2017年07月07日

◆米国防総省の報告に見る中国の脅威

櫻井よしこ 



米国防総省が6月6日、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書を発表し
た。海洋、宇宙、核、サイバー空間の4分野を軍事戦略の要として、中国
が世界最強の国を目指して歩み続ける姿を描き、警告を発している。
 
報告書は、中国の目標が米国優位の現状を打ち砕くことだと分析し、そ
のために中国は、サイバー攻撃によって、軍事技術をはじめ自国で必要と
する広範な技術の窃取を行い、知的財産盗取を目的とする外国企業への投
資や、中国人による民間企業での技術の盗み取りなどを続けていると、驚
くほど率直に告発している。
 
この件に関して興味深い統計がある。中国政府は長年、経済発展を支える
イノベーション重視政策を掲げてきた。2001年から複数回の5か年計画を
策定し、研究開発費をGDP比で20年までに2・5%に引き上げようとして
きた。だが、目標は一度も達成されていない。理由は、彼らが必要な知的
財産を常に他国から盗み取ることで目的を達成してきたために、自ら研究
開発する風土がないからだとされている。
 
ただ、どのような手段で技術を入手したかは別にして、中国が尋常ならざ
る戦力を構築しているのは明らかだ。中国は世界で初めて宇宙軍を創設し
た国だ。米国家情報長官のダニエル・コーツ氏は今年5月、「世界の脅威
評価」で、ロシアと中国はアメリカの衛星を標的とする兵器システム構築
を宇宙戦争時代の重要戦略とするだろうと報告している。
 
15年末に、中国は「戦略支援部隊」を創設したが、それはサイバー空間と
宇宙とにおける中国の軍事的優位を勝ち取るための部隊だと分析されている。
 
国防総省の報告書は、中国を宇宙全体の支配者へと押し上げかねない量
子衛星の打ち上げに関しても言及しているのだ。

大中華帝国の創造
 
昨年、中国は宇宙ロケットを22回打ち上げ、21回成功した。そのひとつ
が世界初の量子科学実験衛星の打ち上げだった。量子通信は盗聴や暗号の
解読がほぼ困難な極めて高い安全性が保証される通信である。「仮に通信
傍受を試みたり、通信内容を書き換えようとすると、通信内容自体が崩
壊≠キる。理論的にハッキングはまず不可能」(産経ニュース16年9月3
日)だと解説されている。
 
量子衛星打ち上げの成功で、地球を包み込んでいる広大な宇宙を舞台に
した交信では、どの国も中国の通信を傍受できないのである。
 
中国は07年に地上発射のミサイルで高度860`の自国の古い気象衛星を
破壊してみせた。攻撃能力を世界に知らしめたのだ。衛星破壊をはじめと
する中国の攻撃の狙いは、「敵の目と耳を利かなくする」こと。違法な
ハッキングで世界中の技術を盗んできた中国が、選りに選って絶対にハッ
キングされない技術を持てば、世界を支配する危険性さえ現実化する。
 
中国は現在独自の宇宙ステーションを構築中だが、来年には主要なモ
ジュールの打ち上げが続く見込みだ。東京五輪の2年後には、中国だけの
宇宙ステーションが完成すると見られる。さらに、中国は月に基地をつく
る計画で、月基地の完成は27年頃と発表されている。習近平氏の「中国の
夢」は、21世紀の中華思想の確立であり、宇宙にまで版図を広げる大中華
帝国の創造ではないのか。
 
中国の遠大な野望の第一歩は、台湾の併合である。その台湾に、国防総
省報告は多くの頁を割いた。「台湾有事のための戦力近代化」(Force
Modernization for a Taiwan Contingency)という章題自体が、十分注目
に値する強いタイトルだ。付録として中国と台湾の戦力比較が3頁も続い
ている。
 
台湾と中国の軍事力は比較にならない。中国の優位は明らかであり、将
来も楽観できない。たとえば現在、台湾は21万5000人規模の軍隊を有する
が、2年後には全員志願兵からなる17万5000人規模の軍隊を目指してい
る。しかし、この縮小した規模も志願兵不足で達成できないだろうと見ら
れている。他方、中国は台湾海峡だけで19万人の軍を配備しており、人民
解放軍全体で見れば230万人の大軍隊である。
 
台湾、南シナ海、そして東シナ海を念頭に、中国は非軍事分野での戦
力、具体的にはコーストガード(海警局)や海上民兵隊の増強にも力を入
れてきた。
 
10年以降、中国のコーストガードは1000d以上の大型船を60隻から130隻
に増やした。新造船はすべて大型化し、1万dを優に超える船が少なくと
も10隻ある。大型船はヘリ搭載機能、高圧放水銃、30_から76_砲を備え
ており、軍艦並みの機能を有し、長期間の海上展開にも耐えられる。
 
ちなみに1000d以上の大型船を130隻も持つコーストガードは世界で中国
だけだと、国防総省報告は指摘する。海警局は、もはや海軍そのものだ。

ローテクの海上民兵隊
 
海警局とは別に海上民兵隊も能力と規模の強化・拡大を続けている。事
態を戦争にまで悪化させずに、軍隊と同じ効果を発揮して、海や島を奪う
のが海上民兵隊である。
 
彼らは人民解放軍海軍と一体化して、ベトナムやフィリピンを恫喝す
る。16年夏には日本の尖閣諸島周辺にまで押し寄せた。国防総省報告は、
この海上民兵隊に重要な変化が表れていることを指摘する。かつて海上民
兵隊は漁民や船会社から船を賃借していた。それがいま、南シナ海に面す
る海南省が、84隻にも上る大型船を海上民兵隊用として発注した。独自の
船を大量に建造しているのだ。
 
海上民兵隊は南シナ海を越えて尖閣諸島や東シナ海、さらには小笠原諸
島、太平洋海域にも侵出してくる。
 
宇宙軍と量子衛星、そして海上民兵隊。ハイテク戦力とローテク戦力を
併せ持つ中国が世界を睥睨しているのである。サイバー時代においては、
先に攻撃する側が100%勝つのである。その時代に、専守防衛では日本は
自国を守れないであろう。
 
日米同盟はいまや、責任分担論が強調される。アメリカはかつてのアメ
リカとは異なる。国家基本問題研究所の太田文雄氏が問うた。

「仮にアメリカのトランプ政権が、ハイテクの宇宙・サイバー空間にお
ける脅威はアメリカが対処する。そこで責任分担で、ローテクの海上民兵
隊には日本が対応してほしい≠ニ言ってきたら、わが国はどうするので
しょうか」
 
日本を守る力は結局、日本が持っていなければ、国民も国土も守りきれ
ない。そのような事態が近い将来起きることは十分にあり得るのだ。
 
折りしも安倍晋三首相が自民党総裁として憲法改正論議に一石を投じ
た。この機会をとらえて、危機にまともに対処できる国に生れかわるべきだ。


2017年07月05日

◆間違いなく波紋呼ぶ韓国映画「軍艦島」

櫻井よしこ
 


「間違いなく波紋呼ぶ韓国映画「軍艦島」 闘い止めれば捏造された歴史
が定着する」

6月15日、映画監督、柳昇完(リュ・スンワン)氏がソウルで記者会見を
開いて映画「軍艦島」の完成を報告した。7月26日封切りと伝えられる同
作品の内容は、かねて日本側が懸念していたように強い反日要素満載のよ
うだ。

韓国紙「中央日報」は、同映画は「軍艦島に強制徴用された朝鮮人たちが
命がけで脱出を図ろうとする過程を描い」たと伝えた。柳氏は強制徴用さ
れた多くの朝鮮人の苦しみを「映画的想像力を加味し」「現在の韓国映画
で作りえる極限ラインに挑戦し」たと語る。

韓国外務省は同作品を韓国の総人口、5000万人中少なくとも1000万人に加
えて、広く国際社会の人々が見ると予測する。配給会社側は2000万人以上
の観客動員を目指すとし、韓国では、日本糾弾のためにも映画は「絶対に
ヒットさせなければならない」という声が上がっている。

周知のように軍艦島は長崎市にあり、「明治日本の産業革命遺産」として
世界文化遺産に登録された。韓国側が主張するような「多くの朝鮮人が強
制徴用された」事実も、朝鮮人を奴隷扱いし虐待した事実もない。

にもかかわらず、韓国側は軍艦島は朝鮮人労働者に奴隷労働と苛酷な死を
強いた島だという捏造話を喧伝し、国際社会にも流布してきた。そうした
情報に基づいて書かれた記事のひとつが「南ドイツ新聞」の2015年7月6日
の電子版記事である。

