2018年03月22日

◆世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い

                    櫻井よしこ



「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体
の力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。

強い反対論もあるが、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞か
らも、ネットからも削除されていく。かといって、中国人が心底、終身主
席制という時代錯誤の専制独裁に納得することはないだろう。国民の不満
は解消されず、むしろ高まるばかりだ。解決の道は強硬策しかない。習氏
はあらゆる分野で締めつけを強化し、対外的にはより巧妙でより激しい攻
勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222 

2018年03月21日

◆韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中

櫻井よしこ


「韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中 文大統領と保守派のせめぎ合
いに注目」

南北朝鮮の動きが急である。2月9日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の
妹、金与正氏が訪韓、韓国の文在寅大統領の特使団が3月5日に訪朝し、翌
日には、板門店の韓国側施設で四月末に首脳会談を開くと発表した。

韓国代表団代表、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が北朝鮮は朝
鮮半島非核化の意思を明確にしたと明言。発表内容の中で重要なのは、
(1)北朝鮮は体制の安全が保障されれば核を保有する理由がないと述べ
た、(2)米韓の合同軍事演習を例年規模で実施することは理解する、
(3)核兵器や通常兵器を韓国に向かって使用しない、であろうとも述べた。

南北間のホットライン開設や、北朝鮮は米国と虚心坦懐に話し合う用意が
あることなども合意、表明された。

4時間半の会談と宴席、正恩氏が振りまく笑顔が、これまでの悪魔的粛清
の数々と鋭い対照を成す。この20年余、核・ミサイル廃棄を目指すとの彼
らの言葉を信じて、その度に、日本や米国などは食料、エネルギー、経済
援助を実施した。しかし結果は、日本や韓国を狙う数百基のミサイルと、
少なくとも20発とみられる核弾頭を持った北朝鮮の出現だった。

安倍首相の言葉を思い出す。対話と圧力が必要だが、いま重要なのは圧力
だという言葉だ。

今回の手の平を返したような柔軟姿勢と大幅譲歩は、正恩氏がいかに切羽
詰まっているかの証左だ。安倍首相の圧力政策が功を奏したのだ。改め
て、今回は騙されてはならないと思う。冷静な検証こそ大事だ。

それにしても南北朝鮮の間でどんな連携が進行中なのか。たとえば米韓合
同軍事演習は通常の規模なら理解するという言明の意味は何か。

文大統領は当初から、北朝鮮の核保有は許容しないという米国の固い意志
を北朝鮮側に伝えている。文氏は、米国から平昌五輪が終われば合同軍事
演習を行うことも言われていた。米国を無視することは、文氏もできない。

米軍は合同軍事演習実施の強い意志を示しており、文氏の北朝鮮への特使
団も、米国の意志を曲げさせることはできないと伝えたはずだ。一方、北
朝鮮には元々、米側の演習実施の意志を弱めさせることなどできない。な
らば、「理解する」と言って受け入れる方が得である。

そのような相談が南北間で行われたのではないかとさえ思われる。米国に
逆らわず、時間稼ぎをして、南北融和を進め、朝鮮民族としてまとまる流
れを作りたい。そんな思惑が読みとれる。

文氏による憲法改正の企ては本欄でも御紹介したが、その詳しい内容を朝
鮮問題専門家の西岡力氏が解説した。

「文氏が考えているのは憲法の全面的書き換えです。韓国を全く異なる国
にしようとしています。たとえば憲法前文には、韓国は自由民主主義的基
本秩序の国だと書かれています。ここにある『自由』を消してただの民主
主義的にする。そうすれば、北の朝鮮民主主義人民共和国と符号が合います」

その他にも文氏は以下のような改正を目指している。「国民の権利」を
「人間の権利」に書き換える。これは北朝鮮の故金日成氏の主体思想の
「人間中心」に合わせるためだとみられている。他方、「分権国家」の項
を書き加えるのは、南北朝鮮政府を各々分権政府と位置づけて、両方を合
わせて連邦政府を作ろうとする試みとみられている。

つまり文氏は、少なくとも理念において、韓国を北朝鮮風の国に作り変え
ようとしているのだ。氏は早くも昨年8月に「憲法改正特別委員会」を設
置してこのような研究を始めていた。連邦制を経て統一国家を目指す中
で、韓国の社会主義化、北朝鮮化が着々と進行中とみてよいと思う。警戒
すべきは北朝鮮の正恩氏だけでなく、韓国の文氏でもある。韓国内の文氏
と保守派のせめぎ合いに注目するときなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1223

2018年03月20日

◆韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中

櫻井よしこ


「韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中 文大統領と保守派のせめぎ合い
に注目」

南北朝鮮の動きが急である。2月9日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の
妹、金与正氏が訪韓、韓国の文在寅大統領の特使団が3月5日に訪朝し、翌
日には、板門店の韓国側施設で四月末に首脳会談を開くと発表した。

韓国代表団代表、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が北朝鮮は朝
鮮半島非核化の意思を明確にしたと明言。発表内容の中で重要なのは、
(1)北朝鮮は体制の安全が保障されれば核を保有する理由がないと述べ
た、(2)米韓の合同軍事演習を例年規模で実施することは理解する、
(3)核兵器や通常兵器を韓国に向かって使用しない、であろうとも述べた。

南北間のホットライン開設や、北朝鮮は米国と虚心坦懐に話し合う用意が
あることなども合意、表明された。

4時間半の会談と宴席、正恩氏が振りまく笑顔が、これまでの悪魔的粛清
の数々と鋭い対照を成す。この20年余、核・ミサイル廃棄を目指すとの彼
らの言葉を信じて、その度に、日本や米国などは食料、エネルギー、経済
援助を実施した。しかし結果は、日本や韓国を狙う数百基のミサイルと、
少なくとも20発とみられる核弾頭を持った北朝鮮の出現だった。

安倍首相の言葉を思い出す。対話と圧力が必要だが、いま重要なのは圧力
だという言葉だ。

今回の手の平を返したような柔軟姿勢と大幅譲歩は、正恩氏がいかに切羽
詰まっているかの証左だ。安倍首相の圧力政策が功を奏したのだ。改め
て、今回は騙されてはならないと思う。冷静な検証こそ大事だ。

