2017年08月09日

◆象牙がダメならマンモスの牙

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月8日(火曜日)通算第5389号 <特大号>>


  〜象牙がダメならマンモスの牙があるさ
    中国人の懲りない面々。今日も牙に彫刻〜

象牙の密輸は習近平の特別機にもアフリカ某国訪問の帰りに積み込まれた
ことがばれて国際問題となった。

2001年から15年にかけて、9万3000から11万頭余のアフリカ象が殺され、
象牙が密輸された。

中国では象牙がスティタスシンボル、これに仏像などを彫刻し、飾り物と
して巨大な市場がある。

国際的な批判に晒されて、中国は密輸取り締まりを強化、国内の象牙工場
67箇所を手入れ、78店舗を閉鎖、3185点の象牙彫刻品を押収した。これは
氷山の一角に過ぎないが、ともかく中国はジェスチャーを示したのだ。

象牙が禁止されているのは、「絶滅のおそれがある希少動物」という理由
により、国際的取り決めがある。

であるならば「絶滅した動物」ならどうなのか。

中国の象牙密輸業者、バイヤー、彫刻師、販売店等が目を付けたのは、
3600年前に絶滅したマンモスの牙だった。シベリアの凍土にまだかなりの
マンモスが凍死したまま。これを機械で引き上げ、牙だけを輸出するの
だ。ロシア軍が副業にしているという。

中国黒竜江省の税関を通過したマンモス牙は27トン、ところが香港では34
トンが陸揚げされていた。
     
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◆樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1611】          
  ――「獨乙・・・將來・・・無限の勢力を大陸に敷けるものと謂ふべきなり」
(山川1)
山川早水『巴蜀』(成文堂 明治42年)

                  △

清国末期に四川高等学堂で日本語教師を務めていたこと以外、生没年も経
歴もはっきりしない山川早水だが、明治42(1909)年11月に東京京橋区鈴
木町一番地に在った成文館という出版社から400頁を超える分厚い『巴
蜀』を出版している。

山川は、日露戦争が勃発した明治38(1905)年3月から7月にかけ湖北省
宜昌から長江を遡り、成都、嘉定、重慶など四川省各地を踏査し、その結
果を『巴蜀』に纏めたというわけだ。それにしても、あの時代、西南深奥
部の四川で日本語教師を務めていたとは・・・蛮勇なのか無謀なのか。彼
の個人的意志なのか。それとも国策が絡んでいるのか。いずれも不明だ
が、やはり驚く外はない。

最初に四川を訪れた日本人は誰だったのかは不明だが、おそらく明治
12(1879)年に出版された竹添井井(進一郎)の『棧雲峽雨日記』辺り
が、日本人が残した最初の本格的四川紀行だと思われる。

明治維新当時には熊本藩参謀として働き、明治政府では天津領事、朝鮮弁
理公使、北京公使館書記官、韓国弁理公使などを歴任。清仏戦争
(1884〜85年)の間に朝鮮で起きた甲申事変(1884年12月)において日本
軍を指揮するなど、“国士的外交官”として働く一方、後に東大で『春秋左
氏伝』を中心に中国古典を講義した学者・名文家として知られている。

竹添が漢文で綴った『棧雲峽雨日記』は夙に有名であり、その一部は、高
校時代の漢文の授業で頼山陽の漢詩などと共に学んだ記憶がある。教科書
に採用されるくらいだから“正調”の日本漢文ということだろうが、なんと
も型に嵌った美文調の風景描写が延々と続くだけで、面白くも可笑しくも
ない。じつは四川の地に生きる人々の息づかいが、まったくといっていい
ほどに感じられないのだから、読み手の琴線に触れることもない。

これに対し山川が自らの目と足とで書きあげたと思われる『巴蜀』は格段
に面白く、いま読んでも興味深い指摘が少なくない。それほどまでに山川
の観察は微に入り細を穿っていて鋭いということだろう。竹添と山川の違
いを敢えていうなら、前者の目線は上から下向きで、後者は横向きで“被
写体”と同じ高さといえるだろうか。

帝国海軍がロシア・バルチック艦隊を打ち破った日本海海戦(5月27~28
日)に先立つこと2ヶ月余りの「明治38年3月18日、神戸を發し」た山川
は、「同行草野金松氏及び蜀省雙流縣人陳?氏(字は心堯)に上海に會
し」、長江を遡り四川(蜀)に入ったものの、途中の宜昌で最初の怒りが
爆発する。それというのも、当時、同地にはまだ西洋式ホテルも日本式旅
館もなく、劣悪な「支那宿」しかなかったからだ。

これまでの日本人の中国旅行記には「長城居庸を説くはあり、姑蘇金陵を
記すはあり、古今を俯仰し、興亡を憑弔するはあり、據るに足らざる輸出
入の數字を?し、自ら以て貿易の情勢を得たりとするはあ」るものの、
「旅館の不備に言及」したものがない。かくて山川は「旅館の旅行に於け
る、其の關係甚だ密」であり、将来の日本人旅行者のためにも、また「支
那社會の研究」のうえからも必要だからと、「興隆一店」の概要を記す。

だが山川は間違っている。これまで数多く見てきた文久以来の先人の残し
た記録に旅館の劣悪な状況が詳細に記されていたことを思い起こすなら、
やはり山川は先人の記録に目を通していなかった、ということか。それに
しても「據るに足らざる輸出入の數字を?し、自ら以て貿易の情勢を得た
りとする」との指摘は、現在にも通じるものがある。

さて旅館に対し山川は、「要するに、支那旅館は、我等に取りては、僅に
山野に露臥するを免るゝに止り、之に由りて其日の草臥を醫せんは、到底
期せらるべきに非ず」と結論づけた。「牛馬に秣かふにも似た」食事であ
る。疲れが取れるわけがない。旅はシンドイ。
《QED》

2017年08月08日

◆李嘉誠が靜かに中国から退去

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月7日(月曜日)通算第5387号> 

 〜「さらば、中国」と香港財閥第1位の李嘉誠が靜かに中国から退去
  英豪独加のエネルギー産業へ大規模投資を加速。気がつけば中国と離
別していた〜

 香港経済は3本の柱で成立している。第1は不動産、第2は国際金融。そ
して第3が観光立国、免税品の買い物天国、賭場マカオへの中継地。

この香港経済を明らかに牽引してきたのが李嘉誠率いる長江実業とハッチ
ソン集団、この2つの企業集団の株価だけで香港市場の時価総額の3分の
1を占めたこともあった。

李嘉誠は広東省潮州出身。放浪のあげくに香港へ流れ着き、最初は香港フ
ラワーで当てた。不動産ビジネスに参入し、マンションの開発、分譲ビジ
ネスでさらに当て、貿易、発電、輸送に進出し、いまや電力、ガスでも世
界有数の企業となった。

