2017年01月04日

◆習近平体制は風前の灯火?

宮崎 正弘 


<平成29年(2017)1月3日(火曜日)通算第5151号   (臨時増刊号)>

 〜2017年、中国大乱、習近平体制は風前の灯火ではないのか
   人民元6・6%下落、上海株式13%下落、国有銀行3・6万人解雇〜

2016年にNY株は13・4%上昇し、ドルは対円レートで、17%も上がっ
た。日本も年初から大納会までに上昇した。

逆に上海株式は13%下落した。強気を誇り、IMF・SDRに加入してぐ
んと高くなるはずだった人民元は6・6%下落した。

中国国有銀行はネットバンキングの普及で余剰人員整理に踏み切る。

経営の効率化を目指し、無駄が目立つ銀行員のうち3万6000人を解雇す
る。人民解放軍も30万人削減してスリム化するとしている。

中国の国有銀行トップの座にある中国工商銀行が7600人のリストラを発表
したが、つづいて中国銀行が6900人、中国建設銀行が6800人を削減、中国
農業銀行もおよそ4000人をリストラし、この傾向は招商銀行、交通銀行、
浦東発展銀行などに及び、10大銀行のリストラ規模は3万6000人に達す る
見込みとなる。

すでに国有企業も、余剰人員削減、産業再編へむけての合併も進んでいる
が、社債デフォルトも頻発している。

鉄鋼、アルミ、石炭などの企業城下町には失業者が溢れかえり、暴動前夜
の様相を呈している。

しかし銀行の3万余のレイオフとは、2008年リーマンショックの際に
ウォール街が断行した大量レイオフの規模に迫る「大不況」突入前夜の状
況に酷似している。
大乱必至となるだろう。

2016年12月30日

◆カール・アイカーンがトランプ政権

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月27日(火曜日)通算第5149号>   

〜カール・アイカーンがトランプ政権の経済政策特別顧問に
  あの乗っ取り王、規制緩和で重要な助言をトランプに囁き続けた〜

ひさしぶりにカール・アイカーンの近影を見た。

80歳と老けたが、顔つきが穏和になり、テツガクシャ的風貌になった。白
髪、典型的なユダヤ鼻。眼光の鋭さだけが昔と変わらない。10年前の写真
ではラビン元イスラエル首相に似ていると思った。
あれから長い歳月が流れたのだ。

そう、アイカーンは1985年のTWA乗っ取りで、T・ブーン・ビケンズや
アイバン・ボウスキーを超えてウォール街の「乗っ取り王」と渾名され一
世を風靡した。ハリウッド映画「ウオール街」はマイケル・ダグラス主演
だったが、そのモデルとも噂され、世界的に有名な投資家だった。

かれは経営哲学と、経済思想を語る。プリンストン大学では哲学専攻だった。

この文脈ではジョージ・ソロスや、ウォーレン・バフェットと似ている
が、まったく似ていないのはソロスもバフェットも民主党支持なのに対し
て、アイカーンは共和党支持者、ドナルド・トランプ次期大統領とは1980
年代からの知り合いである。

そのうえ、ウォール街の乗っ取り屋やインサイダー取引の禿鷹ファンド
と、アイカーンが異なるのは、かれは企業買収ののち、実際に企業を経営
するのだ。だから、『乗っ取り王』と呼ばれることを極度に嫌う。

日本では次期トランプ政権で「国家通商会議」トップとなる、対中強硬派
のピーター・ナヴァロ(カリフォルニア大学教授、『米中もし戦わば』の
著者)のことで持ちきりだが、アイカーンに関しての記事が少ない。

カール・アイカーンは大学で哲学を専攻したことは述べたが、『フォーブ
ス』恒例のランキングでは世界富豪第35位。個人資産125億ドルという。

彼はオバマ政権がなしたウォール街、ならびにエネルギー産業への規制強
化によって、米国の失った資産は1兆ドルに達すると積算し、レーガン政
権のように規制緩和が経済を活性化させると主唱した。この発想こそが、
トランプの選挙公約に繋がっている。

トランプ政権のまわりを固めた閣僚に大学教授はゼロ、インテリが「売
り」の学者もゼロ、財務長官はゴールドマンサックス出身。国務長官はエ
クソン・モービル会長といった具合で、顔ぶれを見ただけでもオバマ政権
と百七十度ほど、異なった政策を遂行しそうなことがわかる。

記憶が蘇った。筆者は1989年に、アイカーンをモデルにしていた。

『ウォール街 凄腕の男たち』(世界文化社)という拙著で、ブーン・ピ
ケンズ、ボウスキー、クラビス、ミルケンなど、名うての乗っ取り王らに
混じって、ドナルド・トランプにも一章を割いていた。自分でも忘れていた。
四半世紀余を経て、埃を被った当該書を本棚に見つけた。

