2018年04月06日

◆反安倍の印象報道に既視感あり

櫻井よしこ


財務省が発表した「決裁文書の書き換えの状況」(以下報告書)を読ん
だ。78頁にわたる報告書から読み取るべき点は二つである。第一は決裁文
書の書き換えという許されないことを、誰が指示したのかだ。

次に、野党は安倍晋三首相夫妻の責任を問うが、果たして首相は森友学園
に関係する土地売却や財務省の決裁文書書き換えに関わっていたのかとい
う点である。政治への信頼がかかっているだけにはっきりさせなければな
らない。

そのようなことを念頭に報告書を精査したが、どう見ても、これは財務省
の問題である。報告書から、森友学園が近畿財務局に少なからぬ要求を出
していたことが伝わってくる。森友学園には近畿財務局が対処しており、
彼らは大事な局面で本省の理財局に報告している。本省と相談し、許可及
び指示を得て、森友側の要請に応えた構図が報告書では浮き彫りとなって
いる。そこに安倍首相や昭恵夫人が関わり得る余地はないと断じてよいだ
ろう。

にも拘わらず、主要メディアはすでにおどろおどろしい印象操作報道に
走っている。他方野党は同問題を安倍政権潰しの政局にしようとしてい
る。政治には権力闘争が付き物だとしても、去年、日本列島に吹き荒れた
根拠なき反安倍の嵐は、日本の政治をかつての旧い体制に引き戻そうとす
るものだった。野党も多くのメディアも、反安倍路線に走る余り、岩盤規
制を守る側に、事実上立ったではないか。

いま耳にする批判は、安倍首相の「一強体制」が悪い、それが官僚を萎縮
させ、忖度させているというものだ。だが、民主党も政権を取った時には
政治主導を主張したのではなかったか。事務次官も含めて官僚の意見をき
かず、大臣がおよそ全てを主導しようとしたのが民主党政権ではなかった
か。その彼らがいま、内閣人事局が官僚を萎縮させ、首相の言葉などを忖
度させると論難する。だが、そもそも内閣人事局の設置は、民主党政権で
も目指したものではないのか。

民主党も望んでいたこと

内閣人事局の権限は強大ではあるが制限もある。審議官級以上の人事の最
終決定権は内閣人事局にあるが、内閣人事局が次の局長や次の事務次官を
指名することはできない。人事構想はまず各省が決める。その案を内閣人
事局は拒否できるが、そうするには相当の理由を示さなければならない。

それでも各省人事の最終決定権を政治家が握ることで、国益よりも省益を
優先していた霞が関の官僚たちを、省益より国益重視へと変えさせる要素
になった。それは民主党も、望んでいたことだった。それをいま、非難す
るのは筋違いである。

いま、メディアは、報告書の内容を読者にきちんと伝える責任がある。報
告書から窺えるのは森友学園側の要請に抗いきれず、妥協する近畿財務局
の姿であり、それを承認していた本省理財局の姿でもある。たとえば、
「本地の地盤について」の項には当初次のような記述があった。

「(学園は)本地(森友学園が小学校を建設しようと考えた大阪府豊中市
の土地)は軟弱地盤であり貸付料に反映されるべきものと主張し、併せて
校舎建設の際に通常を上回る杭工事(建物基礎工事)が必要であるとし
て、国に工事費の負担を要請した」

森友学園側が近畿財務局に貸付料を安くせよと迫ったわけだ。対して近畿
財務局は地質調査会社に意見を求めたが、この社は、特別に軟弱であると
は思えないとした上で、「通常と比較して軟弱かどうかという問題は、通
常地盤の定義が困難であるため回答は難しい」と、あやふやな見解を示した。

困った近畿財務局は「当局及び本省で」相談した結果、杭工事費用等は負
担しないが、「貸付料及び将来の売払時の売却価格を評価する際には当該
調査結果等により地盤の状況を考慮する」と決めた。

近畿財務局が森友側の要求に困り果て、「本省」の了承を得て森友の要求
を受け容れたのだ。しかし右の記録は一部削除され、次のように書き換え
られた。

「ボーリング調査結果について、専門家に確認するとともに、不動産鑑定
評価を依頼した不動産鑑定士に意見を聴取したところ、新たな価格形成要
因であり、賃料に影響するとの見解があり、価格調査により、鑑定評価を
見直すこととした」

「軟弱であるとは思えない」、「軟弱」の定義も不明だとの分析を却下し
て、新たな価格形成(値引き)に応じたのが本省、即ち財務省だった。し
かし文書からは本省の関与も、地盤の軟弱さが否定されていた事実も削除
され、軟弱地盤故に価格調整は当然だという理屈が書かれていた。

官僚と政治家の闘い

もうひとつの事例である。森友学園は小学校開設予定地を国から借り受
け、8年以内に買い取りたいと要請した。だが、国有地に関する事業用定
期借地の設定期間は、「借地借家法第23条において、10年以上50年未満と
されて」いる。それでも森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空
局、財務省理財局の承認を得て特例措置を取った。

建前上、10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予約
契約書」をつくったのだ。この「特例的な内容」に至るまでに理財局長の
承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

書き換え前の文書には右の「特例的な内容」、或いは「標準書式では対応
できない」などの表現が度々登場するが、書き換え後の文書ではそれらは
すべて削除されている。

森友側と交渉していたにも拘わらず、佐川宣寿前理財局長は、昨年3月、
衆議院財務金融委員会で「価格を提示したこともないし、先方からいくら
で買いたいと希望があったこともない」などと説明した。

一連の削除或いは書き換えはおよそすべて、佐川前理財局長の国会証言に
合わせたものだと言ってよい。佐川氏や財務省を守るためだったのであろう。

それでも立憲民主党の幹部らは、安倍首相が自身や夫人がかかわっていれ
ば政治家も首相もやめると発言したから、財務官僚たちが忖度して文書を
書き換えたのだと、論難する。

