2019年03月19日

◆前向きな報じ方が多かった韓国大統領演説

櫻井よしこ


「前向きな報じ方が多かった韓国大統領演説 私の印象はむしろ底意地の
悪い日本非難だ」

文在寅韓国大統領の「3・1運動記念式」での演説を前向きに報じたメディ
アが多かった。

「時事通信」は「日本批判を控えた」とし、「毎日新聞」は「文大統領
『協力の未来』強調、対日批判避ける」の見出しで「直接の対日批判を控
え、『朝鮮半島の平和のため、日本との協力も強化する』と日韓協調を呼
びかける内容」だと伝え、「朝日新聞」は「外交摩擦を避ける姿勢を示し
た」と報じた。

私の印象は異なる。文演説を貫く思想と論理に「対日批判を控えた」など
の論評は当たらない。むしろ、まつわりつく底意地の悪い日本非難だった
と感ずる。

氏はざっと次のように語っている。

「日帝(大日本帝国)は独立軍を『匪賊』、独立運動家を『思想犯』と見
做し弾圧した。このときに『アカ』という言葉もできた。これは民族主義
者からアナキストまで、全ての独立運動家にレッテルを貼る言葉で、日帝
が民族を引き裂くために用いた手段だった」

日本の敗戦で朝鮮は独立した。彼らはそれを「解放」と呼ぶが、文氏は
「解放された祖国で『日帝警察の出身者』が『独立運動家をアカとして追
及し、拷問』した」と演説している。

日本が「民族を引き裂く手段」を朝鮮社会に埋め込み、それが独立後も生
き続けたと主張したのだ。「多くの人々が『アカ』と規定され」「家族と
遺族は反社会的の烙印を押された中で不幸な人生」を送り、現在もその呪
いが続いているというのが文氏の非難だ。

「今も、攻撃する道具としてアカという言葉が使われており、変形した
『イデオロギー論』が猛威をふるっている。一日も早く清算すべきは、こ
のような代表的な親日残滓です」

どう読んでもこれは、「対日批判を控え」「日韓協調を呼びかける内容」
ではないだろう。文氏の批判は反日にとどまらず反米にも通ずる。朝鮮半
島を巡る国際政治の力学を、従来の「日米韓vs中北」から「日米vs中
北韓」の構図に変える意図が読み取れる。

3月1日のインターネットの「言論テレビ」で朝鮮問題の専門家、西岡力氏
が解説した。

「文演説に先立つ2月27日に、韓国の第一野党である自由韓国党の代表選
挙が行われました。3人の候補者は、文政権は安全保障で北への武装解除
を進め、経済では社会主義政策を取る亡国政権だ、これでは韓国も自由民
主主義体制も滅びると、激しく非難しました。彼らは文政権の思想的基盤
は共産主義に近いと疑っています。そのような中で展開される『アカ』批
判は日帝そのものだという反撃が、先の文氏の3・1演説なのです」

文氏が訴えたのは、日本統治が終わっても憎むべき親日派は清算されずに
韓国に残り、反共勢力、親米勢力に化けて(朴正煕元大統領のような)軍
事政権を作った。自分がその勢力を一掃するのだという決意に他ならない。

それに対して、保守派は文氏の動きの背後には結局、北朝鮮、「アカ」が
いると突きつける。さらにそれに対して、その表現こそ日帝の影響を受け
た親日派の証拠だというのが、文演説の真意だ。文氏は決して日本に配慮
しているのではない。西岡氏の指摘だ。

「文氏は一方で、大きな嘘もついています。1919(大正8)年の3・1独立
運動の参加人数を202万人、死者は7500人だったと演説しました。実は韓
国の国立機関、国史編纂委員会が2月20日に最新の研究成果として、デモ
参加者は103万人、死者は934人と発表しました。文氏は国立機関の調査結
果を無視して、それに倍、または8倍の大きな数字を言ったわけです。対
日歴史戦はまだまだ続ける執念深さがあるのです」

ちなみに朝日新聞も専門家で構成する国史編纂委員会報告を無視して文氏
同様、死者7500人と報じた。こちらは間違いか、大嘘か。教えてほしい。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1271

2019年03月18日

◆前向きな報じ方が多かった韓国大統領演説

櫻井よしこ

「前向きな報じ方が多かった韓国大統領演説 私の印象はむしろ底意地の
悪い日本非難だ」

文在寅韓国大統領の「3・1運動記念式」での演説を前向きに報じたメディ
アが多かった。

「時事通信」は「日本批判を控えた」とし、「毎日新聞」は「文大統領
『協力の未来』強調、対日批判避ける」の見出しで「直接の対日批判を控
え、『朝鮮半島の平和のため、日本との協力も強化する』と日韓協調を呼
びかける内容」だと伝え、「朝日新聞」は「外交摩擦を避ける姿勢を示し
た」と報じた。

私の印象は異なる。文演説を貫く思想と論理に「対日批判を控えた」など
の論評は当たらない。むしろ、まつわりつく底意地の悪い日本非難だった
と感ずる。

氏はざっと次のように語っている。

「日帝(大日本帝国)は独立軍を『匪賊』、独立運動家を『思想犯』と見
做し弾圧した。このときに『アカ』という言葉もできた。これは民族主義
者からアナキストまで、全ての独立運動家にレッテルを貼る言葉で、日帝
が民族を引き裂くために用いた手段だった」

日本の敗戦で朝鮮は独立した。彼らはそれを「解放」と呼ぶが、文氏は
「解放された祖国で『日帝警察の出身者』が『独立運動家をアカとして追
及し、拷問』した」と演説している。

日本が「民族を引き裂く手段」を朝鮮社会に埋め込み、それが独立後も生
き続けたと主張したのだ。「多くの人々が『アカ』と規定され」「家族と
遺族は反社会的の烙印を押された中で不幸な人生」を送り、現在もその呪
いが続いているというのが文氏の非難だ。

「今も、攻撃する道具としてアカという言葉が使われており、変形した
『イデオロギー論』が猛威をふるっている。一日も早く清算すべきは、こ
のような代表的な親日残滓です」

どう読んでもこれは、「対日批判を控え」「日韓協調を呼びかける内容」
ではないだろう。文氏の批判は反日にとどまらず反米にも通ずる。朝鮮半
島を巡る国際政治の力学を、従来の「日米韓vs中北」から「日米vs中
北韓」の構図に変える意図が読み取れる。

3月1日のインターネットの「言論テレビ」で朝鮮問題の専門家、西岡力氏
が解説した。

「文演説に先立つ2月27日に、韓国の第一野党である自由韓国党の代表選
挙が行われました。3人の候補者は、文政権は安全保障で北への武装解除
を進め、経済では社会主義政策を取る亡国政権だ、これでは韓国も自由民
主主義体制も滅びると、激しく非難しました。彼らは文政権の思想的基盤
は共産主義に近いと疑っています。そのような中で展開される『アカ』批
判は日帝そのものだという反撃が、先の文氏の3・1演説なのです」

文氏が訴えたのは、日本統治が終わっても憎むべき親日派は清算されずに
韓国に残り、反共勢力、親米勢力に化けて(朴正煕元大統領のような)軍
事政権を作った。自分がその勢力を一掃するのだという決意に他ならない。

それに対して、保守派は文氏の動きの背後には結局、北朝鮮、「アカ」が
いると突きつける。さらにそれに対して、その表現こそ日帝の影響を受け
た親日派の証拠だというのが、文演説の真意だ。文氏は決して日本に配慮
しているのではない。西岡氏の指摘だ。

「文氏は一方で、大きな嘘もついています。1919(大正8)年の3・1独立
運動の参加人数を202万人、死者は7500人だったと演説しました。実は韓
国の国立機関、国史編纂委員会が2月20日に最新の研究成果として、デモ
参加者は103万人、死者は934人と発表しました。文氏は国立機関の調査結
果を無視して、それに倍、または8倍の大きな数字を言ったわけです。対
日歴史戦はまだまだ続ける執念深さがあるのです」