それにしても南北朝鮮の間でどんな連携が進行中なのか。たとえば米韓合
同軍事演習は通常の規模なら理解するという言明の意味は何か。

文大統領は当初から、北朝鮮の核保有は許容しないという米国の固い意志
を北朝鮮側に伝えている。文氏は、米国から平昌五輪が終われば合同軍事
演習を行うことも言われていた。米国を無視することは、文氏もできない。

米軍は合同軍事演習実施の強い意志を示しており、文氏の北朝鮮への特使
団も、米国の意志を曲げさせることはできないと伝えたはずだ。一方、北
朝鮮には元々、米側の演習実施の意志を弱めさせることなどできない。な
らば、「理解する」と言って受け入れる方が得である。

そのような相談が南北間で行われたのではないかとさえ思われる。米国に
逆らわず、時間稼ぎをして、南北融和を進め、朝鮮民族としてまとまる流
れを作りたい。そんな思惑が読みとれる。

文氏による憲法改正の企ては本欄でも御紹介したが、その詳しい内容を朝
鮮問題専門家の西岡力氏が解説した。

「文氏が考えているのは憲法の全面的書き換えです。韓国を全く異なる国
にしようとしています。たとえば憲法前文には、韓国は自由民主主義的基
本秩序の国だと書かれています。ここにある『自由』を消してただの民主
主義的にする。そうすれば、北の朝鮮民主主義人民共和国と符号が合います」

その他にも文氏は以下のような改正を目指している。「国民の権利」を
「人間の権利」に書き換える。これは北朝鮮の故金日成氏の主体思想の
「人間中心」に合わせるためだとみられている。他方、「分権国家」の項
を書き加えるのは、南北朝鮮政府を各々分権政府と位置づけて、両方を合
わせて連邦政府を作ろうとする試みとみられている。

つまり文氏は、少なくとも理念において、韓国を北朝鮮風の国に作り変え
ようとしているのだ。氏は早くも昨年8月に「憲法改正特別委員会」を設
置してこのような研究を始めていた。連邦制を経て統一国家を目指す中
で、韓国の社会主義化、北朝鮮化が着々と進行中とみてよいと思う。警戒
すべきは北朝鮮の正恩氏だけでなく、韓国の文氏でもある。韓国内の文氏
と保守派のせめぎ合いに注目するときなのである。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1223



2018年03月17日

◆想像を絶する韓国文政権の北への服従

櫻井よしこ


史上最も政治的に利用された平昌五輪が一区切りついて、パラリンピック
へと舞台は移る。選手たちの活躍の舞台裏で、醜悪な左翼テロリスト勢力
の鋭い爪が着実に韓国を捕らえたと思われる。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は平昌五輪閉会式にテロ活動の総元締
め、金英哲朝鮮労働党副委員長を送り込んだ。この件について、朝鮮問題
の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏を2月23日、「言論テレビ」に
招いて、眼前の危機を読み解いた。

英哲氏は2010年に韓国の軍艦「天安」を魚雷で沈め、軍人46人を殺害した
張本人だ。正恩氏がそんな人物を送り込んだのは、本当に自分の命が狙わ
れているという恐怖心ゆえだと、西岡氏は説明する。

「北朝鮮で『あの世からの使者』と呼ばれ恐れられていた男が金元弘(キ
ムウォンホン)前国家保衛相でした。正恩氏の叔父の張成沢(チャンソン
テク)も人民武力部長の玄永哲(ヒョンヨンチョル)も彼が処刑した。

それが去年初めに国家保衛相を解任されて軍に異動、秋には家族共々、農
場に送られ平の農場員にされました。理由は、これまた正恩の恐怖心で
しょう。

北朝鮮政府のかなりの高位にいた人物が脱北して韓国のテレビで繰り返し
述べたのです・歴代の国家保衛部長は粛清が終わると自身も粛清されてき
た。金元弘が馬鹿でなければ、自分が粛清される前に行動するだろう。金
正恩を暗殺するとしたら金元弘だ」

正恩氏はその報道を聞いたかもしれない。また、余りに権力を集中させす
ぎた人間が自分に牙を剥くかもしれない、であれば、粛清だと考えたかも
しれない。最側近も信じられない程、正恩氏が脅えているということだ。

正恩氏が最も恐れるのがアメリカだ。昨年11月、国防総省は北朝鮮有事に
備えて「戦争ゲーム」の想定訓練をした。前提は同盟国の韓国や日本の大
都市に被害を出さない、中国軍の北朝鮮侵入を許さない、である。

小型の核爆弾しかない

北朝鮮は38度線に沿って少なくとも200基のミサイルや通常の攻撃用兵器
を韓国や日本に向けて配備し、地上にも地下にも拠点を設置済みだ。これ
らの攻撃能力を一気に封印して反撃能力を奪うには、手立てはひとつ、小
型の核爆弾しかないという結論が導き出された。

折しも国防総省は2月2日にアメリカの「核戦略見直し」を発表した。「爆
発力を抑えた小型核兵器の開発」を打ち出し、「敵に本当に核兵器を使用
すると思わせ抑止力を強化する」「潜水艦発射弾道ミサイ(SLBM)、
水上艦発射巡航ミサイルなどに搭載する小型核の開発」などを強調している。

元防衛庁情報本部長の太田文雄氏は、米軍がB-2爆撃機にB61という低出
力の新型核爆弾を搭載して飛行したと、敢えて公表したことを重く見る。
右の発表は16年10月6日だった。その直前に北朝鮮は大陸間弾道ミサイル
(ICBM)用のエンジンテストを行った。

B-2爆撃機は完全なステルス性で、見つからずに北朝鮮領空まで接近でき
る。精密誘導ミサイルから発射されるB61は、正恩氏の居場所と目される
地下基地に精確に発射され、バンカーバスターのように地中深く到達して
地下基地を破壊する。

こうすれば、広い範囲に被害が及ぶことも大気の放射能汚染も防げる。ア
メリカは今年、B-2爆撃機をグアムに配備したが、北朝鮮には3時間で到
達する距離だ。

「アメリカの戦争ゲーム、B-2爆撃機とB61核爆弾、金元弘の粛清。全て
ひとつにつながります。正恩が相当な恐怖を感じている。危機の出口とし
て文在寅大統領の利用を考えたのが平昌五輪参加であり、妹の金与正のみ
ならず金英哲の派遣でしょう」と西岡氏。

