2020年01月02日

◆韓国崩壊の危機が現実的に

櫻井よしこ


「文在寅の強行策、韓国崩壊の危機が現実的に」

今月16日、日韓間の戦略物資の輸出管理をめぐって東京で日韓の局長級に
よる政策対話が持たれた。日本側はこれを日韓の「対話」と位置づけ、韓
国側は「協議」だと主張する。

対話と協議では意味は全く異なる。対話は意見交換であり、相互の立場を
相手に十分説明することだ。他方、協議は互いの主張を展開して交渉する
ことを意味する。中部大学特任教授の細川昌彦氏が語った。

「そもそも輸出管理は各国の判断で行うもので、相手国との交渉にはなじ
まないものなのです」

周知のように、韓国側は輸出管理で優遇を受ける「ホワイト国」から外さ
れたことに反発して、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を
終了させると通告していた。米国の圧力でGSOMIA継続をのんだが、
その点で国内世論の批判を避けるべく、日本にも譲歩させたように繕うた
めに、対話を協議と言いかえているのである。

同じ16日、韓国ではもうひとつ、非常識な動きがあった。朝鮮人戦時労働
者問題で補償基金を設立する法案が国会に提出されたのだ。文喜相(ムン
ヒサン)国会議長主導の同法案は、日韓双方の企業が資金を出し合って労
働者に補償することを柱としている。

日韓議員連盟の幹部、河村建夫氏らは文氏の案に前向きだが、愚かなこと
だ。朝鮮人戦時労働者問題は1965年に決着済みだ。日本側が資金を出すの
は日韓の条約にも道理にも合わない。また問題解決にもつながらない。日
本が原則に目をつぶって妥協し、失敗を重ねた典型例が慰安婦問題だ。妥
協すれば戦時労働者問題は第二の慰安婦問題となって、日韓関係を悪化さ
せるだけである。

対韓政策に影響を及ぼそうと頻りに動いている日韓議連所属の政治家は、
文在寅政権の内政や外交が信ずるに値するのか、きちんと見ることだ。文
氏は米国の圧力でGSOMIA維持に転換した後、中国の王毅外相を招い
た。王氏は12月5日、文氏に以下の要求を突きつけた。

➀米国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を徹底排除せよ、➁米国の
新たな中距離ミサイルを配備してはならない、➂米国主導のインド・太平
洋戦略に参加してはならない、➃一帯一路に前向きに取り組め、などである。

覇王の要求

まるで宗主国のような王氏の態度に、私はつい、2010年のASEAN地域
フォーラム(ARF)外相会議を思い出した。当時の外相、楊潔篪氏が他
の国々の外相を「睨みつけながら」言い放ったのだ。

「中国は大国で、他の国々は小国だ。それは厳然たる事実だ」と。

王氏の横柄な対韓圧力も全く同じ、中華思想に基づく覇王の要求である。
だが、王氏の前で文氏は自らを卑下してみせた。習近平国家主席の国賓待
遇での訪韓を要請したのである。今年8月15日の「光復節」で、日米韓三
か国連合から統一朝鮮と中露の三か国連合への移行を示唆した文氏の本質
を表わしているではないか。

その2日後、トランプ米大統領が文氏に電話し、30分間話している。信頼
もしておらず、頼りにもしていない文氏に、トランプ氏が頼みごと、たと
えば北朝鮮との関係の仲介などを頼むはずがない。中国、北朝鮮につい
て、米国がどれ程厳しく構えているかを明確に伝え、文氏を牽制したと考
えて間違いないだろう。

両首脳の電話会談について、いつも「平和が訪れた」などと夢見るような
言辞を弄する文政権が「最近の朝鮮半島情勢が厳しい状況にあるとの認識
で一致した」と発表したこと自体、会談の内容の厳しさを示したとして注
目された。米韓関係の現状を産経新聞編集委員の久保田るり子氏が「言論
テレビ」で語った。

「11月28日以来、米軍の偵察機が毎日、朝鮮半島上空を飛んでいます。通
信傍受、地上監視などを同時展開しています。今月11日にはB-52爆撃機
も飛びました。通常は隠密に行っているこれらの軍事活動を、米国は意図
的に公開しています。エスパー国防長官は、今月8日、今夜にでも行動を
起こし、相手を完全に破壊する準備も整っている、とまで語りました。ま
さに米軍が臨戦態勢を敷いていることを強調しているわけです」

