2019年05月08日

◆北朝鮮をさらに追い詰めることが必要だ

櫻井よしこ


「核・ミサイル・拉致問題の解決に向けて北朝鮮をさらに追い詰めること
が必要だ」

日本は春爛漫の美しい季節だ。花のあとは瑞々しい若葉を愛でる。日本列
島に住む私たちは、一人一人さまざまな課題や苦労があるにせよ、概して
幸せだと思う。

そんなことを考え、北朝鮮に捕らわれている拉致被害者を想う。横田めぐ
みさんや増元るみ子さん、有本恵子さんをはじめ800人を超える拉致被害
者は無事にすごしているだろうか。

4月から5月の北朝鮮は最も食糧が不足する。5月末からジャガイモの収穫
が始まるが、それまでに前年の穀物は食べ尽くされている。沿岸漁業権が
中国に売り渡されたために北朝鮮の漁船は遠い沖合でしか漁ができない。
油代は高く、大きな船もなく、北朝鮮の住民には満足に魚も供給されな
い。今年に入って餓死者が出始めたとの少なからぬ情報が伝わってくる中
で、2月11日、北朝鮮は国連に140万トンの食糧援助を申請済みだ。

2月末に米朝首脳会談が決裂し、それを受けての4月11日の最高人民会議
で、金正恩朝鮮労働党委員長は27回も「自力更生」の重要性を強調した。
これこそ北朝鮮の国民が最も恐れている言葉だ。それは、北朝鮮政府は国
民のための食糧を確保できないという告白であり、自力で生き延びよと国
民を突き放す宣言に他ならないからだ。

最高人民会議で発表された党人事からも、正恩氏の切羽詰まっている様子
が窺える。

首相に任命された金才竜(キム・ジェリョン)氏は慈江道(チャガンド)
県の党の責任者だった。慈江道は中朝国境に位置する軍需産業の中心地
だ。ここでかつて「慈江道の人々」という四時間の映画が製作された。
1990年代に正恩氏の父親、金正日氏の指導の下、核開発を優先する余り、
経済不振で人々がバタバタと餓死した。しかし、人民は自力更生の精神で
立ち向かい、泥を食べて飢えをしのぎ、神聖な国家防衛の軍需産業を守り
通したという政治学習用の映画だった。

その映画が製作された県の実力者が首相に任命された。それは、正恩氏が
父親と同じく、人民を飢えさせても核・ミサイル開発を続けるということ
か。かつて300万人が餓死した正日時代の「苦難の行軍」を、北朝鮮の国
民は再び迫られるということか。

正恩氏は米朝首脳会談でベトナム・ハノイに出発する直前に、労働党幹部
の政治学習で、米朝会談は成功する、5月から主食の配給が復活すると説
明させていた。朝鮮問題の専門家、西岡力氏は4月12日、インターネット
の「言論テレビ」でこう語った。

「通常、指導者の日程などは極秘にする北朝鮮で、ハノイ会談のときは出
発前から大々的に宣伝した。党の宣伝や扇動の最高責任者は正恩氏の妹の
与正氏です。彼女はトランプ米大統領との交渉に自信を持ち、米朝交渉の
過程を最初から公開したのです。ところが会談は決裂、彼女の戦略の失敗
です」

正恩氏は会談決裂後、大酒を飲み「この結果は何だ!」と不満をぶちまけ
たと、西岡氏は言う。

「正恩氏は与正氏を粛清できない。それで人事を大きく変えることはしな
かったのですが、ハノイに同行した崔善姫外務次官は国務委員に大抜擢です」

国務委員は全部で11人、正恩氏の次に位置する特権的指導者層で、異例の
出世である。しかし、正恩体制下の出世は災いの元だ。責任を取らされ、
処刑されかねない。正恩氏は与正氏は切れないが崔善姫氏なら簡単に切る
だろう。北朝鮮の幹部たちは、こんな危険は真っ平で、責任ある地位には
つかず賄賂で蓄財に励むのが一番よいと考えていると、西岡氏は語る。幹
部の蓄財に気づいている正恩氏は資金枯渇を補うために、党に献金すれば
不正蓄財の罪は問わないという指示を出した。すでに体制は崩壊している
のだ。