金英哲氏は「天安」攻撃のとき、朝鮮人民軍偵察総局長だった。朝鮮人民
軍には元々武力謀略戦に従事する偵察局があった。1983年のラングーン事
件は彼らの所業だ。この軍のテロ組織と、大韓航空機爆破犯の金賢姫らが
所属していた党のテロ組織が合併して、09年にできたのが偵察総局であ
る。英哲氏は初代総局長となり、10年に「天安」を撃沈させた。

「今回、文政権は天安事件の首謀者は金英哲だと特定されていないと弁明
しましたが、嘘です。10年11月の韓国国会で国防大臣が主犯は金英哲と断
じています」と、西岡氏。

英哲氏は成功裡に悪事を重ね出世した。12年には中将に、さらに大将に昇
進し、16年に統一戦線部長に上り詰めた。

「統一戦線部は合法、非合法の全活動をします。韓国で地下政党を作らせ
るなど、お手のものでしょう」

北朝鮮への支援金

「統一日報」論説主幹の洪熒氏は憤る。

「文在寅は開会式のレセプションで申栄福を尊敬していると全世界に発信
しました。申は金日成が韓国に作った地下革命組織、統一革命党の秘密党
員でした。68年8月に摘発されて70人くらいが逮捕された。党首の金鍾泰
(キムジョンテ)ら3人は死刑に処されたのですが、このとき、金日成が
鍾泰奪還を目指して工作船を送り込み銃撃戦になりました。結局、彼は死
刑を執行されましたが、処刑のとき、『金日成万歳』と言って死んだので
す。金日成は彼を讃えて北朝鮮の海州(ヘジュ)師範大学の名前を金鍾泰
師範大学に変えたほどです」

金鍾泰らと共に逮捕された申栄福は無期懲役で服役、それを金大中氏が恩
赦で釈放した。申は書がうまく、「通」と大書した作品が青瓦台に飾られ
ている。南北統一で道が通るという意味だ。

「その書の前で文大統領は今回、金日成の孫の与正氏と記念撮影したので
す。そうしたことを具体的に調整したのは、文大統領を支える秘書室長
(官房長官)の任鍾ル(イムジョンソク)でしょう」と西岡氏。

西岡氏は、韓国のテレビ各局が北朝鮮の映像を利用するとき、任氏が著作
権料を払わせ、その受け皿としての財団を作り、自身が北朝鮮の代理人に
なって送金をしてきたと指摘する。洪氏も指摘した。

「昨年12月、文氏は中国を訪問しましたが、その直前の12月9日から12日
まで、任鍾ルがUAEとレバノンを訪れました。大統領でもない人物の単
独外交は異例です。北朝鮮への支援金が何らかの形で受け渡されたのでは
ないかと、私は見ています」

正恩氏は英哲氏を送り込むことで文氏の忠誠心を試したのである。文氏は
平昌で英哲氏らと1時間も話し込んだ。文氏は北朝鮮の核問題にもミサイ
ル問題にも天安問題にも触れていない。北朝鮮による工作が深く浸透して
いる証左である。

これらは全て日本への脅威となって撥ね返ってくる。朝鮮半島の動向は、
極東情勢はまさに100年に一度の危機だと示している。その危機を前提に
した憲法改正を考えるときである。
『週刊新潮』 2018年3月8日号 日本ルネッサンス 第793回

2018年03月15日

◆“中国対民主主義”のせめぎ合い

櫻井よしこ


「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体
の力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。強い反対論もある
が、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞からも、ネットから
も削除されていく。

かといって、中国人が心底、終身主席制という時代錯誤の専制独裁に納得
することはないだろう。国民の不満は解消されず、むしろ高まるばかり
だ。解決の道は強硬策しかない。習氏はあらゆる分野で締めつけを強化
し、対外的にはより巧妙でより激しい攻勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222 

2018年03月13日

◆“中国対民主主義”のせめぎ合い

櫻井よしこ

 
「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体の
力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。強い反対論もある
が、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞からも、ネットから
も削除されていく。かといって、中国人が心底、終身主席制という時代錯
誤の専制独裁に納得することはないだろう。

国民の不満は解消されず、むしろ高まるばかりだ。解決の道は強硬策しか
ない。習氏はあらゆる分野で締めつけを強化し、対外的にはより巧妙でよ
り激しい攻勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222 


2018年03月12日

◆世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い

櫻井よしこ


「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体の
力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。

強い反対論もあるが、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞か
らも、ネットからも削除されていく。かといって、中国人が心底、終身主
席制という時代錯誤の専制独裁に納得することはないだろう。国民の不満
は解消されず、むしろ高まるばかりだ。解決の道は強硬策しかない。習氏
はあらゆる分野で締めつけを強化し、対外的にはより巧妙でより激しい攻
勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222

2018年03月11日

◆世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い

櫻井よしこ


「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体
の力が必要に」


過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。強い反対論もある
が、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞からも、ネットから
も削除されていく。

かといって、中国人が心底、終身主席制という時代錯誤の専制独裁に納得
することはないだろう。国民の不満は解消されず、むしろ高まるばかり
だ。解決の道は強硬策しかない。習氏はあらゆる分野で締めつけを強化
し、対外的にはより巧妙でより激しい攻勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222

2018年03月10日

◆想像を絶する韓国文政権の北への服従

櫻井 よしこ


史上最も政治的に利用された平昌五輪が一区切りついて、パラリンピック
へと舞台は移る。選手たちの活躍の舞台裏で、醜悪な左翼テロリスト勢力
の鋭い爪が着実に韓国を捕らえたと思われる。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は平昌五輪閉会式にテロ活動の総元締
め、金英哲朝鮮労働党副委員長を送り込んだ。この件について、朝鮮問題
の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏を2月23日、「言論テレビ」に
招いて、眼前の危機を読み解いた。

英哲氏は2010年に韓国の軍艦「天安」を魚雷で沈め、軍人46人を殺害した
張本人だ。正恩氏がそんな人物を送り込んだのは、本当に自分の命が狙わ
れているという恐怖心ゆえだと、西岡氏は説明する。

「北朝鮮で『あの世からの使者』と呼ばれ恐れられていた男が金元弘(キ
ムウォンホン)前国家保衛相でした。正恩氏の叔父の張成沢(チャンソン
テク)も人民武力部長の玄永哲(ヒョンヨンチョル)も彼が処刑した。

