2018年02月14日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち出
すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。


氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218 

2018年02月13日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ
  

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち
出すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。

氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
                   
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218 

2018年02月11日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち
出すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。

氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218

2018年02月10日

◆北朝鮮の船多数が漂着、備えを急げ

                        櫻井よしこ

『週刊新潮』 2018年2月8日号
日本ルネッサンス 第789回

昨年日本海沿岸で確認された北朝鮮木造船の漂流・漂着は100件、12月だ
けで40件を超えた。北海道、秋田、山形、青森、新潟、佐渡、福井、石
川、島根、京都、鳥取と広範囲に及ぶ。今年も漂着は続いている。「特定
失踪者問題調査会」の荒木和博氏の調査から拾ってみる。

・平成30(2018)年1月4日、秋田県三種町釜谷浜海水浴場に木造船の一部
が漂着。

・5日 石川県白山市沖 木造船1隻。

・6日 秋田県由利本荘市松ヶ崎漁港 木造船の一部。

・7日 京都府京丹後市網野町 木造船1隻。

・8日 新潟市西蒲区間瀬(まぜ)海岸 木造船1隻。

・同日 秋田県男鹿(おが)市野石申川(のいしさるかわ)海岸 木造船
の一部。

・10日 石川県金沢市下安原町安原海岸 一部白骨化した遺体1体とその
15メートル先に木造船1隻。

・16日 右の木造船の中から遺体7体発見。

・21日 新潟県粟島 八幡神社から200メートルの海岸で木造船の一部、
赤字でハングル2文字。

・24日 石川県志賀町西海千ノ浦海岸で木造船、傷み激しく長時間漂流し
たものと推定。

海洋問題に詳しい、東海大学教授でシンクタンク国家基本問題研究所(国
基研)理事の山田吉彦氏が指摘した。

「12月に漂着した船は漂流時間がそれ以前の船と較べて長いのが特徴で
す。動力を使わず、北西風に押されて荒れる厳寒の日本海を漂いながら、
破壊を免れていた船が少なからずありました。船体がしっかりしており、
乗っていたのは漁民というより体格のよい男達です。生存者は42人でし
た。前年、或いは前々年の生存者はゼロですから、大きな違いです」

山田氏はさらに語った。

「昨年12月頃から小型船がふえています。船長12〜15メートルだったの
が、7〜8メートルが多くなりました。悪天候の冬の日本海に乗り出すのは
余りにも無謀ですが、大型、中型の船が少なくなっていると思われます」

醜悪なもがき

レックス・ティラーソン米国務長官は1月17日、日本側(河野太郎外相)
から聞いた話として、昨年日本海沿岸に100隻以上の北朝鮮の漁船が漂着
し、乗組員の3分の2が死亡していたこと、生き残った漁民は北朝鮮に戻り
たがっていることから逃亡者や脱北者ではなく、満足な燃料を積みこんで
もらうことなく強制的に冬の海に出された漁民だと推測されることなどを
語っている。

朝鮮問題専門家で国基研の西岡力氏は、彼らが海に出される背景に北朝鮮
の食糧不足があると指摘する。独裁者金正恩氏は2014年、軍に漁獲量を確
保して、全土の育児院、小・中学校、養老院に毎日魚を届けよと厳命して
いる。その一方で、中国漁船300隻に1隻当たり3か月200万円で北朝鮮沿岸
の日本海漁場での操業権を売った。結果、北朝鮮の漁船は沿岸から遠く離
れた漁場に出されているというのだ。

「今年に入って、平壌のエネルギー事情はさらに悪化し、中国からのコー
クスの輸入が途絶えた結果、火力発電所が10日以上停止したとみられま
す。コメもトウモロコシにとって代わられつつあるという情報もありま
す」と西岡氏。

日本が主導してきた対北朝鮮経済制裁が効果を上げているのだ。金正恩氏
はその窮状を隠して、いま大博打を打ちつつある。韓国で開催される平昌
五輪大会開幕前日の2月8日、平壌で大規模軍事パレードを断行する。金氏
は、1948年2月8日が朝鮮人民軍創建の日だと、1月22日に突然、発表し
た。北朝鮮建国の日が同年9月9日であるから、北朝鮮では国家の前に軍が
できたことになる。

軍事パレードで金氏は「国家核武力の完成」を宣言するだろう。核もミサ
イルも諦めるつもりは全くないのである。

翌日には南北朝鮮の合同チームが統一旗という奇妙な旗を掲げて平昌五輪
開会式で行進する予定だ。平和とスポーツの祭典は北朝鮮の専制独裁者の
生き残りを賭けた一大勝負に踏みにじられ、政治利用が極限に達するのを
世界は目撃させられるのだ。

こんな開会式や五輪に騙されてはならない。この五輪は、誇りある韓国人
には耐え難いであろう。国民に満足な食糧を供給することさえできない金
正恩氏の醜悪なもがきにすぎない。平昌五輪への南北朝鮮合同参加が北朝
鮮危機を緩和するなどとはどうしても考えにくい。韓国の文在寅政権の動
向にもよるが、朝鮮半島の危機はより深まっていくと覚悟した方がいい。

「大量の難民上陸」

山田氏が警告した。

「なぜ、前例のない程多くの船が漂着しているのか。北朝鮮は日本に大量
の難民を送り込もうとしていると思います。北朝鮮有事で約40万人が難民
化すると考えられます。うち、10万人から15万人が日本に向かい、うち半
分から3分の2が海で命を落とし、日本には5万人が漂着すると想定できます」

実に恐ろしい話だ。半分から3分の2が海で命を落とすというのは、これま
でに日本に流れ着いた北朝鮮の漁船の運命をもとに推定したものだ。だ
が、彼らはなぜ、危険な海路で日本に来ようとするのか。

主として2つの理由が考えられると、山田氏は見る。まず、中国やロシア
に逃れた場合、難民として保護してもらえる保証も、命を助けてもらえる
保証もないかもしれない。対照的に、日本は国際法を守ろうと必死に手を
尽くすだろう。難民に住居、着る物、食べる物に加えて、医療も施してく
れると、彼らは確信している。朝鮮総連が身元引受人になれば、長期滞在
も可能だ。たとえ工作員であることが見破られても、日本の刑務所は清潔
で食事も医療も提供される。日本に関して彼らが恐れるものは何もないのだ。