トランプ氏が文氏に告げたのは対北朝鮮軍事介入の可能性も含めて、あら
ゆる意味で厳しい内容だったはずだ。過度の対中傾斜に警告を発したと考
えてよいだろう。

文氏はしかし、米中双方の圧力を受けながら、自身の思い描く革命遂行に
全力を傾けている。日本ではほとんど報道されていないが、文氏は韓国転
覆につながる重大事に、ここにきて、具体的に手をかけたのである。選挙
制度改革法案を11月27日に、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)新設法案を
12月13日に国会に上程した。群小野党と手を組んで両法案を実現できれ
ば、文政権は自由と民主主義の大韓民国を根底から変質させ、事実上、消
滅させることができる。

北朝鮮との統一

韓国は日本とは異なり、一院制で議席数は300だ。小選挙区が253、比例は
47で、現在欠員が3名。総数297の過半数は149議席である。国家基本問題
研究所研究員の西岡力氏が言論テレビで解説した。

「文氏は小選挙区を225議席に減らして比例を75に増やし、比例分につい
ては群小野党に有利な50%連動型の導入を提案しています」

現在、与党で左翼の「共に民主党」系は129で過半数に20議席足りない。
野党第一党で保守の「自由韓国党」は108だ。以下、正しい未来党や正義
党など15議席から1議席までの小政党が7党存在する。この内6党は殆んど
極左に近い。

再び西岡氏が説明した。

「国会に提案された法案では、第三党以下の弱小群党が非常に有利になり
ます。仕組みは複雑で、有権者の一票の行方がわからなくなるとまで批判
されていますが、両法案は迅速処理指定を受けています。つまり、審議な
しで、議長権限で採決を強行できるのです」

文氏の狙いはまず選挙制度を変えて左翼勢力が3分の2以上の議席を取れる
ようにする。その上で憲法を改正し、今は禁じられている連邦制による北
朝鮮との統一を憲法上、可能にすることだろう。第二に検察の上に、捜査
権と起訴権を持つ大統領直属の第2検察(政治検察)を設置し、文政権の
不正を捜査している現在の検察をつぶし、司法を支配下に置くことであろう。

韓国の国会は12月10日に閉会されたが、文氏は法案の議決を急ぐため11
日、13日、16日と、国会再開を試みた。保守系の自由韓国党と国民有志が
物理的に抵抗して国会再開を阻止した。それでも文氏の革命への動きは止
まらない。左翼全体主義に走る文政権に日本の妥協は有害無益だ。文政権
と対立する民主勢力への応援こそが日本の国益である。

『週刊新潮』 2019年12月26日号日本ルネッサンス 第882回

2019年12月31日

◆韓国崩壊の危機が現実的に

櫻井よしこ


「 文在寅の強行策、韓国崩壊の危機が現実的に 」

今月16日、日韓間の戦略物資の輸出管理をめぐって東京で日韓の局長級に よる政策対話が持たれた。日本側はこれを日韓の「対話」と位置づけ、韓 国側は「協議」だと主張する。

対話と協議では意味は全く異なる。対話は意見交換であり、相互の立場を 相手に十分説明することだ。他方、協議は互いの主張を展開して交渉する ことを意味する。中部大学特任教授の細川昌彦氏が語った。

「そもそも輸出管理は各国の判断で行うもので、相手国との交渉にはなじ まないものなのです」

周知のように、韓国側は輸出管理で優遇を受ける「ホワイト国」から外さ れたことに反発して、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を 終了させると通告していた。米国の圧力でGSOMIA継続をのんだが、 その点で国内世論の批判を避けるべく、日本にも譲歩させたように繕うた めに、対話を協議と言いかえているのである。

同じ16日、韓国ではもうひとつ、非常識な動きがあった。朝鮮人戦時労働 者問題で補償基金を設立する法案が国会に提出されたのだ。文喜相(ムン ヒサン)国会議長主導の同法案は、日韓双方の企業が資金を出し合って労 働者に補償することを柱としている。

日韓議員連盟の幹部、河村建夫氏らは文氏の案に前向きだが、愚かなこと だ。朝鮮人戦時労働者問題は1965年に決着済みだ。日本側が資金を出すの は日韓の条約にも道理にも合わない。また問題解決にもつながらない。日 本が原則に目をつぶって妥協し、失敗を重ねた典型例が慰安婦問題だ。妥 協すれば戦時労働者問題は第二の慰安婦問題となって、日韓関係を悪化さ せるだけである。