「アイカーンは企業乗っ取りが目的ではなく、『経営者』たらんと努力し
ている」とちゃんと書いていた。

さて、そのカール・アイカーンは過去に、ドナルド・トランプに数々の助
言をしてきたが、主に規制緩和の方策である。

正式に大統領の経済政策に助言する『特別顧問』を指名された。ただし、
公務ではなく、政府からの給与ももらわず個人的アドバイスに徹するとした。

トランプ次期政権はウォール街において「フランク・トッド法」を見直
し、「グラススティーガル法」を復活させるとしたが、市場がトランプの
公約から政策発動があると読んだのは、「大幅減税、積極的なインフラ投
資、そしてエネルギー産業の活性化」の3つがポイントだった。

NYダウ採用銘柄が多く、ナスダックのIT(アップルやマイクロソフト
など)銘柄が冴えないのは、おそらく上記3つのポイントにあるのだろ
う。だから株価が高騰し、いまもトランプラリーが続くが、具体的政策の
討議にはいったときに、はたしてアイカーの助言がどこまで政策に反映さ
れるか。
     

2016年12月28日

◆王岐山、「居残り」が鮮明に

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月26日(月曜日)通算第5124号>   

 〜王岐山、第19回党大会以後も「居残り」が鮮明に
  党内に着々と「王岐山」派が形成され習近平派と両輪に〜

2017年10月に予定されている第19回中国共産党大会。5年に一度のこの会
で執行部のトップが決まり、自動的に中国の次の方針が浮き彫りとなる。
 
これまでは年齢制限もあって王岐山(党政治局常務委員。序列六位)は
「引退」するという見方が有力だった。

汚職追放キャンペーンで江沢民派を断崖に追いやり、団派(党内エリー
ト、共産主義青年団)に対しても、ぬきんでたリーダーの可能性がでる
と、頭を叩き続けて、習近平の権力基盤固めに大いに貢献してきた。

江沢民の金庫番だった周永康ら石油派と葬り、暴力装置の軍人では同じく
江沢民派の二人のボス(徐才厚と郭伯雄)を失脚させた。

返す刀で胡錦涛が扶植してきた団派人脈にもメスを入れて令計画を落馬さ
せ、無期懲役に。

いでに団派リーダーの李克強首相から経済政策の主導権を奪った。

団派の次期リーダーである胡春華と孫政才は地方政府へとばしたまま、中
央の人脈を習近平と王岐山は、おのおのが独自に自派閥で固めだした。
 
対して上海派の抵抗は陰湿に展開されたが、団派の抵抗はあまり目立たな
くなった。

王岐山にとってのアキレス腱は来年の党大会で69となり、党の不文律とさ
れる定年の68歳を超えて、留任という合意が得られるかどうか、にある。
「七上八下」というのは67歳ならもう1期やれるが、68歳なら次はない
という暗黙の了解事項である。しかし、王岐山の定年例外措置は、党内で
すでに合意が出来ていると言われる。

米国ジェイムズタウン財団の『チャイナブリーフ』(16年12月22日)に拠
れば状況は次のように変貌してきたという。

「六中全会」では『習近平総書記が党の核心』と位置づけられた。

直後から、党を牽引しているのは2大派閥であることが判明した。第一派
閥はいうまでもないが太子党を構成する仲間内、そして習その人が抜擢
し、あるいは弐階級特進の人事で周りを固めた。つまり「習近平派」である。

要するに習の福建省時代の子飼い、ならびに江蘇省時代の子飼い、部下た
ちが新しい主流派を形成している。


 ▼王岐山は中国版KGBトップを固めている

党中央紀律委員会を主導する王岐山の下、当該委員会と行政の上層部が、
王岐山の派閥を形成していることは明白だ。

まず急浮上は陳文清(前中央紀律委員会副主任)が六中全会直後に公安部
長に昇格した。

黄樹堅は内務部長に昇進した。この2つは中央紀律委員会と連携する中国
のKGBである。

同委員会のメンバーだった黄暁微は山西省党委員会委員にパラシュート降
下して、周囲をあっと驚かせた。

山西省は石炭利権ならびに前総書記・胡錦涛の右腕だった令計画が一族郎
党あげての牙城だった。かつての敵陣を王岐山派閥が抑えるのだ。

黄暁微は昨秋、省党委員会副書記となり、令の残党とみられた30人を起訴
に追い込んで、山西省に磐石の権力基盤を築いた。ちなみに同省の省長は
李鵬の息子、李小鵬だが、飾りに過ぎない。

王岐山は基本的に銀行畑を歩いたエコノミストである。副首相時代は国際
金融に明るかったため米中戦略対話は彼が担当し、米国の信任が厚かった。

の主なキャリアだった財務金融部門でも部下があいついで昇進している。
チアンフイユ(音訳不明)は最近、大手の『招商銀行』頭取となった。

王の金融時代の部下だった蒋超良は河北省書記に栄転した。

王は「消防夫」とも言われたが、緊急時のリリーフも得意で、北京が
SARS騒ぎに見舞われたときに北京市長を務めている(2003年から
07年)、そのときの副市長だった林鉾(リンヂュオ)は甘粛省省長代理
になった。


だが習としても野放図に王岐山の権力拡大は望まない。いま、習にとって
は、王岐山の反腐敗キャンペーンという強引な遣り方が、彼の「党の核
心」という野心達成に絶対に必要だからだ。