ちなみに朝日新聞も専門家で構成する国史編纂委員会報告を無視して文氏
同様、死者7500人と報じた。こちらは間違いか、大嘘か。教えてほしい。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1271

2019年03月16日

◆米朝決裂、追い詰められた金正恩

櫻井よしこ


2月28日、ベトナムの首都ハノイで米朝首脳会談が決裂した。北朝鮮の大
いなる誤算による決裂を、わが国の拉致問題解決の糸口にするには何をす
べきか。首脳会談初日から2日目朝まで、うまくいっていた会談が突然決
裂したのは何故か。

3月1日夜、私は「言論テレビ」特別番組で、前防衛大臣で自民党安全保障
調査会会長の小野寺五典氏、朝鮮問題で第一線をひた走る「国家基本問題
研究所」研究員の西岡力氏、気鋭の作家である門田隆将氏、毎号完売の実
績を続ける「月刊Hanada」編集長の花田紀凱氏と共に、大いに語っ
た。決裂の主因を小野寺氏が喝破した。

「金正恩氏がトランプ氏を甘く見ていたのです。両氏はハノイ到着後の27
日に短いテタテ(一対一の会談)をし、その後夕食会に臨んでいます。翌
朝、再びテタテをした。その時点まで金氏は、トランプ氏を経済制裁解除
に導けると読んでいたと思われます。ところがその後に人数をふやして会
議に入った。そこから雰囲気が変わったのです」

全体会議の写真には、米国側にトランプ大統領、ポンペオ国務長官らと共
に、国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏の姿があ
る。小野寺氏が続けた。

「それまで参加していなかったボルトン氏が交渉の席に入ったことが、ト
ランプ氏の『急いでやるより正しくやる方がずっといい』というコメント
につながったのだと思います」

ボルトン氏はブッシュ政権で国務次官として国家安全保障及び軍備管理を
担当、リビアの大量破壊兵器の放棄を実行した。国連大使を務め、拉致問
題にも理解が深い。氏は核、ウラン濃縮、ミサイル開発などの専門家で、
それだけに北朝鮮に騙されはしない。また、原則を重視し、希望的観測に
基づく安易な妥協を嫌う、米国保守派の中核的存在と言ってよい。

ボルトン氏の出席が米国側の原則堅持の姿勢を強めたとして、首脳会談決
裂の具体的理由は何か。トランプ氏は28日午後2時(現地時間)からの記
者会見で、北朝鮮は寧辺の核施設破壊の見返りに、経済制裁の全面解除を
求めた、それは受け入れられない条件だったと述べている。

異例の会見

同会見から約10時間後、未明の0時43分に、北朝鮮の李容浩外相と崔善姫
外務次官が茫然自失の体で異例の会見に臨んだ。

「我々が要求したのは全面的制裁解除ではなく、一部の解除だ。国連制裁
決議11件の内、2016年から17年に決定された5件で、民需経済と人民生活
に支障をきたすものだけだ」と、李氏は説明した。

同じ会談にいた片方の国の大統領と、もう一方の国の外相が異なる主張を
する。正しいのはどちらかと迷うのは当然だが、ある意味、両方共、正し
いのだ。西岡氏が説明した。

「国連制裁決議は李氏の言うように11項目にわたります。最初の頃の制裁
は、北朝鮮への贅沢品の輸出禁止などで金王朝にとって痛くも痒くもな
い。鮪でも高級車でも金一家は手に入れていました。いま彼らを追い詰め
ているのは17年に決定された制裁です。これで輸出の9割までが止められ
ました。だから、これらを解除せよというのは実質的に全て解除せよとい
うことなのです」

17年に採択された制裁の骨子は➀石炭・海産物の全面輸出禁止、➁繊維製品
の輸出禁止、➂加盟国による北朝鮮労働者受け入れの禁止である。北朝鮮
の主要輸出品目が全て禁輸となった。制裁違反の国や企業は、米国の第二
次制裁の対象として米銀行との取引停止などの処分を受けかねない。

中露も賛成せざるを得なかったこれらの制裁の結果、北朝鮮の輸出総額は
29億ドル(3190億円)から4億ドル(440億円)に減少した。それがどれ
程の痛手か、制裁は効いていないとして強気で通してきた北朝鮮が遂に2
月21日、国連に人道支援を求めたことからも明らかだ。

明らかに金氏は、寧辺の核兵器製造施設の恒久的破壊でトランプ氏が満足
すると考えていた。だが、米国を甘く見ていた金氏を震えあがらせるよう
なことをトランプ氏が語っている。

「我々は北朝鮮を1インチ単位でくまなく知っている。必要なことはやっ
てもらわなければならない」「まだ知られていないことで我々が掴んでい
ることがある」

記者が、2か所目のウラン濃縮施設以外にもあるということかと尋ねる
と、「その通りだ」、「我々は多数のことを取り上げた。彼らは我々がそ
んなことまで知っているのかと驚いたと思う」と答えた。

「木を森の中に隠した」

「言論テレビ」で西岡氏が明らかにした情報も、トランプ氏の自信を支え
る米国の情報力の一端を示している。

「米国を含む西側の情報機関は濃縮ウラニウムの設備として、3か所を
疑っていました。原子炉はなかなか地下ではできませんが、濃縮ウラニウ
ムの製造には電気があればよいので、衛星写真で見つかりにくい地下に作
るはずだと考えたのです。そこで西側情報機関は疑わしい3か所の砂や土
を取らせて分析した。しかし、何も兆候はない。周辺の住民にそれらしい
怪しいことを言わせていたのですが、全てダミーだったのです。

ところが、平壌に近い地上の製鉄所の建物群の中に濃縮施設があることを
米国はつきとめました。降仙の千里馬製鉄所内です」

衛星写真に写る製鉄所の敷地に何気ない建物がひとつ増えた。北朝鮮は
「木を森の中に隠した」のだ。それでも米国はこの中で何がなされている
かを正確につきとめた。

「ヒューミント(人的諜報)を持っているのです。地下工場だと疑った3
か所の土や砂を運び出させて分析し、ダミーだと判断できたのも、ヒュー
ミントゆえです」と西岡氏。

まんまと欺きおおせたと考えていたであろう金氏の耳に届くのを意識し
て、トランプ氏は、先述のように、まだ公にされていない施設を米国は掴
んでいると語ったのだ。金氏にとってどれ程の恐怖だったか。

「時間は間違いなく北朝鮮に不利に働きます。中国の支援を受けることも
容易でない。習近平氏の中国は、貿易や先端技術問題で米国から尋常なら
ざる圧力を受けており、米国に非常に気を遣わなければならない局面で
す。北朝鮮は、あまり擦り寄ってこられても困る厄介な存在になっている
と思います」と小野寺氏。

金氏は習氏に会わずに帰国した。そうした状況下で金氏が米国との対決に
向かえば命取りになる。

金氏の選択肢は限られている。米国と平和裡に交渉を行い非核化を進める
こと、拉致被害者の即時一括帰国を実現して日本の経済援助を受けること
だ。日本は米国と共に、結果が出なければ制裁解除なし、という堅い路線
を続けることが大事だ。

『週刊新潮』 2019年3月14日号 日本ルネッサンス 第843回


2019年03月15日

◆米朝決裂、追い詰められた金正恩

櫻井よしこ


2月28日、ベトナムの首都ハノイで米朝首脳会談が決裂した。北朝鮮の大
いなる誤算による決裂を、わが国の拉致問題解決の糸口にするには何をす
べきか。首脳会談初日から2日目朝まで、うまくいっていた会談が突然決
裂したのは何故か。

