2019年08月01日

◆憲法改正のために自公枢軸体制を見直せ

櫻井よしこ


日本周辺のあちこちに国際政治上の重要事態が発生し、日本はその危機の
ひとつひとつに対処することが求められている。脅威はヒタヒタと押し寄
せている。にも拘わらず、7月21日の参議院議員選挙は、なんと緊張感を
欠いていたことか。

北朝鮮の核・ミサイル問題、隙あらばと中国が狙う尖閣諸島と台湾、わが
国の石油タンカーも攻撃されたホルムズ海峡の緊迫、米国は有志連合に日
本の参加を打診し、おまけにトランプ米大統領は日米安保条約への疑問を
口にする。どれをとっても戦後日本がひたってきた「守られた平和」を脅
かす。

誰が日本を守るのか。この根本的な問いについて、本当はいま、日本人全
員が考えるときなのだ。参院選の公約の柱に、安倍晋三自民党総裁が憲法
改正を掲げたのは当然のことだった。首相の問題提起はこの危機的状況の
下では、むしろ、もっと強調されてもよかった。

現実には、しかし、友党の公明党代表、山口那津男氏は「憲法改正の熟度
は浅い」と述べて、水を差し続けた。国民は憲法改正を最重要の課題とは
考えていないというのだ。国民が考えていないからといって、危機的状況
に目を瞑って問題提起しないのであれば、政治家の存在意義など無い

「小さな声に耳を傾ける」と山口氏は選挙中に強調したが、仮に憲法改正
論議が熟しておらず、小さな声にとどまっているのなら、「小さな声」に
耳を傾けるという公約こそ果たしてほしい。

与党に大きな問題があるのと同様、野党の状況も酷いものだ。全国の1人
区で統一候補を立てた立憲民主、国民民主、社民、共産の各党は憲法改正
に関して関心の度合いも姿勢も全く異なる。9条擁護の旗を掲げる共産党
や社民党から、安倍内閣の下での憲法改正には応じないという立憲民主、
議論はすべきだという国民民主まで、この大事な点について、彼らはバラ
バラだ。

節操のない政治家の姿

国家や政治の根幹にかかわる憲法についてこんなにまとまりきれていない
野党の統一候補になった政治家は、いざというときどの政党の政策を掲げ
るのだろうか。

私たちはこれまでに余りにも多くの節操のない政治家の姿を見てきた。た
とえば立憲民主の枝野幸男代表である。集団的自衛権を認め、憲法改正私
案まで月刊『文藝春秋』で発表したかと思えば、いつの間にか正反対の主
張に大転換する。平成27年の平和安全法制に反対していたのが、平和安全
法制を認めるという条件をつけた小池百合子氏に拒絶され、平和安全法制
廃止を主張し続ける。

このような変節は国内の観念論の世界では罷り通っても、国際社会の現実
の前では通用しない。天安門事件やベルリンの壁の崩壊から始まった平成
時代は米国一強の下で世界秩序が保たれ、それゆえに観念論の中で現実に
目を瞑り、空想をたくましくして自己満足することも見逃された時代だっ
た。だが、令和のいま、米国は「世界の警察」の役割を返上し、各国に自
らの問題は自らが解決すべしと言い始めた。

それだけではない。先述のように、日本の平和の後ろ盾となってきた米国
から、トランプ大統領の日米安保条約に関する率直な疑問が伝わってき
た。日米安保条約が如何に不公平であるかを、トランプ氏は、6月24日か
ら29日までの1週間足らずの間に、3度も語ったのだ。その中で安保条約破
棄についてさえも言及したという。

さらに、中東のホルムズ海峡の航行の安全、オイルタンカーを守るための
有志連合結成を米国は呼びかけている。参院選挙が終わった7月22日現
在、国家安全保障問題担当大統領補佐官、ジョン・ボルトン氏が日本を訪
問し、米国の考え方などを日本側に伝えたはずだ。

