2018年02月19日

◆韓国大統領が指示続ける「革命的政変」

櫻井よしこ


韓国大統領が指示続ける「革命的政変」 わが国の憲法改正は隣国の危機
踏まえよ」

韓国の文在寅大統領が、「革命的政変」の指示を出し続けている。

日本では韓国系の「統一日報」が2月7日付で報じただけだが、同月5日、
文大統領が政策企画委員会の丁海亀委員長に憲法改正の準備に入るよう指
示した。韓国では憲法改正を大統領もしくは国会が発議できる。大統領発
議の場合、国会で3分の2の賛成を得れば正式に発議され、国民投票で過半
数の支持を得て成立する。

文氏は6月の地方自治体選挙に合わせて社会主義国家としての憲法を作る
ことを目論んでいると言われる。

文氏は大統領就任後真っ先に教科書の改訂を命じた。朴槿恵前大統領が作
成させた国定教科書を全否定する決定だった。朴前大統領は、教育現場で
長年使用されていた左傾化教科書を180度変えて、韓国の歴史を肯定的に
評価する内容の教科書を国定教科書とした。

だが、文氏は、政権の最優先政策として、その教科書をやめさせたのだ。
その上で長年韓国で使われていた親北朝鮮の左翼史観に基づく教科書に戻
そうとしているのである。

現在、中・高校生用歴史教科書から、「自由民主主義」の「自由」が消さ
れ、単なる「民主主義」への書きかえが行われている。なぜこのように書
きかえるのか。「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が解説した。

「文大統領は選挙戦で公約した北朝鮮との連邦政府を作ろうとしているの
です。しかしどう考えても、いかなる自由も許さない北朝鮮の専制独裁政
治体制と、韓国の自由民主主義は整合しません。だから自由という言葉を
外していると考えられます」

もうひとつ気になる動きが進行中だ。少なくとも2万人、最大で6万人に上
る一般市民が文政権の査察を受けている可能性がある。査察の対象となっ
た市民は、朴前大統領の逮捕やその後の不当裁判に抗議するための太極旗
デモ──参加者が韓国国旗の太極旗を掲げているためにそのように呼ばれて
いる──にカンパをした人々だ。

各金融機関が寄付者に「あなたの金融取引情報が、令状によってソウル警
察庁に提供されたことを通知します」と報告した結果、査察の事実が明ら
かになった。

文政権に不満を持つ太極旗グループの人々は1月16日、「公権力による民
間人の寄付金不法査察及びブラックリスト対策委員会」を結成、詳しい調
査を行った。その結果、5000ウォン(約500円)の少額寄付者まで査察を
受けていたことが発覚した。

国家による個人への査察は大きな政治圧力になる。たとえば公務員は、朴
前大統領支持のデモへの寄付行為を政権側に把握されれば、その後の人事
にも影響が及ぶと恐れるだろう。あらゆる意味で威嚇効果は覿面である。

文大統領が憲法改正の準備を命じた丁氏は、韓国ではよく知られた主体思
想主義者で、北朝鮮の故金日成国家主席の思想を引き継いでいる人物だ。
氏は文大統領の下で、韓国における北朝鮮の工作活動を監視し、取り締ま
る組織、国家情報院解体の指揮を執った。

陰に陽に韓国の保守勢力を弾圧する文氏の憲法改正の思惑は実現するの
か。現在、韓国では保守政党の「自由韓国党」が3分の1以上の議席を有し
ており、現状では文大統領の目標達成は難しい。しかし、楽観は禁物だ。

「朴前大統領を弾劾するか否かの局面で、本来、保守派であったはずの与
党議員の多くが弾劾賛成に転じました。自由韓国党の分裂もあり得るで
しょう。そのとき、韓国は取り返しのつかない危機に陥ります」と洪氏。

隣国の危機が日本の危機につながることは歴史上も明らかだ。中国の脅威
も深刻だが、わが国はまず、朝鮮半島の危機に備えなければならない。憲
法改正の議論はこのような現実の危機を踏まえて行ってほしい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年2月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1219 


2018年02月18日

◆韓国大統領が指示続ける「革命的政変」

櫻井よしこ

「韓国大統領が指示続ける「革命的政変」 わが国の憲法改正は隣国の危
機踏まえよ」

韓国の文在寅大統領が、「革命的政変」の指示を出し続けている。

日本では韓国系の「統一日報」が2月7日付で報じただけだが、同月5日、
文大統領が政策企画委員会の丁海亀委員長に憲法改正の準備に入るよう指
示した。韓国では憲法改正を大統領もしくは国会が発議できる。大統領発
議の場合、国会で3分の2の賛成を得れば正式に発議され、国民投票で過半
数の支持を得て成立する。

文氏は6月の地方自治体選挙に合わせて社会主義国家としての憲法を作る
ことを目論んでいると言われる。

文氏は大統領就任後真っ先に教科書の改訂を命じた。朴槿恵前大統領が作
成させた国定教科書を全否定する決定だった。朴前大統領は、教育現場で
長年使用されていた左傾化教科書を180度変えて、韓国の歴史を肯定的に
評価する内容の教科書を国定教科書とした。

だが、文氏は、政権の最優先政策として、その教科書をやめさせたのだ。
その上で長年韓国で使われていた親北朝鮮の左翼史観に基づく教科書に戻
そうとしているのである。

現在、中・高校生用歴史教科書から、「自由民主主義」の「自由」が消さ
れ、単なる「民主主義」への書きかえが行われている。なぜこのように書
きかえるのか。「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が解説した。

「文大統領は選挙戦で公約した北朝鮮との連邦政府を作ろうとしているの
です。しかしどう考えても、いかなる自由も許さない北朝鮮の専制独裁政
治体制と、韓国の自由民主主義は整合しません。だから自由という言葉を
外していると考えられます」

もうひとつ気になる動きが進行中だ。少なくとも2万人、最大で6万人に上
る一般市民が文政権の査察を受けている可能性がある。査察の対象となっ
た市民は、朴前大統領の逮捕やその後の不当裁判に抗議するための太極旗
デモ──参加者が韓国国旗の太極旗を掲げているためにそのように呼ばれて
いる──にカンパをした人々だ。

各金融機関が寄付者に「あなたの金融取引情報が、令状によってソウル警
察庁に提供されたことを通知します」と報告した結果、査察の事実が明ら
かになった。

文政権に不満を持つ太極旗グループの人々は1月16日、「公権力による民
間人の寄付金不法査察及びブラックリスト対策委員会」を結成、詳しい調
査を行った。その結果、5000ウォン(約500円)の少額寄付者まで査察を
受けていたことが発覚した。

国家による個人への査察は大きな政治圧力になる。たとえば公務員は、朴
前大統領支持のデモへの寄付行為を政権側に把握されれば、その後の人事
にも影響が及ぶと恐れるだろう。あらゆる意味で威嚇効果は覿面である。

