2018年05月06日

◆米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題

櫻井よしこ



「米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題 「リビア方式」による解決
可能性を示唆か」

4月17日の日米首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相
に、「極めて高いレベルで北朝鮮と直接対話している」と語り、その後記
者団が「金正恩氏と直接話しているのか」と問うと、「イエス」と答え
た。マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が3月30日から4月1日の
復活祭の連休を利用して訪朝したのだという。

いま米国の対北朝鮮外交はトランプ氏の意向を汲むポンペオ氏に加えて、
国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が軸となって構
築されている。3氏共に、非核化の話し合いが失敗すれば、軍事オプショ
ンもあり得るとの考え方だ。

ポンペオ氏は正恩氏と話し合いをした後の4月12日、上院外交委員会で行
われた国務長官への指名承認公聴会で、正恩体制の転換は考えていないと
明言すると同時に、非核化に関して、「見返りを与える前に恒久的かつ不
可逆的な成果を得ることを確実にする」と述べた。

米国側の一連の動きは北朝鮮問題が「リビア方式」による解決に向かう可
能性を示唆するのではないか。

これはリビアの最高指導者、カダフィ大佐が選んだ非核化の道である。カ
ダフィ氏は秘密裏に大量破壊兵器の製造を進めていたが、2003年12月にイ
ラクのサダム・フセイン元大統領が地中に潜んでいたところを米軍に拘束
されたのを見て、震え上がった。カダフィ氏はその3日後に大量破壊兵器
を放棄する意思を世界に宣言した。

CIAと英国の秘密情報組織、MI6の要員を含む専門家集団がリビア入
りし、核兵器、核製造に必要な関連物資、核運搬用のミサイル、製造施
設、一連の計画に関する書類など全てを押収、化学物質はリビア国内で米
英作業部隊の監視の下で破壊され、書類は全て国外に持ち出された。

カダフィ氏は全てを受け入れて生き延びた。但し、彼は10年にチュニジア
でいわゆる中東の春と呼ばれる民主化運動が始まり、その広がりの中で11
年に群衆に殺害された。

正恩氏が核を放棄すれば、カダフィ氏やフセイン氏のように命を奪われる
という言説があるが、右の2つのケースが伝えているのは全く別の教訓で
はないか。

フセイン氏は核兵器を持っていなかったが持っている振りをして査察を拒
否し、米軍に殺害された。カダフィ氏は核兵器製造を明らかにし、査察を
受け入れ、8年間生き延びた。氏を殺害したのは前述したように、リビア
の国民であり、それはカダフィ一族による専制恐怖政治が招いた結果だ。

2人の指導者の異なる運命を正恩氏が把握すれば、どちらを選べば氏の命
脈が守られるかわかるはずだ。

トランプ氏は安倍首相との共同記者会見でも「成果が期待できなければ米
朝首脳会談は実現しない。会談が実現しても実りがなければ退席する」と
語っている。正恩氏に圧力をかけ続け、米国の求める形の非核化実現を促
しているのだ。

安倍首相とトランプ氏は19日午前の共同記者会見で拉致問題についても
語った。トランプ氏は拉致被害者について、「日本に帰れることを大事に
考えている。私はこのことをシンゾーに約束した」と語った。救う会会長
の西岡力氏は語る。

「CIAは北朝鮮の情報当局にも接触しており、拉致被害者についても語
り合っていると思われます。その中で拉致被害者生存情報を得ているので
はないでしょうか。その上で拉致被害者の帰国に言及しているのです。勿
論、甘い期待はできませんが、拉致問題解決に向けてよい兆しだと思います」

国際政治は動いている。多くの日本人の命と運命がかかっている。国とし
てどう動くべきか、正念場である。日本の国会はもっとこうした大事な問
題に向き合うべきだ。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月28日・5月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1229


2018年05月05日

◆加計問題巡る首相への「嘘つき」批判

櫻井よしこ


「加計問題巡る首相への「嘘つき」批判 重要政策の反転こそ天に唾する
ものだ」
4月10日、「朝日新聞」が朝刊1面に「加計巡り首相秘書官」「面会記録に
『首相案件』」の見出しを掲げて報じた。3年前の2015年4月2日、愛媛県
及び今治市の職員と加計学園の幹部が(首相官邸で)柳瀬唯夫首相秘書官
(当時)と面会し、その際柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたという
のだ。
4月11日、国会ではこの「職員メモ」を巡って激しい質問が飛んだ。「希
望の党」代表の玉木雄一郎氏は、安倍晋三首相を「嘘つき」と批判した。

尋常な批判ではない。安倍首相が、「嘘つきと言うからには、その証拠を
挙げていただきたい」と反論したのは当然である。こうした国会の状況
を、前愛媛県知事の加戸守行氏は憤りを込めて批判する。

「加計学園獣医学部新設問題の本質をなぜ見ないのでしょうか。岩盤規制
を切り崩そうとした安倍政権と、それを守ろうとした文部科学省や日本獣
医師会の闘いだったのです」

中村時広愛媛県知事は冒頭のメモは確かに県の職員が作成したもので、自
分は職員を信じていると述べた。一方県庁の役人に「首相案件」と述べた
とメモに書かれた柳瀬氏は、これを明確に否定した。「朝日」に寄せた氏
の反論のポイントは以下の通りだ。

●2015年4月当時は50年余りも新設が認められていなかった獣医学部の新設
をどうするかという制度が議論されており、具体的にどの大学に適用する
かという段階ではなかった。

●実際、その後「石破4原則」が決定、具体策の検討が開始された。

●翌、16年11月に獣医学部新設が国家戦略特区の追加規制改革事項として
決定された。

●具体的地点(大学)の選定は自分が首相秘書官の職を離れてかなり時間
が経って始まった。

●従って、自分が(15年4月段階で)首相案件だという具体的な話をするこ
とはあり得ない。

獣医学部新設を申請していた当事者の加戸氏は次のように語る。

「私たちは政府に獣医学部新設を15回も申請して15回全てはねられた。内
5回は、安倍内閣によってはねられたのです。安倍さんに『首相案件』だ
という気持ちが少しでもあれば、加計学園の獣医学部新設はもう何年も前
に実現していたはずです。

加計学園が獣医学部新設を認めてもらえたのは、国家戦略特区諮問会議に
民間の有識者が委員として参画し、彼らが既得権益にしがみつく獣医師会
と文科省の抵抗を打ち砕いたからです」

諮問会議は一連の審議には一点の曇りもないと発表している。では「職員
メモ」をどうとらえればよいのか。加戸氏の説明だ。

「面会日は2日、メモ作成は4月13日、実際の面会日の11日後です。記憶に
基づいて作成したことがうかがえます。実際の会話のニュアンスがどの程
度正確に反映されていたかも考える必要があります。柳瀬氏は否定してい
ます。私も官僚でした。その体験から考えて、柳瀬氏はどぎついことなど
言っていないだろうと思います」

この職員メモには下村博文氏が、安倍首相、加計孝太郎氏と食事をした際
に語ったとされる言葉も出てくる。それを下村氏は「迷惑だ」と否定した。

「『職員メモ』には首相や加計氏と私が三人で食事したと書かれています
が、そのようなことは一度もありません。従って発言もありません」

玉木氏らは首相を「嘘つき」と国会で非難したが、玉木氏以下、全員が、
小池百合子氏の下に走ったとき憲法改正にも安保法制にも賛成すると誓約
した。いま彼らは民進党に戻る中で、これら重要な政策について再び反転
しようとしている。もしそのようなことが現実となるならそれこそ、「嘘
つき」であろう。玉木氏の首相非難は、まさに天に唾するものであろう。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1228 m

2018年05月04日

◆野党とメディアが日本を滅ぼす

櫻井よしこ


米英仏は4月13日午後9時(日本時間14日午前10時)からシリアの化学兵器
関連施設3か所に、105発のミサイル攻撃を加えた。

1年前、トランプ大統領は米国単独でミサイル攻撃を加えた。今回、米国
がどう動くのかは米国が自由世界のリーダーとしての責任を引き受け続け
るのか否か、という意味で注目された。それは、異形の価値観を掲げるロ
シアや中国に国際社会の主導権を取らせるのか、という問いでもある。

