2017年09月09日

◆毛沢東の孫もリストから外された

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月8日(金曜日)通巻第5424号>  

 〜毛沢東の孫=毛新宇も、張震の子=張海陽もリストから外された
  党大会参加者名簿から多数が「落馬」。とくに太子党の大物が5人〜

第19回中国共産党大会を10月18日に控え、参加者名簿およそ2300名が発表
された。

失脚が明らかとなったのは共青団系で周強、孫政才ら嘗て胡春華と将来を
嘱望されたリーダーの名前がないのは予想通りだが、軍の代表団からのリ
ストに異変がある。

失脚が明らかとなったのは房芳輝、馬暁天、呉勝利だが、9月6日の時点で
明らかとなったのは毛沢東の孫、毛新宇(陸軍中将)。劉少奇の子、劉源
(上将。嘗ては習近平の軍師と言われた)、胡耀邦の女婿、劉暁江(海軍上
将=提督)。張震の子、張海陽(上将)。李先念の女婿、李亜洲(上将。嘗
ては反日軍人のトップ)など5人もの太子党軍人の大物が、リストから外
されていることだ。

5人はともに革命元勲の末裔であり、中国共産党を代表する顔でもあり、
才能があるかないかは別に、象徴的存在だった。

とくに毛沢東、劉少奇の裔が党大会にさえ出席できなくなったというのは
異変である。

前回の党大会では41名が中央委員を兼ねていた。その後、王建平、田修思
ら軍人の大物らが退任していた。次の党大会では軍から34名の軍人が新し
いメンバーとなる予定。

退任が確定した軍人のなかでも、氾長龍(軍事委員会副主任)、常万全(国
防部長)、越克石らの名前がある。

軍トップの移動人事はかなり大幅な上、特徴的なのは習近平に忠誠を誓う
軍人が選ばれているのは当然の流れにせよ、平均年齢が50代後半から60代
前半と若返っていることである。
      
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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あの四川省大地震で糾弾された学校の倒壊は手抜き工事の悲劇だったが
1人っ子。大事な、大事な子供が死んだ。田舎へ急行した両親は呆然自失した

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メイ・フォン著、小谷まさ代訳『中国「絶望」家族』(草思社)
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副題が「一人っ子政策は中国をどう変えたか」。
 
中国語に新しいコトバがでてきた。「失独」というのだ。
 こ
れは「たった1人の子供を失った両親を一言で現す」。すでに推定で200
万世帯が「失独」となり、さらに毎年7万6000世帯が増えている。

これまでクローズアップされてきた1人っ子政策の問題のなかで最も目
立った議論は「小皇帝」問題だった。

甘やかされ、兄弟げんかを知らない子供は人生観もスポイルされているか
らこの手合いが一線に立つと、社会が歪むのではないかという心配事だっ
た。兵隊も1人っ子が多いため、とても戦える軍隊ではないだろう。
 
幼年期から神様のように扱われた子供は、大人になると悪魔のように振る
舞う傾向になる」(P・D・ジェイムス『人類の子供たち』)

だから本書も社会学者の近未来予測かと思いがちだが、中味は異なる。本
書は勇気ある女性ジャーナリストの現場におけるレポルタージュである。
 中国の奥地、警戒網を突破して、当事者にインタビューし、真実に近付
くというのはジャーナリストの任務でもあり、著者はウォールストリート
ジャーナルの北京特派員としてながく中国取材に取り組み、ピュリツアー
受賞にも輝いている。

人口動態、将来の高齢化、福祉制度の破綻という文脈で、日本や先進国の
社会学者、統計学者はこの問題をよく語る。フランスの人口学者のエマニ
エル・トッドは、人口減少の主流派に対して反主流派イスラム人口爆発を
ベースにソ連の崩壊を予測した。

社会的変化、人口動態の構造的歪みのグラフを見ていても、近未来の暗い
家族像、国家像が浮かぶ。

それゆえ日本でも団塊の世代が高齢化し、介護生活に直面した現在、もっ
とも懸念されるのは年金制度の崩壊と福祉医療、いつまで基金はもつのか
という素朴な疑問、そして行政を離れてみれば、すでに高度成長期に崩壊
した家族、過疎村!

いったい誰が最後の面相を見るのかという一種絶望的世界観にぶち当たる。

それゆえに世界一深刻なのは日本であると騒がれた。1人っ子どころか、
結婚しない日本人が急増し、さらに結婚しても子供を産まない。高度福祉
国家を実現した日本は、この制度の崩壊が秒読みという近未来の恐怖が語
られる。

日本の国会とメディアの議論と言えば「待機児童ゼロ」だ。本末転倒も甚
だしい。

まさに若者が結婚し、家庭をもって子供を産むという人間本来の自然な環
境を、政府がいかに支援できるかということを考えなければいけないとき
に枝葉の議論をしているのである。

 ところが。
 
世界一深刻で人口政策が悪魔的に貧困なのは中国だった。

厳密な1人っ子政策の実行は末端の行政にノルマを課した。このため残酷
な強制堕胎、あるいは法外な罰金が科せられ(それが地方幹部の副収入で
もあった)、家庭は破壊され、悲壮な人生観が広がる。

まさにディストピア(ユートピアの反対語)、それが中国である。

四川省地震では学校がばたばた倒壊し、おそらく数万の子供が、それも一
人っ子が犠牲となった。手抜き工事や現場の写真をメールしただけで、監
視団は口止めし、告発した人々を逮捕した。

中国の人口抑制政策は1980年から正式に実行されたが、それ以前すでにテ
ストケースとして実験された山奥の村があった。言い出したのはロケット
工学の博士だった。机上の空論、所詮は、書類の計算式から産まれた処方
箋だった。
インドも人口抑制のため一人っ子政策に踏み切ったがすぐに撤廃した。不
人気極まりないというより自然の法則に反するからである。
 日本は逆に産めよ、増やせよと笛を吹いても、若いカップルは踊らな
い。冷ややかである。

「1人っ子政策がもたらした男女比と年齢構成のアンバランスによって、
今後10年以内に中国の独身男性の数はサウジアラビアの全人口を上回り、
高齢者の数はヨーロッパの全人口を上回る」と著者は言う。
 
「ドイツ銀行による試算では、2050年までに中国の年金不足額は7兆5000
億ドルに及ぶとされ、これは2011年の中国のGDPの83%に相当する」

財政が悪化し、ゾンビ企業の再編効率化、輸出激減、労働賃金の高騰のた
め『世界の工場』ではなくなった中国。負債が膨張し、海外への送金が規
制され、これから先の中国経済は真っ暗闇だが、このうえに1人っ子政策
のツケが覆い被さる。

突撃取材によって現場の夫妻の嘆き、独身男性の叫び、共産党のちぐはぐ
な対応を活写している。

       
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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 きれいなものを見ると汚したくなる変質者と朝日新聞に似ていないか
日本(きれいなもの)を貶めることがよほど楽しいらしい

高山正之『サンデルよ、「正義」を教えよう』(新潮文庫)
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皮肉たっぷりの譬喩がある。

「先日、京浜東北車内で美人に痰をなすりつけた男が鶴見署に捕まった。
きれいなものを見ると汚したくなると自供した。朝日新聞はこの変質者に
似る。「きれいな日本をみると汚したくなる」