2つ目の理由は、詳細は明らかではないが、日本には北朝鮮系団体が有す
る莫大な資金があり、それが彼らの目的だと、山田氏は見る。

荒木氏の警告も実感を伴う。

「数千、数万の難民の中には感染症を患っていたり、工作員としての密命
を帯びている者も、必ずいるはずです。しかし、警察、海上保安庁、自衛
隊も、大量の難民上陸には、到底、対処しきれません。日本は国として対
処できる状況ではないということに、日本国民は気づいていない。そのこ
と自体が最も深刻な危機です」

昨年10月の総選挙は北朝鮮の危機に対処するための国難突破選挙だった。
ならば、自民党も公明党も国会で国難突破の方法を論じよ。野党もまた、
この国難を乗り越える方策を探る責任があることを自覚せよ。

2018年02月07日

◆反対強い中での安倍首相の訪韓決意

櫻井よしこ

「反対強い中での安倍首相の訪韓決意 政治家としての判断しっかり見守
りたい」

1月24日、安倍晋三首相が2月9日に行われる平昌五輪の開会式に出席する
との考えを、開会式出席に最も強く反対していた「産経新聞」のインタ
ビューで明らかにした。

自民党内には反対の見地から大きな波紋が広がった。この開会式には主催
国の韓国でも強い反対論がある。南北朝鮮の選手による合同行進で韓国国
旗の「太極旗」ではなく、「統一旗」という奇妙な旗が使用されるのが一
因だ。

韓国保守論壇を主導する趙甲済氏は「自国内で国旗を降ろすのは、敵軍に
降伏する時、或いは国が滅びる時だ」「文在寅政権は大韓民国を北朝鮮の
政権と同じレベルに引きずり降ろすのか」と憤っている。

安倍首相はなぜ開会式に出席するのだろうか。米国政府からの働きかけが
あったと、一部の関係者は語る。それが事実なら、開会式に出席するペン
ス米副大統領と同格の麻生太郎副総理の出番であろう。日本国総理大臣は
米国副大統領より格上だ。米国はそのような非礼な依頼はしないだろう。

一方、時事通信は自民党の二階俊博幹事長や公明党の山口那津男代表らが
首相の出席を求めたことが背景にあると報じた。両氏をはじめ幾人かの政
府要人からその種の発言があるのは事実だ。しかし本当の答えは首相の発
言の中にあるのではないか。

首相は以下の点を語っている。

・2020年に日本も五輪を開催する。日本人選手達を激励したい。

・文大統領と会談し、慰安婦問題での合意を韓国側が一方的に変えること
は受け入れられないと直接伝える。

・ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も当然強く主張する。

・北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかも忘れてはならない。

こうした点に加えて、首相はこう語っている。

「会ってこちらの考えを明確に伝えなければ、相手も考え方を変えるとい
うことはない。電話などではなく実際に首脳会談を行い、先方に私の考え
方を明確に伝えることが重要だ。なるべく早い段階で行ったほうがいいと
考えてきた」

有体に言えば、文大統領が慰安婦像を撤去することも、考えを改めて慰安
婦問題の合意を尊重することも、恐らくないだろう。だが、説得できると
したら、それは日本国の最高責任者である自分自身だ。問題が困難であっ
ても解決の方向へ持っていく責任は自分にはある。その責任に目をつぶる
ことはしないという決意が見てとれる。

注目すべきは、「なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」と
いうくだりだ。米国の依頼でも政界実力者の要請でもなく、自身の判断だ
と言っているのだ。

首相は、開会式出席に強い反対があることも、そうした気持ちになること
も十分に理解できるとして、「何をすべきかを熟慮して判断し、実行する
のは政権を担う者の責任です」とも語っている。

首相訪韓には前向きの要素もある。文大統領に日韓関係についての日本の
危機感を伝え、北朝鮮問題での日米韓の結束の重要性を説くことも当然す
べきだ。北朝鮮有事の際に、拉致被害者救出のために自衛隊の行動などに
関して、韓国が協力してくれるよう説得する機会でもある。

朝鮮半島をめぐる力学の中で、ペンス副大統領と共に安倍首相が訪れるこ
とで、日米関係の緊密さを、中国などの関係諸国に顕示できる。その政治
的意味は軽くはないはずだ。

今回の件は首相のロシア外交を連想させる。見通しが甘いなどといわれな
がらも貫き通している。首相はその言葉のように、「熟慮して判断」した
のだ。自民党内はおろか、世論の強い反対もある訪韓は、政治家としての
判断だ。しっかりと見守っていきたい。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1217

2018年02月06日

◆反対強い中での安倍首相の訪韓決意

櫻井よしこ


「反対強い中での安倍首相の訪韓決意 政治家としての判断しっかり見守
りたい」



1月24日、安倍晋三首相が2月9日に行われる平昌五輪の開会式に出席する
との考えを、開会式出席に最も強く反対していた「産経新聞」のインタ
ビューで明らかにした。

自民党内には反対の見地から大きな波紋が広がった。この開会式には主催
国の韓国でも強い反対論がある。南北朝鮮の選手による合同行進で韓国国
旗の「太極旗」ではなく、「統一旗」という奇妙な旗が使用されるのが一
因だ。

韓国保守論壇を主導する趙甲済氏は「自国内で国旗を降ろすのは、敵軍に
降伏する時、或いは国が滅びる時だ」「文在寅政権は大韓民国を北朝鮮の
政権と同じレベルに引きずり降ろすのか」と憤っている。

安倍首相はなぜ開会式に出席するのだろうか。米国政府からの働きかけが
あったと、一部の関係者は語る。それが事実なら、開会式に出席するペン
ス米副大統領と同格の麻生太郎副総理の出番であろう。日本国総理大臣は
米国副大統領より格上だ。米国はそのような非礼な依頼はしないだろう。

一方、時事通信は自民党の二階俊博幹事長や公明党の山口那津男代表らが
首相の出席を求めたことが背景にあると報じた。両氏をはじめ幾人かの政
府要人からその種の発言があるのは事実だ。しかし本当の答えは首相の発
言の中にあるのではないか。

首相は以下の点を語っている。

・2020年に日本も五輪を開催する。日本人選手達を激励したい。

・文大統領と会談し、慰安婦問題での合意を韓国側が一方的に変えること
は受け入れられないと直接伝える。

・ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も当然強く主張する。

・北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかも忘れてはならない。

こうした点に加えて、首相はこう語っている。

「会ってこちらの考えを明確に伝えなければ、相手も考え方を変えるとい
うことはない。電話などではなく実際に首脳会談を行い、先方に私の考え
方を明確に伝えることが重要だ。なるべく早い段階で行ったほうがいいと
考えてきた」

