2018年05月23日

◆ 野党は政治責任を果たしていない 

櫻井よしこ


「朝鮮半島勢力巡る歴史的闘いが展開中も日本の野党は政治責任を果たし
ていない」

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の動きが派手派手しい。5月7日から8
日、妹の与正氏と共に中国の大連を訪れた。習近平国家主席と共におさ
まった幾葉もの写真を北朝鮮の「労働新聞」に掲載し、米国に対して「僕
には中国がついているぞ」と訴えるのに懸命である。

懐の窮鳥を庇うように、中国共産党を代弁する国営通信社の新華社は「関
係国が敵視政策と安全への脅威をなくしさえすれば核を持つ必要はない」
と正恩氏が語ったと伝えた。習氏は8日、トランプ米大統領に電話し、
「米国が北朝鮮の合理的な安全保障上の懸念を考慮することを希望する」
と語った。正恩氏を囲い込み、米国の脅威から守ってやるという中国の姿
勢であろう。

9日には北朝鮮の招待でポンペオ米国務長官が平壌を訪れ正恩氏と会談、
北朝鮮に拘束されていた米国人3人は解放されて、ポンペオ氏と共に米東
部時間で10日未明にワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着した。

トランプ大統領から早速、安倍晋三首相に電話があった。米国人3人の解
放に祝意を述べた首相の思いは、日本人拉致被害者の上にあったことだろう。

この間の9日、東京では日中韓の首脳会談が開催されたが、日本と中韓の
間にある大きなギャップは埋めきれていない。会談後の記者会見で安倍首
相は朝鮮半島情勢への対応を三首脳で綿密に話し合ったと述べたが、日米
の主張する「完全で検証可能な、不可逆的な核・弾道ミサイルの廃棄」
(CVID)という言葉も、北朝鮮への圧力という表現も三首脳の口から
は出なかった。

拉致について安倍首相は、「早期解決に向けて、両首脳の支援と協力を呼
びかけ、日本の立場に理解を得た」と述べたが、中韓両首脳は拉致には共
同記者発表の席で言及していない。彼らの発言は徹底して自国の国益中心
である。

中国の李克強首相は朝鮮半島の核に関して、「対話の軌道に戻る」ことを
歓迎し、経済に関しては「自由貿易維持」を強調した。北朝鮮の核問題は
時間をかけて、話し合いで折り合うべきだというもので、軍事力行使をチ
ラつかせる米国への牽制である。自由貿易に関する発言も、米国第一で保
護貿易に傾く米政権への対抗姿勢だ。

韓国の文在寅大統領は、日中双方が板門店宣言を歓迎したと語った。拉致
にも慰安婦にも触れずに言及した板門店宣言は、二分されている朝鮮民族
の再統一を前面に押し出したものだ。「北朝鮮の非核化」ではなく、米韓
同盟の消滅をも示唆する「朝鮮半島の非核化」を強調するものでもある。

今回の首脳会談からは3か国が足並みを揃えて懸案を解決する姿勢より
も、同床異夢の様相が浮き彫りにされた。

10日の電話会談でトランプ氏は、北朝鮮問題で「日本はビッグ・プレー
ヤーだ」と述べたという。いま、朝鮮半島勢力を巡って日清戦争前夜と
いってもよい歴史的な闘いが展開中だ。朝鮮半島を中国が握るのか、米国
が握るのか、そのせめぎ合いの最前線に私たちはいる。日本の命運を大き
く揺るがすこの局面で叡知を集め、対策を練り、何としてでも拉致被害者
を取り戻し、北朝鮮の核、ミサイル、生物兵器をなくすべき時だ。日本全
体が団結することなしには達成できない課題である。

だが、国会審議を拒否して半月以上も連休した野党は、国会審議に戻った
かと思えば、まだ、加計学園問題をやっている。立憲民主党の長妻昭氏は
「疑惑は深まったというよりも、予想以上に深刻だ。徹底的に腰を据えて
国会でやらないといけない」と語った。

だが、獣医学部新設は既得権益と岩盤規制を打ち破る闘いで、改革派がそ
れを打ち破っただけのことだ。長妻氏の非難は的外れである。朝鮮半島大
激変の最中、国民を取り戻し、国民の命を守るにはどうすべきかを論じ、
実行しなければならない。野党の多くは政治の責任を果たしていない。
『週刊ダイヤモンド』 2018年5月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1231

2018年05月22日

◆朝鮮半島勢力巡る歴史的闘い

櫻井よしこ


「朝鮮半島勢力巡る歴史的闘いが展開中も日本の野党は政治責任を果たし
ていない」

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の動きが派手派手しい。5月7日から8
日、妹の与正氏と共に中国の大連を訪れた。習近平国家主席と共におさ
まった幾葉もの写真を北朝鮮の「労働新聞」に掲載し、米国に対して「僕
には中国がついているぞ」と訴えるのに懸命である。

懐の窮鳥を庇うように、中国共産党を代弁する国営通信社の新華社は「関
係国が敵視政策と安全への脅威をなくしさえすれば核を持つ必要はない」
と正恩氏が語ったと伝えた。

習氏は8日、トランプ米大統領に電話し、「米国が北朝鮮の合理的な安全
保障上の懸念を考慮することを希望する」と語った。正恩氏を囲い込み、
米国の脅威から守ってやるという中国の姿勢であろう。

9日には北朝鮮の招待でポンペオ米国務長官が平壌を訪れ正恩氏と会談、
北朝鮮に拘束されていた米国人3人は解放されて、ポンペオ氏と共に米東
部時間で10日未明にワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着した。

