2019年12月21日

◆世界基準に大きく遅れた原子力規制委

櫻井よしこ


2019年が暮れると、年明けの1月14日に国際原子力機関(IAEA)の調
査チームが来日する。16年1月、彼らは原子力に関する国際社会の権威と
して上級専門家19人から成るチームを12日間にわたって日本に派遣した。
原子力規制委員会(規制委)と原子力規制庁の仕事振りを検証して、約
130頁の報告書を発表した。そこには厳しい意見が満載されていた。

再来日は、3年前に指摘した規制委の問題がどこまで解決されているのか
を、調査するためだ。

原発政策に関して日本はいま、世界に類例のない異常な状況に陥ってお
り、規制委が事実上差配する原発行政は到底評価できない。その主な原因
は、更田(ふけた)豊志氏以下、5人で構成する規制委が専門家集団として
世界水準に達していないことだ。

IAEAは3年前、規制委について次のように論評した。

「規制委の人的資源、管理体制、特にその組織文化は初期段階にある」、
「課された任務を遂行するのに能力ある職員が不足して」いる。

最大級の厳しい批判であろう。

規制委の使命は原発の安全性を科学的、合理的、迅速に審査することだ。
電力各社には不足のところを補わせて稼働させ、安定した電力供給で産業
基盤を支え、豊かな国民生活の実現に寄与することだろう。

高度かつ複雑な技術の集大成である原発の安全性を高めるにはまず、規制
自体が科学的、合理的なものでなければならない。また、それは世界の専
門家が認める国際基準に合致するものでもなければならない。

規制される電力会社に新たな規制や措置の意味を十分に伝え納得させるこ
とも欠かせない。規制委と電力各社の意思の疎通が十分でなければ、高度
で複雑でおまけに大規模な運転がうまくいくはずもないからである。

この点について、IAEAは次のようにも勧告していた。「意識啓発研修
又は意識調査などの具体策導入を検討」せよ、と。

情けない人々

原発の安全性を高めるために、まず規制委が「意識」を変えよ、というの
だ。そのための「啓発研修」を行う必要があり、規制委及び規制庁職員の
「意識調査」を実施して自らを省みる具体策を導入せよと指示したわけだ。

ここまで言われる情けない人々に、日本は国民生活及び産業基盤を支える
エネルギー、その中の太い柱である原子力発電の在り方を規定させている
のだ。こんなことで日本の未来が大丈夫なはずがないだろう。

IAEAの厳しい指摘の背景には立派な理由がある。それを示したのが、
昨年6月、規制委が全ての電力会社に命じた原子力発電所の火災感知器設
置に関する新しいルールだ。

原子力発電所は原子炉等規制法に基づいて、火災感知器を潤滑油やケーブ
ルなど可燃物があるところに重点的に設置し、可燃物のないところには設
置していない。これは国際標準であり、日本も以前から国際標準に従って
十分な対策を講じている。

だが規制委はここに突然、消防法を持ち込んだ。消防法は民家やビルなど
の部屋毎に、火災感知器の感知範囲を元に設置基準を定めている。その消
防法に従って各原子力発電所は新たに1500から2000個の火災感知器を追加
設置せよと、規制委は指示したのだ。

電力事業者は全社が反論した。すでに各原発には必要な所に約1000個に上
る火災感知器を設置済みで、国際標準を十分に満たしている。安全性も保
たれている。1500〜2000個の新設は原発の安全性を強化せず、むしろ、リ
スクを高めると具体論で反論した。だが、規制委は耳を貸さなかった。

ちなみに規制委は元々、菅直人氏の発想で生まれた三条委員会だ。三条委
員会は首相も介入できない強い独立性と権限を有している。与えられた権
限が強ければ強いほど、本来は、関係者に対して丁寧な説明をし、謙虚に
意見に耳を傾けなければならない。しかし、規制委にはそのような発想も
謙虚さもないのであろう。電力会社は膨大な数の火災感知器の設置とケー
ブルを通す作業を開始せざるを得なかった。

少しばかり具体的に考えてみよう。ケーブルは火災感知制御盤に接続され
て初めて機能する。つまり、新たに導入する約2000本のケーブルを中央の
制御盤につながなければならない。

原子力発電所は、作業員の被曝を避けるために厚さ1〜2メートルのコンク
リート製の遮蔽壁や耐震壁を随所に設けている。それらの壁は太い鉄筋が
多数配筋された強化壁なのだが、ここにケーブルを通すためにドリルを突
き刺すのだ。

とんでもない事態

また原発には20メートルを超える城砦のような防潮堤も建設されている。
万一津波が防潮堤をこえても建屋は高水密性で完全防水態勢だ。3.11後の
大規模工事で世界一過剰と言ってよい安全対策がとられたところに、火災
感知器の電線管の穴を幾千も開けさせるのである。まるで潜水艦の船体
を、火災感知器のケーブルを通すために穴だらけにするようなものではな
いか。炉心損傷や被曝線量上昇のリスクは逆に高まる。

電力各社は当然そう訴えた。だが、規制委は自らの指示が国際的に確立さ
れたルールに違反していることにさえ気が付かない。結果、現場はいまと
んでもない事態に陥っている。

ケーブルを貫通させる工事は原発の運転中はできない。運転停止する定期
検査期間に行わざるを得ないため、その期間のすべてを使っても4年越し
の大工事になる。あらゆる意味で鉄壁の安全策を施した原子力発電所にこ
れから4年間、穴を開け続けるという異常事態が生じているのである。規
制委のこの尋常ならざる強権支配は三条委員会に与えられた絶対権力故で
あろう。だが、法治国家であるわが国においては、如何なる権力も法の上
には立てない。

行政手続法は、審査条件を明確に呈示し、審査条件を途中で変更しないこ
と、概ね2年で速やかに審査を行う、などと定めている。規制委の初代委
員長・田中俊一氏は当初、審査期間は半年ほどと語っていた。だが、半年
どころか、2年、さらに7年がすぎても多くの原発審査は終わっていない。
当然であろう。次から次に、前述したような無茶苦茶な審査条件が新たに
加えられるからだ。

