2018年12月16日

◆日本は既に移民大国

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回


    

2018年12月15日

◆迫る御代替わり、国柄を知る機会とせよ

櫻井よしこ


「迫る御代替わり、国柄を知る機会とせよ」

天皇皇后両陛下の各地へのおでましが続いている。今年、雨の園遊会では
お二人で大きなビニール傘を一緒にさされていた。お二人は寄り添われる
ように歩まれ、お言葉をかけられ、慈愛に満ちた視線を人々に注がれる。
そのご様子をメディアは「この行事への」或いは「この地への」、「最後
のご出席」「最後の行幸啓」と報じる。

あと数か月で今上陛下は本当に譲位なさり、新天皇が即位される。御代替
わりが近づいている。

日本にとって、東京五輪よりはるかに大事なのが御代替わりだ。日本の国
柄を体現する、重要な歴史の一局面である。世界の元首百数十人を迎え
て、広く世界に日本国を印象づける好機である。だが、政治家もメディア
も世論も、御代替わりについてあまり考えていないと懸念するのは、心配
しすぎだろうか。光格天皇以来200年振りのご譲位を機に、日本の国柄へ
の理解を内外において深めようという熱気が感じられない。

そんなときに日本政策研究センターが『解説 即位の礼・大嘗祭』(以下
『解説』)という60頁余の小冊子を出版した。御代替わりのさまざまな儀
式を通して、皇室とはどんな存在か、皇室を戴く日本はどんな国か、ここ
に至るまでにどんな歴史を辿ったのかを、非常に簡潔かつ適切にまとめて
いる。来春に迫った御代替わりと、日本の深く長い歴史を認識するのに格
好の教科書である。以下『解説』の内容を紹介する。

来年2月24日、ご譲位に向けてまず、政府が「天皇陛下御在位三十年記念
式典」を主催し、この後、一連の行事が続く。4月30日に「退位礼正殿の
儀」が執り行われる。これによって陛下のご譲位(政府はこれをご退位と
言っている)が国民に宣言される。

ご譲位は江戸時代の光格天皇以来のことで、約200年間、事例がなかった
ために、どのような関連儀式があるのかについて現行の皇室典範には規定
がない。そのために先例を基本にして、今回、新たに国の儀式として創設
したという。柱は二つ、内閣総理大臣から陛下への「奉謝」と天皇陛下の
「おことば」である。

皇室に批判的な勢力

首相が国民を代表して天皇陛下に感謝の気持ちを捧げ、天皇陛下がご譲位
に際してのお気持を表明される。天皇陛下の「おことば」は、本来、「譲
位宣命(せんみょう)」と呼ばれ、譲位に際しての大事な核を成していた。
しかし、平成のいま「譲位宣命」ではなく「おことば」と平易な表現にさ
れたわけだ。

今上陛下のご譲位が宣言された翌5月1日には、皇太子さまが第126代天皇
に即位なさる即位の礼が国の儀式として行われる。即位の礼の行事は、ご
即位当日に行われるものと、それから約半年後の秋に行われるものに大別
される。

ご即位直後の行事が「剣璽(けんじ)等承継の儀」と「即位後朝見の儀」だ。

周知のことだが、三種の神器は簡単にいえば、鏡と剣(つるぎ)と勾玉(ま
がたま)。正式に言えば草薙剣(くさな ぎのつるぎ)と八坂瓊勾玉(やさか
にのまがたま)、それに八咫(やたの)鏡(かがみ)である。

また「剣璽」とは三種の神器のうちの二つ、剣と勾玉を意味する。従って
「剣璽等承継の儀」は新天皇がこの二つの神器を受け継がれる儀式という
意味だ。

残るひとつ、八咫鏡は最も神聖な神器として賢所に奉安されており、儀式
で動かされることはない。

さて、ここで『解説』は大事なことを指摘している。旧皇室典範では「天
皇崩スルトキハ皇嗣即チ践祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」と書かれており、この
規定に基づいて「剣璽渡御(とぎょ)の儀」が行われる決まりになっていた。