正恩氏が、生き残りの道は核・ミサイル・拉致の全てを解決するしかない
と悟るまで追い詰めることが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年4月27日・5月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1277 

2019年05月07日

◆北朝鮮をさらに追い詰めることが必要だ 

櫻井よしこ


「核・ミサイル・拉致問題の解決に向けて北朝鮮をさらに追い詰めること
が必要だ」

日本は春爛漫の美しい季節だ。花のあとは瑞々しい若葉を愛でる。日本列
島に住む私たちは、一人ひとりさまざまな課題や苦労があるにせよ、概し
て幸せだと思う。

そんなことを考え、北朝鮮に捕らわれている拉致被害者を想う。横田めぐ
みさんや増元るみ子さん、有本恵子さんをはじめ800人を超える拉致被害
者は無事にすごしているだろうか。

4月から5月の北朝鮮は最も食糧が不足する。5月末からジャガイモの収穫
が始まるが、それまでに前年の穀物は食べ尽くされている。沿岸漁業権が
中国に売り渡されたために北朝鮮の漁船は遠い沖合でしか漁ができない。

油代は高く、大きな船もなく、北朝鮮の住民には満足に魚も供給されな
い。今年に入って餓死者が出始めたとの少なからぬ情報が伝わってくる中
で、2月11日、北朝鮮は国連に140万トンの食糧援助を申請済みだ。

2月末に米朝首脳会談が決裂し、それを受けての4月11日の最高人民会議
で、金正恩朝鮮労働党委員長は27回も「自力更生」の重要性を強調した。
これこそ北朝鮮の国民が最も恐れている言葉だ。それは、北朝鮮政府は国
民のための食糧を確保できないという告白であり、自力で生き延びよと国
民を突き放す宣言に他ならないからだ。

最高人民会議で発表された党人事からも、正恩氏の切羽詰まっている様子
が窺える。

首相に任命された金才竜(キム・ジェリョン)氏は慈江道(チャガンド)
県の党の責任者だった。慈江道は中朝国境に位置する軍需産業の中心地
だ。ここでかつて「慈江道の人々」という四時間の映画が製作された。
1990年代に正恩氏の父親、金正日氏の指導の下、核開発を優先する余り、
経済不振で人々がバタバタと餓死した。しかし、人民は自力更生の精神で
立ち向かい、泥を食べて飢えをしのぎ、神聖な国家防衛の軍需産業を守り
通したという政治学習用の映画だった。

その映画が製作された県の実力者が首相に任命された。それは、正恩氏が
父親と同じく、人民を飢えさせても核・ミサイル開発を続けるということ
か。かつて300万人が餓死した正日時代の「苦難の行軍」を、北朝鮮の国
民は再び迫られるということか。

正恩氏は米朝首脳会談でベトナム・ハノイに出発する直前に、労働党幹部
の政治学習で、米朝会談は成功する、5月から主食の配給が復活すると説
明させていた。朝鮮問題の専門家、西岡力氏は4月12日、インターネット
の「言論テレビ」でこう語った。

「通常、指導者の日程などは極秘にする北朝鮮で、ハノイ会談のときは出
発前から大々的に宣伝した。党の宣伝や扇動の最高責任者は正恩氏の妹の
与正氏です。彼女はトランプ米大統領との交渉に自信を持ち、米朝交渉の
過程を最初から公開したのです。ところが会談は決裂、彼女の戦略の失敗
です」

正恩氏は会談決裂後、大酒を飲み「この結果は何だ!」と不満をぶちまけ
たと、西岡氏は言う。

「正恩氏は与正氏を粛清できない。それで人事を大きく変えることはしな
かったのですが、ハノイに同行した崔善姫外務次官は国務委員に大抜擢です」

国務委員は全部で11人、正恩氏の次に位置する特権的指導者層で、異例の
出世である。しかし、正恩体制下の出世は災いの元だ。責任を取らされ、
処刑されかねない。正恩氏は与正氏は切れないが崔善姫氏なら簡単に切る
だろう。北朝鮮の幹部たちは、こんな危険は真っ平で、責任ある地位には
つかず賄賂で蓄財に励むのが一番よいと考えていると、西岡氏は語る。幹
部の蓄財に気づいている正恩氏は資金枯渇を補うために、党に献金すれば
不正蓄財の罪は問わないという指示を出した。すでに体制は崩壊している
のだ。

