2018年07月16日

◆NATO首脳会議をかき荒らした

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月13日(金曜日)通巻第5759号 

NATO首脳会議をかき荒らしたトランプとエルドアン
  プーチンは「敵ではないが、友人でもない。競合相手だ」とトランプ

NATO首脳会議(7月11日―12日。29ヶ国のNATO加盟国首脳が参
加)を終えて、トランプ大統領はつぎに英国を公式訪問する。

ロンドンでは歓迎ムードはなく、メイ政権は内紛の最中。非常に冷淡にト
ランプを迎えるだろう。

その後、ヘルシンキへ飛んでロシアのプーチン大統領と米露首脳会談を行う。

ブラッセルで記者会見に臨んだトランプは、「プーチンは敵ではないが、
友人でもない。いつか友人になりたいものだ。いまは、競合相手として見
ている」とした。その理由は「クリミア併合とウクライナの混乱は気分を
害したが、しかしあれを許したのはオバマ前政権の不手際だ」とオバマ攻
撃を忘れなかった。

ロシアとは、新しいSTART(戦略核兵器削減条約)と、INF(中距
離核戦略)違反に関して討議し、軍備管理を議題とすると述べた。ロシア
制裁を強化するのか、緩和するのかの見通しは語らなかったようだ。

NATO首脳会議では「防衛分担をちゃんと加盟国は増大し、アメリカの
一方的負担を軽減するべきである」と、防衛費分担に背中を向ける諸国を
非難した。しかも「もし米国の要求が受け入れないなら、米国はNATO
から撤退する」とやや脅迫じみたニュアンスを籠めたのだった。

この会議で、もう一人の主役はエルドアン(トルコ大統領)だった。
 NATO首脳会議に乗り込んだエルドアンは、EU諸国のトルコへの態
度が気に入らないらしく、トランプとぴったり寄り添い、それをNATO
加盟国に見せつけた。

トルコの情報機関は、その直前にウクライナとアゼルバイジャンで、ギュ
ラン師の反政府集団の工作活動を展開していた2人のスパイを拘束し、自
家用ジェット機でイスタンブールに連れ帰った。

これは換言すれば、主権国家に侵入し、容疑者を拉致していったことにな
り(金大中事件と同じ)、国際的非難を浴びることを意味するのに、ウク
ライナも、アゼルバイジャンも沈黙している。
 
エルドアンはNATO首脳会議で、朝から晩まで精力的に動き回り、イタ
リアの新首相、フランスのマクロン大統領、ギリシアのツィピラス首相ら
と意見を交換したばかりか、ブラッセルにあるNATO司令部のトルコ連
絡事務所に、ウクライナのポロシェンコ大統領、アゼルバイジャンのアリ
エフ大統領、ボスニアのイゼトビゴビッチ大統領などを招いて会談している。

エルドアンがNATOに要求しているのは、イスタンブールにあるトルコ
軍司令部をNATOの新しい陸軍司令部として組織再編するという大胆な
提案だ。

くわえてイラクにおけるNATOの訓練部隊副司令官をトルコが派遣する
ことが決まっているが、NATO軍司令本部にトルコ軍の役割を増大させ
ることも要求した。

       
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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  ♪
樋泉克夫のコラム
@@@@@@@@

【知道中国 1759回】                 
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(15)
中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

    △

以後、中野の満洲改造論が詳細に展開されるが、要は満州経営の拠点を長
春に移せということ。それというのも「長春は大連、釜山より哈爾濱に至
る大線路と、清津より蒙古に入る大線路との交叉點となり、優に經濟上の
大中心地となり得」るだけではなく、「露國の哈爾濱と相對立するを得」
ることで、「日露の勢力境界線」と位置づけることができるからだ。
中野にとって満蒙経営は、やはり対露戦略上の重要課題であった。

中野は北上し吉林に至る。「嗚呼京都に似たる吉林」「連なる屋甍も甚だ
麗はしく揃ひて、毫も所謂支那街の穢らしき形體を有せず」と記している
ところからして、吉林に魅せられたらしい。

吉林在住日本人は400人余で、「中に七十餘人は忌まはしき醜業婦なり
と云ふ」。400人中70人とは6人に1人になるから、日本にとっての最前線
における彼女らの『役割』は「醜業」の2文字では表現し尽くすことは出
来ないだろう。

吉林に領事館が設置されたのは明治40年以降。だから「日本人の活動地
としては、滿洲中最新」である。

鉄道の附属地が設置されていないから、「滿鐵の行政なく、都督府の干渉
なく、又我一兵をも有せずして、住民は直接支那人及び支那官憲と相對し
て、或は彼等の保護を受け、或は彼等に向つて權利を主張」しなければな
らない。そこで日本側は「官民一致して相助け相倚り、支那人に對しても
却て良好の關係を持續しつゝあり」。

「領事あり、附屬地あり、滿鐵あり、都督府あり、守備兵ある滿鐵沿線
に於て、却て住民の怨嗟の聲あるに反し、何等我行政權の及ばざる吉林に
於て、住民相助け、外は支那側との交渉さへ、遺憾なきに近し」というこ
とは、やはり満鉄(政府)、都督府(陸軍)、領事館(外務省)の「三頭
政治の、如何に惡政なるかを察すべきなり」とした後、中野は「惡く治む
るは、寧ろ治めざるに如かざるなり」と綴った。

満洲各地を歩き「大陸の雄大を感」じた中野は、一方で「滿鐵の遺利を
拾ひ、或は同胞と共喰ひする日本人は、小さくして鼠の如き」姿に、「地
形の雄大なるに比して、日本男兒の齷齪たるを情けなく思」ったのである。

この街で偶々、徒手空拳ながら「支那を遊?して利源を調査せんと欲
し」て北海道を発ち、上海に上陸し「南清北滿を經廻り」ながら調査を続
ける福島生まれの青年に出会う。

言葉も出来ないし資金もない。行く先々で働き口を見つけては最低限の生
活を続けながら日本の将来を考える若者に接した中野は、「新日本の前途
は此徒の肩に懸る所多し」とした後、資産家が資金を与え海外に送り出し
前途有為の若者を鍛えるドイツの姿を紹介し、『この一瞬のカネ儲け』に
腐心する日本の資産家を嘆き、さらには「今日滿蒙に於ける我利權確立せ
ずとて、面白半分に狂躁する徒輩」が「日比谷松本樓の酒に醉ひな」がら
オダを挙げる姿を嘆く。つまり国内に留まって、国威発揚・国益擁護を
『酒の肴』にしているようでは国益の伸張は覚束ないということだ。

「露國は實に久しき以前より」、福島生まれの青年のような有為の若者を
「外蒙一帶の要地に派出し、土地、風俗、人情、物産、交通等を詳らかに
調査せしめ、公然の談判を開きて蒙古を支那より分離せしむる以前、夙に
其内を露國化せしめたるなり」と、ロシアの用意周到な外蒙取り込み策を
示したうえで、「日本は東亞の君子國、固より虎狼の國に學ぶべきに非ず
と雖も、軍國主義と稱せらるゝ露國すら、其政治的に蒙古に進むに先だち
ては、第一に風俗、?育、習慣の移植に於て、支那に勝ち、支那を壓し、
支那を驅逐せしを思はざる可からず」。現在、外蒙人が内蒙に送り込ま
れ、その後方にロシアが控えている。

であればこそ「内蒙を維持するは支那の急務」であるばかりか、「日本の
權利なり」。

2018年07月15日

◆NATO首脳会議をかき荒らした

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月13日(金曜日)通巻第5759号 

NATO首脳会議をかき荒らしたトランプとエルドアン
  プーチンは「敵ではないが、友人でもない。競合相手だ」とトランプ

NATO首脳会議(7月11日―12日。29ヶ国のNATO加盟国首脳が参
加)を終えて、トランプ大統領はつぎに英国を公式訪問する。

ロンドンでは歓迎ムードはなく、メイ政権は内紛の最中。非常に冷淡にト
ランプを迎えるだろう。

その後、ヘルシンキへ飛んでロシアのプーチン大統領と米露首脳会談を行う。

ブラッセルで記者会見に臨んだトランプは、「プーチンは敵ではないが、
友人でもない。いつか友人になりたいものだ。いまは、競合相手として見
ている」とした。その理由は「クリミア併合とウクライナの混乱は気分を
害したが、しかしあれを許したのはオバマ前政権の不手際だ」とオバマ攻
撃を忘れなかった。

ロシアとは、新しいSTART(戦略核兵器削減条約)と、INF(中距
離核戦略)違反に関して討議し、軍備管理を議題とすると述べた。ロシア
制裁を強化するのか、緩和するのかの見通しは語らなかったようだ。

NATO首脳会議では「防衛分担をちゃんと加盟国は増大し、アメリカの
一方的負担を軽減するべきである」と、防衛費分担に背中を向ける諸国を
非難した。しかも「もし米国の要求が受け入れないなら、米国はNATO
から撤退する」とやや脅迫じみたニュアンスを籠めたのだった。

この会議で、もう一人の主役はエルドアン(トルコ大統領)だった。
 NATO首脳会議に乗り込んだエルドアンは、EU諸国のトルコへの態
度が気に入らないらしく、トランプとぴったり寄り添い、それをNATO
加盟国に見せつけた。

トルコの情報機関は、その直前にウクライナとアゼルバイジャンで、ギュ
ラン師の反政府集団の工作活動を展開していた2人のスパイを拘束し、自
家用ジェット機でイスタンブールに連れ帰った。

これは換言すれば、主権国家に侵入し、容疑者を拉致していったことにな
り(金大中事件と同じ)、国際的非難を浴びることを意味するのに、ウク
ライナも、アゼルバイジャンも沈黙している。
 
エルドアンはNATO首脳会議で、朝から晩まで精力的に動き回り、イタ
リアの新首相、フランスのマクロン大統領、ギリシアのツィピラス首相ら
と意見を交換したばかりか、ブラッセルにあるNATO司令部のトルコ連
絡事務所に、ウクライナのポロシェンコ大統領、アゼルバイジャンのアリ
エフ大統領、ボスニアのイゼトビゴビッチ大統領などを招いて会談している。

エルドアンがNATOに要求しているのは、イスタンブールにあるトルコ
軍司令部をNATOの新しい陸軍司令部として組織再編するという大胆な
提案だ。

くわえてイラクにおけるNATOの訓練部隊副司令官をトルコが派遣する
ことが決まっているが、NATO軍司令本部にトルコ軍の役割を増大させ
ることも要求した。

       
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1759回】                 
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(15)
中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

