2017年11月05日

◆与党大勝の今、憲法改正を進めよ

櫻井よしこ

10月22日の総選挙は、安倍自民党の圧勝、改憲勢力の大勝に終わった。ひ
と月足らずの選挙戦はどんでん返しの連続だったが、日本が取り組むべき
重要課題、即ち憲法改正に積極的に取り組める枠組みができた。

日本の前には数々の難題や課題がある。今回の総選挙で国民は、まさにそ
れら国難に立ち向かい、日本の愁眉を開く道を、選んだのだ。

まず、足下の北朝鮮問題である。見通しは非常に厳しい。日本は直ちに堅
固な国防体制を整えなければならない。だが、中・長期的に見て日本のみ
ならず、西側陣営全体が警戒しなければならないのは中国である。

この原稿を執筆中の10月22日、北京では5年に1度の中国共産党大会が開催
中だ。開幕当日の習近平国家主席の演説から多くが読み取れる。3時間半
の演説で私が最も注目したのは「人類運命共同体」という言葉である。

習氏は中国人民だけでなく、人類全体を中国共産党の支配下に置くべき存
在だと見做しているのだろうか。この表現はざっと以下のような文脈の中
で使われている。

習政権の下で5年が過ぎた。この間の成果は反腐敗を徹底し、貧困率を改
善し、気候変動対策(パリ協定)の国際協力を主導し、南シナ海の島嶼建
設を積極的に進めた。広域経済圏構想の一帯一路を提唱し、アジアインフ
ラ投資銀行も創立した。こうしたことによって人類運命共同体の構築を提
唱した、という主張である。

アメリカがパリ協定から脱退を表明したのを好機として、中国はパリ協定
を擁護し、積極的にCO2削減に取り組むと、言葉の上では賛成した。中
国がその言葉通りに行動するという保証は全くと言ってよいほどないが、
こうした事例を挙げて、習氏は「人類運命共同体の構築」と言っているの
である。これからの中国を見詰める際に、この言葉は重要な意味を持つ
が、その構想は「偉大なる中華民族の復興」「中国の夢」と対であること
を忘れてはならない。

専制政治の強権志向

偉大なる中華民族を政治経済面で分析すると、「現代化した社会主義強
国」に行きつく。習氏は自身の思想を「新時代の中国の特色ある社会主
義」思想と呼び、中国共産党の行動指針であると宣言する。人類は皆、中
国と運命共同体になることを期待されているのであるから、習氏の思想は
中国共産党と中国人民のみならず、日本を含む人類全体が信奉しなければ
ならない価値観だと決めつける思想である。

強い違和感が先立つ。習氏の演説には到底受け入れ難い強硬な言葉もちり
ばめられている。たとえば「台湾独立勢力のいかなる形の分裂活動も打ち
破る断固たる意志と自信、十分な能力がある」として、現実には存在しな
い「92年コンセンサス」(ひとつの中国の原則を中台双方が認め合ったと
するもの)の受け入れが中台間の対話の条件だと、蔡英文台湾総統に突き
付けている。

チベットなどを念頭に、宗教は「中国化の方向を堅持し、社会主義社会に
適応するよう導く」と言う。チベット人がチベット仏教を禁止され毛沢東
語録を学ばせられているようなことを指すのであろう。

習氏は、建国100年の2049年までに中国は「社会主義現代化強国」とな
り、そのとき「中華民族は世界の諸民族のなかにそびえ立つ」と展望して
みせる。その実現のために、国防、軍隊の現代化を35年までにやり遂げ、
今世紀半ばには世界一流の軍隊を築き上げるという。

こうした一連の目的達成のためには共産党の指導を全党員全国民に徹底さ
せなければならない。その仕組みを完全に作り上げると豪語する。

専制政治の強権志向が、新たなる習体制の特徴である。中国人民のみなら
ず、日本を含めた全人類を中華圏に組み込むべく、軍の強大化を軸に強権
を振るうという野望は、「世界制覇宣言」とでも呼ぶのがよいだろうか。

中国の姿勢を異例の率直さで批判したのが、アメリカの国務長官、レック
ス・ティラーソン氏である。氏はアメリカ東部時間の10月18日、有力シン
クタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で「次の世紀を見据えた米印関
係」と題して講演し、質問に答えたが、その内容は驚くほど、踏み込んだ
ものだった。

ティラーソン氏はインドと中国を比較してこう語ったのだ。

「米国はインド・太平洋地域が平和、安定、継続的成長の繁栄の地とな
り、無秩序と摩擦と略奪の経済圏とはならないように、インドと協力して
いく必要がある」

膨大な債務

CSIS所長のジョン・ハムレ氏がその意味を尋ねると、ティラーソン氏
はざっと以下のように答えた。

この地域において中国の活動、たとえば中国式の金融は、地域諸国に膨大
な債務を負わせるだけだ。通常なら多くの雇用を生み出すインフラ整備事
業でさえ、中国は労働者を連れて来る。中国式の融資に乗る限り、アジア
諸国の将来展望は暗い、と。

ティラーソン氏は今年8月に行われた東アジア首脳会議で各国と、中国と
は異なる融資制度を考えようと相談したという。中国が政治的思惑で大規
模融資を繰り出してくるとき、こちら側は対抗できないかもしれない。し
かし健全な金融、経済を営むには、こちら側の制度に寄り添う方が合理的
だ。国の主権を守り、自国の将来を自らの手に握り続けるために、アジア
諸国はよく考え、正しい道を選ばなければならない、とティラーソン氏は
強調する。

だが、貧しく弱い国にとっては、中国が差し出す法外な額の無利子融資や
無償供与の資金は喉から手が出る程欲しい。受け取ったが最後、中国の支
配下に組み込まれてしまうと解っていても、受け取りたくなる。中国に頼
ると、見返りに国土を奪われ、やがて国そのものを土台から奪われる。中
国は周辺諸国を奪い、呑み込む国なのである。

「その国は誰のものか。誰が支配するのか。その国はその国民のものであ
り、その国の政府が統治すべきだ」とティラーソン氏はアジアの小国に言
い続けているという。アメリカの国務長官として中国と激しく闘っている
ことが窺える。

ティラーソン氏の考える闘いは、中国への対抗軸としてアメリカ、イン
ド、日本、オーストラリアの4か国連合を形成することだ。このような戦
略は、日本にとって測り知れない国益である。

日本こそが旗振り役となるべきである。今回の選挙結果は、習氏が築こう
としている中華帝国ではなく、より普遍的な価値観を軸にした自由陣営の
基軸国のひとつに、日本がなる道を切り拓く力である。そのために日本は
アメリカ、インド、オーストラリアなどと真の意味で対等な国にならなけ
ればならない。憲法改正を進める時である。安倍首相の背中を今や国民が
押している。

『週刊新潮』 2017年11月2日号 日本ルネッサンス 第776

2017年11月02日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ


「北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き 中国支配の朝鮮半島へ守り
方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れない。

ある。そのことを問うていたのが今回の選挙なのである。

『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年10月31日

◆北朝鮮危機の先に待ち受ける悪夢の筋書き

櫻井よしこ

「中国支配の朝鮮半島へ守り方問われる日本」

朝鮮半島問題でいつも深い示唆を与えてくれる「統一日報」論説主幹の洪
熒(ホン・ヒョン)氏がこのところ頻りに繰り返す。

「韓国も北朝鮮もレジームチェンジが必要だ」と。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がその国民を幸せにせず、周辺諸国に重
大な危機をもたらしていることから考えれば、北朝鮮のレジームチェンジ
に多くの反対はないのではないか。では、韓国の文在寅政権の場合はどう
か。洪氏が語る。