田中氏は「日本の原子力政策は嘘だらけ」「結果論も含め本当に嘘が多
い」と、原子力業界を厳しく非難する(「選択」19年11月号)。では規制
委委員長としての氏の言動はどうだったのか。現委員長の更田氏もその余
の規制委員も、行政組織の一員として、行政手続法を守っているのか。答
えは明らかに否ではないか。その点を厳しく指摘し、私は来年1月の
IAEAの調査結果を見届けようと考えている。

『週刊新潮』 2019年12月19日号 日本ルネッサンス 第881回

2019年12月17日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回


2019年12月13日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回

 

2019年12月12日

◆中国の弾圧に日本こそ物申せ

櫻井よしこ


香港問題にどう対処するかは、日本がどんな国でありたいかという問いと
表裏一体である。

米国では、上下両院がほぼ全会一致で可決、トランプ大統領が署名して11
月27日、香港人権・民主主義法が成立した。一国二制度の下で香港人の高
度な自治が守られているかを調べ、人権侵害に関わった当局者の在米資産
の凍結や米国への入国禁止を大統領が決定するという内容である。

少なからぬ中国共産党幹部が米国に資産を有しているとみられるため、同
法には一定の効果が期待される。香港人は勇気づけられ、
星条旗を高く掲げた。反政府デモは再び激化する様相を見せている。一
方、北京政府は人民解放軍によるデモ隊制圧の訓練の様子を広く報道し、
これ以上の「自由な動き」は許容しない構えだ。米国への報復として米艦
船の香港寄港拒否なども発表した。

そうした状況下で日本の行動が問われている。周知のように、安倍晋三首
相は習近平国家主席を来春、国賓として迎える予定だ。同方針には強い反
対がある一方で、最終局面での方針転換は最悪の結果を招くとの外務省系
の主張もある。それは以下のような理屈に基づいている。

 ◎本気で介入し、香港を助ける気は米国政府にはない

 ◎介入すれば、香港経済は悪化し、香港との取引で大幅な黒字を得てい
る米国も利益を失う

 ◎日本人も日本国も所詮、香港問題に手出しはできない

 ◎従って香港人を無闇に煽り、期待を持たせることは却って問題を深刻
化させる

要は第三国は香港を助けることができない、香港は中国共産党の圧力に従
うしかないというわけだ。

確かに中国が「国内問題だ」と強弁し、他国の介入を極度に警戒する案件
で、わが国のみならず第三国ができることは限られている。世界第二の軍
事・経済大国の中国の壁は厚いからだ。

しかし、国際社会の価値観も、各国政府の中国に対する視線も、変化して
いる。そのことに日本こそ敏感でありたい。より良い方向に向かおうとす
る国際社会の変化と歩調を一にすることが日本の国益である。いま、ここ
で日本らしい価値観に立脚せずに、日本はどのような立場にこれから立ち
得るのかと思う。

中国の黒い支配

香港もウイグルも国内問題だとして野蛮な弾圧を加える中国政府への批判
を強めているのは米国だけではない。英国もフランスも、親中姿勢が目
立っていたドイツも同様だ。

国家が領域内の住民の「保護責任」を果たさず、「人類の良心に衝撃を与
える」危機的状況が発生した場合、たとえそれが国内問題ではあっても、
「人道的に介入できる」という方向に国際社会の潮流は明確に変化してい
るのだ。1999年、コソボ紛争において国連が主導した和平計画も、2004年
の国連北朝鮮人権法もその具体例だ。わが国こそ、国連よりも厳しい内容
の北朝鮮人権法を作ったではないか。中国に無為無策であり続けるのは、
国家として辻褄が合わず、道理も立たない。

この際、香港の状況を深く心に刻もう。彼の地では6月のデモ以来9月まで
の4カ月間で、自殺案件は256件、その他に2537件の死因不明の遺体が発見
された。

これは11月13日付の香港保安局発表の統計である。公式発表で、死因不明
の遺体が日々平均して21体も発見されているというのだ。中国出身の評論
家、石平氏が、香港は既に第二の天安門になったと断じたが、そのとおり
であろう。

これが共産党一党支配の中国のやり方である。眼前で進行中の非常事態
を、中国の国内問題だとして放置することは断じて許されないだろう。そ
んなことをした日には、必ず、近未来にわが国にも災いが、つまり中国の
黒い支配が及ぶ。

モンゴル出身の静岡大学教授、楊海英氏が新間聡氏と共に世に問うた『モ
ンゴル最後の王女』(草思社文庫)で訴えている点もまさに同じだ。氏は
同書で、民族問題は決して中国の国内問題ではなく、すべて国際問題だと
繰り返す。中国は「内政」を盾に、他国の介入を強く牽制するが、モンゴ
ル人弾圧を見過すことは、後述するように間接的にモンゴル人と日本人の
歴史を清算することであり、日中関係そのものにはねかえるというのだ。

同様に、チベット人への迫害はダライ・ラマ法王とその亡命政府を擁護す
るインドへの挑戦であり、ウイグル人虐殺は万単位のウイグル人を抱える
トルコ及び中央アジア諸国にとっての非常に厳しい国際問題だと、説明する。

香港の件に戻れば、香港問題は即、台湾問題である。台湾問題は即日本に
はねかえる。中国の言う国内問題は、日本に密接につながる国際関係連立
方程式なのだ。

少数民族自治の実態

それにしても中国は彼らの言う「国内問題」を、どのように片付けてきた
のか。楊氏は、チンギス・ハーンの末裔でモンゴル最後の王女、スチンカ
ンルの一生を辿ることで、中国の残虐的手法を描いてみせた。

王女スチンカンルは1927(昭和2)年に生れた。女児は聡明で美しく、10
歳になった頃、北京郊外の盧溝橋で日中戦争が始まった。やがて日本は敗
戦し、満蒙政策に協力したモンゴル人たちを後ろに残して引き揚げた。戦
後、モンゴル人を襲った悲劇の大きな原因のひとつが日本に協力したこと
だった。もうひとつの原因は彼らが中国から独立しようとしたことだった。