果たしてそうか。首相発言は昨年2月だ。財務省はその2年前、2015年6月
にも文書を書き換えている。ひょっとして財務省は恒常的に文書を書き換
えていたのではないか。そのことを麻生太郎財務相にも安倍首相にも、さ
らには他の政治家たちにも知らせずにきたのではないのか。だとすればこ
の問題の本質は官僚の暴走であり、官僚と政治家の闘いにあるといえる。
メディアはこうした点にこそメスを入れるべきだ。安倍憎しの印象操作に
終わることは、あらゆる意味で国益を損なうものだ。
『週刊新潮』 2018年3月29日号
日本ルネッサンス 第796回

2018年04月04日

◆森友文書だけが日本の問題ではない

櫻井よしこ


「森友文書だけが日本の問題ではない 国の安全への責務を政治家は自
覚すべきだ 」

3月19日の参議院予算委員会で安倍晋三首相は、森友文書書き換え問題で
「行政全体に対する最終的な責任は首相である私にある」と陳謝した。

その上で、「私や妻が国有地払い下げや学校の認可に関与した事実はない
ことは明らかだ。書き換えを指示していないし、そもそも財務省理財局や
近畿財務局の決裁文書などの存在も知らない。指示のしようがない」と
語った。

財務省が発表した76ページの文書には首相夫妻関与の痕跡は全く無い。

省の中の省と言われる財務省が決裁文書を書き換えていたことは重大問題
であり、首相をはじめ政治による不当な真実隠しがあれば糾すべきなのは
当然だ。この二つの問題には粛々と取り組めばよい。だが、急展開する国
際情勢を見れば、国会が同問題だけにかまけていてよいはずはない。国会
は日本の命運を左右する大きな国際情勢問題に急ぎ取り組むべきだ。

ドナルド・トランプ米大統領は国務長官のレックス・ティラーソン氏を更
迭し、マイク・ポンペオ氏という元米中央情報局(CIA)長官で対北朝
鮮強硬派を後任に指名した。トランプ氏は国家安全保障問題担当補佐官、
ハーバート・マクマスター氏も解任する方針だと報じられている。後任と
して取り沙汰されるのがジョン・ボルトン元国連大使ら、対北朝鮮強硬派
である。

北朝鮮を巡っては、4月末に南北朝鮮首脳会談、5月には米朝首脳会談が予
定される。南北首脳会談の韓国側準備委員長は、北朝鮮の故金日成氏の主
体思想の信奉者で、朝鮮民族として正統性を有する国家は韓国ではなく北
朝鮮だとの考えを隠さない任鍾ル(イム・ジョンソク)氏だ。

同氏の下で首脳会談を調整するのは2000年の金大中・金正日首脳会談を設
定した責任者、林東源元統一相だ。大中氏は秘密資金4億5000万ドルを正
日氏に貢いでようやく会談してもらったのだが、そのお膳立てをしたのが
林氏だったとみてよいだろう。韓国が北朝鮮にのめり込むのが4月の南北
首脳会談だ。その後に誕生する韓国は今よりずっと親北だろう。

米国は5月の米朝首脳会談を目指して準備中だ。日本は4月中に日米首脳会
談を開く。米朝首脳会談が本当に実現するのか、実はまだわからないが、
実現すれば日本に重大な影響を及ぼすのは確かだ。わが国の準備は進んで
いるのか。

日本にとって最悪なのは、北朝鮮が米本土に届く大陸間弾道ミサイル
(ICBM)を放棄するだけで米国が納得することだ。北朝鮮は日本を十
分狙える核とミサイルを手にすることになり、到底日本は受け入れられな
い。日米の絆である日米安全保障条約の基盤は大きく揺らぎ、それは日本
の国益にも米国の国益にもならない。

安倍首相は4月の首脳会談でトランプ大統領にそのことをよく理解させな
ければならない。だが、強固な日米同盟が大事だとトランプ氏に納得させ
るには、同盟が米国にとっても代替不可能な必須の戦略基盤であることを
示さなければならない。そのために日本のなすべきことを国家戦略として
決めておくことが欠かせない。

折しもユーラシア大陸には中国の習近平政権とロシアのプーチン政権とい
う、事実上の終身皇帝を戴く専制独裁政権が誕生した。政権地盤を固めた
2人の専制者は、国内基盤強化のために厳しい対外戦略を打ちだすだろう。

かつてない厳しい国際情勢の中で日本が依って立つ基盤は日米同盟しかな
い。同盟を日本の国益を守る方向へと導くためになすべきことを決め、具
体的政策に移す局面だ。その作業を日米首脳会談前までに全力で行わなけ
れば日本は深刻な危機に直面する。森友文書だけが問題ではないのだ。日
米同盟に生じ得る根本的揺らぎを読み取り日本国の安全を確固たるものに
する責務を政治家は自覚すべきだろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1225 

2018年04月02日

◆森友文書だけが日本の問題ではない

櫻井よしこ


「森友文書だけが日本の問題ではない 国の安全への責務を政治家は自
覚すべきだ 」

3月19日の参議院予算委員会で安倍晋三首相は、森友文書書き換え問題で
「行政全体に対する最終的な責任は首相である私にある」と陳謝した。

その上で、「私や妻が国有地払い下げや学校の認可に関与した事実はない
ことは明らかだ。書き換えを指示していないし、そもそも財務省理財局や
近畿財務局の決裁文書などの存在も知らない。指示のしようがない」と
語った。

財務省が発表した76ページの文書には首相夫妻関与の痕跡は全く無い。

省の中の省と言われる財務省が決裁文書を書き換えていたことは重大問題
であり、首相をはじめ政治による不当な真実隠しがあれば糾すべきなのは
当然だ。この二つの問題には粛々と取り組めばよい。だが、急展開する国
際情勢を見れば、国会が同問題だけにかまけていてよいはずはない。国会
は日本の命運を左右する大きな国際情勢問題に急ぎ取り組むべきだ。