米英仏軍の攻撃は、米国が自由主義世界の司令塔としてとどまることを示
した。決断はどのようになされたのか。

米紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)などの報道によ
ると、国防総省はトランプ氏に3つの選択肢を示したという。➀シリアの化
学兵器製造能力につながる施設に最小限の攻撃をかける、➁化学兵器研究
センターや軍司令部施設まで幅広く標的を広げ、アサド政権の基盤を弱め
る、➂シリア国内のロシア軍の拠点も攻撃し、アサド政権の軍事的基盤を
破壊する、である。

トランプ氏は➁と➂の組み合わせを選択した。ミサイル攻撃を一定水準に限
定しつつ、化学兵器製造能力に決定的打撃を与えるが、アサド政権の転覆
は目指さないというものだ。

結論に至るまでの議論をWSJが報じている。トランプ氏は➂の選択肢に
傾いており、ニッキー・ヘイリー国連大使も大統領と同様だったという。
反対したのがジェームズ・マティス国防長官で、ロシア軍の拠点まで含め
た攻撃はロシアのみならず、イランからも危険な反撃を受ける可能性があ
ると説得したそうだ。

攻撃4日前の4月9日に国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任したジョ
ン・ボルトン氏は今年2月、WSJに、米軍には北朝鮮に先制攻撃を行う
権利があると述べた強硬派である。マティス国防長官は国防総省でボルト
ン氏に初めて会ったとき、「あなたは悪魔の化身だという噂をきいていま
す」と、冗談めかして言ったそうだが、それほど、ボルトン氏のイメージ
は強硬派の中の強硬派なのである。

米朝会談の展望

しかし、今回、ボルトン氏はアサド政権に潰滅的打撃を与えながらも、過
度な攻撃を避けるという「困難な妥協点を見出した」と評価された。強硬
だが、分別を持った陣容がトランプ氏の周りにいるとの見方があるのである。

それにしてもトランプ氏の考え方は矛盾に満ちている。彼は一日も早く中
東から米軍を引き上げさせたいとする一方で、シリアに大打撃を与えるべ
く、強硬な攻撃を主張する。

化学兵器の使用という、人道上許されない国家犯罪には懲罰的攻撃を断行
するが、ロシアとは戦わない。今回の攻撃の目的はあくまでも人道上、国
際条約で禁止されている化学兵器の使用をやめさせることであり、政権転
覆や中東における勢力図の変更を意図するものではないというのが米国の
姿勢だと見てよいが、トランプ氏が同じように考えているのかはよくわか
らない。

もっとも、共和党にはリンゼイ・グラハム上院議員の次のような考えも根
強い。

「アサド氏は米軍による攻撃を、仕事をする(doing business)ための必
要なコストだと考えている可能性がある。ロシアとイランは今回の攻撃
を、米国がシリアから撤退するための口実の第一歩と見ている。米英仏の
攻撃がロシア、シリア、イランに戦略を変えさせ、ゲームチェンジを起こ
すわけではない」

米国の攻撃は状況を根本から変えるわけではないというグラハム氏の指摘
を日本は重く受けとめなくてはならないだろう。シリア政策は北朝鮮政策
にも通じるからだ。

5月にもトランプ氏と金正恩氏は会うのである。どちらも常識や理性から
懸け離れた性格の持ち主だ。周囲の意見をきくより、即断即決で勝負に出
る可能性もある。狡猾さにおいては、正恩氏の方が優っているかもしれない。

米朝会談の展望を描くのは難しいが、万が一、米国に届く大陸間弾道ミサ
イルを北朝鮮が諦めるかわりに、核保有を認めるなどということになった
らどうするのか。

日米首脳会談で安倍首相がトランプ氏と何を語り合い、何を確約するか
は、日本にとっても拉致被害者にとっても、これ以上ない程に重要だ。本
来、首相以下、閣僚、政治家の全てがこの眼前の外交課題に集中していな
ければならない時だ。

しかし、驚いた。米英仏のシリア攻撃直後のNHKの「日曜討論」ではな
んとモリカケ問題などを議論していた。メディアも政治家も一体、何を考
えているのか。私はすぐにテレビを消したが、野党とメディアが日本を滅
ぼすと実感した出来事だった。

喜ぶのは某国

4月13日夜、私の主宰するネット配信の「言論テレビ」で小野寺五典防衛
大臣が日報問題について語ったことの一部を紹介しよう。

自衛隊がイラクに派遣されていた10年以上前、日報の保存期間は1年以内
だった。隊員たちも「読み終わったら捨てるものだから、何年も前の日報
は廃棄されて存在しないだろう」と思い込んでいた。

だが、自衛隊は全国に基地や駐屯地が300か所以上あり、隊員だけで25万
人もいる。思いがけずパソコン内に日報を保存していた人がいたり、ある
いは書類棚の中に残っていたのが見つかった。その時点で報告し、開示す
べきだったが、そこで適切な処理が行われず、これが結果的に問題を招い
てしまったというのだ。このような背景をメディアが正確に報じていれ
ば、日報問題への見方も異なっていたはずで、無用な混乱もなかったはずだ。

ここ数年、防衛省には年間5000件以上の情報開示請求が集中豪雨のように
なされているという。大変なのは件数だけでなく、請求内容だ。「何年何
月の資料」とピンポイントで開示請求するのでなく、「イラク派遣に関す
る文書」というような大雑把な請求が少なくない。当然、膨大な量にな
る。資料が特定できたとして、中身を調べ、開示して差し支えないか、関
係各省にも問い合わせる必要がある。この作業を経て黒塗り箇所を決め、
提出する。これが年間5000件以上、職員はもうくたびれきっている。

防衛省をこの種の書類探しや精査の作業に追い込んで、本来の国防がおろ
そかにならないはずはない。喜ぶのは某国であろう。

ちなみに日本を除く他の多くの国々では、日報は外交文書同様、機密扱い
である。日報を一般の行政文書に位置づけて、情報公開の対象にしている
のは恐らく日本だけだ。

問題があれば追及し、正すのは当然だ。しかし、いま行われているのは、
メディアと野党による日本潰しだと私は思う。
『週刊新潮』 2018年4月26日号 日本ルネッサンス 第800回

2018年05月03日

◆加計問題巡る首相への「嘘つき」批判

櫻井よしこ


「加計問題巡る首相への「嘘つき」批判 重要政策の反転こそ天に唾する
ものだ」

4月10日、「朝日新聞」が朝刊1面に「加計巡り首相秘書官」「面会記録に
『首相案件』」の見出しを掲げて報じた。3年前の2015年4月2日、愛媛県
及び今治市の職員と加計学園の幹部が(首相官邸で)柳瀬唯夫首相秘書官
(当時)と面会し、その際柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたという
のだ。

4月11日、国会では右の「職員メモ」を巡って激しい質問が飛んだ。「希
望の党」代表の玉木雄一郎氏は、安倍晋三首相を「嘘つき」と批判した。

尋常な批判ではない。安倍首相が、「嘘つきと言うからには、その証拠を
挙げていただきたい」と反論したのは当然である。こうした国会の状況
を、前愛媛県知事の加戸守行氏は憤りを込めて批判する。

「加計学園獣医学部新設問題の本質をなぜ見ないのでしょうか。岩盤規制
を切り崩そうとした安倍政権と、それを守ろうとした文部科学省や日本獣
医師会の闘いだったのです」

中村時広愛媛県知事は冒頭のメモは確かに県の職員が作成したもので、自
分は職員を信じていると述べた。一方県庁の役人に「首相案件」と述べた
とメモに書かれた柳瀬氏は、これを明確に否定した。「朝日」に寄せた氏
の反論のポイントは以下の通りだ。

●2015年4月当時は50年余りも新設が認められていなかった獣医学部の新設
をどうするかという制度が議論されており、具体的にどの大学に適用する
かという段階ではなかった。