対韓政策に影響を及ぼそうと頻りに動いている日韓議連所属の政治家は、 文在寅政権の内政や外交が信ずるに値するのか、きちんと見ることだ。文 氏は米国の圧力でGSOMIA維持に転換した後、中国の王毅外相を招い た。王氏は12月5日、文氏に以下の要求を突きつけた。

?米国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を徹底排除せよ、?米国の 新たな中距離ミサイルを配備してはならない、?米国主導のインド・太平 洋戦略に参加してはならない、?一帯一路に前向きに取り組め、などである。

覇王の要求

まるで宗主国のような王氏の態度に、私はつい、2010年のASEAN地域 フォーラム(ARF)外相会議を思い出した。当時の外相、楊潔?氏が他 の国々の外相を「睨みつけながら」言い放ったのだ。

「中国は大国で、他の国々は小国だ。それは厳然たる事実だ」と。

王氏の横柄な対韓圧力も全く同じ、中華思想に基づく覇王の要求である。 だが、王氏の前で文氏は自らを卑下してみせた。習近平国家主席の国賓待 遇での訪韓を要請したのである。今年8月15日の「光復節」で、日米韓三 か国連合から統一朝鮮と中露の三か国連合への移行を示唆した文氏の本質 を表わしているではないか。

その2日後、トランプ米大統領が文氏に電話し、30分間話している。信頼 もしておらず、頼りにもしていない文氏に、トランプ氏が頼みごと、たと えば北朝鮮との関係の仲介などを頼むはずがない。中国、北朝鮮につい て、米国がどれ程厳しく構えているかを明確に伝え、文氏を牽制したと考 えて間違いないだろう。

両首脳の電話会談について、いつも「平和が訪れた」などと夢見るような 言辞を弄する文政権が「最近の朝鮮半島情勢が厳しい状況にあるとの認識 で一致した」と発表したこと自体、会談の内容の厳しさを示したとして注 目された。米韓関係の現状を産経新聞編集委員の久保田るり子氏が「言論 テレビ」で語った。

「11月28日以来、米軍の偵察機が毎日、朝鮮半島上空を飛んでいます。通 信傍受、地上監視などを同時展開しています。今月11日にはB-52爆撃機 も飛びました。通常は隠密に行っているこれらの軍事活動を、米国は意図 的に公開しています。エスパー国防長官は、今月8日、今夜にでも行動を 起こし、相手を完全に破壊する準備も整っている、とまで語りました。ま さに米軍が臨戦態勢を敷いていることを強調しているわけです」

トランプ氏が文氏に告げたのは対北朝鮮軍事介入の可能性も含めて、あら ゆる意味で厳しい内容だったはずだ。過度の対中傾斜に警告を発したと考 えてよいだろう。

文氏はしかし、米中双方の圧力を受けながら、自身の思い描く革命遂行に 全力を傾けている。日本ではほとんど報道されていないが、文氏は韓国転 覆につながる重大事に、ここにきて、具体的に手をかけたのである。選挙 制度改革法案を11月27日に、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)新設法案を 12月13日に国会に上程した。群小野党と手を組んで両法案を実現できれ ば、文政権は自由と民主主義の大韓民国を根底から変質させ、事実上、消 滅させることができる。

北朝鮮との統一

韓国は日本とは異なり、一院制で議席数は300だ。小選挙区が253、比例は 47で、現在欠員が3名。総数297の過半数は149議席である。国家基本問題 研究所研究員の西岡力氏が言論テレビで解説した。

「文氏は小選挙区を225議席に減らして比例を75に増やし、比例分につい ては群小野党に有利な50%連動型の導入を提案しています」

現在、与党で左翼の「共に民主党」系は129で過半数に20議席足りない。 野党第一党で保守の「自由韓国党」は108だ。以下、正しい未来党や正義 党など15議席から1議席までの小政党が7党存在する。この内6党は殆んど 極左に近い。

再び西岡氏が説明した。

「国会に提案された法案では、第三党以下の弱小群党が非常に有利になり ます。仕組みは複雑で、有権者の一票の行方がわからなくなるとまで批判 されていますが、両法案は迅速処理指定を受けています。つまり、審議な しで、議長権限で採決を強行できるのです」