ドナルド・トランプ米大統領は国務長官のレックス・ティラーソン氏を更
迭し、マイク・ポンペオ氏という元米中央情報局(CIA)長官で対北朝
鮮強硬派を後任に指名した。トランプ氏は国家安全保障問題担当補佐官、
ハーバート・マクマスター氏も解任する方針だと報じられている。後任と
して取り沙汰されるのがジョン・ボルトン元国連大使ら、対北朝鮮強硬派
である。

北朝鮮を巡っては、4月末に南北朝鮮首脳会談、5月には米朝首脳会談が予
定される。南北首脳会談の韓国側準備委員長は、北朝鮮の故金日成氏の主
体思想の信奉者で、朝鮮民族として正統性を有する国家は韓国ではなく北
朝鮮だとの考えを隠さない任鍾ル(イム・ジョンソク)氏だ。

同氏の下で首脳会談を調整するのは2000年の金大中・金正日首脳会談を設
定した責任者、林東源元統一相だ。大中氏は秘密資金4億5000万ドルを正
日氏に貢いでようやく会談してもらったのだが、そのお膳立てをしたのが
林氏だったとみてよいだろう。韓国が北朝鮮にのめり込むのが4月の南北
首脳会談だ。その後に誕生する韓国は今よりずっと親北だろう。

米国は5月の米朝首脳会談を目指して準備中だ。日本は4月中に日米首脳会
談を開く。米朝首脳会談が本当に実現するのか、実はまだわからないが、
実現すれば日本に重大な影響を及ぼすのは確かだ。わが国の準備は進んで
いるのか。

日本にとって最悪なのは、北朝鮮が米本土に届く大陸間弾道ミサイル
(ICBM)を放棄するだけで米国が納得することだ。北朝鮮は日本を十
分狙える核とミサイルを手にすることになり、到底日本は受け入れられな
い。日米の絆である日米安全保障条約の基盤は大きく揺らぎ、それは日本
の国益にも米国の国益にもならない。

安倍首相は4月の首脳会談でトランプ大統領にそのことをよく理解させな
ければならない。だが、強固な日米同盟が大事だとトランプ氏に納得させ
るには、同盟が米国にとっても代替不可能な必須の戦略基盤であることを
示さなければならない。そのために日本のなすべきことを国家戦略として
決めておくことが欠かせない。

折しもユーラシア大陸には中国の習近平政権とロシアのプーチン政権とい
う、事実上の終身皇帝を戴く専制独裁政権が誕生した。政権地盤を固めた
2人の専制者は、国内基盤強化のために厳しい対外戦略を打ちだすだろう。

かつてない厳しい国際情勢の中で日本が依って立つ基盤は日米同盟しかな
い。同盟を日本の国益を守る方向へと導くためになすべきことを決め、具
体的政策に移す局面だ。その作業を日米首脳会談前までに全力で行わなけ
れば日本は深刻な危機に直面する。森友文書だけが問題ではないのだ。日
米同盟に生じ得る根本的揺らぎを読み取り日本国の安全を確固たるものに
する責務を政治家は自覚すべきだろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1225 

2018年04月01日

◆野党とメディアが日本を滅ぼす

櫻井よしこ

 

米英仏は4月13日午後9時(日本時間14日午前10時)からシリアの化学兵
器関連施設3か所に、105発のミサイル攻撃を加えた。

1年前、トランプ大統領は米国単独でミサイル攻撃を加えた。今回、米国
がどう動くのかは米国が自由世界のリーダーとしての責任を引き受
け続けるのか否か、という意味で注目された。それは、異形の価値観を
掲げるロシアや中国に国際社会の主導権を取らせるのか、という問い
でもある。

米英仏軍の攻撃は、米国が自由主義世界の司令塔としてとどまることを
示した。決断はどのようになされたのか。

米紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)などの報道によ
ると、国防総省はトランプ氏に3つの選択肢を示したという1Dリアの化学
兵器製造能力につながる施設に最小限の攻撃をかける、➁化
学兵器研究センターや軍司令部施設まで幅広く標的を広げ、アサド政
権の基盤を弱める、➂シリア国内のロシア軍の拠点も攻撃し、アサド政
権の軍事的基盤を破壊する、である。

トランプ氏は➁と➂の組み合わせを選択した。ミサイル攻撃を一定水準に限
定しつつ、化学兵器製造能力に決定的打撃を与えるが、アサド政
権の転覆は目指さないというものだ。

結論に至るまでの議論をWSJが報じている。トランプ氏は➂の選択肢に
傾いており、ニッキー・ヘイリー国連大使も大統領と同様だったと
いう。反対したのがジェームズ・マティス国防長官で、ロシア軍の拠点
まで含めた攻撃はロシアのみならず、イランからも危険な反撃を受け
る可能性があると説得したそうだ。


攻撃4日前の4月9日に国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任したジョ
ン・ボルトン氏は今年2月、WSJに、米軍には北朝鮮に先制攻
撃を行う権利があると述べた強硬派である。マティス国防長官は国防総
省でボルトン氏に初めて会ったとき、「あなたは悪魔の化身だという
噂をきいています」と、冗談めかして言ったそうだが、それほど、ボル
トン氏のイメージは強硬派の中の強硬派なのである。

米朝会談の展望
しかし、今回、ボルトン氏はアサド政権に潰滅的打撃を与えながらも、
過度な攻撃を避けるという「困難な妥協点を見出した」と評価され
た。強硬だが、分別を持った陣容がトランプ氏の周りにいるとの見方が
あるのである。

それにしてもトランプ氏の考え方は矛盾に満ちている。彼は一日も早く中
東から米軍を引き上げさせたいとする一方で、シリアに大打撃を与
えるべく、強硬な攻撃を主張する。

