2018年09月19日

◆中国とパキスタン

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月17日(月曜、祝日)通巻第5833号   

 中国とパキスタンの「友誼」関係は変化。緊張状況にある
  王毅外相のパキスタン訪問直後、パキスタン陸軍大将が北京を訪問

このところ、パキスタンへの出入りが激しい。ポンペオ米国務長官は、中
国主導のシルクロード、すなわちCPEC(中国パキスタン経済回廊)に
対して中国が620億ドルもの巨費を注ぎ込んだ結果、西端のグアダル港は
43年間、中国が租借することになった経過を踏まえ、「IMFの救済は難
しい」と述べた。直前にトランプ大統領はパキスタンへの援助を中断した。

ポンペオのイスラマバード訪問の翌日、中国外相の王毅がイスラマバード
を訪問し、イスマン・カーン首相に真意を問いただし、シルクロードプロ
ジェクト継続の意思を確認したという。

カーン政権の誕生の後ろ盾はパキスタン軍である。

その軍の事実上のトップはバジワ陸軍大将である。そのバジワ将軍が9月
16日、北京を訪問したのだ。

カーン新政権を背後で操る立場にある陸軍大将の発言には重みがあり、会
談内容は公にされていないが、マハティール同様に、借金の返済が覚束な
いことは、パキスタン経済の将来に暗雲を呼ぶ。収支バランスの悪化はパ
キスタン通貨の暴落を招く。つまりパキスタンの安全保障に直結する問題
だとする認識を表明したという。

過度の中国傾斜はシャリフ前政権であり、パキスタン国民が中国を快く
思っているわけではない。

そのうえ、パキスタン財界は、商都カラチが中心であり、およそ20の
ファミリーが銀行経営や物流を握っていてパキスタン経済を牛耳るとされる。

カラチ財界は、ハク政権(ソ連の謀略で暗殺された)、ムシャラフ政権
(陸軍のグーでターでシャリフ政権を打倒し、米国と協調関係を結んだ)
という軍事政権を通じて、米国とビジネス関係を深めることで成長した。

このカラチ財界も、カーン政権の後ろ盾になると想定されており、中国は
こうした動きを神経質に捉え直したため、両国は緊張した状況に陥った。


 ▲CPECなんぞより、水資源確保のダム建設を急げ、とカラチ財界

カラチはパキスタン最大の都市であり、アラブ諸国の進出が夥しい。国際
金融都市でもある。

しかしカラチ市政最大の悩みは、じつは水不足である。

1947年の水供給に比較すると、カラチの水源は6分の1に激減しており、
シルクロードなんぞよりダム、浄水場建設が急がれるべきだというのがカ
ラチの意見である。

このため9月16日にカーン首相は日帰りでカラチを訪問し、市長などから
意見を聞いた。「ダムが必要なことは分かっている」としたうえでカーン
首相は「中国は8万4000ケ所のダムをもち、うち5000は大規模なダムであ
る。インドでも5000のダムがある。わがパキススタンにダムが不足してい
ることは明らかだが、予算をダム建設に割けるだけの余裕がない」とした
(パキスタンの英字紙『ドーン』、9月17日)。

    
  
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1790回】              
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(15)
  徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

         △

「如何に名殘惜しきも、12月6日午前11時」、徳富は青島を離れ黄海を真
東に向い、翌7日には「約3個月振りに、馬關に上陸」、「8日夜、最大
急行車にて發す」。9日朝には神戸を経て、夜8時半東京駅着。その足で
「予が青山草堂に還」り、前後86日間に及んだ旅行が終わる。

以上で『支那漫遊記』前半の「禹域鴻爪?」が終わり、後半の「予が旅
行中の感想を、歸朝後追記したる」ところの「遊支偶?」となる。

『支那漫遊記』の巻頭に配した「陳言一則」によれば、徳富の論説は彼が
主宰する『國民新聞』に掲載され、その都度、「支那新聞の之を譯載した
るもの一、二にして足らず」。そこで支那新聞の側から相当の批判があっ
たようだ。

かくて徳富は「希くは吾人が唯だ事實と信ずる所を、直書したるものとし
て容恕せよ、如何に其言は露骨痛切なるも、吾人の支那及び支那人士に對
する、深甚多大の同情其物が、其の根本思想たることを識認せよ」と断わ
りを入れ、また日本人読者に向っても「我が邦人も亦た、吾人が支那僻に
向て、若干の尋酌を與ふる所あれ」と“予防線”を張り、最後を「蓋し支那
問題を解釋するの管鍵は、單に乾燥なる智識のみならず、又た眞摯なる同
情に俟たざる可らざれば也」と結んだ。

「遊支偶?」は以上の視点に基づき「(一)前遊と今遊」から「(八六)
多大の希望」まで、徳富の関心が赴くままに小項目を立て論じている。そ
こで、小項目に沿って読み進めることにする。]

 ■「(一)前遊と今遊」
 前回は日露戦争直後でもあり、交通の便も含め旅は困難を極めた。だが
今回は日支双方からの便宜供与もあり、先ずは快適な旅であった。

 ■「(二)妄言と妄聽」
 先ず徳富は「支那に關する吾が智識の、年と與に、如何にも一膜を隔
てゝ何となく齒痒さを覚えたるが爲めに、支那其物に接觸せんと欲した」
からと、旅行目的を明らかにした。実際に足を運んだ結果、「眼前に支那
其物を見、電報や、郵信や、新聞や、其他に於きて聞き得たる支那と非常
の差別あるを感得したり」。俗にいう“聞くと見るとでは大違い”というこ
と。だが徳富は「敢て感得と云ふ」が、「推定と云はず、又た觀察と云は
ず」とする。

 ■「(三)社會の變遷」
12年前の前回の旅行は清国時代であり、「滿目辮髪にして、云はゞ辮髪是
れ支那人の特色」だった。だが今回は停車場でも旅館でも、官庁でも市場
でも、「あらゆる群衆の中に於て、殆んど辮髪を見出」すことは出来な
い。女性の社会進出も顕著であり、ここからも「如何に清國が、中華民國
に變化したるか」が判然とするだろう。

 ■「(四)壮年の天下」
12年前は「政府の要路は勿論、苟も世の中に幅の利けたる人物と云へば、
概ね白髪の老人にあらざれば、?袴の公子なりしに、今日は殆んど、新人
物の世の中となり居るの觀あり」。いわば「老人の時代去りて、壮年の時
代來れりと斷言するも、恐らくは速了の見にあらざる可し」。「何れの方
面に向ても、支那は先づ青年の天下と云ふ能はずんば、壮年の天下と云ふ
を妨げず。予は此の一點に於て、支那が著しく進歩しつゝあるを嘉稱せざ
らんとするも能はず」。

■「(五)道路の改善」
 「支那人が道普請に骨を折りつゝあるは、北京のみならず、隨處の通邑
大都に於て、之を目?せずんばあらず」。徳富は、世代交代同様にインフ
ラ整備も進んでいると見た。


2018年09月18日

◆超強風の台風22号

宮崎 正弘


平成30年(2018)9月16日(日曜日)通巻第5832号   

 超強風の台風22号、フィリピンから広東を直撃へ
  ふたつの原子力発電所、最悪の事態にそなえ、緊急態勢へ

 フィリピンに猛烈な被害をもたらした台風22号(マングハット)が、16
日午後から深夜に駆けて香港に上陸し、広東省を通過することが明らかに
なった。予測される進路は香港の南方から広東省の中南部を通過する。暴
風圏はすでに台湾南部から、海南島にも及んでいる。
 緊急の問題が浮上した。

台風の進路には2つの原発があるのだ。

「台山」原子力発電所は、香港の西135キロ。1660メガワット。緊急会議
と防災チームが結成された。かれらの強迫観念は「フクシマ」だ。

もう1つが香港の西230キロの「陽江」原子力発電所である。

1080メガワット。6号機まであって、過去にも多くの管理不注意から事故
が報告されている。日本の基準なら1面トップ記事になるほどの事故だっ
たが、中国では殆ど報じられなかった。

中国は現在40基の原発が稼働しており、石炭火力発電を代替してきた。環
境保護の最大の課題は石炭火力発電からの脱皮で、遼寧省から山西省にか
けての炭鉱の多くが閉鎖され、夥しい炭鉱夫が失業という犠牲を伴った。

将来は100基を必要とする中国は、なりふり構わず原発建設に熱中してき
たのだが、伝統的な「手抜き工事」でも悪名が高く、しかも、この台風
22号は、原発の場所を直撃する進路予測がでている。

    
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIE 
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 知性の劣化が、バカ文化人、エセ学者、偽善コメンティターを産んだ
  それにしても日本はどうしてアホやバカがテレビに跋扈するのか?

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北岡俊明『日本アホバカ勘違い列伝』(ワック)
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その昔、左翼全盛で全共闘とか、ノンセクト・ラジカルとか、ベ平連と
か、アジビラ一枚で左まきに染まった付和雷同組の社会騒擾があった。そ
の頃、全貌社から『全国大学左翼教授一覧』という本が出た。

日本共産党とそのシンパの文化人やら教授やらを網羅し、いかなる発言を
したのかを記録したもので、当時は斬新だった。編集者から聞いたところ
では「読んで抗議してきた人」「私は頼まれて『赤旗』に書いただけ」と
いう釈明の人など反応は様々だったそうな。

昭和50年代に山手書房から『日本を悪くした百人』という、異なったスタ
イルの本がでて、テレビタレントだの流行作家、有名教授等を俎上に載せ
た。小田実とか吉永小百合とか、羽仁五郎、大島渚らも入っていたような
記憶がある。やはり売れた。

その後、左翼文化人は世代交代して、右か左かの区別がつかなくなった。
単に政府を批判するだけの人、あらゆる政策に異論をとなえて悦にいる経
済学者。民族差別だとか、少数意見をあたかも国民の総意のように言い張
る御仁。しかもややこしいことに、現象に乗っているだけで理論的裏付け
を決定的にかく人が、テレビでしゃぁしゃぁとコメントを吐く時代に変
わった。

イデオロギーは消滅して、感情論が支配する環境となれば、出鱈目なこと
を主張しても誰も咎めない。

なんという知性の劣化だろう!

バカ文化人、エセ学者、偽善コメンティターを大量に産んだ背景には日本
全体の知力の低下があげられる。だから日本に大量のアホやバカがテレビ
に跋扈することになった。

10年ほど前に、そのことを思い出して或る編集者に『日本をダメにした百
人』などという企劃を提案したことがあるが、軽く蹴られた。

その替わりに書いたのが評者(宮崎)の『中国を動かす百人』(双葉社)
で現代中国の政治、経済、スポーツ、文化を牽引する百人を網羅しての人
名事典となった。

本書は、謂わばそうした流れに棹さして、とりわけ一般の読者向けに、お
かしな発言、怪しい言論を振りまくタレント、芸能人、教授や弁護士をず
らりと俎上に乗せて切りまくる痛快本である。

おのれの専門分野を中途半端にした漫才師、芸能人が我が物顔、偽文化人
らが厚顔無恥に朝日新聞の社説のようなことをのたまい、スポーツ選手が
えらそうに振る舞い、たいした作品もないのに作家をなのるバカまでを北
岡氏は快刀乱麻を断つがごとくに切りまくった。

とりわけ偽ブンカジンのリストに、左翼を衣の下に隠す池上彰と寺島実郎
が出てくる。

池上はリベラルな解説屋にすぎず、寺島は「なにも知らないし、知ってい
ることは全部間違っている」人だ。
ただ評者はテレビを見ないので、ほかに並んでいる人たちの名前を殆ど知
らないのが残念である。  

2018年09月17日

◆米国、ウィグル族の弾圧に

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月14日(金曜日)通巻第5829号  

 米国、ウィグル族の弾圧に「新しい制裁」を準備
  キリスト教会も圧迫の被害。十字架は壊され、聖書が焼かれた


「信仰の自由は憲法で保障されており、米国は中国の主権に介入するな」
というのが中国の公式的反論である。

外国留学からかえると強制収容所(中国は「再教育センター」と呼ぶ)に
ぶち込まれ、共産党の正しさをみっちりとたたき込まれ、ウィグル語の会
話は小学校から禁止されている。

