櫻井よしこ
「7月末までに高齢者全員のワクチン接種を完了させる」
菅義偉首相の掛け声で、全国一斉に高齢者から順に接種が始まった。東京
都港区の住人である私は5月22日、区民センターで1回目の接種を終えた。
港区の接種は5月17日に始まったが、区民センターでの接種は22日が初め
てだったそうだ。区も慣れていないせいか、あちこちに改善の余地がある。
私の予約は12時半だった。30分前に到着すると係員が4階の待合室に誘導
してくれた。20人ほどが待っており、接種券、問診票、身分証明書をすぐ
に出せるように膝上に準備している。
予約は15分毎のようだ。12時の人たちはすでに接種会場に移動したのか、
待合室は人の動きも会話もなく至って静かだった。見回すと、ワクチンを
受けに来ている区民と同じほどの人数がお揃いのTシャツを着て立ち働い
ている。
10分ほど待ったところで、「12時15分の方、どうぞ」と指示があった。二
つの書類受付の机に向かって数人が立ち上がった。すると、「二人ずつで
す」と制する声が聞こえて何人かが戻された。少し距離をあけて並べばよ
いだけなのに、わざわざ椅子に戻されてしまった。
そして次の二人が書類受付に行くと、一人の男性が間違えて一日早く来て
いたことがわかった。
「すみません、明日またいらして下さいね」
丁寧な断りの言葉にスゴスゴと引き下がる男性。かわいそうに。折角来た
のだ、一人くらいいいじゃないか、と私は大いに同情した。
日本はいま国難なのだ。一日でも一時間でも早く、より多くの人にワクチ
ンを行き渡らせたいと、政府は必死で出来る限りの支援をしている。たと
えば接種費用は全て、国持ちである。ワクチンの代金は無論、医師・看護
師をはじめ、被接種者の誘導・整理に当たる人員に関わる人件費、被接種
者の送迎バスなどの費用、会場作りに必要なパーティション、椅子、デス
クに至るまでおよそ全ての費用を国が負担する。一日も早くコロナの勢い
を止めて、通常の生活を取り戻すための費用だ。形は政府全額負担であっ
ても、結局は国民負担となる。だからこそ、地方自治体は最高に効率よく
仕事を進めなければならない。
それなのに一体どうしてこうなるの、と思いながら待っていると、「12時
半の方」と呼ばれた。私は前の人たちと同じように書類を出し、次の部屋
に導かれ、ここでまた驚いた。前の部屋より更に多くのTシャツ軍団が目
に入った。強調したいのは、この人たちは皆優しく丁寧な人たちだという
ことだ。床にテープを貼っているところでは、「お足下に気をつけて下さ
い」と一人一人に注意もしてくれる。けれど、それと同じく大事なことは
どんどん接種してくれることなのだ。
杓子定規
ここで再度書類を見せる。予約表と突き合わせて本人確認をし、確認が済
むとその人の名前は黄色いマジックで塗られていく。こうして間違いのな
いようにチェックされたあとは、再び距離をとって並べられた椅子に座る
よう指示され、再び待つ。全部で十数人。これが12時半の予約者全員なの
かしら。
部屋の奥には机が三つ、それぞれ二人、白衣を着た人がついている。医師
と看護師であろう。すぐに接種が始まるのかと思ったが、何も起きない。
机の前の三組の医師らと2メートルほどの間隔のところに私たち区民がい
る。二つのグループはお互いを視線の中にとらえ合う形で黙って座り続け
る。ワクチンは揃っていても、また、打ち手の医師不足がいわれる中で、
折角このように医師を配置できていても、十分に活用できていない。
絵に描いたような手持ち無沙汰が続く。5分たっても6分たっても、誰も動
かない。壁の時計は12時半にまだあと10分も残している。そのとき私はよ
うやく理解した。予約時間が来なければ、区民が待っていようと、医師や
看護師全てが揃っていようと、ワクチンは打たないのだ。
杓子定規と四角四面のお化けが支配する空間で、物事はそのとおりに動い
ていった。12時半少し前になって、男性が三つのブースの医師各々に歩み
寄って「では再開します」と小声で告げて回る。小さな声でも、聞こえて
しまう。そしてようやく接種が始まった。
どうしてこんなふうになるのか。少しばかりこみ上げてきた怒りの中で、
私はワクチンを打って貰った。女医さんも看護師さんも優しく、注射の打
ち方は上手だった。痛みなど全くない。そして私はついに最後の部屋に導
かれた。ここで15分間待機するのである。
この部屋では、看護師さんが一人一人に「お具合は如何ですか」と尋ねて
回っている。私は彼女に少し話を聞いた。沢山いるスタッフの殆どが派遣
で来ている人たちであること、彼女自身も派遣看護師であること、現場に
港区の職員は、いるとしても少数であることなどだ。
弛緩した雰囲気
ようやく納得した。最初の受付で、女性がお年寄りの一人に予約日が違う
ため出直すように言ったのは、彼女はそうするしかなかったからだろう。
「折角来たのですから一日早いけれど、今、打ちましょう」と、普通なら
判断するが、そのような決定権は彼女には与えられていなかったのであろう。
区の職員が現場におらず、派遣の人々に任せきりの面があるのではない
か。港区も一所懸命なのだろうが、こんなやり方では日が暮れる。国が全
てのコストを引き受けるからと言って、こんな効率の悪いやり方は、断固
改めるべきだ。
但し、私の体験は東京港区に限られる。地方自治体によっては非常に効率
よく接種を進めているところもある。だから今回の一回限りの体験が全て
だとは思わない。港区だって3週間後、2回目のワクチン接種のときまでに
は経験を積んで大いに改善していることだろう。そう信じているが、それ
でも港区のこの弛緩した雰囲気はどうしたことか。
東京と大阪で自衛隊による集団接種が始まった。政府が、最後の拠り所で
ある自衛隊を駆り出したのは、医師会も十分には動かず、地方自治体の動
きも鈍いこの状況を、何とか危機モードに切り換えたいという思いゆえで
はないか。国が必要な全費用を持つ。地方自治体も必死でワクチン接種を
進めてほしい。国と自治体と国民が一緒になってこの国難を乗り切ってい
きたいという思いであろう。
台湾ではウイルス感染が急増し、蔡英文総統がIT担当大臣のオード
リー・タン氏に命じ、タン氏は3日で個人の行動履歴を把握する仕組みを
作り上げた。政府が国民の個人情報を握り、防疫に活用する。国民はおよ
そ誰も反対していない。全員でコロナと戦おうとする台湾国民の危機感に
こそ学びたい。
日本ルネッサンス 第952回
2021年06月07日
◆急げ、国難の中でのワクチン接種
at 09:06
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月30日
◆五輪中止論、背景に政局の蠢き
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年5月27日号
日本ルネッサンス 第951回
5月17日、「朝日新聞」は朝刊一面左肩で「菅内閣支持急落33%」と報じ
た。小見出しは「『安全安心な五輪』納得できぬ73%」だ。
朝日新聞は紙面、社説やコラムなどで菅義偉首相の武漢ウイルス対策、緊
急事態宣言、蔓延防止等重点措置の適用、ワクチン入手に至るまで、批判
してきた。17日の記事は支持率急落や五輪開催反対論の増加を喜んでいる
かのようだった。
日本共産党の志位和夫委員長が東京五輪中止を言いだし、立憲民主党代表
の枝野幸男氏が賛同し、朝日や毎日が支持するかのような構図が出来上
がっている。沢木耕太郎氏の「悲しき五輪」を載せた週刊文春を筆頭に雑
誌も五輪開催反対を強く打ち出している。開幕まで2か月のいま、中止圧
力は高まる一方だが、五輪開催で武漢ウイルスが広がるという証拠はある
のだろうか。
東京大会の観客をどこまで絞るのか、無観客にするのかなどは、もうすぐ
判明するだろう。一方、選手の受け入れは以下の「バブル方式」が決定済
みだ。入国時から帰国時まで選手たちを泡で包み込むようにする。つま
り、入国後は宿泊施設にとどまり、外出を控えてもらい、練習会場や試合
会場への移動は専用車輌に限定する。開幕後、競技で敗退した選手は、順
次帰国してもらう方式だ。
5月14日、菅首相は東京五輪、パラリンピックで入国する外国人の行動を
制限するとして、こう語った。
「(取り決めに)反すれば強制退去を命じることも検討中です。一般国民
とは違う動線で行動し相互接触のないよう、対応を整えています」
菅首相はまた大会の医療体制は地域医療に支障をきたさないように調整中
だとも語っている。
ファイザー社は選手や大会関係者へのワクチン無償提供を決定し、国立感
染症研究所は同社のワクチン接種から14日以降に感染事例の報告が6割減
少したとの分析を発表した。日本の事例では、4月11日までに接種した医
療従事者110万人中、発症したのは281人だった。本欄執筆中の5月17日現
在、ワクチン接種の速度は上がっており、効果は期待できる。
首相の座を狙い始めた
だが、共産党の田村智子氏は、16日のNHK「日曜討論」で「政府がもう
(開催)できないという決断をするしかない」と主張した。菅政権打倒で
あくまでも反対を貫こうとする。大坂なおみ選手も錦織圭選手も開催につ
いて心配している。そんな中で、私は、パラリンピック競泳のエース、木
村敬一氏が2月24日に語った言葉に最も共感する。
「開催するための努力は、自分たちの社会を取り戻す努力につながる。ウ
イルスを封じ込めていく努力と、ほぼイコールだと思う。『どんな犠牲も
出さないようにして開催するんだ』という努力、僕らがやろうとする努力
は、社会を良い方向へ向けていく努力であるはずなんです」
共産党や立憲民主党の主張と歩調を合わせた開催反対は、政局の動きと連
動していると思われる。14日、「言論テレビ」で政治ジャーナリストの石
橋文登氏が指摘した。
「感染者増加と内閣支持率下落は正比例しています。それを見て志位さん
が五輪反対を言いだしたのですが、共産党も立憲民主党も、所詮外野で
す。気になるのが小池百合子都知事のおかしな動きです」
連休明けの5月9日、都民ファーストの会、つまり小池氏の手兵にあたる人
間が、水際対策の強化を総理大臣に求めるオンライン署名を始めたという
のだ。
「政府の対策では開催都市としてコロナ封じ込めの自信がないから返上す
る、と言うための署名集めかと疑います。そんな中、5月11日に、小池さ
んはまたもや二階俊博幹事長を訪ねた。ワクチン接種や休業要請などで資
金が逼迫、国の支援を要請したいためだと説明されました。でも、僕は違
うと思う。彼女、非常に勘がいい。二階さんの顔色を見て解散が近いかど
うかを探りに行ったと思います」
小池氏は常に政府との対立構図を作り求心力を高めてきた。だが、彼女が
要求した通勤電車の減便は非常に評判が悪く、JRは連休中に増便に踏み
切った。首都圏三県の知事を桃太郎のように引き連れて官邸に押しかけて
いたが、黒岩祐治神奈川県知事が小池氏の「嘘」を暴露した。これまでの
手法が見透かされてうまくいかなくなった。知事として立ち枯れるより、
国政復帰と首相の座を狙い始めたのではないか、と言うのだ。
「もし総理を狙っているとしたら、起死回生の機会は五輪中止だと考えて
おかしくない。政府の水際対策が不安で開催できないと言って、政府に責
任転嫁する。全ての批判は何も悪くない菅さんにいく。菅さんは退陣を迫
られるかもしれない」
徳を欠いている
まさかと思う展開だが、一体誰がついていくのか。石橋氏は、支持率の低
さに喘ぐ政党や政治家は少しでも話題になって当選する確率の高い勢力に
従うと断言する。そうした政党の計算、議員の心理を知悉しているのが小
池氏だというのだ。
「小池さんと小沢一郎さんは本質において非常に似ています。第一に権力
掌握に対する嗅覚の鋭さです。自民党を打ちのめして政権を取ったのは小
沢さんの力ですよ。そしていま立憲民主と共産党のパイプを握っているの
は小沢さんです。その小沢さんの傍らで小池さんは弟子のような形で政界
の権力闘争を見てきた」
石橋氏は両氏に共通のもうひとつの点は、権力を取った後に何をしたいか
が見えてこないことだと喝破した。納得である。
小池氏は日本初の女性総理になれずに都知事選に出た。同僚議員の支持が
全くと言ってよいほどなかった小池氏自身が、自民党にいる限り、総裁に
も総理にもなれないと見極めたからではないか。だが、国政でもう一花咲
かせたいのであれば五輪の利用も考えるだろう。その布石のひとつが石橋
氏の指摘する先述のオンラインの署名集めだとすれば、とんでもないこと
だ。五輪開催を要望した主催都市の、彼女は知事である。それを国政復帰
のために中止するなど、あってはならないだろう。こんな疑惑を招くの
は、小池氏が政治家としての徳を欠いているからだ。もっと真に都民のた
め、日本のために汗をかく姿を見たいものだ。
武漢ウイルスとの戦いは容易ではないが、ワクチン接種も増えている。手
洗いと「密」回避は、日本人にはできている。ウイルスを抑制できると私
は考える。そこでもう一度、開催の努力は自分たちの社会を取り戻す努力
であり、ウイルスを封じ込め、社会を良い方向へ向けていく努力だという
木村氏の言葉を噛みしめたい。
五輪を政局に利用するのではなく、五輪を無事に完了させる惜しみない努
力を期待するものだ。
『週刊新潮』 2021年5月27日号
日本ルネッサンス 第951回
5月17日、「朝日新聞」は朝刊一面左肩で「菅内閣支持急落33%」と報じ
た。小見出しは「『安全安心な五輪』納得できぬ73%」だ。
朝日新聞は紙面、社説やコラムなどで菅義偉首相の武漢ウイルス対策、緊
急事態宣言、蔓延防止等重点措置の適用、ワクチン入手に至るまで、批判
してきた。17日の記事は支持率急落や五輪開催反対論の増加を喜んでいる
かのようだった。
日本共産党の志位和夫委員長が東京五輪中止を言いだし、立憲民主党代表
の枝野幸男氏が賛同し、朝日や毎日が支持するかのような構図が出来上
がっている。沢木耕太郎氏の「悲しき五輪」を載せた週刊文春を筆頭に雑
誌も五輪開催反対を強く打ち出している。開幕まで2か月のいま、中止圧
力は高まる一方だが、五輪開催で武漢ウイルスが広がるという証拠はある
のだろうか。
東京大会の観客をどこまで絞るのか、無観客にするのかなどは、もうすぐ
判明するだろう。一方、選手の受け入れは以下の「バブル方式」が決定済
みだ。入国時から帰国時まで選手たちを泡で包み込むようにする。つま
り、入国後は宿泊施設にとどまり、外出を控えてもらい、練習会場や試合
会場への移動は専用車輌に限定する。開幕後、競技で敗退した選手は、順
次帰国してもらう方式だ。
5月14日、菅首相は東京五輪、パラリンピックで入国する外国人の行動を
制限するとして、こう語った。
「(取り決めに)反すれば強制退去を命じることも検討中です。一般国民
とは違う動線で行動し相互接触のないよう、対応を整えています」
菅首相はまた大会の医療体制は地域医療に支障をきたさないように調整中
だとも語っている。
ファイザー社は選手や大会関係者へのワクチン無償提供を決定し、国立感
染症研究所は同社のワクチン接種から14日以降に感染事例の報告が6割減
少したとの分析を発表した。日本の事例では、4月11日までに接種した医
療従事者110万人中、発症したのは281人だった。本欄執筆中の5月17日現
在、ワクチン接種の速度は上がっており、効果は期待できる。
首相の座を狙い始めた
だが、共産党の田村智子氏は、16日のNHK「日曜討論」で「政府がもう
(開催)できないという決断をするしかない」と主張した。菅政権打倒で
あくまでも反対を貫こうとする。大坂なおみ選手も錦織圭選手も開催につ
いて心配している。そんな中で、私は、パラリンピック競泳のエース、木
村敬一氏が2月24日に語った言葉に最も共感する。
「開催するための努力は、自分たちの社会を取り戻す努力につながる。ウ
イルスを封じ込めていく努力と、ほぼイコールだと思う。『どんな犠牲も
出さないようにして開催するんだ』という努力、僕らがやろうとする努力
は、社会を良い方向へ向けていく努力であるはずなんです」
共産党や立憲民主党の主張と歩調を合わせた開催反対は、政局の動きと連
動していると思われる。14日、「言論テレビ」で政治ジャーナリストの石
橋文登氏が指摘した。
「感染者増加と内閣支持率下落は正比例しています。それを見て志位さん
が五輪反対を言いだしたのですが、共産党も立憲民主党も、所詮外野で
す。気になるのが小池百合子都知事のおかしな動きです」
連休明けの5月9日、都民ファーストの会、つまり小池氏の手兵にあたる人
間が、水際対策の強化を総理大臣に求めるオンライン署名を始めたという
のだ。
「政府の対策では開催都市としてコロナ封じ込めの自信がないから返上す
る、と言うための署名集めかと疑います。そんな中、5月11日に、小池さ
んはまたもや二階俊博幹事長を訪ねた。ワクチン接種や休業要請などで資
金が逼迫、国の支援を要請したいためだと説明されました。でも、僕は違
うと思う。彼女、非常に勘がいい。二階さんの顔色を見て解散が近いかど
うかを探りに行ったと思います」
小池氏は常に政府との対立構図を作り求心力を高めてきた。だが、彼女が
要求した通勤電車の減便は非常に評判が悪く、JRは連休中に増便に踏み
切った。首都圏三県の知事を桃太郎のように引き連れて官邸に押しかけて
いたが、黒岩祐治神奈川県知事が小池氏の「嘘」を暴露した。これまでの
手法が見透かされてうまくいかなくなった。知事として立ち枯れるより、
国政復帰と首相の座を狙い始めたのではないか、と言うのだ。
「もし総理を狙っているとしたら、起死回生の機会は五輪中止だと考えて
おかしくない。政府の水際対策が不安で開催できないと言って、政府に責
任転嫁する。全ての批判は何も悪くない菅さんにいく。菅さんは退陣を迫
られるかもしれない」
徳を欠いている
まさかと思う展開だが、一体誰がついていくのか。石橋氏は、支持率の低
さに喘ぐ政党や政治家は少しでも話題になって当選する確率の高い勢力に
従うと断言する。そうした政党の計算、議員の心理を知悉しているのが小
池氏だというのだ。
「小池さんと小沢一郎さんは本質において非常に似ています。第一に権力
掌握に対する嗅覚の鋭さです。自民党を打ちのめして政権を取ったのは小
沢さんの力ですよ。そしていま立憲民主と共産党のパイプを握っているの
は小沢さんです。その小沢さんの傍らで小池さんは弟子のような形で政界
の権力闘争を見てきた」
石橋氏は両氏に共通のもうひとつの点は、権力を取った後に何をしたいか
が見えてこないことだと喝破した。納得である。
小池氏は日本初の女性総理になれずに都知事選に出た。同僚議員の支持が
全くと言ってよいほどなかった小池氏自身が、自民党にいる限り、総裁に
も総理にもなれないと見極めたからではないか。だが、国政でもう一花咲
かせたいのであれば五輪の利用も考えるだろう。その布石のひとつが石橋
氏の指摘する先述のオンラインの署名集めだとすれば、とんでもないこと
だ。五輪開催を要望した主催都市の、彼女は知事である。それを国政復帰
のために中止するなど、あってはならないだろう。こんな疑惑を招くの
は、小池氏が政治家としての徳を欠いているからだ。もっと真に都民のた
め、日本のために汗をかく姿を見たいものだ。
武漢ウイルスとの戦いは容易ではないが、ワクチン接種も増えている。手
洗いと「密」回避は、日本人にはできている。ウイルスを抑制できると私
は考える。そこでもう一度、開催の努力は自分たちの社会を取り戻す努力
であり、ウイルスを封じ込め、社会を良い方向へ向けていく努力だという
木村氏の言葉を噛みしめたい。
五輪を政局に利用するのではなく、五輪を無事に完了させる惜しみない努
力を期待するものだ。
at 08:29
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月23日
◆動物行動学が切り出す日本の問題
櫻井よしこ
七つの章に約60本の記事、もしも私に目が三つあったら、3本の記事を同
時に読みたいくらい面白い本が送られてきた。『ウエストがくびれた女
は、男心をお見通し』(WAC)だ。「なんとイヤらしいタイトルか」と
思って見たら、著者は竹内久美子さんだった。
動物行動学の研究者として名高い彼女の記事は切り抜いて保存している私
である。すぐに読み始めると、第4章の一話、「妻を取られないよう連帯
するトカゲは左翼男にさも似たり」の見出しが飛び込んできた。
私は常々、わが国においても国際社会においても、保守陣営より左翼リベ
ラル陣営の方が連帯力が強く政治運動推進の熱度も高く、しかも彼らの運
動は実に長く続くと感じている。それに較べて自由・保守陣営は目標を立
てて邁進するが、目標を達成したらそこで一安心、弛緩してしまいがちだ
と口惜しく思っている。
なぜ、左翼リベラルの運動は長続きするのか。もっといえば、なぜ彼らは
日本国内だけでなく世界中で連帯し、執念深くあり続けられるのか、その
答えを探し続けている。そのような問題意識の枠の中に、先述の、連帯す
るトカゲは左翼男のようだという見出しがストーンと入ってきたのである。
実は、竹内さんたちが恩師、同僚と共に設立した「日本動物行動学会」が
いつの間にか「日本型リベラルの連中」に乗っ取られたそうだ。大層口惜
しかったに違いない。
乗っ取った人々の言動を想い出すかのように、竹内さんは「日本型リベラ
ル」を「思想のためなら捏造、改竄、隠蔽、研究妨害もいとわない人々」
と定義した。慰安婦問題や、福島第一原発の吉田昌郎所長及び職員によ
る、原発死守の必死の行動に関して、とんでもない捏造記事を報道したあ
の新聞が脳裡に浮かんだのは当然であろう。
竹内さんは人間社会に跋扈するこういう左翼勢力の「モデル、あるいは
ルーツ」にたとえられる動物を探した。すると、いたのである。「サイ
ド・ブロッチド・リザード」というアメリカ西海岸の半砂漠地帯にすむト
カゲだそうだ。
秋篠宮家に対する想い
詳しくは竹内本を読んでいただきたいが、このトカゲのオスは喉の色と体
の大きさで三グループに大別される。その中の一番地味で、一番魅力に欠
け、一番面白みのないグループのオスは、喉の色がブルーだ。このグルー
プのオスたちは、喉の色が明るいオレンジやイエローに輝き、より魅力的
で、その分メスたちにもっとモテる他のグループのオスに、自分たちの
パートナーの妻トカゲを寝取られないよう、互いに連携し防衛し合ってい
るというのだ。
一番冴えないグループのオスたちにとって、他の魅力的なオスに魅かれな
いよう妻トカゲをあらゆる角度から見張ることは、子孫を残せるかどうか
がかかった、種の本能に基づく負けられない戦いである。他の二つのグ
ループのオスたちとの戦いは、本能と執念によって一生涯続く。死ぬまで
続く戦いなのだ。
その様子を描いた竹内さんは、「あれっ、どこかで見たような……」と締め
括っている。どこかで、というより、もしかして、築地界隈で見たよう
な……と私は大いに共感した次第である。
そして本書のテーマはガラリと変わる。竹内さんは2006年の秋篠宮妃紀子
様ご懐妊の報を受けて「男子誕生の確率高し」という一文を文藝春秋に寄
せたそうだ。生物学の知識に基づけば、女性が年齢を重ねるに従って、ま
た最後の出産から時間が経過するに従って、男児誕生の可能性が高くなる
そうだ。そのわけは詳しく本書で紹介されているのでこれもまた、著書を
手にとって読んでほしい。
右の生物学的知見に加えて、「きっと何か天からの力添えが働く、この日
本国が守られるはずだという確信めいたものがあった」とも竹内さんは書
いている。多くの日本人が抱いた気持ちとピッタリ重なるのではないか。
私も同様に感じ、日本を守って下さった神々に感謝したものだ。
このあとに竹内さんは「異常なほどの秋篠宮家に対するバッシング」、
「女系天皇によって皇室が『小室王朝』『外国王朝』となる日」などに関
して論を進めている。強調されているのは、紀子妃殿下が命に関わりかね
ない大きなリスクを乗り越えて出産なさった事実である。39歳での帝王切
開。そうして悠仁様を産んで下さったことに、私たちは深く感動し感謝し