    △

以後、中野の満洲改造論が詳細に展開されるが、要は満州経営の拠点を長
春に移せということ。それというのも「長春は大連、釜山より哈爾濱に至
る大線路と、清津より蒙古に入る大線路との交叉點となり、優に經濟上の
大中心地となり得」るだけではなく、「露國の哈爾濱と相對立するを得」
ることで、「日露の勢力境界線」と位置づけることができるからだ。
中野にとって満蒙経営は、やはり対露戦略上の重要課題であった。

中野は北上し吉林に至る。「嗚呼京都に似たる吉林」「連なる屋甍も甚だ
麗はしく揃ひて、毫も所謂支那街の穢らしき形體を有せず」と記している
ところからして、吉林に魅せられたらしい。

吉林在住日本人は400人余で、「中に七十餘人は忌まはしき醜業婦なり
と云ふ」。400人中70人とは6人に1人になるから、日本にとっての最前線
における彼女らの『役割』は「醜業」の2文字では表現し尽くすことは出
来ないだろう。

吉林に領事館が設置されたのは明治40年以降。だから「日本人の活動地
としては、滿洲中最新」である。

鉄道の附属地が設置されていないから、「滿鐵の行政なく、都督府の干渉
なく、又我一兵をも有せずして、住民は直接支那人及び支那官憲と相對し
て、或は彼等の保護を受け、或は彼等に向つて權利を主張」しなければな
らない。そこで日本側は「官民一致して相助け相倚り、支那人に對しても
却て良好の關係を持續しつゝあり」。

「領事あり、附屬地あり、滿鐵あり、都督府あり、守備兵ある滿鐵沿線
に於て、却て住民の怨嗟の聲あるに反し、何等我行政權の及ばざる吉林に
於て、住民相助け、外は支那側との交渉さへ、遺憾なきに近し」というこ
とは、やはり満鉄(政府)、都督府(陸軍)、領事館(外務省)の「三頭
政治の、如何に惡政なるかを察すべきなり」とした後、中野は「惡く治む
るは、寧ろ治めざるに如かざるなり」と綴った。

満洲各地を歩き「大陸の雄大を感」じた中野は、一方で「滿鐵の遺利を
拾ひ、或は同胞と共喰ひする日本人は、小さくして鼠の如き」姿に、「地
形の雄大なるに比して、日本男兒の齷齪たるを情けなく思」ったのである。

この街で偶々、徒手空拳ながら「支那を遊?して利源を調査せんと欲
し」て北海道を発ち、上海に上陸し「南清北滿を經廻り」ながら調査を続
ける福島生まれの青年に出会う。

言葉も出来ないし資金もない。行く先々で働き口を見つけては最低限の生
活を続けながら日本の将来を考える若者に接した中野は、「新日本の前途
は此徒の肩に懸る所多し」とした後、資産家が資金を与え海外に送り出し
前途有為の若者を鍛えるドイツの姿を紹介し、『この一瞬のカネ儲け』に
腐心する日本の資産家を嘆き、さらには「今日滿蒙に於ける我利權確立せ
ずとて、面白半分に狂躁する徒輩」が「日比谷松本樓の酒に醉ひな」がら
オダを挙げる姿を嘆く。つまり国内に留まって、国威発揚・国益擁護を
『酒の肴』にしているようでは国益の伸張は覚束ないということだ。

「露國は實に久しき以前より」、福島生まれの青年のような有為の若者を
「外蒙一帶の要地に派出し、土地、風俗、人情、物産、交通等を詳らかに
調査せしめ、公然の談判を開きて蒙古を支那より分離せしむる以前、夙に
其内を露國化せしめたるなり」と、ロシアの用意周到な外蒙取り込み策を
示したうえで、「日本は東亞の君子國、固より虎狼の國に學ぶべきに非ず
と雖も、軍國主義と稱せらるゝ露國すら、其政治的に蒙古に進むに先だち
ては、第一に風俗、?育、習慣の移植に於て、支那に勝ち、支那を壓し、
支那を驅逐せしを思はざる可からず」。現在、外蒙人が内蒙に送り込ま
れ、その後方にロシアが控えている。

であればこそ「内蒙を維持するは支那の急務」であるばかりか、「日本の
權利なり」。

2018年07月14日

◆トランプの中国制裁関税

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月12日(木曜日)通巻第5758号  

トランプの中国制裁関税、ハイテク企業買収もなんのその
  中国は航空機産業の中堅、特殊技術企業をすでに数社買収している

AVIC(中国航空工業集団有限公司.)は中国最大の航空機製造グルー
プで、国有企業である。従業員は全体で56万人のマンモスである。

ジェット戦闘機、爆撃機、ドローンなどの製造でも有名だが、民間旅客機
も製造する。

その実態は中国空軍であり、2008年に中国航空工業第一集団(AVIC I)と
中国航空工業第二集団(AVIC II)とが合併した。ハルビン工場はブラジ
ルの航空機メーカー「エンブラエル」との合弁。同年に欧州のエアバスと
天津に合弁工場を開設し、2010年に米国エピックエアクラフト社、テレダ
イン・テクノジー社を買収した。

さらに2011年には、子会社の中航通用飛機を通じて、米国の航空用エンジ
ン・メーカーであるコンチネンタル・モータースと、シーラス・エアクラ
フトを買収した。

AVICは111の企業集団、36の研究開発センターからなり、工場はハ
ルビン、成都、西安、南昌などに分散されている。

落ち目だった米国の航空産業を飲み込んだため、いきおい注目を集めた
が、以後、米国インテリジェンス機関の監査の対象となって、かれらのス
パイ活動を監視してきた。

もちろん、AVICはボーイング、ノースロープ・グラマン、ゼネラル・
ダイナミックス、ロッキード・マーチンなどの大手の軍需産業を狙ってい
るのではなく、その部品やエンジンなどを製造する中堅メーカーを標的と
してきた。中小の部品メーカーなどは所有する特許ごと買収された。

米国だけに留まらずAVICはドイツの「ティレート航空機エンジン」
社、英国のAIM(レーダーパネル、ミサイル格納庫、センサーなどを製
造)、同英国のジロ工業(ロータリー・エンジン)なども買収している。

一方、エンジニアとして米国企業に潜り込んだ中国人スパイは、最高機密
の技術情報、設計図などをせっせと盗み出した。

ボーイングに潜り込んでいた中国人スパイのグレッグ・チュン(音訳不
明)をB2爆撃機、スペースシャトルなどの機密を盗んでいた容疑で逮
捕、チェンは、ほかにチ・マク、グ・ウィエハオら共犯者と組んで、航空
機製造過程の設計図やノウハウなど機密書類を盗み出し、中国軍と関係の
深いAVICに売り渡した容疑で起訴され、それぞれが16年から24年
の懲役刑に処せられた。

AVICは戦闘機のほかに輸送機、武装ヘリ、地対空ミサイル、巡航ミサ
イルなども生産しており、いかに米国雄航空宇宙産業が、中国の間接侵略
に無警戒であったかをしめしている。
       
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIE 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  

 加賀藩下級武士の末っ子、幼き頃からのペシミズム
  這い上がっても、そこに理想はなかった。徳田秋声の生涯

  ♪
松本徹『徳田秋声の時代』(鼎書房)
@@@@@@@@@@@@@@

かなり長い時間、ツンドク状態だった。三島由紀夫研究の第一人者が、
「なぜ? 徳田秋声なのか」

加賀藩の下級武士の小倅、廃藩置県で父は職を失い、一家離散。ペシミズ
ムが身についている。

徳田は当時の文学状況に、尾崎紅葉や二葉亭四迷、坪内逍遙の活躍を夢見
ながらも、「そこに自身の目標だとか理想はなかった。その点で(秋声
は)怖ろしく冷淡で、冷めていた。それというのも、そこに理想を見出し
たところで、没落の過程に身を置く者が、どうしてそれを目指して進むこ
とが出来るだろう。自分はその資格を欠いた者、との気持がいよいよ深ま
る一方だったのである」(171p)。

そうした青春時代に転機がきた。

徳田秋声は泉鏡花とならんで尾崎紅葉門下、もうひとりの弟子は田山花袋
であることは知っていたが、現代日本人から見れば、いかにもかび臭い作
家、そういえば徳田秋声には『黴』という作品もありましたが。

評者(宮崎)にとって、秋声と泉鏡花は石川県人なので、親しみはある
し、室生犀星とともに、金澤には文学館もある。釈超空も、鈴木大拙も石
川の人である。文学、哲学で、巨人を産んだ叙情の豊かな土地だったけれ
ども、いまや石川県は「巨人の松井」という選手が有名なだけ。

おくに自慢はそれくらいにして、徳田秋声は通俗小説と自然主義文学との
境目を、はてしなく彷徨した。流浪の貧困人生。ある日、突然流行作家に
なる。

なぜ流行作家になれたのかと言えば、正統な評価からではなく、かの檀一
雄と同様に、現在進行形のフリン物語を書いた。檀には、『火宅の人』が
あって、映画にもなって、ベストセラー。本来は浪漫派の作家だった。傑
作は『花かたみ』と『夕日と拳銃』だろうが、誰も顧みない。

 徳田秋声もまたフリンの実話(いわゆる「順子」もの)を現在進行形で
連載小説とし、完成前に映画になるという時代の寵児だった時期がある。

しかし尾崎門下時代は、英語力を買われ、片っ端から西洋の小説を翻訳し
て糊口を凌いでいたという。

翻訳は自ら丸善にでむいて選択するのではなく、紅葉のもとに新聞社、雑
誌社から翻訳依頼がきて、その仕事を貰っていたということで、他方、田
山花袋はモーパッサン、ゴンクールに集中した。

松本氏はこう書く。

「取り組み方が対照的であった。花袋は能動的、秋声は受け身的である。
また、花袋は理念的、秋声は実際的と言って良いかもしれない。しかし花
袋は、自分の語学力もあまり気にせず、関心の趣くまま、読んだのに対し
て、秋声は、紅葉訳とされる『鐘楼守』にしても、英訳本を参照して、か
なり厳密に訳している」(30p)と、その姿勢の違いを明らかにしている。

そのうえ、秋声はと言えば、田山花袋と異なって、翻訳から「本質的に影
響らしい影響をほとんど受けず、我が国の風土、暮らしに根付いた、すぐ
れた自然主義的文学を生み出すことになった」。

以下、秋声の伝記と文学論が続くが、国文学ファンでもなければ、徳田文
学の意味は、卒論のテーマにもないにくい時代となった。

それにしても、この徳田秋声と三島由紀夫研究とは、松本氏の脳裏のなか
で、いかなる相関関係になるのか?