文大統領が憲法改正の準備を命じた丁氏は、韓国ではよく知られた主体思
想主義者で、北朝鮮の故金日成国家主席の思想を引き継いでいる人物だ。
氏は文大統領の下で、韓国における北朝鮮の工作活動を監視し、取り締ま
る組織、国家情報院解体の指揮を執った。

陰に陽に韓国の保守勢力を弾圧する文氏の憲法改正の思惑は実現するの
か。現在、韓国では保守政党の「自由韓国党」が3分の1以上の議席を有し
ており、現状では文大統領の目標達成は難しい。しかし、楽観は禁物だ。

「朴前大統領を弾劾するか否かの局面で、本来、保守派であったはずの与
党議員の多くが弾劾賛成に転じました。自由韓国党の分裂もあり得るで
しょう。そのとき、韓国は取り返しのつかない危機に陥ります」と洪氏。

隣国の危機が日本の危機につながることは歴史上も明らかだ。中国の脅威
も深刻だが、わが国はまず、朝鮮半島の危機に備えなければならない。憲
法改正の議論はこのような現実の危機を踏まえて行ってほしい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年2月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1219 


2018年02月17日

◆北朝鮮の船多数が漂着、備えを急げ

櫻井よしこ

昨年日本海沿岸で確認された北朝鮮木造船の漂流・漂着は100件、12月だ
けで40件を超えた。北海道、秋田、山形、青森、新潟、佐渡、福井、石
川、島根、京都、鳥取と広範囲に及ぶ。今年も漂着は続いている。「特定
失踪者問題調査会」の荒木和博氏の調査から拾ってみる。

・平成30(2018)年1月4日、秋田県三種町釜谷浜海水浴場に木造船の一部
が漂着。

・5日 石川県白山市沖 木造船1隻。

・6日 秋田県由利本荘市松ヶ崎漁港 木造船の一部。

・7日 京都府京丹後市網野町 木造船1隻。

・8日 新潟市西蒲区間瀬(まぜ)海岸 木造船1隻。

・同日 秋田県男鹿(おが)市野石申川(のいしさるかわ)海岸 木造船
の一部。

・10日 石川県金沢市下安原町安原海岸 一部白骨化した遺体1体とその
15メートル先に木造船1隻。

・16日 右の木造船の中から遺体7体発見。

・21日 新潟県粟島 八幡神社から200メートルの海岸で木造船の一部、
赤字でハングル2文字。

・24日 石川県志賀町西海千ノ浦海岸で木造船、傷み激しく長時間漂流し
たものと推定。

海洋問題に詳しい、東海大学教授でシンクタンク国家基本問題研究所(国
基研)理事の山田吉彦氏が指摘した。

「12月に漂着した船は漂流時間がそれ以前の船と較べて長いのが特徴で
す。動力を使わず、北西風に押されて荒れる厳寒の日本海を漂いながら、
破壊を免れていた船が少なからずありました。船体がしっかりしており、
乗っていたのは漁民というより体格のよい男達です。生存者は42人でし
た。前年、或いは前々年の生存者はゼロですから、大きな違いです」

山田氏はさらに語った。

「昨年12月頃から小型船が増えています。船長12〜15メートルだったの
が、7〜8メートルが多くなりました。悪天候の冬の日本海に乗り出すのは
余りにも無謀ですが、大型、中型の船が少なくなっていると思われます」

醜悪なもがき

レックス・ティラーソン米国務長官は1月17日、日本側(河野太郎外相)
から聞いた話として、昨年日本海沿岸に100隻以上の北朝鮮の漁船が漂着
し、乗組員の3分の2が死亡していたこと、生き残った漁民は北朝鮮に戻り
たがっていることから逃亡者や脱北者ではなく、満足な燃料を積みこんで
もらうことなく強制的に冬の海に出された漁民だと推測されることなどを
語っている。

朝鮮問題専門家で国基研の西岡力氏は、彼らが海に出される背景に北朝鮮
の食糧不足があると指摘する。独裁者金正恩氏は2014年、軍に漁獲量を確
保して、全土の育児院、小・中学校、養老院に毎日魚を届けよと厳命して
いる。その一方で、中国漁船300隻に1隻当たり3か月200万円で北朝鮮沿岸
の日本海漁場での操業権を売った。結果、北朝鮮の漁船は沿岸から遠く離
れた漁場に出されているというのだ。

「今年に入って、平壌のエネルギー事情はさらに悪化し、中国からのコー
クスの輸入が途絶えた結果、火力発電所が10日以上停止したとみられま
す。コメもトウモロコシにとって代わられつつあるという情報もありま
す」と西岡氏。

日本が主導してきた対北朝鮮経済制裁が効果を上げているのだ。金正恩氏
はその窮状を隠して、いま大博打を打ちつつある。韓国で開催される平昌
五輪大会開幕前日の2月8日、平壌で大規模軍事パレードを断行した。金氏
は、1948年2月8日が朝鮮人民軍創建の日だと、1月22日に突然、発表し
た。北朝鮮建国の日が同年9月9日であるから、北朝鮮では国家の前に軍が
できたことになる。

軍事パレードで金氏は「国家核武力の完成」を宣言するだろう。核もミサ
イルも諦めるつもりは全く無いのである。

翌日には南北朝鮮の合同チームが統一旗という奇妙な旗を掲げて平昌五輪
開会式で行進する予定だ。平和とスポーツの祭典は北朝鮮の専制独裁者の
生き残りを賭けた一大勝負に踏みにじられ、政治利用が極限に達するのを
世界は目撃させられるのだ。

こんな開会式や五輪に騙されてはならない。この五輪は、誇りある韓国人
には耐え難いであろう。国民に満足な食糧を供給することさえできない金
正恩氏の醜悪なもがきにすぎない。平昌五輪への南北朝鮮合同参加が北朝
鮮危機を緩和するなどとはどうしても考えにくい。韓国の文在寅政権の動
向にもよるが、朝鮮半島の危機はより深まっていくと覚悟した方がいい。

「大量の難民上陸」

山田氏が警告した。

「なぜ、前例のない程多くの船が漂着しているのか。北朝鮮は日本に大量
の難民を送り込もうとしていると思います。北朝鮮有事で約40万人が難民
化すると考えられます。うち、10万人から15万人が日本に向かい、うち半
分から3分の2が海で命を落とし、日本には5万人が漂着すると想定できます」

実に恐ろしい話だ。半分から3分の2が海で命を落とすというのは、これま
でに日本に流れ着いた北朝鮮の漁船の運命をもとに推定したものだ。だ
が、彼らはなぜ、危険な海路で日本に来ようとするのか。