たはずだ。紀子妃殿下と秋篠宮家に対するそうした想いを忘れないように
と、竹内さんは釘をさしているのだ。
さらに、武漢ウイルス禍以前のことだが、秋篠宮ご夫妻が全力でご公務に
取り組まれてきた事例も紹介している。たとえば、南米二か国を公式訪問
なさり、帰国されて中一日おいて園遊会にお出になるなど、非常に厳しい
日程を穏やかな笑顔でこなしていらしたではないかと強調する。
国民への教訓
武漢ウイルス蔓延の後、秋篠宮ご一家と職員の皆さん総出で、専門家の助
言を得てビニール袋を活用した医療用ガウン数百枚を手作りして寄付され
たことも紹介している。竹内さんは「これぞ皇族のあるべき姿ではないの
か」と書いたが、全面的に共感するものだ。国民の苦難を和らげるため
に、ご一家が力を合わせて作業なさったことを心に深く刻んで忘れないよ
うにしたい。
その上で竹内さんはこう続けた。
「秋篠宮家の方々は眞子内親王の一件さえ除けば、パーフェクトなご一家
である」
眞子様の一件は本当に難しい。だが、眞子様も歴史上貴重な役割を果たさ
れていると、以下のように考えることは失礼すぎるだろうか。
小室圭氏との婚約・結婚問題を通して、眞子様は小室家に関連するおカネ
の問題、眞子様への接近姿勢から推察できる小室氏の非常識などを、国民
の目に触れさせて下さった。女性宮家を創設すれば小室氏が皇族の一員と
なる。そのような事態を招く女性宮家の創設は決して受け入れてはならな
いと、眞子様の一件は国民への教訓となった。
小泉純一郎元首相の下で女系天皇容認の空気が生まれ、その後も女性宮家
創設論がくすぶり続けてきたが、それを見事に吹き払ったのが眞子様の恋
だ。国民のほぼ全員が反対でもどうしてもというのであれば、せめてそこ
に、前向きの歴史的意味を見出すしかないのではないか。
お二人には各々ご自分の人生に責任を持っていただき、お二人なりの人生
を全うなさり、その中で出来る限り沢山の幸福を積み重ねていかれるよ
う、国民として願うのがよいのではないか。
もう一点、竹内さんは日本のお母さんの母乳は世界一、日本の子どもの頭
の良さも世界一だと書いている。頑張れば大丈夫なのだ。
七つの章に約60本の記事、もしも私に目が三つあったら、3本の記事を同
時に読みたいくらい面白い本が送られてきた。『ウエストがくびれた女
は、男心をお見通し』(WAC)だ。「なんとイヤらしいタイトルか」と
思って見たら、著者は竹内久美子さんだった。
動物行動学の研究者として名高い彼女の記事は切り抜いて保存している私
である。すぐに読み始めると、第4章の一話、「妻を取られないよう連帯
するトカゲは左翼男にさも似たり」の見出しが飛び込んできた。
私は常々、わが国においても国際社会においても、保守陣営より左翼リベ
ラル陣営の方が連帯力が強く政治運動推進の熱度も高く、しかも彼らの運
動は実に長く続くと感じている。それに較べて自由・保守陣営は目標を立
てて邁進するが、目標を達成したらそこで一安心、弛緩してしまいがちだ
と口惜しく思っている。
なぜ、左翼リベラルの運動は長続きするのか。もっといえば、なぜ彼らは
日本国内だけでなく世界中で連帯し、執念深くあり続けられるのか、その
答えを探し続けている。そのような問題意識の枠の中に、先述の、連帯す
るトカゲは左翼男のようだという見出しがストーンと入ってきたのである。
実は、竹内さんたちが恩師、同僚と共に設立した「日本動物行動学会」が
いつの間にか「日本型リベラルの連中」に乗っ取られたそうだ。大層口惜
しかったに違いない。
乗っ取った人々の言動を想い出すかのように、竹内さんは「日本型リベラ
ル」を「思想のためなら捏造、改竄、隠蔽、研究妨害もいとわない人々」
と定義した。慰安婦問題や、福島第一原発の吉田昌郎所長及び職員によ
る、原発死守の必死の行動に関して、とんでもない捏造記事を報道したあ
の新聞が脳裡に浮かんだのは当然であろう。
竹内さんは人間社会に跋扈するこういう左翼勢力の「モデル、あるいは
ルーツ」にたとえられる動物を探した。すると、いたのである。「サイ
ド・ブロッチド・リザード」というアメリカ西海岸の半砂漠地帯にすむト
カゲだそうだ。
秋篠宮家に対する想い
詳しくは竹内本を読んでいただきたいが、このトカゲのオスは喉の色と体
の大きさで三グループに大別される。その中の一番地味で、一番魅力に欠
け、一番面白みのないグループのオスは、喉の色がブルーだ。このグルー
プのオスたちは、喉の色が明るいオレンジやイエローに輝き、より魅力的
で、その分メスたちにもっとモテる他のグループのオスに、自分たちの
パートナーの妻トカゲを寝取られないよう、互いに連携し防衛し合ってい
るというのだ。
一番冴えないグループのオスたちにとって、他の魅力的なオスに魅かれな
いよう妻トカゲをあらゆる角度から見張ることは、子孫を残せるかどうか
がかかった、種の本能に基づく負けられない戦いである。他の二つのグ
ループのオスたちとの戦いは、本能と執念によって一生涯続く。死ぬまで
続く戦いなのだ。
その様子を描いた竹内さんは、「あれっ、どこかで見たような……」と締め
括っている。どこかで、というより、もしかして、築地界隈で見たよう
な……と私は大いに共感した次第である。
そして本書のテーマはガラリと変わる。竹内さんは2006年の秋篠宮妃紀子
様ご懐妊の報を受けて「男子誕生の確率高し」という一文を文藝春秋に寄
せたそうだ。生物学の知識に基づけば、女性が年齢を重ねるに従って、ま
た最後の出産から時間が経過するに従って、男児誕生の可能性が高くなる
そうだ。そのわけは詳しく本書で紹介されているのでこれもまた、著書を
手にとって読んでほしい。
右の生物学的知見に加えて、「きっと何か天からの力添えが働く、この日
本国が守られるはずだという確信めいたものがあった」とも竹内さんは書
いている。多くの日本人が抱いた気持ちとピッタリ重なるのではないか。
私も同様に感じ、日本を守って下さった神々に感謝したものだ。
このあとに竹内さんは「異常なほどの秋篠宮家に対するバッシング」、
「女系天皇によって皇室が『小室王朝』『外国王朝』となる日」などに関
して論を進めている。強調されているのは、紀子妃殿下が命に関わりかね
ない大きなリスクを乗り越えて出産なさった事実である。39歳での帝王切
開。そうして悠仁様を産んで下さったことに、私たちは深く感動し感謝し
たはずだ。紀子妃殿下と秋篠宮家に対するそうした想いを忘れないように
と、竹内さんは釘をさしているのだ。
さらに、武漢ウイルス禍以前のことだが、秋篠宮ご夫妻が全力でご公務に
取り組まれてきた事例も紹介している。たとえば、南米二か国を公式訪問
なさり、帰国されて中一日おいて園遊会にお出になるなど、非常に厳しい
日程を穏やかな笑顔でこなしていらしたではないかと強調する。
国民への教訓
武漢ウイルス蔓延の後、秋篠宮ご一家と職員の皆さん総出で、専門家の助
言を得てビニール袋を活用した医療用ガウン数百枚を手作りして寄付され
たことも紹介している。竹内さんは「これぞ皇族のあるべき姿ではないの
か」と書いたが、全面的に共感するものだ。国民の苦難を和らげるため
に、ご一家が力を合わせて作業なさったことを心に深く刻んで忘れないよ
うにしたい。
その上で竹内さんはこう続けた。
「秋篠宮家の方々は眞子内親王の一件さえ除けば、パーフェクトなご一家
である」
眞子様の一件は本当に難しい。だが、眞子様も歴史上貴重な役割を果たさ
れていると、以下のように考えることは失礼すぎるだろうか。
小室圭氏との婚約・結婚問題を通して、眞子様は小室家に関連するおカネ
の問題、眞子様への接近姿勢から推察できる小室氏の非常識などを、国民
の目に触れさせて下さった。女性宮家を創設すれば小室氏が皇族の一員と
なる。そのような事態を招く女性宮家の創設は決して受け入れてはならな
いと、眞子様の一件は国民への教訓となった。
小泉純一郎元首相の下で女系天皇容認の空気が生まれ、その後も女性宮家
創設論がくすぶり続けてきたが、それを見事に吹き払ったのが眞子様の恋
だ。国民のほぼ全員が反対でもどうしてもというのであれば、せめてそこ
に、前向きの歴史的意味を見出すしかないのではないか。
お二人には各々ご自分の人生に責任を持っていただき、お二人なりの人生
を全うなさり、その中で出来る限り沢山の幸福を積み重ねていかれるよ
う、国民として願うのがよいのではないか。
もう一点、竹内さんは日本のお母さんの母乳は世界一、日本の子どもの頭
の良さも世界一だと書いている。頑張れば大丈夫なのだ。
at 07:56
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月15日
◆永遠に反省しない朝日新聞
櫻井よしこ
021.05.13 (木)
「櫻井よしこvs西岡力」敗訴でも「慰安婦報道」を永遠に反省しない朝
日新聞
自らペンで反論する術を持ちながら、司法の場で争いを仕掛けた男の訴え
は退けられた。濡れ衣を着せられたのはジャーナリストの櫻井よしこ氏と
麗澤大客員教授の西岡力氏。真実を勝ち取り、判決後に初めて顔を合わせ
た二人が、過ちを省みない「真の敵」を喝破する。
5年以上に及ぶ長い法廷闘争が遂に終わりを迎えた。元朝日新聞記者の植
村隆氏が、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と麗澤大学客員教授の西岡力氏
が執筆した雑誌記事で、名誉を毀損されたと訴えた裁判。最高裁は植村氏
の請求をいずれも棄却した一審、二審の判決を支持し、櫻井氏については
2020年11月、西岡氏については今年3月にそれぞれ原告の上告を却下する
判決を言い渡した。ここに植村氏による一連の裁判は、一審以来の原告敗
訴判決が確定する結果で完結したのである。
ことの経緯を振り返ると、原告の植村氏は1991年8月11日付の朝日新聞
(大阪本社版朝刊)で、いわゆる従軍慰安婦と称された韓国人女性の証言
を基にした記事を書いた。その仔細については後述するが、当該記事を櫻
井氏は本誌連載などで、西岡氏も著書などで「捏造」等と論評。これを不
当だとする植村氏は、執筆した両名と版元を相手に論稿の削除、損害賠償
と謝罪広告掲載を求め提訴していた。
櫻井 西岡さんの判決が確定するまで、二人で総括するのは待とう―そう
決めていたので対談が今日になりました。それにしても5年。長いです
ね。法廷には何回か行かれましたか?
西岡 僕は1回だけです。これは裁判という名を借りた“政治運動”だと捉
えていたので、相手にしない方がいいと思いまして……。
櫻井 私は16年4月の第1回口頭弁論と、18年3月の本人尋問の2回出廷しま
した。大法廷に漂う独特の雰囲気を味わい、彼らはこういう風に“運動”す
るのだなということがよく分かりました。
西岡 まず弁護士の数が圧倒的に違いましたよね。原告側の席に、弁護士
が横にズラーッと座ってこちらを威圧していましたから。
櫻井 私が出廷した裁判でも、30人以上はいたのかしら。原告の席が、二
列三列くらいになっていました。
西岡 被告席に座る私の側は、出版社を通じて頼んだ弁護士が二人だけで
した。
櫻井 そもそも札幌で裁判を起こされたわけです。私の自宅や出版社は東
京にあるし、植村氏側にも東京在住の弁護士がついている。そこで東京地
裁で扱って貰うよう裁判所に申請しました。札幌地裁は一旦、移送を認め
たのですが、それにもかかわらず、植村氏側が異議を唱えた。生活拠点は
北海道にあり、東京に移送されたら経済的理由で裁判を受ける権利が実現
できないという理屈も挙げていました。そして支援者から署名をたくさん
集めて反対した。裁判所はそうした動きを受けて、最終的に札幌で裁判す
ることになりました。当時の彼は、講演や集会で東京や韓国など各地を飛
び回っていたんですけどね。
西岡 おかしなことに私の裁判は先に東京地裁で起こしました。傍聴席は
植村氏の支援者でほぼ埋め尽くされていた
櫻井 よくわかります。私もこちら側の応援団は東京から取材にきてくれ
た産経新聞くらいでした。圧倒的に多勢に無勢ですよね。法廷での植村氏
は、傍聴人に向かって訴えかけるような調子でした。裁判の前後に支援者
を集めて集会を開いていたそうですから、政治運動の印象を与えていたの
は確かです。振り返れば、札幌には苦い思い出があります。1997年に川崎
で開かれた講演会で「慰安婦は強制連行ではない」という趣旨のことを話
したら、物凄い反発を受けた。抗議の多くが北海道からでした。
西岡 大量の手紙やファックスがきたそうですね。
櫻井 あの頃はメールがなかったので、事務所のファックスの紙がなくな
るほどでした。一番多かったのが北教組(北海道教職員組合)からの抗議
でしたから、札幌で裁判を行えば、そういった世論に裁判官の方々が影響
されるのではという心配がありました。
西岡 それでも裁判所は、私たちの主張が正しいということまで踏み込ん
だ判決を下してくれました。植村氏の取った行動はやぶ蛇でしたし、言論
人として闘わなかった報いなのではないかと思います。言論には言論で闘
うべきなのに、彼らは論争を避けて“自分が正しい”という判断を司法の場
に委ねた。卑怯なやり方だったと思いますが、私は「言論の自由」のため
に絶対に負けてはならないと思っていました。
裁判所が認めた
櫻井 西岡さんが指摘した通り、植村氏の戦略は全てが裏目に出てしまい
ましたね。朝日新聞で彼が書いたことは間違いで、裁判所が我々の指摘の
真実性を認めた。彼らにとって予想外の結果だったことでしょう。
改めて裁判の争点となった植村氏の記事を見れば、〈元朝鮮人従軍慰安婦
戦後半世紀重い口開く〉との見出しが躍り、以下のように書かれていた。
〈『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為
を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち一人がソウル市内に生存してい
ることがわかり(以下略)
櫻井氏と西岡氏は、この記事が慰安婦とはまったく無関係で、単なる勤労
奉仕活動を指すに過ぎない「女子挺身隊」の名を挙げ、日本軍が国家ぐる
みで女性たちを強制連行したかのような印象を与えたとして批判してきた
のだ。
西岡 今回の判決には重大な意味があります。つまりは朝日新聞が掲載し
た記事が「捏造」だと裁判所が認めたわけです。これについて、今後朝日
新聞はどう責任を取るのか
櫻井 おっしゃるとおりです。もはや植村氏個人ではなく朝日新聞の問題
です。高裁判決が出た時、私は外国人記者クラブで会見をしましたが、朝
日の記者に「他の新聞も慰安婦と女子挺身隊を間違って報道していたの
に、なぜ朝日だけを櫻井さんは責めるのか」と質問されました。私は朝日
が日本で最も影響力が大きい新聞社だと自負しているのであれば、その責
任についても最も厳しく問われるのは当然だと答えたのですが、西岡さん
たちが手がけた独立検証委員会の報告書を読むと、なぜ朝日が責められな
ければならないのか、もうひとつの明白な理由が見えてきます。朝日は当
初、圧倒的に多くの慰安婦記事を書いて、ひとつの流れを作った。他社が
その流れに追随するまで、朝日は多くの記事を書き続けたという事実があ
ります。つまり、慰安婦の一連の報道は朝日が主導して作り上げたもの
だった。そのことについての責任は大きいですね。
西岡 植村氏の記事が書かれた91年に限っても、朝日は150本もの慰安婦
関連記事を出稿した。読売23本、毎日66本、NHK13本で3社の合計でも
102本に過ぎません。朝日だけで全体の約6割、単純計算で2.4日に1本も書
いていたことになり、大キャンペーンを仕掛けたのは明白です。
櫻井 しかも朝日は他紙が書き始めると少し数を減らしている。世論に火
をつけるため猛烈に書いたのではないか。そういう意味で本当に朝日は罪
が重いということを、今回きちんと言っておきたいですね。
西岡 改めて整理すると、朝日新聞は植村氏の記事が出る前の82年に、
「自分は軍の命令で女子挺身隊として朝鮮女性を強制連行して慰安婦にし
た」という吉田清治なる男性の証言記事を掲載した。翌83年に吉田はその
証言を単行本にしています。いわば「女子挺身隊」を語る・加害者・を世
に出したのが朝日です。朝日のお墨付きをもらった吉田証言の影響が絶大
で、80年代半ばから「女子挺身隊」の名で慰安婦狩りをしたというウソ
が、左派が支配する日本の学界の定説になった。韓国に留学した経験のあ
る私からすれば、そんなことが起きていたら韓国人が蜂起していただろう
けど、そうした話は現地で聞いたことがない。事実なら日韓関係の根底が
崩れるし、本当に「人道に対する罪」みたいなことがあったんだろうかと
疑っていた。植村記事が出た91年に朝日は吉田を2回大きく取り上げ、植
村氏の記事で“被害者”の証言を出すことで、慰安婦は女子挺身隊の名で強
制連行されたという朝日のプロパガンダが完成してしまった。植村記事は
吉田証言のウソをサポートした悪質な捏造記事だった。
櫻井 今回の裁判で、もともと植村氏は「女子挺身隊」が「慰安婦」とは
別の存在であるということを知っていたと、法廷で語っています。これは
植村氏に対する尋問の最後に、裁判官が踏み込んで質問したことに対する
回答でした。つまり「女子挺身隊」として連行された「慰安婦」という話
が、本来成り立たないことだったと、彼自身知っていたことになります。
それなのに、なぜそういうことを書いたのか、理解に苦しみます。西岡さ
んが先ほど仰ったことは非常に重要なことですね。それまで吉田清治の詐
欺話で日本軍が女性たちを強制連行したと言われていたけれども、研究者
や朝鮮問題の専門家の多くが「そんなことはあるはずがない」と疑ってい
た。韓国の人たちもみんな知っていた。日本軍による慰安婦の強制連行な
どなかったこと、「女子挺身隊」が連行されたこともなかったと知ってい
た。しかし、植村氏の記事で被害者の“実例”が出てきた。今まで虚構だろ
うと思っていたのが、初めて証拠が出てきた。これは大変なことだと大騒
ぎになった。その頃から朝日以外の新聞も書き始めた。朝日新聞がつくっ
た壮大なフィクションが、植村氏の記事によって「本当かもしれない」と
いう現実味を帯びてきた。こういう構図が現実世界の中で創られてしまっ
た。その結果、植村氏の記事は本当に深刻な結果をもたらした。私は西岡
さんの先程の説明と重なることを言っているのですが、この構図をしっか
りと頭に入れておくことが、慰安婦問題についての朝日の責任を知る上で
とても重要です。
西岡 本当の加害者と被害者が証言して、国内外から批判を浴びるのなら
仕方ありません。被害者がそう言ったなら特ダネに値しますが、実際は
言ってないことを朝日が書いた。しかも、それが記憶違いじゃなくて、
言ってないどころか彼女が女子挺身隊ではなかったと知っていたと。あえ
てウソを書いたという事実は重い。
14年の慰安婦記事の検証報道でも、朝日新聞が謝ったのは「うそつきの吉
田に騙された」ことだけ。植村氏の記事については、「意図的な捻じ曲げ
などはありません」と書いて未だに恥じない。
櫻井 私は今回の一件は「天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさ
ず」だと感じています。植村氏が提訴してくれたおかげで、彼が「女子挺
身隊」と「慰安婦」は関係がないにも拘わらず、両者を一体のものとして
記事を書いたという事実が判明しました。
そこからさらに発展して、西岡さんが指摘なさったように、この問題は朝
日新聞そのものの問題であることが明らかになった。天の目は朝日の悪行
をきちんと見ていたということです。この判決を受けて、もう一回、自分
たちの行った捏造をきちんと反省しないといけないと思う。朝日新聞は
「誤報」という指摘については受け入れるけど、「捏造」ということに対
して強く反発して否定します。けれど、西岡さんの説明にもあったよう
に、どう見ても捏造をしたとしか思えない。
日本人に対する裏切り
西岡 見過ごしてはならないのは、私の最高裁判決を報じた朝日新聞の姿
勢です。3月13日付の朝刊に目を通すと、どこに書いてあるのかわからな
いくらい小さな扱いで、そのベタ記事にはウソが書かれている。判決に
至った経緯を〈東京地裁は、日本軍や政府による女子挺身隊の動員と人身
売買を混同した当記事を意図的な「捏造」と評した西岡氏らの指摘につい
て、重要な部分は真実だと認定〉したと書き、これは正しいのですが、問
題はその次ですよ。〈東京高裁は指摘にも不正確な部分があると認めつ
つ〉と、私の指摘に不備があったとわざわざ書いた上で、〈真実相当性が
あるとして結論は支持していた〉。地裁では「真実性」が認められていた
けど、高裁からは「真実相当性」に格下げしたとしか読めないのです。
櫻井 「真実性」が認められたことを省いた。とんでもない記事ですね。
西岡 はい。実際の裁判では、一番重要な「女子挺身隊として連行されて
いないのに、そのことを植村氏は知っていながらあえてウソを書いた」と
いう点について「真実相当性」ではなく「真実性」が認められています。
その評価は地裁と高裁で変わっていないのに、朝日が掲載した記事が「捏
造」だったと最高裁が認めたということになれば、最終的には自分たちに
責任がかかってくる。読者がそう思うかもしれないからと、あえて自分た
ちの責任を回避するためにウソをついたとしか思えません。少なくともこ
の判決を受けて、朝日新聞は改めて見解を出すべきだと強く思います。
櫻井 朝日新聞は慰安婦報道によって、国内外にどれほどの影響を与えて
きたかという自覚と反省があまりにもない彼らがしたことは日本国に対す
る、日本人に対する裏切りであり、ジャーナリズムへの信頼性を大きく損
ねました。
西岡 今回、自分たちの罪を再び反省する契機となる判決が出たわけじゃ
ないですか。その判決を報じる記事でも「捏造」をしているのだから呆れ
てしまいます。
櫻井常に自分にも言い聞かせていることですが、ジャーナリズムというも
のは完璧ではないと私は思っています。人間が完璧ではないように、
ジャーナリズムも人間のなせる業ですから残念ながら間違いもあるでしょ
う。大事なのは過ちが生じた時の姿勢です。自ら検証して反省すること
で、メディアは一歩先に進み、深めることもできる。けれど朝日は自身の
間違いを認めようとしない。そういう態度では、未来永劫同じことを繰り
返すと思います。
021.05.13 (木)
「櫻井よしこvs西岡力」敗訴でも「慰安婦報道」を永遠に反省しない朝
日新聞
自らペンで反論する術を持ちながら、司法の場で争いを仕掛けた男の訴え
は退けられた。濡れ衣を着せられたのはジャーナリストの櫻井よしこ氏と
麗澤大客員教授の西岡力氏。真実を勝ち取り、判決後に初めて顔を合わせ
た二人が、過ちを省みない「真の敵」を喝破する。
5年以上に及ぶ長い法廷闘争が遂に終わりを迎えた。元朝日新聞記者の植
村隆氏が、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と麗澤大学客員教授の西岡力氏
が執筆した雑誌記事で、名誉を毀損されたと訴えた裁判。最高裁は植村氏
の請求をいずれも棄却した一審、二審の判決を支持し、櫻井氏については
2020年11月、西岡氏については今年3月にそれぞれ原告の上告を却下する
判決を言い渡した。ここに植村氏による一連の裁判は、一審以来の原告敗
訴判決が確定する結果で完結したのである。
ことの経緯を振り返ると、原告の植村氏は1991年8月11日付の朝日新聞
(大阪本社版朝刊)で、いわゆる従軍慰安婦と称された韓国人女性の証言
を基にした記事を書いた。その仔細については後述するが、当該記事を櫻
井氏は本誌連載などで、西岡氏も著書などで「捏造」等と論評。これを不
当だとする植村氏は、執筆した両名と版元を相手に論稿の削除、損害賠償
と謝罪広告掲載を求め提訴していた。
櫻井 西岡さんの判決が確定するまで、二人で総括するのは待とう―そう
決めていたので対談が今日になりました。それにしても5年。長いです
ね。法廷には何回か行かれましたか?