10年ほど前に金澤の徳田秋声文学館開所式に行くという松本氏に訊いたこ
とがある。「それは、三島研究の合間に、息抜きとして徳田秋声がちょう
ど良いのです」という意味のことをいわれて、なるほど、そういう相関関
係の方程式で、この謎がとけたような気になったのである。
             
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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 皇帝の如くに金正恩を呼びつけたが
  はたして習近平の独裁度は、どの程度なのだろう?

  ♪
宮崎正弘『習近平の死角』(育鵬社、発売=扶桑社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

憲法改正により終身独裁の道を開いた習近平。北朝鮮の核問題で存在感を
示せなかったが、米朝首脳会談直前に皇帝のごとく金正恩を呼びつけ、北
朝鮮の後ろ盾をアピールした。

そんな独裁者的な言動とは裏腹に、中国の国内外に、習近平の地位を脅か
す5つの懸念が広がっている。

!)幹部の間で外交スタンスがバラバラ

!)軍の掌握ができていない、

!)ライバル「団派」との権力闘争、

!)対米貿易戦争

!)国内経済の悪化

などだが、いずれも対応の仕方を間違えると、習近平の権力基盤が一気に
揺らいでいく可能性がある。

南シナ海の実効支配や尖閣問題のように覇権主義的な行動を推し進める中
国に対して、独立国日本はどのように対処すべきなのか。

本書は、中国評論家として第一人者の著者が、混乱する中国の実情を国際
政治の観点も交えて読み解き、同時に習近平の政治基盤の脆弱性がもたら
す危険に対して警鐘を鳴らす。
             (『夕刊フジ』、7月10日付けより再録)

    
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2018年07月13日

◆トランプの中国制裁関税

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月12日(木曜日)通巻第5758号  

 トランプの中国制裁関税、ハイテク企業買収もなんのその
  中国は航空機産業の中堅、特殊技術企業をすでに数社買収している

 AVIC(中国航空工業集団有限公司.)は中国最大の航空機製造グ
ループで、国有企業である。従業員は全体で56万人のマンモスである。
ジェット戦闘機、爆撃機、ドローンなどの製造でも有名だが、民間旅客機
も製造する。

その実態は中国空軍であり、2008年に中国航空工業第一集団(AVIC I)と
中国航空工業第二集団(AVIC II)とが合併した。ハルビン工場はブラジ
ルの航空機メーカー「エンブラエル」との合弁。同年に欧州のエアバスと
天津に合弁工場を開設し、2010年に米国エピックエアクラフト社、テレダ
イン・テクノジー社を買収した。

さらに2011年には、子会社の中航通用飛機を通じて、米国の航空用エンジ
ン・メーカーであるコンチネンタル・モータースと、シーラス・エアクラ
フトを買収した。

AVICは111の企業集団、36の研究開発センターからなり、工場はハル
ビン、成都、西安、南昌などに分散されている。

落ち目だった米国の航空産業を飲み込んだため、いきおい注目を集めた
が、以後、米国インテリジェンス機関の監査の対象となって、かれらのス
パイ活動を監視してきた。

もちろん、AVICはボーイング、ノースロープ・グラマン、ゼネラル・
ダイナミックス、ロッキード・マーチンなどの大手の軍需産業を狙ってい
るのではなく、その部品やエンジンなどを製造する中堅メーカーを標的と
してきた。中小の部品メーカーなどは所有する特許ごと買収された。

米国だけに留まらずAVICはドイツの「ティレート航空機エンジン」
社、英国のAIM(レーダーパネル、ミサイル格納庫、センサーなどを製
造)、同英国のジロ工業(ロータリー・エンジン)なども買収している。

一方、エンジニアとして米国企業に潜り込んだ中国人スパイは、最高機密
の技術情報、設計図などをせっせと盗み出した。

ボーイングに潜り込んでいた中国人スパイのグレッグ・チュン(音訳不
明)をB2爆撃機、スペースシャトルなどの機密を盗んでいた容疑で逮
捕、チェンは、ほかにチ・マク、グ・ウィエハオら共犯者と組んで、航空
機製造過程の設計図やノウハウなど機密書類を盗み出し、中国軍と関係の
深いAVICに売り渡した容疑で起訴され、それぞれが16年から24年の懲
役刑に処せられた。

AVICは戦闘機のほかに輸送機、武装ヘリ、地対空ミサイル、巡航ミサ
イルなども生産しており、いかに米国雄航空宇宙産業が、中国の間接侵略
に無警戒であったかをしめしている。
      
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 加賀藩下級武士の末っ子、幼き頃からのペシミズム
  這い上がっても、そこに理想はなかった。徳田秋声の生涯

  ♪
松本徹『徳田秋声の時代』(鼎書房)
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かなり長い時間、ツンドク状態だった。三島由紀夫研究の第一人者が、
「なぜ? 徳田秋声なのか」

加賀藩の下級武士の小倅、廃藩置県で父は職を失い、一家離散。ペシミズ
ムが身についている。

徳田は当時の文学状況に、尾崎紅葉や二葉亭四迷、坪内逍遙の活躍を夢見
ながらも、「そこに自身の目標だとか理想はなかった。その点で(秋声
は)怖ろしく冷淡で、冷めていた。それというのも、そこに理想を見出し
たところで、没落の過程に身を置く者が、どうしてそれを目指して進むこ
とが出来るだろう。自分はその資格を欠いた者、との気持がいよいよ深ま
る一方だったのである」(171p)。

そうした青春時代に転機がきた。

徳田秋声は泉鏡花と並んで尾崎紅葉門下、もうひとりの弟子は田山花袋で
あることは知っていたが、現代日本人から見れば、いかにもかび臭い作
家、そういえば徳田秋声には『黴』という作品もありましたが。

評者(宮崎)にとって、秋声と泉鏡花は石川県人なので、親しみはある
し、室生犀星とともに、金澤には文学館もある。釈超空も、鈴木大拙も石
川の人である。文学、哲学で、巨人を産んだ叙情の豊かな土地だったけれ
ども、いまや石川県は「巨人の松井」という選手が有名なだけ。

お国自慢はそれくらいにして、徳田秋声は通俗小説と自然主義文学との境
目を、はてしなく彷徨した。流浪の貧困人生。ある日、突然流行作家になる。

なぜ流行作家になれたのかと言えば、正統な評価からではなく、かの檀一
雄と同様に、現在進行形のフリン物語を書いた。檀には、『火宅の人』が
あって、映画にもなって、ベストセラー。本来は浪漫派の作家だった。傑
作は『花かたみ』と『夕日と拳銃』だろうが、誰も顧みない。

徳田秋声もまたフリンの実話(いわゆる「順子」もの)を現在進行形で連
載小説とし、完成前に映画になるという時代の寵児だった時期がある。

しかし尾崎門下時代は、英語力を買われ、片っ端から西洋の小説を翻訳し
て糊口を凌いでいたという。

翻訳は自ら丸善に出むいて選択するのではなく、紅葉のもとに新聞社、雑
誌社から翻訳依頼がきて、その仕事を貰っていたということで、他方、田
山花袋はモーパッサン、ゴンクールに集中した。

松本氏はこう書く。

「取り組み方が対照的であった。花袋は能動的、秋声は受け身的である。
また、花袋は理念的、秋声は実際的と言って良いかもしれない。しかし花
袋は、自分の語学力もあまり気にせず、関心の趣くまま、読んだのに対し
て、秋声は、紅葉訳とされる『鐘楼守』にしても、英訳本を参照して、か
なり厳密に訳している」(30p)と、その姿勢の違いを明らかにしている。

そのうえ、秋声はと言えば、田山花袋と異なって、翻訳から「本質的に影
響らしい影響をほとんど受けず、我が国の風土、暮らしに根付いた、すぐ
れた自然主義的文学を生み出すことになった」。

以下、秋声の伝記と文学論が続くが、国文学ファンでもなければ、徳田文
学の意味は、卒論のテーマにもないにくい時代となった。

それにしても、この徳田秋声と三島由紀夫研究とは、松本氏の脳裏のなか
で、いかなる相関関係になるのか?

10年ほど前に金澤の徳田秋声文学館開所式に行くという松本氏に訊いたこ
とがある。「それは、三島研究の合間に、息抜きとして徳田秋声がちょう
ど良いのです」という意味のことをいわれて、なるほど、そういう相関関
係の方程式で、この謎がとけたような気になったのである。
            
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 皇帝の如くに金正恩を呼びつけたが
  はたして習近平の独裁度は、どの程度なのだろう?

  ♪
宮崎正弘『習近平の死角』(育鵬社、発売=扶桑社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

憲法改正により終身独裁の道を開いた習近平。北朝鮮の核問題で存在感を
示せなかったが、米朝首脳会談直前に皇帝のごとく金正恩を呼びつけ、北
朝鮮の後ろ盾をアピールした。

そんな独裁者的な言動とは裏腹に、中国の国内外に、習近平の地位を脅か
す5つの懸念が広がっている。

 !)幹部の間で外交スタンスがバラバラ
 !)軍の掌握ができていない、
 !)ライバル「団派」との権力闘争、
 !)対米貿易戦争
 !)国内経済の悪化
などだが、いずれも対応の仕方を間違えると、習近平の権力基盤が一気に
揺らいでいく可能性がある。

南シナ海の実効支配や尖閣問題のように覇権主義的な行動を推し進める中
国に対して、独立国日本はどのように対処すべきなのか。

本書は、中国評論家として第一人者の著者が、混乱する中国の実情を国際
政治の観点も交えて読み解き、同時に習近平の政治基盤の脆弱性がもたら
す危険に対して警鐘を鳴らす。
             (『夕刊フジ』、7月10日付けより再録)

2018年07月11日

◆ポンペオ、3回目の訪朝の成果はなし

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月10日(火曜日)通巻第5756号 

ポンペオ、3回目の訪朝の成果はなし。「強盗の要求ばかりだった」
  「交渉は二年半かかるだろう」というポンペオ発言の深い意味

CIA長官として秘密裏に訪朝したポンペオ(現国務長官)は、5月1
日に金正恩と会見し、戦後初の米朝首脳会談の実現を取り付け、2回目の
訪朝では人質3名を解放させ、特別機に同乗させた。

3回目は初めて平壌に宿泊し、帰路日本に立ち寄って日米韓の3カ国外相
会議をこなし、そのあとベトナムへ飛んだ。

ボンペオ国務長官の。表向きの北朝鮮訪問は3回、ほかに秘密訪朝が2回
有ると言われているが、公表はない。

さて、米朝首脳会談直後に、ポンペオは「交渉は2年半かかる」と発言を
しているが、このメッセージは何を意味するのか?