それが去年初めに国家保衛相を解任されて軍に異動、秋には家族共々、農
場に送られ平の農場員にされました。理由は、これまた正恩の恐怖心で
しょう。北朝鮮政府のかなりの高位にいた人物が脱北して韓国のテレビで
繰り返し述べたのです・歴代の国家保衛部長は粛清が終わると自身も粛清
されてきた。金元弘が馬鹿でなければ、自分が粛清される前に行動するだ
ろう。金正恩を暗殺するとしたら金元弘だ」

正恩氏はその報道を聞いたかもしれない。また、余りに権力を集中させす
ぎた人間が自分に牙を剥くかもしれない、であれば、粛清だと考えたかも
しれない。最側近も信じられない程、正恩氏が脅えているということだ。

正恩氏が最も恐れるのがアメリカだ。昨年11月、国防総省は北朝鮮有事に
備えて「戦争ゲーム」の想定訓練をした。前提は同盟国の韓国や日本の大
都市に被害を出さない、中国軍の北朝鮮侵入を許さない、である。

小型の核爆弾しかない

北朝鮮は38度線に沿って少なくとも200基のミサイルや通常の攻撃用兵器
を韓国や日本に向けて配備し、地上にも地下にも拠点を設置済みだ。これ
らの攻撃能力を一気に封印して反撃能力を奪うには、手立てはひとつ、小
型の核爆弾しかないという結論が導き出された。

折しも国防総省は2月2日にアメリカの「核戦略見直し」を発表した。「爆
発力を抑えた小型核兵器の開発」を打ち出し、「敵に本当に核兵器を使用
すると思わせ抑止力を強化する」「潜水艦発射弾道ミサイ(SLBM)、
水上艦発射巡航ミサイルなどに搭載する小型核の開発」などを強調している。

元防衛庁情報本部長の太田文雄氏は、米軍がB-2爆撃機にB61という低出
力の新型核爆弾を搭載して飛行したと、敢えて公表したことを重く見る。
右の発表は16年10月6日だった。その直前に北朝鮮は大陸間弾道ミサイル
(ICBM)用のエンジンテストを行った。

B-2爆撃機は完全なステルス性で、見つからずに北朝鮮領空まで接近でき
る。精密誘導ミサイルから発射されるB61は、正恩氏の居場所と目される
地下基地に精確に発射され、バンカーバスターのように地中深く到達して
地下基地を破壊する。

こうすれば、広い範囲に被害が及ぶことも大気の放射能汚染も防げる。ア
メリカは今年、B-2爆撃機をグアムに配備したが、北朝鮮には3時間で到
達する距離だ。

「アメリカの戦争ゲーム、B-2爆撃機とB61核爆弾、金元弘の粛清。全て
ひとつにつながります。正恩が相当な恐怖を感じている。危機の出口とし
て文在寅大統領の利用を考えたのが平昌五輪参加であり、妹の金与正のみ
ならず金英哲の派遣でしょう」と西岡氏。

金英哲氏は「天安」攻撃のとき、朝鮮人民軍偵察総局長だった。朝鮮人民
軍には元々武力謀略戦に従事する偵察局があった。1983年のラングーン事
件は彼らの所業だ。この軍のテロ組織と、大韓航空機爆破犯の金賢姫らが
所属していた党のテロ組織が合併して、09年にできたのが偵察総局であ
る。英哲氏は初代総局長となり、10年に「天安」を撃沈させた。

「今回、文政権は天安事件の首謀者は金英哲だと特定されていないと弁明
しましたが、嘘です。10年11月の韓国国会で国防大臣が主犯は金英哲と断
じています」と、西岡氏。

英哲氏は成功裡に悪事を重ね出世した。12年には中将に、さらに大将に昇
進し、16年に統一戦線部長に上り詰めた。

「統一戦線部は合法、非合法の全活動をします。韓国で地下政党を作らせ
るなど、お手のものでしょう」

北朝鮮への支援金

「統一日報」論説主幹の洪熒氏は憤る。

「文在寅は開会式のレセプションで申栄福を尊敬していると全世界に発信
しました。申は金日成が韓国に作った地下革命組織、統一革命党の秘密党
員でした。68年8月に摘発されて70人くらいが逮捕された。党首の金鍾泰
(キムジョンテ)ら3人は死刑に処されたのですが、このとき、金日成が
鍾泰奪還を目指して工作船を送り込み銃撃戦になりました。

結局、彼は死刑を執行されましたが、処刑のとき、『金日成万歳』と言っ
て死んだのです。金日成は彼を讃えて北朝鮮の海州(ヘジュ)師範大学の
名前を金鍾泰師範大学に変えたほどです」

金鍾泰らと共に逮捕された申栄福は無期懲役で服役、それを金大中氏が恩
赦で釈放した。申は書がうまく、「通」と大書した作品が青瓦台に飾られ
ている。南北統一で道が通るという意味だ。

「その書の前で文大統領は今回、金日成の孫の与正氏と記念撮影したので
す。そうしたことを具体的に調整したのは、文大統領を支える秘書室長
(官房長官)の任鍾ル(イムジョンソク)でしょう」と西岡氏。

西岡氏は、韓国のテレビ各局が北朝鮮の映像を利用するとき、任氏が著作
権料を払わせ、その受け皿としての財団を作り、自身が北朝鮮の代理人に
なって送金をしてきたと指摘する。洪氏も指摘した。

「昨年12月、文氏は中国を訪問しましたが、その直前の12月9日から12日
まで、任鍾ルがUAEとレバノンを訪れました。大統領でもない人物の単
独外交は異例です。北朝鮮への支援金が何らかの形で受け渡されたのでは
ないかと、私は見ています」

正恩氏は英哲氏を送り込むことで文氏の忠誠心を試したのである。文氏は
平昌で英哲氏らと1時間も話し込んだ。文氏は北朝鮮の核問題にもミサイ
ル問題にも天安問題にも触れていない。北朝鮮による工作が深く浸透して
いる証左である。これらは全て日本への脅威となって撥ね返ってくる。朝
鮮半島の動向は、極東情勢はまさに100年に一度の危機だと示している。
その危機を前提にした憲法改正を考えるときである。
『週刊新潮』 2018年3月8日号  日本ルネッサンス 第793回

2018年03月08日

◆精神的武装解除で北に呑まれる韓国

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領は待ち望んでいたマドンナを迎えたかのように、その全
身から喜びを湧き立たせ、嬉しさを隠しきれない様子だった。