西岡 僕は1回だけです。これは裁判という名を借りた“政治運動”だと捉
えていたので、相手にしない方がいいと思いまして……。
櫻井 私は16年4月の第1回口頭弁論と、18年3月の本人尋問の2回出廷しま
した。大法廷に漂う独特の雰囲気を味わい、彼らはこういう風に“運動”す
るのだなということがよく分かりました。
西岡 まず弁護士の数が圧倒的に違いましたよね。原告側の席に、弁護士
が横にズラーッと座ってこちらを威圧していましたから。
櫻井 私が出廷した裁判でも、30人以上はいたのかしら。原告の席が、二
列三列くらいになっていました。
西岡 被告席に座る私の側は、出版社を通じて頼んだ弁護士が二人だけで
した。
櫻井 そもそも札幌で裁判を起こされたわけです。私の自宅や出版社は東
京にあるし、植村氏側にも東京在住の弁護士がついている。そこで東京地
裁で扱って貰うよう裁判所に申請しました。札幌地裁は一旦、移送を認め
たのですが、それにもかかわらず、植村氏側が異議を唱えた。生活拠点は
北海道にあり、東京に移送されたら経済的理由で裁判を受ける権利が実現
できないという理屈も挙げていました。そして支援者から署名をたくさん
集めて反対した。裁判所はそうした動きを受けて、最終的に札幌で裁判す
ることになりました。当時の彼は、講演や集会で東京や韓国など各地を飛
び回っていたんですけどね。
西岡 おかしなことに私の裁判は先に東京地裁で起こしました。傍聴席は
植村氏の支援者でほぼ埋め尽くされていた
櫻井 よくわかります。私もこちら側の応援団は東京から取材にきてくれ
た産経新聞くらいでした。圧倒的に多勢に無勢ですよね。法廷での植村氏
は、傍聴人に向かって訴えかけるような調子でした。裁判の前後に支援者
を集めて集会を開いていたそうですから、政治運動の印象を与えていたの
は確かです。振り返れば、札幌には苦い思い出があります。1997年に川崎
で開かれた講演会で「慰安婦は強制連行ではない」という趣旨のことを話
したら、物凄い反発を受けた。抗議の多くが北海道からでした。
西岡 大量の手紙やファックスがきたそうですね。
櫻井 あの頃はメールがなかったので、事務所のファックスの紙がなくな
るほどでした。一番多かったのが北教組(北海道教職員組合)からの抗議
でしたから、札幌で裁判を行えば、そういった世論に裁判官の方々が影響
されるのではという心配がありました。
西岡 それでも裁判所は、私たちの主張が正しいということまで踏み込ん
だ判決を下してくれました。植村氏の取った行動はやぶ蛇でしたし、言論
人として闘わなかった報いなのではないかと思います。言論には言論で闘
うべきなのに、彼らは論争を避けて“自分が正しい”という判断を司法の場
に委ねた。卑怯なやり方だったと思いますが、私は「言論の自由」のため
に絶対に負けてはならないと思っていました。
裁判所が認めた
櫻井 西岡さんが指摘した通り、植村氏の戦略は全てが裏目に出てしまい
ましたね。朝日新聞で彼が書いたことは間違いで、裁判所が我々の指摘の
真実性を認めた。彼らにとって予想外の結果だったことでしょう。
改めて裁判の争点となった植村氏の記事を見れば、〈元朝鮮人従軍慰安婦
戦後半世紀重い口開く〉との見出しが躍り、以下のように書かれていた。
〈『女子挺(てい)身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為
を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち一人がソウル市内に生存してい
ることがわかり(以下略)
櫻井氏と西岡氏は、この記事が慰安婦とはまったく無関係で、単なる勤労
奉仕活動を指すに過ぎない「女子挺身隊」の名を挙げ、日本軍が国家ぐる
みで女性たちを強制連行したかのような印象を与えたとして批判してきた
のだ。
西岡 今回の判決には重大な意味があります。つまりは朝日新聞が掲載し
た記事が「捏造」だと裁判所が認めたわけです。これについて、今後朝日
新聞はどう責任を取るのか
櫻井 おっしゃるとおりです。もはや植村氏個人ではなく朝日新聞の問題
です。高裁判決が出た時、私は外国人記者クラブで会見をしましたが、朝
日の記者に「他の新聞も慰安婦と女子挺身隊を間違って報道していたの
に、なぜ朝日だけを櫻井さんは責めるのか」と質問されました。私は朝日
が日本で最も影響力が大きい新聞社だと自負しているのであれば、その責
任についても最も厳しく問われるのは当然だと答えたのですが、西岡さん
たちが手がけた独立検証委員会の報告書を読むと、なぜ朝日が責められな
ければならないのか、もうひとつの明白な理由が見えてきます。朝日は当
初、圧倒的に多くの慰安婦記事を書いて、ひとつの流れを作った。他社が
その流れに追随するまで、朝日は多くの記事を書き続けたという事実があ
ります。つまり、慰安婦の一連の報道は朝日が主導して作り上げたもの
だった。そのことについての責任は大きいですね。
西岡 植村氏の記事が書かれた91年に限っても、朝日は150本もの慰安婦
関連記事を出稿した。読売23本、毎日66本、NHK13本で3社の合計でも
102本に過ぎません。朝日だけで全体の約6割、単純計算で2.4日に1本も書
いていたことになり、大キャンペーンを仕掛けたのは明白です。
櫻井 しかも朝日は他紙が書き始めると少し数を減らしている。世論に火
をつけるため猛烈に書いたのではないか。そういう意味で本当に朝日は罪
が重いということを、今回きちんと言っておきたいですね。
西岡 改めて整理すると、朝日新聞は植村氏の記事が出る前の82年に、
「自分は軍の命令で女子挺身隊として朝鮮女性を強制連行して慰安婦にし
た」という吉田清治なる男性の証言記事を掲載した。翌83年に吉田はその
証言を単行本にしています。いわば「女子挺身隊」を語る・加害者・を世
に出したのが朝日です。朝日のお墨付きをもらった吉田証言の影響が絶大
で、80年代半ばから「女子挺身隊」の名で慰安婦狩りをしたというウソ
が、左派が支配する日本の学界の定説になった。韓国に留学した経験のあ
る私からすれば、そんなことが起きていたら韓国人が蜂起していただろう
けど、そうした話は現地で聞いたことがない。事実なら日韓関係の根底が
崩れるし、本当に「人道に対する罪」みたいなことがあったんだろうかと
疑っていた。植村記事が出た91年に朝日は吉田を2回大きく取り上げ、植
村氏の記事で“被害者”の証言を出すことで、慰安婦は女子挺身隊の名で強
制連行されたという朝日のプロパガンダが完成してしまった。植村記事は
吉田証言のウソをサポートした悪質な捏造記事だった。
櫻井 今回の裁判で、もともと植村氏は「女子挺身隊」が「慰安婦」とは
別の存在であるということを知っていたと、法廷で語っています。これは
植村氏に対する尋問の最後に、裁判官が踏み込んで質問したことに対する
回答でした。つまり「女子挺身隊」として連行された「慰安婦」という話
が、本来成り立たないことだったと、彼自身知っていたことになります。
それなのに、なぜそういうことを書いたのか、理解に苦しみます。西岡さ
んが先ほど仰ったことは非常に重要なことですね。それまで吉田清治の詐
欺話で日本軍が女性たちを強制連行したと言われていたけれども、研究者
や朝鮮問題の専門家の多くが「そんなことはあるはずがない」と疑ってい
た。韓国の人たちもみんな知っていた。日本軍による慰安婦の強制連行な
どなかったこと、「女子挺身隊」が連行されたこともなかったと知ってい
た。しかし、植村氏の記事で被害者の“実例”が出てきた。今まで虚構だろ
うと思っていたのが、初めて証拠が出てきた。これは大変なことだと大騒
ぎになった。その頃から朝日以外の新聞も書き始めた。朝日新聞がつくっ
た壮大なフィクションが、植村氏の記事によって「本当かもしれない」と
いう現実味を帯びてきた。こういう構図が現実世界の中で創られてしまっ
た。その結果、植村氏の記事は本当に深刻な結果をもたらした。私は西岡
さんの先程の説明と重なることを言っているのですが、この構図をしっか
りと頭に入れておくことが、慰安婦問題についての朝日の責任を知る上で
とても重要です。
西岡 本当の加害者と被害者が証言して、国内外から批判を浴びるのなら
仕方ありません。被害者がそう言ったなら特ダネに値しますが、実際は
言ってないことを朝日が書いた。しかも、それが記憶違いじゃなくて、
言ってないどころか彼女が女子挺身隊ではなかったと知っていたと。あえ
てウソを書いたという事実は重い。
14年の慰安婦記事の検証報道でも、朝日新聞が謝ったのは「うそつきの吉
田に騙された」ことだけ。植村氏の記事については、「意図的な捻じ曲げ
などはありません」と書いて未だに恥じない。
櫻井 私は今回の一件は「天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさ
ず」だと感じています。植村氏が提訴してくれたおかげで、彼が「女子挺
身隊」と「慰安婦」は関係がないにも拘わらず、両者を一体のものとして
記事を書いたという事実が判明しました。
そこからさらに発展して、西岡さんが指摘なさったように、この問題は朝
日新聞そのものの問題であることが明らかになった。天の目は朝日の悪行
をきちんと見ていたということです。この判決を受けて、もう一回、自分
たちの行った捏造をきちんと反省しないといけないと思う。朝日新聞は
「誤報」という指摘については受け入れるけど、「捏造」ということに対
して強く反発して否定します。けれど、西岡さんの説明にもあったよう
に、どう見ても捏造をしたとしか思えない。
日本人に対する裏切り
西岡 見過ごしてはならないのは、私の最高裁判決を報じた朝日新聞の姿
勢です。3月13日付の朝刊に目を通すと、どこに書いてあるのかわからな
いくらい小さな扱いで、そのベタ記事にはウソが書かれている。判決に
至った経緯を〈東京地裁は、日本軍や政府による女子挺身隊の動員と人身
売買を混同した当記事を意図的な「捏造」と評した西岡氏らの指摘につい
て、重要な部分は真実だと認定〉したと書き、これは正しいのですが、問
題はその次ですよ。〈東京高裁は指摘にも不正確な部分があると認めつ
つ〉と、私の指摘に不備があったとわざわざ書いた上で、〈真実相当性が
あるとして結論は支持していた〉。地裁では「真実性」が認められていた
けど、高裁からは「真実相当性」に格下げしたとしか読めないのです。
櫻井 「真実性」が認められたことを省いた。とんでもない記事ですね。
西岡 はい。実際の裁判では、一番重要な「女子挺身隊として連行されて
いないのに、そのことを植村氏は知っていながらあえてウソを書いた」と
いう点について「真実相当性」ではなく「真実性」が認められています。
その評価は地裁と高裁で変わっていないのに、朝日が掲載した記事が「捏
造」だったと最高裁が認めたということになれば、最終的には自分たちに
責任がかかってくる。読者がそう思うかもしれないからと、あえて自分た
ちの責任を回避するためにウソをついたとしか思えません。少なくともこ
の判決を受けて、朝日新聞は改めて見解を出すべきだと強く思います。
櫻井 朝日新聞は慰安婦報道によって、国内外にどれほどの影響を与えて
きたかという自覚と反省があまりにもない彼らがしたことは日本国に対す
る、日本人に対する裏切りであり、ジャーナリズムへの信頼性を大きく損
ねました。
西岡 今回、自分たちの罪を再び反省する契機となる判決が出たわけじゃ
ないですか。その判決を報じる記事でも「捏造」をしているのだから呆れ
てしまいます。
櫻井常に自分にも言い聞かせていることですが、ジャーナリズムというも
のは完璧ではないと私は思っています。人間が完璧ではないように、
ジャーナリズムも人間のなせる業ですから残念ながら間違いもあるでしょ
う。大事なのは過ちが生じた時の姿勢です。自ら検証して反省すること
で、メディアは一歩先に進み、深めることもできる。けれど朝日は自身の
間違いを認めようとしない。そういう態度では、未来永劫同じことを繰り
返すと思います。
at 08:12
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月11日
◆日米首脳会談、総理が背負った課題
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年4月29日号
日本ルネッサンス 第948回
バイデン大統領とは通い合うものがあり、昼食のハンバーガーに手もつけ
ず互いの人生について語り合った。こう振り返った菅義偉首相の表情は安
堵と喜びを表していた。
4月17日、首脳会談を受けて発表された共同声明には「台湾海峡の平和と
安定の重要性」が明記され、日本が「自らの防衛力強化を決意した」こ
と、米国が「核を含むあらゆる手段での日本防衛」を確認したことも書き
込まれた。
首脳会談直前の14日付けで、菅首相名で「ウォール・ストリート・ジャー
ナル」紙に寄稿した記事には会談への抱負として気候変動などが挙げられ
ていたが、中国にも安全保障にも触れておらず、私は首脳会談の行方を懸
念していた。しかし、終わってみれば首相は中国の脅威についても対策に
ついても、極めて明確な言葉で意思表示をした。
コロナ禍での今回の首脳会談は、これまでの首脳会談の中で最も重要な意
味を持つ。首脳会談、共同声明、それに先立つ戦略国際問題研究所
(CSIS)での講演から、首相の決意が見えてくる。
「台湾海峡の平和と安定の重要性」は外務・防衛二大臣同士の戦略会議、
いわゆる「2+2」ですでに確認済みだが、共同声明で再び明記したことで
台湾の行く末についての日米両国の誓約にさらなる重みが加わった。その
上で、菅首相は日本の防衛力を強化すると約束した。
防衛力の強化こそ日本にとって喫緊かつ最重要の課題だ。中国の異常な軍
拡によって軍事バランスは圧倒的な中国優位、日本劣位に陥っている。菅
首相はそこに切り込んだ。CSISでの講演でもこう語っている。
「主権に関する事項、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値につい
て、譲歩する考えはありません」
中国の恫喝
中国の軍事力強化によって東シナ海・南シナ海で一方的な現状変更の試み
が続いているとして、さらに首相はこう語っている。
「このような安全保障環境の中にあっても、国民の命と平和な暮らしを守
り抜くべく、我が国自身による努力を重ね、対応力を高めていく」「同盟
国である米国との間で抑止力と対処力を一層強化していく」「日米同盟を
更なる高みに引き上げていく。これは私の重要な責務だ」
バイデン政権が対面での最初の会談相手に菅首相を選んだのは、安全保障
で以前とは異なる次元の軍事協力を日本に期待しているからだ。米国に頼
りきりの日本であることをやめてほしい、米国は同盟国として日本防衛に
力を尽くすが、日本も米国を扶(たす)けて地域の安全、平和、安定に貢献
してほしいという考えだ。
米国の要請に菅首相は果敢に応えた。だが中国は大反発だ。中国共産党の
代弁メディア、「環球時報」は17日、社説で次のように日本を貶めた。
「(日米関係は)外交面では主従の性格が色濃い」、「(日本の外交は)
半主権のレベルでしかない」。
彼らは日米同盟を日独伊三国同盟にたとえて「アジア太平洋の平和に致命
的な破壊をもたらす枢軸に変化する可能性がある」とも書いた。
社説の結論が興味深い。
「日本に対し、台湾問題から遠ざかるようにご忠告申し上げる。ほかのこ
となら外交的手腕をもてあそび、合従連衡の策を弄してもよいが、台湾問
題に巻き込まれたなら、最後には自ら災いを招くことになる。巻き込まれ
る程度が深いほど、払う代価も大きくなるだろう」
台湾問題では妥協しない、日本は覚悟せよと恫喝しているわけだ。だが菅
首相も、この種の中国の恫喝には屈しない、妥協しないと宣言済みだ。そ
れが米国での一連の発言の意味である。では米国はどうか。周知のように
米国の中国を見る目は非常に厳しい。政治的妥協の余地は余りない。
アントニー・ブリンケン国務長官をはじめ、バイデン政権の閣僚らの人権
意識の厳しさは時間の経過と共により鮮明になっている。アラスカ会談に
おけるブリンケン氏の対立的言辞を外交官らしくないと批判する論調も
あったが、驚くほど率直なあのような批判は、米政権中枢を占める人々の
まっすぐさ加減を示すものとして、私は強い印象を受けた。
恐らく彼らも妥協はしないだろう。とすれば、米中関係は日に日に厳しく
なる。価値観の対立はあらゆる分野に波及し、関係改善は当面望めないだ
ろう。かといって誰も軍事衝突や戦争は望んでいない。この緊張の中で当
事国は無論、どの国も有事勃発に備えるというのが、眼前の状況への答え
なのである。
世界制覇の野望
バイデン大統領は今月14日にアフガニスタンからの撤退を表明した。9月
までの完全撤退を目指すが、それは最大の脅威、中国に力を集中させるた
めだ。バイデン氏は米国の最大の脅威をテロ勢力から中国へと移したので
ある。
米国は9.11に見舞われたブッシュ政権以来、主たる脅威をテロ勢力だとし
てきた。それ以前の米国は中国を戦略的ライバルとしていた。いま20年振
りに中国は米国にとっての最大の脅威と位置づけられたことになる。
米国がテロとの戦いに力を注いだこの間、中国は軍拡を続け恐るべき大国
となった。その結果、米国でさえも中国の軍事力に圧倒されつつある。
最新の「フォーリン・アフェアーズ」(21年5〜6月号)にミッシェル・フ
ロノイ氏が「米軍は優位性喪失の危機にあり」という論文を書いた。フロ
ノイ氏は国防総省で戦略を構築した女性である。フロノイ論文は、米国は
中国軍の強大化、中国共産党の世界制覇の野望を阻止できるのかについて
分析しているのだが、かなり内省的である。
彼女は警告している。米国は戦略を変えるところまでは来ているが、実行
段階に到達していないというのだ。中国が尖閣或いは台湾奪取で動くと
き、日米は必ずこれを防がなければならない。そういう状況下での日米首
脳会談であり、菅首相の発言だった。それが具体的に意味することを、日
本国民、政府、日本全体で考えなければならない。
日本が主権国家であれば、米軍の戦略・戦術が効果的に展開されてもされ
なくても、海上保安庁及び自衛隊の力で中国を抑止しなければならない。
菅首相の日本の防衛力強化の約束は、そのことを覚悟してのものでなけれ
ばならない。
であれば、菅首相は海上保安庁法第25条改正、敵基地攻撃を可能にし、防
衛予算を大幅に積み上げ自衛隊員をふやし、装備全般の顕著な充実整備に
取りかかる必要がある。
こうしたことをひとつひとつ実現していくことが、日米首脳会談で約束し
た防衛力強化であろう。一旦決めたら実行するのが菅首相の特徴だとい
う。新しくも厳しい国際情勢の中で、日本が果敢に生きのびていく道を切
り拓いてほしい。
『週刊新潮』 2021年4月29日号
日本ルネッサンス 第948回
バイデン大統領とは通い合うものがあり、昼食のハンバーガーに手もつけ
ず互いの人生について語り合った。こう振り返った菅義偉首相の表情は安
堵と喜びを表していた。
4月17日、首脳会談を受けて発表された共同声明には「台湾海峡の平和と
安定の重要性」が明記され、日本が「自らの防衛力強化を決意した」こ
と、米国が「核を含むあらゆる手段での日本防衛」を確認したことも書き
込まれた。
首脳会談直前の14日付けで、菅首相名で「ウォール・ストリート・ジャー
ナル」紙に寄稿した記事には会談への抱負として気候変動などが挙げられ
ていたが、中国にも安全保障にも触れておらず、私は首脳会談の行方を懸
念していた。しかし、終わってみれば首相は中国の脅威についても対策に
ついても、極めて明確な言葉で意思表示をした。
コロナ禍での今回の首脳会談は、これまでの首脳会談の中で最も重要な意
味を持つ。首脳会談、共同声明、それに先立つ戦略国際問題研究所
(CSIS)での講演から、首相の決意が見えてくる。
「台湾海峡の平和と安定の重要性」は外務・防衛二大臣同士の戦略会議、
いわゆる「2+2」ですでに確認済みだが、共同声明で再び明記したことで
台湾の行く末についての日米両国の誓約にさらなる重みが加わった。その
上で、菅首相は日本の防衛力を強化すると約束した。
防衛力の強化こそ日本にとって喫緊かつ最重要の課題だ。中国の異常な軍
拡によって軍事バランスは圧倒的な中国優位、日本劣位に陥っている。菅
首相はそこに切り込んだ。CSISでの講演でもこう語っている。
「主権に関する事項、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値につい
て、譲歩する考えはありません」
中国の恫喝
中国の軍事力強化によって東シナ海・南シナ海で一方的な現状変更の試み
が続いているとして、さらに首相はこう語っている。
「このような安全保障環境の中にあっても、国民の命と平和な暮らしを守
り抜くべく、我が国自身による努力を重ね、対応力を高めていく」「同盟
国である米国との間で抑止力と対処力を一層強化していく」「日米同盟を
更なる高みに引き上げていく。これは私の重要な責務だ」
バイデン政権が対面での最初の会談相手に菅首相を選んだのは、安全保障
で以前とは異なる次元の軍事協力を日本に期待しているからだ。米国に頼
りきりの日本であることをやめてほしい、米国は同盟国として日本防衛に
力を尽くすが、日本も米国を扶(たす)けて地域の安全、平和、安定に貢献
してほしいという考えだ。
米国の要請に菅首相は果敢に応えた。だが中国は大反発だ。中国共産党の
代弁メディア、「環球時報」は17日、社説で次のように日本を貶めた。
「(日米関係は)外交面では主従の性格が色濃い」、「(日本の外交は)
半主権のレベルでしかない」。
彼らは日米同盟を日独伊三国同盟にたとえて「アジア太平洋の平和に致命
的な破壊をもたらす枢軸に変化する可能性がある」とも書いた。
社説の結論が興味深い。
「日本に対し、台湾問題から遠ざかるようにご忠告申し上げる。ほかのこ
となら外交的手腕をもてあそび、合従連衡の策を弄してもよいが、台湾問
題に巻き込まれたなら、最後には自ら災いを招くことになる。巻き込まれ
る程度が深いほど、払う代価も大きくなるだろう」
台湾問題では妥協しない、日本は覚悟せよと恫喝しているわけだ。だが菅
首相も、この種の中国の恫喝には屈しない、妥協しないと宣言済みだ。そ
れが米国での一連の発言の意味である。では米国はどうか。周知のように