トランプ大統領から早速、安倍晋三首相に電話があった。米国人3人の解
放に祝意を述べた首相の思いは、日本人拉致被害者の上にあったことだろう。

この間の9日、東京では日中韓の首脳会談が開催されたが、日本と中韓の
間にある大きなギャップは埋めきれていない。会談後の記者会見で安倍首
相は朝鮮半島情勢への対応を三首脳で綿密に話し合ったと述べたが、日米
の主張する「完全で検証可能な、不可逆的な核・弾道ミサイルの廃棄」
(CVID)という言葉も、北朝鮮への圧力という表現も三首脳の口から
は出なかった。

拉致について安倍首相は、「早期解決に向けて、両首脳の支援と協力を呼
びかけ、日本の立場に理解を得た」と述べたが、中韓両首脳は拉致には共
同記者発表の席で言及していない。彼らの発言は徹底して自国の国益中心
である。

中国の李克強首相は朝鮮半島の核に関して、「対話の軌道に戻る」ことを
歓迎し、経済に関しては「自由貿易維持」を強調した。北朝鮮の核問題は
時間をかけて、話し合いで折り合うべきだというもので、軍事力行使をチ
ラつかせる米国への牽制である。自由貿易に関する発言も、米国第一で保
護貿易に傾く米政権への対抗姿勢だ。

韓国の文在寅大統領は、日中双方が板門店宣言を歓迎したと語った。拉致
にも慰安婦にも触れずに言及した板門店宣言は、二分されている朝鮮民族
の再統一を前面に押し出したものだ。「北朝鮮の非核化」ではなく、米韓
同盟の消滅をも示唆する「朝鮮半島の非核化」を強調するものでもある。

今回の首脳会談からは3か国が足並みを揃えて懸案を解決する姿勢より
も、同床異夢の様相が浮き彫りにされた。

10日の電話会談でトランプ氏は、北朝鮮問題で「日本はビッグ・プレー
ヤーだ」と述べたという。いま、朝鮮半島勢力を巡って日清戦争前夜と
いってもよい歴史的な闘いが展開中だ。朝鮮半島を中国が握るのか、米国
が握るのか、そのせめぎ合いの最前線に私たちはいる。

日本の命運を大きく揺るがすこの局面で叡知を集め、対策を練り、何とし
てでも拉致被害者を取り戻し、北朝鮮の核、ミサイル、生物兵器をなくす
べき時だ。日本全体が団結することなしには達成できない課題である。

だが、国会審議を拒否して半月以上も連休した野党は、国会審議に戻った
かと思えば、まだ、加計学園問題をやっている。立憲民主党の長妻昭氏は
「疑惑は深まったというよりも、予想以上に深刻だ。徹底的に腰を据えて
国会でやらないといけない」と語った。

だが、獣医学部新設は既得権益と岩盤規制を打ち破る闘いで、改革派がそ
れを打ち破っただけのことだ。長妻氏の非難は的外れである。朝鮮半島大
激変の最中、国民を取り戻し、国民の命を守るにはどうすべきかを論じ、
実行しなければならない。野党の多くは政治の責任を果たしていない。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1231 

2018年05月20日

◆朝鮮半島勢力巡る歴史的闘い

櫻井よしこ


「朝鮮半島勢力巡る歴史的闘いが展開中も日本の野党は政治責任を果た
していない」

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の動きが派手派手しい。5月7日から8
日、妹の与正氏と共に中国の大連を訪れた。習近平国家主席と共におさ
まった幾葉もの写真を北朝鮮の「労働新聞」に掲載し、米国に対して「僕
には中国がついているぞ」と訴えるのに懸命である。

懐の窮鳥を庇うように、中国共産党を代弁する国営通信社の新華社は「関
係国が敵視政策と安全への脅威をなくしさえすれば核を持つ必要はない」
と正恩氏が語ったと伝えた。習氏は8日、トランプ米大統領に電話し、
「米国が北朝鮮の合理的な安全保障上の懸念を考慮することを希望する」
と語った。正恩氏を囲い込み、米国の脅威から守ってやるという中国の姿
勢であろう。

9日には北朝鮮の招待でポンペオ米国務長官が平壌を訪れ正恩氏と会談、
北朝鮮に拘束されていた米国人3人は解放されて、ポンペオ氏と共に米東
部時間で10日未明にワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着した。

トランプ大統領から早速、安倍晋三首相に電話があった。米国人3人の解
放に祝意を述べた首相の思いは、日本人拉致被害者の上にあったことだろう。

この間の9日、東京では日中韓の首脳会談が開催されたが、日本と中韓の
間にある大きなギャップは埋めきれていない。会談後の記者会見で安倍首
相は朝鮮半島情勢への対応を三首脳で綿密に話し合ったと述べたが、日米
の主張する「完全で検証可能な、不可逆的な核・弾道ミサイルの廃棄」
(CVID)という言葉も、北朝鮮への圧力という表現も三首脳の口から
は出なかった。

拉致について安倍首相は、「早期解決に向けて、両首脳の支援と協力を呼
びかけ、日本の立場に理解を得た」と述べたが、中韓両首脳は拉致には共
同記者発表の席で言及していない。彼らの発言は徹底して自国の国益中心
である。

中国の李克強首相は朝鮮半島の核に関して、「対話の軌道に戻る」ことを
歓迎し、経済に関しては「自由貿易維持」を強調した。北朝鮮の核問題は
時間をかけて、話し合いで折り合うべきだというもので、軍事力行使をチ
ラつかせる米国への牽制である。自由貿易に関する発言も、米国第一で保
護貿易に傾く米政権への対抗姿勢だ。

