2017年12月13日

◆トランプの爆弾発言が炸裂

宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月12日(火曜日)弐 通巻第5545号   

 「エルサレムがイスラエルの首都」とトランプの爆弾発言が炸裂
   中東に手をのばし続けるロシア、見えない手で各国に浸透を開始

 トランプ大統領が「エルサレムがイスラエルの首都」と宣言したため、
ガザ地区では暴動で死者、パリでも大規模な反対集会。全世界のイスラム
圏ならびに先進国のイスラム移民が暴れまくり、トランプの写真と星条旗
を踏みつけた。

トランプの意図は、イスラム世界の攪乱なのか、イスラエルの傀儡という
評価があることは知っているが、すでにトランプは大統領選挙への出馬会
見(15年6月16日)をNYトランプタワーで開き、その折に配布した
自著『障害児となったアメリカ』のなかに、いくつかの公約が入っている。

目玉はTPP離脱、パリ協定脱退、ユネスコ拠金凍結、メキシコとの間に
壁、NAFTA見直し、同盟国への防衛分担増大、「エルサレムをイスラ
エルの首都であることを歴代政権は確認したが、大使館を移転しなかっ
た。わたしは大使館移転も行う」とちゃんと書いてあるのだ。

トランプの爆弾発言以前にすでに中東では巨大な地殻変動が激化している。

第一は米国の力の衰退を象徴するかのように「シリア」問題ではロシアが
ヘゲモニーを握った。この米国衰退ぶりに動揺したのが、トルコ、エジプ
ト、ヨルダンなどだった。

トルコのエルドアン大統領は「イスラエルはテロリスト国家だ」と言い出
した。

第二にロシアに異常接近をなしてきたサウジアラビアでは一種の王室クー
デタが起こって跡目相続を争う潜在的敵の王子たちを拘束し、およそ11
兆円ともいわれる財産を没収したほか、カタール断交して、イランとの対
決姿勢を強めた。

またサウジはイエーメンに介入し、イラン系武装勢力との戦争を展開し、
イエーメンも泥沼状態に陥った。

第三がイラク国内でのクルド族の独立を求める住民投票が93%もの支持を
得たのに、結果的にクルド族同士の内訌、タラバニ派の裏切りにより石油
鉱区奪回の失敗、ここにもまた国内にクルド族を抱えるイランとトルコの
鵺的行動が重なってきた。

この複雑怪奇な情勢の混沌の火に油を注ぐようにトランプのエルサレム首
都宣言が炸裂したのだから、これは「地震」級だ。


▼日本は依然として原油の80%を中東から輸入している

日本にとって懸念されるのは原油の80%、ガスの65%を中東に依存する脆
弱な体質のため、戦争のリスクが高まるとエネルギーの供給不安が増幅
し、ドルが高くなり、日本の株価は下がり、ゴールドが上昇するという市
場の特性とは別に安全保障上の問題が浮き彫りとなる。

ならば中東石油の行方はどうなるか、と言えば、米国はすでに原油とガス
の輸入国ではない。

だからこそサウジアラビアに過去にないほどに強気の姿勢で臨むわけで、
同時にサウジ国王を前にして、堂々とイスラエル支持を明瞭にするのも、
どちらかと言えば米国内向け政治宣伝という要素が強い。イスラエルもま
た沖合油田が掘削され、いまでは自給できるのである。

こうなると1970年代に吹き荒れたOPECの強い石油カルテルは消滅した
と見て良いだろう。

3年前からつづいたサウジアラビアの増産が、市場を動かす要素とはなら
なかったように、今後のリスクはOPECを超えて、ロシアが加わっての
新カルテル形成が予測されることである。

ともかく建国以来、米国は「神の国」だった。英国を逃れて東海岸にたど
りついたピューリタンとは、キリスト教原理主義である。聖書を信じての
建国だったし、その後のマニフェストディスニィ(神の意志により西進す
る)なども西部開拓とインディアン虐殺の免罪符として活用された護符で
あった。

こうした文脈から、ユダヤ教を原点とする旧約聖書を基礎とした新約聖書
をアメリカ人は信奉するのだ。したがってエルサレムが首都であること
は、はキリスト教原理主義にも意議が深く、こうしたアメリカ政治の理念
とは抽象的概念と契約の国という宗教的性格が基底になる

だからこそトランプは選挙公約で明言し、支持層に約束してきたことの一
つが「イスラエルの首都はエルサレムだ」という確認と、実体的にその公
約の実現には米国大使館の移転を約束したという流れになる。

しかし大使館移転と言っても、エルサレムの一等地に空いた場所はない。
用地の選定から実際の基礎工事までに五年、トランプの任期中に実現する
ことは望み薄であり、リップサービルの可能性も高いのである。

2017年12月10日

◆あのサアカシビリは「健在」だった

宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月9日(土曜日)通巻第5540号>   

 あのサアカシビリ(元グルジア大統領)は「健在」だった
  こんどはウクライナでクーデター計画に失敗、検察が身柄を拘束

ツキが落ちた。サアカシビリと言えば、グルジア(現在は英語読みに
「ジョージア」)民主化のヒーローにして、ビジネスの成功者。

海外からひとたび故郷のトビリシへ帰国するや大統領に当選し、2008年グ
ルジアから独立を図るオセチアとの戦争を始めた。

米国が武器支援を約束していたからとサアカシビルは申し立てたが、誰も
相手にされず、ついに彼の唱えた愛国ナショナリズムに共鳴するジョージ
ア国民は少数派だった。彼はユダヤ人だからと背景を説明する情報通もいる。

2008年8月8日、北京五輪に何食わぬ顔をして列席したプーチンは、ロシ
ア軍にグルジア攻撃を命じていた。

以後、サアカシビルはウクライナへ亡命し、当時のヤヌコビッチ大統領か
らウクライナ国民と認められた上、オデッサ知事に任命された。

オデッサはキエフより豊かな黒海の港湾都市、リゾート地としても有名で
世界の金持ちがヴィラを保有し、ヨットを保有する、繁栄都市である。

そのサアカシビリは、キエフのアパートの屋上に駆け上がり、飛び降りる
と大騒ぎをして、新聞種になった。2017年12月6日ごろの事件だ。

検察が自宅に踏み込み、身柄を拘束しようとしたので、密かなる処分を恐
れた彼は屋上に昇って自殺劇を演じ、ともかくメディアに報道させること
に成功した。

検察がサアカシビリを拘束した理由は「毒性の化学材料などを保有し、反
政府勢力と接触し、クーデター計画を練っていたという容疑である。

その軍資金はヤヌコビッチ前大統領(ロシアに亡命中)から50万ドルが出
ていた」という。

このウクライナの官製情報の信憑性は稀薄だ。いずれにしてもサアカシビ
ル元大統領、前オデッサ知事の落剥ぶりを物語る。

      
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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数多(あまた)ある育児書の洪水の中、これは「日本人を育てる」育児
書であるおとぎ話と偉人伝がこどもの情操教育にいかに大事であるか、そ
の意 味を説く

   ♪
田下昌明『もう子育てでは悩まない この一冊で育児は完結する』(明成社)
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 著者は小児科医、医学博士。だからといって本書が、どの書店でも本棚
にならぶ育児書のたぐいと考えると大間違いだ。

友人の茂木弘道氏が、「是非、この本を読め」と勧めるので、「なぜ育
児書を?」と訝しく思いながら、ページを紐解いた。

この本は育児を通しての日本人論である。異色のアングルから独自の育
児方法を説く、類書には例のない独創的な本である。つまり「日本人を育
てる」ことが育児の基本になければならないと、医書が述べないことを力
説している点で、まことにユニークであり、愛国的育児書なのである。
 
田下博士はこう言われる。

「私たちが子供を育てるとき、日本人と生活習慣の違う民族の育児法を取
り入れたりすると、それでもその子供は最終的には日本人にしかならない
のですから、その子供は日本人の社会で生活することの下手な、日本人ら
しくない日本人になるだけ」。