「文氏では大韓民国は消滅します。韓米同盟もなくなります。結果とし
て、朝鮮半島は中国が握る。そんな世界にしないために、レジームチェン
ジが必要なのです」

北朝鮮有事が目前に迫っている。11月中旬以降は何が起きても驚かない。
明らかなのは、トランプ米大統領が金氏の斬首作戦をひとつの柱として軍
事作戦の準備を進めつつあることだ。

軍事攻撃よりも話し合い路線での解決を目指しているティラーソン国務長
官は10月15日、「最初の爆弾が落とされるまで外交交渉を諦めない」と
語った。交渉にかける熱意と共に、軍事行動に出るというトランプ大統領
の決定は動かないことを強く示唆した言葉だった。

ティラーソン氏の努力が奏効して、最後の最後で金氏が核を放棄すれば軍
事攻撃は回避できる。だがそうでない場合、洪氏の懸念が実現しかねない。

朝鮮半島問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏が説明した。

「米国の北朝鮮攻撃は海軍と空軍による攻撃に限定されると思われます。
トランプ大統領は決して米陸軍を投入しない。米軍も韓国の陸軍で北朝鮮
は十分、片づけられると見ています。問題は文大統領です。彼が出動を拒
否する可能性があります」

文氏の政治姿勢は徹底した親北朝鮮である。国連安全保障理事会は9月11
日、全会一致で対北朝鮮でこれまでになく強い経済制裁を採決した。だ
が、10日後の21日、文政権は北朝鮮に計800万ドル(約8億9000万円)を支
援すると発表して顰蹙を買った。文氏の真の祖国は韓国ではなく北朝鮮で
はないかと思わせる。

そんな文氏であれば、対北朝鮮軍事攻撃の下命を拒否するかもしれない。
西岡氏が続けた。

「その場合は中国の人民解放軍が進軍します。米国が金氏を殺害し、核関
連施設も含めて北朝鮮の軍事施設の殆どを破壊したあと、中国が北朝鮮に
展開する。そしてそこを支配する。悪夢のような現実に私たちは向き合う
ことになるかもしれません」

中国が支配する北朝鮮も悪夢だが、もうひとつの悪夢も考えられる。文氏
が北朝鮮への進軍を拒否すれば、米韓同盟は破棄される。米軍は韓国から
撤退する。北朝鮮的体質の朝鮮半島を中国が取り、これから幾世紀も日本
と敵対する朝鮮半島が生まれるのだ。北朝鮮の核の危機の先に、新たな、
もっと深刻な危機が待ち受けていると考えなければならない。

北朝鮮有事で、わが国が最優先すべきは、拉致被害者の救出である。自衛
隊が救出に出動しなければならないのは勿論だ。それだけでなく、本来な
ら、日本の未来を見据えて自由と民主主義の価値観を共有する米韓両国と
共に、自衛隊も戦うのがよい。しかし、韓国がおかしくなり、米軍は地上
戦に消極的だ。おまけに当欄でも指摘してきたように、自衛隊は憲法で縛
られていて拉致被害者救出さえ儘ならない。いずれにしても米韓両国軍と
共に戦うことは不可能だ。

かといって中国に朝鮮半島を奪われてよいのか。何もしない、できない国
のままで、これからの日本を守れるのか。自ら努力しなければ守れないの
である。そのことを問うていたのが今回の選挙だ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年10月28日
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1204 

2017年10月30日

◆政府高官が語る、北朝鮮有事近し

櫻井よしこ

米朝間の緊張は緩む気配がない。朝鮮半島有事が現実のものとなる日が極
めて近いことが読みとれる。政府中枢にいる人物が匿名で語った。

「米軍の攻撃は今年末から来年早々だと思います」

同じく匿名で自民党幹部も語った。

「米軍の攻撃は2日で完了すると、日本に伝わってきています」

別々に取材した両氏の証言は、アメリカの北朝鮮攻撃が近いこと、軍事攻
撃がないと断言できるのはドナルド・トランプ大統領が11月5日から日
本、韓国、中国を歴訪し、ベトナムのダナンでAPEC首脳会議に出席す
るなどして帰国する11月中旬までであるという点で一致した。

アメリカはそれまで外交交渉で、金正恩朝鮮労働党委員長が核兵器とミサ
イルを放棄するよう働きかける。アメリカの望む結果が得られない場合、
北朝鮮情勢は「未知の領域に入る」と、政府高官は断言する。つまり北朝
鮮有事は、早ければ11月半ば以降にもあり得るのだ。

アメリカでは、9月18日にジェームズ・マティス国防長官が、ソウルを無
傷のまま守りながら北朝鮮を攻撃できると断言した。トランプ大統領は10
月1日、北朝鮮との外交交渉に言及したレックス・ティラーソン国務長官
に対し、「小さなロケットマンとの交渉は時間の無駄だと伝えた」とツ
イートした。

他方日本では、9月8日、インターネット配信の「言論テレビ」で小野寺五
典防衛相が敵基地攻撃について詳しく語った。氏は自民党の弾道ミサイル
防衛に関する検討チームの座長として、敵基地攻撃に関する党の案をまと
めた。

「従前の専守防衛論は戦闘機や爆撃機が飛来して、或いは軍艦が近寄って
きて攻撃する、それに対して日本を守るというのが前提の議論でした。し
かし、自民党は弾道ミサイルを撃ち落とすことも専守防衛の一環だととら
えました」

核攻撃もあり得る

では一番撃ち落とし易いのはどの時点か。小野寺氏は語る。

「いま、日本が撃とうとしているのは、ミサイルが高く上がったあと落下
してくるところです。しかし、これはむしろ撃ちにくい。狙い易いのは、
ミサイル発射前か、発射後のブースト・フェーズ、ミサイルがグーッと上
がってくるところです。ゆっくり上がってきますから、ここが一番撃ち落
とし易いのです」

「日本に飛んでくるミサイルを食い止めるのが専守防衛で、たまたまそれ
が発射前には北朝鮮の領土にある。発射後はブースト・フェーズでは北朝
鮮の領空にある。これを落とすには、北朝鮮の領土に届く装備が必要にな
ります。このことを議論すべきだというのが自民党の考えです」(同)

相手から撃たれて犠牲が出てはじめて反撃が許されるのが専守防衛である
との解釈では到底、日本を守り切れない。実際に北朝鮮のミサイル攻撃、
核攻撃もあり得る中で、自民党の議論は現実的であり、評価したい。

但し、安倍首相は自民党が提言した能力や装備については、現在のとこ
ろ、保有は検討しないとしている。

他方、小野寺氏はこうも語った。

「相手に日本攻撃の意図が明々白々にあるとき、攻撃の手順に着手した段
階で、武力攻撃を受けたという事態認定をすれば、自衛隊に武力行使を下
令できる。これが、歴代内閣の考えです」

こうした中、いまアメリカでは「着手論」が議論されていると、前出の政
府高官が指摘した。

9月の段階でアメリカ世論の58%が北朝鮮への軍事行動を支持していた
が、米軍は伝統的に先制攻撃よりも、攻撃を受けて反撃する傾向が強い。
パールハーバーも、日本に先に攻撃させるように流れを作ったと、著名な
歴史学者、チャールズ・ビーアドも指摘している。

「先制攻撃のイメージを避けたいアメリカが着手論を言い始めています。
これは自国への攻撃が明白になり、敵が攻撃の手順に着手したと判断した
とき、反撃が許されるという考えです。何を自国への攻撃と見るのかは、
その国の判断です」と、政府高官。

日本は北朝鮮有事にどう対処するのか、自民党で議論された敵基地攻撃を
可能にする装備などは予算措置をしているのかと質問すると、この人物は
明言した。

「北朝鮮のゴールは遠くないのです。この暮れにも、来年早々にもという
緊急事態です。先のことを考えて具体的に手当するような猶予はないのです」

安倍首相は今月22日の総選挙を国難突破の選挙だと宣言した。そのとおり
の展開になりつつある。北朝鮮に関するアメリカの狙いはこの国から核を
取り除くことだ。アメリカは恐らく金正恩氏の斬首作戦も決行するだろ
う。ここまでは明白だ。その後はどうなるのか。