どちらの要因も中国共産党の憎しみを買い、そのためにとりわけ苛酷な弾
圧の日々がモンゴル人を待ち受けていた。58(昭和33)年に始まった「大
躍進」では王女スチンカンルも、その母の王妃も土中に掘った穴を住居と
した。

大躍進では農民2000万人が餓死したとされる。スチンカンルは灌木林に捨
てられた家畜の死肉を乾燥させて食し、辛うじて生きのびた。

66年に文化大革命が始まると、真っ先に文革の嵐に晒されたのもモンゴル
人だった。王家の血筋を引くスチンカンルにはとりわけおぞましい責め苦
が加えられた。大群衆の前でつるし上げられ、凄じい暴力を振るわれ、心
身共にボロ#裂#きれ#同然となった。彼女はやがて「私は反省する。反省
します」とぶつぶつつぶやき、頭を下げ続けるようになった。

楊氏は書いている。

「内モンゴル自治区では、中国人が一方的にモンゴル人をリンチし、殺害
するというジェノサイドが実行された。これが、少数民族自治という政策
の実態である」

中国共産党政府は心中深く、日本に強い敵愾心を抱いている。彼らの非人
道的手法を止めることは世界のためでもあるが、何よりも日本国のため
だ。日本の武器は価値観と道義である。それをいま、打ち出すのだ。

『週刊新潮』 2019年12月12日号日本ルネッサンス 第880回
 

2019年12月05日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号 日本ルネッサンス 第877回

2019年12月04日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年12月01日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月30日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月29日

◆桜を見る会の攻防が示す政治の劣化

櫻井よしこ


問題だらけの朝鮮半島、要求する米国、一党独裁の不気味さを偽りの微笑
で隠して膨張する中国。日本はこうした難題に直面している。どれも解決
は容易ではない。そこでいま、一番働かなければならないのが政治家だ。
厳しい国際情勢を理解し、解決策を打ち出し、国益を守り通さずして、政
治家たる意味はない。

にも拘わらず、彼らは一体何をしているのか。日本共産党の田村智子氏が
11月8日の参議院予算委員会で首相主催の「桜を見る会」を取り上げた。
以降、多くの野党は恰(あたか)もこれが日本の最重要問題であるかのよう
に政権を攻め始めた。立憲民主党国会対策委員長、安住淳氏らは「徹底的
に」追及するそうだ。

首相は13日、来年春の会は中止し、招待の基準などを見直すと発表した。
確かに、桜を見る会への招待者は年々ふえており、ここで一旦中止して見
直すのは正しい判断であろう。元民主党衆議院議員で、現在は立憲民主・
国民・社保・無所属フォーラムに属する松原仁氏が批判した。

「我々も枠をもらって招待していましたが、安倍首相の場合、人数が多い
のが際立ちます。事務所が動員をかけたような形になっているのはどう見
てもやりすぎです」

民主党から自民党に移籍した衆議院議員の長島昭久氏はこう見る。

「民主党のとき、我々も全く同じことをしていました。各議員に招待枠が
あって、後援会の人々を招きました。招待客一人一人にどんな功績がある
のか明らかにせよと立憲民主は首相に要求していますが、地域で頑張って
いる方ではあっても特別の功労者ではない人を、私たちも沢山招いた。日
頃お世話になった方たちという意味では支援者の方々です。これは皆、同
じでしょう」

国会で説明すると明言

安住氏らは、安倍後援会は前夜祭を開いたが、1人5000円の参加費は安す
ぎると問題視する。最低「1人1万1000円かかる」と主張し、その差額を首
相側が補填していれば公職選挙法違反だと息巻く。この点についても長島
氏が語った。

「我々がパーティを開くとき、1人2万円の会費で、ホテルに支払う食事代
は精々1人2000〜3000円です。ホテル側にとって、数百人単位のお客が宿
泊し、食事をしてくれるのは大変有難いことで、格安にするのは自然なこ
とでしょう。立憲民主を含めて野党政治家はこのことを十分理解していま
す。にも拘わらず、細かなことに拘り追及し続けるのは、選挙を意識して
いるからです」

立憲民主、国民民主の両党はいまや共産党の支持なしに選挙に打ち勝つの
は難しい。とりわけ、立憲民主の若い政治家達の後援会組織はほとんど無
いに等しく、全国に支援組織を有する共産党の協力なしにはとても選挙を
戦えないとして、長島氏は厳しく分析する。

「旧民主党勢力、とりわけ立憲民主党にとっての共産党は、自民党にとっ
ての公明党よりも重要だと思います」

安倍首相が来春の会の中止と招待基準の見直しを決定しても、野党側は納
得せず、追及チームを11人態勢から3倍規模に拡大した。安住氏の徹底追
及の意向は首相のぶら下がり会見への批判からも読みとれる。「立憲民主
党国会Twitter」の「安住委員長ぶら下がり(総理ぶら下がりの受
け止め)2019年11月15日」から見てみよう。

氏が問題視する総理に対する取材は、15日の昼と夕方の2度、官邸記者ク
ラブの要請で行われた。昼の回で、「国会で説明するか」と問われ、首相
は「国会から求められれば、説明するのは当然です」と答えた。

立ち去りかけた首相に、記者が「集中審議に応じるか」との質問を放っ
た。それで首相は記者達の所に戻り、「当然です」と答えている。

求められれば必ず国会で説明すると明言したのだ。野党が論難する逃げの
姿勢ではない。

夕方、前述したように記者クラブ側の要請で首相は再び対応した。21分間
続いた説明は、「異例の長さ」と報じられた。この場で首相は前夜祭など
の費用は全て参加者の自己負担だったことなどを説明している。質問が途
絶えたとき「何か、ご質問どうぞ」と促してもいる。

さらに14〜15の質問の後、「本日時間がない中ということで、後日会見を
開く予定はあるか」と問われた。それに対して首相は「もし質問されるの
であれば、今、質問された方がよいと思いますよ」と答えた。