有体に言えば、文大統領が慰安婦像を撤去することも、考えを改めて慰安
婦問題の合意を尊重することも、恐らくないだろう。だが、説得できると
したら、それは日本国の最高責任者である自分自身だ。問題が困難であっ
ても解決の方向へ持っていく責任は自分にはある。その責任に目をつぶる
ことはしないという決意が見てとれる。

注目すべきは、「なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」と
いうくだりだ。米国の依頼でも政界実力者の要請でもなく、自身の判断だ
と言っているのだ。

首相は、開会式出席に強い反対があることも、そうした気持ちになること
も十分に理解できるとして、「何をすべきかを熟慮して判断し、実行する
のは政権を担う者の責任です」とも語っている。

首相訪韓には前向きの要素もある。文大統領に日韓関係についての日本の
危機感を伝え、北朝鮮問題での日米韓の結束の重要性を説くことも当然す
べきだ。北朝鮮有事の際に、拉致被害者救出のために自衛隊の行動などに
関して、韓国が協力してくれるよう説得する機会でもある。

朝鮮半島をめぐる力学の中で、ペンス副大統領と共に安倍首相が訪れるこ
とで、日米関係の緊密さを、中国などの関係諸国に顕示できる。その政治
的意味は軽くはないはずだ。

今回の件は首相のロシア外交を連想させる。見通しが甘いなどといわれな
がらも貫き通している。首相はその言葉のように、「熟慮して判断」した
のだ。自民党内はおろか、世論の強い反対もある訪韓は、政治家としての
判断だ。しっかりと見守っていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年2月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1217 

2018年02月03日

◆米大統領の対中政策を活用せよ

櫻井よしこ

ドナルド・トランプ氏の大統領就任から丸1年が過ぎた。アメリカのメ
ディアは新聞もテレビもトランプ政権1年を振り返り、論評に明け暮れて
いる。CNNはそのリベラル志向ゆえに徹底した反トランプの論調が目立
つメディアである。

そのことを念頭に置いて割り引いて視聴しても、徹頭徹尾のトランプ批判
には、いささか疲れる。ちなみに、アメリカでは「リベラル」という言葉
は余りにも手垢のついた印象が強く、左の人々も、もはや自身を「リベラ
ル」とは呼ばず、「進歩主義者」(progressive)を自称することが多い
そうだ。

保守的な「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)から、進歩的
な「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)、「ワシントン・ポスト」
(WP)までを読み較べると、左右関係なく、どのメディアもトランプ氏
の性格分析や人物評価にかなりのスペースを割いているのが面白い。それ
だけトランプ氏の言動が予測し難いということだ。

WSJが1月19日の紙面で、トランプ氏に実際に会ったことのある50人に
よる印象をまとめていた。彼らは以下のような特徴を語っていた。

◎話題が突如、あらぬ方向に変わる。

◎演説の最中に他の話題をさし挟んだり、聴衆の中に知人を見つければ呼
びかけたりして一貫した話にならない。

◎非常にあけすけに対象人物を侮辱する。

◎説得されて考えを変えることもある。

◎説得するにはトランプ氏の直感は正しいという大前提に立ち、実際には
彼の考えとは正反対の助言をすると、その方向で考えを変えることもある。

◎トランプ氏の指示を実行するのに時間をかけると、その間に考えが変わ
ることもある。◎率直な助言には耳を傾ける。

◎共和党の重鎮議員には国賓用の椅子を用意する

。◎議員の子供にもエアフォースワンのロゴ入りチョコレートを与えるな
ど優しい。◎ゴルフコースで、どの木が枯れていて、どの木のどの枝を切
るべきで、どの植物がどんな菌類に侵されているかなど、わかりにくいこ
とを喋る。

略奪的経済政策

このようなコメントを並べても、トランプ氏の戦略や政策の理解にどこま
で役立つか、わからない。だが、トランプ氏が歴代大統領と較べて型破り
であることは明確に伝わってくる。

米ヴァンダービルト大学名誉教授で、同大日米研究協力センター所長の
ジェームス・アワー氏の助言を思い出す。トランプ氏の言葉やツイッター
での発言には気をとられず、彼が実際に行っている政策を見るべきだ、と
いうのである。

その意味で、昨年12月にトランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」
と、今年1月19日にジェームズ・マティス国防長官が発表した「国家防衛
戦略」は明確な判断基準となる。

「国家安全保障戦略」を現場の戦術に置き換えて説明したものが「国家防
衛戦略」である。その内容は中国とロシアの脅威を言葉を尽くして強調す
るものだ。

「中国はアメリカの戦略的競争相手で、彼らは南シナ海の軍事化を進めつ
つ、略奪的経済政策で周辺諸国を恫喝し続ける」「ロシアは国境を侵し、
経済、外交、安全保障の問題で拒否権を用いて近隣諸国の利益を損ねる」。

略奪的経済政策とはよく言ったものだ。トランプ政権らしい「あけすけ」
な表現で中露を責めている。ブッシュ、オバマ両政権が「テロとの戦い」
こそアメリカの最大の課題とした路線を、トランプ政権は大きく変えたこ
とになる。

とりわけ中国への警戒心は強く、彼らは地球規模でアメリカの優位性を奪
おうとしていると警告し、アメリカは打撃力を更に強める必要があると断
じている。

マティス国防長官が署名したこの文書には、強い殺傷能力を示す
「lethal」という言葉が、度々登場する。米国防総省は真の脅威は国際テ
ロリスト勢力ではなく、北朝鮮の背後に控える中国だとして、中国に対し
てlethalな能力を持つべきだと言っているのである。オバマ政権とは何と
いう違いであろうか。その現実認識は正しいのであり、日本にとっては歓
迎すべきものだ。

トランプ氏のことがよくわからないと感ずるのはアメリカのメディアだけ
ではないだろう。日本のアメリカ研究者もメディアも、さらには外務省も
同じではないだろうか。だが、政権発足から1年が過ぎて、私たちが見て
いるのは前述の文書である。トランプ政権の正式な戦略方針だ。これに
よって、アメリカは自動的に日本の側に立つなどとは到底言えないが、日
米両国の戦略的基盤には、対中国という視点から共通項がしっかりでき上
がったということだ。

もうひとつ、同時期に発表された米通商代表部(USTR)の中国とロシ
アに関する年次報告書も重要である。中国に関しては161頁、ロシアに関
しては59頁に上る報告書である。