拉致被害者を救出

まず、北朝鮮有事で日本は何を目指すのか。まっ先に横田めぐみさんをは
じめ拉致被害者を救出することだ。この件の担当は外務省だが、彼らの手
元に拉致被害者についての情報はない。アメリカにも恐らく、ない。

一人一人がどこにいるのかを把握することなしには、救出作戦は不可能で
ある。厳しい現実の中で、国民を救出することさえできない日本の現状を
如何にして変えていくか、私たちは日本国民の責任として考え、実行しな
ければならない。それは究極的には憲法改正につながるはずだ。

もう一点、日本が北朝鮮有事の先に見据えるべきは、中国の脅威である。

「中国は北朝鮮問題に世界の注意が集まるのを歓迎しているでしょう。し
かし、北朝鮮問題は中国問題なのです」と、高官氏。

中国はいま、ソマリア沖の海賊対策を名目に、インド洋からアラビア海に
かけての海洋調査を行っている。中国がアメリカの空母に対処するひとつ
の手段が潜水艦の活用である。71隻以上保有しており、それを世界の海に
潜航させてアメリカの動きを牽制するのである。

潜水艦の展開にはしかし、海の調査が欠かせない。海底の地形は無論、海
流、水温、塩分濃度などを季節要因も含めて把握しておかなければならな
い。それを中国は各国の眼前で堂々と行っているというのだ。

「彼らは日本周辺の海域でも同様の調査に余念がありません。日本もアメ
リカも、インドもオーストラリアも皆、中国の意図を読みとっています。
世界に覇権を打ち立てようと、一歩ずつ実行する中国の前で、日印米豪の
連携は着実に進んでいます」

22日の選挙は、小池百合子氏ら野党のいうモリカケ隠しなどという「しょ
ぼい」話ではない。北朝鮮危機、中国の脅威に軍事的にも対応し、国と国
民を守れる国になるための選挙なのだ。

『週刊新潮』 2017年10月26日  日本ルネッサンス 第775回

2017年10月23日

◆事実を伝えないメディアの責任

櫻井よしこ

「事実を伝えないメディアの責任大きい 韓国の重大事態から日本が学ぶ
べき教訓」

小池百合子氏が選挙戦の最前線で、安倍晋三首相への非難を強めている。
小池氏の安倍非難にちりばめられているのが「モリ・カケ問題」「お友達
だ、忖度だ」などの言葉だ。

かつての盟友も何のその、氏はあけすけな批判を繰り返すが、本当に森友
学園、加計学園問題で安倍首相が「お友達」に便宜をはかり、優遇したと
思っているのか。

だとしたら、政権与党で閣僚などの重要な地位にあり、いま東京都知事と
しての重責を担う割には、氏の情報収集・精査能力には重大な欠陥があ
る。「モリ・カケ」問題で安倍首相が個人として関わった事実のないこと
はすでに明らかだ。前愛媛県知事、加戸守行氏らの陳述を読めばよくわか
るはずだ。

それにしても、聡明なはずの小池氏をはじめ少なからぬ人々、とりわけテ
レビのワイドショーをよく見る人々がモリ・カケ問題で安倍首相への疑惑
を払拭しきれないとしたら、それはメディア側の責任も大きい。事実を伝
えないメディアがいかに人々の判断を狂わせ、国を揺るがすか。韓国で発
生した重大事態が示している。

「統一日報」が10月12日付で、「タブレットPCは私が使った」という記
事を1面トップで報じた。

タブレットPCとは、朴槿恵前大統領弾劾の引き金となった「物証」で、
反政府報道で知られるテレビ局、JTBCが昨年10月にスクープした。
JTBCは、このPCは朴氏の女友達、崔順実氏の所有物で、崔氏が朴氏
の演説の草案などに修正を加えていたことが明らかになったなどと報じた。

報道の翌日、韓国の検察は、PCには大統領による不正行為の「証拠が満
ちていた」と発表、この時から朴氏と崔氏の関係に非難が集中し始め、
「スキャンダル」が暴かれ始めた。事件が崔氏の逮捕、朴氏の弾劾及び逮
捕へ、さらに文在寅政権の誕生につながったことは周知のとおりだ。

ところが、このPCは崔氏のものではなく、朴政権の事務局でSNS業務
を担当していたシン・ヘウォンという女性のものであることが、本人の記
者会見によって明らかにされた。シン氏の主張が事実なら、朴氏弾劾は根
拠を失い、大統領選挙もやり直しが必要となる。それにしてもなぜシン氏
は1年も過ぎてから事実を公表したのか。彼女は次のように語った。

「昨年12月から、(朴氏非難に使われているPCは)自分のPCではない
かと、疑惑をもっていた。しかし、検察が実物を公開しなかったために確
認できなかった」

ところが検察が、問題のPCの内容についての報告書を公開したのだ。そ
の中にシン氏や当時の閣僚の写真があり、それでシン氏は自分の使ってい
たPCだと確信したという。

実は、検察側はPCそのものの公開も、内容についての調査結果の公表も
拒み続けていたが、朴氏の弁護人が粘り強く要請し、裁判所が検察に命令
して、公開させたのだ。

新たな展開を受けて韓国国会が真相究明に動き始めた。ただしこうしたこ
とが朴氏の無実証明への第一歩となるかどうかは、まだわからない。なぜ
なら、韓国メディアのほとんどがこの重大情報を報道しないからだ。

韓国の報道界には北朝鮮の工作が深く浸透していると言われる。その結
果、メディアには専ら、韓国転覆や対北朝鮮宥和策の実現を目指している
かのような論調が満ちている。まさにマスメディアが大韓民国の消滅に向
けて報道しているかのようだ。

一方で、日本以上にSNSなどが普及しているのが韓国で、すでにシン氏
の記者会見は広く拡散され始めている。これからの展開は予断を許さない
が、私たちが学ぶべき教訓は、NHKや朝日新聞に顕著な偏向報道を許し
てはならないということであろう。

『週刊ダイヤモンド』 2017年10月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1203



2017年09月18日

◆日本も周辺国も事態は戦後最大の危機

櫻井よしこ



「日本も周辺国も事態は戦後最大の危機 国防力強化と憲法改正に取り組
むべき」
3日に断行された北朝鮮の水爆実験には世界が驚き、広島の原爆の約10倍
という凄まじい威力だったことに多くの日本人は恐怖心を抱いたことだろう。

北朝鮮の労働新聞は、水爆を着弾させずに高空で爆発させ、広大な地域に
電磁パルス(EMP)攻撃を加えることも可能だと報じた。中国など大国
が秘密裡に備えているこうした悪の極みの能力を、これみよがしに喧伝す
るのは、逆に金正恩氏の恐怖心の裏返しか。

「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏は、EMP攻撃は米国の
トランプ政権を刺激せずにはおかないと警告する。EMP攻撃は直接人間
を殺害するものではないが、コンピューターシステムなどのハイテク装置
を麻痺させて社会の機能を全面的に喪失させる。飛行場の管制機能は失わ
れ、電気、ガス、水道などのインフラ機能、病院を含めた民生を支える生
活機能全ての喪失で、米国では約400万人の犠牲者が出るというシミュ
レーションさえある。

「こんな許容できないことまで口にしたからには、北朝鮮のレジームチェ
ンジが始まると思います」と洪氏。

韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防部長官(大臣)は9月4日、国会の国防
委員会で金氏の暗殺を担う「斬首部隊」を12月1日に創設するとし、現在
それに向けての「概念を確立中」だと語った。