今回の有志連合はかつてイラクを爆撃し攻撃した有志連合とは根本的に異
なる。海洋の安全と自国のタンカーを守るためだ。日本は石油の約87%を
中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を通って運ばれる。日本の
タンカー、乗組員を守り、日本経済を守るのは日本国政府の責任である。
責任を果たすべく、自衛隊派遣の法整備などを急ぐべきだ。それはできな
いので他の国々に守ってほしい、とは到底言えない。

このような現実を見れば、いま日本人全員で日本の安全保障の在り方と憲
法について考えなければならないはずだ。安倍首相の憲法改正重視は、日
本国の安寧と国民の生活を守るためでしかない。にも拘わらず、公明党は
乗ってこない。

公明党を動かす鍵

如何にして日本を守るのか。憲法改正と改革をどう進めるのか。安倍自民
党は戦略の変更を迫られている。どの新聞も大きく見出しに取ったように
自民党は57議席を獲得、14議席の公明党と合わせて与党は71議席を獲得し
た。非改選と合わせて両党で141、日本維新の会の16を足しても157議席で
ある。全体の245議席の3分の2は164だ。とすれば、少なくとも7議席不足だ。

自民、公明、維新が一致協力して憲法改正に取り組むと仮定しても、数が
足りない。それなのに、その苦しい中で公明党の山口氏はどう見ても憲法
改正に後ろ向きだ。こうした状況について、「産経新聞」の前政治部長の
石橋文登氏が語る。

「改憲勢力イコール自民、公明、維新という数式にもはや縛られるべきで
はないのです。共産、立憲民主、社民を外してその他の野党との協力態勢
で改憲勢力を形成する戦略に切り替えるときです。その方が自公で3分の2
を確保するよりも、改憲実現の可能性はあると思います」

自民の113に国民民主の21、維新の16、それに与党系無所属の3を足すと
153議席である。国民民主の全員が自民党と協力することはあり得ないた
めに、これは楽観的すぎる数字だ。それでも、このように自民党が軸足を
公明党以外に移すことが大事なのだ。公明党だけが組む相手ではないこと
を、実際の行動で示すことが、結果として公明党を動かす鍵となるだろう。

安倍首相は選挙戦の後、各社のインタビューに応じ、「2020年には憲法改
正を成し遂げたい」と答えた。このいつもの決意表明に、日本テレビ解説
委員長の粕谷賢之氏が、20年に改正憲法を施行したいという意味かと追加
質問した。総理は、「そうです」と回答した。

「産経新聞」政治部長の佐々木美恵氏は22日1面の記事で、21日夕、首相
が東京・富ケ谷の私邸で麻生太郎副総理と会談し、「憲法改正をやるつも
りだ」と語ったこと、「今後の1年が勝負の年になる」との認識を共有し
たことを報じている。

国際情勢の厳しさをよくよく実感しているからこその首相の決意であろ
う。その決意を私は大切に思う。

『週刊新潮』 2019年8月1日号 日本ルネッサンス 第862回

2019年07月31日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾?(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号 日本ルネッサンス 第861回

2019年07月30日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号日本ルネッサンス 第861回

2019年07月29日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号 日本ルネッサンス 第861回

2019年07月28日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号 日本ルネッサンス 第861回

             

2019年07月27日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号日本ルネッサンス 第861回

2019年07月26日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

「 脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ 」

『週刊新潮』 2019年7月25日号
日本ルネッサンス 第861回


2019年07月25日

◆脅威に囲まれる日本、いま安保を考えよ

櫻井よしこ


7月1日、経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」
を発表した。韓国向けのフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の輸出
審査の厳格化が内容だ。

これらの戦略物資は、これまで韓国をホワイト国、即ち、貿易管理の体制
が整った信頼できる国であると見做して3年間申請不要で許可していた。
だが後述するように韓国はもはや信頼できる貿易相手ではないと判明し、
7月4日以降、輸出案件毎に出荷先、量などを日本政府に申請し、審査を受
けさせることになった。

