2018年03月30日

◆反安倍の印象報道に既視感あり

櫻井よしこ


財務省が発表した「決裁文書の書き換えの状況」(以下報告書)を読ん
だ。78頁にわたる報告書から読み取るべき点は二つである。第一は決裁文
書の書き換えという許されないことを、誰が指示したのかだ。

次に、野党は安倍晋三首相夫妻の責任を問うが、果たして首相は森友学園
に関係する土地売却や財務省の決裁文書書き換えに関わっていたのかとい
う点である。政治への信頼がかかっているだけにはっきりさせなければな
らない。

そのようなことを念頭に報告書を精査したが、どう見ても、これは財務省
の問題である。報告書から、森友学園が近畿財務局に少なからぬ要求を出
していたことが伝わってくる。森友学園には近畿財務局が対処しており、
彼らは大事な局面で本省の理財局に報告している。

本省と相談し、許可及び指示を得て、森友側の要請に応えた構図が報告書
では浮き彫りとなっている。そこに安倍首相や昭恵夫人が関わり得る余地
はないと断じてよいだろう。

にも拘わらず、主要メディアはすでにおどろおどろしい印象操作報道に
走っている。他方野党は同問題を安倍政権潰しの政局にしようとしている。

政治には権力闘争が付き物だとしても、去年、日本列島に吹き荒れた根拠
なき反安倍の嵐は、日本の政治をかつての旧い体制に引き戻そうとするも
のだった。野党も多くのメディアも、反安倍路線に走る余り、岩盤規制を
守る側に、事実上立ったではないか。

いま耳にする批判は、安倍首相の「一強体制」が悪い、それが官僚を萎縮
させ、忖度させているというものだ。だが、民主党も政権を取った時には
政治主導を主張したのではなかったか。事務次官も含めて官僚の意見をき
かず、大臣がおよそ全てを主導しようとしたのが民主党政権ではなかった
か。その彼らがいま、内閣人事局が官僚を萎縮させ、首相の言葉などを忖
度させると論難する。だが、そもそも内閣人事局の設置は、民主党政権で
も目指したものではないのか。

民主党も望んでいたこと

内閣人事局の権限は強大ではあるが制限もある。審議官級以上の人事の最
終決定権は内閣人事局にあるが、内閣人事局が次の局長や次の事務次官を
指名することはできない。人事構想はまず各省が決める。その案を内閣人
事局は拒否できるが、そうするには相当の理由を示さなければならない。

それでも各省人事の最終決定権を政治家が握ることで、国益よりも省益を
優先していた霞が関の官僚たちを、省益より国益重視へと変えさせる要素
になった。それは民主党も、望んでいたことだった。それをいま、非難す
るのは筋違いである。

いま、メディアは、報告書の内容を読者にきちんと伝える責任がある。報
告書から窺えるのは森友学園側の要請に抗いきれず、妥協する近畿財務局
の姿であり、それを承認していた本省理財局の姿でもある。たとえば、
「本地の地盤について」の項には当初次のような記述があった。

「(学園は)本地(森友学園が小学校を建設しようと考えた大阪府豊中市
の土地)は軟弱地盤であり貸付料に反映されるべきものと主張し、併せて
校舎建設の際に通常を上回る杭工事(建物基礎工事)が必要であるとし
て、国に工事費の負担を要請した」

森友学園側が近畿財務局に貸付料を安くせよと迫ったわけだ。対して近畿
財務局は地質調査会社に意見を求めたが、この社は、特別に軟弱であると
は思えないとした上で、「通常と比較して軟弱かどうかという問題は、通
常地盤の定義が困難であるため回答は難しい」と、あやふやな見解を示した。

困った近畿財務局は「当局及び本省で」相談した結果、杭工事費用等は負
担しないが、「貸付料及び将来の売払時の売却価格を評価する際には当該
調査結果等により地盤の状況を考慮する」と決めた。

近畿財務局が森友側の要求に困り果て、「本省」の了承を得て森友の要求
を受け容れたのだ。しかし右の記録は一部削除され、次のように書き換え
られた。

「ボーリング調査結果について、専門家に確認するとともに、不動産鑑定
評価を依頼した不動産鑑定士に意見を聴取したところ、新たな価格形成要
因であり、賃料に影響するとの見解があり、価格調査により、鑑定評価を
見直すこととした」

「軟弱であるとは思えない」、「軟弱」の定義も不明だとの分析を却下し
て、新たな価格形成(値引き)に応じたのが本省、即ち財務省だった。し
かし文書からは本省の関与も、地盤の軟弱さが否定されていた事実も削除
され、軟弱地盤故に価格調整は当然だという理屈が書かれていた。

官僚と政治家の闘い:前田正晶

もうひとつの事例である。森友学園は小学校開設予定地を国から借り受
け、8年以内に買い取りたいと要請した。だが、国有地に関する事業用定
期借地の設定期間は、「借地借家法第23条において、10年以上50年未満と
されて」いる。それでも森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空
局、財務省理財局の承認を得て特例措置を取った。

建前上、10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予約
契約書」をつくったのだ。この「特例的な内容」に至るまでに理財局長の
承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

書き換え前の文書には右の「特例的な内容」、或いは「標準書式では対応
できない」などの表現が度々登場するが、書き換え後の文書ではそれらは
すべて削除されている。

森友側と交渉していたにも拘わらず、佐川宣寿前理財局長は、昨年3月、
衆議院財務金融委員会で「価格を提示したこともないし、先方からいくら
で買いたいと希望があったこともない」などと説明した。