暗殺部隊創設は朴槿恵前大統領のときから始まっていた。韓国国防省は今
年7月には平壌攻撃の仮想映像を公開しており、宋氏は12月の部隊創設に
伴い、即、戦力化が可能だと述べた。

しかし、韓国政府の斬首作戦の目的は何だろうか。文在寅大統領は年来の
主張、さらに大統領就任以降の言動から考えて親北朝鮮の基本は揺らいで
いない。「低レベルの」という条件付きではあるが、南北朝鮮の連邦政府
を作ると明言してきた。

自由と民主主義の韓国風の国家より、北朝鮮風の朝鮮民族のナショナリズ
ムを強調する社会主義的価値を基本にした統一への動きだと思われる。金
氏殺害後に、文氏の下で作る統一朝鮮像は想像しにくいが、必ずしも私た
ちが歓迎する自由な国家にはならないと思える。

中国は韓国の斬首作戦にどう対応するか。彼らにとって最大の悪夢は北朝
鮮の崩壊である。北朝鮮の人々が難民となって押し寄せ、中国の民族問題
に火をつけ、内政に混乱を生じさせることを中国は最も恐れている。

崩壊した北朝鮮に親米政権が誕生することも中国はどうしても避けたい。
従って韓国が斬首作戦に出るとき、中国はどこよりも早く介入しようとす
ると見るべきだろう。

金氏排除後、中国は北朝鮮を中国寄りの国として影響下にとどめるため
に、全力を尽くすはずだ。結局、中国にとって、北朝鮮という国を崩壊さ
せず、現状を保つことが大事なのだ。

一方、米国では斬首作戦という激しい言葉は使われてはいないが、「金氏
除去」、removeという言葉を用いての議論は盛んである。北朝鮮の
核は許容しない、核とミサイル完成の日より前に、金氏を除去する。その
ためにより強い政策を、という主張だ。

しかし制裁はこれまで機能せず、今もそうだ。そのことを米国が公に認め
るのは、そう遠い先のことではないだろう。そのとき、米国もまた、金氏
斬首に猛然と動くと見ておくべきだ。

国防長官はじめ安全保障問題担当補佐官、首席補佐官らトランプ政権中枢
を占める軍人出身の要人たちはあくまでも慎重だが、世論調査では対北軍
事攻撃を半数以上の人々が支持している。トランプ大統領がこのような世
論に乗らないという保証はない。

日本も周辺の国々も事態は戦後最大の危機の中にある。日本国民を守り、
国を守るにはどうすべきか、他国に頼りきりではだめなのだ。国防力の強
化と憲法改正の2つの課題に取り組むことだと思う。

『週刊ダイヤモンド』 2017年9月16日号

2017年09月17日

◆北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本

櫻井よしこ



「北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本 正しく理解したい戦後日 本
の体制の歴史」

8月29日午前5時58分、北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を越え襟裳岬の
東方、約1180キロメートルの太平洋上に落下した。

Jアラート、つまり空襲警報が影響を受けると予想される各県に早朝鳴り
響いた。その後、国民の反応が報じられたが、「子供をつれてどこに逃げ
ればよいのか、どこが安全なのか、分からない」という若い母親の言葉に
は実感がこもっていた。警察への問い合わせで最も多かったのが避難場所
についてだったという。

それに対して当局が答え得るのは「近くのできるだけ堅固なビルへの避
難」というような内容だ。これでは多くの人はどうしてよいか分からない
だろう。しかしこれが自力で国を守ることを禁じてきた日本の当然すぎる
現実である。

憲法前文には明確に書かれている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に
信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、と。9条2項に
は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない」と明記されている。

国を守るためであっても、国民を守るためであっても「交戦権」、すなわ
ち国家が戦う権利を認めないのである。国の最重要の責任は国民を守り、
国民の暮らし方の基盤である文明や文化、価値観もみんな包摂する形で国
柄を守ることにある。

にも拘らず、そのために戦うことまで否定した。そんなことはおかしい、
憲法改正が必要だという意見に対して、多くのメディアや言論人はこぞっ
て反対し、憲法改正を目指すことは悪事を企むことだというような主張を
展開する。

なぜ、こんな日本になったのかという疑問を、私は幾十回も繰り返してき
た。明確な答えは見つからないが、色摩力夫(しかまりきお)氏の『日本
人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか』(黙出版)が貴重な示唆を与えて
くれる。氏はまず、日本の、大東亜戦争の戦い方と敗北のし方について次
のように指摘する。

「わが国における降伏は、かつて経験したことのない大事件でありなが
ら、いかなる意味でも国内を混乱、崩壊させるものとはならなかった。そ
して国際社会の中で整然と規律をもって降伏を受諾し、連合国が課した降
伏条件を誠実に履行した。

近代国際社会の歴史を通じても、国民がこれほどの一体性をもちながら、
秩序をもって終戦に対処できた例は、大戦争の敗戦国において稀有と言っ
てよいだろう」

日本は「高度の規律を維持して降伏した」にも拘らず、戦後は国際社会の
中で毅然とした態度をとれずにきた。その理由は日本人が降伏の本質的意
義を正確に認識しなかったからだというのが、色摩氏の指摘だ。

降伏は征服とは異なる双務的な契約である。その契約が成立したのが、東
京湾、戦艦ミズーリ号上で日本代表と連合国代表が降伏文書に署名したと
きである。少なからぬ日本人は誤解しているが、日本の降伏は無条件降伏
ではなかった。敗者ではあるが、降伏という契約を結ぶ立場においては対
等だった。百歩譲って日本の降伏が無条件降伏だったと仮定しても勝者が
敗者に勝手に振舞うことは許されない。

だが「米国は日本占領の初期の段階から『降伏文書』の契約的性格を無視
し、むしろそれには縛られないという立場」をとったと色摩氏は指摘す
る。その最たる例が「東京裁判」だ。

契約破りのマッカーサーの前で、日本人は腰くだけとなった。歴史の事実
に照らしてみれば、日本はドイツに較べても、歴史上敗戦を喫したどの国
に較べても「誇り高き降伏」を実現する資格を持っていた。しかし、「そ
れをみすみす放棄」したと、氏は惜しむ。

北朝鮮の攻撃の前に無力な姿に陥りかねない日本の現状を見るにつけ、戦
後日本を形づくった体制を正しく理解したいと願うものだ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年9月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1197 


2017年09月16日

◆崩壊へ突き進む北朝鮮と韓国

櫻井よしこ



9月3日正午すぎ、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水素
爆弾の実験を行った。「朝鮮中央テレビ」は国際社会の怒りを尻目に、
「実験は完全に成功した」と報じた。

核実験という最大のタブーに踏み込んだことで、米朝関係もアジア情勢も
全く新たな次元に突入した。最終的に北朝鮮のみならず韓国のレジーム
チェンジにまで連鎖していく可能性がある。

シンクタンク『国家基本問題研究所』の西岡力氏がソウルで入手した北朝
鮮の内部情報は、金正恩朝鮮労働党委員長が、トランプ大統領を相手に何
を目標として、どこまで戦うつもりなのかを示唆するものとして興味深
い。西岡氏が語る。

「金正恩が7月か8月に、人民軍作戦部に『米国に最大限の圧力をかけよ。
核実験もせよ。ミサイルももっと発射せよ。潜水艦発射弾道ミサイル
(SLBM)も撃て。SLBMを搭載できる大型潜水艦(まだ原子力潜水
艦の製造技術はないので、原潜ではない)を造れ。100発同時に撃てば米
国も迎撃できない。米国に軍事的圧力を徹底してかけ、交渉の場に引き出
せ』と指示したのです」