●実際、その後「石破4原則」が決定、具体策の検討が開始された。

●翌、16年11月に獣医学部新設が国家戦略特区の追加規制改革事項として
決定された。

●具体的地点(大学)の選定は自分が首相秘書官の職を離れてかなり時間
が経って始まった。

●従って、自分が(15年4月段階で)首相案件だという具体的な話をするこ
とはあり得ない。

獣医学部新設を申請していた当事者の加戸氏は次のように語る。

「私たちは政府に獣医学部新設を15回も申請して15回全てはねられた。内
5回は、安倍内閣によってはねられたのです。安倍さんに『首相案件』だ
という気持ちが少しでもあれば、加計学園の獣医学部新設はもう何年も前
に実現していたはずです。加計学園が獣医学部新設を認めてもらえたの
は、国家戦略特区諮問会議に民間の有識者が委員として参画し、彼らが既
得権益にしがみつく獣医師会と文科省の抵抗を打ち砕いたからです」

諮問会議は一連の審議には一点の曇りもないと発表している。では「職員
メモ」をどうとらえればよいのか。加戸氏の説明だ。

「面会日は2日、メモ作成は4月13日、実際の面会日の11日後です。記憶に
基づいて作成したことがうかがえます。実際の会話のニュアンスがどの程
度正確に反映されていたかも考える必要があります。柳瀬氏は否定してい
ます。私も官僚でした。その体験から考えて、柳瀬氏はどぎついことなど
言っていないだろうと思います」

この職員メモには下村博文氏が、安倍首相、加計孝太郎氏と食事をした際
に語ったとされる言葉も出てくる。それを下村氏は「迷惑だ」と否定した。

「『職員メモ』には首相や加計氏と私が三人で食事したと書かれています
が、そのようなことは一度もありません。従って発言もありません」

玉木氏らは首相を「嘘つき」と国会で非難したが、玉木氏以下、全員が、
小池百合子氏の下に走ったとき憲法改正にも安保法制にも賛成すると誓約
した。いま彼らは民進党に戻る中で、これら重要な政策について再び反転
しようとしている。もしそのようなことが現実となるならそれこそ、「嘘
つき」であろう。玉木氏の首相非難は、まさに天に唾するものであろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年4月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1228 

2018年05月02日

◆野党とメディアが日本を滅ぼす

櫻井よしこ


米英仏は4月13日午後9時(日本時間14日午前10時)からシリアの化学兵器
関連施設3か所に、105発のミサイル攻撃を加えた。

1年前、トランプ大統領は米国単独でミサイル攻撃を加えた。今回、米国
がどう動くのかは米国が自由世界のリーダーとしての責任を引き受け続け
るのか否か、という意味で注目された。それは、異形の価値観を掲げるロ
シアや中国に国際社会の主導権を取らせるのか、という問いでもある。

米英仏軍の攻撃は、米国が自由主義世界の司令塔としてとどまることを示
した。決断はどのようになされたのか。

米紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)などの報道によ
ると、国防総省はトランプ氏に3つの選択肢を示したという。➀シリアの化
学兵器製造能力につながる施設に最小限の攻撃をかける、➁化学兵器研究
センターや軍司令部施設まで幅広く標的を広げ、アサド政権の基盤を弱め
る、➂シリア国内のロシア軍の拠点も攻撃し、アサド政権の軍事的基盤を
破壊する、である。

トランプ氏は➁と➂の組み合わせを選択した。ミサイル攻撃を一定水準に限
定しつつ、化学兵器製造能力に決定的打撃を与えるが、アサド政権の転覆
は目指さないというものだ。

結論に至るまでの議論をWSJが報じている。トランプ氏は➂の選択肢に
傾いており、ニッキー・ヘイリー国連大使も大統領と同様だったという。
反対したのがジェームズ・マティス国防長官で、ロシア軍の拠点まで含め
た攻撃はロシアのみならず、イランからも危険な反撃を受ける可能性があ
ると説得したそうだ。

攻撃4日前の4月9日に国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任したジョ
ン・ボルトン氏は今年2月、WSJに、米軍には北朝鮮に先制攻撃を行う
権利があると述べた強硬派である。

マティス国防長官は国防総省でボルトン氏に初めて会ったとき、「あなた
は悪魔の化身だという噂をきいています」と、冗談めかして言ったそうだ
が、それほど、ボルトン氏のイメージは強硬派の中の強硬派なのである。

米朝会談の展望

しかし、今回、ボルトン氏はアサド政権に潰滅的打撃を与えながらも、過
度な攻撃を避けるという「困難な妥協点を見出した」と評価された。強硬
だが、分別を持った陣容がトランプ氏の周りにいるとの見方があるのである。

それにしてもトランプ氏の考え方は矛盾に満ちている。彼は一日も早く中
東から米軍を引き上げさせたいとする一方で、シリアに大打撃を与えるべ
く、強硬な攻撃を主張する。

化学兵器の使用という、人道上許されない国家犯罪には懲罰的攻撃を断行
するが、ロシアとは戦わない。今回の攻撃の目的はあくまでも人道上、国
際条約で禁止されている化学兵器の使用をやめさせることであり、政権転
覆や中東における勢力図の変更を意図するものではないというのが米国の
姿勢だと見てよいが、トランプ氏が同じように考えているのかはよくわか
らない。

もっとも、共和党にはリンゼイ・グラハム上院議員の次のような考えも根
強い。

「アサド氏は米軍による攻撃を、仕事をする(doing business)ための必
要なコストだと考えている可能性がある。ロシアとイランは今回の攻撃
を、米国がシリアから撤退するための口実の第一歩と見ている。米英仏の
攻撃がロシア、シリア、イランに戦略を変えさせ、ゲームチェンジを起こ
すわけではない」

米国の攻撃は状況を根本から変えるわけではないというグラハム氏の指摘
を日本は重く受けとめなくてはならないだろう。シリア政策は北朝鮮政策
にも通じるからだ。

5月にもトランプ氏と金正恩氏は会うのである。どちらも常識や理性から
懸け離れた性格の持ち主だ。周囲の意見をきくより、即断即決で勝負に出
る可能性もある。狡猾さにおいては、正恩氏の方が優っているかもしれない。

米朝会談の展望を描くのは難しいが、万が一、米国に届く大陸間弾道ミサ
イルを北朝鮮が諦めるかわりに、核保有を認めるなどということになった
らどうするのか。

日米首脳会談で安倍首相がトランプ氏と何を語り合い、何を確約するか
は、日本にとっても拉致被害者にとっても、これ以上ない程に重要だ。本
来、首相以下、閣僚、政治家の全てがこの眼前の外交課題に集中していな
ければならない時だ。

しかし、驚いた。米英仏のシリア攻撃直後のNHKの「日曜討論」ではな
んとモリカケ問題などを議論していた。メディアも政治家も一体、何を考
えているのか。私はすぐにテレビを消したが、野党とメディアが日本を滅
ぼすと実感した出来事だった。

喜ぶのは某国

4月13日夜、私の主宰するネット配信の「言論テレビ」で小野寺五典防衛
大臣が日報問題について語ったことの一部を紹介しよう。

自衛隊がイラクに派遣されていた10年以上前、日報の保存期間は1年以内
だった。隊員たちも「読み終わったら捨てるものだから、何年も前の日報
は廃棄されて存在しないだろう」と思い込んでいた。

だが、自衛隊は全国に基地や駐屯地が300か所以上あり、隊員だけで25万
人もいる。思いがけずパソコン内に日報を保存していた人がいたり、ある
いは書類棚の中に残っていたのが見つかった。その時点で報告し、開示す
べきだったが、そこで適切な処理が行われず、これが結果的に問題を招い
てしまったというのだ。このような背景をメディアが正確に報じていれ
ば、日報問題への見方も異なっていたはずで、無用な混乱もなかったはずだ。

ここ数年、防衛省には年間5000件以上の情報開示請求が集中豪雨のように
なされているという。大変なのは件数だけでなく、請求内容だ。「何年何
月の資料」とピンポイントで開示請求するのでなく、「イラク派遣に関す
る文書」というような大雑把な請求が少なくない。当然、膨大な量にな
る。資料が特定できたとして、中身を調べ、開示して差し支えないか、関
係各省にも問い合わせる必要がある。この作業を経て黒塗り箇所を決め、
提出する。これが年間5000件以上、職員はもうくたびれきっている。

防衛省をこの種の書類探しや精査の作業に追い込んで、本来の国防がおろ
そかにならないはずはない。喜ぶのは某国であろう。

ちなみに日本を除く他の多くの国々では、日報は外交文書同様、機密扱い
である。日報を一般の行政文書に位置づけて、情報公開の対象にしている
のは恐らく日本だけだ。

問題があれば追及し、正すのは当然だ。しかし、いま行われているのは、
メディアと野党による日本潰しだと私は思う。
『週刊新潮』 2018年4月26日号 日本ルネッサンス 第800回
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2018年04月30日