一連の削除或いは書き換えはおよそすべて、佐川前理財局長の国会証言に
合わせたものだと言ってよい。佐川氏や財務省を守るためだったのであろう。

それでも立憲民主党の幹部らは、安倍首相が自身や夫人がかかわっていれ
ば政治家も首相もやめると発言したから、財務官僚たちが忖度して文書を
書き換えたのだと、論難する。

果たしてそうか。首相発言は昨年2月だ。財務省はその2年前、2015年6月
にも文書を書き換えている。ひょっとして財務省は恒常的に文書を書き換
えていたのではないか。そのことを麻生太郎財務相にも安倍首相にも、さ
らには他の政治家たちにも知らせずにきたのではないのか。だとすればこ
の問題の本質は官僚の暴走であり、官僚と政治家の闘いにあるといえる。
メディアはこうした点にこそメスを入れるべきだ。安倍憎しの印象操作に
終わることは、あらゆる意味で国益を損なうものだ。

『週刊新潮』 2018年3月29日号 日本ルネッサンス 第796回

2018年03月29日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、二つの問題を含んでいる。第一は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第二は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月28日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ

「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」



3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月27日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を 示
すべきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224

2018年03月26日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を
示すべきだ」


3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第1は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第2は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月25日

◆政権非難溢れる森友文書書き換え問題

櫻井よしこ


「政権非難溢れる森友文書書き換え問題 メディア側は確たる証拠を示す
べきだ」

3月15日の新聞広告で「週刊文春」の激烈な見出しに驚いた。「総力取材
『森友ゲート』これが真相だ!」「安倍夫妻の犯罪」と大書している。

「犯罪」とは尋常ではない。私は財務省発表の「決裁文書の書き換えの状
況」と題した資料、78ページ分を精読したばかりだ。何が削除され、どう
書き換えられたのか分析し、同問題には安倍晋三首相も昭恵夫人も関わり
はないと結論せざるを得なかった。

文春と正反対の結論に至っただけに、その見出しに驚いたのだ。文春は何
を根拠に「犯罪」と決めつけたのだろうか。各テレビ局のワイドショーで
も明確な根拠なしの政権非難が溢れているが、やはり、確たる証拠を示す
べきだろう。

財務省による文書書き換えは、2つの問題を含んでいる。第一は、到底許
されない決裁文書の書き換えが行われたということだ。これは誰が指示し
てどのように行われたのか、事実関係を精査し、法的に罰すべき行為が特
定されればそのようにすべきだ。事実関係の調査は検察庁が行うのであろ
うが、出来るだけ早期の発表が求められる。

第二は、野党が強調する安倍首相夫妻の責任についてである。首相は森友
学園に関係する土地売却及び財務省の決裁文書書き換えにどのように関
わっていたのか、政治への信頼がかかっているだけにこの点ははっきりさ
せなければならない。

そこで前述のように、公開資料を注意深く読んだ。結果、安倍首相夫妻の
関与はないと考えざるを得なかった。逆に見えてきたのは、森友学園側か
ら近畿財務局に少なからぬ要請がなされ、近畿財務局が本省の財務省理財
局に報告、相談し、許可及び指示を得て森友側の要請に応えようとした構
図である。

たとえば森友学園は、当初小学校開設予定地を国から借り受け、8年以内
に買い取りたいと要請した。後に「少しでも早期に買い受けたい」とし
て、「7年後を目途に」と要請を変えた。

近畿財務局は国有地に関する事業用定期借地の設定期間は、「借地借家法
23条により、10年以上50年未満と定められて」いるとして、森友側の要請
を断ったが、森友側は諦めない。結果、近畿財務局は大阪航空局、財務省
理財局の承認を得て特例措置を取った。「あらかじめ売払い時期を定めた
売買予約契約」を結んだのだ。

建前として10年間は借地だが、10年を待たずして売却する予定という「予
約契約書」をつくったのである。右の「特例的な内容」に至るまでに理財
局長、即ち佐川宣寿氏の承認を得ているとの記述が、複数回登場する。

こうした背景がまず、あった。その中で佐川氏は昨年3月15日の国会で、
「森友側との事前の価格交渉はしていない」と述べた。

今回の文書から、佐川発言に反する文言や内容がすべて削除され書き換え
られていたのが判明した。決裁文書書き換えは佐川氏を守るために財務省
理財局と近畿財務局の連携で行われたと見てほぼ間違いないのではないか。

小泉純一郎元首相や野党は、安倍首相が「私や妻が同問題に関わっていた
のであれば総理大臣を辞める」と発言したから、書き換えが行われたと論
難するが、安倍首相発言は2017年2月だ。財務省の森友関連文書の削除、
書き換えは、その2年前の15年6月にすでに始まっていた。小泉氏らの論難
は当たらないだろう。

昭恵夫人が籠池夫妻に案内されて問題の土地を見て「いい土地ですから
(小学校建設を)前に進めてください」と語ったとの記述も削除された
が、籠池氏は国会で共産党に質問され、昭恵夫人はこう語ったと述べている。

「いい田んぼができそうだということでありました」

文春はこのような事実関係を踏まえて「犯罪」と書いたのか。それでメ
ディアとしての信頼性を保てるのか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1224 