正恩氏が、生き残りの道は核・ミサイル・拉致の全てを解決するしかないと

『週刊ダイヤモンド』 2019年4月27日・5月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1277 

2019年05月06日

◆北朝鮮をさらに追い詰めることが必要だ

櫻井よしこ


「核・ミサイル・拉致問題の解決に向けて北朝鮮をさらに追い詰めること
が必要だ」

日本は春爛漫の美しい季節だ。花のあとは瑞々しい若葉を愛でる。日本列
島に住む私たちは、一人一人さまざまな課題や苦労があるにせよ、概して
幸せだと思う。

そんなことを考え、北朝鮮に捕らわれている拉致被害者を想う。横田めぐ
みさんや増元るみ子さん、有本恵子さんをはじめ800人を超える拉致被害
者は無事にすごしているだろうか。

4月から5月の北朝鮮は最も食糧が不足する。5月末からジャガイモの収穫
が始まるが、それまでに前年の穀物は食べ尽くされている。沿岸漁業権が
中国に売り渡されたために北朝鮮の漁船は遠い沖合でしか漁ができない。
油代は高く、大きな船もなく、北朝鮮の住民には満足に魚も供給されな
い。今年に入って餓死者が出始めたとの少なからぬ情報が伝わってくる中
で、2月11日、北朝鮮は国連に140万トンの食糧援助を申請済みだ。

2月末に米朝首脳会談が決裂し、それを受けての4月11日の最高人民会議
で、金正恩朝鮮労働党委員長は27回も「自力更生」の重要性を強調した。
これこそ北朝鮮の国民が最も恐れている言葉だ。それは、北朝鮮政府は国
民のための食糧を確保できないという告白であり、自力で生き延びよと国
民を突き放す宣言に他ならないからだ。

最高人民会議で発表された党人事からも、正恩氏の切羽詰まっている様子
が窺える。

首相に任命された金才竜(キム・ジェリョン)氏は慈江道(チャガンド)
県の党の責任者だった。慈江道は中朝国境に位置する軍需産業の中心地
だ。ここでかつて「慈江道の人々」という四時間の映画が製作された。
1990年代に正恩氏の父親、金正日氏の指導の下、核開発を優先する余り、
経済不振で人々がバタバタと餓死した。しかし、人民は自力更生の精神で
立ち向かい、泥を食べて飢えをしのぎ、神聖な国家防衛の軍需産業を守り
通したという政治学習用の映画だった。

その映画が製作された県の実力者が首相に任命された。それは、正恩氏が
父親と同じく、人民を飢えさせても核・ミサイル開発を続けるということ
か。かつて300万人が餓死した正日時代の「苦難の行軍」を、北朝鮮の国
民は再び迫られるということか。

正恩氏は米朝首脳会談でベトナム・ハノイに出発する直前に、労働党幹部
の政治学習で、米朝会談は成功する、5月から主食の配給が復活すると説
明させていた。朝鮮問題の専門家、西岡力氏は4月12日、インターネット
の「言論テレビ」でこう語った。

「通常、指導者の日程などは極秘にする北朝鮮で、ハノイ会談のときは出
発前から大々的に宣伝した。党の宣伝や扇動の最高責任者は正恩氏の妹の
与正氏です。彼女はトランプ米大統領との交渉に自信を持ち、米朝交渉の
過程を最初から公開したのです。ところが会談は決裂、彼女の戦略の失敗
です」

正恩氏は会談決裂後、大酒を飲み「この結果は何だ!」と不満をぶちまけ
たと、西岡氏は言う。

「正恩氏は与正氏を粛清できない。それで人事を大きく変えることはしな
かったのですが、ハノイに同行した崔善姫外務次官は国務委員に大抜擢です」

国務委員は全部で11人、正恩氏の次に位置する特権的指導者層で、異例の
出世である。しかし、正恩体制下の出世は災いの元だ。責任を取らされ、
処刑されかねない。正恩氏は与正氏は切れないが崔善姫氏なら簡単に切る
だろう。北朝鮮の幹部たちは、こんな危険は真っ平で、責任ある地位には
つかず賄賂で蓄財に励むのが一番よいと考えていると、西岡氏は語る。幹
部の蓄財に気づいている正恩氏は資金枯渇を補うために、党に献金すれば
不正蓄財の罪は問わないという指示を出した。すでに体制は崩壊している
のだ。