文氏の狙いはまず選挙制度を変えて左翼勢力が3分の2以上の議席を取れる ようにする。その上で憲法を改正し、今は禁じられている連邦制による北 朝鮮との統一を憲法上、可能にすることだろう。第二に検察の上に、捜査 権と起訴権を持つ大統領直属の第2検察(政治検察)を設置し、文政権の 不正を捜査している現在の検察をつぶし、司法を支配下に置くことであろう。

韓国の国会は12月10日に閉会されたが、文氏は法案の議決を急ぐため11 日、13日、16日と、国会再開を試みた。保守系の自由韓国党と国民有志が 物理的に抵抗して国会再開を阻止した。それでも文氏の革命への動きは止 まらない。左翼全体主義に走る文政権に日本の妥協は有害無益だ。文政権 と対立する民主勢力への応援こそが日本の国益である。

『週刊新潮』 2019年12月26日号 日本ルネッサンス 第882回

2019年12月27日

◆文在寅の強行策、韓国崩壊の危機が現実的に

櫻井よしこ


今月16日、日韓間の戦略物資の輸出管理をめぐって東京で日韓の局長級に よる政策対話が持たれた。日本側はこれを日韓の「対話」と位置づけ、韓 国側は「協議」だと主張する。

対話と協議では意味は全く異なる。対話は意見交換であり、相互の立場を 相手に十分説明することだ。他方、協議は互いの主張を展開して交渉する ことを意味する。中部大学特任教授の細川昌彦氏が語った。

「そもそも輸出管理は各国の判断で行うもので、相手国との交渉にはなじ まないものなのです」

周知のように、韓国側は輸出管理で優遇を受ける「ホワイト国」から外さ れたことに反発して、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を 終了させると通告していた。米国の圧力でGSOMIA継続をのんだが、 その点で国内世論の批判を避けるべく、日本にも譲歩させたように繕うた めに、対話を協議と言いかえているのである。

同じ16日、韓国ではもうひとつ、非常識な動きがあった。朝鮮人戦時労働 者問題で補償基金を設立する法案が国会に提出されたのだ。文喜相(ムン ヒサン)国会議長主導の同法案は、日韓双方の企業が資金を出し合って労 働者に補償することを柱としている。

日韓議員連盟の幹部、河村建夫氏らは文氏の案に前向きだが、愚かなこと だ。朝鮮人戦時労働者問題は1965年に決着済みだ。日本側が資金を出すの は日韓の条約にも道理にも合わない。また問題解決にもつながらない。日 本が原則に目をつぶって妥協し、失敗を重ねた典型例が慰安婦問題だ。妥 協すれば戦時労働者問題は第二の慰安婦問題となって、日韓関係を悪化さ せるだけである。

対韓政策に影響を及ぼそうと頻りに動いている日韓議連所属の政治家は、 文在寅政権の内政や外交が信ずるに値するのか、きちんと見ることだ。文 氏は米国の圧力でGSOMIA維持に転換した後、中国の王毅外相を招い た。王氏は12月5日、文氏に以下の要求を突きつけた。

?米国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を徹底排除せよ、?米国の 新たな中距離ミサイルを配備してはならない、?米国主導のインド・太平 洋戦略に参加してはならない、?一帯一路に前向きに取り組め、などである。

覇王の要求

まるで宗主国のような王氏の態度に、私はつい、2010年のASEAN地域 フォーラム(ARF)外相会議を思い出した。当時の外相、楊潔?氏が他 の国々の外相を「睨みつけながら」言い放ったのだ。

「中国は大国で、他の国々は小国だ。それは厳然たる事実だ」と。

王氏の横柄な対韓圧力も全く同じ、中華思想に基づく覇王の要求である。 だが、王氏の前で文氏は自らを卑下してみせた。習近平国家主席の国賓待 遇での訪韓を要請したのである。今年8月15日の「光復節」で、日米韓三 か国連合から統一朝鮮と中露の三か国連合への移行を示唆した文氏の本質 を表わしているではないか。

その2日後、トランプ米大統領が文氏に電話し、30分間話している。信頼 もしておらず、頼りにもしていない文氏に、トランプ氏が頼みごと、たと えば北朝鮮との関係の仲介などを頼むはずがない。中国、北朝鮮につい て、米国がどれ程厳しく構えているかを明確に伝え、文氏を牽制したと考 えて間違いないだろう。