2018年03月24日

◆騙されるな、金正恩の瀬戸際外交

櫻井よしこ


ドナルド・トランプ、金正恩、文在寅――3人のユニークな国家指導者が繰
り広げる外交が米朝首脳会談に結びつき、朝鮮半島情勢が安定するとは思
えない。

3人の共通項は、早急に大きな果実を手にしたいという思惑だ。トランプ
大統領は秋の中間選挙を前に低いままの支持率を押し上げたい。

金朝鮮労働党委員長の足下では高齢者や子供たちの中から餓死者が出始め
ている。正恩氏は困窮した経済を脱して生き残らなければならない。

文大統領は国民がその危険に気づく前に1日も早く憲法を改正し、韓国を
社会主義化してしまいたい。

三者三様の思惑が、急展開する外交の背景にある。3月5日、文大統領の特
使団として北朝鮮を訪れた鄭義溶国家安保室長及び徐薫国家情報院長は、
翌日韓国に戻り、北朝鮮の体制の安全が保障されれば核を保有する理由は
ないという正恩氏の伝言を発表した。正恩氏はトランプ氏に「出来るだけ
早く会いたい」とも伝えてきたという。

鄭氏らは南北会談の内容を報告するために8日午前、ワシントンに到着、
午後にはホワイトハウスに招かれた。鄭氏はマクマスター国家安全保障問
題担当大統領補佐官に、徐氏はハスペルCIA副長官に直接報告した。

その後、右の4人にペンス副大統領、マティス国防長官、コーツ国家情報
長官、ダンフォード統合参謀本部議長、ケリー首席補佐官が合流、在米韓
国大使も参加した。

鄭氏らはトランプ大統領とは翌日、会談する予定だったが、韓国代表団が
ホワイトハウスにいると知った大統領が待ちきれずに彼らを執務室に招き
入れた。

米朝首脳会談を望んでいるとの正恩氏の申し入れなどについて、トランプ
氏はすでにCIA情報で把握していたと「ニューヨーク・タイムズ」
(NYT)紙などが報じた。

外交素人のトランプ氏

トランプ氏は実は、韓国代表団がワシントンに到着する8日午前よりも前
の段階で、正恩氏の提案についてティラーソン国務長官に電話で伝えてい
た。但し、最も重要なこと、正恩氏との首脳会談に応じるという結論は、
伝えていない。そのかわりに同日午後5時8分に「会談を計画中だ!」とツ
イッターで発信したのである。外交を担うティラーソン氏はどんな気持
だったろうか。

さて、大統領執務室に招かれた鄭氏らはどうなったか。鄭氏の説明を聞く
や否や、トランプ氏は正恩氏に4月にも会うと答えた。慌てたのは鄭氏で
ある。文大統領の先を越されては困る。そこで南北会談の後がよい、5月
だということになった。

これだけでも前代未聞の即断即決、大国外交にあるまじき異常事態だが異
常はまだ続いた。トランプ氏は、米朝首脳会談実現へというニュースを、
そのまま、ホワイトハウスで発表することを提案したそうだ。

その性急さに驚いた鄭氏は、マクマスター補佐官の部屋に急ぎ、発表文作
成の共同作業に入った。それから、盗聴されない電話で、恐らく就寝中
だった文大統領に連絡して事の推移を説明し、了承を得たという(NYT
紙)。

その間にトランプ氏は何をしたか。普段は「フェイクニュースだ!」と忌
み嫌っているメディア各社が控える記者会見室に自ら足を運び、「鼻
高々」でこう予告した。

「間もなく重要発表があるぜ」

ティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター補佐官、ケリー
首席補佐官らトランプ氏の側近はいずれも、正恩氏からの首脳会談申し入
れへの対応について事前に大統領から意見を聞かれたりしていない。中国
が背後に控える北朝鮮政策で、アメリカは国家戦略を練るまでもなく外交
素人のトランプ氏の気まぐれに任せるしかないのか。

韓国政府代表団がホワイトハウスの会見室で発表することについても異論
が出た。結果として記者会見室ではなく、ホワイトハウスの敷地内の道路
上で青空会見を開くことになった。それでも、韓国政府要人が重要な外交
政策に関して、トランプ大統領の決定を発表した点において、同会見は歴
史に残る異例のものだった。

トランプ氏の決断の危うさは、しかし、翌日には早くも明らかにされた。
サンダース報道官が、米朝首脳会談開催には前提条件がある、「金正恩氏
が非核化の具体的かつ検証可能な行動をとらない限り、大統領は会わな
い」と発表したのだ。前日の大統領発言を否定したのである。

9日午後の同会見では、トランプ氏の決断についての質問が繰り返され
た。正恩氏の非核化の約束など信じられるのか、拘束されているアメリカ
人3人を取り戻すことも要求せず、なぜ会うのか、2か月の準備期間で正恩
氏の約束履行を確認できるのか、大統領は記者会見室ですごいニュースを
発表すると言ったが、中国など関係諸国に通知する前にマスコミに発表し
てよいのか。

北朝鮮の狙い

ホワイトハウスも国防総省も突然の発表に驚いている、彼らはマスコミ報
道で大統領の決断を知った、そのような外交は危険ではないか、などと、
質問は果てしなく続いた。

サンダース氏は、北朝鮮の核廃棄など具体的行動があって、初めて首脳会
談が行われる、具体的行動なくして首脳会談はないと繰り返した。

トランプ氏は恐らく米朝外交の詳しい歴史も複雑な内容も、北朝鮮の嘘に
まみれた厚かましい外交手法も、十分に知らないに違いない。「ぶれずに
圧力をかけたのは自分だ。自分に正恩氏はかなわない」と過信しているの
ではないか。圧力の効果はそのとおりだが、それでも余りにも拙速なトラ
ンプ外交への揺り戻しが政権内から出たに違いない。

北朝鮮の主張する非核化と、日本やアメリカが主張してきた非核化は、言
葉は同じでも意味は全く異なる。

日米を含む世界が主張する非核化は北朝鮮の保有する全核物質、核関連施
設、核兵器開発計画そのものを、「完全に」「検証可能な」「不可逆的
な」方法で「解体」するというものだ。これは通常「CVID」
(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)と呼ばれる。