李嘉誠は天安門事件で世界に孤立した中国に、むしろ果敢に進出し、北
京、広州にランドマーク的なビルを建築した。トウ小平、江沢民から深く
感謝された。

この成功を見て多くの華僑が後追いし、中国のマンション、ショッピング
モールの開発はあたりに当たった。

そのピークの時(2012年)、李嘉誠は突如、中国大陸に保有してきたほぼ
全ての不動産物件を売り払った。人民日報は「逃げるのか、李嘉誠」と批
判したが、気にも留めず、「私は1インチの空地も残していない。私が建
てたのはすべて価値ある不動産物件であり、高値で売却するのは商業の基
本である」とした。逃げの姿勢を否定したのだ。

中国で7つの旗艦ビルの売却は総額434億元(邦貨換算で7000億円弱。)

これを見ていた中国大陸の新興財閥は、アリババも大連万達集団も複星集
団も、HNA(中国海航)も安邦生命も舵取りを変え、海外企業を買収、
海外の有名不動産買収で、中国から逃げの態勢に入ったのである。

ところがその後の李嘉誠が展開していたのは、西側諸国へのシフトだっ
た。ほかの中国の新興成金のだぼはぜ的な衝動買いとはことなり、李嘉誠
には長期的な戦略があった。

第1に投機的な不動産開発は行わない。
 
第2に確実で安定的な水道、電力、ガス供給という分野に本格的に進出する
第3に自由民主主義の国に投資する。


 ▲投資する対象国は民主主義体制が原則なのだ

英国では不動産開発、ニュータウン建設も手がけたが、主力はガス、水
道、下水処理、電力会社を買収した。

豪でも、カナダでも、同じ大英連邦ゆえに法律、規制が香港と似ていてビ
ジネスがやりやすかったこともあった。この勢いは止まらずポルトガル、
ルクセンブルグなどへのエネルギー産業投資を続けた。

海外展開の嚆矢となったのは英国「ノース・アーバイイン・ウォーター」
買収(2011年、282億香港ドル(4230億円)で、ついで「ウエールズ&
ウェスト・ユテリティ」(12年、82億HKドル=1230億円)。
 
豪では電力供給会社と水道配給会社を買収し、2013年にはルクセンブルグ
のAVR(発電、水処理企業)を買収した。

その後もガス、水力発電など重要なエネルギー関連にのみ的を絞り、2016
年には空前の金額(453億HKドル=6800億円)で、豪のデュエット集団
(電力、ガス供給企業)を買収した。

同年にはドイツの総合エネルギー企業「イスタ・ルクセンブルグ」414億
HKドル(6200億円)で買収し、過去6年だけの買収トータル金額は1900
億HKドル(2兆8500億円)にも上るのである。

なぜ李嘉誠実は中国を見限り、本丸香港でも事業も拡大はせず、西側に焦
点を絞り込んで投資拡大にいそしんでいるのだろうか。
 それは言うまでのない。中国に未来に夢がないからである。
        参加費    1000円(予約不要です)
主催     英霊の名誉をまもり検証する会(佐藤和夫代表)
問い合わせ (090)6709−9380


2017年08月07日

◆フォレストシティをめぐり政局化

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月6日(日曜日)通算第5386号)

〜マレーシア、中国のフォレストシティをめぐり政局化
  マハティール vs ラジブ政権+サルタン連合が「主権」で論争〜

マレーシアのシンガポールに隣接する海上。ドバイやアブダビのように埋
め立てた土地に新都市。これを「フォレストシティ」という。
 
投資する金額は、驚くべきことに1000億ドル。中国の「カントリー・ガー
デン・ホールディング社」が2006年から歳月をかけて開発している。すべ
ての完成は2035年にずれ込む見込みだが、実現すれば、マレーシアに「第
2の深セン」が誕生することになる。

工事は半分以上を終えて、将来図が見えてきた。

人口70万。土地の面積は1400ヘクタール。すでに70%のバイヤーは中国人
であり、1万7000戸が販売済み。購入価格は合計で29億ドルといわれる
(数字はいずれもサウスチャイナモーニングポスト、8月5日)。

さて、こうなるとマレーシア経済ナショナリズムが高まるのは当然であろう。

マハティール前首相(在任1981−2004)は、「これは主権の問題だ。中国
が狙うのはインベストメント(投資)ではなく「セツルメント」(定住)
である。マレーシアの国土を外国に売り渡る売国行為だ」と批判の矛先を
ナジブ政権に向けているが、「グローバリズム」か「ナショナリズム」か
の戦いにも見える。

ナジブ政権へ力強い応援団が現れた。

イブラヒム・イスマイル国王(事実上の首長(サルタンの輪番制で政治的
力は殆どない制度だが、マレーシアは一応、立憲君主国)は「民族主義的
差別は良くない」と言いだし、マレーシアの経済発展のために、この巨額
の投資は歓迎である」と述べている。
 
他国の領地にセツルメントを造営し、移民を奨励し、このパターンはいず
れ北海道にも行われる可能性があり、注視しておくべきだろう。

       
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◆樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1610回】       
――「我邦人所占居。旭旗相映以祝秋皇靈祭。亦足以觀我國之光矣」(股野2)
  股野琢『葦杭游記』(発行所不明 明治42年)

               △
15日には北京を離れ京漢鉄道で南下し、「十六日午後三時、漢口に抵
る」。欧米各国に日本を加えた列強諸国によって長江河畔に租界が開か
れ、大廈高楼が立ち並び鉄道も完備されている。「規模は大連に似て更に
大。口數、百萬を稱す」。黄鶴楼など近辺の旧跡を訪ね、同地の日本人会
の招宴に足を運んだ後、長江を遡り日本租界のある長沙に向っている。

11月1日、金山寺に向う汽車のなかで、日本語を話す清国の少年と一緒
になる。その少年の話によれば、父親に従って東京に5年住んだ。父親は
亡くなったが「明年一月、再び往きて早稻田專門學校に入るらん」とか。
「對話すること數刻、遂に晩餐を與にす。七時、蘇州に抵り、再會を約し
別れる」。東京に駐在した蔡公使の忘れ形見だった。