化学兵器の使用という、人道上許されない国家犯罪には懲罰的攻撃を断
行するが、ロシアとは戦わない。今回の攻撃の目的はあくまでも人道
上、国際条約で禁止されている化学兵器の使用をやめさせることであ
り、政権転覆や中東における勢力図の変更を意図するものではないとい
うのが米国の姿勢だと見てよいが、トランプ氏が同じように考えている
のかはよくわからない。

もっとも、共和党にはリンゼイ・グラハム上院議員の次のような考えも
根強い。

「アサド氏は米軍による攻撃を、仕事をする(doing business)ための必
要なコストだと考えている可能性がある。ロシアと
イランは今回の攻撃を、米国がシリアから撤退するための口実の第一歩
と見ている。米英仏の攻撃がロシア、シリア、イランに戦略を変えさ
せ、ゲームチェンジを起こすわけではない」

米国の攻撃は状況を根本から変えるわけではないというグラハム氏の指
摘を日本は重く受けとめなくてはならないだろう。シリア政策は北朝
鮮政策にも通じるからだ。

5月にもトランプ氏と金正恩氏は会うのである。どちらも常識や理性から
懸け離れた性格の持ち主だ。周囲の意見をきくより、即断即決で勝
負に出る可能性もある。狡猾さにおいては、正恩氏の方が優っているか
もしれない。
米朝会談の展望を描くのは難しいが、万が一、米国に届く大陸間弾道ミサ
イルを北朝鮮が諦めるかわりに、核保有を認めるなどということに
なったらどうするのか。

日米首脳会談で安倍首相がトランプ氏と何を語り合い、何を確約するか
は、日本にとっても拉致被害者にとっても、これ以上ない程に重要
だ。本来、首相以下、閣僚、政治家の全てがこの眼前の外交課題に集中
していなければならない時だ。

しかし、驚いた。米英仏のシリア攻撃直後のNHKの「日曜討論」ではな
んとモリカケ問題などを議論していた。メディアも政治家も一体、
何を考えているのか。私はすぐにテレビを消したが、野党とメディアが
日本を滅ぼすと実感した出来事だった。

喜ぶのは某国
4月13日夜、私の主宰するネット配信の「言論テレビ」で小野寺五典防衛
大臣が日報問題について語ったことの一部を紹介しよう。

自衛隊がイラクに派遣されていた10年以上前、日報の保存期間は1年以内
だった。隊員たちも「読み終わったら捨てるものだから、何年も
前の日報は廃棄されて存在しないだろう」と思い込んでいた。
だが、自衛隊は全国に基地や駐屯地が300か所以上あり、隊員だけで25万
人もいる。思いがけずパソコン内に日報を保存していた人がい

たり、あるいは書類棚の中に残っていたのが見つかった。その時点で報
告し、開示すべきだったが、そこで適切な処理が行われず、これが結
果的に問題を招いてしまったというのだ。このような背景をメディアが
正確に報じていれば、日報問題への見方も異なっていたはずで、無用
な混乱もなかったはずだ。

ここ数年、防衛省には年間5000件以上の情報開示請求が集中豪雨のように
なされているという。大変なのは件数だけでなく、請求内容だ
「何年何月の資料」とピンポイントで開示請求するのでなく、

「イラク派遣に関する文書」というような大雑把な請求が少なくない。当
然、膨大な量になる。資料が特定できたとして、中身を調べ、開示して
差し支えないか、関係各省にも問い合わせる必要がある。この作業を
経て黒塗り箇所を決め、提出する。これが年間5000件以上、職員はもう
くたびれきっている。


防衛省をこの種の書類探しや精査の作業に追い込んで、本来の国防がお
ろそかにならないはずはない。喜ぶのは某国であろう。

ちなみに日本を除く他の多くの国々では、日報は外交文書同様、機密扱い
である。日報を一般の行政文書に位置づけて、情報公開の対象にし
ているのは恐らく日本だけだ。
問題があれば追及し、正すのは当然だ。しかし、いま行われているのは、
メディアと野党による日本潰しだと私は思う。
『週刊新潮』 2018年4月26日号 日本ルネッサンス 第800回     
                                 
   

◆森友文書だけが日本の問題ではない

櫻井よしこ


「森友文書だけが日本の問題ではない 国の安全への責務を政治家は自
覚すべきだ」



3月19日の参議院予算委員会で安倍晋三首相は、森友文書書き換え問題で
「行政全体に対する最終的な責任は首相である私にある」と陳謝した。

その上で、「私や妻が国有地払い下げや学校の認可に関与した事実はない
ことは明らかだ。書き換えを指示していないし、そもそも財務省理財局や
近畿財務局の決裁文書などの存在も知らない。指示のしようがない」と
語った。

財務省が発表した76ページの文書には首相夫妻関与の痕跡は全くない。

省の中の省と言われる財務省が決裁文書を書き換えていたことは重大問題
であり、首相をはじめ政治による不当な真実隠しがあれば糾すべきなのは
当然だ。この二つの問題には粛々と取り組めばよい。だが、急展開する国
際情勢を見れば、国会が同問題だけにかまけていてよいはずはない。国会
は日本の命運を左右する大きな国際情勢問題に急ぎ取り組むべきだ。

ドナルド・トランプ米大統領は国務長官のレックス・ティラーソン氏を更
迭し、マイク・ポンペオ氏という元米中央情報局(CIA)長官で対北朝
鮮強硬派を後任に指名した。トランプ氏は国家安全保障問題担当補佐官、
ハーバート・マクマスター氏も解任する方針だと報じられている。後任と
して取り沙汰されるのがジョン・ボルトン元国連大使ら、対北朝鮮強硬派
である。

