2017年07月15日

◆「宿命ある人々」―――第2弾!

〜赤松正雄の 忙中本あり 〜

(2017年7月13日 ・ 浅野 勝人)



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<孫悟空を追い続ける西域ひとり旅ー浅野勝人『宿命ある人々』を読む>


『宿命ある人々』ー耳慣なれない言い回しのタイトルの本に出会った。宿命とは何か。辞書によると、その環境から逃れようとしても逃れることができない、決定的な(生まれつきの)巡りあわせを指したり、立場上そうならざるを得ない泣き所を意味するという。運命と同義で、一般的には厳しい経緯を経て、暗い結末へと至る身の上を意味する。ここでは「人智では動かしえない定めある人たち」と云いたいのだと思われる。


この本の著者・浅野勝人は、元NHK解説委員にして、元内閣官房副長官、元外務副大臣(衆・参両議院議員)を経験したジャーナリスト出身の政治家。7年前に勇退してから、自ら立ち上げたシンクタンク、一般社団法人「安保政策研究会」の理事長を務めるかたわら、日中友好に深く貢献していることでも知られる。


著書も数多く、この読書録でも『日中秘話ー融氷の旅』『北京大学講義録』などを取り上げてきた。私には仰ぎ見る先輩のひとりだ。しかも現在、私も「安保政策研」のメンバーとなっており、宿縁浅からぬ人でもある。


▼この本は三部形式。一つは、比叡山延暦寺大阿闍梨・酒井雄哉師の生の講話集。二つは、「孫悟空」を追いかけて一人旅をした西域記。三つは、横綱・白鵬との交友録。全体を通じて「宿命ある人を追っての西域ひとり旅日記」の趣きだが、味わい深い話が満載されており、読み応えたっぷり。


最初の酒井雄哉師の講話は、序文に「ことばに尽くせない鬼気迫る貴重な人生訓」とある。7年かけて延べ1000日修行する千日回峰行。話には聞いていたが中身は知らなかった。


まず最初の4年間は毎日32キロほど、堂塔、霊蹟、野仏、草木を礼拝する行をしながら、嵐だろうが病気や怪我だろうが休むことなく歩き続ける。もし「行」に失敗すれば、山を去るか、自害するかが掟だ。決死の難行。


5年目に入って700日終わると、「お堂入り」をする。これは無動寺谷明王堂に籠り、9日間、断食、断水、不眠、不臥で不動真言と法華経全巻を唱える荒行のこと。このあと、赤山苦行、京都の大廻り(毎日84キロ歩く)などと続く。この修行、病に倒れず、死にもせずにやり通すことは至難の業という他ない。口の渇きのために、舌の上の一滴の水の処し方など、克明に記された体験記は是非直接読んでほしい。


酒井師はこの千日回峰を二回やった人だが、淡々と語る姿は筆舌に尽くしがたい。こうした修行を経たうえでの「『生きている』とは何なのか」のくだりなど、読むものはただただ息を吞むだけ。「今日の自分は今日でお終い。明日はまた新しい自分が生まれて、明日の新しい生活が生まれてくる」という。『一日一生』というこの人の代表作の題名が浮かぶ。さてさて、これほどの超人的な修行をしないと悟りの極意には到達できないものなのか。ただただ溜息が出てくる。


▼浅野は少年時代「西遊記」の孫悟空に憧れた。如意棒と筋斗雲を持ったスーパースターに、79歳の今も魅力に取りつかれている。孫悟空に関心を強く抱いた浅野は「三蔵法師、西域、インドの旅」に関する中国古典や資料、著書を読み漁るうちに、「孫悟空ってほんとは誰なのか」との謎解きに嵌っていく。


そのきっかけが慈覚大師・円仁が著した『入唐求法巡礼行記』。それをベースにやはり巡礼行をした酒井師の後を追いながら、「悟空」に迫ろうというのだから凄い。西安では、薦福寺、興福寺、大雁塔などを訪れ「悟空」との接点を探すが得られず、敦煌へ。


そこでは「敦煌研究院」の特別の計らいを得て、有名な「莫高窟」で、非公開の「第17窟」に入り貴重な壁画の数々を目にする。写真撮影が禁止されているために、悪戦苦闘したいきさつがなんともハラハラどきどきさせられる。さらに敦煌から東に広大なクムダク砂漠を越えて「楡林窟」へ。そこで、遂に「玄獎取経図」と出逢う。


そして現地での学者、研究員らとの白熱の討議。念願の孫悟空に逢ったのだが、そこからがまた難行苦行の連続。「ホントのところは孫悟空とは誰なのか」を追うことはとてもスリリングだが少々難しい。答はあえて秘しておこう。読んでいて酒井師の千日回峰を思い起こさせられるほど。かの肉体的修行に比してこちらは精神的苦行になぞらえられよう。


▼白鵬関と深い付き合いのある浅野は「横綱はチンギスハーンの生まれ変わり」というほどの入れ込みよう。「強い人が大関になる。宿命ある人が横綱になる」との白鵬関の発言。この言いぶりはいかにも日本的だという感じを抱く。


実は私は鶴竜関の姫路後援会の一員だったことがあり、現役時代には毎年春の大阪場所前に、彼や井筒親方(元逆鉾)らと一緒のテーブルを囲んだものだ。白鵬関とは違ってカリスマ性には乏しいものの、折り目正しいその佇まいは日本人そのものに思われ、私にはとても好ましい人だ。横綱だから、この人もまた宿命ある人と思いたい。尤もこのところ休場続きなのが心配される。


ところで、私は71歳の今日まで、宿命はあるとかないとかの次元ではなく、元々誰しもにあるものと捉えてきた。
つまり、人間はすべて宿命ある人々だ。ここでいう宿命とは、人間の持つ最高の能力という意味、つまり仏の命を指す。ただ、人としてその仏の命の現れ方(宿命の在り様)が千差万別なのである。ということから、己自身が自覚した宿命が、仮に弱くボロボロのものだったら、これを力強く颯爽としたものに変えねばならない。


「宿命転換」の原理なのだが、これは、今の仮の姿から、本来の姿としての仏の命に立ち戻らせねばならない。その立ち戻らせ方を教えてくれるのが「日蓮仏法」だと確信している。この辺り、一般的な「宿命論」を覆す新たな座標ではある。

(元厚生労働副大臣、元公明党安保調査会長)


2017年07月12日

◆新刊書「宿命ある人々」上梓

〜孫悟空―追っかけ“西域”ひとり旅〜

著者: 浅野勝人(安保政策研究会理事長)



公職引退後、5冊目を上梓しました。
「宿命ある人々」 孫悟空―追っかけ“西域”ひとり旅(時評社)
今回の著作は、政治に無関係の作品で、いわば新人作家の処女作です。