中国政府の介入

両国は世界貿易機関(WTO)への加盟を許されているが、彼らはWTO
に加盟したときに公約した市場経済のルールを守っていないと、USTR
は非難している。その結果、世界の貿易慣行や制度が危機に晒されている
として、中国に関して次のように具体的に踏み込んだ。

WTO加盟から約20年、中国市場へのアクセスは未だに制限され、中国政
府の介入は多岐にわたる。中国政府はアメリカ企業の最先端技術や知的財
産の移転を強要する。中国政府は国家主導の経済体制を築いて、外国企業
に不利な条件を課す。これらは悉くWTO加盟国には馴染みのない不適切
な慣行である。

このように厳しい非難を中国に浴びせたうえで、中露両国のWTO加盟を
アメリカが支持したのは間違いだったと結論づけている。

国防総省の指摘もUSTRの指摘も、現実に基づいたものである。否定す
る材料はないと言っていい。日本にとって大事なことは、トランプ氏の言
葉ではなく、政権が打ち出す基本戦略を見て、中国に対する評価を共有す
ることだ。具体的に問われるのは、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀
行(AIIB)へ参加するか否かということでもあろう。

自民党内には、「一帯一路」に積極的に協力すべきという意見もある。だ
が、ここはあくまでも慎重に行動すべきであろう。米中両国が二つの体
制、二つの価値観を掲げてせめぎ合っているのである。日本は、如何なる
意味でも中国に加勢して、中国共産党主導の世界の構築に資するようなこ
とをしてはならない。

トランプ政権の行動を見て、日本の国益に繋げていく判断が必要だ。トラ
ンプ氏の暴言などによって、アメリカへの信頼が失われつつあり、国際政
治に空白が生じている。日本はアメリカと協力し、出来るだけその空白を
埋めていくという発想を持つべきだろう。日本の価値観を打ち出すときで
もある。

『週刊新潮』 2017年2月1日号 日本ルネッサンス 第788回

2018年02月02日

◆米大統領の対中政策を活用せよ

櫻井よしこ


ドナルド・トランプ氏の大統領就任から丸1年が過ぎた。アメリカのメ
ディアは新聞もテレビもトランプ政権1年を振り返り、論評に明け暮れて
いる。CNNはそのリベラル志向ゆえに徹底した反トランプの論調が目立
つメディアである。

そのことを念頭に置いて割り引いて視聴しても、徹頭徹尾のトランプ批判
には、いささか疲れる。ちなみに、アメリカでは「リベラル」という言葉
は余りにも手垢のついた印象が強く、左の人々も、もはや自身を「リベラ
ル」とは呼ばず、「進歩主義者」(progressive)を自称することが多い
そうだ。

保守的な「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)から、進歩的
な「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)、「ワシントン・ポスト」
(WP)までを読み較べると、左右関係なく、どのメディアもトランプ氏
の性格分析や人物評価にかなりのスペースを割いているのが面白い。それ
だけトランプ氏の言動が予測し難いということだ。

WSJが1月19日の紙面で、トランプ氏に実際に会ったことのある50人に
よる印象をまとめていた。彼らは以下のような特徴を語っていた。

◎話題が突如、あらぬ方向に変わる。◎演説の最中に他の話題をさし挟んだ
り、聴衆の中に知人を見つければ呼びかけたりして一貫した話にならない。

◎非常にあけすけに対象人物を侮辱する。◎説得されて考えを変えることも
ある。◎説得するにはトランプ氏の直感は正しいという大前提に立ち、実
際には彼の考えとは正反対の助言をすると、その方向で考えを変えること
もある。◎トランプ氏の指示を実行するのに時間をかけると、その間に考
えが変わることもある。◎率直な助言には耳を傾ける。

◎共和党の重鎮議員には国賓用の椅子を用意する。

◎議員の子供にもエアフォースワンのロゴ入りチョコレートを与えるなど
優しい。◎ゴルフコースで、どの木が枯れていて、どの木のどの枝を切る
べきで、どの植物がどんな菌類に侵されているかなど、わかりにくいこと
を喋る。

略奪的経済政策

このようなコメントを並べても、トランプ氏の戦略や政策の理解にどこま
で役立つか、わからない。だが、トランプ氏が歴代大統領と較べて型破り
であることは明確に伝わってくる。

米ヴァンダービルト大学名誉教授で、同大日米研究協力センター所長の
ジェームス・アワー氏の助言を思い出す。トランプ氏の言葉やツイッター
での発言には気をとられず、彼が実際に行っている政策を見るべきだ、と
いうのである。

その意味で、昨年12月にトランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」
と、今年1月19日にジェームズ・マティス国防長官が発表した「国家防衛
戦略」は明確な判断基準となる。

「国家安全保障戦略」を現場の戦術に置き換えて説明したものが「国家防
衛戦略」である。その内容は中国とロシアの脅威を言葉を尽くして強調す
るものだ。

「中国はアメリカの戦略的競争相手で、彼らは南シナ海の軍事化を進めつ
つ、略奪的経済政策で周辺諸国を恫喝し続ける」「ロシアは国境を侵し、
経済、外交、安全保障の問題で拒否権を用いて近隣諸国の利益を損ねる」。

略奪的経済政策とはよく言ったものだ。トランプ政権らしい「あけすけ」
な表現で中露を責めている。ブッシュ、オバマ両政権が「テロとの戦い」
こそアメリカの最大の課題とした路線を、トランプ政権は大きく変えたこ
とになる。

とりわけ中国への警戒心は強く、彼らは地球規模でアメリカの優位性を奪
おうとしていると警告し、アメリカは打撃力を更に強める必要があると断
じている。

マティス国防長官が署名したこの文書には、強い殺傷能力を示す
「lethal」という言葉が、度々登場する。米国防総省は真の脅威は国際テ
ロリスト勢力ではなく、北朝鮮の背後に控える中国だとして、中国に対し
てlethalな能力を持つべきだと言っているのである。オバマ政権とは何と
いう違いであろうか。その現実認識は正しいのであり、日本にとっては歓
迎すべきものだ。

トランプ氏のことがよくわからないと感ずるのはアメリカのメディアだけ
ではないだろう。日本のアメリカ研究者もメディアも、さらには外務省も
同じではないだろうか。だが、政権発足から1年が過ぎて、私たちが見て
いるのは前述の文書である。トランプ政権の正式な戦略方針だ。これに
よって、アメリカは自動的に日本の側に立つなどとは到底言えないが、日
米両国の戦略的基盤には、対中国という視点から共通項がしっかりでき上
がったということだ。