改めて文庫になったので、評者(宮崎)は読み返す機会を得たが、初読で
スルーしていた重要箇所があったことを知った。

この本、単行本の出た2,011年にいちど小誌でも書評している。最初にそ
れを下記に再録する。

「ご存じ『変見自在』シリーズも第6弾。辛辣で皮肉たっぷりで、相手が
一番触れて貰いたくない患部をぐさりと突き刺す。矛盾をえぐりだす。
『週刊新潮』の看板コラムの単行本化である。

日本の精神の腐れ、知的腐敗の元凶は朝日新聞だが、いかにこのメディア
が卑怯で、それでいて本質的恐喝や暴力には怯懦であるか、本書をよめば
溜飲が下がるように、パノラマを見ているように納得できる。正義を標榜
する戯れ言は旨くても、かれらが隠し続ける左翼の不正義が、そこはかと
なく浮かんでくる。船橋洋一がいかに偽物であるか。

同時に歴史的経緯を簡潔に分析している行間のなかに、欧米とりわけ米
国、英国、フランス、オランダという「民主国家」が、いかに残虐で、無
謀で、暴力と謀略がすきな国々であるかも明らかになる。

その左翼の詭弁と詐弁が擁護するのは中国、韓国、北朝鮮、そして冷戦時
代はロシアを徹底して擁護した。その論理的破綻を隠蔽しつつ、今日もま
たでたらめな報道、主張を織りなして多くの日本人を洗脳しようとする。
これまで英雄視してきた人物達のいかがわしさ、これまで敬愛してきた
集団や国家群や国際組織の欺瞞。そして歴代NYタイムズ東京支局長なる
人々のいかがわしさと無教養。

その嘘を、この本では表題に用いたハーバード大学の詐欺男に象徴させる
のである。

サンデルなるおっさんが、いかなる詐欺的弁舌を展開しているのか、評者
(宮崎)は寡聞にして知らなかったが、高山さんが要領よく、端的にまと
める。

「サンデルの頭にこうした日本的な正義はない。商売は阿漕に、金持ちは
命を惜しむ。それを何とか正義で包みたい。あの大学(ハーバード大学)
に中国人が増えるわけだ」

さて。

文庫になったのを機会に読み返してみて、おやと思った箇所はコソボの独
立に関してである。

かつてトルコはセルビアを落とし、「強いセルビアが復活しないよう彼ら
の都、コソボに(トルコは)イスラム教徒のアルバニア人を住まわせた。セ
ルビア人の心の拠り所を奪ってしまう手法だ。先の戦争のあとGHQは都
会のいいところを三国人に不法占拠させ、パチンコ屋をやらせて日本の景
色を一変させたこれと一脈通じるところがある」

実際にコソボを歩くとアルバニア人が夥しく、セルビア人は家を放置し
て、ベオグラードやほかのEU諸国や米国に移住した。だから寂しい田園
風景。治安はNATOが守っており、皮肉にも世界遺産はキリス小教会だ。

もう一つ、ルーマニアの串刺公こと、ワラキア公がなぜか吸血鬼ドラキュ
ラ、悪魔に扱われているのだろうか。かれはトルコの侵略を撃退したのに?

評者、現場に立ってドラキュラの王城を見学し、なぜ、この英雄が、単な
る吸血鬼扱いされているのか訝しんだ。そこで拙著(宮崎正弘『日本が全
体主義に陥る日』、ビジネス社)のなかでこう書いた。

「言うならば外国侵略軍と戦って散華した鎌倉武士の棟梁のような存在で
あり、イスラエルでいえば『マサダ砦』ではないか。ルーマニアの英雄で
ある。それなのになぜドラキュラの汚名を着せたままルーマニア政府は放
置しているのか、不思議に思った」。

 その答えは簡単だと、高山氏は言う。「彼らはローマンカソリックでは
なかった、東方正教会系だったからだ」

清涼飲料をまとめて10本のんだようになれるのが読後感があった。

2017年09月08日

◆中国の経済改革は進んでいるのか

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月7日(木曜日)通巻第5423号>  

 〜中国の経済改革は進んでいるのか、逆方向に暴走しているのか
  国有企業の民営化、為替の完全変動相場制移行は?〜

「ゾンビ」と異名をとる中国の国有企業は、2015年末の統計で133631社。
 民営化は遅れ、あるいは逆方向で「独占」、もしくは業界の「寡占」と
いうかたちでの再編が進んでいる。

独占は石油産業であり、民営化なんて夢のように遠い話。2003年に設立
された国家財産管理委員会は196社を再編したと発表したが、結果は96社
の独占企業が生まれた。株主の多角化が謳われ、20%以上の大株主は認め
ないとした。

例えばチャイナ・テレコム(中国連通)は、33・2%の株式を売却した
が、株主にはテンセント、百度、アリババなど通信企業である。

中国鉄道は7000億元(11兆円強)の負債があり、FAW自動車、SFエクス
プレスなど同類企業が株主となって、業界の利益を守る形となっている。
つまり株主構成に変化が生じているが、これをもって中国の定義では「民
営化」というらしい。

逆に軍需産業の「保利集団」は資産が957億元(1兆5000億円強)もあり、こ
の余裕資金をふんだんに使ってシノライト、国営工芸社などを買収し、コ
ングロマリット化を図っている。

同集団はトウ小平を頂点とする守旧派一族の利権である。

つまりロシアのような完全民営化とは程遠いのが中国の国有企業の「改
革」であり、政府の言う「産業の効率的再編」とは合併、買収を市場にお
いて大量の株式購入というかたちでなされているのが実情である。

 ちなみに日本の専売事業だったJTは、33・35%が財務大臣、すな
わち国が所有し、残り3分の2弱が金融機関、信託銀行系ファンド、そして
外資である。JR東日本は、25%の筆頭株主がセントラル警備、ほかに
傍系、下請け、孫請けの講じ会社が名を連ね、銀行系が名前を連ねる。


 ▲人民元はまだ変動相場制に移行していない

ならば通貨改革はどうだろう?

中国は1994年に人民元の為替レートをいきなり30%減価させ、輸出競 争
力を高めるとともに従来の「外貨兌換券」(外国人は普通の人民元では
なく、この兌換券しか認められなかった)を廃止、通貨を統合した。

2005年に管理相場制に移行した。2%の範囲内でしか変動を認めず、事
実上のドルペッグ体制に固執した。

この時期の中国にとっては紙くずとしてしか認められなかった人民元がド
ルと交換できることだけでも大きなメリットがあり、ドル・ペッグは死守
された。

 2015年には為替レートが2%切り下げされ、「フロート制度に近付い
た」などと喧伝された。

2016年10月1日からは人民元がIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出
し権)通貨として国際的に認定された者の人民元の決済シェアは逆に減っ
た。人民元下落予測が市場の予測となったからだである。

 そのうえ、SDR認定の条件は「完全変動相場」への移行だったが、中
国はガンとして、これに応ぜず、いわば資本主義社会からは孤立してい
る。独自の中国方式にあくまで拘るのである。

2017年09月06日

◆北朝鮮は習近平の顔に泥を塗った

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月5日(火曜日)弐 通巻第5420号>  

 〜BRICS初日、北朝鮮は核実験。習近平の顔に泥を塗った
   この経済協力機構は世界経済にとって、いかなる意味があるのか〜

 BRICSは設立動機がそもそも不純である。

中国がロシアと組んでG7に一泡吹かせようと新興工業国家が集合しただ
け、ロシア、ブラジル、インド、南アはそれぞれ政治体制が異なり、資源
リッチとプアに別れる。加盟国の利害の一致点は経済、技術協力くらいだ
ろう。