1章 生(い)生(い)き仏 ― 生(なま)生(なま)の講話 無の境地に達した『極限の行』
比叡山延暦寺の行者・酒井雄哉師の鬼気迫る話し。
2章 “孫悟空”って誰だ! 軍事戦略に抽(ぬ)抽(ぬ)かれた三蔵法師の地誌
孫悟空を追っかけ、タクラマカン砂漠を彷徨(さまよ)彷徨(さまよ)う。
3章 白鵬翔とチンギス・ハーン
ちょっと聞けない、大相撲 ないしょのいい噺(はなし)噺(はなし)。

今回の著書は、読者の評価が真っ二つに割れています。

★従来の外交・安保を軸にした政治がらみの著書は、いずれも内外の知られざるエピソードを満載。訓練された分析に説得力があり、貴重な内容が盛り込まれていた。今回は日中古代交流史や宗教に関心のある限られた人しか興味を持ちにくい無味乾燥の感が否めない。馴染(なじ)馴染(なじ)めない著書。(政治記者OB)
★専門外のテーマに挑んだ門外漢の力作。短期間に到達した深遠な真理は現場主義を貫いた成果だけではなく、真摯に生きてきた著者の全人格が反映された証(あかし)証(あかし)。人の生き方に少なからぬ感化を与える。79才作家の新人賞。(官僚OB)

あなたは、どちらの感想を抱かれるでしょうか。

著者としては、登場する親鸞、円仁、酒井雄哉、三蔵法師、孫悟空、チンギス・ハーン、文天祥、白鵬翔の一貫してぶれない壮絶な“生き様”を物語の軸に据え、
☆真剣に生きることの尊さ。
☆あきらめない性根。
☆慈しみ、愛する心の至福。を追い求めました。
だからタイトルを「宿命ある人々」としました。

発売から3週間。駄作と思った方々は、よほど親しい人以外、わざわざ嫌なことを言ってはおいでになりません。
メールや手紙を寄せて、褒めて下さる人の方がおのずと多くなります。一遍だけ全文を紹介させていただきます。

 「宿命ある人々」たいへん面白く2日間で読了しました。
特に感心したのは、間もなく80才の君が“少年の心”を失っていないことです。
永年、永田町の政治の世界にもまれていると、いつの間にか初々しい少年の心、素直な真心を失ってしまいがちです。

政治にとって、一番大切なのは“初々しさ”ではないでしょうか。
人生とは何か、生きるとはどうゆうことか、人との絆とは何か、それを忘れて政治は成り立ちません。

とりわけ、近頃の政治現状を散見すると、その肝心な点をすっかり忘れた数々の言動に愕然とします。心がカサカサに乾いていて、政治家であることよりも人間失格を思わせます。
その意味で、君には敬意あるのみです。

特に、酒井雄哉大阿闍梨の生の講話を集録していただいたのは、たいへん有り難いものでした。それにしても、一人の人間がこんな“行”をできるのですね。人間の肉体や精神の限界などという単純なものではありません。尊敬の念を超越した凄(すご)凄(すご)み、おそろしさを感じます。

孫悟空を訪ねての“ひとり旅”は、さすがに取材の訓練を重ねた元ジャーナリストの現場主義に引き込まれ、読みごたえがありました。
この本のハイライトです。
 
私は故平山郁夫画伯と親交があり、西域の古都・トルファンの粗描画をご本人からもらっています。井上靖先生のご息女とも縁(えん)縁(えん)があって、井上先生のシルクロードの紀行は全て読んでいます。
そんな縁(えにし)縁(えにし)から、君の労作は一層興味深く拝読しました。

大学で机を並べたのかきっかけとなって、半世紀をこえる付き合いにおよぶ「友」の所感です。日本を代表する超一流企業の首脳の一として、産業の充実進展に貢献した実力派でした。
(2017/7月11日、元内閣官房副長官)

2017年06月21日

◆『一隅を照らす』― 理性と良識を守る

浅野勝人 (安保政策研究会理事長)




ここに「一隅を照らす」 理性と良識を守って――河野謙三 著
“ 浅野大兄 恵友 謙三 ”と筆の署名があります。
参議院議長・河野謙三 書き下ろしの42年前の著書です。

参議院改革を旗印に議長になった河野謙三は、与野党伯仲の困難な国会運営に臨み、「七 三 の構え」を宣言して政府・自民党をけん制しました。

河野謙三は、著書の中で、
「法案審議に野党七、与党三の比重をかけていこうという“七三の構え”の提唱に対して、与党側からそれでは不公平だという声が出ている。“七三の構え”をとる私が第1党を軽視している、との非難である。
政府・与党は寛容と忍耐の精神で議場にのぞみ、野党に法案を質す機会と時間を十分与え、“親切にお答えしましょう”という態度が望ましい。そして、審議の過程で聞くべき意見があれば、思い切って原案の修正に応じる。野党には、ただ絶対反対だけではなくて、具体的、建設的な意見・創意を出す責任がある。そうゆう腹の太さが必要だろう。この平凡なルールが守られるようになったら与野党対決法案は、もっと容易に、しかもよりよい解決の道が見いだせるものと思う。“七三の構え”とはそうゆう意味に過ぎない。
私は議長就任の際、『野党と結託した』とずいぶん非難された。そのとき私はあえて『オレは世論と結託したんだ』と反論した。
このことは今でも変わりはない」

フランスの総選挙でマクロン大統領(39)の新党「共和国前進」が議席を6割獲得して圧勝。既存の二大政党、中道右派(共和党など)と中道左派(社会党など)は惨敗しました。

日本に当てはめてみると、「新党・前進」が2/3近い議席を獲って、自民党と民進党が惨敗して図です。

細かい分析結果は、パリ特派員に任せますが、マクロンの発言は「潔い」(いさぎよい)。アメリカのトランプ大統領に対しても、イギリスのメイ首相に対しても、異なるフランスの立場を自らのことばではっきり主張して引かない。しかも物言いが悪印象を与えない。「野党との対話」を重視して、世論と結託している政治姿勢がすがすがしく映っています。
河野謙三が生きていたら、合格点、しかも高得点の採点をしたに相違ありません。

通常国会が終わって、6月17日、18日に実施された世論調査が一斉に発表されました。厳しい数字を選んでみますと(これが世論の本音とみられますが・・・)
毎日新聞:内閣支持率―36%(5月調査から10ポイント下落)、不支持率―44%(9ポイント上昇)

共同通信:内閣支持率―44・9%(10・5ポイント急落)、不支持率―43・9%(8・8ポイント上昇)

朝日新聞:内閣支持率―41%(6ポイント下落)、不支持率―37%(6ポイント上昇)
特に気になるのは、調査対象全体の半数を占める無党派層の支持率が2割を割って、不支持率が49%に達している点です。支持・不支持がダブルスコア―です。さらに、予想されたこととはいえ、「加計学園」をめぐる安倍首相の説明に「納得できない」66%、内閣不支持層に限ると93%に達していることです。