正恩氏が、生き残りの道は核・ミサイル・拉致の全てを解決するしかない
と悟るまで追い詰めることが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年4月27日・5月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1277

2019年05月05日

◆北朝鮮をさらに追い詰めることが必要だ

櫻井よしこ


「核・ミサイル・拉致問題の解決に向けて北朝鮮をさらに追い詰めるこ
とが必要だ」

日本は春爛漫の美しい季節だ。花のあとは瑞々しい若葉を愛でる。日本列
島に住む私たちは、一人ひとりさまざまな課題や苦労があるにせよ、概し
て幸せだと思う。

そんなことを考え、北朝鮮に捕らわれている拉致被害者を想う。横田めぐ
みさんや増元るみ子さん、有本恵子さんをはじめ800人を超える拉致被害
者は無事にすごしているだろうか。

4月から5月の北朝鮮は最も食糧が不足する。5月末からジャガイモの収穫
が始まるが、それまでに前年の穀物は食べ尽くされている。沿岸漁業権が
中国に売り渡されたために北朝鮮の漁船は遠い沖合でしか漁ができない。
油代は高く、大きな船もなく、北朝鮮の住民には満足に魚も供給されな
い。今年に入って餓死者が出始めたとの少なからぬ情報が伝わってくる中
で、2月11日、北朝鮮は国連に140万トンの食糧援助を申請済みだ。

2月末に米朝首脳会談が決裂し、それを受けての4月11日の最高人民会議
で、金正恩朝鮮労働党委員長は27回も「自力更生」の重要性を強調した。
これこそ北朝鮮の国民が最も恐れている言葉だ。それは、北朝鮮政府は国
民のための食糧を確保できないという告白であり、自力で生き延びよと国
民を突き放す宣言に他ならないからだ。

最高人民会議で発表された党人事からも、正恩氏の切羽詰まっている様子
が窺える。

首相に任命された金才竜(キム・ジェリョン)氏は慈江道(チャガンド)
県の党の責任者だった。慈江道は中朝国境に位置する軍需産業の中心地
だ。ここでかつて「慈江道の人々」という四時間の映画が製作された。
1990年代に正恩氏の父親、金正日氏の指導の下、核開発を優先する余り、
経済不振で人々がバタバタと餓死した。しかし、人民は自力更生の精神で
立ち向かい、泥を食べて飢えをしのぎ、神聖な国家防衛の軍需産業を守り
通したという政治学習用の映画だった。

その映画が製作された県の実力者が首相に任命された。それは、正恩氏が
父親と同じく、人民を飢えさせても核・ミサイル開発を続けるということ
か。かつて300万人が餓死した正日時代の「苦難の行軍」を、北朝鮮の国
民は再び迫られるということか。

正恩氏は米朝首脳会談でベトナム・ハノイに出発する直前に、労働党幹部
の政治学習で、米朝会談は成功する、5月から主食の配給が復活すると説
明させていた。朝鮮問題の専門家、西岡力氏は4月12日、インターネット
の「言論テレビ」でこう語った。

「通常、指導者の日程などは極秘にする北朝鮮で、ハノイ会談のときは出
発前から大々的に宣伝した。党の宣伝や扇動の最高責任者は正恩氏の妹の
与正氏です。彼女はトランプ米大統領との交渉に自信を持ち、米朝交渉の
過程を最初から公開したのです。ところが会談は決裂、彼女の戦略の失敗
です」

正恩氏は会談決裂後、大酒を飲み「この結果は何だ!」と不満をぶちまけ
たと、西岡氏は言う。

「正恩氏は与正氏を粛清できない。それで人事を大きく変えることはしな
かったのですが、ハノイに同行した崔善姫外務次官は国務委員に大抜擢です」

国務委員は全部で11人、正恩氏の次に位置する特権的指導者層で、異例の
出世である。しかし、正恩体制下の出世は災いの元だ。責任を取らされ、
処刑されかねない。正恩氏は与正氏は切れないが崔善姫氏なら簡単に切る
だろう。北朝鮮の幹部たちは、こんな危険は真っ平で、責任ある地位には
つかず賄賂で蓄財に励むのが一番よいと考えていると、西岡氏は語る。幹
部の蓄財に気づいている正恩氏は資金枯渇を補うために、党に献金すれば
不正蓄財の罪は問わないという指示を出した。すでに体制は崩壊している
のだ。