同記事は、(1)端島(軍艦島)では強制労働者が苦しめられた、(2)大
戦中、日本人労働者は安全な場所に移され、中国と韓国の強制労働者が働
かされた、(3)中国と韓国の強制労働者1000人以上が島で死んだ、(4)
死体は海や廃坑に捨てられた、などと報じている。

この記事を掲載した南ドイツ新聞に対して、かつて軍艦島で暮し、働いて
いた島民が「真実の歴史を追求する端島島民の会」を設立し、抗議の声を
上げた。今年1月23日のことだ。

「島民の会」の皆さんは多くが高齢者だ。炭坑が閉鎖され島が無人島にな
る1974年までそこに住んでいた。この方たちは、自らの体験と今も大事に
保存している資料などに基づいて正確に、旧島民の実生活を発信して誤解
を解きたいと願っている。

南ドイツ新聞に彼らは次のように書き送った。端島では、「朝鮮人も日本
国民として」「家族連れも単身者も同じコミュニティで仲良く暮してい
た」、「朝鮮の女性たちはチマチョゴリを着て、楽しく民族舞踊を踊っ
た」、「朝鮮人の子供も日本人の子供も一緒に机を並べ、学校生活を送っ
た」、さらに「炭坑内に入るときは、日本人坑夫だけの組や、日本人と朝
鮮人坑夫の混成組があった」、「中国人は石炭の積み出しなど坑外作業に
従事していた」、と。

そのうえで断言している。「旧島民の誰も反人道的な行為を見聞していな
い。端島に住んでいる日本人の婦人や子供らに知られずにそのような反人
道的行為をすることは、端島の狭さや居住環境等から見て絶対に不可能だ」。

南ドイツ新聞が報じた(1)は事実と異なる。第一、出身民族にかかわら
ず、全員にきちんと賃金が払われていた。(2)は根拠のない出鱈目。
(3)が事実なら日本人を含む当時の端島の全人口の4分の1が死亡したこ
とになる。島では一人の死さえ皆で悼んだ。「強制労働者1000人以上の
死」の根拠は示されず、(4)は実に悪質な虚構だ。

彼らは1か月以内に訂正記事の掲載を求めたが、5月23日の抗議からやがて
ひと月になろうとする6月21日現在、全く反応がない。

韓国映画「軍艦島」は間違いなく大きな波紋を呼ぶ。日本にとってはまさ
に「濡れ衣の夏」「地獄の夏」になるだろう。私たちは事実を示しつつ、
果敢に闘い続けるしかない。その努力をやめた途端に、捏造された歴史が
定着するからだ。外務省に闘う気はあるか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年7月1日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1188



2017年07月03日

◆情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国

櫻井よしこ



「情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国の現状を日本は注視すべき」

46年前の1971年に、東京・渋谷で沖縄返還協定反対デモがあり、警備に当
たった新潟県警の中村恒雄警部補、当時21歳が殺害された。「渋谷暴動事
件」である。その犯人と思われる大坂正明容疑者が6月7日、逮捕された。
実に46年間も逃げ続けていたのだ。
 
人々が忘れ去っても、ずっと事件を追い続けた公安と警察の働きがあって
初めて、大坂容疑者の逮捕となった。国や社会の安全は、このような地道
な息の長い努力によって守られていることを改めて認識する。
 
いま、欧州、中東、南アジアなどではテロが続発し、国内治安を守るのは
容易でない。国内の不穏な動きを厳しく監視できなければ、安全な国民生
活は守りきれないといってよい。
 
とりわけ南北に分断されている朝鮮半島では、韓国は北朝鮮の対南工作に
晒されてきた。他のどの国と較べても、国内治安維持のための監視体制が
必要な国だ。ところが、文在寅氏が大統領に就任して日も浅い6月1日、早
くも非常に憂うべき決定が下された。
 
国家情報院(国情院)を「改変」するというのだ。第一報を、私は6月5日
付の「産経新聞」櫻井紀雄記者による、ソウル発の記事によって知った。
国情院は北朝鮮の独裁政権から韓国を守るために、あらゆる謀略工作に目
を光らせる機関である。国家保安法を執行する、日本でいえば公安調査庁
と警察を合わせたような組織だ。

その国情院院長に就任した徐薫氏が、これまで、国情院のみならず各種の
機関で情報収集に当たってきた国内情報担当官(IO)制度の廃止を指示
したという。もし、実行されれば、日本でいえば公安調査庁、警察を筆頭
とする全情報機関の調査機能が一掃される事態が生ずる。

「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が語る。

「もし、そのようなことを実行したら、スパイ捜査もできなくなります。
全ての公安関係の組織活動が根底から切り崩されます。果たしてそんなこ
とができるのか、疑問です」
 
実は、金大中、盧武鉉、金泳三各氏ら歴代の左翼系大統領は皆同じ提案
をした。しかし、流石に国家の基盤である情報組織を解体することはでき
なかった。今回も同じ展開になるのではないかと、洪氏は見る。
 
一方で懸念すべきは、これまで北朝鮮の工作員など韓国に害をなすと思
われる勢力に向けられていた情報機関の活動が、逆に国民の方に、とりわ
け、保守勢力に向けられてくるのではないかということだ。洪氏の解説で
ある。

「日本からでは韓国の実態はわかりにくいかもしれません。朴槿恵前大統
領があっという間に弾劾、逮捕され、収監された背景を頭に入れておく必
要があります。民労総(全国民主労働組合総連盟)や全教組(全国教職員
労働組合)などの勢力が反朴運動を支えましたが、これらは日本の自治労
や日教組をもっとずっと激しい極左にしたような組織です。彼らの支持の
上に現在の文政権があるのです」
 
彼らは文氏も含めて、北朝鮮の破綻が明らかな現在も、金日成氏の主体
思想を信奉する人々である。
 
文氏は盧政権下の秘書室長(官房長官)だった。盧大統領は事実上、国
情院によって、北朝鮮に従う余り韓国を裏切ることになった行動を暴露さ
れている。今回の措置は、文氏が盧氏の失敗に学んで、まず、韓国内の情
報機関の潰滅を狙った可能性も考えられる。隣国の状況の深刻さが窺える。
 
こんなときこそ、日本国内の状況への目配りが重要だ。沖縄での反米軍基
地運動をはじめ、慰安婦問題で政府を追及する会合などが、日本各地で驚
くような頻度で開催されている。少なからぬ朝鮮半島の人々や中国人が参
加している。外国籍の運動家の、日本における政治活動の実態の危険度に
注視し、日本は韓国の現状から学びとるべきではないか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1186


          

2017年06月30日

◆沖縄の言論空間に八重山日報の新風

櫻井よしこ



長年、沖縄の言論空間は、地元の2紙、「琉球新報」と「沖縄タイムス」
によって歪められてきた。私は度々、両紙の目に余る偏向報道を批判して
きたが、その異様な状態に風穴を開けるべく、今年4月1日、「八重山日
報」が沖縄本島の新聞市場に参入した。

同紙は石垣島を中心とする八重山諸島で発行されてきた。現在、「産経新
聞」の記事を大幅に取り入れて2大紙とは対照的な8頁立ての小振りな新聞
として発行中だ。八重山日報が沖縄本島で定着すれば、沖縄の言論空間が
よりまともになることも期待できる。そこで目下の目標は、今年中に沖縄
本島で5000部の契約を獲得することだそうだ。5月末までの2か月で購読は
約2000部を超え、県民の受けはよいという。

「那覇で八重山日報を読めて本当に嬉しい、こんな新聞を待っていた、こ
れで元気になれると言って下さる人が後を絶ちません」と、八重山日報社
長の宮良薫氏が語る。

活発な言論活動を展開中の我那覇真子さんも、なぜ沖縄県民が「八重山日
報」を歓迎するのかを語った。

彼女は、6月14日にスイス・ジュネーブの国連人権理事会で、「沖縄の人
権と表現の自由が、外からやって来た基地反対活動家や共産革命主義者、
さらには偏向したメディアによって脅かされています」と報告した。シン
ポジウムでは「(国連などで、日本政府に弾圧されていると訴え)被害者
のふりをしている人たちが、本当は加害者です」と、反基地派への批判も
した。
 
信用すべき沖縄のメディアは2大紙か八重山日報か、それを知るには国連
人権理事会で日本政府を批判した特別報告者、デビッド・ケイ氏の演説を
各紙がどう報じたかを見るべきだと、我那覇さんは強調した。

「約15分の演説でケイ氏が沖縄に触れたのは4秒間。激しい論争になって
いる場所でのデモ活動が、『たとえば沖縄のように、制限されているよう
に思う』という部分です。この演説を正確に伝えたのは八重山日報だけで
した。琉球新報も沖縄タイムスも、国連のイメージを利用して自分たちの
主張である日本政府非難を強調したにすぎません」