8日には上海に。翌日午後、「舊知人白岩某來訪す」とあるが、この白岩
は安井正太郎『湖南』(1556回〜61回)に深くかかわる白岩龍平と考えて
間違いないだろう。白岩の人脈の一端を垣間見る思いだ。なお、当時の上
海の人口を「口數百萬を稱す」。うち外国人は「邦人七千、歐米人壹萬五
千」とのことだ。

『葦杭游記』の後半、股野は旅の総括を綴った。主だった記述を拾ってみ
ると、

「清韓人の土を運び路を修すに緩慢にして殆ど兒戯(おあそび)に類
す。或は曰く、彼の雇錢(じんけんひ)は大いに廉(やす)く、我が邦の
三分の一に當らず。故に然り。然れども生費(せいかつひ)も亦極めて少
(わず)かにして、一日に得る所にして三日を支え得可し」
 
「清人は則ち鶉衣糲食(そいそしょく)す。忍耐し貯蓄し、常に數十金有
り、以て病歿に備える。此れ我が邦人に無き所なり」

「漫游中に見る所、山野田隴土(とち)の壘々たる者、皆墳墓なり。多く
は標識(ぼひょう)無く、僅かに之有るのみ。一つの小片石(こいし)に
過ぎず。數十年の後、恐らくは其の所在を失わん。聞くところ、清韓人
は?を厚くし、葬を重んず。蕩産(さんざい)を爲す者有らば、豈に飾を
盛んにして以て美觀を競うに非ざる無し乎。何ぞ、其れ墳墓の陋(みぐる
し)きや。之を我が邦の豊碑(はかいし)を建てるに比すれば、諛辭(う
そ・でららめ・へつらい)を鐫(きざ)み、以て貞?(ただしき)を災い
する者たり」

「北清に水利の便無し。驢の背と馬の脚を勞(わずら)わせること多き
矣。南は則ち然らず。溝渠(クリーク)を鑿(ほ)り、以て江水を分か
つ。水(ながれ)を挾んで屋(いえ)を搆(かま)える。往々にして屋の
前に路(みち)無く、水を以て路と爲す。舟楫(こぶね)は戸庭(にわさ
き)を往來す。乃ち彼の所謂南船北馬を知る」

「清國市街、北京と奉天とを除くの外、廣さは十歩に過ぎず。石路(どう
ろ)は濕滑(ヌルヌル)として、人馬は雜糅(こんぜん)たり」

「清人、獸類(けだもの)を馴養(つかいこな)す。能く其の性(く
せ)を順(な)らし驢騾牛馬の數頭を混(とも)に用い、一車に服(つ
な)げ以て耕耘運搬(のうのう)に供すに、曾て蹄?之状(けんかするこ
と)無し」

巻末に友人の「(股野は)既に古稀を踰え、僅々(わずか)に二閲月
(ふたつき)なるに三千里の地を?遊し、或は文し、或いは詩し、以て其
の山川土俗人物及び古蹟名區を詳らかに記し、讀者をして恍(あたか)も
眞境(げんち)に遊ぶが如し」との跋文が見られる。  

「恍(あたか)も眞境(げんち)に遊ぶが如し」などと「諛辭(よい
しょ)」されているが、『葦杭游記』を読んで浮かぶのは、漢文という型
に嵌められてしまったことで発想が形式化し、当時の知識人の共通した教
養の漢学が彼らの振る舞いを紋切り型にしてしまったのではないかという
疑念だ。漢文は時に禍だったのでは・・・またまた今後の課題だ《QED》
       
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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混迷のアジア情勢を鋭角的に分析。中国と韓国の報道とはかけ離れた実態
北朝鮮の韓国侵攻に備えるインフラ施設への破壊工作
 
  ♪
宮崎正弘 v 室谷克実『赤化統一で消滅する韓国、連鎖制裁で瓦解する
中国』(徳間書店)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

緊迫する北朝鮮問題をめぐり、米中韓は虚々実々の対応を繰り返していま
すが、その裏側の実態とアジア情勢の行方を論じたのが本書です。
 
相次ぐ北朝鮮のミサイル発射に対して、韓国の文在寅大統領は非難するも
のの、常に対話路線を強調、一方で米国に対しては戦時作戦統率権の早期
返還を主張、朝鮮半島における米軍のプレゼンスを減じようとしてきました。

本書では、その背景に文在寅の『北朝鮮による朝鮮半島統一』志向がある
と喝破、実際に、北朝鮮の韓国侵攻に備えて韓国のインフラ施設への破壊
工作を計画し、逮捕された男を文在寅が2度にわたり恩赦していた過去を
暴露しています。

 さらには『従北派』の閣僚を明らかにし、文政権が今後、『赤化統一』
実現に向けてどのような行動を取るか解説。韓国での軍事クーデターも示
唆しています。

一方、中国の習近平国家主席は、4月の米中首脳尾会談でトランプ米大統
領から北朝鮮問題の解決を迫られ、百日間の猶予を懇請しながら、何も出
来ず北朝鮮のICBM開発を容認してしまいました。激怒したトランプ
は、北朝鮮とつながりのある中国の金融機関や企業への制裁強化を開始し
ていますが、これにより中国の不動産バブルは崩壊、秋の共産党大会での
人事で大波乱が起こる可能性を論じています。

中国・韓国のエキスパートふたりが独自情報を駆使して分析。混迷する東
アジア情勢の行方を読む上で貴重な一冊です。
            (産経文化欄、8月5日より再録)

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2017年08月06日

◆中国に盗まれていた

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月5日(土曜日)弐 通算第5385号>

〜米連邦政府職員、契約者のデータ。2200万人分が中国に盗まれていた
  これらは機密情報にアクセスできる資格保有者の個人データだ〜

米国の情報戦略上、重大かつ深刻に危機が露呈した。

中国のサイバー攻撃部隊は、米連邦政府職員と、CIAなどと契約する
人々で、機密情報にアクセスできる資格のあるおよそ2200万人の個人デー
タを盗み出していた。

「もし金銭的困窮や女性問題、組織への恨みをもつ人間に中国が巧妙にに
接近して代理人に取り込めば、米国の機密情報は中国に筒抜けになる」

すでにその兆候がある。
 
というのも、過去2年間で中国からのサイバー攻撃は下火となり「90ん%
減った」と報告されている。つまり重要情報を手に入れたからである。

しかし激減したのは手口が洗練されてきたからであり、サイバー攻撃その
ものは決して沙汰止みにはならないのである。

中国ばかりか、米国の機密情報がテロリストにも渡っている形跡があると
いう。

レイモンド・トニー・トーマス三世陸軍大将はアスペン会議で、次の発言
をしている。
 
「ロシアが発表したISの指導者「バグダディ死亡説」だが、この信憑性
は薄く、いまもラッカ南方に身を潜めている。しかしバグダディの影響力
はすでになく、ISとアルカィーダの組織再建の指揮を執るのはザワヒリ
と睨んでいる」

