2019年07月21日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判 

   櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。
首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は厭だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日号日本ルネッサンス 第860回

2019年07月19日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判

櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。
首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は厭だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日号 日本ルネッサンス 第860回

2019年07月18日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判

櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。

首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は嫌だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日  日本ルネッサンス 第860回


2019年07月17日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回


2019年07月16日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。 安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首
脳会議での巧みな采配も、惜しくも吹き飛ばされた感がある。世界の目は
板門店でのトランプ・金正恩両首脳に集中し、その他の印象を消し去っ
た。凄いものだ。 6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の
家」からゆっくりと軍事境界線に向かって…

「新潟選挙区、野党統一候補のおかしさ」

『週刊新潮』 2019年7月4日号 日本ルネッサンス 第858回 「アリさ
ん、早くこっちによけないと、ひかれちゃうよ!」 幼い少女は、列に
なって道路を這っている蟻の群れが車に轢かれてしまうと心配して、一所
懸命、群れを道路の端に誘導しようとした。少女は横田めぐみさんであ
る。早紀江さんが当時を懐かしみながら語った。 「幼い頃のめぐみはい
つもこんなふうでした。生きものは何でも大好きで…



「日本の歴史をどれだけ深く学ぶかによって近未来を切り開く道が自ずと
明らかになる」

『週刊ダイヤモンド』 2019年6月29日号 新世紀の風をおこす オピニオ
ン縦横無尽 最終回  安岡正篤氏は首相まで務めた宮沢喜一氏を「ヨコ
の学問はできてもタテの学問がなっていない」と評した。安岡氏は、真の
教養ある日本人は欧米の事情のみならず日本の文化文明、歴史を修めなけ
ればならないと言っているのである。 その意味で近年読んだ本の中でと
りわけ重要だと感ずるのが白鳥庫吉博士の書いた日本。


2019年07月15日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである。

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回

2019年07月14日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回



2019年07月13日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである

『週刊新潮』 2019年7月11日号日本ルネッサンス 第859回

2019年07月12日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


「米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ」

国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである。

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回

2019年07月11日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


「米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ」

国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである。

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回

2019年07月09日

◆新潟選挙区、野党統一候補のおかしさ

櫻井よしこ


「アリさん、早くこっちによけないと、ひかれちゃうよ!」

幼い少女は、列になって道路を這っている蟻の群れが車に轢かれてしまう
と心配して、一所懸命、群れを道路の端に誘導しようとした。少女は横田
めぐみさんである。早紀江さんが当時を懐かしみながら語った。

「幼い頃のめぐみはいつもこんなふうでした。生きものは何でも大好き
で、変なものもしょっちゅう、家に連れてくるんです」

丸々とした頬の心身共に元気なめぐみさんを想い出してか、早紀江さんは
笑みを浮かべながら語った。

「ある日は両手に余る大きなガマガエルを、ナフキンに大事にくるんで家
にもってこようとしていたんです。お友達のお母様がめぐみが抱えている
大きな蛙を見てびっくりして私に電話してきました。めぐみは弟たちに見
せてあげたい一心でもってきたんですねぇ。小さかった頃、子供たちはい
つもこんなで、楽しかったんですよ」

早紀江さんも御主人の滋さんも、最初の子供は男の子だと信じ、名前は
「拓也」と決めていた。早紀江さんが隣の拓也さんを見ながら語る。

「生まれてきたのは女の子でしたからねぇ、めぐみにして、拓也という名
前は次の子のためにとっておいたんです」

ころころと笑う早紀江さん。

「拓也と哲也のお産もよく憶えています。拓也が最初に生まれて、もう一
人いるのに、私はすっかり疲れて、眠りかけたんです」

話をきいていた参議院議員の山谷えり子氏も私も、ここでどっと笑った。
早紀江さんが続ける。

「お医者さんが私の頬っぺをピチャピチャ叩いて、眠ってはいけません
よ、もう一人いますよ、眠る前に頑張りましょうと声をかけて下さって、
それで哲也が生まれたんです」