記者クラブ制度を批判

ケイ氏は沖縄ではデモ活動が制限されていると報告したが、沖縄では事あ
るごとに大規模なデモが行われてきた。那覇の米軍基地正門前では常に反
米軍基地派がデモをし、辺野古では暴力沙汰も珍しくない。沖縄ではデモ
は禁止などという批判が当たらないのは明らかだ。

そこで我那覇さんは演説後、ケイ氏に沖縄に行ったことはあるかと問うた。

「一度もないと、ケイ氏は答えました。それなのになぜ『たとえば沖縄の
ように』などと、恰(あたか)も沖縄を見てきたように言うのか。そこでま
た尋ねました。これから行く予定はあるか、と。今後も行く予定はない
と、彼は答えました」

このようなことも含めて、全体像を詳しく報道したのは八重山日報だけ
だった。対照的に2大紙は、ケイ氏が「16分の演説の中で沖縄にも触れ」
たと報じたが、それがわずか4秒だったことや、氏が一度も沖縄を訪れて
いないことなどは、全く報じていない。ついでに言えば、2大紙は我那覇
さんの演説もシンポジウムでの発言も報じていない。彼らが詳報したの
は、ケイ氏の日本政府批判である。

そうした中、噴飯物だったのは、沖縄タイムスによるケイ氏への取材記事
だ。その中でケイ氏が次のように記者クラブ制度を批判している。

「政府が気に入ったメディアに情報を提供し、独立メディアを排除すると
いう問題点がある」

日本の記者クラブ制度はメディアが創ったものだ。現在は外国人記者にも
雑誌記者にも開放されているが、かつてはメディア側が、記者クラブに加
入できるメディア、できないメディアを選んでおり、極めて排他的だっ
た。主役は大新聞やテレビ局であり、外国人記者も雑誌もお呼びではな
かった。

従って、記者クラブ批判はメディアに向けるべきで、政府にではない。お
門違いの日本政府批判は、ケイ氏が日本の記者クラブ制度の歴史や構図を
理解していないからであろう。

それを沖縄タイムスがそのまま報じたのは無知ゆえではないだろう。彼ら
もメディアの一員であるからには、記者クラブについて知らないはずがな
いからだ。であれば、ケイ氏の発言が日本政府批判であったために見逃し
たのだろうか。

同紙の6月14日の社説にも驚いた。日本政府がケイ氏に反論したことに関
して、「1930年代のリットン調査団への抗議を彷彿させる」と書いている。

2大紙の圧力

満州事変に関連して、国際連盟は米英仏独伊の55国からなるリットン調
査団を派遣、彼らは約8か月かけて、日本と中国でおよそすべての関係者
と面談して報告書をまとめた。日本批判の内容だと思われがちだが、実は
満州国に関して日本の立場を驚くほど認めている。

沖縄に行ったことのないケイ氏が沖縄について4秒間語った報告を権威づ
け、利用したいために、社説子はケイ報告をリットン報告書と並べたの
か。教養不足か偏見か。いずれにしても、この種の比較をする論説は全く
信用できない。

我那覇さんは問うているのだ。全体像を伝えようとする八重山日報と、自
分たちの主張したいことだけを強調する沖縄タイムスの、どちらが公平・
公正かと。

より公正なのは明らかに八重山日報だ。だが同紙は、その後伸び悩んでい
る。配達要員不足、販売店不足、沖縄紙に欠かせない「お悔やみ情報」の
欠落などに加えて、2大紙の圧力があると思われる。宮良氏が語った。

「販売店に『八重山日報を配達することを禁じます』という通達書が配ら
れたのです。これをやられたら、我々は本当にきつい。ただ明らかに独禁
法違反ですから、公正取引委員会が、通達書を出した沖縄タイムスに調査
に入りました。沖縄タイムスは慌てて通達書を回収しました」

国際社会に向かって、日本政府が沖縄に圧力をかけ続けていると訴えてき
た沖縄タイムスが、足下では弱小新聞社に違法に圧力をかけている。欺瞞
そのものではないか。

新聞社の貴重な収入源のひとつ、折り込み広告がどこかで止められている
疑いについても宮良氏が語る。

「我々の営業力不足かもしれませんが、4月1日から今日まで、折り込み広
告が1件もないのです」

沖縄における熾烈なメディア戦争の行方は、日本の国家としての在り方に
も深刻な影響を及ぼす。事実を基に全体像を伝えるメディアこそ必要な
今、偏向報道をやめず、公正な競争原理をも踏みにじる沖縄タイムスに断
固、抗議するものだ。

『週刊新潮』2017年6月29日号  日本ルネッサンス 第759回 

2017年06月29日

◆米国防総省の報告に見る中国の脅威

櫻井よしこ



米国防総省が6月6日、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書を発表し
た。海洋、宇宙、核、サイバー空間の4分野を軍事戦略の要として、中国
が世界最強の国を目指して歩み続ける姿を描き、警告を発している。
 
報告書は、中国の目標が米国優位の現状を打ち砕くことだと分析し、その
ために中国は、サイバー攻撃によって、軍事技術をはじめ自国で必要とす
る広範な技術の窃取を行い、知的財産盗取を目的とする外国企業への投資
や、中国人による民間企業での技術の盗み取りなどを続けていると、驚く
ほど率直に告発している。
 
この件に関して興味深い統計がある。中国政府は長年、経済発展を支える
イノベーション重視政策を掲げてきた。2001年から複数回の5か年計画を
策定し、研究開発費をGDP比で20年までに2・5%に引き上げようとして
きた。だが、目標は一度も達成されていない。理由は、彼らが必要な知的
財産を常に他国から盗み取ることで目的を達成してきたために、自ら研究
開発する風土がないからだとされている。
 
ただ、どのような手段で技術を入手したかは別にして、中国が尋常ならざ
る戦力を構築しているのは明らかだ。中国は世界で初めて宇宙軍を創設し
た国だ。米国家情報長官のダニエル・コーツ氏は今年5月、「世界の脅威
評価」で、ロシアと中国はアメリカの衛星を標的とする兵器システム構築
を宇宙戦争時代の重要戦略とするだろうと報告している。
 
15年末に、中国は「戦略支援部隊」を創設したが、それはサイバー空間と
宇宙とにおける中国の軍事的優位を勝ち取るための部隊だと分析されている。
 
国防総省の報告書は、中国を宇宙全体の支配者へと押し上げかねない量
子衛星の打ち上げに関しても言及しているのだ。

大中華帝国の創造
 
昨年、中国は宇宙ロケットを22回打ち上げ、21回成功した。そのひとつが
世界初の量子科学実験衛星の打ち上げだった。量子通信は盗聴や暗号の解
読がほぼ困難な極めて高い安全性が保証される通信である。「仮に通信傍
受を試みたり、通信内容を書き換えようとすると、通信内容自体が崩
壊≠キる。理論的にハッキングはまず不可能」(産経ニュース16年9月3
日)だと解説されている。
 
量子衛星打ち上げの成功で、地球を包み込んでいる広大な宇宙を舞台にし
た交信では、どの国も中国の通信を傍受できないのである。
 
中国は07年に地上発射のミサイルで高度860`の自国の古い気象衛星を破
壊してみせた。攻撃能力を世界に知らしめたのだ。衛星破壊をはじめとす
る中国の攻撃の狙いは、「敵の目と耳を利かなくする」こと。違法なハッ
キングで世界中の技術を盗んできた中国が、選りに選って絶対にハッキン
グされない技術を持てば、世界を支配する危険性さえ現実化する。
 
中国は現在独自の宇宙ステーションを構築中だが、来年には主要なモ
ジュールの打ち上げが続く見込みだ。東京五輪の2年後には、中国だけの
宇宙ステーションが完成すると見られる。さらに、中国は月に基地をつく
る計画で、月基地の完成は27年頃と発表されている。習近平氏の「中国の
夢」は、21世紀の中華思想の確立であり、宇宙にまで版図を広げる大中華
帝国の創造ではないのか。
 
中国の遠大な野望の第一歩は、台湾の併合である。その台湾に、国防総省
報告は多くの頁を割いた。「台湾有事のための戦力近代化」(Force
Modernization for a Taiwan Contingency)という章題自体が、十分注目
に値する強いタイトルだ。付録として中国と台湾の戦力比較が3頁も続い
ている。
 
台湾と中国の軍事力は比較にならない。中国の優位は明らかであり、将来
も楽観できない。たとえば現在、台湾は21万5000人規模の軍隊を有する
が、2年後には全員志願兵からなる17万5000人規模の軍隊を目指してい
る。しかし、この縮小した規模も志願兵不足で達成できないだろうと見ら
れている。他方、中国は台湾海峡だけで19万人の軍を配備しており、人民
解放軍全体で見れば230万人の大軍隊である。
 
