櫻井よしこ
「 慰安婦像どころではない厳しい局面へ 左翼勢力が攻勢をかける韓国
との関係 」
韓国と付き合うのはほとほと疲れるという日本人は少なくない。ソウルの
日本大使館前の慰安婦像に続いて釜山の総領事館の裏門前にもう1つ像が
設置された。釜山区長は像を永久保存する方針だそうだ。京畿(キョン
ギ)道(県)議員団も竹島に慰安婦像を設置する計画を発表し、そのため
の寄付金を募り始めた。
こうした動きをどう捉えるべきか。私たちの側が冷静になって、韓国で何
が進行中なのかをよく見ることが大事だと思う。韓国の愛国者であり、常
に日韓関係を重視してきた「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)
氏も訴える。
「日本人にとって慰安婦像が耐え難い問題であるのは分かります。理解し
てほしいのは、あれは韓国政府の意思に反して行われた不法行為です」
韓国政府だけでなく、韓国の保守の人々は慰安婦像の設置を苦々しく
思っていると、洪氏は語る。事実、国民行動本部は1月9日、ソウルの日本
大使館前の慰安婦像を撤去すべきだと韓国政府に要求した。彼らは日本政
府が取った四つの報復措置を遺憾としながらも、「韓日両国は敵と味方を
適切に区別すべきだ」「真の敵は北朝鮮勢力に加担して、慰安婦像設置を
推進する次期大統領候補の文在寅(ムン・ジェイン)氏らだ」と名指しで
批判した。
国民行動本部は大佐級の退役軍人を主軸とする保守勢力である。北朝鮮
による対韓工作の恐ろしさを実感している彼らは、慰安婦問題をはじめと
する「対日歴史戦争」の背後に北朝鮮の工作機関の動きがあることを理解
している人々でもある。
「韓国経済新聞」の主筆、鄭奎載氏も、反日感情論に巻き込まれてはなら
ないと主張する1人である。氏は現在進行中の朴槿恵大統領弾劾裁判も反
日勢力と同じ考えの人々が進めていると次のように書いている。
「朴大統領弾劾に関する憲法裁判所の審理自体が親北朝鮮で反日・反韓国
の世論に追従しており、憲法の精神に反している。憲法裁判所では野党推
薦の特別検察官が大統領追及の最前線に立って審理を進めており、6カ月
以内に結論が出される予定だ」
さらに氏が1月3日の紙面に書いた。
「この重要な審判の最初の弁論は1月3日から始まる。2日後の5日には2回
目の弁論が、10日には崔順実らを被告とする3回目の弁論日程が決まって
いる。拙速に過ぎる。このような拙速裁判は、平壌の金正恩の張成沢
(チャン・ソンテク)裁判以外には前例がない」
氏はさらに驚くべき実情も暴露した。朴大統領の弁護人に届けられた訴
状は3万2000ページあり、弁護団がこの膨大な量を読み、反論の準備をす
る日数が極端に制限されているという。
同件について、憲法裁判所は「大統領の弁護団は複数で構成しているの
であり、各弁護士が分担して読めば時間は十分にある」と言ったそうだ。
朴大統領弾劾に関しては13件の事案があり、これらは全て相互に関連す
る内容だ。個々の事案は分離できない。そのような複雑な構成の裁判で、
しかも国の最高権力者である大統領の弾劾が懸かっている重要な裁判で、
弁護士が訴状全体を読む時間を与えられないまま審理を急ぐことは許され
ない。
一連の事柄が示しているのは、韓国情勢は私たちが考える以上に深刻
で、朴大統領弾劾裁判には左翼勢力の攻勢という暗黒の側面があるという
ことだ。
このような韓国の現状について私たちは第一に、韓国情勢の深刻さを知っ
ておかなければならない。次の大統領選挙で、前述の文氏が当選すること
もあり得る。前国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)氏の当選もあり得
る。いずれにしても今よりずっと左翼的で親北朝鮮、親中国の政権になる
と考えざるを得ない。そのとき、私たちは慰安婦像どころではない、もっ
と厳しい情勢に向き合うことになる。その最悪の事態を考えておくべき局
面である。
『週刊ダイヤモンド』 2017年1月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1167