主として2つの理由が考えられると、山田氏は見る。まず、中国やロシア
に逃れた場合、難民として保護してもらえる保証も、命を助けてもらえる
保証もないかもしれない。

対照的に、日本は国際法を守ろうと必死に手を 尽くすだろう。難民に住
居、着る物、食べる物に加えて、医療も施してく れると、彼らは確信し
ている。朝鮮総連が身元引受人になれば、長期滞在 も可能だ。たとえ工
作員であることが見破られても、日本の刑務所は清潔 で食事も医療も提
供される。日本に関して彼らが恐れるものは何もないのだ。

2つ目の理由は、詳細は明らかではないが、日本には北朝鮮系団体が有す
る莫大な資金があり、それが彼らの目的だと、山田氏は見る。

荒木氏の警告も実感を伴う。

「数千、数万の難民の中には感染症を患っていたり、工作員としての密命
を帯びている者も、必ずいるはずです。しかし、警察、海上保安庁、自衛
隊も、大量の難民上陸には、到底、対処しきれません。日本は国として対
処できる状況ではないということに、日本国民は気づいていない。そのこ
と自体が最も深刻な危機です」

昨年10月の総選挙は北朝鮮の危機に対処するための国難突破選挙だった。
ならば、自民党も公明党も国会で国難突破の方法を論じよ。野党もまた、
この国難を乗り越える方策を探る責任があることを自覚せよ。
『週刊新潮』 2018年2月8日号  日本ルネッサンス 第789回

2018年02月16日

◆戦中世代の歴史証言を真摯に聞け

櫻井よしこ
 

昨年10月の第19回中国共産党大会で習近平国家主席がとりわけ強調した
のが国民教育の重要性である。中国での教育は、中国共産党が如何に優れ
た愛国の党であるかを軸とし、中華民族の偉大さを徹底的に教える内容だ。

共産党に対する国民の忠誠と中華民族の誇り、そこに強い経済力と抜きん
出た軍事力を加えて国家の柱とする。こうして中国は21世紀中葉には世界
の諸民族の中にそびえ立つ存在になるという戦略だ。

このような中国の教育とは真逆の路線を歩んでいるのが、日本の教育現場
に根を張る日教組の教員たちだろう。2月4日付の「産経新聞」が、静岡県
で開催された日教組教研集会の様子を報じていた。

平和教育の実践例として、昭和6年の満州事変から20年の大東亜戦争終結
までを「15年戦争」として小学生に教える事例が報告されたそうだ。だ
が、満州事変から15年間、ずっと戦争行為が継続されていた事実はない。
小学生にそのように教えるのは不適切であろう。

また、郷土愛を育むために郷土の英雄について教えることは、「現状肯定
の危険性」があり、「社会の矛盾や格差、搾取、支配者の狙いなど」にも
注意を向けさせるべきだとの指摘が相次いだという。

中国が、共産党統治の下で法治、公平性、人権など、大事な価値観の多く
を欠落させていることは周知の事実だ。だが、彼らは13億の国民のみなら
ず全世界に向けて中国が優れた国だと偽りの教育をする。対照的に日教組
は、中国より余程まともなわが国を相も変わらず批判し、反日教育を実践
する。こんな教育で育てられる子供たちは、どんな大人にされてしまうの
だろうか。

これまで日本が中国や韓国から歴史問題で事実に反する非難を浴びせられ
てきたのは周知のとおりだ。だが、「朝日新聞」の事例で明らかなよう
に、日本に対する不条理な非難の殆んどは日本人が原因を作ってきたので
ある。日本人が、日本の歴史を暗黒の侵略の歴史と見做して、捏造話も盛
り込んで、内外に広げてきた。

事実を発信

そのような考え方や精神を生み出す基盤となるのが教育である。教育現場
で使われる教科書に注目せざるを得ないゆえんだ。

たとえば、いま、中韓両国が日本糾弾の材料と見做している徴用工問題
を、各社の教科書はどう記述しているか。東京書籍は日本史Aで、「大東
亜共栄圏」として「約70万人が朝鮮総督府の行政機関や警察の圧迫などに
よって日本本土に強制連行され」たと記述している。

実教出版は高校日本史Bで、「労働力不足を補うため、1939年からは集団
募集で、42年からは官斡旋で、44年からは国民徴用令によって約80万人の
朝鮮人を、日本内地や樺太、アジア太平洋地域などに強制連行した」とし
ている。

山川出版社は「詳説日本史」「新日本史」「高校日本史」で各々、「数十
万人の朝鮮人や占領地域の中国人を日本本土などに強制連行し、鉱山や土
木工事現場などで働かせた」、「多数の朝鮮人や占領地域の中国人を、日
本に強制連行して鉱山などで働かせた」、「朝鮮人や占領下の中国人も日
本に連行されて労働を強制された」としている。

どの教科書も、徴用工は「強制連行」だったと教えている。これではこれ
からの日本人が、韓国や中国の不条理な歴史非難に反論する正しい知識を
身につけることなどできないだろう。

中韓の主張をそのまま受け入れ、日 本を非難することが真に良心的なの
だと考える若者が育ちかねない。日本 を貶めることを生き甲斐とするよ
うな人々がふえて、負の連鎖の中に、日 本全体が落ち込んでいきかねない。

安倍晋三首相以前の日本の首相は歴史問題で事実を発信しようとしてこな
かった。むしろ、政府は事実を押し隠して中国や韓国の主張を受け入れて
きた。政治がそうであれば、役所はそれに従う。

三菱マテリアルが中国で 徴用工の件で訴えられた事例では、同社に、事
実を争うのではなく、中国 側の主張を呑んで賠償金を支払うように、外
務省が事実上指示した。「南 京大虐殺」や「慰安婦強制連行・性奴隷」
説についても、日本政府が事実 を示すことさえ憚った時代がずっと続い
てきた。

だが、事実だけが中韓両国の歴史捏造戦略に勝つ唯一の道である。事実を
知っている世代は少なくなってしまったが、それでも貴重な証言をしてく
れる人々はいる。

西川清氏は、昨年夏に102歳で亡くなった。氏は『朝鮮総督府官吏 最後
の証言』(桜の花出版編集部)の証言者である。氏は昭和8年に朝鮮総督
府江原道に任官し、朝鮮人の知事が統括する地方行政で内務課長を務め
た。敗戦まで12年間、朝鮮人の知事を上司とし、日本人、朝鮮人両方を同
僚や部下に持って働いた。

日本人が必死に努力したこと

私は幸運にも生前の西川氏と直接会話し、多くを聞くことができた。氏の
証言は前述の書にも詳しいが、最も印象的だったのは「日本人も朝鮮人も
自然なこととして仲良く暮らしていました」という言葉である。