台湾、南シナ海、そして東シナ海を念頭に、中国は非軍事分野での戦力、
具体的にはコーストガード(海警局)や海上民兵隊の増強にも力を入れて
きた。
 
10年以降、中国のコーストガードは1000d以上の大型船を60隻から130隻
に増やした。新造船はすべて大型化し、1万dを優に超える船が少なくと
も10隻ある。大型船はヘリ搭載機能、高圧放水銃、30_から76_砲を備え
ており、軍艦並みの機能を有し、長期間の海上展開にも耐えられる。
 
ちなみに1000d以上の大型船を130隻も持つコーストガードは世界で中国
だけだと、国防総省報告は指摘する。海警局は、もはや海軍そのものだ。

ローテクの海上民兵隊
 
海警局とは別に海上民兵隊も能力と規模の強化・拡大を続けている。事態
を戦争にまで悪化させずに、軍隊と同じ効果を発揮して、海や島を奪うの
が海上民兵隊である。
 
彼らは人民解放軍海軍と一体化して、ベトナムやフィリピンを恫喝する。
16年夏には日本の尖閣諸島周辺にまで押し寄せた。国防総省報告は、この
海上民兵隊に重要な変化が表れていることを指摘する。かつて海上民兵隊
は漁民や船会社から船を賃借していた。それがいま、南シナ海に面する海
南省が、84隻にも上る大型船を海上民兵隊用として発注した。独自の船を
大量に建造しているのだ。
 
海上民兵隊は南シナ海を越えて尖閣諸島や東シナ海、さらには小笠原諸
島、太平洋海域にも侵出してくる。
 
宇宙軍と量子衛星、そして海上民兵隊。ハイテク戦力とローテク戦力を併
せ持つ中国が世界を睥睨しているのである。サイバー時代においては、先
に攻撃する側が100%勝つのである。その時代に、専守防衛では日本は自
国を守れないであろう。
 
日米同盟はいまや、責任分担論が強調される。アメリカはかつてのアメリ
カとは異なる。国家基本問題研究所の太田文雄氏が問うた。

「仮にアメリカのトランプ政権が、ハイテクの宇宙・サイバー空間にお
ける脅威はアメリカが対処する。そこで責任分担で、ローテクの海上民兵
隊には日本が対応してほしい≠ニ言ってきたら、わが国はどうするので
しょうか」
 
日本を守る力は結局、日本が持っていなければ、国民も国土も守りきれ
ない。そのような事態が近い将来起きることは十分にあり得るのだ。
 
折りしも安倍晋三首相が自民党総裁として憲法改正論議に一石を投じ
た。この機会をとらえて、危機にまともに対処できる国に生れかわるべきだ。

『週刊新潮』 2017年6月22日  日本ルネッサンス 第758回

2017年06月27日

◆民進党こそが政局に動き良識を捨てた

櫻井よしこ



「テロ等準備罪の成立へ強硬に反対した民進党こそが政局に動き良識を捨
てた」

この原稿を執筆中の6月15日未明、国会ではまだ、与野党が「テロ等準備
罪」を巡って攻防を続けている。14日夜、参議院では自民党議員らが本会
議場に入ろうとするのを、福島みずほ氏ら野党議員が廊下に立ち塞がる形
で妨げようとしていた。複数の民進党議員らが、テレビカメラを意識して
か、強硬な反対の意思を厳しい表情に表していた。

民進党の未来を担うこれら若手政治家の、テロ等準備罪に反対して仁王立
ちになっている姿を見るのは本当に残念だ。本欄でも取り上げたことがあ
るが、11年前、民主党(現民進党)は、現在の法案の素となった「共謀
罪」に次に示すような厳しい注文をつけた。

(1)対象となる犯罪を政府案の619から306に絞りこむこと、(2)取り
締まる対象を単なる「団体」から「組織的犯罪集団」に改めること、
(3)犯罪実行のための「予備行為」を処罰の要件とすること、の3点で
ある。

私は当時、右の民主党修正案を評価し、自民党に丸ごと受け入れるよう求
めた。今日15日に成立する「テロ等準備罪」は民主党修正案をほぼそのま
ま受け入れている。にもかかわらず、彼らはいまも、戦前の治安維持法を
引き合いに出し、「普通の人々が監視され、次々と引っ張られた。同じ事
を繰り返してはならない」などと極論で世論を煽る。或いは与党の手法が
強引だと論難する。

私たちはここで、約2年前の「平和安全法制」を巡る議論を思い返すべき
だ。民主党ら野党は国会の外に飛び出し、デモ隊と一緒に「戦争法案だ」
「人殺しの法案だ」と叫んだ。

法案は成立して法となった。いま、北朝鮮有事が起きたと仮定すれば、自
衛隊は同法に基づいて横田めぐみさんら拉致されている人々の救出に向か
う。だが、断言してもよい。実際には自衛隊は何もできないだろう。

なぜか。まず、自衛隊が救出に向かうには、当該国政府の同意が必要とい
う条件がつけられている。北朝鮮は何十年も拉致被害者を拘束してきたに
もかかわらず、拉致被害者はもういない、或いは死亡してしまったと主張
している。自衛隊が拉致被害者救出のために北朝鮮に入ることを彼らが了
承することなどあり得ないだろう。従ってこの条件は決して満たされず、
自衛隊は動けない。

条件の第2点は、「当該国」つまり北朝鮮の治安が維持されていて自衛隊
が戦闘に巻き込まれないことが保証されなければならないという点だ。

自衛隊出動の可能性があるのは北朝鮮の現体制が大きく揺らぐときだ。韓
国軍、或いは米軍も中国軍もすでに展開中かもしれず、戦争状態だろう。
だからこそ、日本人救出には自衛隊が行かなければならない。にもかかわ
らず、北朝鮮の治安が維持されていない限り、自衛隊の展開は許されない
というのであれば、自衛隊は動けない。

第3の条件はもっと噴飯ものだ。自衛隊の展開には当該国(北朝鮮)の国
軍や警察との連携が必要だというのだ。

参議院議員の青山繁晴氏が語った。

「自衛隊の出動は韓米軍が北朝鮮と戦争状態になっているなど、尋常では
ない状況下ですよ。米軍と戦っている北朝鮮の軍や警察と、日本の自衛隊
がどうやって連携できるのか。こんな非現実な酷い条件がつけられている
のが安保法制です」

ここまで自衛隊を縛る条件付きでも民進党は「人殺し法案」だと反対し
た。拉致被害者とその家族に思いを致さないのか。

午前六時、まもなくテロ等準備罪の成立だと、テレビのニュースが伝えて
いる。「参議院は良識の府としての良識を捨てた」と蓮舫氏が批判してい
た。加計学園問題を材料に、それとは本質的に無関係の重要法案阻止で政
局に動いた民進党こそ、良識を捨てたのではないのか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1187


2017年06月25日

◆民進党こそが政局に動き良識を捨てた 

櫻井よしこ



「テロ等準備罪の成立へ強硬に反対した民進党こそが政局に動き良識を捨
てた」

この原稿を執筆中の6月15日未明、国会ではまだ、与野党が「テロ等準備
罪」を巡って攻防を続けている。14日夜、参議院では自民党議員らが本会
議場に入ろうとするのを、福島みずほ氏ら野党議員が廊下に立ち塞がる形
で妨げようとしていた。複数の民進党議員らが、テレビカメラを意識して
か、強硬な反対の意思を厳しい表情に表していた。

民進党の未来を担うこれら若手政治家の、テロ等準備罪に反対して仁王立
ちになっている姿を見るのは本当に残念だ。本欄でも取り上げたことがあ
るが、11年前、民主党(現民進党)は、現在の法案の素となった「共謀
罪」に次に示すような厳しい注文をつけた。

(1)対象となる犯罪を政府案の619から306に絞りこむこと、(2)取り
締まる対象を単なる「団体」から「組織的犯罪集団」に改めること、
(3)犯罪実行のための「予備行為」を処罰の要件とすること、の3点で
ある。

私は当時、右の民主党修正案を評価し、自民党に丸ごと受け入れるよう求
めた。今日15日に成立する「テロ等準備罪」は民主党修正案をほぼそのま
ま受け入れている。にもかかわらず、彼らはいまも、戦前の治安維持法を
引き合いに出し、「普通の人々が監視され、次々と引っ張られた。同じ事
を繰り返してはならない」などと極論で世論を煽る。或いは与党の手法が
強引だと論難する。