金正恩氏は人民軍作戦部に、目的はアメリカと談判し、北朝鮮を核保有国
と認めさせ、平和協定を結ぶことだと語ったそうだ。

同情報をもたらした人物は、北朝鮮が100キロトン級のこれまでにない威
力の、小型化された核爆弾の実験を行う準備を整えていたこと、実験に成
功すれば核弾頭の小型化が完成することを、5月の段階で述べていた。今
回のICBM搭載用の核爆弾の威力は、わが国の防衛省の推定で70キロト
ン、5月の情報はほぼ信頼できるものだった。今回の金氏の発言とされる
情報も信頼できるのではないか。

だが、それにしても、トランプ大統領が交渉に応じて平和協定を結ぶな
ど、あり得ない。平和協定は、不可侵条約でもある。北朝鮮の核をそのま
まにして、アメリカが朝鮮半島から撤退することを意味する。それ自体、
明らかなアメリカの敗北であり、世界秩序の崩壊につながる。アジア諸国
が無秩序の世界に放り出されれば、どうなるか。その内の何か国かは、自
衛のための核武装に走りかねないだろう。

斬首作戦への恐怖

そのような道をアメリカが選ぶ可能性はゼロだ。にも拘わらず、なぜ、金
氏は前述の指示を出したのか。なぜ矢継ぎ早にミサイルや、核の実験に
走っているのか。「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏はそれを金
氏の焦りと見る。

「彼は追い込まれていると思います。世界中で彼の側に立ってくれる指導
者はロシアのプーチン大統領くらいでしょう。それもたいした助けにはな
りません。日本が入国を禁止した万景峰号を、ロシアは入国させました
が、入港料が払えず入港できなくなりました。金正恩の懐(ふところ)は相
当苦しいのでしょう。資金が枯渇しかかっているのかもしれません。この
ところずっと、各国の在外公館に上納金を納めるようにとの指示が飛んで
います」

麻薬密売をはじめ、あらゆる工作をして外貨を獲得する機関、「39号室」
の資金が底をつきつつあるということは、金氏にとって支配力の源泉を失
うということだ。この上なく不安であろう。

南北朝鮮の現状を冷静に分析すれば、長期的には北朝鮮に有利に働く状況
であるのが容易に見てとれる。なんといっても文在寅大統領は親北朝鮮
だ。文大統領は韓国国内に浸透している北朝鮮工作員を取り締まってきた
国家情報院の事実上の解体に乗り出している。国家情報院が解体され、捜
査権を縮小されれば、北朝鮮の工作員は自由に動ける。韓国は自ずと北朝
鮮の手に落ちる。それは決して遠い未来のことではないだろう。それを待
てないのは、金氏が持ち堪えられないほどの切迫した状況下にあるからだ
ろう。

資金枯渇に加えて考えられるのは「斬首作戦」への恐怖心である。彼の父
親の金正日氏もアメリカが本気で怒って攻撃を仕掛けてくると悟ったと
き、妥協した。西岡氏の説明だ。

「1994年6月に、北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)の査察官の立会い
なしに寧辺の黒鉛減速炉からプルトニウムの抽出につながる燃料棒取り出
しを強行したことなどで、彼らが核の開発を目指していると、当時のクリ
ントン大統領は確信し、北朝鮮爆撃を決定したのです。かなりの犠牲者が
出ても仕方がない、金正日を殺害するという決意です。アメリカの決意に
金正日は引っ込み、金日成が前面に出てきました。ジミー・カーター元大
統領と交渉して、結局アメリカの意向に従うことにしたのです」

“北朝鮮王朝”の面々は、他人の命は平然と奪っても自分たちの命が狙われ
たり、運命が暗転させられたりすることは極度に恐れる。このところの金
氏の性急かつ攻撃的な姿勢は、斬首作戦への氏の恐怖心の表われであろう。

レジームチェンジ

西岡氏は金正恩体制は末期に近く逃亡者が絶えないという。

「北朝鮮の労働党や国家保衛省(秘密警察)の幹部らから、韓国側に毎日
といってよいほど頻繁に連絡があるのです。脱北して韓国に亡命した場
合、自分の身柄は守ってもらえるのか、処遇はどうかなど、具体的な問い
合わせだそうです。皮肉なのは韓国の文政権は北朝鮮に対する工作部門を
縮小しているのです」

朴槿恵前大統領は北朝鮮の体制転覆を考えて、北朝鮮に向け多くの情報を
発信し、亡命を勧めた。持参した資金は全て当人のものとして認め、韓国
政府は没収しないなどと呼びかけた。これで少なからぬ政府高官や軍幹部
が亡命したが、文大統領はその種の措置を縮小しているのだ。だが対照的
に北朝鮮からの問い合わせは増え続けている。それだけ北朝鮮情勢に彼ら
が不安を感じているということだろう。

金氏は誰も支持しない自分のためだけの闘いで緊張を高める。北朝鮮の崩
壊を防ぎたいと考えても金氏を守るという発想は、中国を含めておよそど
の国にもない。

レジームチェンジは避けられないだろう。そのとき、文政権も崩壊の道を
辿り始める可能性が高い。北朝鮮の崩壊に伴って多くの情報が流出すれ
ば、悪事が露見して自殺に追い込まれた盧武鉉元大統領のように、文大統
領の北朝鮮との暗い関わりも白日の下に晒されるからだ。

南北ともにレジームチェンジの可能性がある今、わが国の課題はまず、拉
致被害者の救出だ。朝鮮半島の統一を自由主義の旗の下に成し遂げること
にも貢献すべきだ。そのために国際社会の連帯を実現し、先頭に立たなけ
ればならない。アメリカとの緊密な連携を保ち、政治的にも軍事的にも従
来にない貢献をして、初めてそれは可能になる。現実に軸足を置いた議
論、役に立たない専守防衛の考えから脱し、敵基地攻撃を含めて積極策を
採用することが必要だ。

『週刊新潮』 2017年9月14日号 日本ルネッサンス 第769回

2017年09月13日

◆北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本

櫻井よしこ
 


 「北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本 正しく理解したい戦後日本
の体制の歴史」

8月29日午前5時58分、北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を越え襟裳岬の
東方、約1180キロメートルの太平洋上に落下した。

Jアラート、つまり空襲警報が影響を受けると予想される各県に早朝鳴り
響いた。その後、国民の反応が報じられたが、「子供をつれてどこに逃げ
ればよいのか、どこが安全なのか、分からない」という若い母親の言葉に
は実感がこもっていた。警察への問い合わせで最も多かったのが避難場所
についてだったという。

それに対して当局が答え得るのは「近くのできるだけ堅固なビルへの避
難」というような内容だ。これでは多くの人はどうしてよいか分からない
だろう。しかしこれが自力で国を守ることを禁じてきた日本の当然すぎる
現実である。

憲法前文には明確に書かれている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に
信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、と。9条2項に
は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない」と明記されている。

国を守るためであっても、国民を守るためであっても「交戦権」、すなわ
ち国家が戦う権利を認めないのである。国の最重要の責任は国民を守り、
国民の暮らし方の基盤である文明や文化、価値観もみんな包摂する形で国
柄を守ることにある。

にも拘らず、そのために戦うことまで否定した。そんなことはおかしい、
憲法改正が必要だという意見に対して、多くのメディアや言論人はこぞっ
て反対し、憲法改正を目指すことは悪事を企むことだというような主張を
展開する。

なぜ、こんな日本になったのかという疑問を、私は幾十回も繰り返してき
た。明確な答えは見つからないが、色摩力夫(しかまりきお)氏の『日本
人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか』(黙出版)が貴重な示唆を与えて
くれる。氏はまず、日本の、大東亜戦争の戦い方と敗北のし方について次
のように指摘する。

「わが国における降伏は、かつて経験したことのない大事件でありなが
ら、いかなる意味でも国内を混乱、崩壊させるものとはならなかった。そ
して国際社会の中で整然と規律をもって降伏を受諾し、連合国が課した降
伏条件を誠実に履行した。近代国際社会の歴史を通じても、国民がこれほ
どの一体性をもちながら、秩序をもって終戦に対処できた例は、大戦争の
敗戦国において稀有と言ってよいだろう」