しかしもし、権力を固めてしまえば、王岐山は『使い捨て』の対象となる
だろう。

そのあたりも王岐山はよく心得ているようで、残留意思をいまの段階では
明確に表明していない。
 

2016年12月27日

◆中国のジニ係数は0・73

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月26日(月曜日)弐 通算第5148号>   

 〜中国のジニ係数は0・73、国家統計局の公式発表でも0・462
  空母「遼寧」の西太平洋派遣など愛国主義で格差矛盾を逸らせるか〜


 中国の「ジニ係数」はどうやら0・73らしい。この数字は北京大学の
独自調査で、産経新聞に拠れば、「中国の国内個人資産の3分の1を上位
1%の富裕家庭がにぎる」という「極端な富の偏在が進行している」(同
紙、12月25日)。

 数年前まで中国のジニ係数は0・62あたりが最悪値といわれていた。
この数字は西安の或る大学の独自な調査に基づいたもので、米国の華字紙
などが盛んに報じていたが、中国の公式発表はなかった。

なにしろ国家統計局の公式の数字ですら0・462である。通常、0・ 4を
超えると、社会が擾乱状態に陥るとされ、0・5をこえると内乱にな る
ケースがある。

国家統計局長が重大な規律違反で逮捕されるほどの状況は、ようするに
誰も国家統計局の数字を信用していないということである。したがって中
国国家統計局がことしのGDP成長が6・5%と言っているのは、まった
くの眉唾である。

 中国は富裕層の外貨持ち出しを急激に警戒し、多様な規制をかけてきた
が、海外企業買収の上限枠設定、外貨持ち出しの両替制限から、ATMの
利用制限、ついには銀聯カードの新規発行停止を決定した。

それでも巧妙な手口でせっせと外貨は海外へ持ち出されている。外貨準
備は急激に落ち込んでいる。

ひとつは地下銀行、もう一つはペーパー化させた有価証券の持ち出し、
いずれも、マフィアが牛耳る世界である。

中国は最後の手段として、「相続税」導入の検討に入る。

中国は表看板が「社会主義」、実体は「強欲資本主義的独裁社会」であ
る。社会主義のもと、土地の私有は認められていない。

20年前まで、中国には所得税がなかった。

さらにマンションを買っても、一軒家を買っても、土地の私有制は認め
られていないから財産としては恒久的価値がない。マンションは50年か
ら75年の使用権が認められ、農地は30年から50年、そののちに国家 へ
返納される。したがって世代が継続する「相続」という観念は、社会主
義経済では成立しない筈だったのである。


 ▼社会主義社会は土地、不動産の私有制を認めない筈だが。。。?

ところが相続税を検討するという意味は富裕層が3軒、4軒とマンショ
ンを保有し、別荘を保有しても、不動産取引税いがいはかからない。沿岸
の大都市では近年「固定資産税」が課せられているが、日本ほど高い税率
ではない。

相続税がかかるとなると富裕層は豪華マンションや別荘を保有しても意
味がなくなり、早晩叩き売りを始めるだろう。

それで不動産への熱狂的投機を冷やそうとする政策の一環だろうが、私
有財産を認めない限り、その実現は困難を極めると考えられる。

ともかくジニ係数が0・73などとは異常事態。所得格差、富の偏在に 対
しても国民の不満を「反日」ですり替え、「愛国主義」の具体的ジェス
チャーとして、米国の無人潜水艇を捕獲したり、空母「遼寧」を西太平洋
に派遣して、国民を鼓舞しても効果は期待できなくなった。

富裕層は、愛国の虚実を知っており、インテリは、情報操作だという本質
を見抜いており、庶民は急に愛国などと言われても、馬鹿馬鹿しくて関心
を抱かない。

権力固めを急ぐ習近平は、この矛盾に気がつきながらも軍事拡大の暴走
を続けざるを得ないだろう。そのうえ相手は中国を敵視するトランプ政権
が登場する。

南シナ海に戦雲が急拡大している。

2016年12月24日

◆中国、銀聯カードの発行を停止

宮崎 正弘 


<平成28年(2016)12月21日(水曜日)弐 通算第5145号>   


 〜「いまごろになって『遅い』って」気がしますがね。
   中国、銀聯カードの発行を停止。いよいよリスク切迫〜


12月20日、中国人民銀行と中央銀行監査委員会は、銀聯カードの新規発行
を停止すると発表した。

銀聯カードとはいわゆる「デュアル・カレンシー」カードで、海外でも使
える。わかりやすく言えば、中国で買い物ができるうえ、日本に来ても使
える。中国人の爆買いの武器はこれである。

銀聯カードの2015年の売り上げは7兆9000億元(邦貨換算118兆円強)
ヴィザ、マスターカードに連携しており、過去14年間に中国工商銀行、建
設銀行、商業銀行、浦東開発銀行などが発行してきた。

