2017年03月29日

◆苦慮するトランプ政権

加瀬 英明



北朝鮮の脅威にどう対抗? 苦慮するトランプ政権

北朝鮮が4発の弾道ミサイル弾を、日本海側の東倉生から発射して、3発
が日本の経済水域に着弾した。

北朝鮮が弾道ミサイルの試射を行ったのは、2月10日に日米首脳がフロリ
ダで、会議を終えた直後以来だった。その時に、トランプ大統領は「北朝
鮮の脅威への対処に、きわめて(ベリー・)高い優先順位を与えねばならな
い(ベリー・ハイ・プライオリテイ)」と、述べた。

北朝鮮は今回のミサイル発射後に、「在日米軍を標的とした訓練」だった
と、発表している。北朝鮮が同時に多数のミサイルを日本へ向けて発射し
た場合に、日本に迎撃して撃破する能力がない。

トランプ政権にとって北朝鮮の脅威に対応することが、政権の信頼性がか
かる噄緊の課題となっている。

トランプ政権は北朝鮮の核施設を破壊する、外科的な軍事攻撃も辞さない
という姿勢をとって、政権発足直後に日本の岩国にF35新鋭ステルス戦闘
爆撃機を配備したが、どうするべきか苦慮している。

トランプ政権はクリントン政権からオバマ政権にいたるまで、北朝鮮の核
兵器開発を事実上放置してきたツケを、払わねばならない。

どうするか? といって、北朝鮮の核施設を除去するために、限定的な攻
撃を加えることはできまい。北朝鮮はソウルのすぐ北の軍事境界線に沿っ
て砲列を敷いており、停戦までにソウルを火の海にすることができる。数
十万人のソウル市民が死傷することがあれば、韓国はアメリカが戦争を挑
発したといって、アメリカを恨もう。

それに、トランプ政権は北朝鮮よりも、オバマ政権が深入りして、シリ
ア、リビア、イエメン、ソマリアなど中東アフリカ諸国にアメリカ軍が介
入してきたのを、引き揚げることを優先しているが、6ヶ月以上はかかろ
う。北朝鮮に限定的な攻撃を加えるとしても、朝鮮半島において全面戦争
に発展する可能性を、想定しなければならない。現状では、アジアに十分
な軍事力を割くことができない。

だが、北朝鮮の金正恩委員長の危険な火遊びを、放置しておくことはでき
ない。いくら北朝鮮の「暴挙」を非難して、経済制裁を強化しても、北朝
鮮は核兵器なしに体制を守ることができないと確信しているから、核を捨
てることはありえない。それに、中国が経済制裁の大きな抜け穴となって
いる。

トランプ大統領は、6ヶ国協議や、オバマ政権が北朝鮮を「核保有国家」
として認めないという愚かしい政策などに、まったく束縛される必要がない。

そのようなしがらみがないから、北朝鮮の核弾頭や、ミサイルや、化学兵
器について、北朝鮮と交渉することができる。トランプ大統領自身、選挙
戦中に「金正恩委員長と会談してもよい」と、発言していた。

私はアメリカが北朝鮮を核保有国として認め、核弾頭の数とミサイルの射
程について制限を受け入れることと引き替えに、米朝平和条約を結ぶこと
を、主張してきた。金体制の至上の目的が、金体制の存続を保障すること
だから、喜んで交渉に応じよう。

日本も北朝鮮と並行して交渉し、弾頭数と射程距離について合意すれば、
日朝国交正常化を行い、1964年の日韓条約と見合った経済協力を、提供する。

そうすれば、拉致被害者が全員帰国し、朝鮮半島に平和秩序が確立される
こととなろう。


2017年03月24日

◆トランプ政権の行方を読む

加瀬 英明
 


日本の最大の資源は「人」。なすべきことを着実に進めよ

冷静な目で見るべきで言動に右往左往する必要なし

トランプ大統領の一挙手一投足に世界中が翻弄されていますが、それほど
過敏になる必要はないと私は考えています。

そもそもオバマ前大統領の8年間は、少なくとも外交政策についてはひど
いものでした。中国には南シナ海での実効支配を許してしまい、中東も混
乱、ヨーロッパではウクライナもバルト3国(エストニア、ラトビア、リ
トアニア)も危険な状況になっています。

もし、ヒラリー大統領が誕生していたとすれば、オバマ政権の第3期のよ
うな政権になっていたでしょうから、それよりはずっと良かったと私は考
えています。

まだ読めない部分もありますが、トランプ政権の経済政策では、長期的に
は円安傾向が続くと考えられます。大幅な法人税の減税、そして向こう
10年間で1兆ドルの公共投資を行なうことを明言していますから、イン
フレ傾向が強まるでしょう。それを抑制しようとして金利が上昇し、その
結果、ドル高円安が進み、長期的に見ればアメリカの輸出産業は伸び悩む
可能性が高いと思われます。