北朝鮮を巡っては、4月末に南北朝鮮首脳会談、5月には米朝首脳会談が予
定される。南北首脳会談の韓国側準備委員長は、北朝鮮の故金日成氏の主
体思想の信奉者で、朝鮮民族として正統性を有する国家は韓国ではなく北
朝鮮だとの考えを隠さない任鍾ル(イム・ジョンソク)氏だ。

同氏の下で首脳会談を調整するのは2000年の金大中・金正日首脳会談を設
定した責任者、林東源元統一相だ。大中氏は秘密資金4億5000万ドルを正
日氏に貢いでようやく会談してもらったのだが、そのお膳立てをしたのが
林氏だったとみてよいだろう。韓国が北朝鮮にのめり込むのが4月の南北
首脳会談だ。その後に誕生する韓国は今よりずっと親北だろう。

米国は5月の米朝首脳会談を目指して準備中だ。日本は4月中に日米首脳会
談を開く。米朝首脳会談が本当に実現するのか、実はまだわからないが、
実現すれば日本に重大な影響を及ぼすのは確かだ。わが国の準備は進んで
いるのか。

日本にとって最悪なのは、北朝鮮が米本土に届く大陸間弾道ミサイル
(ICBM)を放棄するだけで米国が納得することだ。北朝鮮は日本を十
分狙える核とミサイルを手にすることになり、到底日本は受け入れられな
い。日米の絆である日米安全保障条約の基盤は大きく揺らぎ、それは日本
の国益にも米国の国益にもならない。

安倍首相は4月の首脳会談でトランプ大統領にそのことをよく理解させな
ければならない。だが、強固な日米同盟が大事だとトランプ氏に納得させ
るには、同盟が米国にとっても代替不可能な必須の戦略基盤であることを
示さなければならない。そのために日本のなすべきことを国家戦略として
決めておくことが欠かせない。

折しもユーラシア大陸には中国の習近平政権とロシアのプーチン政権とい
う、事実上の終身皇帝を戴く専制独裁政権が誕生した。政権地盤を固めた
二人の専制者は、国内基盤強化のために厳しい対外戦略を打ちだすだろう。

かつてない厳しい国際情勢の中で日本が依って立つ基盤は日米同盟しかな
い。同盟を日本の国益を守る方向へと導くためになすべきことを決め、具
体的政策に移す局面だ。その作業を日米首脳会談前までに全力で行わなけ
れば日本は深刻な危機に直面する。森友文書だけが問題ではないのだ。日
米同盟に生じ得る根本的揺らぎを読み取り日本国の安全を確固たるものに
する責務を政治家は自覚すべきだろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1225 

2018年03月30日

◆反安倍の印象報道に既視感あり

櫻井よしこ


財務省が発表した「決裁文書の書き換えの状況」(以下報告書)を読ん
だ。78頁にわたる報告書から読み取るべき点は二つである。第一は決裁文
書の書き換えという許されないことを、誰が指示したのかだ。

次に、野党は安倍晋三首相夫妻の責任を問うが、果たして首相は森友学園
に関係する土地売却や財務省の決裁文書書き換えに関わっていたのかとい
う点である。政治への信頼がかかっているだけにはっきりさせなければな
らない。

そのようなことを念頭に報告書を精査したが、どう見ても、これは財務省
の問題である。報告書から、森友学園が近畿財務局に少なからぬ要求を出
していたことが伝わってくる。森友学園には近畿財務局が対処しており、
彼らは大事な局面で本省の理財局に報告している。

本省と相談し、許可及び指示を得て、森友側の要請に応えた構図が報告書
では浮き彫りとなっている。そこに安倍首相や昭恵夫人が関わり得る余地
はないと断じてよいだろう。

にも拘わらず、主要メディアはすでにおどろおどろしい印象操作報道に
走っている。他方野党は同問題を安倍政権潰しの政局にしようとしている。

政治には権力闘争が付き物だとしても、去年、日本列島に吹き荒れた根拠
なき反安倍の嵐は、日本の政治をかつての旧い体制に引き戻そうとするも
のだった。野党も多くのメディアも、反安倍路線に走る余り、岩盤規制を
守る側に、事実上立ったではないか。

いま耳にする批判は、安倍首相の「一強体制」が悪い、それが官僚を萎縮
させ、忖度させているというものだ。だが、民主党も政権を取った時には
政治主導を主張したのではなかったか。事務次官も含めて官僚の意見をき
かず、大臣がおよそ全てを主導しようとしたのが民主党政権ではなかった
か。その彼らがいま、内閣人事局が官僚を萎縮させ、首相の言葉などを忖
度させると論難する。だが、そもそも内閣人事局の設置は、民主党政権で
も目指したものではないのか。

民主党も望んでいたこと

内閣人事局の権限は強大ではあるが制限もある。審議官級以上の人事の最
終決定権は内閣人事局にあるが、内閣人事局が次の局長や次の事務次官を
指名することはできない。人事構想はまず各省が決める。その案を内閣人
事局は拒否できるが、そうするには相当の理由を示さなければならない。

それでも各省人事の最終決定権を政治家が握ることで、国益よりも省益を
優先していた霞が関の官僚たちを、省益より国益重視へと変えさせる要素
になった。それは民主党も、望んでいたことだった。それをいま、非難す
るのは筋違いである。

いま、メディアは、報告書の内容を読者にきちんと伝える責任がある。報
告書から窺えるのは森友学園側の要請に抗いきれず、妥協する近畿財務局
の姿であり、それを承認していた本省理財局の姿でもある。たとえば、
「本地の地盤について」の項には当初次のような記述があった。

「(学園は)本地(森友学園が小学校を建設しようと考えた大阪府豊中市
の土地)は軟弱地盤であり貸付料に反映されるべきものと主張し、併せて
校舎建設の際に通常を上回る杭工事(建物基礎工事)が必要であるとし
て、国に工事費の負担を要請した」