◆加計問題巡る首相への「嘘つき」批判

                        櫻井よしこ


「加計問題巡る首相への「嘘つき」批判 重要政策の反転こそ天に唾する
ものだ」

4月10日、「朝日新聞」が朝刊1面に「加計巡り首相秘書官」「面会記録に
『首相案件』」の見出しを掲げて報じた。3年前の2015年4月2日、愛媛県
及び今治市の職員と加計学園の幹部が(首相官邸で)柳瀬唯夫首相秘書官
(当時)と面会し、その際柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたという
のだ。

4月11日、国会では右の「職員メモ」を巡って激しい質問が飛んだ。「希
望の党」代表の玉木雄一郎氏は、安倍晋三首相を「嘘つき」と批判した。

尋常な批判ではない。安倍首相が、「嘘つきと言うからには、その証拠を
挙げていただきたい」と反論したのは当然である。こうした国会の状況
を、前愛媛県知事の加戸守行氏は憤りを込めて批判する。

「加計学園獣医学部新設問題の本質をなぜ見ないのでしょうか。岩盤規制
を切り崩そうとした安倍政権と、それを守ろうとした文部科学省や日本獣
医師会の闘いだったのです」

中村時広愛媛県知事は冒頭のメモは確かに県の職員が作成したもので、自
分は職員を信じていると述べた。一方県庁の役人に「首相案件」と述べた
とメモに書かれた柳瀬氏は、これを明確に否定した。「朝日」に寄せた氏
の反論のポイントは以下の通りだ。

●2015年4月当時は50年余りも新設が認められていなかった獣医学部の新設
をどうするかという制度が議論されており、具体的にどの大学に適用する
かという段階ではなかった。

●実際、その後「石破4原則」が決定、具体策の検討が開始された。

●翌、16年11月に獣医学部新設が国家戦略特区の追加規制改革事項として
決定された。

●具体的地点(大学)の選定は自分が首相秘書官の職を離れてかなり時間
が経って始まった。

●従って、自分が(15年4月段階で)首相案件だという具体的な話をするこ
とはあり得ない。

獣医学部新設を申請していた当事者の加戸氏は次のように語る。

「私たちは政府に獣医学部新設を15回も申請して15回全てはねられた。内
5回は、安倍内閣によってはねられたのです。安倍さんに『首相案件』だ
という気持ちが少しでもあれば、加計学園の獣医学部新設はもう何年も前
に実現していたはずです。加計学園が獣医学部新設を認めてもらえたの
は、国家戦略特区諮問会議に民間の有識者が委員として参画し、彼らが既
得権益にしがみつく獣医師会と文科省の抵抗を打ち砕いたからです」

諮問会議は一連の審議には一点の曇りもないと発表している。では「職員
メモ」をどうとらえればよいのか。加戸氏の説明だ。

「面会日は2日、メモ作成は4月13日、実際の面会日の11日後です。記憶に
基づいて作成したことがうかがえます。実際の会話のニュアンスがどの程
度正確に反映されていたかも考える必要があります。柳瀬氏は否定してい
ます。私も官僚でした。その体験から考えて、柳瀬氏はどぎついことなど
言っていないだろうと思います」

この職員メモには下村博文氏が、安倍首相、加計孝太郎氏と食事をした際
に語ったとされる言葉も出てくる。それを下村氏は「迷惑だ」と否定した。

「『職員メモ』には首相や加計氏と私が3人で食事したと書かれています
が、そのようなことは一度もありません。従って発言もありません」

玉木氏らは首相を「嘘つき」と国会で非難したが、玉木氏以下、全員が、
小池百合子氏の下に走ったとき憲法改正にも安保法制にも賛成すると誓約
した。いま彼らは民進党に戻る中で、これら重要な政策について再び反転
しようとしている。

もしそのようなことが現実となるならそれこそ、「嘘つき」であろう。玉
木氏の首相非難は、まさに天に唾するものであろう。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1228


2018年04月16日

◆わが国で今も未確立の公文書管理ルール

櫻井よしこ


「わが国で今も未確立の公文書管理ルール 無責任という意味では旧民主
党も同罪だ」

過日財務省が発表した「決裁文書の書き換えの状況」からは、森友学園へ
の土地売却で、財務省が森友側と価格交渉をしていたことが見てとれた。
佐川宣寿理財局長(当時)が国会で価格交渉を否定したために、その発言
と齟齬を来さないための書き換えであることが明白だった。

4月4日、小野寺五典防衛相が、陸上自衛隊が「不存在」としてきたイラク
派遣時の日報が昨年3月に発見されていたことを報告し、謝罪した。

日報問題では、昨年2月16日に、防衛省が「不存在」と発表し、4日後の20
日、稲田朋美防衛相(当時)は衆議院予算委員会で「確認作業をしたが見
つけることができなかった」と答弁した。稲田氏はそのとき、防衛省に対
して日報記録がどこかに残っていないか、探すように指示もしている。当
時を振りかえって、氏が語った。

「私は誰よりも情報の透明性を大事にしました。徹底調査を命じ、見つ
かったら全て公開する、隠し事などしない方針を明らかにしていたのです」

小野寺氏の説明によると、稲田氏が新たに調査を指示した後の昨年3月27
日に、自衛隊の「教育訓練研究本部」にあった「外付けハードディスク」
から、イラク派遣時の日報が発見された。だが、同事実は稲田氏にも政務
三役にも報告されなかった。その背景を防衛省側は以下のように説明した。

稲田氏の指示が出た後、南スーダン国連平和維持活動日報問題についての
特別防衛監察が3月17日に始まり、改めて行った調査の中で、今回発表し
た資料が見つかった。但し、特別防衛監察は南スーダンの日報に関して
だったため、イラクの日報を報告する必要は認識していなかった、という
ものだ。

こうして、1年以上が過ぎた。右の防衛省の説明が真実か否かも含めて、
小野寺氏は調査委員会を設置した。文民統制、政治主導、政治への信頼確
立のために、厳正な調査が欠かせない。

前述の財務省文書改竄は、明らかに佐川局長の発言と齟齬を来さないため
だった。佐川氏の「価格交渉はしていない」との発言が誤りだったと認め
さえすれば、全てを公開しても何ら問題がない内容だ。

にも拘わらず、財務省が隠そうとしたのは財務省を守る為だったのだろ
う。今回、自衛隊に隠蔽の意図があったか否かは、以降の調査を待たなけ
ればならないが、なぜこのように公文書を巡る問題が生ずるのか。

自民党「公文書管理に関する改革検討委員会」の新藤義孝委員長は、国家
の活動を記録する公文書に嘘が許されないのは当然だが、公文書の管理、
保存のルールがわが国には未だ確立されていないとして、新しい時代に合
わせて公文書の電子決裁化を提唱する。

「私が総務大臣のとき、総務省の文書は全て電子決裁化しました。こうす
れば、記録は全て残りますし、公開にも便利です。役所での決裁の過程に
は往々にして行きつ戻りつの議論や方針変更もあります。

電子決裁は消去しても全て残りますので、方針変更も残るでしょう。けれ
ど理由を明記して、新たな結論を決裁すればよいだけのことです。大事な
ことは、議論の途中で誰が反対したとか、ちょっとした言葉の問題などを
あげつらって非生産的な議論に陥らないことです。些末な議論で特定の人
の責任を問うようなことになれば、自由な議論は引っ込んで、皆、イエス
マンになります」

たとえば防衛省の文書問題で、「戦闘」という言葉が日報にあったからと
言って、これを法律上の戦闘、国と国との軍事紛争に結びつけて論難する
ようでは行政府における大胆な議論はできないということだろう。

旧民主党政権下では、3.11の被害の中で、緊急災害対策本部など関連15の
会議の内10の会議で議事録さえも作成されていなかった。文書管理につい
て無責任という意味では旧民主党も同罪なのである。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1227 