最近はウィグルの女性はウィグル人男性を結婚を認められないという。ま
さに手の込んだ「エスニック・クレンジング」(民族浄化)だ。。

新彊ウィグル自治区では、辻ごとに検問所があり、IDカード提示を求め
られ、わすれると買い物にも行けない不便な生活環境に落とし込まれた。

最近は、留学生ばかりか、米国にいる兄妹を訪ねて帰国すると、やはり強
制収容所にぶち込まれたという(『ザ・タイムズ・オブ・インディア』、
9月13 日号)。

北京のシオン教会(プロテスタント)が監視され、信者の抗議行動が断続
しておきているが、河南省などでは「政府の認めない地下教会」の取り壊
しが進んでいる。中には十字架も破壊され、聖書は積み上げられて焼かれた。

こうした人権弾圧に怒りの声をあげたのはキリスト教の信徒ばかりではな
かった。米議会が大統領府にタイして、中国へのつよい制裁を求める法案を
近くまとめる。中国政府の公式発表ではプロテスタントの信者がおよそ
3600万人で、アジア最大のキリスト教市場でもある。

バチカンは、カソリック信者をおよそ1千万人と見積もり、この巨大市場
を前に、台湾との断交を考慮しているとされる。

またカザフスタンでは、となりのウィグル自治区から逃げてきた元政府職
員の不法入国裁判に関心が集まった。

この女性職員は、さきにカザフスタンへ移住した夫と子供を頼って国境を
無断で越えたのだが、「強制送還をしないで欲しい」と訴え、強制収容所
の実態を暴き、「強制収容所には2500人のカザフ人がいる」と証言した。
このため、俄に国際的注目を集めた。

AFP報道は下記の通り。

http://www.afpbb.com/articles/-/3182923?utm_source=msn_general_multi_photos&utm_medium=news&utm_campaign=txt_link_r2

もともとウィグル人とカザフ人は同じチュルク系であり、国境を自由に行
き来していた。ウィグル自治区は20万人のカザフ人が生活しているという。

2018年09月16日

◆マドゥロ(ベネズエラ大統領)が北京訪問

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月15日(土曜日)弐 通巻第5831号   

 マドゥロ(ベネズエラ大統領)が北京訪問
  「あと50億ドル融資して呉れ、これまでの返済は半年待って」

8月4日、マドゥロ大統領の再任式典。ドローンが爆薬を積み込んで会場
に飛来した。
会場となったテント近くで爆発し、十数名が怪我をしたというが、ジョ
ン・ボルトン補佐官は「自作自演ではないか」と言った。

ワシントンではベネズエラの旧軍人等がトランプ政権と接触し、クーデ
ター計画が進んでいるという情報も飛び交った。

2008年9月14日、マドゥロ大統領は北京空港に降り立った。テロ未遂事件
以来、初めての外遊先を中国としたのは当然だろう。中国からチャバス前
政権はベネズエラの石油を担保に500億ドルを借りだし、これまでにも石
油輸出で返済してきたとはいえ、あと200億ドルの債務を負っている
(「200億ドル」というのは中国の公式発表で、実際は中国輸出入銀行が
別枠でもっと貸している)。

マドゥロ大統領が北京で真っ先に訪れたのは人民大会堂脇の毛沢東記念
館。そのミイラを拝んで「毛沢東主席は偉大な革命家。21世紀の人類史を
見通した偉大な指導者」などと礼賛した。これはCCTVでも報じられた
が、中国国民は「大虐殺の魔王」を「偉大な指導者」などという、その時
代錯誤の感覚にゾッとなったのではないか。

習近平との会合では「両国は相互信頼、相互裨益の友好関係にあり、もっ
ともっと2国間の関係を深めたい」と原則論をぶった。

引き続き李克強首相との面談で、李首相は「可能な限りの支援を中国は続
けるが、法治の回復と社会の安定に努力して欲しい」と釘を刺したそうな。

さらに王毅外相との会談でマドゥロは「BRIのさらなる発展にベネズエ
ラは協力するし、ラテンアメリカ諸国は全体で中国の支援を熱望してい
る」と述べた。

要するにマドゥロ大統領の北京訪問の目的とは「あと50億ドル融資して呉
れ、これまでの返済は半年待って」という緊急の要請だった(『サウス
チャイナ・モーニング・ポスト』、9月15日)。

IMFは、ベネズエラのハイパー・インフレーションが年内にも100万
パーセントに達すると警告している。すでにベネズエラ国民は、およそ
150万人がコロンビアやブラジルに避難し、これは欧州におけるシリア難
民の数に匹敵する。

中国のカネに依存してシルクロード構想に飛びつき、原油代金が1バーレ
ル=100ドル時代に、有り余る外貨を、医療無料、大学無料などバラマキ
をやって大衆迎合政策をとった結果、原油代金の激減と同時に経済は失速
した。ベネズエラもまた中国の「一帯一路」プロジェクトの大きな荷物に
化けたのだった。
    
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【知道中国 1789回】                  
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(14)
  徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

               △

「ブルス氏は、英國倫敦大學の出身にして、支那山東省にある約30年、自
由に支那語を操り、頗る事務に練達したるものに似たり。而して該校の
諸?授、外人と支那人とを問はず、何れも支那語にて?授しつゝあり」。

斉魯大学に付設された「廣智院を見たり。院は一種の博物館にして、實
物標本によりて支那人を?育す可く、特設せられたるもの」である。ここ
は1887(明治10)年に英人のリチャードによって青州に創立され、その
後、済南に移された。現在の院主であるホワイトライトは「青州にある20
年、濟南にある16年、通計36年を、山東に送」る。「氏も亦英人にして、
如何にも篤厚、温雅の君子の風采あり」。

廣智院が民生教育に果たしている役割に注目した徳富は、翻って「惟ふ
に我邦の各宗?家にして、果して一生の歳月を、支那傳道の爲めに投没す
る決心ある者ある乎」と問い返す。「予は英米其他の宣?師の隨喜者にあ
らざるも、彼等の中に、此の如き献身的努力者あるの事實は、縱令暁天の
星の如く少きも、猶ほ暁天の星として認めざるを得ざる也」。

どうやら徳富は「英米其他の宣?師」の献身的姿勢に甚く感心するあま
り、彼らが何十年にも亘って現地生活を送る目的については関心がない。
それとも思い到らなかったのか。

たしかに「我邦の各宗?家」であれ「英米其他の宣?師」であれ、「支
那傳道の爲めに投没する」点は同じだろう。だが、「支那傳道」の先に何
を見据えていたのか。

明治初年、兵要地誌作りの目的で天津から満洲を旅行したと思われる曾根
俊虎は『北支那紀行』(出版所不詳 明治8・9年)で、旅先で目にした
西欧勢力の進出ぶりと亡国への道をひた走る清国の惨状を前に、「東洲を
振はし西洲を壓する」ための日中双方による「合心合力」のが急務だと
語っていたが、「我邦の各宗?家」による「支那傳道」の目的は、精々が
「東洲を振はし西洲を壓する」ために「合心合力」を訴えることではな
かったか。これに対し「英米其他の宣?師」は大陸を舞台にして列強間で
展開されていた利権争奪戦の先兵役を担っていたと考えるべきだろう。

青島の手前の坊子の停車場で徳富が目にした光景は、あるいはそのことを
物語っていたのではあるまいか。

停車場で徳富は「一團の支那人、胸に赤紐を著け、整列したるを見た
り」。さては観光団かと尋ねると、駅員が「西歐戰地行きの苦力」と応え
る。つまり「英佛人が、山東苦力を後方勤務に使用する」ための動員であ
る。かりに欧州での戦争が長引けば、「恐らくは軍隊として、之を使用す
るの日あらむ」。

英米両国は民衆教化のために高等教育施設やら博物館を設けるばかりか、
何十年も現地に居ついている人々を擁す。加えて民衆教化のための先兵と
して宣教師を位置づける。なら洗脳戦の『絨毯爆撃』といったとこだろ
う。片や「東洲を振はし西洲を壓する」ために「合心合力」を目指し、片
や山東苦力を「恐らくは軍隊として、之を使用するの日あらむ」のであろう。

やがて到着した青島を一瞥して、徳富は「如何に獨逸人が、天然を征服し
得たかを知」り、「蓋し青島は、獨逸人がが日本人に與へたる、寶物?育
也。吾人は此の標本に就て、深く窮め、切に學ぶ」べきだと考える。「獨
逸人は、其の巖石に穴を穿ち、土を生めて、樹を栽ゑ、今は立派なる翠松
の茂れるあり、兎群も棲息すと云ふ。一事が萬事也。吾人は獨逸人の堅忍
不抜なる精神と、其の綿密周匝にして、初心を貫徹せずんば止まざる努力
とに對しては、眞に多大の敬意を拂はざるを得ず」とする一方で、「徒に
眼前の小利を貪り、遠大の長計を閑却する」ような在青島日本人の振る舞
いを「深く戒め」るのであった。
     

2018年09月15日

◆守りの日本経済界

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月13日(木曜日)通巻第5827号  

 敵失という好気をぼんやり眺めやるだけ、守りの日本経済界
  米国はITバブル再燃の怖れ、中国は後退が確定。残る手段は何か?

第2次安倍政権発足直後から日本株は8000円台から2万円台へ急回復を見
せた。異次元の金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ」が牽引役だった。し
かし、その後、景気回復への決定打がない。基本的に日本全体から進取の
精神が消え、経営が「守る姿勢」に後退してしまったことが大きい。

したがって日本株は泥沼の停滞を続ける。やっぱり「専守防衛」の国か。
 
第1は企業の借金恐怖症と内部留保の拡大である。

底流にある意識はバブル再燃への恐怖心理が経営者に残っているからだ。
他方、積極的な若者の起業は増えているが、ベンチャー・キャピタルが未
熟である。中国と比べてもはるかに劣勢である。

ところが日本企業の内部留保は446兆円強もある。史上最高額。実質上
「無借金経営」の企業が59%に達している。これでは銀行業は成り立たない。

本来なら企業利益は研究開発費と設備投資、人材への投資に回されるべき
だが、そうしないため、賃上げに繋がらない。

有利子負債を怖れないのはソフトバンク率いる孫正義と不動産開発企業く
らいで、多くが過去のバブル崩壊に懲りて、ひたすら内部留保に努めた。
企業業績は「優」。投資は「不可」というわけだ。

第2にそれではと製造設備の増設ではなく、積極的M&Aに乗り出す企業
が目立つが、シェア拡大目標が主目的であり、これは本当に正統な手法な
のか、日本的経営から逸脱ではないかという疑問が湧く。

M&Aは資本主義経済のシステムでは合法とはいえ、およそ日本の伝統や
企業の体質からは遠い、欧米の「ビジネスモデル」ではないか。

たとえばJT(日本たばこ産業)が外国企業買収にあれほど積極的なのは
嫌煙権による売り上げの減少と広告の制限から新興国への輸出をのばすほ
かに生き残る道がないとするからだろう。JTは、アメリカンスピリット
からインドネシアのグダンガラムまで買収している。日本電産はいきなり
ドイツの5社を、ルネサスは7700億円を投じて、アメリカのIT企業を買
収する。

第3はAI開発、次世代半導体開発に出遅れたのは、「2番では駄目なの
ですか」という前進阻止ムードの蔓延、つまり国民精神の停滞に求められる。

冒険心は稀薄となり、ひたすら守りの姿勢をつらぬいて当座を乗り切れば
良いと考えている裡に新興国からも置いてきぼりを食らう形成となった。
 例外的に健闘しているのは電気機器、情報・通信。化学、輸送用機器、
ならびに機械だが、内需ではなく外需によるものであり、企業名でいえ
ば、ファナック、日本電産、村田製作所などである。

僅かに内需でも設備投資拡大の動機となっているのは人手不足解消のため
の自動化、ロボットの導入と、ファストフードチェーンなどの伝票、注文
の電子化などにともなう設備更新、ソフト開発でしかない。

浮かれているのはインバウンドが好調な旅行代理店、輸送関連、ホテルな
どのサービス産業だったが、関空水没、製造業の物流アクセス頓挫、北海
道大地震による停電などで、急に近未来の市場が暗転した。