もうひとつ、同時期に発表された米通商代表部(USTR)の中国とロシ
アに関する年次報告書も重要である。中国に関しては161頁、ロシアに関
しては59頁に上る報告書である。

中国政府の介入

両国は世界貿易機関(WTO)への加盟を許されているが、彼らはWTO
に加盟したときに公約した市場経済のルールを守っていないと、USTR
は非難している。その結果、世界の貿易慣行や制度が危機に晒されている
として、中国に関して次のように具体的に踏み込んだ。

WTO加盟から約20年、中国市場へのアクセスは未だに制限され、中国政
府の介入は多岐にわたる。中国政府はアメリカ企業の最先端技術や知的財
産の移転を強要する。中国政府は国家主導の経済体制を築いて、外国企業
に不利な条件を課す。これらは悉くWTO加盟国には馴染みのない不適切
な慣行である。

このように厳しい非難を中国に浴びせたうえで、中露両国のWTO加盟を
アメリカが支持したのは間違いだったと結論づけている。

国防総省の指摘もUSTRの指摘も、現実に基づいたものである。否定す
る材料はないと言っていい。日本にとって大事なことは、トランプ氏の言
葉ではなく、政権が打ち出す基本戦略を見て、中国に対する評価を共有す
ることだ。具体的に問われるのは、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀
行(AIIB)へ参加するか否かということでもあろう。

自民党内には、「一帯一路」に積極的に協力すべきという意見もある。だ
が、ここはあくまでも慎重に行動すべきであろう。米中両国が二つの体
制、二つの価値観を掲げてせめぎ合っているのである。日本は、如何なる
意味でも中国に加勢して、中国共産党主導の世界の構築に資するようなこ
とをしてはならない。

トランプ政権の行動を見て、日本の国益に繋げていく判断が必要だ。トラ
ンプ氏の暴言などによって、アメリカへの信頼が失われつつあり、国際政
治に空白が生じている。日本はアメリカと協力し、出来るだけその空白を
埋めていくという発想を持つべきだろう。日本の価値観を打ち出すときで
もある。
『週刊新潮』 2017年2月1日号 日本ルネッサンス 第788回


2018年02月01日

◆庭に猛禽類飛来の大事件

櫻井よしこ


「庭に猛禽類飛来の大事件 愛でる小鳥が狩られた自然の摂理」

わが家の庭には水溜まりのような小さな池がある。竹の樋からチロチロと
流れ込む水がヤゴやおたまじゃくしの寝床をつくる。小鳥たちは樋に止
まって小さな嘴で流水を掬い上げ、喉を潤し、浅い池に飛び込んで水浴び
をする。

このところ度々飛来するのが一群の目白である。無駄のない素早い動きや
抹茶色の美しい姿はいつまで見ていても飽きない。だが、私は締め切りだ
と思い直してまた、原稿に戻る。

そんなのどかな庭で大事件が起きた。1月15日、猛禽類の鳥が突然飛来し
たのだ。

私は夕方の校了時間を目指して原稿を急いでいた。突然、コツンと音がし
た。鳥が書斎のガラス窓にぶつかったのだ。目を上げると、鋭い目をした
その鳥はすでに獲物を足下に捕らえていた。見たこともない鳥だ。目は丸
く、黄色のワッカの真ん中に、意思の強さを思わせる不敵な黒目が光って
いる。

私はその目に吸い寄せられた。少しも恐れていない。なぜだ。じっと見
た。秘書も一緒にじっと見た。鳥も視線を外さずにじっと見返す。

真っ正面からこちらを見続けるその鳥の嘴は鋭く、曲がっている。小型だ
が立派な猛禽類だ。首筋からお腹にかけての羽は美しい白黒模様、太い脚
は羽毛に被われ、先端の足指と爪が黄色だった(ような気がする)。背中
の羽と尾羽は黒味がかった褐色で、尾羽には縞模様が浮き上がっていた。

微動だにしない姿には風格が漂う。足下にはがっしりと獲物を掴み続けて
いる。水浴びに来ていた雀や目白はこの怖ろしい光景に飛び去ってしま
い、もうどこにもいない。捕らえられた小鳥は声もあげない。猛禽が鋭い
嘴で獲物をひとつつきした。思わず目を覆ったが、羽がパッと飛び散った。

それでも小鳥はもはや鳴かない。すでに息絶えているのか。小鳥が抵抗で
きなくなったことを確信したのか、猛禽は両脚で獲物を掴んでさっと飛び
去った。

一体彼は何者なのだ。こんな都会の真ん中に飛んでくる猛禽類がいるの
か。すぐさま、鳥類図鑑で調べてみた。図鑑では、あの鳥の特徴に一番近
そうなのがチゴハヤブサだ。チョーゲンボーにも似ている。がっしりした
脚はチゴハヤブサに近い。だが、喉元の羽毛が白くなっている。あの鳥の
喉元は美しい白黒模様だった。喉から胸にかけての羽の色合いを重視すれ
ば、チョーゲンボーだということになる。都会に飛来する猛禽類で調べる
とツミが浮上した。いろいろ考え合わせると、どうもこれが一番正解に近
いようだ。

いずれにしても彼は人間の家の庭で、人間が見ている前で、素早く狩りを
し、見事に獲物を仕とめてみせた。

犠牲になったのは、雀にしては大きく、鳩にしては小さい鳥だった。とな
れば、いつも果物をついばみに来るひよ鳥が捕まったのだろうか。

ひよ鳥は庭の常連だ。常に1羽で飛んできて雀たちの上に君臨する。尾長
やカラスの前では早々に退散するが、自分の体の3分の1程の雀なら、どれ
だけいても1羽で追い散らす。

その日もひよ鳥は事件の起きる少し前まで、池で水浴びをしていた。ひよ
鳥は頭から水に飛び込んで水浴びをするおかしなところがある。彼はその
日も雀たちを追い散らしていた。

「また小さな雀を苛めてる」──そう思いながらも、私は、庭の果物をつい
ばむひよ鳥の姿を愛でていたのだ。それなのに彼はもういない。とても悲
しかった。だが、これは自然の摂理だ。私は原稿に戻った。

こうして締め切りを終えてふと見ると、柿の木の枝にひよ鳥が1羽止まっ
ているではないか。帰ってきたのか!いや違うだろう。あれだけがっしり
掴まれて逃れられるはずがない。ならば、一体このひよ鳥は、どのひよ鳥
なのだろうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年1月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1216 