2018年04月15日

◆わが国で今も未確立の公文書管理ルール

櫻井よしこ


「わが国で今も未確立の公文書管理ルール 無責任という意味では旧民主
党も同罪だ」

過日財務省が発表した「決裁文書の書き換えの状況」からは、森友学園へ
の土地売却で、財務省が森友側と価格交渉をしていたことが見てとれた。
佐川宣寿理財局長(当時)が国会で価格交渉を否定したために、その発言
と齟齬を来さないための書き換えであることが明白だった。

4月4日、小野寺五典防衛相が、陸上自衛隊が「不存在」としてきたイラク
派遣時の日報が昨年3月に発見されていたことを報告し、謝罪した。

日報問題では、昨年2月16日に、防衛省が「不存在」と発表し、4日後の20
日、稲田朋美防衛相(当時)は衆議院予算委員会で「確認作業をしたが見
つけることができなかった」と答弁した。稲田氏はそのとき、防衛省に対
して日報記録がどこかに残っていないか、探すように指示もしている。当
時を振りかえって、氏が語った。

「私は誰よりも情報の透明性を大事にしました。徹底調査を命じ、見つ
かったら全て公開する、隠し事などしない方針を明らかにしていたのです」

小野寺氏の説明によると、稲田氏が新たに調査を指示した後の昨年3月27
日に、自衛隊の「教育訓練研究本部」にあった「外付けハードディスク」
から、イラク派遣時の日報が発見された。だが、同事実は稲田氏にも政務
三役にも報告されなかった。その背景を防衛省側は以下のように説明した。

稲田氏の指示が出た後、南スーダン国連平和維持活動日報問題についての
特別防衛監察が3月17日に始まり、改めて行った調査の中で、今回発表し
た資料が見つかった。但し、特別防衛監察は南スーダンの日報に関して
だったため、イラクの日報を報告する必要は認識していなかった、という
ものだ。

こうして、1年以上が過ぎた。右の防衛省の説明が真実か否かも含めて、
小野寺氏は調査委員会を設置した。文民統制、政治主導、政治への信頼確
立のために、厳正な調査が欠かせない。

前述の財務省文書改竄は、明らかに佐川局長の発言と齟齬を来さないため
だった。佐川氏の「価格交渉はしていない」との発言が誤りだったと認め
さえすれば、全てを公開しても何ら問題がない内容だ。にも拘わらず、財
務省が隠そうとしたのは財務省を守る為だったのだろう。今回、自衛隊に
隠蔽の意図があったか否かは、以降の調査を待たなければならないが、な
ぜこのように公文書を巡る問題が生ずるのか。

自民党「公文書管理に関する改革検討委員会」の新藤義孝委員長は、国家
の活動を記録する公文書に嘘が許されないのは当然だが、公文書の管理、
保存のルールがわが国には未だ確立されていないとして、新しい時代に合
わせて公文書の電子決裁化を提唱する。

「私が総務大臣のとき、総務省の文書は全て電子決裁化しました。こうす
れば、記録は全て残りますし、公開にも便利です。役所での決裁の過程に
は往々にして行きつ戻りつの議論や方針変更もあります。

電子決裁は消去しても全て残りますので、方針変更も残るでしょう。けれ
ど理由を明記して、新たな結論を決裁すればよいだけのことです。大事な
ことは、議論の途中で誰が反対したとか、ちょっとした言葉の問題などを
あげつらって非生産的な議論に陥らないことです。些末な議論で特定の人
の責任を問うようなことになれば、自由な議論は引っ込んで、皆、イエス
マンになります」

たとえば防衛省の文書問題で、「戦闘」という言葉が日報にあったからと
言って、これを法律上の戦闘、国と国との軍事紛争に結びつけて論難する
ようでは行政府における大胆な議論はできないということだろう。

旧民主党政権下では、3.11の被害の中で、緊急災害対策本部など関連15の
会議の内10の会議で議事録さえも作成されていなかった。文書管理につい
て無責任という意味では旧民主党も同罪なのである。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1227 

2018年04月14日

◆北の核廃棄を望まない中朝韓

櫻井よしこ


「習近平氏は1本2000万円のマオタイ酒を正恩に振る舞ったそうです。彼
を北京に呼びつけ、中国の持てる力を誇示して手なずけようとした。その
目論見が見てとれます」

こう語るのは統一日報論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏だ。金正恩朝鮮労
働党委員長は3月下旬の電撃的訪中以降、華々しい外交攻勢を展開中だ。
しかし日米両国が求める北朝鮮の非核化に向けた確約は見えてこない。こ
のままいけば、米朝首脳会談がスンナリと実現するとは限らないだろう。

米朝会談の最大の眼目である北朝鮮の非核化について、日米韓中朝の5か
国は明確に異なる立場に立っている。日米は、北朝鮮の核弾頭だけでな
く、全ての核物質、全ての核関連施設に加えて核開発計画自体を「完全
に、検証可能かつ不可逆的な方法で解体すること」(CVID)を求めて
いる。行動は明確に一括して行われなければならない。

他方、北朝鮮は勿論、中国も韓国も、そんなことは望んでいない。彼らは
日米の使う「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」と言う。
北朝鮮の意図は、米国は米韓同盟に基づいて有事の際、核兵器で北朝鮮を
攻撃して韓国を防衛するかもしれない、米国の核の脅威を取り除くために
米韓同盟も解消すべきだ、そのとき初めて北朝鮮も核をなくす、というも
のである。

中国政府も北朝鮮から核を取り上げようなどとは考えてもいない。彼らの
意図が明確に表現されていたのが、3月18日の「環球時報」の社説であ
る。中国共産党機関紙「人民日報」の国際版である、「環球時報」が突
然、北朝鮮をほめそやし始めたのだ。

「中朝両国の試金石は、核問題で相互の立場に相違があるにもかかわら
ず、バランスを保つことだ。北京・平壌間の友好関係を維持し、韓国や日
本や西側メディアの影響を受けないことだ」として、核兵器に関する中朝
間の相違は両国関係のごく一部にすぎないと強調した。

「北朝鮮は尊敬すべき国である。北東アジアでは珍しく高度の独立を保っ
ている。経済規模は大きくないが、産業構造は完璧で、これは中々達成で
きないことだ」と噴飯物のお世辞も並べた。

北朝鮮の核開発を黙認

環球時報はさらに、中朝は対等で相互に尊敬しあっている、中朝友好関係
を通じて、中国は北東アジアにおける戦略性を高めることができる、北朝
鮮は、困難と危険が伴う日米韓3か国への対処を、中国の支えによって、
リスク回避をしながらこなすことができると、強調した。

社説は、如何なる勢力も中朝関係に割り込むことはできないと断じて結論
とした。ここから読みとれるのは、日米両国が主導した強い制裁で追い詰
められた正恩氏を何が何でも囲い込み、中国の影響力を強め、それを維持
しようという戦略だ。

そこには正恩氏から核を取り上げる意図は全く見られない。確かに中国は
言葉のうえで北朝鮮の核に反対する。他方、中国は金日成、金正日の時代
から北朝鮮の核開発を黙認してきた。

正恩氏についても同じ姿勢であろう。中国の言葉による北朝鮮の核への反
対論は、北朝鮮が核を保有したときに必ず日本も核武装すると考えている
ためだ。北朝鮮の核に反対するのは、日本の核武装に反対するための構え
だと見るべきだ。

文在寅韓国大統領も同じである。文氏は自殺した盧武鉉元大統領の秘書室
長(官房長官)として、2007年の金正日総書記との首脳会談を準備した。
その前年の06年に正日氏は初の核実験を行い、国際社会から厳しい非難を
浴びた。だが盧氏は首脳会談ではその件には一言も触れていない。

他方、国際社会に向けて盧氏は、「北朝鮮の核は自衛のための核だ」とし
て北朝鮮を擁護し続けた。

盧氏を師と崇める文氏は盧氏同様、「北朝鮮の非核化」とは言わない。常
に「朝鮮半島の非核化」である。

「このように中朝韓は日米とは考え方が違うのです。それを日本では日米
韓vs中朝の枠組みで論じています。文氏が日米の側に立つと考えるのは幻
想で、それでは戦略を誤ります」