 ▲国内の産業空洞化は放置されたままだ

第4は円高と人手不足が原因となって海外進出にブレーキがかからず、国
内の空洞化を誰も問題視しなくなった。

スズキは中国から撤退するが、代替マーケットをインドとアフリカ諸国に
求める。トヨタも日産も中国での設備投資をさらに前向きに強行する。い
ずれも日本国内市場より、海外に眼が向いている。

第5は前項に関連して国家安全保障を無視したハイテクの海外への技術移
転である。

これが将来何をもたらすかといえば、日本の競争力を自ら減殺し、いずれ
中国に主導権を奪われることになるが、それでもやむなしという諦念が支
配しているのだろうか。

民間企業ばかりではなく、政府は「もんじゅ」を御破産にした。宇宙航空
開発を見ても、アメリカの顔色をみたまま自主開発のジェット機はまだ軌
道に乗らない。

トヨタはHV技術という虎の子を中国に供与するし、パナソニックなどは
EV電池規格を中国と協同で遂行する姿勢である。

米国が中国を敵視しているときに、日本は日中友好をすすめ、安倍首相は
10月23日に訪中を予定している。


 ▲ならばアメリカ経済は順風満帆なのか

トランプが大統領就任以後、ウォール街の株価は40%以上の上昇をつづ
け、失業率は史上最低である。米国は景気が良い。

こうなると左翼メディアがいかにトランプの揚げ足をとって執拗な攻撃を
続行しようとも、選挙は現職が有利である。好景気なので、米中貿易戦争
の悪影響はほとんど出ていない。

しかしウォール街の株高を牽引しているのはハイテクだけである。

アマゾンの時価総額は1兆ドルと突破している。ことし上半期の株式上昇
分の過半が、じつは僅か六社のハイテク企業によるもので、アマゾン、
アップル、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ネットフリック
スなどだ。

しかも、これらは中国への進出に次の勝負をかける大市場と見ているた
め、トランプの中国政策とは正面から対峙する。

ハイテクばかりかエネルギー産業でも、たとえばエクソンは中国に大規模
な石化設備を建設し、数千億円の投資を決めている。シェールガス輸出の
後押しが主目的である。もともとエクソンの親中路線をすすめてきたのは
前国務長官のレックス・ティラーソンだった。かれはキッシンジャーの推
挽でトランプ一期目の米国外交をなんとか担ったが、トランプの中国敵視
政策と対立し、解任された。

だが、米国の好況状態はいつまでも続かないだろう。

ネックは高金利とドル高である。金利上昇によって、米国の消費をつよく
支える住宅、それも中古住宅の売れ行き(全体の80%)が連続的な減少をし
めし始め、専門家が失速懸念を表明している。

第2四半期から減少傾向が顕著となったのは、高金利による価格高騰と、
米中貿易戦争に絡んで、中国人の爆買いが、高波が引くように消滅しつつ
あることだ。ましてや中国人がこれまでに購入した不動産の売却をはじめ
ているため、中古住宅価格は、下落しても上昇は望めないだろう。

米国の経済指標の目安となる新規住宅着工件数は、前年比12・6%の減少
〈2018年6月〉。ローンの破産はまだ目立つほどでもないが、失業が増え
てローン返済の停滞が始まると、銀行を直撃するため、一部にはリーマン
ショックの再来を怖れる声もあがりだした。

      
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評BOOKREVIEW
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 信長暗殺の背後にキリスト教団がいたという陰謀説は潰える
  イエズス会は軍事組織であり、マルクス主義前衛党に、いやISに似
ている

渡辺京二『バテレンンの世紀』(新潮社) 
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 なにしろ分厚い。読むのに四日を費やしたが、渡辺京二は、これを書く
に十年の歳月をかけた(『選択』に10年余連載)。だから四日で読了して
は申し訳ない気にもなる。

もやもやと濃霧の状況だったが、展望台にたつと雲海が晴れて、全体の
景色がながめられるダイナミックな伴天連時代の通史である。

これまで切支丹伴天連の研究は幾十、いや幾百もの書物が出たが、戦後の
論壇の研究成果が大きく進展したのは、ポルトガル、スペイン、そして英
国で貴重な文献が見つかり、これら第一級の新資料から、総合的な展望を
もとに、あの切支丹伴天連の活躍した全貌がはっきりと見通せるように
なったことだ。

ポルトガルとスペインは世界を二分化し、世界の未開拓な国々を植民地と
して、土地の人々は奴隷として酷使することが神の命じた使命でもあると
いう狂信的ドグマに染まっていた。

イエズス会はスペインのバスク地方からおこった。ザビエルは創始者の一
人だった。

渡辺は大航海時代から世界を眺めやる文脈のなかで日本における伴天連の
活躍をザビエルの訪日前後から克明に活写する。

ザビエルの布教に最初に洗礼をうけたのは北九州の覇者、大友宗麟だっ
た。彼は島津との死闘を繰り広げながらも、日向にあっては神社仏閣を徹
底的に破壊し、仏像、教典も焼却した。このため家臣団からの信頼を失
い、やがて没落してゆく。

信長前史、はやくも宣教師は日本に入り、薩摩、日向、臼杵、山口での
布教が拡大したが、最終的に伴天連教団は京を狙っていた。

京を制圧しつつあった信長が布教を許し、秀吉も切支丹伴天連の活動を
奨励した時期がある。

といっても、信長は火薬と鉄砲、そして既存の宗教勢力へのバランスを計
測し、伴天連を利用した。

秀吉は、伴天連がもたらす物資、交易の魅力が主で、次第にかれらの侵略
意図が明確になると禁教、伴天連追放に踏み切る。

のちに天下人となる家康は新興勢力として台頭してきたオランダと英国に
注目して、むしろ活用した。家康は交易を許したが、布教は禁止した。家
光の代ではオランダを除いて、完全に彼らを駆逐した(筈だった)。

ところが、禁教後も宣教師の日本潜入は絶えず、とくに長崎から天草に
かけて潜伏し、伝染病が蔓延したように信者が増えたのである。一時は37
万人の信者を誇ったという。


 ▲信徒拡大の鍵は大名にあり、同宿を駆使した

なぜ日本の国柄に適合しないキリスト教が増えたか。

応仁の乱からアナーキーな状態に陥っていた日本では神にすがろうとす
る末期的な社会現象が重なり、新興宗教に名状しがたい魅力があったから
である。ひとびとは切支丹を仏教のあたらしい宗派の誕生としてしか認識
しておらず、その教義の一神教の絶対性についての理解に欠けた。
 天草四郎は、小西残党の武士らが担ぎ出してカリスマとしたほどに、霊
力をもつ少年だった。地方の一揆程度とみた幕府は、ささやかな部隊を鎮
圧に宛てたが、どっこい反乱軍は強かった。

 ISの戦術をご記憶だろう。

住民を巻き込み、楯とする。仏教徒の住民が、キリスト教にならなけれ
ば殺すと脅され、原城の籠城戦において城内に閉じこめられた。その数お
よそ1万8000人となる。
 本書はともかく通史、物語の語り部として成功しているが、天皇、朝廷
の動きが皆無であり、総合性にややかけるのが難である。

切支丹伴天連が掲げたのは「天地創造の絶対神」だ。合理的解釈から逸
脱した独善的ドグマで、日本の神仏は「その被造物にすぎない」と宣教師
が主張し、また「日本の神仏が真の神の資格を持たず、悪魔のまどわし」
(441p)と総括した。

このため、最初は現世的な御利益から入信した信者等も、急速に離れて
いった。

殉教のために密入国した宣教師がいたが、当時の厳密な監視態勢の下では
すぐに発見された。

本書を通じてハタと膝を打った箇所が幾つかある。

第一にイエズス会は布教の対象を藩主、武士という上層部におき、また
日本語のハンディを乗り越えるために聡明で語学が達者な日本人信者を多
用した。実際の布教は、この日本人信者(同宿という)だった。KGBが
当該国において『影響力のある代理人』を重宝したように。
 最初の信者は、貧困な人々が目立ち、高層へ行くほどに日本では知識階
級が怪しいドグマをはねつける知見があったのだ。

第二にキリシタン大名が輩出したが、それぞれの武将には信仰への温度
差があり、棄教に応じたのは黒田官兵衛、小西行長ら。棄教を首肯しな
かったのは高山右近ら少数がいた。また宗教論争を通じて、キリスト教の
説く教理が、日本の国柄には適合しないことをほとんどの日本人指導者は
認識できていた。

第三に同様にしてイエズス会宣教師のなかでも、GHQに「ウィーク
ジャパン派」と「ストロングジャパン派」が対立したように、布教の遣り
方や交易手段を巡って鋭角的な内部対立があった。

日本侵略を強硬に主張したのはコエリョであり、この時点で反対したのは
オルガンディーノだった。フロイスはどちらかと言えば中立的だったが、
のちに侵略論に傾いた。

コエリョは「当時マカオにいたヴァリニャーノのもとに使者を派遣し
て、彼が来日する際二百名の軍隊を伴うべく要請すること、さらに彼から
スペイン国王、インド副王、フィリピン総督に軍事援助を要請してもら
う」と協議した。

事実、「コエリョはバテレンン追放令がでるや、有馬晴信ら切支丹領主
に、結束して秀吉に敵対するように働きかけ、資金と武器の供与を約束
し、実際に銃器、弾薬を買い入れた」(225p)。


 ▲家康が怖れたのは伴天連の軍事力ではなく文化的侵略だった
 
信者からも告発がでた。破天荒な日本人信者(トマス荒木)が単身ロー
マまで行って多くを学んだが、帰国途次のマカオで、イエズス会宣教師等
が「日本征服を企てるような托鉢修道士たちが国王に働きかけた」事実を
掴んだ。

まさに「植民列強と結びついてその国家事業の一環として布教をすすめて
きた修道会に対する疑問」が拡がった(321p)
 
ヴァリニャーノとて、天正少年使節を欧州へおくる段取りを組んだが、
『天正遣欧使節記』はヴァリニャーノの作文であり、フェイク文書だった。

伴天連の機密任務である侵略の意図を、はやくから秀吉も掴んでいた。
ただ秀吉の老衰、耄碌がはげしく禁教と布教の狭間を揺れ動き、朝令暮改
の特質があった。

「家康はポルトガル、スペインの侵略性も、宣教師達の役割もよく承知し
ていたが、現実の武力侵略はまったく恐れていなかった。彼が怖れたのは
いわば文化的侵略であって、キリスト教が日本を乗っ取るのではないかと
懸念した」(315p)

第四に禁教後も、宣教師の潜入が続いたことは述べたが、、とくに天草
にもたらされた印刷機によってキリスト啓蒙書が印刷され、おびただしく
出回っていたことである。

所謂「天草四郎の反乱」と呼ばれる切支丹の一揆とて、直線的に?川政権
の転覆を狙った国家への叛逆ではなく、百姓と小西残党の武士団と、反乱
の題目に必要なキリスト教の信者とが徒党を組んだ、農民一揆に近いもの
だった。

武士は戦争になれて、武装しており大砲や鉄砲をそなえていたため、背後
にポルトガルがいるという印象を与えた。だから幕府はオランダが火力攻
撃の支援を求めたときに応諾した。
 
本書で渡辺京二が言いたいのは次の言葉だろう。

「イエズス会が20世紀の共産主義政党と性格、手法において一致して い
ることはおどろくほどである。実現すべき目的の超越的絶対性、組織の
大目的への献身、そのための自己改造、目的のためには強弁も嘘も辞さぬ
点において、イエズス会は共産主義前衛党のまぎれもない先蹤(せんしょ
う)といわねばならぬ」(189p)。

これは日本が欧洲の異教との初めての接触=「ファーストコンタクト」
だった。『セコンドコンタクト』が幕末の異国船だった。

2018年09月13日

◆ワシントンのPLO事務所閉鎖へ

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月11日(火曜日)参 通巻第5825号  

 トランプ政権。ワシントンのPLO事務所閉鎖へ
  サウジもエジプトもUAEも、PLO支援をやめている

PLO(パレスチナ解放機構)は、嘗てレーガン政権下では「テロリスト
集団」と認定され、いちどはパレスチナの土地から叩き出された。

風向きが変わりクリントンが調整に乗り出して、「オスロ合意」を経て、
ラビン、ペレスと並んでアラファトがノーベル平和賞に輝いた。
しかし平和は訪れなかった。

反米闘争の主体はPLOからハマス、ヒズボラへと移行し、エジプトでは
「イスラム同胞団」政権が軍事クーデターで壊滅し、イラクとシリアの空
白状況にISが誕生、さんざんかき荒らした挙げ句に、いずこかへ消えた。

いまシリアはアサド独裁を支援するイランとロシアが軍事的主導権を握
り、あろうことか、アサドを敵視してきたトルコが、反米の一貫として、
この三者連合に加わってきた。

サウジ、UAEはカタールの孤立化とイエーメン内戦への介入に忙しく、
もはやPLOは関心の対象ですらないようである。

つまりPLOは政治的影響力を阻喪したのだ。

トランプ政権は、イスラエルの大使館をテルアビブからエルサレムへ移転
した。周辺国から強い抗議がなかった。驚くべき変化だろう。

ついで米国はワシントンに駐在を認めてきたPLO事務所(事実上の大使
館)を閉鎖する決断を下した。

2018年09月12日

◆ロシアが中国から800億ドルで金塊を購入

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月11日(火曜日)通巻第5823号  <前日発行>

 摩訶不思議、なぜ? ロシアが中国から800億ドルで金塊を購入
  外貨減少のロシアが米国債を売却した分に相当する巨額だが、この話
は本当か?