現在流通しているカードは一日の上限が決められているが、期日まで使え
る措置もとられた。

消費を冷やすことは景気後退につながるが、中央銀行は外貨流出を深刻に
恐れており、同時に人民元の大下落を回避したいとしている。

現実には人民元の対ドルレートは6・2から6・9まで下落しており、
7・0台突破は時間の問題となっている。

日本円で置き換えてみると、1人民元が22円から15円に下落した。

「短期的一時的な措置である」と周小川人民銀行総裁は通貨下落の回避が
目的と説明したが、「すでに為替介入に8000億ドルを投入している」(ニ
アル・キンバリー氏のサウスチャイナモーニングポスト、12月21日のコメ
ント)。

にもかかわらず下落傾向に歯止めがかかっていない。

過去1年公式統計だけで7280億ドルが中国からオフショア市場へ流出
し、とくに第三四半期だけでも2460億ドルが海外へ逃げた。

 市場関係者は『2年以内にあと20%下がる』と予測する向きが多い
が、中国人民銀行がもっとも恐れているのはFEDの利上げである。状況
は一段と深刻化している。

        

2016年12月23日

◆北朝鮮を背後で支えた中国

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月22日(木曜日)通算第5146号>   

 〜北朝鮮の核兵器、コンピュータ技術の向上を背後で支えた中国
  鴨緑江を挟んだ中国と北朝鮮、闇の中朝コネクション〜


「謎の国」と言われる北朝鮮と中国の国境は鴨緑江で南北に分かれている。

遼寧省丹東と北朝鮮の新義州との間を流れる鴨緑江の川幅は900メー
トルしかない。上流へ行けば、川幅は数十メートル、場所によっては二十
メートル。歩いてもわたれる距離である。

長白山の東側は図面江と言われ、対岸で警備にあたる北鮮兵士の顔は双
眼鏡を使わなくても肉眼で見える。

遼寧省丹東(昔の安東)の中国人経営の工場には、1万2000人名から2万
人の北朝鮮からの出稼ぎが働いている。レストランやバアでは北朝鮮と
の貿易で潤った怪しげなブローカー、商人、運び屋、そして党幹部が飲み
食いを繰り広げている。 

よく西側のジャーナリストが比較するのが夜の風景。中国はネオンピカ
ピカ。北側は桎梏の闇。昼間に見える工場の煙突も、観覧車、迎賓館など
も闇に消えて、まったくわからない。

真夜中に何が行われているか、正体不明となるのだ。この国境に広がる
のは果てしなき闇である。

国連決議による北朝鮮への経済制裁は効果をあげていない。
経済制裁をくぐり抜けるメカニズムが存在している。

これに加えて、北朝鮮も中国も担当する係官や、上層部の官僚たちの汚
職、脱北ルート、密輸ルートばかりではない。人身売買、麻薬を含む密貿
易が存在し、そのなかには非合法の禁制品が大量に含まれている.

2016年9月、中国遼寧省丹東にある「遼寧鴻洋実業発展公司」の馬暁 会
長が逮捕された。容疑は「北朝鮮に核兵器とミサイル開発に必要な資
材、部品を密輸していたというもの。

金属材料、戦車電池などをリンゴ箱に偽装し、密輸していた。これまで
にも数十台の武器製造機械、装置、設備を密輸していたという。お目こぼ
しの見返りに、北朝鮮高官や中国側の税関など係官にはトヨタの高級車を
プレゼントしていたともいう。

同社所有の5000トン級の七隻の船舶が差し押さえられた。

問題は誰が黒幕なのかである。

捕まった馬暁は44歳、まだ妖艶さを残す女性だ。彼女は貿易会社の社員
から身を起こし、貿易会社を発展させたということになっている。

中国のような独裁国家で女性がひとりで大企業を経営するなど考えられな
いことであり、何か政治的背景、「政治的庇護者」が存在するはずである。

この会社の摘発に前後して遼寧省全人代、党委員会などの400余人が 取り
調べを受け、全人代常務委員会の李峰副主任が解任された。

李峰は遼寧省公安庁長を務めてきた背景から密輸を取り締まるノウハウ、
逆に密輸のノウハウを知悉していた。

しかも、北朝鮮幹部と江沢民派との関係が強く、張高麗、張徳江など中国
共産党常務委員はいずれも北朝鮮幹部と親しい関係になる。つまり密輸事
件の摘発は習近平の権力闘争の過程で惹起された、氷山の一角に過ぎない
のだ。


 ▼闇はコンピュータ関連産業の利権構造に拡がる。
 
あの工業化に無縁な北朝鮮にハッカー部隊が存在し、IT産業があると聞
くと眉唾だろうが、実際には中国の援助によってしっかりと存在してい
る。そればかりか日々発展を遂げているのである。

紙おむつも粉ミルクも作れない国が核兵器を保有し、ミサイルを打ち上げ
る。この壮大にしてアンバランスな産業構造は旧ソ連型である。
 
中国も国連決議に賛同したが、発動されている北朝鮮制裁の監視の目をか
いくぐり、平壌では最新鋭のコンピュータが普及している。米ジェイムズ
タウン財団発行の「チャイナブリーフ」(16年10月26日号)に拠れ
ば、「殆どが中国製品であり、核実験、ミサイル発射実験のシミュレー
ションにも駆使されている。