習近平は5月の「一帯一路」フォーラムを北京で開催し、晴れ舞台を演
出、ことさらロシアとの協力関係を世界に誇示しようと企図した。プーチ
ンはわざわざ厦門までやってきて習の顔を立て、次はウラジオで自らが演
出する「極東経済フォーラム」へ回る。7日には安部首相がウラジオを再
訪する。

その会議初日、北朝鮮はミサイルをぶっ放して習の顔に泥を塗った。

9月4日から福建省厦門で開催された「BRICS会議」にぶつけて北朝
鮮は核実験を強行し、2度までも習近平の自尊心を傷つける。

しかし怒りを沈静しながら習近平は基調演説をこなし、また直前に兵力を
撤退させてインドとも一時的停戦。モディ首相の顔を立てた。

今回のBRICS会議にはオブザーバーとしてメキシコ、タイ、タジキス
タン、エジプト、そしてギアナが加わった。だが、これら五ヶ国の正式加
盟は見送られた。

そのうえで、習近平は追加で7600万ドルをつぎ込み、我々は保護貿易
主義に反対してゆこうなどと宣誓したものの、実態は空中分解にちかいの
ではなかったか。

なぜならシルクロート(一帯一路)の注ぎ込む巨額は1240億ドルである。
BRICSには7600万ドル、この開きは何を物語るのだろう?

昨年、5ヶ国の対外投資は1970億ドルあったが、このうちBRICS同士
の投資額は、5・7%に過ぎなかった。

他方、中国のアフリカ進出に大きな影が射した。

「一時はアフリカ大陸のあちこちに100万人の中国人がいるとして騒がれ
た。それが急速に激減しており、たとえばアンゴラからは15万人が去っ
た」(英紙フィナンシャルタイムズ、9月4日)。

第一にアフリカ全体のGDP成長率が低く、各国で通貨が低迷、下落を続
けている。

第2に治安が中国より悪いうえ、中国人を狙った犯罪が急増した
第3にメンタル・タフネスの中国人もアフリカの文化には馴染めない。文
化、風土があまりにも違いすぎるからである。

      
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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多彩な民族と言語。人々を別けたのは「国家」ではなく「宗教」だった
  政権が安定した時代は希、いつも争いが次の争いの火種を残したバル
カン半島の歴史

  ♪
マーク・マゾワー著、井上廣美訳『バルカン』(中公新書)
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バルカンといえば、ころころと立場が変わる三木武夫の代名詞だった。つ
いた渾名は「バルカン政治家」。その弟子の海部首相も同じような軽さが
あった。しかし、国際政治学ではバルカンには、そういう意味はない。

多彩な民族と言語が点在し、半島に住む人々を別けたのは「国家」ではな
く「宗教」だった。政権が安定した時代は希にしかなく、いつも争いが次
の争いの火種を残したのがバルカン半島の歴史である。

思い出すことは幾つもあるが、いまから四半世紀以上前、まだ「ユーゴス
ラビア連邦」という国があった頃、評者(宮崎)は首都のベオグラードで小
粒なセルビア正教(ロシア正教の源流)の教会に入った。入り口に十字架
のネックレスを売っていたので、土産に買おうとしたら、
 「あなたは何教徒か?」と聞くので
 「仏教徒だが」
 「異教徒には売らない」
 「えっ」
という会話があった。そうか、「異教徒」という語彙がでてくるのか。相
互不信の固まりのような質問だった。その教会では結婚式をあげていて、
花嫁が美人だったことを覚えている。

冷戦の終焉後、セルビアとクロアチアから始まった「内戦」は全土に飛び
火した。スロベニア、クロアチア、ボスニア&ヘルツェゴビナ、モンテネ
グロ、マケドニアが『ユーゴ連邦』の主導権を持っていたセルビアから独
立し、最後にコソボも「独立」を宣言した。

アルバニア人の多いコソボは旧ソ連、旧東欧諸国の多くが独立を承認して
いないが、欧米が認め(日本も追随)、とくにアメリカはまっさきに大使館
を開設し、しかもコソボはいきなり通貨をユーロとした。

一番得をしたのはアルバニア、貧乏くじを引いたのが悪者にされたミロセ
ビッチとカラジッチだった。このセルビアにとっての民族の英雄は、列強
の強い圧力と追求を前にして、セルビア国民によって国際法廷に売られた。

評者(宮崎)は冷戦後も、2回に分けて、これら7つの国と、ついでアルバ
ニアを回った。その成果は『日本が全体主義に陥いる日』(ビジネス社)
に詳しい。

さて本書である。

民族間の紛争を近現代だけではなく中世から古代にも溯って捉え直し、し
かもこのバルカン問題はヨーロッパの過去の出来事として済ませてよいの
か、それともバルカン問題は『未来のヨーロッパではないのか』と問う。

遠き昔、バルカンはギリシアとローマの覇権争いだった。中世にはオスマ
ントルコ帝国がどっかと根を下ろし、近世には列強が介入し、トルコは近
代化し、バルカン半島は三度の戦火に見舞われて無惨に破壊され、最貧の
農業国家のひとつとまで言われる「どん底」に落ちた。

ネイションという概念が拡大し、民族浄化が行われ、ひとびとは宗教を超
えた民族、そして国家という単位で紛争を激化させてきた。

現在のバルカン情勢は『束の間の平和』の最中であり、いずれまた戦争が
始まるだろう。

著者はこう言う。

「仏蘭西革命(1789)に始まり、1923年にオスマン帝国がついに崩壊する
までの時期、所謂『長い19世紀』は、近現代のバルカンの政治地図が現れ
た時代だった。ナショナリティ(民族集団)の原則に従って建設された独
立国家が、ローマ人の後継者を自認する『神の奴隷にしてのこの世のスル
タン』、オスマン皇帝の500年続いた帝国にとって代わった」

一時はオーストリアとロシアがバルカンを分割する予定だった。エカテ
リーナ女帝の孫がコンスタンチノーブルで玉座に座る筈だった。この行く
手を塞いだのがナショナリズムだった。しかし、独立にいたるには「ヨー
ロッパ列強が味方となって介入するのを待たねばならなかった」(148p)

国家という概念に乏しく、多様な言語が入り乱れていたため、キリスト教
徒かイスラム教徒かの区別しか人々は理解していなかった。

「『ルーマニア』や『ブルガリア』という概念は、1830年代になってもま
だ、ほんの一握りの知識人や活動家を駆り立てていたに過ぎず、『アルバ
ニア』とか『マケドニア』に到っては、おそらく無いも同然だった。南東
ヨーロッパは、民族が自らのために独立国家を勝ち取るという、ロマン主
義のナショナリストが思い描いたような姿にはなく、新国家の指導者が、
過去のオスマン時代の世界観に染まった農民社会から民族を作り出さねば
ならなかた」(165p)。

かくして、筆者が纏める。

「いくつかの主要な宗教が交差する地域では、民族の多様性こそが緊張の
根深い元凶であり、民族浄化は、ヨーロッパ的な国民国家建設の論理の一
部というよりも、バルカンの歴史を特徴づけるとされる一連の大虐殺とそ
れに対する報復大虐殺の最新版だった」(248p)。