幼児からの英語教育とか、インタナショナルスクール流行に世相にまず
は先制攻撃。

なぜなら「人間は動物と違って自分の考えや感情を言葉によって相手に伝
えます。言い換えれば、自分の気持ちを相手に伝える方法は言葉しかない
のです。だから私たちの赤ちゃんは将来、美しい日本語を正確に、数多く
使える大人にならなくてはなりません」。

その当たり前のことが昨今の日本では行われていない。だからおかしな人
間が「日本人」を名乗るのである。
 
博士はまた、こうも言われる。

「日本語を覚えること、これが日本人へ第一歩です。そのためにはまず、
最初の先生である母親が美しい日本語を正確に数多く使えなくては、事は
始まらないのです。それには国語の勉強です。これはやはり本を読む以外
に方法はありません。子供に言葉を教えるときにすぐ使えるという点で、
私は次の二種類のものをおすすめします」
第一は「おとぎ話」。

それも何回も読んで聞かせ、暗記するくらいに覚えさせる。

第二には偉人伝である、と田下博士は推奨する。

つまり、こうした学習法によって子供は、「誰のようになりたいのか」
「何に人生を縣けるのか」を身につけさせる、そして「どんな大人になっ
て欲しいのか」の回答を得られる重要な要件となる。

また子供は「人を愛することが出来る人間にならなければいけません」。
それには「愛された経験をもっていなくてはなりません」
育児は母親ばかりではなく父親も、「誰のようになりたかったのか」を子
供に語り、自分は何に人生を縣けているのかを子供に示すために、子供と
人生を大いに語るべし、とする。

なるほどと納得しながら本を閉じて、さっそくこの本を知人の娘が子を生
んだばかりの家庭に贈ろうとおもった。


2017年12月09日

◆中国パキスタン経済回廊 挫折か

宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月8日(金曜日)通巻第5538号>   

中国のシルクロートの目玉「CPEC」(中国パキスタン経済回廊)挫折か
  パキスタン国内のハイウェイ、3箇所の現場で工事中止

イスラマバード(パキスタン政府)が困惑の体で発表した(12月5日)。
 中国が560億ドルの巨費を投じるCPECはグアダール港から新彊ウィ
グル自治区まで鉄道、高速道路、そして光ファイバー網とパイプラインを
同時に敷設する複合プロジェクトである。

途中には工業団地、プラント、火力発電所などが突貫工事で進捗している。

高速道路に関して言えば、パキスタン政府が道路建設を開始していたが、
2016年の習近平パキスタン訪問時に、「中国シルクロード構想」(一帯一
路)の傘下に入り、相乗りというかたちで高速道路建築プロセスが修正さ
れていた。

その高禄道路建設現場の4箇所で、工事が中断していることが判明した。
 中国のファンディングが中断されたのが原因で「汚職が凄まじく、続行
が困難」との理由が説明されたという(『ザ・タイムズ・オブ・インディ
ア』、2017年12月5日)。

もともとパキスタンも、中国と同様に政治高官の汚職がはびこる社会。そ
のパキスタンと中国が軍事同盟なのだから、一部には『汚職同盟』という
声もあった。

しかしCPECは習近平が政治生命を賭けての一大プロジェクトであり、
南アジアでは、560億ドルを投じる世紀の大イベントでもあり、死にもの
ぐるいでも完成しようとするであろう。

先般も指摘したように「一帯一路」の英語の略称はOBOR(One 
Belt One Road)、まさに(One Bribe One 
Rebate)だ。
          
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2017年12月08日

◆金正恩の核ミサイルは中国にも照準

宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月7日(木曜日)弐 通巻第5537号 >  

中国吉林省の『吉林日報』、住民に「核戦争に如何に備えるか」の特集号
  やっぱり、金正恩の核ミサイルは中国にも照準

12月6日付けの『吉林日報』に全面特集記事がでた。吉林省と言えば、朝
鮮族が200万人ほど居住し、北朝鮮との行き来がもっとも多い。

米軍のB1B長距離爆撃機が飛来し、平壌は『アメリカをコテンパンにの
してやる』などと豪語しているが、これらの動きから戦争の危機が迫って
いると認識している。

中国の公式見解では北朝鮮が核ミサイルを保有しているのは日本とアメリ
カ向けであり、よもや中国に照準を合わせていると書いているメディアは
ない。

吉林日報も、記事には1行も「北朝鮮」への言及はなく、核爆弾を搭載し
た米軍機が飛来していることを強引に結びつけて、廣島、長崎を連想させ
る記事となっている。

北朝鮮に核爆弾被害がおよんだとき、吉林省にも放射能が及ぶため、「窓
を閉め、身体を洗い、歯を磨き、放射能から身を守れ」とイスラスト入り
で、防御策を示した。

爆発する光りを見てはいけない。外にいた場合はすぐに地面に伏せよ。家
の中にいたら、テーブルの下などに潜り、窓の側からはなれ、また崩れや
すい箪笥などからも距離をおけ。爆発後に放射能を清めるための措置をと
り、シャワーがあれば身体を洗うのが良いが、それが不可能なら、タオル
を濡らし、身体を拭くなどの処置を取れ、などと初歩的なガイダンスに終
始している。
 
表向き、北朝鮮の暴発をシナリオに含んでの報道ではないが、深層心理と
して、北朝鮮が核ミサイルを中国へ向けるシナリオが、その中には含まれ
るのだろう。あるいは核兵器の事故を想定していることが推定できる。
事態はまたまた深刻となった。
          
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1668回】              
――「支那は上海の大なるものとなるべき運命を荷ひつヽ・・・」――(前田6)
  前田利定『支那遊記』(非賣品 大正元年)

                ▽
つまり日本人の前田にしてみれば清朝が崩壊し中華民国が誕生したわけだ
から、全土が排満思想で沸き返っているはずと思っていたわけだが、どう
やら肩透かし。そこで、次のように考えた。

共和思想は南部の限られた「士人」が何らかの意図に従って「唱道」し
ただけ。彼ら以外は「當時盲目的に烟に捲かれ雷同附和して?から出た誠
とはなりし位のもの」でしかなく、「堅固なる政治上の信念により排滿思
想の天下に充實して民論遂に革命となりしものとは受とれ申さゞる樣」で
ある。

「『ハイカラ』の共和政治」を掲げる中華民国中央政府所在地の北京か
らほど遠からぬ信陽で前田が眼にした光景は、まさに清朝治下のそれで
あった。かくて「共和政府の威嚴の徹底せざるものあるに至りては共和政
も隨分薄ぺらのものなることと相知り可申存候」と結論づけた。

どうやら前田は北京の「中央政府を去る左迄遠からざる併かも鐵道沿線
上」の信陽の街で、じつは日本人自らの物差しが単なる思い込みに過ぎた
かったことを気づかされたということだろう。

これを一気に天安門事件に敷衍してみると、日本では中国全土が民主化の
要求に溢れていたと思い込みながら事態の推移を注視していた。だが「ハ
イカラ」な民主化思想は一部の「士人の爲す所ある爲に唱道せしを他は當
時盲目的に烟に捲かれ雷同附和し」たに過ぎなかった。であればこそ、
「堅固なる政治上の信念」による民主化思想が当時の中国の「天下に充實
して」いるはずもなかったということではなかったか。

トウ小平の改革・開放政策にしてから、「ハイカラ」な経済改革による
政治改革・開放社会実現は一部の「士人の爲す所ある爲に唱道せしを他は
當時盲目的に烟に捲かれ雷同附和し」ただけであり、結果として生まれた
のは欲望剥き出しの超野蛮弱肉強食市場経済だった。経済が発展し、社会
が豊になれば民主化するというアメリカ式希望的観測は、こと中国におい
ては全く成り立たなかったわけだ。

それにしても中華民国建国以後の混乱を考える時、辛亥革命を「當時盲
目的に烟に捲かれ雷同附和して?から出た誠」だと捉える前田の視点に注
目しておきたい。

北京では「租界地に入り申候英國、?國、(獨逸)荷蘭、(和蘭)美國
(米國)俄國、(露國)法國、(佛國)奥國、(澳國)伊國、及日本、の
各使署(公使館)が搆を接し居り候」。