「神さまの御意志」

二人の男の子は小さい頃は喧嘩でプロレス技をかけ合った。団子のように
からみ合い、玄関先まで転がってガラス戸を破ったこともある。けれど弟
二人はいま両親を支え、めぐみさん奪還に向けて頼もしく行動している。
早紀江さんが続けた。

「めぐみちゃんは大変な人生を生きていますが、世界中の皆さんからご心
配いただいて、本当に幸せです。日本全国の人たちが気にかけて下さり、
安倍総理の働きかけで世界の指導者も拉致問題を知って下さっている。ト
ランプ大統領も真剣に拉致問題解決に力を貸して下さっている。家族には
大きな驚きですが、私は神さまの御意志を感じています」

この日、私たちは五嶋龍氏のコンサートを聴いたあと、一緒に食事をした
のだが、五嶋氏は拉致問題に非常に深い想いを抱き、解決を訴える多くの
コンサートを開いてきた。五嶋氏の母、節氏は拉致のニュースに涙し、家
族会を応援してきた。

拉致問題はいま、これまでのどの時より解決に近づいている。無論、並大
抵ではない。安倍晋三首相が呼びかけた日朝首脳会談実現の目途も立って
いない。それでも、私たちは拉致解決に近づいている。

「ここまで本当に多くの方たちが努力して下さった。姉と寄居中学で同窓
の塚田一郎さんもそうです」

拓也氏が語ったのは参議院議員の塚田氏のことだ。氏は関門新ルート(下
関北九州道路)整備構想に関して、首相や副総理を忖度したと発言して国
土交通副大臣を辞職した。

氏は福岡県知事選挙の応援でその場を盛り上げるために過剰なリップサー
ビスをしたのだが、この道路は地元も、立憲民主党も国民民主党も切望し
てきたもので、首相への忖度とは全く関係なく進められている。公職にあ
る人物が事実と異なることを語るのはとんでもないことだ。だからこそ、
塚田氏は自分の言葉を厳しく反省し、陳謝し、辞任した。

「そのことだけを批判し続けて、塚田さんの功績をまったく認めないのも
おかしい。塚田さんは私たち国民のために、地味ですが本当によく働いて
くれています」と、拓也氏。

「救う会」会長の西岡力氏も語る。

「一昨年9月、トランプ大統領が国連演説で、13歳の少女が北朝鮮に拉致
されていると語り、めぐみさん拉致事件を世界に知らしめました。背景に
塚田さんの力があったのです」

事情はこうだ。2017年5月に加藤勝信拉致担当大臣が訪米を計画したが、
要路の閣僚と日程調整ができず延期された。加藤大臣に同行することを考
えていた家族会、救う会は迷ったが、単独で訪米した。

「塚田さんがとにかく動こうと言って訪米が決まり、国家安全保障会議
(NSC)アジア上級部長のポッティンジャー氏に会えたのです。氏に拓
也さんがめぐみさんのことを語り、それを聞いたポッティンジャー氏が、
これからトランプ大統領に会うので、必ず伝えると約束してくれたので
す。その1週間後にめぐみさんに言及した国連演説があり、11月6日、ト
ランプ大統領が家族の皆さん方に初めて会って下さった」(同)

考え方もバラバラの野党

家族会、救う会の人々は、一様に、塚田氏が拉致被害者支援法改正、13項
目の対北朝鮮制裁の決定、米国人拉致被害者デービッド・スネドン氏救出
を目指す米議会の決議実現への働きかけなどを行ったことを評価し、未だ
に「忖度」発言で塚田氏を批判することを疑問視する。

7月に予定される参議院議員選挙の新潟選挙区は、全国で展開される与党
候補と野党統一候補の一騎討ち選挙区のひとつだ。新潟では共産党から国
民民主党まで一列に並んで弁護士の打越さく良氏を支援するが、これら野
党に共通項はあるのか。

