2018年12月24日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261 

2018年12月23日

◆韓国との情報戦に立ち遅れている日本

櫻井よしこ


「韓国との情報戦に立ち遅れている日本 手強い存在と心して戦うことが
必要だ」

12月4日、東京の日本外国特派員協会、通称外国人記者クラブで、「朝鮮
人戦時労働者」の裁判について、韓国側弁護団が会見した。

朝鮮人戦時労働者はこれまで「徴用工」と呼ばれてきた。しかし、戦時
中、日本に働きにきた朝鮮半島の人々の多くは民間企業の募集に応じた
人々で、必ずしも徴用された人々だけではない。安倍晋三首相も国会で述
べたように、新日鐵住金を訴え、判決が10月30日に下された裁判の原告4
人は全員、徴用工ではなかった。そのような事情から徴用工の代わりに
「朝鮮人戦時労働者」と呼ぶ。

会見した韓国人弁護士達は、韓国で新日鐵住金を訴えた裁判で原告の代理
人を務めた大弁護団の一部だ。会見に現れたのは金世恩(キム・セユ
ン)、林宰成(イム・ジェソン)両氏らである。両氏共に若く、韓国の法
務法人「ヘマル」に所属、或いは関係が近いと見られている。

彼らは会見当日、新日鐵住金本社に二度目の訪問を強行し、面会を断られ
ている。要請書を置いてきたそうだ。内容は韓国大法院(最高裁判所)の
判決に従って、朝鮮人戦時労働者に慰謝料を支払い、謝罪することが必要
で、いつ、どのような形で実施するか、12月24日午後5時までに回答せよ
というものだそうだ。

彼らは、さらなる訴訟を準備中で、新日鐵住金側が韓国側との協議に応じ
ない場合、差し押さえ手続きに入る予定だと明言した。

彼らはさらに、新日鐵住金が韓国で保有する資産、PNRという企業の株
式234万株は約110億ウォン(約11億円)に相当し、差し押さえの対象だと
語った。新日鐵住金保有の韓国における知的財産権は3000件余りで、こち
らも差し押さえの対象だという。

新日鐵住金側には一切妥協する気配はない。それで正しいのである。

韓国側の主張には、おかしな点が多い。そのひとつが朝鮮人を労働させた
のは国際労働機関(ILO)29号条約に反するという主張であるが、この
指摘は間違いだと言ってよいだろう。

29号条約は「処罰の脅威の下に強要される」労働を強制労働としており、
強制労働は時効のない犯罪である。ただ、「緊急の場合、即ち戦争、火
災、洪水、飢饉、地震……」などに対処する強制労働は例外として許容され
ている。

ILO専門委員会は朝鮮人戦時労働者問題に関して、救済策を講じよとい
う意見を日本に出してはいるが、その一方で、補償問題は日韓請求権協定
で全て解決済みだとする日本政府の主張は正しいと認めてもいる。

ILOの見解には微妙な矛盾が見てとれるが、これは近年の「個人を救済
する」思想を反映するものだ。

そこで重要になるのが、朝鮮人労働者への実際の待遇や労働条件は当時の
状況の中で受け入れられるものだったかどうかである。日本企業の資料や
当時の労働者の証言は、日本企業の待遇がきわめてまともだったことを示
している。だが、不足しているのが、そうした情報の発信と周知徹底である。

長崎県端島、通称「軍艦島」をテーマに韓国が作った映画は大嘘の満載
で、日本での労働はまるで地獄だったなどという酷い情報が世界に拡散さ
れている。この種の情報戦に日本は立ち遅れている。加えて懸念されるの
は相手の弁護団である。彼らは長年日本を標的にしてきた手強い存在である。

冒頭で触れた韓国の法務法人「ヘマル」の中心人物が、張完翼(チャン・
ワンイク)弁護士だ。氏は、慰安婦問題で日韓両政府を激しく攻撃するこ
とで知られる韓国挺身隊問題対策協議会の活動に1994年から参加、2000年
には、松井やより氏やVAWW−NETジャパンなどが主催した女性国際
戦犯法廷で韓国側検事役を務めた。同法廷は日本国天皇を裁き有罪を宣告
した。こういう人々が相手だ。心して戦うことが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1261

2018年12月22日

◆韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈

櫻井よしこ


「韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈」

韓国大法院(最高裁判所)が10月末及び11月末に下した朝鮮人戦時労働者
問題に関する判決書にはとんでもないことが書かれている。

「とんでもない」という意味は、単に日韓両政府が1965年に合意した日韓
請求権協定に違反するというだけではない。それよりもはるかに深刻で国
際法軽視の対日非難であるという意味だ。

12月7日、インターネット配信の「言論テレビ」で女性の論客5人と男性の
論客1人の構成でこの問題を中心に2時間にわたって論じた。男性ゲスト
は、いま朝鮮問題で引っ張り凧の西岡力氏だ。

韓国大法院の判決を貫く主張は「日本統治不法論」である。日本の有志の
弁護士が仮訳したものを参考に、私たちが問題にした韓国最高裁判決の最
重要のくだりは以下の部分だ。

「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地
支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前
提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(である)とい
う点を明確にしておかなければならない」

判決は続いてこう述べる。

「原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、
上記のような慰謝料を請求しているのである」

判決の他の部分には、原告らは日本で同様の裁判を起こして敗訴している
が、日本の司法判決は受け入れられない、その理由は日本の判決が「日本
の朝鮮半島と韓国人に対する植民地支配が合法であるという規範的認識を
前提に」しているからだと書かれている。