「改めて……」と記者が口ごもりながら重ねて問うと、首相は「改めて会見
ということであれば、今質問して下さい」と促した。

安住氏こそ記者を侮辱

昼の短いぶら下がりでは不十分だったとして記者クラブ側が要求し、夕方
に2度目の取材となった経緯を考えれば、夕方の時間までに、否、それ以
前から記者たちは調査し、質問を準備したはずだ。だからこそ首相は、い
ま聞いてくれれば答えますと言っている。首相は答えようとしていたので
あり、そこには他意も悪意もない。だが、安住氏はこのやりとりを以下の
ように批判した。

「大変驚きました。(略)失礼ですけど、総理番の記者のところに、突
然、準備のない記者さんに対して『私の言うことを聞け、私に質問し
ろ』っていう態度は(略)メディアの皆さんに対する冒涜でもあるしね」

どのような思考回路でこんな解釈になるのか。氏は前後の状況を知らずに
発言したのだろうか。繰り返すが、夕方の会見は記者側がもっと問いたい
として要求したものだ。当然、質問は準備されていた。首相は誠実に答え
こそすれ、「私の言うことを聞け」などという態度で臨んではいない。メ
ディアを冒涜してもいない。

安住氏の言う「準備のない記者さん」も事実ではない。記者達はこれまた
前述したが、準備していた。安住氏こそ記者を侮辱している。

安住氏はほかにも官邸の記者について次のように語っている。

「何もそういう準備をしていない、総理番の若い記者さんのところに突然
総理が降りてきて」「何にも知らない記者の前に来て」「何も基礎知識を
持っていない記者さんの前に突然来られて」「余りこのことに基礎知識の
ない記者さんたちを前に」と、延々と繰り返したのである。

官邸詰めの記者達も随分と軽く見られたものだ。立憲民主のたかだか一政
治家にここまで見下されて口惜しくないのか。政治の中枢を取材する記者
らが憤らないとしたら、これまた、なんと誇りなきことか。

日本は本当に多くの深刻な問題を抱えている。政治家なら、桜を見る会の
在り方は見直すとして、日本の運命を左右するより大きな課題に命懸けで
取り組むことだ。その心構えも発想もない野党政治家の存在の余りの無意
味さに、私は戦慄する。

『週刊新潮』 2019年11月21日号日本ルネッサンス 第877回

2019年11月26日

◆「嘘の国」韓国を批判する愛国の書

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領の反日・親北朝鮮、さらに社会主義路線に異を唱え、立
ち上がる人々が急増中だ。文氏の「反日」に反対する戦線の最前列に立つ
のが元ソウル大学経済学部教授、李栄(イヨンフン)氏で、その編著書、
『反日種族主義』(以下『種族主義』)はベストセラーになっている。反
文在寅運動の理論的支柱ともなった同書の日本語版が間もなく書店に並ぶ
が、一足早く入手して、一気に読んだ。

李氏は経済史の専門家としてずっと数字や事実に拘り続けてきた。フィー
ルド・ワークから導き出される事実は政治的偏りとは無縁である。韓国で
流布されてきた反日のための歪曲や捏造とは全く異なる歴史認識や情報を
李氏は発信し続けてきた。そのために、ソウル大学教授という尊敬される
べき立場でありながら、凄まじい非難も浴びた。その氏が今回、「命が
け」で論陣を張っている。それが本書の出版だ。

『種族主義』は、冷静な分析と客観的事実に満ちている一方、韓国人には
強い衝撃を与えずにはおかない火を吐くような激しい表現がある。

たとえば「嘘の国」と題されたプロローグだ。「嘘をつく国民」、「嘘を
つく政治」、「嘘つきの学問」、「嘘の裁判」などの小題は韓国人の心臓
を射抜くだろう。その後に今日の韓国を表現する言葉として「反日種族主
義」が登場する。

「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています」「政治が嘘つきの
模範を示しています」「嘘つきの学問に一番大きな責任があります」「こ
の国の嘘をつく文化は、遂に司法まで支配するようになりました」と書い
た後、李氏は韓国人の精神を蝕み、韓国を誤った道に誘引してきた反日種
族主義について説明する。

長くなるが次のような説明だ。

韓国社会に色濃いシャーマニズムは物質主義と種族主義に通底している。
シャーマニズムの世界では両班は死んでも両班で、奴婢は死んでも奴婢で
ある。だからこそ、人々は両班の身分を手に入れようと、嘘も詐欺も働
く。汚いカネも許される。こうして皆が物質主義に走る世界には共有すべ
き真理も価値観もない。何でもありだ。そして一方の集団は究極の利のた
めにもう一方の集団を排斥する。それらの集団は価値観や文化や情趣を共
有する民族では断じてなく、種族に過ぎない。種族を単位とした政治が種
族主義である。簡単に言えば種族主義は、事実、理性、合理のいずれとも
無関係の「幻想」から生まれる愚かな精神性だ。信用してはならず、影響
も受けてはならない。峻拒すべき悪しき精神性で、それが韓国にはびこっ
ている。

祖国韓国に対するこの激しい批判は、学者としての良心の叫びであり、嘘
つき国となった祖国への愛であり、絶望に近い口惜しさでもあろう。

幻想に搦めとられて歴史を紡ぐ事例として、李氏は、朝鮮人の日本に対す
る憎悪の源泉のひとつ、総督府による土地調査事業をとり上げた。

合理的理由があるのか

合計350万部を売り上げた大河小説『アリラン』12巻には土地調査の場面
が複数回登場するという。調査を実施する駐在所の警官が土地を奪われる
農民の抗議を退け、木の幹に括り付け、銃殺する。小説『アリラン』で描
写される日本軍の朝鮮人虐殺の場面は不条理の極みである。

当時は日本の領土だった千島列島守備のための土木工事現場では、朝鮮人
労働者1000人が虐殺されたと、『アリラン』は書いた。工事完了時点で日
本軍が朝鮮人労働者を「防空壕に閉じ込め」「30分間手榴弾を投げこみ、
機関銃射撃を加えて皆殺しにした」、この他、日本軍は同様の手法で4000
人余りを殺したとも書いている。でたらめな映画「軍艦島」を連想させる
場面だ。日本人は朝鮮人を皆殺しにしたという悪意に満ちた発想は瓜二つだ。

