2017年03月20日

◆トランプの大統領執務室に

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月18日(土曜日)通算第5229号>   

 〜トランプの大統領執務室にアンドリュー・ジャクソンの肖像画
   20ドル札の顔だった第7代大統領をオバマは消した〜

20ドル札の肖像画は第7代大統領アンドリュー・ジャクソンだった。
オバマ前大統領は彼を嫌い、紙幣の肖像を新札から黒人女性活動家だった
ハリエット・タブマン女史に換えた。

そのジャックソンの肖像画をトランプ大統領は執務室(オーバルルーム)
に飾った。

ジャクソンは毀誉褒貶が激しく、決闘が好きで、まともに読み書きが出来
ず、選挙は乱暴な言葉を並べながら激しく相手を攻撃し、しかも法律を無
視した。

一方、農園を経営し、100人もの黒人奴隷を雇用し、人種差別剥き出し
だったが、荒くれ男が主流だった時代のアメリカ、西部開拓が生き甲斐
だった時代だから、こんにちのアメリカと比べるのはナンセンスである。

3月15日、トランプ大統領はテネシー州にいた。ジャクソン大統領の誕生
250年祭に出席するためで、ザハーミティジ(エルミタージュ)と呼ば
れる記念館、農園跡を見学し、「私の敬愛する大統領だ」と演説した(ワ
シントンポスト、3月15日)。

このトランプの一連の政治行動が意味することは何か?

オバマ前政権の諸政策とは明確に訣別する姿勢を鮮明にしたのである。就
任から60日、トランプは94の大統領命令に署名し、260本のツィッター
メッセージを発信して、大手メディアと対抗した。
       
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書評(その1)しょひょう BOOKREVIEW 書評  
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台湾ファン必携の奥地、辺疆ガイド。最新情報が満載
  ローカルな鉄道にのって美味しい甘味、果物を食べに行こう

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片倉佳史・真理『台湾で日帰り旅』(JTBパブリッシング)
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台湾へのツアーは年々歳々人気が上がり、一度いったら病みつきになっ
て、台湾行きを繰り返す日本人が激増している。

山奥や田舎町でも、ばったり日本人と会うことが多くなり、やはり親日国
家ナンバーワン、台湾の人々の親切さ、そのホスピタリティに旅の満足度
がいや増す。

著者の片倉夫妻は台湾在住20年、ありとあらゆる台湾の離島、辺疆へもで
かけ、多くの旅行ガイド、グルメ案内本も上梓されているが、ローカルな
鉄道の旅も、その守備範囲に入る。

出たばかりの本書はムック形式で、写真、地図、イラストが豊富に、手際
よく配置され、とくにその地方のおやつ、果物、特産の土産などが多彩
に、写真を添えて紹介している。

最新の台湾旅行のスポットは九分、金爪石、平渓線、淡水、猫空、宜蘭、
タロコ、北浦、鹿港、阿里山、玉井など。大手のガイドブックではスルー
するか、半べージていどの案内しかないところが多い。

台北から1時間半の山のなかにある「猫空」はウーロン茶の名産地である。

鹿港にある民族博物館は古き良き中華風の建物で、これは辜顕栄(貴族院
議員)の住まいだった。後嗣の辜振甫氏の案内でアジアオープンフォーラ
ムの帰りに評者も案内されたことがあるが、風情豊か。台中からバスで
30分だが、近くには馬祖を祀る巨大な祠の天后宮がある。

個人的なことを書くと、評者(宮崎)は台湾へ行くたびに片倉さんと会っ
て、台湾の最新情報をおしえて頂きながら、新発見の珍しい食堂へ案内さ
れて舌鼓を打つ。

過日も、台湾現地の人さえ知らない独特な食堂(大衆食堂だが、味がよ
かった)に連れられて、なぜ、こんなに詳しいのか、その場には門田隆将
氏やら福島香織さんらもいて、一様に驚いたのだった。

さらに個人的なことをかくと、本書で紹介された新名所のなかで、評者が
未踏の土地は「玉井」である。ほかは大概行っている(というのも、過去
半世紀近く、台湾への100回は渡航しているので)。

玉井へ行くには台南からバスで1時間10分、昭和初期の建物が残る「新
化」という街を通過して、山の中である。

ここはマンゴーの産地で有名。名物は「マンゴーかき氷」、なにしろマン
ゴーだけで30もの種類がある。

ほかにも玉井にはライチ、バナナ、シャカトウ、グアバ、パパイア、アボ
ガド、レンプ、そしてドラゴンフルーツが青果市場で売られているそうな。
 
こんど、台南まで遠征する機会があったら、本書を片手にバスに揺られて
マンゴーを食べに行きたいと思った。
       
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 書評(その2) しょひょう BOOKREVIEW 書評  
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  ホモサピエンスとチンパンジーは何処が、どう違うのか
   自殺率の高いスエーデンが、なぜフリーセックスの国なのか

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森田勇造『日本人が気づかない心のDNA』(三和書籍)
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世界142ヶ国を冒険してあるく森田氏はスポーツマンでもある。それでい
て「歩け歩け」運動の先駆者としてスポーツ界でも知られるが、本当の顔
は文化人類学者である。

なにしろ世界の辺疆へ、奥地へ、砂漠へと、民俗学の調査にでかけ、とり
わけ少数民族の風習やこどもたちが何で遊んでいるかを実地踏査して、何
冊もの本をものにされてきた。

最近、滅多にあわなくなったのは、氏のオフィスが四谷から池袋に移転し
たからで、その前には近くの土佐料理で名物の天ぷら、鰹、讃岐うどん、
銘酒「土佐鶴」を飲んだものだった。

それゆえ、森田勇造氏の物怖じ知らない探求心、冒険心、型破りの世界旅
行漫遊記もたびたび聞かされてきた。

本書にはいくつかの重要な指摘がある。

日本人は母系社会であり、そのDNAには道徳心が含まれるというのは比
喩的表現としても、島国で自然を愛でる風習がある日本人には世界の他民
族とは異なるDNAがあるのは自明の理である。

「戦後の民主教育によって育った利己的な多くの日本人が、社会人として
踏み外してはならない大義、道徳心を失って、無責任な事なかれ主義の風
潮に染まり、いまでは貨幣経済の荒波に呑まれ、生き甲斐を感じられな
い。(中略)このような社会現象は、何も日本だけではなく、世界中で
起っていることで、いまや人類は科学的文明の虜になって、利己的で歓楽
的、刹那的になっている」

このことが人間の繁殖活動にどういう影響を与えているのか。

躾、家庭教育の荒廃、そして共同体の共通の価値観喪失、そして生き甲斐
が行方不明となった。となれば適者生存というダーウィンの法則も乱れ、
子孫繁栄という人類の使命は顧みられないもの、必然的帰結である。
 類人猿といわれるゴリラ、チンパンジーは、「集団生活」が特徴であ
り、群れから外れると生きてはいけず、また多くの場合、メスはボスの独
占物である。

「ゴリラやチンパンジーのメスは、通常、1年から2年の間に特定な時期
だけ繁殖を行い、排卵が起きると、匂いや行動、皮膚などの変化でオスに
知らせます。オスは、それを合図にメスと交尾する」

 求められたオスは急にホルモン分泌がふえ、「メスを独占するために闘
争心が強くなる」し、メスの方も「競争に勝ち残った強いオスの遺伝子を
残そうとします」

これは古代から不変の生物生存の原則である。

さて話題は飛んで北欧のスエーデン。

フリーセックスの国と言われた。といっても乱交や不道徳を意味すること
ではなく、あくまでスエーデンの場合も、「適者生存の法則」からである
という。

少子高齢化の典型、ゆえに社会保障が充実していると評価されるスエーデ
ンで、なぜ高齢者の自殺が多いのか。生き甲斐を喪失しただけが原因なのか?