3月1日夜、私は「言論テレビ」特別番組で、前防衛大臣で自民党安全保障
調査会会長の小野寺五典氏、朝鮮問題で第一線をひた走る「国家基本問題
研究所」研究員の西岡力氏、気鋭の作家である門田隆将氏、毎号完売の実
績を続ける「月刊Hanada」編集長の花田紀凱氏と共に、大いに語っ
た。決裂の主因を小野寺氏が喝破した。

「金正恩氏がトランプ氏を甘く見ていたのです。両氏はハノイ到着後の27
日に短いテタテ(一対一の会談)をし、その後夕食会に臨んでいます。翌
朝、再びテタテをした。その時点まで金氏は、トランプ氏を経済制裁解除
に導けると読んでいたと思われます。ところがその後に人数をふやして会
議に入った。そこから雰囲気が変わったのです」

全体会議の写真には、米国側にトランプ大統領、ポンペオ国務長官らと共
に、国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏の姿があ
る。小野寺氏が続けた。

「それまで参加していなかったボルトン氏が交渉の席に入ったことが、ト
ランプ氏の『急いでやるより正しくやる方がずっといい』というコメント
につながったのだと思います」

ボルトン氏はブッシュ政権で国務次官として国家安全保障及び軍備管理を
担当、リビアの大量破壊兵器の放棄を実行した。国連大使を務め、拉致問
題にも理解が深い。氏は核、ウラン濃縮、ミサイル開発などの専門家で、
それだけに北朝鮮に騙されはしない。また、原則を重視し、希望的観測に
基づく安易な妥協を嫌う、米国保守派の中核的存在と言ってよい。

ボルトン氏の出席が米国側の原則堅持の姿勢を強めたとして、首脳会談決
裂の具体的理由は何か。トランプ氏は28日午後2時(現地時間)からの記
者会見で、北朝鮮は寧辺の核施設破壊の見返りに、経済制裁の全面解除を
求めた、それは受け入れられない条件だったと述べている。

異例の会見

同会見から約10時間後、未明の0時43分に、北朝鮮の李容浩外相と崔善姫
外務次官が茫然自失の体で異例の会見に臨んだ。

「我々が要求したのは全面的制裁解除ではなく、一部の解除だ。国連制裁
決議11件の内、2016年から17年に決定された5件で、民需経済と人民生活
に支障をきたすものだけだ」と、李氏は説明した。

同じ会談にいた片方の国の大統領と、もう一方の国の外相が異なる主張を
する。正しいのはどちらかと迷うのは当然だが、ある意味、両方共、正し
いのだ。西岡氏が説明した。

「国連制裁決議は李氏の言うように11項目にわたります。最初の頃の制裁
は、北朝鮮への贅沢品の輸出禁止などで金王朝にとって痛くも痒くもな
い。鮪でも高級車でも金一家は手に入れていました。いま彼らを追い詰め
ているのは17年に決定された制裁です。これで輸出の9割までが止められ
ました。だから、これらを解除せよというのは実質的に全て解除せよとい
うことなのです」

17年に採択された制裁の骨子は➀石炭・海産物の全面輸出禁止、➁繊維製品
の輸出禁止、➂加盟国による北朝鮮労働者受け入れの禁止である。北朝鮮
の主要輸出品目が全て禁輸となった。制裁違反の国や企業は、米国の第二
次制裁の対象として米銀行との取引停止などの処分を受けかねない。

中露も賛成せざるを得なかったこれらの制裁の結果、北朝鮮の輸出総額は
29億ドル(3190億円)から4億ドル(440億円)に減少した。それがどれ
程の痛手か、制裁は効いていないとして強気で通してきた北朝鮮が遂に2
月21日、国連に人道支援を求めたことからも明らかだ。

明らかに金氏は、寧辺の核兵器製造施設の恒久的破壊でトランプ氏が満足
すると考えていた。だが、米国を甘く見ていた金氏を震えあがらせるよう
なことをトランプ氏が語っている。

「我々は北朝鮮を1インチ単位でくまなく知っている。必要なことはやっ
てもらわなければならない」「まだ知られていないことで我々が掴んでい
ることがある」

記者が、2か所目のウラン濃縮施設以外にもあるということかと尋ねる
と、「その通りだ」、「我々は多数のことを取り上げた。彼らは我々がそ
んなことまで知っているのかと驚いたと思う」と答えた。

「木を森の中に隠した」

「言論テレビ」で西岡氏が明らかにした情報も、トランプ氏の自信を支え
る米国の情報力の一端を示している。

「米国を含む西側の情報機関は濃縮ウラニウムの設備として、3か所を
疑っていました。原子炉はなかなか地下ではできませんが、濃縮ウラニウ
ムの製造には電気があればよいので、衛星写真で見つかりにくい地下に作
るはずだと考えたのです。そこで西側情報機関は疑わしい3か所の砂や土
を取らせて分析した。しかし、何も兆候はない。周辺の住民にそれらしい
怪しいことを言わせていたのですが、全てダミーだったのです。

ところが、平壌に近い地上の製鉄所の建物群の中に濃縮施設があることを
米国はつきとめました。降仙の千里馬製鉄所内です」

衛星写真に写る製鉄所の敷地に何気ない建物がひとつ増えた。北朝鮮は
「木を森の中に隠した」のだ。それでも米国はこの中で何がなされている
かを正確につきとめた。

「ヒューミント(人的諜報)を持っているのです。地下工場だと疑った3
か所の土や砂を運び出させて分析し、ダミーだと判断できたのも、ヒュー
ミントゆえです」と西岡氏。

まんまと欺きおおせたと考えていたであろう金氏の耳に届くのを意識し
て、トランプ氏は、先述のように、まだ公にされていない施設を米国は掴
んでいると語ったのだ。金氏にとってどれ程の恐怖だったか。

「時間は間違いなく北朝鮮に不利に働きます。中国の支援を受けることも
容易でない。習近平氏の中国は、貿易や先端技術問題で米国から尋常なら
ざる圧力を受けており、米国に非常に気を遣わなければならない局面で
す。北朝鮮は、あまり擦り寄ってこられても困る厄介な存在になっている
と思います」と小野寺氏。

金氏は習氏に会わずに帰国した。そうした状況下で金氏が米国との対決に
向かえば命取りになる。

金氏の選択肢は限られている。米国と平和裡に交渉を行い非核化を進める
こと、拉致被害者の即時一括帰国を実現して日本の経済援助を受けること
だ。日本は米国と共に、結果が出なければ制裁解除なし、という堅い路線
を続けることが大事だ。

『週刊新潮』 2019年3月14日号 日本ルネッサンス 第843回

2019年03月14日

◆韓国の現政権は事実上の敵対勢力

櫻井よしこ


「韓国の現政権は事実上の敵対勢力 日本はあらゆる面から備えるべきだ」

韓国大統領の文在寅氏が、1919(大正8)年3月1日に起きた反日独立の
「3・1運動」の100周年記念日を前に、2月26日、独立運動の活動家、金九
の記念館で閣議を開いた。戦時を除き、政府庁舎以外での閣議開催は初め
てだ。

文氏は、「国家的な意味を込め」た同閣議に先立ち、金九の墓をはじめ、
日本の初代首相、伊藤博文公を暗殺した安重根や日本の要人2人を殺害し
死刑になった尹奉吉ら、日本から見ればテロリストらの墓を続けて参拝し
たと、「産経新聞」が2月27日付で報じている。

他方、康京和韓国外相もスイスの国連人権理事会で異例の演説をした。
2015年に日韓両政府が慰安婦問題で最終的な合意をしたのは周知のとおり
だ。だが康氏は、その内容は「不十分」で、「被害者中心の取り組みを進
める必要がある」と、自国の前政権が誓約した合意を全面的に否定した。