不信に満ちた現在の両国国民の感情からは想像しにくいが、当時は現在よ
りずっと良好な関係だった。

朝鮮総督府の基本方針は「内鮮一体」であり、「皇民化政策」とも言われ
た。その意味を、西川氏は、日本と朝鮮の格差や差別をなくすことだと言
い切った。氏は、差別があったことは否定していない。しかし、その差別
をなくすように日本人が必死に努力したことを、現代の日本人にこそ、理
解してほしいと語った。

朝鮮総督府では仕事は全て厳格な程のルールに従って、透明な形で行われ
た。徴用に関しては、まず総督府が各道(県)に人数を割当て、指示命令
は郡、邑(ゆう)、面(村)へと、下位の自治体に降りていく。それは
「強制」ではなく「説得」と「納得」の手続きだった、納得しない人は、
徴用に応じなかったと、氏は語った。

西川氏は労働条件などをきちんと説明した上で徴用工を日本に送り出した
が、誰一人、強制した事例はないと、穏やかながらきっぱりと言い切った。

また慰安婦の強制連行も「絶対に」ないと断言した。仮にもし、軍が女性
を集めようとしたら、軍司令部は徴用工の場合と同じく、道→郡→面の順で
命令をおろしていく。その命令文書も多く残っているはずだ。だが、その
ような文書はない。当時の実情を見れば、道の役所や警察には多くの朝鮮
人が働いていた。氏の上司の知事は朝鮮人だった。

上役にも下役にも多くの朝鮮人がいた。朝鮮の男性たちが、朝鮮の女性た
ちの強制連行を指示する命令書に、大人しく従うなどあり得ない話だと、
氏は語った。こうした貴重な証言を、もっと教えていくことが大事である。
『週刊新潮』 2018年2月15日号 日本ルネッサンス 第790回

2018年02月15日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち
出すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。

氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。

大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、韓国の成功者の一
群で、右の3要件の心配はありません。しかし、検察は、朴前大統領の友
人の崔順実氏は拘留されている。拘束の平等理論によって他の者も拘束し
続けると説明しました。拘束の平等理論は韓国の法にはありません。北朝
鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮の法律を持ち出すのか、重大な問
いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218 

2018年02月14日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち出
すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。


氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218 

2018年02月13日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ
  

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち
出すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。

氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
                   
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218 

2018年02月11日

◆韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判

櫻井よしこ

「韓国の朴前大統領に続く苛酷な裁判 なぜ検察は北朝鮮の法律を持ち
出すのか」

韓国では朴槿恵前大統領に対して、裁判とは到底言えない苛酷な裁判が続
いている。公判は週4回も行われ、それぞれが10時間を越える長さに及
ぶ。朴氏の弁護人は、これは司法の名を騙った拷問だとして全員が辞任し
た。朴氏も出廷を拒否している。米国のメディア、CNNも「人権侵害」
として報じた。

朴氏の弁護人、金平祐(ピョンウ)弁護士は、一連の裁判を「革命裁判」
だと非難する。私は1月30日、シンクタンク「国家基本問題研究所」で、
金氏に会った。

氏は2009年から2年間、大韓民国弁護士会会長を、16年には米国のカリ
フォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で客員研究員を務めていた。
韓国での朴氏に対する弾劾の動きに衝撃を受け、急遽帰国し、青瓦台に朴
氏を訪ねたという。

「朴前大統領はすでに事実上軟禁されていました。16年10月9日に大統領
弾劾訴追案が国会で可決されたため、全権限が剥奪されていたのです」

周知のように、弾劾訴追案はその後憲法裁判所で審議され、8対0で支持さ
れた。金氏はこの一連の経緯には正当な法的根拠がなく、まともな司法の
下では考えられない事態が起きていると、訴える。

その第1は国会による大統領弾劾訴追の理由である。弾劾訴追状には、群
衆が大統領を弾劾せよと叫んでデモをした、その民意を重んじて訴追する
という主旨が記されているそうだ。

朝鮮問題専門家、西岡力氏の指摘だ。

「国家の最高権力者である大統領を弾劾するには相当の理由が必要です。
韓国ではそれは大統領が憲法に違反する行為をしたときだと定められてい
ます。にも拘らず、国会は群衆がソウルの街でデモをしたために訴追する
と主張する。法治国家ではありません」

金氏が補充した。

「おかしいのは国会による訴追の論理だけではありません。憲法裁判所の
それも同様です。憲法裁判所設立30周年を祝って、最近記念誌が発行され
たのですが、その中に、憲法裁判所の大統領弾劾判決は、ロウソク革命の
結果を承認する判決だったと、書かれているのです」

ロウソク革命とはロウソクデモから生まれる革命という意味だ。ロウソク
デモとはソウルで万単位の市民達がロウソクを掲げて行う反政府デモのこ
とだ。李明博大統領のときは米国からの牛肉輸入への反対が、朴大統領の
ときは女友達が国政に関与したという疑いが発端だ。

「憲法裁判所は大統領が弾劾に値する罪、つまり大韓民国の憲法に違反し
たか否かではなく、民衆が弾劾せよと要求したことを重視したのです。彼
らは記念誌の中で、『革命』という言葉で自分たちの判決を描写してい
る。一連の行為は革命なのです」

では誰が「革命」の首謀者なのか。この問いに対して、明確な断定はでき
ないが、推測は可能だ。韓国の司法と立法府が深く関わっているのは、そ
のプロセスから明らかだ。

司法のもうひとつの重要な柱、検察の動きも奇妙極まる。金氏は語る。

「朴前大統領も、そして関連して逮捕、起訴された合計35人の人々も、拘
留期限が切れたいまもずっと拘留されています。期限を越えて拘留を続け
るには、(1)住居が不定、(2)逃亡の危険、(3)証拠隠滅の恐れがあ
るときだけです。大統領も35人も、企業のオーナーであり、大臣であり、
韓国の成功者の一群で、右の3要件の心配はありません。

しかし、検察は、朴前大統領の友人の崔順実氏は拘留されている。拘束の
平等理論によって他の者も拘束し続けると説明しました。拘束の平等理論
は韓国の法にはありません。北朝鮮の刑法なのです。なぜ、彼らは北朝鮮
の法律を持ち出すのか、重大な問いです」

韓国司法が北朝鮮に、事実上乗っとられているということではないか。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1218

2018年02月10日

◆北朝鮮の船多数が漂着、備えを急げ

                        櫻井よしこ

『週刊新潮』 2018年2月8日号
日本ルネッサンス 第789回

昨年日本海沿岸で確認された北朝鮮木造船の漂流・漂着は100件、12月だ
けで40件を超えた。北海道、秋田、山形、青森、新潟、佐渡、福井、石
川、島根、京都、鳥取と広範囲に及ぶ。今年も漂着は続いている。「特定
失踪者問題調査会」の荒木和博氏の調査から拾ってみる。