ロシアが中国中央銀行から800億ドル相当の金塊を購入したという。この
報道はプラウダ(英語版、9月6日)で、同紙はフェイクニュースも多い
ため、全幅の信頼は出来ないメディアだが、興味津々である。

第一になぜ中国が虎の子の金塊を売るのか

第二になぜロシアは虎の子のドルで支払ったのか?

すでにドイツは数年前にアメリカに預託してきた金塊を引き揚げ、その金
保有量は3000トンを超えている。

過去10年、世界一の金購入は中国であり、ついでインド、サウジ、UAE
と続くが、日本は先進国中最低であるうえ、日本が保有するはずの金塊は
ニューヨーク連銀の倉庫に保管されたまま。日本政府は返還要求をしてい
ない。

最近、ロシアのモスクワ証券取引所と中国上海の金取引所は協定に署名し
ているが、これは通貨スワップとは無関係である。ロシアが2018年1
月から5月までに保有してきた米国債を売却したことは、米国の財務省速
報で明らかとなった。

もし、ロシアが中国から金塊を購入していたとすれば、ロシアの外貨準備
の5分の1が、金の保有となる。これはルーブルの価値を強めこそすれ、
弱めることはない。

となると最後の推量は以下のごとし。

中国は表向き3兆1000億ドルあると豪語している外貨準備が、事実上底を
ついており、したがってドルを得るために、金塊を売却して当座の外貨の
手当をした。それで米中貿易戦争激化にともない当面の応戦態勢を整え
た、ということかも知れない。あるいはロシアから原油、ガスならびに武
器輸入の代金に振り替えた可能性もある。
     
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 切支丹大名はなぜ戦後、評価が一転して美化されたのか?
   日本の女を奴隷として売り飛ばし、内乱を企てた過激派が?
 
 高山正之『マッカーサーは慰安婦がお好き』(新潮文庫)
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 本書は辛口コラムの文庫化第八弾。ほぼ朝日新聞批判に費やされている
が、一箇所、切支丹伴天連のことを書いた説があるので、このコラムで
は、そこだけを切り取って紹介する。

 「日本にきた宣教師にいい人は少なかった。例えばイエズス会のルイ
ス・デ・アルメイダらは布教地の神社仏閣をぶち壊させた。キリスト教以
外に神は要らない」
 率先したのは高山右近で、彼の治めた高槻では僧侶と神官を迫害して、
神社仏閣は廃墟と化した。仏像など仏教美術の文化遺産は燃やされた。
 評者(宮崎)は、この八月にも高槻を歩いたが、市内の教会には白亜の
高山右近像が建立されていて、なんだか悲劇の主人公のように祭られてい
る。右近が追放されたマニラにも、カソリックの土地であるため、パコ駅
前(その昔、この一帯は日本人町だった)の公園に高山右近像が聳えてい
て、なんだか違和感がある。近年、高槻とマニラは姉妹都市である。
 アルメイダはユダヤ教の両親がカソリックに改宗したため、強い感化を
受けゴアからマカオに渡り、それから日本にやってきた。病院などを私財
を投じて建設した美談が強調されているが、彼の医術は呪術であって、キ
リスト教の奇跡をもって布教の武器としたフシが濃厚である。かれはとり
わけ九州全域での布教に尽くした。
 ところがアルメイダ布教地の大村家(長崎)や大友家(大分)では藩内
の女を無理矢理つれてきて奴隷として売った。彼の臨終地は天草だった。
 「火薬一樽を女五十人と引き換えにした。日本の女は高く売れた」と高
山氏は続ける。
 天正少年遣欧使節一行は、欧州の各地で日本の娘らが裸にされ、秘所丸
出しのママ、思い鎖で?がれて奴隷として売られている現場を目撃して衝
撃を受けたと報告している。
 「秀吉は怒った。元締めのガスパール・コエリヨに売った女を連れ戻せ
と命じた。世に言う伴天連追放令だ。対してコエリヨは切支丹大名に秀吉
を潰せと唆し、奴隷商売も一向にやめようとしなかった」
 著者の高山氏とは同じ名前だが、考え方が百八十度も異なる高山右近
は、秀吉の寵臣だった蒲生氏郷や、荒木村重麾下の中川清秀らをキリスト
教に改宗させ、その宗教的指導性は黒田官兵衛にも及んだ。
 のちの島原の乱は敗残兵らが「まるで支那人みたいに徒党を組み、野盗
と化して民を襲っては略奪して、ついには原城に籠もった。攻めあぐむ幕
府にオランダ人が海からの砲撃を申し出た。こちらは新教。原城の旧教徒
をやっつけるのに何の痛痒もありませーん。日本人は呆れ、以後ずっとキ
リスト教を邪宗門と呼んで、その布教を禁じた」(同書
211p−212p)のである。

2018年09月11日

◆パキスタン新政権

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月10日(月曜日)通巻第5822号  

 パキスタン新政権、はやくもIMF救済回避策に対案なし
  「なぜ高級車や、輸入チーズが必要?」とイムラン・カーン首相

 パキスタン下院議員選挙で想定外のハプニングはクリケット選手(ワー
ルドカップ優勝)から政治家に転じたイムラン・カーンが新首相となった
ことだ。新たに有権者となった2000万人の若者と、背後では軍の支持が
あった。

すぐに直面したのは債務危機だった。1980年以来、すでにパキスタンは
15回もIMFに救済を仰いできた。今次、またまたIMF管理となる
と、さらに経済は貧窮化するため、緊急に中国の融資を仰いだが、焼け石
に水だった。

中国が主導するCPEC(中国パキスタン経済回廊)も、570億ドルの予
算が、いつの間にか620億ドルに膨らみ、しかもあちこちで工事中断して
いるため、大幅な遅延が生じている。

9月9日、イムラン・カーン首相は「高級車、輸入チーズ、スマホの輸入
制限を検討中だ。なぜ外貨不足の現在、贅沢な輸入チーズが必要なの
か」。しかし、これら贅沢品243品目に対してパキスタンはすでに50%の
関税をかけている。

それでも2018年上半期の貿易赤字は43%増の180億ドルに達しており、主
として原油代金値上がりが原因とはいえ、ますますパキスタン通貨は下落
し、外貨準備は底をついている。同時期にパキスタン中央銀行は3回も利
上げを繰り返しているが、通貨は40%の値下がりを示した。

「スマホ、高級車、そしてチーズの輸入を自粛すれば外貨を45億ドル節
約でき、さらに輸出を増やせば30億ドルの経常収支の改善に繋がる」とイ
ムラン・カーン首相は、空しい展望を語った。

IMF救済、通貨、金利、経済政策の管理体制に入ると、もっとも嬉しく
ない国は中国になる。

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 時代の雰囲気は信長という覇王の排除を念願していた。
仏教界。公家、町衆は強烈に信長の死を望んでいた

橋場日月『明智光秀 残虐と謀略』(祥伝社新書)
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豊橋市金西寺に伝わる『當寺御開山御真筆』は2014年に発見され、島田大
介(豊橋創造大学教授)と高崎俊幸住職によって解読が進められてきた。
2017年2月4日の『毎日新聞』報道に拠れば、そこには光秀を礼賛し、信
長は悪人と記されていた。

当時の仏教界は本能寺の変をなした光秀は「勇士」であり、その行為を快
挙として喝采し、信長は「黒ネズミの平清盛の再来」と、後智恵で解釈し
がちな現代人には理解しがたかった当時の雰囲気がリアルに伝わった。
 この古文書は江戸初期に編まれたもので、同寺を開いた月令(山冠に
今)和尚が書いたものだが、当該文書の冒頭に京都東福寺住持だった集雲
守藤(別号「江湖散人」)の詩文が引用されている。

この詩文は本能寺の変の翌月に書かれたことが判明しており、時代の雰囲
気がそのまま余韻を残しているのである。そこには「信長は京都を鎮護し
て二十余国を領したが、公家を蔑ろにして万民を悩まし、苛政や暴虐は数
えきれず、信長の死を人々は拍手した」云々とあった。 
つまり信長は嫌われていた。

朝廷、公家ばかりか京都の民、仏教界、堺衆からも、そして末端の庶民に
到るまで、魔王を早く排除せよとする声が満ちていたことを如実に示唆し
ている。この意味で、有益な古文書である。後の世に出た『信長公記』
『明智軍記』はあまりにも後智恵が多く、これらを根拠として書かれた芝
居も小説も歴史評論も、時代的雰囲気を掴みきれない弱点があると言える
だろう。

時代の雰囲気は信長という覇王の排除を念願していた。仏教界は強烈に信
長の死を望んでいた。公家も、町衆も、要するに周辺の総意だったことが
分かる。

さて本書は、題名はともかくとして、冒頭に上の『當寺御開山御真筆』文
章の紹介があるので、光秀を正当に評価するものかと期待して読んだが、
結論は一言で言うと光秀野心論。高柳光寿の現代バージョンである。

明智光秀はぬきんでた能力を発揮し、戦闘の陣形の取り方、鉄砲隊の配置
とタイミングの絶妙、強引な駆け引きと陰謀、調略に富んでいた。武将と
してぬきんでた存在だった。

この点は著者の橋場氏も高く評価している。

光秀は卓越した指導者だった。だから信長軍団にあって一番乗りの城持ち
大名となり、惟任日向守という官名も一番先に、しかも一等上のランク
だった。秀吉が勝家が恒興が長秀が一益ら周囲が羨望と嫉妬を燃やすのは
当然である。

だが、誰もが明智に叶わなかったのは、その識見だった。並外れた教養を
前に、武将達は超えられない存在と認識していた。だから失敗を待っていた。

光秀は娘らの婚姻を政略の道具として進めたため細川とも長宗我部とも親
戚であり、西国から瀬戸内海の富を得ようとする野心があったとする。
 だが本能寺の変で誰も呼応せず、瀬田の橋を落とされて安土城攻略に三
日の後れを取り、山?の合戦では鉄砲隊の配置で勝てる布陣をなしたが、
不運にも雨にたたられて鉄砲は役にたたなかった。

騎虎の勢いで光秀を撃破した秀吉だったが、いきなり天下人になれたので
はなく、彼の野望に立ちはだかる武将が何人もいた。?川、毛利、伊達、
島津。。。。。。。

その前に織田軍団の内ゲバを片付ける必要があった。

秀吉が跡目相続で織田の権力を簒奪することは眼に見えていたが、それを
許せないと思うのも、信長麾下にあった鎬を削ってきた仲間から見れば当
然であり、なぜ自分が猿の風下に立たなければならないのかを考えただけ
でも腹立たしいだろう。

だから先輩格として猿ごときとさげずんだ柴田勝家が立って、前田利家と
佐々成政は従ったが、同じ先輩格でも丹羽長秀は秀吉に付いた。滝川一益
は遠く厩橋にあって間に合わず、同格と考えてきた池田恒興にとっては秀
吉についたほうが裨益すると思ったまでのことであり、賤が岳の一戦では
武将等の思惑と打算が動いた。