オランダ人コンサルタントのポール・テジアなる謎の人物がCIAの調べ
で判明した。

このポールが西側最新鋭のコンピュータ関連の技術指導に関連しており、
しかも北朝鮮で、IT技術者は既に一万名にものぼり外国との合弁企業で
働いている。日々技術を習得し、ノウハウを取得し、強大なハッカー舞台
も築いた。


 ▼日本のアニメの下請けも、CG技術から軍事転用へ

たとえば日本とはアニメーションの下請けという合法的合弁企業活動を通
して、最初は羊のように学習するふりをしながら、やがて最先端のグラ
フィック・デザインの技術も習得していった。

電子部品、電機部品の合弁工場はときにドイツ資本であり、米国資本も
加わっているとCIA報告が言う。

米国製CPUを内蔵したラップトップ型コンピュータが大量に北朝鮮で
目撃されており、デルの大連工場で生産されたノート型パソコンは学校に
職場に普及している。

世界一のスーパーコンピュータを誇る中国は、その内蔵CPUが米国製
であることを明かしていないが、業界では常識であり、つまり中国のスー
パーコンピュータは米国製を繋いだシロモノに過ぎないが、これで宇宙で
のロケットの巡航速度、角度、遠隔操作をしているのだ。

そのおこぼれが北朝鮮へ渡る。北の指導者が視察した英語学校では、教
室のコンピュータがデルであることは、多くのジャーナリズムが目撃し、
写真を公開してきた。

国連決議2270は、北朝鮮の核開発、ミサイルにつながるあらゆる IT、
関連部品の輸出を禁止している。

にもかかわらず、この国際的な掟、監視の網の目を巧妙にかいくぐって密
輸している国がある。

鴨緑江を越える闇のルートが活用されている。
      

2016年12月21日

◆次に拡がる「闇」はトルコか

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月20日(火曜日)弐 通算第5143号>  

 〜つぎに拡がる「闇」はトルコか。「第2のシリア」に転落の懼れ
  トルコ警官、駐アンカラ・ロシア大使を銃撃、「暗殺」の波紋はどこへ〜

トルコの首都アンカラで、暗殺事件。

駐アンカラのロシア大使アンドレー・カルロフが非番のトルコ警官(私服
に着替えていた)によって射殺されたのだ。
 
12月19日(日本時間20日未明)。
 
トルコ警官が転じてテロリスト、「アッラー・アクバール」(神は偉大な
り)と叫んで突入した狙撃テロリストは、黒づくめのスーツにネクタイ、
拳銃を握りしめ、ちょうど記者会見を終えた大使めがけて発砲した。

「アレッポを忘れるな」と叫び、付近にいた人々にも乱射(現在死傷者は
不明)。その後、犯人は殺害された。

カルロフ大使はアンカラ市内の「現代芸術ギャラリー」で開催されていた
写真展にゲストで呼ばれ、祝辞をのべていた。

同写真展は「トルコ人のみたロシア カリニングラードからカムチアツカ
まで」と題されていた。

同大使はロシア外務省に拠れば1974年のソ連時代から外交官であり、ソウ
ルと平壌大使もつとめた朝鮮通。

背景にあるのはロシアの強圧的なシリア介入への不満であろう。

トルコとロシアはシリアをめぐって敵対関係から急速に雪解けを演じ、エ
ルドアン大統領が八月にサンクトペテルブルグを訪問し、プーチン大統領
と会談した。引き続くペルーのAPECでも懇談した。

ロシアがシリア空爆に参加したためトルコ軍機がロシア爆撃機を撃墜し
(15年11月)、両国関係は極端に冷え込んできたが、16年7月のクーデター
未遂直後からエルドアンは対ロ路線を180度転換させ、ロシアと「共闘関
係」に入った。

トルコ国民にとっては、あまりに打算的なエルドアン外交に不満が鬱積し
ていたのは事実で、しかもアサド政権打倒を叫んでいたトルコが、アサド
体制擁護のロシアに与するとは何事か、というわけだ。

昨日までの友人を平気で切り捨てるのが外交というものだが、情緒的反応
をするトルコ民族には、冷血冷酷な、しかもイスラム世界の掟に背く遣り
方は許せないことになる。トルコは中国北方にいたモンゴル系突厥が始祖
とされ、トルコ語は日本語と似ているほどにアジア系、感情を豊かに表現
する民族である。

しかもトルコは中東最大の親日国家である。


▼中東情勢の混乱、大混沌から次を展望すると暗黒ではないのか

暗殺事件は衝撃的だが、ここで次の展望をみると、ロシア軍とアサド政府
軍によるアレッポ制圧によって米国が支援した反政府勢力は敗北した。

つまり、これは「オバマの敗北、プーチンの勝利」を鮮明にしたことにな
る。オバマの中東外交は、これにて「完全に」失敗したと言える。

エルドアン政権はISとクルドの反乱に頭をいため、昨秋以来、アンカラ
集会襲撃、イスタンブール空港での大量無差別殺戮テロ、その後イスタン
ブールでのテロ、またもアンカラでのテロ、そして数百万の難民を抱え
て、もしトルコが無政府状態となれば、第2のシリアに陥落することになる。