現地踏査を重要視する森田氏は現地で実際に探査してきた。

「スエーデンの女性は、好きな男性とならばセックスを積極的に求め」る
が、誰とでもするわけではなく、ただし子供ができると、「人口増加を進
める国が保障をしてくれる」システムがあって「日本のように私生児とか
非摘出子などという社会的偏見がない」。

というのも男性の生殖能力に問題があるため、こうした傾向がでてきたと
いう。
 
なぜか。

「スエーデンは1年の半分以上が暗くて寒い日が続きます。男は寒いとき
や驚いたときなどには睾丸の袋が縮まって、玉が体内の穴の中に入ってし
まいます。年を取って腹筋が弱くなると、その穴から腸が出てくる」(中
略)「精子を製造する睾丸の玉がその穴の中に入っているときは、精子の
製造量力が弱く」なり、寒い地帯の男性の繁殖力が弱く、なかなか人口が
増えない」

したがって人口増加、社会保障が充実したスエーデンでフリーセックスが
社会的にとがめられずとも、人口が増えないのは、女性の離婚率が高いか
らだ。老人は孤独と不安にさいなまれ、自殺するケースが増えるという矛
盾した結果を生むのも、基底に道徳がないからではないのか。森田氏は上
記は学問的に証明されているわけではないがと留保条件をつけながらも、
現地の報告をしている。

同様な現象は、じつは日本でも起きている。夏の冷房である。

2017年03月19日

◆ガラパゴスで考えたこと

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月18日(土曜日)弐 通算第5230号>   

南太平洋のガラパゴス群島へ行った。

絶海の群島に古代生物が生き残り、チャールズ・ダーウィンの観察記録の
刊行以後、一躍有名になった。

筆者の興味はAI(人工知能)の進歩がどこまで行き着くのか、ひょっと
してAIがホモ・サピエンスを越えることになるのか。文明が破滅するの
ではないのかという懸念を抱いてきたので、弱肉強食、適者生存という古
代からの生物の生き残りの典型を見てみたい、なにかのヒントが得られる
のではと思ったからだっだ。

ダーウィンが『種の起源』を書く原動力となった古代生物たちは固有の遺
伝種をもち、バイタリティに富んで生き続けてきた。適者生存の原則が如
実に示された。

ゾウガメは300万年、イグアナは1100万年前からガラパゴスで独自の進化
を遂げたという。

それにしても地球の裏側、エクアドルの首都キトから商都グアヤキルを経
由して、玄関口=バルトラ島への飛行機の便は一日に2便ほどしかない。
ところが300人乗りの大型旅客機が離着陸して「文明国」のニンゲンを大
量に運んでいる。

厳しい渡航制限は古代生物の絶滅を防ぐため。果物、動・植物の種子も持
ち込ませない。空港に到着すると、機内で検疫処置が執られ、入管では
バックの中味が点検され、ペットボトルの水にいたるまでチェックされ
る。「入島税」は百ドル(べらぼうだが、自然保護の寄付金と思って納
得)。パスポートにウミガメのスタンプが押される。

ガラパゴス諸島で上陸が可能なのは14の島だけ。無数の岩礁でなりたち、
住民の先祖はポリネシア系から流れ着いたとされる。彼らはスペイン語を
話し、独自の言語を持たない。大航海時代まで無人島だったからだ。
 
なぜ絶滅に近い古代生物が、この絶海の孤島に集中しているのか。東西南
北から流れ込む海流の所為である。

北はパナマ海流に乗ってアシカが、東からは南赤道海流にのってゾウガ
メ、フィンチ、イグアナが、南からはペルー海流でペンギンとオットセイ
が、そして西からクロムウエル海流が流れ込んで、海のなかには巨大なマ
ンタがいる。

絶滅寸前にまで追い込まれたゾウガメは海賊船が横行した時代、大量に捕
獲され、およそ二十万頭が食い尽くされたからだ。 

ゾウガメは草、サボテン、木の実を食べるが代謝が低いため水なしで一年
近く生きられる。海賊船が乱獲して船に積み込み、食料にして食い尽くした。

ダーウィンは『種の起源』で驚きを述べた。
 
「ガラパゴス群島のあまたの島には、私が他の島の生物は、大部分はそ
れぞれの島でちがったものであるのに、世界のほかのどこの生物とより
も、比較にならないほど密接な程度に相互に類縁を有している」。

類縁の典型がゾウガメである。ところがピンタゾウガメ「孤児ジョー
ジ」は2012年に死んで絶滅種となった。

他方、「ディエゴ君」というゾウガメは百歳を超えてもなお生殖が盛ん
で800頭の子をなした。適者生存の原則が蘇った。
 
(この文章は北国新聞コラム「北風抄」、3月19日よりの再録 です)


2017年03月18日

◆北朝鮮には「新しいアプローチ」が必要と

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月17日(金曜日)通算第5228号> 

 〜北朝鮮には「新しいアプローチ」が必要とティラーソン国務長官
   過去二十年、アメリカは135億ドルも投じて北を支援したのに〜

3月16日、急遽、来日したティラーソン国務長官は安倍首相と一時間会
談。そのあと外務省飯倉公館に場所を移し、岸田外相と夕食をともにしな
がら「日米同盟」の重要性などを話し合った。

その後、ティラーソン国務長官は岸田外相とともに記者会見に応じ、アジ
ア三ヶ国訪問の主目的は「北朝鮮問題」だと示唆しつつ、北朝鮮には「新
しいアプローチ」が必要だとした。じつは国務長官就任から六週間、ティ
ラーソン国務長官が記者会見に応じたのは、これが初めてなので、米紙も
大きく報道している。

ティラーソン国務長官は記者の質問に対して、「過去20年、アメリカは
135億ドルも投じて北を支援したのに、ミサイルの実験を強行した。過
去のアプローチの方法では、対応できない」とした。同長官は18日に中
国を訪問する。

ニューヨークタイムズによれば、ティラーソン国務長官は、日本のあと北
京を訪問するが、北朝鮮への制裁、核開発凍結などで中国の展開してきた
いい加減な遣り方につよく警告し、米国の要求に従わない場合は、米国進
出の中国の銀行に制裁を課すことも検討中であると伝えるという。

米国の軍事筋は「戦略的忍耐」から「あらゆる選択肢」に舵を切ったトラ
ンプ政権の、「あらゆる選択肢」には先制攻撃というオプションも当然
入っているとしている。

中国は「韓国へのTHAAD配備が原因であり、米韓軍事演習はただちに
辞めるべきだ」(王毅外相)などと、まだ寝言を並べているが、北京で18
日、何が起こるか?
       