他方、北朝鮮の主張する非核化は「自衛用の北朝鮮の核を廃棄する前に、
北朝鮮に核武装を迫った原因、つまりアメリカの核の脅威を取り除くこと
が必要だ。アメリカが朝鮮半島から核を撤去すれば北朝鮮も核を放棄す
る。結果として、朝鮮半島の非核化が実現する」というものだ。

北朝鮮の主張はさらに続く可能性もある。たとえば、朝鮮半島に核を置か
なくても、ミサイルに搭載して攻撃できる。それを確実に避けるために、
米韓同盟も解消して米軍は撤退してほしいというようなことだ。とどのつ
まり、北朝鮮の狙いは米韓や日米の切り離しであることを忘れてはならない。
『週刊新潮』 2018年3月22日号 日本ルネッサンス 第795回

2018年03月23日

◆騙されるな、金正恩の瀬戸際外交

櫻井よしこ



ドナルド・トランプ、金正恩、文在寅――3人のユニークな国家指導者が
繰り広げる外交が米朝首脳会談に結びつき、朝鮮半島情勢が安定するとは
思えない。

3人の共通項は、早急に大きな果実を手にしたいという思惑だ。トランプ
大統領は秋の中間選挙を前に低いままの支持率を押し上げたい。

金朝鮮労働党委員長の足下では高齢者や子供たちの中から餓死者が出始め
ている。正恩氏は困窮した経済を脱して生き残らなければならない。

文大統領は国民がその危険に気づく前に1日も早く憲法を改正し、韓国を
社会主義化してしまいたい。

三者三様の思惑が、急展開する外交の背景にある。3月5日、文大統領の特
使団として北朝鮮を訪れた鄭義溶国家安保室長及び徐薫国家情報院長は、
翌日韓国に戻り、北朝鮮の体制の安全が保障されれば核を保有する理由は
ないという正恩氏の伝言を発表した。正恩氏はトランプ氏に「出来るだけ
早く会いたい」とも伝えてきたという。

鄭氏らは南北会談の内容を報告するために8日午前、ワシントンに到着、
午後にはホワイトハウスに招かれた。鄭氏はマクマスター国家安全保障問
題担当大統領補佐官に、徐氏はハスペルCIA副長官に直接報告した。

その後、右の4人にペンス副大統領、マティス国防長官、コーツ国家情報
長官、ダンフォード統合参謀本部議長、ケリー首席補佐官が合流、在米韓
国大使も参加した。

鄭氏らはトランプ大統領とは翌日、会談する予定だったが、韓国代表団が
ホワイトハウスにいると知った大統領が待ちきれずに彼らを執務室に招き
入れた。

米朝首脳会談を望んでいるとの正恩氏の申し入れなどについて、トランプ
氏はすでにCIA情報で把握していたと「ニューヨーク・タイムズ」
(NYT)紙などが報じた。

外交素人のトランプ氏

トランプ氏は実は、韓国代表団がワシントンに到着する8日午前よりも前
の段階で、正恩氏の提案についてティラーソン国務長官に電話で伝えてい
た。但し、最も重要なこと、正恩氏との首脳会談に応じるという結論は、
伝えていない。そのかわりに同日午後5時8分に「会談を計画中だ!」とツ
イッターで発信したのである。外交を担うティラーソン氏はどんな気持
だったろうか。

さて、大統領執務室に招かれた鄭氏らはどうなったか。鄭氏の説明を聞く
や否や、トランプ氏は正恩氏に4月にも会うと答えた。慌てたのは鄭氏で
ある。文大統領の先を越されては困る。そこで南北会談の後がよい、5月
だということになった。

これだけでも前代未聞の即断即決、大国外交にあるまじき異常事態だが異
常はまだ続いた。トランプ氏は、米朝首脳会談実現へというニュースを、
そのまま、ホワイトハウスで発表することを提案したそうだ。

その性急さに驚いた鄭氏は、マクマスター補佐官の部屋に急ぎ、発表文作
成の共同作業に入った。それから、盗聴されない電話で、恐らく就寝中
だった文大統領に連絡して事の推移を説明し、了承を得たという(NYT
紙)。

その間にトランプ氏は何をしたか。普段は「フェイクニュースだ!」と忌
み嫌っているメディア各社が控える記者会見室に自ら足を運び、「鼻
高々」でこう予告した。

「間もなく重要発表があるぜ」

ティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター補佐官、ケリー
首席補佐官らトランプ氏の側近はいずれも、正恩氏からの首脳会談申し入
れへの対応について事前に大統領から意見を聞かれたりしていない。中国
が背後に控える北朝鮮政策で、アメリカは国家戦略を練るまでもなく外交
素人のトランプ氏の気まぐれに任せるしかないのか。

韓国政府代表団がホワイトハウスの会見室で発表することについても異論
が出た。結果として記者会見室ではなく、ホワイトハウスの敷地内の道路
上で青空会見を開くことになった。それでも、韓国政府要人が重要な外交
政策に関して、トランプ大統領の決定を発表した点において、同会見は歴
史に残る異例のものだった。

トランプ氏の決断の危うさは、しかし、翌日には早くも明らかにされた。
サンダース報道官が、米朝首脳会談開催には前提条件がある、「金正恩氏
が非核化の具体的かつ検証可能な行動をとらない限り、大統領は会わな
い」と発表したのだ。前日の大統領発言を否定したのである。