トランプ次期政権はどう出るか。
 
イスラエル、サウジアラビアは連鎖で次の行動をどうするか。トルコは
NATOの重要メンバー。ドイツも行動に出ざるを得ない。

トルコは観光立国でもあるが、年間400万人はドイツから、200万人がロシ
アから。日本は15万人ていどの観光ツアーが昨秋まで組まれていたが、テ
ロ事件以来、実質ゼロとなっている。この観光産業の壊滅状態は、経済を
悪化させる。暗い展望しか、いまのところ視界には見えてこない。
        

             

2016年12月20日

◆モスクワに「カリフォルニア独立国」の

宮崎 正弘 

<平成28年(2016)12月19日(月曜日)弐 通算第5141号> 

 〜モスクワに「カリフォルニア独立国」の「大使館」がオープン
  「イエス、カリフォルニア運動」の指導者がロシア極右と組んで〜


12月18日、クレムリン近くに「カリフォルニア独立国」の「大使館」なる
ものが出現した。『モスクワタイムズ』(英語版、12月19日)に拠れば、
米国で「カリフォルニア州の米国からの独立を求める運動」が、世界的に
拡がる兆候と歓迎調である。

このジョークのような政治ショーは、本気でカリフォルニア独立国を唱え
る「イエス、カリフォルニア運動」の指導者のひとり、ルイス・マリエネ
リがロシアの極右団体「反グローバル運動」のアレックス・イオノスらの
支援を受けて実現したもので、「独立するにはまず外国の承認が必要だ」
として、クレムリンに近い場所で政治主張を続けるらしい。

ルイスはロシア人の妻とエカテリンブルグで暮らし、英語教師をしてい
る。しかも皮肉なことにルイスはトランプ支持者である。エカテリンブル
グはモスクワに近いが、現在零下31度という。

このニュースを聞いたとき、筆者は豪の首都キャンベラで見た奇妙な光景
を思い出した。

豪国会の前に芝生の公園があるのだが、バラック小屋が建っていて、「ア
ボリジニ大使館」とあって、「国旗」らしき旗が翻っていた。

ちなみに同キャンベラの中国大使館前にはテント村があった。法輪功の活
動家が泊まり込んで政治主張を展開していた。

モスクワに於ける「カリフォルニア独立国」大使館騒ぎも前者の類いの政
治ショー的な運動と考えられ、後者の法輪功のような組織的で恒久的な政
治活動にまでは発展しそうにない。いや、これはプーチン側近らが仕組ん
だ余興かも。

2016年12月18日

◆米国債保有世界一は日本が回復

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月17日(土曜日)通算第5137号 <前日発行>>

 〜米国債保有世界一は日本が回復
   中国、手元資金確保のため先月だけでも413億ドルを売却。〜

1位は日本で1兆1300億ドルなった。
 
次に中国が1兆1200億ドル。
 
16年11月末の米財務省発表、米国赤字国債保有ランキングである。

中国は11月だけで4413億ドル分を売却し、手元資金の確保に充てた。3位
以下はアイスランド、ケイマン、ルクセンブルグなど、国籍こそ出資国と
される形態をとるが、殆どがタクスヘブンのヘッジファンドが運用してい
るのが実態である。

 この「事件」を欧米各紙は一面トップ扱いしている。

香港のサウスチャイナモーニングポストも電子版でトップ記事として、中
国のパワー低下の印象を与える紙面造りだった。
    

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(読者の声1)ラジオ日本からお知らせです。12月30日、「マット安川の
ずばり勝負」に宮崎正弘さんが生出演します。
 晦日にあたり、今年を振りかえりつつ、来年を展望する番組です。

           記
12月30日 午後零時半―3時
  (宮崎の出番は12:50−13:57を予定)
             (ラジオ日本)

2016年12月16日

◆新政権は初日から大波乱か

宮崎 正弘 


<平成28年(2016)12月15日(木曜日)通算第5135号 > 

〜トランプ新政権は初日から大波乱か
  上院の空気はティラーソン国務長官指名拒否へ〜

共和党は党是にロシアを「敵」と規定している。

その『敵』の指導者と親密な関係にあって、しかもクレムリンから『友情
勲章』をもらっている企業家トップに重大な米国外交を任せられるかとし
て、反対の声が次第に大きくなっている。

とくにトランプ与党共和党の有力議員は、民主党と合流してでも反対に回
る動きを示しはじめ、緒戦でトランプ政権は議会の反乱という嵐にぶち当
たるかもしれない。

ハーバード大学法学院教授のローレンスセシグ教授の研究によれば、大統
領選挙で20名をこえる上院議員がトランプに投票しなかったようであり、
下院をふくめると37名がトランプに批判的であるという党内分析がまと
まった(ワシントンタイムズ、12月14日)。

話題の人、かのくにのトップ、プーチン大統領は本日来日する。
    


2016年12月15日

◆エクソンモービル会長が次期国務長官?