たとえば拉致に関して、これまで共産党も社民党も力になったことなどな
い。国民民主党などとの決定的な違いのひとつであろう。

天皇と皇室についても、共産党は繰り返し「天皇制の転覆」や「天皇制の
打倒」を謳い、現委員長の志位和夫氏は「天皇の制度のない民主共和制を
目標とする」と語っている。共産党の主張に国民民主党は同意できるの
か。価値観がまったく異なる政党が統一候補の打越氏を応援するという
が、打越氏が当選したとしても、一体どんな政治ができるのか。

打越氏の現状認識にも違和感を抱く。16年9月21日付のネットサイト
「LOVE PIECE CLUB」に、「かなりリベラルと信頼する友人たちからも、
『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりする
ことも多い」と書いている。

朝日新聞は14年8月5,6の両日に、自社の慰安婦報道を、吉田清治氏の関
連記事すべてを虚偽として取り消すことで大誤報だと認めた。そうした指
摘を「びっくり」とはこちらがびっくりだ。考え方もバラバラの野党が担
ぐ極めてリベラルな打越氏と塚田氏の一騎討ちで、重要なことは、共産党
をも代表する人物の政治的立場を信用できるか、ということだ。

『週刊新潮』 2019年7月4日号日本ルネッサンス 第858回



2019年07月08日

◆新潟選挙区、野党統一候補のおかしさ

櫻井よしこ


「アリさん、早くこっちによけないと、ひかれちゃうよ!」

幼い少女は、列になって道路を這っている蟻の群れが車に轢かれてしまう
と心配して、一所懸命、群れを道路の端に誘導しようとした。少女は横田
めぐみさんである。早紀江さんが当時を懐かしみながら語った。

「幼い頃のめぐみはいつもこんなふうでした。生きものは何でも大好き
で、変なものもしょっちゅう、家に連れてくるんです」

丸々とした頬の心身共に元気なめぐみさんを想い出してか、早紀江さんは
笑みを浮かべながら語った。

「ある日は両手に余る大きなガマガエルを、ナフキンに大事にくるんで家
にもってこようとしていたんです。お友達のお母様がめぐみが抱えている
大きな蛙を見てびっくりして私に電話してきました。めぐみは弟たちに見
せてあげたい一心でもってきたんですねぇ。小さかった頃、子供たちはい
つもこんなで、楽しかったんですよ」

早紀江さんも御主人の滋さんも、最初の子供は男の子だと信じ、名前は
「拓也」と決めていた。早紀江さんが隣の拓也さんを見ながら語る。

「生まれてきたのは女の子でしたからねぇ、めぐみにして、拓也という名
前は次の子のためにとっておいたんです」

ころころと笑う早紀江さん。

「拓也と哲也のお産もよく憶えています。拓也が最初に生まれて、もう一
人いるのに、私はすっかり疲れて、眠りかけたんです」

話をきいていた参議院議員の山谷えり子氏も私も、ここでどっと笑った。
早紀江さんが続ける。

「お医者さんが私の頬っぺをピチャピチャ叩いて、眠ってはいけません
よ、もう一人いますよ、眠る前に頑張りましょうと声をかけて下さって、
それで哲也が生まれたんです」

「神さまの御意志」

二人の男の子は小さい頃は喧嘩でプロレス技をかけ合った。団子のように
からみ合い、玄関先まで転がってガラス戸を破ったこともある。けれど弟
二人はいま両親を支え、めぐみさん奪還に向けて頼もしく行動している。
早紀江さんが続けた。

「めぐみちゃんは大変な人生を生きていますが、世界中の皆さんからご心
配いただいて、本当に幸せです。日本全国の人たちが気にかけて下さり、
安倍総理の働きかけで世界の指導者も拉致問題を知って下さっている。ト
ランプ大統領も真剣に拉致問題解決に力を貸して下さっている。家族には
大きな驚きですが、私は神さまの御意志を感じています」