私は、内閣支持率は一定の目安ではありますが、最重視はしていません。政局を展望するうえで重要な分岐点は、支持率と不支持率が明確に逆転する政治情況を判断のポイントと考えています。その意味では、「1強」のターニングポイントが危険水域にさしかかっているように見受けます。特に、大型選挙の帰趨を左右する無党派層の過半数が不支持というデータは、明らかに危険信号です。この数字は東京都議会議員選挙に「マクロン現象」となって端的に表れると私は予測しています。

但し、国政に関しては、従来と全く見解を異にするのは、「野党不在」の稀有な時代が続いている背景の存在です。だから内閣支持率の急変が自民党の支持率にさして影響していません。

現役の官僚が「役人の命に係わる人事を人質にするシステムをつくって脅すやり方には恐怖で身が縮(ちぢ)む。だからと言ってアレ(民主党政権)に戻るのだけはごめんだ。悩ましいんです!」と本音を語っています。
官邸の主たちが、野党不在に“安住”していると、市井の地盤に溜まっているマグマが破裂しないとも限りません。

9月の閣僚改造人事が立て直しのキィです。
今なら間に合う終列車!
(2017/6月20日 元内閣官房副長官)


2017年05月19日

◆トランプの資質 ― 案の定:懸念が次々と噴出!

 
浅野 勝人 安保政策研究会理事長 



ドナルド・トランプは、ロイター通信に大統領職について質問され、「もっと簡単だと思った」と答えました。本音だと思います。

大統領はオールマイティなので、思ったことは何でもやれると思い込んでいたに違いありません。予算は議会のOKがなくては執行できないことや人事が議会の承認を必要とすることを認識していたかどうか疑わしい。司法の壁が敢然と立ちはだかるとは思いもよらなかったはずです。

最高権力者の立場に立てば、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムスなどマスコミの記者など物の数ではないと高を括っている態度がありありと見えました。ニクソン大統領を弾劾、辞任に追いやったジャーナリストの使命感をまるで理解していない裸の王様の風情です。

1ヵ月余り前(4/10)のブログで次の指摘をしました。
イスラエル紙「イェディオト・アハロノト」は、テルアビブで開かれたアメリカとイスラエルの諜報機関の秘密会議の席上、(2017/1月)「トランプ大統領がロシアとの不適切な関係を結ばないことが立証されるまで」という条件付きではありますが、アメリカ側が「イスラエルの入手した機密情報をホワイトハウスと国家安全保障会議(NSC)に提供するのは中止してほしいと要請した」と報じました。

イスラエル側も「対ロシア政策の変更に伴う、ロシアやイランへの機密情報の漏洩」に懸念を示し、双方からトランプ大統領のホワイトハウスに対して異例ともいえる不信感が表明された模様とのことです。(月刊誌・選択)

「ウチの大統領に機密情報を知らせるとロシアに漏洩する恐れがあるのでホワイトハウスには提供しないでください」とアメリカ側がイスラエル側に要請した模様というニュースです。いくら何でもまさかそんなやり取りが両国に間であったとは考えられませんでした。

ところが、この懸念が的中したことを知らされて、唖然とするばかりです。
5月10日、ホワイトハウスで行われたロシアのラブロフ外相との会談で「私は凄い機密情報について、毎日報告を受けている」と得意げに「イスラム国(IS)は旅客機に持ち込むノートパソコンを使ったテロ攻撃を計画している」と述べ、さらにISの支配地域の地名を挙げて具体的な脅威を語ったとアメリカの主要メデイァが一斉に伝えました。

この機密情報は、イスラエルから極秘に伝えられた「最高機密レベル」のもので、特にイスラエル側から「慎重に扱うよう」求められていたという指摘もあります。この種の情報がロシアを通じて、シリアやイラン、さらにはISに漏れると情報部員の生命が危うくなって情報網の崩壊につながりかねないことが案じられています。なによりも長年にわたって築いてきた同盟国の信頼関係が失われ、安全保障の根幹に穴が開きます。

トランプ・ロシアンゲートは、大統領選挙の頃から疑惑が幾つも重なっています。特に機密漏洩騒ぎの前日、連邦捜査局(FBI)のコミー長官を一方的に解任しました。コミ―前長官は、大統領選挙の折にトランプ陣営とロシア要人との疑わしい接触疑惑、ロシアによるクリントン候補への選挙妨害行為の存否などについて捜査を指揮する最高責任者でした。

しかも、トランプ大統領自ら、執務室でコミ―長官にロシアの大統領選挙への介入疑惑の捜査を中止するよう求めたり、自分が捜査の対象になっているかどうか尋ねたりしたことがFBIのメモに残っていると報道されています。

議会からは、野党の民主党と与党の共和党を問わず、「一つの疑惑が解明されないうちに次の疑惑が指摘される」「コミ―長官の解任はロシア疑惑封じだ」「アメリカ国民の安全とアメリカのために情報収集している人々を危険に晒す」など大統領の資質を疑い、弾劾・辞任を求める声が公然と出て来ています。第2のウオーターゲイト事件になりかねません。

不動産業ただ一筋に巨万の富を築いてきたしたたかなビジネス手法の経験があるだけで、政治家ないしは組織、機構をコントロールする官僚、軍幹部の体験皆無の大統領ですから、もともと懸念されていた資質の欠陥が噴出してきただけのことかもしれません。しかし、それにしてはアメリカ大統領の強大な権限と影響力の大きさは計り知れません。しっかりしてもらわないと世界中が困ります。

そもそもトランプなる人材を大統領に選んだ政治的責任が問われかねない情況を、アメリカ国民はなんと受け止めているのか聞かせていただきたい。赤ちゃんに「ドナルド」という名前を付ける親がめっきり減ったなんていうニュースで誤魔化されたくありません。(元内閣官房副長官)



2017年04月11日

◆深読み = 電光石火のシリア・ミサイル攻撃

〜軍事戦略はトランプの手を離れた?〜

浅野勝人(安保政策研究会理事長)



アメリカの外交政策を陰で牛耳っているのは、国務省、国防省、各情報機関の首脳級経験者に極く一部の新旧国会議員を加えた数十人からなるエスタブリッシュメントとみられています。共和党主流派が中心ですが、民主党にまたがって構成されており、ソ連の怖さを知り尽くしている「反ロ路線」が共通項です。もちろん、今でも主要官庁に手足となる有能な現役を多数持っています。