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)12月12日(月曜日)通算第5131号>   

〜レックス・テラーソン(エクソンモービル会長)が次期国務長官?
  国際的企業人ではあっても外交の素人、ロシアとのコネに疑義続出〜

揉め続ける次期トランプ政権の最も中枢の仕事を司る国務長官ポスト。名
の上がった人が次々と消え、突如、レックス・テラーソン(エクソンモー
ビル会長)が指名されると主要メディアが伝えだした。

まったくノーマークだった。しかしテラーソンはロシアのプーチン大統領
とも親しく、サウジ、カタールなどのトップとも昵懇である。

この人事が実現すると、伊藤忠の会長が中国大使になった程度のショック
ではなく、経団連会長が外務大臣になるようなものである。

もっともベテランのジョン・ボルトン(元国連大使)が国務副長官に事実
上内定しており、暫定長官がなにかで退任するとボルトンが自動的に昇格
するから、そこまでトランプが考えているのかも知れない。

トランプは「オバマやヒラリーと比較すれば、プーチンの指導力はまし
だ」と選挙中にも発言してきたし、電話会談でも「馬が合いそう」と言っ
ている。

テラーソンは「ウクラナイ問題」で、欧米のロシア制裁に一貫して反対し
てきた。

もう一つの要素はトランプが掲げているエネルギー産業の活性化、そのた
めのパリ協定からの離脱であり、テラーソンならまったくふさわしいとい
うわけだろう。

これで下馬評にあがっていた国務長官候補のうち、ジュリアーニ元NY市
長は自ら辞退した。

ニュート・キングリッチ元下院議長は周囲の評判が悪くて芽を摘まれ、
残っていたのはペアトレス元CIA長官とボブ・コーカー上院議員外交委
員長だった。

それにしてもなぜエクソンモービル会長が?

エクソンモービルは世界一の企業であり、全世界72ヶ国で拠点を持ち、た
とえば極東でも樺太のガス採掘、極東シベリアでのエネルギー開発はロシ
ア国営企業ロスネフツと合弁で展開している。

とくにテラーソン主導の元で、エクソンモービルはロシアへの傾斜を強め
てきたが、他方では反米チャバス率いたベネズエラの油田開発やナイジェ
リアのオフショア開発からは撤退した。

コロンビア大学世界エネルギー研究所のジョンホードは「かれが国務長官
となると米国の対ロ外交は劇的なシフトが起こる」と予測する。


 ▼原油高騰時代はテラーソンもプーチンも笑顔を共有した仲

また内戦中のイエーメン、クルド族のイラク支配地区などで石油鉱区を保
有している。原油価格の動向のもっとも敏感な産業ゆえに、政治との結ぶ
付きは深い。

実際に石油価格は1バーレル30ドル時代から150ドル時代に跳ね上がり、
世界の石油業界も潤ったが、個人の懐も膨れあがった。

テラーソン自身も、保有株式時価総額は2億1800万ドル、年金が6950万ド
ル。財産は3億ドルになるほどの富豪でもある。

しかしテラーソンは、トランプと親しいとは言えず、エクソンモービルは
共和党への大口献金をしているが、予備選ではフロリダ州で本命と言わ
れ、石油産業に強いジェブ・ブッシュを応援した。

この関係からもテラーソンはトランプに献金した記録はなく、夫人が2700
ドル、個人的に献金していた(ワシントンポスト、12月9日)。

エネルギー産業の活性化はトランプ政策の目玉だが、環境保護の立場から
絶対反対の左翼団体があり、議会でも強い疑義がでている。

 ロシアとのつよいコネを懸念して「まともな対ロ外交が出来るのか」と
声を挙げたのはジョン・マケイン上院議員だ。

「テラーソンはロシアから勲章をもらった。そういう人物が米国の利益を
追求する外交を展開できるのか」と抗議するのは民主党の有力議員=リン
ゼイ・グラハムだ。

 

 ▼この状況にCIAとFBIのロシアハッカー調査報告が輻輳して。。

そのうえ連邦議会が議論しているのはCIA、FBIのロシア評価である。

ロシアのハッカー集団が大統領選挙中に民主党から機密データを結びだし
て、ウィキリークスなどに漏洩したため、ロシアは大統領選挙で、トラン
プ勝利に間接的に貢献したと民主党が激しくCIAとFBIを突き上げて
きた。

しかしプーチンの本当の意図が何であったのか、いかなる目的があったか
について、CIAとFBIの評価はきれいに別れている。

FBIは「証拠は揃っており、法廷でも証明できる」とするが、CIAは
「明確な証拠はない。動機も目的も不明であり、憶測の域を出ない」と曖
昧な総括である。

FBIはヒラリー・クリントンの私的メール事件で、訴追しないとしたが
選挙中にコーミィFBI長官が「出張先で偶然にヒラリー候補と飛行場で
あった」としてクリントン夫妻のチャーター機で30分も密会をしているこ
とが判明しており、まもなく長官を辞任する。