米国の中国を見る目は非常に厳しい。政治的妥協の余地は余りない。
アントニー・ブリンケン国務長官をはじめ、バイデン政権の閣僚らの人権
意識の厳しさは時間の経過と共により鮮明になっている。アラスカ会談に
おけるブリンケン氏の対立的言辞を外交官らしくないと批判する論調も
あったが、驚くほど率直なあのような批判は、米政権中枢を占める人々の
まっすぐさ加減を示すものとして、私は強い印象を受けた。
恐らく彼らも妥協はしないだろう。とすれば、米中関係は日に日に厳しく
なる。価値観の対立はあらゆる分野に波及し、関係改善は当面望めないだ
ろう。かといって誰も軍事衝突や戦争は望んでいない。この緊張の中で当
事国は無論、どの国も有事勃発に備えるというのが、眼前の状況への答え
なのである。
世界制覇の野望
バイデン大統領は今月14日にアフガニスタンからの撤退を表明した。9月
までの完全撤退を目指すが、それは最大の脅威、中国に力を集中させるた
めだ。バイデン氏は米国の最大の脅威をテロ勢力から中国へと移したので
ある。
米国は9.11に見舞われたブッシュ政権以来、主たる脅威をテロ勢力だとし
てきた。それ以前の米国は中国を戦略的ライバルとしていた。いま20年振
りに中国は米国にとっての最大の脅威と位置づけられたことになる。
米国がテロとの戦いに力を注いだこの間、中国は軍拡を続け恐るべき大国
となった。その結果、米国でさえも中国の軍事力に圧倒されつつある。
最新の「フォーリン・アフェアーズ」(21年5〜6月号)にミッシェル・フ
ロノイ氏が「米軍は優位性喪失の危機にあり」という論文を書いた。フロ
ノイ氏は国防総省で戦略を構築した女性である。フロノイ論文は、米国は
中国軍の強大化、中国共産党の世界制覇の野望を阻止できるのかについて
分析しているのだが、かなり内省的である。
彼女は警告している。米国は戦略を変えるところまでは来ているが、実行
段階に到達していないというのだ。中国が尖閣或いは台湾奪取で動くと
き、日米は必ずこれを防がなければならない。そういう状況下での日米首
脳会談であり、菅首相の発言だった。それが具体的に意味することを、日
本国民、政府、日本全体で考えなければならない。
日本が主権国家であれば、米軍の戦略・戦術が効果的に展開されてもされ
なくても、海上保安庁及び自衛隊の力で中国を抑止しなければならない。
菅首相の日本の防衛力強化の約束は、そのことを覚悟してのものでなけれ
ばならない。
であれば、菅首相は海上保安庁法第25条改正、敵基地攻撃を可能にし、防
衛予算を大幅に積み上げ自衛隊員をふやし、装備全般の顕著な充実整備に
取りかかる必要がある。
こうしたことをひとつひとつ実現していくことが、日米首脳会談で約束し
た防衛力強化であろう。一旦決めたら実行するのが菅首相の特徴だとい
う。新しくも厳しい国際情勢の中で、日本が果敢に生きのびていく道を切
り拓いてほしい。
at 08:35
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月07日
◆脱炭素の鍵は原発の活用だ
櫻井よしこ
日本ルネッサンス 第947回
菅義偉首相の訪米が迫る4月12日、米国の気候変動問題担当大統領特使、
ジョン・ケリー氏が訪中するとの見通しが報じられた。実は同2日、菅首
相とバイデン大統領との首脳会談が突如1週間延期されたとき、日米首脳
会談前にケリー氏が訪中して気候変動問題への米中の取り組みを摺り合わ
せておくためではないかとの憶測が流れた。最終確定ではないが「今週中
にもケリー氏訪中」とのニュースは、その見立てが恐らく外れていなかっ
たことを示唆する。
ケリー氏の中国側の交渉相手、解振華(かいしんか)気候変動担当特使は
2007年から18年まで中国の気候変動問題担当チームの代表だった。すでに
第一線から退いていたのを、氏にまさる適任者はいないという理由で呼び
戻された。ケリー氏も解氏も気候変動問題に関しては深い識見を持つ。経
験豊富で百戦錬磨の達人だ。気候変動は産業競争力を巡る壮大な駆け引き
で、経済安全保障の戦いである。国家の命運をかけたこの戦いを日本では
小泉進次郎環境大臣が担う。
ケリー氏は解氏と頻繁に連絡し合っている。温暖化ガス排出差し引きゼ
ロ、いわゆるカーボンニュートラル政策で米中両国の戦略が調整されつつ
あると見てよいだろう。米中間にあって日本は大丈夫か。
小泉氏は温暖化ガス排出の大幅削減と再生エネルギー重視に傾いている。
米国に追随して50年のカーボンニュートラルの実現に向け、さらに一歩踏
み込んで法制化したのは周知のとおりだ。日本の固い決意表明を国際社会
が評価するとしても、あまり意味はない。各国は互いの動きを見ながらあ
らゆる戦略戦術を駆使してくる。法律で縛ることが戦略戦術上の調整幅を
狭めれば、わが国は自らを追い込むだけだ。30年までの10年間、その先50
年までの20年間は、決して真っ直ぐ一直線で進めるような道筋ではないだ
ろう。国内産業と国益を守りながらの駆け引きが必要なのは言うまでもな
い。その点を小泉氏は理解しているか。
日本の姿を醜く変える
小泉氏の父、純一郎元首相は、日本は全電源を再生エネルギーで供給でき
ると語っている(18年5月13日、東京新聞)。進次郎氏は、30年までに国
の電源構成で再生エネルギーの比率を現在の目標値から倍増させたいと語
る。現在の目標値は22%から24%であるから、倍増すれば44%から48%に
なる。進次郎氏は、原子力への依存度は可能な限り低減させるとも語って
いる。この政策を現実の中に置いて評価してみよう。
シンクタンク「国家基本問題研究所」のエネルギー問題研究会(座長、奈
良林直東京工業大学特任教授)は4月12日、政策提言を発表した。その中
で指摘したことのひとつはわが国は太陽光発電においてすでに世界のトッ
プに立っているという点だ。
現在、世界最大の太陽光発電システム導入量を誇るのは中国で205ギガ
ワット(GW)だ。以下米国の62.3GW、日本の61.8GW、ドイツの
49GWと続く。日本と米国はほぼ拮抗している。
これを国土面積で割って1平方キロ当たりの太陽光発電システム導入量に
計算し直すと、日本は0.164キロワット、中国は0.021、米国は0.007とな
る。1平方キロ当たりでは、日本は中国の8倍、米国の23倍なのだ。狭い国
土、その上、平地が少ない中、日本は国土面積当たりの太陽光発電で最先
端を走っている。日本は再生エネルギーで遅れていると語る人がいるが、
それは間違いだ。すでに十分やっている。
純一郎氏の「全電源を再生エネルギーで供給」という目標を達成するには
どんな施策が必要か、国基研で調査した。わが国の熱消費エネルギー量を
太陽光と風力で賄うと仮定する。太陽光については、本州の全面積の3分
の1に太陽光パネルを敷き詰めなければならない。風力の場合、わが国の
排他的経済水域の殆ど全域で風車設置が必要だ。
まさに日本国土から緑の山々、森、平野がなくなり太陽光パネルで覆われ
る。世界第6位の広さを誇るわが国の海の隅々にまで風車が立つ。自然は
破壊され、景観は損なわれ環境は大きく変えられる。私たちの故郷は全国
津々浦々、様変わりするだろう。日本の姿をこんなに醜く変える構想が国
民に支持されるだろうか。再生エネルギーで電源の100%を賄うという考
え自体が幻想だ。
もう一点、興味深い事実がある。前述した太陽光発電の4大国、中米日独
はいずれもCO2排出係数が非常に大きいのだ。CO2排出係数は1キロ
ワット/hの電気を得るのにどれだけのCO2を排出したかを示す数値の
ことだ。
世界最大の太陽光発電国、中国は1キロワット/hの電気を生み出すのに
720グラムのCO2を排出している。以下、米国は440グラム、日本は540グ
ラム、ドイツは472グラムだ。ロシア並みの数値である。
発電時のCO2排出量が少ないのは、ノルウェーがトップで13グラム、ス
イス42グラム、スウェーデン46グラム、フランス70グラムなどだ。
100%国産
太陽光発電大国が発電時に大量のCO2を出すのは以下の理由による。周
知のように再生エネルギーは天候に左右されるため、24時間一定して電源
を生み出すことはできない。太陽光が陰って太陽光由来の発電が突然大幅
に落ち込んだり、ゼロになったりするとき、間髪を容れず、急いでその分
を補わなければ大変なことになる。そのときの補完電源に火力発電が活用
される場合が多い。太陽光発電大国が軒並みCO2排出係数において最悪
の数字を出し続けるのは当然なのだ。
対してノルウェー以下フランスなどでCO2排出が少ないのは、水力と原
子力の活用の結果である。日本にとって大きなヒントになるはずだ。
合理的に考えれば、脱炭素政策を成功させるには原子力発電の活用が必要
であることが見えてくる。だからこそ世界の潮流は原子力の活用に向かっ
ている。日本もそうすべきだ。エネルギー政策は、まさに国家の基盤の中
の基盤である。ここで間違えれば国力は大きく減殺される。
日本では3.11をきっかけに原発への信頼が決定的に損なわれたが、この10
年間で安全対策は大幅に強化された。国際エネルギー機関(IEA)は最
新の報告書で、日本における最も安価で安定した電源は原子力であると明
記した。
原発の活用は日本の技術力、産業力をも支えてくれる。再エネ関連技術の
多くが海外からの輸入であるのに対し、原子力の技術自給率は100%国産
だからだ。その分、国内産業への貢献度も大きい。
国基研は政策提言で、脱炭素政策の実現には何よりも原発の活用を進めな
ければならないと結論づけた。皆さんはどうお考えだろうか。
日本ルネッサンス 第947回
菅義偉首相の訪米が迫る4月12日、米国の気候変動問題担当大統領特使、
ジョン・ケリー氏が訪中するとの見通しが報じられた。実は同2日、菅首
相とバイデン大統領との首脳会談が突如1週間延期されたとき、日米首脳
会談前にケリー氏が訪中して気候変動問題への米中の取り組みを摺り合わ
せておくためではないかとの憶測が流れた。最終確定ではないが「今週中
にもケリー氏訪中」とのニュースは、その見立てが恐らく外れていなかっ
たことを示唆する。
ケリー氏の中国側の交渉相手、解振華(かいしんか)気候変動担当特使は
2007年から18年まで中国の気候変動問題担当チームの代表だった。すでに
第一線から退いていたのを、氏にまさる適任者はいないという理由で呼び
戻された。ケリー氏も解氏も気候変動問題に関しては深い識見を持つ。経
験豊富で百戦錬磨の達人だ。気候変動は産業競争力を巡る壮大な駆け引き
で、経済安全保障の戦いである。国家の命運をかけたこの戦いを日本では
小泉進次郎環境大臣が担う。
ケリー氏は解氏と頻繁に連絡し合っている。温暖化ガス排出差し引きゼ
ロ、いわゆるカーボンニュートラル政策で米中両国の戦略が調整されつつ
あると見てよいだろう。米中間にあって日本は大丈夫か。
小泉氏は温暖化ガス排出の大幅削減と再生エネルギー重視に傾いている。
米国に追随して50年のカーボンニュートラルの実現に向け、さらに一歩踏
み込んで法制化したのは周知のとおりだ。日本の固い決意表明を国際社会
が評価するとしても、あまり意味はない。各国は互いの動きを見ながらあ
らゆる戦略戦術を駆使してくる。法律で縛ることが戦略戦術上の調整幅を
狭めれば、わが国は自らを追い込むだけだ。30年までの10年間、その先50
年までの20年間は、決して真っ直ぐ一直線で進めるような道筋ではないだ
ろう。国内産業と国益を守りながらの駆け引きが必要なのは言うまでもな
い。その点を小泉氏は理解しているか。
日本の姿を醜く変える
小泉氏の父、純一郎元首相は、日本は全電源を再生エネルギーで供給でき
ると語っている(18年5月13日、東京新聞)。進次郎氏は、30年までに国
の電源構成で再生エネルギーの比率を現在の目標値から倍増させたいと語
る。現在の目標値は22%から24%であるから、倍増すれば44%から48%に
なる。進次郎氏は、原子力への依存度は可能な限り低減させるとも語って
いる。この政策を現実の中に置いて評価してみよう。
シンクタンク「国家基本問題研究所」のエネルギー問題研究会(座長、奈
良林直東京工業大学特任教授)は4月12日、政策提言を発表した。その中
で指摘したことのひとつはわが国は太陽光発電においてすでに世界のトッ
プに立っているという点だ。
現在、世界最大の太陽光発電システム導入量を誇るのは中国で205ギガ
ワット(GW)だ。以下米国の62.3GW、日本の61.8GW、ドイツの
49GWと続く。日本と米国はほぼ拮抗している。
これを国土面積で割って1平方キロ当たりの太陽光発電システム導入量に
計算し直すと、日本は0.164キロワット、中国は0.021、米国は0.007とな
る。1平方キロ当たりでは、日本は中国の8倍、米国の23倍なのだ。狭い国
土、その上、平地が少ない中、日本は国土面積当たりの太陽光発電で最先
端を走っている。日本は再生エネルギーで遅れていると語る人がいるが、
それは間違いだ。すでに十分やっている。
純一郎氏の「全電源を再生エネルギーで供給」という目標を達成するには
どんな施策が必要か、国基研で調査した。わが国の熱消費エネルギー量を
太陽光と風力で賄うと仮定する。太陽光については、本州の全面積の3分
の1に太陽光パネルを敷き詰めなければならない。風力の場合、わが国の
排他的経済水域の殆ど全域で風車設置が必要だ。
まさに日本国土から緑の山々、森、平野がなくなり太陽光パネルで覆われ
る。世界第6位の広さを誇るわが国の海の隅々にまで風車が立つ。自然は
破壊され、景観は損なわれ環境は大きく変えられる。私たちの故郷は全国
津々浦々、様変わりするだろう。日本の姿をこんなに醜く変える構想が国
民に支持されるだろうか。再生エネルギーで電源の100%を賄うという考
え自体が幻想だ。
もう一点、興味深い事実がある。前述した太陽光発電の4大国、中米日独
はいずれもCO2排出係数が非常に大きいのだ。CO2排出係数は1キロ
ワット/hの電気を得るのにどれだけのCO2を排出したかを示す数値の
ことだ。
世界最大の太陽光発電国、中国は1キロワット/hの電気を生み出すのに
720グラムのCO2を排出している。以下、米国は440グラム、日本は540グ
ラム、ドイツは472グラムだ。ロシア並みの数値である。
発電時のCO2排出量が少ないのは、ノルウェーがトップで13グラム、ス
イス42グラム、スウェーデン46グラム、フランス70グラムなどだ。
100%国産
太陽光発電大国が発電時に大量のCO2を出すのは以下の理由による。周
知のように再生エネルギーは天候に左右されるため、24時間一定して電源
を生み出すことはできない。太陽光が陰って太陽光由来の発電が突然大幅
に落ち込んだり、ゼロになったりするとき、間髪を容れず、急いでその分
を補わなければ大変なことになる。そのときの補完電源に火力発電が活用
される場合が多い。太陽光発電大国が軒並みCO2排出係数において最悪
の数字を出し続けるのは当然なのだ。
対してノルウェー以下フランスなどでCO2排出が少ないのは、水力と原
子力の活用の結果である。日本にとって大きなヒントになるはずだ。
合理的に考えれば、脱炭素政策を成功させるには原子力発電の活用が必要
であることが見えてくる。だからこそ世界の潮流は原子力の活用に向かっ
ている。日本もそうすべきだ。エネルギー政策は、まさに国家の基盤の中
の基盤である。ここで間違えれば国力は大きく減殺される。
日本では3.11をきっかけに原発への信頼が決定的に損なわれたが、この10
年間で安全対策は大幅に強化された。国際エネルギー機関(IEA)は最
新の報告書で、日本における最も安価で安定した電源は原子力であると明
記した。
原発の活用は日本の技術力、産業力をも支えてくれる。再エネ関連技術の
多くが海外からの輸入であるのに対し、原子力の技術自給率は100%国産
だからだ。その分、国内産業への貢献度も大きい。
国基研は政策提言で、脱炭素政策の実現には何よりも原発の活用を進めな
ければならないと結論づけた。皆さんはどうお考えだろうか。
at 07:42
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年05月02日
◆日米首脳会談、独立国の気概持てるか
櫻井よしこ
4月16日、日米首脳会談が行われる。バイデン大統領の最初の対面形式の
会談相手が菅義偉首相であることについて菅首相は4日、フジテレビの番
組で「バイデン政権そのものが日本を重視している証だ」と語った。
日本への期待の大きさが見てとれるが、そのひとつがバイデン政権の重点
政策、2050年までの温暖化ガス排出差し引きゼロ政策(カーボンニュート
ラル)への協力だろう。
世界の産業構造を一気に変える力を持つカーボンニュートラル構想を牽引
するのが、気候変動担当大統領特使のジョン・ケリー氏だ。
3月8日から10日までケリー氏は英、ベルギー、仏の3か国を歴訪した。米
欧が打ち出したのは、企業が製品製造過程で社会的責任を果たしているか
を情報公開させる方針だ。社会的責任を完(まっと)うしているかどうかの
判断基準はズバリ、人権を守っているか、脱炭素に真に貢献しているか、
である。
人権問題では米欧はすでに共鳴し合い対中政策の軸に据えた。企業活動の
全分野で人権を守っているかが重要になる。たとえば、新疆ウイグル自治
区の強制労働で作られたものがサプライチェーンの中で使われていないか
などをグローバル企業は検証し、情報公開しなければならない。
もうひとつの基準は全体像で見る脱炭素だ。電気自動車でも燃料電池でも
最先端を走る中国に、米国も欧州も危機感を抱いており、中国牽制の方法
としてライフサイクル・アセスメントの考え方を打ち出した。たとえば、
優れているといっても、中国の電池が二酸化炭素を大量に排出する石炭火
力由来の電力で造られたのではないかなどをチェックし、そうであれば市
場から排除する戦略だ。これは中国にとって、場合によっては日本にとっ
ても、大変な圧力になりかねない。
明星大学教授の細川昌彦氏が3月26日、インターネット配信の「言論テレ
ビ」で語った。
「現在進行中の事態を単に環境問題ととらえるのは間違いです。環境問題
という見せ方は表面だけで、中身は産業の競争力、もっといえば大戦争を
やっているのです。経済安全保障の戦いです」
「人権が最強の武器」
バイデン政権が掲げるカーボンニュートラル構想に日本は大急ぎで追随
し、50年までの達成を法制化するところまでいってしまった。だが、本来
日本が成すべきことは、先述のようなルール作りの一翼を担うことだ。そ
れが小泉進次郎環境大臣の役割だが、氏にその自覚はあるだろうか。
ケリー氏は3月9日、ブリュッセルで自信たっぷりに語っている。
「世界最強の米欧二つの市場が同じ方向へ動けば影響力は大きく深い」
「今起きていることはキャピトルヒル(連邦議会)での(バイデン政権が
辛うじて保つ共和党に対する)小さなリードよりはるかに大きなことだ」
民主党の政権基盤が万全でなくとも、経済界は炭素削減に積極的で、新技
術の開発も進んでいる。共和党が反対しても、物事が動き始めているとし
て自信を強めているのだ。また、米欧最強チームが指し示す基準に中国も
従わせたいとの思惑から、国際社会の合意を取りつけつつある。
そのためにバイデン政権は中国に対して厳しい人材を揃えている。通商代
表部(USTR)代表キャサリン・タイ氏は、中国のウイグル人弾圧に非
常に厳しい意見を持つことで知られる。USTRは3月1日に出した通商政
策報告書で中国の人権侵害が最優先事項であること、ライフサイクル・ア
セスメントに基づいて、「炭素国境調整措置」の採用を検討することを明
記した。
言論テレビで戦略論の大家、田久保忠衛氏が指摘した。
「人権が最強の武器となっているのです。米中対立の構図で、中国の最も
弱い点が人権であり、軍事的対立よりも人権を巡る価値観で米国が優位に
立っています」
バイデン氏はもとより、ブリンケン国務長官、ケリー氏、タイ氏などの閣
僚全員が人権派であり、ケリー氏が他のどの国よりも先に欧州諸国を訪れ
たのは、明らかに人権問題を価値観の問題として戦略的に活用していくた
めの合意形成が目的だっただろう。
日本の立ち位置はどうか。バイデン政権が中国政府のウイグル人弾圧を
ジェノサイド(民族大虐殺)に認定する一方、先進7か国の中で中国共産
党に制裁措置をとっていないのは唯一わが国のみとなった。この点を問わ
れて、加藤勝信官房長官は「わが国には人権問題のみを直接、あるいは明
示的な理由として制裁を実施する規定はありません」と答えた。
わが国は北朝鮮による拉致が許されざる人権侵害でありテロであると国際
社会に訴えて協力を要請してきた。だが、隣国で横行する苛酷な人権弾圧
は、規定がないので見過ごす、などと菅首相はホワイトハウスで言えるだ
ろうか。
日本の覚悟が問われる
もう一点、菅首相に期待されているのは台湾及び尖閣有事に関しての日本
の覚悟であろう。米太平洋艦隊司令官、ジョン・アキリーノ氏は「台湾有
事は大方の予想よりも間近に迫っている」と語っている。
4月4日、フジテレビの番組で橋下徹氏が菅首相に尋ねた。
「台湾有事が現実に起きたら、安倍前総理が火だるまになって作ってくれ
た平和安全法制の中の『存立危機事態』に相当すると判断して、米国と集
団的自衛権を行使する、これはあり得るんですか」
台湾有事が「日本の存立が脅かされる」存立危機事態に該当するとなれ
ば、自衛隊は反撃できる。しかし「日本の平和と安全に重要な影響を与え
る」重要影響事態だと判断されれば、自衛隊は自らは戦わず、米軍などへ
の後方支援にとどまる。
橋下氏のこの重要な問いに菅首相は、「仮定のことに私の立場で答えるこ
とは控えたい」とのみ回答した。
橋下氏が「存立危機事態に当たらないとも明言できないということなんで
すね」と食い下がると、首相は橋下氏を少々険しい目で見て答えた。「今
申し上げたとおりです」
首相はかねてより、尖閣については日米安保条約第5条の適用はあるが、
日本国の領土を日本国が守るのは当然で、守る主体は日本だと語ってい
る。ならば台湾有事でも自衛隊が戦うことは当然だという帰結になるので
はないか。なぜなら、台湾有事では、日本の領土も中国の攻撃目標になる
からだ。台湾を含めたアジア防衛の米軍の拠点は嘉手納など沖縄の基地
だ。中国は真っ先にそこを狙ってくる。従って台湾有事において後方支援
だけで済ませることはあり得ず、それはわが国の国益にも適うまい。
