国は弟分でよいと、言っているのである。中国はかつてのように米
国に対して弱者としての立場を強調する外交に転じようとしていると読み
とれる。

12月21日に「ニューヨーク・タイムズ」紙に、コーネル大学のエスワー・
プラサド教授が「中国は米国と妥協したがっている」と書いていた。

中国での広範な意見交換の結果、指導者の多くが中国経済の先行きに非常
に深刻な懸念を抱いており、改革志向の人々はトランプ氏の強圧を、中国
の改革を進める上での追い風として評価さえしているとの内容だ。

習氏は本来なら昨年中に開催していなければならない中国共産党中央総会
を遂に開催できずに年を越した。その年毎の基本政策を決める中央総会が
開かれなかったのは毛沢東時代以来約60年振りの異常事態だ。米国の攻勢
の前に習政権がじりじりと後退する1年になるのか。日本にとっても難し
い外交が待っている。だから覚悟が必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年1月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1262