私たちはここで、約2年前の「平和安全法制」を巡る議論を思い返すべき
だ。民主党ら野党は国会の外に飛び出し、デモ隊と一緒に「戦争法案だ」
「人殺しの法案だ」と叫んだ。

法案は成立して法となった。いま、北朝鮮有事が起きたと仮定すれば、自
衛隊は同法に基づいて横田めぐみさんら拉致されている人々の救出に向か
う。だが、断言してもよい。実際には自衛隊は何もできないだろう。

なぜか。まず、自衛隊が救出に向かうには、当該国政府の同意が必要とい
う条件がつけられている。北朝鮮は何十年も拉致被害者を拘束してきたに
もかかわらず、拉致被害者はもういない、或いは死亡してしまったと主張
している。自衛隊が拉致被害者救出のために北朝鮮に入ることを彼らが了
承することなどあり得ないだろう。従ってこの条件は決して満たされず、
自衛隊は動けない。

条件の第2点は、「当該国」つまり北朝鮮の治安が維持されていて自衛隊
が戦闘に巻き込まれないことが保証されなければならないという点だ。

自衛隊出動の可能性があるのは北朝鮮の現体制が大きく揺らぐときだ。韓
国軍、或いは米軍も中国軍もすでに展開中かもしれず、戦争状態だろう。
だからこそ、日本人救出には自衛隊が行かなければならない。にもかかわ
らず、北朝鮮の治安が維持されていない限り、自衛隊の展開は許されない
というのであれば、自衛隊は動けない。

第3の条件はもっと噴飯ものだ。自衛隊の展開には当該国(北朝鮮)の国
軍や警察との連携が必要だというのだ。

参議院議員の青山繁晴氏が語った。

「自衛隊の出動は韓米軍が北朝鮮と戦争状態になっているなど、尋常では
ない状況下ですよ。米軍と戦っている北朝鮮の軍や警察と、日本の自衛隊
がどうやって連携できるのか。こんな非現実な酷い条件がつけられている
のが安保法制です」

ここまで自衛隊を縛る条件付きでも民進党は「人殺し法案」だと反対し
た。拉致被害者とその家族に思いを致さないのか。

午前六時、まもなくテロ等準備罪の成立だと、テレビのニュースが伝えて
いる。「参議院は良識の府としての良識を捨てた」と蓮舫氏が批判してい
た。加計学園問題を材料に、それとは本質的に無関係の重要法案阻止で政
局に動いた民進党こそ、良識を捨てたのではないのか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1187


2017年06月23日

◆米国防総省の報告に見る中国の脅威

櫻井よしこ



米国防総省が6月6日、「中国の軍事情勢」に関する年次報告書を発表し
た。海洋、宇宙、核、サイバー空間の4分野を軍事戦略の要として、中国
が世界最強の国を目指して歩み続ける姿を描き、警告を発している。
 
報告書は、中国の目標が米国優位の現状を打ち砕くことだと分析し、その
ために中国は、サイバー攻撃によって、軍事技術をはじめ自国で必要とす
る広範な技術の窃取を行い、知的財産盗取を目的とする外国企業への投資
や、中国人による民間企業での技術の盗み取りなどを続けていると、驚く
ほど率直に告発している。
 
この件に関して興味深い統計がある。中国政府は長年、経済発展を支える
イノベーション重視政策を掲げてきた。2001年から複数回の5か年計画を
策定し、研究開発費をGDP比で20年までに2・5%に引き上げようとして
きた。だが、目標は一度も達成されていない。理由は、彼らが必要な知的
財産を常に他国から盗み取ることで目的を達成してきたために、自ら研究
開発する風土がないからだとされている。
 
ただ、どのような手段で技術を入手したかは別にして、中国が尋常ならざ
る戦力を構築しているのは明らかだ。中国は世界で初めて宇宙軍を創設し
た国だ。米国家情報長官のダニエル・コーツ氏は今年5月、「世界の脅威
評価」で、ロシアと中国はアメリカの衛星を標的とする兵器システム構築
を宇宙戦争時代の重要戦略とするだろうと報告している。
 
15年末に、中国は「戦略支援部隊」を創設したが、それはサイバー空間と
宇宙とにおける中国の軍事的優位を勝ち取るための部隊だと分析されている。
 
国防総省の報告書は、中国を宇宙全体の支配者へと押し上げかねない量
子衛星の打ち上げに関しても言及しているのだ。

大中華帝国の創造

昨年、中国は宇宙ロケットを22回打ち上げ、21回成功した。そのひとつ
が世界初の量子科学実験衛星の打ち上げだった。量子通信は盗聴や暗号の
解読がほぼ困難な極めて高い安全性が保証される通信である。「仮に通信
傍受を試みたり、通信内容を書き換えようとすると、通信内容自体が崩
壊≠キる。理論的にハッキングはまず不可能」(産経ニュース16年9月3
日)だと解説されている。
 
量子衛星打ち上げの成功で、地球を包み込んでいる広大な宇宙を舞台にし
た交信では、どの国も中国の通信を傍受できないのである。
 
中国は07年に地上発射のミサイルで高度860`の自国の古い気象衛星を破
壊してみせた。攻撃能力を世界に知らしめたのだ。衛星破壊をはじめとす
る中国の攻撃の狙いは、「敵の目と耳を利かなくする」こと。違法なハッ
キングで世界中の技術を盗んできた中国が、選りに選って絶対にハッキン
グされない技術を持てば、世界を支配する危険性さえ現実化する。
 
中国は現在独自の宇宙ステーションを構築中だが、来年には主要なモ
ジュールの打ち上げが続く見込みだ。東京五輪の2年後には、中国だけの
宇宙ステーションが完成すると見られる。さらに、中国は月に基地をつく
る計画で、月基地の完成は27年頃と発表されている。習近平氏の「中国の
夢」は、21世紀の中華思想の確立であり、宇宙にまで版図を広げる大中華
帝国の創造ではないのか。
 
中国の遠大な野望の第一歩は、台湾の併合である。その台湾に、国防総省
報告は多くの頁を割いた。「台湾有事のための戦力近代化」(Force
Modernization for a Taiwan Contingency)という章題自体が、十分注目
に値する強いタイトルだ。付録として中国と台湾の戦力比較が3頁も続い
ている。
 
台湾と中国の軍事力は比較にならない。中国の優位は明らかであり、将来
も楽観できない。たとえば現在、台湾は21万5000人規模の軍隊を有する
が、2年後には全員志願兵からなる17万5000人規模の軍隊を目指してい
る。しかし、この縮小した規模も志願兵不足で達成できないだろうと見ら
れている。他方、中国は台湾海峡だけで19万人の軍を配備しており、人民
解放軍全体で見れば230万人の大軍隊である。
 
台湾、南シナ海、そして東シナ海を念頭に、中国は非軍事分野での戦力、
具体的にはコーストガード(海警局)や海上民兵隊の増強にも力を入れて
きた。
 
10年以降、中国のコーストガードは1000d以上の大型船を60隻から130隻
に増やした。新造船はすべて大型化し、1万dを優に超える船が少なくと
も10隻ある。大型船はヘリ搭載機能、高圧放水銃、30_から76_砲を備え
ており、軍艦並みの機能を有し、長期間の海上展開にも耐えられる。
 
ちなみに1000d以上の大型船を130隻も持つコーストガードは世界で中国
だけだと、国防総省報告は指摘する。海警局は、もはや海軍そのものだ。

ローテクの海上民兵隊
 
海警局とは別に海上民兵隊も能力と規模の強化・拡大を続けている。事態
を戦争にまで悪化させずに、軍隊と同じ効果を発揮して、海や島を奪うの
が海上民兵隊である。
 
彼らは人民解放軍海軍と一体化して、ベトナムやフィリピンを恫喝する。
16年夏には日本の尖閣諸島周辺にまで押し寄せた。国防総省報告は、この
海上民兵隊に重要な変化が表れていることを指摘する。かつて海上民兵隊
は漁民や船会社から船を賃借していた。それがいま、南シナ海に面する海
南省が、84隻にも上る大型船を海上民兵隊用として発注した。独自の船を
大量に建造しているのだ。
 
海上民兵隊は南シナ海を越えて尖閣諸島や東シナ海、さらには小笠原諸
島、太平洋海域にも侵出してくる。
 
宇宙軍と量子衛星、そして海上民兵隊。ハイテク戦力とローテク戦力を併
せ持つ中国が世界を睥睨しているのである。サイバー時代においては、先
に攻撃する側が100%勝つのである。その時代に、専守防衛では日本は自
国を守れないであろう。
 