ここには各国が駐屯軍を置き「嚴然として武威を振ひ居り候」。各国兵が
共に巨体を煌びやかな軍服に包み「萬國軍隊の繪巻物くりひろげたるが如
く」にあるが、我が守備兵は小柄な体に地味なカーキ色の軍服だ。

「短小なれ服装こそ質素なれ勇氣凛々として輕快なる精氣眉宇に溢れ居る
我日本兵が巨身長?の大陸兵の間に伍して毫末も遜色なく押しも押されぬ
樣見ては肩身廣き心地いたされ申候」。

なぜ各国軍隊が北京中心部の一角に駐留しているのか。
 
じつは1900年の義和団事件に際し、「外人を排斥追害なさんとする無道人
に朝廷ともあらうものが加擔」した結果、「各國の軍隊を首都に駐屯せし
むる權利を與へ」てしまったからだ。かくて清国は「居留外人の生命財産
を保護すべき力量と誠意なきとさげすまれ外國軍隊の銃劍の光を都府門内
に閃かされ」、「屈辱を忍ばねばならぬ」ことになった。

「他國人の吾々さへ口惜しきことに思」うことを、「支那の國民は何と思
ふやらん」。とはいえ「此等が覺醒の端緒となり候ようなれば禍却つて幸
福と申すもの」であろうが、「斯る屈辱を屈辱として心外に思ふや如
何」。「此點が先づ以て疑問に御座候」となる。《QED》

2017年12月07日

◆中国全土50の都市に地下鉄を掘っているが

宮崎 正弘

平成29年(2017)12月6日(水曜日)通巻第5535号   

中国全土50の都市に地下鉄を掘っているが、工事中断が始まった
  債務の膨張をこのまま放置しては深刻な事態が惹起されるだろう

中国の債務は33兆ドル(1ドル=113円で計算して邦貨3700兆 円)。この
数字は小誌がたびたび用いてきたもので、中国政府の公式数字 ではない。

中国の公式発表は2000兆円とか、IMFはGDPの285%と言って いる
が、いずれも過小な数字で、33兆ドルというのはウォール街の専門 家の
分析である。そして、スイスの老舗銀行であるUBSも、この債務数 字
を用いだした。

さてパオトウ(包頭)は内蒙古省の西側、ここからバスで3時間ほど南
下するとオルダス市、砂漠のオアシスとして一時期は栄えた。

さらに南へタクシーで一時間近く走ると、成吉思汗(チンギスハーン)の
「御陵」と称する巨大なテント村がある。この近くに世界に悪名を轟かせ
たゴーストタウン(カンバシ新区)があり、百万都市をつくって、がら空
きのビルを林立させた。住民はいま2万8千人しかいない。

パオトウは数年前、レアアース(希土類)の供給停止で、日本企業いじ
めの先頭に立った。強気だった。パオトウはレアメタル生産のメッカである。

レアアース工業団地が造成され、さらに旧市街には高層のレアアースビ
ル(ホテルも兼ねる)を建てた。筆者も行ってみたがテナントは少なく、
殆どがらんどうだった。

結局、日本はレアアースをカザフスタンなどに輸入先を拡げ、ある いは
昭和電工などは、安定供給を確保するために、中国国内での生産に踏 み
切ったため価格が暴落した。 

いまでは日本企業に買ってくれと泣きついてくる有様、ブーメランは徒花
として彼らの元に返った。
 
レアアースは江西省でも産出するが、岩盤にそのまま強い化学薬品を注
入してレアアースを抽出するという、乱暴極まりない遣り方なので、地下
水が毒性に汚染され、住民の飲み水が飲めなくなり、土壌汚染が深刻化し
た。これも逆効果。

その同じことを、過去の教訓も生かさずに展開しようとしたのが、パオ
トウの地下鉄プロジェクトだった。

習近平は「GDP成長より安定だ」と呼号して、地方政府のGDP報告
の水増しをチェックするや、遼寧省はたちまちマイナス20%という、真
実に近い数字がでてきた。

地方政府のGDP水増しは、一貫して共産党の頭痛の種だったが、「今後
はGDP成長率で、地方政府の優劣を評価しない」と言い出したから、レ
アクションは方々で、予期せぬかたちで起きてくるのは必定、その典型が
パオトウの地下鉄工事中止という「英断」となるのである。

パオトウの地下鉄はトンネル工事を開始したまま、機材が放置され、労
働者は解雇された。トンネルの入り口は目視できると『南華早報』の現場
取材記者が書いている。

そもそもパオトウのような田舎の都市に、しかも2つのルートの地下鉄
が必要なのか。すでに道路は広く、渋滞は殆どないうえ、鉄道も繋がって
いる。120メートル道路は、ソ連の援助で建てられた。バスは40路線 もあ
り、たった2元で、旧市内と新都心を一時間半で結んでいる。

地下鉄の総工事予算は305億元(46億ドル)。パオトウ市の歳入 (270億
元)を超えており、この巨額をいかなる担保でまかない、資金 を調達す
るかも、まじめに議論されず、中央政府はいったん、この工事を 認可した。

それもこれも2008年のリーマンショック以来の中国政府の景気テコ 入れ
策によって、中国全土50の都市に地下鉄建設の槌音がなりひびき、 計画
では総延長営業キロが5770キロに及び、現在すでに開通している だけで
も3000キロある。これはアメリカ全土の地下鉄と英国を足した 距離
よりも長いのだ。

パオトウの地下鉄は全長42キロで、2020年の完成を目指した。繰 り返す
が、パオトウ市の歳入は270億元。地下鉄の総予算は305億 元。誰が考え
ても無謀だろう。そのうえ、市がかかえる債務残高は900 億元(数字はい
ずれもサウスチャイナモーニングポスト、2017年12月4日)。
 バブル崩壊、いよいよ本番を迎えた。 
          

2017年12月05日

◆オバマ前大統領だって

                  宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月4日(月曜日)通巻第5533号>   

 オバマ前大統領だって、たまには味なことをやりますね
  訪中後、その足でインドへ。ダライラマ法王と会見
 
 さぞ北京はむくれただろう。訪中したオバマ前大統領は、その足でイン
ドへ足を延ばした。2017年12b月1日、ニューデリー入りしたオバマは、
或る場所を訪問した。そこにはダライラマ法王が待っておられた。

「2人のノーベル平和賞受賞者が会見した」とインドや、ロシアのメディ
アは騒いだが、日本の新聞で、この両者の会見を報じたところはあるのだ
ろうか?

インドはドクラム高原で中国軍と対峙し、夏にもまた軍事衝突が起こると
予測されている。

ダライラマ法王は2011年に、自らの希望で政治改革をやりとげ、民主的手
続きを経て「首相」を選んだ。

すなわちダライラマは、宗教的指導者ではあっても、チベット亡命政府の
指導者ではない。自らの民主化の願いから、その立場を降りたのだ。

他方、オバマは現職時代を含めて過去に5回、ダライラマ法王と面談して
おり、「力を併せて世界平和のための努力をしよう」とした。

会見中、ダライラマ法王はオバマ大統領に対して「あなたはまだ若い、こ
れからもやるべき異は多い筈です」と諭すように語ったという。ダライラ
マはすでに82歳。次のチベット仏教界のスピリチュアルリーダーは「外
国人であるかも知れないし、女性であるかも知れない。チベット以外で生
まれた人に決まるかも知れない」と衝撃的な予測をなされていることでも
話題となっている。
          
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 「明治の精神」について論ずるというよりも、唄いたかった。
   偉大な時代は、詩においても偉大である。明治という偉大な時代も。

   ♪
新保祐司『明治頌歌  言葉による交響曲』(展転社)
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新保祐司氏の文章を読んでいつも感じるのは崇高なる精神を希求する詩人
というイメージだ。

氏の『信時潔』を初読したときに、直感的に抱いたインスピレーション、
文章の巧みさを抜きにして、この人の脳裏に流れているのは詩的な音楽で
ある。

小林秀雄はブラームスを聴きながら『本居宣長』を書いたという。新保氏
は、フルトベングラーを聴きながら、本書に挑んだ。氏は文藝評論家であ
り、同時に音楽への造詣が深い詩人なのである。