「朝日新聞」は同措置を安倍晋三首相による韓国への感情的報復措置とみ
て「報復を即時撤回せよ」と社説で主張したが、的外れだ。そもそも今回
の措置は、「禁輸」ではない。これまでの優遇措置を改めて普通の措置に
戻すだけである。たとえばEUは韓国をホワイト国に指定しておらず、普
通の国として扱っている。日本もEU同様、普通待遇で韓国と貿易すると
いうだけのことだ。

安倍総理は地域の安定を損なう通常兵器や関連技術の移転防止をうたう
ワッセナー協約に日本も入っていることを踏まえ、こう語っている。

「今回の措置は安全保障上の貿易管理をそれぞれの国が果たしていくとい
う義務です。相手国が約束を守らないなかでは優遇措置は取れないのであ
り、当然の判断です。WTO違反ではまったくない」

国連安保理・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が
FNNPRIMEで指摘した。

「2015年から19年3月の間に韓国国内で摘発されたのは計156件でした。そ
のうち、実に102件が大量破壊兵器(WMD)関連事件でした」

氏が示した具体例の中には、核弾頭や遠心分離機のパーツ等の製造にも使
用されうる高性能の精密工作機械などがあった。「核兵器製造・開発・使
用に利用可能な物品を統制する多者間国際体制」(NSG)の規制対象と
なる工作機械類の不正輸出事件も多数摘発されていた。核燃料棒の被覆材
として用いられるジルコニウム(14億6600万円相当)も中国に不正輸出さ
れていた。

北朝鮮のために

不正輸出事件は2015年の14件から、17年及び18年の各々40件超へ、さらに
19年は3月までのわずか3か月間に30件以上へと、文在寅大統領の下で急増
した。日本政府は韓国政府に協議を呼びかけてきたが、「過去3年以上、
韓国政府との意思疎通は困難であった」と官房副長官の西村康稔氏が述べ
たように、文政権は話し合いに応じていない。

ここで私は、文大統領の秘書室長(官房長官)だった任鍾ル(イム・ジョ
ンソク)氏の奇妙な外国訪問を思い出す。17年12月、氏は4日間の日程で
アラブ首長国連邦(UAE)とレバノンを訪れた。当時両国には韓国部隊
が派遣されており、任氏は大統領特使として部隊激励のために中東を訪問
したという。だが大統領秘書室長の外国訪問は極めて異例である。任氏は
文氏の親北朝鮮政策の主導者であり、親北朝鮮のUAEやレバノンで、北
朝鮮の重要人物と接触か、などと取り沙汰されたが、結局、何もわからな
い怪しい訪問だった。

それから間もない18年1月1日、金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で
「平昌五輪に代表団を派遣する用意がある」と発表した。朝鮮半島情勢激
変の始まりだった。このときまでに、韓国は国際社会による制裁破りも含
めて、北朝鮮のためにあらゆる障害を取り除くと、誓約でもしたのではな
いかと疑うものだ。

現在までに文在寅政権は、韓国軍から北朝鮮に対峙する力を殆んどすべて
奪い去った。対北防諜部隊は事実上解体され、韓国は北朝鮮の工作に対し
て完全に無防備だ。

韓国軍の武器装備体系にはイージス艦や潜水艦が含まれるが、海軍力が殆
んどない北朝鮮に対する備えとしては不必要なものだ。韓国保有の「玄武
2号」、射程300キロの弾道ミサイルは射程を更に長くしようと試みたが、
日本への脅威となるとして米国が止めさせた経緯がある。これらの武器装
備は日本を仮想敵国と位置づければおよそ全て納得できる。文政権が韓国
にとっての敵は日本だと見ていると、少なからぬ専門家が考えるゆえんで
ある。

韓国が北朝鮮にさらに宥和的になって、連邦政府などの形で統一に向か
い、大韓民国が北朝鮮に吸収されるとき、60万の韓国軍は日本への敵対勢
力となる。北朝鮮が核を諦めなければ統一朝鮮は核保有国となる。彼らは
前述のように多数の弾道ミサイルを有し日本攻撃も可能である。対する日
本には核は無論ない。弾道ミサイルもない。どのようにしてわが国を守る
のか、心許ない状況の日本に対して、トランプ米大統領の重大発言がなさ
れた。