この日、私たちは五嶋龍氏のコンサートを聴いたあと、一緒に食事をした
のだが、五嶋氏は拉致問題に非常に深い想いを抱き、解決を訴える多くの
コンサートを開いてきた。五嶋氏の母、節氏は拉致のニュースに涙し、家
族会を応援してきた。

拉致問題はいま、これまでのどの時より解決に近づいている。無論、並大
抵ではない。安倍晋三首相が呼びかけた日朝首脳会談実現の目途も立って
いない。それでも、私たちは拉致解決に近づいている。

「ここまで本当に多くの方たちが努力して下さった。姉と寄居中学で同窓
の塚田一郎さんもそうです」

拓也氏が語ったのは参議院議員の塚田氏のことだ。氏は関門新ルート(下
関北九州道路)整備構想に関して、首相や副総理を忖度したと発言して国
土交通副大臣を辞職した。

氏は福岡県知事選挙の応援でその場を盛り上げるために過剰なリップサー
ビスをしたのだが、この道路は地元も、立憲民主党も国民民主党も切望し
てきたもので、首相への忖度とは全く関係なく進められている。公職にあ
る人物が事実と異なることを語るのはとんでもないことだ。だからこそ、
塚田氏は自分の言葉を厳しく反省し、陳謝し、辞任した。

「そのことだけを批判し続けて、塚田さんの功績をまったく認めないのも
おかしい。塚田さんは私たち国民のために、地味ですが本当によく働いて
くれています」と、拓也氏。

「救う会」会長の西岡力氏も語る。

「一昨年9月、トランプ大統領が国連演説で、13歳の少女が北朝鮮に拉致
されていると語り、めぐみさん拉致事件を世界に知らしめました。背景に
塚田さんの力があったのです」

事情はこうだ。2017年5月に加藤勝信拉致担当大臣が訪米を計画したが、
要路の閣僚と日程調整ができず延期された。加藤大臣に同行することを考
えていた家族会、救う会は迷ったが、単独で訪米した。

「塚田さんがとにかく動こうと言って訪米が決まり、国家安全保障会議
(NSC)アジア上級部長のポッティンジャー氏に会えたのです。氏に拓
也さんがめぐみさんのことを語り、それを聞いたポッティンジャー氏が、
これからトランプ大統領に会うので、必ず伝えると約束してくれたので
す。その1週間後にめぐみさんに言及した国連演説があり、11月6日、ト
ランプ大統領が家族の皆さん方に初めて会って下さった」(同)

考え方もバラバラの野党

家族会、救う会の人々は、一様に、塚田氏が拉致被害者支援法改正、13項
目の対北朝鮮制裁の決定、米国人拉致被害者デービッド・スネドン氏救出
を目指す米議会の決議実現への働きかけなどを行ったことを評価し、未だ
に「忖度」発言で塚田氏を批判することを疑問視する。

7月に予定される参議院議員選挙の新潟選挙区は、全国で展開される与党
候補と野党統一候補の一騎討ち選挙区のひとつだ。新潟では共産党から国
民民主党まで一列に並んで弁護士の打越さく良氏を支援するが、これら野
党に共通項はあるのか。

たとえば拉致に関して、これまで共産党も社民党も力になったことなどな
い。国民民主党などとの決定的な違いのひとつであろう。

天皇と皇室についても、共産党は繰り返し「天皇制の転覆」や「天皇制の
打倒」を謳い、現委員長の志位和夫氏は「天皇の制度のない民主共和制を
目標とする」と語っている。共産党の主張に国民民主党は同意できるの
か。価値観がまったく異なる政党が統一候補の打越氏を応援するという
が、打越氏が当選したとしても、一体どんな政治ができるのか。