本書を読んで、氏のご先祖が江差ということを初めて知った。

――そうか、あの荒ぶる海、凜列な風、曠野。
榎本武楊、土方歳三らの立て篭もった函館五稜郭、地政学的にみて、その
前衛が松前城、後衛が江差だった。

官軍は五稜郭の脇腹にあたる松前と江差に海軍を上陸させ、堅強を誇った
松前城を落とし、函館に迫った。土方は武士の鑑のように硝煙の中に消
え、榎本は官軍に下った。戊辰戦争は終わった。

評者(宮崎)は、幕末維新史、とくにその時代を担った武士たちに深い興
味があって、江差も松前もローカルなバスを乗り継いで見に行ったことが
ある。

先般上梓した拙著『西郷隆盛』の取材では、西?が旅した場所を悉く歩い
たが、彼が流された奄美、徳之島、沖永良部を見に行き、さらに西南戦争
で田原坂の敗北以来の潰走ルートを人吉、小林、宮崎、砂土原から延岡に
たどり、最後の決戦、和田越えの役に敗れて、北側の可愛岳を越え、故郷
の城山に帰還するまでの山道を歩いてみた。
 詩が生まれる。

西郷は詩人だった。

偉大な詩的精神の持ち主だったというのが拙作『西郷隆盛 ――日本人はな
ぜこの英雄が好きなのか』(海竜社)の結論である。

戦争でも詩が生まれるのだ。乃木将軍は203」高地に陣取って、或る夜、
児玉源太郎、志賀重昴と「詩会」を開いたというのだから、あの明治とい
う時代のおおらかさ、というよりも詩的な精神に富んだ時代の仕合わせに
思いを馳せた。

嗚呼、あの明治の精神はどこへ行ったのだろう? その思いを深めつつ読
み進めると、本書の中に明治の精神の蘇生を発見する。
 
新保氏はこう書く。

「偉大な時代は、詩においても偉大である。明治という偉大な時代も、偉
大な詩を多く生んだ」

「文学とは、精神的事件に関するものであって、その精神的事件も起きた
人間が書いたものが、文学の名に値するのであって、その人間の『職業』
が『文学』者であるかどうかは全く関係のないことである」。したがって
「『明治の精神』の表現としての『漢詩』の最高峰が、乃木大将の『漢
詩』であったといってもそれほど意外とは思われないであろう」。 
 
乃木はステッセルとの会見に臨む前に志賀に一編の詩を渡した。

 「爾霊山 嶮なれどもあに攀じ難からんや
   男子功名 艱に克つを期す
    鉄血山を覆うて 山形改まる
     万人齋しく仰ぐ 爾霊山」

新保氏は感嘆をこめて言う。
 
「このことば(爾霊)のかがやきはどうであろう。このことばを選び出した
乃木の詩才はもはや神韻を帯びている」
 
評者も2回、この203高地を訪れているが、ともに快晴に恵まれ、遠く旅
順港が見下ろせた。新保氏は残念にも登攀した日は雨だったそうである。
 かくして新保氏は次のことばで本書を結んでいる。

「明治の精神について論ずるというよりも、歌いたかった。もう説明や解
釈が成り立つことばというものに飽き果ててしまった。それは根源的に
は、誤解を恐れずに言えば、文化主義の虚妄やヒューマニズムの限界を思
い知ったということである」

久しぶりに詩的な名作に巡り会えた。
 
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【知道中国 1666回】      
――「支那は上海の大なるものとなるべき運命を荷ひつヽ・・・」――(前田4)
    前田利定『支那遊記』(非賣品 大正元年)

             ▽
「支那人は一體、物を創造する時は金力も勞力も惜しまず作り上げ候へ共
出來上がりたる後はうつちやり放しで修理とか改良など一切致」さずに、
「使へるだけ使ひ盡し大修理の必要起る時は別に新規に建て直す」とは、
前田のみならずこれまでもみられた指摘だが、これは現代の中国にも通じ
るように思える。

たとえば文革である。新たな文明を「創造する」とぶち上げ、挙国一致
状態で「金力も勞力も惜しまず」に狂奔したものの、時が過ぎると「うつ
ちやり放し」。「修理とか改良など」のみならず反省すら一切なく、毛沢
東の築いた30年ほどを「使へるだけ使ひ盡し」た後、「大修理の必要起
る」や、次は対外開放・金銭至上主義によって「新規に建て直」し。「偉
大なる中華文化の復興」「中国の夢」を「創造」し、「金力も勞力も惜し
まず」に一帯一路に邁進しようというわけか。

ならば国力を「使へるだけ使ひ盡」し「中国の夢」を「うつちやり放し」
にするのは何時頃になるのか。その辺りが見どころだ。それにしても彼ら
のDNAに自省の2文字は刻まれているのだろうか。不思議極まりない民族だ。

前田は長江を遡って「英國居留地のある九江に着」。「日英同盟は結構
なることは相違なく候へ共餘りに同盟だなぞと氣を許し居るは如何や将た
又あまりに英國に氣兼ねするも如何やと存じ申候」と、日英同盟の現実に
目を向けた。

それというのも我が「日清汽船會社の支店は立派に建てられ候」ではある
が、肝心の荷物の陸揚げ施設を「會社前面の水面に設置することを英人よ
り制限せられて遥か川上の甚だ不利なる水面を利用せねばならぬよう餘儀
なくせられ居り候痛恨事に御座候」とし、同盟国であればこそ、こういっ
た「意地わるき制限壓迫を受けぬ樣」に「官民共に努力なされ度」と記す。

だが、どうやら「英人は遠慮なく長江の先輩者たることを鼻にかけて我儘
を働くのに日本人は馬鹿正直に内氣で氣兼ばかりして居るは商略上ほめた
る話であるまじくと存候」と。それというのも九江の商略上の将来性を考
えればであった。

それにしても「意地わるき制限壓迫を受け」ても、同盟を結ぶ相手国が
「我儘を働くのに日本人は馬鹿正直に内氣で氣兼ばかりして居る」といっ
た姿は、日米同盟下の現在を連想してしまう。

やはり昔も今も、何故に「日本人は馬鹿正直に内氣で氣兼ばかりして居
る」のか。ともあれ、この点を深く自覚・自省し、克服に努めない限り、
「戦後レジュームからの脱却」は不可能だと痛感するのだが・・・。

とはいえ「九江には米國、支那、各1隻の軍艦淀泊」しているが、「我龍
田も艦首の菊の御紋章を殘照に輝かして小氣味よくも江上に威嚴を示し居
り候」。

九江を後に「滿山是鐵鐵是山」と形容し、「吾等の目には殆ど無盡蔵とも
云ふべく悠久に盡くるの期あるべしとも思はれ不申候」たる大冶鉄山に
向った。この鉄鉱山は「我邦軍器の獨立と密接の關係」があり、その採掘
権については「世に隱れたる所謂無名の士にして?名を欲せす一意專心御
國の爲に盡し盡されつゝあるの人」、いわば「眞に忠良なる國家の一員」
である「至誠の人の手」によって獲得されたことを特記する。

次いで列強が展開する「長江々上の角逐」に言及し、「列國の對清經營
なるもとを見るに殆んと交通上の利權獲得に御座候」と切り出した。各国
の政策を俯瞰するに、「支那を啓發誘尋し其生産力を増加せしめ延て己を
利するの見地」に基づいてのものなのか、それとも「直ちに己が政治經濟
上勢力範圍伸長の基礎とし所謂勢力範圍の劃定を豫期せるものなのか」――
どちらであるかは即断できない。だが列強は従来から清国各地で「交通上
の利權政策」を競っており、「列國が長江々上に於て多年激烈なる商戰を
なし」ているのも、長江こそが「中清經營の鍵」であるからだ。この前田
の指摘は現在にも通じていると思う。《QED》            

2017年12月02日

◆英国諜報機関トップの警告

宮崎 正弘

<平成29年(2017)12月1日(金曜日)号外 >  

英国諜報機関M16トップの警告は傾聴すべきである。

サイバー攻撃に対して政府、企業、個人の脆弱性をするどく指摘し、「銀
行や製造業の業務が停止に追い込まれる事態も出ている」

優れたコンピュータ技術を持つ日本はサイバー攻撃への対応策を真剣に取
り組むべきだとし、こう付け加えた。

「5年から10年以内に2001年の米同時テロのような破壊的なサイバー攻撃
が発生すると想定しておくべきだ、そうなれば多くの人々が命を落とし、
突然、脅威を思い知らされることになる。すべての国家はそんな事態に備
えなければいけない」。

そこで筆者ははたと思いついたのだ。
 ーーそうだ、ガラパゴスへ行ってみよう。

忽ちにして考察する課題が浮かんだ。

 1
、AI(人工知能)が人間を超える日は本当に来るのか

 2、ドローンがすでに実用化されているが、兵士も機械化され、つぎに
ロボット戦争が地球を変えるのか

 3、文明の進化に背を向けたガラパゴスの古代生物のたくましさ、ふて
ぶてしさは逆説なのか

 4、人間の文明は何処へ向かい何を目指すのか?