ところが昭和天皇崩御による御代替わりが起きたとき、皇室に批判的な勢
力が現行憲法に定めている政教分離(憲法20条)を盾に、「渡御」はまか
りならぬと主張し、政府は「渡御」という表現を「承継」に変えざるを得
なかったというのだ。また「剣璽渡御の儀」には「等」の一文字が加えら
れ、前述のように「渡御」も否定され、「剣璽等承継の儀」となった。本
来、剣と勾玉の二つの神器を意味していた剣璽が「等」の一文字が入って
「御璽(ぎょじ)」(天皇の印、おおみしるし)、「国璽(こくじ)」も含ま
れる意味に拡大された。つまり「皇位」とともに新天皇に伝わるべき由緒
ある物の継承という建前になった。

「剣璽渡御」は皇室の由来を、剣と勾玉に象徴される、深く豊かな日本の
神話につなげる意味合いが濃かったが、その色を薄める結果になった。

皇室に批判的な勢力は、剣璽は神話に基づく。従って政教分離の趣旨に反
する、国の儀式として不適切だとも主張する。

世界は感動している

だが、神話と宗教は異なる。どの民族にもどの国にも、国の誕生と民族生
成物語としての神話がある。神話の否定は、民族の精神性や文化の否定
だ。民族のルーツを断ち切るようなものだ。国家というものは伝統や宗教
的な価値観を一切合切排除してしまえば、もはや成り立つものではないだ
ろう。

昭和天皇崩御の時の大喪の礼を振りかえると、政教分離という言葉が飛び
交っていた。憲法20条第3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いか
なる宗教的活動もしてはならない」と定めている。これを表面的、機械的
にとらえて宗教性が強いとして、大喪の礼への国の関わりを批判する声が
あった。たとえば葬場殿の儀は宗教儀式だとして、国ではなく、皇室の公
的行事として行われた。続く大喪の礼では、宗教色をなくすため鳥居が除
かれた。日本の伝統に基づけば穏やかに行われるべき自然なことが批判さ
れたが、政教分離については最高裁判例がある。『解説』から引用する。

まず、憲法が禁じる「宗教的活動」とは「国およびその機関の活動で宗教
とのかかわり合いをもつすべての行為をさすものではな」いと最高裁は判
断している。

憲法が禁じているのは、社会的、文化的諸条件に照らして、「かかわり合
いが相当とされる限度を超えるもの」であり、「行為の目的が宗教的意義
をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等にな
るような行為」だと限定されている。

最高裁判例は、政府が特定の宗教を援助したり、反対に圧迫したりするこ
とは許されないが、常識の枠内での政治と宗教の融合は禁じてはいないと
いう意味だろう。むしろ日本人の自然観と宗教観の美しい融合に、世界は
感動している。それを象徴していたのが大喪の礼である。イスラエルのヘ
ルツォグ大統領(当時)は次のように語っていた。

「昭和天皇の御喪儀を通じ、日本の偉大な伝統に接し、深い感銘を受け
た。……皮相な現代の世にあって良い伝統を近代化の中に維持していること
に敬意を表する」

御代替わりに関連して、日本の歴史や国柄を学びたいものだ。
『週刊新潮』 2018年11月29日号 日本ルネッサンス 第829回

         

2018年12月14日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回

2018年12月13日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259


2018年12月12日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。

台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外
省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のよう
に、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大
敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。

だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月11日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259

2018年12月10日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。

だが政教分離は宗教に対する圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一
切の宗教色を持たせてはならないという意味ではない。そもそも神話の時
代からの伝統を宗教だと断じて切り捨てること自体、間違いである。200
年振りの御代替わりの儀式は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏ま
えるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259
                    

2018年12月09日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259

2018年12月08日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。

台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外
省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のよう
に、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大
敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。

だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月07日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の
現状は守りきれない。外省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前
総統の馬英九氏のように、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今
回のような民進党の大敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場から
は、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。
だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回