そのうえで、「日本での判決をそのまま承認するのは、大韓民国の善良な
風俗や、その他の社会秩序に違反する」というのだ。

頑として譲らないこと

日本の朝鮮統治は不法だと決めつけ、日本側の主張は全く受け入れないと
いうわけだ。西岡氏が指摘した。

「新日鐵住金を訴えた原告4人は募集に応じて普通に日本に来て、普通に
企業で働いて、給料を貰った。未払い給料があったとしても、それらを清
算する機会は戦後2回もあった。彼らは無事に帰国し、怪我もしていな
い。だから韓国政府も彼らには特別な支払いはしていません。しかし、日
本統治が不法だったからという理屈をいま持ち出して、慰謝料が発生する
と言っているのです」

慰謝料という理屈を適用すれば、およそすべてが対象となる。日本統治下
で日本語を習わせられた、神社を参拝させられた、姓名を変えさせられ
た、精神的に苦しんだなど、何でも慰謝料請求の根拠とされるだろう。

このような要求を日本につきつける土台となる論理が日本統治不法論だ。
日韓基本条約と日韓請求権協定の締結までに日韓両国政府は延々14年間も
交渉を重ねた。当時も日本の韓国統治は合法だったか否かが激しく議論さ
れたのは確かだ。互いに折り合えず交渉は長引いた。そこで双方が智恵を
働かせた。

日韓基本条約第2条には「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との
間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認さ
れる」とある。

1910(明治43)年8月22日は韓国併合条約の調印の日である。日本の韓国
併合はそれ以前の種々の条約、協定の積み重ねで、米英露など諸外国も認
めるものだった。従ってそれらはすべて国際法に適い合法だとする日本の
主張は当然だ。だが、日韓の外交関係を進めるために両政府は以下の案を
生み出した。

前述のように、1910年8月22日以前(中略)の条約及び協定は、「もはや
無効」としたのだ。

西岡氏が説明した。

「日本側にとっては、韓国は1948年に独立した、もはや日本は韓国を併合
していない、だから韓国併合の根拠だった1910年8月22日以前の条約も協
定も、もはや無効になった、それ以前は合法で有効だったという意味で
す。他方韓国側は、『もはや』は副詞みたいなもので関係がない、だか
ら、そんな言葉は無視して、当初から無効だったと解釈したのです」

両者の解釈が異なるときは、両国が合意した英文によって解釈することに
なっている。英文は日本の解釈が正しいことを示している。

韓国側の主張は不当極まるが、不当判決が出されたいま、65年の協定で請
求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と言うだけでは、日本側は闘
いきれないかもしれない。次なる一手も二手も準備する必要がある。

まず、法律上の問題だ。キモは頑として譲らないことだ。韓国弁護団は強
気で、12月4日、被告の新日鐵住金本社を訪れた。新日鐵住金側は韓国弁
護団を全く相手にしなかったが、彼らは要請書を置いて帰った。損害賠償
の履行方法や、賠償金の伝達方式を含む被害者の権利回復の措置につい
て、今月24日午後までの返答を求める内容だった。

法的闘争の準備を

日本側が応じなければ、彼らは日本企業の資産差し押さえなどに着手する
可能性がある。日本側も報復の差し押さえ措置など法的闘争の準備を万全
にすることだ。

もうひとつは国際世論を意識した歴史戦への備えだ。日本統治の合法性と
は別に、日本が朝鮮人労働者をどのように処遇していたかを事実に基づい
て内外に知らせ、慰謝料要求などは筋違いであり不条理だと納得してもら
えるだけの情報を十分に伝えておくことが、この種の歴史戦ではとても大
事である。その点において日本側は非常に手立てが遅れていると、西岡氏
は懸念する。

「現在の外交官は、当時の労働条件や賃金の支払い状況などについてよく
知りません。対照的に反日勢力の側は、実は彼らは日本人なのですが、80
年代から日本統治不法論を考え、その論理を磨き上げてきました。事実関
係については、すべてを反日的視点から資料収集しています。これら反日
日本人が韓国側に論理と資料を提供しているのです。彼らの資料は、私た
ちの側が集めた資料や研究の10倍はあると言っても過言ではありません。
彼らの反日闘争は私たちよりずっと早くから準備されていたのです」

それでも日本の企業には、どれだけの賃金を朝鮮の誰々に支払った、朝鮮
の誰々はどの募集に応じて、どのような待遇を受けたといった資料が豊富
に残っている。事実こそ最も強い説得力を持つはずだ。こうした資料を早
く、全面的に公開すべきだ。

これから短期間に、反日学者を除く、少数ではあってもまともな学者や研
究者が、企業及び政府とも協力し、日本統治下の朝鮮人の扱いについての
実態を最速で明らかにし、韓国司法の不条理を訴えていかなければならない。
『週刊新潮』 2018年12月20日号日本ルネッサンス 第832回


2018年12月21日

◆韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈

櫻井よしこ


「韓国大法院判決、恐るべき反日の理屈」

韓国大法院(最高裁判所)が10月末及び11月末に下した朝鮮人戦時労働者
問題に関する判決書にはとんでもないことが書かれている。

「とんでもない」という意味は、単に日韓両政府が1965年に合意した日韓
請求権協定に違反するというだけではない。それよりもはるかに深刻で国
際法軽視の対日非難であるという意味だ。

12月7日、インターネット配信の「言論テレビ」で女性の論客5人と男性の
論客1人の構成でこの問題を中心に2時間にわたって論じた。男性ゲスト
は、いま朝鮮問題で引っ張り凧の西岡力氏だ。

韓国大法院の判決を貫く主張は「日本統治不法論」である。日本の有志の
弁護士が仮訳したものを参考に、私たちが問題にした韓国最高裁判決の最
重要のくだりは以下の部分だ。

「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地
支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前
提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(である)とい
う点を明確にしておかなければならない」