他国に先駆けて行われる対面での日米首脳会談は、気候変動、人権、台
湾・尖閣の問題等で国家としての日本の覚悟が問われる歴史的な場面とな
る。菅総理は政治生命をかけて独立国家としての気概を見せよ。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 日米首脳会談、独立国の気概持てるか 」
4月16日、日米首脳会談が行われる。バイデン大統領の最初の対面形式の
会談相手が菅義偉首相であることについて菅首相は4日、フジテレビの番
組で「バイデン政権そのものが日本を重視している証だ」と語った。
日本への期待の大きさが見てとれるが、そのひとつがバイデン政権の重点
政策、2050年までの温暖化ガス排出差し引きゼロ政策(カーボンニュート
ラル)への協力だろう。
世界の産業構造を一気に変える力を持つカーボンニュートラル構想を牽引
するのが、気候変動担当大統領特使のジョン・ケリー氏だ。
3月8日から10日までケリー氏は英、ベルギー、仏の3か国を歴訪した。米
欧が打ち出したのは、企業が製品製造過程で社会的責任を果たしているか
を情報公開させる方針だ。社会的責任を完(まっと)うしているかどうかの
判断基準はズバリ、人権を守っているか、脱炭素に真に貢献しているか、
である。
人権問題では米欧はすでに共鳴し合い対中政策の軸に据えた。企業活動の
全分野で人権を守っているかが重要になる。たとえば、新疆ウイグル自治
区の強制労働で作られたものがサプライチェーンの中で使われていないか
などをグローバル企業は検証し、情報公開しなければならない。
もうひとつの基準は全体像で見る脱炭素だ。電気自動車でも燃料電池でも
最先端を走る中国に、米国も欧州も危機感を抱いており、中国牽制の方法
としてライフサイクル・アセスメントの考え方を打ち出した。たとえば、
優れているといっても、中国の電池が二酸化炭素を大量に排出する石炭火
力由来の電力で造られたのではないかなどをチェックし、そうであれば市
場から排除する戦略だ。これは中国にとって、場合によっては日本にとっ
ても、大変な圧力になりかねない。
明星大学教授の細川昌彦氏が3月26日、インターネット配信の「言論テレ
ビ」で語った。
「現在進行中の事態を単に環境問題ととらえるのは間違いです。環境問題
という見せ方は表面だけで、中身は産業の競争力、もっといえば大戦争を
やっているのです。経済安全保障の戦いです」
「人権が最強の武器」
バイデン政権が掲げるカーボンニュートラル構想に日本は大急ぎで追随
し、50年までの達成を法制化するところまでいってしまった。だが、本来
日本が成すべきことは、先述のようなルール作りの一翼を担うことだ。そ
れが小泉進次郎環境大臣の役割だが、氏にその自覚はあるだろうか。
ケリー氏は3月9日、ブリュッセルで自信たっぷりに語っている。
「世界最強の米欧二つの市場が同じ方向へ動けば影響力は大きく深い」
「今起きていることはキャピトルヒル(連邦議会)での(バイデン政権が
辛うじて保つ共和党に対する)小さなリードよりはるかに大きなことだ」
民主党の政権基盤が万全でなくとも、経済界は炭素削減に積極的で、新技
術の開発も進んでいる。共和党が反対しても、物事が動き始めているとし
て自信を強めているのだ。また、米欧最強チームが指し示す基準に中国も
従わせたいとの思惑から、国際社会の合意を取りつけつつある。
そのためにバイデン政権は中国に対して厳しい人材を揃えている。通商代
表部(USTR)代表キャサリン・タイ氏は、中国のウイグル人弾圧に非
常に厳しい意見を持つことで知られる。USTRは3月1日に出した通商政
策報告書で中国の人権侵害が最優先事項であること、ライフサイクル・ア
セスメントに基づいて、「炭素国境調整措置」の採用を検討することを明
記した。
言論テレビで戦略論の大家、田久保忠衛氏が指摘した。
「人権が最強の武器となっているのです。米中対立の構図で、中国の最も
弱い点が人権であり、軍事的対立よりも人権を巡る価値観で米国が優位に
立っています」
バイデン氏はもとより、ブリンケン国務長官、ケリー氏、タイ氏などの閣
僚全員が人権派であり、ケリー氏が他のどの国よりも先に欧州諸国を訪れ
たのは、明らかに人権問題を価値観の問題として戦略的に活用していくた
めの合意形成が目的だっただろう。
日本の立ち位置はどうか。バイデン政権が中国政府のウイグル人弾圧を
ジェノサイド(民族大虐殺)に認定する一方、先進7か国の中で中国共産
党に制裁措置をとっていないのは唯一わが国のみとなった。この点を問わ
れて、加藤勝信官房長官は「わが国には人権問題のみを直接、あるいは明
示的な理由として制裁を実施する規定はありません」と答えた。
わが国は北朝鮮による拉致が許されざる人権侵害でありテロであると国際
社会に訴えて協力を要請してきた。だが、隣国で横行する苛酷な人権弾圧
は、規定がないので見過ごす、などと菅首相はホワイトハウスで言えるだ
ろうか。
日本の覚悟が問われる
もう一点、菅首相に期待されているのは台湾及び尖閣有事に関しての日本
の覚悟であろう。米太平洋艦隊司令官、ジョン・アキリーノ氏は「台湾有
事は大方の予想よりも間近に迫っている」と語っている。
4月4日、フジテレビの番組で橋下徹氏が菅首相に尋ねた。
「台湾有事が現実に起きたら、安倍前総理が火だるまになって作ってくれ
た平和安全法制の中の『存立危機事態』に相当すると判断して、米国と集
団的自衛権を行使する、これはあり得るんですか」
台湾有事が「日本の存立が脅かされる」存立危機事態に該当するとなれ
ば、自衛隊は反撃できる。しかし「日本の平和と安全に重要な影響を与え
る」重要影響事態だと判断されれば、自衛隊は自らは戦わず、米軍などへ
の後方支援にとどまる。
橋下氏のこの重要な問いに菅首相は、「仮定のことに私の立場で答えるこ
とは控えたい」とのみ回答した。
橋下氏が「存立危機事態に当たらないとも明言できないということなんで
すね」と食い下がると、首相は橋下氏を少々険しい目で見て答えた。「今
申し上げたとおりです」
首相はかねてより、尖閣については日米安保条約第5条の適用はあるが、
日本国の領土を日本国が守るのは当然で、守る主体は日本だと語ってい
る。ならば台湾有事でも自衛隊が戦うことは当然だという帰結になるので
はないか。なぜなら、台湾有事では、日本の領土も中国の攻撃目標になる
からだ。台湾を含めたアジア防衛の米軍の拠点は嘉手納など沖縄の基地
だ。中国は真っ先にそこを狙ってくる。従って台湾有事において後方支援
だけで済ませることはあり得ず、それはわが国の国益にも適うまい。
他国に先駆けて行われる対面での日米首脳会談は、気候変動、人権、台
湾・尖閣の問題等で国家としての日本の覚悟が問われる歴史的な場面とな
る。菅総理は政治生命をかけて独立国家としての気概を見せよ。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 日米首脳会談、独立国の気概持てるか 」
at 08:14
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年04月23日
◆危機感欠如の楽天・テンセント提携
櫻井よしこ
2021.04.08 (木)
『週刊新潮』 2021年4月8日号
日本ルネッサンス 第945回
世の中が急変し、古い仕組みが新しい仕組みに取って代わられようとする
とき、大事なことは新局面で生き残るために何が必要かを考え、確実に実
行することだ。すべきことは、➀正しい現状分析、➁解決法の突きとめ、➂
その実行、に尽きる。
わが国日本は右の三つのことを成し遂げ得るか。それが3月26日の「言論
テレビ」の主題だった。番組で具体的に取り上げたのは、2050年までに温
室効果ガスの排出を差し引きゼロにするという菅義偉首相のカーボン
ニュートラル政策と、三木谷浩史氏の楽天に日本郵政と中国のIT大手、
テンセントが投資するという件だった。
論者は、戦略論の大家でシンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の
田久保忠衛氏と、明星大学教授で国基研の研究員、細川昌彦氏である。
カーボンニュートラルの件では、小泉進次郎環境大臣が主導して50年まで
の実質排出量ゼロが閣議決定された。小泉氏らの政策がこのまま続行され
れば日本の産業競争力は大いに殺がれ、トヨタは事実上潰されかねない。
カーボンニュートラルで日本が考えるべきことの詳細については是非、番
組をネットでご覧下さればと思う。
本欄では楽天案件に集中するが、同件については細川氏が誰よりも先に問
題提起し、国基研が内外に発信してきた。概要は以下のとおりだ。
楽天は3月12日、日本郵政、テンセント、米国のウォルマートなどを引受
先として第三者割当増資で2423億円の調達を発表した。しかし通信、情報
分野での中国に対する国際社会の懸念の高まりを考えれば、楽天の動きは
極めて奇妙だ。
トランプ前大統領はファーウェイ問題に始まり、中国の通信事業体に強い
警戒心を抱き、中国人民解放軍と関係のある中国企業への投資を禁ずる大
統領令に昨年11月に署名した。米国防総省はアリババ集団及びテンセント
が人民解放軍を支援しているとして米国民の投資を禁止するブラックリス
トに右の2社を追加すべく動いた。財務省が介入して2社は投資禁止対象に
はならなかったが、バイデン政権下でも強い懸念は払拭されていない。
「個人データ」を楽天が把握
米国が投資禁止を検討したものの禁止決定に至らなかった背景に、テンセ
ントとアリババの規模の大きさがあるだろう。両社の主要市場での時価総
額合計は1兆ドル(約110兆円)以上と見られる。昨年末段階で、テンセ
ントの純利益は2兆6000億円に上っていた。
この巨大IT企業が楽天に出資する。当初の出資額は子会社からの660億
円、2兆6000億円の純利益を出すテンセントにとっては吹けば飛ぶような
少額で、払い込みは3月31日だ。一方日本郵政は3月29日に1500億円を払い
込んだ。日本郵政は資本の56.87%を政府と自治体が出資する事実上の国
有企業である。傘下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三事業会社
を抱える。
この巨大企業である日本郵政と楽天は昨年12月24日、物流分野での包括的
な業務提携で基本合意していた。両社の業務提携には金融も含まれてい
る。つまり、日本郵便の豊富な物流データ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の
豊富な金融データという日本郵政保有の「個人データの宝の山」に楽天は
接近できるようになったということだ。
事実上の国有企業、日本郵政が楽天という一企業に資本投下し、それが保
有する国民情報を楽天に把握されてしまいかねない。このこと自体、大問
題だが、加えてそこにテンセントが連なるのである。
テンセントの人気アプリ「ウィーチャット」は10億の中国人が使ってお
り、ウィーチャット経由で10億人の会話、行動、購買履歴の全てが把握、
監視されているのは周知のことだ。中国共産党はさまざまな手段で国民監
視を強めているが、彼らにとってみればテンセントもアリババも国民監視
に欠かせない非常に強力なツールである。だからこそ中国共産党は両社へ
の統制強化に乗り出している。
日本郵政保有の日本国民についての膨大な情報がテンセント側に流れるよ
うなことがあれば、それはそっくりそのまま中国共産党に握られてしま
う。こんなことを許してよいのか。日本政府はテンセントによる楽天への
資本注入を止めるべきなのだ。
細川氏がこうした問題点を指摘した結果か、三木谷氏は日本政府や米大使
館を訪れてテンセントの出資に問題はないことを説明する羽目になった。
説明のポイントはテンセントはただ資本注入するだけというものだった。
細川氏が語った。
「3月12日の会見で三木谷氏はテンセントとの事業提携について、Eコ
マースなどを例にあげて、4月以降に協議すると語っています。にも拘わ
らず、テンセントの資本参加を問題視されると、出資だけだと言うのは極
めて不自然です。二枚舌と言われても仕方ないでしょう」
国家として成す術がない
再度強調したいのは、政府はテンセントと楽天の提携を阻止すべきだった
ということだ。しかし政府中枢筋のある人物は、政府に出来ることは限ら
れており、現行外為法ではテンセントが資金を払い込んできたら阻止でき
ないと、力なく語った。唯一できるのはたとえば楽天保有の個人情報には
アクセスしない、などの条件をつけることだという。しかし、中国側がこ
の種の約束を守ることは100%ない、すべてカラ約束に終わると断言して
よいだろう。
ならばどうするのか、日本国と国民の情報は取られるままになるのか。日
本の国益を強く意識しているこの人物に私は尋ねた。答えは想定外だっ
た。「米国にやってもらうしかない」と言うのである。
これこそが問題であろう。わが国には、国家戦略に基づいて事を成そうと
いうとき、実行に必要な法的基盤がない。政府には権限という権限のおよ
そ全てがない。方針を立てても、実行できないことばかりなのが、日本国
の実態である。
武漢ウイルスを抑制するための緊急事態宣言でも、政府には命令権限はな
かった。およそ全ての分野に同じ構造的問題が存在する。日本はその意味
で国家ではないのだ。少なくともまともな国家ではない。
楽天は米国のファーウェイ締め出し作戦に、日本のクリーンな企業のひと
つとして参加している。中国とつながっていないという意味でクリーンと
見做されているが、今回の件で米国での事業に負の影響が出ることも考え
られる。それは楽天自身の問題だが、米中対立の中で、究極的に日本は米
国と協力するしかない。戦略的パートナーは米国であり中国ではあり得な
い。テンセントに日本の情報が抜かれるような提携は避けるのが国益であ
る。そんなとき、楽天・テンセント問題に国家として成す術がないという
事実こそ深刻な危機だ。
2021.04.08 (木)
『週刊新潮』 2021年4月8日号
日本ルネッサンス 第945回
世の中が急変し、古い仕組みが新しい仕組みに取って代わられようとする
とき、大事なことは新局面で生き残るために何が必要かを考え、確実に実
行することだ。すべきことは、➀正しい現状分析、➁解決法の突きとめ、➂
その実行、に尽きる。
わが国日本は右の三つのことを成し遂げ得るか。それが3月26日の「言論
テレビ」の主題だった。番組で具体的に取り上げたのは、2050年までに温
室効果ガスの排出を差し引きゼロにするという菅義偉首相のカーボン
ニュートラル政策と、三木谷浩史氏の楽天に日本郵政と中国のIT大手、
テンセントが投資するという件だった。
論者は、戦略論の大家でシンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の
田久保忠衛氏と、明星大学教授で国基研の研究員、細川昌彦氏である。
カーボンニュートラルの件では、小泉進次郎環境大臣が主導して50年まで
の実質排出量ゼロが閣議決定された。小泉氏らの政策がこのまま続行され
れば日本の産業競争力は大いに殺がれ、トヨタは事実上潰されかねない。
カーボンニュートラルで日本が考えるべきことの詳細については是非、番
組をネットでご覧下さればと思う。
本欄では楽天案件に集中するが、同件については細川氏が誰よりも先に問
題提起し、国基研が内外に発信してきた。概要は以下のとおりだ。
楽天は3月12日、日本郵政、テンセント、米国のウォルマートなどを引受
先として第三者割当増資で2423億円の調達を発表した。しかし通信、情報
分野での中国に対する国際社会の懸念の高まりを考えれば、楽天の動きは
極めて奇妙だ。
トランプ前大統領はファーウェイ問題に始まり、中国の通信事業体に強い
警戒心を抱き、中国人民解放軍と関係のある中国企業への投資を禁ずる大
統領令に昨年11月に署名した。米国防総省はアリババ集団及びテンセント
が人民解放軍を支援しているとして米国民の投資を禁止するブラックリス
トに右の2社を追加すべく動いた。財務省が介入して2社は投資禁止対象に
はならなかったが、バイデン政権下でも強い懸念は払拭されていない。
「個人データ」を楽天が把握
米国が投資禁止を検討したものの禁止決定に至らなかった背景に、テンセ
ントとアリババの規模の大きさがあるだろう。両社の主要市場での時価総
額合計は1兆ドル(約110兆円)以上と見られる。昨年末段階で、テンセ
ントの純利益は2兆6000億円に上っていた。
この巨大IT企業が楽天に出資する。当初の出資額は子会社からの660億
円、2兆6000億円の純利益を出すテンセントにとっては吹けば飛ぶような
少額で、払い込みは3月31日だ。一方日本郵政は3月29日に1500億円を払い
込んだ。日本郵政は資本の56.87%を政府と自治体が出資する事実上の国
有企業である。傘下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三事業会社
を抱える。
この巨大企業である日本郵政と楽天は昨年12月24日、物流分野での包括的
な業務提携で基本合意していた。両社の業務提携には金融も含まれてい
る。つまり、日本郵便の豊富な物流データ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の
豊富な金融データという日本郵政保有の「個人データの宝の山」に楽天は
接近できるようになったということだ。
事実上の国有企業、日本郵政が楽天という一企業に資本投下し、それが保
有する国民情報を楽天に把握されてしまいかねない。このこと自体、大問
題だが、加えてそこにテンセントが連なるのである。
テンセントの人気アプリ「ウィーチャット」は10億の中国人が使ってお
り、ウィーチャット経由で10億人の会話、行動、購買履歴の全てが把握、
監視されているのは周知のことだ。中国共産党はさまざまな手段で国民監
視を強めているが、彼らにとってみればテンセントもアリババも国民監視
に欠かせない非常に強力なツールである。だからこそ中国共産党は両社へ
の統制強化に乗り出している。
日本郵政保有の日本国民についての膨大な情報がテンセント側に流れるよ
うなことがあれば、それはそっくりそのまま中国共産党に握られてしま
う。こんなことを許してよいのか。日本政府はテンセントによる楽天への
資本注入を止めるべきなのだ。
細川氏がこうした問題点を指摘した結果か、三木谷氏は日本政府や米大使
館を訪れてテンセントの出資に問題はないことを説明する羽目になった。
説明のポイントはテンセントはただ資本注入するだけというものだった。
細川氏が語った。
「3月12日の会見で三木谷氏はテンセントとの事業提携について、Eコ
マースなどを例にあげて、4月以降に協議すると語っています。にも拘わ
らず、テンセントの資本参加を問題視されると、出資だけだと言うのは極
めて不自然です。二枚舌と言われても仕方ないでしょう」
国家として成す術がない
再度強調したいのは、政府はテンセントと楽天の提携を阻止すべきだった
ということだ。しかし政府中枢筋のある人物は、政府に出来ることは限ら
れており、現行外為法ではテンセントが資金を払い込んできたら阻止でき
ないと、力なく語った。唯一できるのはたとえば楽天保有の個人情報には
アクセスしない、などの条件をつけることだという。しかし、中国側がこ
の種の約束を守ることは100%ない、すべてカラ約束に終わると断言して
よいだろう。
ならばどうするのか、日本国と国民の情報は取られるままになるのか。日
本の国益を強く意識しているこの人物に私は尋ねた。答えは想定外だっ
た。「米国にやってもらうしかない」と言うのである。
これこそが問題であろう。わが国には、国家戦略に基づいて事を成そうと
いうとき、実行に必要な法的基盤がない。政府には権限という権限のおよ
そ全てがない。方針を立てても、実行できないことばかりなのが、日本国
の実態である。
武漢ウイルスを抑制するための緊急事態宣言でも、政府には命令権限はな
かった。およそ全ての分野に同じ構造的問題が存在する。日本はその意味
で国家ではないのだ。少なくともまともな国家ではない。
楽天は米国のファーウェイ締め出し作戦に、日本のクリーンな企業のひと
つとして参加している。中国とつながっていないという意味でクリーンと
見做されているが、今回の件で米国での事業に負の影響が出ることも考え
られる。それは楽天自身の問題だが、米中対立の中で、究極的に日本は米
国と協力するしかない。戦略的パートナーは米国であり中国ではあり得な
い。テンセントに日本の情報が抜かれるような提携は避けるのが国益であ
る。そんなとき、楽天・テンセント問題に国家として成す術がないという
事実こそ深刻な危機だ。
at 08:06
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年04月18日
◆危機感欠如の楽天・テンセント提携
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年4月8日号
日本ルネッサンス 第945回
世の中が急変し、古い仕組みが新しい仕組みに取って代わられようとする
とき、大事なことは新局面で生き残るために何が必要かを考え、確実に実
行することだ。すべきことは、➀正しい現状分析、➁解決法の突きとめ、➂
その実行、に尽きる。
わが国日本は右の三つのことを成し遂げ得るか。それが3月26日の「言論
テレビ」の主題だった。番組で具体的に取り上げたのは、2050年までに温
室効果ガスの排出を差し引きゼロにするという菅義偉首相のカーボン
ニュートラル政策と、三木谷浩史氏の楽天に日本郵政と中国のIT大手、
テンセントが投資するという件だった。
論者は、戦略論の大家でシンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の
田久保忠衛氏と、明星大学教授で国基研の研究員、細川昌彦氏である。
カーボンニュートラルの件では、小泉進次郎環境大臣が主導して50年まで
の実質排出量ゼロが閣議決定された。小泉氏らの政策がこのまま続行され
れば日本の産業競争力は大いに殺がれ、トヨタは事実上潰されかねない。
カーボンニュートラルで日本が考えるべきことの詳細については是非、番
組をネットでご覧下さればと思う。
本欄では楽天案件に集中するが、同件については細川氏が誰よりも先に問