上記分析はメディアに現れている両人の死亡説を覆し、ISは以前として
生き延びていることになるが、テロリストにも米国の機密情報が漏洩して
いる可能性があるとCIAが分析している(ワシントンフリー・ビ−コ
ン、2017年7月26日)。
 

2017年08月05日

◆北戴河会議、2日からか

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月4日(金曜日)弐 通算第5383号> 

〜北戴河会議、2日から開始されている模様
 長老の意見は聞き置く姿勢。習近平の独奏会か〜

 中国共産党恒例の夏のトップ会議「北戴河」会議が8月2日から開始さ
れた模様だ。テレビ画面からトップたちの動静を伝える報道が消えたからだ。

秦皇島は先月来、異様な警備体制に入っており、緊張感が漂っている。

トップ会談は山側の豪華ホテルか、ヴィラッジに分宿したかたちで、印刷
された議案書はなく、全てが口頭で行われる。

海水浴場に特別のゾーンが設定され、SPを思われる屈強な男達が海岸の
警備を始めると、ほぼ会議終了、あとはリゾートでのんびりという風情に
なる。

うるさ型の江沢民、宋平らは欠席と見られ、李鵬、朱容基、温家宝らは出
席している様子だが、饒舌の曽慶紅、胡錦涛のふたりが発言するだろうと
観測されている。

しかし、北京通によれば、

「直前の孫政才失脚と内蒙古での軍事演習を見せつけたことによって、も
はや習近平批判がおこることは考えにくい。おそらくこの場で、第19回の
人事を提示し、それとなく長老を根回しして合意を得るのではないか」
 と、ほぼ「習近平の独奏を聴く会」になるとの見立てだ。

トップセブンのうち習近平、李克強は確実に残留するが、王岐山が定年で
去るか、慣行をやぶって残るかがひとつの焦点。

残る議題のうち、愈正声、張徳江、劉雲山、張高麗の引退は決まってお
り、空席を栗戦書、王こ寧、王洋、胡春華が埋めるだろうというのが一般
的予測だが、習近平はトップセブンの員数に拘っておらず、五人の常務委
員体制に変革の可能性もある。

党大会そのものの日程はまだ公表されていない。

       
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◆樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1609回】        
――「我邦人所占居。旭旗相映以祝秋皇靈祭。亦足以觀我國之光矣」(股野1)
股野琢『葦杭游記』(発行所不明 明治42年)

   △
股野琢は天保9(1839)年の播磨国龍野藩生まれ。藍田とも邀日楼主人と
も号す。大阪、江戸に遊学し、明治4(1871)年に教部省出仕(宣教
掛)。後に太政官に入り内閣記録局長を務め、さらに宮内省に転じ書記
官、文事秘書官、帝室博物館総長兼内大臣秘書官長、宮内顧問などを歴
任。大正10(1921)年没。

 全文が漢文で綴られた『葦杭游記』の表紙を開くと先ず目に飛び込む
のが伊藤博文の筆になる墨痕鮮やかな「遒健」の2文字。「明治巳酉一
月」と記されているから明治42(1909)年1月の揮毫。つまり初代韓国統
監時代(1906年3月〜09年6月)ということになる。その経歴から判断し
て、股野が宮内顧問当時か。以下、漢文を読み下しておく。

股野は「明治四十一年九月。暇を乞いて、將に清韓に游ばんとし(中
略)、諸友に別れを告げんとした」。新橋を発ち、須磨、広島を経て馬関
で乗船し、「二十三日の暁、釜山に入る」。折しも「秋季皇靈祭」であ
り、街には「旭旗(にっしょうき)は相(とも)に映え」、「亦た以て我
國の光(かかやき)を觀るに足らん矣」

 京城、平壌を経て29日には「韓清の疆(さかい)」たる新義州へ。市
街在住の「邦人は二千戸」。これに対し「清人三萬」。「概ね戰後の經營
に係ると云う。盛んと謂う可き矣」。1戸を5,6人家族と見積もると、
「二千戸」は1万人から1万2千人。清国人が圧倒する。

 やがて満州に足を踏み入れ10月1日には炭鉱で有名な本渓湖へ。駅の
「左側に大倉組の採炭場有り。炭層は頗る饒かなるも、但し搬運に便なら
ずして、其の業、未だ盛んならざると云ふ」。さらに奉天を目指すが、目
の前に広がる原野の「廣濶」さに驚く。
 
奉天在住の邦人は「800餘戸。3200餘口。別に軍團1300餘人有り。清人は
5萬5000餘戸。17,8萬口」。依然として満州第一の都市ではあるが、
「街路は汚壞し、奇臭は鼻を衝く。飛塵は面(おも)を打ち、厭う可き也」

漢文で全文を綴る位だから、当時の高級官僚の常で股野は自らの漢学に相
当の自信を持っていたに違いない。だが、悲しいことに、それは書物の上
のバーチャルなものでしかなかった。であればこそ、汚なすぎる街に充満
する「奇臭」には閉口し、顔面を叩く「飛塵」には顔を顰めたであろう。
こんなはずではなかった、と。

「4日午前10時、旅順に抵り、大和館に投ず」。早速、場所を駆って日露
戦場へ。「當時の戰况、壮烈の状(すがた)は人をして栗然とせしむ」。
やがて最激戦地の鷄冠山へ。現場を目にしてロシア軍の「其の防守の嚴、
方畧の密、稱して難航不落と爲す」

いまから7,8年前、ハルピンから奉天(瀋陽)を経て営口に至り、旅
順では鷄冠山に登ったが、堡塁の壁に残る無数の弾痕に手を触れただけで
も、日露戦争の死地に勇躍として赴いた先人の思いが伝わって来たものだ。

すでに戦争から1世紀余を経ても、その戦いの凄まじさ、兵士たちのひた
むきさが伝わって来た。であればこそ、戦争から何年も経ていないのだか
ら、股野の鼻を血腥い風が衝いたとしても不思議ではない。

次いで大連港へ。新市街は「頗る壮麗を覺え、邦人の建設、尠なからず
と云う」。壮大で完備した港湾施設は「是れ皆、露人の創設する所にし
て、東洋第一の良港と稱す」

その後、営口、錦州、天津を経て7日の「夜7時、北京に入り扶桑館に
投ず」。郊外を歩くが、悪路続きで車は揺れに揺れ、生きた心地がしな
い。やっとのことで清朝皇帝が好んだと伝えられる湯山離宮に到着する
が、「今は則ち狐狸の?窟と爲る。都を距てること太だ遠からざるも、棄
てられて顧みざるは惜しい哉」