日本は「高度の規律を維持して降伏した」にも拘らず、戦後は国際社会の
中で毅然とした態度をとれずにきた。その理由は日本人が降伏の本質的意
義を正確に認識しなかったからだというのが、色摩氏の指摘だ。

降伏は征服とは異なる双務的な契約である。その契約が成立したのが、東
京湾、戦艦ミズーリ号上で日本代表と連合国代表が降伏文書に署名したと
きである。少なからぬ日本人は誤解しているが、日本の降伏は無条件降伏
ではなかった。敗者ではあるが、降伏という契約を結ぶ立場においては対
等だった。百歩譲って日本の降伏が無条件降伏だったと仮定しても勝者が
敗者に勝手に振舞うことは許されない。

だが「米国は日本占領の初期の段階から『降伏文書』の契約的性格を無視
し、むしろそれには縛られないという立場」をとったと色摩氏は指摘す
る。その最たる例が「東京裁判」だ。

契約破りのマッカーサーの前で、日本人は腰くだけとなった。歴史の事実
に照らしてみれば、日本はドイツに較べても、歴史上敗戦を喫したどの国
に較べても「誇り高き降伏」を実現する資格を持っていた。しかし、「そ
れをみすみす放棄」したと、氏は惜しむ。

北朝鮮の攻撃の前に無力な姿に陥りかねない日本の現状を見るにつけ、戦
後日本を形づくった体制を正しく理解したいと願うものだ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年9月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1197
     

2017年09月12日

◆北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本

櫻井よしこ



「北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本 正しく理解したい戦後日 本
の体制の歴史」

8月29日午前5時58分、北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を越え襟裳岬の
東方、約1180キロメートルの太平洋上に落下した。

Jアラート、つまり空襲警報が影響を受けると予想される各県に早朝鳴り
響いた。その後、国民の反応が報じられたが、「子供をつれてどこに逃げ
ればよいのか、どこが安全なのか、分からない」という若い母親の言葉に
は実感がこもっていた。警察への問い合わせで最も多かったのが避難場所
についてだったという。

それに対して当局が答え得るのは「近くのできるだけ堅固なビルへの避
難」というような内容だ。これでは多くの人はどうしてよいか分からない
だろう。しかしこれが自力で国を守ることを禁じてきた日本の当然すぎる
現実である。

憲法前文には明確に書かれている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に
信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、と。9条2項に
は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない」と明記されている。

国を守るためであっても、国民を守るためであっても「交戦権」、すなわ
ち国家が戦う権利を認めないのである。国の最重要の責任は国民を守り、
国民の暮らし方の基盤である文明や文化、価値観もみんな包摂する形で国
柄を守ることにある。

にも拘らず、そのために戦うことまで否定した。そんなことはおかしい、
憲法改正が必要だという意見に対して、多くのメディアや言論人はこぞっ
て反対し、憲法改正を目指すことは悪事を企むことだというような主張を
展開する。

なぜ、こんな日本になったのかという疑問を、私は幾十回も繰り返してき
た。明確な答えは見つからないが、色摩力夫(しかまりきお)氏の『日本
人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか』(黙出版)が貴重な示唆を与えて
くれる。氏はまず、日本の、大東亜戦争の戦い方と敗北のし方について次
のように指摘する。

「わが国における降伏は、かつて経験したことのない大事件でありなが
ら、いかなる意味でも国内を混乱、崩壊させるものとはならなかった。そ
して国際社会の中で整然と規律をもって降伏を受諾し、連合国が課した降
伏条件を誠実に履行した。

近代国際社会の歴史を通じても、国民がこれほどの一体性をもちながら、
秩序をもって終戦に対処できた例は、大戦争の敗戦国において稀有と言っ
てよいだろう」

日本は「高度の規律を維持して降伏した」にも拘らず、戦後は国際社会の
中で毅然とした態度をとれずにきた。その理由は日本人が降伏の本質的意
義を正確に認識しなかったからだというのが、色摩氏の指摘だ。

降伏は征服とは異なる双務的な契約である。その契約が成立したのが、東
京湾、戦艦ミズーリ号上で日本代表と連合国代表が降伏文書に署名したと
きである。少なからぬ日本人は誤解しているが、日本の降伏は無条件降伏
ではなかった。敗者ではあるが、降伏という契約を結ぶ立場においては対
等だった。百歩譲って日本の降伏が無条件降伏だったと仮定しても勝者が
敗者に勝手に振舞うことは許されない。

だが「米国は日本占領の初期の段階から『降伏文書』の契約的性格を無視
し、むしろそれには縛られないという立場」をとったと色摩氏は指摘す
る。その最たる例が「東京裁判」だ。

契約破りのマッカーサーの前で、日本人は腰くだけとなった。歴史の事実
に照らしてみれば、日本はドイツに較べても、歴史上敗戦を喫したどの国
に較べても「誇り高き降伏」を実現する資格を持っていた。しかし、「そ
れをみすみす放棄」したと、氏は惜しむ。

北朝鮮の攻撃の前に無力な姿に陥りかねない日本の現状を見るにつけ、戦
後日本を形づくった体制を正しく理解したいと願うものだ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年9月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1197 


2017年09月11日

◆正しく理解したい戦後日本の体制の歴史

櫻井よしこ



「北朝鮮の攻撃へ無力に陥りかねない日本 正しく理解したい戦後日本の
体制の歴史」

8月29日午前5時58分、北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を越え襟裳岬の
東方、約1180キロメートルの太平洋上に落下した。

Jアラート、つまり空襲警報が影響を受けると予想される各県に早朝鳴り
響いた。その後、国民の反応が報じられたが、「子供をつれてどこに逃げ
ればよいのか、どこが安全なのか、分からない」という若い母親の言葉に
は実感がこもっていた。警察への問い合わせで最も多かったのが避難場所
についてだったという。

それに対して当局が答え得るのは「近くのできるだけ堅固なビルへの避
難」というような内容だ。これでは多くの人はどうしてよいか分からない
だろう。しかしこれが自力で国を守ることを禁じてきた日本の当然すぎる
現実である。

憲法前文には明確に書かれている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に
信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、と。9条2項に
は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを
認めない」と明記されている。

国を守るためであっても、国民を守るためであっても「交戦権」、すなわ
ち国家が戦う権利を認めないのである。国の最重要の責任は国民を守り、
国民の暮らし方の基盤である文明や文化、価値観もみんな包摂する形で国
柄を守ることにある。

にも拘らず、そのために戦うことまで否定した。そんなことはおかしい、
憲法改正が必要だという意見に対して、多くのメディアや言論人はこぞっ
て反対し、憲法改正を目指すことは悪事を企むことだというような主張を
展開する。

なぜ、こんな日本になったのかという疑問を、私は幾十回も繰り返してき
た。明確な答えは見つからないが、色摩力夫(しかまりきお)氏の『日本
人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか』(黙出版)が貴重な示唆を与えて
くれる。氏はまず、日本の、大東亜戦争の戦い方と敗北のし方について次
のように指摘する。

「わが国における降伏は、かつて経験したことのない大事件でありなが
ら、いかなる意味でも国内を混乱、崩壊させるものとはならなかった。そ
して国際社会の中で整然と規律をもって降伏を受諾し、連合国が課した降
伏条件を誠実に履行した。近代国際社会の歴史を通じても、国民がこれほ
どの一体性をもちながら、秩序をもって終戦に対処できた例は、大戦争の
敗戦国において稀有と言ってよいだろう」

日本は「高度の規律を維持して降伏した」にも拘らず、戦後は国際社会の
中で毅然とした態度をとれずにきた。その理由は日本人が降伏の本質的意
義を正確に認識しなかったからだというのが、色摩氏の指摘だ。