2018年01月31日

◆庭に猛禽類飛来の大事件

櫻井よしこ


「庭に猛禽類飛来の大事件 愛でる小鳥が狩られた自然の摂理」

わが家の庭には水溜まりのような小さな池がある。竹の樋からチロチロと
流れ込む水がヤゴやおたまじゃくしの寝床をつくる。小鳥たちは樋に止
まって小さな嘴で流水を掬い上げ、喉を潤し、浅い池に飛び込んで水浴び
をする。

このところ度々飛来するのが一群の目白である。無駄のない素早い動きや
抹茶色の美しい姿はいつまで見ていても飽きない。だが、私は締め切りだ
と思い直してまた、原稿に戻る。

そんなのどかな庭で大事件が起きた。1月15日、猛禽類の鳥が突然飛来し
たのだ。

私は夕方の校了時間を目指して原稿を急いでいた。突然、コツンと音がし
た。鳥が書斎のガラス窓にぶつかったのだ。目を上げると、鋭い目をした
その鳥はすでに獲物を足下に捕らえていた。見たこともない鳥だ。目は丸
く、黄色のワッカの真ん中に、意思の強さを思わせる不敵な黒目が光って
いる。

私はその目に吸い寄せられた。少しも恐れていない。なぜだ。じっと見
た。秘書も一緒にじっと見た。鳥も視線を外さずにじっと見返す。

真っ正面からこちらを見続けるその鳥の嘴は鋭く、曲がっている。小型だ
が立派な猛禽類だ。首筋からお腹にかけての羽は美しい白黒模様、太い脚
は羽毛に被われ、先端の足指と爪が黄色だった(ような気がする)。背中
の羽と尾羽は黒味がかった褐色で、尾羽には縞模様が浮き上がっていた。

微動だにしない姿には風格が漂う。足下にはがっしりと獲物を掴み続けて
いる。水浴びに来ていた雀や目白はこの怖ろしい光景に飛び去ってしま
い、もうどこにもいない。捕らえられた小鳥は声もあげない。猛禽が鋭い
嘴で獲物をひとつつきした。思わず目を覆ったが、羽がパッと飛び散った。

それでも小鳥はもはや鳴かない。すでに息絶えているのか。小鳥が抵抗で
きなくなったことを確信したのか、猛禽は両脚で獲物を掴んでさっと飛び
去った。

一体彼は何者なのだ。こんな都会の真ん中に飛んでくる猛禽類がいるの
か。すぐさま、鳥類図鑑で調べてみた。図鑑では、あの鳥の特徴に一番近
そうなのがチゴハヤブサだ。チョーゲンボーにも似ている。がっしりした
脚はチゴハヤブサに近い。だが、喉元の羽毛が白くなっている。あの鳥の
喉元は美しい白黒模様だった。喉から胸にかけての羽の色合いを重視すれ
ば、チョーゲンボーだということになる。都会に飛来する猛禽類で調べる
とツミが浮上した。いろいろ考え合わせると、どうもこれが一番正解に近
いようだ。

いずれにしても彼は人間の家の庭で、人間が見ている前で、素早く狩りを
し、見事に獲物を仕とめてみせた。

犠牲になったのは、雀にしては大きく、鳩にしては小さい鳥だった。とな
れば、いつも果物をついばみに来るひよ鳥が捕まったのだろうか。

ひよ鳥は庭の常連だ。常に1羽で飛んできて雀たちの上に君臨する。尾長
やカラスの前では早々に退散するが、自分の体の3分の1程の雀なら、どれ
だけいても1羽で追い散らす。

その日もひよ鳥は事件の起きる少し前まで、池で水浴びをしていた。ひよ
鳥は頭から水に飛び込んで水浴びをするおかしなところがある。彼はその
日も雀たちを追い散らしていた。

「また小さな雀を苛めてる」──そう思いながらも、私は、庭の果物をつい
ばむひよ鳥の姿を愛でていたのだ。それなのに彼はもういない。とても悲
しかった。だが、これは自然の摂理だ。私は原稿に戻った。

こうして締め切りを終えてふと見ると、柿の木の枝にひよ鳥が1羽止まっ
ているではないか。帰ってきたのか!いや違うだろう。あれだけがっしり
掴まれて逃れられるはずがない。ならば、一体このひよ鳥は、どのひよ鳥
なのだろうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年1月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1216 


2018年01月29日

◆庭に猛禽類飛来の大事件

櫻井よしこ


「庭に猛禽類飛来の大事件 愛でる小鳥が狩られた自然の摂理」

わが家の庭には水溜まりのような小さな池がある。竹の樋からチロチロと
流れ込む水がヤゴやおたまじゃくしの寝床をつくる。小鳥たちは樋に止
まって小さな嘴で流水を掬い上げ、喉を潤し、浅い池に飛び込んで水浴び
をする。

このところ度々飛来するのが一群の目白である。無駄のない素早い動きや
抹茶色の美しい姿はいつまで見ていても飽きない。だが、私は締め切りだ
と思い直してまた、原稿に戻る。

そんなのどかな庭で大事件が起きた。1月15日、猛禽類の鳥が突然飛来し
たのだ。

私は夕方の校了時間を目指して原稿を急いでいた。突然、コツンと音がし
た。鳥が書斎のガラス窓にぶつかったのだ。目を上げると、鋭い目をした
その鳥はすでに獲物を足下に捕らえていた。見たこともない鳥だ。目は丸
く、黄色のワッカの真ん中に、意思の強さを思わせる不敵な黒目が光って
いる。

私はその目に吸い寄せられた。少しも恐れていない。なぜだ。じっと見
た。秘書も一緒にじっと見た。鳥も視線を外さずにじっと見返す。

真っ正面からこちらを見続けるその鳥の嘴は鋭く、曲がっている。小型だ
が立派な猛禽類だ。首筋からお腹にかけての羽は美しい白黒模様、太い脚
は羽毛に被われ、先端の足指と爪が黄色だった(ような気がする)。背中
の羽と尾羽は黒味がかった褐色で、尾羽には縞模様が浮き上がっていた。

微動だにしない姿には風格が漂う。足下にはがっしりと獲物を掴み続けて
いる。水浴びに来ていた雀や目白はこの怖ろしい光景に飛び去ってしま
い、もうどこにもいない。捕らえられた小鳥は声もあげない。猛禽が鋭い
嘴で獲物をひとつつきした。思わず目を覆ったが、羽がパッと飛び散った。