米国に頼れない状況

6月24日、ブルームバーグ通信がトランプ氏の「日米安全保障条約は不平
等」「米国は日本防衛の義務を負うが、日本にはその必要がない」「日米
安保条約を破棄する可能性」もあるとの発言を報じた。26日にはトランプ
氏自身が「フォックスビジネス」の電話取材に応じて、「日本が攻撃され
れば、我々は第三次世界大戦を戦う。日本を守り、命と、大事なものを犠
牲にして戦う。しかし、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要が
ない」と語った。大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議後の記者会見で
日米安保条約破棄の可能性を問われ、「全くない、ただ、日米安保は不平
等だ」とも言った。

現実を見れば、安保条約の破棄は見通せる近未来、日米双方の国益上考え
られない。それでもトランプ氏の一連の発言は「本音」であろう。

トランプ氏は、米軍が差し出すのは命だが、日本側は結局、金でしかな
い。「命と金」の引き替えは不平等だと言っているのだ。それに日本は応
えなくてはならない。

さらにもうひとつの問題が生じた。安倍総理がイランを訪問した6月13
日、ホルムズ海峡で日本の石油タンカーが攻撃を受けた。

7月10日には英国の石油タンカーがイラン革命防衛隊の武装船3隻に拿捕さ
れそうになった。英海軍の護衛艦「モントローズ」がイラン船に砲を向け
て警告し、イラン船は退散した。その後、英海軍は新たに駆逐艦「ダンカ
ン」を中東に派遣した。

この間イラン側は一貫して如何なる関与も否定しているが、9日、米国か
ら「有志連合」結成の提案がなされた。その主旨は、各国のタンカーの安
全は各国が守り、米軍は全体の調整をするということだ。

朝鮮半島、ホルムズ海峡、ペルシャ湾、すべてにおいて自国を自力で守ら
なければならない体制に、世界はむかっている。米国との緊密な関係だけ
に頼れない状況が生まれている。如何にして日本を守るのか。それをこの
選挙で問うべきであろう。

『週刊新潮』 2019年7月25日号 日本ルネッサンス 第861回

2019年07月24日

◆米中・米朝首脳会談、つきまとう危うさ

櫻井よしこ


国際政治はテレビと共にある。

安倍晋三首相の20カ国・地域(G20)首脳会議での巧みな采配も、惜しく
も吹き飛ばされた感がある。世界の目は板門店でのトランプ・金正恩両首
脳に集中し、その他の印象を消し去った。凄いものだ。

6月30日、15時45分、トランプ大統領が韓国の「自由の家」からゆっくり
と軍事境界線に向かって歩き始めると、北側からは金正恩朝鮮労働党委員
長が歩み寄った。境界線の南北に二人が相対し、握手をし言葉を交わし
て、やがてトランプ氏が北側に足を踏み入れたとき、思わず私自身、大き
な笑顔になった。メモをとりつつ、冷静に見ているつもりが、大きな笑顔
がこぼれたのである。中継映像を見ていた人の多くも同様だったのではな
いか。

二人が北朝鮮側で暫し佇んで境界線に戻り、そのまま自然な形で揃って韓
国側に入ったときには、取材陣の叫び声が聞こえた。カメラに囲まれて立
ち話をする金氏は、大きな賭けに出たがうまく意思の疎通がはかれそうだ
と、ひと安心した様子だった。安堵と嬉しさを隠しきれない表情には、そ
の残虐な行動に似合わない子供っぽさが残っていた。

トランプ氏は「つい昨日、金委員長に会うことを思いついた」と繰り返し
たが、ワシントンで発行されている「ザ・ヒル」は、同紙が行った24日の
インタビューでトランプ氏が板門店で金氏に会う考えを語っていたと報じ
た。ホワイトハウスがセキュリティ確保のためその件を当日まで伏せるよ
うに依頼し、報道できなかったという。

トランプ氏側が少なくとも1週間は板門店会談について考えを巡らしてい
たのに対して、金氏にとってはいきなりの提案だったわけだ。金氏は「ツ
イッターを見て本当に驚いた」と語っている。これはトランプ氏との立ち
話を終えて、韓国側の「自由の家」に入り、トランプ氏と並んで坐ったと
きの発言だ。