両首脳の電話会談について、いつも「平和が訪れた」などと夢見るような 言辞を弄する文政権が「最近の朝鮮半島情勢が厳しい状況にあるとの認識 で一致した」と発表したこと自体、会談の内容の厳しさを示したとして注 目された。米韓関係の現状を産経新聞編集委員の久保田るり子氏が「言論 テレビ」で語った。

「11月28日以来、米軍の偵察機が毎日、朝鮮半島上空を飛んでいます。通 信傍受、地上監視などを同時展開しています。今月11日にはB-52爆撃機 も飛びました。通常は隠密に行っているこれらの軍事活動を、米国は意図 的に公開しています。エスパー国防長官は、今月8日、今夜にでも行動を 起こし、相手を完全に破壊する準備も整っている、とまで語りました。ま さに米軍が臨戦態勢を敷いていることを強調しているわけです」

トランプ氏が文氏に告げたのは対北朝鮮軍事介入の可能性も含めて、あら ゆる意味で厳しい内容だったはずだ。過度の対中傾斜に警告を発したと考 えてよいだろう。

文氏はしかし、米中双方の圧力を受けながら、自身の思い描く革命遂行に 全力を傾けている。日本ではほとんど報道されていないが、文氏は韓国転 覆につながる重大事に、ここにきて、具体的に手をかけたのである。選挙 制度改革法案を11月27日に、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)新設法案を 12月13日に国会に上程した。群小野党と手を組んで両法案を実現できれ ば、文政権は自由と民主主義の大韓民国を根底から変質させ、事実上、消 滅させることができる。

北朝鮮との統一

韓国は日本とは異なり、一院制で議席数は300だ。小選挙区が253、比例は 47で、現在欠員が3名。総数297の過半数は149議席である。国家基本問題 研究所研究員の西岡力氏が言論テレビで解説した。

「文氏は小選挙区を225議席に減らして比例を75に増やし、比例分につい ては群小野党に有利な50%連動型の導入を提案しています」

現在、与党で左翼の「共に民主党」系は129で過半数に20議席足りない。 野党第一党で保守の「自由韓国党」は108だ。以下、正しい未来党や正義 党など15議席から1議席までの小政党が7党存在する。この内6党は殆んど 極左に近い。

再び西岡氏が説明した。

「国会に提案された法案では、第三党以下の弱小群党が非常に有利になり ます。仕組みは複雑で、有権者の一票の行方がわからなくなるとまで批判 されていますが、両法案は迅速処理指定を受けています。つまり、審議な しで、議長権限で採決を強行できるのです」

文氏の狙いはまず選挙制度を変えて左翼勢力が3分の2以上の議席を取れる ようにする。その上で憲法を改正し、今は禁じられている連邦制による北 朝鮮との統一を憲法上、可能にすることだろう。第二に検察の上に、捜査 権と起訴権を持つ大統領直属の第2検察(政治検察)を設置し、文政権の 不正を捜査している現在の検察をつぶし、司法を支配下に置くことであろう。

韓国の国会は12月10日に閉会されたが、文氏は法案の議決を急ぐため11 日、13日、16日と、国会再開を試みた。保守系の自由韓国党と国民有志が 物理的に抵抗して国会再開を阻止した。それでも文氏の革命への動きは止 まらない。左翼全体主義に走る文政権に日本の妥協は有害無益だ。文政権 と対立する民主勢力への応援こそが日本の国益である。

『週刊新潮』 2019年12月26日号日本ルネッサンス 第882回
        

2019年12月21日

◆世界基準に大きく遅れた原子力規制委

櫻井よしこ


2019年が暮れると、年明けの1月14日に国際原子力機関(IAEA)の調
査チームが来日する。16年1月、彼らは原子力に関する国際社会の権威と
して上級専門家19人から成るチームを12日間にわたって日本に派遣した。
原子力規制委員会(規制委)と原子力規制庁の仕事振りを検証して、約
130頁の報告書を発表した。そこには厳しい意見が満載されていた。

再来日は、3年前に指摘した規制委の問題がどこまで解決されているのか
を、調査するためだ。

原発政策に関して日本はいま、世界に類例のない異常な状況に陥ってお
り、規制委が事実上差配する原発行政は到底評価できない。その主な原因
は、更田(ふけた)豊志氏以下、5人で構成する規制委が専門家集団として
世界水準に達していないことだ。