李氏は調査の結果、「この凄惨な虐殺は事実ではない」と断じ、労働力不
足の戦時中、やっと確保した貴重な人員を虐殺する合理的理由があるの
か、と問う。その上で『アリラン』の著者、趙廷来こそが「虐殺の狂気に
取りつかれているのではないか」と疑っている。

その他本書では、日本が「朝鮮の土地の40%を奪った」と教える韓国の教
科書の嘘が暴かれ、日本人が朝鮮から食料を奪ったとの言説の嘘も暴かれ
ている。共著者の東国大学経済学科教授の金洛年(キムナクニョン)氏が
1931(昭和6)年6月16日の「東亜日報」の記事を紹介している。同記事
は、日本も朝鮮も大豊作だったこの年、コメの供給過剰傾向ゆえに朝鮮半
島から日本へのコメの輸入(移入)を制限するとの情報についてこう報じ
ている。

「朝鮮農民の立場としては、法律の制定による移入制限にはもちろんのこ
と(中略)朝鮮米流出の自由を束縛するいかなる措置にも絶対反対するし
かない」

日本人がコメを奪ったのではなく、朝鮮の農民がコメの輸出を切望してい
たということだ。

竹島について

朝鮮人戦時労働者問題については落星台経済研究所の李宇衍(イウヨン)氏
が日本人と朝鮮人の待遇は全く同じだったと証明し、竹島については「率
直に言って韓国政府が、独島は歴史的に韓国の固有の領土であると証明す
る、国際社会に提示できるだけの証拠は、一つも存在していない」と明記
している。

李栄薫氏はこのような指摘は韓国人にとっては不快であろうが、「一人の
知識人として」指摘しないわけにはいかないと書いた。実に立派な人物だ
と思う。

これらの内容に日本人はホッと胸を撫で下ろすかもしれないが、李氏は
ざっと次のようにも書いていた。

「ふつうの韓国人は、日本に対し良い感情を持っていません。不快な、あ
るいは敵対的な感情を持っています。それは長い歴史の中で受け継がれて
来たもので、七世紀末、新羅が三国を統一したときからそうなったのでは
ないかと考えています」、と。

663年、日本は百済再興を助けるために出兵し、白村江で唐・新羅連合軍
と戦い、敗れた。わが国はその後、唐・新羅連合軍の侵略に備えて防備を
固め、独立国としての気概を強めた。李氏はあの頃から千数百年間も日韓
は非常に近くにありながらも、疎遠な国であり続けたと指摘し、朝鮮の対
日不快感、敵対感はこの時代に遡るというのだ。日本は韓国の仇敵であ
り、種族主義を噴出させる対象だとも李氏は警告する。

日韓関係を最悪の水準に落とし込んだ慰安婦問題についても、『種族主
義』は深く斬り込んだ。日本の敗戦後、慰安婦問題は韓国軍や米軍の問題
となり、女性達の境遇はさらに悪化したことが詳述されている。

李氏らはこうした事実を「亡国の予感」の中で書いた。韓国の滅亡を食い
止められるのは韓国人の賢さだけだ。この戦いを、私は日本の運命を思い
つつ、見守っている。


『週刊新潮』 2019年11月21日号 日本ルネッサンス 第877回

2019年11月23日

◆「嘘の国」韓国を批判する愛国の書

櫻井よしこ


文在寅韓国大統領の反日・親北朝鮮、さらに社会主義路線に異を唱え、立
ち上がる人々が急増中だ。文氏の「反日」に反対する戦線の最前列に立つ
のが元ソウル大学経済学部教授、李栄(イヨンフン)氏で、その編著書、
『反日種族主義』(以下『種族主義』)はベストセラーになっている。反
文在寅運動の理論的支柱ともなった同書の日本語版が間もなく書店に並ぶ
が、一足早く入手して、一気に読んだ。

李氏は経済史の専門家としてずっと数字や事実に拘り続けてきた。フィー
ルド・ワークから導き出される事実は政治的偏りとは無縁である。韓国で
流布されてきた反日のための歪曲や捏造とは全く異なる歴史認識や情報を
李氏は発信し続けてきた。そのために、ソウル大学教授という尊敬される
べき立場でありながら、凄まじい非難も浴びた。その氏が今回、「命が
け」で論陣を張っている。それが本書の出版だ。

『種族主義』は、冷静な分析と客観的事実に満ちている一方、韓国人には
強い衝撃を与えずにはおかない火を吐くような激しい表現がある。

たとえば「嘘の国」と題されたプロローグだ。「嘘をつく国民」、「嘘を
つく政治」、「嘘つきの学問」、「嘘の裁判」などの小題は韓国人の心臓
を射抜くだろう。その後に今日の韓国を表現する言葉として「反日種族主
義」が登場する。

「韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています」「政治が嘘つきの
模範を示しています」「嘘つきの学問に一番大きな責任があります」「こ
の国の嘘をつく文化は、遂に司法まで支配するようになりました」と書い
た後、李氏は韓国人の精神を蝕み、韓国を誤った道に誘引してきた反日種
族主義について説明する。

長くなるが次のような説明だ。

韓国社会に色濃いシャーマニズムは物質主義と種族主義に通底している。
シャーマニズムの世界では両班は死んでも両班で、奴婢は死んでも奴婢で
ある。だからこそ、人々は両班の身分を手に入れようと、嘘も詐欺も働
く。汚いカネも許される。こうして皆が物質主義に走る世界には共有すべ
き真理も価値観もない。何でもありだ。そして一方の集団は究極の利のた
めにもう一方の集団を排斥する。それらの集団は価値観や文化や情趣を共
有する民族では断じてなく、種族に過ぎない。種族を単位とした政治が種
族主義である。簡単に言えば種族主義は、事実、理性、合理のいずれとも
無関係の「幻想」から生まれる愚かな精神性だ。信用してはならず、影響
も受けてはならない。峻拒すべき悪しき精神性で、それが韓国にはびこっ
ている。