韓国の文在寅大統領は、日中双方が板門店宣言を歓迎したと語った。拉致
にも慰安婦にも触れずに言及した板門店宣言は、二分されている朝鮮民族
の再統一を前面に押し出したものだ。「北朝鮮の非核化」ではなく、米韓
同盟の消滅をも示唆する「朝鮮半島の非核化」を強調するものでもある。

今回の首脳会談からは3か国が足並みを揃えて懸案を解決する姿勢より
も、同床異夢の様相が浮き彫りにされた。

10日の電話会談でトランプ氏は、北朝鮮問題で「日本はビッグ・プレー
ヤーだ」と述べたという。いま、朝鮮半島勢力を巡って日清戦争前夜と
いってもよい歴史的な闘いが展開中だ。朝鮮半島を中国が握るのか、米国
が握るのか、そのせめぎ合いの最前線に私たちはいる。日本の命運を大き
く揺るがすこの局面で叡知を集め、対策を練り、何としてでも拉致被害者
を取り戻し、北朝鮮の核、ミサイル、生物兵器をなくすべき時だ。日本全
体が団結することなしには達成できない課題である。

だが、国会審議を拒否して半月以上も連休した野党は、国会審議に戻った
かと思えば、まだ、加計学園問題をやっている。立憲民主党の長妻昭氏は
「疑惑は深まったというよりも、予想以上に深刻だ。徹底的に腰を据えて
国会でやらないといけない」と語った。だが、獣医学部新設は既得権益と
岩盤規制を打ち破る闘いで、改革派がそれを打ち破っただけのことだ。長
妻氏の非難は的外れである。朝鮮半島大激変の最中、国民を取り戻し、国
民の命を守るにはどうすべきかを論じ、実行しなければならない。野党の
多くは政治の責任を果たしていない。
『週刊ダイヤモンド』 2018年5月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1231 

2018年05月19日

◆国民の支持が期待できない

櫻井よしこ



「国民の支持が期待できない、国民民主」

民進党代表の大塚耕平氏と希望の党代表の玉木雄一郎氏が「穏健保守から
リベラルまでを包摂する中道改革政党」として、「国民民主党」を結成す
る。私はこの原稿を5月7日の国民民主党設立大会前に書いているのだが、
新党の綱領や政策の一言一句を読まずとも、これまでの経緯から彼らは期
待できない絶望的な存在だと感じている。

今回、新党に参加せず、無所属になった笠浩史衆議院議員(神奈川9区)
は語る。

「昨年10月の衆議院選挙で私が民進党から希望の党に移ったのは、安保政
策と憲法改正について、民進党よりもよほど現実的で、日本の国益に適う
方向で対処しようとする政党だったからです。あの時、希望の党に移った
民進党議員全員が、玉木氏も含めて『政策協定書』に署名しました。希望
の党の公認を受けて衆議院選挙に立候補する条件として、安全保障法制に
ついては、憲法に則り適切に運用する、つまり、安保法制は認めると誓約
した。また憲法改正を支持し、憲法改正論議を幅広く進めることも誓約し
ました。民進党とはおよそ正反対の政策でしたが、私はその方が正しいと
考えた。玉木氏もそう考えたから署名したのでしょう。しかし、玉木氏ら
は事実上、元の政策に戻るわけです。希望の党で私たちは1000万近い比例
票をいただいた。その人たちに一体どう顔向けできるのか。これでは信頼
は失われます」

長島昭久衆議院議員(東京21区)も無所属を選んだ。氏は語る。

「国民民主党結成には三つの『ありき』があります。連合ありき、期限あ
りき、参院選ありきです。連合は、民進や希望の、政党としての理念や政
策よりも、国会における連合の勢力を保つために、とにかく旧民進党勢力
を再結集しようとした。この連合の思惑が非常に強く働きました。しかも
連合は両党合併の方向をメーデーまでに明確にさせたかった。その先にあ
るのは参院選です。労組代表の議席を守りたい連合と、連合の票がどうし
てもほしい議員。後援会組織がしっかりしていない政治家ほど、実際にど
れだけあるかわからなくても連合票に頼ってしまう。こうした事情が国民
民主党結成の背後にあります」

現実に根ざしていない

玉木、大塚両氏を見ていると不思議な気持ちになる。両氏共に優れた頭脳
の持ち主なのに、政治家としてはなぜこんなに定まらない存在なのか。玉
木氏は東大法学部からハーバードの大学院で学んだ。財務省ではエリート
コースの主計局で、主査を最後に、政界に転じた。

大塚氏は早稲田で博士号を取り、日銀に奉じたエリートだ。人間的に嫌味
は全く無い。玉木氏とは異なり、語り口も穏やかだ。

エリートでしかも若い世代の両氏が並んで新党構想を披露しても、一筋の
光さえも感じさせないのはなぜか。両氏の周りにさえ、財務省出身者と日
銀出身者の組み合わせから、政治を統べる能力など生まれるものかと侮る
声がある。しかし、政治史を振り返れば、岸信介の後任は大蔵事務次官を
務めた池田勇人だった。池田から始まる宏池会政治を私は評価しないが、
財務省や日銀出身ゆえに希望が持てないというわけではない。玉木、大塚
両氏に期待できないのは、安全保障、福祉、加計学園に関わる岩盤規制、
憲法改正などおよそ全てにおいて、両氏の議論が現実に根ざしていないか
らである。理念先行の、頭の中での空回りなのだ。

両氏の議論で私が本当に驚いた発言があった。今年1月17日、BSフジの
「プライムニュース」でのそれである。時間にしてみればごく短い発言
だったが、私はこれを聞いて、この人たちのような政治家は真っ平御免だ
と、心底、思ったものだ。以下に再現してみよう。