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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 しょひょう  
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三島由紀夫から贈られた色紙には「夏日烈烈」と書かれていた
  『鏡子の家』をめぐって、生命論、宇宙論を展開した夏の激論の日々
は遠く

  ♪
執行草舟『おお ポポイ!』(PHP研究所)
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題名の「ポポイ」は、「エーゲ海の明るさの中にある悲哀をあらわす古代
ギリシアの感嘆詞」であり、詩人の西脇順三?が好んで使ったことで知ら
れるという。

本書は、著者によれば、「裸形の精神」であり、「追憶の祭壇」でもあ
り、「素っ裸の人間の人生だけが、他人の人生の役に立つことができる」
という信念に基づいて、「正直さが、自己に清らかなこころを招き入れ
る」と保田輿重郎の言葉を引かれる。

保田はこう書いた。

「清らかな心が崩れるとは、精神が崩壊することだ」

執行氏は早熟な少年だった。文学青年、思想青年、そして常に頭脳の中で
哲学をしていた。世の中には早熟な人は沢山いるが、青年期を過ぎると凡
庸になって、思想の輝きを失う人があまりにも多い。岸田氏は勘当された
ため、造船、鉄工所など現場の労働を体験しながらも、不屈の精神を何時
までも強靭に持続させ、燃焼させてきた人生。
その源泉は何なのか?

小学校に入る前から、執行氏は母親にルビを振って貰って「武士道は死ぬ
ることと見つけたり」の『葉隠』を読んでいた。

葉隠れの精神を大事にして青春時代に突入した執行氏が三島由紀夫と邂逅
するのは必然の流れであったのかも知れない。

三島由紀夫との運命の出会いは著者が中学3年生の夏休みだった。

まだ中学生なのに、三島の全作品を執行少年はすでに読み尽くしており、
「最初の時が2、3時間もふっ通しで、私の三島文学論を著者本人にぶつ
けた」のだという。
 後に三島は『夏日烈烈』の書を贈ることになる。

 しかも執行氏は同じ頃に「朝日ジャーナル」に連載されていた高橋和己
の『邪宗門』を読破していた。高橋の『非の器』『邪宗門』と、三島の
『美しい星』『金閣寺』『鏡子の家』との比較文学論をぶつけた。

思いおこせば、評者(宮崎)も高校生から大学生にかけて上記書物を読ん
でいたが、とくに『朝日ジャーナル』も愛読していたから、その精神遍歴
はよく了解できる。

しかし、執行氏は中学生だった。いささか無謀とも言えるが、大病を患っ
て一年進学が遅れていたので、実際は高校1年生、頭の中はすでに大人
だったのだろう。

「三島氏の作品は詩的、文学的なんです」。そのうえで、「ユーモアを漂
わせながらも、人類の破滅という深刻な題材を扱っている。破滅の中に、
生命の詩を見いだしている」のが三島作品であると総括し、とりわけ『美
しい星』は「個人の精神がもつ永遠性と、文明が抱えている破滅性を」を
捉えた終末論である、と三島氏に熱い議論をふっかけたという。(映画に
なる「美しき星」はどんな描き方をするのか、楽しみだが、これは余談)。

文学談義はいよいよ沸騰し、『鏡子の家』論議に入る。

執行氏は、この作品が一番好きなようで、「私はスサノオの生き方を、現
世に問いかけているのが三島文学」であり、「『鏡子の家』が、三島の代
表作とみるのである」という。

なぜなら「この作品がスサノオ的なものとそうでないものとが、もっとも
よく表されている作品だから」

同じ課題を追った作品に埴谷雄高の『死霊』があるが、これは執行氏から
みれば、「スサノオ的なものに宇宙論と生命論から迫っている。(中略)
埴谷本人が『司令官』としてそこにいる。

これに対して『鏡子の家』では、三島由紀夫が鏡子として存在する。けれ
ど、三島氏は自分だと悟られたくないから、あえて女性という設定にして
隠して」、そのうえで「日本人のもつスサノオ的なものに、文明論から
迫っている」と解釈する。

『三島が鏡子として存在する』というのは思わぬ方向からの分析だ。

かくして執行少年は三島氏と2日間議論する合間には乗馬を愉しみ、こう
した出会い、議論は4年連続したという。

夏休みには祖父の山荘で議論し、東京でもよく三島を訪ねた想い出を、随
所に挟み込んで、全体の格調が盛り上がる。

三島由紀夫が執行少年に贈った色紙には「夏日烈烈」と書かれていたことは
書いたが、『鏡子の家』を巡って、生命論、宇宙論を展開した夏の激論の
日々は遠くなってしまった。

さて本書には三島いがいにも、初公開の秘話が山のようにある。

まずダライラマ法王への支援活動だ。ベトナム船を三隻建造した三崎船舶
で働いていた執行氏は仕事の関係からもベトナム大使館に出入りする。

当時、国際情勢は複雑で、じつはベトナムがチベット独立運動を支援して
いた。「ベトナムとの付き合いは極秘の中ですすめられ」、やがてベトナ
ム戦争が終わると中国とベトナムは険悪になり「いつ戦争になってもおか
しくないというぐらい、関係が悪かった」

この時代背景があって、ベトナムはチベット独立運動を支援するという構
図になる。

ダライラマは中国との平和共存を訴えているが、若き日々には武装闘争に
よる独立を主張しておられた。日本においてその支援の輪が拡がっていた。

奇縁なのは、その日本における策源地がベトナム大使館だったという。し
かも、驚きは、その支援活動の中心人物が黛敏郎氏だったというではないか。

しかも秘話が続く。「このとき黛さんに協力していたのが文藝評論家の村
松剛さんでした」というのだから、この話は初めて知った。

執行氏は高校時代に電話をかけて村松剛氏を尋ね、中東の話を聞いた経験
があった。

質問をすると、村松剛氏は懇切に教え、貴重な文献も貸してくれたと追想
するのだが、当時「6日間戦争」直後でもあり、中東問題の権威といえ
ば、村松さんしかいなかった。

本書では最後の最後に、おそらく初めて自らの事業に触れている。今日で
いう「健康食品」のカテゴリーに入るが、酵素を製造販売する会社を経営
されている。

ところが、こう纏めるのである。

「文明によって形作られた脳髄を破壊すれば、人間は生命エネルギーのま
まに思考することになり、生命の生まれ故郷である、宇宙の永遠に向かっ
て放射されていく。私はそれを手助けする事業を行っているし、これから
も行って行きたい」。