そのバルカンが冷戦以後、地政学に変化し、世界市場の中央に位置し、
「黒海、旧ソ連、中央アジアを含み、オスマン帝国崩壊以来最大の領域に
渡ってビジネスの機会を提供している」(262p)のだからややこしい。
だからEU、欧米、旧東欧諸国、旧ソ連が積極的に絡み、アメリカも意外
に高い関心をしめるというジレンマに陥っているのである。
         

2017年09月05日

◆砂漠にも無意味な幽霊都市

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月4日(月曜日)弐 通巻第5418号>  

 〜タクラマカン砂漠にも無意味な幽霊都市、誰が責任をとるのか?
  新彊ウィグル自治区の安定化が目的だったが、実態は住民が不在〜

カシュガル郊外。緑のすくないタクラマカン砂漠。ここに新都心を建設し
「地上の楽園」と宣伝した。2009年のウルムチ暴動ではウィグル人およそ
200名が殺害され、数万がとなりのカザフスタンへ逃げ込んだと言われる。

イスラム住民をなだめるために中国は何を思いついたか、砂漠の真ん中に
新都心建設を始めた。総費用は85億ドルと謳われた。

「2万人の新雇用、新都心、繁栄する未来」が描かれた。
これは2010年から開始されたウィグル安定化5
ケ年計画である。

もともと西部開発は胡錦涛政権以来のスローガンだった。しかもシルク
ロード構想の国内版としても政治宣伝に転用でき、砂漠地帯も「第2の深
セン」が実現するなどと喧しいプロパガンダが鳴り響いた。

沿岸部は港湾設備が充実し、交通のインフラがあり、大学も多く、優秀な
人材を得やすいが、交通のアクセスは貧弱このうえなく、工業団地を建て
ても、進出企業はないだろうに、当局はそういう計算ができないのだろうか。

新彊ウィグル自治区の最西端カシュガルでは古いモスクが破壊され、追い
立てられた住民の住まいにと、およそ8万人の住居、ツィンの摩天楼、三
本の大通り、商店街をつくり、有利な条件を提示して入居者を募集した。
8万人というのはカシュガルの総人口の15%にあたる。
20万平方メートルの砂漠は緑に化ける筈だった。

ツィンビルは途中で建設が止まり、道路は冠水したまま、付近は荒れ放
題、宣伝に騙されてやってきた商店主は客が殆どおらず、閉店状態となった。
「移住歓迎のネオンサインは、まるでSOSに見える」と現地を取材した
『サウスチャイナ・モーニングポスト』(2017面9月4日)の記者は書いた。
     

2017年09月04日

◆「ジョージ・ソロスはテロリストだ」

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月3日(日曜日)通巻第5416号>  

 〜「ジョージ・ソロスはテロリストだ」。署名嘆願に11万人がサイン
   制度上、司法省が介入すればソロスの資産は凍結される〜

世界一の投機家として著名なジョージ・ソロスには、もう1つの顔がある。

「民主化」運動を支援し、東欧諸国には大学を寄付し、反政府運動の影の
指導者として暗躍した。

ウクライナの反ロシア暴動でも、資金を提供したといわれ、プーチンのロ
シアからの敵視されてきた。

2016年の大統領選挙中は、トランプを「詐欺の天才。インチキの独裁者」
と批判し、ヒラリー・クリントンを熱心に応援し、全米のリベラル、左
翼、人権活動家からは人気を集めた。

ソロスはテロリストだ、というのは彼のリベラルな政治運動への資金提供
などによる支援が、まわりまわって世界のテロリストを助長し、結局はア
メリカ社会の安定をそこなったとするもので、ホワイトハウスのネットに
ある署名欄で、「ジョージ・ソロスはテロリストだ」とする嘆願要求キャ
ンペーンは8月20日に開始された。

9月1日までにその署名が11万人を超えた(ワシントンタイムズ、9月
2日)。英語版プラウドでも「7万人を超えた」(同紙、9月1日)として
いる。

制度上、署名が1ヶ月以内に3万人を超えるとハワイとハウスは調査には
いる建言があり、司法省がこの嘆願を認めるとなると、ソロスならびに彼
の設立した政治寄金、諸団体の資金が凍結される。

はたして、そのような状態にまでなるか、どうか。
      

2017年09月03日

◆中国の不思議なマネーがブラックホール

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月2日(土曜日)通巻第5414号>  

 〜あのリバプールが中国の不思議なマネーのブラックホールと化した
  「チャイナタウン」建設プロジェクトに群がり、そして消えた巨額の謎〜

リバプールと言えば、まずはビートルズ。彼らがデビューしたマシュー・
ストリートには世界中から観光客が集まり、ポスターやら帽子やらマス
コット人形など所謂「ビートルズグッズ」が売れる。一昔前は、船員が肩
で風を切って歩く港町。やくざの街としても知られた。

港へ横付けされる貨物船から中国人船員が降り立ち、やがてリバプールに
住み着き、小規模なチャイナタウンができた。

第2次世界大戦の空襲で焼け野原となって、チャイナタウンは場所を移
し、いまではショッピング・モール、食堂、カラオケバー、食材店で殷賑
を見せるようになる。リバプールの街の中心部である。

カテドラル教会を挟んだ隣接地にニュー・チャイナタウン計画が持ち上
がった。

マクイン市長が主導し、市議会あげてこのプロジェクトに賛成した。「リ
バプール再生プロジェクト」の目玉と騒がれ、習近平が訪英したときに
も、この計画に極めて前向きで、キャメロン首相と前進を約束したのだった。
 
赤い竜が突然真っ赤な火を吹きあげながら巨額の投資資金を持って猛進し
てきた。主力は香港の投資集団とされた。はじめに提示された計画では摩
天楼が建ち並び、NYのソーホー地区のようなアーテスト村も誕生し、英
国繁栄のモデルとなるような夢が語られた。

遣り方は高層マンションや近代的でモダーンな商業ビルが建ち並び、ホテ
ルという総合的多角的な新都心建設の青写真に基づき、その分譲というか
たちで投資資金を募るという形式だった。

この遣り方は香港、広州などで顕著はスタイルだが、日本のマンション分
譲方式とは異なり、頭金が徐々に上がり、そのかわり、投資資金比は高利
がともなうという、一種トトカルチョ的な博打の方式に似ている。つまり
マンションを購入する人は別に住むわけではないのである。

英国でもこの方式にはなじみがなかったが、市議会主導のプロジェクトで
もあり、とりたてての反対はなかった。

また同様なチャイナタウン建設計画は、リバプールに限らず、ロンドン、
バーミンガム、マンチェスター、ノッテンガムなどでも進行していた。

雲行きが怪しくなった。

建設が遅れに遅れ、請負企業体のひとつだった建設会社が倒産した。

PHD社は負債1470万ドルを抱えて破産を申請し、訴訟の過程で明らかに
なったのはマクイン市長とその一族にヤクザが絡んで、集めた資金がプロ
ジェクトに投資されていなかった。

巨額の投資資金はブラックホールに吸い込まれて蒸発していた。

屋上に中華庭園、140室の豪華ホテルをもつ総合施設、マンション併設
という夢のような計画は建設中断を余儀なくされ、投資家から集団訴訟を
起こされ、喧しかった中国の銅鑼は突如鳴りやんだ。破局を迎えたのだった。