日米同盟はいまや、責任分担論が強調される。アメリカはかつてのアメリ
カとは異なる。国家基本問題研究所の太田文雄氏が問うた。

「仮にアメリカのトランプ政権が、ハイテクの宇宙・サイバー空間にお
ける脅威はアメリカが対処する。そこで責任分担で、ローテクの海上民兵
隊には日本が対応してほしい≠ニ言ってきたら、わが国はどうするので
しょうか」
 
日本を守る力は結局、日本が持っていなければ、国民も国土も守りきれな
い。そのような事態が近い将来起きることは十分にあり得るのだ。
 
折りしも安倍晋三首相が自民党総裁として憲法改正論議に一石を投じた。
この機会をとらえて、危機にまともに対処できる国に生れかわるべきだ。

『週刊新潮』 2017年6月22日号 日本ルネッサンス 第758回


2017年06月21日

◆世界の安定剤、マティス長官の安全観

櫻井よしこ



毎年シンガポールで開催される「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダ
イアローグ)」は、世界の安全保障戦略で何が一番の問題になっているか
を知り、大国の思惑がどのように交錯しているかを知る、極めて有意義な
場である。今年は米国防長官、ジェームズ・マティス氏が演説を行った。
 
トランプ大統領が、ロシア問題で追及され、身内のジャレッド・クシュ
ナー大統領上級顧問までもが疑惑を取り沙汰されている。そうした中、軍
人として培った揺るぎない安全保障観を披露したマティス国防長官は、国
際社会の安定装置として機能しているかのようだ。
 
6月3日に行われた氏の演説の内容は予想を超える率直さだった。敢えてポ
イントを2つに絞れば、➀アジアの同盟諸国への固い絆の再確認、➁中国に
は断固たる姿勢を取る、ということになるだろう。
 
まず、アジアの安全保障についてマティス氏は、アメリカが如何に国際法
順守を重視しているかを強調した。
 
アジアの安全保障が国際法に基づいて担保されるべきだとの考えは、世界
恐慌とそれに続く第二次世界大戦の凄まじい体験から学びとった教訓だ
と、マティス氏は強調する。氏は演説で人類の戦いの歴史にさり気なく触
れたが、蔵書6000冊を有し、その大半が戦史に関する著作だといわれる氏
の、国家と国家の摩擦としての戦いや、その対処の原理についての、奥深
い理解を感じさせる。
 
氏は語っている。国の大小、その貧富に拘らず、国際法は公平に適用され
るべし、と。海の交通路は全ての国々に常に開かれ、航行及び飛行の自由
が保たれるべきだという価値観は、時代を通して守られてきたとマティス
氏は語る。その自由で開かれた世界を、アメリカはこれからも担保するの
だと。
 
同じ趣旨を、表現を変えながら、マティス氏は繰り返した。講演録を読む
と、国際法の重要性を説いた段落が幾つも続いている。

「航行の自由」作戦
 
それらの発言が中国に向けられているのは明らかである。マティス氏がこ
れ程、或る意味で執拗に、国際法や航行の自由について語ったのは、アメ
リカは北朝鮮問題で中国に協力を求めても、南シナ海、東シナ海、台湾な
どの他の重要な地域問題で従来の基本的立場を譲るつもりは全くないと示
しているのである。マティス氏は、中国について前向きに丁寧に言及しな
がらも、要所要所で釘をさしている。

「トランプ政権は、朝鮮半島の非核化に向けての国際社会の努力に中国が
コミットメントを再確認したことに安堵している」「(4月の米中首脳会
談で)習近平主席は、全ての関係国が各々の責任を果たせば、朝鮮半島の
核の問題は解決されるはずだと語った」と、紹介したうえで、マティス氏
は述べた。

「自分は習近平主席に全く同意する。大事なのは、そうした言葉は行動に
よって本物であることが確認されなくてはならないということだ」
 
中国に強い口調で迫っているのである。中国よ、言葉はもういい。実行に
よって証明せよ、制裁を強化せよと要求しているのである。
 
約30分の演説の中で、マティス氏は南シナ海の問題についても、中国の
建設した人工島を批判しながら言及した。主旨は、➀中国の行動は国際社
会の利益を侵し、ルールに基づく秩序を揺るがすもので、受け入れること
はできない。➁人工島の建設とその軍事化は地域の安定を損ねる。
 
氏の一連の発言に、質疑応答で、多くの質問者が率直な謝意を表した。国
防長官の発言は「希望をもたらす」とまでコメントした人がいた。膨張す
る中国が恐れられ、嫌われているのとは対照的に、強いアメリカが望まれ
ているということだ。
 
トランプ政権発足以来約4か月が過ぎた5月下旬、ようやく南シナ海で「航
行の自由」作戦を行った。北朝鮮問題で中国に配慮して南シナ海とバー
ターするのではないかという懸念の声さえささやかれていたときに行われ
た「航行の自由」作戦は、オバマ政権のときには見られなかったアメリカ
の断固たる意志を示すものだった。
 
スプラトリー諸島のミスチーフ礁に建設された人工島の近く、中国が自国
の領海だと主張している12カイリ内の海で、「航行の自由」作戦は、中国
への「事前通告」なしに行われた。オバマ政権時代に4回行われた「航行
の自由」作戦と、今回のそれには全く異なる意味があった。今回は、通常
は公海で行う海難救助訓練を行ったのだ。

「米中接近」はない
 
中国の主張など全く認めないという姿勢を示したのだが、この訓練には中
国も反対しづらい。なぜなら、それは「人道的な」海難救助だったからだ。
 
非常に慎重に考え抜かれた緻密な作戦を決行したことでアメリカは、人工
島を建設しても中国は領海を拡大することはできないと示したのだ。アメ
リカの考えは、まさに常設仲裁裁判所がフィリピン政府の訴えに対して出
した答えと同じものだった。
 
もうひとつ、非常に大きな意味を持っているのが、マティス氏がパート
ナー国との関係を継続していくとする中で、インド、ベトナムなどに続い
て台湾に触れたことだ。

「国防総省は台湾及びその民主的な政府との揺るぎない協力を継続し、台
湾関係法の義務に基づいて、台湾に必要な防衛装備を提供する」と、マ
ティス氏は語った。
 
トランプ大統領が北朝鮮の核及びミサイル問題で中国に配慮する余り、南
シナ海や台湾への配慮が薄れて、台湾も事実上見捨てられるのではないか
という懸念さえ、生れていた。そのような疑念をマティス氏の発言はさっ
と拭い去った。
 
米国防長官としては異例のこの発言と、それを支える戦略的思考が、ト
ランプ政権の主軸である限り、台湾や日本にとっての悪夢、「米中接近」
はないと見てよいだろう。
 
会場の中国軍人が直ちに質問した。「中国はひとつ」という米中間の合
意を覆すのかと。マティス氏は「ひとつの中国」政策に変更はないと答え
たが、蔡英文総統は独立志向が高いと見て、台湾に軍事的圧力を強めるよ
うなことは、アメリカが許さないという強いメッセージを送ったというこ
とだ。
 
アメリカの政策は読み取りにくい。マティス発言に喜び、トランプ発言に
不安を抱く。トランプ氏は基本的にマティス氏らの進言を受け入れている
かに見えるが、究極のところはわからない。だが、マティス氏ら手練れの
兵(つわもの)が政権中枢にいる間に、わが国は急いで憲法改正などを通
して、国の在り方を変えなければならないと、心から思う。

『週刊新潮』 2017年6月15日号  日本ルネッサンス 第757回



2017年06月20日

◆情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国

櫻井よしこ

 

「情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国の現状を日本は注視すべき」

46年前の1971年に、東京・渋谷で沖縄返還協定反対デモがあり、警備に当
たった新潟県警の中村恒雄警部補、当時21歳が殺害された。「渋谷暴動事
件」である。その犯人と思われる大坂正明容疑者が6月7日、逮捕された。
実に46年間も逃げ続けていたのだ。
 
人々が忘れ去っても、ずっと事件を追い続けた公安と警察の働きがあって
初めて、大坂容疑者の逮捕となった。国や社会の安全は、このような地道
な息の長い努力によって守られていることを改めて認識する。
 
いま、欧州、中東、南アジアなどではテロが続発し、国内治安を守るのは
容易でない。国内の不穏な動きを厳しく監視できなければ、安全な国民生
活は守りきれないといってよい。
 
とりわけ南北に分断されている朝鮮半島では、韓国は北朝鮮の対南工作に
晒されてきた。他のどの国と較べても、国内治安維持のための監視体制が
必要な国だ。ところが、文在寅氏が大統領に就任して日も浅い6月1日、早
くも非常に憂うべき決定が下された。
 