2017年03月17日

◆結局、何も決まらなかった

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月16日(木曜日)弐 通算第5227号> 

 〜結局、なにも決まらなかった「ラバー・スタンプ・アセンブリー」
  全人代では習近平への忠誠と「核心」が力説されただけでおわった。〜

北京人民大会堂で開催されていた全人代(全国人民代表者会議)は3月
15日、終了した。

最後の李首相の記者会見には産経新聞が出席を拒否された。真実を伝える
日本で唯一の新聞は、中国共産党にとっては不都合というわけだろう。

経済成長は6・5%、国防費の伸びは7%。

しかし国防費の詳細な予算発表には西側を納得させる透明性がなく、何が
どうなっているのか、曖昧なままである。

中国人民解放軍230万人の人件費が国防費の大半をしめるが、武器開
発、宇宙航空などは軍事費ではなく、「科学費」に別途参入されている。
したがって公表されて国防費1兆元(17兆円)というのは、この三倍が
実態とみて差し支えない。

 ひとつ重要なのは、GDP成長目標を6・5%としたことで、公約して
きた「2020年に所得倍増」という大風呂敷は達成が困難という実態を
晒したことである。

 また団派の著しい後退も特筆しておく必要がある。これは秋の権力闘争
の前兆を示唆する。
 李克強首唱も孫政才(重慶書記)も、胡春華(広東省書記)も、習近平
を「核心」と持ち上げ、全体の空気が独裁皇帝への反論を許さないという
緊張したムードとなり、反論がまるで目立たなくなってしまったのである。

 もっとも全人代などというのは予め演出が決められた「ジェスチャー」
としての国会であり、「ラバー・スタンプ・アセンブリー」(ハンコ押す
だけ)と言われる。
 
裏側の権力闘争は、つぎに夏の北戴河会議に移り、ここで江沢民、胡錦
涛、宋平、曽慶紅、賈慶林ら長老が一堂に会して、秋の党大会、今後1年
の基本方針を決める。

 第十九回党大会では大幅な人事刷新が行われる。

2017年03月16日

◆中国でも、LGBT(同性愛少数者)が

宮崎 正弘 



<平成29年(2017)3月15日(水曜日)通算第5225号>  
 
 〜中国でも、LGBT(同性愛少数者)が本格化してきた
   7000万人のゲイ、レズという「ピンク産業」が大躍進〜

北京の三里屯といえば、外国人相手の飲み屋街で、深夜レストラン、サ
パークラブにまざって、バア、パブ、スナック、カラオケ、ナイトクラブ
が犇めく一角である。

「外国人のお客さんが半分以上でした。数年前から中国人客が増え、それ
がいまでは外国人が目立たなくなった」というのはゲイバーの経営者だ
(TIME、17 年3月20日号)。

同様な外国人相手も飲み屋街、バア街は上海、深セン、広州、青島、大連
などにあって、いずれもインテリアは外国と変わらず、ときおり妖しげな
客がいる。

「中国のLGBTコミュニテイィ人口は推定で7000万人」(TIME、3
月20日号)。

この数字はかなり過大だが、米国、欧州についで、世界で参番目の「市
場」であり、毎日300万人が交流サイトでネット通信をしているという。
 もちろん、中国では同性愛結婚は認められておらず、社会的な蔑視は根
強い。だから、LGBTが西側のような「権利」を得られるのは、まだ
ずっと先のことだろうと推測できる。

しかし、社会は変わり、中国でも「数年前まではLGBTサイトはよく削
除されて、まともな通信が出来ず、相手を捜すに苦労を伴ったが、いまや
サイトが遮断されることもなくなった」という。
 
7000万人といえば、地下教会のキリスト教信者とほぼ同数。世界的に
LGBT市場は3兆ドルといわれ、中国でも「儲かる隙間産業」として、
大いに注目が集まってきた。

とはいえ中国社会では家族がもっとも深い団結を誇り、家族愛が尊ばれる
道徳が社会を支配しているため、同性愛は異端として厳格に差別されてい
る。このため、同性愛結婚はままならず、偽装的な婚姻をしているゲイが
およそ70%とされる。

同性愛がばれるとむち打ちが行われ、精神病院へ強制的に送られるケース
も頻発しており、欧米のLGBTは「これは人権弾圧」として中国批判の
舌鋒をするどくするが、こうした欧米の主張は中国では聞かれない。

社会全体の許容度は低く、一部のネットで同性愛結婚、ハワイへの新婚旅
行などが報じられると百度などの書き込みは95%が嫌悪感、反対意見を述
べているという。

「しかし10年後をみて下さい。中国のLGBT社会は、こんにちの欧米の
それのように社会的認知をうける時代となっています」と若い世代が自信
たっぷりに予測していると前掲TIMEが報道している。

愛国主義による中華民族の興隆が「中国之夢」と語る習近平の中国の、ひ
とつのダークサイドの現実である。

2017年03月15日

◆トランプ大統領、習近平と会談へ

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月14日(火曜日)弐 通算第5224号>   
 
(速報)
 トランプ大統領、4月6日―7日、習近平と会談へ
  「何を言い出すか判らない大統領」。ゆえに日程は暫定的と中国筋

 米国高官の情報として英紙フィナンシャルタイムズが報じた(3月14日
電子版)。

トランプ大統領は中国の習近平主席をフロリダの別荘に招き、米中首脳会
談を開く予定だという。(日本時間3月14日午前4時時点で、アメリカの
メディアはどこも報じていない)。

サウスチャイナモーニングポストは、その日程が4月6日と7日だと報じ
る一方で、中国側の情報として、「何を言い出すか判らない大統領」ゆえ
に、この日程は暫定的としたという。

米中関係はトランプの中国批判が強かったため、冷却気味だった。
 こうした米中の対決構造は北朝鮮のミサイル実験、金正男暗殺事件とい
う、突拍子、鉄砲玉に遭遇して以来、「水入り」となった。

「中国は一つ」という原則に拘らないとトランプvs習近平の電話会談
で、トランプが言い出した時、中国は真っ青になったが、およそ一ヶ月後
の電話会談では「一つの中国」に「留意する」という従来の原則は変わら
ないと言い換えた。

これを好期と、中国は楊潔チ国務委員(前外相)をすぐに訪米させ、強引
に大統領と面会した。このとき僅か五分の面談だったが、習近平訪米、首
脳会談の段取りを決めたとみられる。

トランプ大統領の当選直後、キッシンジャーが北京を訪問し、習近平と
あっている。そのうえで、キッシンジャーは弟子のひとりマクファーラン
ド女史を「大統領安全保障担当副補佐官」に送り込み、さらには国務長官
にティラーソンを推薦した。

ティラーソン国務長官は15日、来日するが、18日には北京入りする。

どうやら、こうした動きを見ているとトランプが予備選、本番選挙中に
言っていた中国に制裁を課すなどという強硬路線は、精彩を欠いてきた。

2017年03月13日

◆リベラル派のニューヨークタイムズさえ

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月12日(日曜日)通算第5221号>  

 〜リベラル派のニューヨークタイムズさえ、文在寅を危険視
   THAAD配備を「キューバ危機」の二の舞と錯誤〜

米国が韓国にTHAADを配備しているのは、敵が攻撃ミサイルを開発
し、実験して戦力を高めたため、これを防御するためである。中国も北朝
鮮も攻撃能力が減殺されるから、強く反対しているわけである。
 いってみれば強盗の凶悪犯が民家の戸締まりをいけないと言っている構
図である。