IAEAは3年前、規制委について次のように論評した。

「規制委の人的資源、管理体制、特にその組織文化は初期段階にある」、
「課された任務を遂行するのに能力ある職員が不足して」いる。

最大級の厳しい批判であろう。

規制委の使命は原発の安全性を科学的、合理的、迅速に審査することだ。
電力各社には不足のところを補わせて稼働させ、安定した電力供給で産業
基盤を支え、豊かな国民生活の実現に寄与することだろう。

高度かつ複雑な技術の集大成である原発の安全性を高めるにはまず、規制
自体が科学的、合理的なものでなければならない。また、それは世界の専
門家が認める国際基準に合致するものでもなければならない。

規制される電力会社に新たな規制や措置の意味を十分に伝え納得させるこ
とも欠かせない。規制委と電力各社の意思の疎通が十分でなければ、高度
で複雑でおまけに大規模な運転がうまくいくはずもないからである。

この点について、IAEAは次のようにも勧告していた。「意識啓発研修
又は意識調査などの具体策導入を検討」せよ、と。

情けない人々

原発の安全性を高めるために、まず規制委が「意識」を変えよ、というの
だ。そのための「啓発研修」を行う必要があり、規制委及び規制庁職員の
「意識調査」を実施して自らを省みる具体策を導入せよと指示したわけだ。

ここまで言われる情けない人々に、日本は国民生活及び産業基盤を支える
エネルギー、その中の太い柱である原子力発電の在り方を規定させている
のだ。こんなことで日本の未来が大丈夫なはずがないだろう。

IAEAの厳しい指摘の背景には立派な理由がある。それを示したのが、
昨年6月、規制委が全ての電力会社に命じた原子力発電所の火災感知器設
置に関する新しいルールだ。

原子力発電所は原子炉等規制法に基づいて、火災感知器を潤滑油やケーブ
ルなど可燃物があるところに重点的に設置し、可燃物のないところには設
置していない。これは国際標準であり、日本も以前から国際標準に従って
十分な対策を講じている。

だが規制委はここに突然、消防法を持ち込んだ。消防法は民家やビルなど
の部屋毎に、火災感知器の感知範囲を元に設置基準を定めている。その消
防法に従って各原子力発電所は新たに1500から2000個の火災感知器を追加
設置せよと、規制委は指示したのだ。

電力事業者は全社が反論した。すでに各原発には必要な所に約1000個に上
る火災感知器を設置済みで、国際標準を十分に満たしている。安全性も保
たれている。1500〜2000個の新設は原発の安全性を強化せず、むしろ、リ
スクを高めると具体論で反論した。だが、規制委は耳を貸さなかった。

ちなみに規制委は元々、菅直人氏の発想で生まれた三条委員会だ。三条委
員会は首相も介入できない強い独立性と権限を有している。与えられた権
限が強ければ強いほど、本来は、関係者に対して丁寧な説明をし、謙虚に
意見に耳を傾けなければならない。しかし、規制委にはそのような発想も
謙虚さもないのであろう。電力会社は膨大な数の火災感知器の設置とケー
ブルを通す作業を開始せざるを得なかった。

少しばかり具体的に考えてみよう。ケーブルは火災感知制御盤に接続され
て初めて機能する。つまり、新たに導入する約2000本のケーブルを中央の
制御盤につながなければならない。

原子力発電所は、作業員の被曝を避けるために厚さ1〜2メートルのコンク
リート製の遮蔽壁や耐震壁を随所に設けている。それらの壁は太い鉄筋が
多数配筋された強化壁なのだが、ここにケーブルを通すためにドリルを突
き刺すのだ。

とんでもない事態

また原発には20メートルを超える城砦のような防潮堤も建設されている。
万一津波が防潮堤をこえても建屋は高水密性で完全防水態勢だ。3.11後の
大規模工事で世界一過剰と言ってよい安全対策がとられたところに、火災
感知器の電線管の穴を幾千も開けさせるのである。まるで潜水艦の船体
を、火災感知器のケーブルを通すために穴だらけにするようなものではな
いか。炉心損傷や被曝線量上昇のリスクは逆に高まる。

電力各社は当然そう訴えた。だが、規制委は自らの指示が国際的に確立さ
れたルールに違反していることにさえ気が付かない。結果、現場はいまと
んでもない事態に陥っている。