降伏は征服とは異なる双務的な契約である。その契約が成立したのが、東
京湾、戦艦ミズーリ号上で日本代表と連合国代表が降伏文書に署名したと
きである。少なからぬ日本人は誤解しているが、日本の降伏は無条件降伏
ではなかった。敗者ではあるが、降伏という契約を結ぶ立場においては対
等だった。百歩譲って日本の降伏が無条件降伏だったと仮定しても勝者が
敗者に勝手に振舞うことは許されない。

だが「米国は日本占領の初期の段階から『降伏文書』の契約的性格を無視
し、むしろそれには縛られないという立場」をとったと色摩氏は指摘す
る。その最たる例が「東京裁判」だ。

契約破りのマッカーサーの前で、日本人は腰くだけとなった。歴史の事実
に照らしてみれば、日本はドイツに較べても、歴史上敗戦を喫したどの国
に較べても「誇り高き降伏」を実現する資格を持っていた。しかし、「そ
れをみすみす放棄」したと、氏は惜しむ。

北朝鮮の攻撃の前に無力な姿に陥りかねない日本の現状を見るにつけ、戦
後日本を形づくった体制を正しく理解したいと願うものだ。
『週刊ダイヤモンド』 2017年9月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1197 


2017年09月10日

◆平和ボケの日本人が読むべき1冊

櫻井よしこ



月29日早朝、3日前に続き北朝鮮がまたもやミサイルを発射した。しか
も、今回は日本上空を飛び越え、太平洋上に落下したのだ。北朝鮮の挑発
はやまず、周辺の緊張は続く。そんな今、色摩力夫(しかまりきお)氏の
『日本の死活問題国際法・国連・軍隊の真実』(Good Books)を、啓蒙の
書として勧めたい。

色摩氏は89歳、戦時国際法の第一人者である。仙台陸軍幼年学校から陸軍
予科士官学校に進んで軍人になる予定が、その前に終戦を迎えた。そこで
「国を守ることに変わりはない」と、外交官の道に入り、戦時国際法の権
威となった。

世界で唯一、憲法で自国の「交戦権」を否定している日本の私たちにとっ
て、戦時国際法や戦時法規などと言われてもピンとこないだろう。

なんと言ってもわが国は「いざというときには戦争に訴えてでも自国を守
る権利」、即ち、国家主権の核心をなす交戦権をアメリカ製の憲法で否定
され、一方的に守って貰う屈辱に70年間も甘んじている事実上の被保護国
だ。交戦権をはじめ国防や安全保障の心構えとは無縁で、楽しく過ごして
きた平和ボケの国民である。

氏は、そんな日本人に、パシフィズム(平和主義)こそ戦争誘因の要素で
あること、戦争は悪だと認識し、戦争廃止を熱望し、広く啓蒙すれば戦争
はなくなると信ずるパシフィズムは、歴史の試練の前で敗北してきたと、
懇切丁寧に説明する。

平和の実現とは正反対に、パシフィズムが大戦争を引き起こした悪名高い
事例に1930年代のイギリスの対独政策がある。官民共にパシフィズムに染
まったイギリスは、膨張を続けるヒトラーに対して宥和政策をとり続けた。

独仏の歴史的係争地であるラインラントにヒトラーが手をかけたのが36年
3月だった。パシフィズムの蔓延している英仏両国は軍事行動に出ないと
見ての侵攻だった。ヒトラーの読みは当たり、英仏は対独戦には踏み切ら
ず、ヒトラーの侵攻は大成功した。その後の第2次世界大戦への流れは周
知の通りだ。

「戦争を望む人」

往年のイギリス同様、現在の日本にもパシフィズムが蔓延する。特に
「NHK」「朝日」を筆頭にメディアにその傾向は強い。2年前の安保法
制も、安倍晋三首相の憲法改正もすべて「戦争」につながるとして、彼ら
は批判する。

大事なことは、しかし、独りよがりの素朴な善意を振り回すことではな
い。日本周辺に北朝鮮や中国の脅威が迫っている今こそ、そもそも紛争や
戦争について、国際社会の常識がどうなっているのか、意外な現実を知る
ことだ。色摩氏は書いている。

「文明社会においては実力行使は最終手段(ultima ratio)でなければな
りません。文明の紛れもない兆候のひとつは、暴力が最後の手段に限定さ
れていることです。他方、野蛮の証(あかし)は、暴力が最初の手段
(prima ratio)になっていることです」

実力行使即ち戦争は文明社会では最終手段、野蛮な社会では最初の手段と
されている。どちらの場合も、戦争は否応なく、問題解決の手段とされて
いるのが国際社会の現実だというのだ。

このような説明は、日本では中々受け入れられず、逆に「戦争を望む人」
の言説として受けとめられがちだ。だが氏の指摘は、国際社会では戦争に
関わらないことは容易ではなく、戦争は国際政治の中に組み込まれてい
る、そのことを理解しなければ、国家として生き残るのは難しいというこ
とである。

たとえば、多くの日本人は国連は平和を守る機関であるかのように誤解し
ている。色摩氏は国連は次の4つの戦争を認めていると強調する。

@国連自身の武力行使(国連憲章第42条)、A加盟国の個別的自衛権の行使
(第45条)、B加盟国の集団的自衛権の行使(第51条)、C敵国条項による
旧敵国への武力行使(第53条)
 
AとBは自衛戦争を指すが、戦争が自衛か否かを判断するのは当事国で、ど
んな戦争も自衛戦争として正当化される。

総合すると、国連憲章は事実上、全ての戦争を認めていると言ってよい。
だから世界各地で今日まで、多くの戦争が続いてきた。戦後約70年間で、
戦争などで武力行使をしなかった国は、国連加盟193か国中、日本などわ
ずか8か国に過ぎないとの氏の指摘は重要だ。

世界中で戦争は続いている。しかも日本周辺の危機は高まっている。だか
らこそ、戦争に対する国際社会の考え方やルールを知っておかなければな
らない。近代国際社会は、戦いの惨禍を抑制するためのさまざまなルール
を作っている。それが、戦時国際法である。その中でも最も大事なこと
は、戦争の終わらせ方だという。

戦時国際法への無知

停戦、講和条約締結、批准に至って全ての問題は解決され、勝者も敗者
も、この時点で未来志向で新しい出発点に立つ。この国際ルールから言え
ば、中国や韓国が日本に戦時中の賠償を現在に至るまで求めているのは、
明らかにおかしい。

わが国は先の大戦を国際法に則って戦い、国際法に基づいて降伏の手続き
を行い、降伏条件もまじめに履行した。法的にも政治的にも、戦争は完全
に終了している。

日本が近隣諸国の歴史認識問題に振り回されるのはこの認識が不十分なた
めだとの色摩氏の指摘を心に刻みたい。中国、韓国両国に対してだけでは
なく、私たちは大東亜戦争に関してあらゆる意味で引け目を感じている。
それは戦時国際法への無知から生じているのだ。

たとえば真珠湾攻撃である。わが国は攻撃開始30分前に最後通牒をアメリ
カ側に手交する予定だったが、ワシントンの日本大使館は攻撃開始から40
分過ぎて手交した。このことで騙し討ちなどと言われるが、色摩氏は「奇
襲攻撃は今も昔も、国際法上合法でわが国が不当な汚名を甘受するいわれ
はない」と断じている。

たとえば1939年のドイツによるポーランド侵攻、41年のドイツのソ連奇襲
と独ソ戦開始、65年のアメリカの北ベトナム攻撃、4度にわたるイスラエ
ルとアラブの戦争、北朝鮮や中国が韓国に攻め入った50年の朝鮮戦争な
ど、どの国も事前に宣戦布告をしていない。そのことで責められてもいな
い。現在も宣戦布告は国際法上の義務ではない。私たちはこうしたことも
知っておくべきだ。