 5、大量の失業者を適切に産業の配置換え、再編に適応させることが可
能なのか?

マイクロソフトのCEOサティア・ナデアラ(ビルゲーツの後継、インド
系アメリカ人)は、AI開発は人間が中心となると発言している。

つまりマイクロソフトのAI開発の基本原則は「人間の置きかえ」ではな
く、「人間の能力の拡張」にあり、この基本原則は北斗七星のごとく不動
である、とした。 

――しかしAIの近未来は明るいのか、暗いのか?
――5年後にフィンティックによって銀行は半減するという。戦争は軍事ロ
ボットになるという。


2017年12月01日

◆ICBMを日本海に飛ばしたが

宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月29日(水曜日)弐 通巻第5528号 >  

 北朝鮮、ICBMを日本海に飛ばしたが
  新型か「火星型」は不明。ロフテッド軌道。4000キロを「遙かに超えた」

2017年11月29日午前3時18分。北はまたまた新型のICBMを打ち上げ、
400キロをこえる上空から日本海のEEZ領海に落下した。

打ち上げから一時間余、小野寺防衛相は5時に防衛庁で記者会見し、六時
前に安倍首相が官邸で記者会見している。

この対応の迅速さをみれば、前夜から打ち上げ予測が確実であったことが
分かる。

前夜、ルクセンブルグ大公との夕食会を終え、首相はそのまま官邸に宿泊
していることからも、万全の対応態勢にあった。

他方、中国は北朝鮮国境を守備する北部戦区で大規模な軍事演習がなさ
れ、零下17度の極寒状況のある内蒙古省でも、冬の軍事作戦を想定した訓
練が行われ、また丹東から北朝鮮の新義州にかかる橋梁を「工事」のため
一時閉鎖する措置をとるとした。

日本時間午前6時ごろ、トランプ大統領が記者会見し、「制裁を最大につ
よめていく方針に変わらない。この状況にわれわれは対応している」と語
気強く語った。

これで日米中の即応体制は観測できるが、対応は記者会見だけであり、日
本の防衛態勢の能力向上など、肝腎の話は何も出ていない。これで「万全
の態勢ができている」というのは耳の聞き違いかと思った。
           
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 ◆ 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1664回】        
――「支那は上海の大なるものとなるべき運命を荷ひつヽ・・・」――(前田2)
  前田利定『支那遊記』(非賣品 大正元年)

               ▽

上海を代表する庭園で知られる愚園と張園を歩いて、「泉石樹林園中に布
置いたされ候も全く一顧の價値無之」。そこで「早々退却致し申候」。最
後の加賀藩主の息子で子爵である前田からすれば、愚園だろうが張園だろ
うが、「一顧の價値無之」だったに違いない。

次いで「支那の家屋殊に高位豪家」における「盗難火災等に對する防備の
周到なる」ことから、「蓋し其防衞を官憲に依頼するも到底頼みにならぬ
處より自衞の道を講ずるべく餘儀なくされ」ているからだ。

「民人が國家の公力の保護に由らず其身體財産を自家の私力に依りて防衞
せねばならぬとは國民にとりては氣の毒」である。その一方で、「400餘
州の山河と四億の民を主宰する國家としては誠に不甲斐なきこと」。「人
民が國家に對する感念の薄弱になりゆきて滿朝が滅ぶるも政體が替らうが
吾不關焉といふ態度」は、「大いに味ふべきこと」であろう。

どうやら「支那の良民にして生命財産を保安せんとして上海の地に移り住
む者」が多い。それというのも「上海は支那の領土とは申し乍ら外國の威
力」によって守られているからだ。「國民にして其國家の權力の及ばざる
外國國旗の支配下に立つべく相率ゐて走るに至るとは驚入りたる國民」と
いうべきだが、「斯く人民をして餘儀なくするに至らしめる國家も國家と
驚くのみに御座候」である。

防備のために高い塀を廻らせる「支那の家屋園囿は幽靜を極め陰氣臭」
く、「天日爲に昏く憂鬱の氣の漂ふ」ようだ。だが一方で、安全至極であ
り「無爲に化して居り候には至極恰好」である。こういった住宅事情か
ら、前田は「支那の國民性の防禦に專らにして侵攻に拙」であり、「男性
的にあらずして女性的」である背景を想像してみせた。

次に前田は「理窟めき候へども上海に付き聊か申添度事有之候」と記し、
対外関係・通商関係などから上海の地政学上の優位性をしてきしつつ、確
かに通商の上で「我國は第2位の優位を占むるとは云へ英國に比すれば其
差霄壤も啻ならず」。

加えて「新進氣鋭の獨逸の元氣侮るべから」ず。だ から「我が同胞の奮
勵努力」を大い期待するが、我が国が「中清殊に長江 方面に注目着手」
したのは最近のこと。「數十年來蟠踞」しているイギリ スなどを考えれ
ば「短き歳月の割合より考ふれば目覺ましき發展をなし た」と考えら
れ、今後の一層の努力をきたいする。

だが、「只侮るべからざるは獨米の二國殊に獨逸人の質素勤勉熱心の所謂
獨逸魂に御座候」。だから彼らに対するには「緊褌一番すべきことに御座
候べく存じ申候」と。ともかくも「質素勤勉熱心の所謂獨逸魂」に気を付
けろ、である。

中国市場を挟んで日本とドイツの関係は、どうやら現在まで続いている
ということだろう。やはり「質素勤勉熱心の所謂獨逸魂」を侮ってはいけ
ないということだ。

ここで転じて前田は上海の政治的・法的な立場に考えを及ぼす。

いったい上海は「支那主權の下に在り乍其實恰も外國臣民の自治の地の如
く一大共和國の觀」がある。それは「食客が家の持ち主となり巾をきかす
が如」きだ。

「支那の國土にあり乍」も「支那官憲の勢力」が及ばないという「奇怪な
現象」を呈しているから、「支那の良民は生命財産の保安」のため、「匪
徒は捕逃の厄を遁れ」るため、この地に逃げ込む。

「上海の國際法上に於 ける地位も頗る不明」で、日清戦争の際には「對
戦國たる支那に供給する 兵器」が製造され、日露戦争においては「我邦
に不利?なる事件」が見ら れたにもかかわらず、我が国は「上海を封鎖
砲?すること」ができなかった。

こうみてくると、どうやら「上海なるものは支那なる邦國」の将来を示し
ているようだ。言い換えるなら「支那は上海の大なるものとなるべき運命
を荷ひつゝ居るものにあらざるなきかと想像する」。この考えを、前田は
「萬更一概に捨てられぬ」とする。《QED》