安倍晋三首相の役割

「昨日の午後、初めて、会いたいというトランプ大統領のメッセージを聞
いた。私も再度会いたかった」

金氏は、トランプ氏の「会いたい」というメッセージを受けて、決断し、
板門店に来た。その間約24時間だったことになる。いきなり言われて駆け
つけた。面子にこだわらず、大決断をしたのは明らかだ。その決断力を考
えるとき、「我々はもっとよくできる。もっとよくなることを世界に見せ
られる」という金氏の言葉に希望を持ちたくなるが、やはり問いたくな
る。「もっとよくなる」とは、核・ミサイル廃棄と拉致問題解決を意味し
ているか、と。

両首脳の会談は50分間にわたった。トランプ氏は韓国を去るに当たり、
「予定は2時間半遅れたけれど、すばらしかった」と、紅潮した顔で語っ
た。舞い上がる程の上機嫌は、金氏との会話が具体的な果実につながると
の思いを抱いたからであろう。

北朝鮮相手の交渉が順調に進むとは中々思えないが、今回の「いきなり会
談」で化学反応が起き、交渉が前進する可能性はあるだろうか。

ここで、横田早紀江さんのトランプ評が思い出される。早紀江さんはこれ
までに二度トランプ氏に会っている。

「トランプさんは、あたたかな父性を感じさせます。よき家庭の一家のお
父さんという感じで、守ってくれるような印象でした」

国際関係が真に冷徹な力関係であるのは言うまでもない。それでもトラン
プ・金両氏の関係は、これから存外うまくいくのではないか。

そこで安倍首相の役割が重要になる。核・ミサイル・拉致の三課題を優先
すること、問題がすべて解決して初めて見返りを与えるという結果重視の
原則を守らせることだ。さもなければ北朝鮮とのせめぎ合いに敗れると、
トランプ大統領に助言し続けることだ。

今回、明確になったのは、トランプ氏は北朝鮮に関して、韓国の、そして
中国の助力を全く必要としていないことだ。

習近平主席は内外共に行き詰まっている。国際社会で中国の友人はほとん
どいない。そこで来日前の6月20日、21日の両日、習氏は恐らく、北朝鮮
の核問題と米中貿易問題を一体化させて米国の優位に立つべく平壌を訪れ
た。すると、23日にトランプ氏が金氏に手紙を送り、金氏はそれを「すば
らしい手紙がきた」と言って公表した。まずトランプ氏の手紙で、次に板
門店首脳会談で、習氏の意図は粉々に砕かれた。

金氏も習氏に、米国との仲介を求めているわけではない。求めているのは
国連の制裁破りをしてでも、援助してくれということだ。

中国の情けが命綱

習政権はすでに巧妙な制裁破りを実行中だが、具体例について6月28日の
「言論テレビ」で朝鮮問題専門家の西岡力氏が語った。

「国連制裁の対象になっていない観光で中国は正恩に外貨を与えていま
す。北朝鮮への中国人観光客は2017年が80万人、18年は50%増の120万人
でした。観光客が増えた背景に中国当局が観光業者に補助金を出している
という有力情報があります。旅行費用の7割を中国政府が補助し、業者が3
割取って、ツアーを4割値引きで売り出す。中国人は安い費用で平壌に行
き、焼き肉を食べてカラオケで歌って、夜は買春をするというカラクリです」

この種の客を満載した大型観光バスが毎日多数、北朝鮮に向かい、国連制
裁の対象である鉄鉱石や石炭の先物買いも行われているという。現物は制
裁解除の暁に受け取る条件で、支払いは半分に値引きして現金決済だとい
う。西岡氏の指摘だ。

「中国もそうですが、北朝鮮も騙す国です。先払いなどすれば詐欺にあう
のは当然だと思いますが、大丈夫だという。中国当局の保証があるからだ
そうです。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発阻止でその外貨を枯渇さ
せようとしているときに、中国はこうした汚い手段で制裁破りをしている
のです」