題提起し、国基研が内外に発信してきた。概要は以下のとおりだ。
楽天は3月12日、日本郵政、テンセント、米国のウォルマートなどを引受
先として第三者割当増資で2423億円の調達を発表した。しかし通信、情報
分野での中国に対する国際社会の懸念の高まりを考えれば、楽天の動きは
極めて奇妙だ。
トランプ前大統領はファーウェイ問題に始まり、中国の通信事業体に強い
警戒心を抱き、中国人民解放軍と関係のある中国企業への投資を禁ずる大
統領令に昨年11月に署名した。米国防総省はアリババ集団及びテンセント
が人民解放軍を支援しているとして米国民の投資を禁止するブラックリス
トに右の2社を追加すべく動いた。財務省が介入して2社は投資禁止対象に
はならなかったが、バイデン政権下でも強い懸念は払拭されていない。
「個人データ」を楽天が把握
米国が投資禁止を検討したものの禁止決定に至らなかった背景に、テンセ
ントとアリババの規模の大きさがあるだろう。両社の主要市場での時価総
額合計は1兆ドル(約110兆円)以上と見られる。昨年末段階で、テンセ
ントの純利益は2兆6000億円に上っていた。
この巨大IT企業が楽天に出資する。当初の出資額は子会社からの660億
円、2兆6000億円の純利益を出すテンセントにとっては吹けば飛ぶような
少額で、払い込みは3月31日だ。一方日本郵政は3月29日に1500億円を払い
込んだ。日本郵政は資本の56.87%を政府と自治体が出資する事実上の国
有企業である。傘下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三事業会社
を抱える。
この巨大企業である日本郵政と楽天は昨年12月24日、物流分野での包括的
な業務提携で基本合意していた。両社の業務提携には金融も含まれてい
る。つまり、日本郵便の豊富な物流データ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の
豊富な金融データという日本郵政保有の「個人データの宝の山」に楽天は
接近できるようになったということだ。
事実上の国有企業、日本郵政が楽天という一企業に資本投下し、それが保
有する国民情報を楽天に把握されてしまいかねない。このこと自体、大問
題だが、加えてそこにテンセントが連なるのである。
テンセントの人気アプリ「ウィーチャット」は10億の中国人が使ってお
り、ウィーチャット経由で10億人の会話、行動、購買履歴の全てが把握、
監視されているのは周知のことだ。中国共産党はさまざまな手段で国民監
視を強めているが、彼らにとってみればテンセントもアリババも国民監視
に欠かせない非常に強力なツールである。だからこそ中国共産党は両社へ
の統制強化に乗り出している。
日本郵政保有の日本国民についての膨大な情報がテンセント側に流れるよ
うなことがあれば、それはそっくりそのまま中国共産党に握られてしま
う。こんなことを許してよいのか。日本政府はテンセントによる楽天への
資本注入を止めるべきなのだ。
細川氏がこうした問題点を指摘した結果か、三木谷氏は日本政府や米大使
館を訪れてテンセントの出資に問題はないことを説明する羽目になった。
説明のポイントはテンセントはただ資本注入するだけというものだった。
細川氏が語った。
「3月12日の会見で三木谷氏はテンセントとの事業提携について、Eコ
マースなどを例にあげて、4月以降に協議すると語っています。にも拘わ
らず、テンセントの資本参加を問題視されると、出資だけだと言うのは極
めて不自然です。二枚舌と言われても仕方ないでしょう」
国家として成す術がない
再度強調したいのは、政府はテンセントと楽天の提携を阻止すべきだった
ということだ。しかし政府中枢筋のある人物は、政府に出来ることは限ら
れており、現行外為法ではテンセントが資金を払い込んできたら阻止でき
ないと、力なく語った。唯一できるのはたとえば楽天保有の個人情報には
アクセスしない、などの条件をつけることだという。しかし、中国側がこ
の種の約束を守ることは100%ない、すべてカラ約束に終わると断言して
よいだろう。
ならばどうするのか、日本国と国民の情報は取られるままになるのか。日
本の国益を強く意識しているこの人物に私は尋ねた。答えは想定外だっ
た。「米国にやってもらうしかない」と言うのである。
これこそが問題であろう。わが国には、国家戦略に基づいて事を成そうと
いうとき、実行に必要な法的基盤がない。政府には権限という権限のおよ
そ全てがない。方針を立てても、実行できないことばかりなのが、日本国
の実態である。
武漢ウイルスを抑制するための緊急事態宣言でも、政府には命令権限はな
かった。およそ全ての分野に同じ構造的問題が存在する。日本はその意味
で国家ではないのだ。少なくともまともな国家ではない。
楽天は米国のファーウェイ締め出し作戦に、日本のクリーンな企業のひと
つとして参加している。中国とつながっていないという意味でクリーンと
見做されているが、今回の件で米国での事業に負の影響が出ることも考え
られる。それは楽天自身の問題だが、米中対立の中で、究極的に日本は米
国と協力するしかない。戦略的パートナーは米国であり中国ではあり得な
い。テンセントに日本の情報が抜かれるような提携は避けるのが国益であ
る。そんなとき、楽天・テンセント問題に国家として成す術がないという
事実こそ深刻な危機だ。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 危機感欠如の楽天・テンセント提携 」
『週刊新潮』 2021年4月8日号
日本ルネッサンス 第945回
世の中が急変し、古い仕組みが新しい仕組みに取って代わられようとする
とき、大事なことは新局面で生き残るために何が必要かを考え、確実に実
行することだ。すべきことは、➀正しい現状分析、➁解決法の突きとめ、➂
その実行、に尽きる。
わが国日本は右の三つのことを成し遂げ得るか。それが3月26日の「言論
テレビ」の主題だった。番組で具体的に取り上げたのは、2050年までに温
室効果ガスの排出を差し引きゼロにするという菅義偉首相のカーボン
ニュートラル政策と、三木谷浩史氏の楽天に日本郵政と中国のIT大手、
テンセントが投資するという件だった。
論者は、戦略論の大家でシンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の
田久保忠衛氏と、明星大学教授で国基研の研究員、細川昌彦氏である。
カーボンニュートラルの件では、小泉進次郎環境大臣が主導して50年まで
の実質排出量ゼロが閣議決定された。小泉氏らの政策がこのまま続行され
れば日本の産業競争力は大いに殺がれ、トヨタは事実上潰されかねない。
カーボンニュートラルで日本が考えるべきことの詳細については是非、番
組をネットでご覧下さればと思う。
本欄では楽天案件に集中するが、同件については細川氏が誰よりも先に問
題提起し、国基研が内外に発信してきた。概要は以下のとおりだ。
楽天は3月12日、日本郵政、テンセント、米国のウォルマートなどを引受
先として第三者割当増資で2423億円の調達を発表した。しかし通信、情報
分野での中国に対する国際社会の懸念の高まりを考えれば、楽天の動きは
極めて奇妙だ。
トランプ前大統領はファーウェイ問題に始まり、中国の通信事業体に強い
警戒心を抱き、中国人民解放軍と関係のある中国企業への投資を禁ずる大
統領令に昨年11月に署名した。米国防総省はアリババ集団及びテンセント
が人民解放軍を支援しているとして米国民の投資を禁止するブラックリス
トに右の2社を追加すべく動いた。財務省が介入して2社は投資禁止対象に
はならなかったが、バイデン政権下でも強い懸念は払拭されていない。
「個人データ」を楽天が把握
米国が投資禁止を検討したものの禁止決定に至らなかった背景に、テンセ
ントとアリババの規模の大きさがあるだろう。両社の主要市場での時価総
額合計は1兆ドル(約110兆円)以上と見られる。昨年末段階で、テンセ
ントの純利益は2兆6000億円に上っていた。
この巨大IT企業が楽天に出資する。当初の出資額は子会社からの660億
円、2兆6000億円の純利益を出すテンセントにとっては吹けば飛ぶような
少額で、払い込みは3月31日だ。一方日本郵政は3月29日に1500億円を払い
込んだ。日本郵政は資本の56.87%を政府と自治体が出資する事実上の国
有企業である。傘下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の三事業会社
を抱える。
この巨大企業である日本郵政と楽天は昨年12月24日、物流分野での包括的
な業務提携で基本合意していた。両社の業務提携には金融も含まれてい
る。つまり、日本郵便の豊富な物流データ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の
豊富な金融データという日本郵政保有の「個人データの宝の山」に楽天は
接近できるようになったということだ。
事実上の国有企業、日本郵政が楽天という一企業に資本投下し、それが保
有する国民情報を楽天に把握されてしまいかねない。このこと自体、大問
題だが、加えてそこにテンセントが連なるのである。
テンセントの人気アプリ「ウィーチャット」は10億の中国人が使ってお
り、ウィーチャット経由で10億人の会話、行動、購買履歴の全てが把握、
監視されているのは周知のことだ。中国共産党はさまざまな手段で国民監
視を強めているが、彼らにとってみればテンセントもアリババも国民監視
に欠かせない非常に強力なツールである。だからこそ中国共産党は両社へ
の統制強化に乗り出している。
日本郵政保有の日本国民についての膨大な情報がテンセント側に流れるよ
うなことがあれば、それはそっくりそのまま中国共産党に握られてしま
う。こんなことを許してよいのか。日本政府はテンセントによる楽天への
資本注入を止めるべきなのだ。
細川氏がこうした問題点を指摘した結果か、三木谷氏は日本政府や米大使
館を訪れてテンセントの出資に問題はないことを説明する羽目になった。
説明のポイントはテンセントはただ資本注入するだけというものだった。
細川氏が語った。
「3月12日の会見で三木谷氏はテンセントとの事業提携について、Eコ
マースなどを例にあげて、4月以降に協議すると語っています。にも拘わ
らず、テンセントの資本参加を問題視されると、出資だけだと言うのは極
めて不自然です。二枚舌と言われても仕方ないでしょう」
国家として成す術がない
再度強調したいのは、政府はテンセントと楽天の提携を阻止すべきだった
ということだ。しかし政府中枢筋のある人物は、政府に出来ることは限ら
れており、現行外為法ではテンセントが資金を払い込んできたら阻止でき
ないと、力なく語った。唯一できるのはたとえば楽天保有の個人情報には
アクセスしない、などの条件をつけることだという。しかし、中国側がこ
の種の約束を守ることは100%ない、すべてカラ約束に終わると断言して
よいだろう。
ならばどうするのか、日本国と国民の情報は取られるままになるのか。日
本の国益を強く意識しているこの人物に私は尋ねた。答えは想定外だっ
た。「米国にやってもらうしかない」と言うのである。
これこそが問題であろう。わが国には、国家戦略に基づいて事を成そうと
いうとき、実行に必要な法的基盤がない。政府には権限という権限のおよ
そ全てがない。方針を立てても、実行できないことばかりなのが、日本国
の実態である。
武漢ウイルスを抑制するための緊急事態宣言でも、政府には命令権限はな
かった。およそ全ての分野に同じ構造的問題が存在する。日本はその意味
で国家ではないのだ。少なくともまともな国家ではない。
楽天は米国のファーウェイ締め出し作戦に、日本のクリーンな企業のひと
つとして参加している。中国とつながっていないという意味でクリーンと
見做されているが、今回の件で米国での事業に負の影響が出ることも考え
られる。それは楽天自身の問題だが、米中対立の中で、究極的に日本は米
国と協力するしかない。戦略的パートナーは米国であり中国ではあり得な
い。テンセントに日本の情報が抜かれるような提携は避けるのが国益であ
る。そんなとき、楽天・テンセント問題に国家として成す術がないという
事実こそ深刻な危機だ。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 危機感欠如の楽天・テンセント提携 」
at 08:07
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年04月14日
◆米中苛烈、中国の時間稼ぎを許すな
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年4月1日号
日本ルネッサンス 第944回
3月18、19の両日アラスカで行われた米中会談は中国の本音を巧まずして
暴露した。中国はもう少し時間稼ぎをしたいのである。
激しい応酬や威嚇的な言葉を削ぎ落として、時系列で事実関係を辿れば、
バイデン政権の対中外交における予想以上の周到さが見てとれる。
中国の全国人民代表大会(3月5日〜11日)を受けて、バイデン米大統領は
12日に、日米豪印の4か国首脳会議を行った。8日から18日まで2年振りに
米韓合同演習を実施した。ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は
日米の外務、防衛両大臣の会合、「2+2」のために15日に来日し、東京で
2泊3日を過ごした。17日午後には韓国に赴き、米韓の「2+2」をしてみせた。
東京では、米国は核も含めた全力での尖閣と日本の防衛に対する「絶対
的」な誓約について言明した。香港、ウイグル、チベットの弾圧、国際法
無視、などで中国を名指しで非難して、2人の閣僚は韓国に向かった。
ソウルでの「2+2」では中国に全く言及しなかった、米国の対中姿勢は韓
国に行った途端揺らいだ、というような解説が日本メディアではあった
が、詳細に見ると印象は異る。確かに韓国側は中国に全く触れなかった
が、米国側はブリンケン、オースティン両長官共に中国を名指しで批判し
ている。17日夕方の米韓外相会談に先立つ会見でブリンケン氏は次のよう
に述べている。
「中国は弾圧と侵略の手法によって組織的に香港の自治を侵食し、台湾の
民主主義を切り崩し、ウイグル人とチベット人の人権を蹂躙し、南シナ海
で国際法に違反して海洋権益を主張している」
バイデン大統領が2月4日に行った初の外交演説と重なる。大統領演説の要
点は以下の通りだった。
「中国は最も深刻な競争相手だ。攻撃的で威圧的な行動、人権弾圧、知財
の窃盗、グローバル・ガバナンス(世界統治)に対する中国の姿勢に米国
は強い立場から反撃する」
地球全体を支配
バイデン大統領は気候変動などの問題では協力する用意はあるとしながら
も、中国にはあくまでも「強い立場」から交渉すると宣言し、日韓両国で
ブリンケン長官らがその意志を鮮明に示したわけだ。対照的に中国側は次
のようなメッセージを発した。
「中国が米国とのハイレベル戦略対話に同意したのは両国元首の電話会談
での精神を実行に移す重要な措置で、米国と中国が互いに歩み寄り、中米
関係の健全で安定した発展を図ることを希望する」「アラスカは米国の最
北の州だ。中国代表団はアラスカに到着した時、寒冷の気候だけでなく、
米国のホストとしてのもてなしも感じた」(3月19日、趙立堅中国外務省
報道官)
日韓両国での米国側の発言を気にしながらも最後まで、即ち、米国と直接
話し合うときまで、中国が米国との交渉続行を望み、しかもそれを戦略対
話として定期化したいと切望していたのは明らかだ。アラスカの激しい応
酬の中でさえも、楊潔篪共産党政治局員は「対立ではなく、意思疎通を強
め、相違をうまく処理し、協力を拡大する必要がある」と明言した。中国
が渇望しているのは米中関係の「安定と継続」である。
中国は建国100年の2049年までに「中国の夢」を実現して、世界の諸民族
の中にそびえ立つと宣言済みだ。夢の実現は力によってなされるが、力は
軍事力だけではない。より決定的なのが経済力であり、経済を随意に活用
できる一党独裁政権の政治力である。
経済力を政治目的に沿って活用し、地球全体を支配する仕組みの構築が中
国の戦略だ。具体例のひとつが5G通信網である。すでに米国の裏庭のラ
テンアメリカ、欧州が気にする東欧、52に上るアフリカ諸国、米国の関与
が手薄でロシアの影響力が弱まっている中央アジアさらに中東も含めて世
界各地域で中国は猛然と通信インフラ建設を主導する
大陸をまたぐインターネット情報の95%以上が光ファイバー海底ケーブル
で伝達されるため、海底ケーブル回線の建設と維持、管理は世界支配の決
定力となる。先頃まで世界の海底ケーブルの4割は米国が持ち、日本が3
割、フランスが2割だった。だが中国が急速に追いつき始めた。世界の海
底ケーブル地図の作成で知られるワシントンのテレジオグラフィー社によ
ると、現在世界には406本の海底ケーブルがあり、米日仏の一角に中国の
「華為海洋」などが食い込んだ。2020年末段階では彼らは世界シェアの
20%を建設したとみられる。
深い海の底を這うケーブルと、宇宙から送信される情報が合体するときに
地球を包み込む通信網は完璧になる。宇宙での情報基地は宇宙ステーショ
ンであり、月や火星に建設する軍事基地だ。月探査では近年中国が米国に
一歩先んじ、火星には米国がひと足早く探査機を送り込んだ。
人口面ですでに下り坂
米中の青白い炎のようなせめぎ合いは、日本にとって他人事ではない。仮
に中国が自前の5G技術で地球を包み込む通信インフラを建設してしまえ
ば、彼らはあらゆる分野で優位に立ち、影響力を拡大する。中国の経済と
技術なしにはどの国も生きにくい世界が出来たとき、中国共産党は遠慮会
釈なく、全ての国と民族に中国共産党の価値観を押しつけるだろう。その
ような基盤完成までには、あと少し時間が必要だと、習近平国家主席らは
考えているのである。
「あと少しの時間」は、別の意味でも非常に重要な要素を含んでいる。中
国は経済成長持続の基本である人口面ですでに下り坂に入った。中国の生
産年齢人口(15〜64歳)は2010年から、総人口は18年から減少に転じた。
米国の国家情報会議(NIC)は昨年12月、人口面でインドが「群を抜い
て」増加傾向に、中国が「群を抜いて」減少傾向にあると発表した。長期
予想ではインド経済は21世紀を通じて成長し、今世紀末、インドは中国に
取って代わるとも予測した。
東風が西風をしのいでいると、中国は言う。歴史は米国ではなく中国に追
い風を送っていると。しかし、習主席にとって米国と戦える、相対的余力
のある時間は長くはない。米国と直接戦うのではなく、まず弱小の貧しい
国々を、次に中級国家を搦め捕り、中国中心の供給網と通信網を構築しさ
えすれば米国も抗い得ない。そのような世界のインフラを完成させたいと
いうのが習氏の思惑であろう。充分に準備が整ったときには、台湾を奪
い、尖閣を奪い、毛沢東に並ぶ中国の国父の地位も手に入ると考えている。
逆に言えば、あと10年、私たちが習氏の暴走を抑止できれば中国共産党と
の戦いに勝てる。今が正念場だ。日本は、中国に対峙するために、全力を
振り絞って軍事力も経済力も強化しなければならない。
『週刊新潮』 2021年4月1日号
日本ルネッサンス 第944回
3月18、19の両日アラスカで行われた米中会談は中国の本音を巧まずして
暴露した。中国はもう少し時間稼ぎをしたいのである。
激しい応酬や威嚇的な言葉を削ぎ落として、時系列で事実関係を辿れば、
バイデン政権の対中外交における予想以上の周到さが見てとれる。
中国の全国人民代表大会(3月5日〜11日)を受けて、バイデン米大統領は
12日に、日米豪印の4か国首脳会議を行った。8日から18日まで2年振りに
米韓合同演習を実施した。ブリンケン国務長官とオースティン国防長官は
日米の外務、防衛両大臣の会合、「2+2」のために15日に来日し、東京で
2泊3日を過ごした。17日午後には韓国に赴き、米韓の「2+2」をしてみせた。
東京では、米国は核も含めた全力での尖閣と日本の防衛に対する「絶対
的」な誓約について言明した。香港、ウイグル、チベットの弾圧、国際法
無視、などで中国を名指しで非難して、2人の閣僚は韓国に向かった。
ソウルでの「2+2」では中国に全く言及しなかった、米国の対中姿勢は韓
国に行った途端揺らいだ、というような解説が日本メディアではあった
が、詳細に見ると印象は異る。確かに韓国側は中国に全く触れなかった
が、米国側はブリンケン、オースティン両長官共に中国を名指しで批判し
ている。17日夕方の米韓外相会談に先立つ会見でブリンケン氏は次のよう
に述べている。
「中国は弾圧と侵略の手法によって組織的に香港の自治を侵食し、台湾の
民主主義を切り崩し、ウイグル人とチベット人の人権を蹂躙し、南シナ海
で国際法に違反して海洋権益を主張している」
バイデン大統領が2月4日に行った初の外交演説と重なる。大統領演説の要
点は以下の通りだった。
「中国は最も深刻な競争相手だ。攻撃的で威圧的な行動、人権弾圧、知財
の窃盗、グローバル・ガバナンス(世界統治)に対する中国の姿勢に米国
は強い立場から反撃する」
地球全体を支配
バイデン大統領は気候変動などの問題では協力する用意はあるとしながら
も、中国にはあくまでも「強い立場」から交渉すると宣言し、日韓両国で
ブリンケン長官らがその意志を鮮明に示したわけだ。対照的に中国側は次
のようなメッセージを発した。
「中国が米国とのハイレベル戦略対話に同意したのは両国元首の電話会談
での精神を実行に移す重要な措置で、米国と中国が互いに歩み寄り、中米
関係の健全で安定した発展を図ることを希望する」「アラスカは米国の最
北の州だ。中国代表団はアラスカに到着した時、寒冷の気候だけでなく、
米国のホストとしてのもてなしも感じた」(3月19日、趙立堅中国外務省
報道官)
日韓両国での米国側の発言を気にしながらも最後まで、即ち、米国と直接
話し合うときまで、中国が米国との交渉続行を望み、しかもそれを戦略対
話として定期化したいと切望していたのは明らかだ。アラスカの激しい応
酬の中でさえも、楊潔篪共産党政治局員は「対立ではなく、意思疎通を強
め、相違をうまく処理し、協力を拡大する必要がある」と明言した。中国