判決は続いてこう述べる。

「原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、
上記のような慰謝料を請求しているのである」

判決の他の部分には、原告らは日本で同様の裁判を起こして敗訴している
が、日本の司法判決は受け入れられない、その理由は日本の判決が「日本
の朝鮮半島と韓国人に対する植民地支配が合法であるという規範的認識を
前提に」しているからだと書かれている。

そのうえで、「日本での判決をそのまま承認するのは、大韓民国の善良な
風俗や、その他の社会秩序に違反する」というのだ。

頑として譲らないこと

日本の朝鮮統治は不法だと決めつけ、日本側の主張は全く受け入れないと
いうわけだ。西岡氏が指摘した。

「新日鐵住金を訴えた原告4人は募集に応じて普通に日本に来て、普通に
企業で働いて、給料を貰った。未払い給料があったとしても、それらを清
算する機会は戦後2回もあった。彼らは無事に帰国し、怪我もしていな
い。だから韓国政府も彼らには特別な支払いはしていません。しかし、日
本統治が不法だったからという理屈をいま持ち出して、慰謝料が発生する
と言っているのです」

慰謝料という理屈を適用すれば、およそすべてが対象となる。日本統治下
で日本語を習わせられた、神社を参拝させられた、姓名を変えさせられ
た、精神的に苦しんだなど、何でも慰謝料請求の根拠とされるだろう。

このような要求を日本につきつける土台となる論理が日本統治不法論だ。
日韓基本条約と日韓請求権協定の締結までに日韓両国政府は延々14年間も
交渉を重ねた。当時も日本の韓国統治は合法だったか否かが激しく議論さ
れたのは確かだ。互いに折り合えず交渉は長引いた。そこで双方が智恵を
働かせた。

日韓基本条約第2条には「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との
間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認さ
れる」とある。

1910(明治43)年8月22日は韓国併合条約の調印の日である。日本の韓国
併合はそれ以前の種々の条約、協定の積み重ねで、米英露など諸外国も認
めるものだった。従ってそれらはすべて国際法に適い合法だとする日本の
主張は当然だ。だが、日韓の外交関係を進めるために両政府は以下の案を
生み出した。

前述のように、1910年8月22日以前(中略)の条約及び協定は、「もはや
無効」としたのだ。

西岡氏が説明した。

「日本側にとっては、韓国は1948年に独立した、もはや日本は韓国を併合
していない、だから韓国併合の根拠だった1910年8月22日以前の条約も協
定も、もはや無効になった、それ以前は合法で有効だったという意味で
す。他方韓国側は、『もはや』は副詞みたいなもので関係がない、だか
ら、そんな言葉は無視して、当初から無効だったと解釈したのです」

両者の解釈が異なるときは、両国が合意した英文によって解釈することに
なっている。英文は日本の解釈が正しいことを示している。

韓国側の主張は不当極まるが、不当判決が出されたいま、65年の協定で請
求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と言うだけでは、日本側は闘
いきれないかもしれない。次なる一手も二手も準備する必要がある。

まず、法律上の問題だ。キモは頑として譲らないことだ。韓国弁護団は強
気で、12月4日、被告の新日鐵住金本社を訪れた。新日鐵住金側は韓国弁
護団を全く相手にしなかったが、彼らは要請書を置いて帰った。損害賠償
の履行方法や、賠償金の伝達方式を含む被害者の権利回復の措置につい
て、今月24日午後までの返答を求める内容だった。

法的闘争の準備を

日本側が応じなければ、彼らは日本企業の資産差し押さえなどに着手する
可能性がある。日本側も報復の差し押さえ措置など法的闘争の準備を万全
にすることだ。

もうひとつは国際世論を意識した歴史戦への備えだ。日本統治の合法性と
は別に、日本が朝鮮人労働者をどのように処遇していたかを事実に基づい
て内外に知らせ、慰謝料要求などは筋違いであり不条理だと納得してもら
えるだけの情報を十分に伝えておくことが、この種の歴史戦ではとても大
事である。その点において日本側は非常に手立てが遅れていると、西岡氏
は懸念する。

「現在の外交官は、当時の労働条件や賃金の支払い状況などについてよく
知りません。対照的に反日勢力の側は、実は彼らは日本人なのですが、80
年代から日本統治不法論を考え、その論理を磨き上げてきました。事実関
係については、すべてを反日的視点から資料収集しています。これら反日
日本人が韓国側に論理と資料を提供しているのです。彼らの資料は、私た
ちの側が集めた資料や研究の10倍はあると言っても過言ではありません。
彼らの反日闘争は私たちよりずっと早くから準備されていたのです」

それでも日本の企業には、どれだけの賃金を朝鮮の誰々に支払った、朝鮮
の誰々はどの募集に応じて、どのような待遇を受けたといった資料が豊富
に残っている。事実こそ最も強い説得力を持つはずだ。こうした資料を早
く、全面的に公開すべきだ。

これから短期間に、反日学者を除く、少数ではあってもまともな学者や研
究者が、企業及び政府とも協力し、日本統治下の朝鮮人の扱いについての
実態を最速で明らかにし、韓国司法の不条理を訴えていかなければならない。

『週刊新潮』 2018年12月20日号日本ルネッサンス 第832回

2018年12月20日

◆「赤札大王」でハクビシン撃退に成功も

櫻井よしこ


「赤札大王」でハクビシン撃退に成功もまだ残るペットの飼い主のお行儀
問題」

庭に出没して食べ頃に熟した柿の実を食い散らしてしまうハクビシンの撃
退に、私はこの夏、見事に成功した。ハクビシンの苦手な赤い色の、長さ
30センチメートル、幅15センチメートル程の札を吊したのだ。札の下の方
の袋には唐辛子、ニンニクなど多種類の強烈な刺激臭を発する素材が詰
まっている。