9日午後の同会見では、トランプ氏の決断についての質問が繰り返され
た。正恩氏の非核化の約束など信じられるのか、拘束されているアメリカ
人3人を取り戻すことも要求せず、なぜ会うのか、2か月の準備期間で正恩
氏の約束履行を確認できるのか、大統領は記者会見室ですごいニュースを
発表すると言ったが、中国など関係諸国に通知する前にマスコミに発表し
てよいのか。

北朝鮮の狙い

ホワイトハウスも国防総省も突然の発表に驚いている、彼らはマスコミ報
道で大統領の決断を知った、そのような外交は危険ではないか、などと、
質問は果てしなく続いた。

サンダース氏は、北朝鮮の核廃棄など具体的行動があって、初めて首脳会
談が行われる、具体的行動なくして首脳会談はないと繰り返した。

トランプ氏は恐らく米朝外交の詳しい歴史も複雑な内容も、北朝鮮の嘘に
まみれた厚かましい外交手法も、十分に知らないに違いない。「ぶれずに
圧力をかけたのは自分だ。自分に正恩氏はかなわない」と過信しているの
ではないか。圧力の効果はそのとおりだが、それでも余りにも拙速なトラ
ンプ外交への揺り戻しが政権内から出たに違いない。

北朝鮮の主張する非核化と、日本やアメリカが主張してきた非核化は、言
葉は同じでも意味は全く異なる。

日米を含む世界が主張する非核化は北朝鮮の保有する全核物質、核関連施
設、核兵器開発計画そのものを、「完全に」「検証可能な」「不可逆的
な」方法で「解体」するというものだ。これは通常「CVID」
(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)と呼ばれる。

他方、北朝鮮の主張する非核化は「自衛用の北朝鮮の核を廃棄する前に、
北朝鮮に核武装を迫った原因、つまりアメリカの核の脅威を取り除くこと
が必要だ。アメリカが朝鮮半島から核を撤去すれば北朝鮮も核を放棄す
る。結果として、朝鮮半島の非核化が実現する」というものだ。

北朝鮮の主張はさらに続く可能性もある。たとえば、朝鮮半島に核を置か
なくても、ミサイルに搭載して攻撃できる。それを確実に避けるために、
米韓同盟も解消して米軍は撤退してほしいというようなことだ。とどのつ
まり、北朝鮮の狙いは米韓や日米の切り離しであることを忘れてはならない。
『週刊新潮』 2018年3月22日号 日本ルネッサンス 第795回

               
          

2018年03月22日

◆世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い

                    櫻井よしこ



「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体
の力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。

強い反対論もあるが、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞か
らも、ネットからも削除されていく。かといって、中国人が心底、終身主
席制という時代錯誤の専制独裁に納得することはないだろう。国民の不満
は解消されず、むしろ高まるばかりだ。解決の道は強硬策しかない。習氏
はあらゆる分野で締めつけを強化し、対外的にはより巧妙でより激しい攻
勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222 

2018年03月21日

◆韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中

櫻井よしこ


「韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中 文大統領と保守派のせめぎ合
いに注目」

南北朝鮮の動きが急である。2月9日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の
妹、金与正氏が訪韓、韓国の文在寅大統領の特使団が3月5日に訪朝し、翌
日には、板門店の韓国側施設で四月末に首脳会談を開くと発表した。

韓国代表団代表、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が北朝鮮は朝
鮮半島非核化の意思を明確にしたと明言。発表内容の中で重要なのは、
(1)北朝鮮は体制の安全が保障されれば核を保有する理由がないと述べ
た、(2)米韓の合同軍事演習を例年規模で実施することは理解する、
(3)核兵器や通常兵器を韓国に向かって使用しない、であろうとも述べた。

南北間のホットライン開設や、北朝鮮は米国と虚心坦懐に話し合う用意が
あることなども合意、表明された。

4時間半の会談と宴席、正恩氏が振りまく笑顔が、これまでの悪魔的粛清
の数々と鋭い対照を成す。この20年余、核・ミサイル廃棄を目指すとの彼
らの言葉を信じて、その度に、日本や米国などは食料、エネルギー、経済
援助を実施した。しかし結果は、日本や韓国を狙う数百基のミサイルと、
少なくとも20発とみられる核弾頭を持った北朝鮮の出現だった。

安倍首相の言葉を思い出す。対話と圧力が必要だが、いま重要なのは圧力
だという言葉だ。

今回の手の平を返したような柔軟姿勢と大幅譲歩は、正恩氏がいかに切羽
詰まっているかの証左だ。安倍首相の圧力政策が功を奏したのだ。改め
て、今回は騙されてはならないと思う。冷静な検証こそ大事だ。

それにしても南北朝鮮の間でどんな連携が進行中なのか。たとえば米韓合
同軍事演習は通常の規模なら理解するという言明の意味は何か。

文大統領は当初から、北朝鮮の核保有は許容しないという米国の固い意志
を北朝鮮側に伝えている。文氏は、米国から平昌五輪が終われば合同軍事
演習を行うことも言われていた。米国を無視することは、文氏もできない。

米軍は合同軍事演習実施の強い意志を示しており、文氏の北朝鮮への特使
団も、米国の意志を曲げさせることはできないと伝えたはずだ。一方、北
朝鮮には元々、米側の演習実施の意志を弱めさせることなどできない。な
らば、「理解する」と言って受け入れる方が得である。

そのような相談が南北間で行われたのではないかとさえ思われる。米国に
逆らわず、時間稼ぎをして、南北融和を進め、朝鮮民族としてまとまる流
れを作りたい。そんな思惑が読みとれる。