ケーブルを貫通させる工事は原発の運転中はできない。運転停止する定期
検査期間に行わざるを得ないため、その期間のすべてを使っても4年越し
の大工事になる。あらゆる意味で鉄壁の安全策を施した原子力発電所にこ
れから4年間、穴を開け続けるという異常事態が生じているのである。規
制委のこの尋常ならざる強権支配は三条委員会に与えられた絶対権力故で
あろう。だが、法治国家であるわが国においては、如何なる権力も法の上
には立てない。

行政手続法は、審査条件を明確に呈示し、審査条件を途中で変更しないこ
と、概ね2年で速やかに審査を行う、などと定めている。規制委の初代委
員長・田中俊一氏は当初、審査期間は半年ほどと語っていた。だが、半年
どころか、2年、さらに7年がすぎても多くの原発審査は終わっていない。
当然であろう。次から次に、前述したような無茶苦茶な審査条件が新たに
加えられるからだ。

田中氏は「日本の原子力政策は嘘だらけ」「結果論も含め本当に嘘が多
い」と、原子力業界を厳しく非難する(「選択」19年11月号)。では規制
委委員長としての氏の言動はどうだったのか。現委員長の更田氏もその余
の規制委員も、行政組織の一員として、行政手続法を守っているのか。答
えは明らかに否ではないか。その点を厳しく指摘し、私は来年1月の
IAEAの調査結果を見届けようと考えている。

『週刊新潮』 2019年12月19日号 日本ルネッサンス 第881回

2019年12月17日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回


2019年12月13日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回

 

2019年12月12日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回
 

2019年12月05日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号 日本ルネッサンス 第877回

2019年12月04日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年12月01日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月30日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月29日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月26日

◆「嘘の国」韓国を批判する愛国の書

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領の反日・親北朝鮮、さらに社会主義路線に異を唱え、立
ち上がる人々が急増中だ。文氏の「反日」に反対する戦線の最前列に立つ
のが元ソウル大学経済学部教授、李栄(イヨンフン)氏で、その編著書、
『反日種族主義』(以下『種族主義』)はベストセラーになっている。反
文在寅運動の理論的支柱ともなった同書の日本語版が間もなく書店に並ぶ
が、一足早く入手して、一気に読んだ。

李氏は経済史の専門家としてずっと数字や事実に拘り続けてきた。フィー
ルド・ワークから導き出される事実は政治的偏りとは無縁である。韓国で
流布されてきた反日のための歪曲や捏造とは全く異なる歴史認識や情報を
李氏は発信し続けてきた。そのために、ソウル大学教授という尊敬される
べき立場でありながら、凄まじい非難も浴びた。その氏が今回、「命が
け」で論陣を張っている。それが本書の出版だ。

『種族主義』は、冷静な分析と客観的事実に満ちている一方、韓国人には
強い衝撃を与えずにはおかない火を吐くような激しい表現がある。

たとえば「嘘の国」と題されたプロローグだ。「嘘をつく国民」、「嘘を
つく政治」、「嘘つきの学問」、「嘘の裁判」などの小題は韓国人の心臓
を射抜くだろう。その後に今日の韓国を表現する言葉として「反日種族主
義」が登場する。

「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています」「政治が嘘つきの
模範を示しています」「嘘つきの学問に一番大きな責任があります」「こ
の国の嘘をつく文化は、遂に司法まで支配するようになりました」と書い
た後、李氏は韓国人の精神を蝕み、韓国を誤った道に誘引してきた反日種
族主義について説明する。

長くなるが次のような説明だ。

韓国社会に色濃いシャーマニズムは物質主義と種族主義に通底している。
シャーマニズムの世界では両班は死んでも両班で、奴婢は死んでも奴婢で
ある。だからこそ、人々は両班の身分を手に入れようと、嘘も詐欺も働
く。汚いカネも許される。こうして皆が物質主義に走る世界には共有すべ
き真理も価値観もない。何でもありだ。そして一方の集団は究極の利のた
めにもう一方の集団を排斥する。それらの集団は価値観や文化や情趣を共
有する民族では断じてなく、種族に過ぎない。種族を単位とした政治が種
族主義である。簡単に言えば種族主義は、事実、理性、合理のいずれとも
無関係の「幻想」から生まれる愚かな精神性だ。信用してはならず、影響
も受けてはならない。峻拒すべき悪しき精神性で、それが韓国にはびこっ
ている。