箱から出した途端、人間の私たちも顔をそむけたくなる程の強い刺激臭
だ。私はこの札を「赤札大王」と勝手に名づけて柿の木に3枚も吊した。
効果てきめん、以来ハクビシンは我が家から退散した。人間が眠っている
間に鋭い爪で木の肌をひっかくことも実を食い散らすことも含めて、彼ら
の来襲の形跡はまったく見られなくなった。ミッション・コンプリー
ティッドである。

しかし、小鳥も来なくなった。我が家常連の幾十羽の雀の群れは無論、ひ
よ鳥も目白の群れも四十雀も、カラスさえ来なくなった。余程臭いがきつ
く、繊細な鳥たちにはこたえるのであろう。いつでも大歓迎な鳥たちなの
に、ハクビシン退治に集中すれば、彼らもいなくなる。私の本意ではない
のにそうなってしまう。どうすればよいのか。そうだ、時間差を活用すれ
ばよいのだと、思いついた。

ハクビシンは夜行性である。小鳥は暗くなる前に巣に戻る。ならば、昼間
は赤札大王を物置にしまい、庭を鳥たちの居心地のよい環境にする。夕方
に赤札大王を取り出して柿の木に吊せばよい。とても簡単なことだ。私は
その通りに実行した。大成功だった。鳥たちは戻り、水浴びをし、歌って
くれるようになった。庭に賑わいが戻ってきたのは、この上ない幸せである。

しかしその直後に新たな事件が発生した。ハクビシンは今度は2階のベラ
ンダを襲ったのだ。そこには大き目の鉢にレモン、ミカン、デコポン、キ
ンカンの木を植えている。それぞれ2メートル程の高さの果樹は、例年精
一杯花を咲かせ、実をつける。

或る日大きくなったミカンの実がかじられていた。木の下にはスズランが
植わっている。花は終わっているが、葉を青々と広げ、太陽光を浴び、養
分をつくり来年のために球根を太らせようと頑張っている。そのスズラン
が踏みしだかれていた。

ハクビシンの仕業だと断定せざるを得なかった。私は新たに赤札大王をこ
こにも吊り下げ、大成功をおさめた。

この間に、私は少し悩んでいた問題も赤札大王の活用で解決できるのでは
ないかと考え始めた。

実は、拙宅はペットの散歩コースに当たるらしい。散歩する犬と飼い主
を、当初はほほえましく見ていたが、いつの間にか余り好意を抱けなく
なった。理由はペットが玄関前で用を足し、飼い主が片付けないことであ
る。犬のフンの掃除が我が家の日常業務になって久しい時間が過ぎた頃、
「ペットのトイレの始末は飼い主にお願いします」という控え目な札を立
てるようになった。

よく見ると、ご近所のあちこちに同じような札が立っていた。皆困ってい
るのである。だから札を立てる。けれど、効果がないのである。お互いに
暮らし易い社会をつくる常識が少し欠けている飼い主がいるのである。

そこで、私はまたまた考えた。赤札大王の臭いは犬だって好きではないは
ずだ。人間よりはるかに優れた嗅覚を持つ犬は、赤札大王の近くには金輪
際寄ってこないに違いない。試しにいつもフンが置きざりにされる玄関の
前、その横の椿や寒椿、千両の木々の近くに下げてみた。

なるべく見苦しくないように、木の枝の後ろの方などを選んだ。その効果
かどうかわからないが、犬のオシッコの跡がなくフンの片付けをしなくて
よくなったのは確かである。当面の問題は解決されたが、ペットの飼い主
の皆さんがお行儀よくして下さるにはどうしたらよいのだろうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年12月15日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1260

2018年12月19日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回

2018年12月18日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。
『週刊新潮』 2018年12月13日号日本ルネッサンス 第831回

            

2018年12月17日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を 

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回

2018年12月16日

◆日本は既に移民大国

櫻井よしこ


「日本は既に移民大国、入管法の厳格化を」

国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回


    

2018年12月15日

◆迫る御代替わり、国柄を知る機会とせよ

櫻井よしこ


「迫る御代替わり、国柄を知る機会とせよ」

天皇皇后両陛下の各地へのおでましが続いている。今年、雨の園遊会では
お二人で大きなビニール傘を一緒にさされていた。お二人は寄り添われる
ように歩まれ、お言葉をかけられ、慈愛に満ちた視線を人々に注がれる。
そのご様子をメディアは「この行事への」或いは「この地への」、「最後
のご出席」「最後の行幸啓」と報じる。

あと数か月で今上陛下は本当に譲位なさり、新天皇が即位される。御代替
わりが近づいている。

日本にとって、東京五輪よりはるかに大事なのが御代替わりだ。日本の国
柄を体現する、重要な歴史の一局面である。世界の元首百数十人を迎え
て、広く世界に日本国を印象づける好機である。だが、政治家もメディア
も世論も、御代替わりについてあまり考えていないと懸念するのは、心配
しすぎだろうか。光格天皇以来200年振りのご譲位を機に、日本の国柄へ
の理解を内外において深めようという熱気が感じられない。

そんなときに日本政策研究センターが『解説 即位の礼・大嘗祭』(以下
『解説』)という60頁余の小冊子を出版した。御代替わりのさまざまな儀
式を通して、皇室とはどんな存在か、皇室を戴く日本はどんな国か、ここ
に至るまでにどんな歴史を辿ったのかを、非常に簡潔かつ適切にまとめて
いる。来春に迫った御代替わりと、日本の深く長い歴史を認識するのに格
好の教科書である。以下『解説』の内容を紹介する。

来年2月24日、ご譲位に向けてまず、政府が「天皇陛下御在位三十年記念
式典」を主催し、この後、一連の行事が続く。4月30日に「退位礼正殿の
儀」が執り行われる。これによって陛下のご譲位(政府はこれをご退位と
言っている)が国民に宣言される。