第1に「2年半後」のタイムスパンをみると、大統領再選を狙うトランプ
が2020年夏から初秋にかけて、「劇的な」成果を必要とする。再選を圧勝
で飾るためには北朝鮮との妥協、もしくは戦争がおこる可能性が高い。

第2に北朝鮮はまだ本当の核武装をしていないというのがアメリカの見積
もりである。たしかに核爆発実験は成功させた。ミサイルは4400キロ飛翔
実験に成功させた。しかし、核の小型化と、ミサイルへの搭載は、技術的
に成功しておらず、最低みつもっても、あと2年はかかるだろう。

第3は在韓米軍の撤退である。米韓の軍事演習は中止された。韓国軍、保
守派ばかりか日米関係国や中国すら驚かせたが、トランプはすでに韓国を
見限ったとみると、軍事演習中止のつぎは、在韓米軍の撤退である。
 
それが2年半後、そして在韓アメリカ人が不在となれば、安心して
(?)、北朝鮮攻撃に移れる展望が開ける。

どうやら、そうしたシナリオがトランプ政権にはあると筆者は推測するの
である。だから、非核化交渉の詰めを急いでいないのではないのか。

2018年07月10日

◆かくて「米中百年戦争」が開始された

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月7日(土曜日)通巻第5753号 

 かくて「米中百年戦争」が開始された
  関税による貿易戦争は50年つづく、経済史未曾有の大戦になる

トランプ大統領は、決意を翻さなかった。2018年7月6日を後世の歴史家
は「米中百年戦争が開始された」と書くだろう。中国からの輸入品に25%
の高関税を課して、過去の損失分を取り返すという報復的な手法は、単純
なバランス上の問題ではない。

米国からみれば、世界のヘゲモニーを中国には渡さない、という戦略的決
意の表明であり、繰り返し述べてきたように、商いレベルの発想ではない
のである。

潜在的な米国の目標は中国のBRI(一帯一路)と[MADE IN 
CHINA 2025]の実現を阻むか、あるいは大幅に遅延させることにある。

WTOに加盟させれば、ルールを守り、中国が経済的に豊かになれば、民
主化が達成されるとした米国の読みは真っ逆さまに外れた。

WTOのルールを何一つ守らず(外資参入条件も、金融市場の整備も、変
動相場制への移行も)、欧米から先端技術を盗み出して創ってきた模造品
も、世界のハイテク競争に伍せるほどの高いレベルに達し、同時に民主化
に背中をむけて、デジタル全体主義国家を実現した。

これらは欧米ならびに日本、インド、アジア諸国の価値観とも巨大な懸隔
がある。だがアセアンやインド経済圏の多くも中国の経済的軍門に下っ
て、米国との絆を薄めてきた。米国にとっては由々しき事態の到来だった。

7月6日午前零時を期して、関税率の適用が開始され、中国はただちに応
戦した。米国からの輸入品に25%の関税を課す。これは中国の消費者に
とって、大豆の価格が上がればインフレになる。豚肉もトウモロコシもあ
がる。中国のメンツどころではないはずだ。

 ▲ペロポネソス戦争は半世紀、ポエニ戦争は1世紀以上続いた。

 「米中貿易戦争は50年続くだろう」と中国のエコノミストの一部も予測
をしている。

 アテネとスパルタの「ペロポネソス戦争」は2次にわたり、第1次
(BC460−445)は混戦、第2次(BC431−404)はスパルタの勝利に終
わり、ペルシアを巻き込んで、結局はマケドニアの台頭を促した。世界の
文明の発祥といわれたギリシアの国力は弱まり、やがて衰退に向かった。
ペロポネソス戦争は54年続いたのだ。

 ローマがカルタゴを滅ぼした「ポエニ戦争」は3次にわたり、第1次
(BC264−241)はシチリアをめぐり、第2次(219−201)では猛将ハン
ニバルがローマに迫った。第3次(149−146)でカルタゴは、今日の日本
のように無防備で戦って滅ぼされた。じつにポエニ戦争は118年続いた。

 「米中百年戦争」は、いつを以って始まりとするかは後世の歴史家が算
定するだろうが、シナ事変から中華民国支援を開始し、第2次世界大戦以
後、とくに朝鮮戦争以後、敵対関係となった米中関係を「第1次」と見る
ならば、現在は貿易を巡っての「第2次米州戦争」であり、ローマと戦っ
たカルタゴのハンニバルの猛追こそは、BRIと[MADE IN 
CHINA 2025]であり、おそらく中国の負けとなるだろう。

しかしその後も膂力を失わず、中国が臥薪嘗胆を果たすとするならば、米
国の衰弱もまた自明の理であり、EUは末期的、日本は退嬰的、インドは
興隆の途上。であるとすれば、半世紀後の米中戦争がどちらに軍配があが
るかは不明である。
 
          
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1756回】         
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(12)
  中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

              △
 合弁で着手した吉長線の建設において満鉄側は満鉄の基準で延伸を目指
すが、「支那總辨」は自己の都合を持ち出すのみ。最後には、そこまでい
うなら満鉄側で「(支那側の)一萬哩の既設鐵道を破壊して、之を滿鐵式
に改め」るべきだとまで言い張る。
じつは最初に定款を作る際に失敗していたのだが、当事者である「我外務
當局は、彼が斯の如く傲慢なる應答に對して、一言も返すべきを知らず、
以て不便の儘今日に及」んでいる。

 万事が自己本位で都合が悪くなると「有耶無耶」に終始し、時に「空
威張りの言辭を弄」す。冷静に考えれば双方共に損にしかならないのに、
「彼は自ら犠牲を拂ひても、我に損失を與へんとするものゝ如く」であり
「其不便測る可からざるものあり」・・・ヤレヤレ、である。昔も今も。

 「最近我國は滿蒙五鐵道の布設權を獲得した」などと「山本内閣は俄
に得意の色」をみせるが、はやり「其條件に至りては甚だ曖昧」だ。
じつは相手方は「其名義を日支合辨とすべし」と主張するが、資材は日本
が提供しろ、技術者は日本が雇え、借款の金利は超低めに設定せよと主張
する。
「斯の如き鐵道を布設して、支那人に勝手放題に振舞はれ、鐵道に沿ひて
我國民の土地所有權を得ざるは勿論、居住さへ覺束なかるべき愚を見んと
して、猶も得意の色ある我外務省は、精神全く錯亂せるに非ざるか」。こ
う記されると、「精神全く錯亂せるに非ざるか」は、21世紀初頭の今日ま
で脈々と受け継がれる「我外務省」の伝統と考えざるを得なくなるから情
けない。
「精神全く錯亂せる」は「我外務省」の病理、いや業病、はたまた宿痾な
のか。どちらにしたところで不名誉極まりないだろうに。

 中野は議論を一歩進める。
 「序でながら合辨々々と稱して支那と取組みさへすれば、以て經濟的發
展を成し得べしとなす我政府者の蒙を啓き置くべし。合辨は固より不可な
けれど、合辨の後方に信用を有し、合辨の協約に十分の權利を確保せざれ
ば、支那人との共同事業は悉皆失敗に終わるべし」。その証拠に、「今日
までの日支合辨にて成功せるものは一として是なしと言う」ことができ
る。吉長線が「其好例なり」。

 最悪の一例として鴨緑江採木公司を挙げる。同社は資本から役員まで
折半としたところ、役員も上から下まで2人。ということ半数はムダなの
である。
そのうえ「支那人の猜疑心、利己心は遺憾なく〔中略〕發動し、我にして
一人出張せしむれば、彼も亦同時に一人を出張せしめて、以て出張員を監
視し、併せて旅費の請求」まで行う始末だ。
 「合辨事業の前途有利なるを説くもの」があるが、彼は「利權云々を口
にして已まざる國民なれば」、「彼の勢力毫も事業の上に行われ」ない。
経験からすれば、やはり「支那人が事務に關與する程度に反比例して、成
功の見込みを増減せらるべし」である。

 これを要するに「支那人を交ふれば必ず悲境に陷り、全然支那人に委
ぬれば必ず失敗す」。じつは「中華を以て誇りとする支那人、個人の商業
道徳に於ては實際中華の名に背かざる支那人も、公共的事業に對しては全
く能力なきものゝ如」し。
だから「凡そ事の公共に關する限りは出來得るだけ誤魔化して出來得るだ
け己を利せざれば已まざらんとするものゝ如し」。

 「斯の如く支那人に合資合力上の經營の能力なし」であればこそ、合
弁を掲げても「其實權全く我手」に掌握しない限り、「合辨事業の前途は
頗る悲觀すべきに非ずや」。

 彼らの性向から考えるなら合弁事業に手を出すべからす――中野の主張
は、以後現在に至るまでの数々の合弁事業が傍証している。
やはり「利權云々を口にして已まざる國民なれば」、「支那人が事務に關
與す」ればするほどに大損害を被るのは日本側なのだ。



2018年07月09日

◆裏口入学なんてメじゃないって

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月8日(日曜日)通巻第5754号 

裏口入学なんてメじゃないって。予備校もカンニング機器の販売に手を貸した
  受験を欺く新兵器の数々、消しゴムに隠された補聴器、指紋のニセモノ

詐欺にかけては世界一の技術を誇る国は?
正解はシナ。指摘する必要もないだろう。裏口入学で日本は大騒ぎをして
いるが、コネによる裏口入学が常識でさえある中国で、昨今、話題となっ
ているのはカンニングの新兵器である。

当局は5月24日に李と名乗る入試カンニング機器販売の主犯格を逮捕し、
出荷寸前だった10万個の「機器」を押収した。不正な機械を販売してきた
12の団体を手入れし、容疑者を拘束した。

この国家考査(全国統一模試)を突破するためにカンニングの新製品が
年々歳々向上していた事実が浮かび上がった。

予備校の中には、この機器を購入したところが8校もあったという(サウ
スチャイナモーニングポスト、2018年7月7日)。
 
まず指紋である。身代わり受験を防ぐための中国の模試会場の入り口で指
紋の照合がある。荷物検査は金属探知機があり、ここを突破する新しい、
金属探知機にみつからない兵器が求められていた。