市内の名刹を訪ねる。「一門を過ぎ、一堂に上る毎に、僧徒は錢を覓
(もと)める。煩冗(わずら)わしく厭う可し。佛體(ぶつぞう)は怪異
にして觀るに足らず」。いやはや。《QED》
        

2017年08月04日

◆パキスタンに裨益しないCPEC

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月3日(木曜日)
        通算第5381号> 

 〜パキスタンに裨益しないCPEC(中国パキスタン経済回廊)
  IMFも「一方的な中国の利益」とプロジェクトに懐疑的な報告〜

「ちっともパキスタン経済に裨益していないじゃないか」とパキスタン経
済界から不満の声があがっている。

中国から安い物資がどんどんパキスタン市場に流れ込み、パキスタン製品
が駆逐され、そのうえグアダール港工事のための建機、セメントなど全部
が中国からの輸入となって、貿易赤字が拡大、外貨準備は底をついている。

「なにが双方の利益だ」と嘆きの声は日々大きくなる一方だ。

一帯一路の目玉プロジェクトは中国が500億ドルを投じ、イランよりのグ
アダール港から新彊ウィグル自治区のカシュガルまで鉄道、ハイウェイ、
パイプライン、光ファイバー敷設という4つの工事である。これが
CPEC(中国パキスタン経済回廊)だ。すでに工事は佳境に入っている。

ところがグアダール港の位置は「パロチスタン藩国」の領地で、英国が勝
手に地図をひいてパキスタンに編入した経緯があり(ちなみに国王(藩
主)は英国に亡命中)、バローチ人はまったく歓迎していない。

そのため中国人へのテロ、誘拐事件が繰り返され、その工事現場の警備を
パキスタン軍がおこなうという皮肉。

もっと具体的に言えば、プロジェクトの資金は中国が寄付するのではな
く、中国がパキスタンに貸与するのであり、担保は将来の「通過料」「道
路使用量」「鉄道運賃」などである。当初の計画ではパキスタンは、
2024年には35億ドルから45億ドルの「収入」が見込めるという青
写真になっていた。

IMFの報告は「輸出力向上が見られず(そもそもパキスタンからの輸出
品は殆どない)、予測される利益はなく、パキスタンの赤字拡大の怖れが
ある」と警告している。

大型のプロジェクトはいまも不足している電力を必要とするが、そのため
にはダムがもっと必要になる。中国からの代金決済は人民元ではなくドル
決済のため、ますますパキスタンの外貨準備が激減している。

あまつさえ隣国インドが中国主導の一帯一路そのものに反対しており、し
かもパキスタンとインドが抱える領土係争地を、このプロジェクトが通過
する。

スリランカ、インドネシアほかで、中国の提案を再検討する動きがあった
ように「パキスタンはプロジェクトそのものを再検証しなければならない
だろう」とパキスタンの識者は口を揃えている(アジアタイムズ、7月
31日)。

いやはや前途多難というより真っ暗、そのうえパキスタン政変はシャリフ
政権を崩壊に追い込み、北の隣国アフガニスタンへはIS兵士が帰還し始
めて大がかりなテロが予測され、西の隣国イラン国境も剣呑な情勢であ
る。一難去って、また一難。
       

2017年08月03日

◆郭文貴とアブダビの大金持ちとの

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月2日(水曜日)通算第5379号> 

 〜郭文貴とアブダビの大金持ちとの怪しげなディールの詳細
  『財訊』によれば、この詐欺師、30億ドルをだまし取ったとか〜

雑誌『財訊』と言えば、世界的に読まれる中国経済界のメディアである。
7月31日発売号の同誌は、ニューヨークに逃亡中の郭文貴がアブダビ
で、王族の大金持と組んで「ACAキャピタル」というファンドを創設し
た。アブダビの王室ファンドは15億ドルを出資した。

アブダビ王室に、この郭文貴を紹介したのはブレア英国元首相だった。
将来性のある企業、ベンチャーに投資すると謳われたが、実際には郭文貴
の借金返済に廻された。これが2014年のことである。

2015年、公安副部長だった馬健の失脚をしった郭はさっと米国に移住した。

アブダビの投資家は慌ててニューヨークの郭文貴を訪ねて問いただすと
「心配要らない。オレはもっと上の共産党幹部と特別なコネがある」と豪
語し、驚くべきことに、追加で15億ドルを出資させるのだった。

郭はこのカネでNYの豪華ホテルを借り切り、さらに香港のハイトン証券
の株式42」%を取得した。そしてアブダビに出資者に、中国で保有する財
産を処分して、全額をACAキャピタルに返還するとした。

すでに中国国内では郭の財産は凍結されており、返済は不可能となった。
アブダビは面目丸つぶれとなるのを避けるため、この話を公表しておら
ず、郭文貴はツィッターで、それは「私を貶めるための謀略報道」だと反
論している。真相は薮の中、おそらく、報道に近いことが起きたのであろう。

        

2017年08月02日

◆ジャクソンの亡霊が再来したのか?

宮崎 正弘



<平成29年(2017)8月1日(火曜日)通算第5378号> 

 〜まさにアンドリュー・ジャクソンの亡霊が再来したのか?
  スカラムッチ広報部長を十日で更迭、ケリー首席補佐官の最初の任務〜


トランプ政権のホワイトハウスは混沌としてきた。
 
フリン補佐官、スパイダー報道官、フリーバス首席補佐官を更迭し、マク
ファーランド副補佐官をシンガポール大使に飛ばし、つぎにセッション司
法長官を更迭する構え。かようにばっさばっさと登用した人材を切り捨て
る荒技は、第七代大統領アンドリュー・ジャクソンの再来を彷彿とさせる。

ジャクソンは決闘を好み、ルールは守らず「わたしが法律だ」と息巻い
て、奴隷も酷使し、前のオバマは執務室にあったジャクソンの肖像画を倉
庫にしまわせ、あまつさえ20ドル札の肖像から彼を消し去ってしまった。

トランプは就任草々に、このジャクソンの肖像画を倉庫から引っ張り出し
て、ホワイトハウスの執務室に高々と掲げ、そこで閣僚に任命した人々を
招いた。セッションズもその一人である。