祖国韓国に対するこの激しい批判は、学者としての良心の叫びであり、嘘
つき国となった祖国への愛であり、絶望に近い口惜しさでもあろう。

幻想に搦めとられて歴史を紡ぐ事例として、李氏は、朝鮮人の日本に対す
る憎悪の源泉のひとつ、総督府による土地調査事業をとり上げた。

合理的理由があるのか

合計350万部を売り上げた大河小説『アリラン』12巻には土地調査の場面
が複数回登場するという。調査を実施する駐在所の警官が土地を奪われる
農民の抗議を退け、木の幹に括り付け、銃殺する。小説『アリラン』で描
写される日本軍の朝鮮人虐殺の場面は不条理の極みである。

当時は日本の領土だった千島列島守備のための土木工事現場では、朝鮮人
労働者1000人が虐殺されたと、『アリラン』は書いた。工事完了時点で日
本軍が朝鮮人労働者を「防空壕に閉じ込め」「30分間手榴弾を投げこみ、
機関銃射撃を加えて皆殺しにした」、この他、日本軍は同様の手法で4000
人余りを殺したとも書いている。でたらめな映画「軍艦島」を連想させる
場面だ。日本人は朝鮮人を皆殺しにしたという悪意に満ちた発想は瓜二つだ。

李氏は調査の結果、「この凄惨な虐殺は事実ではない」と断じ、労働力不
足の戦時中、やっと確保した貴重な人員を虐殺する合理的理由があるの
か、と問う。その上で『アリラン』の著者、趙廷来こそが「虐殺の狂気に
取りつかれているのではないか」と疑っている。

その他本書では、日本が「朝鮮の土地の40%を奪った」と教える韓国の教
科書の嘘が暴かれ、日本人が朝鮮から食料を奪ったとの言説の嘘も暴かれ
ている。共著者の東国大学経済学科教授の金洛年(キムナクニョン)氏が
1931(昭和6)年6月16日の「東亜日報」の記事を紹介している。同記事
は、日本も朝鮮も大豊作だったこの年、コメの供給過剰傾向ゆえに朝鮮半
島から日本へのコメの輸入(移入)を制限するとの情報についてこう報じ
ている。

「朝鮮農民の立場としては、法律の制定による移入制限にはもちろんのこ
と(中略)朝鮮米流出の自由を束縛するいかなる措置にも絶対反対するし
かない」

日本人がコメを奪ったのではなく、朝鮮の農民がコメの輸出を切望してい
たということだ。

竹島について

朝鮮人戦時労働者問題については落星台経済研究所の李宇衍(イウヨン)氏
が日本人と朝鮮人の待遇は全く同じだったと証明し、竹島については「率
直に言って韓国政府が、独島は歴史的に韓国の固有の領土であると証明す
る、国際社会に提示できるだけの証拠は、一つも存在していない」と明記
している。

李栄薫氏はこのような指摘は韓国人にとっては不快であろうが、「一人の
知識人として」指摘しないわけにはいかないと書いた。実に立派な人物だ
と思う。

これらの内容に日本人はホッと胸を撫で下ろすかもしれないが、李氏は
ざっと次のようにも書いていた。

「ふつうの韓国人は、日本に対し良い感情を持っていません。不快な、あ
るいは敵対的な感情を持っています。それは長い歴史の中で受け継がれて
来たもので、七世紀末、新羅が三国を統一したときからそうなったのでは
ないかと考えています」、と。

663年、日本は百済再興を助けるために出兵し、白村江で唐・新羅連合軍
と戦い、敗れた。わが国はその後、唐・新羅連合軍の侵略に備えて防備を
固め、独立国としての気概を強めた。李氏はあの頃から千数百年間も日韓
は非常に近くにありながらも、疎遠な国であり続けたと指摘し、朝鮮の対
日不快感、敵対感はこの時代に遡るというのだ。日本は韓国の仇敵であ
り、種族主義を噴出させる対象だとも李氏は警告する。

日韓関係を最悪の水準に落とし込んだ慰安婦問題についても、『種族主
義』は深く斬り込んだ。日本の敗戦後、慰安婦問題は韓国軍や米軍の問題
となり、女性達の境遇はさらに悪化したことが詳述されている。

李氏らはこうした事実を「亡国の予感」の中で書いた。韓国の滅亡を食い
止められるのは韓国人の賢さだけだ。この戦いを、私は日本の運命を思い
つつ、見守っている。

2019年11月21日

◆国民革命デモ、文氏の横暴を止められるか

櫻井よしこ

 
韓国国民が闘っている。ソウルでは10月3日の「開天節」(韓国の建国記
念日)に続いて、9日の「ハングルの日」にも文在寅大統領の内外政策す
べてに反対する大規模デモが行われた。25日夜から26日にかけても国民各
層が集結し文政権打倒を叫んだ。

彼らの要求は、娘の不正入学をはじめ数々のスキャンダルを抱える曹国氏
の法務大臣辞任から文政権打倒へと一段と強まった。多くの国民が、曹氏
辞任だけでは文政権の悪事は終わらない、文政権の狙いは韓国という国
家、その価値観の粉砕だと、ようやく気付いたのだ。

韓国デモのこの質的変化は、デモをする人々がつい先頃まで「保守派デ
モ」と自称していたのが、「国民革命」と呼び始めたことにも表れてい
る。韓国言論界の重鎮、趙甲濟氏はこう説明する。

「文政権などの左翼勢力は『民族』や『民衆』という言葉を使って大韓民
国を否定してきました。韓国は自由と民主主義を国是としています。なの
に、種々の制度を変えてそうした価値観を抹殺しようとするのは憲法違反
です。国が憲法を守らないなら、主権者の国民が立ち上がり憲法を守る。
それが国民革命の意味です」

趙氏らの国民革命には反日スローガンはひとつもない。朝鮮問題専門家の
西岡力氏はこれを、理不尽な反日主義から脱け出した「自由と全体主義の
戦い」だと言い切った(「言論テレビ」10月25日)。

周知のように曹氏は法相就任から35日で辞任した。多くのメディアが保守
派デモ、国民の厳しい批判、検察に追い詰められた末の辞任だと分析し
た。だが真の理由は他にあるのではないか。