正恩氏が、生き残りの道は核・ミサイル・拉致の全てを解決するしかない
と悟るまで追い詰めることが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2019年4月27日・5月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1277 

2019年05月04日

◆北朝鮮をさらに追い詰めることが必要だ

櫻井よしこ


「核・ミサイル・拉致問題の解決に向けて北朝鮮をさらに追い詰めること
が必要だ」

日本は春爛漫の美しい季節だ。花のあとは瑞々しい若葉を愛でる。日本列
島に住む私たちは、一人一人さまざまな課題や苦労があるにせよ、概して
幸せだと思う。

そんなことを考え、北朝鮮に捕らわれている拉致被害者を想う。横田めぐ
みさんや増元るみ子さん、有本恵子さんをはじめ800人を超える拉致被害
者は無事にすごしているだろうか。

4月から5月の北朝鮮は最も食糧が不足する。5月末からジャガイモの収穫
が始まるが、それまでに前年の穀物は食べ尽くされている。沿岸漁業権が
中国に売り渡されたために北朝鮮の漁船は遠い沖合でしか漁ができない。
油代は高く、大きな船もなく、北朝鮮の住民には満足に魚も供給されな
い。今年に入って餓死者が出始めたとの少なからぬ情報が伝わってくる中
で、2月11日、北朝鮮は国連に140万トンの食糧援助を申請済みだ。

2月末に米朝首脳会談が決裂し、それを受けての4月11日の最高人民会議
で、金正恩朝鮮労働党委員長は27回も「自力更生」の重要性を強調した。
これこそ北朝鮮の国民が最も恐れている言葉だ。それは、北朝鮮政府は国
民のための食糧を確保できないという告白であり、自力で生き延びよと国
民を突き放す宣言に他ならないからだ。

最高人民会議で発表された党人事からも、正恩氏の切羽詰まっている様子
が窺える。

首相に任命された金才竜(キム・ジェリョン)氏は慈江道(チャガンド)
県の党の責任者だった。慈江道は中朝国境に位置する軍需産業の中心地
だ。ここでかつて「慈江道の人々」という四時間の映画が製作された。
1990年代に正恩氏の父親、金正日氏の指導の下、核開発を優先する余り、
経済不振で人々がバタバタと餓死した。しかし、人民は自力更生の精神で
立ち向かい、泥を食べて飢えをしのぎ、神聖な国家防衛の軍需産業を守り
通したという政治学習用の映画だった。

その映画が製作された県の実力者が首相に任命された。それは、正恩氏が
父親と同じく、人民を飢えさせても核・ミサイル開発を続けるということ
か。かつて300万人が餓死した正日時代の「苦難の行軍」を、北朝鮮の国
民は再び迫られるということか。

正恩氏は米朝首脳会談でベトナム・ハノイに出発する直前に、労働党幹部
の政治学習で、米朝会談は成功する、5月から主食の配給が復活すると説
明させていた。朝鮮問題の専門家、西岡力氏は4月12日、インターネット
の「言論テレビ」でこう語った。

「通常、指導者の日程などは極秘にする北朝鮮で、ハノイ会談のときは出
発前から大々的に宣伝した。党の宣伝や扇動の最高責任者は正恩氏の妹の
与正氏です。彼女はトランプ米大統領との交渉に自信を持ち、米朝交渉の
過程を最初から公開したのです。ところが会談は決裂、彼女の戦略の失敗
です」

正恩氏は会談決裂後、大酒を飲み「この結果は何だ!」と不満をぶちまけ
たと、西岡氏は言う。

「正恩氏は与正氏を粛清できない。それで人事を大きく変えることはしな
かったのですが、ハノイに同行した崔善姫外務次官は国務委員に大抜擢です」

国務委員は全部で11人、正恩氏の次に位置する特権的指導者層で、異例の
出世である。しかし、正恩体制下の出世は災いの元だ。責任を取らされ、
処刑されかねない。正恩氏は与正氏は切れないが崔善姫氏なら簡単に切る
だろう。北朝鮮の幹部たちは、こんな危険は真っ平で、責任ある地位には
つかず賄賂で蓄財に励むのが一番よいと考えていると、西岡氏は語る。幹
部の蓄財に気づいている正恩氏は資金枯渇を補うために、党に献金すれば
不正蓄財の罪は問わないという指示を出した。すでに体制は崩壊している
のだ。