打越氏の現状認識にも違和感を抱く。16年9月21日付のネットサイト
「LOVE PIECE CLUB」に、「かなりリベラルと信頼する友人たちからも、
『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりする
ことも多い」と書いている。

朝日新聞は14年8月5,6の両日に、自社の慰安婦報道を、吉田清治氏の関
連記事すべてを虚偽として取り消すことで大誤報だと認めた。そうした指
摘を「びっくり」とはこちらがびっくりだ。考え方もバラバラの野党が担
ぐ極めてリベラルな打越氏と塚田氏の一騎討ちで、重要なことは、共産党
をも代表する人物の政治的立場を信用できるか、ということだ。

『週刊新潮』 2019年7月4日号日本ルネッサンス 第858回

2019年07月06日

◆新潟選挙区、野党統一候補のおかしさ

櫻井よしこ


「アリさん、早くこっちによけないと、ひかれちゃうよ!」

幼い少女は、列になって道路を這っている蟻の群れが車に轢かれてしまう
と心配して、一所懸命、群れを道路の端に誘導しようとした。少女は横田
めぐみさんである。早紀江さんが当時を懐かしみながら語った。

「幼い頃のめぐみはいつもこんなふうでした。生きものは何でも大好き
で、変なものもしょっちゅう、家に連れてくるんです」

丸々とした頬の心身共に元気なめぐみさんを想い出してか、早紀江さんは
笑みを浮かべながら語った。

「ある日は両手に余る大きなガマガエルを、ナフキンに大事にくるんで家
にもってこようとしていたんです。お友達のお母様がめぐみが抱えている
大きな蛙を見てびっくりして私に電話してきました。めぐみは弟たちに見
せてあげたい一心でもってきたんですねぇ。小さかった頃、子供たちはい
つもこんなで、楽しかったんですよ」

早紀江さんも御主人の滋さんも、最初の子供は男の子だと信じ、名前は
「拓也」と決めていた。早紀江さんが隣の拓也さんを見ながら語る。

「生まれてきたのは女の子でしたからねぇ、めぐみにして、拓也という名
前は次の子のためにとっておいたんです」

ころころと笑う早紀江さん。

「拓也と哲也のお産もよく憶えています。拓也が最初に生まれて、もう一
人いるのに、私はすっかり疲れて、眠りかけたんです」

話をきいていた参議院議員の山谷えり子氏も私も、ここでどっと笑った。
早紀江さんが続ける。

「お医者さんが私の頬っぺをピチャピチャ叩いて、眠ってはいけません
よ、もう一人いますよ、眠る前に頑張りましょうと声をかけて下さって、
それで哲也が生まれたんです」

「神さまの御意志」

二人の男の子は小さい頃は喧嘩でプロレス技をかけ合った。団子のように
からみ合い、玄関先まで転がってガラス戸を破ったこともある。けれど弟
二人はいま両親を支え、めぐみさん奪還に向けて頼もしく行動している。
早紀江さんが続けた。

「めぐみちゃんは大変な人生を生きていますが、世界中の皆さんからご心
配いただいて、本当に幸せです。日本全国の人たちが気にかけて下さり、
安倍総理の働きかけで世界の指導者も拉致問題を知って下さっている。ト
ランプ大統領も真剣に拉致問題解決に力を貸して下さっている。家族には
大きな驚きですが、私は神さまの御意志を感じています」

この日、私たちは五嶋龍氏のコンサートを聴いたあと、一緒に食事をした
のだが、五嶋氏は拉致問題に非常に深い想いを抱き、解決を訴える多くの
コンサートを開いてきた。五嶋氏の母、節氏は拉致のニュースに涙し、家
族会を応援してきた。

拉致問題はいま、これまでのどの時より解決に近づいている。無論、並大
抵ではない。安倍晋三首相が呼びかけた日朝首脳会談実現の目途も立って
いない。それでも、私たちは拉致解決に近づいている。