注目は小さなイヤホンで、金属探知をのがれる。また消しゴムに内蔵され
たスクリーンや計算機を偽造した液晶パネル。これらを入試会場から三キ
ロ以内に陣取るグループが問題を解いて受験生に送るシステムであり、
やっぱり中国人の発想は違うなぁと感心するばかりである。

ロス米商務長官は中国を「ルール違反常習」とは言わず、「貿易の詐欺
師」とまで酷評したが、科挙試験以来、替え玉やカンニングは彼らのお家
芸であり、あげくは入試不合格でも、つぎは有名大学の「卒業証明」の偽
造である。

      
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 終戦から半年後に、通化では日本人3千人が惨殺された
  この中国軍がやった「通化事件」のことを戦後史家はなぜ書かなかっ
たのか

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加藤康男『八月十五日からの戦争 通化事件』(扶桑社)
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日ソ中立条約を破棄してスターリンは満州への侵攻を命じた。

8月15日まで防衛線と要塞を死守した日本軍は多くで玉砕した。満州各地
では激しい戦闘がつづいたが、陛下の玉音放送で、ぴたりと戦いをやめ、
降伏した。スターリンを信じて、迂闊にも武装解除に応じてしまった。

まさか、ソ連兵が日本軍兵士をシベリアに抑留し、また残留日本人をあれ
ほどの残虐性を示して虐殺、國際ルールの無視をやるとは、善意の日本人
の想像を超えていた。戦車で日本人をひき殺し、婦女子は暴行したうえで
殺害し、あらゆる物品を奪った。

この残虐に輪をかけて、人類の想像を超える残酷をみせたのが中国人の武
装ゲリラ、朝鮮人の盗人集団などである。

当時、満州にはこうした匪賊が3百万人ほどいた。

本題の「通化事件」とは、戦争がおわって半年もすぎたときに、引揚げを
待っていた日本人が3千人も惨殺された事件のことで、犠牲者は「通州事
件」の十倍以上である。河は血の海となって鮮血に染まった。

しかし日本はこの事件の抗議も行わず、沈黙した。だから誰も知らない。
加藤康男氏は、こうした戦後史の闇に葬られてきた事件を丁寧に掘り起こ
し、深層に迫る仕事を丹念に精密に調査されながら、息の長い、かずかず
の仕事をこなされてきた。

さて通化事件は、近年「通州事件」が知られるようになって慰霊祭も行わ
れていることとは対比的に、じつは殆ど何もなされていない。
通化事件は全貌の検証もされていないのだ。

評者(宮崎)は、通州事件のあとには2度行って現場を検証したが、じつ
は通化事件の現場にも足を運んで、つぶさに街をあるいた。

10年以上前のことで、まだソ連兵の司令部跡や、参謀部跡、処刑場のあと
などが確認できた。それを写真と地図入れで、拙著のどこかにワンチャプ
ターを建てて報告したのだが、いま、何という本だったかの記憶がない。
つまり誰も注目しなかったので、評者の問題提議に、これといった反応が
なかった。

しかし、いま加藤さんの新作がでるに及んで、本格的な慰霊や追悼講演会
などが企劃されても良いだろうと思う。

本書にはもう一つ、これまた誰もが忘れてしまった「お町さん」という女
傑の物語が挿入されている。

雲南省の山奥の拉孟(らもう)で、最後まで日本兵とともに敵と戦った慰
安婦の日本人女傑がいたことは、近年、桜林美佐さんの活躍でしられるよ
うになった。評者も8年ほど前に現場を歩いた。

お町さんとはどういう女性だったのか?

「お町は日本の女で御座います」と胸を張ってロシア、シナの匪賊と立ち
向かった。

お町さんの活躍ぶりは、当時遼寧省の安東(いまの丹東)で引き揚げ船を
まった芦田伸介や藤原作弥氏らの回想録、著作にひょいと名前がでてく
る。つまり敗戦後のどさくさに、ソ連兵の暴行を防ごうと、お町さんは立
ち上げり、「ソ連兵相手のキャバレーを創ったのだ」(安寧飯店)。

ただしプロの女性だけを雇用した、事実上の慰安所であり、これが防波堤
となって、多くの日本人女性を悪魔の被害から救った。

しかし、この女傑が経営したキャバレーは、八路軍から国民党のスパイの
たまり場と因縁をつけられ、お町さんは八路軍の手にかかって銃殺され
た。鴨緑江が血に染まった。

その女傑を顕彰する石碑は、じつは三ヶ根の殉国七烈士の墓場近くと、出
身地の吉崎御坊の近くに建立されていた。

 加藤さんはそれを見つけた。本名も探り当てた。関係者を訪ね歩く苦労
重ねながら、津軽半島の奥地から、福井の芦原温泉近くの出身地で、顕彰
碑を発見し、ついに石川県の願慶寺に建立されていたお墓にたどり着いた。

そこで住職が保存していた僅かに残されていた資料と写真を手に入れた。
ようやくにして、足で歩いたノンフィクションが完成した。

2018年07月08日

◆かくて「米中百年戦争」が開始された

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月7日(土曜日)通巻第5753号 

かくて「米中百年戦争」が開始された
  関税による貿易戦争は50年つづく、経済史未曾有の大戦になる

トランプ大統領は、決意を翻さなかった。2018年7月6日を後世の歴史家
は「米中百年戦争が開始された」と書くだろう。中国からの輸入品に25%
の高関税を課して、過去の損失分を取り返すという報復的な手法は、単純
なバランス上の問題ではない。

米国からみれば、世界のヘゲモニーを中国には渡さない、という戦略的決
意の表明であり、繰り返し述べてきたように、商いレベルの発想ではない
のである。

潜在的な米国の目標は中国のBRI(一帯一路)と[MADE IN 
CHINA 2025]の実現を阻むか、あるいは大幅に遅延させることにある。

WTOに加盟させれば、ルールを守り、中国が経済的に豊かになれば、民
主化が達成されるとした米国の読みは真っ逆さまに外れた。

WTOのルールを何一つ守らず(外資参入条件も、金融市場の整備も、変
動相場制への移行も)、欧米から先端技術を盗み出して創ってきた模造品
も、世界のハイテク競争に伍せるほどの高いレベルに達し、同時に民主化
に背中をむけて、デジタル全体主義国家を実現した。


これらは欧米ならびに日本、インド、アジア諸国の価値観とも巨大な懸隔
がある。だがアセアンやインド経済圏の多くも中国の経済的軍門に下っ
て、米国との絆を薄めてきた。米国にとっては由々しき事態の到来だった。

7月6日午前零時を期して、関税率の適用が開始され、中国はただちに応
戦した。米国からの輸入品に25%の関税を課す。これは中国の消費者に
とって、大豆の価格が上がればインフレになる。豚肉もトウモロコシもあ
がる。中国のメンツどころではないはずだ。

 ▲ペロポネソス戦争は半世紀、ポエニ戦争は1世紀以上続いた。

「米中貿易戦争は50年続くだろう」と中国のエコノミストの一部も予測を
している。

アテネとスパルタの「ペロポネソス戦争」は二次にわたり、第一次
(BC460−445)は混戦、第二次(BC431−404)はスパルタの勝
利に終わり、ペルシアを巻き込んで、結局はマケドニアの台頭を促した。
世界の文明の発祥といわれたギリシアの国力は弱まり、やがて衰退に向
かった。

ペロポネソス戦争は54年続いたのだ。

ローマがカルタゴを滅ぼした「ポエニ戦争」は3次にわたり、第1次
(BC264−241)はシチリアをめぐり、第2次(219−201)では猛将ハン
ニバルがローマに迫った。第3次(149−146)でカルタゴは、今日の日本
のように無防備で戦って滅ぼされた。じつにポエニ戦争は118年続いた。

「米中百年戦争」は、いつを持って始まりとするかは後世の歴史家が算定
するだろうが、シナ事変から中華民国支援を開始し、第2次世界大戦以
後、とくに朝鮮戦争以後、敵対関係となった米中関係を「第1次」と見る
ならば、現在は貿易を巡っての「第2次米州戦争」であり、ローマと戦っ
たカルタゴのハンニバルの猛追こそは、BRIと[MADE IN 
CHINA 2025]であり、おそらく中国の負けとなるだろう。

しかしその後も膂力を失わず、中国が臥薪嘗胆を果たすとするならば、米
国の衰弱もまた自明の理であり、EUは末期的、日本は退嬰的、インドは
興隆の途上。であるとすれば、半世紀後の米中戦争がどちらに軍配があが
るかは不明である。
 

2018年07月07日

◆中国人のアメリカ旅行者に警告

                             宮崎正弘


平成30年(2018年)7月6日(金曜日)通巻第5751号 

 米国の中国大使館が、中国人のアメリカ旅行者に警告
  治安が悪く、強盗が多いので十分に注意せよ、と意趣返し

トランプ大統領の発令した対中貿易制裁関税に呼応して、中国も大豆など
アメリカからの輸入品に高関税をかける。本日(7月6日)から適用される。

直前のタイミングを狙ってワシントンの中国大使館が中国人ツーリストに
警告文を出した。

「アメリカは治安が悪い。強盗が多いうえ、アメリカ人は中国人を警戒す
る。法外な医療費を請求される。人を信じないで、慎重に身の安全を注意
されたい」云々。日本の外務省が段階的に行う「渡航禁止」「渡航中止勧
告」、「渡航注意」ではなく、単なる注意書きのたぐいだが、アメリカが
課した高関税攻撃への意趣返しである。

しかし、すぐにあけすけなことをする中国って、韓国同様に分かりやすい
民族かも知れないなぁ。
       
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 盛んだった英雄崇拝の議論がなぜ消えたのか
  「歴史とは英雄の物語り」という発想がなぜ行方不明になったのか

  ♪
杉原志啓『波瀾万丈の明治小説』(論創社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@

題名を見ただけで、おそらく敬遠したくなる内容を想像するだろう。まし
てや粕谷一希から「本好きというより古本好き」と揶揄されたのか、称賛
されたのか、「無類の古本大好き人間」である著者が明治時代の文献を山
積みにして読破する、その風景を想像しても、なにやら書斎の黴の臭いが
漂う。