大統領選挙では、反ロ強硬派のヒラリー劣勢が伝えられた折からトランプに対する警戒感を強め、とりわけトランプ側近のロシア接近情報に神経を尖らせていました。


イスラエル紙「イェディオト・アハロノト」は、テルアビブで開かれたアメリカとイスラエルの諜報機関の秘密会議の席上、(2017/1月)アメリカ側が「トランプ大統領がロシアとの不適切な関係を結ばないことが立証されるまで」という条件付きではありますが、「イスラエルの入手した機密情報をホワイトハウスと国家安全保障会議(NSC)に提供するのは中止してほしいと要請した」と報じました。

イスラエル側も「対ロシア政策の変更に伴う、ロシアやイランへの機密情報の漏洩」に懸念を示し、双方からトランプ大統領のホワイトハウスに対して異例ともいえる不信感が表明された模様とのことです。(月刊誌・選択)

まもなく大統領側近の国家安全保障問題担当マイケル・フリン大統領補佐官がロシア要人から金品を受け取った廉(かど)で更迭されました。後任には共和党主流派の信任の厚い、ハーバート・マクマスター陸軍中将が送り込まれました。


湾岸戦争の英雄、マクマスターはトランプとは一面識もない軍首脳の切れ者で、なんでも大統領執務室の隣室にオフィスが用意されたと伝えられています。まるでエスタブリッシュメントから送り込まれた外交・安保政策に関するトランプの監視役みたいです。


さらに4月5日、トランプ最側近のスティーブ・バノン首席戦略官兼上級顧問が外交・安保・軍事政策の最高決定機関、国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外されました。


トランプは、1月、バノンをNSCの常任メンバーに加えた際、オバマ時代にはメンバーだった統合参謀本部議長(ジョセフ・ダンフォード前海兵隊総司令官)、国家情報長官を除外しましたが、右腕のバノン外しと入れ代わりにダンフォード議長とコーツ長官は復帰しました。


どうやら軍官僚の経験がなく、軍事戦略知識に乏しいトランプ大統領は、この流れに乗らざるを得なかったものとみられます。


この状況から判断すると、アメリカの安保・軍事政策は、軍最高の実力者だったマティス国防長官とマクマスター大統領補佐官を軸とする戦闘実戦を体験してきた軍首脳陣が仕切る体制になったものとみて間違いないでしょう。


従って、シリア政府軍の化学兵器空爆に対するシャイラット空軍基地へのミサイル攻撃の手際のいい、且つ、自制の効いた決断(4/4日、化学兵器空爆。6日、ミサイル報復攻撃)はプロの判断と推測されます。

☆禁じ手の化学兵器を使って、サリンを撒き散らしたアザト政権に巡航ミサイルを60発叩き込んでも、同盟国の支持は得られる。むしろ評価される。

☆ロシアとイランに対する絶妙な警告の機会になる。
☆北朝鮮への牽制と厳格な北朝鮮対策を中国に促す効果がある。


おそらくトランプは、プロの判断を即刻承認し、攻撃の時期について、習近平との米中首脳会談の最中にぶっ放す政治ショーを提案して、大統領主導による攻撃決定を演出したデモンストレーションだったはずです。


余談ですが、私は、2006年6月、外務副大臣の折、第一次安倍内閣の方針に従ってダマスカスを訪れ、アサド大統領と70分間会談した経験があります。


シリアの政権は、イランと同じシーア派の仲間のアラウィ派です。アサド大統領はイランと手を組んで中東における反米・親ロの強固な基盤を築いてきました。日本からゴミ収集車を60台無償援助する機会にアサドと会って、パイプ作りのきっかけにするのが目的でした。


バッシャール・アサドは、ロンドンで眼科医をしていましたが、後継者のお兄さんが交通事故でなくなったため、呼び戻されて大統領になった人です。話しながら絶えず笑みがもれ、反米一辺倒の路線修正に触れても聞き耳を立ててくれました。眼科医らしい温和な人柄に好感が持てました。


今日、TVインタビューで視たアサド大統領の顔つきは、目が吊り上がって、サリンを無差別爆撃に使った醜悪な人相に映り、私には別人のように見えました。アサド家2代、半世紀に及ぶ独裁支配のための強権体制の維持が人相を変えてしまったのでしょうか。


シリア・ミサイル攻撃に関連して、日本にとって重要な事柄はアメリカの北朝鮮に対するビヘイビアです。
私は、アメリカは北朝鮮には軽々な軍事行動はしない。むしろ極めて慎重に対応するとみています。


シロウト大統領と異なり、プロは戦闘の怖さと損傷の実態を熟知していますから、北朝鮮の中距離ミサイルを1基残らず瞬時に破壊できる情報管理と実戦体制が整わない限り、韓国、日本の安全確保が危ういことを承知しているからです。


その意味では、マティス〜ダンフォード〜マクマスター軍首脳ラインの見解で決まるSECは、総合的勝算を優先して無謀な行動は避け、安定的に機能すると私は安心感を持っています。


ただ「北」は、何をするかわからない無法者の坊ちゃんが相手です。
「シリアは核を持っていないからやられた。我々はシリアとは違う。さらに核攻撃能力を磨いて、アメリカを返り討ちにする」と談話を発表しています。


北朝鮮の狂気が収まるまでの期限付きで、造らず、持たずの非核2原則への転換が必要かもしれません。緊急事態の核の持ち込みに厳格に限定すれば、「日本の核武装警戒論」が根底に存在するアメリカ・エスタブリッシュメンの虎の尾を踏むことにはならないでしょう。        (元内閣官房副長官)



2017年04月04日

◆家系の血は争えぬ! 青森県に初の女性首長が誕生

浅野勝人(安保政策研究会理事長)



青森県の外ヶ浜町といっても見当がつかないでしょう。
石川さゆりのヒット曲「津軽海峡冬景色」に「ごらんあれが竜飛岬(たっぴみさき)北のはずれと、見知らぬ人が指をさす」と唄われた竜飛岬のある町といえばおおよそ土地勘とイメージが浮かぶでしょう。

人口6,600人、3,000世帯余りの半農半漁の町に県内現職首長最年少の女性町長が誕生しました。女性首長は青森県では初めての“春の珍事”だそうです。

何が起こったかといいますと、3月26日(2017年)投票、27日開票の東津軽郡外ヶ浜町長選挙で、35才、会社員、無所属新人の山崎結子(ゆいこ)候補が、4選をめざした79才の現職町長との一騎打ちに大差で勝利しました。
有権者  5,855人
投票率  78.91%
山崎結子 2891票
現職町長 1,700票
人口の90%近くが有権者の若者不在の町で1,100票の差ですから、
多くの年寄りが35才を支持した結果です。

山崎結子を支持したパート女性(70)が「このままではいけないという町民の危機感が票にあらわれた」と述べたと河北新報は伝えています。

選挙戦は、町議会議員11人のうち7人が現職町長支援議員団を結成し、建設業者の団体、町職員組合などを結集させた組織戦 vs 個人戦の争いでした。もっともシロウト集団の山崎選対に、町政刷新に共鳴した町長派の中心的存在だった地元選出県議会議員、自民党青森県連幹事長が加わり、選挙責任者となりました。