また戦争とは謀略と残虐がともなうのであって、光秀に限らず誰もが突っ
走った。残虐非道をいうなら一向一揆を皆殺しにした信長が一番であり、
同時に野心をいうなら誰もが天下を夢見るのは当たり前の心理だろう。

ところで本書はフロイスの言を多用しているのも腑に落ちない。
 『日本史』でフロイスはこう書いた。

「(光秀は)裏切りや密会を好み、刑を科するに残酷で、独裁的でもあっ
たが、己を偽装するのに抜け目なく、戦争に置いては謀略を得意とし、忍
耐力に富み、計略と策謀の達人であった」

この表現の本当の読み方とは、戦国にあって裏切りは世の常、密会は茶
会、連歌会、刑に厳格なのは法治主義の萌芽ともとれ、また異教徒を前に
おのれをさらけ出すのはバカである。謀略が得意の武将は、この時代の絶
対必要条件である。 

イエズス会とは、誤訳であり、これは「イエズス軍」と翻訳するべきで、
こんにちのアルカィーダ、IS、タリバンの類いの狂信者集団と同じ狂信
的使命感と狭窄なドグマを信じている。独善的で侵略的で、それこそ他国
を侵略し、民を洗脳し、奴隷貿易で肥えた。

アルカィーダがキリスト教を高く褒める報告を作成するだろうかと考えた
だけでも、フロイスの譬喩は、その宗教的組織の意図を割り引く必要があ
るのだ。フロイスの報告書が明智をぼろくそに酷評するのは、おそらく切
支丹大名の入れ智恵、あるいはイエズス会の正体をはやくから見破ってい
た明智に対しての悪意からくる意地悪い報告書で、全幅の信頼には値しな
いのである。
        
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1786回】        
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(11)
  徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

       △
 杭州から引き返した上海で、徳富は3人の政客を訪れた結果、「支那の
現時と思想界」の状況を「要するに支那の現時は、猶ほ戰國の當時の如
く、思想混亂、鼎の沸くに似たり」と把握した。

政治勢力は北京を拠点し「軍國主義を主とする北派」、革命派の伝統を継
ぎ南方に基盤を置き「民權自由主義を主とする南派」、それに清朝再興を
目指し「從來の孔孟主義を主とする復辟派」の3派が鼎立しているが、
「若し支那の分裂を以て、單に思想の分裂より來るものと」するなら、そ
れは早合点というものだ。

それというのも「凡そ世界に支那人の如く不思議なる人種なし。極めて
現實的にして、且つ極めて空想的也。極めて物質的にして、且つ極めて理
想的也。儉約者にして、浪費者也。無頓着者にして、拘泥者也。損得勘定
以外に、何物もなしと思へば、却て體面抔と鹿爪らしく、持ち出だす
也」。国家としても個人としても「幾多の矛盾せる性格あり。若し支那人
を見て、單に其の一端を捉へ、之を以て百事を律し去らん乎」。

かくして「蓋し支那人は、複雜したる心理學的の資料也」。であればこ
そ、「其の眞面目を知るの難きは、恐らくは廬山の面目を知るの難きより
も難からむ」。

とにもかくにも相手は人口比で日本の11、12倍で、その上に複雑怪奇極
まりない振る舞いを見せるわけだから一筋縄でいく訳がないことを、先ず
もって肝に銘じておくべきだ。

その辺りを宮崎滔天は「一氣呵成の業は我人民の得意ならんなれども、
(中略)急がず、噪がず、子ツツリ子ツツリ遣て除ける支那人の氣根には
中々及ぶ可からず」(「暹羅に於ける支那人」)と記し、勝海舟は「支那
には機根の強い人が多いからネ。ズツト前を見通して何が起つたつてヂツ
トして居るよ。これはかういふ筋道を行つて終ひはかうなるものだくらゐ
の事はチヤンと心得てやつてるんだよ。そこをこちらから宜い加減に推量
して、自分の周囲よりほかに見えない眼で見て、教へてやらうとかどうし
ようとか言つてサ。向ふぢやかへつて笑つて居るよ」(「戊戌の政変に際
して」)と語ったのではなかろうか。

「李鴻章の實子にして、其の面目宛然小李鴻章」の李經邁を訪問した徳
富は、「其の機略、權數、人を呑むの慨、往々其の應接、言論の端に暴露
す」るを感じたようだ。李は「共和政治は、支那に於て尚ほ三百年早し
と」した後、日本との関係に就いて「歐亞に於ける、帝國的大同盟を夢
想」している風であった。

どうやら「議論は、當否は姑らく措き、極めて痛快」な李の振る舞いに感
動したのだろう。上海滞在中に面会した「支那各方面の人物中、尤も多く
予に印象を與へたる」2人にうちの1人が李經邁だったとのこと。李とは
「極めて流麗なる英語にて對話せり」とのことである。

上海滞在中、徳富は蔵書家で知られた何人かを訪ね書庫を覗いている
が、その感想を「支那は流石に文字の國也。一方には革命騒動の眞中に
も、他方には古書珍籍を蒐集して、自から樂しも者あり。而して流石に、
書物の本家本元丈ありて、幾多の爭亂、兵火を經つゝも、尚ほ舊槧、舊鈔
尠からず。所謂る古川水多しとは、此事也」と綴る。

数日の上海滞在の後、北上して曲阜、泰山を見物の後、青島から帰国の途
に就くわけだが、徳富は上海を「南方の要衝にして、然も列國合同の小共
和國たり、四圍の壓迫なく、高天厚地、自由の空氣充滿したるが爲乎」と
表現した。

その上海で日本人は「一大勢力たり」。「兎も角も從前に比し、日本人
は上海を?行闊歩しつゝあり。是れ現時に於ける、戰爭の影響なる可き
も、亦國運増進の賜たる可し」。

また上海は「支那に於ける、殆んど唯一の安全地帶」であるがゆえに、
「支那に一事變ある毎に、上海は必ず膨張す」る。

だから「日本の工業が、此地に勃興する暁とならば、更らに其の隆盛を見
るの時あらむ」と将来を予想するのであった。

2018年09月10日

◆ニカラグアでゼネスト

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月8日(土曜日)通巻第5821号  

 ニカラグアでゼネスト、オルテガ大統領の専横に市民連合が抗議
  あの中国のニカラグア運河開発はどうなったのだろう?

中国が香港企業のダミーを駆使して「ニカラグア運河」の建設をぶち挙げ
た時、米国はせせら笑っていた。世紀の大工事、パナマ運河を凌ぐ?
 パナマ運河を実質的に運営する米国にとって中庭を泥靴で汚されるよう
な、脅威と思われるプロジェクトである。にもかかわらず、なぜか米国は
余裕綽々でみていた。

ニカラグア運河は東西259・4キロ、このうち105キロが湖部分なので、実
際の運河掘削工事は105キロ弱。大型コンテナ船、40万トン級のタンカー
も通行可能とされ、総工費500億ドル(ちなみにニカラグアのGDPは80
億ドル)。

ニカラグア運河建設に応札した香港企業は、いわくつきの面妖なIT産業
で、有利子負債が巨額、ニカラグアの弁護士事務所に会社登記をしただけ
の、実態はペーパーカンバニィだった。背後には中国鉄道建設が控えてい
ると噂があった。だからニカラグアのオルテガ政権は建設契約に合意した。

この事業主はHKNC(香港ニカラグア運河開発投資会社)ともったい
ぶった名称だが、実態は香港の信偉通信産業集団を率いる王靖(45
歳)。おそらく中国共産党のダミーだろう。最近も宇宙衛星ビジネスに
打って出るなどと豪語している。

起工式は2014年に行われ、鍬入れセレモニーまで済ませたが、たちまち環
境破壊、生態系に悪影響とばかり環境活動家などが現地入りし、住民に土
地が奪われても良いのかと宣伝活動を始めた。

今から考えると、中国はカネで釣ろうとしていたのだ。中米ベリーズに続
いて、8月にエルサルバドルをプロジェクトの餌で釣り上げ、台湾と断交
させた。その前にコスタリカには、3億ドル総統の同国國際購入を条件に
台湾と断交させた。
 
ニカラグアは反米国家だが、台湾と外交関係をつなぎ止める不思議な国、
米国とは疑心暗鬼の相互関係、イランコントラ事件でお馴染み、オルテガ
大統領は旧ソ連時代にモスクワと極めて親しい時代があった。キューバと
も親密な関係だった。

貧窮状況下では石油高騰に湧いたベネズエラから、緊急融資を受けた。そ
れでも、IMFはニカラグアを重度の債務超過国としている。だから米国
は冷淡に時代の推移を監察していたのだ。「どぅせ出来っこないさ。パナ
マ運河だって半世紀を要したし。。。」

実際にパナマ運河は百年どころか、400年の夢、1880年にレセップスがフ
ランスの支援で着工したが、事業体は2度倒産し、1902年に中止を宣言。
翌年に米国が開発に乗り出し、10年かけて造成した。

パナマ運河の全長は80キロ。だからニカラグア運河は、その3倍以上の距
離であり、世紀の難工事となることは確実であり、工事ノウハウも実績も
ない香港企業が乗り出すなんて、そもそも怪しいと睨んでいたのだ。
そして2018年2月、ニカラグア運河建設は正式に中止となった。


▲ニカラグアは「第2のシリア」か「第二のベネズエラ」になる怖れ

さて、そのニカラグアでゼネストが起きた。

2018年9月7日、首都マナグアの商店街すべてがシャッター通りと化け、
人通りもない死の町となった。反オルテガで団結した野党勢力がストを呼
びかけたからである。

かつては反米サンディニスト率いて戦ったオルテガはニカラグアの英雄
だった。その輝かしい過去は過去のものとなって、2007年以来、11年に亘
る専制政治は国民から飽き飽きされ、しかも野党指導者を一日200人の
ペースで拘束し牢獄にぶち込むという中国も青ざめるような恐怖政治を敷
いた。

4月18日の抗議デモでは軍が出動し、350人が虐殺されたと人権ウォッチ
委員会は言う(英紙ガーディアン、9月8日)。

オルテガは「暴動の鎮圧であり、かれらはテロリスト、外国から資金がき
ており、国民を煽動しているだけだ」と、これまた中国共産党と同じ詭弁
を弄した。

ニッキー・ハーレー米国国連大使は、「ニカラグアの暴動と弾圧はいずれ
『第2のシリア』か『第2のベネズエラ』になる怖れがある」とした。

2018年09月09日

◆むしろ中国が示した

                        宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月7日(金曜日)弐 通巻第5820号  

 「危機管理」の見本は、むしろ中国が示したのではないのか
 台風21号。関空へ特別バスを仕立て、中国人旅行者を選別し輸送した

関空水没、北海道地震による大停電。日本の危機管理が試された。注目
すべきはただちに自衛隊が4000人、救援活動と給水のために出動した こ
と。24時間以内に2万4000名の派遣態勢が組まれたことである。
 
しかし9月10日から予定されていた米海兵隊との共同訓練が中止と なっ
た。国家防衛より、人命救助という日本の戦後のヒューマニズム重視
は、時として国家安全保障の根幹に抵触する。戦後レジュームの宿痾だ。
 
メディアは相変わらず国民の安全保障の優先課題を「ライフラインの確
保」(電気、水道、ガス)においた。メディアも交通アクセス、そして原
発の被災状況報道を優先し、ついで「被災者」の訴え(当然、行政への不
満となる)。自衛隊が真っ先に現場へ行って給水している様子や被災地で
の危険な任務に就いていることなどはあまり報じない。

定番はガソリンスタンド、スーパーに食料や電池、ガスボンベを買い求め
る長い列。物流がとまり、保冷庫も電気が来ないので腐食が始まる。
自然災害は日本が台風の通り道であり、火山列島である以上、避けること
が出来ないが、日頃の危機管理が杜撰な実態がさらけ出された。

関空水没、北海道大停電を、もし「戦争」と仮定して考えてみると、本当
の危機に遭遇したときに、何を一番優先してなさねばならないか、日本の
対応はあべこべのケースが多いことを示した。

デジタル社会の到来では通信の確保、電源の確保が重要である。いみじ
くも、報道では電池切れによる充電器の設置とか、公衆電話の無料開放と
かを大きく報じたが、充電設備と公衆電話が不足していることが分かった。