ご譲位は江戸時代の光格天皇以来のことで、約200年間、事例がなかった
ために、どのような関連儀式があるのかについて現行の皇室典範には規定
がない。そのために先例を基本にして、今回、新たに国の儀式として創設
したという。柱は二つ、内閣総理大臣から陛下への「奉謝」と天皇陛下の
「おことば」である。

皇室に批判的な勢力

首相が国民を代表して天皇陛下に感謝の気持ちを捧げ、天皇陛下がご譲位
に際してのお気持を表明される。天皇陛下の「おことば」は、本来、「譲
位宣命(せんみょう)」と呼ばれ、譲位に際しての大事な核を成していた。
しかし、平成のいま「譲位宣命」ではなく「おことば」と平易な表現にさ
れたわけだ。

今上陛下のご譲位が宣言された翌5月1日には、皇太子さまが第126代天皇
に即位なさる即位の礼が国の儀式として行われる。即位の礼の行事は、ご
即位当日に行われるものと、それから約半年後の秋に行われるものに大別
される。

ご即位直後の行事が「剣璽(けんじ)等承継の儀」と「即位後朝見の儀」だ。

周知のことだが、三種の神器は簡単にいえば、鏡と剣(つるぎ)と勾玉(ま
がたま)。正式に言えば草薙剣(くさな ぎのつるぎ)と八坂瓊勾玉(やさか
にのまがたま)、それに八咫(やたの)鏡(かがみ)である。

また「剣璽」とは三種の神器のうちの二つ、剣と勾玉を意味する。従って
「剣璽等承継の儀」は新天皇がこの二つの神器を受け継がれる儀式という
意味だ。

残るひとつ、八咫鏡は最も神聖な神器として賢所に奉安されており、儀式
で動かされることはない。

さて、ここで『解説』は大事なことを指摘している。旧皇室典範では「天
皇崩スルトキハ皇嗣即チ践祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」と書かれており、この
規定に基づいて「剣璽渡御(とぎょ)の儀」が行われる決まりになっていた。

ところが昭和天皇崩御による御代替わりが起きたとき、皇室に批判的な勢
力が現行憲法に定めている政教分離(憲法20条)を盾に、「渡御」はまか
りならぬと主張し、政府は「渡御」という表現を「承継」に変えざるを得
なかったというのだ。また「剣璽渡御の儀」には「等」の一文字が加えら
れ、前述のように「渡御」も否定され、「剣璽等承継の儀」となった。本
来、剣と勾玉の二つの神器を意味していた剣璽が「等」の一文字が入って
「御璽(ぎょじ)」(天皇の印、おおみしるし)、「国璽(こくじ)」も含ま
れる意味に拡大された。つまり「皇位」とともに新天皇に伝わるべき由緒
ある物の継承という建前になった。

「剣璽渡御」は皇室の由来を、剣と勾玉に象徴される、深く豊かな日本の
神話につなげる意味合いが濃かったが、その色を薄める結果になった。

皇室に批判的な勢力は、剣璽は神話に基づく。従って政教分離の趣旨に反
する、国の儀式として不適切だとも主張する。

世界は感動している

だが、神話と宗教は異なる。どの民族にもどの国にも、国の誕生と民族生
成物語としての神話がある。神話の否定は、民族の精神性や文化の否定
だ。民族のルーツを断ち切るようなものだ。国家というものは伝統や宗教
的な価値観を一切合切排除してしまえば、もはや成り立つものではないだ
ろう。

昭和天皇崩御の時の大喪の礼を振りかえると、政教分離という言葉が飛び
交っていた。憲法20条第3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いか
なる宗教的活動もしてはならない」と定めている。これを表面的、機械的
にとらえて宗教性が強いとして、大喪の礼への国の関わりを批判する声が
あった。たとえば葬場殿の儀は宗教儀式だとして、国ではなく、皇室の公
的行事として行われた。続く大喪の礼では、宗教色をなくすため鳥居が除
かれた。日本の伝統に基づけば穏やかに行われるべき自然なことが批判さ
れたが、政教分離については最高裁判例がある。『解説』から引用する。

まず、憲法が禁じる「宗教的活動」とは「国およびその機関の活動で宗教
とのかかわり合いをもつすべての行為をさすものではな」いと最高裁は判
断している。

憲法が禁じているのは、社会的、文化的諸条件に照らして、「かかわり合
いが相当とされる限度を超えるもの」であり、「行為の目的が宗教的意義
をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等にな
るような行為」だと限定されている。

最高裁判例は、政府が特定の宗教を援助したり、反対に圧迫したりするこ
とは許されないが、常識の枠内での政治と宗教の融合は禁じてはいないと
いう意味だろう。むしろ日本人の自然観と宗教観の美しい融合に、世界は
感動している。それを象徴していたのが大喪の礼である。イスラエルのヘ
ルツォグ大統領(当時)は次のように語っていた。

「昭和天皇の御喪儀を通じ、日本の偉大な伝統に接し、深い感銘を受け
た。……皮相な現代の世にあって良い伝統を近代化の中に維持していること
に敬意を表する」

御代替わりに関連して、日本の歴史や国柄を学びたいものだ。
『週刊新潮』 2018年11月29日号 日本ルネッサンス 第829回

         

2018年12月14日

◆日本は既に移民大国、入管法の厳格化を

櫻井よしこ


国内の人手不足解消のために即戦力となる外国人労働者の受け入れを進め
るべく、出入国管理法が改正される。政府与党は、同改正案は野放図に外
国の人材を受け入れるためではなく、これまで殆ど管理できていなかった
外国人労働者を管理するためだと説明する。