現職町長の側には、長男の県議会議員、自民党青森県連総務会長が陣取っていますから、保守分裂選挙の様相となりました。どこの地方にもしばしば見られる光景です。

町政の継続か、刷新かの争いは、山崎候補の「しがらみのない町民ファースト」の訴えが、ベテランによる長期政権を嫌った有権者に入れられて組織選挙体制を寄せ付けませんでした。

新町長は「覚悟と重責を感じ、身が引き締まる思い」と述べていますが、選挙中の公約、例えば、町の基幹産業である水産業の立て直し。養殖ホタテの貝殻の処分などに具体的な解決策を提示する責任を負っています。

実は、山崎結子は前参議院議員、元総務副大臣、山崎力の次女です。新町長の父親、山崎力は安保政策研究会の理事で、わたしたちの仲間でもあります。

私がNHK政治部記者の頃から懇意だったのは祖父に当たる山崎竜男参議院議員でした。環境庁長官(大臣)になったのですが、国会議員を振り切って青森県知事選挙に出馬し、落選して政治生命を失いました。

当時、私は電事連(電気事業連合会)を敵に回して勝ち目の薄い選挙に出るのを思い止まるよう懸命に説得したのですが、原子力発電の推進と核燃料サイクルの確立をめざす電事連が県政に癒着するのを許容できず、無所属で出馬して討ち死にしました。

知事選挙にこだわったのは、青森県知事だった父親の山崎岩男への強い思いがあったからでした。山崎岩男は、新町長の結子さんの曽(そう)祖父(そふ)(広辞苑:ひいじじ)に当たりますが、知事2期目の途中、志し半ばにして退陣のやむなきにいたった無念を晴らしたかったのではないかと察せられます。

教員あがりの曽祖父・山崎岩男は、34才で県議選に出て惜敗します。戦前のこととはいえ、リヤカーを選挙カーに仕立てて戦ったそうですが、お金がなくて法定はがきを有権者に配れなかったのが敗因でした。

2度目の挑戦で県議となり、戦後初の第1回衆議院議員選挙(1946/4月)に駒を進めて当選。5期連続当選しましたが6期目に落選。知事選挙の公認が得られず、県内8人の国会議員を敵に回して無所属で立候補。見事に当選して戦後2人目の青森県知事となりました。

医師だった祖父・山崎竜男は、参議院青森地方区に2度落選したものの諦めず、3度目の挑戦で当選し、末は大臣になりましたが、無謀な知事選挙に敗れて引退しました。

読売新聞の父・山崎力は、参議院青森地方区で2勝2敗。去年夏の選挙に惜敗しました。一族の負け数の多さは清廉ゆえですが、私の4勝3敗と似ています。

山崎力が落選して、もう選挙とは縁が切れたと思っていた矢先に4代目の登場です。

山崎力から「次女が竜飛岬から町長選挙に出る。準備の最中」と連絡をいただき、選挙に憑(つ)かれた山崎一家の伝統を継ぐ人材の存在を知ってビックリしました。

「家族に選挙やるような子がいるなんて知らなかった。何をしていた娘さん、お幾つ?」
「青森の水産会社の社員で、35才です」
「町長選挙の相手はどんな人」
「4選を目指す79才の現職町長。最初に選挙しただけであとは無競争。結子は、無風選挙はここで断つと決意して出馬を決めました」
「オヤジよりしっかりしている。そりゃ、お嬢が勝つ。山崎家伝統のクリーンな選挙手法を守れば、間違いなく圧勝する」

その通りになりました。
血は争えないとはよく言ったものです。脱帽!
(元内閣官房副長官)

2017年02月13日

◆拍子抜け!無難・無風の日米共同声明

浅野 勝人  (社)安保政策研究会  理事長




年初、今年の特徴は、大方の予想が外れる一年だという触れ込みでした。安倍晋三とドナルド・トランプとの丁々発止のやり取りの結果、“鬼が出るか、蛇が出るか” 
世界がかたづを呑んで見守る中での日米首脳会談でした。

期待と不安を抱いて注視していた日米共同声明は、当たり前の事柄が当たり前のまま羅列されています。歴代の日米共同声明でこれほどインパクトに欠ける無難なコミュニケは前代未聞でしょう。
激変を予想した大方の「予測が外れる」という今年の特徴に沿った政治劇の第1幕でした。予測が外れて安堵しました。

当面、日米両国を縛るのは、共同声明です。ポイントは安保と経済。
☆日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認した。尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する。

これって当たり前のこと。
そもそも57年前に締結された日米安保条約には、前文で「日米両国が極東における国際の平和と安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結する」と記されています。

当時、「極東」とはどこを指すのか「極東の範囲」をめぐって国会はもめにもめた挙句「大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の区域であって、韓国及び台湾地域も含まれる」という統一見解に落ち着きました。従って、日本の施政権下の尖閣諸島が条約の適用範囲内に入るのは当然です。

ですから、今回の共同声明は、57年前に決めた内容を確認しただけのことです。アメリカが中国に配慮して「尖閣諸島が含まれない」といったら、日本にとっては驚天動地の大ニュースです。日米同盟の破棄を意味するからです。

今回の確認によって、領有権をめぐって日中が軍事衝突したら、条約の取り決めに従って、アメリカは日本に味方すると明言したことになります。もっとも、そんな事態が起きそうになったら、アメリカは米中関係の重要性を重くみて、必死になって紛争防止のため日本に圧力をかけ、同時に中国を止めにかかるに違いありません。ですから、日中米トライアングルの軍事および経済関係を推量すれば、私は尖閣諸島で軍事衝突が起きることはないと確信しています。

☆自由で公正な貿易のルールに基づいて、日米両国間および地域における経済関係を強化することに完全にコミットする。この目的のため、アメリカがTPPから離脱した点に留意し、日米間で2国間の枠組みに関して議論を行う。

トランプが気違いのように叫んでいた「アメリカ、第一」は世界の自由貿易ルールには通用しないことが認識されて、通商、貿易は従来通りに自由、公正に行うという当たり前のことが確認されました。

2/5のブログで、安保政策以外の重要課題は「事務レベル協議の開始に合意」に留めるべきだと指摘した通りとなって、ひと安心です。

従って、経済、財政、金融、為替、雇用の重要課題は、閣僚間の事務レベルで話し合うことになりますから、すべてのネゴは今後に委ねられました。

これからは、不当に押し込まれないよう妥当な結果をめざして、日米双方テクノクラートの腕の見せ所となります。少なくとも、大統領特権を嵩にきたトランプの常識外れの横やりは、ひとまず防ぐことに成功しました。その意味では、完全に日本側の作戦勝ちです。

トランプから多額なグリーン・フイの付け回しが来たら、事務レベル交渉で突っ返したらいい。
(元内閣官房副長官)







2017年02月06日

◆“前のめり”の印象は避けた方がいい!