戦争に関する法理という視点に立てば、「日本は先の大戦を立派に戦い、
そしてある意味で立派に負けた」に過ぎない。色摩氏は、「決して卑屈に
なったり、引きずったりする理由はありません」、「正々堂々と戦後を再
出発すれば良かったのです」と言い切る。国際法や国際社会、国連の現実
を知ることで、日本はもっと前向きな自己認識を持つようになれるのだ。
『週刊新潮』 2017年9月7日号 日本ルネッサンス 第768回

2017年09月09日

◆崩壊へ突き進む北朝鮮と韓国

櫻井よしこ
 


9月3日正午すぎ、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水素
爆弾の実験を行った。「朝鮮中央テレビ」は国際社会の怒りを尻目に、
「実験は完全に成功した」と報じた。

核実験という最大のタブーに踏み込んだことで、米朝関係もアジア情勢も
全く新たな次元に突入した。最終的に北朝鮮のみならず韓国のレジーム
チェンジにまで連鎖していく可能性がある。

シンクタンク『国家基本問題研究所』の西岡力氏がソウルで入手した北朝
鮮の内部情報は、金正恩朝鮮労働党委員長が、トランプ大統領を相手に何
を目標として、どこまで戦うつもりなのかを示唆するものとして興味深
い。西岡氏が語る。

「金正恩が7月か8月に、人民軍作戦部に『米国に最大限の圧力をかけよ。
核実験もせよ。ミサイルももっと発射せよ。潜水艦発射弾道ミサイル
(SLBM)も撃て。SLBMを搭載できる大型潜水艦(まだ原子力潜水
艦の製造技術はないので、原潜ではない)を造れ。100発同時に撃てば米
国も迎撃できない。米国に軍事的圧力を徹底してかけ、交渉の場に引き出
せ』と指示したのです」

金正恩氏は人民軍作戦部に、目的はアメリカと談判し、北朝鮮を核保有国
と認めさせ、平和協定を結ぶことだと語ったそうだ。

同情報をもたらした人物は、北朝鮮が100キロトン級のこれまでにない威
力の、小型化された核爆弾の実験を行う準備を整えていたこと、実験に成
功すれば核弾頭の小型化が完成することを、5月の段階で述べていた。今
回のICBM搭載用の核爆弾の威力は、わが国の防衛省の推定で70キロト
ン、5月の情報はほぼ信頼できるものだった。今回の金氏の発言とされる
情報も信頼できるのではないか。

だが、それにしても、トランプ大統領が交渉に応じて平和協定を結ぶな
ど、あり得ない。平和協定は、不可侵条約でもある。北朝鮮の核をそのま
まにして、アメリカが朝鮮半島から撤退することを意味する。それ自体、
明らかなアメリカの敗北であり、世界秩序の崩壊につながる。アジア諸国
が無秩序の世界に放り出されれば、どうなるか。その内の何か国かは、自
衛のための核武装に走りかねないだろう。

斬首作戦への恐怖

そのような道をアメリカが選ぶ可能性はゼロだ。にも拘わらず、なぜ、金
氏は前述の指示を出したのか。なぜ矢継ぎ早にミサイルや、核の実験に
走っているのか。「統一日報」論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏はそれを金
氏の焦りと見る。

「彼は追い込まれていると思います。世界中で彼の側に立ってくれる指導
者はロシアのプーチン大統領くらいでしょう。それもたいした助けにはな
りません。日本が入国を禁止した万景峰号を、ロシアは入国させました
が、入港料が払えず入港できなくなりました。金正恩の懐(ふところ)は相
当苦しいのでしょう。資金が枯渇しかかっているのかもしれません。この
ところずっと、各国の在外公館に上納金を納めるようにとの指示が飛んで
います」

麻薬密売をはじめ、あらゆる工作をして外貨を獲得する機関、「39号室」
の資金が底をつきつつあるということは、金氏にとって支配力の源泉を失
うということだ。この上なく不安であろう。

南北朝鮮の現状を冷静に分析すれば、長期的には北朝鮮に有利に働く状況
であるのが容易に見てとれる。なんといっても文在寅大統領は親北朝鮮
だ。文大統領は韓国国内に浸透している北朝鮮工作員を取り締まってきた
国家情報院の事実上の解体に乗り出している。国家情報院が解体され、捜
査権を縮小されれば、北朝鮮の工作員は自由に動ける。韓国は自ずと北朝
鮮の手に落ちる。それは決して遠い未来のことではないだろう。それを待
てないのは、金氏が持ち堪えられないほどの切迫した状況下にあるからだ
ろう。

資金枯渇に加えて考えられるのは「斬首作戦」への恐怖心である。彼の父
親の金正日氏もアメリカが本気で怒って攻撃を仕掛けてくると悟ったと
き、妥協した。西岡氏の説明だ。

「1994年6月に、北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)の査察官の立会い
なしに寧辺の黒鉛減速炉からプルトニウムの抽出につながる燃料棒取り出
しを強行したことなどで、彼らが核の開発を目指していると、当時のクリ
ントン大統領は確信し、北朝鮮爆撃を決定したのです。かなりの犠牲者が
出ても仕方がない、金正日を殺害するという決意です。アメリカの決意に
金正日は引っ込み、金日成が前面に出てきました。ジミー・カーター元大
統領と交渉して、結局アメリカの意向に従うことにしたのです」

“北朝鮮王朝”の面々は、他人の命は平然と奪っても自分たちの命が狙われ
たり、運命が暗転させられたりすることは極度に恐れる。このところの金
氏の性急かつ攻撃的な姿勢は、斬首作戦への氏の恐怖心の表われであろう。

レジームチェンジ

西岡氏は金正恩体制は末期に近く逃亡者が絶えないという。

「北朝鮮の労働党や国家保衛省(秘密警察)の幹部らから、韓国側に毎日
といってよいほど頻繁に連絡があるのです。脱北して韓国に亡命した場
合、自分の身柄は守ってもらえるのか、処遇はどうかなど、具体的な問い
合わせだそうです。皮肉なのは韓国の文政権は北朝鮮に対する工作部門を
縮小しているのです」

朴槿恵前大統領は北朝鮮の体制転覆を考えて、北朝鮮に向け多くの情報を
発信し、亡命を勧めた。持参した資金は全て当人のものとして認め、韓国
政府は没収しないなどと呼びかけた。これで少なからぬ政府高官や軍幹部
が亡命したが、文大統領はその種の措置を縮小しているのだ。だが対照的
に北朝鮮からの問い合わせは増え続けている。それだけ北朝鮮情勢に彼ら
が不安を感じているということだろう。

金氏は誰も支持しない自分のためだけの闘いで緊張を高める。北朝鮮の崩
壊を防ぎたいと考えても金氏を守るという発想は、中国を含めておよそど
の国にもない。

レジームチェンジは避けられないだろう。そのとき、文政権も崩壊の道を
辿り始める可能性が高い。北朝鮮の崩壊に伴って多くの情報が流出すれ
ば、悪事が露見して自殺に追い込まれた盧武鉉元大統領のように、文大統
領の北朝鮮との暗い関わりも白日の下に晒されるからだ。

南北ともにレジームチェンジの可能性がある今、わが国の課題はまず、拉
致被害者の救出だ。朝鮮半島の統一を自由主義の旗の下に成し遂げること
にも貢献すべきだ。そのために国際社会の連帯を実現し、先頭に立たなけ
ればならない。アメリカとの緊密な連携を保ち、政治的にも軍事的にも従
来にない貢献をして、初めてそれは可能になる。現実に軸足を置いた議
論、役に立たない専守防衛の考えから脱し、敵基地攻撃を含めて積極策を
採用することが必要だ。

『週刊新潮』 2017年9月7日号 日本ルネッサンス 第768回