国土防衛長官だったジョン・ケリー(前南方軍司令官)をフリーバスの後
釜の首席補佐官に据え、彼の最初の仕事は、任命したばかりのスカラムッ
チ広報部長の解任だった。

ケリーは海兵隊出身の荒武者。このケリーを通さないと大統領に面会が出
来ないのがホワイトハウスの部屋割りとなっており、顔パスで出入りでき
るのは、クシュナー、イバンカ夫妻とバノン上級顧問くらいとなった。

日本的価値観からみれば、和を尊ばない遣り方は歓迎されないが、精神風
土が異なるアメリカでは、あまり気にならないらしい。だから、北朝鮮に
対して、誰もが予測しないことをトランプが繰り出す可能性は、むしろ高
まったとみる。
        

2017年08月01日

◆「最先端AI技術を中国から守れ」

宮崎 正弘



<平成29年(2017)7月31日(月曜日)通算第5376号>   

 〜アメリカの「最先端AI技術を中国から守れ」とペンタゴン内部文書
  シリコンバレー、すでにAI研究開発の29社に中国資本〜

次世代AI開発に米国は向こう3年間に180億ドルを投じる。主目的は軍
事ロボット、派生して民間転用できるテクノロジーは医療、介護、自動運
転などに使われるだろうと言われる。

研究開発のメッカはカリフォルニア州のシリコンバレーである。

ところが合弁、ベンチャーキャピタル、企業買収、株主参加など巧妙な手
口で中国が浸透しており、すでに29社が中国資本となんらかのアクセス
があるという。

ペンタゴンは内部報告を出して、「いかにして中国のアクセスを阻止でき
るか」、緊急に対策を講じるべきだと警告している(アジアタイムズ、7
月29日)。

米国では「先端企業、とりわけ国家安全保障との係わりのつよいところへ
の外国の買収を認めない」と監査するCFIUS(外交資本審査委員会)
があるが、「企業買収」の形態を踏まえず、また新分野であるAIの研究
開発という最先端テクノロジー防衛に関して具体的な監査機関がない。

「アメリカに開発させて、その成果をごっそりいただこうとしている」と
中国ならびに他の敵性国家を警戒するのだが、シリコンバレーは、そうし
て危機意識が薄く、就中、ベンチャーへの資本導入には国籍を問わず熱心
な技術者、学者、企業家が目立つ。

ましてシリコンバレーは政治思想的にはリベラル一色、トランプ政権を支
持する企業家やビジネスマンはことのほか少数である。

「カンヨン・ブリッジ・キャピアル」という怪しげなベンチャーが「ラ
ティス半導体」(オレゴン州ポートランド本社)に買収を仕掛け、途中で
世論の反対がでて退けられた。

この怪しげなベンチャーファンドは中国系だった。

すでに中国がAIならびに先端軍事技術、暗合技術の取得のために、米国
に投下した金額は99億ドルに達する。

アメリカの先端企業に浸透する中国スパイ、無節操でカネに転びやすいア
メリカ人専門家などが秘密のネットワークを地下組織的に構築したと見ら
れ、いかにアメリAが防御策を講じようとも、漏洩は不可避的である。

いずれ中国はAI技術においてアメリカを凌駕する可能性上がると、ペン
タゴンの専門家は強い警告を発している。
        
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 
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 戦地で激闘の苦難と戦ったのは皇軍兵士だけではなかった
  兵隊とともに歩み、戦い、散った軍馬百万頭の悲劇があった
 
  ♪
加藤康男『靖国の馬――戦場に散った100万頭』(祥伝社新書)
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ちょうど靖国神社へ行く所用ができた。本書にしたがって、境内右奧の小
粒な広場に達つ『戦没軍馬慰霊像』を拝観し、合掌した。

軍馬は戦争中に『天皇の御分身』として配属され、およそ百万頭が戦地に
散った。帰国した馬は1、2頭しかなかった。この戦争馬の運命を著者は
克明に辿った。珍しい記録である。

あの大東亜戦争は「人馬一体の戦争」だったと加藤氏は言う。

「軍馬は斥候や先陣を駆けめぐる乗馬として、また重い火砲を挽く輓馬と
して、軍需品を背負い搬送する駄馬として、戦地に赴いた。そのほとんど
が祖国復帰を果たせず、屍を野辺に晒したもの数知れず」だった。

評者(宮崎)、じつは高校時代、馬術部である。
 
朝夕の馬の手入れ、食事、便の処理、食料の確保と配合など、乗馬の裏を
支える作業の重要性も知っているが、なによりも馬術部での貴重な経験と
は、馬が人間の心理を読み取り、そして賢い馬には精神が宿り、仕草に
よって会話が成立することである。

じつに賢い動物なのである。
 
いまひとつ教わったのは蹄(ひづめ)のことだった。

日本の馬は草原や農耕地を走るので、岩盤や曠野を走った大陸の馬とこと
なり、明治時代まで蹄を必要としなかった。箱根などを超えるときに草鞋
を履かせた。蹄鉄技術がなかった。

日本の馬は小粒であり、堂々とした体躯で長距離を疾駆するわけにはいか
なかった。だから日清・日露戦争を前にして、日本は急遽、フランスとド
イツからヨーロッパの蹄鉄技術を学び、外国人技術者を招聘し、学校も開
設し、蹄鉄をマスターし、騎馬戦を戦った。

加藤氏によれば「西欧式蹄鉄文化が入ってきたのは江戸末期のことで、歌
川広重などの浮世絵に描かれた馬はみな草鞋姿である。大老井伊直弼は蹄
鉄に興味を持ち、自分の馬にも蹄鉄を装着させたとの記録(ロバート・
フォーチュン『幕末日本探訪記』)もあるが、普及するのは明治以降とな
る」(184p)
 
昭和16年に封切られた映画『馬』は高峰秀子が主演である。
 
「この映画の最大の見せ場は農家の娘、高峰秀子が丹精こめて育てた馬
が、馬市で高値がついて軍に買い取られてゆくシーンであろう。愛馬と別
れるのはいかにも辛いが、この手で育てた馬が戦地でおくにのために働く
のだという感慨もまた、生産農家の励みでもあった」のである。

ほかにも珍しい逸話として、俳優の池部良が戦争中は輜重部隊小隊長で、
輸送船団で馬を南方へ搬送する任務についたときの回顧談がある。

「出発前、池部小隊長は中隊長に対して、こう進言している。『で、向こ
うへ着いてからの馬糧はどうするんですか。苦労をかけて連れて行き、敵
の弾丸に当たって死ぬならまだしも、食べるものがなくてむざむざと死な
せてしまうのは、あまりにも残酷だ』」。