・平成30(2018)年1月4日、秋田県三種町釜谷浜海水浴場に木造船の一部
が漂着。

・5日 石川県白山市沖 木造船1隻。

・6日 秋田県由利本荘市松ヶ崎漁港 木造船の一部。

・7日 京都府京丹後市網野町 木造船1隻。

・8日 新潟市西蒲区間瀬(まぜ)海岸 木造船1隻。

・同日 秋田県男鹿(おが)市野石申川(のいしさるかわ)海岸 木造船
の一部。

・10日 石川県金沢市下安原町安原海岸 一部白骨化した遺体1体とその
15メートル先に木造船1隻。

・16日 右の木造船の中から遺体7体発見。

・21日 新潟県粟島 八幡神社から200メートルの海岸で木造船の一部、
赤字でハングル2文字。

・24日 石川県志賀町西海千ノ浦海岸で木造船、傷み激しく長時間漂流し
たものと推定。

海洋問題に詳しい、東海大学教授でシンクタンク国家基本問題研究所(国
基研)理事の山田吉彦氏が指摘した。

「12月に漂着した船は漂流時間がそれ以前の船と較べて長いのが特徴で
す。動力を使わず、北西風に押されて荒れる厳寒の日本海を漂いながら、
破壊を免れていた船が少なからずありました。船体がしっかりしており、
乗っていたのは漁民というより体格のよい男達です。生存者は42人でし
た。前年、或いは前々年の生存者はゼロですから、大きな違いです」

山田氏はさらに語った。

「昨年12月頃から小型船がふえています。船長12〜15メートルだったの
が、7〜8メートルが多くなりました。悪天候の冬の日本海に乗り出すのは
余りにも無謀ですが、大型、中型の船が少なくなっていると思われます」

醜悪なもがき

レックス・ティラーソン米国務長官は1月17日、日本側(河野太郎外相)
から聞いた話として、昨年日本海沿岸に100隻以上の北朝鮮の漁船が漂着
し、乗組員の3分の2が死亡していたこと、生き残った漁民は北朝鮮に戻り
たがっていることから逃亡者や脱北者ではなく、満足な燃料を積みこんで
もらうことなく強制的に冬の海に出された漁民だと推測されることなどを
語っている。

朝鮮問題専門家で国基研の西岡力氏は、彼らが海に出される背景に北朝鮮
の食糧不足があると指摘する。独裁者金正恩氏は2014年、軍に漁獲量を確
保して、全土の育児院、小・中学校、養老院に毎日魚を届けよと厳命して
いる。その一方で、中国漁船300隻に1隻当たり3か月200万円で北朝鮮沿岸
の日本海漁場での操業権を売った。結果、北朝鮮の漁船は沿岸から遠く離
れた漁場に出されているというのだ。

「今年に入って、平壌のエネルギー事情はさらに悪化し、中国からのコー
クスの輸入が途絶えた結果、火力発電所が10日以上停止したとみられま
す。コメもトウモロコシにとって代わられつつあるという情報もありま
す」と西岡氏。

日本が主導してきた対北朝鮮経済制裁が効果を上げているのだ。金正恩氏
はその窮状を隠して、いま大博打を打ちつつある。韓国で開催される平昌
五輪大会開幕前日の2月8日、平壌で大規模軍事パレードを断行する。金氏
は、1948年2月8日が朝鮮人民軍創建の日だと、1月22日に突然、発表し
た。北朝鮮建国の日が同年9月9日であるから、北朝鮮では国家の前に軍が
できたことになる。

軍事パレードで金氏は「国家核武力の完成」を宣言するだろう。核もミサ
イルも諦めるつもりは全くないのである。

翌日には南北朝鮮の合同チームが統一旗という奇妙な旗を掲げて平昌五輪
開会式で行進する予定だ。平和とスポーツの祭典は北朝鮮の専制独裁者の
生き残りを賭けた一大勝負に踏みにじられ、政治利用が極限に達するのを
世界は目撃させられるのだ。

こんな開会式や五輪に騙されてはならない。この五輪は、誇りある韓国人
には耐え難いであろう。国民に満足な食糧を供給することさえできない金
正恩氏の醜悪なもがきにすぎない。平昌五輪への南北朝鮮合同参加が北朝
鮮危機を緩和するなどとはどうしても考えにくい。韓国の文在寅政権の動
向にもよるが、朝鮮半島の危機はより深まっていくと覚悟した方がいい。

「大量の難民上陸」

山田氏が警告した。

「なぜ、前例のない程多くの船が漂着しているのか。北朝鮮は日本に大量
の難民を送り込もうとしていると思います。北朝鮮有事で約40万人が難民
化すると考えられます。うち、10万人から15万人が日本に向かい、うち半
分から3分の2が海で命を落とし、日本には5万人が漂着すると想定できます」

実に恐ろしい話だ。半分から3分の2が海で命を落とすというのは、これま
でに日本に流れ着いた北朝鮮の漁船の運命をもとに推定したものだ。だ
が、彼らはなぜ、危険な海路で日本に来ようとするのか。

主として2つの理由が考えられると、山田氏は見る。まず、中国やロシア
に逃れた場合、難民として保護してもらえる保証も、命を助けてもらえる
保証もないかもしれない。対照的に、日本は国際法を守ろうと必死に手を
尽くすだろう。難民に住居、着る物、食べる物に加えて、医療も施してく
れると、彼らは確信している。朝鮮総連が身元引受人になれば、長期滞在
も可能だ。たとえ工作員であることが見破られても、日本の刑務所は清潔
で食事も医療も提供される。日本に関して彼らが恐れるものは何もないのだ。

2つ目の理由は、詳細は明らかではないが、日本には北朝鮮系団体が有す
る莫大な資金があり、それが彼らの目的だと、山田氏は見る。

荒木氏の警告も実感を伴う。

「数千、数万の難民の中には感染症を患っていたり、工作員としての密命
を帯びている者も、必ずいるはずです。しかし、警察、海上保安庁、自衛
隊も、大量の難民上陸には、到底、対処しきれません。日本は国として対
処できる状況ではないということに、日本国民は気づいていない。そのこ
と自体が最も深刻な危機です」

昨年10月の総選挙は北朝鮮の危機に対処するための国難突破選挙だった。
ならば、自民党も公明党も国会で国難突破の方法を論じよ。野党もまた、
この国難を乗り越える方策を探る責任があることを自覚せよ。

2018年02月07日

◆反対強い中での安倍首相の訪韓決意

櫻井よしこ

「反対強い中での安倍首相の訪韓決意 政治家としての判断しっかり見守
りたい」

1月24日、安倍晋三首相が2月9日に行われる平昌五輪の開会式に出席する
との考えを、開会式出席に最も強く反対していた「産経新聞」のインタ
ビューで明らかにした。

自民党内には反対の見地から大きな波紋が広がった。この開会式には主催
国の韓国でも強い反対論がある。南北朝鮮の選手による合同行進で韓国国
旗の「太極旗」ではなく、「統一旗」という奇妙な旗が使用されるのが一
因だ。