具体的には外国人労働者を「特定技能1号」と「特定技能2号」に分類し、
1号は上限5年間働いて、より高度の日本語能力や専門技術を達成したと、
省庁が定める試験に合格することにより認定されたら、特定技能2号に
「格上げ」してもらえる。資格が1号のときは配偶者や子供を呼び寄せる
ことはできないが、2号に昇格すれば家族を呼び寄せ、事実上日本に永住
できるようになる。

野党の一部は、2号に分類される人々は「結局移民になる」と批判する
が、与党や維新の会は、1号から2号に進むには厳格な資格審査があり、2
号の資格が取得できるのは全体の5%程にとどまる見込みだと説明する。

また入国在留管理庁を新設し、人員をふやすことで出入国管理がより効果
的に行われるとも説明する。現在、日本で働く外国人の中から、驚くべき
ことに毎年6000〜7000人規模の「行方不明者」が出ている。

技能実習生或いは留学生として来日する人々の内、膨大な数の人々が消息
不明なのである。彼らは日本のどこかに潜んで生活しているはずだが、法
務省は追跡できていない。この「無法」状態は、彼らにとっても日本に
とってもよいはずがない。これからは追跡調査もできるようにしたいとい
うのが、入国在留管理庁新設の理由のひとつだ。

私の手元に西日本新聞の連載が書籍化された『新移民時代』(明石書店)
がある。留学生や技能実習生の実態が具体的事例で説明されており、現実
の深刻さが伝わってくる。

75万人に上る事実上の移民

たとえば殆ど日本語能力のない学生が、日本語資格証明書などの偽造書類
を提出して諸国の中で一番働ける日本に留学する。留学生は週28時間労働
まで合法である。しかし留学に係る借金の返済や、家族への仕送りのため
に、多くの留学生はもっと働かなければならない。というより、最初から
出稼ぎ目的の留学生は少なくない。

もっと働くために彼らが活用し始めた方法が難民申請だ。審査結果は半年
から1年後に出るが、その間にフルタイムで働ける特定活動の在留資格が
得られる。申請が却下されたら異議申し立てを繰り返し、特定活動の資格
で働き続ける。その間に就職できれば就労ビザに切り替える。こうして彼
らは事実上の移民となる。

無論、名目どおりに大いに学ぶ留学生もいる。だが、留学生や技能実習生
の実態は日本における外国人受け入れの無防備さを示している。

実は日本はこの他にもっと深刻な外国人問題を抱えている。シンクタンク
「国家基本問題研究所」が12月3日、緊急政策提言として発表した75万人
に上る事実上の移民の存在である。国会での議論もメディアによる報道も
ないまま、法務省の匙加減ひとつでこの20年間に急増した、一般永住者の
問題である。

日本の永住者は右の一般永住と特別永住の2種類に分かれる。後者は戦前
日本が朝鮮半島や台湾を統治していたという特別の事情から、日本に居住
していた朝鮮半島や台湾出身者に、まさに「特別に」与えた在留資格だ。
彼らには選挙権はないが、その余の事については日本人とまったく同等の
権利が与えられている。

大きな潮流として、彼らは、3世4世になるに従って日本に帰化したり、日
本人との婚姻で日本国籍を取得したりして減少し、その数は現在33万人程だ。

問題なのが前述の一般永住者である。1998年に9万人だったのが、20年間
で8倍以上の75万人にふえた。国基研研究員、西岡力氏の調査によると、
中国人が最多で25万人、次にフィリピン人の13万人、ブラジル人11万人、
韓国人7万人と続く。

一般永住者は歴史的に日本と特別な関係にあるわけではない。にも拘わら
ず、特別永住者同様、選挙権がないだけで日本国民と同じ権利を与えられ
ている。滞在期間は無制限で、働く権利も働かずに生きる権利もある。政
治活動も全く自由だ。

日本には北朝鮮の金正恩委員長に忠誠を誓う在日本朝鮮人総連合会(朝鮮
総連)があるが、彼らは日本で多くの権利と自由を保障されていながら、
法を破り官憲の捜索を受けたりする。日本人を拉致した独裁国の北朝鮮を
賛美し、歴史問題では事実を歪曲して日本を非難する勢力を支えもする。
一般永住者の3分の1を占める中国人が、中国版朝鮮総連のような組織を作
ることも、現行法では可能なのである。

中国人留学生が集結

一般永住者が急増した背景に橋本龍太郎内閣の下での規制緩和の流れが
あった。98年、法務省が入管法22条の解釈を変えたのである。それまでは
一般永住の許可要件は日本で20年間、社会のよき一員として暮らした実績
が必要とされた。これがいきなり10年に短縮され、さらに特別の技術を
持っている人材は5年で是とされた。この件は国会で審議されたわけでも
ない。メディアで公に議論されたわけでもない。法務省の行政判断による
ものだった。その結果、誰も気づかない内に事実上の移民が75万人にふえ
た。繰り返すが、その3分の1が中国人である。

中国政府は2010年に国防動員法を定めたが、控えめに言ってもこれはかな
り危険な法律である。有事の際、在外中国人は中国共産党政権の命令に従
わなければならないと定めている。ここまで言えば、多くの人の脳裡に北
京五輪の聖火リレーが長野県を通過したときの事件が蘇るのではないか。

その年、チベットの人々は中国共産党の弾圧の凄まじさを世界に訴えよう
と考え、日本の支援者も思いを共有し長野に集った。するとあっという間
に4000人規模の中国人留学生が集結し、五星紅旗が林立したのだ。彼らは
チベット人や日本人支援者を取り囲み、ひどい暴力を振るったが、この大
量動員は驚くべきネットワークを中国大使館が作り上げていて初めて可能
だったはずだ。