大塚:あのぜひプライムでもキャンペーン張っていただきたいことがあり
ましてね

反町理キャスター(以下反町):何ですか

大塚:それは憲法改正はね、最後は国民の皆さんが国民投票でお決めにな
ることなので……(後略)

最終的に国民が決めるというのは正論である。だが、氏は続いて次のよう
に語ったのだ。

大塚:ところが、もし国民投票を逐条でやらずに安倍さんお得意のパッ
ケージでマルペケ付けさせられたら、これはね、かなりあのまずいことに
なるし、これは私も厳しく……

反町:あ、そうか。そこはまだルールが決まってないんでしたっけ

玉木:いやあの、国民投票法上は基本的には……

反町:(かぶせるように)ひとつひとつのはずですよね

玉木:あのー……ひとつひとつ……やることが一応、義務づけられていたと思
いますが、ただ、ちょっと、詳細、いま私も忘れてしまったのですが……

大塚:あのー、そこは、確認、しますが、そのとにかくね、逐条であればね

「旧社会党のようになる」

このあと議論は他のテーマに移ったが、傍線(斜体)部分に注目していた
だきたい。どう考えても大塚氏も玉木氏も、憲法改正は「パッケージ」で
などできないということを知らなかった、或いは極めてあやふやな理解
だったとしか思えない。

憲法改正に関しては、第一次安倍内閣で国民投票法が成立し、国会法が改
められた。国会法第六章の二「日本国憲法の改正の発議」の第六十八条の
三に「区分発議」がある。それは、「前条の憲法改正原案の発議に当たっ
ては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定め
ている。

つまり、項目毎の改正しかできないのである。だからこそ、自民党の改正
案は4項目に絞られているのではないか。野党第一党としての民進党は党
としての改正案もまとめられなかった。右から左まで意見が分かれすぎて
いて政党としてまとまりきれなかったことに加えて、玉木、大塚両氏に見
られるように改正の手続きさえ、よく理解していない、つまり真剣に取り
組むことがなかったという結果ではないのか。

国会法改正から約10年、一括して憲法全体を改正できるとでも思っていた
のか。この数年、憲法改正は日本国にとっての重要課題であり続けてき
た。賛成でも反対でも、その基本ルールも知らずに議論する政治家の主張
や理屈など、信じられるものだろうか。

これ程不見識な彼らの近未来を、長島氏が厳しく語った。

「国民民主党が求心力を高められるとは思いません。行き詰まって、結局
枝野さんの立憲民主党に吸収される人々がふえると思います。そのとき彼
らは旧社会党のようになるのではないでしょうか」

私もそんな気がしてならない。
『週刊新潮』 2018年5月17日号 v 日本ルネッサンス 第802回

2018年05月17日

◆平和憲法重視の宏池会の外交方針では

櫻井よしこ



「平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応で
きない」

米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは
韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日
本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはなら
ない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。

国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見
渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と
異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。当時の人々が、わ
が国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国強兵の国家目標を
よく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたからだ。

しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本
問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。

「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオス
マン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で
南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったは
ずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされ
たと思います」

政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は
辛うじて国難を切り抜けた。

現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気
配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっていると
は思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機
はかつてのそれより尚、深刻である。

そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 より
よきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の
下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれ
なのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える
未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。

宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンか
らボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個
人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。

また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの
5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がな
ぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。

加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本
柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本
は国際社会で苦労している。

宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人であ
る。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を
知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身
に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行
憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。

また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国
政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているの
が、防衛相の小野寺氏であろうに。
 
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」がある。
安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍政権
打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこれか
らの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230

2018年05月16日

◆米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題

櫻井よしこ



「米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題 「リビア方式」による
解決可能性を示唆か」

4月17日の日米首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相
に、「極めて高いレベルで北朝鮮と直接対話している」と語り、その後記
者団が「金正恩氏と直接話しているのか」と問うと、「イエス」と答え
た。マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が3月30日から4月1日の
復活祭の連休を利用して訪朝したのだという。

いま米国の対北朝鮮外交はトランプ氏の意向を汲むポンペオ氏に加えて、
国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が軸となって構
築されている。3氏共に、非核化の話し合いが失敗すれば、軍事オプショ
ンもあり得るとの考え方だ。

ポンペオ氏は正恩氏と話し合いをした後の4月12日、上院外交委員会で行
われた国務長官への指名承認公聴会で、正恩体制の転換は考えていないと
明言すると同時に、非核化に関して、「見返りを与える前に恒久的かつ不
可逆的な成果を得ることを確実にする」と述べた。

米国側の一連の動きは北朝鮮問題が「リビア方式」による解決に向かう可
能性を示唆するのではないか。

これはリビアの最高指導者、カダフィ大佐が選んだ非核化の道である。カ
ダフィ氏は秘密裏に大量破壊兵器の製造を進めていたが、2003年12月にイ
ラクのサダム・フセイン元大統領が地中に潜んでいたところを米軍に拘束
されたのを見て、震え上がった。カダフィ氏はその3日後に大量破壊兵器
を放棄する意思を世界に宣言した。

CIAと英国の秘密情報組織、MI6の要員を含む専門家集団がリビア入
りし、核兵器、核製造に必要な関連物資、核運搬用のミサイル、製造施
設、一連の計画に関する書類など全てを押収、化学物質はリビア国内で米
英作業部隊の監視の下で破壊され、書類は全て国外に持ち出された。

カダフィ氏は全てを受け入れて生き延びた。但し、彼は10年にチュニジア
でいわゆる中東の春と呼ばれる民主化運動が始まり、その広がりの中で11
年に群衆に殺害された。