ところが次期韓国大統領に最有力な野党の文在寅は「第2のキューバ危
機。THAADは不要だ」と発言を繰り返してきた人物で、「政権を取っ
たらTHAADの配備を見直す」と驚くべき発言をしている。
 
米国としても、この頓珍漢な安全保障認識しかない文在寅を危険視してい
る。かのニューヨークタイムズがそうなのである。
 
「文在寅の家族は北朝鮮から逃れてきた。共産主義の恐ろしさを身に染み
て育った世代である。その彼がベトナム戦争の頃から思想的に変化し、
「わたしはアメリカが好きだ。だがアメリカにはNOと言おう」など矛盾
した発言が目立つ。

同紙はこう書いた。

「たしかに1998年から2008年まで韓国は北朝鮮に『太陽政策』をとってき
た。その結果、どうなったのか。歴史が示しているように、北朝鮮は時間
を稼ぎ、核武装し、ミサイルを配備した。このような北を相手に次期韓国
政権が交渉を試みるなど危険この上ない」(3月11日号)。

文在寅は野党指導者として盧武鉉に使えた。かの頓珍漢な盧武鉉の側近
だった。こうした履歴が示すように、鳩山ていどのルーピーがまた隣の国
に出現することになる。

日韓関係は最悪のシナリオの備えるべきだろう。

     
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 しょひょう  
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 有史以来の事大主義国家に「独立」の精神は育たない
  韓国に経済制裁を加え、やがて日韓断交に持って行こうと過激な提言

  ♪
余命三年時事日記『共謀罪と日韓断交』(青林堂)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

まるでトランプ大統領の速射砲のようなツィッターの咆哮、というより
もっと凄い。結論的に言えば、日韓断交の勧めである。
 
外務省どころか穏健派保守言論人でも腰を抜かすかも知れない。

日本でもブログ、ツィッターなどで主要メディアが決して報じない議論が
なされていることは知っていたが、こういう隠れた世論もあるんだ。しか
も、このシリーズ開始以来すでに第五弾だというから、このような意見を
支えるサイレントマジョリティが、それほど多数いるということである。

本書の第1章は「共謀罪」についてで、第2章が「日韓の歴史」。つまり
韓国に裏切られ続けてきた戦後の関係歴史を概括し、第3章の「安倍総理
の深謀遠慮と日本の反撃」へと進む。

日韓の慰安婦像をめぐる合意は、日本でも反撥が強かったが、韓国は約束
事を平然と反古にする国である。

したがって、あの国では日本となした合意は通用せず、「理知的」などと
いわれた播基文前国連大使でも「合意は守らないから10億円は返せ」と言
い出した。こんな人が事務総長を勤めた国連って、信用できるのか?

それはともかくとして、著者の「余命3年3代目」氏は、かの合意は安倍
首相の「深謀遠慮」だったわけで、韓国は逃げ道を塞がれた。つまり日本
と韓国の攻守が逆転したのだ、と述べる。駐韓大使と釜山総領事を「召喚」
したが、日本国民の8割が、この大使召還を支持した。

経済界、財界そして政界にはびこる「韓国は大事な国、友好を第一に」とす
る考え方は根本的にあやまりとする本書では、大胆にも「ビジネスでも韓
国は不要だ」と言ってのけるのである。

韓国は約束を守らないで、それでいて次の要求をしてくる。曰く「通貨ス
ワップ交渉の再開」「日本人はもっと多く韓国へ観光に来て欲しい」

いかにお人好しの日本でも、こうした図々しさにはあきれ果てて反論する
気力も失う。それでいて韓国へ行くと、あの「反日」は嘘のように、本当に
心底で韓国人は日本に憧れているのだから始末に負えないというわけである。

議論はさらにオクターブが上がり、地政学的要衝という韓国の位置づけは
古い国際政治感覚であり、「反共の砦」としての韓国の重要性は消えてお
り、マッキンダー時代の「地政学的価値」はないと断言する。理由は「当時
はまだソ連が崩壊する前の東西冷戦の時代であり、日本は韓国について
「共産主義」に対する防波堤であり緩衝地帯という認識だった」からである。

こうした冷戦時代の甘やかしが、「日本に対しては何をしても許される」と
いう誤解を与え、韓国前大統領は竹島へ上陸、慰安婦像設置などをやって
のけた。

明治以来、日本は「(朝鮮を)近代化させようと様々な援助を行ったが、朝
鮮人は独立心に目覚めることなく、これまで事大していた清の代わりに、
こんどはロシアに事大する」

すなわち「朝鮮人とはいうのは有史以来の筋金入りの属国民であり、常に
大国に事大していないと落ち着かないのである」

つまり、韓国とは断交してしかるべきであり、経済制裁を加えることから
始めよう、むしろ日本が今後構えなければいけないのは核武装する朝鮮半
島が目の前に出現するという恐怖のシナリオではないのか、としている。
 日本の世論、静かなところで、大きく変わっている。

2017年03月12日

中国、南シナ海にクルーズ観光船を投入

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月11日(土曜日)通算第5219号>   

〜野放図なのか、無神経なのか、ノー天気なのか
  中国、南シナ海にクルーズ観光船を投入しはじめた〜


海南島の三亜から大型フェリーが向かうのは西砂諸島。ベトナム、マレー
シアと領有を争う海域だが、すでに中国はウッディ島(永興島)を抑えて
2400メートルの滑走路を建設、ボーイング737の定期便が就航している。
軍事施設を拡張し、あげくにミサイルを配備して、「ここはオレの領土、
文句あっか」と開き直っている。

まだインフラ建設の最中。鉄筋コンクリートのビルも建設しているが、そ
の側の白浜に観光スポットをこしらえた。「南シナ海の夢」ツアーと銘打
たれて。

竹島ツアーを催行する韓国の遣り方に日本人は激怒したが、中国のウッ
ディ島クルーズは、ベトナム人を激怒させている。

粗末なレストラン、茅葺きの屋根。壊れそうなプラスチックのイスを並
べ、付近で取れた肴を振る舞う。この白浜めがけて中国から観光ツアーが
開始されたのだ。
http://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/2076669/first-cruises-now-flights-china-plans-fly-tourists

クルーズ船は現代的な仕様の船舶で豪華ロビィ、デッキ、食堂にくわえて
ディスコでは、半裸の女が踊り、映写室では戦争のプロパガンダ映画(南
シナ海は中国のものという宣伝映画)が上映されている。

沖合の大型クルーズ船から小型ボートに乗り換え、白浜の景色を愉しむ。
「ここは中国領、軍事施設への立ち入り禁止の石碑」がある。
クルーズの観光ツアーを認めたのは2016年からで、すでに1万203名がツ
アーに参加した(いまのところ参加資格は中国人だけ)。