日本側は菅義偉官房長官が「慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を日韓
政府間で確認した。政権が代わっても責任を持って実施されないといけな
い。合意の着実な実施は、わが国はもとより国際社会に対する責務だ」と
述べた。岩屋毅防衛相も自衛隊と韓国軍の関係について「韓国軍から緊張
を高めるような発信がなくなってきている」「緊張は徐々に解消に向かっ
ている」と語ったが、これ以上事を荒立てたくないとの思いで日本側が発
信するこれら警告や見方は通用していない。

戦時朝鮮人労働者問題、自衛隊機へのレーダー照射とその後も続く対日対
立姿勢、慰安婦問題での卓袱台返し、安重根ら礼讃の異例の閣議などは文
在寅政権の反日路線の表明だ。韓国全体の路線でなくとも、軌道修正は非
常に困難だと心得ておくべきだろう。

朝鮮半島全体を、歴史を縦軸とし、現在進行形の国際情勢を横軸として眺
めさえすれば、文氏がこれから直面する深刻な問題も、日本が進めるべき
対策も、明らかだ。

まず、文氏が直面する問題である。文氏は反日を意識する余り、日本を貶
め、日本に協力した人々(たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前
大統領)を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。また現在の大韓民国の起
源を前述の100年前の反日独立運動に求め、そのときの政府は大韓民国臨
時政府だとの立場をとる。

文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えてい
る。だが、北朝鮮に求愛する文政権に対して、朝鮮労働党委員長の金正恩
氏は全く異なる考えを持つ。

金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったり
もしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主
義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919
年も3・1運動も無意味だ。

この北朝鮮の主張及び公式の立場と、自らのそれをどのように整合させて
いくのかが、文氏の問題だ。文氏は金氏の持論を受け入れて、従来の自ら
の主張や現在の「パフォーマンス的な反日」を放棄するのだろうか。でき
るのだろうか。金氏に認めてもらうのに、そこまで自身を否定し、卑下で
きるのだろうか。そこまでできるのであれば逆に、文氏の大韓民国を滅ぼ
すという信念は本物だと言ってよいだろう。

朝鮮半島の現政権は、ここまで反日である。国民の半分は政権と激しく対
立してはいるが、現政権は日本にとって事実上の敵対勢力であることを日
本は冷静に見て取り、この新たな事態に軍事面を含めてあらゆる面で備え
ることだ。

米国はかつて米国の安全を守る防衛線として、朝鮮半島を除いたアチソン
ラインを引いた。その歴史が繰り返される体制がつくられていく可能性に
具体的に対応するときだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1270

2019年03月13日

◆韓国の現政権は事実上の敵対勢力

櫻井よしこ


「韓国の現政権は事実上の敵対勢力 日本はあらゆる面から備えるべきだ」

韓国大統領の文在寅氏が、1919(大正8)年3月1日に起きた反日独立の
「3・1運動」の100周年記念日を前に、2月26日、独立運動の活動家、金九
の記念館で閣議を開いた。戦時を除き、政府庁舎以外での閣議開催は初め
てだ。

文氏は、「国家的な意味を込め」た同閣議に先立ち、金九の墓をはじめ、
日本の初代首相、伊藤博文公を暗殺した安重根や日本の要人2人を殺害し
死刑になった尹奉吉ら、日本から見ればテロリストらの墓を続けて参拝し
たと、「産経新聞」が2月27日付で報じている。

他方、康京和韓国外相もスイスの国連人権理事会で異例の演説をした。
2015年に日韓両政府が慰安婦問題で最終的な合意をしたのは周知のとおり
だ。だが康氏は、その内容は「不十分」で、「被害者中心の取り組みを進
める必要がある」と、自国の前政権が誓約した合意を全面的に否定した。

日本側は菅義偉官房長官が「慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を日韓
政府間で確認した。政権が代わっても責任を持って実施されないといけな
い。合意の着実な実施は、わが国はもとより国際社会に対する責務だ」と
述べた。岩屋毅防衛相も自衛隊と韓国軍の関係について「韓国軍から緊張
を高めるような発信がなくなってきている」「緊張は徐々に解消に向かっ
ている」と語ったが、これ以上事を荒立てたくないとの思いで日本側が発
信するこれら警告や見方は通用していない。

戦時朝鮮人労働者問題、自衛隊機へのレーダー照射とその後も続く対日対
立姿勢、慰安婦問題での卓袱台返し、安重根ら礼讃の異例の閣議などは文
在寅政権の反日路線の表明だ。韓国全体の路線でなくとも、軌道修正は非
常に困難だと心得ておくべきだろう。

朝鮮半島全体を、歴史を縦軸とし、現在進行形の国際情勢を横軸として眺
めさえすれば、文氏がこれから直面する深刻な問題も、日本が進めるべき
対策も、明らかだ。

まず、文氏が直面する問題である。文氏は反日を意識する余り、日本を貶
め、日本に協力した人々(たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前
大統領)を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。また現在の大韓民国の起
源を前述の100年前の反日独立運動に求め、そのときの政府は大韓民国臨
時政府だとの立場をとる。

文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えてい
る。だが、北朝鮮に求愛する文政権に対して、朝鮮労働党委員長の金正恩
氏は全く異なる考えを持つ。

金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったり
もしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主
義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919
年も3・1運動も無意味だ。

この北朝鮮の主張及び公式の立場と、自らのそれをどのように整合させて
いくのかが、文氏の問題だ。文氏は金氏の持論を受け入れて、従来の自ら
の主張や現在の「パフォーマンス的な反日」を放棄するのだろうか。でき
るのだろうか。金氏に認めてもらうのに、そこまで自身を否定し、卑下で
きるのだろうか。そこまでできるのであれば逆に、文氏の大韓民国を滅ぼ
すという信念は本物だと言ってよいだろう。

朝鮮半島の現政権は、ここまで反日である。国民の半分は政権と激しく対
立してはいるが、現政権は日本にとって事実上の敵対勢力であることを日
本は冷静に見て取り、この新たな事態に軍事面を含めてあらゆる面で備え
ることだ。

米国はかつて米国の安全を守る防衛線として、朝鮮半島を除いたアチソン
ラインを引いた。その歴史が繰り返される体制がつくられていく可能性に
具体的に対応するときだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1270

2019年03月12日

◆韓国の現政権は事実上の敵対勢力

櫻井よしこ


「韓国の現政権は事実上の敵対勢力 日本はあらゆる面から備えるべきだ」

韓国大統領の文在寅氏が、1919(大正8)年3月1日に起きた反日独立の
「3・1運動」の100周年記念日を前に、2月26日、独立運動の活動家、金九
の記念館で閣議を開いた。戦時を除き、政府庁舎以外での閣議開催は初め
てだ。

文氏は、「国家的な意味を込め」た同閣議に先立ち、金九の墓をはじめ、
日本の初代首相、伊藤博文公を暗殺した安重根や日本の要人2人を殺害し
死刑になった尹奉吉ら、日本から見ればテロリストらの墓を続けて参拝し
たと、「産経新聞」が2月27日付で報じている。

他方、康京和韓国外相もスイスの国連人権理事会で異例の演説をした。
2015年に日韓両政府が慰安婦問題で最終的な合意をしたのは周知のとおり
だ。だが康氏は、その内容は「不十分」で、「被害者中心の取り組みを進
める必要がある」と、自国の前政権が誓約した合意を全面的に否定した。

日本側は菅義偉官房長官が「慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を日韓
政府間で確認した。政権が代わっても責任を持って実施されないといけな
い。合意の着実な実施は、わが国はもとより国際社会に対する責務だ」と
述べた。岩屋毅防衛相も自衛隊と韓国軍の関係について「韓国軍から緊張
を高めるような発信がなくなってきている」「緊張は徐々に解消に向かっ
ている」と語ったが、これ以上事を荒立てたくないとの思いで日本側が発
信するこれら警告や見方は通用していない。