韓国保守論壇を主導する趙甲済氏は「自国内で国旗を降ろすのは、敵軍に
降伏する時、或いは国が滅びる時だ」「文在寅政権は大韓民国を北朝鮮の
政権と同じレベルに引きずり降ろすのか」と憤っている。

安倍首相はなぜ開会式に出席するのだろうか。米国政府からの働きかけが
あったと、一部の関係者は語る。それが事実なら、開会式に出席するペン
ス米副大統領と同格の麻生太郎副総理の出番であろう。日本国総理大臣は
米国副大統領より格上だ。米国はそのような非礼な依頼はしないだろう。

一方、時事通信は自民党の二階俊博幹事長や公明党の山口那津男代表らが
首相の出席を求めたことが背景にあると報じた。両氏をはじめ幾人かの政
府要人からその種の発言があるのは事実だ。しかし本当の答えは首相の発
言の中にあるのではないか。

首相は以下の点を語っている。

・2020年に日本も五輪を開催する。日本人選手達を激励したい。

・文大統領と会談し、慰安婦問題での合意を韓国側が一方的に変えること
は受け入れられないと直接伝える。

・ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も当然強く主張する。

・北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかも忘れてはならない。

こうした点に加えて、首相はこう語っている。

「会ってこちらの考えを明確に伝えなければ、相手も考え方を変えるとい
うことはない。電話などではなく実際に首脳会談を行い、先方に私の考え
方を明確に伝えることが重要だ。なるべく早い段階で行ったほうがいいと
考えてきた」

有体に言えば、文大統領が慰安婦像を撤去することも、考えを改めて慰安
婦問題の合意を尊重することも、恐らくないだろう。だが、説得できると
したら、それは日本国の最高責任者である自分自身だ。問題が困難であっ
ても解決の方向へ持っていく責任は自分にはある。その責任に目をつぶる
ことはしないという決意が見てとれる。

注目すべきは、「なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」と
いうくだりだ。米国の依頼でも政界実力者の要請でもなく、自身の判断だ
と言っているのだ。

首相は、開会式出席に強い反対があることも、そうした気持ちになること
も十分に理解できるとして、「何をすべきかを熟慮して判断し、実行する
のは政権を担う者の責任です」とも語っている。

首相訪韓には前向きの要素もある。文大統領に日韓関係についての日本の
危機感を伝え、北朝鮮問題での日米韓の結束の重要性を説くことも当然す
べきだ。北朝鮮有事の際に、拉致被害者救出のために自衛隊の行動などに
関して、韓国が協力してくれるよう説得する機会でもある。

朝鮮半島をめぐる力学の中で、ペンス副大統領と共に安倍首相が訪れるこ
とで、日米関係の緊密さを、中国などの関係諸国に顕示できる。その政治
的意味は軽くはないはずだ。

今回の件は首相のロシア外交を連想させる。見通しが甘いなどといわれな
がらも貫き通している。首相はその言葉のように、「熟慮して判断」した
のだ。自民党内はおろか、世論の強い反対もある訪韓は、政治家としての
判断だ。しっかりと見守っていきたい。
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1217

2018年02月06日

◆反対強い中での安倍首相の訪韓決意

櫻井よしこ


「反対強い中での安倍首相の訪韓決意 政治家としての判断しっかり見守
りたい」



1月24日、安倍晋三首相が2月9日に行われる平昌五輪の開会式に出席する
との考えを、開会式出席に最も強く反対していた「産経新聞」のインタ
ビューで明らかにした。

自民党内には反対の見地から大きな波紋が広がった。この開会式には主催
国の韓国でも強い反対論がある。南北朝鮮の選手による合同行進で韓国国
旗の「太極旗」ではなく、「統一旗」という奇妙な旗が使用されるのが一
因だ。

韓国保守論壇を主導する趙甲済氏は「自国内で国旗を降ろすのは、敵軍に
降伏する時、或いは国が滅びる時だ」「文在寅政権は大韓民国を北朝鮮の
政権と同じレベルに引きずり降ろすのか」と憤っている。

安倍首相はなぜ開会式に出席するのだろうか。米国政府からの働きかけが
あったと、一部の関係者は語る。それが事実なら、開会式に出席するペン
ス米副大統領と同格の麻生太郎副総理の出番であろう。日本国総理大臣は
米国副大統領より格上だ。米国はそのような非礼な依頼はしないだろう。

一方、時事通信は自民党の二階俊博幹事長や公明党の山口那津男代表らが
首相の出席を求めたことが背景にあると報じた。両氏をはじめ幾人かの政
府要人からその種の発言があるのは事実だ。しかし本当の答えは首相の発
言の中にあるのではないか。

首相は以下の点を語っている。

・2020年に日本も五輪を開催する。日本人選手達を激励したい。

・文大統領と会談し、慰安婦問題での合意を韓国側が一方的に変えること
は受け入れられないと直接伝える。

・ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も当然強く主張する。

・北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかも忘れてはならない。

こうした点に加えて、首相はこう語っている。

「会ってこちらの考えを明確に伝えなければ、相手も考え方を変えるとい
うことはない。電話などではなく実際に首脳会談を行い、先方に私の考え
方を明確に伝えることが重要だ。なるべく早い段階で行ったほうがいいと
考えてきた」

有体に言えば、文大統領が慰安婦像を撤去することも、考えを改めて慰安
婦問題の合意を尊重することも、恐らくないだろう。だが、説得できると
したら、それは日本国の最高責任者である自分自身だ。問題が困難であっ
ても解決の方向へ持っていく責任は自分にはある。その責任に目をつぶる
ことはしないという決意が見てとれる。

注目すべきは、「なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」と
いうくだりだ。米国の依頼でも政界実力者の要請でもなく、自身の判断だ
と言っているのだ。

首相は、開会式出席に強い反対があることも、そうした気持ちになること
も十分に理解できるとして、「何をすべきかを熟慮して判断し、実行する
のは政権を担う者の責任です」とも語っている。

首相訪韓には前向きの要素もある。文大統領に日韓関係についての日本の
危機感を伝え、北朝鮮問題での日米韓の結束の重要性を説くことも当然す
べきだ。北朝鮮有事の際に、拉致被害者救出のために自衛隊の行動などに
関して、韓国が協力してくれるよう説得する機会でもある。

朝鮮半島をめぐる力学の中で、ペンス副大統領と共に安倍首相が訪れるこ
とで、日米関係の緊密さを、中国などの関係諸国に顕示できる。その政治
的意味は軽くはないはずだ。

今回の件は首相のロシア外交を連想させる。見通しが甘いなどといわれな
がらも貫き通している。首相はその言葉のように、「熟慮して判断」した
のだ。自民党内はおろか、世論の強い反対もある訪韓は、政治家としての
判断だ。しっかりと見守っていきたい。