2月9日に金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏が訪韓すると、文氏は11
日まで3日連続で彼女を国賓級にもてなした。与正氏は10日には文氏に正
恩氏の親書を渡し、ピョンヤンに招いた。そのとき与正氏が文氏に「確固
たる意志を持って決断する」よう求めたとピョンヤンのメディアは報じ、
文氏は「条件を整えましょう」と答えたとソウルのメディアは報じた。

11日、与正氏と北朝鮮の「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」のソウル公演
を観覧した席で、文氏は「心を合わせ、難関を突破しよう」と呼びかけた。

韓国訪問の初日、与正氏はアゴを上げて相手を見下すような硬く冷たい表
情だった。ところが3日目には柔らかく親しみ深い笑みがふえ、文氏も
すっかり相手に馴染んだかのような様子に変わった。文氏が完全に北朝鮮
のペースに嵌っている。韓国を引き入れ、米韓同盟に亀裂を走らせ、日本
とも引き離そうという北朝鮮の思惑を警戒するどころか、むしろ喜んで
乗っているのだ。

国際社会の経済制裁が効き始めた結果、資金もエネルギーも食料も大いに
不足し追い詰められた北朝鮮に復活の機を与えるのが文政権の意図だ。与
正氏は10日の昼食会の席で「早い時期にピョンヤンでお会いできたらいい
ですね」と語ったが、その言葉どおり、文氏の北朝鮮訪問は驚く程早期に
実現するかも知れない。

なんといっても文氏は名立たる親北勢力だ。インターネット配信の「言論
テレビ」で、「産経新聞」編集委員、久保田るり子氏が語った。

「文氏は歴代政権中、正統性があるのは3つだと言っています。金大中、
盧武鉉、そして自分自身の政権です。金大中も盧武鉉も北朝鮮べったり
で、南北首脳会談を行い、金や物資を北朝鮮に渡しました」

北朝鮮に貢いだ政権

韓国の経済的繁栄の基盤を築いた朴正煕大統領やその後の全斗煥大統領な
ど、北朝鮮と対峙した政権は全否定し、北朝鮮に貢いだ政権を評価するわ
けだ。朝鮮問題が専門の西岡力氏も「言論テレビ」で語った。

「金大中らは南北朝鮮の連邦政府を実現しようとしました。韓国全体を北
朝鮮に捧げるという意味です。いま連邦政府を実現しようとすれば、韓国
は直ちに真っ二つに割れる。文氏はそこに踏み込む前に敵である保守勢力
を潰滅させようとするでしょう。たとえば韓国ではすでに李明博元大統領
逮捕の日程が具体的に取り沙汰されています」

金大中氏も盧武鉉氏も大統領選挙では政敵と戦った。文氏は政敵である朴
槿恵氏を逮捕し、財界の重鎮、閣僚ら35人を逮捕した。選挙戦で敵となり
得る有力者のほぼ全員を選挙前に逮捕したのだ。敵を排除して選挙戦に臨
んだのは、文氏が初めてだ。

用心深くしたたかな文氏は、金大中氏の命日である8月18日に演説した。
「なぜ、金大中氏の目指した南北朝鮮の連邦政府は実現していないのか。
私は絶対に実現させて御意志に応えます」と。

「そのために、国内の保守派、韓国の主流派勢力を全て取り替えると、文
氏は誓っています。先述の3政権だけに正統性があり、他は全て親日親米
で反民主勢力だと論難しています。韓国の主流派勢力を排除して、北朝鮮
と共に連邦政府を創るのが狙いです」と西岡氏。

このような考え方だから、北朝鮮の提案にいとも簡単に乗るのだ。その北
朝鮮の提案がどれだけ性急になされたかを見れば、彼らがいかに追い詰め
られているかも自ずと明らかになる。金正恩氏が今年元日の演説で平昌五
輪に参加してもよいと述べたこと自体が、正恩氏の焦りを象徴している。

北朝鮮は昨年11月29日に火星15の発射が成功したと発表したが、12月22
日、国連の制裁決議が採択されてしまった。正恩氏はこの時点で、翌年つ
まり今年の作戦を平昌五輪参加という対韓平和攻勢に急遽、切り替えたと
見られる。五輪参加で時間も稼げる、制裁も逃れられる。あわよくば韓国
から金品も取れる。

対韓平和攻勢は決まったが、アメリカにはいつでも本土攻撃ができると威
力を示さなければならない。それが2月8日の軍事パレードだった。

元々朝鮮人民軍の創設は1948年2月8日とされてきた。日本の敗戦後、ソ連
軍が北朝鮮に入り、金日成を人民委員会のトップに据えて、人民軍を作っ
たのだ。

その後70年代に金正日が歴史を捏造した。父親らパルチザン世代こそが英
雄で、朝鮮人民軍が日本と戦って勝ったのだと言い始めた。そのために軍
の創設は32(昭和7)年4月25日に変更された。以来ずっとこの日が軍創設
の日とされてきた。

制裁が効いている

だが、平昌五輪の前に軍事パレードを行い、アメリカに武力を誇示しなけ
ればならない。そこで以前に使われていた「2月8日」を突然持ち出し、革
命軍は4月25日に作ったが、正規軍は2月8日だったと言い始めた。

無茶苦茶な話だ。第一これでは48年9月9日の建国の前に軍ができたことに
なる。しかし、文氏は北朝鮮のハチャメチャ振りを一向に気にしない。ひ
たすら擦り寄るのだ。

強行した軍事パレードで注目すべきは火星15を載せた移動式発射台だと、
西岡氏が解説した。

「発射台のタイヤは9本、2列で18本です。以前は片側が8本で中国製でし
た。ところが片側9本のものが登場した。しかも北朝鮮が国内生産した。
多軸の移動式発射台はタイヤが多い分、曲がる時、微妙に角度を変えなけ
ればならず技術的に難しいのです。それを作った。加えて4台も出てき
た。アメリカの東海岸に到達するミサイルを、少なくとも4発、別々の場
所から撃てることを見せたのです」