文氏による憲法改正の企ては本欄でも御紹介したが、その詳しい内容を朝
鮮問題専門家の西岡力氏が解説した。

「文氏が考えているのは憲法の全面的書き換えです。韓国を全く異なる国
にしようとしています。たとえば憲法前文には、韓国は自由民主主義的基
本秩序の国だと書かれています。ここにある『自由』を消してただの民主
主義的にする。そうすれば、北の朝鮮民主主義人民共和国と符号が合います」

その他にも文氏は以下のような改正を目指している。「国民の権利」を
「人間の権利」に書き換える。これは北朝鮮の故金日成氏の主体思想の
「人間中心」に合わせるためだとみられている。他方、「分権国家」の項
を書き加えるのは、南北朝鮮政府を各々分権政府と位置づけて、両方を合
わせて連邦政府を作ろうとする試みとみられている。

つまり文氏は、少なくとも理念において、韓国を北朝鮮風の国に作り変え
ようとしているのだ。氏は早くも昨年8月に「憲法改正特別委員会」を設
置してこのような研究を始めていた。連邦制を経て統一国家を目指す中
で、韓国の社会主義化、北朝鮮化が着々と進行中とみてよいと思う。警戒
すべきは北朝鮮の正恩氏だけでなく、韓国の文氏でもある。韓国内の文氏
と保守派のせめぎ合いに注目するときなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1223

2018年03月20日

◆韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中

櫻井よしこ


「韓国の社会主義化や北朝鮮化が進行中 文大統領と保守派のせめぎ合い
に注目」

南北朝鮮の動きが急である。2月9日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の
妹、金与正氏が訪韓、韓国の文在寅大統領の特使団が3月5日に訪朝し、翌
日には、板門店の韓国側施設で四月末に首脳会談を開くと発表した。

韓国代表団代表、鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が北朝鮮は朝
鮮半島非核化の意思を明確にしたと明言。発表内容の中で重要なのは、
(1)北朝鮮は体制の安全が保障されれば核を保有する理由がないと述べ
た、(2)米韓の合同軍事演習を例年規模で実施することは理解する、
(3)核兵器や通常兵器を韓国に向かって使用しない、であろうとも述べた。

南北間のホットライン開設や、北朝鮮は米国と虚心坦懐に話し合う用意が
あることなども合意、表明された。

4時間半の会談と宴席、正恩氏が振りまく笑顔が、これまでの悪魔的粛清
の数々と鋭い対照を成す。この20年余、核・ミサイル廃棄を目指すとの彼
らの言葉を信じて、その度に、日本や米国などは食料、エネルギー、経済
援助を実施した。しかし結果は、日本や韓国を狙う数百基のミサイルと、
少なくとも20発とみられる核弾頭を持った北朝鮮の出現だった。

安倍首相の言葉を思い出す。対話と圧力が必要だが、いま重要なのは圧力
だという言葉だ。

今回の手の平を返したような柔軟姿勢と大幅譲歩は、正恩氏がいかに切羽
詰まっているかの証左だ。安倍首相の圧力政策が功を奏したのだ。改め
て、今回は騙されてはならないと思う。冷静な検証こそ大事だ。

それにしても南北朝鮮の間でどんな連携が進行中なのか。たとえば米韓合
同軍事演習は通常の規模なら理解するという言明の意味は何か。

文大統領は当初から、北朝鮮の核保有は許容しないという米国の固い意志
を北朝鮮側に伝えている。文氏は、米国から平昌五輪が終われば合同軍事
演習を行うことも言われていた。米国を無視することは、文氏もできない。

米軍は合同軍事演習実施の強い意志を示しており、文氏の北朝鮮への特使
団も、米国の意志を曲げさせることはできないと伝えたはずだ。一方、北
朝鮮には元々、米側の演習実施の意志を弱めさせることなどできない。な
らば、「理解する」と言って受け入れる方が得である。

そのような相談が南北間で行われたのではないかとさえ思われる。米国に
逆らわず、時間稼ぎをして、南北融和を進め、朝鮮民族としてまとまる流
れを作りたい。そんな思惑が読みとれる。

文氏による憲法改正の企ては本欄でも御紹介したが、その詳しい内容を朝
鮮問題専門家の西岡力氏が解説した。

「文氏が考えているのは憲法の全面的書き換えです。韓国を全く異なる国
にしようとしています。たとえば憲法前文には、韓国は自由民主主義的基
本秩序の国だと書かれています。ここにある『自由』を消してただの民主
主義的にする。そうすれば、北の朝鮮民主主義人民共和国と符号が合います」

その他にも文氏は以下のような改正を目指している。「国民の権利」を
「人間の権利」に書き換える。これは北朝鮮の故金日成氏の主体思想の
「人間中心」に合わせるためだとみられている。他方、「分権国家」の項
を書き加えるのは、南北朝鮮政府を各々分権政府と位置づけて、両方を合
わせて連邦政府を作ろうとする試みとみられている。

つまり文氏は、少なくとも理念において、韓国を北朝鮮風の国に作り変え
ようとしているのだ。氏は早くも昨年8月に「憲法改正特別委員会」を設
置してこのような研究を始めていた。連邦制を経て統一国家を目指す中
で、韓国の社会主義化、北朝鮮化が着々と進行中とみてよいと思う。警戒
すべきは北朝鮮の正恩氏だけでなく、韓国の文氏でもある。韓国内の文氏
と保守派のせめぎ合いに注目するときなのである。
『週刊ダイヤモンド』 2018年3月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1223