『週刊ダイヤモンド』 2018年2月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1217 

2018年02月03日

◆米大統領の対中政策を活用せよ

櫻井よしこ

ドナルド・トランプ氏の大統領就任から丸1年が過ぎた。アメリカのメ
ディアは新聞もテレビもトランプ政権1年を振り返り、論評に明け暮れて
いる。CNNはそのリベラル志向ゆえに徹底した反トランプの論調が目立
つメディアである。

そのことを念頭に置いて割り引いて視聴しても、徹頭徹尾のトランプ批判
には、いささか疲れる。ちなみに、アメリカでは「リベラル」という言葉
は余りにも手垢のついた印象が強く、左の人々も、もはや自身を「リベラ
ル」とは呼ばず、「進歩主義者」(progressive)を自称することが多い
そうだ。

保守的な「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)から、進歩的
な「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)、「ワシントン・ポスト」
(WP)までを読み較べると、左右関係なく、どのメディアもトランプ氏
の性格分析や人物評価にかなりのスペースを割いているのが面白い。それ
だけトランプ氏の言動が予測し難いということだ。

WSJが1月19日の紙面で、トランプ氏に実際に会ったことのある50人に
よる印象をまとめていた。彼らは以下のような特徴を語っていた。

◎話題が突如、あらぬ方向に変わる。

◎演説の最中に他の話題をさし挟んだり、聴衆の中に知人を見つければ呼
びかけたりして一貫した話にならない。

◎非常にあけすけに対象人物を侮辱する。

◎説得されて考えを変えることもある。

◎説得するにはトランプ氏の直感は正しいという大前提に立ち、実際には
彼の考えとは正反対の助言をすると、その方向で考えを変えることもある。

◎トランプ氏の指示を実行するのに時間をかけると、その間に考えが変わ
ることもある。◎率直な助言には耳を傾ける。

◎共和党の重鎮議員には国賓用の椅子を用意する

。◎議員の子供にもエアフォースワンのロゴ入りチョコレートを与えるな
ど優しい。◎ゴルフコースで、どの木が枯れていて、どの木のどの枝を切
るべきで、どの植物がどんな菌類に侵されているかなど、わかりにくいこ
とを喋る。

略奪的経済政策

このようなコメントを並べても、トランプ氏の戦略や政策の理解にどこま
で役立つか、わからない。だが、トランプ氏が歴代大統領と較べて型破り
であることは明確に伝わってくる。

米ヴァンダービルト大学名誉教授で、同大日米研究協力センター所長の
ジェームス・アワー氏の助言を思い出す。トランプ氏の言葉やツイッター
での発言には気をとられず、彼が実際に行っている政策を見るべきだ、と
いうのである。

その意味で、昨年12月にトランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」
と、今年1月19日にジェームズ・マティス国防長官が発表した「国家防衛
戦略」は明確な判断基準となる。

「国家安全保障戦略」を現場の戦術に置き換えて説明したものが「国家防
衛戦略」である。その内容は中国とロシアの脅威を言葉を尽くして強調す
るものだ。

「中国はアメリカの戦略的競争相手で、彼らは南シナ海の軍事化を進めつ
つ、略奪的経済政策で周辺諸国を恫喝し続ける」「ロシアは国境を侵し、
経済、外交、安全保障の問題で拒否権を用いて近隣諸国の利益を損ねる」。

略奪的経済政策とはよく言ったものだ。トランプ政権らしい「あけすけ」
な表現で中露を責めている。ブッシュ、オバマ両政権が「テロとの戦い」
こそアメリカの最大の課題とした路線を、トランプ政権は大きく変えたこ
とになる。

とりわけ中国への警戒心は強く、彼らは地球規模でアメリカの優位性を奪
おうとしていると警告し、アメリカは打撃力を更に強める必要があると断
じている。

マティス国防長官が署名したこの文書には、強い殺傷能力を示す
「lethal」という言葉が、度々登場する。米国防総省は真の脅威は国際テ
ロリスト勢力ではなく、北朝鮮の背後に控える中国だとして、中国に対し
てlethalな能力を持つべきだと言っているのである。オバマ政権とは何と
いう違いであろうか。その現実認識は正しいのであり、日本にとっては歓
迎すべきものだ。

トランプ氏のことがよくわからないと感ずるのはアメリカのメディアだけ
ではないだろう。日本のアメリカ研究者もメディアも、さらには外務省も
同じではないだろうか。だが、政権発足から1年が過ぎて、私たちが見て
いるのは前述の文書である。トランプ政権の正式な戦略方針だ。これに
よって、アメリカは自動的に日本の側に立つなどとは到底言えないが、日
米両国の戦略的基盤には、対中国という視点から共通項がしっかりでき上
がったということだ。

もうひとつ、同時期に発表された米通商代表部(USTR)の中国とロシ
アに関する年次報告書も重要である。中国に関しては161頁、ロシアに関
しては59頁に上る報告書である。

中国政府の介入

両国は世界貿易機関(WTO)への加盟を許されているが、彼らはWTO
に加盟したときに公約した市場経済のルールを守っていないと、USTR
は非難している。その結果、世界の貿易慣行や制度が危機に晒されている
として、中国に関して次のように具体的に踏み込んだ。

WTO加盟から約20年、中国市場へのアクセスは未だに制限され、中国政
府の介入は多岐にわたる。中国政府はアメリカ企業の最先端技術や知的財
産の移転を強要する。中国政府は国家主導の経済体制を築いて、外国企業
に不利な条件を課す。これらは悉くWTO加盟国には馴染みのない不適切
な慣行である。

このように厳しい非難を中国に浴びせたうえで、中露両国のWTO加盟を
アメリカが支持したのは間違いだったと結論づけている。

国防総省の指摘もUSTRの指摘も、現実に基づいたものである。否定す
る材料はないと言っていい。日本にとって大事なことは、トランプ氏の言
葉ではなく、政権が打ち出す基本戦略を見て、中国に対する評価を共有す
ることだ。具体的に問われるのは、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀
行(AIIB)へ参加するか否かということでもあろう。

自民党内には、「一帯一路」に積極的に協力すべきという意見もある。だ
が、ここはあくまでも慎重に行動すべきであろう。米中両国が二つの体
制、二つの価値観を掲げてせめぎ合っているのである。日本は、如何なる
意味でも中国に加勢して、中国共産党主導の世界の構築に資するようなこ
とをしてはならない。

トランプ政権の行動を見て、日本の国益に繋げていく判断が必要だ。トラ
ンプ氏の暴言などによって、アメリカへの信頼が失われつつあり、国際政
治に空白が生じている。日本はアメリカと協力し、出来るだけその空白を
埋めていくという発想を持つべきだろう。日本の価値観を打ち出すときで
もある。