正恩氏が核を放棄すれば、カダフィ氏やフセイン氏のように命を奪われる
という言説があるが、右の2つのケースが伝えているのは全く別の教訓で
はないか。フセイン氏は核兵器を持っていなかったが持っている振りをし
て査察を拒否し、米軍に殺害された。カダフィ氏は核兵器製造を明らかに
し、査察を受け入れ、8年間生き延びた。氏を殺害したのは前述したよう
に、リビアの国民であり、それはカダフィ一族による専制恐怖政治が招い
た結果だ。

2人の指導者の異なる運命を正恩氏が把握すれば、どちらを選べば氏の命
脈が守られるかわかるはずだ。

トランプ氏は安倍首相との共同記者会見でも「成果が期待できなければ米
朝首脳会談は実現しない。会談が実現しても実りがなければ退席する」と
語っている。正恩氏に圧力をかけ続け、米国の求める形の非核化実現を促
しているのだ。

安倍首相とトランプ氏は19日午前の共同記者会見で拉致問題についても
語った。トランプ氏は拉致被害者について、「日本に帰れることを大事に
考えている。私はこのことをシンゾーに約束した」と語った。救う会会長
の西岡力氏は語る。

「CIAは北朝鮮の情報当局にも接触しており、拉致被害者についても語
り合っていると思われます。その中で拉致被害者生存情報を得ているので
はないでしょうか。その上で拉致被害者の帰国に言及しているのです。勿
論、甘い期待はできませんが、拉致問題解決に向けてよい兆しだと思います」

国際政治は動いている。多くの日本人の命と運命がかかっている。国とし
てどう動くべきか、正念場である。日本の国会はもっとこうした大事な問
題に向き合うべきだ。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月28日・5月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1229

2018年05月15日

◆平和憲法重視の宏池会の外交方針では

櫻井よしこ



「平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応で
きない」

米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは
韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日
本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはなら
ない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。

国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見
渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と
異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。当時の人々が、わ
が国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国強兵の国家目標を
よく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたからだ。

しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本
問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。

「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオス
マン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で
南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったは
ずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされ
たと思います」

政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は
辛うじて国難を切り抜けた。

現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気
配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっていると
は思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機
はかつてのそれより尚、深刻である。

そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 より
よきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の
下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれ
なのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える
未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。

宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンか
らボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個
人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。

また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの
5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がな
ぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。

加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本
柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本
は国際社会で苦労している。

宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人であ
る。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を
知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身
に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行
憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。

また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国
政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているの
が、防衛相の小野寺氏であろうに。
 
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」があ
る。安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍
政権打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこ
れからの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230 


          

2018年05月14日

◆宏池会の外交方針では

櫻井よしこ



「平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応で
きない」

米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは
韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日
本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはなら
ない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。

国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見
渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と
異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。当時の人々が、わ
が国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国強兵の国家目標を
よく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたからだ。

しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本
問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。

「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオス
マン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で
南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったは
ずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされ
たと思います」

政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は
辛うじて国難を切り抜けた。

現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気
配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっていると
は思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機
はかつてのそれより尚、深刻である。

そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 より
よきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の
下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれ
なのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える
未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。

宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンか
らボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個
人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。

また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの
5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がな
ぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。

加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本
柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本
は国際社会で苦労している。

宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人であ
る。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を
知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身
に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行
憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。

また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国
政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているの
が、防衛相の小野寺氏であろうに。
 
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」があ
る。安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍
政権打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこ
れからの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230 


2018年05月13日

◆平和憲法重視の宏池会の外交方針では

櫻井よしこ



「平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応で
きない」


米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは
韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日
本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはなら
ない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。

国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見
渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と
異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。

当時の人々が、わが国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国
強兵の国家目標をよく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたか
らだ。

しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本
問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。

「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオス
マン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で
南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったは
ずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされ
たと思います」

政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は
辛うじて国難を切り抜けた。

現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気
配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっていると
は思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機
はかつてのそれより尚、深刻である。

そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 より
よきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の
下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれ
なのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える
未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。

宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンか
らボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個
人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。

また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの
5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がな
ぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。

加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本
柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本
は国際社会で苦労している。

宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人であ
る。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を
知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身
に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行
憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。

また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国
政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているの
が、防衛相の小野寺氏であろうに。
 
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」がある。
安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍政権
打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこれか
らの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230

2018年05月11日

◆科研費の闇、税金は誰に流れたか

櫻井よしこ


山口二郎氏と言えば2015年の平和安全法制に反対する集会の中で「安倍に
言いたい! お前は人間じゃない! 叩き斬ってやる」と演説したと報じ
られた人物だ。4月20日の「言論テレビ」で衆議院議員の杉田水脈氏が、
その山口氏に以下のように巨額の科学研究費補助金(科研費)が支給され
ていたことを報告した。

02年から06年までの5年間に亘る研究、「グローバリゼーション時代にお
けるガバナンスの変容に関する比較研究」には4億4577万円、07年から11
年の「市民社会民主主義の理念と政策に関する総合的考察」には9854万
円、12年から17年の「政権交代の比較研究と民主政治の可能性に関する考
察」には4498万円となっている。山口氏は16年連続で科研費を獲得し、そ
の合計は6億円近くに上ったわけだ。

東京工業大学特任教授の奈良林直氏が驚いて語った。

「科研費は昭和7(1932)年の天皇陛下の御下賜金をきっかけとする日本
学術振興会と文科省が80年近く、資金配分してきました。2017年度の科研
費の予算額は2677億円、日本中の大学の研究者が応募します」