中国共産党は外国で自国民を一気に集結させ、暴力行為に走らせるのだ。
中国政府はその後、先述の国防動員法を整備した。このような法律に縛ら
れた中国人一般永住者が自衛官を上回る数、日本に存在する。そのことの
意味の深刻さを私たちは知るべきだ。

現在審議中で10日にも成立する出入国管理法改正案には、一般永住者の資
格要件に関する付帯決議をつけるべきだ。「入管法22条の厳格な運用」を
書き込み、法務省の行政判断を以前の在日歴20年に戻すべきである

『週刊新潮』 2018年12月13日号 日本ルネッサンス 第831回

2018年12月13日

◆日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇

櫻井よしこ


「日本文明の核であり続けてきた皇室と天皇 民族の記憶に刻まれた伝統
を大切にすべきだ」

11月27日、都内で「天皇陛下御即位三十年奉祝委員会の設立総会」が開か
れた。政府を代表して菅義偉官房長官が「憲政史上初の、天皇陛下のご退
位と皇太子殿下のご即位」に向けて、万全の準備を整えると語り、政財
界、言論界からも藤原正彦氏らが、御代替わりについての思いを語った。

江戸時代の光格天皇以降、譲位による御代替わりは今上陛下が初めてだ。
今上陛下は30年間、国民と触れ合い、戦跡地を訪れ、国民に勇気を与え慰
めをもたらして下さっている。各地へのおでましがどれ程多くの人々の心
をあたたかく包んで下さったことか。互いに労り合いながら行幸啓を続け
られる両陛下には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。

日本の長い歴史の中で、皇室と天皇は日本文明の確固とした核であり続け
ている。恵まれないときもあったが、皇室は常に権力ではなく権威とし
て、日本国の揺るぎない基盤であり続けた。日本が危機に陥る度、皇室が
中心になって、国民をまとめ、国を守り通してきた。明治維新のときや大
東亜戦争の終戦時に果たしたお役割が記憶に残る事例である。

直近では、東日本大震災のときの天皇陛下の「お言葉」を思い出せばよ
い。1000年に一度の大災害に打ちひしがれていた国民は、「お言葉」に
よってどれ程元気づけられたことか。

このような天皇のお役割とその意義、国民の心にもたらす「効果」は、お
一人お一人の天皇のお力だけから生まれるものではないだろう。天皇の背
景に長い歴史があって、初めてお言葉に万人の心に訴えかける力が生まれ
るのではないか。

皇室は、早くも聖徳太子の時代、つまり七世紀初めには貧しい人、親のい
ない子供たち、身寄りのないお年寄りのための救済施設を造っていた。そ
れらは聖武天皇の后、光明皇后の力によって施薬院、悲田院となり、病と
貧困に苦しむ民の救済施設として定着し、やがて全国に広がった。その善
き伝統は、平成の現在も藤楓協会として連綿と続いている。

天皇と皇室が民の幸福と国家の安寧のために祈り続けて下さっているお姿
が、長い歴史を通して浮かび上がってくるのが日本であり、このような背
景が日本民族の記憶に深く刻まれているからこそ、天皇陛下のお言葉は、
国民の心にスッと沁み込んでくる。大切にするべきはこうした伝統である。

皇室の伝統と価値観は紛れもなく日本の神話と一体化したものだ。御代替
わりの儀式は、これら神話の時代の伝統にのっとるのがよい。昭和天皇崩
御のときの「大喪の礼」では、反皇室の人々が憲法20条3項を盾に、政教
分離と称して、儀式の簡略化や変更を求めた。だが政教分離は宗教に対す
る圧迫や干渉を禁じているのであり、政治に一切の宗教色を持たせてはな
らないという意味ではない。そもそも神話の時代からの伝統を宗教だと断
じて切り捨てること自体、間違いである。200年振りの御代替わりの儀式
は、大喪の礼のときよりもまともに伝統を踏まえるべきだと考える。

もうひとつ大事なことは、今上陛下に残り数カ月の内に、靖国神社にご親
拝いただくことだ。春や秋の例大祭で陛下は勅使を靖国神社にお遣わしに
なっている。しかし、30年間にわたる平成の御世で、一度も陛下ご自身が
靖国神社にお運びにならないとは、どういうことかと思う。

幾百万の兵は、日本国に殉じた命である。彼らの霊が眠る靖国神社には、
いまや、首相も真榊料で済ませ、閣僚の誰一人参拝せず、天皇のご親拝も
ない。このようなことでは、日本国は長く持つまい。御代替わりの前に、
天皇、皇后両陛下のご親拝をお願いし、その道を開くために、安倍晋三首
相以下、全閣僚の参拝を実現すべきだと考える。

『週刊ダイヤモンド』 2018年12月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1259


2018年12月12日

◆強まる中国の脅威、必要な台湾人の団結

櫻井よしこ


米中貿易戦争が展開され、私たちは米国的自由と民主主義の世界を維持す
るのか、それとも中国共産党的全体主義の世界に突入するのか、せめぎ合
いの中にある。米国が単なる経済的な損得の争いをはるかに超える、価値
観の戦いを意識して対中政策を強めるいま、台湾の持つ意味はこれまで以
上に大きい。

11月24日の地方選挙で台湾の与党、蔡英文総統が党主席を務める民進党が
大敗したことの意味は深刻だ。22の県及び市のうち、民進党は13の首長を
確保していたが、半分以下の6になった。人口の約7割を占める6大都市で
も、民進党は4から2に半減した。総得票数は民進党が490万票にとどまっ
たのに対し、国民党は610万票を取り、120万票の差をつけた。