辞任に当たって曹氏は「私は自らに課せられた役割を果たした」と語っ
た。彼が果たしたと主張する「役割」とは、辞任表明の3時間前に発表し
た「検察改革」を含めて、長年構想を練ってきた左翼革命実現の道筋をつ
けたということであろう。曹氏や文大統領のいう検察改革の本質は、曹氏
が発案した「政治検察」、韓国型ゲシュタポの創設である。

逮捕は時間の問題

今年4月末に遡る。文政権はこのとき「高位公職者犯罪捜査処」(公捜
処)の設置法案を「迅速処理案件」に指定した。日本にはないこの制度
は、迅速処理案件に指定された法案は提出後330日が経過すれば必ず採決
すべしという制度だ。仮に法案審議の委員会が抵抗して審議が進まなくて
も、議長権限で委員会の頭越しに本会議で採決が出来る。

迅速処理案件に指定された「公捜処」設置法案は、捜査、逮捕、起訴など
の権限を検察から取り上げ、大統領直属の公捜処に移すというものだ。公
捜処のトップは大統領が直接任命するため、大統領権限が異常に強大化す
る。政治検察と呼ばれるゆえんである。捜査対象となるのは高位公職者約
6000人で、法案には以下のように詳述されている。

「大統領、国会議長と国会議員、大法院長と大法官(最高裁判所長官と最
高裁判事)、憲法裁判所長と憲法裁判官……」

その他にも高位の軍人、高位の警察官など国家の政策決定や秩序維持に携
わるあらゆる分野の高位者が対象とされている。大統領は捜査対象の一番
手に明記されているが、公捜処長官は大統領が任命するため、事実上大統
領は捜査対象にはならない。「言論テレビ」で「統一日報」論説主幹の洪
熒氏が指摘した。

「公捜処の捜査対象者は6000人ですが、うち5000人が判事と検事です。法
案をよく読んで下さい。さまざまな公職者には、たとえば『政務職以上』
とか、『特別市長』とか『警務官以上』などと条件がついています。他
方、司法に携わる者については『判事と検事』だけ、即ち、全員です。司
法権限は起訴権も含めて公捜処が全ておさえる。まさに司法クーデターです」

同法案成立を文政権が異常に急いでいる。公捜処設置法案が4月末に国会
に提出され迅速処理案件に指定されたことは前述したが、当時の様子を西
岡氏が語った。

「迅速処理案件に押し込もうとする文氏の与党に、野党第一党の自由韓国
党が反対して議場は激しい殴り合いの修羅場になりました。暴力沙汰で
やっと通したのです。そしていま、天皇陛下(現上皇陛下)の謝罪を求め
たあの国会議長の文喜相氏が330日でなく180日で採決できると言い始めま
した。法律のどこにもそんなことは一言も書かれていません。法的根拠の
全くない超法規的手法です」

文大統領一派の主張する180日目が10月28日だ。従って本稿が皆さんの目
に触れる頃、或いは公捜処設置法案は可決成立しているやもしれない。こ
のように無法を承知でごり押しする背景に曹氏を巡る深い闇があるとの見
方がある。曹氏の妻は10月24日に逮捕された。このまま捜査が続けば曹氏
の逮捕は時間の問題だ。その場合、どのような闇が暴かれるのか。

北朝鮮の麻薬スキャンダル

前述のように曹氏は公捜処を立案した人物だ。韓国を左翼独裁革命で潰そ
うと考えている点で、大統領の文氏とは同志である。思想が同じで、甘い
マスクで国民に人気のある(あった)曹氏を、文氏が後継者に考えていた
のは間違いないだろう。

曹氏を政治家にするには一定の資金が必要だ。曹氏が多額の資金をファン
ドに投資していることは判明済みだが、そのファンドの投資先にソウル市
が大規模発注をしているのである。これは政権全体による闇の政治資金作
りなのではないかとの疑惑が指摘されるゆえんである。

疑惑はまだある。2017年5月、文氏は曹氏を民情首席秘書官に任命した。
検察などの法務行政全体を監督するこの地位には検察出身者が就くのが通
例で、曹氏のような学界出身者の起用は異例だった。

洪氏は、曹氏が民情首席秘書官を務めた2年余りの間に北朝鮮の麻薬に関
する巨大スキャンダルを隠蔽した疑いも浮上していると指摘する。

捜査が進めば、一連の疑惑が文政権の致命傷となりかねない。そのような
事態を防ぐために文政権が公捜処設置法成立を急いでいる可能性もある。

それにしてもこの後ろめたい法案を韓国国会は通すのか。韓国は一院制で
300議席、3名欠員で現状勢力は297、法案可決には過半数の149が必要だ。
文氏の与党「ともに民主党」は128で、与党系無所属の1人を加えて129、
過半数に20議席不足だ。第一野党の「自由韓国党」以外の少数党は左翼政
党で、彼らが文政権に協力すれば公捜処設置法案は可決される。

一方で、国民革命デモは間違いなく勢いを増しつつある。国民革命の前で
左翼政党は文政権に肩入れできるのか。国民は勝てるのか。韓国はまさに
ぎりぎりの戦いの中にある。
『週刊新潮』 2019年11月7日号 日本ルネッサンス 第875号

 

2019年11月18日

◆萩生田氏の心優しい本質を見よ

櫻井よしこ


「朝日新聞」の萩生田光一文部科学大臣に対する批判が凄まじい。大学入
学共通テストの内、英語のテストで活用予定だった民間試験に関する発言
への批判だ。

周知のように萩生田氏は今月1日、英語の民間試験の利用を2024年度実施
に向けて延期すると発表した。歴代の文科大臣らが決定に関わり、準備が
進んでいた中での延期決定には、文科省事務局側の反対も強かったが、正
しい選択だったと思う。

朝日も2日の社説で決断は遅すぎたとしながらも、「見送りの結論は妥
当」と評価した。他方、翌日同紙の看板コラム「天声人語」は論難した。

「(萩生田氏は)裕福な家庭の子が腕試しできることを認めつつ『自分の
身の丈に合わせて、頑張ってもらえば』と述べた」「教育に格差があるの
はしかたない、そんな社会の気分を萩生田氏はグロテスクに示しただけか
もしれない」