日本学術振興会のサイトには、予算の99.8%が国からの運営費交付金及び
補助金等で賄われているとの説明がある。天皇陛下の御下賜金から始まっ
た学術研究振興の貴い資金は、私たちの税金によって大きく支えられてきた。

奈良林氏は3つの研究について科研費を受け取った。うち1件はフィルタベ
ントに使うAgXの研究で、その時の競争倍率は20倍だった。「この研究に
は大きな装置が必要でしたが、3年間で2000万円でしたからそこにお金を
かける余裕はありませんでした。そこで学生たちに手伝ってもらって装置
を手作りしました。研究には40人の学者、専門家に参加してもらいました
が、彼らは全員、交通費も含めて手弁当で協力してくれました」と奈良林氏。

人文科学系で数億円

研究の成果は世界初のフィルタベントシステムの開発につながった。それ
はセシウムなどの放射性物質だけでなく有機ヨウ素を取り除く優れもの
で、広く世界に認められた。このフィルタベントシステムを設置すれば、
万が一原子力発電所で爆発事故があっても、セシウムも有機ヨウ素も除去
できるため、甲状腺癌などの心配が減少するというのだ。

2000万円の科研費でこのような成果を導き出した奈良林氏は、山口氏が受
け取っていた6億円規模の科研費についてこう語る。

「理系の研究では、私のフィルタベントの研究のように実験装置の製作や
最先端の測定器などを必要としますので、費用がかかります。しかし、人
文科学系で数億円規模の研究費がなぜ必要なのか、そのような大金が支給
されていたことに驚いています。科研費は学者・研究者にとって非常に大
切なものです。それだけに、数億円の科研費はどのような審査を経て与え
られたのか、その成果物は何だったのかなど、厳しく評価することが大事
だと思います」

科研費は多くの研究に支給されているが、中には疑問を抱かざるを得ない
研究もある。杉田氏が指摘する。

「たとえば沖縄の基地反対運動や琉球独立を主張する研究者グループへの
支給です。龍谷大学教授の松島泰勝氏の『沖縄県の振興開発と内発的発展
に関する総合研究』に442万円の科研費が出されています。研究の期間は
11年から15年となっていて、研究成果として多くの雑誌論文が並んでいます」

成果とされた雑誌への論文寄稿では、「琉球の独立と平和」、「なぜ、琉
球独立なのか・琉球と日本との新たな関係性を考える」、「尖閣諸島は
『日本固有の領土』なのか」などが目につく。図書(書籍)としては『琉
球独立論・琉球民族のマニフェスト』や『琉球独立への道・植民地主義に
抗う琉球ナショナリズム』などがある。

『琉球独立論』は、中央政府対地方自治体という構図の中での沖縄論は既
に意味を持たないものであり、現在の課題は、琉球が日本に同化するため
の差別撤廃というテーマから、琉球が独立するために構築すべき日本との
関係性というテーマに移っているといった内容だと紹介されている。

沖縄と日本、或いは沖縄県人と日本人を完全な別の国家、民族と見做した
論理展開である。この主張に基づいて雑誌に寄稿し、書籍を出版する松島
氏は13年に「琉球民族独立総合研究学会」を、沖縄国際大学教授の友知政
樹氏、同大学准教授の桃原一彦氏と共に設立している。彼らの目指すとこ
ろは「琉球の日本からの独立」である。

厳しく公正な審査を

杉田氏が指摘した。

「松島氏は『沖縄県の振興開発と内発的発展に関する総合研究』の名目で
研究費を申請しています。よくわからないタイトルですが、地域発展につ
いての研究かと思わせる。けれどその成果物を見るとそうではない。尖閣
諸島は本当に日本固有の領土なのかと問う論文を書いたり、沖縄独立を主
張しています。それに松島氏らは15年9月にニューヨークの国連本部で記
者会見し琉球独立を宣言しています」

記者会見の写真を見ると、松島氏は自著を、他の3人は「琉球新報」を掲
げて会見に臨んでいる。4人の背景に「琉球民族獨立總合研究學會」の看
板がかかっている。

「漢字を見ればこれは中国向けの記者会見ではないでしょうか。この会見
に先立つ国連内のあるシンポジウムで、琉球新報編集局長が『沖縄はアメ
リカの領土でも日本の領土でもない』と発言しています」

と、杉田氏は指摘する。

研究にはさまざまなものがあってよいとは思う。しかし、科研費は税金で
ある。公正なルールに基づいて支給されなければならないのは当然だ。こ
こに示した事例はどう考えても国民の納得を得られるものではないだろう。

奈良林氏も指摘したように、大学関係者にとって科研費は非常に重要な意
味を持つ。それだけに厳しい審査も受ける。たとえば山中伸弥氏が所長を
務める京都大学iPS細胞研究所で起きた論文不正問題である。不正を
行った若手研究者に科研費80万円が支給されていたため、この科研費を返
還すべきか、また、山中氏は辞任すべきかという問題にまで発展した。

内外で高く評価され尊敬を集めている山中氏の辞任は誰も望んでおらず、
氏は辞任を思いとどまった。だが、80万円という少額であっても科研費の
在り方は厳しく精査された。それに較べて、山口氏や松島氏らへの科研費
はどこまで厳しく公正な審査を受けているのだろうか。実はこの他にも疑
問を抱かせる科研費支給の事例は少なくない。科研費は私たちの予想以上
に深い闇に沈んでいるのではないか。

『週刊新潮』 2018年5月3・10日合併号 日本ルネッサンス 第801回

2018年05月10日

◆米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題

櫻井よしこ



「米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題 「リビア方式」による解
決可能性を示唆か」

4月17日の日米首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相
に、「極めて高いレベルで北朝鮮と直接対話している」と語り、その後記
者団が「金正恩氏と直接話しているのか」と問うと、「イエス」と答え
た。マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が3月30日から4月1日の
復活祭の連休を利用して訪朝したのだという。