2017年09月02日

◆中国共産党、第19回党大会は10月18日から

宮崎 正弘



<平成29年(2017)9月1日(金曜日)通巻第5413号> 

(速報)
  〜中国共産党、第19回党大会は10月18日から
    18期「7中全会」は10月11日。最終人事が決まる〜

 中国は10月18日から北京で「第19回党大会」を開催すると発表した。
 「習思想」の確定と新執行部人事が焦点だが、みどころは王岐山の留任
があるか、習子飼いの陳敏爾が政治局常務委員に3段跳びするか、どうか。

習が「党主席」という毛沢東以来のポストを獲得できるか、否か。

いずれにしても、第15回大会以来、党大会の日程は8月末に発表されてお
り、前回の第18回大会だけが9月末に発表がずれこみ、実際の大会は11月
にもつれ込んだ。

       
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 読書特集  BOOKREVIEWS
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  ♪
小川榮太郎『天皇の平和 九条の平和(安倍時代の論点)』(産経新聞出
版) 
水間 政憲『完結「南京事件」』(ビジネス社) 
高橋 洋一『日本を救う最強の経済論』(育鵬社)
    
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW  
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「歴史によって鍛えられた思想であり、日本精神の中核にあるもの」が
「平和」
「憲法9条」なるものは、精神ではなく法律の条文でしかない。

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小川榮太郎『天皇の平和 九条の平和(安倍時代の論点)』(産経新聞出版)
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リベラルなメディアがひたすら安倍降ろしのために日夜、浅智恵、悪智恵
を絞って量産しているフェイクニュースの洪水。

「平和憲法を守れ」などとがなり立てながら、実際にかれらほど平和を守
ろうという意思は薄弱である。とどのつまり「日本固有の平和精神と憲法
九条の平和主義と何の関係もない」のである。

左翼の言う平和は欺瞞に満ちた世紀の大嘘である。

 「日本固有の平和」とは、小川榮太郎氏の定義では「歴史によって鍛え
られた思想であり、日本精神の中核にあるもの」であって、「平和主義
者」などと嘯く手合いが喧しくいう「憲法九条」なるものは、精神ではな
く法律の条文でしかない。

にもかかわらず現代日本では、平和という言葉が、日本人の美しい「歴史
的在り方への回路」ではなく、「思考停止の呪文」になりさがり、日本つ
ぶしに狂奔する左翼の便利な道具と化けてしまった。

ということは、平和の精神を第九条から救出しなければならず、国柄のな
かに正しく位置づけしなおし、一方で正当な安全保障を9条から救い出す
必要がある、と説く。

2017年09月01日

◆インドがベトナムへ「ブラモス・ミサイル」を

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月31日(木曜日)弐 通巻第5412号> 

 〜インドがベトナムへ「ブラモス・ミサイル」を供与へ
  マッハ2・8,射程290キロのスグレモノ、南シナ海へ投入か〜

ブラモスはもともと旧ソ連とインドの共同開発。スカッドミサイルの改良
から進化した。

2001年から実験に成功しており、その後、格段に改良されて、戦闘機、巡
洋艦ばかりか、潜水艦発射型もある。

インドは頭脳のコンピュータ部門を担当した。つまり命中精度の高い巡航
ミサイルの短距離型であり、局地戦に威力を発揮する。

具体的にいえばパラセル諸島(西沙諸島)の幾つかを中国に盗まれて、い
ざ海戦となるとろくな軍艦をもたないベトナムとしては敗退を重ねたわけ
だが、このミサイル導入により、ベトナム空軍の主力戦闘機スホイ30に
搭載すれば、中国が不法占拠をつづけるウッディ島などの軍事施設を攻撃
できる。

中国としては嫌な事態である。したがって反対の声明を出し、インドを牽
制することに余念がない。

中印国境紛争では、弐ヶ月の対峙をつづけたダグラム高原からインドは軍
を撤退させ、しかもモディは9月に訪中し、習近平と会談する運びとなっ
ている。

その裏側でベトナムへの兵器供与だから、インドの戦略も腹が据わっている。

なお、このブラモス供与をインドは否定しており、ベトナムのメディアが
報じているに過ぎず、中国は反撥を強めている。しかし一方でインドはベ
トナムに対して5億ドルの軍事援助の信用供与を約束している。
 
したたかな二枚舌外交は、さすがに英国に学んだインドだけに堂に入って
いると言えるかもしれない。
       
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◆書評 しょひょう 
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  西側は中国軍の実力を過大評価していないか
   本当は何が目的で、実際にはどのような成果をあげたのか?

  ♪
阿南友亮『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(新潮撰書)
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 冷徹な分析で一貫した最新の中国軍の分析である。ともすればセンセー
ショナリズムに流れがちな日本のチャイナウォッチャーの中国の国防力の
分析に比べると、本書は徹底的に冷静なのである。

なにしろ下品で醜悪な対象を、これほど上品な文章で評価すること自体、
希な才能ではないかと思った。

それは語彙の選び方にあって、威嚇的な、或いは扇情的で情緒的な言い回
しを抑制し、主観を加味しない。共産主義独裁をイデオロギー的に裁断し
ない。つまり、本書は平明に説かれているが、アカデミズムの書である。
 たとえば暴力沙汰に発展する労働争議や抗議デモの暴徒など一連の暴動
も「群体性事件」と譬喩するのである。

さて中国の軍拡の第一目的は海外進出より、「国内平定」であり、「内戦
の延長線」が続いているからである。それは国防予算より治安対策費が大
きいという現実をみれば納得がいくだろう。

日本のメディアは、やれ中国軍はアメリカを超えるパワーになるとか、日
中衝突あれば、五日間で日本が負けるとか楽観悲観こもごものシミュレー
ションがあるが、中国軍の過大評価、もしくはためにする予測という側面
がある。

卑近な例でもシリアがある。

アサド政権は自国民に「容赦ない暴力行使は、周知の通り、シリア国内に
地獄絵を出現させ、膨大な数のシリア人が難民となっ」たが、現在の中国
は「そこまで逼迫していない」ものの、「天安門事件でも、民衆の鎮圧に
(人民解放軍が)多数の戦車、装甲車、自動小銃が用いられた」。

つまり「独裁国家の軍隊というものは、外国に対抗するという役割ととも
に『国内平定』という役割を果たすことを政権側から期待されており、国
内情勢の不安定性が増せば、必然的に後者の比重が増すことになる」(27p)

チベット、ウィグル、南モンゴルへの軍の布陣をみても、国内平定が中国
政治の主題である事実が浮かぶ 

ところが「一部のチャイナウォッチャーは、共産党がその手駒である解放
軍や武装警察の増強に邁進している姿から、『中国台頭』、すなわち中国
が経済発展とともに軍事力を強化し、やがて米国の地位を脅かす超大国に
成長するというシナリオを連想する」わけだが、「こうした類の未来予測
には違和感を禁じ得ない」とするのが筆者の立場である。

そう、中国の軍事力の脅威を言いつのるキャンペーン、じつは米国が仕掛
け人である。

共産党の人事が均衡を欠くのは歴史的体質であり、おどろくことはない
が、最近の傾向はGDP神話が絡み合って、新型の趣がある。

「『改革・開放』路線下の共産党は、GDPをどれだけ上昇させたかとい
う指標を地方幹部の人事査定の際に重視してきた。このため、不動産開発
は、GDPを押し上げ、幹部を出世させるための道具という側面を持つよ
うになった」(153p)