評者(宮崎)の友人にはやたら書斎持ちの人が多いが、とくに国文学や歴
史専攻の物書きの書斎は黴の臭いを伴うものである。

だから本書も、ツンドク状態で2ヶ月が過ぎた。

著者の杉原氏は坂本多加雄(故人、元学習院大学教授)の弟子筋であり、
また徳富蘇峰の研究家としても知られるが、反面、氏はジャズなどに親し
む音楽愛好家という反面教師的な顔を合わせ持つ。

本書が取り上げた作家は、徳富蘆花、泉鏡花、尾崎紅葉、国木田独歩、福
本日南ほか。しかし作家論というよりも、明治という不思議に高揚してい
た時代の背景描写に、作品論と併行しての力点が置かれている。

 ま、半分くらいは文学青年時代に読んだことがあるが、筋立てはほとん
ど忘れている。こんにち、これらの作家の著作は古本屋に行かないと入手
できないし。

さて、いくつかの隠れたテーマが並んでいるが、基軸を『波瀾万丈』とし
ているように、計算、打算を度外視して、身体から迸る熱気をぶつける覇
気、凝り固まった不動の信念、なにごとにも正面突破という人生観の荒々
しさは、たとえば尾崎紅葉の作品群で強烈な光りを放つ。

その熱気が冷めたのは明治後期である。

秀吉の朝鮮征伐を『英雄物語り』として語らなくなった。「『偉大なる征
服者』秀吉の事業として叙する物語など、いっさいみかけないこともいう
までもない。むろんまた、これは戦後われわれの目にする文禄・慶長の役
に関する研究のほとんどすべてが、『朝鮮征伐』ならぬ『朝鮮侵略』の物
語一色に蔽われているから」だ。(186p)

だが明治10年代には英雄論が花盛り、時代的には西?隆盛が城山に自刃し
た直後から西?礼賛の世論は強くあった。

カーライルの『英雄および英雄崇拝』(1841年、土井晩翠訳)がベストセ
ラーだった。

これは「社会は英雄崇拝の上に建っている」「歴史は英雄の物語にほかな
らない」という議論に代弁され、「この時代の知識青年層へ大きな影響を
およぼしている」

だがしかし、明治後期となると社会制度も変革され、人心も射幸心に動か
され、「英雄史観は衰退してゆく」ことになる。

英雄史観の「感化力と影響力に陰りが見えてくる(中略)。たとえば社会
の制度的、機構的システムが一応の完成に近付いてくる明治後半期にいた
ると、かねて『英雄崇拝』の精神をだれよりも声高に唱道していたといえ
るさきの山路愛山からして、『社会の老化』を憂い、『機関さかんにして
英雄衰ふる』などと論じていた」(189p) 

こんにちの論壇では乃木大将の殉死は「犬死」(司馬遼太郎)であり、
西?は英雄ではなく陰謀家であり、吉田松陰はテロリストなどと極端な英
雄蔑視議論が、一方で蔓延るという、老化現象というより社会の死が近い
末期的症状が顕著となった。

時代の変遷を考慮するうえで杉原氏の論考は有益だった。

2018年07月05日

◆10億ドルをせびる「開き直り」

宮崎 正弘


平成30年(2018年)7月4日(水曜日)通巻第5747号  

 オッと。こんな手もあったっけ。10億ドルをせびる「開き直り」。
  パキスタンがIMF管理になると、中国は困るらしい。

借金も余り大きくなると、借りている方が開き直るという手段がある。
 パキスタンでは、570億ドルという途方もない巨額を中国が投下して、
グアダル港から新彊ウィグル自治区まで、高速鉄道、ハイウェイ、原油と
ガスのパイプライン、光ファイバー網という世紀のプロジェクトを展開し
ている。

CPEC(中国パキスタン経済回廊)という。

ところが資金がかならず蒸発してしまうので、CPEC工事は、地区に
よって工事中断。それも数カ所におよび、いったい完成は何時になるの
か、はたして完遂できるのかという不審の声もあがる。

そのうえ、工事現場の大半を占めるバロチスタン洲は独立運動が盛んで、
パキスタン中央政府の統治がうまく及んでいない。クエッタでは、中国人
誘拐事件や殺人事件も起きている。

パキスタンは中国からの借金を返せず、西南部にあってインド洋に面した
深海=グアダル港を向こう43年間、中国のの租借港とすることを認めた。
スリランカのハンバントラ港は99年だから、パキスタンの43年という
のは、何が根拠なのか、パキスタンの国内法なのか、よく分からない。
99年とは「永久」と同義語である。

さてパキスタンはデフォルトの名人でもあり、2013年にも67億ドルを支払
えず、IMF管理となって、世界の金融機関は追加融資に二の足を踏ん
だ。そこでパキスタンの商人等は中国の商業銀行から金を借りた(その累
計も20億ドル近いという)

IMF管理になると、中国としては帳簿を監査されるなど、まずいことに
なるらしく、土壇場でパキスタンは開き直り、20億ドルの追加融資を要請
した。

さきごろパキスタンの執拗な要請に根負けした中国は、渋々10億ドルを
追加した。

ナルホド弱者の開き直り、って手段は、こうした場合には有効なんだ。

     
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1754回】         
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(10)
  中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

               △

中野は「鐵道に沿ひて我國の勢力の延長せる最北端」に位置する長春にお
いて、「量見の小さき治者」の管理・規制・指導をものともしない「帝國
住民の最も活氣を呈せる」姿に接し、「吾は愉快に堪へざる所」と綴る。

量見の小さき治者」の筆頭ともいえる満鉄は、「全く附屬地の總地主と
して獨裁的專制を人民の上に行」い、満鉄に盾突くようなことがあったら
直ぐにでも土地を取り上げてしまう。

「されば人民が安んじて永住の計畫を立てんなどゝは思ひもよらず」。満
鉄のような大会社が、こんな姑息な対応を執るべきではない。だが「滿鐵
の經理課は、斯くして、些細の事にまで立入りて其収入を多からしめんと
し、種々の非難を受けながら毫も改むるの意なきものゝ如し」。「量見の
小さき治者」が目前の“業績アップ”に汲々とする結果、国民の活力は殺が
れ国益は毀損されてしまうのだが、その責任が問われることはない。

「量見の小さき治者」を詰る一方で、中野は「活氣を呈せる」「帝國住
民」の歓待を楽しみ、その席上で見聞きしたことを記す。

長春には「意氣甚だ豪壮な」る人々の組織した長春倶楽部と名づけられ
た社交機関があり、「住民は一致して内外の困難に當る」ことを目的とする。

「外」とは「固より或は支那人、或は其の他の外國人に對する實業の競
爭」だが、「内」は「彼等の地主たり、專制家たり、代表者たる滿鐵、都
督府、領事館なり」。かくて中野は「覺えず失笑」せざるをえず。

「一人の快活漢」が「傍らに侍する紅裙連を捉へて」、「世人は此徒を卑
めども、凡そ日本國中に於て最も勇氣ある者は此輩なり、北滿といはず、
西伯利亞といはず、日本人の海外發展に最先鋒たる者は彼等なり。

商人は彼等の腰巻を擔ぎて後へに隨ふ。是れ比喩の言に非ず、實際に然る
なり此徒女流の進む所、必ず其腰に纏ひ、肩に掛くべき日本産の縮緬の類
を要す、意氣地なき日本商人は此種の貨物を擔ぎて、彼等より澪れ錢を得
んとするに過ぎず。彼等は國辱を晒すと稱せらるれども、余の見る所も以
てすれば、彼等ほど恥を知るを重んずる者は有らざるなり」と、「盛んに
彼等の爲めに気?を吐」いたという。

これを聞いて中野は「彼等」、つまり彼女たちの苦労と心意気を知れば
こそ、「日本民族發展の爲め、男子が活動するに何の難き所ぞ」と言い
切った。

古今東西を問わず、海外進出の先兵は「紅裙連」だろう。

その尻を追っかけ彼女らに寄生する牛太郎やらやり手婆の類が続き、小商
人が群がり紅灯の巷から嬌声が聞こえるようになると、本国から大企業や
ら当局やらの『本隊』が、やおらやって来て、あれこれ口煩く宣う。

そうなると、粗野だが活力溢れた雰囲気は後退し、小役人根性と屁理屈が
幅を利かせる面白味のない社会になってしまう。満州でもまた、そうで
あったに違いない。

長春は発展途上だった。

「自由經營の意氣ありて、官憲に攀ぢず、大會社に依頼せず、隨つて名士
高官の送迎抔に?禮を厭ふ長春同胞」の怪気炎を聞いた翌日、「日支合辨
の鐵道にて」吉林へ向かった。この鉄道の「設備の言語道斷なるは呆るゝ
の外なし」であるだけではなく、「其の經營の馬鹿々々しき事、其の不正
の行はるゝこと、凡そ支那人と合辨事業をなすより生ずる弊害」は数限り
がなかった。

この時代、すでに「凡そ支那人と合辨事業をなすより生ずる弊害」が指
摘されていたわけだから、やはり日本はどのような理由があれ「凡そ支那
人と合辨事業」なんぞに取り組むことは得策ではなさそうだ。

満州は「北に向ふに隨ひて、漸々土地豐沃」であり「滿洲の貴きを感
ず」。「長春より東に折れて吉林に向へば、其刻々に地味の豐饒」な大地
が続く。果てしなく広がる真っ黒い大地は、挿した箸から根が生えると形
容されるほどに地味が豊である。
         

2018年07月04日

◆GDPを50倍にした中国の「奇跡の裏側」

平成30年(2018年)7月3日(火曜日)通巻第5746号 

 僅か半世紀、GDPを50倍にした中国の「奇跡の裏側」
   対外債務の急増、外貨準備がまもなく底を打つ

「中国の時代」は終わりが近い。弔鐘が鳴り響き始め、その音色は暗い。

1970年、中国の一人あたりのGDPは113ドルだった。まだ中国は文革の
真っ最中で人々は猜疑心でおたがいに密告しあった。自転車と時計のある
家は「裕福」とされ、農家ではパンツ一枚を交替で履いて野良作業にでた。