と洪氏。

中朝韓が北朝鮮の核放棄を実現するとは思えないとき、トランプ米大統領
はどうするだろうか。氏は3月下旬、矢継ぎ早に対中強硬策を打ち出し
た。中国が「核心的利益」だとして第三国の介入を断固拒否する台湾に関
して、台湾旅行法に署名した。これで米国の閣僚も要人も含めて、台湾と
の交流を行い易くなった。

もうひとつの中国の核心的利益、南シナ海では中国の人工島の「領海」に
米艦船が入り、航行の自由作戦を実施した。中国による知的財産権の侵害
に関して、600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に関税をかけるとも発
表した。

トランプ政権の後退を待つ

きつい要求を突きつけた米国に中国は4月2日報復関税を発動した。同時に
両国は水面下で交渉を進めている。仮に中国が大幅に譲歩すれば、トラン
プ氏は妥協するかもしれない。

過去には米国訪問でボーイングの航空機300機を買いつけ、米国の巨額貿
易赤字に関する不満を一挙に解消したこともある。その手の戦術に中国は
長けている。加えて、中国が責任をもって北朝鮮の核をコントロールす
る、北朝鮮に米国に届くミサイルは持たせないなどの条件を確約すれば、
トランプ氏が北朝鮮の核を認めてしまうこともあり得ると考えるべきだ。
日本にとっては本当の悪夢である。

だが、いまやトランプ氏の傍らには対北朝鮮強硬派のポンペオ国務長官と
ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が控えている。彼らが、北朝
鮮の核放棄の曖昧さに憤るとき、北朝鮮はどう対応しようとするだろうか。

洪氏が語った。

「彼らはトランプ政権を恐れながらも、その足下を見ています。ロシア問
題で追い込まれ、秋の中間選挙で敗北しかねない。レームダック化すれば
強い政策は取れないと、正恩が考えていても不思議ではありません。正恩
は追い詰められて中国を頼った。彼にも余裕はない。時間を稼ぎながら、
トランプ政権の弱体化を待っている。そこまで走りきることを、今彼は考
えているのではないでしょうか」

「終身皇帝」への道筋をつけた習氏は時間をかけてトランプ政権の後退を
待つ可能性がある。

このような状況の中に、日本は置かれている。北朝鮮を追い詰め平和路線
に転換させたのは、安倍晋三首相が強く主張した「圧力路線」の結果であ
る。ここまではよいが、これから日本はどうするのか。

米国との協調関係を大事にしながらも地力をつけるしかない。世界情勢の
展開が見通せない今、日本が国として強くなることが何よりも大事だ。自
国を自力で守るという原点に戻る。その第一歩が、憲法改正である。

『週刊新潮』 2018年4月12日 日本ルネッサンス 第798回

2018年04月13日

◆北の核廃棄を望まない中朝韓

櫻井よしこ


「習近平氏は1本2000万円のマオタイ酒を正恩に振る舞ったそうです。彼
を北京に呼びつけ、中国の持てる力を誇示して手なずけようとした。その
目論見が見てとれます」

こう語るのは統一日報論説主幹の洪熒(ホンヒョン)氏だ。金正恩朝鮮労
働党委員長は3月下旬の電撃的訪中以降、華々しい外交攻勢を展開中だ。
しかし日米両国が求める北朝鮮の非核化に向けた確約は見えてこない。こ
のままいけば、米朝首脳会談がスンナリと実現するとは限らないだろう。

米朝会談の最大の眼目である北朝鮮の非核化について、日米韓中朝の5か
国は明確に異なる立場に立っている。日米は、北朝鮮の核弾頭だけでな
く、全ての核物質、全ての核関連施設に加えて核開発計画自体を「完全
に、検証可能かつ不可逆的な方法で解体すること」(CVID)を求めて
いる。行動は明確に一括して行われなければならない。

他方、北朝鮮は勿論、中国も韓国も、そんなことは望んでいない。彼らは
日米の使う「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」と言う。
北朝鮮の意図は、米国は米韓同盟に基づいて有事の際、核兵器で北朝鮮を
攻撃して韓国を防衛するかもしれない、米国の核の脅威を取り除くために
米韓同盟も解消すべきだ、そのとき初めて北朝鮮も核をなくす、というも
のである。

中国政府も北朝鮮から核を取り上げようなどとは考えてもいない。彼らの
意図が明確に表現されていたのが、3月18日の「環球時報」の社説であ
る。中国共産党機関紙「人民日報」の国際版である、「環球時報」が突
然、北朝鮮をほめそやし始めたのだ。

「中朝両国の試金石は、核問題で相互の立場に相違があるにもかかわら
ず、バランスを保つことだ。北京・平壌間の友好関係を維持し、韓国や日
本や西側メディアの影響を受けないことだ」として、核兵器に関する中朝
間の相違は両国関係のごく一部にすぎないと強調した。

「北朝鮮は尊敬すべき国である。北東アジアでは珍しく高度の独立を保っ
ている。経済規模は大きくないが、産業構造は完璧で、これは中々達成で
きないことだ」と噴飯物のお世辞も並べた。

北朝鮮の核開発を黙認

環球時報はさらに、中朝は対等で相互に尊敬しあっている、中朝友好関係
を通じて、中国は北東アジアにおける戦略性を高めることができる、北朝
鮮は、困難と危険が伴う日米韓3か国への対処を、中国の支えによって、
リスク回避をしながらこなすことができると、強調した。

社説は、如何なる勢力も中朝関係に割り込むことはできないと断じて結論
とした。ここから読みとれるのは、日米両国が主導した強い制裁で追い詰
められた正恩氏を何が何でも囲い込み、中国の影響力を強め、それを維持
しようという戦略だ。

そこには正恩氏から核を取り上げる意図は全く見られない。確かに中国は
言葉のうえで北朝鮮の核に反対する。他方、中国は金日成、金正日の時代
から北朝鮮の核開発を黙認してきた。正恩氏についても同じ姿勢であろ
う。中国の言葉による北朝鮮の核への反対論は、北朝鮮が核を保有したと
きに必ず日本も核武装すると考えているためだ。北朝鮮の核に反対するの
は、日本の核武装に反対するための構えだと見るべきだ。

文在寅韓国大統領も同じである。文氏は自殺した盧武鉉元大統領の秘書室
長(官房長官)として、2007年の金正日総書記との首脳会談を準備した。
その前年の06年に正日氏は初の核実験を行い、国際社会から厳しい非難を
浴びた。だが盧氏は首脳会談ではその件には一言も触れていない。

他方、国際社会に向けて盧氏は、「北朝鮮の核は自衛のための核だ」とし
て北朝鮮を擁護し続けた。

盧氏を師と崇める文氏は盧氏同様、「北朝鮮の非核化」とは言わない。常
に「朝鮮半島の非核化」である。

「このように中朝韓は日米とは考え方が違うのです。それを日本では日米
韓vs中朝の枠組みで論じています。文氏が日米の側に立つと考えるのは幻
想で、それでは戦略を誤ります」

と洪氏。

中朝韓が北朝鮮の核放棄を実現するとは思えないとき、トランプ米大統領
はどうするだろうか。氏は3月下旬、矢継ぎ早に対中強硬策を打ち出し
た。中国が「核心的利益」だとして第三国の介入を断固拒否する台湾に関
して、台湾旅行法に署名した。これで米国の閣僚も要人も含めて、台湾と
の交流を行い易くなった。

もうひとつの中国の核心的利益、南シナ海では中国の人工島の「領海」に
米艦船が入り、航行の自由作戦を実施した。中国による知的財産権の侵害
に関して、600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に関税をかけるとも発
表した。

トランプ政権の後退を待つ

きつい要求を突きつけた米国に中国は4月2日報復関税を発動した。同時に
両国は水面下で交渉を進めている。仮に中国が大幅に譲歩すれば、トラン
プ氏は妥協するかもしれない。

過去には米国訪問でボーイングの航空機300機を買いつけ、米国の巨額貿
易赤字に関する不満を一挙に解消したこともある。その手の戦術に中国は
長けている。加えて、中国が責任をもって北朝鮮の核をコントロールす
る、北朝鮮に米国に届くミサイルは持たせないなどの条件を確約すれば、
トランプ氏が北朝鮮の核を認めてしまうこともあり得ると考えるべきだ。
日本にとっては本当の悪夢である。