国連制裁があり、米中の貿易戦争が続く限り、中国は米国に正面から逆ら
えない。結果、中国は今も巧妙なルール破りをしているが、さらに狡知を
極めていくだろう。中国の情けが命綱の金氏がどれだけトランプ氏に接近
するかは、中国のやり方をどれだけ国際社会が封じ込められるかという課
題と重なる。

G20の米中会談はその点で危うさを残した。ほとんどすべての中国からの
輸入品に25%の関税をかけるという第4弾の関税は回避され、米中はつか
の間の休戦に入った。そしてファーウェイへの米企業による輸出を一部認
めることになった。トランプ氏の直感や思いつきは素晴らしくとも、中・
長期的戦略は描き切れていない。むしろ戦略の欠如が懸念される。それで
は中国に敗れかねず、全く油断できないのである。

『週刊新潮』 2019年7月11日号 日本ルネッサンス 第859回

2019年07月22日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判

櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。
首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は嫌だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日号 日本ルネッサンス 第860回


2019年07月21日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判 

   櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。
首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は厭だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日号日本ルネッサンス 第860回

2019年07月19日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判

櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。
首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は厭だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日号 日本ルネッサンス 第860回

2019年07月18日

◆選挙を前に激化する、朝日の安倍批判

櫻井よしこ


7月4日、参議院議員選挙が公示され、世の中は選挙一色だ。その中で「朝
日新聞」の反安倍報道が際立っている。7日の1面に政治部次長、松田京平
氏の署名入りの記事が載った。「『嘲笑する政治』続けるのか」と題して
安倍晋三首相を次のように批判した。

「(安倍晋三首相は)民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄、こき下ろ
す。身内で固まってあざ笑う―。自分が相手より上位にあり、見下し、排
除する意識がにじむ」、「『嘲笑する政治』が6年半、まかり通ってき
た」、「このまま『嘲笑の政治』が続くなら、民主主義は機能しない」、
という内容だ。

安倍憎しの感情がメラメラと燃えているようだ。しかし現実を見れば、国
民の多くが民主党政権の3年余りを「悪夢」と感じているのではないか。

首相が「身内で固まってあざ笑」っているわけではない。その証拠に、政
権を失った後、民主党の支持率は下がる一方だった。だからこそ、2017年
10月の衆議院議員選挙を前に、遂に全員が小池百合子氏の下に逃げ込もう
とした。しかし排除されて、立憲民主党が生れ、紆余曲折を経て国民民主
党も生れた。

民主党政権時代の「悪夢」の再来は嫌だと、国民が骨身に沁みて感じてい
るからこそ、その後複数回の選挙で自民党が国民の支持を受け続けたので
ある。にも拘わらず、この6年半が安倍政権がただ民主党を「嘲笑する政
治」であったとすれば、国民が安倍氏を支持するはずもない。朝日の余り
に曲がった見方こそ国民の意思を「嘲笑」するもので、傲慢さを示している。

どんな時でも選挙は国政の行方を決める重要事だが、今月21日の参院選挙
には特別の重要さがつきまとう。結果によって、首相に期待されている憲
法改正が可能になるか、或いは先延ばしで事実上、改憲不能に陥るかが決
まるからだ。

憲法以外にも、経済、年金、北朝鮮と拉致、皇室など重要な問題が山積し
ている。これらの課題、とりわけ憲法改正に安倍首相が着手するのが朝日
新聞はいやなのであろう。それが常軌を逸した安倍首相批判につながって
いると見てよいだろう。7月3日の「天声人語」はその凄まじい一例だ。

首相を犬にたとえる

同欄で天声人語子は「あくびは伝染する」と書く。「米国が中国に仕掛け
た貿易戦争さながら、日本政府が韓国への輸出規制に乗り出した」とつな
げている。「韓国側にも問題がある」としながらも、安倍政権の措置は
「筋違い」だと切って捨て、次の下品な批判を展開する。