戦時朝鮮人労働者問題、自衛隊機へのレーダー照射とその後も続く対日対
立姿勢、慰安婦問題での卓袱台返し、安重根ら礼讃の異例の閣議などは文
在寅政権の反日路線の表明だ。韓国全体の路線でなくとも、軌道修正は非
常に困難だと心得ておくべきだろう。

朝鮮半島全体を、歴史を縦軸とし、現在進行形の国際情勢を横軸として眺
めさえすれば、文氏がこれから直面する深刻な問題も、日本が進めるべき
対策も、明らかだ。

まず、文氏が直面する問題である。文氏は反日を意識する余り、日本を貶
め、日本に協力した人々(たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前
大統領)を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。また現在の大韓民国の起
源を前述の100年前の反日独立運動に求め、そのときの政府は大韓民国臨
時政府だとの立場をとる。

文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えてい
る。だが、北朝鮮に求愛する文政権に対して、朝鮮労働党委員長の金正恩
氏は全く異なる考えを持つ。

金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったり
もしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主
義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919
年も3・1運動も無意味だ。

この北朝鮮の主張及び公式の立場と、自らのそれをどのように整合させて
いくのかが、文氏の問題だ。文氏は金氏の持論を受け入れて、従来の自ら
の主張や現在の「パフォーマンス的な反日」を放棄するのだろうか。でき
るのだろうか。金氏に認めてもらうのに、そこまで自身を否定し、卑下で
きるのだろうか。そこまでできるのであれば逆に、文氏の大韓民国を滅ぼ
すという信念は本物だと言ってよいだろう。

朝鮮半島の現政権は、ここまで反日である。国民の半分は政権と激しく対
立してはいるが、現政権は日本にとって事実上の敵対勢力であることを日
本は冷静に見て取り、この新たな事態に軍事面を含めてあらゆる面で備え
ることだ。

米国はかつて米国の安全を守る防衛線として、朝鮮半島を除いたアチソン
ラインを引いた。その歴史が繰り返される体制がつくられていく可能性に
具体的に対応するときだ。

2019年03月10日

◆韓国の現政権は事実上の敵対勢力

櫻井よしこ


「韓国の現政権は事実上の敵対勢力 日本はあらゆる面から備えるべきだ」 

韓国大統領の文在寅氏が、1919(大正8)年3月1日に起きた反日独立の
「3・1運動」の100周年記念日を前に、2月26日、独立運動の活動家、金九
の記念館で閣議を開いた。戦時を除き、政府庁舎以外での閣議開催は初め
てだ。

文氏は、「国家的な意味を込め」た同閣議に先立ち、金九の墓をはじめ、
日本の初代首相、伊藤博文公を暗殺した安重根や日本の要人2人を殺害し
死刑になった尹奉吉ら、日本から見ればテロリストらの墓を続けて参拝し
たと、「産経新聞」が2月27日付で報じている。

他方、康京和韓国外相もスイスの国連人権理事会で異例の演説をした。
2015年に日韓両政府が慰安婦問題で最終的な合意をしたのは周知のとおり
だ。だが康氏は、その内容は「不十分」で、「被害者中心の取り組みを進
める必要がある」と、自国の前政権が誓約した合意を全面的に否定した。

日本側は菅義偉官房長官が「慰安婦問題の最終的で不可逆的な解決を日韓
政府間で確認した。政権が代わっても責任を持って実施されないといけな
い。合意の着実な実施は、わが国はもとより国際社会に対する責務だ」と
述べた。岩屋毅防衛相も自衛隊と韓国軍の関係について「韓国軍から緊張
を高めるような発信がなくなってきている」「緊張は徐々に解消に向かっ
ている」と語ったが、これ以上事を荒立てたくないとの思いで日本側が発
信するこれら警告や見方は通用していない。

戦時朝鮮人労働者問題、自衛隊機へのレーダー照射とその後も続く対日対
立姿勢、慰安婦問題での卓袱台返し、安重根ら礼讃の異例の閣議などは文
在寅政権の反日路線の表明だ。韓国全体の路線でなくとも、軌道修正は非
常に困難だと心得ておくべきだろう。

朝鮮半島全体を、歴史を縦軸とし、現在進行形の国際情勢を横軸として眺
めさえすれば、文氏がこれから直面する深刻な問題も、日本が進めるべき
対策も、明らかだ。

まず、文氏が直面する問題である。文氏は反日を意識する余り、日本を貶
め、日本に協力した人々(たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前
大統領)を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。また現在の大韓民国の起
源を前述の100年前の反日独立運動に求め、そのときの政府は大韓民国臨
時政府だとの立場をとる。

文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えてい
る。だが、北朝鮮に求愛する文政権に対して、朝鮮労働党委員長の金正恩
氏は全く異なる考えを持つ。

金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったり
もしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主
義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919
年も3・1運動も無意味だ。

この北朝鮮の主張及び公式の立場と、自らのそれをどのように整合させて
いくのかが、文氏の問題だ。文氏は金氏の持論を受け入れて、従来の自ら
の主張や現在の「パフォーマンス的な反日」を放棄するのだろうか。でき
るのだろうか。金氏に認めてもらうのに、そこまで自身を否定し、卑下で
きるのだろうか。そこまでできるのであれば逆に、文氏の大韓民国を滅ぼ
すという信念は本物だと言ってよいだろう。

朝鮮半島の現政権は、ここまで反日である。国民の半分は政権と激しく対
立してはいるが、現政権は日本にとって事実上の敵対勢力であることを日
本は冷静に見て取り、この新たな事態に軍事面を含めてあらゆる面で備え
ることだ。

米国はかつて米国の安全を守る防衛線として、朝鮮半島を除いたアチソン
ラインを引いた。その歴史が繰り返される体制がつくられていく可能性に
具体的に対応するときだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1270

            

2019年03月09日

◆米欧の距離拡大、世界は本当に変わるぞ

櫻井よしこ


2月15〜17日の3日間、ドイツのミュンヘンで開催された安全保障会議は米
欧関係のただならぬ軋轢を世界に示す場となった。米欧露中など多くの国
が集うこの会議は、世界の安全保障を協議する権威ある会議のひとつだ。
年来、同会議では米欧が相互に同じ立場に立って協調関係にあることを世
界に示してきた。それがいま、空中分解に近い形で、両者の溝の深さを曝
け出した。

世界情勢の分析における第一人者が田久保忠衛氏だ。氏は、ミュンヘン安
保会議で明らかになった米欧の亀裂の深さを、とりわけ日本は厳しく認識
しなければならないと説く。日米同盟が最重要なのは変わらないが、米国
一国とだけの緊密な関係では不十分な時代になっているというのである。

ドイツ首相アンゲラ・メルケル氏と、米副大統領マイク・ペンス氏の演説
から、重要な点を引いてみよう。

メルケル氏は、「国際関係は全て相互作用だ」、「世界は大いなる困惑
(パズル)」の中にあると語り始めた。

「欧州にとって、今年最悪のニュースは中距離核戦力(INF)全廃条約
の終結だ。何年にもわたるロシアの条約違反ゆえに、終結は不可避だっ
た。しかし、米ソ(露)はそもそも欧州のために同条約に合意したのでは
なかったか」

INF離脱を宣言したトランプ大統領を非難しながらも、ロシアの条約違
反にも言及するなど、バランスをとろうとしているのが見て取れる。

メルケル氏は中国も参加する新たなINF条約を作るべきだと訴えたが、
その後に演説したペンス氏はINF条約でロシアを非難した。さらにその
後に演説した中国共産党政治局員、楊潔篪氏は、メルケル提案に明確に反
対した。

イギリスのシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によれば、中国保
有の核兵器の95%がINF条約違反に当たる。拡大INF条約ができたと
しても、中国の加盟はあり得ない。まさにその点こそが米国離脱の理由で
ある。楊氏はこの点を問われ、素っ気なく「中国は自国防衛の必要性にお
いて核兵器の開発をしており、他国の脅威にはなっていない。INF全廃
条約の多国間化には反対だ」と答えた。