そのうえ、飛行機での観光ツアーも海南島の旅行社が当局と軍に申請し、
年内にも始めたいとしている。全人代では海南島の代表がこうした意見を
述べたという。

現在、海南島の北の玄関口=海口と永興島とは飛行機の定期便が飛んでい
るが、軍事関係者と海軍の交代要員を運んでいるだけで、観光ツアーには
利用されていない。

中国の一方的な宣言で、南沙、中沙、西沙諸島は海南省三沙市となった
(2012年)、東沙諸島は台湾が実効支配している。フィリピンと領海係争が
あるのはスカボロー岩礁である。

三沙市長の肖潔は、「観光ツアーより、行政の徹底が先決だ」としてい
る。三沙市の人口は僅か440人(2010年の人口統計。駐屯の軍人は含めな
い)だが、観光インフラの規模拡大はこれからも続けられる。

いやはや中国人の神経って、野放図なのか、無神経なのか、ノー天気なのか。

     

2017年03月11日

◆中国の空家は20億人分

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月10日(金曜日)通算第5216号>   

 〜ついに驚くべき数字が中央政府から出た。中国の空屋は20億人分
  都市化政策の無謀な投資は負債の山を築き、無惨な結末はゴーストタウン〜

 世界的にあまりにも有名となった「鬼城」(ゴーストタウン)の第一位
は、北京より遙か遠く、内蒙古自治区オルダス市カンバシ新区である。
 オルダスといえば、ジンギスカーンの御陵がある(ただし宮脇淳子氏に
拠れば、この成吉思汗稜は偽物の由)。
 
このオルダスの近郊、砂漠の真ん中に、何を思ったか100万人都市を実際
に作った。それがカンバシ新区である。

完成したのは良いが、最初からゴーストタウンで米誌『TIME』が取材
したときは、住民が犬2匹。筆者が4、6年前に取材に行ったときは人口
が二万八千人に増えていたが、市役所、建設業者と下請け、それに銀行が
無理矢理、移住させられた結果だった。

いま、どうなっているか。『南華早報』が取材した(同紙、3月8日)。

誰もいない目抜き通り、コンクリート剥き出しの高層ビルの残骸。住民が
誰もいないマンションは門に鍵が掛けられ、吹きさらしの大地には建材の
パイルが散乱している。砂漠の郊外に、100万都市を建設すると夢見たの
は、おりからの共産党主導の「都市化政策」と、地方政府のプロジェクト
競争、そのうえ無尽蔵の銀行融資。

皆が夢をみていた。

80年代の広東省深センの大発展、90年代の上海浦東の大発展に倣え、イン
フラさえ用意できれば労働移民あり、企業の移転が引き続き、大学は建ち
並び、街は活気に溢れる。だから保育園も、小学校から高校の校舎も建て
なければならない。そうだ、ショッピングアーケートに高級ホテルもいる。

ぴかぴかのビルはなんと言っても市役所と党委員会が入る。繁栄がやって
くるのは目の前だった。

カンバシ新区にはハイテクパーク(工業団地)やら芸術文化村(ニュー
ヨークのソーホー地区を模倣したヴィラッジ)まで作られ、いま誰も住ん
でいない。合計で144億元(邦貨換算2300億円)が2001年から5年間に投
じられた。

古代バビロニアが滅びたのはバベルの塔の崩壊だった。

人類史未曾有のゴーストタウンラッシュは、歴史始まって以来のクラッ
シュを予測させる。

李克強首相が主導した都市化政策は、2020年までに中国の都市人口が全人
口の60%(現在は51%)とし、そのときには都市戸籍と地方戸籍の問題は
解決している筈だと豪語してきた。


▼しかし全人代報告は「都市化政策を継続しGDP成長は6・5%を確保
する」って。

「邯鄲の夢」から覚めると、全土に林立したのはゴーストタウンだった。
 天津の新工業区、雲南省昆明の新都心、貴州省貴陽郊外、重慶市の新都
心、遼寧省栄口、同省鉄嶺の郊外、いやはやゴーストタウンだらけ。

空き家は、なんと、20億人分もある。中国の総人口が14億人だから、そ
れよりも多い空室が出来た。それも砂漠の真ん中とか、山の中、湿地帯や
ら地盤の悪い炭鉱地帯跡である。

 カンバシ新区はゴビ砂漠。中央政府の読みでは、砂漠のドバイに摩天楼
が林立し、経済繁栄を極めているように、オルダスは石炭産業があり、問
題はない。
 いずれ一人あたりのGDPが香港を抜き去るのは時間の問題だと大宣伝
とともに巨大なインフラ工事が推奨された。ファンタジーに中国共産党幹
部までが酔った。

米国が20世紀に費消したセメント全量をしのぐセメント量が、2013年から
15年までの僅か3年間に中国国内だけで使われた。

このようなゴーストタウンは中国全土に3500箇所、住居は34億人が住める
スペースがある。この数字は中国政府国家発展改革委員会の報告書に明記
された。

この後始末をどうするのか、全人代はうわごとのように「都市化政策を続
ける」と吠えているが。。。
       

2017年03月10日

◆北朝鮮の核開発凍結は

宮崎 正弘
 


<平成29年(2017)3月9日(木曜日)弐通算第5215号>  

 〜北朝鮮の核開発凍結、イラン方式で米国は対朝交渉を始めるのか
  中国は他人事のように米国の疲弊をまつ戦略、THAAD配備に反対〜

全人代最中の3月8日、記者会見に現れた王毅外相は「猛スピードの列車
が正面衝突する前に、双方が赤信号を灯し、急ブレーキを掛けるべきだ」
と、まるで他人事のように米朝対決を批判した。

北朝鮮を緩衝地帯として利用し、核技術と部品を平壌に提供してきたのは
何処の誰なのか?

その一方で王毅は韓国へのTHAAD配備に強く反対した。

中国国内ではTHAAD基地の土地を提供するロッテに対して、露骨に不
買運動を組織化させ、嫌がらせを強める。そして韓国にTHAAD撤廃を
迫るというのだから、まるで「凶器をもった強盗が民家の戸締まりをなじ
る」(石平氏)という構図である。

そのうえ王毅は日本に対しても「こころの病気を治せ」と言い放った。
ようやく戦後の自虐史観から立ち直りつつある日本に、「健全なナショナ
リズムを回復せよ」と活を入れてくれたのかと誤解したが、真逆で日本の
正気回復が危険だから、それがビョウキだと言っているのである。
こころのビョウキの国が、正常かつ清浄な人間に言いがかりを付けている
構図である。

北朝鮮が4発のミサイルを発射し、日本海に落下させた事件の衝撃は、平
和ぼけ日本にも軍事的脅威を認識させるに十分だった。

「日本の排他的経済水域」はイカ漁船が操業する海域でもあり、能登半島
から北北西に200キロ、過去のどのミサイル実験よりも日本本土に近く、
安部首相も「脅威は新しい段階にある」と述べている。