24日夜、選挙結果を受けて記者団の前に現れた蔡氏は、いつものように地
味なパンツスーツに身を包み、メモに書かれたメッセージを読み上げた。

「努力不足で、支持者を失望させた」

蔡氏は大敗の責任をとって党主席を辞任したが、表情はかたく、質問も受
けずに退席した。

2016年1月の総統選挙で大勝利をおさめ、集った群衆に「台湾の新時代を
共に迎えよう!」と呼びかけたあの蔡氏が、なぜ、いま、大敗なのか。評
論家の金美齢氏は、台湾の有権者が台湾の置かれている立場を理解してい
ないからだと批判する。

「2年前、台湾人は蔡英文に台湾の運命を担わせた。それは中国と対峙す
るという意味で、非常にきつい仕事ですよ。それなのに、皆でつまらない
ことを批判したのです。有権者が愚かですよ」

日本に住んでいると、台湾が中国の脅威にさらされていることは客観的に
見てとれる。脅威に打ち勝つために台湾人がしなければならないことも、
よく見える。それは、台湾自身の力をつけ、台湾人が一致団結して、国家
の危機に当たることだ。

台湾の本省人の政権を守り通さなければ、台湾の現状は守りきれない。外
省人、つまり国民党による政権奪取を許せば、前総統の馬英九氏のよう
に、中国との統一に傾いていくだろう。従って、今回のような民進党の大
敗、国民党の大勝は、台湾の未来を思う立場からは、大変な衝撃なのである。

住民投票に疑いの目

台湾の人々はどんな未来を望んでいるのだろうか。地方選挙と同時に行わ
れた10件の住民投票から幾つか大事なことが読みとれる。住民投票の対象
になったテーマのひとつは、「台湾」名義で東京五輪に参加を申請するこ
とだった。

結果は、反対が577万票、賛成が476万票で、結局否決された。実は日台間
の水面下の話し合いの中で、東京五輪には、「台湾」名義で参加できるよ
うに工夫が重ねられていた。国際オリンピック委員会の意向もあるため、
結果がどうなるかは必ずしも予想できないが、台湾に強い親近感を抱く日
本人としては、台湾人が望めば「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台
湾」名で五輪に参加できるようにしてあげたいと思うのは自然であろう。

だが、住民投票で否決されたいま、中国を刺激することを恐れている人々
が半分以上で、「台湾」名での参加の可能性はなくなった。それにして
も、なぜ、このテーマが住民投票にかけられたのか。

もう一点、福島など原子力災害関連地域の食品輸入禁止措置を継続するか
否かも住民投票のテーマにされた。福島の食品は、米であろうと果物であ
ろうと海産物であろうと、厳格な検査を受けて合格して初めて出荷とな
る。福島の食品は世界一安全なのである。しかし、そのような厳しい検査
が実施されていることを、台湾の消費者は知らないだろう。

蔡氏自身は福島の食品の輸入解禁に前向きだったとの情報もある。ただ、
決断できずにいる内に、住民投票のテーマとされた。安全性についての情
報が伝えられない中で住民投票になれば、否定的な結果になるのは予想の
範囲内だ。輸入禁止続行への支持が779万票、反対は223万票、大差で否決
された。

台湾側に熱心に働きかけてきた日本人の気持ちは失望と落胆にとどまらな
い。非科学的な結論に不満も高まる。日台関係を冷え込ませようと考える
勢力にとっては歓迎すべき結果であろう。

台湾では大陸中国からの情報工作要員が暗躍している。メディアやビジネ
ス分野のみならず、軍にも工作員が浸透していると考えてよいだろう。彼
らは、台湾を日米両国から引き離すのに役立つと思われるすべての事をす
るだろう。そう考えれば、住民投票にも疑いの目を向けてしまうのである。

外交でも中国の圧力

16年5月の総統就任から2年半、蔡氏は、内政において少なからぬ中国の妨
害を受けてきたが、外交でも中国の圧力に苦しんできた。

中国はひとつであると中台双方が1992年に認めたとする、いわゆる「92年
コンセンサス」を受け入れない蔡氏に、中国は猛烈な圧力をかけ続ける。
国際社会で台湾を国として認めてくれる国を、次から次に台湾との断交に
誘い、中国との国交樹立に向かわせた。蔡氏の総統就任以降、5か国が中
国の巨大援助を受けるなどして、台湾を見捨てた。今、台湾と国交を持つ
国は17を数えるだけだ。

台湾を国際的孤立に追い込むことで、中国は台湾人や台湾軍の士気を奪
い、中国への恐怖心を植え付ける。中国が得意とする心理戦だ。

こうした背景の下、中国は台湾侵攻を念頭に軍事力の構築に余念がない。
米国防総省は例年、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書で中国と台湾
の戦力比較を行っているが、中台の軍事力の差は年ごとに拡大し続けている。

米国は、今年に入って、台湾旅行法を定め、国防権限法を成立させた。両
法を通じて、台湾への外交、軍事両面からの支援を明確に打ち出した。

日本にとってアジアの地図はどのように変化していきつつあるのか。民進
党が大敗したとはいえ、台湾人が簡単に国民党の政権復帰を許し中国へ傾
斜していくとは思えない。それでも、台湾の動揺と、その先の台湾有事は
十分にあり得ると見ておくべきだろう。

朝鮮半島もまた危うい。韓国はさらに迷走を続けると見ておかなければな
らない。北朝鮮に従属する結果、大韓民国が消滅することさえ考えておか
ねばならない。

台湾と朝鮮半島に予想される大変化に備えて外交、安全保障上の担保を確
保しておきたい。なんとしてでも力をつけることだ。トランプ大統領が
NATO加盟国に要求するように防衛費をGDP比2%に引き上げ、自衛
隊の力を倍増する必要があるが、それは短期間では不可能だ。であればこ
そ、憲法改正の気概を見せることが欠かせない。

『週刊新潮』 2018年12月6日号 日本ルネッサンス 第830回