凄味のある指摘

INF条約に入るはずのない中国に参加を要請するなど、メルケル氏は親
中国である。なぜ、そうなのか。氏が演説後半で中国について語った非常
に興味深い部分は、氏の親中国の要因のひとつでもあろうか。

その話は後述するとして、欧州の安全保障について、ペンス氏は、2年前
の自身の演説を振りかえり、「アメリカ第一」は「アメリカ独り」を意味
するのではないと強調した。北大西洋条約機構(NATO)防衛に対する
「固い誓い」は米国の変わらぬ政策だと明言した後、NATO加盟国の国
防費問題をもち出した。経済活性化策を成功させ、歴史的な大減税と大幅
規制緩和を実行し、貿易における相互原則を打ち立て力をつけた米国は、
いまや世界最大の石油・天然ガスの輸出国でもある、その米国がNATO
を守ると確約しているのだと強調した。

だが、それにはNATO諸国の自助努力も必要だとして、加盟諸国は
GDPの2%を国防費に充て、2024年には国防費の20%を装備購入に充て
るよう期待すると述べた。ペンス氏の発言は、NATO諸国が敵対国から
武器装備を輸入するのを、米国は見逃しはしないという発言と対であるか
ら、米国の武器装備を買えということだ。

メルケル氏も負けてはいない。そのひとつが「ノルドストリーム2」であ
る。ロシアの天然ガス輸出のためのパイプラインを、これまで中継国とし
て自国領土に通していたウクライナを迂回し、バルト海の海底に敷設して
ドイツが中継国になった。

ペンス氏は、全ての欧州諸国に独露パイプライン計画に反対するよう強く
呼びかけたが、メルケル氏はこう反論した。

「ウクライナを置いてけぼりにはしない。東ドイツは冷戦の時代、ロシア
のガスを買っていた。後に西独も大量に買った。いまなぜ、とやかく言わ
れるのか」、「私の左にウクライナ大統領のポロシェンコ氏、右には中国
代表の楊潔篪氏がいる前で言いにくいが、我々はロシアを中国に依存させ
てよいのか。ロシアのガス輸入を中国頼りにしてよいのか。それが欧州の
利益だとは思えない」。

米国への堂々たる反論である。中国依存にロシアを追いやってよいのか、
とは凄味のある指摘ではないか。

それでもペンス氏は、メルケル氏のノルドストリーム2を強く批判した。
対してメルケル氏は、米国の貿易赤字解消のために車に関税をかける、欧
州車が米国の安全保障の脅威になっていると主張したことを、鮮やかに
斬って捨てた。

メルケル氏の中国観

「ドイツ車は我々の誇りだ。だがBMWの最大の工場はドイツにはなく、
米国のサウス・カロライナにある。米国はそこからBMWを中国に輸出し
ているではないか!」

米国にとっては抗弁の余地のない批判をメルケル氏は舌鋒鋭く展開し、大
西洋同盟を維持する気があるのなら、このような無理な批判はするなと反
撃したのだ。

メルケル氏とペンス氏の間の溝は中国のファーウェイの脅威についても、
イランとの核合意についても全く埋まらなかった。その中でメルケル氏の
中国観は、日本人の私たちこそ記憶にとどめておくべきだろう。彼女は
ざっと以下のように語った。

中国を訪れたとき、中国政府要人はこう語ったという。「紀元後の2000年
間の内、1700年間は我々が世界最大の経済大国だった。驚くことではな
い。これから起こることは、我々が以前の場所に戻るというだけだ。(中
国が大国でなかった)過去300年間、あなたにその経験と記憶がないだけ
の話だ。この300年間は、まずヨーロッパ人が支配し、次に米国人が、そ
していま我々が共に支配している」。

次の段階で中国は以前の地位に戻ると、中国要人がドイツの現役首相に
語ったというのだ。
「我々は中国が立ち上がり、駆け上がってくるのを、見ているのだ」

『週刊新潮』 2019年3月7日号 日本ルネッサンス 第842回
                                  
          

2019年03月08日

◆世界は本当に変わるぞ

櫻井よしこ


「米欧の距離拡大、世界は本当に変わるぞ」

2月15〜17日の3日間、ドイツのミュンヘンで開催された安全保障会議は米
欧関係のただならぬ軋轢を世界に示す場となった。米欧露中など多くの国
が集うこの会議は、世界の安全保障を協議する権威ある会議のひとつだ。
年来、同会議では米欧が相互に同じ立場に立って協調関係にあることを世
界に示してきた。それがいま、空中分解に近い形で、両者の溝の深さを曝
け出した。

世界情勢の分析における第一人者が田久保忠衛氏だ。氏は、ミュンヘン安
保会議で明らかになった米欧の亀裂の深さを、とりわけ日本は厳しく認識
しなければならないと説く。日米同盟が最重要なのは変わらないが、米国
一国とだけの緊密な関係では不十分な時代になっているというのである。

ドイツ首相アンゲラ・メルケル氏と、米副大統領マイク・ペンス氏の演説
から、重要な点を引いてみよう。

メルケル氏は、「国際関係は全て相互作用だ」、「世界は大いなる困惑
(パズル)」の中にあると語り始めた。

「欧州にとって、今年最悪のニュースは中距離核戦力(INF)全廃条約
の終結だ。何年にもわたるロシアの条約違反ゆえに、終結は不可避だっ
た。しかし、米ソ(露)はそもそも欧州のために同条約に合意したのでは
なかったか」

INF離脱を宣言したトランプ大統領を非難しながらも、ロシアの条約違
反にも言及するなど、バランスをとろうとしているのが見て取れる。

メルケル氏は中国も参加する新たなINF条約を作るべきだと訴えたが、
その後に演説したペンス氏はINF条約でロシアを非難した。さらにその
後に演説した中国共産党政治局員、楊潔篪氏は、メルケル提案に明確に反
対した。

イギリスのシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によれば、中国保
有の核兵器の95%がINF条約違反に当たる。拡大INF条約ができたと
しても、中国の加盟はあり得ない。まさにその点こそが米国離脱の理由で
ある。楊氏はこの点を問われ、素っ気なく「中国は自国防衛の必要性にお
いて核兵器の開発をしており、他国の脅威にはなっていない。INF全廃
条約の多国間化には反対だ」と答えた。

凄味のある指摘

INF条約に入るはずのない中国に参加を要請するなど、メルケル氏は親
中国である。なぜ、そうなのか。氏が演説後半で中国について語った非常
に興味深い部分は、氏の親中国の要因のひとつでもあろうか。

その話は後述するとして、欧州の安全保障について、ペンス氏は、2年前
の自身の演説を振りかえり、「アメリカ第一」は「アメリカ独り」を意味
するのではないと強調した。北大西洋条約機構(NATO)防衛に対する
「固い誓い」は米国の変わらぬ政策だと明言した後、NATO加盟国の国
防費問題をもち出した。経済活性化策を成功させ、歴史的な大減税と大幅
規制緩和を実行し、貿易における相互原則を打ち立て力をつけた米国は、
いまや世界最大の石油・天然ガスの輸出国でもある、その米国がNATO
を守ると確約しているのだと強調した。

だが、それにはNATO諸国の自助努力も必要だとして、加盟諸国は
GDPの2%を国防費に充て、2024年には国防費の20%を装備購入に充て
るよう期待すると述べた。ペンス氏の発言は、NATO諸国が敵対国から
武器装備を輸入するのを、米国は見逃しはしないという発言と対であるか
ら、米国の武器装備を買えということだ。