「ここまで本当に多くの方たちが努力して下さった。姉と寄居中学で同窓
の塚田一郎さんもそうです」

拓也氏が語ったのは参議院議員の塚田氏のことだ。氏は関門新ルート(下
関北九州道路)整備構想に関して、首相や副総理を忖度したと発言して国
土交通副大臣を辞職した。

氏は福岡県知事選挙の応援でその場を盛り上げるために過剰なリップサー
ビスをしたのだが、この道路は地元も、立憲民主党も国民民主党も切望し
てきたもので、首相への忖度とは全く関係なく進められている。公職にあ
る人物が事実と異なることを語るのはとんでもないことだ。だからこそ、
塚田氏は自分の言葉を厳しく反省し、陳謝し、辞任した。

「そのことだけを批判し続けて、塚田さんの功績をまったく認めないのも
おかしい。塚田さんは私たち国民のために、地味ですが本当によく働いて
くれています」と、拓也氏。

「救う会」会長の西岡力氏も語る。

「一昨年9月、トランプ大統領が国連演説で、13歳の少女が北朝鮮に拉致
されていると語り、めぐみさん拉致事件を世界に知らしめました。背景に
塚田さんの力があったのです」

事情はこうだ。2017年5月に加藤勝信拉致担当大臣が訪米を計画したが、
要路の閣僚と日程調整ができず延期された。加藤大臣に同行することを考
えていた家族会、救う会は迷ったが、単独で訪米した。

「塚田さんがとにかく動こうと言って訪米が決まり、国家安全保障会議
(NSC)アジア上級部長のポッティンジャー氏に会えたのです。氏に拓
也さんがめぐみさんのことを語り、それを聞いたポッティンジャー氏が、
これからトランプ大統領に会うので、必ず伝えると約束してくれたので
す。その1週間後にめぐみさんに言及した国連演説があり、11月6日、ト
ランプ大統領が家族の皆さん方に初めて会って下さった」(同)

考え方もバラバラの野党

家族会、救う会の人々は、一様に、塚田氏が拉致被害者支援法改正、13項
目の対北朝鮮制裁の決定、米国人拉致被害者デービッド・スネドン氏救出
を目指す米議会の決議実現への働きかけなどを行ったことを評価し、未だ
に「忖度」発言で塚田氏を批判することを疑問視する。

7月に予定される参議院議員選挙の新潟選挙区は、全国で展開される与党
候補と野党統一候補の一騎討ち選挙区のひとつだ。新潟では共産党から国
民民主党まで一列に並んで弁護士の打越さく良氏を支援するが、これら野
党に共通項はあるのか。

たとえば拉致に関して、これまで共産党も社民党も力になったことなどな
い。国民民主党などとの決定的な違いのひとつであろう。

天皇と皇室についても、共産党は繰り返し「天皇制の転覆」や「天皇制の
打倒」を謳い、現委員長の志位和夫氏は「天皇の制度のない民主共和制を
目標とする」と語っている。共産党の主張に国民民主党は同意できるの
か。価値観がまったく異なる政党が統一候補の打越氏を応援するという
が、打越氏が当選したとしても、一体どんな政治ができるのか。

打越氏の現状認識にも違和感を抱く。16年9月21日付のネットサイト
「LOVE PIECE CLUB」に、「かなりリベラルと信頼する友人たちからも、
『慰安婦って、朝日新聞のねつ造なんでしょ?』と言われてびっくりする
ことも多い」と書いている。

朝日新聞は14年8月5,6の両日に、自社の慰安婦報道を、吉田清治氏の関
連記事すべてを虚偽として取り消すことで大誤報だと認めた。そうした指
摘を「びっくり」とはこちらがびっくりだ。考え方もバラバラの野党が担
ぐ極めてリベラルな打越氏と塚田氏の一騎討ちで、重要なことは、共産党
をも代表する人物の政治的立場を信用できるか、ということだ。

『週刊新潮』 2019年7月4日号 日本ルネッサンス 第858回