浅野 勝人(安保政策研究会理事長)



ドナルド・トランプは、誤認の疑いのある権力を平然と行使している点で大領領の資質に欠ける。ないしは大統領の資格がないという指摘をあながち無礼な言いがかりとは反論しにくい。

トーマス・ジェファーソンがアメリカ第3代大統領に就任する3年前の1798年に「権力者が、権力を嵩に悪さをしないよう憲法という鎖で縛るのがよい」と言っています。トランプにとっては馬耳東風(李白)だとしたら、多くの人の懸念を一層深めます。 

言いたい放題ののしるだけだった選挙キャンペンーンの品位に欠ける言動から、劇的な変身を見せるにちがいないと思った大統領就任演説は、期待に反して選挙演説の焼き直しで唖然としました。
理想主義を掲げて格調の高い演説が上手だった上品なバラク・オバマが、ノーベル平和賞にふさわしい大統領だったと引き立てられました。

アメリカ・エール大学教授の歴史家、ポール・ケネディが指摘するトランプの反知性主義には決定的な要因がふたつあります。

ひとつは、専門家としての官僚の存在、テクノクラートを軽視あるいは無視している点です。何事も自分が決めて、それを押し通すのが政治主導だと勘違いしています。

総選挙に大勝した民主党が、「政策を決めるのは我々政治家だ。官僚は決られたことに従っておればいい」というのが政治主導と思い込んで、政権の運営にしくじった記憶は新しい。まるでそっくりです。

政治主導とは、政治が誤りなき国家の道標を示し、政策の決定過程に携わる高級官僚の専門的知見と能力を引き出して、より優れた政策を構成する手段だと私どもは思っていました。

ポール・ケネディ教授の「公約を政策として具体化するには、専門家の叡智が必要だ。無知から来るトランプの自信過剰は、早晩つまずくだろう」(情報誌「選択」)という指摘にトランプが早く気付き、いち早く変身して歴史家の予見が外れることを期待しています。

もうひとつは、異様なマスコミ対応です。

自分を批判するメディアは、全てウソを報道して自分を陥れる“獅子身中の虫”と決めつけて、一流メディアの記者に質問さえさせないのは異常です。

メディアから指摘されている所得税の脱税問題。モスクワでの女性スキャンダル。その他の疑惑を強引に封じ込めるための威圧かと勘繰りたくなってしまいます。

ジャーナリズムは、中立公正を求めて、不偏不党を掲げ、時の権力と是々非々で対峙するのが務めです。それが存在意義です。

批判は一切許さず、下品なギャグで批判に対抗するトランプ式マスコミ操縦が続くと、「ポスト・トゥルース」が現実となって、ホントとウソの区分けがつきにくくなります。そこから発生するアメリカ国家の二極化をさらに深める深刻な姿は世界の不安を助長します。

私のように1/4世紀、取材・報道する側。1/4世紀、取材・報道される側を体験しますと、誤報すれすれの記事で痛めつけられると、わが身の越し方が思い返されてホトホトまいったものでした。

最高レベルにある大統領にとって、マスコミほど癇に障るものはないだろうと同情しますが、それほど厄介な存在だからこそ何よりも重要だと気付くべきです。そもそも、国民との間を繋ぐ唯一のパイプです。いつまでもツイッターに頼って行政を進めていては、早晩、行き詰ります。

安倍首相は、現在の世界の中で優れて長期安定政権の主(あるじ)です。もっとも経験豊かな政治指導者のひとりです。その上、フットワークの軽さは目を見張るものがあります。性善説の安倍晋三さんが、「私が真剣に話せばわかってくれるはずだ」と思い込むのはもっともです。

首脳外交にとって、トップ同士の親密さの度合いは極めて重要な要素です。ですから、会う回数は多いほどいい。そうはいっても、KGB長官あがりや生き馬の目を抜くやり手の不動産王は、容易ならぬ相手と分析した方が無難です。

トランプの出方を見極めたいと、世界がかたずをのんで安倍・トランプ首脳会談を見守っています。重要な政治課題の扱いについては、利害の対立を意に介せず、突っ込んだ話し合いをして、「事務レベルの協議開始に合意」に留めて、日米両国のため、世界経済のために範となる会談をしてほしいと期待します。

だから、一緒にゴルフは早過ぎる。世界中が疑心暗鬼で見守る人とのゴルフ”は「日本はポチ第1号」と誤解され易い。当分、前のめりと映る印象は避けた方がいい。(元内閣官房副長官)






2017年01月20日

◆アメリカを二分する大統領就任式!

 
浅野 勝人(安保政策研究会理事長)



アメリカの大統領就任式は、世界の人々が祝福します。
そして、明日への期待を込めて見守っています。

それがどうしたことでしょう。
大統領の就任を祝福して、各種の世論調査にご祝儀相場の高い支持率が表れる時なのに、トランプの支持率は40%。同じ時期のオバマ(85%)の半分以下です。

60人の民主党議員が式典をボイコットするそうですし、招かれた民間人の欠席者も少なくないらしい。
トランプを正当な大統領と認めていない人たちが、就任式に合わせて全米各地で反対・批判デモをするという報道ですが、ウソでもなさそうな雰囲気です。

国論を二分するような姿を見たくありませんが、まもなく始まる就任祝賀パレードが、反対デモの妨害を受けるような事態になったら前代未聞の醜態です。

選挙戦での悪態は、どっちもどっちですし、勝つためのパフォ―マンスと大目にみてくれます。
ところが、トランプの場合、新大統領の立場になってからも、自分を批判するメデイアに対しては「うそつき。ごろつき」呼ばりで、聞く耳持たないどころか、質問をさせない傍若無人ぶりです。公式の記者会見でのことです。

今のうちは、それでも通りますが、ホワイト・ハウスの定例記者会見をボイコットされたら、国民とのパイプが途切れてしまいますから大統領職にとどまることが出来るでしょうか。第二の「ウオーターゲート事件」がそこまで来ているように私には見えます。

アメリカ、エール大学教授の歴史家、ポール・ケネディは、
「トランプは、反知性主義であるのみか、専門家全般を軽んじている。無知から来る自信過剰は、早晩つまずくだろう。公約を政策として具体化するには専門家の叡智が必要だ。公約が実現できなければ、有権者は失望して離れる。
反知性主義は世界的現象で、西欧やロシアにも顕著にみられる。人類史には進歩と反動の波がある。今は反動期で、やがて揺れ戻しは来る」
と述べています。