1980年、改革開放直後でも、195ドルだった。世界の最貧国の一つだっ
た。外国企業の本格参入は80年代後半から90年代になされた。

90年代には繊維、雑貨、スポーツシューズなどの製造業が賃金の安さに惹
かれて進出したが華僑が中心で西側の大企業の進出は少なかった。

1990年代後半ともなると、ゴールドマンサックス、JPモルガンなど銀
行、証券企業も進出する。

2000年に貿易が躍進し、中国は「世界の工場」と言われた。1人あたりの
GDPは959ドル。女工さんの年収は720ドル前後だった。

2010年、北京五輪を終え、上海万博の年に、ひとりあたりのGDPは4561
ドルに急膨張していた。

そして、2017年の速報値は8000ドル、2018年推定で、中国の1人あたりの
GDPは8500ドル内外。1970年との対比で、じつに49・1倍である。これ
なら日本にやってきて爆買いも出来るし、温泉にも浸かれる。

1997年のアジア通貨危機のとき、中国の人民元は固定相場で管理されてい
たために被害を免れた。

インターネットビジネスは、この年から緒に就いた。

2009年のリーマンショック直後、中国は大胆な財政出動(57兆円)をなし
て、景気浮揚に努めた。摩天楼が林立し新幹線が中国全土を縦横に驀進し
た。すべては借金でまかなわれた。

以後、銀行から資金が供給され、市場はじゃぶじゃぶと金に溢れ、裏付け
のない、資金の垂れ流しは各地に幽霊マンション、ゴーストタウンを生み
出し、新幹線は2万3000キロに達し、企業は設備投資に狂奔した。結果、
在庫は山積みとなり、国有企業は再編の対象となり、失業者は都市部へ流
れ込み、学生は就職難となる。

これらを解決するためにAIIB、BRICS銀行を設立し、一帯一路
(シルクロード構造)を打ち上げる。しかしアメリカと日本はAIIBに参
加せず、シルクロードのプロジェクトには冷淡である。
 

 ▲なにがアメリカにとって脅威なのか?

 こうした流れを、トランプ政権が最大の脅威視する華為技術(ファウェ
イ)の発展史を適合させて比較してみよう。

華為技術(ファウェイ)は人民解放軍の工兵エンジニアだった任正非が
1987年に立ち上げた。資本金は僅か5000ドルでしかなく、しかしトウ
小平が訴えた「外国からの技術輸入を減らせ」と掛け声に便乗せず、軍の
技術開発を手がけてめきめき業績を上げた。

自主開発からはほど遠く、華為のスタート当初は外国技術の導入と通信設
備の販売だったのだ。

1993年、華為は創業以来初の自社製品、デジタル通信のスイッチをつくっ
た。この画期的な中国自主開発の発明に注目したのが江沢民政権だった。
 米国ではクリントン政権下で、ITバブルが始まっていた。「ドットコ
ム・バブル」の波は、瞬く間に中国にも波及し、固定電話の普及は遅れて
いたが、携帯電話の先駆けとなり、華為は経営を軌道に乗せた。

なぜならIBMを指南役に華為が技術開発を進行させたが、同時にシスコ
システム、デル、ヒューレットパッカードなど米国のIT企業が中国に本
格的に進出し、パソコン工場を増設していたからで、大学でのエンジニア
が大量に生まれ始めた時期にも重なった。

2000年代、華為は3G、4G通信で先駆的役割を担い、次世代5G通信で
は、世界的なトップランナーになり仰せた。アリババ、百度、テンセント
という中国を代表する企業と技術開発で競合しつつ、ソフトウエア、クラ
ウドにも進出し、習近平の唱える「MADE IN CHAINA 
2025」の旗艦企業となった。

いまや華為はスマホで世界一、通信設備ではエリクソンに次いで世界第二
位。特許出願件数で世界一(特許成立件数とことなるが)。

米国が危惧するのは、この華為技術が次世代技術の多くの分野で、世界市
場を寡占するのではないのか、米国の技術的優位が根底的に揺らぐのでは
ないか、とする懸念が根底にある。

しかしEU諸国は、この華為の進出に危惧感が稀薄である。華為の通信網
は世界的シェアを16%に伸ばしているがEUでは39%の急成長を達成
した。
ひとたび同社の通信システムに繋がれば、データが漏洩することは目に見
えているのに、米国並みの不安はないのである。

順風満帆だった中国経済だが、トランプ政権の制裁関税発動によって、先
行きの薔薇色のシナリオが崩れ始めた。
      

2018年07月02日

◆中国が南太平洋のバヌアツに

宮崎 正弘


平成30年(2028年)7月1日(日曜日)通巻第5744号

中国が南太平洋のバヌアツに巨大病院船を派遣
  南太平洋の島嶼国家に親善使節? 本当の目的は何か?

中国がバヌアツに病院船を派遣することが分かった。

「病院船」とは、戦争に伴い、負傷兵を収容し、緊急手術もできる「移動
する総合病院」であり、米軍は世界最大「マーシー」を保有する。これは
全長272メートル、横幅32メートル。排水量6万9000トンとまるで空母並み。
 
船内には1000の病床と12の手術室、霊安室まで用意されている。

1991年の湾岸戦争では、開戦とともに戦域海域に急遽派遣され、600人を
収容、300の緊急オペを行っている。

また2013年のフィリピン台風被害救済のトモダチ作戦でもレイテ島沖に派
遣され、自衛隊とともに救援活動を展開した。

距離的に近い中国からも初めて病院船が派遣され、西側の注目を集めた。

中国の病院船は「平和の方舟」とよばれ、これまでにもペルーや、グレナ
ダなどに友好親善、文化交流を元に派遣された。

現地では無料治療、老人ホームの往診、また上陸して現地の病院の医師等
と技術交流を深めるなど、しかし主に治療したのは現地駐在の大使館員や
駐在武官、留学英だったという情報もある。

この中国の病院船がバヌアツへ派遣されるとしたニュースに驚き、対応し
たのはオーストラリアである。

嘗てはフランスと英国が領有を争ったが、現在のバヌアツは豪海軍の守備
範囲であり、ターンブル豪首相はバヌアツとの間に安全保障条約締結の動
きを加速させたばかりのタイミングだった。

バヌアツはマグマを噴出させる火山で有名で、人口は僅か24万。芋が食
事の主体で、GDPは1人あたり4000ドル。

日本からは火山とスキーバダイビングを楽しむパック旅行もあるが、近年
は中国からのツアー客が目立つようになったという。

この背景には南シナ海を傘下におさめた中国海軍が、つぎに長期の戦略目
標として南太平洋にも照準をあてているからだ。

すでにサイパンには豪華リゾートを中国資本が建設中で、米国は活発化す
る中国の動きを監視している。

フランスと英国も海軍を南シナ海から南太平洋へ共同派遣することを決め
ている。

なお我が国の自衛隊は本格的な病院船を持っていない。湾岸戦争のとき、
135億ドルを拠出させられて、その後の後始末(掃海)もさせられた
が、米軍が望んだのは日本の病院船派遣だった。

しかし、憲法九条を抱える日本には戦争を想定しておらず、したがって病
院船建造という発想がないのである。

      
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIE 
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 儒教はなぜ世界的影響力を誇れなかったのか
  魅力に乏しく、自己中心の傲慢に導いた元凶が儒教ではないのか

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黄文雄『儒教の本質と呪縛』(勉誠出版)
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儒教は宗教ではないが、孔子廟があるように宗教的色彩を持っている。た
だし、儒教には「あの世」がない点で共産主義と似ている、と黄文雄氏は
言う。

「儒毒」にどっぷりと染まったシナは、救いのない文化を、世界一など
と自慢する。しかし日本は儒毒に染まらなかった。仏教と同時期に儒教は
日本に輸入されたが、聖徳太子は仏教を国教として、儒教を顧みなかった。

なぜなら、そこに日本と中韓の文化の根本的差違があるからだ。
 ヘーゲルは儒教の道徳観は市井でみられる通俗的モラルでしかないとい
う意味のことを書き残した。

福沢諭吉は「儒教は後世に伝われば伝わるほど、人の知恵と徳性を徐々
になくさせ、悪人と愚か者がますます多くなる。これからも儒教が世に伝
わると、禽獣の世界となり、今日に生まれながら、甘んじて個人の支配を
うける社会に停滞するしかない」。

凄まじい儒教批判である。

中江兆民は「江戸儒学も国学もいずれも真の学問ではない古代の陵墓を
掘り起こしただけで、宇宙と人生の道理をわきまえていない」ともっと痛
烈だった。

津田左右吉は「儒教が日本化した事実はなく、儒教とは、どこまでも儒
教であり、支那思想であり、文学上の知識であり、日本人の生活には入り
込まなかったものである。だから、日本人と支那人とが儒教によって共通
の教養を受けているとか、共通の思想をつくり出しているとか考えるの
は、まったく迷妄である」(『支那思想と日本』)

たしかに江戸時代、官学は儒教、とりわけ朱子学だった。

それは社会の安定に都合の良い学問であったため利用しただけで、ところ
が朱子学をとなえた高名な儒学者等は、夜ともなると陽明学に親しんだ。

山鹿素行、伊藤仁齋、荻生租来、熊沢蕃山、中江藤樹、この流れ は吉田
松陰、西?隆盛へと流れ込み、乃木大将、特攻隊、三島由紀夫へ 迸っ
た。この日本的陽明学は突き詰めていくと、シナの陽明学を超えて、 日
本独特のものである。

さて現代中国は世界各地に「孔子学院」なるものを設置し、道徳を教え
ようとして嘲笑され、欧米では孔子学院はスパイ機関と攻撃され、一部は
閉鎖に追い込まれた。

ほかの国でもせいぜいが中国語(マンダリン)を学ぶのに便利なところくら
いの認識しかない。

「孔子平和賞」なるはノーベル平和賞に匹敵するものと中国共産党が宣伝
したが、受賞した連戦も、プーチンも、いや村山富市も、ムガベ(前ジン
バブエ大統領)も辞退するか、授賞式出席を『遠慮』した。
 ことほど左様に儒教は魅力がないのである。

黄文雄氏はなぜ儒教の拡散力(すなわち影響力)が弱いかとして次の諸
点を上げている。
(1)そもそも魅力がない
(2)漢字文明の限界がある
(3)官僚による独占

かくして「儒教以外の思想や学問も、弾圧や度重なる大乱で多くが廃
れ、散逸してしまっています。中国固有といえる文化や文明が、東洋以外
の世界まで拡がることは殆どありませんでした」(31p)

それは中華思想という自己中心主義と、根拠のない優越感や自信過剰、
それから生まれてくる傲慢、唯我独尊的パラノイア。なんでも自己有利に
考える極端なエゴイズムと驕慢なご都合主義、他人を忖度しない傲岸不遜
が、人々をしてシナ人を忌み嫌うようにしてしまうからである。
 ソフトパワーとして、中国は儒教を世界に売り込むはずだった。