病院船をもたない日本には「移動する病院」という発想がない。また多
くの病院には自家発電設備が脆弱であり、糖尿患者などは緊急措置が必要
になる。

デジタル文明の下で重要課題は、光ファイバーケーブルの拠点の安全で
ある。日本の海底ケーブルは、一本の基幹ルートに依存し、補完ルートが
ない。ここを攻撃されると、ほぼ全ての日本の通信網が破壊される。

関空のケースでは避難ルートが神戸へ向かう高速船が3隻しかなかっ
た。それも定員が110名。海上の人工島に建てた飛行場は30年で沈没す る
と当初から予想されたのに、抜本的な代替プランはなく、鉄道などの沖
合島へのアクセスは一本の橋梁に頼っていた。
 
滑走路が水没したとき、駐機していた飛行機は僅か3機、これは不幸中
の幸いだった。東北大地震のおり、仙台空港では駐機していた十数機の自
衛隊機が失われた。もし、空港がミサイル攻撃を受けたときに、短時間で
修復工事ができないという、日本の対応力の弱さもやはり深刻な問題である。

北海道地震でも、おどろくなかれ全戸が停電した。電源を1箇所の発電 所
に依拠し、補完の選択肢がない。これは安全保障上の手抜かりだろう。
また原発が停止中であることが問題にならなかった。原発が動いていれば
全戸停電という事態は防げたのではないのか。これを通信に置き換える
と、通信施設の源を襲撃されたら、ほぼ全ての日本の通信が途絶えるとい
うことである。


 ▲空港で夜を明かした旅客の過半が外国人だった

他方、関空には2000人のツーリストが残されていると最初、報じら れた
が、実際には7800名もいたのだ。

メディアは立ち往生した旅客の弁当とか水の配給の画面つくりをしていた
が、被災人数の掌握でできていなかった。そればかりか、非常食のストッ
クがあまりにも少なかった。

脱線だが、6年前に体験した筆者の個人的経験を書く。

北京から成田便に搭乗したところ、「関東方面が嵐のため」とかの理由
で、いきなり関空へ着陸した、空港ロビィでの宿泊を余儀なくされた。後
日判明したのは午後十一時前に成田に着けそうにもなく、途中の関空に着
陸したのだった。その説明を中国の飛行機会社は説明しなかった。

配給されたのは寝袋と1万円の見舞金。そして翌朝の食事券。出発はな
ぜか昼過ぎになるという。ところが、100人近くいた中国人旅客は、早朝
に いなくなっていた。中国人の喧しい抗議に対応できず、別の手だてを
用意 したらしかった。要するに「ゴネ得」なのだ。

今次、関空で何が起きていたか。

実は700人の中国人ツーリスト、250人の台湾からのツーリスト、 そして
70人の香港人(それぞれパスポートが異なる)。1000人以上の旅客 は、
中国系だったのである。


 ▲中国の大阪領事館は迅速に対応した

中国の大阪領事館はただちに行動を取った。バスをチャーターして関空
へ派遣し、中国人ツーリスト選別し、交通アクセスの地点へと運んだの
だ。しかも台湾客には「あなたが中国人であることを認めたら乗せてや
る」と差別した。

これは台湾で問題となって台湾のメディアが騒いだ。

在日台湾機関はこうした措置をとらなかった。このため中国系の台湾メ
ディアが、中国側の差別待遇を攻撃するのでなく、駐日大使の謝長挺が無
能だと、『中国時報』などは、このときとばかりに攻撃した。

幾つか思い出すことがある。

東日本大震災のとき、中国は新潟空港などにチャーター機を飛ばし、十万
人とも言われた在日中国人を中国各地へ手際よく運んだ。在日大使館に司
令塔があるのだ。

リビアでは、カダフィ暗殺、政府壊滅の時に、飛行機、フェリー、バスな
どありとあらゆる交通手段をチャーターして、じつに3万6000名いた
中国人を救出した。

中央アジアの小国キルギスで暴動が発生したおりには、奥地のオシェとい
うキルギス第2の都市に4機のチャーター機を飛ばして、500名いたと
される中国人を救出した。

これが可能となるのは、逆に言えば外国にいる中国人の動向さえ、出先
の外交機関が把握していること、携帯電話の連絡網があること、つまり防
犯カメラを全土に張り巡らせて、携帯電話の会話さえも防諜している国だ
からこそ可能なのだが、基本的に中国人の多くが軍事訓練をうけていて、
危機にいかに対応できるかを、中国では日頃から実践しているからではな
いのだろうか?

デジタル社会、次世代通信機器や半導体開発で、もはや日本の優位はあ
とかたもないという実態が露呈したのである。

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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1785回】                  
――「支那人は不可解の謎題也」・・・徳富(10)
徳富蘇峰『支那漫遊記』(民友社 大正7年)

            △

客観的に考えるなら、親日と反日はコインの裏表であるように思う。歴
史的に、あるいは現実的に考えて見るならば、親日だからといって反中、
あるいは売国ではないだろう。たとえば日中戦争のなかで?介石に反旗を
翻し敢えて日本との「同生共死」の道を選んだ汪精衛にしても、反?介石
であり反毛沢東ではあっても、親日の向こう側に『在るべき中国』への熱
い思いが秘められていたはずだ。

むしろ日本との「同生共死」の道を貫くことこそが民族にとっての本来の
姿であるとの信念が、彼の行動を支えていたに違いない。彼の信念からす
れば、国民党も共産党も共に民族の敵であり反中分子であっただろう。

やはり国際政治を親日、反日を基準に即断することは愚というしかない。

閑話休題。

漢口を離れた徳富は長江を下り九江から南昌へ。名勝の廬山に登り、「長
江の激浪」を体験する。蕪湖から南京へ。秦淮の画舫を楽しみ、清凉山の
遊び、金山寺や甘露寺を訪れる。淡烟に煙る揚州で一日を過ごし、やがて
上海へ。

上海では中国人が著した日本論の白眉とされる『日本論』を著した戴天
仇と面談する。どのような会話が交わされたのか。大いに知りたいところ
ではあるが、残念ながら徳富は一切言及していない。ただ「戴氏の日本語
に到りては、天下一品、日本人も恐らくは三舎を避く可し」と。

上海名物の競馬場に向ったが、競馬を見るたけではなく、「競馬を見る
人を見んが爲め」だった。「競馬は露骨に云へば、一種の賭博」だ。「競
馬場は黄海の賭博場」だ。賭博にかけて「英人と、支那人とは、共通嗜好
を有す」が、「英人專ら馬を以て具となし、支馴人專牌を以て具と爲すの
み」。

「夜は日本人倶樂部に於て日支記者の晩餐會あり」。旧知の日本人記者
が「會主として支那語にて、開會の辭を演じた」。

そこで徳富は「日人支那語を習ひ、支那人日語を學び、其れの日常の交
際、應接に於て、通譯を用ひず、互ひに自他の國語を以てせば、情意疎通
に於て、頗る便宜ならむ」と考えた。「支那に於ける商戰、社交戰、勢力
戰に於て最上の利器」は支那語であればこそ、「予は日本に於ける青年諸
君が、切に此點に留意せんことを望む」とした。

ところが、である。

徳富の挨拶に次いで立った「支那側の一人」の記者が起立して「滔々と支
那語の演説を始め、一節了る毎に、又た滔々と日本語して、自から通譯」
し、「一場の喝采を博した」のである。「日人支那語を習ひ、支那人日語
を學」ぶべしという徳富の「希望を實現する者」を眼前にして、「支那人
の語學に於ける、天才に庶幾し、日本人遠く之に及ば」ないことを改めて
思い知る。

「日本人が自から語學に拙なるを以て、一種の誇りなすは、大なる心得違
也」と慨歎し、一転して「今や英人は遲蒔ながら、支那各地に於て、支那
語研究の學校を設け。苟も各會社に於て、支那語に通ずる者は、特別の手
當金を與ふることとなせり」とイギリスの例を紹介しつつ、「我が國民た
るもの、豈に猛省せずして可ならん哉」と結ぶ。「支那各地に於て、支那
語研究の學校を設け」る英国に対し、日本は上海の東亜同文書院のみ。確
かに「我が國民たるもの、豈に猛省せずして可ならん哉」である。

上海から杭州に向い西湖に遊ぶ。

「西湖のみならず、道路の改善せられたるは、支那旅行中隨處皆是にし
て、支那名物の一なる惡道路は、今や殆んど其の跡を失はんとす」。どう
やら徳富は旅行中、「支那名物の一なる惡道路」を見ることはなかったよ
うだ。そこで「吾人は翻つて、之を我が日本の道路に比して、自ら先進國
たるを誇るの、頗る鐵面皮なると思」ったそうである。
     

2018年09月08日

◆中国ステルス戦闘機「殲20」は

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月6日(木曜日)通巻第5818号 

 中国ステルス戦闘機「殲20」は米軍F22ラプターに並ぶと豪語
  他方、ロシアの最新鋭機スホイ35も年内に24機を配備

中国人民解放軍の軍拡が急ピッチ。国産空母につづき、こんどは国産のス
テルス戦闘機J20の大量配備だ。

成都航空集団が製造しているJ20(殲20)は、これまでに20機のプロッ
トタイプがお目見えして試験飛行を行い、さらなる改良を加えてきた。年
内に量産体制が稼働し、「近年中に200機の配備を終えるだろう」と鼻息
が荒い。

胡錦涛時代だった。北京でゲイツ国防長官が胡錦涛と会見のおりに、成都
でのステルス戦闘機に言及すると、胡錦涛はそれを知らなかった。

国家主席であり、党総書記であり、軍事委員会主任であるトップが、軍の
情報を把握していないのでアメリカが騒いだ。

中国が自主開発を自称するJ20は、アメリカの最新鋭ジェット戦闘機F22
ラプターと肩を並べる性能を誇り、そのスピード、耐久性、レーダーや電
子機器を搭載してのハイレベルの戦闘能力、その隠密性を豪語した。

しかし西側の専門家は、ステルス性にも問題があり、これは戦闘機という
よりも爆撃機、台湾侵攻が主目的ではないかと見ているようだ。

また米国は11月に最新鋭F35を12機、嘉手納基地に配備し、在韓米軍にも
40機を配備する。

一方で、中国はロシアから最新鋭スホイ35を、24機体制とする。すでに
22011年に25機分、25億ドル支払っており、17年末までに14機が納入され
ている。

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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評BOOKREVIEW 
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 日米同盟の解体は安部政権の登場によって辛うじて避けられた
  しかし内政は「大きすぎる目標が全てを空虚にしている」印象

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小川栄太郎『安倍政権の功罪』(悟空出版)
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安倍政権の5年半を振り返って、類書には無い「戦略的」な観点から総括
するのが本書である。批判本もたしかに多いけれども書店でもほとんど売
れていない。

安倍評価の本は平積みされている。

なかでも政局の視点から安倍政治を概括し、前向きに評価したのは阿比留
瑠偉氏(『だから安倍晋三政権は強い』)、また内側からは、スピーチラ
イターの谷口智彦氏が、安部の人物像を活写した(『安倍晋三の真実』)。

この2冊はそれなりに面白かった。

小川氏は日本の国家の運命を視座に、安部政治を外交と内政にわけて、外
交を高く評価するという特色を出している。

なによりも他律的でふにゃふにゃで、防衛力も定かではなかった日本の立
ち位置をしっかりと安定させ、安部は「重病人の日本が筋肉質な若者に生
まれ変わった」とまでいうのである。

オバマは親中路線にのめり込み、G2を目指した。

日本の頭越しに米中同盟結成の寸前のところまで突き進んだ。おまけに日
本には唐変木民主党政権が3代続き、米国の日本不信はマージナルな危機
ラインまで落ち込んでいた。

「オバマ政権はアジアへの関与政策を標榜しながらも、中国の海洋進出を
牽制する動きがあまりにも微弱だった。安部が外交始動一年で示した東南
アジア政策は、戦後日本が初めて試みる積極的な安全保障上の関与政策
だった」(60p)