本気でやるつもりなのか。但し、専門家らは本気にしては車輌の数が少な
いという。恐らく燃料不足ゆえだろうと見る。制裁が効いているのだ。

だから出来るだけ早く韓国からむしり取らなければならない。こうした思
惑で急遽、戦略を変えたのであろう。変更は12月22日に国連の制裁決議が
採択された頃であろう。そこから前述の朝鮮人民軍の創設が2月8日に変更
される事態が起きたと見て、ほぼ間違いない。ちなみに戦略変更前に印刷
が終わっていた今年の北朝鮮のカレンダーの建軍節は4月25日になってい
るそうだ。

これからの米中の動きは読みにくいが、精神的に武装解除された文氏は北
朝鮮に手繰り寄せられていくだろう。韓国は丸々向こう側に吸収されかね
ない。日本は防衛費を倍増する勢いで軍備を整え、国防を確かなものにし
なければならない。
『週刊新潮』 2018年2月22日号  日本ルネッサンス 第791回


2018年03月06日

◆精神的武装解除で北に呑まれる韓国

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領は待ち望んでいたマドンナを迎えたかのように、そ
の全身から喜びを湧き立たせ、嬉しさを隠しきれない様子だった。

2月9日に金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏が訪韓すると、文氏は11
日まで3日連続で彼女を国賓級にもてなした。与正氏は10日には文氏に正
恩氏の親書を渡し、ピョンヤンに招いた。そのとき与正氏が文氏に「確固
たる意志を持って決断する」よう求めたとピョンヤンのメディアは報じ、
文氏は「条件を整えましょう」と答えたとソウルのメディアは報じた。

11日、与正氏と北朝鮮の「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」のソウル公演
を観覧した席で、文氏は「心を合わせ、難関を突破しよう」と呼びかけた。

韓国訪問の初日、与正氏はアゴを上げて相手を見下すような硬く冷たい表
情だった。ところが3日目には柔らかく親しみ深い笑みがふえ、文氏も
すっかり相手に馴染んだかのような様子に変わった。文氏が完全に北朝鮮
のペースに嵌っている。韓国を引き入れ、米韓同盟に亀裂を走らせ、日本
とも引き離そうという北朝鮮の思惑を警戒するどころか、むしろ喜んで
乗っているのだ。

国際社会の経済制裁が効き始めた結果、資金もエネルギーも食料も大いに
不足し追い詰められた北朝鮮に復活の機を与えるのが文政権の意図だ。与
正氏は10日の昼食会の席で「早い時期にピョンヤンでお会いできたらいい
ですね」と語ったが、その言葉どおり、文氏の北朝鮮訪問は驚く程早期に
実現するかも知れない。

なんといっても文氏は名立たる親北勢力だ。インターネット配信の「言論
テレビ」で、「産経新聞」編集委員、久保田るり子氏が語った。

「文氏は歴代政権中、正統性があるのは3つだと言っています。金大中、
盧武鉉、そして自分自身の政権です。金大中も盧武鉉も北朝鮮べったり
で、南北首脳会談を行い、金や物資を北朝鮮に渡しました」

北朝鮮に貢いだ政権

韓国の経済的繁栄の基盤を築いた朴正煕大統領やその後の全斗煥大統領な
ど、北朝鮮と対峙した政権は全否定し、北朝鮮に貢いだ政権を評価するわ
けだ。朝鮮問題が専門の西岡力氏も「言論テレビ」で語った。

「金大中らは南北朝鮮の連邦政府を実現しようとしました。韓国全体を北
朝鮮に捧げるという意味です。いま連邦政府を実現しようとすれば、韓国
は直ちに真っ二つに割れる。文氏はそこに踏み込む前に敵である保守勢力
を潰滅させようとするでしょう。たとえば韓国ではすでに李明博元大統領
逮捕の日程が具体的に取り沙汰されています」

金大中氏も盧武鉉氏も大統領選挙では政敵と戦った。文氏は政敵である朴
槿恵氏を逮捕し、財界の重鎮、閣僚ら35人を逮捕した。選挙戦で敵となり
得る有力者のほぼ全員を選挙前に逮捕したのだ。敵を排除して選挙戦に臨
んだのは、文氏が初めてだ。

用心深くしたたかな文氏は、金大中氏の命日である8月18日に演説した。
「なぜ、金大中氏の目指した南北朝鮮の連邦政府は実現していないのか。
私は絶対に実現させて御意志に応えます」と。

「そのために、国内の保守派、韓国の主流派勢力を全て取り替えると、文
氏は誓っています。先述の3政権だけに正統性があり、他は全て親日親米
で反民主勢力だと論難しています。韓国の主流派勢力を排除して、北朝鮮
と共に連邦政府を創るのが狙いです」と西岡氏。

このような考え方だから、北朝鮮の提案にいとも簡単に乗るのだ。その北
朝鮮の提案がどれだけ性急になされたかを見れば、彼らがいかに追い詰め
られているかも自ずと明らかになる。金正恩氏が今年元日の演説で平昌五
輪に参加してもよいと述べたこと自体が、正恩氏の焦りを象徴している。

北朝鮮は昨年11月29日に火星15の発射が成功したと発表したが、12月22
日、国連の制裁決議が採択されてしまった。正恩氏はこの時点で、翌年つ
まり今年の作戦を平昌五輪参加という対韓平和攻勢に急遽、切り替えたと
見られる。五輪参加で時間も稼げる、制裁も逃れられる。あわよくば韓国
から金品も取れる。

対韓平和攻勢は決まったが、アメリカにはいつでも本土攻撃ができると威
力を示さなければならない。それが2月8日の軍事パレードだった。

元々朝鮮人民軍の創設は1948年2月8日とされてきた。日本の敗戦後、ソ連
軍が北朝鮮に入り、金日成を人民委員会のトップに据えて、人民軍を作っ
たのだ。

その後70年代に金正日が歴史を捏造した。父親らパルチザン世代こそが英
雄で、朝鮮人民軍が日本と戦って勝ったのだと言い始めた。そのために軍
の創設は32(昭和7)年4月25日に変更された。以来ずっとこの日が軍創設
の日とされてきた。

制裁が効いている

だが、平昌五輪の前に軍事パレードを行い、アメリカに武力を誇示しなけ
ればならない。そこで以前に使われていた「2月8日」を突然持ち出し、革
命軍は4月25日に作ったが、正規軍は2月8日だったと言い始めた。