今回の大統領選挙の特徴は、極く大雑把(おおざっぱ)に言って、中産階級から転落したプアーホアイト(白人貧困層)を中心とする「白人」はドナルド・トランプ。「有色人種」がヒラリー・クリントンでした。
カリフォルニア大学のアリー・ホーチチャイルド名誉教授は、
「彼ら、白人貧困層は大統領になったトランプにいずれ裏切られてがっかりする。そしてトランプは責任を誰かになすりつけようとするはずだ」と述べて、トランプ政権に行方を暗示しています。

1980年代後半、中国は世界経済の5%を占めるだけでした。今は20%に迫っています。一方、アメリカは30%から20%に低下しています。アメリカの地位は以前ほど強力ではありませんが、そうはいっても、アメリカがくしゃみをすると日本を含めて風邪をひく国がまだまだ少なくありません。

各国の利害が過去のいつの時代よりもいっそう複雑に絡み合っている現在、アメリカが一方的に世界から撤退することはたやすいことではありません。アメリカの利益を決定的に失うからです。

アメリカ大統領の影響力は、依然、計り知れないパンチ力があります。トランプが「アメリカ第一主義」と叫んで、アメリカを自己中心のモンロー主義国家に変身させようとしても、アメリカが生きていくためにできない相談です。

兎にも角にも就任式をめぐる一連の行事が、おだやか且つ華麗に行われることを祈り、トランプのツイッターのつぶやきに過剰反応しないで、しばらくお手並み拝見とまいりましょう。
(元内閣官房福長官)



2017年01月07日

◆謹賀新年 2017年新春 年頭雑感!

 浅野 勝人(安保政策研究会理事長)


「世の中の変化は本当に面白い。
 予想は外れるというのが鉄則です。
 中国の研究を続けて参りたい」
これは、ある経済人の年賀状の手書き部分です。おそらく、ご自分への戒めと同時にわたし宛のメッセイージです。有り難く肝に銘じます。

「人の世は、引き際大事と知りつつも、恩を返しつ、自我流通す」
80才近い地方議員OBの年賀状には「今年も生涯現役です」と書き添えてあります。

かつては世の中の諸々に見当がついたけれども、近頃はさっぱり予測できないご時世なので、「自我流」がベストと教えています。
 

今年の年賀状に同じ趣旨の指摘が多かったのは、去年、多くの人が似た思いをしたからだと思われます。
@ にイギリスのEU離脱。 Aに無名候補が本命を破ったアメリカ大統領選挙。Bに独壇場の「小池百合子劇場」といったところでしょうか。

11月9日(2016年)、参議院前議員の勉強会が、偶然、アメリカ大統領選挙の開票日に行われました。この日のテーマが「イギリスのEU離脱に伴う諸問題」、講師が外務省欧州局のベテランだったので、めずらしく出席しました。

質疑の冒頭、スマホで選挙の中間結果を確認して「現在、トランプが20人(獲得した選挙人)の余、リードしている。まだ開票率が60%を超えたばかりなので、このままトランプが勝つとは考えにくいが、今のところ凄いことになっている。まあ、最後はクリントンが逆転するでしょう」と発言してから、EUに関する質問をしました。

会合が終わった頃には、ドナルド・トランプの勝利が確定していました。帰り際にみんなから「早々とトランプが勝つと教えていただいて有難う」と声をかけられました。「浅野さんも常識的な人なんだ」と言い残して帰った方がお一人いました。高齢者が多く、聴力が衰えているので「最後はクリントンが逆転」の部分が聴こえなかった方が多かった? 聴き取れた人はひとりだけだった? それとも武士の情けで、みなさん「読み違え」をフォローして下さったのでしょうか。

 一般的に常識的と思われる予想が覆る理由は、既存の権威(利得者)に対する有権者の反乱によります。オバマも“Change”でした。トランプも“Change”です。小池百合子も同じです。従って、多くの人々の思いは漠然とした改革への期待ですが、マグマがたまっていますから機会を得て強烈に破裂します。生活に根付いた不満ですからちょっとやそっとの説得では変わりません。ですから、なにをどう変えるのか、改革の指針、道しるべを具体的に示した政治勢力が、今年は予想をはるかに超えて伸びます。

小池都政は、具体的な改革と取り組み、成功例も失敗例も結果をオープンにしていて、今の需要にほぼ的確に応えていますから、当面、東京都議会議員選挙にその傾向が現れます。

近年、予測困難を理由に「平和と繁栄の軸」がぐらぐらぶれる懸念を強めています。世論が政治に対して真っ当な批判力と正当な評価力を維持することが何よりの防波堤です。

安倍総理が真珠湾を訪れ、自ら平和の尊さを示し、世界に高く評価されました。

総理に同行した稲田防衛大臣が、翌日、戦争責任者を祀った靖国神社に公式参拝しました。

☆防衛大臣は、国に殉じた英霊を参拝するのは当然の責務と述べて、真珠湾訪問の延長線上の政治行動と位置づけています。

☆世界平和の要として、日米不戦、同盟強化の誓いをする一方で、中国侵略戦争を決断、決定し、アジア・太平洋戦争を推進した戦争責任者を尊ぶのは平和外交の決定的矛盾という指摘もあります。

あなたはどちらを是としますか。
こんな重大な政治行動について、物言わぬ世論は健全といえるでしょうか。

今年は、政治を超えて世論の動向が過去のどの時代よりも強烈に表明される年のような気がします。
(元内閣官房副長官)


2016年12月19日

◆「他人のものも手に入れたら自分のもの。

〜手放すのは罪悪だ」

☆再確認 ― したたかな厚い壁!

浅野 勝人
   (社)安保政策研究会理事長 


安倍晋三は、他人をたぶらかすのは人道に反すると根っから思っている正直な日本人のひとり。柔道の用語を駆使して「いたみわけ」(引き分け)の振りをして背負い投げをくらわす元スパイ組織(KGB)長官・プーチンには歯が立ちません。

それにしても16回にわたって、「お金を出せば(経済協力)領土問題を解決する糸口を見つけてあげてもいい」と巧みに思わせて、最後に安倍のふるさとで「合わせ技一本」とは、私の懸念していた通りの結果になって腹立たしい。

そもそも首脳会談に4時間も遅れて来るとは、ある種の心理的謀略としか思えません。遅れた理由はモスクワを出発する間際に発生した重要問題の処理に手間取ったためと言い繕(つくろ)ったそうです。だとしたら、平和条約締結交渉を行う日ロ首脳会談は、ずいぶん軽い会合と見くびられたものです。結果から逆算すると、話し合うのは経済協力の具体案だけで、解決済みの領土問題を協議するつもりはないという意思表示だったのかもしれません。