「ちなみに人のあくびは犬にも伝染するらしい。忠誠を尽くす飼い主から
とくに影響を受けやすいとの研究結果がある。日本政府の場合は、こちら
に近いか」

安倍政権、つまり安倍首相を犬にたとえるのか。こんな非礼は誰に対して
も許されない。だが、朝日は、首相にはどんな下品な批判でも許されると
思っているのであろう。この感覚こそ、「自分が相手より上位にあり、見
下」す視線ではないか。

右の非礼な天声人語と同じ日、朝日は「対韓輸出規制『報復』を即時撤回
せよ」という社説を掲げた。そこにはこう書かれている。

「近年の米国と中国が振りかざす愚行に、日本も加わるのか。自由貿易の
原則をねじ曲げる措置は即時撤回すべきである」

朝日社説子は、韓国への「輸出規制強化」をかつて中国が尖閣問題を巡っ
てレアアースの輸出を止めた事例や、トランプ政権が安全保障を理由に鉄
鋼などの関税を上げた事例と同列に置いて、安倍首相の措置を非難するの
である。

順序が後先になったが、経済産業省が「輸出管理を適切に実施する観点か
ら、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行」うと発表したの
が7月1日だ。➀韓国をこれまで「ホワイト国」と見做してきたが、そのリ
ストから韓国を外す手続きを始める。➁4日からフッ化ポリイミド、レジ
スト、フッ化水素の3品目を包括輸出許可制度の対象外とし、個別の輸出
審査を行う、とした。

世耕弘成経済産業大臣は7月1日、右の措置の理由として「輸出管理で不適
切な事案が発生した」ことを挙げたが、「不適切な事案」の内容について
は「守秘義務」があるとし具体的説明を行わなかった。

経産省の発表は直ちに多方面から反応を引きおこした。その中のひとつに
中部大学特任教授細川昌彦氏(元経産省貿易管理部長)の解説がある。氏
はこれは「輸出規制発動」ではなく、04年から韓国を優遇して簡略化して
いた手続きを03年までの普通の手続きに戻すだけだと説明した。本来は契
約毎に個別の許可が必要だが、輸出管理の点で信頼できる国であると見做
されると「ホワイト国」に指定されて輸出手続きが簡略化される。その場
合、3年間有効な包括許可をとることが可能で、いつでも輸出できるとい
うものだ。

理不尽な政府批判

安倍首相も繰り返し述べている。

「輸出禁止ということではありません。徴用工(朝鮮人戦時労働者)問題
とも関係ありません。これまで韓国に認めていた優遇策を元にもどしただ
けです。EU諸国は元々韓国をホワイト国にはしておらず、わが国はEU
と同様の政策を韓国に対してとるということです」

こう強調した首相も、世耕氏が会見で語った「不適切な事案」について、
7日時点ではまだ説明していない。

他方細川氏は、韓国に輸出した先述の品目が北朝鮮に横流しされる事例が
頻繁に起きている、むしろ常態化していると明言する(7月7日「日曜報道
THE PRIME」)。

軍事目的にも転用される先述の物質が北朝鮮に横流しされているのであれ
ば、韓国をホワイト国リストから外すのは当然だ。また再度強調したいの
は、今回の措置が包括許可から個別許可に戻したにすぎないという点だ。
朝日は3日の社説で、中国のレアアース禁輸と較べたが、その比較自体が
的外れだ。

朝日の社説のもうひとつの間違いは、同措置を朝鮮人戦時労働者問題に対
する日本政府の報復だと見做していることだ。今回の措置はいわゆる徴用
工問題とは何ら関係がない。従って朝日が言う安倍政権が「政治の対立を
経済の交流にまで持ち込」んだという非難は当たらない。「外交当局の高
官協議で打開の模索を急ぐべきである」という主張も、的外れだ。第一、
日本側は徴用工問題で話し合いを呼びかけ続けたが、韓国側が応じないの
である。

朝日の理不尽な政府批判は、安倍自民党の勝利は改憲につながると見て阻
止する為であり、朝日の偏ったイデオロギーの産物にすぎないということ
だろう。

『週刊新潮』 2019年7月18日  日本ルネッサンス 第860回