2018年12月13日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259


2018年12月12日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。

台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外
省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のよう
に、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大
敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。

だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月11日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259

2018年12月10日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。

だが政教分離は宗教に対する圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一
切の宗教色を持たせてはならないという意味ではない。そもそも神話の時
代からの伝統を宗教だと断じて切り捨てること自体、間違いである。200
年振りの御代替わりの儀式は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏ま
えるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259
                    

2018年12月09日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259

2018年12月08日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。

台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外
省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のよう
に、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大
敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。

だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月07日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の
現状は守りきれない。外省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前
総統の馬英九氏のように、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今
回のような民進党の大敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場から
は、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。
だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月06日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年12月05日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年12月04日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258 

2018年12月03日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が2人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258 


2018年12月02日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに
貢献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年11月29日

◆将来に禍根残しかねない入管法改正案

櫻井よしこ


「将来に禍根残しかねない入管法改正案 日本は外国人政策の全体像
を見直す時だ」

安倍晋三首相も自民党も一体どうしたのか。まるで無責任な野党と同じで
はないか。

外国人労働者受け入れを大幅に拡大する出入国管理法改正案についての国
会論戦を聞いていると、普段は無責任な野党の方がまともに見える。それ
程、自民・公明の政権与党はおかしい。

11月2日の閣議決定に至るまで、同法について自民党の部会で激しい議論
が何日間も続き、発言者の9割が法案に強く反対した。しかし結局、外国
人労働者の受け入れを大枠で了承し、法律の詳細は省令で決定するという
異例の決着を見た。

深刻な人手不足ゆえに倒産が相ついでいるといわれる建設業界や介護業界
の悲鳴のような要請を無視できないという事情はあるにしても、この法改
正は将来に深刻な禍根を残しかねない。

今回の改正で受け入れる外国人の資格として「特定技能1号」と「2号」が
設けられ、「1号」の労働者の「技能水準」は「相当程度の知識又は経験
を必要とする技能」とされた。「2号」の労働者の技能水準は「熟練した
技能」とされた。

前者の「相当程度」とはどんな程度なのか。後者の「熟練」とはどの程度
か。いずれも定義されていない。

眼前の人手不足解消のために何が何でも外国人を入れたいという姿勢が見
てとれる。あえていえば政府案は外国人の野放図な受け入れ策でしかない。

外国人は単なる労働者ではない。誇りも独自の文化も家族もある人間だ。
いったん来日して3年、5年と住む内に、安定した日本に永住したくなり、
家族を呼び寄せたくなる人がふえるのは目に見えている。その時彼らが機
械的に日本を去るとは思えない。すると日本社会にどんな影響が出るだろ
うか。欧州諸国は移民を入れすぎて失敗した。政府は今回の受け入れは移
民政策ではないと繰り返すが、5年間で最大34万人とみられる労働者が事
実上の移民にならないという保証はない。

日本にはすでに258万人の外国人が住んでいるのである。その中で目立つ
のは留学生の急増だ。2013年末に19万人だったのが17年末までの4年間に
31万人にふえた。技能実習生は16万人から27万人に、一般永住者は66万人
から75万人にふえた。

日本には特別永住者と一般永住者の2種類がある。前者は戦前日本の統治
下にあった朝鮮半島や台湾の人々、その子孫に与えられている地位であ
る。彼らは日本に帰化したり日本人と結婚したりで、日本への同化が進
み、その数はこの4年間で37万人から33万人に減少した。

問題は一般永住者である。シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の
西岡力氏の調査によると、17年末で75万人の一般永住者の3分の1、25万人
が中国人だ。一般永住者は日本人と同等の権利を与えられた外国人と考え
てよい。滞在期間は無制限で、配偶者や子供にも在留資格が与えられる。
活動も日本国民同様、何ら制限もない。彼らが朝鮮総連のような祖国に忠
誠を誓う政治組織を作ることも現行法では合法だ。

他方中国政府は10年に国防動員法を制定し、緊急時には海外在住の中国国
民にも国家有事の動員に応ずることを義務づけた。仮に、日中両国が紛争
状態に陥った時、在日中国人が自衛隊や米軍の活動を妨害するために後方
を攪乱する任務に就くことも十分に考えられる。

一般永住資格はかつて日本に20年間居住していなければ与えられなかった
が、98年に国会審議もなしに、法務省がガイドラインで「原則10年以上の
居住」に緩和した。その結果、20年間で9万人から75万人へと、8倍以上に
ふえた。今回の外国人労働者の扱いだけでなく、一般永住者の資格も含め
て日本国として外国人政策の全体像を見直す時であろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年11月24日号
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