いま米国の対北朝鮮外交はトランプ氏の意向を汲むポンペオ氏に加えて、
国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が軸となって構
築されている。3氏共に、非核化の話し合いが失敗すれば、軍事オプショ
ンもあり得るとの考え方だ。

ポンペオ氏は正恩氏と話し合いをした後の4月12日、上院外交委員会で行
われた国務長官への指名承認公聴会で、正恩体制の転換は考えていないと
明言すると同時に、非核化に関して、「見返りを与える前に恒久的かつ不
可逆的な成果を得ることを確実にする」と述べた。

米国側の一連の動きは北朝鮮問題が「リビア方式」による解決に向かう可
能性を示唆するのではないか。

これはリビアの最高指導者、カダフィ大佐が選んだ非核化の道である。カ
ダフィ氏は秘密裏に大量破壊兵器の製造を進めていたが、2003年12月にイ
ラクのサダム・フセイン元大統領が地中に潜んでいたところを米軍に拘束
されたのを見て、震え上がった。カダフィ氏はその3日後に大量破壊兵器
を放棄する意思を世界に宣言した。

CIAと英国の秘密情報組織、MI6の要員を含む専門家集団がリビア入
りし、核兵器、核製造に必要な関連物資、核運搬用のミサイル、製造施
設、一連の計画に関する書類など全てを押収、化学物質はリビア国内で米
英作業部隊の監視の下で破壊され、書類は全て国外に持ち出された。

カダフィ氏は全てを受け入れて生き延びた。但し、彼は10年にチュニジア
でいわゆる中東の春と呼ばれる民主化運動が始まり、その広がりの中で11
年に群衆に殺害された。

正恩氏が核を放棄すれば、カダフィ氏やフセイン氏のように命を奪われる
という言説があるが、右の2つのケースが伝えているのは全く別の教訓で
はないか。フセイン氏は核兵器を持っていなかったが持っている振りをし
て査察を拒否し、米軍に殺害された。カダフィ氏は核兵器製造を明らかに
し、査察を受け入れ、8年間生き延びた。氏を殺害したのは前述したよう
に、リビアの国民であり、それはカダフィ一族による専制恐怖政治が招い
た結果だ。

2人の指導者の異なる運命を正恩氏が把握すれば、どちらを選べば氏の命
脈が守られるかわかるはずだ。

トランプ氏は安倍首相との共同記者会見でも「成果が期待できなければ米
朝首脳会談は実現しない。会談が実現しても実りがなければ退席する」と
語っている。正恩氏に圧力をかけ続け、米国の求める形の非核化実現を促
しているのだ。

安倍首相とトランプ氏は19日午前の共同記者会見で拉致問題についても
語った。トランプ氏は拉致被害者について、「日本に帰れることを大事に
考えている。私はこのことをシンゾーに約束した」と語った。救う会会長
の西岡力氏は語る。

「CIAは北朝鮮の情報当局にも接触しており、拉致被害者についても語
り合っていると思われます。その中で拉致被害者生存情報を得ているので
はないでしょうか。その上で拉致被害者の帰国に言及しているのです。勿
論、甘い期待はできませんが、拉致問題解決に向けてよい兆しだと思います」

国際政治は動いている。多くの日本人の命と運命がかかっている。国とし
てどう動くべきか、正念場である。日本の国会はもっとこうした大事な問
題に向き合うべきだ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年4月28日・5月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1229

2018年05月09日

◆米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題

櫻井よしこ


「米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題 「リビア方式」による解決
可能性を示唆か」

4月17日の日米首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相
に、「極めて高いレベルで北朝鮮と直接対話している」と語り、その後記
者団が「金正恩氏と直接話しているのか」と問うと、「イエス」と答え
た。マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が3月30日から4月1日の
復活祭の連休を利用して訪朝したのだという。

いま米国の対北朝鮮外交はトランプ氏の意向を汲むポンペオ氏に加えて、
国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が軸となって構
築されている。3氏共に、非核化の話し合いが失敗すれば、軍事オプショ
ンもあり得るとの考え方だ。

ポンペオ氏は正恩氏と話し合いをした後の4月12日、上院外交委員会で行
われた国務長官への指名承認公聴会で、正恩体制の転換は考えていないと
明言すると同時に、非核化に関して、「見返りを与える前に恒久的かつ不
可逆的な成果を得ることを確実にする」と述べた。

米国側の一連の動きは北朝鮮問題が「リビア方式」による解決に向かう可
能性を示唆するのではないか。

これはリビアの最高指導者、カダフィ大佐が選んだ非核化の道である。カ
ダフィ氏は秘密裏に大量破壊兵器の製造を進めていたが、2003年12月にイ
ラクのサダム・フセイン元大統領が地中に潜んでいたところを米軍に拘束
されたのを見て、震え上がった。カダフィ氏はその3日後に大量破壊兵器
を放棄する意思を世界に宣言した。

CIAと英国の秘密情報組織、MI6の要員を含む専門家集団がリビア入
りし、核兵器、核製造に必要な関連物資、核運搬用のミサイル、製造施
設、一連の計画に関する書類など全てを押収、化学物質はリビア国内で米
英作業部隊の監視の下で破壊され、書類は全て国外に持ち出された。

カダフィ氏は全てを受け入れて生き延びた。但し、彼は10年にチュニジア
でいわゆる中東の春と呼ばれる民主化運動が始まり、その広がりの中で11
年に群衆に殺害された。