天声人語は朝日新聞の顔と言ってよい堂々たるコラムだ。イデオロギーや
価値観の差を超えて注目されている。天声人語子は、例えば産経新聞の石
井英夫氏、毎日新聞他で名コラムを物してきた徳岡孝夫氏、また、亡く
なってしまったが「週刊新潮」の山本夏彦氏らと同様、正に日本メディア
界の大御所と位置づけられる。

普通の記者がどんなに背伸びしても「天声人語」のコラム担当になるのは
至難の業であろう。同コラムに期待されているのは、目の前の事象の表面
の薄い皮一枚を論ずることではなく、背景も歴史も心得たうえで、寸鉄人
を刺す批判、或いは本当に心をあたためてくれるような励ましを表現する
ことではないのか。左の人であれ右の人であれ、読者はそんな渋い味をコ
ラムに求めていると思う。

全体像を汲みとった内容であれば、批判であったとしても納得できるだろ
う。的を射た批判に脱帽さえするやもしれぬ。天声人語子はそんな堂々た
るコラムを書く立場にあると思うのは、私だけではあるまい。

剥き出しの敵意

そうした視点から読むと、先の萩生田批判には味わいがない。剥き出しの
敵意ばかりが突き刺さる。その表現は、天声人語子の言葉を借りればむし
ろグロテスクだった。

改めて萩生田氏の「身の丈」発言の全文を読んだ。一体この発言の何が問
題なのか、わからない。氏はたしかに「裕福な家庭の子が回数受けて、
ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれ
ない」と語っている。

しかしその後こう言っている。

「そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑
張ってもらえば。できるだけ近くに会場を作れるように今、業者や団体の
皆さんにはお願いしています」

世の中が全ての面で平等であるなどと大人は考えていない。しかし、良識
ある大人は、平等の足らざるところを何とか埋めようとし、全ての人々に
平等のチャンスを与えられる社会の構築を目指している。萩生田氏も全く
同じだ。だからこそ、氏は業者側にできるだけ近くに会場を作ってほしい
と要望している。

さらに「できるだけ負担がないようにいろいろ知恵を出していきたい」
「離島なんかはもう既に予算措置しました」と明言している。

こうした氏の発言を、貧しい家庭の子供たちに対する上からの冷たい目線
だと非難するのは間違っている。そのことは萩生田氏のこれまでの働き振
りを見れば一目瞭然であり、その背景をも含めて書くのがコラムニストで
はないだろうか。

14年4月に自民党の馳浩会長、民主党の笠浩史事務局長の形で「夜間中学
等義務教育拡充議員連盟」が発足したが、この課題にとりわけ熱心に取り
組んだのが自民党の幹事長代行となった萩生田氏だった。同件に関して自
民党政権は文科省よりも積極的な姿勢を打ち出した。

夜間高校、夜間大学に較べて公立の夜間中学はまだ少なく、貧困、親の理
解不足、引揚帰国、外国人などといった理由で修学の機会を逃し続け、義
務教育の中学教育を受けられなかった人々がわが国には存在する。

そのような人々のために、萩生田氏は同僚議員らと共に汗をかき公立夜間
中学拡充に奔走した。恵まれない国民に対する氏の目線は決して「上か
ら」でも「グロテスク」でもない。むしろ非常に心優しい。国民、とりわ
け困った立場の人々への思いの深さは、氏自身の人生と深く関わっている
のではないか。

氏は東京都八王子の普通のサラリーマンの家庭に生まれた。なぜ政治を志
したのかと問うたことがある。大学在学中から八王子市議会議員の秘書を
務めた体験に加えて、当時の八王子市が生活基盤の整備で非常に遅れてい
たことが背景にあった。

「身の丈に合った」闘い

「たとえばトイレです。水洗ではなく汲み取り式でした。周辺部に較べて
こんなに遅れている。八王子市民の生活を改善したい。そう思ったので
す」と、氏は破顔一笑した。

政界入りに必要とされる地盤・看板・鞄のいずれも氏にはなかった。それ
でも八王子市議選挙に挑み、地元の仲間の応援を受けて議席を得た。10年
間市議を務めて都議となり、すぐに衆院選に挑んだ。03年の衆院選から
ずっと国政選挙を闘ってきた。

市議から始まるこのプロセスは、二世三世議員の歩みと較べると、不利な
こと、口惜しいことが多数あって当然だ。政界で大きな力を持つ前述の三
つの要素がなくとも氏は、その都度、与えられた立場で、いわば「身の丈
に合った」闘いでベストを尽くしてきた。そのような自身の体験があるか
らこそ、生徒達を励ましたかったのではないか。残念だが、世の中は平等
ではない。大人として政治家として、自分は差別のない国造りに努力する
が、他方、皆も頑張って欲しい。なぜなら頑張ることで、必ず、道は開け
るのだから、と。天声人語子がその点を全く察していないのは驚きである。

だが、一連の朝日新聞の報道の中で、納得できた記事もある。3日の開成
中学・高等学校長、柳沢幸雄氏の言葉だった。氏はざっと以下のように
語っている。

「日本の大学入試は、入り口で厳格、出口はズルズルというところがそも
そも問題だ。国公立大であっても、各々、入試についての考えがある。そ
れぞれの大学の方針に合った、緩やかで多様な入試であっていい」

今回問題とされた経済や地域の格差について、柳沢氏は国や大学が受験生
向けの奨学金を出すことを提唱するが、それもひとつの案であろう。

24年度まで先延ばししたとはいえ、萩生田氏には英語試験の見直しをはじ
め、日本の教育の土台を担う重い責務が課せられている。身長180セン
チ、体重95キロ。かつてはこの体で100メートルを11秒3で走り、明治大学
ラグビー部にも属した。その体力と志で、萩生田氏には果敢に働き続けて
ほしい。

『週刊新潮』 2019年11月7日 日本ルネッサンス 第876回