だが、いまやトランプ氏の傍らには対北朝鮮強硬派のポンペオ国務長官と
ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が控えている。彼らが、北朝
鮮の核放棄の曖昧さに憤るとき、北朝鮮はどう対応しようとするだろうか。

洪氏が語った。

「彼らはトランプ政権を恐れながらも、その足下を見ています。ロシア問
題で追い込まれ、秋の中間選挙で敗北しかねない。レームダック化すれば
強い政策は取れないと、正恩が考えていても不思議ではありません。正恩
は追い詰められて中国を頼った。彼にも余裕はない。時間を稼ぎながら、
トランプ政権の弱体化を待っている。そこまで走りきることを、今彼は考
えているのではないでしょうか」

「終身皇帝」への道筋をつけた習氏は時間をかけてトランプ政権の後退を
待つ可能性がある。

このような状況の中に、日本は置かれている。北朝鮮を追い詰め平和路線
に転換させたのは、安倍晋三首相が強く主張した「圧力路線」の結果であ
る。ここまではよいが、これから日本はどうするのか。

米国との協調関係を大事にしながらも地力をつけるしかない。世界情勢の
展開が見通せない今、日本が国として強くなることが何よりも大事だ。自
国を自力で守るという原点に戻る。その第一歩が、憲法改正である。
『週刊新潮』 2018年4月12日号 日本ルネッサンス 第798回


2018年04月12日

◆読み取りづらい朝鮮半島情勢の行方

櫻井よしこ


「読み取りづらい朝鮮半島情勢の行方 正恩氏は圧力で動くと忘れるべき
でない」

金正恩朝鮮労働党委員長の電撃訪中は、拉致問題の報道にどの社よりも熱
心に力を入れてきた「産経新聞」のスクープだった。

大きく動いた朝鮮半島情勢の展開は読み取りにくい面もあるが、こんな時
こそ基本構造をおさえておきたい。

第一は日米が連携して維持した圧力路線が、狙いどおりの結果を生み出し
た点だ。各テレビ局の報道番組では、従来の日本政府主導の「圧力」路線
を否定し、対話路線を取るべきだとの解説やコメントが少なからずあった。

「朝日新聞」も29日の社説で、各国は対北朝鮮制裁の足並みを乱してはな
らないと指摘する一方で、「日本政府の出遅れ感は否めない。圧力一辺倒
に固執した結果ではあるが」と書いた。

だが、正恩氏の訪中と対話路線は日本が主張し、国際社会を動かして決定
し実行した国連の制裁措置、即ち圧力路線の結果である。対話は、圧力が
生み出した成果なのだ。北朝鮮の非核化と拉致問題解決まで、圧力を基盤
にした現路線の堅持が重要である。

第二は北朝鮮が言う「非核化」の意味をはっきりさせることだ。中朝両国
の「朝鮮半島の非核化」は、私たちが考えるそれとは根本的に異なる。

日本や米国の考える朝鮮半島の非核化は北朝鮮の核兵器、貯蔵する核物
質、それらの製造施設のすべてを解体することだ。一方北朝鮮の主張は、
自分たちの核は米国の核に対する自衛だというものだ。現在、韓国には米
軍の核兵器は配備されていないが、米韓同盟の下、米国が北朝鮮を核攻撃
する可能性もある。従って北朝鮮の核解体前に、在韓米軍基地をなくせと
言う。さらに米韓同盟も解消すべきだと主張する。要は韓国からの米軍追
い出しを狙っているのである。これは中国にとって願ってもないことであ
ろう。

こちら側としては、「朝鮮半島の非核化」において、北朝鮮の核に焦点を
絞ることだ。焦点を絞りきれなければ、北朝鮮に時間稼ぎをさせることに
なりかねない。

第三に、日本が置き去りにされ、孤立しかかっているとの見方は、日本に
とって何の益もないことを認識すべきだ。拉致問題解決も北朝鮮の非核化
もこちら側の一致団結が大きな力となる。とりわけ拉致問題解決には日本
国民の団結が大事である。拉致問題解決に最も熱心に取り組んできたのが
安倍晋三首相だ。首相は北朝鮮の核と拉致の両問題の解決を目指して、対
北圧力政策をトランプ米大統領に説いてきた。

トランプ氏はその助言を大いに取り入れた。だからこそ、文在寅韓国大統
領の特使がホワイトハウスを訪れ、そこで記者会見し、トランプ大統領が
米朝首脳会談に応ずると発表したまさにその時間帯に、安倍首相に電話を
かけて逐一報告している。

安倍首相も日本も、置き去りにされていない。わが国は有力な当事国とし
て北朝鮮問題で重要な役割を果たし続ける立場にある。そのことを国民が
確信して政府を支えることが、日本国の外交力強化の基盤であり、拉致問
題解決に至る道だと自覚したい。

「産経」は「『千年の宿敵』に屈服した正恩氏」の見出しを立てて、正恩
氏の中国での姿勢を報じた。中国中央テレビは中朝首脳会談で、正恩氏が
熱心に習近平国家主席の発言をメモにとる姿を報じた。

正恩氏は自分が話しているときに「メモをとらない」「拍手がゆるい」
「メガネを拭いていた」などの理由で部下を処刑してきた。その同じ人物
が必死で習氏の言葉をメモにとったのである。中国への完全な屈服だ。正
恩氏が恐れるのは現体制が崩壊させられ、自分の命が奪われることだ。そ
うしたことを、いざとなると実行しかねない米国の力を恐れた。米国から
守ってもらうために中国の力に頼った。大事なのは正恩氏を動かすのは圧
力だという事実を忘れないことである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年4月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1226
 

2018年04月11日

◆読み取りづらい朝鮮半島情勢の行方

櫻井よしこ


「読み取りづらい朝鮮半島情勢の行方 正恩氏は圧力で動くと忘れるべき
でない」

金正恩朝鮮労働党委員長の電撃訪中は、拉致問題の報道にどの社よりも熱
心に力を入れてきた「産経新聞」のスクープだった。

大きく動いた朝鮮半島情勢の展開は読み取りにくい面もあるが、こんな時
こそ基本構造をおさえておきたい。

第一は日米が連携して維持した圧力路線が、狙いどおりの結果を生み出し
た点だ。各テレビ局の報道番組では、従来の日本政府主導の「圧力」路線
を否定し、対話路線を取るべきだとの解説やコメントが少なからずあった。

「朝日新聞」も29日の社説で、各国は対北朝鮮制裁の足並みを乱してはな
らないと指摘する一方で、「日本政府の出遅れ感は否めない。圧力一辺倒
に固執した結果ではあるが」と書いた。

だが、正恩氏の訪中と対話路線は日本が主張し、国際社会を動かして決定
し実行した国連の制裁措置、即ち圧力路線の結果である。対話は、圧力が
生み出した成果なのだ。北朝鮮の非核化と拉致問題解決まで、圧力を基盤
にした現路線の堅持が重要である。

第二は北朝鮮が言う「非核化」の意味をはっきりさせることだ。中朝両国
の「朝鮮半島の非核化」は、私たちが考えるそれとは根本的に異なる。

日本や米国の考える朝鮮半島の非核化は北朝鮮の核兵器、貯蔵する核物
質、それらの製造施設のすべてを解体することだ。一方北朝鮮の主張は、
自分たちの核は米国の核に対する自衛だというものだ。

現在、韓国には米軍の核兵器は配備されていないが、米韓同盟の下、米国
が北朝鮮を核攻撃する可能性もある。従って北朝鮮の核解体前に、在韓米
軍基地をなくせと言う。さらに米韓同盟も解消すべきだと主張する。要は
韓国からの米軍追い出しを狙っているのである。これは中国にとって願っ
てもないことであろう。

こちら側としては、「朝鮮半島の非核化」において、北朝鮮の核に焦点を
絞ることだ。焦点を絞りきれなければ、北朝鮮に時間稼ぎをさせることに
なりかねない。

第三に、日本が置き去りにされ、孤立しかかっているとの見方は、日本に
とって何の益もないことを認識すべきだ。拉致問題解決も北朝鮮の非核化
もこちら側の一致団結が大きな力となる。とりわけ拉致問題解決には日本
国民の団結が大事である。拉致問題解決に最も熱心に取り組んできたのが
安倍晋三首相だ。首相は北朝鮮の核と拉致の両問題の解決を目指して、対
北圧力政策をトランプ米大統領に説いてきた。