『週刊新潮』 2017年2月1日号 日本ルネッサンス 第788回

2018年02月02日

◆米大統領の対中政策を活用せよ

櫻井よしこ


ドナルド・トランプ氏の大統領就任から丸1年が過ぎた。アメリカのメ
ディアは新聞もテレビもトランプ政権1年を振り返り、論評に明け暮れて
いる。CNNはそのリベラル志向ゆえに徹底した反トランプの論調が目立
つメディアである。

そのことを念頭に置いて割り引いて視聴しても、徹頭徹尾のトランプ批判
には、いささか疲れる。ちなみに、アメリカでは「リベラル」という言葉
は余りにも手垢のついた印象が強く、左の人々も、もはや自身を「リベラ
ル」とは呼ばず、「進歩主義者」(progressive)を自称することが多い
そうだ。

保守的な「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)から、進歩的
な「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)、「ワシントン・ポスト」
(WP)までを読み較べると、左右関係なく、どのメディアもトランプ氏
の性格分析や人物評価にかなりのスペースを割いているのが面白い。それ
だけトランプ氏の言動が予測し難いということだ。

WSJが1月19日の紙面で、トランプ氏に実際に会ったことのある50人に
よる印象をまとめていた。彼らは以下のような特徴を語っていた。

◎話題が突如、あらぬ方向に変わる。◎演説の最中に他の話題をさし挟んだ
り、聴衆の中に知人を見つければ呼びかけたりして一貫した話にならない。

◎非常にあけすけに対象人物を侮辱する。◎説得されて考えを変えることも
ある。◎説得するにはトランプ氏の直感は正しいという大前提に立ち、実
際には彼の考えとは正反対の助言をすると、その方向で考えを変えること
もある。◎トランプ氏の指示を実行するのに時間をかけると、その間に考
えが変わることもある。◎率直な助言には耳を傾ける。

◎共和党の重鎮議員には国賓用の椅子を用意する。

◎議員の子供にもエアフォースワンのロゴ入りチョコレートを与えるなど
優しい。◎ゴルフコースで、どの木が枯れていて、どの木のどの枝を切る
べきで、どの植物がどんな菌類に侵されているかなど、わかりにくいこと
を喋る。

略奪的経済政策

このようなコメントを並べても、トランプ氏の戦略や政策の理解にどこま
で役立つか、わからない。だが、トランプ氏が歴代大統領と較べて型破り
であることは明確に伝わってくる。

米ヴァンダービルト大学名誉教授で、同大日米研究協力センター所長の
ジェームス・アワー氏の助言を思い出す。トランプ氏の言葉やツイッター
での発言には気をとられず、彼が実際に行っている政策を見るべきだ、と
いうのである。

その意味で、昨年12月にトランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」
と、今年1月19日にジェームズ・マティス国防長官が発表した「国家防衛
戦略」は明確な判断基準となる。

「国家安全保障戦略」を現場の戦術に置き換えて説明したものが「国家防
衛戦略」である。その内容は中国とロシアの脅威を言葉を尽くして強調す
るものだ。

「中国はアメリカの戦略的競争相手で、彼らは南シナ海の軍事化を進めつ
つ、略奪的経済政策で周辺諸国を恫喝し続ける」「ロシアは国境を侵し、
経済、外交、安全保障の問題で拒否権を用いて近隣諸国の利益を損ねる」。

略奪的経済政策とはよく言ったものだ。トランプ政権らしい「あけすけ」
な表現で中露を責めている。ブッシュ、オバマ両政権が「テロとの戦い」
こそアメリカの最大の課題とした路線を、トランプ政権は大きく変えたこ
とになる。

とりわけ中国への警戒心は強く、彼らは地球規模でアメリカの優位性を奪
おうとしていると警告し、アメリカは打撃力を更に強める必要があると断
じている。

マティス国防長官が署名したこの文書には、強い殺傷能力を示す
「lethal」という言葉が、度々登場する。米国防総省は真の脅威は国際テ
ロリスト勢力ではなく、北朝鮮の背後に控える中国だとして、中国に対し
てlethalな能力を持つべきだと言っているのである。オバマ政権とは何と
いう違いであろうか。その現実認識は正しいのであり、日本にとっては歓
迎すべきものだ。

トランプ氏のことがよくわからないと感ずるのはアメリカのメディアだけ
ではないだろう。日本のアメリカ研究者もメディアも、さらには外務省も
同じではないだろうか。だが、政権発足から1年が過ぎて、私たちが見て
いるのは前述の文書である。トランプ政権の正式な戦略方針だ。これに
よって、アメリカは自動的に日本の側に立つなどとは到底言えないが、日
米両国の戦略的基盤には、対中国という視点から共通項がしっかりでき上
がったということだ。

もうひとつ、同時期に発表された米通商代表部(USTR)の中国とロシ
アに関する年次報告書も重要である。中国に関しては161頁、ロシアに関
しては59頁に上る報告書である。

中国政府の介入

両国は世界貿易機関(WTO)への加盟を許されているが、彼らはWTO
に加盟したときに公約した市場経済のルールを守っていないと、USTR
は非難している。その結果、世界の貿易慣行や制度が危機に晒されている
として、中国に関して次のように具体的に踏み込んだ。

WTO加盟から約20年、中国市場へのアクセスは未だに制限され、中国政
府の介入は多岐にわたる。中国政府はアメリカ企業の最先端技術や知的財
産の移転を強要する。中国政府は国家主導の経済体制を築いて、外国企業
に不利な条件を課す。これらは悉くWTO加盟国には馴染みのない不適切
な慣行である。

このように厳しい非難を中国に浴びせたうえで、中露両国のWTO加盟を
アメリカが支持したのは間違いだったと結論づけている。

国防総省の指摘もUSTRの指摘も、現実に基づいたものである。否定す
る材料はないと言っていい。日本にとって大事なことは、トランプ氏の言
葉ではなく、政権が打ち出す基本戦略を見て、中国に対する評価を共有す
ることだ。具体的に問われるのは、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀
行(AIIB)へ参加するか否かということでもあろう。

自民党内には、「一帯一路」に積極的に協力すべきという意見もある。だ
が、ここはあくまでも慎重に行動すべきであろう。米中両国が二つの体
制、二つの価値観を掲げてせめぎ合っているのである。日本は、如何なる
意味でも中国に加勢して、中国共産党主導の世界の構築に資するようなこ
とをしてはならない。

トランプ政権の行動を見て、日本の国益に繋げていく判断が必要だ。トラ
ンプ氏の暴言などによって、アメリカへの信頼が失われつつあり、国際政
治に空白が生じている。日本はアメリカと協力し、出来るだけその空白を
埋めていくという発想を持つべきだろう。日本の価値観を打ち出すときで
もある。
『週刊新潮』 2017年2月1日号 日本ルネッサンス 第788回