メルケル氏も負けてはいない。そのひとつが「ノルドストリーム2」であ
る。ロシアの天然ガス輸出のためのパイプラインを、これまで中継国とし
て自国領土に通していたウクライナを迂回し、バルト海の海底に敷設して
ドイツが中継国になった。

ペンス氏は、全ての欧州諸国に独露パイプライン計画に反対するよう強く
呼びかけたが、メルケル氏はこう反論した。

「ウクライナを置いてけぼりにはしない。東ドイツは冷戦の時代、ロシア
のガスを買っていた。後に西独も大量に買った。いまなぜ、とやかく言わ
れるのか」、「私の左にウクライナ大統領のポロシェンコ氏、右には中国
代表の楊潔篪氏がいる前で言いにくいが、我々はロシアを中国に依存させ
てよいのか。ロシアのガス輸入を中国頼りにしてよいのか。それが欧州の
利益だとは思えない」。

米国への堂々たる反論である。中国依存にロシアを追いやってよいのか、
とは凄味のある指摘ではないか。

それでもペンス氏は、メルケル氏のノルドストリーム2を強く批判した。
対してメルケル氏は、米国の貿易赤字解消のために車に関税をかける、欧
州車が米国の安全保障の脅威になっていると主張したことを、鮮やかに
斬って捨てた。

メルケル氏の中国観

「ドイツ車は我々の誇りだ。だがBMWの最大の工場はドイツにはなく、
米国のサウス・カロライナにある。米国はそこからBMWを中国に輸出し
ているではないか!」

米国にとっては抗弁の余地のない批判をメルケル氏は舌鋒鋭く展開し、大
西洋同盟を維持する気があるのなら、このような無理な批判はするなと反
撃したのだ。

メルケル氏とペンス氏の間の溝は中国のファーウェイの脅威についても、
イランとの核合意についても全く埋まらなかった。その中でメルケル氏の
中国観は、日本人の私たちこそ記憶にとどめておくべきだろう。彼女は
ざっと以下のように語った。

中国を訪れたとき、中国政府要人はこう語ったという。「紀元後の2000年
間の内、1700年間は我々が世界最大の経済大国だった。驚くことではな
い。これから起こることは、我々が以前の場所に戻るというだけだ。(中
国が大国でなかった)過去300年間、あなたにその経験と記憶がないだけ
の話だ。この300年間は、まずヨーロッパ人が支配し、次に米国人が、そ
していま我々が共に支配している」。

次の段階で中国は以前の地位に戻ると、中国要人がドイツの現役首相に
語ったというのだ。

「我々は中国が立ち上がり、駆け上がってくるのを、見ているのだ」

メルケル氏はこう語った。つまり中国要人の主張が現実になると考えてい
るのであろう。米欧の距離はすでに遠く、なお遠くなるだろう。

ペンス氏は、メルケル氏とは対照的に中国の知的財産の窃盗から南シナ海
での侵略、債務の罠まで手厳しく非難した。この中国批判は正しいが、米
国に関する深刻な懸念は、米欧同盟の戦略的重要性を十分把握しないトラ
ンプ大統領が、いま中国と厳しく向き合うことの重要性を理解できず、妥
協してしまうことである。

『週刊新潮』 2019年3月7日  日本ルネッサンス 第842回

2019年03月07日

◆日本人がキリスト教と出会った戦国時代

櫻井よしこ


「日本人がキリスト教と出会った戦国時代 私たちは真の歴史を知ってお
くべきだ」

三浦小太郎氏が『なぜ秀吉はバテレンを追放したのか』(ハート出版)
で、戦国の武将たちが目指した国造りの理想と苦労をじっくり描いている。

豊臣秀吉らのキリスト教排斥を理解するには、日本人がキリスト教と初め
て出会った戦国時代より前の中世の日本の実態を知らなければならないと
し、三浦氏は当時の日本を「乱暴狼藉の時代」と定義する。室町時代から
戦国時代は、中央権力弱体化と個人の自立と都市共同体の自治確立に向か
う時代であり、自由と変革の時代だからこそ、浄土真宗、日蓮宗、禅宗な
ど新しい信仰が生まれ、人々はキリスト教伝来もその次元で受け入れたと
いう。

「乱暴狼藉」の実態を、三浦氏は上杉謙信を攻めた武田信玄の事例を通し
て描いた。農民も含めた武田の雑兵たちは、敵を倒せば刀や武具を奪い、
馬や女性などを「乱取」した。武田領内で待つ雑兵たちの家族や村人は、
略奪品によって豊かになった。

これが社会の実態だったのであり、「戦国時代、大名同士の戦争を(中
略)傍観者的に眺めていたという、よくある歴史小説的な風景は、現実と
はかけ離れたものだった」「戦場に略奪に赴かねば飢餓に襲われるような
危機的状況が、戦国時代には日常として存在していた」のであり、このよ
うな状態を改め、平和で秩序ある国を目指したのが織田信長や秀吉だっ
た、それを阻んだのがキリスト教伝道者だったという指摘はそのとおりで
あろう。

日本と西洋の最初の出会いはポルトガル人だった。彼らは恐ろしい人々
だ。アフリカ西岸のプラヴァで、ポルトガル兵は、住民の女性の銀の腕輪
が抜き取れなかったため腕ごと切断した。その数800に近かったという。

貿易と共にキリスト教も伝来した。ポルトガル人宣教師ルイス・フロイス
の長崎上陸は1563年だ。フロイスらのイエズス会は日本をキリスト教国に
するには大名による上からの改宗運動が重要だと考え、まず大名を改宗さ
せた。しかしこう書いている。

「布教事業がこのように進展した後にもまた、寺社を破壊し絶滅するにつ
いてなお困難があった」

神道や仏教を絶滅させたいと切望したフロイスは伊勢神宮について1585年
8月27日の書簡に書いた。

「我らの主が彼(キリシタン大名で伊勢の国の領主になった蒲生氏郷)
に、天照大神を破壊する力と恩寵を与えるだろうと、我らは期待している」

キリシタン大名で肥前(長崎県)の城主だった有馬晴信の領地の小島に、
多くの仏像が置かれた洞窟があり、人々の礼拝の対象になっていたことに
ついて、フロイスは、「悪魔は何年も前から、この恐ろしくぞっとするよ
うな場所を、おのれを礼拝させるための格好の場として占有していた」と
も語っている。ある宣教師は日本人の信者に、「あなたの罪の償いとして
考えられることの一つは」「通りすがりに最初の人としてどこかの寺院を
焼き始めることです」とそそのかしている。

秀吉は天下統一を成し遂げた1590年に日本全土の平和構築に向けて、
(1)浪人停止令、(2)海賊停止令、(3)喧嘩停止令を出した。その2年
前には武器なき社会を目指して刀狩りも行った。

平和と秩序を目指す秀吉が宣教師らに憤るのは当然だ。秀吉は1587年6
月、大名は領国内でキリシタン門徒に寺社を破壊させてはならない、大名
は領地を一時的に預かっているのであり、天下の法に従わねばならない、
宣教師たちの仏教寺院攻撃も、破壊することで信者をふやそうとするのは
許されないとして、キリシタンを「邪法」とし、宣教師たちに20日以内の
退去を命じた。

彼らは多くの日本人を奴隷にし、国外に売りとばしもした。日本をキリシ
タン弾圧で批判する前に、私たちは真の歴史を知っておくべきだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月2日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1269 


2019年03月06日

◆日本人がキリスト教と出会った戦国時代

櫻井よしこ


「日本人がキリスト教と出会った戦国時代 私たちは真の歴史を知っ
ておくべきだ」

三浦小太郎氏が『なぜ秀吉はバテレンを追放したのか』(ハート出版)
で、戦国の武将たちが目指した国造りの理想と苦労をじっくり描いている。

豊臣秀吉らのキリスト教排斥を理解するには、日本人がキリスト教と初め
て出会った戦国時代より前の中世の日本の実態を知らなければならないと
し、三浦氏は当時の日本を「乱暴狼藉の時代」と定義する。室町時代から
戦国時代は、中央権力弱体化と個人の自立と都市共同体の自治確立に向か
う時代であり、自由と変革の時代だからこそ、浄土真宗、日蓮宗、禅宗な
ど新しい信仰が生まれ、人々はキリスト教伝来もその次元で受け入れたと
いう。