トランプ氏はその助言を大いに取り入れた。だからこそ、文在寅韓国大統
領の特使がホワイトハウスを訪れ、そこで記者会見し、トランプ大統領が
米朝首脳会談に応ずると発表したまさにその時間帯に、安倍首相に電話を
かけて逐一報告している。

安倍首相も日本も、置き去りにされていない。わが国は有力な当事国とし
て北朝鮮問題で重要な役割を果たし続ける立場にある。そのことを国民が
確信して政府を支えることが、日本国の外交力強化の基盤であり、拉致問
題解決に至る道だと自覚したい。

「産経」は「『千年の宿敵』に屈服した正恩氏」の見出しを立てて、正恩
氏の中国での姿勢を報じた。中国中央テレビは中朝首脳会談で、正恩氏が
熱心に習近平国家主席の発言をメモにとる姿を報じた。

正恩氏は自分が話しているときに「メモをとらない」「拍手がゆるい」
「メガネを拭いていた」などの理由で部下を処刑してきた。その同じ人物
が必死で習氏の言葉をメモにとったのである。中国への完全な屈服だ。正
恩氏が恐れるのは現体制が崩壊させられ、自分の命が奪われることだ。

そうしたことを、いざとなると実行しかねない米国の力を恐れた。米国か
ら守ってもらうために中国の力に頼った。大事なのは正恩氏を動かすのは
圧力だという事実を忘れないことである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年4月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1226 

2018年04月08日

◆今、憲法改正を潰すメディアの無責任

櫻井よしこ


3月25日の自民党大会で安倍晋三総裁(首相)は「憲法にしっかりと自衛
隊を明記し、違憲論争に終止符を打つ」よう呼びかけた。

党大会の前、メディアは自民党内の不協和音を強調し、地方幹部から抗議
の声やヤジが飛べば安倍首相は危機に陥ると報道した。

しかし、実際には財務省の文書書き換え問題などをめぐって首相の責任を
問う声はほとんどなく、首相演説に賛同の声が上がった。森友問題をダシ
にして安倍首相攻撃が目的であるかのような言説が横行している。だが、
それが具体的根拠に基づく非難であるとは到底思えない。

共産党、民進党、立憲民主党、自由党、希望の党、さらに社民党などの野
党議員らがこのところ大阪拘置所に勾留中の籠池泰典森友学園前理事長と
接見し、安倍昭恵氏との関係などについて問い、首相夫人の証人喚問など
を要求している。政治家や政党がいまなすべきことは、そんなことではな
いだろう。

政治家には国を守り国民を守るという最も重要な責務がある。その責務を
果たすために、まず、日本を取り巻く国際環境の厳しさを見よ。危機に目
醒め、現実的に対処せよ。先の自民党大会を通して問われていたことの本
質は、わが国の政治家や政党に、この危機の中で国と国民を守る気概はあ
るのかということだった。あるのであれば、憲法改正にまじめに取り組め
ということだ。

25日の党大会では自民党の憲法改正への本気度を示すバロメーターとし
て、改正素案が注目された。素案では➀自衛隊の明記➁緊急事態条項の設置
➂参院選における「合区」の解消➃教育の充実─の4項目が提案された。焦点
の9条は、現行の1項と2項を維持して、「9条の2」を設ける。9条の2で
は、「(9条の規定は)我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を
保つために必要な自衛の措置をとることを妨げ」ないとし、「そのための
実力組織として」「自衛隊を保持する」とした。議論の段階で提言された
「必要最小限度の(実力組織)」という文言は削除された。が、自衛隊は
9条2項の禁ずる「戦力」ではなく「実力組織」とされてしまった。

永遠なるものは国益だけ

右の素案は目指すべき理想の憲法や安全保障の在り方としては不十分だ。
しかし、眼下の厳しい国際情勢の中で理想を求め続けて、憲法改正に向け
て1ミリも動かないとしたら、それもまた無責任の極みである。その意味
で公明党は与党の一翼を担う政党として責任を深く自覚すべきだ。

野党の多くは憲法改正よりも、森友学園への国有地払い下げ問題をめぐる
財務省の文書書き換えの責任追及が先だと主張する。そのため、前述した
ように彼らは籠池氏の話を聞いて、安倍昭恵氏の介入があったかのような
主張をし、証人喚問を求めている。

一体、籠池氏の発言はどこまで信じられるのか。このような手法で印象操
作に走り、憲法改正の論議にも応じないのは、無責任の極みだ。国の根本
である憲法より眼前の政局を優先することは断じて慎むべきだ。

日本国周辺で起こりつつあるパワーバランスの変化は、これまでにない本
質的なものだ。トランプ大統領は国務長官にマイク・ポンペオ中央情報局
(CIA)長官を、国家安全保障問題担当大統領補佐官にジョン・ボルト
ン元国連大使を起用した。

北朝鮮政策で強硬路線へと軌道修正が図られる可能性を、この人事は示し
ている。斬首作戦を最も恐れている金正恩氏にとって相当な圧力であろ
う。米軍は4月1日から米韓合同軍事演習に入るが、それに合わせて大規模
な国外退避訓練を行うと発表した。これもまた金正恩氏の恐怖心を増幅し
ている可能性はあるだろう。

トランプ政権は経済問題でも強硬だ。3月22日、知的財産権侵害に関して
米通商法301条で600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に関税をかける
と発表、翌日には安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動
した。日本も中国と同様に扱われるという。

安全保障を米国に頼る日本だが、その頼みの米国は安倍政権を突き放すか
のように関税をかける構えを見せた。国際関係においては友好や同盟関係
でさえも永遠であるわけではなく、永遠なるものは国益だけだということ
である。

軍事、経済双方におけるトランプ政権の強硬策で、米中関係は軍事、経済
両分野で緊張が高まると予想される。ただ、両国は表で対立しても必ずと
いってよい程、裏で交渉する。つまり関係の緊迫化はあり得るにしても、
二つの大国の動きは複層的で、時に驚くような展開となる。

中国政府を代弁する「環球時報」は3月9日、朝鮮半島の非核化と平和につ
いて、以下のように書いた。

◎朝鮮半島の非核化と平和は中国にとって南北朝鮮との関係より重要だ

◎中国は北朝鮮への強い影響力をすでに失った

◎中朝関係はいまや普通の2国間関係だ

米中連携はいつでもあり得る

北朝鮮への特別扱いはもはやないと強調しているのだが、こうも書いてい
る─北朝鮮が米国寄りになる心配などない。中国周辺諸国にそんな国はな
い。中国の存在は矮小化されていない。

中国は米国に歩み寄ろうとしているのだろうか。朝鮮半島は中国の影響下
にとどまるとの見方を示しつつ、中国は北朝鮮をめぐってアメリカと同一
歩調を取ることもあると示唆しているのではないか。米中が朝鮮半島をめ
ぐって合意する可能性を改めて想起させるものだ。

トランプ大統領は中国に大統領権限に基づく強硬政策、通商法301条を突
きつけはしたが、両国間では水面下の話し合いが進んでいる。

ムニューシン米財務長官は3月24日、習近平主席の経済政策を取り仕切る
劉鶴副首相に電話をした。トランプ大統領は、中国は対米貿易黒字を1000
億ドル(約10.5兆円)分減らすべきで、その手段として米国の車と半導体
の対中輸出を増やすべきことを希望しており、このようなことは水面下で
具体的に話し合われていると見るべきだ。

米中連携はいつでもあり得る。そのとき日本はどうするのか。安全保障面
でいまのままでは、日本が自力で日本を守り通すことは不可能だ。国民を
守り日本国を守るのは、日本国でしかあり得ない。だからこそ日米安保体
制の強化も大事だが、日本の自力を強めることが求められる。そのための
憲法改正なのだ。

わが国は北朝鮮の危機、中国の膨張、米国の変化に直面しているのであ
る。わが国の安全を「平和を愛する」国際社会の「公正と信義」に縋(す
が)り続けて70年。一国平和主義の気概なき在り様を変える歴史的使命を
果たすのが、責任ある政治家、政党、メディアの役割だ。
『週刊新潮』 2018年4月5日号 日本ルネッサンス 第797回