安倍は「民主主義」と「人権」を掲げた。

「近代世界の主導理念である民主主義と人権が、共産党による圧政と情報
統制の国、中国の経済成長=台頭により、力を失いつつある。近代史は自
由民主という政治的イデオロギーと国民の経済的満足度が比例するという
仮説のもとに進展してきたが、ここへ来て、その仮説が崩れつつあるの
だ。価値観が揺らぎ、そのなかで経済的な保護を求めて揺らぐASEANだか
らこそ、日本は自由民主の価値観におけるアジアの大国たることを宣言す
る」(68p)。

この安倍ドクトリンを追いかけるかのように習近平はシルクロード構想を
提唱した。いま、その中国のバラマキと裏の意図を悟って、世界が中国に
警戒心を深めた。

親中路線を大きく修正したのが豪とマレーシアだった。フィリピンにもそ
の兆候がでてきた。日本外交がしっかりしてきたからだ。
 ただし日露関係はプーチンとの個人的な関係を築き上げたものの「前の
めりの憂鬱がある」と釘を刺す。

ともかく安倍外交は「日米同盟の解体は安部の登場によって辛うじて避け
られた」のである。しかし「オバマ政権=日本の民主党政権時代、アメリ
カが大きく親中に梶を切り、日本を捨てつつあったことを決して忘れては
ならない」(116p)

さて国内政治だが、安倍政権スタート直後から、「黒田バズーカ」(異次
元の金融緩和)が炸裂し、株価が吹きあがって景況感に湧いた。そのアベ
ノミクスに疲労かがひたひたと近付いてきた。

功罪の罪の方が内政に目立ち始めたと小川氏は冷静に言う。

「大きすぎる目標が全てを空虚に見せている」(156p)。

第一がGDP600兆円達成目標、第二が子育て支援、希望出生率1・8と
いう数値目標がでた。第三は社会保障、とくわけ介護離職ゼロを打ち出した。

だが、「一億総活躍」も「地方創生」も看板倒れになる怖れがある。まし
てや「クール・ジャパン」は発想そのものが間違っていると手厳しい。
安倍政権の功罪を考える戦略的思考の中間報告である。

2018年09月07日

◆EV開発に狂奔する中国

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月5日(水曜日)通巻第5816号 

 EV開発に狂奔する中国、便乗するトヨタ、日産
  はたして電気自動車(EV)が次世代カーのメインとなるのか?

まず連想することは中国における太陽光パネルと風力発電の現在の無惨な
姿だ。

中国は太陽光パネルを奨励し、政府は巨額の補助金をつけた。雨後の筍、
あちこちに太陽光パネルの製造メーカーが出現し、補助金もあって廉価で
輸出してきた。そういたウハウハ時代は終わった。というより死んだ。

ダンピング訴訟をWTO加盟国の多くからおこされた上、中国政府の手厚
い補助金がストップ。当該産業は壊滅状態である。

風力発電も補助金がつくと訊くや70以上の即席メーカーが乱立し、風の吹
かない場所にも風力発電を建てた。ところが、その3分の1が送電線に繋
がっていなかった。マンガのようなお粗末。いま数社が残って、細々と製
造を続けているが、ほかのメーカーは倒産、或いは異業種へ転換した。

さてEV(電気自動車)である。中国はこれを次世代カーのトップに位置
づけた。

最初の頃、お手並み拝見だった日欧米も、巨大市場が全体主義国家ゆえに
トップダウンでEVを目指すとなると、座視するわけにはいかなくなっ
た。というのも、「戦争は発明の母」という。ガソリン輸入を一日に900
万バーレルという消費大国のチャイナとしては、脱ガソリンを目指す強い
動機があり、また次世代技術競争を日米欧との「戦争」と認識しているが
ゆえに開発にかける意気込みは熾烈だ。

中国でEV自動車開発には既存メーカー北京汽車集団のほか、後発の吉利
(ジーリー)とBVDがある。ほかのメーカーもEVカーに参入した。生
産能力6000万台、販売が3000万台に迫る中国の自動車市場を勘案すれば、
世界の自動車メーカーがEV開発に眼の色を変えるだろう。

現況では48万台のEV試作車が中国で売れたそうな。米国はテスラの大ブ
レークが手伝って、11万台の販売実績。欧州で14万台。ところが日本では
僅かに2万台だった(2017年度販売速報)。

日本がなにゆえに冷淡だったかと言えば、省エネ・エンジンで世界のトッ
プ、そのうえにハイブリット車が市場を席巻したからだ。

EVは、充電に時間がかかり、電池は容積が大きいので車内は窮屈になる。

中国の第一号となったBVDの試作車は一人しか座れず、アクセルに足が
届かないほど電池の体積が大きかった。そのうえ最大200キロの航続距
離というが、クーラーなどを使用すれば、実際には80キロくらいで充電
の必要性が産まれる。


 ▲数あるアキレス腱を克服できるのか?

充電スタンドが圧倒的に不足しており、平均8時間。急速充電でも2時間
を要し、家庭での充電は14時間以上かかる。不便極まりないが、なにしろ
習近平政権が、「目玉」として奨励している。

となれば中国市場だけに限定して、トヨタも日産も製造に動き出した。は
たして勝算はあるのか、といえば話は別である。自動車メーカーには世界
シェア競争という別の競争があるのだ。

トヨタは上海汽車集団と共同生産し、2020年販売を目指す。日産は年内に
新ブランド「リーフ」を投入する。ホンダは現地合弁でEV生産に踏み切る。

トラック業界もいすず、三菱ふそう、日野が前向きで、一番乗りのいすゞ
は2018年内にEVトラックを試作し、20年に量産体制に移行するとしてい
る。ただし軽量級3トンのエルフが投入される。

トラックはディーゼルが主流で、出力と重量の関係からガソリンは不向き
とされる。その上に急速充電でも100キロしか走れないという弱点を、い
かに技術的に超えるか。今後の課題である。

三菱ふそうはリチウム・イオン電池六個のパッケージを搭載し、急速充電
と併行で、すでに試走車はコンビニの配送に実験的に投入されている。こ
れは巨大な中国市場を狙うボルボ、ダイムラーなどの動きを睨んでの動き
と言える。

とりわけ注目されるのは、EV充電規格を日中が2020年を目処に統一し、
世界シェアの90%を担うようにするという日中協同の動きである。日本は
急速充電「チャデモ」規格をすでに開発し、設置もしている。

しかし充電スタンドは、全国1万8000箇所デしかない。EVが普及してい
ないからだ。対して中国の急速充電規格は「GB・T」で、技術は劣る
が、中国はEVブームがあるため設置箇所はダントツの22万箇所。欧州勢
の「コンボ」はまだ7000ケ所に過ぎない。

出遅れた日本の思惑は、充電器の規格で中国と規格を統一すれば、中国市
場が拡大すると見込んでいる。これはしかも中国側から規格統一がよびか
けられてきた。中国と共同作業というのはリスクの森である。

実情は次のようである。

中国単独での開発には無理がある上、基本特許を欧米日に押さえられてい
て、開発上の隘路がある。

充電装置は日本とドイツに依拠せざるを得ない。電池は原料のリチウムと
コバルト鉱区は確保したが、肝腎の電池開発は、日本に頼らないと先へ進
めない。

AIは米国、インドが頼りであり、さらに半導体はインテル、
TSMC(台湾)、サムソン、そして日本である。


 ▲中国は巧妙な規制をかけ、外国勢の開発を義務づける。磁力か、魔力か

2019年に中国はNEV(新エネルギー車)と総称する自動車シェアの規制
に乗り出すようである。自国に都合の良い、身勝手な措置だが、外国勢
は、この規制を無視できない。まさに中国の磁力か、魔力か、いや催眠術か。

具体的には輸入車の10%がNEVでなければならないという、中国でしか
有効性がないが、強制力を伴う法的規制で対応する。この場合、NEVの
範疇には、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHV(プラグ
イン・ハイブリッド車)が含まれるが、日本が特異のプリウスなどの「ハ
イブリッド車」は除外される。2030年にはガソリン車は全体の3分の1に
まで減少すると予測されている。

このためトヨタはスポーツ多目的EVを中国で2020年に投入し、ホンダは
中国専用EVとして「理念」(現地ブランド)を投入する
 
欧米勢もテスラが新工場を上海に、中国最大の販売台数を誇る独フォルク
スワーゲンは、1000億ドルを投じて新工場などで対応する。
 
とくに米国のテスラだが、上海に車と電池の一貫工場を立ち上げ、年間50
万台を目指すというのだが、テスラ自体が有利子負債の巨額に経営がふら
つき、また同社の電池を米ネバタ州で生産しているパナソニックが、この
中国作戦を首肯するか、どうかも定かではない。フォルクスワーゲンは、
もっと鼻息が荒く年間250万台を豪語している。確かな裏付けは今のとこ
ろない。


 ▲自動運転開発も中国が先頭を走るようだが。。。

自動運転はどうか。

EVと併行して研究開発が世界の主要メーカーで猛烈に進んでいるが、自
動運転は、自動車産業の「産業地図」を変革するダイナミズムをともなう
リスクが存在する。

自動運転は、第一にAI、第二に半導体、第三に部品制御システムとなっ
て、従来のようにエンジンから車体ボディ、窓ガラスなどと系列メーカー
が基軸の「ピラミッド型の構造」が、系列を飛び越えた産業構造に変化する。

トヨタ系はデンソー、アイシンなど4社が連合し、自動運転のために合従
連衡を組むことが決まった。

AIは米グーグル、百度などが一歩リードしているが、日本は出遅れが目
立つ。

ところが中国はシリコンバレーに研究センターをつくって優秀な人材を米
国でも集めているばかりか、重慶に焦点を絞り込んで、習近平の大々的な
支援政策の下、紫光集団、百度、アリババ、テンセント、華為技術などが
重慶に開発センター、半導体工場などを新設することが決まっている。

半導体は米インテルが先頭を走り、サムソン、TSMCが並ぶが、日本は
東芝のスキャンダルなどがあって相当に出遅れた。ようやくNEC、日
立、三菱電機が組んだ「ルネサス」が戦列に加わった。

ルネサスは米IDT(インタグレーテッド・デバイス・テクノロジー社)
を6600億円で買収し、一気に第一線への復帰を目指す。これも自動運転絡
みである。

ただしトランプ政権が、このルネサスのIDT買収にGOサインを出す
か、どうかは不透明である。 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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 AIの無機質的機能と人間のパトスはいかに結びつくのだろう
若者のガッツ喪失の底に流れるのは合理主義的ニヒリズムではないのか?

  ♪
高橋洋一『愛国のリアリズムが日本を救う』(育鵬社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「右も左も真っ暗闇じゃぁ、ござんせんか」と鶴田浩二が陰鬱に謳った。
昭和30年代の終わりから40年代を通して全共闘、ノンセクト・ラジカルの
シンボルは鶴田と高倉健だった。しかしもっと心情的共鳴が深かったのは
保守・民族派だった。

昭和40年に燃え尽きた学生運動。そこには左右を問わず、合理主義は稀薄
で、熱情と正義感、論理的思考を伴わない使命感を、徒らに燃やす何かが
あった。

高度成長期を終え、安定的な社会に突入すると、精神の弛緩が始まり、情
熱を失った日本は「空白の精神、哲学不在」のまま、現在の精神的貧困、
創造的枯渇という悲哀な状況を迎えた。

少子高齢化、人手不足、経済の停滞。スマホ依存症。このふがいなさは政
治の貧困というよりも、精神の枯渇によるものではないのか。

なぜ学生運動が下火となり、若者は蹶起しないのか。その意識の底流を流
れるのは合理主義という名のニヒリズムである。

だから、本書の著者のように、日本を再活性化させるには「愛国のリアリ
ズム」が重要と説かれることになる。

高橋氏は左右の観念論を排し、学者やマスコミのいうことは正しくなく、
財政再建に消費税が必要というのは嘘、同時に中国が経済大国化すること
はないと近未来を冷徹に見通すのである。

本書の最後の章立てのなかに、独特のAI未来図を高橋氏は演繹され、次の
指摘をされている。

AI導入は、たとえば金融業はフィンテックによって従業員半減、窓口はほ
とんど不要になった。証券会社はもっとリアルで、窓口がない支点がある。

AIで、じつは銀行を監督する官庁も人員削減ができる。固定的な書式をう
め、決まり切ったことを尋問しながら貸借対照表、資産バランス、決算報
告書などを監査、検証するのは、AIで可能だからだ。

役所の窓口はロボットでも可能だが、高橋氏の指摘で面白いのは国会答弁
である。

当該官庁のエリートが徹夜して仕上げるのが大臣らの国会答弁だが、「ほ
とんどのものが過去にあった答弁を焼き直したもので、作成自体も難しい
作業ではない。もちろん答弁をつくるだけが官僚の仕事ではないが、国会
答弁の作成は過去の質問や答弁を多く流用するだけの定型的な『ルーティ
ンワーク』である。(中略)これらの作業をAIに代替してもら」えば良い
のである。

こういう合理主義的行政改革は賛成である。

しかし今後の課題はAIの無機質的機能と人間のパトスがいかに結びつく
のかという難題であり、現在の日本の若者のガッツ喪失の底に流れるの
は、合理主義的ニヒリズムであって、愛国リアリズムとは無縁に近いもの
ではないのか?
        