2017年11月30日

◆北朝鮮、ICBMを日本海に飛ばしたが

宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月29日(水曜日)弐 通巻第5528号>   

 北朝鮮、ICBMを日本海に飛ばしたが
  新型か「火星型」は不明。ロフテッド軌道。4000キロを「遙かに超えた」

 2017年11月29日午前3時18分。北はまたまた新型のICBMを打ち上
げ、400キロをこえる上空から日本海のEEZ領海に落下した。

打ち上げから1時間余、小野寺防衛相は5時に防衛庁で記者会見し、六時
前に安倍首相が官邸で記者会見している。

この対応の迅速さをみれば、前夜から打ち上げ予測が確実であったことが
分かる。

前夜、ルクセンブルグ大公との夕食会を終え、首相はそのまま公邸に宿泊
していることからも、万全の対応態勢にあった。

他方、中国は北朝鮮国境を守備する北部戦区で大規模な軍事演習がなさ
れ、零下17度の極寒状況のある内蒙古省でも、冬の軍事作戦を想定した
訓練が行われ、また丹東から北朝鮮の新義州にかかる橋梁を「工事」のた
め一時閉鎖する措置をとるとした。

日本時間午前6時ごろ、トランプ大統領が記者会見し、「制裁を最大につ
よめていく方針に変わらない。この状況にわれわれは対応している」と語
気強く語った。

 これで日米中の即応体制は観測できるが、対応は記者会見だけであり、
日本の防衛態勢の能力向上など、肝腎の話は何も出ていない。これで「万
全の態勢ができている」というのは耳の聞き違いかと思った。
           
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【知道中国 1664回】        
――「支那は上海の大なるものとなるべき運命を荷ひつヽ・・・」――(前田2)
  前田利定『支那遊記』(非賣品 大正元年)

        ▽
 上海を代表する庭園で知られる愚園と張園を歩いて、「泉石樹林園中に
布置いたされ候も全く一顧の價値無之」。そこで「早々退却致し申候」。
最後の加賀藩主の息子で子爵である前田からすれば、愚園だろうが張園だ
ろうが、「一顧の價値無之」だったに違いない。

 次いで「支那の家屋殊に高位豪家」における「盗難火災等に對する防
備の周到なる」ことから、「蓋し其防衞を官憲に依頼するも到底頼みにな
らぬ處より自衞の道を講ずるべく餘儀なくされ」ているからだ。

「民人が 國家の公力の保護に由らず其身體財産を自家の私力に依りて防
衞せねばな らぬとは國民にとりては氣の毒」である。その一方で、「四
百餘州の山河 と四億の民を主宰する國家としては誠に不甲斐なきこ
と」。「人民が國家 に對する感念の薄弱になりゆきて滿朝が滅ぶるも政
體が替らうが吾不關焉 といふ態度」は、「大いに味ふべきこと」であろう。

 どうやら「支那の良民にして生命財産を保安せんとして上海の地に移
り住む者」が多い。それというのも「上海は支那の領土とは申し乍ら外國
の威力」によって守られているからだ。「國民にして其國家の權力の及ば
ざる外國國旗の支配下に立つべく相率ゐて走るに至るとは驚入りたる國
民」というべきだが、「斯く人民をして餘儀なくするに至らしめる國家も
國家と驚くのみに御座候」である。

 防備のために高い塀を廻らせる「支那の家屋園囿は幽靜を極め陰氣
臭」く、「天日爲に昏く憂鬱の氣の漂ふ」ようだ。だが一方で、安全至極
であり「無爲に化して居り候には至極恰好」である。こういった住宅事情
から、前田は「支那の國民性の防禦に專らにして侵攻に拙」であり、「男
性的にあらずして女性的」である背景を想像してみせた。

 次に前田は「理窟めき候へども上海に付き聊か申添度事有之候」と記
し、対外関係・通商関係などから上海の地政学上の優位性をしてきしつ
つ、確かに通商の上で「我國は第二位の優位を占むるとは云へ英國に比す
れば其差霄壤も啻ならず」。加えて「新進氣鋭の獨逸の元氣侮るべから」
ず。

だから「我が同胞の奮勵努力」を大い期待するが、我が国が「中清殊 に
長江方面に注目着手」したのは最近のこと。「數十年來蟠踞」している
イギリスなどを考えれば「短き歳月の割合より考ふれば目覺ましき發展を
なした」と考えられ、今後の一層の努力をきたいする。

だが、「只侮るべからざるは獨米の二國殊に獨逸人の質素勤勉熱心の所謂
獨逸魂に御座候」。だから彼らに対するには「緊褌一番すべきことに御座
候べく存じ申候」と。ともかくも「質素勤勉熱心の所謂獨逸魂」に気を付
けろ、である。

 中国市場を挟んで日本とドイツの関係は、どうやら現在まで続いてい
るということだろう。やはり「質素勤勉熱心の所謂獨逸魂」を侮ってはい
けないということだ。

ここで転じて前田は上海の政治的・法的な立場に考えを及ぼす。

 いったい上海は「支那主權の下に在り乍其實恰も外國臣民の自治の地
の如く一大共和國の觀」がある。それは「食客が家の持ち主となり巾をき
かすが如」きだ。
「支那の國土にあり乍」も「支那官憲の勢力」が及ばないという「奇怪な
現象」を呈しているから、「支那の良民は生命財産の保安」のため、「匪
徒は捕逃の厄を遁れ」るため、この地に逃げ込む。

「上海の國際法上に於 ける地位も頗る不明」で、日清戦争の際には「對
戦國たる支那に供給する 兵器」が製造され、日露戦争においては「我邦
に不利?なる事件」が見ら れたにもかかわらず、我が国は「上海を封鎖
砲?すること」ができなかった。

 こうみてくると、どうやら「上海なるものは支那なる邦國」の将来を
示しているようだ。言い換えるなら「支那は上海の大なるものとなるべき
運命を荷ひつゝ居るものにあらざるなきかと想像する」。この考えを、前
田は「萬更一概に捨てられぬ」とする。
《QED》
 

2017年11月29日

◆イスラエルよ、おまえもか

                     宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月28日(火曜日)弐 通巻第5526号>    

 「イスラエルよ、おまえもか」。中国から160億ドルの熱狂的投資
   卓越したAI開発、新規テクノロジー開発企業に中国ファンドがドンと

 イスラエルの技術の象徴はITのソフト、AI開発。ハッカー対策。い
ずれミサイルの目など武器に転用される。イスラエルのハッカー対策技術
には、日本もおおいに注目し、その技術を導入している。

テルアビブ大学のキャンパスに奇妙なオブジェが建立されている。巨大な
馬をイメージするのだが、材料はすべて使い古したPC、iフォン、コン
ピュータ部品で成り立っている。次々と迅速に雷速に次のコンピュータ技
術が開発されるから、新しいと思っていた技術がすぐに古くなることを象
徴しているようでもあり、かたちは「トロイの木馬」を想像させる。

やってきた。この迅速極まりないテクノロジー開発企業に中国マネーが乱
舞し始めたのである。

最初は2011年のことだった。香港財閥第1位の李嘉誠がやってきた。技術
開発企業の株式を買った。爾来、毎年16%平均で中国からの投資は増えた
が、2016年には、160億ドルの巨額に達していたことがブルームバー
グの調査で判明した。

習近平の「一帯一路」に便乗しているが、意図はまったく違う。中国はイ
スラエルのインフラ整備に投資はしておらず、露骨な企業買収というかた
ちはとらず、資本参加、技術提携が主体で、実質のテクノロジー開発企業
を運用し、新技術を自らのものにしようというのが究極の狙いとされる。
(もっとも新興企業の大半は上場していないから、企業買収は不可能であ
る)。

2016年1年間で、中国が世界のハイテク企業に投下したカネは合計で378
億ドルに達した(サウスチャイナモーニングポスト、11月27日)。  
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 あの信時潔『海道東征』が2月2日に、大坂で再公演されます。
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信時潔『海道東征』カンタータが2月2日に、大坂で公演です
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大好評だった交声曲 会場を揺らす迫力! 東京大成功に続き、再び大阪に
 『海道東征』コンサート
 信時潔 作曲、北原白秋 作詞

 「海ゆかば」の作曲家としても知られる信時潔、畢生の大作カンタータ
 指揮  山下一史
 管弦楽 大阪フィルハーモニー交響楽団
 合唱  大阪フィルハーモニー合唱団
     大阪すみよし少年少女合唱団
 とき  2月2日(金曜)18:30(17;30開場)
 ところ ザシンフォニーホール(大阪市北区大淀南2−3−3)
     http://www.symphonyhall.jp/access/
 S席=7000円 A席=6000円
 主催  産経新聞社
 チケット    06−6453−2333
 チケットぴあ  0570−02−9999
     ☆