正恩氏が、生き残りの道は核・ミサイル・拉致の全てを解決するしかない
と悟るまで追い詰めることが必要だ。
『週刊ダイヤモンド』 2019年4月27日・5月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1277

2019年05月03日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号 日本ルネッサンス 第849回

2019年05月02日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号日本ルネッサンス 第849回

2019年05月01日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。

結局27分間もトランプ氏の話が続き、文氏との会談時間は驚きの2分間、
しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚たちも参加しての昼食となった。4
月12日、ネット配信の『言論テレビ』で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホ
ンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号  日本ルネッサンス 第849回



2019年04月30日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、3氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と2人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号 日本ルネッサンス 第849回

2019年04月29日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号 日本ルネッサンス 第849回

2019年04月28日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、3氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号 日本ルネッサンス 第849回

2019年04月27日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号 日本ルネッサンス 第849回

2019年04月26日

◆文在寅、親北反米路線で確信犯

櫻井よしこ


南北両朝鮮が米国に追い詰められている。とりわけ韓国の文在寅大統領へ
の米国の圧力は巧妙である。

4月11日、文氏は“建国”を祝う予定だったが、米韓首脳会談のため、大事
なその記念式典を諦めて訪米した。にも拘わらず、ホワイトハウスでのト
ランプ大統領との会談は、前代未聞の哀れな結果に終わった。

文氏は10日にソウルを出発し、同日夕方にワシントンに到着したが、米国
側との予定は一切組まれていなかった。翌11日午前中に、ポンペオ国務長
官、ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領とそれぞれ面会したが、三氏
共に文氏の北朝鮮寄りの姿勢に批判を加えたと見られる。北朝鮮に非核化
の意思は読みとれず、制裁緩和はあり得ない、米国はむしろ制裁強化を考
えていることなどが強調されたと考えてよいだろう。

その後、トランプ、文両首脳は夫人を伴って首脳会談を行った。夫人同伴
の首脳会談など通常はあり得ない。トランプ氏は文氏と二人で語り合う必
要を認めていなかったのだ。現に会談冒頭、メディアからゴルフのマス
ターズトーナメントの勝者は誰になると思うかと問われ、トランプ氏は文
氏を横においたまま延々と語った。結局27分間もトランプ氏の話が続き、
文氏との会談時間は驚きの2分間、しかも通訳つきだ。その後に他の閣僚
たちも参加しての昼食となった。4月12日、ネット配信の『言論テレビ』
で元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏が語った。

「2月末にベトナムの首都ハノイで米朝会談が決裂した後、文氏は康京和
(カンギョンファ)外相や鄭景斗(チョンギョンドゥ)国防部長官を米国に送
り、三度目の米朝首脳会談の開催や対北朝鮮制裁の解除を要請させまし
た。対北経済援助で米国には負担をかけない、韓国が負担するので開城
(ケソン)工業団地も金剛山(クムガンサン)観光も再開させてほしい、など
とも言わせました。米国側は全て拒否し、そのような話題であれば、米韓
首脳会談はなしだと、通告したのです」

一人飯

朝鮮問題の専門家でシンクタンク「国家基本問題研究所」研究員の西岡力
氏も『言論テレビ』で語った。

「朝鮮語で『一人飯』をホンバプといいます。韓国の若者の間で一人でご
飯を食べるのが増えていて、ホンバプという言葉が流行っているのです。
文氏は米国到着の10日夜がホンバプ、11日朝もホンバプ、11日昼にようや
く米国側との食事にあり付いた。本当に相手にされなかったのです」

米国の厳しい態度は文政権の裏切りに対する冷遇だと洪氏が断じる。文氏
の裏切りとは、米朝首脳会談を実現させるために、文氏が金正恩氏は北朝
鮮の非核化を決意していると米国に伝えたことだ。正恩氏が表明したのは
北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化である。これは韓国を守るた
めに米国の核を使うという発想自体もなくしてしまうこと、即ち米韓同盟
の破棄を目指す言葉であり、北朝鮮が所有する全ての核や関連施設の一掃
とは、全く異なる。