が渇望しているのは米中関係の「安定と継続」である。
中国は建国100年の2049年までに「中国の夢」を実現して、世界の諸民族
の中にそびえ立つと宣言済みだ。夢の実現は力によってなされるが、力は
軍事力だけではない。より決定的なのが経済力であり、経済を随意に活用
できる一党独裁政権の政治力である。
経済力を政治目的に沿って活用し、地球全体を支配する仕組みの構築が中
国の戦略だ。具体例のひとつが5G通信網である。すでに米国の裏庭のラ
テンアメリカ、欧州が気にする東欧、52に上るアフリカ諸国、米国の関与
が手薄でロシアの影響力が弱まっている中央アジアさらに中東も含めて世
界各地域で中国は猛然と通信インフラ建設を主導する
大陸をまたぐインターネット情報の95%以上が光ファイバー海底ケーブル
で伝達されるため、海底ケーブル回線の建設と維持、管理は世界支配の決
定力となる。先頃まで世界の海底ケーブルの4割は米国が持ち、日本が3
割、フランスが2割だった。だが中国が急速に追いつき始めた。世界の海
底ケーブル地図の作成で知られるワシントンのテレジオグラフィー社によ
ると、現在世界には406本の海底ケーブルがあり、米日仏の一角に中国の
「華為海洋」などが食い込んだ。2020年末段階では彼らは世界シェアの
20%を建設したとみられる。
深い海の底を這うケーブルと、宇宙から送信される情報が合体するときに
地球を包み込む通信網は完璧になる。宇宙での情報基地は宇宙ステーショ
ンであり、月や火星に建設する軍事基地だ。月探査では近年中国が米国に
一歩先んじ、火星には米国がひと足早く探査機を送り込んだ。
人口面ですでに下り坂
米中の青白い炎のようなせめぎ合いは、日本にとって他人事ではない。仮
に中国が自前の5G技術で地球を包み込む通信インフラを建設してしまえ
ば、彼らはあらゆる分野で優位に立ち、影響力を拡大する。中国の経済と
技術なしにはどの国も生きにくい世界が出来たとき、中国共産党は遠慮会
釈なく、全ての国と民族に中国共産党の価値観を押しつけるだろう。その
ような基盤完成までには、あと少し時間が必要だと、習近平国家主席らは
考えているのである。
「あと少しの時間」は、別の意味でも非常に重要な要素を含んでいる。中
国は経済成長持続の基本である人口面ですでに下り坂に入った。中国の生
産年齢人口(15〜64歳)は2010年から、総人口は18年から減少に転じた。
米国の国家情報会議(NIC)は昨年12月、人口面でインドが「群を抜い
て」増加傾向に、中国が「群を抜いて」減少傾向にあると発表した。長期
予想ではインド経済は21世紀を通じて成長し、今世紀末、インドは中国に
取って代わるとも予測した。
東風が西風をしのいでいると、中国は言う。歴史は米国ではなく中国に追
い風を送っていると。しかし、習主席にとって米国と戦える、相対的余力
のある時間は長くはない。米国と直接戦うのではなく、まず弱小の貧しい
国々を、次に中級国家を搦め捕り、中国中心の供給網と通信網を構築しさ
えすれば米国も抗い得ない。そのような世界のインフラを完成させたいと
いうのが習氏の思惑であろう。充分に準備が整ったときには、台湾を奪
い、尖閣を奪い、毛沢東に並ぶ中国の国父の地位も手に入ると考えている。
逆に言えば、あと10年、私たちが習氏の暴走を抑止できれば中国共産党と
の戦いに勝てる。今が正念場だ。日本は、中国に対峙するために、全力を
振り絞って軍事力も経済力も強化しなければならない。
at 07:47
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年03月28日
◆ケネディ教授、「米国は衰退しない
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年3月25日号
日本ルネッサンス 第943回
3月9日、シンクタンク「国家基本問題研究所」が主催した国際セミナー
「アメリカは衰退するのか」で、国基研副理事長で、ニクソン研究で名高
い田久保忠衛氏と共にポール・ケネディ教授と鼎談した。
米国東部、コネティカット州にあるイエール大学近くの自宅からリモート
で参加したケネディ教授は、早々と準備して音声チェックなどに当たって
いた。私たちも同様で、双方共に予定より随分前に用意が整った。
自己紹介をして、「宜しければ、始めましょうか」と尋ねた。すると、と
ても明るい表情で「そうしよう!」とケネディ教授が答えた。
ポール・ケネディという名を聞けば、『大国の興亡』の上下2巻がすぐに
連想される。1500年から2000年までの大国の興亡を描いた大著は世界的ベ
ストセラーになった。私の手元にあるのは鈴木主税氏の訳になる1988年版
(草思社)だ。当時の私は『文藝春秋』や『諸君!』に寄稿したりしてい
たが、物書きとしてはまだまだで、ケネディ教授は光り輝く存在だった。
その人物が準備完了、早速始めましょうと気さくに応じた。
アメリカは衰退しているのか。今後も衰退し続けるのか。その衰退は相対
的か、絶対的か。この問いほど、日本にとって切実なものはない。何と
いってもわが国の安全保障は米国抜きには今や語れない。中国共産党の世
界支配を止めることが出来るのかという問いは、日本だけでなく全世界の
命運を左右する重大事である。
ケネディ教授はまず、500年遡って考えてみることを提唱する。
「500年前、中国は世界最大の国でした。欧州はまだ勢力が小さく、米国
は存在していません。19世紀を過ぎると、世界の大きな勢力は全世界を支
配する立場に立つようになりました。その新たな構図の中で日本も米国も
力をつけたのです」
20世紀に入ると第一次世界大戦で欧州が弱体化し、米国と日本が力をつけ
た。第二次世界大戦で米国が文字どおり大国となり、日本は敗北して、幾
百万の国民を失い、世界最貧国水準への没落を経験した。
「中国は失望する」
戦後、日本は再度、世界勢力として台頭、米国はソ連を崩壊に導き唯一の
超大国となったが、いま、その力の実態と行く末を、全世界が見定めよう
としている。
そうした中、中国は盛んにアメリカ衰退説を喧伝する。親中派の政治家と
して知られる豪州の元首相、ケビン・ラッド氏は、2013年に国家主席と
なったときから習近平氏の対米政策は一貫しており、その基本的哲学は、
歴史の流れは中国に味方しているというものだと指摘する(「フォーリ
ン・アフェアーズ」誌、21年3〜4月号)。
中国は建国100年の2049年には米国を凌駕し、世界にそびえ立つと、すで
に宣言しているが、世界最強国になる道程をさまざまな面で前倒ししてい
るとも、ラッド氏は指摘する。たとえば軍の近代化はあと6年、27年まで
に完了することになったが、これは計画を8年も前倒しした結果だとい
う。大幅前倒しの理由は台湾奪取に向けて全ての面で米国に対して優位に
立つためだ。米国支配を打ち砕く具体的目標を掲げ、ひとつひとつ着々と
実行する中国に対して、アメリカの反転攻勢が予想以上に制限的であるこ
とに中国の方が驚いていると、ラッド氏は書いている。
中国が盛んに喧伝する米国衰退説についてどう考えるかとケネディ教授に
問いかけると、中国メディアは米国の衰退について書くことに尋常ならざ
る関心を抱いているが、それは彼らが戦争をすることなく米国の衰退を目
撃したいからだ、と答えた。
中国が米国の衰退説拡散に努めるのは、彼らの得意とする「三戦」(世論
戦、心理戦、法律戦)の一端であろう。米国の力が弱まっているとの印象
を植えつけることで米国への信頼を弱め、多くの国々を中国の方に引きつ
け、或いは米国との同盟に楔を打ち込むことさえできるかもしれない。米
国よりも中国の方が頼り甲斐があると思わせる戦法のひとつなのだろう。
右の指摘をした上で、ケネディ教授が断言した。
「米国の衰退は相対的なもので、絶対的なものではありません。米国は台
頭する他の国々と立場を共有することが必要になるかもしれませんが、そ
れでも強い国であり続けるでしょう。その意味では、中国は失望するで
しょう」
米国は中国に負けない、その力の源泉は強い経済にあるとケネディ教授は
語る。顕著な経済成長を実現し米国民に繁栄をもたらすことが、米国政府
への信頼、民主主義への尊重と敬意の回復につながり、国全体の安定に寄
与する、米国にはそれができる、と強調するのだ。
日本の行く道
但し、これからの米国は同盟諸国と協力して中国に対峙しなければならな
くなると予測し、その枠組みとして日米豪印4か国の協力体制を考えた安
倍晋三首相を高く評価した。
「歴史を振りかえると、似たような事例があります。第一次世界大戦前、
ドイツは多くの船を建造して大海軍を持つに至りました。仏英露などが大
変警戒し、やがて第一次世界大戦につながっていったのです。結果は歴史
が示しています。
もうひとつの似たような例は冷戦時代のソ連です。彼らも海軍を増強し、
地中海まで進出しました。対して米英仏伊などが密接な軍事協力を行い、
ソ連の攻撃的活動阻止に動きました」
日米豪印のクアッドも、それへの英国の参加意思の表示も、さらには仏独
のクアッドへの前向きの反応も、全て中国の侵略的攻勢が原因だ。ケネ
ディ教授の示した歴史の事例を敷衍すれば、敗れるのは無謀な軋轢を仕掛
けた側である。つまり、現在進行形の危機でいえば、敗者は中国、という
ことになる。
折しも本稿執筆中の15日、米国から国務、国防両長官が日米安全保障協議
委員会(2+2)のために来日した。米政府が14日に発表した文書、「堅固
な日米同盟の再確認」には、「米国の日本防衛への関与は絶対的」「尖閣
には日米安保条約第5条を適用」「中国の挑戦に日米が協力して対応す
る」などと明記されている。
バイデン政権は、対中宥和派の第二のオバマ政権だとの懸念があった。し
かし、右の文書の内容、「2+2」の実現、菅義偉首相のワシントン一番乗
りなどはそうした疑いを否定するものだ。
ケネディ教授は日本の行く道として、中国との経済関係が悪化しても代替
国はあるが、米国との安全保障関係が悪化すればそれに取って替わる国は
ないと述べた。
そのとおりであろう。歴史の大きな流れの中で、日本がまともな国家とし
て生き残るために、憲法改正を含めた大改革を実現しなければならないと
思わせられた鼎談だった。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 ケネディ教授、「米国は衰退しない」 」
『週刊新潮』 2021年3月25日号
日本ルネッサンス 第943回
3月9日、シンクタンク「国家基本問題研究所」が主催した国際セミナー
「アメリカは衰退するのか」で、国基研副理事長で、ニクソン研究で名高
い田久保忠衛氏と共にポール・ケネディ教授と鼎談した。
米国東部、コネティカット州にあるイエール大学近くの自宅からリモート
で参加したケネディ教授は、早々と準備して音声チェックなどに当たって
いた。私たちも同様で、双方共に予定より随分前に用意が整った。
自己紹介をして、「宜しければ、始めましょうか」と尋ねた。すると、と
ても明るい表情で「そうしよう!」とケネディ教授が答えた。
ポール・ケネディという名を聞けば、『大国の興亡』の上下2巻がすぐに
連想される。1500年から2000年までの大国の興亡を描いた大著は世界的ベ
ストセラーになった。私の手元にあるのは鈴木主税氏の訳になる1988年版
(草思社)だ。当時の私は『文藝春秋』や『諸君!』に寄稿したりしてい
たが、物書きとしてはまだまだで、ケネディ教授は光り輝く存在だった。
その人物が準備完了、早速始めましょうと気さくに応じた。
アメリカは衰退しているのか。今後も衰退し続けるのか。その衰退は相対
的か、絶対的か。この問いほど、日本にとって切実なものはない。何と
いってもわが国の安全保障は米国抜きには今や語れない。中国共産党の世
界支配を止めることが出来るのかという問いは、日本だけでなく全世界の
命運を左右する重大事である。
ケネディ教授はまず、500年遡って考えてみることを提唱する。
「500年前、中国は世界最大の国でした。欧州はまだ勢力が小さく、米国
は存在していません。19世紀を過ぎると、世界の大きな勢力は全世界を支
配する立場に立つようになりました。その新たな構図の中で日本も米国も
力をつけたのです」
20世紀に入ると第一次世界大戦で欧州が弱体化し、米国と日本が力をつけ
た。第二次世界大戦で米国が文字どおり大国となり、日本は敗北して、幾
百万の国民を失い、世界最貧国水準への没落を経験した。
「中国は失望する」
戦後、日本は再度、世界勢力として台頭、米国はソ連を崩壊に導き唯一の
超大国となったが、いま、その力の実態と行く末を、全世界が見定めよう
としている。
そうした中、中国は盛んにアメリカ衰退説を喧伝する。親中派の政治家と
して知られる豪州の元首相、ケビン・ラッド氏は、2013年に国家主席と
なったときから習近平氏の対米政策は一貫しており、その基本的哲学は、
歴史の流れは中国に味方しているというものだと指摘する(「フォーリ
ン・アフェアーズ」誌、21年3〜4月号)。
中国は建国100年の2049年には米国を凌駕し、世界にそびえ立つと、すで
に宣言しているが、世界最強国になる道程をさまざまな面で前倒ししてい
るとも、ラッド氏は指摘する。たとえば軍の近代化はあと6年、27年まで
に完了することになったが、これは計画を8年も前倒しした結果だとい
う。大幅前倒しの理由は台湾奪取に向けて全ての面で米国に対して優位に
立つためだ。米国支配を打ち砕く具体的目標を掲げ、ひとつひとつ着々と
実行する中国に対して、アメリカの反転攻勢が予想以上に制限的であるこ
とに中国の方が驚いていると、ラッド氏は書いている。
中国が盛んに喧伝する米国衰退説についてどう考えるかとケネディ教授に
問いかけると、中国メディアは米国の衰退について書くことに尋常ならざ
る関心を抱いているが、それは彼らが戦争をすることなく米国の衰退を目
撃したいからだ、と答えた。
中国が米国の衰退説拡散に努めるのは、彼らの得意とする「三戦」(世論
戦、心理戦、法律戦)の一端であろう。米国の力が弱まっているとの印象
を植えつけることで米国への信頼を弱め、多くの国々を中国の方に引きつ
け、或いは米国との同盟に楔を打ち込むことさえできるかもしれない。米
国よりも中国の方が頼り甲斐があると思わせる戦法のひとつなのだろう。
右の指摘をした上で、ケネディ教授が断言した。
「米国の衰退は相対的なもので、絶対的なものではありません。米国は台
頭する他の国々と立場を共有することが必要になるかもしれませんが、そ
れでも強い国であり続けるでしょう。その意味では、中国は失望するで
しょう」
米国は中国に負けない、その力の源泉は強い経済にあるとケネディ教授は
語る。顕著な経済成長を実現し米国民に繁栄をもたらすことが、米国政府
への信頼、民主主義への尊重と敬意の回復につながり、国全体の安定に寄
与する、米国にはそれができる、と強調するのだ。
日本の行く道
但し、これからの米国は同盟諸国と協力して中国に対峙しなければならな
くなると予測し、その枠組みとして日米豪印4か国の協力体制を考えた安
倍晋三首相を高く評価した。
「歴史を振りかえると、似たような事例があります。第一次世界大戦前、
ドイツは多くの船を建造して大海軍を持つに至りました。仏英露などが大
変警戒し、やがて第一次世界大戦につながっていったのです。結果は歴史
が示しています。
もうひとつの似たような例は冷戦時代のソ連です。彼らも海軍を増強し、
地中海まで進出しました。対して米英仏伊などが密接な軍事協力を行い、
ソ連の攻撃的活動阻止に動きました」
日米豪印のクアッドも、それへの英国の参加意思の表示も、さらには仏独
のクアッドへの前向きの反応も、全て中国の侵略的攻勢が原因だ。ケネ
ディ教授の示した歴史の事例を敷衍すれば、敗れるのは無謀な軋轢を仕掛
けた側である。つまり、現在進行形の危機でいえば、敗者は中国、という
ことになる。
折しも本稿執筆中の15日、米国から国務、国防両長官が日米安全保障協議
委員会(2+2)のために来日した。米政府が14日に発表した文書、「堅固
な日米同盟の再確認」には、「米国の日本防衛への関与は絶対的」「尖閣
には日米安保条約第5条を適用」「中国の挑戦に日米が協力して対応す
る」などと明記されている。
バイデン政権は、対中宥和派の第二のオバマ政権だとの懸念があった。し
かし、右の文書の内容、「2+2」の実現、菅義偉首相のワシントン一番乗
りなどはそうした疑いを否定するものだ。
ケネディ教授は日本の行く道として、中国との経済関係が悪化しても代替
国はあるが、米国との安全保障関係が悪化すればそれに取って替わる国は
ないと述べた。
そのとおりであろう。歴史の大きな流れの中で、日本がまともな国家とし
て生き残るために、憲法改正を含めた大改革を実現しなければならないと
思わせられた鼎談だった。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 ケネディ教授、「米国は衰退しない」 」
at 07:39
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年03月15日
◆歴史捏造のNHKは朝日と同じだ
櫻井よしこ
慰安婦に関する嘘は、朝日新聞が喧伝した吉田清治という詐話師の捏造話
が発端となって世界に広まった。戦時朝鮮人労働者は強制的に狩り出さ
れ、賃金も貰えない奴隷労働者だったという嘘はNHKの報道が発端だっ
たと言える。
朝日新聞は2014年に、吉田清治に関する記事の全てを、間違いだったとし
て取り消した。他方NHKは、彼らの報じた長崎県端島、通称軍艦島を描
いた「緑なき島」が今日まで続く徴用工問題の元凶となっているにも拘わ
らず、訂正を拒み続けている。
「緑なき島」は1955(昭和30)年に報じられた20分間のドキュメンタリー
である。端島を含む明治産業革命遺産の研究における第一人者、加藤康子
氏が66年前のドキュメンタリーの問題を指摘した。
「炭鉱の坑内の映像はやらせをしています。それに合わせてナレーション
の原稿もドラマチックに書いたのでしょう」
「緑なき島」で描かれている端島炭鉱の坑内映像は誰が見ても奇妙だ。ま
ず鉱夫たちが次々に坑道に入っていく。皆作業服をきっちり着込みランプ
付きのヘルメットをかぶり、丈夫そうな靴も履いている。
ところが、実際に石炭を掘る次の場面では、全員がふんどし一丁の裸体に
なっている。ヘルメットのランプはなくなっている一方、腕時計だけは
きっちりはめているのもチグハグだ。
「当時端島の炭鉱を経営していた三菱鉱業は保安規定で作業服、ランプ付
きヘルメットなしで坑内に入ることを固く禁じています。裸で石炭を採る
など、あり得ないことでした。また、坑道は海中深く掘り下がっていま
す。ランプがなければ真っ暗です。それに昭和30年当時、腕時計は高価で
貴重でした。石炭採掘現場に時計も含めて私物を持ち込むというのはな
かったことです」と、加藤氏が語る。
「緑なき島」ではまた、坑道は高さがなく、鉱夫たちは全員這いつくばっ
て作業している。だが、これも端島ではあり得ないことだった。
「日本発の歴史捏造」
先述したように端島は海底深く、1100メートルまで斜め竪形に掘り込んで
いる。三菱の規定では坑道の高さは1.9メートル以上とされていたが、映
像では、坑道の高さがないかわりに、空間が水平に広がり、そこで裸の男
たちが這って働いている。だが、実際の端島の坑道にはこのような平場の
採掘現場はなかった。
明らかにこれは端島炭鉱の映像ではあり得ない。加藤氏の「やらせ」だと
いう指摘は間違いないだろう。事実、映像を見た元島民全員が、「これは
端島じゃない」と証言している。
NHKがやらせで報じたこの映像は韓国に伝わり、朝鮮人鉱夫がこのよう
な形で酷使されたという「事実認定」へとつながっていった。その一例が
韓国の国立歴史館に展示されている写真であろう。それは高さのない坑道
で上半身裸の男性がうつぶせになって石炭を掘っている写真だ。朝鮮人が
こんな形で奴隷労働させられたという象徴的な一葉だ。だが写真の男性は
朝鮮人ではなく日本人だ。戦後、廃鉱になった炭鉱で盗掘しているのを、
日本人の写真家が撮影したものであることが確認されている。そのベタ焼
きも残っている。
66年前のNHKの報道は、厳しい安全管理のルールが徹底されていた現実
の炭鉱では明らかにあり得なかった嘘のイメージを作り出した。事実に反
する内容であるにも拘わらず、それがドキュメンタリー映像として独り歩
きを始めた。韓国が触発され、前述の裸で盗掘する男性の写真に飛びつい
た。写真はユネスコの明治産業革命遺産登録に反対する韓国側の運動の中
で、ニューヨークのタイムズ・スクエアに反日のスローガンと共に掲げら
れた。さらに2018年10月には、韓国大法院が彼らの云う徴用工問題で日本
企業に賠償を命ずるとんでもない判決につながった。
66年前NHKが報じた「緑なき島」のやらせ映像は、現在の問題に直結し
ているのである。「それだけではない」と指摘するのは麗澤大学客員教授
の西岡力氏だ。
「1974年に三菱重工爆破事件が起きました。犯人たちは日本人なが
ら、大学時代に朴慶植氏の書いた『朝鮮人強制連行の記録』を学んで、日
本が朝鮮人を酷い目に遭わせた、その日本企業に報復のテロをしなければ
ならないと考えた。三菱重工がターゲットにされましたが、理由は朝鮮人
戦時労働者を使っていたということです」
爆破事件は74年8月30日。しかし、彼らは9月1日、関東大震災で「朝鮮人
が虐殺された」とするその日に、復讐を企てていた。しかし日曜日でオ
フィス街の丸の内には人がいない。土曜もいない。そこで金曜日の8月30
日が犯行日になった。
「つまり犯人たちは日本企業が本当に朝鮮人に奴隷労働をさせたと信じ込
んでしまった。そうした印象を強烈に与える映像をNHKが作っていた。
66年前から始まった日本発の嘘が語り継がれ、広がり、深刻化していっ
た。慰安婦と同じ、日本発の歴史捏造なのです」(西岡氏)
“悪者”のイメージ
さて、加藤氏の働きがあり、昨年3月に産業遺産情報センターが東京・新
宿区に開設された。そこには端島の暮らしが、多くの元島民の証言と共に
展示されている。VTRの映像と肉声で、端島では日本人も朝鮮人も平和
で協調的に暮らしていたことを私たちは知ることができる。
それに反発したのか、NHKがまたもや動いた。66年前の「緑なき島」で
描いた奴隷労働こそが島の実態だったと言うかのような「実感ドドド!