2018年03月17日

◆想像を絶する韓国文政権の北への服従

櫻井よしこ


史上最も政治的に利用された平昌五輪が一区切りついて、パラリンピック
へと舞台は移る。選手たちの活躍の舞台裏で、醜悪な左翼テロリスト勢力
の鋭い爪が着実に韓国を捕らえたと思われる。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は平昌五輪閉会式にテロ活動の総元締
め、金英哲朝鮮労働党副委員長を送り込んだ。この件について、朝鮮問題
の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏を2月23日、「言論テレビ」に
招いて、眼前の危機を読み解いた。

英哲氏は2010年に韓国の軍艦「天安」を魚雷で沈め、軍人46人を殺害した
張本人だ。正恩氏がそんな人物を送り込んだのは、本当に自分の命が狙わ
れているという恐怖心ゆえだと、西岡氏は説明する。

「北朝鮮で『あの世からの使者』と呼ばれ恐れられていた男が金元弘(キ
ムウォンホン)前国家保衛相でした。正恩氏の叔父の張成沢(チャンソン
テク)も人民武力部長の玄永哲(ヒョンヨンチョル)も彼が処刑した。

それが去年初めに国家保衛相を解任されて軍に異動、秋には家族共々、農
場に送られ平の農場員にされました。理由は、これまた正恩の恐怖心で
しょう。

北朝鮮政府のかなりの高位にいた人物が脱北して韓国のテレビで繰り返し
述べたのです・歴代の国家保衛部長は粛清が終わると自身も粛清されてき
た。金元弘が馬鹿でなければ、自分が粛清される前に行動するだろう。金
正恩を暗殺するとしたら金元弘だ」

正恩氏はその報道を聞いたかもしれない。また、余りに権力を集中させす
ぎた人間が自分に牙を剥くかもしれない、であれば、粛清だと考えたかも
しれない。最側近も信じられない程、正恩氏が脅えているということだ。

正恩氏が最も恐れるのがアメリカだ。昨年11月、国防総省は北朝鮮有事に
備えて「戦争ゲーム」の想定訓練をした。前提は同盟国の韓国や日本の大
都市に被害を出さない、中国軍の北朝鮮侵入を許さない、である。

小型の核爆弾しかない

北朝鮮は38度線に沿って少なくとも200基のミサイルや通常の攻撃用兵器
を韓国や日本に向けて配備し、地上にも地下にも拠点を設置済みだ。これ
らの攻撃能力を一気に封印して反撃能力を奪うには、手立てはひとつ、小
型の核爆弾しかないという結論が導き出された。

折しも国防総省は2月2日にアメリカの「核戦略見直し」を発表した。「爆
発力を抑えた小型核兵器の開発」を打ち出し、「敵に本当に核兵器を使用
すると思わせ抑止力を強化する」「潜水艦発射弾道ミサイ(SLBM)、
水上艦発射巡航ミサイルなどに搭載する小型核の開発」などを強調している。

元防衛庁情報本部長の太田文雄氏は、米軍がB-2爆撃機にB61という低出
力の新型核爆弾を搭載して飛行したと、敢えて公表したことを重く見る。
右の発表は16年10月6日だった。その直前に北朝鮮は大陸間弾道ミサイル
(ICBM)用のエンジンテストを行った。

B-2爆撃機は完全なステルス性で、見つからずに北朝鮮領空まで接近でき
る。精密誘導ミサイルから発射されるB61は、正恩氏の居場所と目される
地下基地に精確に発射され、バンカーバスターのように地中深く到達して
地下基地を破壊する。

こうすれば、広い範囲に被害が及ぶことも大気の放射能汚染も防げる。ア
メリカは今年、B-2爆撃機をグアムに配備したが、北朝鮮には3時間で到
達する距離だ。

「アメリカの戦争ゲーム、B-2爆撃機とB61核爆弾、金元弘の粛清。全て
ひとつにつながります。正恩が相当な恐怖を感じている。危機の出口とし
て文在寅大統領の利用を考えたのが平昌五輪参加であり、妹の金与正のみ
ならず金英哲の派遣でしょう」と西岡氏。

金英哲氏は「天安」攻撃のとき、朝鮮人民軍偵察総局長だった。朝鮮人民
軍には元々武力謀略戦に従事する偵察局があった。1983年のラングーン事
件は彼らの所業だ。この軍のテロ組織と、大韓航空機爆破犯の金賢姫らが
所属していた党のテロ組織が合併して、09年にできたのが偵察総局であ
る。英哲氏は初代総局長となり、10年に「天安」を撃沈させた。

「今回、文政権は天安事件の首謀者は金英哲だと特定されていないと弁明
しましたが、嘘です。10年11月の韓国国会で国防大臣が主犯は金英哲と断
じています」と、西岡氏。

英哲氏は成功裡に悪事を重ね出世した。12年には中将に、さらに大将に昇
進し、16年に統一戦線部長に上り詰めた。

「統一戦線部は合法、非合法の全活動をします。韓国で地下政党を作らせ
るなど、お手のものでしょう」

北朝鮮への支援金

「統一日報」論説主幹の洪熒氏は憤る。

「文在寅は開会式のレセプションで申栄福を尊敬していると全世界に発信
しました。申は金日成が韓国に作った地下革命組織、統一革命党の秘密党
員でした。68年8月に摘発されて70人くらいが逮捕された。党首の金鍾泰
(キムジョンテ)ら3人は死刑に処されたのですが、このとき、金日成が
鍾泰奪還を目指して工作船を送り込み銃撃戦になりました。結局、彼は死
刑を執行されましたが、処刑のとき、『金日成万歳』と言って死んだので
す。金日成は彼を讃えて北朝鮮の海州(ヘジュ)師範大学の名前を金鍾泰
師範大学に変えたほどです」