森友学園側が近畿財務局に貸付料を安くせよと迫ったわけだ。対して近畿
財務局は地質調査会社に意見を求めたが、この社は、特別に軟弱であると
は思えないとした上で、「通常と比較して軟弱かどうかという問題は、通
常地盤の定義が困難であるため回答は難しい」と、あやふやな見解を示した。

困った近畿財務局は「当局及び本省で」相談した結果、杭工事費用等は負
担しないが、「貸付料及び将来の売払時の売却価格を評価する際には当該
調査結果等により地盤の状況を考慮する」と決めた。

近畿財務局が森友側の要求に困り果て、「本省」の了承を得て森友の要求
を受け容れたのだ。しかし右の記録は一部削除され、次のように書き換え
られた。

「ボーリング調査結果について、専門家に確認するとともに、不動産鑑定
評価を依頼した不動産鑑定士に意見を聴取したところ、新たな価格形成要
因であり、賃料に影響するとの見解があり、価格調査により、鑑定評価を
見直すこととした」

「軟弱であるとは思えない」、「軟弱」の定義も不明だとの分析を却下し
て、新たな価格形成(値引き)に応じたのが本省、即ち財務省だった。し
かし文書からは本省の関与も、地盤の軟弱さが否定されていた事実も削除
され、軟弱地盤故に価格調整は当然だという理屈が書かれていた。

官僚と政治家の闘い:前田正晶

もうひとつの事例である。森友学園は小学校開設予定地を国から借り受
け、8年以内に買い取りたいと要請した。だが、国有地に関する事業用定
期借地の設定期間は、「借地借家法第23条において、10年以上50年未満と
されて」いる。それでも森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空
局、財務省理財局の承認を得て特例措置を取った。

建前上、10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予約
契約書」をつくったのだ。この「特例的な内容」に至るまでに理財局長の
承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

書き換え前の文書には右の「特例的な内容」、或いは「標準書式では対応
できない」などの表現が度々登場するが、書き換え後の文書ではそれらは
すべて削除されている。

森友側と交渉していたにも拘わらず、佐川宣寿前理財局長は、昨年3月、
衆議院財務金融委員会で「価格を提示したこともないし、先方からいくら
で買いたいと希望があったこともない」などと説明した。

一連の削除或いは書き換えはおよそすべて、佐川前理財局長の国会証言に
合わせたものだと言ってよい。佐川氏や財務省を守るためだったのであろう。

それでも立憲民主党の幹部らは、安倍首相が自身や夫人がかかわっていれ
ば政治家も首相もやめると発言したから、財務官僚たちが忖度して文書を
書き換えたのだと、論難する。

果たしてそうか。首相発言は昨年2月だ。財務省はその2年前、2015年6月
にも文書を書き換えている。ひょっとして財務省は恒常的に文書を書き換
えていたのではないか。そのことを麻生太郎財務相にも安倍首相にも、さ
らには他の政治家たちにも知らせずにきたのではないのか。だとすればこ
の問題の本質は官僚の暴走であり、官僚と政治家の闘いにあるといえる。
メディアはこうした点にこそメスを入れるべきだ。安倍憎しの印象操作に
終わることは、あらゆる意味で国益を損なうものだ。

『週刊新潮』 2018年3月29日号 日本ルネッサンス 第796回

2018年03月29日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、二つの問題を含んでいる。第一は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第二は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月28日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ

「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」



3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月27日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を 示
すべきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224

2018年03月26日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を
示すべきだ」


3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月25日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第一は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第二は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月24日

◆騙されるな、金正恩の瀬戸際外交

櫻井よしこ


ドナルド・トランプ、金正恩、文在寅――3人のユニークな国家指導者が繰
り広げる外交が米朝首脳会談に結びつき、朝鮮半島情勢が安定するとは思
えない。

3人の共通項は、早急に大きな果実を手にしたいという思惑だ。トランプ
大統領は秋の中間選挙を前に低いままの支持率を押し上げたい。

金朝鮮労働党委員長の足下では高齢者や子供たちの中から餓死者が出始め
ている。正恩氏は困窮した経済を脱して生き残らなければならない。

文大統領は国民がその危険に気づく前に1日も早く憲法を改正し、韓国を
社会主義化してしまいたい。

三者三様の思惑が、急展開する外交の背景にある。3月5日、文大統領の特
使団として北朝鮮を訪れた鄭義溶国家安保室長及び徐薫国家情報院長は、
翌日韓国に戻り、北朝鮮の体制の安全が保障されれば核を保有する理由は
ないという正恩氏の伝言を発表した。正恩氏はトランプ氏に「出来るだけ
早く会いたい」とも伝えてきたという。

鄭氏らは南北会談の内容を報告するために8日午前、ワシントンに到着、
午後にはホワイトハウスに招かれた。鄭氏はマクマスター国家安全保障問
題担当大統領補佐官に、徐氏はハスペルCIA副長官に直接報告した。

その後、右の4人にペンス副大統領、マティス国防長官、コーツ国家情報
長官、ダンフォード統合参謀本部議長、ケリー首席補佐官が合流、在米韓
国大使も参加した。

鄭氏らはトランプ大統領とは翌日、会談する予定だったが、韓国代表団が
ホワイトハウスにいると知った大統領が待ちきれずに彼らを執務室に招き
入れた。

米朝首脳会談を望んでいるとの正恩氏の申し入れなどについて、トランプ
氏はすでにCIA情報で把握していたと「ニューヨーク・タイムズ」
(NYT)紙などが報じた。

外交素人のトランプ氏

トランプ氏は実は、韓国代表団がワシントンに到着する8日午前よりも前
の段階で、正恩氏の提案についてティラーソン国務長官に電話で伝えてい
た。但し、最も重要なこと、正恩氏との首脳会談に応じるという結論は、
伝えていない。そのかわりに同日午後5時8分に「会談を計画中だ!」とツ
イッターで発信したのである。外交を担うティラーソン氏はどんな気持
だったろうか。