それでも小鳥はもはや鳴かない。すでに息絶えているのか。小鳥が抵抗で
きなくなったことを確信したのか、猛禽は両脚で獲物を掴んでさっと飛び
去った。

一体彼は何者なのだ。こんな都会の真ん中に飛んでくる猛禽類がいるの
か。すぐさま、鳥類図鑑で調べてみた。図鑑では、あの鳥の特徴に一番近
そうなのがチゴハヤブサだ。チョーゲンボーにも似ている。がっしりした
脚はチゴハヤブサに近い。だが、喉元の羽毛が白くなっている。あの鳥の
喉元は美しい白黒模様だった。喉から胸にかけての羽の色合いを重視すれ
ば、チョーゲンボーだということになる。都会に飛来する猛禽類で調べる
とツミが浮上した。いろいろ考え合わせると、どうもこれが一番正解に近
いようだ。

いずれにしても彼は人間の家の庭で、人間が見ている前で、素早く狩りを
し、見事に獲物を仕とめてみせた。

犠牲になったのは、雀にしては大きく、鳩にしては小さい鳥だった。とな
れば、いつも果物をついばみに来るひよ鳥が捕まったのだろうか。

ひよ鳥は庭の常連だ。常に1羽で飛んできて雀たちの上に君臨する。尾長
やカラスの前では早々に退散するが、自分の体の3分の1程の雀なら、どれ
だけいても1羽で追い散らす。

その日もひよ鳥は事件の起きる少し前まで、池で水浴びをしていた。ひよ
鳥は頭から水に飛び込んで水浴びをするおかしなところがある。彼はその
日も雀たちを追い散らしていた。

「また小さな雀を苛めてる」──そう思いながらも、私は、庭の果物をつい
ばむひよ鳥の姿を愛でていたのだ。それなのに彼はもういない。とても悲
しかった。だが、これは自然の摂理だ。私は原稿に戻った。

こうして締め切りを終えてふと見ると、柿の木の枝にひよ鳥が1羽止まっ
ているではないか。帰ってきたのか!いや違うだろう。あれだけがっしり
掴まれて逃れられるはずがない。ならば、一体このひよ鳥は、どのひよ鳥
なのだろうか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年1月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1216 

2018年01月28日

◆庭に猛禽類飛来の大事件

櫻井よしこ

「庭に猛禽類飛来の大事件 愛でる小鳥が狩られた自然の摂理」

わが家の庭には水溜まりのような小さな池がある。竹の樋からチロチロと
流れ込む水がヤゴやおたまじゃくしの寝床をつくる。小鳥たちは樋に止
まって小さな嘴で流水を掬い上げ、喉を潤し、浅い池に飛び込んで水浴び
をする。

このところ度々飛来するのが一群の目白である。無駄のない素早い動きや
抹茶色の美しい姿はいつまで見ていても飽きない。だが、私は締め切りだ
と思い直してまた、原稿に戻る。

そんなのどかな庭で大事件が起きた。1月15日、猛禽類の鳥が突然飛来し
たのだ。

私は夕方の校了時間を目指して原稿を急いでいた。突然、コツンと音がし
た。鳥が書斎のガラス窓にぶつかったのだ。目を上げると、鋭い目をした
その鳥はすでに獲物を足下に捕らえていた。見たこともない鳥だ。目は丸
く、黄色のワッカの真ん中に、意思の強さを思わせる不敵な黒目が光って
いる。

私はその目に吸い寄せられた。少しも恐れていない。なぜだ。じっと見
た。秘書も一緒にじっと見た。鳥も視線を外さずにじっと見返す。

真っ正面からこちらを見続けるその鳥の嘴は鋭く、曲がっている。小型だ
が立派な猛禽類だ。首筋からお腹にかけての羽は美しい白黒模様、太い脚
は羽毛に被われ、先端の足指と爪が黄色だった(ような気がする)。背中
の羽と尾羽は黒味がかった褐色で、尾羽には縞模様が浮き上がっていた。

微動だにしない姿には風格が漂う。足下にはがっしりと獲物を掴み続けて
いる。水浴びに来ていた雀や目白はこの怖ろしい光景に飛び去ってしま
い、もうどこにもいない。捕らえられた小鳥は声もあげない。猛禽が鋭い
嘴で獲物をひとつつきした。思わず目を覆ったが、羽がパッと飛び散った。

それでも小鳥はもはや鳴かない。すでに息絶えているのか。小鳥が抵抗で
きなくなったことを確信したのか、猛禽は両脚で獲物を掴んでさっと飛び
去った。

一体彼は何者なのだ。こんな都会の真ん中に飛んでくる猛禽類がいるの
か。すぐさま、鳥類図鑑で調べてみた。図鑑では、あの鳥の特徴に一番近
そうなのがチゴハヤブサだ。チョーゲンボーにも似ている。

がっしりした脚はチゴハヤブサに近い。だが、喉元の羽毛が白くなってい
る。あの鳥の喉元は美しい白黒模様だった。喉から胸にかけての羽の色合
いを重視すれば、チョーゲンボーだということになる。都会に飛来する猛
禽類で調べるとツミが浮上した。いろいろ考え合わせると、どうもこれが
一番正解に近いようだ。

いずれにしても彼は人間の家の庭で、人間が見ている前で、素早く狩りを
し、見事に獲物を仕とめてみせた。

犠牲になったのは、雀にしては大きく、鳩にしては小さい鳥だった。とな
れば、いつも果物をついばみに来るひよ鳥が捕まったのだろうか。

ひよ鳥は庭の常連だ。常に1羽で飛んできて雀たちの上に君臨する。尾長
やカラスの前では早々に退散するが、自分の体の3分の1程の雀なら、どれ
だけいても1羽で追い散らす。

その日もひよ鳥は事件の起きる少し前まで、池で水浴びをしていた。ひよ
鳥は頭から水に飛び込んで水浴びをするおかしなところがある。彼はその
日も雀たちを追い散らしていた。

「また小さな雀を苛めてる」──そう思いながらも、私は、庭の果物をつい
ばむひよ鳥の姿を愛でていたのだ。それなのに彼はもういない。とても悲
しかった。だが、これは自然の摂理だ。私は原稿に戻った。

こうして締め切りを終えてふと見ると、柿の木の枝にひよ鳥が1羽止まっ
ているではないか。帰ってきたのか!いや違うだろう。あれだけがっしり
掴まれて逃れられるはずがない。ならば、一体このひよ鳥は、どのひよ鳥
なのだろうか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年1月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1216