2018年09月06日

◆EV開発に狂奔する中国

宮崎 正弘


平成30年(2018年)9月5日(水曜日)通巻第5816号 

 EV開発に狂奔する中国、便乗するトヨタ、日産
  はたして電気自動車(EV)が次世代カーのメインとなるのか?

まず連想することは中国における太陽光パネルと風力発電の現在の無惨な
姿だ。

中国は太陽光パネルを奨励し、政府は巨額の補助金をつけた。雨後の筍、
あちこちに太陽光パネルの製造メーカーが出現し、補助金もあって廉価で
輸出してきた。そういたウハウハ時代は終わった。というより死んだ。
ダンピング訴訟をWTO加盟国の多くからおこされた上、中国政府の手厚
い補助金がストップ。当該産業は壊滅状態である。

風力発電も補助金がつくと訊くや70以上の即席メーカーが乱立し、風の吹
かない場所にも風力発電を建てた。ところが、その3分の1が送電線に繋
がっていなかった。マンガのようなお粗末。いま数社が残って、細々と製
造を続けているが、ほかのメーカーは倒産、或いは異業種へ転換した。

さてEV(電気自動車)である。中国はこれを次世代カーのトップに位置
づけた。

最初の頃、お手並み拝見だった日欧米も、巨大市場が全体主義国家ゆえに
トップダウンでEVを目指すとなると、座視するわけにはいかなくなっ
た。というのも、「戦争は発明の母」という。ガソリン輸入を一日に900
万バーレルという消費大国のチャイナとしては、脱ガソリンを目指す強い
動機があり、また次世代技術競争を日米欧との「戦争」と認識しているが
ゆえに開発にかける意気込みは熾烈だ。

中国でEV自動車開発には既存メーカー北京汽車集団のほか、後発の吉利
(ジーリー)とBVDがある。ほかのメーカーもEVカーに参入した。生
産能力6000万台、販売が3000万台に迫る中国の自動車市場を勘案すれば、
世界の自動車メーカーがEV開発に眼の色を変えるだろう。

現況では48万台のEV試作車が中国で売れたそうな。米国はテスラの大
ブレークが手伝って、11万台の販売実績。欧州で14万台。ところが日本で
は僅かに2万台だった(2017年度販売速報)。

日本がなにゆえに冷淡だったかと言えば、省エネ・エンジンで世界のトッ
プ、そのうえにハイブリット車が市場を席巻したからだ。

EVは、充電に時間がかかり、電池は容積が大きいので車内は窮屈になる。

中国の第1号となったBVDの試作車は1人しか座れず、アクセルに足が
届かないほど電池の体積が大きかった。そのうえ最大200キロの航続距離
というが、クーラーなどを使用すれば、実際には80キロくらいで充電の必
要性が産まれる。


 ▲数あるアキレス腱を克服できるのか?

充電スタンドが圧倒的に不足しており、平均8時間。急速充電でも2時間
を要し、家庭での充電は十四時間以上かかる。不便極まりないが、なにし
ろ習近平政権が、「目玉」として奨励している。

となれば中国市場だけに限定して、トヨタも日産も製造に動き出した。は
たして勝算はあるのか、といえば話は別である。自動車メーカーには世界
シェア競争という別の競争があるのだ。

トヨタは上海汽車集団と共同生産し、2020年販売を目指す。日産は年内に
新ブランド「リーフ」を投入する。ホンダは現地合弁でEV生産に踏み切る。

トラック業界もいすず、三菱ふそう、日野が前向きで、一番乗りのいすゞ
は2018年内にEVトラックを試作し、20年に量産体制に移行するとしてい
る。ただし軽量級3トンのエルフが投入される。

トラックはディーゼルが主流で、出力と重量の関係からガソリンは不向き
とされる。その上に急速充電でも100キロしか走れないという弱点を、い
かに技術的に超えるか。今後の課題である。

三菱ふそうはリチウム・イオン電池6個のパッケージを搭載し、急速充電
と併行で、すでに試走車はコンビニの配送に実験的に投入されている。こ
れは巨大な中国市場を狙うボルボ、ダイムラーなどの動きを睨んでの動き
と言える。

とりわけ注目されるのは、EV充電規格を日中が2020年を目処に統一し、
世界シェアの90%を担うようにするという日中協同の動きである。日本は
急速充電「チャデモ」規格をすでに開発し、設置もしている。

しかし充電スタンドは、全国1万8000箇所デしかない。EVが普及してい
ないからだ。対して中国の急速充電規格は「GB・T」で、技術は劣る
が、中国はEVブームがあるため設置箇所はダントツの22万箇所。欧州勢
の「コンボ」はまだ7000ケ所に過ぎない。

出遅れた日本の思惑は、充電器の規格で中国と規格を統一すれば、中国市
場が拡大すると見込んでいる。これはしかも中国側から規格統一がよびか
けられてきた。中国と共同作業というのはリスクの森である。

実情は次のようである。

中国単独での開発には無理がある上、基本特許を欧米日に押さえられてい
て、開発上の隘路がある。

充電装置は日本とドイツに依拠せざるを得ない。電池は原料のリチウムと
コバルト鉱区は確保したが、肝腎の電池開発は、日本に頼らないと先へ進
めない。

AIは米国、インドが頼りであり、さらに半導体はインテルTSMC(台
湾)、サムソン、そして日本である。


 ▲中国は巧妙な規制をかけ、外国勢の開発を義務づける。磁力か、魔力か

2019年に中国はNEV(新エネルギー車)と総称する自動車シェアの規制
に乗り出すようである。自国に都合の良い、身勝手な措置だが、外国勢
は、この規制を無視できない。まさに中国の磁力か、魔力か、いや催眠術か。

具体的には輸入車の10%がNEVでなければならないという、中国でしか
有効性がないが、強制力を伴う法的規制で対応する。この場合、NEVの
範疇には、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHV(プラグ
イン・ハイブリッド車)が含まれるが、日本が特異のプリウスなどの「ハ
イブリッド車」は除外される。2030年にはガソリン車は全体の3分の1に
まで減少すると予測されている。

このためトヨタはスポーツ多目的EVを中国で2020年に投入し、ホンダは
中国専用EVとして「理念」(現地ブランド)を投入する
 
欧米勢もテスラが新工場を上海に、中国最大の販売台数を誇る独フォルク
スワーゲンは、1000億ドルを投じて新工場などで対応する。
 
とくに米国のテスラだが、上海に車と電池の一貫工場を立ち上げ、年間
50万台を目指すというのだが、テスラ自体が有利子負債の巨額に経営が
ふらつき、また同社の電池を米ネバタ州で生産しているパナソニックが、
この中国作戦を首肯するか、どうかも定かではない。フォルクスワーゲン
は、もっと鼻息が荒く年間250万台を豪語している。確かな裏付けは今
のところない。


 ▲自動運転開発も中国が先頭を走るようだが。。。

自動運転はどうか。

EVと併行して研究開発が世界の主要メーカーで猛烈に進んでいるが、自
動運転は、自動車産業の「産業地図」を変革するダイナミズムをともなう
リスクが存在する。

自動運転は、第一にAI、第二に半導体、第三に部品制御システムとなっ
て、従来のようにエンジンから車体ボディ、窓ガラスなどと系列メーカー
が基軸の「ピラミッド型の構造」が、系列を飛び越えた産業構造に変化する。

トヨタ系はデンソー、アイシンなど4社が連合し、自動運転のために合従
連衡を組むことが決まった。

AIは米グーグル、百度などが一歩リードしているが、日本は出遅れが目
立つ。

ところが中国はシリコンバレーに研究センターをつくって優秀な人材を米
国でも集めているばかりか、重慶に焦点を絞り込んで、習近平の大々的な
支援政策の下、紫光集団、百度、アリババ、テンセント、華為技術などが
重慶に開発センター、半導体工場などを新設することが決まっている。

半導体は米インテルが先頭を走り、サムソン、TSMCが並ぶが、日本は
東芝のスキャンダルなどがあって相当に出遅れた。ようやくNEC、日
立、三菱電機が組んだ「ルネサス」が戦列に加わった。

ルネサスは米IDT(インタグレーテッド・デバイス・テクノロジー社)
を6600億円で買収し、一気に第一線への復帰を目指す。これも自動運転絡
みである。

ただしトランプ政権が、このルネサスのIDT買収にGOサインを出す
か、どうかは不透明である。 

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 AIの無機質的機能と人間のパトスはいかに結びつくのだろう
  若者のガッツ喪失の底に流れるのは合理主義的ニヒリズムではないのか?

  ♪
高橋洋一『愛国のリアリズムが日本を救う』(育鵬社)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「右も左も真っ暗闇じゃぁ、ござんせんか」と鶴田浩二が陰鬱に謳った。
昭和30年代の終わりから40年代を通して全共闘、ノンセクト・ラジカルの
シンボルは鶴田と高倉健だった。しかしもっと心情的共鳴が深かったのは
保守・民族派だった。

昭和40年に燃え尽きた学生運動。そこには左右を問わず、合理主義は稀薄
で、熱情と正義感、論理的思考を伴わない使命感を、徒らに燃やす何かが
あった。

高度成長期を終え、安定的な社会に突入すると、精神の弛緩が始まり、情
熱を失った日本は「空白の精神、哲学不在」のまま、現在の精神的貧困、
創造的枯渇という悲哀な状況を迎えた。

少子高齢化、人手不足、経済の停滞。スマホ依存症。このふがいなさは政
治の貧困というよりも、精神の枯渇によるものではないのか。

なぜ学生運動が下火となり、若者は蹶起しないのか。その意識の底流を流
れるのは合理主義という名のニヒリズムである。

だから、本書の著者のように、日本を再活性化させるには「愛国のリアリ
ズム」が重要と説かれることになる。

高橋氏は左右の観念論を排し、学者やマスコミのいうことは正しくなく、
財政再建に消費税が必要というのは嘘、同時に中国が経済大国化すること
はないと近未来を冷徹に見通すのである。

本書の最後の章立てのなかに、独特のAI未来図を高橋氏は演繹され、次の
指摘をされている。

AI導入は、たとえば金融業はフィンテックによって従業員半減、窓口はほ
とんど不要になった。証券会社はもっとリアルで、窓口がない支点がある。

AIで、じつは銀行を監督する官庁も人員削減ができる。固定的な書式をう
め、決まり切ったことを尋問しながら貸借対照表、資産バランス、決算報
告書などを監査、検証するのは、AIで可能だからだ。

役所の窓口はロボットでも可能だが、高橋氏の指摘で面白いのは国会答弁
である。

当該官庁のエリートが徹夜して仕上げるのが大臣らの国会答弁だが、「ほ
とんどのものが過去にあった答弁を焼き直したもので、作成自体も難しい
作業ではない。もちろん答弁をつくるだけが官僚の仕事ではないが、国会
答弁の作成は過去の質問や答弁を多く流用するだけの定型的な『ルーティ
ンワーク』である。(中略)これらの作業をAIに代替してもら」えば良い
のである。

こういう合理主義的行政改革は賛成である。

しかし今後の課題はAIの無機質的機能と人間のパトスがいかに結びつく
のかという難題であり、現在の日本の若者のガッツ喪失の底に流れるの
は、合理主義的ニヒリズムであって、愛国リアリズムとは無縁に近いもの
ではないのか?