さて、大統領執務室に招かれた鄭氏らはどうなったか。鄭氏の説明を聞く
や否や、トランプ氏は正恩氏に4月にも会うと答えた。慌てたのは鄭氏で
ある。文大統領の先を越されては困る。そこで南北会談の後がよい、5月
だということになった。

これだけでも前代未聞の即断即決、大国外交にあるまじき異常事態だが異
常はまだ続いた。トランプ氏は、米朝首脳会談実現へというニュースを、
そのまま、ホワイトハウスで発表することを提案したそうだ。

その性急さに驚いた鄭氏は、マクマスター補佐官の部屋に急ぎ、発表文作
成の共同作業に入った。それから、盗聴されない電話で、恐らく就寝中
だった文大統領に連絡して事の推移を説明し、了承を得たという(NYT
紙)。

その間にトランプ氏は何をしたか。普段は「フェイクニュースだ!」と忌
み嫌っているメディア各社が控える記者会見室に自ら足を運び、「鼻
高々」でこう予告した。

「間もなく重要発表があるぜ」

ティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター補佐官、ケリー
首席補佐官らトランプ氏の側近はいずれも、正恩氏からの首脳会談申し入
れへの対応について事前に大統領から意見を聞かれたりしていない。中国
が背後に控える北朝鮮政策で、アメリカは国家戦略を練るまでもなく外交
素人のトランプ氏の気まぐれに任せるしかないのか。

韓国政府代表団がホワイトハウスの会見室で発表することについても異論
が出た。結果として記者会見室ではなく、ホワイトハウスの敷地内の道路
上で青空会見を開くことになった。それでも、韓国政府要人が重要な外交
政策に関して、トランプ大統領の決定を発表した点において、同会見は歴
史に残る異例のものだった。

トランプ氏の決断の危うさは、しかし、翌日には早くも明らかにされた。
サンダース報道官が、米朝首脳会談開催には前提条件がある、「金正恩氏
が非核化の具体的かつ検証可能な行動をとらない限り、大統領は会わな
い」と発表したのだ。前日の大統領発言を否定したのである。

9日午後の同会見では、トランプ氏の決断についての質問が繰り返され
た。正恩氏の非核化の約束など信じられるのか、拘束されているアメリカ
人3人を取り戻すことも要求せず、なぜ会うのか、2か月の準備期間で正恩
氏の約束履行を確認できるのか、大統領は記者会見室ですごいニュースを
発表すると言ったが、中国など関係諸国に通知する前にマスコミに発表し
てよいのか。

北朝鮮の狙い

ホワイトハウスも国防総省も突然の発表に驚いている、彼らはマスコミ報
道で大統領の決断を知った、そのような外交は危険ではないか、などと、
質問は果てしなく続いた。

サンダース氏は、北朝鮮の核廃棄など具体的行動があって、初めて首脳会
談が行われる、具体的行動なくして首脳会談はないと繰り返した。

トランプ氏は恐らく米朝外交の詳しい歴史も複雑な内容も、北朝鮮の嘘に
まみれた厚かましい外交手法も、十分に知らないに違いない。「ぶれずに
圧力をかけたのは自分だ。自分に正恩氏はかなわない」と過信しているの
ではないか。圧力の効果はそのとおりだが、それでも余りにも拙速なトラ
ンプ外交への揺り戻しが政権内から出たに違いない。

北朝鮮の主張する非核化と、日本やアメリカが主張してきた非核化は、言
葉は同じでも意味は全く異なる。

日米を含む世界が主張する非核化は北朝鮮の保有する全核物質、核関連施
設、核兵器開発計画そのものを、「完全に」「検証可能な」「不可逆的
な」方法で「解体」するというものだ。これは通常「CVID」
(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)と呼ばれる。

他方、北朝鮮の主張する非核化は「自衛用の北朝鮮の核を廃棄する前に、
北朝鮮に核武装を迫った原因、つまりアメリカの核の脅威を取り除くこと
が必要だ。アメリカが朝鮮半島から核を撤去すれば北朝鮮も核を放棄す
る。結果として、朝鮮半島の非核化が実現する」というものだ。

北朝鮮の主張はさらに続く可能性もある。たとえば、朝鮮半島に核を置か
なくても、ミサイルに搭載して攻撃できる。それを確実に避けるために、
米韓同盟も解消して米軍は撤退してほしいというようなことだ。とどのつ
まり、北朝鮮の狙いは米韓や日米の切り離しであることを忘れてはならない。
『週刊新潮』 2018年3月22日号 日本ルネッサンス 第795回

2018年03月23日

◆騙されるな、金正恩の瀬戸際外交

櫻井よしこ



ドナルド・トランプ、金正恩、文在寅――3人のユニークな国家指導者が
繰り広げる外交が米朝首脳会談に結びつき、朝鮮半島情勢が安定するとは
思えない。

3人の共通項は、早急に大きな果実を手にしたいという思惑だ。トランプ
大統領は秋の中間選挙を前に低いままの支持率を押し上げたい。

金朝鮮労働党委員長の足下では高齢者や子供たちの中から餓死者が出始め
ている。正恩氏は困窮した経済を脱して生き残らなければならない。

文大統領は国民がその危険に気づく前に1日も早く憲法を改正し、韓国を
社会主義化してしまいたい。

三者三様の思惑が、急展開する外交の背景にある。3月5日、文大統領の特
使団として北朝鮮を訪れた鄭義溶国家安保室長及び徐薫国家情報院長は、
翌日韓国に戻り、北朝鮮の体制の安全が保障されれば核を保有する理由は
ないという正恩氏の伝言を発表した。正恩氏はトランプ氏に「出来るだけ
早く会いたい」とも伝えてきたという。