国連安保理事会は北朝鮮非難決議と制裁強化をきめたが、ヘイリー米国連
大使の発言が示唆的だった。

「対話が重要なことは了解しているが、相手は無謀な人間よ」。

トランプ政権になって「戦略的忍耐」という従来の姿勢は様変わりしてお
り、「あらゆる選択肢」路線となった。これは北朝鮮への先制攻撃を含め
るという意味である。

トランプ政権が直面する焦眉の危機は中国の南シナ海不法占拠ではなく、
北朝鮮の核とICBM、VXガスなど化学兵器の脅威である。

「北朝鮮の暴走をとめようとしたら出来たのに中国が甘やかせたのだ」と
トランプ大統領は中国を名指しで批判してきたが、実際に北朝鮮の
ICBMが米国の到達できるほどのレベルに達している事態を目の前にし
て、中国を包囲網の仲間に入れようと、中国への攻撃的姿勢を大きく後退
させた。

マティス国防長官、ティラーソン国務長官、つづけてペンス副大統領を日
本に派遣し、北朝鮮への対応について緊急の協議が続く。

ティラーソン国務長官が日本訪問後、韓国と中国を訪問するのは「北朝鮮
包囲網」の構築の打診にあると日本のメディアが分析しているが、中国の
協力が得られるとは考えにくい。中国は米国の疲労を待って「漁夫の利」
を得ようとしているのだから


 ▼ウッドロウ・ウィルソン研究所が北朝鮮の核の脅威に提言

米国のシンクタンク「ウッドロウ・ウィルソン・センター」の研究者で斯
界の権威とされるロバート・リトワクが「核テロを排撃せよ」という研究
論文を発表した。

以下、この論文の重要部分を紹介する。
 
まず論文は北朝鮮の核戦力が量的拡大ばかりか質的に向上し、とうとう米
本土にまで到達出来る能力をもつに至ったことを挙げ、2020年までに核兵
器搭載のICBMを20発から100発保有するだろう、と予測している。
 
過去4半世紀、米国が北朝鮮の核の脅威に直面したのは3回目となる。
 最初はブッシュ政権のときで、米国は金正日政権の権力基盤を見誤っ
た。フレームワークづくりを実現しようとし、体制の転覆を狙うのか、な
らず者国家の変革が目的なのか不明のまま1994年に「米朝枠組み合意」を
撤廃した。

当時、米国に届くミサイルもなく、ウラン濃縮実験をしてはいたが、核実
験もしていない段階だった。上院は共和党が多数派となり、合意遵守が疑
わしいことを理由に挙げた。

オバマ政権ともなると、北朝鮮を「ならず者国家」と呼ばなくなって「局
外者」という位置づけに変えた。

大幅な後退で、隙を狙って北は何回も核実験を行った。

核拡散防止条約体制に加わるか、国際的孤立の道を歩み、制裁を受けるの
か、しかし北朝鮮は平然と核実験をおこなって、国際秩序に挑戦しつづけた。

オバマ政権は「戦略的忍耐」を称して、何も効果的な措置を講じなかった。


 ▼鵺的にふるまう中国の深謀遠慮

中国は常に北朝鮮側に立って朝鮮半島の問題解決を探っており、北の体制
崩壊を警戒してきた。

中国のもっぱらの関心は北朝鮮が米国主導で韓国と統一されるシナリオで
あり、そうなると中国としては、大事な「緩衝地帯」を失うという安全保
障上の脅威に繋がる。それゆえ韓国へのTHAAD配備に強く反対し妨害
してきた。
 
北にとっては核兵器保有こそ、生き残る唯一の道であり、米国、韓国、日
本から経済的支援を引き出す最大の取引材料でもある。

2011年にNATOのリビア介入は、米国がカダフィ大佐の体制を保証して
いたが、「武装解除に乗ったカダフィ大佐は、結局、西側に騙されたの
だ」という総括を北朝鮮はしており、兵力の削減には絶対に応じようとし
なかった。

西側は忍耐の限界に達し、経済制裁を強めるが、そもそも「制裁」は戦略
ではないのである。米国は従来の交渉路線をまったく別方向へ改め、量的
質的向上を阻止することを外交目標の第一義とするべきだろうとリトワク
論文は言う。。

 そこには「三つのNO」が基本原則となる

(1)新しい兵器を開発させない

(2)核実験、ミサイル実験をさせない

(3)核技術ならびに兵器の輸出をさせない

こうして核開発、ミサイル開発ならびに実験を凍結させ、北の譲歩を引き
出すというイランとの核合意方式が、当面の米国の外交目標とすべきだと
同論文は提言している。

この提言もかなり微温的、融和的と取れるが米国外交の多数意見とみられる。
     

2017年03月09日

◆ISの中国でのテロ呼びかけ

宮崎 正弘 



<平成29年(2017)3月8日(水曜日)通算第5212号>  

〜プラウダも報道したISの中国でのテロ呼びかけ
    「中国は『血の川』になる」と予告しているが。。。〜

既報のようにISが中国でのテロを呼びかけるウィグル語のヴィデオ(28
分番組)を作成し、ISに加わったボランティア戦士らに「ウィグルへ帰
れ、中国の弾圧に抗して復讐戦に立ち上がれ」と戦意を鼓舞する作戦にでた。

プラウダの報道(3月6日)では、ヴィデオには習近平を火あぶりにする画
像が含まれ、中国は『血の川』と化す、中国にやがて出現するであろう若
者は「カリフの戦士たち」とし、激しく中国を批判しているという。

しかしシリア国内に残留するウィグル兵士は300名から111名に激減し、残
りは戦死したのか、逃亡したのか。また実際にウィグル独立を掲げて中国
各地でテロを行っている組織はISではなくアルカィーダ系だ。

中国はシリアでアサド政権を擁護するロシアを支持してはいるが、実際に
はロシアに協力する軍事行動を一切採っておらず、ISが突如、中国にテ
ロをおこすという呼びかけは、訝しい点が多い」とプラウダは分析している。

2017年03月08日

◆トランプは北朝鮮を空爆するか

宮崎 正弘 



<平成29年(2017)3月7日(火曜日)通算第5212号>  
 
〜トランプは北朝鮮を空爆するか
  韓国と中国は消極的、斬首作戦ならどうするのか〜

北朝鮮は3月6日、4発のミサイルを発射し、そのうち3発は日本海の
EEZ(排他的経済水域)に着弾した。

ミサイルはICBMではなく中距離弾道弾と見られる。

これは3月1日から開始された米韓合同軍事演習への対応と、多くの軍事専
門家は分析したが、北朝鮮は「在日米軍を狙った実験」と異なる意図を発
表した。

7日になって朝鮮中央通信は「在日米軍攻撃用の弾道ミサイルの4発同時
発射訓練に成功した。金正恩朝鮮労働党委員長が立ち会った」と報道した。

もし、在日米軍を攻撃対象とすれば、米国は「北はレッド・レインを越え
た」と判断することになるが、金正恩の強気の姿勢は変わらない。

トランプ政権は「戦略的忍耐」という前オバマ政権の意味のわからない作
戦を切り替え「あらゆる選択肢を考慮する」と方針を転換させている。
しかし、そのなかに含まれる斬首作戦に関しては、すでに2016年の米韓合
同演習でも行われている。