無茶苦茶な話だ。第一これでは48年9月9日の建国の前に軍ができたことに
なる。しかし、文氏は北朝鮮のハチャメチャ振りを一向に気にしない。ひ
たすら擦り寄るのだ。

強行した軍事パレードで注目すべきは火星15を載せた移動式発射台だと、
西岡氏が解説した。

「発射台のタイヤは9本、2列で18本です。以前は片側が8本で中国製でし
た。ところが片側9本のものが登場した。しかも北朝鮮が国内生産した。
多軸の移動式発射台はタイヤが多い分、曲がる時、微妙に角度を変えなけ
ればならず技術的に難しいのです。それを作った。加えて4台も出てき
た。アメリカの東海岸に到達するミサイルを、少なくとも4発、別々の場
所から撃てることを見せたのです」

本気でやるつもりなのか。但し、専門家らは本気にしては車輌の数が少な
いという。恐らく燃料不足ゆえだろうと見る。制裁が効いているのだ。

だから出来るだけ早く韓国からむしり取らなければならない。こうした思
惑で急遽、戦略を変えたのであろう。変更は12月22日に国連の制裁決議が
採択された頃であろう。そこから前述の朝鮮人民軍の創設が2月8日に変更
される事態が起きたと見て、ほぼ間違いない。ちなみに戦略変更前に印刷
が終わっていた今年の北朝鮮のカレンダーの建軍節は4月25日になってい
るそうだ。

これからの米中の動きは読みにくいが、精神的に武装解除された文氏は北
朝鮮に手繰り寄せられていくだろう。韓国は丸々向こう側に吸収されかね
ない。日本は防衛費を倍増する勢いで軍備を整え、国防を確かなものにし
なければならない。
『週刊新潮』 2018年2月22日号 日本ルネッサンス 第791回

2018年03月04日

◆弾圧に耐えるチベットの人々

櫻井よしこ


弾圧に耐えるチベットの人々 暴虐を隠蔽し続ける中国共産党」

中国共産党の弾圧を逃れたチベット仏教最高位のダライ・ラマ法王14世
が、インド北部のダラムサラに亡命政府を樹立したのが1959年である。今
年から来年の1年間をチベット亡命政府樹立から60年と位置づけ、ロブサ
ン・センゲ首相が国際社会にチベットの自由への闘いの意味を語る旅を続
けている。来日した首相が強調した。

「チベット問題はどの国にとっても遠い問題ではありません。日本の問題
とも重なります。チベット問題を放置すれば、日本もやがて同じ運命をた
どりかねないでしょう」

センゲ首相の来日も、発言もわが国の地上波テレビや大手新聞はあまり取
り上げない。そこで私はネット配信の「言論テレビ」にお招きした。首相
はこの60年間、中国の弾圧は厳しくなる一方だと強調した。

「中国内のチベット人は約600万人です。チベット人が3人以上で会話した
り行動したりすると、反政府活動と見做され逮捕されます。それは殆どの
場合、拷問と死を意味しますが、このようなことは全く報じられません。
外国人記者はチベット自治区に入ることさえできないからです」

私たちは世界で最も閉ざされた国は北朝鮮だと思いがちだ。だが北朝鮮に
は時折、外国人記者の入国が許される。制限つきだが映像を撮り、北朝鮮
からの中継もできないわけではない。しかしチベットからの中継や報道を
私たちは見たことがあるか。恐らく皆無だ。

首相は語る。

「チベット人への拷問、虐殺を含む暴虐の限りを中国共産党は国際社会の
目の届かない所で行い、中国の輝かしい経済的発展で世界の監視の目を曇
らせようとしています。しかし、彼らは必ずしも成功していません」

首相の説明はざっと以下のとおりだ。毛沢東らはチベット寺院の98%を破
壊し、僧や尼僧の99.9%を追放、虐殺に処した。ダライ・ラマ法王は取り
逃がしたが、チベット仏教を潰滅させたと毛らは考えた。しかし、約60年
後のいま、中国には3億人とも4億人ともいわれる仏教徒が存在し、中国は
世界最大の仏教国になった。

昨年10月の第19回中国共産党大会で習近平主席は、宗教は中国化する、社
会主義化するという条件で許容すると語った。右の2条件に宗教がどのよ
うに合わせていけるのか、よくわからないが、習氏がこのような変な理屈
をつけて宗教を容認すると言わざるを得なかったのは、億単位の中国人の
心に仏教が根付いてしまい、習氏といえども仏教徒の巨大な塊を無視する
ことができなかったからであろうか。

そこで心配なのがダライ・ラマ法王の健康である。法王は82歳になられ
た。昨年の日本訪問は医師から止められた。中国共産党は法王の寿命の尽
きるのを待っている。法王が亡くなれば、直ちに中国共産党は次のダラ
イ・ラマを自分たちが選ぼうとしている。

法王はその点を見通して語っている。ダライ・ラマの生まれ変わりは、中
国共産党の支配する地には生まれない、中国支配以外の地で生まれる、と。

チベット仏教の未来展望について、首相は楽観的だ。

「弾圧に屈せず、中国では多くの寺院が再建されました。中国政府はいま
それらの寺院と僧達の住居に重機を投入して凄まじい勢いで破壊していま
す。その映像もあります。私が強調したいのは、どんな弾圧にもチベット
民族は耐える力があるということです。ダラムサラで最も大切にしてきた
のがチベット仏教です。ダライ・ラマ法王の教えを全身全霊で吸収してき
た若い世代が大勢育っています。大丈夫です」

チベット人がチベット人らしく、ウイグル人がウイグル人らしく、モンゴ
ル人がモンゴル人らしく生きることができるような世界を目指そうと、改
めて思ったことだ。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1221

2018年03月03日

◆精神的武装解除で北に呑まれる韓国

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領は待ち望んでいたマドンナを迎えたかのように、その全
身から喜びを湧き立たせ、嬉しさを隠しきれない様子だった。

2月9日に金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏が訪韓すると、文氏は11
日まで3日連続で彼女を国賓級にもてなした。与正氏は10日には文氏に正
恩氏の親書を渡し、ピョンヤンに招いた。そのとき与正氏が文氏に「確固
たる意志を持って決断する」よう求めたとピョンヤンのメディアは報じ、
文氏は「条件を整えましょう」と答えたとソウルのメディアは報じた。

11日、与正氏と北朝鮮の「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」のソウル公演
を観覧した席で、文氏は「心を合わせ、難関を突破しよう」と呼びかけた。