祖国韓国に対するこの激しい批判は、学者としての良心の叫びであり、嘘
つき国となった祖国への愛であり、絶望に近い口惜しさでもあろう。

幻想に搦めとられて歴史を紡ぐ事例として、李氏は、朝鮮人の日本に対す
る憎悪の源泉のひとつ、総督府による土地調査事業をとり上げた。

合理的理由があるのか

合計350万部を売り上げた大河小説『アリラン』12巻には土地調査の場面
が複数回登場するという。調査を実施する駐在所の警官が土地を奪われる
農民の抗議を退け、木の幹に括り付け、銃殺する。小説『アリラン』で描
写される日本軍の朝鮮人虐殺の場面は不条理の極みである。

当時は日本の領土だった千島列島守備のための土木工事現場では、朝鮮人
労働者1000人が虐殺されたと、『アリラン』は書いた。工事完了時点で日
本軍が朝鮮人労働者を「防空壕に閉じ込め」「30分間手榴弾を投げこみ、
機関銃射撃を加えて皆殺しにした」、この他、日本軍は同様の手法で4000
人余りを殺したとも書いている。でたらめな映画「軍艦島」を連想させる
場面だ。日本人は朝鮮人を皆殺しにしたという悪意に満ちた発想は瓜二つだ。

李氏は調査の結果、「この凄惨な虐殺は事実ではない」と断じ、労働力不
足の戦時中、やっと確保した貴重な人員を虐殺する合理的理由があるの
か、と問う。その上で『アリラン』の著者、趙廷来こそが「虐殺の狂気に
取りつかれているのではないか」と疑っている。

その他本書では、日本が「朝鮮の土地の40%を奪った」と教える韓国の教
科書の嘘が暴かれ、日本人が朝鮮から食料を奪ったとの言説の嘘も暴かれ
ている。共著者の東国大学経済学科教授の金洛年(キムナクニョン)氏が
1931(昭和6)年6月16日の「東亜日報」の記事を紹介している。同記事
は、日本も朝鮮も大豊作だったこの年、コメの供給過剰傾向ゆえに朝鮮半
島から日本へのコメの輸入(移入)を制限するとの情報についてこう報じ
ている。

「朝鮮農民の立場としては、法律の制定による移入制限にはもちろんのこ
と(中略)朝鮮米流出の自由を束縛するいかなる措置にも絶対反対するし
かない」

日本人がコメを奪ったのではなく、朝鮮の農民がコメの輸出を切望してい
たということだ。

竹島について

朝鮮人戦時労働者問題については落星台経済研究所の李宇衍(イウヨン)氏
が日本人と朝鮮人の待遇は全く同じだったと証明し、竹島については「率
直に言って韓国政府が、独島は歴史的に韓国の固有の領土であると証明す
る、国際社会に提示できるだけの証拠は、一つも存在していない」と明記
している。

李栄薫氏はこのような指摘は韓国人にとっては不快であろうが、「一人の
知識人として」指摘しないわけにはいかないと書いた。実に立派な人物だ
と思う。

これらの内容に日本人はホッと胸を撫で下ろすかもしれないが、李氏は
ざっと次のようにも書いていた。

「ふつうの韓国人は、日本に対し良い感情を持っていません。不快な、あ
るいは敵対的な感情を持っています。それは長い歴史の中で受け継がれて
来たもので、七世紀末、新羅が三国を統一したときからそうなったのでは
ないかと考えています」、と。

663年、日本は百済再興を助けるために出兵し、白村江で唐・新羅連合軍
と戦い、敗れた。わが国はその後、唐・新羅連合軍の侵略に備えて防備を
固め、独立国としての気概を強めた。李氏はあの頃から千数百年間も日韓
は非常に近くにありながらも、疎遠な国であり続けたと指摘し、朝鮮の対
日不快感、敵対感はこの時代に遡るというのだ。日本は韓国の仇敵であ
り、種族主義を噴出させる対象だとも李氏は警告する。

日韓関係を最悪の水準に落とし込んだ慰安婦問題についても、『種族主
義』は深く斬り込んだ。日本の敗戦後、慰安婦問題は韓国軍や米軍の問題
となり、女性達の境遇はさらに悪化したことが詳述されている。

李氏らはこうした事実を「亡国の予感」の中で書いた。韓国の滅亡を食い
止められるのは韓国人の賢さだけだ。この戦いを、私は日本の運命を思い
つつ、見守っている。


『週刊新潮』 2019年11月21日号 日本ルネッサンス 第877回