このFBIがロシアのハッカー説を強く言い出したわけで、議論のすり替
えが目的ではないかと言われている。
          

2016年12月13日

◆キリル・バスも人民元崩落を予測

宮崎 正弘 

<平成28年(2016)12月10日(土曜日)弐 通算第5129号>   

 〜ウォール街の預言的中男、キリル・バスも人民元崩落を予測
  中国の外貨準備は1兆ドルが水増しされている〜


サブプライムローンに破綻を予想したファンドマネジャーは多いが、その
一人はジョン・タルボット(彼は中国の負債を3300兆円と推定。小誌でも
時折紹介済み)、もう一人がゼロファンドのマネジャーであるキリル・バ
スである。

バスは「中国の外貨準備は1兆ドルの水増しがある」と喝破したが、ゆえ
に人民元の崩落が続くとした。その通りになっていることは言うまでもない。

不良外人とかゴロツキ学者とか、中国経済のいたいところを衝かれると、
北京は罵倒を繰り返してきたのだが、昨今、おとなしくバスの予測に異常
な関心を示し始めたのだ。

アッと驚きは人民日報に国家中央統計局の寧吉吉局長が寄稿し、「中国の
経済統計は実情とかけ離れた数字が並んでいる」としたことだ。

これを伝える在米華字紙「博訊新聞」(12月9日)には、風船を膨らまし
ていたら、風前が空に浮かび、それに気がつかないで空に浮かんでも風船
を吹き続ける(これが中国の現実だが)構図の漫画を配した。
どうやら気がついた人が増えたらしい。

前統計局長の王保安は16年1月に、「重大な規律違反」で拘束され、世界
が驚いた。

経済数字ばかりか、あらゆる統計が誤魔化されており、たとえば堕胎され
て女子は、3000万人から6000万人と、あまりにも幅の広い数字だけしか公
表されない。統計のとりようがないのだ。

  (註 寧吉吉の弐番目の『吉』は『吉吉』で人文字)

2016年12月12日

◆トランプ大統領の出現は日本防衛に絶好

宮崎 正弘 


<平成28年(2016)12月11日(日曜日)通算第5130号>   

 〜日米安保改定のチャンスに
  トランプ大統領の出現は日本防衛に絶好の機会〜

  
トランプ政権の誕生を「TSUNAMI」と比喩した海外メディアがあった。

衝撃が納まってよく考えてみると、日本にとっては防衛力の増大へ正々
堂々と歩める契機を得たことではないのか。
 
政権と同様にトランプ次期大統領は「米国は世界の警察官ではない」と発
言してきた。同盟国に防衛分担を強く迫ると公約してきた。

アジアが真空になれば隙を狙う新しい軍事大国がでてくる。げんに南シナ
海の七つの人工島に軍事設備を建築した中国が目の前にいて、我が国の尖
閣諸島を次に狙っている。

トランプ氏は日本、韓国ばかりかNATO諸国に「公平な防衛分担」を迫る。

GDPの2%というが、NATO加盟国の中で達成国はわずか4ヶ国。駐
留米軍にすっかり防衛を依存する韓国は駐留経費の40%しか負担してお
らず、日本は75%である。

もし日本が在日米軍のすべての経費を負担するとなると、米兵が日本の傭
兵に成り下がるわけで、アメリカ人のプライドがそれを許すだろうか?

それより日本は何の法的根拠もないGDP1%以内という一方的な天井を
しつらえて、ひたすら防衛負担から逃げてきた。口上が「平和憲法」だった。

米国は「それなら9条を変えればいいではないか」と最近公然と迫るよう
にさえなった。防衛努力を回避してきたのは戦後レジュームにどっぷりと
浸かった官僚と、何もしない政治家たち。いや自民党もそのなかにはい
る。かれらは現状維持を破壊する衝撃(トランプ当選)に驚き、たじろ
ぎ、周章狼狽したのも無理はない。

もうひとつ重要な問題がある。

それは日米安保条約の再改定である。現行の安保条約は昭和三十五年、当
時の岸信介政権が「より対等で、日本が独立国としての相互条約」をめざ
し、GHQの軍事占領の延長が骨子だった旧条約を改正した。

その真実の意図は日本の主権と独立の回復に置かれていた。

全学連も左翼も条文を読まずに反対に回り国会デモが続いたが、安保改定
は成立した。当時の米国の力は圧倒的で日本は保護国の立場を持続できた。

それから半世紀あまりも経過したが、十全な主権国家としての対等性を日
米安保条約が体現しているかといえば、明らかに不平等である。

日本が危機に陥れば米軍が助けに来るが、米軍が危機に陥っても日本は何
もしないでもよいという片務性が歴然としている。

衰退一途の米国が、反対にこの片務生に不満をならし、「フェアではな
い」と言い出したのだ。いずれ米国のパワーはもっと劇的に衰退し、日本
の保護を続けることが不可能になるのは目に見えている。

であるとすれば、日本から先に日米安保条約の片務性を是正し、条文を改
定して、対等な防衛条約にするべきで、ショックに震えているばかりでは
何も産まれない。

これを千載一遇の歴史的チャンスとして逆に活用し、日本の真の独立、主
権の完全回復を目指すべきではないだろうか。
 
 (この文章は『北国新聞』コラム「北風抄」、11月28日号の再録です)