「乱暴狼藉」の実態を、三浦氏は上杉謙信を攻めた武田信玄の事例を通し
て描いた。農民も含めた武田の雑兵たちは、敵を倒せば刀や武具を奪い、
馬や女性などを「乱取」した。武田領内で待つ雑兵たちの家族や村人は、
略奪品によって豊かになった。

これが社会の実態だったのであり、「戦国時代、大名同士の戦争を(中
略)傍観者的に眺めていたという、よくある歴史小説的な風景は、現実と
はかけ離れたものだった」「戦場に略奪に赴かねば飢餓に襲われるような
危機的状況が、戦国時代には日常として存在していた」のであり、このよ
うな状態を改め、平和で秩序ある国を目指したのが織田信長や秀吉だっ
た、それを阻んだのがキリスト教伝道者だったという指摘はそのとおりで
あろう。

日本と西洋の最初の出会いはポルトガル人だった。彼らは恐ろしい人々
だ。アフリカ西岸のプラヴァで、ポルトガル兵は、住民の女性の銀の腕輪
が抜き取れなかったため腕ごと切断した。その数800に近かったという。

貿易と共にキリスト教も伝来した。ポルトガル人宣教師ルイス・フロイス
の長崎上陸は1563年だ。フロイスらのイエズス会は日本をキリスト教国に
するには大名による上からの改宗運動が重要だと考え、まず大名を改宗さ
せた。しかしこう書いている。

「布教事業がこのように進展した後にもまた、寺社を破壊し絶滅するにつ
いてなお困難があった」

神道や仏教を絶滅させたいと切望したフロイスは伊勢神宮について1585年
8月27日の書簡に書いた。

「我らの主が彼(キリシタン大名で伊勢の国の領主になった蒲生氏郷)
に、天照大神を破壊する力と恩寵を与えるだろうと、我らは期待している」

キリシタン大名で肥前(長崎県)の城主だった有馬晴信の領地の小島に、
多くの仏像が置かれた洞窟があり、人々の礼拝の対象になっていたことに
ついて、フロイスは、「悪魔は何年も前から、この恐ろしくぞっとするよ
うな場所を、おのれを礼拝させるための格好の場として占有していた」と
も語っている。ある宣教師は日本人の信者に、「あなたの罪の償いとして
考えられることの一つは」「通りすがりに最初の人としてどこかの寺院を
焼き始めることです」とそそのかしている。

秀吉は天下統一を成し遂げた1590年に日本全土の平和構築に向けて、
(1)浪人停止令、(2)海賊停止令、(3)喧嘩停止令を出した。その2年
前には武器なき社会を目指して刀狩りも行った。

平和と秩序を目指す秀吉が宣教師らに憤るのは当然だ。秀吉は1587年6
月、大名は領国内でキリシタン門徒に寺社を破壊させてはならない、大名
は領地を一時的に預かっているのであり、天下の法に従わねばならない、
宣教師たちの仏教寺院攻撃も、破壊することで信者をふやそうとするのは
許されないとして、キリシタンを「邪法」とし、宣教師たちに20日以内の
退去を命じた。

彼らは多くの日本人を奴隷にし、国外に売りとばしもした。日本をキリシ
タン弾圧で批判する前に、私たちは真の歴史を知っておくべきだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月2日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1269 

2019年03月05日

◆日本人がキリスト教と出会った戦国時代

櫻井よしこ


「日本人がキリスト教と出会った戦国時代 私たちは真の歴史を知ってお
くべきだ」

三浦小太郎氏が『なぜ秀吉はバテレンを追放したのか』(ハート出版)
で、戦国の武将たちが目指した国造りの理想と苦労をじっくり描いている。

豊臣秀吉らのキリスト教排斥を理解するには、日本人がキリスト教と初め
て出会った戦国時代より前の中世の日本の実態を知らなければならないと
し、三浦氏は当時の日本を「乱暴狼藉の時代」と定義する。室町時代から
戦国時代は、中央権力弱体化と個人の自立と都市共同体の自治確立に向か
う時代であり、自由と変革の時代だからこそ、浄土真宗、日蓮宗、禅宗な
ど新しい信仰が生まれ、人々はキリスト教伝来もその次元で受け入れたと
いう。

「乱暴狼藉」の実態を、三浦氏は上杉謙信を攻めた武田信玄の事例を通し
て描いた。農民も含めた武田の雑兵たちは、敵を倒せば刀や武具を奪い、
馬や女性などを「乱取」した。武田領内で待つ雑兵たちの家族や村人は、
略奪品によって豊かになった。

これが社会の実態だったのであり、「戦国時代、大名同士の戦争を(中
略)傍観者的に眺めていたという、よくある歴史小説的な風景は、現実と
はかけ離れたものだった」「戦場に略奪に赴かねば飢餓に襲われるような
危機的状況が、戦国時代には日常として存在していた」のであり、このよ
うな状態を改め、平和で秩序ある国を目指したのが織田信長や秀吉だっ
た、それを阻んだのがキリスト教伝道者だったという指摘はそのとおりで
あろう。

日本と西洋の最初の出会いはポルトガル人だった。彼らは恐ろしい人々
だ。アフリカ西岸のプラヴァで、ポルトガル兵は、住民の女性の銀の腕輪
が抜き取れなかったため腕ごと切断した。その数800に近かったという。

貿易と共にキリスト教も伝来した。ポルトガル人宣教師ルイス・フロイス
の長崎上陸は1563年だ。フロイスらのイエズス会は日本をキリスト教国に
するには大名による上からの改宗運動が重要だと考え、まず大名を改宗さ
せた。しかしこう書いている。

「布教事業がこのように進展した後にもまた、寺社を破壊し絶滅するにつ
いてなお困難があった」

神道や仏教を絶滅させたいと切望したフロイスは伊勢神宮について1585年
8月27日の書簡に書いた。

「我らの主が彼(キリシタン大名で伊勢の国の領主になった蒲生氏郷)
に、天照大神を破壊する力と恩寵を与えるだろうと、我らは期待している」

キリシタン大名で肥前(長崎県)の城主だった有馬晴信の領地の小島に、
多くの仏像が置かれた洞窟があり、人々の礼拝の対象になっていたことに
ついて、フロイスは、「悪魔は何年も前から、この恐ろしくぞっとするよ
うな場所を、おのれを礼拝させるための格好の場として占有していた」と
も語っている。ある宣教師は日本人の信者に、「あなたの罪の償いとして
考えられることの一つは」「通りすがりに最初の人としてどこかの寺院を
焼き始めることです」とそそのかしている。

秀吉は天下統一を成し遂げた1590年に日本全土の平和構築に向けて、
(1)浪人停止令、(2)海賊停止令、(3)喧嘩停止令を出した。その2年
前には武器なき社会を目指して刀狩りも行った。

平和と秩序を目指す秀吉が宣教師らに憤るのは当然だ。秀吉は1587年6
月、大名は領国内でキリシタン門徒に寺社を破壊させてはならない、大名
は領地を一時的に預かっているのであり、天下の法に従わねばならない、
宣教師たちの仏教寺院攻撃も、破壊することで信者をふやそうとするのは
許されないとして、キリシタンを「邪法」とし、宣教師たちに20日以内の
退去を命じた。

彼らは多くの日本人を奴隷にし、国外に売りとばしもした。日本をキリシ
タン弾圧で批判する前に、私たちは真の歴史を知っておくべきだ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年3月2日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1269