2018年12月06日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年12月05日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258

2018年12月04日

◆中国と対話を続けるダライ・ラマ法王

櫻井よしこ


「中国と対話を続けるダライ・ラマ法王 チベット仏教は人類の幸せに貢
献する」

ダライ・ラマ法王にお会いするのは2年振りだった。昨年秋、来日予定
だったが、医師の助言で急遽中止された。今年、法王のお顔は明るく、頬
は健康的なうすいピンク色だった。

今回、ネット配信の「言論テレビ」の番組で取材したのは激動する世界
で、大国中国に弾圧され続けるチベット民族の未来や混乱する価値観の方
向性について、83歳になられた法王に聞いてみたいと考えたからだ。三度
目の番組出演に、法王は快く応じ、中国との関係についての質問には意外
な答えが返ってきた。

ダライ・ラマ法王がインドに亡命して来年で60年になる。近年、中国との
関係は断絶されたと言われてきた。法王がいくら対話を求めても、中国政
府は応じることなく、一方的に「分裂主義者」「反逆者」「犯罪人」など
の酷い非難を法王に浴びせてきた。ところが状況は改善に向かっている
と、法王は次のように語ったのだ。

「この数年間、(私への)批判は大幅に減りました。私と中国との関係
は、まず、1979年、私が中国政府と直接接触し、その後数年間、こちらの
代表が先方を訪れて話し合う形で対話は続きました。それは中断されたの
ですが、私と中国指導部の接触は非公式な形でいまも続いています」

対話は断絶しておらず、非公式だが現在も続いているというのだ。そこで
再度、その点を確認した。

「そうです。ビジネスマンや引退した当局者が、時々私に会いにきます。
私たちは関係を続けているのです」と、法王。

中国共産党一党支配を浸透させようと、あらゆる監視体制をとって国民の
動向を見張っている習近平政権の下では、ビジネスマンであろうが引退し
た当局者であろうが、自由意思でダライ・ラマ法王に接触することなどで
きない。彼らの訪問が習政権の意を受けているのは明らかだ。

如何なる形であっても対話の継続は重要だ。一方で、政権の意を受けた人
間が法王に面会するのは、法王の健康状態も含めて亡命チベット政府の状
況を監視する活動の一環ではないかと、つい、私は警戒してしまう。

後継者問題についても尋ねた。中国共産党政権が次のダライ・ラマは自分
たちが選ぶと宣言したことを尋ねると、法王は「ノープロブレムだ」と、
次のように語った。

「(ダライ・ラマに次ぐ高位の)パンチェン・ラマには後継者が二人いま
す。一人は私が選び、一人は中国政府が選びました。多くの中国当局者
が、中国が選んだのは偽のパンチェン・ラマだと言っています」

法王の生まれ変わりが次のダライ・ラマになる「ダライ・ラマ制度」につ
いても重要なことを語った。

「後継者について深刻な心配はしていません。1969年以降、私は後継者問
題はチベット人に任せると表明してきました。最終的にはダライ・ラマと
特別な関係にあるモンゴル人を含む人々を招集して決めればよい。私が90
歳になったらダライ・ラマ制度に関する会議を開けばよいでしょう」

法王はこうも語った。

「将来のことは人々の関心事ですが、私は関与できないことです。大事な
のは私に残された日々を、学びと研鑽を積むことで意義深いものにするこ
とです。亡命政府の下のチベットでは僧侶も尼僧も学び続けています。昔
の信仰は、率直に言えば訳も分からず信じ込むのに近かった。しかしそれ
は時代遅れです。学ぶことで確信が得られます」

日本の仏教徒も般若心経を暗唱するだけでは不十分で、もっと真剣に学ぶ
ことが必要だと指摘し、仏教哲学と科学を融合させて学び続けることが、
二一世紀の仏教の重要事で、チベット仏教はその先頭に立って人類の幸せ
に貢献するとの決意を、法王は強調した。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1258