次々と中国全土に幽霊屋敷、ゴーストタウンをつくっても平然としている
のは、このためである。

改革開放は解放軍にサイドビジネスも解放した。江沢民時代にはむしろ奨
励された。

ホテル経営から武器輸出まで、最大の軍需産業商社の「保利集団」はトウ
小平一族の利権の巣ともなった。

『開発』という名の下に大プロジェクトが幾つも組まれた。一例が喧しく
言われた『西部開発』だった。

「資金の多くは三峡ダム建設、重慶などの大都市再開発、チベット鉄道な
どに象徴される大型開発プロジェクトに投入され、それらによって日雇い
労働者に一時的な現金収入の機会を提供しつつも、もっぱらプロジェクト
に関与した国有企業と内陸部の地方党委員会の懐を潤したとみるべきであ
り、中国社会における富の偏在の是正に貢献したとは言えない」(192p)。

かくして改革開放は一部階級の富の肥大を産んだが、多くの中国人は貧困
のまま捨て置かれ、胡錦涛のいった「小康社会」『和偕社会』は実現でき
なかった。

それどころか、さらに醜悪な独裁体制が拡大し、GDP拡大のため「一帯
一路」「AIIB」「BRICS」の登場となり、「愛国主義による中華
民族の復興」が「中国の夢」という虚言を習近平が弄するのである。
 本書は最後に中国人民解放軍の「実力」を客観的に評価していて、読み
応えがあった。

2017年08月31日

◆あの令完成が米国でゴルフ三昧

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月31日(木曜日)通巻第5411号 >

 〜あの令完成が米国でゴルフ三昧
  ユーチューブに流れた映像は本物か?〜

http://news.dwnews.com/china/news/2017-08-29/60009492.html
令完成らしき人物がゴルフの興じている映像がユーチューブに流れ出した。

しかし、日時も場所も特定されておらず、「それらしき人物」はサングラ
スをしている。女性が臨席にいると報じられているが、誰なのか。単に
キャディなのか。

しかし2015年3月の米国逃亡以来、もし、この写真が本物であるとすれ
ば、2年半ぶりに消息が判明したことになる。

胡錦涛の番頭として辣腕をふるい「西山幇」(石炭利権の山西省閥)を率
いた実兄の令計画失脚前に、令完成は兄から託された中国高層部ならびに
国防体制の最高機密2700件のファイルを持ち出して、アメリカに亡命した。

直後、中国はばらばらに100人の暗殺団を派遣したとされるが、激怒した
オバマ大統領がFBIに保護を命令したといわれてきた。
       

2017年08月30日

◆地政学的要衝にある東チモール

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月29日(火曜日)通巻第5409号>

 〜小さな島嶼国家なれども地政学的要衝にある東チモール
  インドネシア、豪と不仲の間隙を衝いて中国が靜かに浸透開始〜

もともとは王国だった。13世紀ごろから中国人、つまり客家の入植が 始
まり、現地人との混血もあったため、中国人の血筋をもつチモール人が
かなりいる。

現在、東チモールの人口は60万人強だが、中国人が推定7000人弱。 1970
年の人口調査では6120人だった。

ポルトガル、オランドに占領され、戦争中は日本軍が占領し、独立の気運
が燃え広がったときにインドネシアが軍を進めて、併合した。独立から
15年、政情はなんとか落ち着いたかに見える。

しかし大統領派vs首相派、独立反対派vsナショナリストの対立に加
え、軍隊のなかにも主流派と反主流派が対立しており、小さな国なのに少
数政党が乱立。単独過半の政党はない。

首都ディリに日本の大使館を開設し、経済援助のためJICAを中心に
在留邦人は116人(外務省史料)という。

産業といえば、ガスと石油しかない。しかも沖合の油田の共同プロジェ
クトは豪と揉め続けており、「チモール海条約」は破棄された。

またインドネシアとは根が深いがあり独立直後の西側の支援もほぼ息切れ。

当然、こういうチャンスを活かす国がある。中国はさっと東チモールに
接近し、まずは住宅建設のお手伝いと称して、6000万ドルを投下し た。
ディリにはビル建設が始まった。このため北京、上海、深セン、義 鳥、
広州、香港を経由する貨物便(チャーター便)がディリと中国との間 に
開設され、労働者も入った。昨年には中国軍の艦艇が東チモールに寄港
したため、インドネシア、豪が警戒している。
      

2017年08月29日

◆万達集団の王健林にも大きなリスク

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月28日(月曜日)通巻第5407号>

 〜中国最大富豪、万達集団の王健林にも大きなリスクが浮上
  太子党の裏金をささえたインサイダー取引集団の全貌が暴露されるか?〜

中国富豪トップの王健林が出国制限を受けたことが分かった。

すでに肖建華(明天集団を率いたインサイダー取引の黒幕、郭文貴の子分
とされる)、呉小暉(安邦保険集団のボスだった)らが拘束されており、
王健林率いる「万達集団」へは、銀行が新しい貸し付けができないばかり
か、海外送金をストップされ、幾つかの海外企業買収案件が座礁に乗り上
げた。

とくに肖建華は香港の豪華ホテルに滞在中、ボディガードに囲まれていな
がらも拉致され、北京で拘束取り調べをうけている。この関連からインサ
イダー取引の実態、とくに王健林との関連で追及材料がでてきたのではな
いかとされる。

8月25日、王健林は家族とともに天津空港からプライベート・ジェットで
ロンドンへ飛び立とうとしていた。突然、出国をとめられ数時間にわたっ
て拘束された。高飛びが疑われたらしく、ようやく許可がおりて機上の人
となったという(博訊新聞、8月27日)。

中国共産党にとって頭痛の種は、米国へ亡命した令完成(胡錦涛の番頭
だった令計画の実弟)が持ち出した秘密ファイル。そしてVOA(ヴォイ
ス・オブ・アメリカ)などで高官の不正送金や隠匿預金口座などを暴き立
てる郭文貴の存在であり、とりわけ富裕層の海外渡航に出国禁止命令を通
達している模様だ。

現在、中国の富裕層で資産が10億ドル(1100億円)以上と見積もられてい
る財閥は430人。王健林の個人資産は350億ドル(3兆8500億円)と言われ
る。彼が率いる「万達集団」(大連が本社)は全米の映画館チェーンの買
収、ハイウッド映画製作会社の買収などで世界に勇名を馳せた。

ところが万達集団(王健林の本丸)は、有利子負債が10兆円以上あり、債
務超過と算定されて、貸しだしならびに海外送金が禁止され、王健林は窮
余の一策として本丸のホテル、テーマパークのあらかたをライバル企業に
売却した。

孫正義の有利子負債は15兆円。しかし保有する株式の時価総額が16兆円あ
ると言われ、債務超過とは算定されておらず、第2のダイエー化が懸念さ
れているものの、現在のところ、投資家は、リスクを見出していないようだ。

王健林が当局からマークされたのは、ハーバード大学に招かれて講演した
際に、上場前の自社株を習近平の姉一族にも供与したという特殊な関係を
自慢したため、習近平の怒りを買ったらしい。
       
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◆樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1621】            
――「獨乙・・・將來・・・無限の勢力を大陸に敷けるものと謂ふべきなり」(山
川11)
   山川早水『巴蜀』(成文堂 明治42年)