しかし、島に上陸する前に敵潜水艦攻撃で船は水没し、500頭あまりが
「南瞑の没したのである。兵はそれでも友軍に拾われることがあるが、爆
破された輸送船から救出された馬は1頭たりとも記録にない」(24p)。
 晩年の池部良氏は名エッセイストとしても知られ、原稿を頼んだりで、
評者は何回かあったことがあるが、この話は聞いてことがなかった。
           

2017年07月31日

◆慟哭の「通州事件」から80年

宮崎 正弘



<平成29年(2017)7月30日(日曜日)通算第5375号>   

 〜慟哭の「通州事件」から80年が経った
  寸鉄を帯びぬ無辜の同胞が無慈悲に惨殺された無念と慟哭〜

 7月29日、あの通州事件から80年を迎えた。靖国神社には、主催者の予
測をはるかに超えて2倍の人々が参集し、無念の犠牲者に祈りと捧げ、2
度とこのような惨劇を繰り返さないことを誓った。

全員が本殿に昇殿参拝した。参列者のなかには文藝評論家の桶谷秀昭氏、
黄文雄氏らの顔もあった。

ひきつづき会場を有楽町に移し、「通州事件80周年 記憶と慰霊の国民集
会」が開催され、会場は満杯、補助椅子を足しても収まりきれない多くの
人々が駆けつけた。

会は佐波優子さんの司会で始まり、最初に映画を上映、未発見のフィルム
が基調は証拠文献などかずかすが挿入された初公開のフィルムに見入った。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E5%B7%9E%E4%BA%8B%E4%BB%B6

国歌斉唱、黙祷につづいて主催者を代表して加瀬英明氏、ジャーナリスト
の桜井よしこ氏が挨拶した。

第1部の「関係者がかたる事件の真相」に移り、コーディネーターは皿木
喜久氏。事件当日に銃撃を受けながら奇跡的に助かった母が3ヶ月後に産
んだ運命の子、加納満智子さん(現在80歳)が、その奇蹟の運命を語って
会場はしーんとなった。

また犯行に及んだシナ兵と遭遇し、撃滅した部隊長の子息、奈良保男氏が
登壇し、なまなましい当時の事件の背景や伝え聞いている真相など、多く
の証拠品を提示されながら語った。会場には中国専門家の樋泉克夫氏、ま
た女性ジャーナリストとして活躍する河添恵子氏、福島香織氏らの顔も
あった。
 
休憩後、第2部に移り、阿羅健一氏、小堀桂一郎氏、北村稔氏、緒方哲也
氏、ペマ・ギャルポ氏、オルホノド・ダイチン氏、三浦小太郎氏、最後に
藤岡信勝氏がそれぞれ貴重な意見を述べた。

とくに藤岡氏はチベットやウィグル、南モンゴルの夥しい血の犠牲の記憶
回復運動とも連携し、今後の運動方針として、この通州事件をユネスコの
「世界記憶遺産」として登録してゆくことなどの説明があった。閉会の挨
拶は宮崎正弘が担当した。

        
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◆書評 しょひょう BOOKREVIEW 

 誰も怖くて指摘しなかったAIの本当の脅威とは
   AI(人工知能)が人類を破滅させる恐怖である
 
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小林雅一『AIが人間を殺す日』(集英社新書)
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AIの近未来の恐ろしさを著者は「自動運転、医療、そして兵器」の3つの
分野にみる。

以前から言われている雇用激減、2045年に予測されている「シンギュラリ
ティ」の恐怖を超えて、あまりにも恐ろしくて語られなかったのが自動運
転の車が引き起こす事故、AIが人間を超えるというシンギュラリティなど
も問題よりも、最大最悪の問題は、じつ自律的兵器である。

前者2つは超オートメーションにより、暴走や誤作動、ありは制御不能に
陥ったときの災禍の甚大さ、医療の誤信も死に結びつく恐怖であり、前々
から指摘されてきたことである。

AIの恐怖とは「HUMAN OUT OF THE LOOP」と呼ば
れる問題で、日本語に直すと「制御の環から人間が除外される」ことを意
味すると小林氏は言う。

これらが本書のポイントと言って良いだろう。

とくに著者は自律的兵器に関して具体的な考察を拡大しているが、日本に
は珍しい論点である。

なぜならAI本はあまたあっても、兵器分野すなわち「軍事ロボット」に関
しての考察が日本では殆どなされなかったからである。

評者(宮崎)は、既に35年も前の1982年に『軍事ロボット戦争』(ダイヤ
モンド社、絶版)を上梓し、この問題を提議したのだが、あまりに予測が
早かった所為か、殆ど注目されなかった。

SF小説と映画では、ロボコック、ターミネーター、スターウォーズなど
があり、いやその前に日本では鉄腕アトム、鉄人28号、最近はガンダム
などがある。

想像の世界での出来事で、まさかマンガが本物と化け、人間を本格的に脅
かす日が来るとは誰も想定していなかっただろう。

自律的兵器とは「コンピュータ・プロセッサーの飛躍的進化とコスト低下
に伴い、これら高度な部品・技術などが、謂わば『消耗品』として兵器に
搭載されるようになった」(176p)。

無人機ドローン、巡航ミサイル、無人潜水艇などである。

事態を重視したアメリカは今後3年間でおよそ180億ドルを、これらAI
搭載の自律的兵器開発にあてる。

そのため世界から人材をスカウトしている。

「しかし、このように兵器自体が戦場における周囲の情報から機械学習し
て、臨機応変に対応するようになれば、それはペンタゴンが主張する

「HUMAN IN THE LOOP」、つまり『兵器の使用について実質的な判断を
下し、その責任を負うのは、兵士や指揮官のような人間である』という基
準とは相容れないことにある」

すなわち兵器そのものが自主的に暴走し始める。人間が制御できない兵器
が誕生すれば、いったい人間の未来は、AIに滅ぼされることにならないのか。

しかも、それらがテロリストに渡ったら?