韓国訪問の初日、与正氏はアゴを上げて相手を見下すような硬く冷たい表
情だった。ところが3日目には柔らかく親しみ深い笑みがふえ、文氏も
すっかり相手に馴染んだかのような様子に変わった。文氏が完全に北朝鮮
のペースに嵌っている。韓国を引き入れ、米韓同盟に亀裂を走らせ、日本
とも引き離そうという北朝鮮の思惑を警戒するどころか、むしろ喜んで
乗っているのだ。

国際社会の経済制裁が効き始めた結果、資金もエネルギーも食料も大いに
不足し追い詰められた北朝鮮に復活の機を与えるのが文政権の意図だ。与
正氏は10日の昼食会の席で「早い時期にピョンヤンでお会いできたらいい
ですね」と語ったが、その言葉どおり、文氏の北朝鮮訪問は驚く程早期に
実現するかも知れない。

なんといっても文氏は名立たる親北勢力だ。インターネット配信の「言論
テレビ」で、「産経新聞」編集委員、久保田るり子氏が語った。

「文氏は歴代政権中、正統性があるのは3つだと言っています。金大中、
盧武鉉、そして自分自身の政権です。金大中も盧武鉉も北朝鮮べったり
で、南北首脳会談を行い、金や物資を北朝鮮に渡しました」

北朝鮮に貢いだ政権

韓国の経済的繁栄の基盤を築いた朴正煕大統領やその後の全斗煥大統領な
ど、北朝鮮と対峙した政権は全否定し、北朝鮮に貢いだ政権を評価するわ
けだ。朝鮮問題が専門の西岡力氏も「言論テレビ」で語った。

「金大中らは南北朝鮮の連邦政府を実現しようとしました。韓国全体を北
朝鮮に捧げるという意味です。いま連邦政府を実現しようとすれば、韓国
は直ちに真っ二つに割れる。文氏はそこに踏み込む前に敵である保守勢力
を潰滅させようとするでしょう。たとえば韓国ではすでに李明博元大統領
逮捕の日程が具体的に取り沙汰されています」

金大中氏も盧武鉉氏も大統領選挙では政敵と戦った。文氏は政敵である朴
槿恵氏を逮捕し、財界の重鎮、閣僚ら35人を逮捕した。選挙戦で敵となり
得る有力者のほぼ全員を選挙前に逮捕したのだ。敵を排除して選挙戦に臨
んだのは、文氏が初めてだ。

用心深くしたたかな文氏は、金大中氏の命日である8月18日に演説した。
「なぜ、金大中氏の目指した南北朝鮮の連邦政府は実現していないのか。
私は絶対に実現させて御意志に応えます」と。

「そのために、国内の保守派、韓国の主流派勢力を全て取り替えると、文
氏は誓っています。先述の3政権だけに正統性があり、他は全て親日親米
で反民主勢力だと論難しています。韓国の主流派勢力を排除して、北朝鮮
と共に連邦政府を創るのが狙いです」と西岡氏。

このような考え方だから、北朝鮮の提案にいとも簡単に乗るのだ。その北
朝鮮の提案がどれだけ性急になされたかを見れば、彼らがいかに追い詰め
られているかも自ずと明らかになる。金正恩氏が今年元日の演説で平昌五
輪に参加してもよいと述べたこと自体が、正恩氏の焦りを象徴している。

北朝鮮は昨年11月29日に火星15の発射が成功したと発表したが、12月22
日、国連の制裁決議が採択されてしまった。正恩氏はこの時点で、翌年つ
まり今年の作戦を平昌五輪参加という対韓平和攻勢に急遽、切り替えたと
見られる。五輪参加で時間も稼げる、制裁も逃れられる。あわよくば韓国
から金品も取れる。

対韓平和攻勢は決まったが、アメリカにはいつでも本土攻撃ができると威
力を示さなければならない。それが2月8日の軍事パレードだった。

元々朝鮮人民軍の創設は1948年2月8日とされてきた。日本の敗戦後、ソ連
軍が北朝鮮に入り、金日成を人民委員会のトップに据えて、人民軍を作っ
たのだ。

その後70年代に金正日が歴史を捏造した。父親らパルチザン世代こそが英
雄で、朝鮮人民軍が日本と戦って勝ったのだと言い始めた。そのために軍
の創設は32(昭和7)年4月25日に変更された。以来ずっとこの日が軍創設
の日とされてきた。

制裁が効いている

だが、平昌五輪の前に軍事パレードを行い、アメリカに武力を誇示しなけ
ればならない。そこで以前に使われていた「2月8日」を突然持ち出し、革
命軍は4月25日に作ったが、正規軍は2月8日だったと言い始めた。

無茶苦茶な話だ。第一これでは48年9月9日の建国の前に軍ができたことに
なる。しかし、文氏は北朝鮮のハチャメチャ振りを一向に気にしない。ひ
たすら擦り寄るのだ。

強行した軍事パレードで注目すべきは火星15を載せた移動式発射台だと、
西岡氏が解説した。

「発射台のタイヤは9本、2列で18本です。以前は片側が8本で中国製でし
た。ところが片側9本のものが登場した。しかも北朝鮮が国内生産した。
多軸の移動式発射台はタイヤが多い分、曲がる時、微妙に角度を変えなけ
ればならず技術的に難しいのです。それを作った。加えて4台も出てき
た。アメリカの東海岸に到達するミサイルを、少なくとも4発、別々の場
所から撃てることを見せたのです」

本気でやるつもりなのか。但し、専門家らは本気にしては車輌の数が少な
いという。恐らく燃料不足ゆえだろうと見る。制裁が効いているのだ。

だから出来るだけ早く韓国からむしり取らなければならない。こうした思
惑で急遽、戦略を変えたのであろう。変更は12月22日に国連の制裁決議が
採択された頃であろう。そこから前述の朝鮮人民軍の創設が2月8日に変更
される事態が起きたと見て、ほぼ間違いない。ちなみに戦略変更前に印刷
が終わっていた今年の北朝鮮のカレンダーの建軍節は4月25日になってい
るそうだ。

これからの米中の動きは読みにくいが、精神的に武装解除された文氏は北
朝鮮に手繰り寄せられていくだろう。韓国は丸々向こう側に吸収されかね
ない。日本は防衛費を倍増する勢いで軍備を整え、国防を確かなものにし
なければならない。
『週刊新潮』 2018年2月22日号  日本ルネッサンス 第791回