2017年11月28日

◆シリア内戦は終盤

宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月27日(月曜日)通巻第5523号 >   

血の犠牲は45万余、難民が1200万人、再建に2000億ドル
  シリア内戦は終盤、アサド政権は中国の復興援助を熱烈に期待

「ISとの武装戦争に勝った」とロウハニ(イラン大統領)がテレビにで
て発言したあと、ロシアへ飛んでプーチンと会談した。「シリアの戦後」
はロシアとともに主導権を取る姿勢を鮮明にしたことになる。

トルコは反アサド路線なのに、このイラン、露西亜との3者首脳会談にエ
ルドアン大統領が強面顔で出席した。トルコ国内にかかえるクルド武装勢
力がどうでてくるか、頭痛の種だからである。

シリアの中国大使ムスタファは『サウスチャイナ・モーニングポスト』
(2017年11月26日)の取材に応じ、「中国の復興事業への協力、中国企業
の参入を歓迎したい。米国、トルコなどの参入より、シリアはロシアと中
国、インドとイランからの支援に期待する」とした。

見返りはシリア石油の輸出。前払い条件でのローンを組み、その資金は人
民元建てでも構わないというのが、シリア政権が中国に示している条件で
ある。中国にとって返済が危ない話だが、人民元による決済は魅力だろう。

しかし復興に必要とされる資金はおよそ2000億ドルであり、難民1200万人
の帰還事業とて、まるで手がついていない。

ましてIS残党はシリア北西部イドリブ地方で依然として武装闘争をつづ
けており、アサド政権の打倒路線をすててはおらず、完全な停戦が実現す
るにはまだ数年を要するだろうと予測されている。 
         
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●訃報●
アウン・ミン・ユン氏(「ベトナム革新党」日本支部長)
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誰からも愛され親しまれる有徳の人だった。アウン・ミン・ユンさんは寡
黙で静かで、しかし身体中で祖国ベトナムへの愛国を表現する稀有の運動
家だった。
 1975年にベトナムから日本へ留学。直後にベトナムは共産主義者に
統一され、やがて多くのボートピーポルが海を渡り、20万人ほどが日本
へもやってきた。その後、多くは米国、カナダ、豪へと移住したが、日本
には1万2000人が定着した。

 ユンさんは、ボートピーポルの救援に立ち上がって、獅子奮迅の活躍を
なし、次第に祖国を全体主義から自由な態勢に革新しなければならないと
して「ベトナム革新党」日本支部の設立に情熱を燃やした。
 ベトナムは中国との戦争を展開する果敢な国であり、親日国家でもあ
り、よもやまさか、この国がいまだに一党独裁の全体主義国家だと考えて
いる人は少ない。
 しかしメディアを独占し、反政府言論を封じ込め、政敵を追放し、ネッ
トを監視しているため国民の言論、結社、表現の自由はない。中国との戦
いも「北の国と戦争した」と教科書で教えているだけで、ベトナム戦争中
の韓国兵の虐殺、レイプなども表だっての抗議を控えている国である。
 
 ユンさんは勇気をもって立ち上がり、ボートピーポルでやってきて、そ
の後日本に定着した在日ベトナム人の組織化に没頭、ベトナムが自由にな
る日まで独身をつらぬくとして、家庭を持たず、清貧な暮らしを続けなが
ら次第に仲間を増やしていった。日本人の理解者も増えた。

 筆者が最初に氏とあったのはペマ・ギャルポ氏が中心の「アジア自由民
主連帯協議会」の席であり、チベット、ウィグル、南モンゴルに連帯し
て、ベトナム、カンボジアなどに人々が活動の輪を拡げていった。天安門
事件25周年東京集会では、石平、陳破空氏ら中国人代表のあと、ベトナ
ムを代表して所信をのべた。

 以後、筆者が代表を務める「南シナ海問題を考える会」では、昨年ベト
ナムから国会議員経験者や著名学者を招いてシンポジウムを開催したとき
縁の下の力持ちとして在日ベトナム人に参加を呼びかけた。実に寡黙な活
動家でもあった。

今年は「尖閣、沖縄、そして台湾」というシンポジウムでもベトナムを
代表して参加したばかり、ベトナムはとくにパラセル(西沙諸島)の一部
を中国に侵略されている。

ユンさんは11月19日に急逝され、26「日に桐ヶ谷祭場で告別式が厳粛 に
行われた。つい先日まで、あれほど元気に飛び回っていた印象だった
が、心臓が弱かったという。告別式会場には日本中からベトナム人が集合
し、さらには米国に住む実兄と「ベトナム革新党」の党首等も急遽、米国
から馳せ参じた。

「壮士、道半ばにして」の印象を抱きながら、筆者は告別式の会場へ向
かった。

式は仏式で、追悼の辞は多くが声を詰まらせ、涙を一杯にしながら、氏の
急逝を悼み、実績をたたえ、そして若者は「意思を継続する」と誓いを述
べた。

実にベトナムの告別式とは家庭的であり、また職業的僧侶を呼ばず、経を
暗記する人々が導師の衣服を着て、途中で五体投地を繰り返しながら、長
い長い音楽のような経を読むのだった。南無阿弥陀仏のところは、日本語
に似ていた。

ベトナム国家の正式の国旗(いまの赤にハンマーではない)と、ベトナム
革新党の党旗を8人のベトナム人男女によって高くかかげられて入場し、
柩を蔽った。

それぞれが心のこもった挨拶で、日本からは筆者のほかに、ボートピーポ
ル支援時代からの友人、小島孝之氏が出席して、涙ながらの弔辞をのべ
た。会場の桐ヶ谷齋場は二百名近い友人らで埋まった。

これほど暖かい、家庭的な、親密でまっすぐな心情を身体ごと表現すると
いう友人葬は近年の日本ではお目にかかれないので、こころに深く残る式
典となった。

「さようなら、ユンさん、志半ばにして逝った友よ」。

2017年11月27日

◆深刻な労働力不足は少子化が原因だが

宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月26日(日曜日)通巻第552>   


 中国とて、深刻な労働力不足は少子化が原因だが。。。
  大学新卒は795万人、80万人は就労先なしだが、労働現場へも軍隊
へも行かない


日本は「売り手市場」である。

少子化のため大学新卒が年々歳々減り続け、地方の大学は存続が危うい。
文科省はなにを狂ったか、奨学金までつけて外国人留学生を大募集し、他
方で日本人学生に給与型の奨学金は少ない。文科省の権益である大学を存
続させるだけが目的かと、多くの若者が不満を募らせている。

雇用側は新卒を狙うが、学生は二社も三社も掛け持ちで受け、最終的にど
の会社へ行くかを決めるのだから、企業側が内定を決めたら学生の囲い込
みに入るのも無理はない。国際的にみれば、これほど異常な現象はないだ
ろう。

欧米では大学を出ても30%前後に職がないのだから。

反対の文脈で中国も異常なのである。

労働現場に労働力が払底し始めている。中国を代表する製造業「フォック
スコム」(鴻海精密工業)は湖南省鄭州工場で、旧正月の消費を当て込ん
でのかきいれ時に備えた増産態勢を敷いている「iフォン」の大メーカー
だが、労働者が決定的に不足しているため強制残業に踏み切った。
 不満の声があがり、ストライキの構えにあるそうな。

軍隊はといえば、新兵が欠員だらけとなった。

中国人民解放軍が、徴兵制ではなく志願制に切り替えてから4半世紀、新
兵募集に応じる若者が激減している。兵隊なんかやってられるか、という
意識が蔓延し始めたのだ。それもこれも中国の若者に大きな意識が起きて
いることと、人口動態からみても、1人っ子政策の悪弊が残っており劇的
な変化が目立つ。

2011年に働く人口は9億2500万人だった。過去5年で、2000万人が労働戦
線を去り、2050年には7億人にまで減少するといわれる。

若者の人口(15歳から24」歳)は、2006年に1億2000万人だった。この数
も、2020年には6000万人となって半減するという予測がある。未来の若者
の急減予測は、その比率を比較すると、日本より深刻である。
 