斬首作戦はトップが不在となれば、北朝鮮の指揮系統は乱れ、誰も命令を
下せなくなって、中国の介入を待たざるを得なくなるとするシナリオに基
づく。

しかしながら、もし北朝鮮の軍高官が報復を宣言して軍事的行動にでた場
合、非武装地帯(DMZ)から僅か40キロしか離れていないソウルは火の
海となり、およそ100万人の犠牲がでると想定されている。
 北はDMZに総兵力102万人のうち、3分の1を配備している。

このシナリオでは米軍のピンポイント爆撃は引き続かなければならず、お
よそ700ケ所の攻撃目標への空爆は、当然在韓米軍、日本海洋上、ならび
に在日米軍基地が使われる。

トランプ政権にとっては、軍事行動の優先はIS退治にあり、マティス国
防長官もマクマスター大統領補佐官も、北朝鮮は後回しとすることで合意
している。

とすれば、米国がいきなりの軍事行動を採るという事態は、いましばらく
考えにくい。問題は「戦略的忍耐」から「あらゆる選択肢」に切り替え
た、その中味である。

2017年03月07日

◆ケーガンは何をしていたのか

宮崎 正弘 



<平成29年(2017)3月6日(月曜日)弐 通算第5211号>  

 〜ネオコンの代表格、ロバート・ケーガンは何をしていたのか?
  「共和党はフランケンシュタイン(トランプ)に乗っ取られた」と捨
て台詞〜


 東西冷戦の終結、ソ連邦の解体と続いた89年から90年代初頭、ネオ コ
ンの旗手だったロバート・ケーガンの旗色は良く、凄まじいほどの勢い
があった。ソ連が崩壊したからには米国の天下である、と自信に満ちていた。

彼はジャック・ケンプ下院議員のスタッフから国務省に入省し、 1988年
まで勤めた。ケンプはレーガン革命の旗手として、有力な議会 指導者で
アメラグのヒーローでもあったから国民の人気が高かった。その うえ、
ケンプは2004年の大統領選挙の時は共和党ボブ・ドール候補の 副大統領
候補だった。

その後、ロバート・ケーガンはブルッキングス研究所主任研究員とな
り、『新しいアメリカの世紀』という政治運動の主唱者ともなり、彼が書
いた本は、政治議論の好きな人々に読まれた。

共和党が下野したときは保守系シンクタンクのパリ代表となって欧州か
らコメントを寄せていた。弟のひとりは保守系AEIの研究員である。

続けてブッシュ・ジュニア政権となると、9・11NYテロ事件直後の世 論
の激化を背景にして、イスラム過激派との対決姿勢を鮮明に打ち出し、
イラク戦争、アフガニスタン戦争で米国は闘え、新しい世界秩序が世界の
安定をもたらすと首唱した。

実際にイラク戦争開戦の世論つくりに貢献したのはネオコンだった。
米国の外交はブッシュ大統領よりも、チェイニー副大統領が主導権を握っ
た。このチェイニーの副補佐官にはケーガン夫人のヌーランド女史が乗り
込んで、米国の外交の基本を左右するほどだった。だからリベラルなマス
コミはネオコンを敵視した。

ネオコンの主張は「畏怖と力による世界秩序」である。

ネオコンは保守本流ではなく、トロッキストからの転向組が多い。始祖
とされるアービン、ウィリアム・クリストフ親子は元トロッキストだった。

したがって共和党の保守本流とは馬が合わないどころか、人脈もことな
り、仲が悪く、またユダヤ人が多いため、穏健保守派とも大きな距離が
あった。

筆者は、この時代の思潮的変化、安全保障問題を、ネオコンを軸に論じ、
『ネオコンの標的』(二見書房。絶版)という本を書いて、ネオコンの人
脈、その思想的背景と変遷を多岐に分析しつつ、イデオロギー的団結が脆
弱であり、この天下は長続きしないだろうと予測した。


 ▼立場を一転、トランプ批判の急先鋒に

トランプが予備選前の泡沫候補から、予備選で首位に躍り出ると、ロ
バート・ケーガンは、ワシントンポストに「共和党はグジャグジャに溶解
した。トランプはフランケンシュタインだ」(2016年2月25日、ワ シ
ントンポスト)と批判した。

ついでに保守強硬派として、テッド・クルーズ(茶会代表)も同時に批判
し、「もし彼らが共和党の正式候補となれば、わたしはヒラリーに入れ
る」と明確に宣言した。

ヒラリーなら世界秩序維持に貢献するだろうから、「トランプよりマシ」
というわけだ。

 
驚くなかれ、ロバート・ケーガンは、嘗てこき下ろしてきた民主党 政権
に近づき、オバマ大統領に助言する立場を得ていた。

すでに2014年からニューヨークタイムズのインタビューで「ヒラリー 国
務長官の安全保障観と外交は心地よい」などと言い、アラブの春、ウク
ライナ民主化を賛美した。

ヌーランド夫人は国務省幹部として、ウクライナに派遣されて、反ロシ
ア派の陣営を鼓舞していた。

ウクライナで親露派の勢力が東部で影響力を行使し、またシリアに対し
て米国は後ろ向きに転じても、ロバート・ケーガンは「リベラル世界秩
序」などと修辞を弄び、オバマの不作為による失敗を批判しなかった。こ
のため嘗ての主張から転向していると保守派論客から鋭くこき下ろされた。

つづけてエジプトに「アラブの春」運動が飛び火し、イスラム同胞団が
政権を抑え、米国の利益と対立した。シシ陸軍大将が軍事クーデターを起
こし、イスラム同胞団過激派を追い出したが、米国は軍事政権を容認した。

これはオバマ政権の下、ヒラリー国務長官が展開した外交の後退ではあ
るが、現実路線であり、イスラムと民主主義とは水の関係である。

レーガン、ブッシュから、平然とオバマに乗り換えるという転向は、ト
ロッキスト特有の世渡りではないか、というわけだった。

ところが「エジプトの軍事政権を容認した米国は『外交的失敗』を犯し
た」とロバート・ケーガンは、またまた民主党政権を批判し、支持政党が
ころころ代わるという意味ではカメレオン評論家と言われた。

そのケーガンが最近、何を言い出しているかというと、力の行使、米国
の秩序主導の世界秩序の回復を強固に主唱し、「戦後世界は米国主導で秩
序が維持されてきたのであり、もし、この路線が後退すれば、世界は第三
次世界戦争となる。

米国が築き挙げた法の支配、民主主義と人権、市場経 済という世界秩序
はロシアと中国のいう軍事国家から挑戦を受けており、 米国主導秩序が
破壊されかねない状況に陥没した」と言うのである (「フォーリン・ポ
リシー」、最新号)。

ケーガンの物言いは、「オバマ政権の八年間の無作為、国防力の急速な
衰えは中国をして堂々と南シナ海制圧、ロシアのクリミア併呑を招いた。
米国は力の行使を選択肢としていつでも行使できる軍事大国に復活するべ
きだ」とするトランプの主張と変わらない。

カメレオン論客の立場の変更ではあるものの、ケーガンにとっては「畏
怖と力による世界秩序」という基本姿勢には、寸毫の変更もないのである。