国家情報院(国情院)を「改変」するというのだ。第一報を、私は6月5
日付の「産経新聞」櫻井紀雄記者による、ソウル発の記事によって知っ
た。国情院は北朝鮮の独裁政権から韓国を守るために、あらゆる謀略工作
に目を光らせる機関である。国家保安法を執行する、日本でいえば公安調
査庁と警察を合わせたような組織だ。

その国情院院長に就任した徐薫氏が、これまで、国情院のみならず各種の
機関で情報収集に当たってきた国内情報担当官(IO)制度の廃止を指示
したという。もし、実行されれば、日本でいえば公安調査庁、警察を筆頭
とする全情報機関の調査機能が一掃される事態が生ずる。

「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が語る。

「もし、そのようなことを実行したら、スパイ捜査もできなくなります。
全ての公安関係の組織活動が根底から切り崩されます。果たしてそんなこ
とができるのか、疑問です」
 
実は、金大中、盧武鉉、金泳三各氏ら歴代の左翼系大統領は皆同じ提案を
した。しかし、流石に国家の基盤である情報組織を解体することはできな
かった。今回も同じ展開になるのではないかと、洪氏は見る。
 
一方で懸念すべきは、これまで北朝鮮の工作員など韓国に害をなすと思わ
れる勢力に向けられていた情報機関の活動が、逆に国民の方に、とりわ
け、保守勢力に向けられてくるのではないかということだ。洪氏の解説で
ある。

「日本からでは韓国の実態はわかりにくいかもしれません。朴槿恵前大統
領があっという間に弾劾、逮捕され、収監された背景を頭に入れておく必
要があります。民労総(全国民主労働組合総連盟)や全教組(全国教職員
労働組合)などの勢力が反朴運動を支えましたが、これらは日本の自治労
や日教組をもっとずっと激しい極左にしたような組織です。彼らの支持の
上に現在の文政権があるのです」
 
彼らは文氏も含めて、北朝鮮の破綻が明らかな現在も、金日成氏の主体思
想を信奉する人々である。
 
文氏は盧政権下の秘書室長(官房長官)だった。盧大統領は事実上、国
情院によって、北朝鮮に従う余り韓国を裏切ることになった行動を暴露さ
れている。今回の措置は、文氏が盧氏の失敗に学んで、まず、韓国内の情
報機関の潰滅を狙った可能性も考えられる。隣国の状況の深刻さが窺える。
 
こんなときこそ、日本国内の状況への目配りが重要だ。沖縄での反米軍基
地運動をはじめ、慰安婦問題で政府を追及する会合などが、日本各地で驚
くような頻度で開催されている。少なからぬ朝鮮半島の人々や中国人が参
加している。外国籍の運動家の、日本における政治活動の実態の危険度に
注視し、日本は韓国の現状から学びとるべきではないか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1186
  

2017年06月19日

◆情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国

櫻井よしこ



「情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国の現状を日本は注視すべき」

46年前の1971年に、東京・渋谷で沖縄返還協定反対デモがあり、警備に当
たった新潟県警の中村恒雄警部補、当時21歳が殺害された。「渋谷暴動事
件」である。その犯人と思われる大坂正明容疑者が6月7日、逮捕された。
実に46年間も逃げ続けていたのだ。
 
人々が忘れ去っても、ずっと事件を追い続けた公安と警察の働きがあって
初めて、大坂容疑者の逮捕となった。国や社会の安全は、このような地道
な息の長い努力によって守られていることを改めて認識する。
 
いま、欧州、中東、南アジアなどではテロが続発し、国内治安を守るのは
容易でない。国内の不穏な動きを厳しく監視できなければ、安全な国民生
活は守りきれないといってよい。
 
とりわけ南北に分断されている朝鮮半島では、韓国は北朝鮮の対南工作に
晒されてきた。他のどの国と較べても、国内治安維持のための監視体制が
必要な国だ。ところが、文在寅氏が大統領に就任して日も浅い6月1日、早
くも非常に憂うべき決定が下された。
 
国家情報院(国情院)を「改変」するというのだ。第一報を、私は6月5
日付の「産経新聞」櫻井紀雄記者による、ソウル発の記事によって知っ
た。国情院は北朝鮮の独裁政権から韓国を守るために、あらゆる謀略工作
に目を光らせる機関である。

国家保安法を執行する、日本でいえば公安調査庁と警察を合わせたような
組織だ。その国情院院長に就任した徐薫氏が、これまで、国情院のみなら
ず各種の機関で情報収集に当たってきた国内情報担当官(IO)制度の廃
止を指示したという。もし、実行されれば、日本でいえば公安調査庁、警
察を筆頭とする全情報機関の調査機能が一掃される事態が生ずる。

「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が語る。

「もし、そのようなことを実行したら、スパイ捜査もできなくなります。
全ての公安関係の組織活動が根底から切り崩されます。果たしてそんなこ
とができるのか、疑問です」
 
実は、金大中、盧武鉉、金泳三各氏ら歴代の左翼系大統領は皆同じ提案
をした。しかし、流石に国家の基盤である情報組織を解体することはでき
なかった。今回も同じ展開になるのではないかと、洪氏は見る。
 
一方で懸念すべきは、これまで北朝鮮の工作員など韓国に害をなすと思
われる勢力に向けられていた情報機関の活動が、逆に国民の方に、とりわ
け、保守勢力に向けられてくるのではないかということだ。洪氏の解説で
ある。

「日本からでは韓国の実態はわかりにくいかもしれません。朴槿恵前大統
領があっという間に弾劾、逮捕され、収監された背景を頭に入れておく必
要があります。民労総(全国民主労働組合総連盟)や全教組(全国教職員
労働組合)などの勢力が反朴運動を支えましたが、これらは日本の自治労
や日教組をもっとずっと激しい極左にしたような組織です。彼らの支持の
上に現在の文政権があるのです」
 
彼らは文氏も含めて、北朝鮮の破綻が明らかな現在も、金日成氏の主体
思想を信奉する人々である。
 
文氏は盧政権下の秘書室長(官房長官)だった。盧大統領は事実上、国
情院によって、北朝鮮に従う余り韓国を裏切ることになった行動を暴露さ
れている。今回の措置は、文氏が盧氏の失敗に学んで、まず、韓国内の情
報機関の潰滅を狙った可能性も考えられる。隣国の状況の深刻さが窺える。
 
こんなときこそ、日本国内の状況への目配りが重要だ。沖縄での反米軍基
地運動をはじめ、慰安婦問題で政府を追及する会合などが、日本各地で驚
くような頻度で開催されている。少なからぬ朝鮮半島の人々や中国人が参
加している。外国籍の運動家の、日本における政治活動の実態の危険度に
注視し、日本は韓国の現状から学びとるべきではないか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1186 


2017年06月18日

◆情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国

櫻井よしこ



「情報機関の調査機能の一掃を目論む韓国の現状を日本は注視すべき」

46年前の1971年に、東京・渋谷で沖縄返還協定反対デモがあり、警備に当
たった新潟県警の中村恒雄警部補、当時21歳が殺害された。「渋谷暴動事
件」である。その犯人と思われる大坂正明容疑者が6月7日、逮捕された。
実に46年間も逃げ続けていたのだ。
 
人々が忘れ去っても、ずっと事件を追い続けた公安と警察の働きがあって
初めて、大坂容疑者の逮捕となった。国や社会の安全は、このような地道
な息の長い努力によって守られていることを改めて認識する。
 
いま、欧州、中東、南アジアなどではテロが続発し、国内治安を守るのは
容易でない。国内の不穏な動きを厳しく監視できなければ、安全な国民生
活は守りきれないといってよい。
 
とりわけ南北に分断されている朝鮮半島では、韓国は北朝鮮の対南工作に
晒されてきた。他のどの国と較べても、国内治安維持のための監視体制が
必要な国だ。ところが、文在寅氏が大統領に就任して日も浅い6月1日、早
くも非常に憂うべき決定が下された。
 
国家情報院(国情院)を「改変」するというのだ。第一報を、私は6月5
日付の「産経新聞」櫻井紀雄記者による、ソウル発の記事によって知った。

国情院は北朝鮮の独裁政権から韓国を守るために、あらゆる謀略工作に目
を光らせる機関である。国家保安法を執行する、日本でいえば公安調査庁
と警察を合わせたような組織だ。その国情院院長に就任した徐薫氏が、こ
れまで、国情院のみならず各種の機関で情報収集に当たってきた国内情報
担当官(IO)制度の廃止を指示したという。もし、実行されれば、日本
でいえば公安調査庁、警察を筆頭とする全情報機関の調査機能が一掃され
る事態が生ずる。

「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が語る。

「もし、そのようなことを実行したら、スパイ捜査もできなくなります。
全ての公安関係の組織活動が根底から切り崩されます。果たしてそんなこ
とができるのか、疑問です」
 