 ▼世界一の人員をほこる中国軍も新兵不足が深刻

もっとも顕著な例が、じつは軍隊である。
 
たとえば山東省は人口9800万人もいるが、輸出製造基地でもあり、経済が
飛躍する一方で、軍人リクルートは過去3年間、毎年2桁の落ち込みをし
めしている。

現在235」万人の人民解放軍、上層部に「団塊の世代」があり、毎年、15
万から20万人が退役している。これを補充するには毎年、すくなくとも毎
年25万人の新兵を徴集しなければいけない」(アジアタイムズ、11月23日)

最大の原因は大学にある。

中国も猫も杓子も大学へ行くようになり、2017年の新卒は795万人。16年
は760万人、即席の大学やら、教授の資格の無いセンセイが寄せ集めの、
名ばかりの技術大学など、雨後の竹の子のように粗製濫造され、大学ビジ
ネスこそ盛況なれど、就労先が急減している。景気後退の所為である。

大学新卒は795万人(2017年)、このうち1割は最終的にあぶれる。つま
り80万人は就労先無し、しかし彼らは労働現場へも軍隊にもいかない
 
2016年に大学新卒は760万人だった。半分がまともな就労先を見つけた。
残りは仕方なく、中小企業家、あるいはアルバイト、女子学生は「愛人
業」か風俗へ流れ、それでも1割は完全失業となる。

 ところが中国人の意識では大卒はエリート。絶対に労働現場にはいかな
い。ブルーカラーにはなりたくないから大学へ行ったのに、何のため高い
授業料を支払って大学をでてみれば、ホワイトカラーの職場がないじゃな
いか。
 
国の人口動態の激変ぶりも、つぎの社会的変化の前触れであろう。 

         
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◆樋泉克夫のコラム 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  
【知道中国 1662回】       
―「即ち支那國は滅びても支那人は滅びぬ」――(佐藤9)
   佐藤善治郎『南清紀行』(良明堂書店 明治44年)

              ▽

佐藤は「財力と計畫との基礎が乏しい」と指摘したうえで、「本邦人の中
には本國に於ける失敗者の、赤裸々で往つた者などが多い」。さらには
「居住後年を經ること尠く、經營の基礎が薄弱である」と指摘する。

「本國に於ける失敗者」が一旗揚げようと腰かけ気分でやってくる日本人
に対し、「歐米人は數十年來相當の資本を却して基礎ある經營をして居
る」。では「基礎ある經營」とは何か。佐藤は、「例へば數多の資本を投
じて支那人を?化し、以て基礎を確實にしつつある」。一方、「本邦人は
唯自己の經營に傾注し、未だ歐米人の如き經營の地位に達していない」。

かくして佐藤は、日本人が「數十年來相當の資本を却して基礎ある經營
をして居る」欧米人に伍していくのは容易なことではないが、「多人數の
國民が外國にて生活の資を得るだけでも國家の慶事である」と結論づけた。

佐藤によれば、「長江を上下する大船40艘、噸數8萬7千噸。これは日
清英獨の諸國が競爭的に經營して居る」。日本の日清汽船會社が、そのう
ちの3分の1相当を押さえている。同社に対し政府から相当額の補助金が
与えられていることは、「本邦輸出品と居留民とを保護する」ことにつな
がる。

政府の支援もあり「居留民は増加し、運輸貿易事業、租界の經營も着々と
その歩を進むれども」、イギリス人やドイツ人と比較すると「甚だ思はし
くはない」。日清間は地理的には一衣帯水、歴史・文化的には同文同種、
そのうえ日本は「東洋の盟主を自ら任じている」。だが長江以南の実情は
イギリスはおろか「動もすれば獨逸の壓倒する處」も見られるほどだ。で
あればこそ「更に大いなる覺悟を要すると思う」。

それというのも、ドイツ人は「支那人の嗜好と需要とを研究し、その模
様、形状の支那出來なるかを疑ふ位の品物を賣込」んでいる。これに対し
「本邦人は需要を研究すること少なく、よい加減の品物を製造して送りつ
け、賣れざる時は罪を買手に歸するといふ傾がある」。

そこで佐藤は、「蓋し一省内に於てすら風俗習慣を異にする支那であるか
ら、得意巡りをして需要嗜好等を研究し、大い我對清貿易を盛にするを必
要と思ふ」と、市場調査の徹底を提言するが、中国市場における日独企業
の対応の違いは現在にも通じるようだ。

さらに佐藤は筆を進めて、「若し支那の貿易額の一人頭分を現在の本邦分
頭だけに昇すならば七十億」となり、その半額を日本が占めるなら我が国
は大いに潤うことになる。だから対清貿易に励めということになるが、
「油斷すれば支那に大工業が起つて本邦輸出を絶つのみか逆に輸入する事
にもなるであらう。

大いに覺悟せねばならぬ」と“警句”を発した。

対清貿易・通商関係についての佐藤の一連の“警句”は、それから1世紀
ほどが過ぎた現在でも十分に通用するように思う。もっとも一衣帯水、同
文同種だけは余計だが。

最後に「思想界に就いて一言」している。
 
確かに教育面、出版面をみても日本の影響は多大といえる。それでは「将
來の支那は全く本邦思想によつて風靡せらるるかといふにさうは言はれぬ」。

それというのも「本邦の影響を受けて居るのは外面」だけだからだ。彼の
「國民性は自負で、近來は排外思想が全國に瀰漫して居る」。教育面でも
実態的には「本邦の影響を受けぬは勿論である」。だが「一には人道」、
「二には本邦が嘗て文化を受けし返禮」、「三には本邦經濟的發展の素地
となすべく」、「四には政治上の變動に應ずる基礎である」からこそ、政
府部内のみならず要路の元日本留学生への働きかけを「撓まず倦まず力を
盡すことが必要である」と提言する。

 「一」と「二」は一衣帯水、同文同種と同程度に余計なことだが、歴史
を振り返ってみるに、我が国は「三」にも「四」にも対応できなかったよ
うに痛感するのだが・・・。《QED》

2017年11月26日

◆ジブチ大統領が中国訪問

宮崎 正弘

<平成29年(2017)11月25」日(土曜日)通巻第5521号>

 ジブチ大統領が中国訪問。軍事基地は「中国とはパートナー」を強調
  スエズ運河の喉元、アデン湾からインド洋への要衝に中国軍事基地が
本格稼働


ジブチはエチオピアに向けての鉄道があり、また中国が石油鉱区を有する
南スーダンに繋がる。

ジブチの米軍基地のとなりに中国は海外で初めての軍事基地を造成し、8
月1日から稼働させている。

近未来には1万人の人民解放軍が駐屯する大軍事基地となり、米軍の規模
(現在4500人)を超える。日本の自衛隊とフランス軍も近くに駐屯してい
るが、後者弐ヶ国の目的は海賊対策である。

無政府状態のソマリア、スーダンはISの秘密基地があり、また沿岸の海
賊は西側の大型タンカーなどをねらって身代金をとるビジネスに狂奔して
いる。ジブチは地政学的に枢要なポジションにあって、スエズ運河の入り
口を扼す戦略的要衝でもあり、中国から言えば、「海のシルクロード」の
中継に必要な一大拠点である。

中国も「海賊退治が目的」と公言しているが、すでにセェイシェルズ諸島
には軍事基地(中国は「補給所」と言い張っている)、その先のパキスタ
ンのグアイダール、そしてスリランカのハンバントタ、ミャンマーの軍事
レーダー基地など、すっかり「海のシルクロード」も完成が近い。

ジブチのイスマル・オマール・ゲレー大統領の訪中は、両国関係が「パー
トナーシップ」であることの確認と謳われ、正式な礼砲と式典の軍隊が赤
絨毯で歓迎した。

じつはジブチ大統領の本当の目的は中国から巨額の借款を引き出すことで
あり、北京政府はジブチに融資することを決めたが、その金額は「非公
開」とされている。

中国の富をねらって、おうした国々の「おねだり外交」は続いている。