              △

山川は成都の将来と日本の関係について考える。

在留邦人は「有期契約の上に在る?習のみなるを以て、現在のところ未だ
一個の根柢的定着を見ず、唯だ或期間内、其標跡を托せるに過ぎ」ない
し、「商業に至りては、未だ今日まで何の計劃も無かりき」。

こんな状態なら、将来、鉄道が引かれ開港場になるなど、成都での商機が
開かれたとしても、「既往の事實に徴すれば、恐くは本邦商人の發展を見
る可からざらん」。甚だ心許ない上に、イザとなった時に「獨米の妨害あ
れば、(中略)成都の地には、邦人の影を留めざるに至らんも亦た知る可
からざるなり」と、じつに悲観的だ。

ここで、20世紀、いや21世紀の現在まで続く日中関係の紆余曲折を考え
た時、やはり「獨米の妨害」との指摘が気になるところ。ドイツがしょう
介石政権に加担すればこそ、ある時期の日中戦争は形を変えた日独の戦い
だった。アメリカは日本の満州・大陸政策が自らの利権を侵害すると見做
したからこそ、日本に猛反発したのである。

大陸西南の奥深い重慶に逃げ込んだショウ介石が命脈を保てたのもアメリ
カによる大量の支援物資であり、軍事指導だった。親ショウ介石・反毛沢
東を基軸とする佐藤政権の対中外交方針をコケにしたのは、ニクソンと
キッシンジャーによる電撃訪中だった。

いま中国の自動車市場で、ドイツは電気自動車を駆って、トヨタのハイブ
リッド車に揺さぶりを掛ける。

時代は変わろうとも、日本の対中関係を考えるうえで注意の上にも注意す
べきは、やはり「獨米の妨害」ではないか。

明治39年12月末の重慶の日本領事館調査では80人(内、女性9人)だが、
「西人に比較する時は、僅に第3位」。四川省全体をみても、「各地方に
散在せる者は、悉く?習に屬す」わけであり、やはり「大柢一時の鴻爪を
留むるものに過ぎ」ない。かくて四川を中心とする大陸西南部における
「本邦人の根柢的發展は頗る寂寞の感無くんばあらず」。とはいえ僅かな
数ではあるが、彼らは「直接支那人を對手と」し、上海や天津で見られる
ように「多數の商人が共喰的」状態にあるのとは違い、「聊か人意を強う
するを得べし」とした。

日本での生活に較べれば不便ではあるが、それでも重慶や成都在住者は
一致協力し工夫して生活している。これに対し地方の場合は家族揃っての
赴任とはいえ、「同僚にてもなき限り、全く塊然たる獨居處なり、交通機
關不自由」であり、「群を離れて孤客となれるからは、いざといふ塲合に
臨めば、何彼にかけ、一方ならざる不便と困難とに遭遇せざる」をえない。

「諸種の科學思想を蓄へ、勤勉にして且つ觀察の深刻なるや、本業の旁、
必ず何等かの研究をなし居るものゝ如」き欧米からの宣教師とは対照的
に、不便極まりない地方で暮らす個々の日本人教習は、「一方ならざる不
便と困難」に耐えながらも誠心誠意で教育に当たる。たしかに生真面目で
誠実であることは大切な徳目であり、それこそが最大の武器であることは
確かだ。だが、それだけで終わらせてしまってはいけない。

たとえば日露戦争前、軍籍を離れハルピンに渡り洗濯屋や写真館を経営
し、遂にはロシア軍の御用写真師となって軍事情勢を中心に極東ロシア情
勢の把握に努めた石光真清(1868年〜1942年)のような成功例もある。だ
が、石光の“個人技”で終わってしまっていることも事実だろう。

個々人の貴重な体験・経験・知見を、個々人の冒険譚や思い出のままに終
わらせることはない。対中政策を策定・遂行し、あるいはビジネスを展開
するために、それらを蓄積し、体系化し情報インフラとして再構築すると
いう“発想”が、なぜ起こらないのか。それこそが日本と日本人の抱える根
本的な弱点であり、克服すべき永遠の課題だと思う。

2017年08月28日

◆高官人事が進まないのは何故か?

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月27日(日曜日)通巻第5406号>

 〜トランプ政権、高官人事が進まないのは何故か?
  行政に支障がでても、構わないという態度の根本的理由〜

発足から7ヶ月。トランプ政権が指名して上院の承認をえた高官人事はま
だ124人。とくに15省のうち、10省で副長官が決まらない。農務省、エネ
ルギー省、労働省ではトップ人事は10%も決まらず、逆に85%に達したの
は厚生省だ。

2017年8月25日現在、ワシントンポストの累計によれば歴代政権との比較
で、その遅れは歴然としているという。

ちなみにオバマ政権は就任7が月で高官433人中、310人が決まっていた。
同じように4414人中294人がブッシュジュニア政権。345人中、252人がビ
ルクリントン政権の人事だった。

例えば国務省を例にとると、長官、副長官、次官、副次官、次官補、その
下にアジア政策を統括する部長クラスが並ぶ。主要な高官は200人強である。

高官が決まらなければアメリカのようなトップダウンの国家では、何事も
決まらない。なぜ遅れているか、それが謎である。

メディアがあげている理由は従来的な要素が原因としているばかりである。

とくにトランプ政権には非協力的な人材が多いため、恒例の議員推薦、仕
事のやりやすい部下の推奨、ロビイスト、シンクタンクの自薦組他薦組が
列をなし、本来ならば履歴書の山ができている筈なのだ。

 ホワイトハウスからバノン、フリーバスが去って、事実上この権力の館
を采配しているのはクシュナーであり、これにジョン・ケリー、イバン
カ、マクマスターが加わる。
 
バノンが言ったように「ホワイトハウスは身内と軍人と、そしてウォール
街の代理人の3派連合だ」。

人事に当たって、かれらが重視しているのは「忠誠度」であり、とくに選
挙本場で、「ネバートランプ」の署名した共和党主流派系の150人には絶
対に指名は回らない。そればかりか、彼らが政権の協力をしようとする保
守主義的な人材に圧力を駆けていると言われている。

もっと穿った見方は、コミー前FBI長官の会員やマクファーランド安全
保障担当副補佐官のシンガポール大使転出に見られるように、トランプは
忠誠度のリトマス試験紙ばかりか、政権の高官層に蔓延る「内部の敵」を
見つけ出し、はやめにその芽を摘もうとしており、人事が遅れていること
はあまり気にかけていない様子だという。

2017年08月27日

◆バノンは政権を去ったが

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月26日(土曜日)通巻第5404号>

 〜バノンは政権を去ったが、トランプ大統領とは接着剤がある
  「ルネッサンス・テクノロジー」が俄に注目されているのは何故か〜

ヘッジファンドは数々あれども、収益の実積平均70%というのは、ジョー
ジ・ソロスもジム・ロジャーズも及ばない。まして民主党贔屓のウォーレ
ン・バフェットにしても、そこまで卓越した成績を上げたことがない。

全米のファンドの中で、「ルネッサンス・テクノロジー」は過去10年のパ
フォーマンス平均値が38%、中でも「メダリオン」ファンドは収益率がな
んと2478%。ここに資産を預けた投資家は財産がおよそ25倍になった。

このルネッサンス・テクノロジーは、マサチューセッツ工科大学数学教授
だったジェイムズ・シモンズが創設した。彼の引退後、このファンドの
CEOはロバート・マーサーが受け継いだ。