実は、金大中、盧武鉉、金泳三各氏ら歴代の左翼系大統領は皆同じ提案
をした。しかし、流石に国家の基盤である情報組織を解体することはでき
なかった。今回も同じ展開になるのではないかと、洪氏は見る。
 
一方で懸念すべきは、これまで北朝鮮の工作員など韓国に害をなすと思
われる勢力に向けられていた情報機関の活動が、逆に国民の方に、とりわ
け、保守勢力に向けられてくるのではないかということだ。洪氏の解説で
ある。

「日本からでは韓国の実態はわかりにくいかもしれません。朴槿恵前大統
領があっという間に弾劾、逮捕され、収監された背景を頭に入れておく必
要があります。民労総(全国民主労働組合総連盟)や全教組(全国教職員
労働組合)などの勢力が反朴運動を支えましたが、これらは日本の自治労
や日教組をもっとずっと激しい極左にしたような組織です。彼らの支持の
上に現在の文政権があるのです」
 
彼らは文氏も含めて、北朝鮮の破綻が明らかな現在も、金日成氏の主体
思想を信奉する人々である。
 
文氏は盧政権下の秘書室長(官房長官)だった。盧大統領は事実上、国
情院によって、北朝鮮に従う余り韓国を裏切ることになった行動を暴露さ
れている。今回の措置は、文氏が盧氏の失敗に学んで、まず、韓国内の情
報機関の潰滅を狙った可能性も考えられる。隣国の状況の深刻さが窺える。
 
こんなときこそ、日本国内の状況への目配りが重要だ。沖縄での反米軍基
地運動をはじめ、慰安婦問題で政府を追及する会合などが、日本各地で驚
くような頻度で開催されている。少なからぬ朝鮮半島の人々や中国人が参
加している。外国籍の運動家の、日本における政治活動の実態の危険度に
注視し、日本は韓国の現状から学びとるべきではないか。

『週刊ダイヤモンド』 2017年6月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1186

2017年06月17日

◆世界の安定剤、マティス長官の安全観

櫻井よしこ




毎年シンガポールで開催される「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダ
イアローグ)」は、世界の安全保障戦略で何が一番の問題になっているか
を知り、大国の思惑がどのように交錯しているかを知る、極めて有意義な
場である。今年は米国防長官、ジェームズ・マティス氏が演説を行った。
 
トランプ大統領が、ロシア問題で追及され、身内のジャレッド・クシュ
ナー大統領上級顧問までもが疑惑を取り沙汰されている。そうした中、軍
人として培った揺るぎない安全保障観を披露したマティス国防長官は、国
際社会の安定装置として機能しているかのようだ。
 
6月3日に行われた氏の演説の内容は予想を超える率直さだった。敢えてポ
イントを2つに絞れば、➀アジアの同盟諸国への固い絆の再確認、➁中国に
は断固たる姿勢を取る、ということになるだろう。
 
まず、アジアの安全保障についてマティス氏は、アメリカが如何に国際法
順守を重視しているかを強調した。
 
アジアの安全保障が国際法に基づいて担保されるべきだとの考えは、世界
恐慌とそれに続く第二次世界大戦の凄まじい体験から学びとった教訓だ
と、マティス氏は強調する。氏は演説で人類の戦いの歴史にさり気なく触
れたが、蔵書6000冊を有し、その大半が戦史に関する著作だといわれる氏
の、国家と国家の摩擦としての戦いや、その対処の原理についての、奥深
い理解を感じさせる。
 
氏は語っている。国の大小、その貧富に拘らず、国際法は公平に適用され
るべし、と。海の交通路は全ての国々に常に開かれ、航行及び飛行の自由
が保たれるべきだという価値観は、時代を通して守られてきたとマティス
氏は語る。その自由で開かれた世界を、アメリカはこれからも担保するの
だと。
 
同じ趣旨を、表現を変えながら、マティス氏は繰り返した。講演録を読む
と、国際法の重要性を説いた段落が幾つも続いている。

「航行の自由」作戦
 
それらの発言が中国に向けられているのは明らかである。マティス氏がこ
れ程、或る意味で執拗に、国際法や航行の自由について語ったのは、アメ
リカは北朝鮮問題で中国に協力を求めても、南シナ海、東シナ海、台湾な
どの他の重要な地域問題で従来の基本的立場を譲るつもりは全くないと示
しているのである。マティス氏は、中国について前向きに丁寧に言及しな
がらも、要所要所で釘をさしている。

「トランプ政権は、朝鮮半島の非核化に向けての国際社会の努力に中国が
コミットメントを再確認したことに安堵している」「(4月の米中首脳会
談で)習近平主席は、全ての関係国が各々の責任を果たせば、朝鮮半島の
核の問題は解決されるはずだと語った」と、紹介したうえで、マティス氏
は述べた。

「自分は習近平主席に全く同意する。大事なのは、そうした言葉は行動に
よって本物であることが確認されなくてはならないということだ」
 
中国に強い口調で迫っているのである。中国よ、言葉はもういい。実行
によって証明せよ、制裁を強化せよと要求しているのである。
 
約30分の演説の中で、マティス氏は南シナ海の問題についても、中国の
建設した人工島を批判しながら言及した。主旨は、➀中国の行動は国際社
会の利益を侵し、ルールに基づく秩序を揺るがすもので、受け入れること
はできない。➁人工島の建設とその軍事化は地域の安定を損ねる。
 
氏の一連の発言に、質疑応答で、多くの質問者が率直な謝意を表した。
国防長官の発言は「希望をもたらす」とまでコメントした人がいた。膨張
する中国が恐れられ、嫌われているのとは対照的に、強いアメリカが望ま
れているということだ。
 
トランプ政権発足以来約4か月が過ぎた5月下旬、ようやく南シナ海で「航
行の自由」作戦を行った。北朝鮮問題で中国に配慮して南シナ海とバー
ターするのではないかという懸念の声さえささやかれていたときに行われ
た「航行の自由」作戦は、オバマ政権のときには見られなかったアメリカ
の断固たる意志を示すものだった。
 
スプラトリー諸島のミスチーフ礁に建設された人工島の近く、中国が自国
の領海だと主張している12カイリ内の海で、「航行の自由」作戦は、中国
への「事前通告」なしに行われた。オバマ政権時代に4回行われた「航行
の自由」作戦と、今回のそれには全く異なる意味があった。今回は、通常
は公海で行う海難救助訓練を行ったのだ。

「米中接近」はない
 
中国の主張など全く認めないという姿勢を示したのだが、この訓練には
中国も反対しづらい。なぜなら、それは「人道的な」海難救助だったからだ。
 
非常に慎重に考え抜かれた緻密な作戦を決行したことでアメリカは、人
工島を建設しても中国は領海を拡大することはできないと示したのだ。ア
メリカの考えは、まさに常設仲裁裁判所がフィリピン政府の訴えに対して
出した答えと同じものだった。
 
もうひとつ、非常に大きな意味を持っているのが、マティス氏がパート
ナー国との関係を継続していくとする中で、インド、ベトナムなどに続い
て台湾に触れたことだ。

「国防総省は台湾及びその民主的な政府との揺るぎない協力を継続し、台
湾関係法の義務に基づいて、台湾に必要な防衛装備を提供する」と、マ
ティス氏は語った。
 
トランプ大統領が北朝鮮の核及びミサイル問題で中国に配慮する余り、南
シナ海や台湾への配慮が薄れて、台湾も事実上見捨てられるのではないか
という懸念さえ、生れていた。そのような疑念をマティス氏の発言はさっ
と拭い去った。
 
米国防長官としては異例のこの発言と、それを支える戦略的思考が、ト
ランプ政権の主軸である限り、台湾や日本にとっての悪夢、「米中接近」
はないと見てよいだろう。
 
会場の中国軍人が直ちに質問した。「中国はひとつ」という米中間の合
意を覆すのかと。マティス氏は「ひとつの中国」政策に変更はないと答え
たが、蔡英文総統は独立志向が高いと見て、台湾に軍事的圧力を強めるよ
うなことは、アメリカが許さないという強いメッセージを送ったというこ
とだ。
 
アメリカの政策は読み取りにくい。マティス発言に喜び、トランプ発言に
不安を抱く。トランプ氏は基本的にマティス氏らの進言を受け入れている
かに見えるが、究極のところはわからない。だが、マティス氏ら手練れの
兵(つわもの)が政権中枢にいる間に、わが国は急いで憲法改正などを通
して、国の在り方を変えなければならないと、心から思う。

『週刊新潮』 2017年6月15日号 日本ルネッサンス 第757回