「本来なら米軍の優位性を確保するために開発されるはずだった自律的兵
器は、皮肉にも、これまで米軍とテロ集団・武装勢力などとの間に存在し
てきた『兵器技術の非対称性』を打ち消す方向に動く可能性が高いのだ」
(192p)
 こうした文脈からも、本書は注目されるべきであろう。

2017年07月30日

◆中国への核攻撃も辞さない

宮崎 正弘



<平成29年(2017)7月28日(金曜日)弐 通算第5372号>  

〜「大統領が命令すれば中国への核攻撃も辞さない」
   米太平洋艦隊司令官、豪国立大学安全保障セミナーで警告〜

7月27日、オーストラリア国立大学で開催された安全保障会議における質
問に答えるかたちで、スコット・スイフト太平洋艦隊司令官(提督)は、
「仮設の質問であることを前提に、もし大統領命令が下されれば、我々は
来週にも中国への核攻撃を行う」と回答した。

このセミナーは米豪合同軍事演習を終えた時点で行われた。

豪の北西部沿海、豪のEEZ海域内で行われた米豪軍事演習には中国のス
パイ船が多数、観測のために付近を航行していた。

米軍は空母ロナルドレーガンを筆頭に36の艦船が参加し、航空機は220
機、合計3万3000人が訓練を行った。大規模な演習である。

スコット・スイフト太平洋艦隊司令官は、席上、「米国の憲法に従い、軍
はシヴィリアン・コントロールの元にあり、大統領が命令すれば、その通
りにするのが軍のつとめである」と軍隊の規律を確認する。

また提督は「豪の経済排他水域に中国軍の艦船がはいっていることは国連
海洋法でみとめられており、ハワイ沖の軍事演習でも中国の観測船が這入
り込んできている。問題は米海軍が同じことを中国のEEZで行おうとす
れば中国が反対することである」と追加の発言をした。

米国では憲法の範囲内の発言であり、問題視されていないが、中国語メ
ディアは大騒ぎをしている。

2017年07月29日

◆通州事件80周年「記憶と慰霊の国民集会

宮崎 正弘



<平成29年(2017)7月28日(金曜日)号外>

明日です!

   @@@@@@@@@@@@@@@@@@

無辜の同胞が無慈悲に大量惨殺されたかの通州事件から80周年となりま
す。事件の記憶と犠牲者の慰霊の国民集会が、下記のとおり行われます。

(1)靖国神社昇殿参拝と慰霊祭
12時30分靖国神社参集殿集合/午後1時昇殿参拝と慰霊祭 【玉串料】千円

(2)記憶と慰霊の国民集会  
午後3時受付開始/3時30分開演(終了5時40分)
   新国際ビル9階(日本交通協会大会議室)千代田区丸の内3-4-1
【交通】JR有楽町駅「国際フォーラム口」から徒歩3分。有楽町D3出口直
結(新国際ビルの玄関から会場まで3分)

参加費2千円(参加予約不要。直接会場にお越し下さい)

<< プログラム >>
              <総合司会>佐波優子
開会挨拶            呼びかけ人代表 加瀬英明
【第1部】通州事件関係者が語る事件の真相! <コーディネータ>皿木喜久
加納満智子「通州の奇跡 母の胎内で銃弾の中を生き延びた私」
石井 葉子「血染めの手帳に辞世の句を残した伯父の最期」
奈良 保男「事件後最初の救援部隊を指揮した父が見たもの」

【第2部】<リレートーク>通州事件がわれわれに問いかけるものは何か 
<登壇者> 加藤康男 阿羅健一 小堀桂一郎 北村稔 緒方哲也 
ペマ・ギャルポ
オルホノド・ダイチン 三浦小太郎 藤岡信勝
<閉会のあいさつ> 宮崎正弘
主催 通州事件80周年行事実行委員会(呼びかけ人代表:加瀬英明)
連絡先 112-0005 文京区水道2−6−3 つくる会「80周年実行委員会」
tsusyu80@gmail.com
呼びかけ人 加瀬英明(代表)、宮崎正弘(事務局長)、阿羅健一、加藤
康男、北村稔、
ケント・ギルバート、黄文雄、小堀桂一郎、桜井よしこ、堤堯、藤岡信勝
ペマ・ギャルポほか多数
参加団体 アジア自由民主連帯協議会 新しい教科書をつくる会 美し国
     英霊にこたえる会、関西宗教懇話会、呉竹会、史実を世界に発
信する会
     世界連邦日本仏教徒協議会、通州事件アーカイブ設立基金 日
本会議東京本郡
     メディア報道研究政策センター

こちらもご覧ください http://www.sdh-fact.com/CL/80.pdf

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 この告示の転送、転載歓迎です

2017年07月28日

◆カリブ海にも海運ルートの拠点を築く中国

宮崎 正弘



<平成29年(2017)7月27日(木曜日)弐 通算第5370号> 

 〜カリブ海にも海運ルートの拠点を築く中国
  「一帯一路」の海のシルクロードは中南米諸国にも〜

パナマが台湾と断交し、ただちに中国との外交関係を結んで、カネに転ん
だと言われた。

その先に広がるカリブ海の海には多くの島嶼国家が点在し、キューバ、
ジャマイカ、ドミニカのような中規模な主権国家もあれば、タックスヘブ
ンだけのフェイク国家もある。

ジャマイカは昔から、陸上競技で世界一のランナーを輩出させる国、レ
ゲィ音楽の本場でもあり、大航海時代にはアフリカからの奴隷貿易の中継
地だった。

このジャマイカに中国が巨大な港湾建設を始めている。驚き桃の木である。

「中国港湾工程有限責任公司」は15億ドルを投じて、「カリブ海とパナマ
運河を結ぶハブ」と位置づけ、同時にバルバドスには、ヴィザなし渡航を
認めれば年間2000万人の中国人ツアーを送り込むとおだて、リゾートホテ
ルなどに進出、ランドマークのビルも中国資本が購入した。

ギアナでは金、原油、木材の工場を建設し、中国企業が稼働させている。

このためアメリカの保守派には「いずれ南シナ海のようにカリブ海の島嶼
群島は、『中国の海』となる」のではないか」と懸念する声があがってい
る(米ジェイムズタウン財団発行『チャイナブリーフ』、2017年7月17日
号)。

いつでも何処でも新興国家は目の前にあるカネの魅力には勝てず、中国の
いうインフラ建設と、融資条件にすぐ乗っかり、雇用が増え、地元経済が
潤うと期待したが、どこおかしこも、そういう薔薇色の夢は瞬時に消え
て、労働者は中国から建設機材からセメントまで中国から、低利のローン
はいつものまにか条件が巧妙に変更になり、あれよあれよという間に負債
が膨らんで、「こんな筈ではなかった」と嘆く。

中国は戦略的に、外交関係で台湾を切った瞬間からこれらの国々の外交的
利用価値はなくなっているのである。

中国は投資を中断し、労働者を引き上げ、プロジェクトは放ったらし、現
地で雇って奴隷のようにこき使った労働者には給料未払いなど、無茶苦茶
なことをやってのける。これもいつもの手口である。

いま中南米諸国に広がるのは中国への期待から絶望への転換だという。