鄭氏らは南北会談の内容を報告するために8日午前、ワシントンに到着、
午後にはホワイトハウスに招かれた。鄭氏はマクマスター国家安全保障問
題担当大統領補佐官に、徐氏はハスペルCIA副長官に直接報告した。

その後、右の4人にペンス副大統領、マティス国防長官、コーツ国家情報
長官、ダンフォード統合参謀本部議長、ケリー首席補佐官が合流、在米韓
国大使も参加した。

鄭氏らはトランプ大統領とは翌日、会談する予定だったが、韓国代表団が
ホワイトハウスにいると知った大統領が待ちきれずに彼らを執務室に招き
入れた。

米朝首脳会談を望んでいるとの正恩氏の申し入れなどについて、トランプ
氏はすでにCIA情報で把握していたと「ニューヨーク・タイムズ」
(NYT)紙などが報じた。

外交素人のトランプ氏

トランプ氏は実は、韓国代表団がワシントンに到着する8日午前よりも前
の段階で、正恩氏の提案についてティラーソン国務長官に電話で伝えてい
た。但し、最も重要なこと、正恩氏との首脳会談に応じるという結論は、
伝えていない。そのかわりに同日午後5時8分に「会談を計画中だ!」とツ
イッターで発信したのである。外交を担うティラーソン氏はどんな気持
だったろうか。

さて、大統領執務室に招かれた鄭氏らはどうなったか。鄭氏の説明を聞く
や否や、トランプ氏は正恩氏に4月にも会うと答えた。慌てたのは鄭氏で
ある。文大統領の先を越されては困る。そこで南北会談の後がよい、5月
だということになった。

これだけでも前代未聞の即断即決、大国外交にあるまじき異常事態だが異
常はまだ続いた。トランプ氏は、米朝首脳会談実現へというニュースを、
そのまま、ホワイトハウスで発表することを提案したそうだ。

その性急さに驚いた鄭氏は、マクマスター補佐官の部屋に急ぎ、発表文作
成の共同作業に入った。それから、盗聴されない電話で、恐らく就寝中
だった文大統領に連絡して事の推移を説明し、了承を得たという(NYT
紙)。

その間にトランプ氏は何をしたか。普段は「フェイクニュースだ!」と忌
み嫌っているメディア各社が控える記者会見室に自ら足を運び、「鼻
高々」でこう予告した。

「間もなく重要発表があるぜ」

ティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター補佐官、ケリー
首席補佐官らトランプ氏の側近はいずれも、正恩氏からの首脳会談申し入
れへの対応について事前に大統領から意見を聞かれたりしていない。中国
が背後に控える北朝鮮政策で、アメリカは国家戦略を練るまでもなく外交
素人のトランプ氏の気まぐれに任せるしかないのか。

韓国政府代表団がホワイトハウスの会見室で発表することについても異論
が出た。結果として記者会見室ではなく、ホワイトハウスの敷地内の道路
上で青空会見を開くことになった。それでも、韓国政府要人が重要な外交
政策に関して、トランプ大統領の決定を発表した点において、同会見は歴
史に残る異例のものだった。

トランプ氏の決断の危うさは、しかし、翌日には早くも明らかにされた。
サンダース報道官が、米朝首脳会談開催には前提条件がある、「金正恩氏
が非核化の具体的かつ検証可能な行動をとらない限り、大統領は会わな
い」と発表したのだ。前日の大統領発言を否定したのである。

9日午後の同会見では、トランプ氏の決断についての質問が繰り返され
た。正恩氏の非核化の約束など信じられるのか、拘束されているアメリカ
人3人を取り戻すことも要求せず、なぜ会うのか、2か月の準備期間で正恩
氏の約束履行を確認できるのか、大統領は記者会見室ですごいニュースを
発表すると言ったが、中国など関係諸国に通知する前にマスコミに発表し
てよいのか。

北朝鮮の狙い

ホワイトハウスも国防総省も突然の発表に驚いている、彼らはマスコミ報
道で大統領の決断を知った、そのような外交は危険ではないか、などと、
質問は果てしなく続いた。

サンダース氏は、北朝鮮の核廃棄など具体的行動があって、初めて首脳会
談が行われる、具体的行動なくして首脳会談はないと繰り返した。

トランプ氏は恐らく米朝外交の詳しい歴史も複雑な内容も、北朝鮮の嘘に
まみれた厚かましい外交手法も、十分に知らないに違いない。「ぶれずに
圧力をかけたのは自分だ。自分に正恩氏はかなわない」と過信しているの
ではないか。圧力の効果はそのとおりだが、それでも余りにも拙速なトラ
ンプ外交への揺り戻しが政権内から出たに違いない。

北朝鮮の主張する非核化と、日本やアメリカが主張してきた非核化は、言
葉は同じでも意味は全く異なる。

日米を含む世界が主張する非核化は北朝鮮の保有する全核物質、核関連施
設、核兵器開発計画そのものを、「完全に」「検証可能な」「不可逆的
な」方法で「解体」するというものだ。これは通常「CVID」
(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)と呼ばれる。

他方、北朝鮮の主張する非核化は「自衛用の北朝鮮の核を廃棄する前に、
北朝鮮に核武装を迫った原因、つまりアメリカの核の脅威を取り除くこと
が必要だ。アメリカが朝鮮半島から核を撤去すれば北朝鮮も核を放棄す
る。結果として、朝鮮半島の非核化が実現する」というものだ。

北朝鮮の主張はさらに続く可能性もある。たとえば、朝鮮半島に核を置か
なくても、ミサイルに搭載して攻撃できる。それを確実に避けるために、
米韓同盟も解消して米軍は撤退してほしいというようなことだ。とどのつ
まり、北朝鮮の狙いは米韓や日米の切り離しであることを忘れてはならない。
『週刊新潮』 2018年3月22日号 日本ルネッサンス 第795回