当初、北朝鮮の非核化に希望を抱いたトランプ政権は、やがて正恩氏に非
核化の意思がないこと、文氏の嘘を確信したと思われる。国連制裁に違反
してでも北朝鮮支援に動こうとする文氏を牽制するために、米国政府は文
政権の頭越しに韓国の経済界に働きかけ始めた。

昨年9月には、ニューヨークにある韓国の七つの銀行の支店に米財務省が
直接電話をして、米国が北朝鮮に制裁をかけていることを承知しているか
と警告した。西岡氏が語った。

「韓国系の銀行は現在、送金業務を止めているといわれます。もし送金に
北朝鮮と関係する資金が入っていれば、米国の副次的制裁(secondary
sanction)を受け、一切のドル決済が停止されるやもしれない。そうなっ
たら銀行は潰れます」

昨年4月27日の板門店での南北首脳会談にも、9月18日の平壌での南北首脳
会談にも、文氏は多くの韓国企業代表と開城工業団地の組合長らを同行さ
せた。文氏は金正恩氏と共に白頭山に登ったが、そのとき正恩氏に開城工
業団地組合長を紹介し、組合長に直訴させた。「委員長様、何とか開城工
業団地を再開させて下さい」と。

正恩氏は今年新年の辞で「南朝鮮の人民の要望に応えて、無条件で開城工
業団地を再開する」と演説し、それを受けて文氏は開城工業団地再開で米
国を説得すると公言した。だが、北朝鮮を利するだけの工業団地再開に
は、前述のように米国が完全拒絶の姿勢を貫いた。

支持率は下がる一方

その間、ソウルの米大使館の専門官は文氏に同行した財閥や企業に直接電
話攻勢をかけた。米政府が北朝鮮に制裁をかけているのは承知か、と警告
したのである。洪氏が強調した。

「米国は朝鮮半島での70年間に多くの教訓を得ています。そしていま、文
在寅と韓国企業を切り離しているのです。文は米国の警告を聞かない。な
らば企業や韓国国民に直接働きかけようというわけです。核を諦めない北
朝鮮に送金を続けるのか、米国との貿易や自由社会との絆を選ぶのか、と
米国は迫っています」

韓国国民も文氏の危うさを実感しているに違いない。支持率は下がる一方
だ。経済は停滞し失業率は高まり続けている。にもかかわらず、文氏は最
低賃金をこの2年間で約30%も引き上げた。残業を規制し労働時間を大幅
に短くした。人件費は高騰し、倒産は急増、失業率がさらにはね上がる悪
循環である。笑い話のような現実を西岡氏が紹介した。

「統計上失業者が増えると困るので、文氏は60歳以上の失業者に週1回大
学に行って電気を消す、又はゴミ拾いをするなどの仕事を作り、役所が賃
金を払うことにしました。税金で失業率の統計に化粧を施しているのです」

支持率低下や米国の警告にもめげず、親北路線を変えない強い反米の意思
が文氏の人事から読みとれる。一例が統一部長官に指名された金錬鉄(キ
ムヨンチョル)氏である。この人物は米国が韓国に要請した
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に反対し、開城工業団地の早
期再開を主張する反米主義者である。

同人事は韓国議会の反対にも拘わらず、文氏は考えを変えなかった。文氏
は米国に公然と対立姿勢を見せたに等しく、米国を欺く手法で開城工業団
地再開をはじめ北朝鮮支援に走り出しかねない。

暴走の気配を見せる文氏に、米国が対決姿勢を強め、韓国国内では対抗勢
力が力をつけつつある。2月27日、自由韓国党の代表に黄教安(ファンギョ
アン)氏が選ばれた。朴槿恵政権で法務部長官や首相を務めた公安検事出
身の62歳は、文政権の安保政策と経済政策を「亡国政策」と批判する。

野党勢力はまだ弱いが、それでも文氏の足下は決して盤石ではない。韓国
はいつ何が起きてもおかしくない緊張の中にある。

『週刊新潮』 2019年4月25日号日本ルネッサンス 第849回