追憶の島〜ゆれる歴史継承」という番組を、昨年10月16日、九州、沖縄
ローカルで放送したのだ。加藤氏も島民もNHKの取材に応じたが、まと
もには取り上げてもらえず、反対に“悪者”のイメージで取り上げられた、
と憤る。
元島民の皆さん方は昨年11月20日にNHKに抗議文と質問状を送った。論
点は四つである。➀炭坑内の映像の検証、➁韓国を含む全世界への訂正、➂
複製等を残すことなく完全撤収、➃元島民の誇り、自尊心を踏みにじった
ことへのお詫び、である。
NHKの回答は「別の炭鉱で撮影された映像が使用されたという事実は確
認されませんでした」という木で鼻を括ったようなものだった。
「あのドキュメンタリーを見た元島民全員が、あれは端島の炭鉱ではない
と証言しているのです。報道機関として、やらせを否定するのなら、その
証拠を示すべきでしょう」
加藤氏の憤りはもっともだ。そんなNHKになぜ、私たちは受信料支払い
を強要されなければならないのか。公共放送だからというのが理由らしい
が、国益を損ない、日本人の名誉を傷つけるこんな虚偽放送を続ける
NHKを許してはならないだろう。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 歴史捏造のNHKは朝日と同じだ 」
慰安婦に関する嘘は、朝日新聞が喧伝した吉田清治という詐話師の捏造話
が発端となって世界に広まった。戦時朝鮮人労働者は強制的に狩り出さ
れ、賃金も貰えない奴隷労働者だったという嘘はNHKの報道が発端だっ
たと言える。
朝日新聞は2014年に、吉田清治に関する記事の全てを、間違いだったとし
て取り消した。他方NHKは、彼らの報じた長崎県端島、通称軍艦島を描
いた「緑なき島」が今日まで続く徴用工問題の元凶となっているにも拘わ
らず、訂正を拒み続けている。
「緑なき島」は1955(昭和30)年に報じられた20分間のドキュメンタリー
である。端島を含む明治産業革命遺産の研究における第一人者、加藤康子
氏が66年前のドキュメンタリーの問題を指摘した。
「炭鉱の坑内の映像はやらせをしています。それに合わせてナレーション
の原稿もドラマチックに書いたのでしょう」
「緑なき島」で描かれている端島炭鉱の坑内映像は誰が見ても奇妙だ。ま
ず鉱夫たちが次々に坑道に入っていく。皆作業服をきっちり着込みランプ
付きのヘルメットをかぶり、丈夫そうな靴も履いている。
ところが、実際に石炭を掘る次の場面では、全員がふんどし一丁の裸体に
なっている。ヘルメットのランプはなくなっている一方、腕時計だけは
きっちりはめているのもチグハグだ。
「当時端島の炭鉱を経営していた三菱鉱業は保安規定で作業服、ランプ付
きヘルメットなしで坑内に入ることを固く禁じています。裸で石炭を採る
など、あり得ないことでした。また、坑道は海中深く掘り下がっていま
す。ランプがなければ真っ暗です。それに昭和30年当時、腕時計は高価で
貴重でした。石炭採掘現場に時計も含めて私物を持ち込むというのはな
かったことです」と、加藤氏が語る。
「緑なき島」ではまた、坑道は高さがなく、鉱夫たちは全員這いつくばっ
て作業している。だが、これも端島ではあり得ないことだった。
「日本発の歴史捏造」
先述したように端島は海底深く、1100メートルまで斜め竪形に掘り込んで
いる。三菱の規定では坑道の高さは1.9メートル以上とされていたが、映
像では、坑道の高さがないかわりに、空間が水平に広がり、そこで裸の男
たちが這って働いている。だが、実際の端島の坑道にはこのような平場の
採掘現場はなかった。
明らかにこれは端島炭鉱の映像ではあり得ない。加藤氏の「やらせ」だと
いう指摘は間違いないだろう。事実、映像を見た元島民全員が、「これは
端島じゃない」と証言している。
NHKがやらせで報じたこの映像は韓国に伝わり、朝鮮人鉱夫がこのよう
な形で酷使されたという「事実認定」へとつながっていった。その一例が
韓国の国立歴史館に展示されている写真であろう。それは高さのない坑道
で上半身裸の男性がうつぶせになって石炭を掘っている写真だ。朝鮮人が
こんな形で奴隷労働させられたという象徴的な一葉だ。だが写真の男性は
朝鮮人ではなく日本人だ。戦後、廃鉱になった炭鉱で盗掘しているのを、
日本人の写真家が撮影したものであることが確認されている。そのベタ焼
きも残っている。
66年前のNHKの報道は、厳しい安全管理のルールが徹底されていた現実
の炭鉱では明らかにあり得なかった嘘のイメージを作り出した。事実に反
する内容であるにも拘わらず、それがドキュメンタリー映像として独り歩
きを始めた。韓国が触発され、前述の裸で盗掘する男性の写真に飛びつい
た。写真はユネスコの明治産業革命遺産登録に反対する韓国側の運動の中
で、ニューヨークのタイムズ・スクエアに反日のスローガンと共に掲げら
れた。さらに2018年10月には、韓国大法院が彼らの云う徴用工問題で日本
企業に賠償を命ずるとんでもない判決につながった。
66年前NHKが報じた「緑なき島」のやらせ映像は、現在の問題に直結し
ているのである。「それだけではない」と指摘するのは麗澤大学客員教授
の西岡力氏だ。
「1974年に三菱重工爆破事件が起きました。犯人たちは日本人なが
ら、大学時代に朴慶植氏の書いた『朝鮮人強制連行の記録』を学んで、日
本が朝鮮人を酷い目に遭わせた、その日本企業に報復のテロをしなければ
ならないと考えた。三菱重工がターゲットにされましたが、理由は朝鮮人
戦時労働者を使っていたということです」
爆破事件は74年8月30日。しかし、彼らは9月1日、関東大震災で「朝鮮人
が虐殺された」とするその日に、復讐を企てていた。しかし日曜日でオ
フィス街の丸の内には人がいない。土曜もいない。そこで金曜日の8月30
日が犯行日になった。
「つまり犯人たちは日本企業が本当に朝鮮人に奴隷労働をさせたと信じ込
んでしまった。そうした印象を強烈に与える映像をNHKが作っていた。
66年前から始まった日本発の嘘が語り継がれ、広がり、深刻化していっ
た。慰安婦と同じ、日本発の歴史捏造なのです」(西岡氏)
“悪者”のイメージ
さて、加藤氏の働きがあり、昨年3月に産業遺産情報センターが東京・新
宿区に開設された。そこには端島の暮らしが、多くの元島民の証言と共に
展示されている。VTRの映像と肉声で、端島では日本人も朝鮮人も平和
で協調的に暮らしていたことを私たちは知ることができる。
それに反発したのか、NHKがまたもや動いた。66年前の「緑なき島」で
描いた奴隷労働こそが島の実態だったと言うかのような「実感ドドド!
追憶の島〜ゆれる歴史継承」という番組を、昨年10月16日、九州、沖縄
ローカルで放送したのだ。加藤氏も島民もNHKの取材に応じたが、まと
もには取り上げてもらえず、反対に“悪者”のイメージで取り上げられた、
と憤る。
元島民の皆さん方は昨年11月20日にNHKに抗議文と質問状を送った。論
点は四つである。➀炭坑内の映像の検証、➁韓国を含む全世界への訂正、➂
複製等を残すことなく完全撤収、➃元島民の誇り、自尊心を踏みにじった
ことへのお詫び、である。
NHKの回答は「別の炭鉱で撮影された映像が使用されたという事実は確
認されませんでした」という木で鼻を括ったようなものだった。
「あのドキュメンタリーを見た元島民全員が、あれは端島の炭鉱ではない
と証言しているのです。報道機関として、やらせを否定するのなら、その
証拠を示すべきでしょう」
加藤氏の憤りはもっともだ。そんなNHKになぜ、私たちは受信料支払い
を強要されなければならないのか。公共放送だからというのが理由らしい
が、国益を損ない、日本人の名誉を傷つけるこんな虚偽放送を続ける
NHKを許してはならないだろう。
Tweet
トラックバックURL:
櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 歴史捏造のNHKは朝日と同じだ 」
at 07:57
| Comment(0)
| 櫻井よしこ
2021年03月11日
◆五輪、北京に開催の資格はあるのか
櫻井よしこ
『週刊新潮』 2021年3月4日号
日本ルネッサンス 第940回
国際平和と友好を象徴し、政治を超越したスポーツの祭典とされながら、
五輪はおよそいつも高度に政治とカネによって差配されてきた。だからこ
そ、いま警戒すべきは約1年後、北京冬季五輪の成功を介して勢力拡大を
はかる中国共産党政権の目論見である。
北京五輪より前の7月開幕予定の東京五輪は、五輪組織委員会会長に橋本
聖子氏が就き、再起動した。前会長、森喜朗氏の「女性の多い会議は時間
がかかる」という趣旨の発言が「女性蔑視」、五輪憲章の精神に著しく反
すると、内外で激しい反発を招いた。
森氏の発言は確かに不適切で、氏は謝罪し辞任した。視点を少し遠くに置
けば、森発言への反発を北京五輪に敷衍して考えることの重要性が見えて
くる。なぜなら、北京五輪開催を構える中国政府の所業は、森発言とは異
次元の究極の人道に対する罪に相当すると見られているからだ。そんな中
国が北京五輪の成功を引っ下げることで、国際社会において信頼される大
国としての地位を固めようとしているのである。
北京政府は100万人規模のウイグル人を厳しい監視下におき、信教、思
想、言語、文化、あらゆる面において、全ての自由と民族的特性を奪い去
りつつある。ウイグル人女性たちは毎晩のように連れ去られ、兵による集
団レイプを受けている。ウイグル人は男女を問わず、多くが避妊手術を強
制され、中国共産党の民族浄化作戦の下で、この世の地獄を生きている。
このように書くと中国共産党政府は真っ向から否定する。続けてウイグル
問題などは全て中国の国内問題であり、外国政府や外国人の干渉は許さな
いと強弁する。さらに表向きの第三者に、中国政府のウイグル人政策を褒
め讃える論考を書かせる。
かつて毛沢東は米国人記者のエドガー・スノーを味方に引き入れ、中国共
産党を理想の党として描かせた。今は新華社がパリで暗躍中だ。2月18
日、新華社は「新疆を二度訪れ、西側の嘘を暴く」と題してフランス人作
家のインタビューを配信した。
人道に対する罪
彼は新疆ウイグル自治区は「急速に発展」しており、ジェノサイドなどは
デマだと語っている。中国の思惑にぴったり合致する言葉の数々だ。時代
が変わっても中国人の戦略は基本的には変わらない。ある種の既視感を覚
えた。
ウイグル人がどれほど弾圧され、ウイグル人女性がどれほどレイプされ、
殺されているか、すでに漫画家の清水ともみさんと静岡大学教授の楊海英
氏が『命がけの証言』(WAC)にまとめている。ちなみに清水さんはモ
ンゴル人についての著書も間もなく上梓する。
米国議会は中国共産党の民族弾圧に関する詳細な報告書をすでに発表して
おり、共和、民主両党の共通認識となっている。共和党から民主党への政
権交代時に、両党はウイグル人に対する中国共産党の所業がジェノサイド
であるとの認定を共有した。ジェノサイドは人道に対する罪で、時効がな
い。米国の決意は固い。
ポンペオ前国務長官は2月16日、FOXニュースの番組に出演して、北京
五輪をナチスドイツが主催した1936年のベルリン五輪になぞらえ、冬季五
輪の開催地変更をIOC及びバイデン政権に提案すると語った。1月22日
には、共和党上院議員7人が同趣旨の決議案を提出済みだ。
問われるべきは、ジェノサイド疑惑の北京政府に五輪開催の資格を与えて
よいのかということだ。中国共産党の本質に正面から向き合うことだ。こ
れまで日本も国際社会も、中国共産党の本質を読み違えてきた。かつてと
同じ間違いをしてはならない。2008年の北京五輪のとき、世界は中国共産
党によるチベット弾圧に目をつぶった。チベット人は焼身自殺という最も
苦しい死を選んで、世界に中国共産党の非道を知らせようとした。それで
も私たちは北京五輪に参加した。
それ以前の1989年、北京政府は天安門で学生や市民多数を殺害した。だ
が、対中制裁に、とりわけ我が国は消極的だった。ブッシュ(父)米政権
は天安門事件発生からひと月後に、スコークロフト国家安全保障問題担当
大統領補佐官を北京のケ小平の許へ密使として送り込み、中国共産党を支
えた。こちら側の一連の甘く寛容な対応を北京政府は嗤っていたに違いな
い。その証拠に彼らは時代が下ると共に弾圧を強めて今日に至っているか
らだ。
中国共産党は一党独裁体制を守るためには漢民族、異民族を問わず、血の
弾圧をやめない。これからも続けるだろう。そうしなければあの政体はも
たないからだ。チベット、ウイグル、モンゴル、香港、さらに劉暁波氏の
ような中国共産党一党独裁に立ち向かう漢民族。やがて台湾も搦めとられ
る危険性がある。沖縄も例外ではない。中国政府が重ねてきた人道に対す
る罪の事例には事欠かない。
冬季五輪の開催地変更を
にも拘わらず、日本も世界も中国市場の大きさに幻惑され、目先の利益を
追う。或いは、深い歴史と文明に魅了され、中国の本質を見誤る。独裁
性、非民主性、残虐性、国際法違反を特徴とする共産党政権のおぞましさ
にも異を唱えきれない。今日の状況を招いた責任の半分は、物を言わずに
きた私たちの側にある。
だからこそまず、私たちは自問すべきだろう。私たちは世界を大中華主義
で染めたいのか。人権弾圧を許して民主主義を息絶えさせたいのか。現在
の国際法に替えて中華の法を確立し、世界秩序を大転換したいのか、と。
中国の言動をこのまま受け入れ続ければ、いつか世界全体が中華の支配す
るところとなる。
そんなことはおよそ誰も望んでいない。現行の民主主義がたとえ不完全で
あっても、地球社会は民主主義体制の下にある方が幸せだろう。国際法を
遵守し、人権を尊重し、人種、民族、宗教に拘わらず全ての民族、全ての
人々の自由と尊厳を守るにはその道しかない。中華帝国の下では、人間は
幸せとは遠いところに連行され打ち捨てられるだろう。
バイデン大統領は今年、民主主義グローバルサミットを開くと公約した。
まさに価値観の戦いの戦端を開くということだ。中国の一党独裁専制政治
とは正反対の道を探る米国に、わが国でも協調の動きが出始めている。
超党派の「対中政策に関する国会議員連盟」はジェノサイド疑惑について
の調査の必要性を訴えている。自民党の「日本ウイグル国会議員連盟」が
古屋圭司会長の下、超党派議連に発展改組する。各議連に期待しつつ、具
体的行動として、まず北京冬季五輪の開催地変更を世界に呼びかけること
が必要だ。アジアの大国、日本が声を上げることが大事だ。米国と明確な
形で協調することだ。中国との熾烈な価値観の戦いで、いままた少しでも
譲ることは、民主主義の道を喪う結果となるだろう。
『週刊新潮』 2021年3月4日号
日本ルネッサンス 第940回
国際平和と友好を象徴し、政治を超越したスポーツの祭典とされながら、
五輪はおよそいつも高度に政治とカネによって差配されてきた。だからこ
そ、いま警戒すべきは約1年後、北京冬季五輪の成功を介して勢力拡大を
はかる中国共産党政権の目論見である。
北京五輪より前の7月開幕予定の東京五輪は、五輪組織委員会会長に橋本
聖子氏が就き、再起動した。前会長、森喜朗氏の「女性の多い会議は時間
がかかる」という趣旨の発言が「女性蔑視」、五輪憲章の精神に著しく反
すると、内外で激しい反発を招いた。
森氏の発言は確かに不適切で、氏は謝罪し辞任した。視点を少し遠くに置
けば、森発言への反発を北京五輪に敷衍して考えることの重要性が見えて
くる。なぜなら、北京五輪開催を構える中国政府の所業は、森発言とは異
次元の究極の人道に対する罪に相当すると見られているからだ。そんな中
国が北京五輪の成功を引っ下げることで、国際社会において信頼される大
国としての地位を固めようとしているのである。
北京政府は100万人規模のウイグル人を厳しい監視下におき、信教、思
想、言語、文化、あらゆる面において、全ての自由と民族的特性を奪い去
りつつある。ウイグル人女性たちは毎晩のように連れ去られ、兵による集
団レイプを受けている。ウイグル人は男女を問わず、多くが避妊手術を強
制され、中国共産党の民族浄化作戦の下で、この世の地獄を生きている。
このように書くと中国共産党政府は真っ向から否定する。続けてウイグル
問題などは全て中国の国内問題であり、外国政府や外国人の干渉は許さな
いと強弁する。さらに表向きの第三者に、中国政府のウイグル人政策を褒
め讃える論考を書かせる。
かつて毛沢東は米国人記者のエドガー・スノーを味方に引き入れ、中国共
産党を理想の党として描かせた。今は新華社がパリで暗躍中だ。2月18
日、新華社は「新疆を二度訪れ、西側の嘘を暴く」と題してフランス人作
家のインタビューを配信した。
人道に対する罪
彼は新疆ウイグル自治区は「急速に発展」しており、ジェノサイドなどは
デマだと語っている。中国の思惑にぴったり合致する言葉の数々だ。時代
が変わっても中国人の戦略は基本的には変わらない。ある種の既視感を覚
えた。
ウイグル人がどれほど弾圧され、ウイグル人女性がどれほどレイプされ、
殺されているか、すでに漫画家の清水ともみさんと静岡大学教授の楊海英
氏が『命がけの証言』(WAC)にまとめている。ちなみに清水さんはモ
ンゴル人についての著書も間もなく上梓する。
米国議会は中国共産党の民族弾圧に関する詳細な報告書をすでに発表して
おり、共和、民主両党の共通認識となっている。共和党から民主党への政
権交代時に、両党はウイグル人に対する中国共産党の所業がジェノサイド
であるとの認定を共有した。ジェノサイドは人道に対する罪で、時効がな
い。米国の決意は固い。
ポンペオ前国務長官は2月16日、FOXニュースの番組に出演して、北京
五輪をナチスドイツが主催した1936年のベルリン五輪になぞらえ、冬季五
輪の開催地変更をIOC及びバイデン政権に提案すると語った。1月22日
には、共和党上院議員7人が同趣旨の決議案を提出済みだ。
問われるべきは、ジェノサイド疑惑の北京政府に五輪開催の資格を与えて
よいのかということだ。中国共産党の本質に正面から向き合うことだ。こ
れまで日本も国際社会も、中国共産党の本質を読み違えてきた。かつてと
同じ間違いをしてはならない。2008年の北京五輪のとき、世界は中国共産
党によるチベット弾圧に目をつぶった。チベット人は焼身自殺という最も
苦しい死を選んで、世界に中国共産党の非道を知らせようとした。それで
も私たちは北京五輪に参加した。
それ以前の1989年、北京政府は天安門で学生や市民多数を殺害した。だ
が、対中制裁に、とりわけ我が国は消極的だった。ブッシュ(父)米政権
は天安門事件発生からひと月後に、スコークロフト国家安全保障問題担当
大統領補佐官を北京のケ小平の許へ密使として送り込み、中国共産党を支
えた。こちら側の一連の甘く寛容な対応を北京政府は嗤っていたに違いな
い。その証拠に彼らは時代が下ると共に弾圧を強めて今日に至っているか
らだ。
中国共産党は一党独裁体制を守るためには漢民族、異民族を問わず、血の
弾圧をやめない。これからも続けるだろう。そうしなければあの政体はも
たないからだ。チベット、ウイグル、モンゴル、香港、さらに劉暁波氏の
ような中国共産党一党独裁に立ち向かう漢民族。やがて台湾も搦めとられ
る危険性がある。沖縄も例外ではない。中国政府が重ねてきた人道に対す
る罪の事例には事欠かない。
冬季五輪の開催地変更を
にも拘わらず、日本も世界も中国市場の大きさに幻惑され、目先の利益を
追う。或いは、深い歴史と文明に魅了され、中国の本質を見誤る。独裁
性、非民主性、残虐性、国際法違反を特徴とする共産党政権のおぞましさ
にも異を唱えきれない。今日の状況を招いた責任の半分は、物を言わずに
きた私たちの側にある。
だからこそまず、私たちは自問すべきだろう。私たちは世界を大中華主義
で染めたいのか。人権弾圧を許して民主主義を息絶えさせたいのか。現在
の国際法に替えて中華の法を確立し、世界秩序を大転換したいのか、と。
中国の言動をこのまま受け入れ続ければ、いつか世界全体が中華の支配す
るところとなる。
そんなことはおよそ誰も望んでいない。現行の民主主義がたとえ不完全で
あっても、地球社会は民主主義体制の下にある方が幸せだろう。国際法を
遵守し、人権を尊重し、人種、民族、宗教に拘わらず全ての民族、全ての
人々の自由と尊厳を守るにはその道しかない。中華帝国の下では、人間は
幸せとは遠いところに連行され打ち捨てられるだろう。
バイデン大統領は今年、民主主義グローバルサミットを開くと公約した。
まさに価値観の戦いの戦端を開くということだ。中国の一党独裁専制政治
とは正反対の道を探る米国に、わが国でも協調の動きが出始めている。
超党派の「対中政策に関する国会議員連盟」はジェノサイド疑惑について
の調査の必要性を訴えている。自民党の「日本ウイグル国会議員連盟」が
古屋圭司会長の下、超党派議連に発展改組する。各議連に期待しつつ、具
体的行動として、まず北京冬季五輪の開催地変更を世界に呼びかけること
が必要だ。アジアの大国、日本が声を上げることが大事だ。米国と明確な
形で協調することだ。中国との熾烈な価値観の戦いで、いままた少しでも
譲ることは、民主主義の道を喪う結果となるだろう。
at 08:42
| Comment(0)
| 櫻井よしこ