見事に失敗したあと、はて中国文化には世界に誇れるものが残って いる
のかと猛省するべきところだが、習近平は恥知らずにも「金こそが人
生」とばかりに賄賂を贈り「一帯一路」プロジェクトを推進し、その経済
的破産にむかってまっしぐらの暴走を続けていることになる。

    
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1753回】           
――「支那人は巨人の巨腕に抱き込まるゝを厭はずして・・・」――中野(9)
中野正剛『我が觀たる滿鮮』(政?社 大正4年)

              △

「都督の監督あり、滿鐵の行政あり、餘り有り難きに過ぎて、日本人は
却て恐縮せんとする」ような満州南部とは違って、満鉄に「沿ひて有する
我勢力の終點たる長春」は「都督府を去ること遠く、滿鐵本社を去ること
遠く、住民は此等の御世話より免るゝこと比較的容易」であり、加えて領
事は無能。「それだけに人民は官憲を便りにせ」ざるから活気が漲っている。

長春から転じて「吉林に至れば、此處に滿鐵の行政なく、都督府の監 督
な」いからこそ、「人民は却て滿鐵沿線に於けるものより活氣あり」。
またハルピンに至れば、「露國の治下に居る日本人」は「更に奮鬪力を示
し、更に敢爲の氣を示すと云ふ」。

こうしてみると政府当局による「出來損なひたる保護とか恩惠とかも 浴
せんよりは、我國の勢力範圍外に於ける方、却て我國民は順當なる發達
をなし得るものなり」。当局によるおためごかしの“保護・規制”が却って
民間の活力を殺ぐのは、海外であろうが国内であろうが、どうやら昔も今
も余り変わらないらしい。

ところで長春は「東清鐵道、西伯利亞鐵道も以てぺテルスブルグ及び 浦
潮に連り南滿鐵道、安奉鐵道によりて大連朝鮮に通じ、吉長鐵道により
て吉林に通ずる」ほどに「鐵道発達の要衝」であり、「習慣的商略の樞區
た」るゆえに今後の発展が大いに期待できる。であればこそ、「支那人の
戸口」は市街・郊外を合わせて11万余。「全滿洲の日本人八萬」を遥かに
凌ぎ、「其盛大想ふべきなり」。

とはいうものの問題がないわけではない。長春を含む「吉林省は紊亂 せ
る幣制の改良基金を國内に求むる能はざるや、勢ひ海外借款を得んと欲
し」ているが、ロシアも日本も断った。そこで登場してきたのが「近來後
れて馳せに滿洲の利源を狙ひつゝある米國」であり、「山東の一角を根據
として四方に向ひて虎視眈々たる獨逸」である。

米独両国をはじめとする列国は、これまで「他國の勢力範圍に向ひて 手
を下すことの甚だ友邦の尊嚴を傷くるを知れば」こそ、「日露戰爭なる
高き代償を拂ひたる」日本の満州に対する「優越權」を尊重し、「滿洲の
野に於ては隨分遠慮勝ち」であった。

だが「彼等の謙抑なる態度は、決し て永久に繼續すべきものに非ず」。
だから日本が「我にして毫も經濟的發 展を企つるの勇氣」を示さなかっ
たなら、「彼等も遂に堪へずして進み來 るべきは必然の勢ひ」となる。

だから「列國の經濟的侵略を排して我利權を滿洲に確立」しようとす る
なら、先ずは「外交の手腕」であり「經濟的冒險の勇氣」である。最近
になって「官僚と軍閥は滿蒙を確保すべく軍備の擴大を叫びつつ」ある
が、「滿蒙に於ける列國の經濟的侵掠は、軍事的侵略よりも遥に危險」と
いうべきだ。

ロシアは専ら外蒙に軍事的食指を伸ばしているようだが、「亦南滿の 幣
制紊亂せるを看取して、之に乘じて其經濟的發展を試みんとする活眼
者」はいるはずだ。満洲への新参者ではあるものの、やはりドイツは侮れ
ない。

それというのも「學問によりて人材を養ひ、人材を以て經濟的機關を運
轉」させているからだ。「故に世界の植民國中最も商業道徳を重ん」じ、
「最も商業政策の統一」があり、「最も製造品の良好なる國は獨逸な
り」。かくしてドイツは「世界の競爭場を蹂躙しつゝあり」。

翻って日本を見れば、たとえばロシア貨幣は「吉林省内の支那人間に 通
用すれども、日本紙幣の價値を知る者は殆ど」ない。日本に必要なのは
「經濟的冒險の勇氣」だ。

「紙幣を發行して獨り吉林と言はず、奉天、?龍の貨幣權を獲得」すべき
だ。このまま列国の進出を拱手傍観しては、なんのための満州ぞ、である。
悲憤慷慨・切歯扼腕・・・。

2018年07月01日

◆中国企業の社債

                                     宮崎正弘


平成30年(2018年)6月30日(土曜日)通巻第5743号 

 中国企業の社債、デフォルトがブーム(?)に
  ドル建て債券、高金利を謳っても応じる海外投資家が不在になった

中国企業の債務不履行(デフォルト)が異様な速度で急増している。

2016年度の債務不履行(デフォルト)は通年で6850億円だった。今年は上半
期だけで4000億円を軽く超えた。たぶん年内に1兆円を超えるだろう。
 とくに大手国有企業がドル建てで発行した社債が「紙くず」同然となっ
ているため、いまでは中国企業の海外起債は難儀を極め、大きな信用リス
クに直面している。

北朝鮮への制裁で直撃を受けた「丹東港集団」の債務不履行(日本円で
841億円)は原因がはっきりしているだけに、違和感はないが、景気が
よいはずの産業界でも、資金が枯渇して運転資金を銀行から借りられなく
なった。とくに集中しているのが石炭、鉄鋼、火力発電である。

その典型は中国儲能源化工集団(385億円)、東北特殊鋼(累計1200億
円)など、社債不履行の中国企業のリストを網羅し始めると数十頁にも及
ぶほどの悲惨な状態だ。

社債残高はちなみに300兆円、これはイタリアのGDP(288兆円)よりも多い。

国有企業である発電や石炭、鉄鋼という旗艦産業を習近平政権は救済する
意思がないのも、これら企業の多くが旧江沢民派や団派との関連が深いか
らだろうか。

また社債をだして数ヶ月も経過しない裡に、経営者が行方不明、失踪した
り、突如倒産したり、なかにはドル建ての社債を償還できない企業が頻出
し、海外投資家に信用不安をもたらす。このため、対中債券投資も激減し
てゆく傾向にある。とくに注目されたのが「北京東方園林環境」である。
170億円の社債発行を目指し、金利を7%としたが、集まったのは8億
55000万円、目標の20分の1でしかなかった。

つまり世界中の投資家が中国経済の末期的症状、その破産状態を掌握して
いるからである。2018年は半期だけで、すでにデフォルト額が4000億
円を超え、この雪だるま現象は急坂を転がるごとに膨らんでゆくだろう。

ドル不足にくわえ、中国は厳重な金融引き締め政策に転じており、国有銀
行は資金を市場に出さない。そればかりか中央銀行は国有銀行の預金準備
率を2ヶ月の間に1%さげて、通貨供給量を増やすとしながらも、市場に
潤いはなかった。

というのも実態は社債を株式に転換させて銀行が購入という手の込んだ遣
り方で、有力企業のパンクを防止し、債務不履行に陥る寸前の対策を講じた。

社債の格付けがAA格以下は不良債権化する怖れが強いために、銀行の担
保とならない。だから社債を株に転換させるのだ。見え透いた巧妙な延命
策である。

典型例は中国建設銀行で、たとえば武漢鋼鐵への債権240億元(4000億円)
を株式化した。同銀は山東能源集団、山西省能源集団への債権合計460億
元(7800億円)も株式に転換し、融資先の国有企業の窮状を救った。


▲つぎなるは「理財商品」というゴミの山の解決を先送り

こうした債務株式化は、4月から6月にかけての弐ヶ月間だけで推計17兆
円、このために中国人民銀行は預金準備率を同期間に合計1・5%切り下
げ、1兆円の余裕資金を銀行に持たせたのだ。

 金融専門家でなくともこの手品は分かる。
したがって香港の株式市場はすばやく反応して株安に転がり、また米国や
日本でも中国との関連の深い企業株は軒並み下落した。

 ついで中国は「陰の銀行」(シャドーバンキング)の規制導入を三年先の
2021年に延ばした。ゴミの山の典型が「理財商品」で、その累計残額は
500兆円をかるく超えている。
事実上の不良債権である。これを帳簿上、かくすための手口として銀行が
活用してきたのだ。

 規制は理財商品の焦げ付きを回避させるために「激変緩和措置」なるも
のを導入し、同時に投資先の理財商品(投資信託のたぐい)の時価評価方式
の導入も先送りした。
 
これは旧規制の理財商品をまた発行して償還資金を捻出することができる
という、途方もない借金の引き延ばしであり、理財商品の投資先に対して
時価評価を適用しないという、帳簿の誤魔化しの奨励である。

 身近な例をあげて考えてみると、A社はB銀行から1000万円を年利8%
で借りた。B銀行はこの債権を「理財商品」として系列のCファイナンス
に移し替える。
一年後、利息だけ返したが、元金は返せないので、金利を10%とした。
つまり80万円の利息は払い、なおかつ一年後の返済は1100万円となる。そ
してまた一年後、こんどは元本どころか、利息も払えないので、金利
12%にしてもらい支払い猶予とした。元利合計が1232万円となる。
 そしてまた一年後、返済不能につき金利を14%とした。元利合計1404
万強となる。返済は絶望的である。
 
 この1404万円をB銀行の子会社のシャート―・バンキングC社は不良債権
であるにもかかわらず時価評価で貸借対照表の「資産の部」に計上する。
まさに粉飾決算の手口である。粉飾を国家あげて招請しているというポン
チ絵だ。
 いってみれば国有企業、国有銀行の救済を、搦め手で行うのである。

 一方で中国税務当局は企業減税を実施した。
つまり倒産の危機に追いこまれた海航集団(HNA)などの救済が実際の
目的である。有利子負債が巨大な海航集団は資産売却などで当座を繕って
きたが、この企業は王岐山の親戚が関係する、いってみれば共産党高官の
利権企業だからだ。