彼は娘のレベッカとともに共和党贔屓。予備選では茶会系のテッド・ク
ルーズにも献金していたが、途中からトランプを支援した。

ロバート・マーサーは、合計1350万ドルをトランプ選対に寄付した。同時
期にバノンの主宰するネットニュースにも、1000万ドルを寄付している。

バノンは長女イバンカ、クシュナーの中国経済との深い関係を憂慮し、ま
たマティス、マクマスター、ジョンケリーらの軍人連合とのアフガニスタ
ン増派問題での衝突から、ホワイトハウスを不協和音に導いたとして辞任
したが、その後もトランプ大統領との個人的繋がりは継続されており、い
つでもホワイトハウスに出入りできている。

この両者の接着剤が、前述ロバート・マーサーの娘レベッカ・マーサーと
いうわけである。

ホワイトハウスが分裂状態にあるのは、結局グローバリズムvsナショナ
リズムの対決構造に帰結するのではないか。

クシュナーは中国とのビジネスに意欲的であり、中国制裁には消極的であ
る。もっと中国から資本を導入すればよいと考えているうえ、九月にはイ
バンカと訪中予定という。

クシュナーの妹はジャージーシティの分譲をEB5ヴィザに有利と言って
中国の富裕層に売り込み、問題となった。

イバンカは自らのブランドが中国で爆発的に売れていることにすっかり気
をよくしている。

クシュナーは大統領選挙前にも安邦保険の呉小暉と会見し、ニュージャー
ジーに建設しているトランプタワーの分譲をめぐって妹の会社が中国人富
裕層への投資を呼びかけたと釈明した。

呉は米国逃亡直前に拘束された。かれの在米資産はいずれ叩き売りに出さ
れるだろう。

さてステーブ・バノンは『五年以内に米中戦争が起きる』とし、「北朝鮮
の核など問題ではない。あれが前座である。本当の敵は中国である」と発
言してきただけに、一貫して、このクシュナーとは対立してきた。

辞任直後には「ホワイトハウスは軍人と身内と、そしてウォール街に乗っ
取られてしまった」と発言している。


 ▲中国を制裁より罰金を課したらどうだ 

トランプ政権は中国企業ならびにロシア企業と個人16を制裁リストに挙げ
た。財務長官のムニューチンが発表したが、もっと疑惑の強い中国の銀行
はリストに入っていなかった。財務省は「中国が為替操作国」にも指定し
なかった。

元財務省高官でテロリスト資金送金調査チームを率いたアンソニー。・ル
ジエロは、「制裁ではなく、罰金を課すのだ。さすれば北朝鮮に核物質な
どを送ってきた中国の企業も銀行も実質的被害がでるから止めるだろう」
という(サウスチャイナモーニングポスト、8月25日)。

トランプ政権の内部ばかりではない。実業界、それもIT産業がこぞって
トランプに反対するのは、中国市場を巨大と思いこみ、まだまだ中国から
稼げると考えている先端的な多国籍企業ばかりだ。
 
現にマイクロソフトはウィンドーズの秘密コードを中国に公開した。フェ
イスブックは、中国向け検閲ソフトを完成させて中国のネット監視に協力
した。

これらの多国籍企業は、利益をタックスヘブンで運用し、米国に納税しな
い。つまりグローバリストとは、売国奴のことではないのか。かれらがリ
ベラルはメディアと組んで、トランプ批判を展開しているのである。 

       
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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 在米中国資産は3兆ドルとアメリカは調査済みである
  米中経済戦争となると、この中国の資産が凍結され、人民元は大暴落
に到る

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藤井厳喜『希望の日米新同盟と絶望の中朝同盟』(徳間書店)
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藤井さんは俳句もおやりになるので、題名の付け方もうまい。

好対照の対句のようで、国際情勢、とりわけ日本を囲む軍事情勢の現行シ
チュアーションがいきなり把握できる。

本書はアメリカのMSM(マイン・ストリーム・メディア)がいかに嘘放送を
毎日垂れ流し、アメリカの政治をよこしまに誤導しようとしているかを、
フェイクの実例や、嘘ニュースの実績グラフなどを駆使して具体的に検証
する一方で、これからの世界がどう変わるか、過去のパターンなども例証
しながら、大胆な予測を展開する。
 
トランプ贔屓のフォックスニュースとて、トランプに肯定的なニュースは
52%しかないという実態も初めて知った。因みにトランプに対する偏向
報道態度調査(41p)に拠れば、CNNのネガティブ報道が93%、
NBC.同じ。CBSが91%、ニューヨークタイムズが87%、ワシント
ンポストが83%、保守派のウォールストリートジャーナルですら70%
がトランプに否定的なのである。

だからと言ってトランプは負けていない。

リベラルメディアがでっち上げた「ロシアゲート」は、架空の物語であ
り、報道した記者が「上からの命令だった」と告白している。コミー
FBI長官を更迭したのは当然なのである。

ともかくトランプは世界を変えようとしている。

米国主導の世界秩序を、がらりと変えて、アメリカンファースト路線に急
傾斜し、断固としてメキシコに壁をつくると獅子吼している。

したがって日米同盟も、表面的な外交のレトリックを別として、事実上
「新フェイズ」に突入している。だが、それを日本政府も外務省も認識で
きていない。左翼メディアは相変わらず、米国リベラル派のメディアのコ
ピペに過ぎない。だから日本の新聞、テレビ、そしていそいそとそうした
バカ番組に登場して悦にいるアホとが、まだ従来の日米同盟が機能すると
勘違いしている。

北朝鮮への攻撃は予測しにくい状況である。

つまり米国は北の核を容認する。だから「核の戦国時代」になる。日本
は、自立防衛の態勢を構築しなければならない。

しかし自民党にも政府には、この心構えが不足し、国際情勢の認識力を欠
落させており、そのうちトランプも苛立ってくるだろう。

藤井さんと評者(宮崎)は、今月早々に共著(宮崎正弘 v 藤井厳喜
『韓国は日米に見捨てられ、北朝鮮と中国はジリ貧』、海竜社)を出した
が、その中でも二人の予測が一致した。それは米国は北朝鮮を攻撃しな
い、空母三隻態勢でないと、作戦はうまく行かず、トランプが『軍人政
権』だから好戦的とする分析は間違いであり、軍人ほど本当は戦争を回避
したがるというポイントだった。

 「金正恩は挑発ではなく威嚇しているだけで、暴発することはない」
(204p)

おそらく米国は北朝鮮と話し合いに入り、核の凍結という合意が得られれ
ば、次のフェイズ、すなわち中国との長期的本格的戦略的な対決に外交の
基本を移行させるだろう。危ういのは日本で、日本に照準を合わせた金正
恩の核ミサイルはそのままにされるのだ。

藤井さんは米中経済戦争を次のように予測する

「まずアメリカ国内のチャイナの企業や国民の資産はすべて凍結すること
ができる。チャイナの銀行が発行したクレジットカードも国外で使えなく
なる。こういう事態になれば国有銀行が発行した人民元建ての債権は価格
が暴落するだろう。2014年12月の時点で、アメリカは既に自国内にある
チャイニーズの資産を調査している。最大に見積もった場合、その総額は
およそ3兆ドルに及ぶ」(118p)

となれば人民元のドルペック体制も崩壊する。

かねてから評物も予測しているように、人民元は暴落するほかにない。