ある勉強会の席で、偶然、アメリカ大統領選挙の開票日でしたが、日ロ首脳会談の結果の予測について、下限は、合意文書にことばをちりばめるだけで中身はゼロ。上限は、4島の日本側主権を認めた上で現状維持、継続協議。但し自衛隊派遣無し。日米安保条約は適用せず。と発言しました。講師の外務省欧州局幹部は、「交渉が微妙な折だけに私見を述べるのは避けたい」と予想通りの答えでした。

結果は、下限に限りなく近かったと受け止めざるを得ません。声明に「領土問題」という言葉さえないのですから贔屓目にみても評価の仕様がなくて困惑します。

日本人が北方4島へ自由に行って、ロシア人と一緒に仕事をすることは、領土問題の解決につながる重要な成果という指摘に異存はありません。問題は、その場合の領土と日本人の身分の扱いです。それについて、安倍は「特別な制度」を設ける交渉を開始することで合意したと述べています。一方、声明つまりプーチンは「安倍首相のイニシアティブでクリル諸島(北方領土:ロシア側の呼び名)での共同経済活動開始について協議することで合意した」と述べて、「安倍首相のイニシアティブ」と歯の浮くようなお世辞を言ってはいますが、「特別な制度」については気(け)も匂わせていません。

これでは、歯舞、色丹の2島返還でさえたやすいことではないと改めて思い知らされました。

伝統的にしたたかなお国柄の外交姿勢に微塵の変化もありませんでした。気さくに何回でも会ってくれて、ファーストネームで呼び合えるように親しくなったウラジミールはこれまでの歴代大統領とは「違う」と思い込まされた安倍は、外交交渉の厳しさを勉強させてもらったと受け止めるのが適切です。

但し、何も案じることはない。現時点で新たに失ったものは何もありません。これから始まる実務交渉と経済活動で主権を守る努力をすればいい。

やはり“安保”が問題解決を妨げる最大の課題と再確認出来ました。

ロシアはウラジオストックに海軍基地を置いて、核弾道ミサイルを搭載した原子力潜水艦を配備し、極東をロシア太平洋艦隊の基地として、アメリカと対峙する安保戦略最重要拠点としています。プーチンは、そのことに言及した上で日米安保条約に触れて「ロシア側の全ての懸念を考えてほしい」と日米安保の極東への実効効力をけん制しました。

一方で、北方4島へのミサイル配備、設置を進めているのですから相当の図々しさです。日本固有の領土にロシアのミサイルが備え付けられているのに打つ手がないのが現状です。

戦さに敗れて失った沖縄は、本土並み・無償でアメリカが返還してくれました。相手がアメリカで佐藤栄作は運が良かった。
 日米安保条約が仮想敵国とみなしていた中国との国交正常化交渉は、深刻な中ソ対立が背景にあった時代とはいえ、条約の存続を問題視せず、戦争の賠償もチャラにしてくれてまとまりました。相手が中国で、田中角栄と大平正芳は運がよかった。

ロシアが相手の安倍は割りを食いましたが、多くの国民は安倍よりもロシアにがっかりしたことでしょう。

はっきりしたことがひとつ ―  これで総選挙は遠のいた。
(元内閣官房副長官)





2016年11月22日

◆キッシンジャーは「過去の人」か!

浅野 勝人(安保政策研究会理事長)



19日、今朝のニュース解説で、杉浦正章が「ヘンリー・キッシンジャーのトランプへの影響」に言及し、オバマのように日本の対中国包囲網外交にトランプも理解を示すはずだと思い込まない方がいい。そして、トランプ時代に対応する外交路線はもっと柔軟、幅広(はばびろ)な展開を考えるべきだと強調しました。

キッシンジャーンを、もう90才を超えた「過去の人」と無視しない方がいいと指摘したベテラン外交記者の鋭い示唆に私も引き込まれました。
 

ドクター・キッシンジャーは、過去半世紀、米中関係に表裏両面で関わり続けてきました。「1971年のドラマ」(米中正常化を極秘に実現した忍者外交)以来、毎年中国訪問を欠かさず、その数は50回を超えています。


72年2月の米中共同コミュ二ケにこぎつけたキッシンジャーの相手役だった、毛沢東、周恩来は他界して久しく、頻繁に会い、自宅に招かれてしばしば談笑したケ小平も鬼籍の人となりました。その後も、江沢民、胡錦濤ら歴代の指導者は、キッシンジャーの対中国政策、例えばケ小平が弾圧した天安門流血事件(1989年6月)による米中間の危機的状況を打開して、悪化した関係を一挙に改善した手並みや情愛に満ちた中国観を十分学習して知っています。だから、習近平まで訪米するとキッシンジャーを訪ねて、教えを乞うています。

「キッシンジャー回想録 中国」に、周恩来について、「およそ60年間にわたる公人としての生活の中で、私は周恩来よりも人の心をつかんで離さない人物に会ったことはない。彼は小柄で気品があり、聡明な目をした印象的な顔立ちで、相対する人物の心の中の見えない部分をも直感する、けた外れの知性と能力によって他を圧倒した」という人物評があります。度重なる会談を通じて、大平正芳が周恩来を信頼し、尊敬していたのは道理です。

71年7月と10月に行われたキッシンジャーと周恩来の極秘会談は、前後14回、40時間に及んでいます。最終会談は、早朝、5:30 〜 8:10とありますから、帰国ギリギリまで両者の緊迫した詰めの協議の模様がしのばれます。

「周恩来・キッシンジャー機密会談録」によると、1回目、初回の会談、16:35から晩飯を挟んで23:20まで7時間行われた中で、ベトナム情勢、台湾問題に次いで、日本に触れて、「実際、在日米軍はパラドックスを作り出しています。なぜならば、我々と日本との防衛関係が日本に侵略的な政策を追求させなくしているからです。

もし、日本が自分の軍事機構を作れば ー 彼が我々から見捨てられたと感じればそうするでしょうが ― 。そしてもし核兵器を作れば ー たやすくできるでしょうが ー 、あなた(周恩来)が表明した心配が本当に現実のものになるでしょう。 
 
ですから、総理、日本に関しては、貴国の利益と我々の利益とはとても似通っています。我々は日本をあなた方に向けて使っているのではありません。それは私たち双方にとってあまりにも危険なことです」

 これは中ソ対立が一触即発の情況にあった40年余り前の旧い時代の国際認識です。今から観ると時代認識のずれた見解で、現在の国際情勢にとっては見当はずれの指摘と切り捨てて構わない時代背景のことばです。

ところが、トランプという右翼の怪物を演出して人気を煽る、計算できない世界リーダーが登場した新しい国際情勢の中で、キッシンジャーの指摘は、私にはむしろ生き生きとみずみずしくさえ映ります。日本は、米中とは異なるプーチン・カードを握りながら、この路線を拡大強化するのが安全弁と確信します。


キッシンジャーの門を叩いたトランプは、ただ者ではありません。
(元内閣官房副長官)