2018年01月27日

◆己への信頼を憲法改正で勝ち取れ

櫻井よしこ

世界が大きな変化を遂げつつあるのはもはや言うまでもない。70年余
りも日本が頼ってきたアメリカは強大ではあるが普通の民主主義国へと変
化していくだろう。

日本は価値観を共有するそのアメリカを大事にしなければならない。頼る
ばかりでなく、助け合わなければならない。日本にできることはもっと実
行していかなければならない。

アメリカが世界の現場から少しでも後退すれば、そこに生ずる政治的空白
に、中国やロシアがさっと入り込み、私たちとは全く異なる価値観で席巻
しようとするだろう。そのような悪夢を上手に防ぐことも日本のやるべき
ことになるだろう。

そのとき、日本が担うべき課題が国際社会のルール作りだ。わが国はこれ
までそんなことは他国の仕事だと考えていた節がある。だが、やろうと思
えば日本はきちんとやれる国なのだ。

昨年末にも、日本とEUが経済連携協定(EPA)で合意した。現在はア
メリカ抜きの環太平洋経済連携協定(TPP)で、11か国をまとめようと
している。合意したEPAについて安倍晋三首相が答えた。

「EPAで関税が下がることよりも、21世紀のルール作りで日本が中心に
なれたのは大きかったと思います」

ルール作りとは、どのような価値観を掲げるかという問題である。日欧
EPAは、中国を念頭に、彼ら流の価値観でこちら側の経済や生き方、法
律の解釈などを仕切られるのは絶対に避けたいとして、決めたものだ。

世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める巨大経済圏は、不透明な中
国方式の世界と向き合う為に誕生したのである。TPP11が加わればさら
に事態は明るくなる。

習近平主席は中国に立地する外国企業に、会社の中に共産党支部(細胞組
織)を設けよと要請する。企業経営でも共産党の指導を受けよという意味
だ。それだけではない。彼らは国際政治のやり方、国際法、領土領海の
ルール、歴史さえ変えようとする。中国は歴史修正主義の権化である。

根絶の政策

日本が中国に相対峙し、アメリカを助け、共に自由や民主主義を守る役割
を担うとしたら、どうしても改めなければならないことがある。それは日
本人が祖国や歴史を真っ当に評価しない、或いはできないという現状を変
えることである。

アメリカが「根絶の政策」として日本に与えたのが現行憲法だ。アメリカ
の国際政治学者サミュエル・ハンチントンは『軍人と国家』でこう指摘し
たが、70年間一文字も変えることができないのは、日本が悪い戦争をした
と心中、思っているからではないか。

だが、そうではないのだ。大東亜戦争は「好戦的な日本」が無謀にも始め
た邪悪な戦争ではないのだ。なぜ日米は戦ったのかを理解するには3冊の
本を読めばよい。@アメリカ歴史学会会長、チャールズ・ビーアド博士の
『ルーズベルトの責任』、Aハーバート・フーバー大統領の『裏切られた
自由』、Bコーデル・ハルの『ハル回顧録』である。

ビーアドの書は1948年に出版された。ルーズベルト大統領はすでに死亡し
ていたが、評価はまだ高かった。そのような中で、ビーアドはルーズベル
トには日米開戦の責任があると明確にした。

アメリカ社会は、学界も含めてビーアドを非難した。彼は出版から4か月
後に亡くなったが、その後の展開は彼の指摘と分析が正しかったことを示
している。

ビーアドは、たとえば、昭和16(1941)年11月26日にハル国務長官が日本
に手交した10項目の要求、通称「ハルノート」についてこう書いた。

「1900年以来、アメリカのとったいかなる対日外交手段に比べても先例を
みない程強硬な要求であり、どんなに極端な帝国主義者であろうと、こう
した方針を日本との外交政策に採用しなかった」。

ビーアドは野村吉三郎駐米大使や来栖三郎特使が日米戦争回避の道を探
り、暫定措置を決めて、そこから本交渉に入ろうと懇願しても、ハルは相
手にしなかったと、公表された政府資料、報道などを入念に分析して、詳
述している。

敗戦した日本を裁いた「東京裁判」で、ただ一人、戦犯とされた日本人全
員の無罪を主張したインドのラダ・ビノード・パール博士は、ハルノート
を「外交上の暴挙」と喝破した。それまでの8か月にわたる交渉の中で一
度も話し合われたこともない過激な条項が、理解し難い形で日本に突きつ
けられていたからだ。

祖国の歪んだ基盤

昨年夏に日本で訳本が出版されたフーバーの『裏切られた自由』(草思
社)は、ビーアドとは異なる情報源によるものだが、開戦の責任はルーズ
ベルトらにあると、同じ結論に達している。

同書には生々しい会話が頻繁に登場する。たとえばハルノートを日本に手
交する前日、41年11月25日に、ルーズベルトはハル国務長官、スチムソン
陸軍長官、ノックス海軍長官らを招集した。その会議でルーズベルトは
「問題は、いかにして彼ら(日本)を、最初の一発を撃つ立場に追い込む
かである。それによって我々が重大な危険に晒されることがあってはなら
ないが」と語っていた。

11月28日の戦争作戦会議では、日本に突きつけた10項目の条件についてハ
ル自身がこう述べていた。「日本との間で合意に達する可能性は現実的に
見ればゼロである」。日本が絶対にのめない条件を突きつけたのだ。

もうひとつの事例は、12月6日、ルーズベルトが天皇陛下にあてて送った
平和を願う公電である。公電の文案を下書きしながらハルが語った言葉を
フーバーは次のように明かしている。

「この公電は効果の疑わしいものだ。ただ公電を送ったという事実を記録
に残すだけのものだ」

ハルも回顧録を書いている。だが、日米開戦やハルノートについては殆ど
触れていない。日本側が再三再四、和平交渉を求めたことも、自身がそれ
を無視したことにも触れず、こう書いている。

「われわれとしては手段をつくして平和的な解決を見出し、戦争をさけた
い、あるいは先にのばしたいと考えた。(中略)一方日本は対決を求めて
いた」「最後まで平和をあるいは少くとも時を求めて(われわれは)必死
の努力をつづけた」

ハルの回想は、ビーアド、フーバーなどの研究によって偽りであると明ら
かにされた。ドイツと結んだのは日本の間違いではあったが、日米開戦に
関して日本が一方的に、好戦的だ、帝国主義的だといって責められるべき
ではないのである。ビーアドやフーバーらの書き残した歴史の真実を知れ
ば、日本人は賢くなり、自身への信頼も強化できる。祖国の歪んだ基盤を
直す第一歩、憲法改正も可能になるだろう。

『週刊新潮』 2018年1月18日号 日本ルネッサンス 第786回