正恩氏が核を放棄すれば、カダフィ氏やフセイン氏のように命を奪われる
という言説があるが、右の2つのケースが伝えているのは全く別の教訓で
はないか。フセイン氏は核兵器を持っていなかったが持っている振りをし
て査察を拒否し、米軍に殺害された。カダフィ氏は核兵器製造を明らかに
し、査察を受け入れ、8年間生き延びた。氏を殺害したのは前述したよう
に、リビアの国民であり、それはカダフィ一族による専制恐怖政治が招い
た結果だ。

2人の指導者の異なる運命を正恩氏が把握すれば、どちらを選べば氏の命
脈が守られるかわかるはずだ。

トランプ氏は安倍首相との共同記者会見でも「成果が期待できなければ米
朝首脳会談は実現しない。会談が実現しても実りがなければ退席する」と
語っている。正恩氏に圧力をかけ続け、米国の求める形の非核化実現を促
しているのだ。

安倍首相とトランプ氏は19日午前の共同記者会見で拉致問題についても
語った。トランプ氏は拉致被害者について、「日本に帰れることを大事に
考えている。私はこのことをシンゾーに約束した」と語った。救う会会長
の西岡力氏は語る。

「CIAは北朝鮮の情報当局にも接触しており、拉致被害者についても語
り合っていると思われます。その中で拉致被害者生存情報を得ているので
はないでしょうか。その上で拉致被害者の帰国に言及しているのです。勿
論、甘い期待はできませんが、拉致問題解決に向けてよい兆しだと思います」

国際政治は動いている。多くの日本人の命と運命がかかっている。国とし
てどう動くべきか、正念場である。日本の国会はもっとこうした大事な問
題に向き合うべきだ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年4月28日・5月5日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1229

2018年05月08日

◆米国が求める形の非核化目指す北朝鮮問題

櫻井よしこ


「リビア方式」による解決可能性を示唆か」

4月17日の日米首脳会談で、ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相
に、「極めて高いレベルで北朝鮮と直接対話している」と語り、その後記
者団が「金正恩氏と直接話しているのか」と問うと、「イエス」と答え
た。マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が3月30日から4月1日の
復活祭の連休を利用して訪朝したのだという。

いま米国の対北朝鮮外交はトランプ氏の意向を汲むポンペオ氏に加えて、
国家安全保障問題担当大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が軸となって構
築されている。3氏共に、非核化の話し合いが失敗すれば、軍事オプショ
ンもあり得るとの考え方だ。

ポンペオ氏は正恩氏と話し合いをした後の4月12日、上院外交委員会で行
われた国務長官への指名承認公聴会で、正恩体制の転換は考えていないと
明言すると同時に、非核化に関して、「見返りを与える前に恒久的かつ不
可逆的な成果を得ることを確実にする」と述べた。

米国側の一連の動きは北朝鮮問題が「リビア方式」による解決に向かう可
能性を示唆するのではないか。

これはリビアの最高指導者、カダフィ大佐が選んだ非核化の道である。カ
ダフィ氏は秘密裏に大量破壊兵器の製造を進めていたが、2003年12月にイ
ラクのサダム・フセイン元大統領が地中に潜んでいたところを米軍に拘束
されたのを見て、震え上がった。カダフィ氏はその3日後に大量破壊兵器
を放棄する意思を世界に宣言した。

CIAと英国の秘密情報組織、MI6の要員を含む専門家集団がリビア入
りし、核兵器、核製造に必要な関連物資、核運搬用のミサイル、製造施
設、一連の計画に関する書類など全てを押収、化学物質はリビア国内で米
英作業部隊の監視の下で破壊され、書類は全て国外に持ち出された。

カダフィ氏は全てを受け入れて生き延びた。但し、彼は10年にチュニジア
でいわゆる中東の春と呼ばれる民主化運動が始まり、その広がりの中で11
年に群衆に殺害された。

正恩氏が核を放棄すれば、カダフィ氏やフセイン氏のように命を奪われる
という言説があるが、右の2つのケースが伝えているのは全く別の教訓で
はないか。フセイン氏は核兵器を持っていなかったが持っている振りをし
て査察を拒否し、米軍に殺害された。カダフィ氏は核兵器製造を明らかに
し、査察を受け入れ、8年間生き延びた。氏を殺害したのは前述したよう
に、リビアの国民であり、それはカダフィ一族による専制恐怖政治が招い
た結果だ。

2人の指導者の異なる運命を正恩氏が把握すれば、どちらを選べば氏の命
脈が守られるかわかるはずだ。

トランプ氏は安倍首相との共同記者会見でも「成果が期待できなければ米
朝首脳会談は実現しない。会談が実現しても実りがなければ退席する」と
語っている。正恩氏に圧力をかけ続け、米国の求める形の非核化実現を促
しているのだ。

安倍首相とトランプ氏は19日午前の共同記者会見で拉致問題についても
語った。トランプ氏は拉致被害者について、「日本に帰れることを大事に
考えている。私はこのことをシンゾーに約束した」と語った。救う会会長
の西岡力氏は語る。

「CIAは北朝鮮の情報当局にも接触しており、拉致被害者についても語
り合っていると思われます。その中で拉致被害者生存情報を得ているので
はないでしょうか。その上で拉致被害者の帰国に言及しているのです。勿
論、甘い期待はできませんが、拉致問題解決に向けてよい兆しだと思います」

国際政治は動いている。多くの日本人の命と運命がかかっている。国とし
てどう動くべきか、正念場である。日本の国会はもっとこうした大事な問
題に向き合うべきだ。
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月28日・5月5日合併号
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