金鍾泰らと共に逮捕された申栄福は無期懲役で服役、それを金大中氏が恩
赦で釈放した。申は書がうまく、「通」と大書した作品が青瓦台に飾られ
ている。南北統一で道が通るという意味だ。

「その書の前で文大統領は今回、金日成の孫の与正氏と記念撮影したので
す。そうしたことを具体的に調整したのは、文大統領を支える秘書室長
(官房長官)の任鍾ル(イムジョンソク)でしょう」と西岡氏。

西岡氏は、韓国のテレビ各局が北朝鮮の映像を利用するとき、任氏が著作
権料を払わせ、その受け皿としての財団を作り、自身が北朝鮮の代理人に
なって送金をしてきたと指摘する。洪氏も指摘した。

「昨年12月、文氏は中国を訪問しましたが、その直前の12月9日から12日
まで、任鍾ルがUAEとレバノンを訪れました。大統領でもない人物の単
独外交は異例です。北朝鮮への支援金が何らかの形で受け渡されたのでは
ないかと、私は見ています」

正恩氏は英哲氏を送り込むことで文氏の忠誠心を試したのである。文氏は
平昌で英哲氏らと1時間も話し込んだ。文氏は北朝鮮の核問題にもミサイ
ル問題にも天安問題にも触れていない。北朝鮮による工作が深く浸透して
いる証左である。

これらは全て日本への脅威となって撥ね返ってくる。朝鮮半島の動向は、
極東情勢はまさに100年に一度の危機だと示している。その危機を前提に
した憲法改正を考えるときである。
『週刊新潮』 2018年3月8日号 日本ルネッサンス 第793回

2018年03月15日

◆“中国対民主主義”のせめぎ合い

櫻井よしこ


「世界で進む“中国対民主主義”のせめぎ合い 価値観守るには国民全体
の力が必要に」

過日、高須クリニック院長の高須克弥氏に会った。チベット亡命政府がロ
ブサン・センゲ首相の来日に合わせて開催したレセプションでのことだ。

テレビのCMでお馴染みの高須氏が「昭和天皇独白録」原本をオークショ
ンで落札し、皇室にお渡しすると発表した。そんなことで氏は愛国の人な
のだと、私は感じていた。

その人物が同じ会場にいた。自己紹介したら、漫画家の西原理恵子さんを
紹介してくださった。「週刊新潮」の一番最後の頁で佐藤優氏のコラムと
合わせて「まさる&りえこの週刊鳥頭ニュース」を描いている人だ。

後日、高須氏恵贈の『炎上上等』(扶桑社新書)で、氏にとって西原さん
がとても大切な人だということがわかった。「サイバラ、サイバラ」と呼
んでいつも一緒だ。

そんなことも書いてある本からは邪気のない人物像が浮かんでくる。相手
が強くても筋は曲げない。たとえば高須クリニックの患者の半分以上が中
国人だそうだ。金持ち中国人は日本の土地や建物だけでなく、若さも美し
さも買って帰る。高須氏は彼らをVIPルームに通す。すると、皆一様に
「凍りつく」。何故って、そこには、氏がダライ・ラマ法王にお会いした
時の写真がたくさん飾られているからだ。

それでも気分を害して憤然と席を立つ人はいない。皆、喜んで手術を受け
るという。愉快な話ではないか。

私の不勉強でこの本を読む迄知らなかったのだが、高須氏はこれまでずっ
とチベットを支援してきた。理由は中国に「いちばんやられている」から
と、明快だ。だから氏は氏のやり方でチベット問題に関わってきた。チ
ベットにもっと多くの人たちが注目して、その酷い状況を知ることが、何
よりも大事だと信じて行動してきた。

世界ではいま、価値観の闘い、中国対民主主義陣営のせめぎ合いが進行中
だ。習近平国家主席は、3中総会で国家主席の10年任期制を撤廃し、毛沢
東のように終身、権力の座に居座るつもりのようだ。強い反対論もある
が、そうした意見は中国共産党に押さえ込まれ、新聞からも、ネットから
も削除されていく。

かといって、中国人が心底、終身主席制という時代錯誤の専制独裁に納得
することはないだろう。国民の不満は解消されず、むしろ高まるばかり
だ。解決の道は強硬策しかない。習氏はあらゆる分野で締めつけを強化
し、対外的にはより巧妙でより激しい攻勢に出るだろう。

国内で狙われるのはチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら「少数民族」
であり、対外的には日本であろう。そんな中国の攻勢には、賢く強く備え
て、私たちの価値観を守り抜かなければならない。それは政府だけではで
きない。国民全体の力が必要である。

賢い国民が自らの力で国を守るのが民主主義制度の特徴で、一党独裁政治
との大きな違いである。だからこそ、真っ当に国を愛する民間の力が大
事、人材が大事なのである。高須氏はいま、チベットの人材育成に力を貸
している。インドのモディ首相が毎年チベット人学生をインドの大学の医
学部に受け入れており、その学生たちを高須氏が奨学金で支えているそうだ。

「毎年5人ずつ支援していけば、いつか僕がフリーチベットの医学の父っ
て呼ばれる時がくるかもね」と氏は書く。是非、そうなってほしいもの
だ。日本でもすでに千葉工業大学がチベット人学生を奨学金で受け入れて
いる。麗澤大学にも来年春にはチベット人留学生たちが来る予定だ。

日本の民間人の力はすばらしい。賢く勇気ある民間の人々や大学、その他
の組織の力を結集すれば、中国共産党の理不尽さに負けることはない。小
さな国々の未来を担う人材育成に手を貸すことは、私たち日本人が日本人
としての自分を磨くことなのである。

『週刊ダイヤモンド』 2018年3月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1222