トランプ大統領は、国内雇用を増やすために、国外に工場移転する企業に
対し重い国境税を課すと警告していますが、国内雇用、特に正社員が激減
したのは、工場移転ではなく、AI(人工知能)のせいです。例えば、コ
ンビニのATMがどれだけ多くの銀行員の職を奪ったことか。経営の合理
化を進めるなかで起きたことですから、そこへの対応を考えないと根本的
な解決にはなりません。

また、トランプ大統領は、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を明
言するなど輸入に高い関税をかける姿勢でいますが、そう簡単ではないと
思います。かつて私は、福田赳夫内閣(在任期間1976年‐78年)で首相特
別顧問という立場でカーター政権を相手に対米折衝を行ないました。

アメリカ製のテレビが日本製のテレビに食われたため、日本製のテレビだ
けに高い関税を課しましたが、その分のマーケットシェアは韓国と台湾に
奪われただけで、アメリカの国内状況は改善しなかったのです。つまり、
特定の国を狙い撃ちにした関税はうまくいかないのです。

アメリカの工業製品は、その部品の多くを輸入に頼っています。関税に
よって部品価格が高くなれば、結局はアメリカ国内で製造した製品も高く
なります。つまり、今の世界で保護主義がうまく機能するとは思えないの
です。

世界恐慌が起き、ヒトラーという化け物が誕生し、第2次世界大戦が勃発
した原因は、保護主義にありました。恐るべきことですが、今述べたよう
な理由から、戦前のような保護主義にはならないと思っています。

「グローバリズムの終わりの始まり」という人もいますが、輸入部品に頼
らざるを得ない今の世界では、それは大げさです。トランプ大統領にもメ
ンツがあるので今後、方針転換は難しいと思いますが、NAFTAにもて
こずるでしょうし、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱は結局損だと
いうこともいずれわかってくるでしょう。

ですから、過度に恐れる必要はないのです。私たちはあまりにもトランプ
政権の力を過大評価しているところがあります。冷静な目で見るべきで、
その言動に右往左往しないほうがいいでしょう。

学ぶことに謙虚で貪欲な日本人の遺伝子は今に通ず

日本は長い目で見ると、経済的には強いと思います。なぜなら、政治的に
も経済的にも社会的にも、世界で一番安定している国だからです。特に、
中小企業がこんなに強い国は、日本の他にありません。

日本の一番大きな資源は、「人」です。日本人のなかにある匠の心、和の
心です。世界でも珍しいほど人の心を思いやる民族です。ものづくりにお
いても、「人のことを思って作る」からこそ、いいものが作れるのです。

それは近現代に始まったことではありません。縄文土器のデザインなどは
どこにもないものですし、翡翠加工の技術をもっていたのは日本とインカ
帝国だけでした。ポルトガルから種子島に鉄砲が伝来して以来、全国の大
名が所持していた鉄砲の数は、ヨーロッパや中東の数倍にもなったと言わ
れていますが、それは、日本の鍛冶技術が極めて優れていたからです。

現在の日本の中小企業を見渡しても、世界のマーケットシェアの6、7割
を占めるような部品メーカーが数多くあります。これは日本人の中に営々
と受け継がれてきた和の心、そこから生まれた匠の心があるからです。

「日本化」とでも言うのでしょうか。日本という国は不思議な国で、海外
から取り入れたものに改善を加えて、良質で優れたものに変えてしまいま
す。それはものだけではなく、思想や文化でも言えることです。

例えば、儒教はもともと人民を統治するための統治思想で、普遍的な優れ
た価値を生み出すものではなかったのですが、日本に来ると優れた精神修
養哲学になりました。仏教もしかり。車に代表されるような工業製品も同
様です。ありとあらゆるものがそうです。

また、教育程度が高いことも日本の強みです。歴史的にみても、日本人は
学ぶことに対して謙虚であり貪欲でしたが、その遺伝子は現在にもつな
がっています。

こうした日本の素晴らしさを守っていけば、トランプ大統領がどう出よう
が、臆することはありません。冷静に長い目で見ながら、自分たちがなす
べきことを着実に進めればよいのです。


2017年03月23日

◆軍艦行進曲、瓦解、侠気

加瀬 英明

2月11日の建国記念の日に、鹿児島県霧島市が主催する祝賀市民大会に招
かれて、記念講演を行った。

毎年、建国記念の日に各地をまわってきたが、霧島市は天孫降臨の地であ
るから、身心ともに引き締まる思いがした。

前日から、粉雪が舞っていた。当日は、例年市内に駐屯する陸上自衛隊の
音楽隊が先頭に立って、市民が目抜き通りを日の丸の小旗を手に奉祝行進
するが、高齢者が転倒するおそれから中止されて、屋内で挙行された。

はじめに、音楽隊が明治以来の軍楽である『君が代行進曲』『抜刀隊』
『軍艦行進曲』を、つぎつぎと吹奏した。軍艦マーチとして親しまれてい
るが、日清戦争の前に鹿児島県出身の瀬戸口藤吉によって作曲された。

市内の国分駐屯地は、海軍航空隊基地だったが、大戦末期に沖縄の空へ向
けて特攻機が飛び立っていった。

音楽隊が演奏を終えるたびに、会場を埋める市民から、盛んな拍手が送ら
れた。

それなのに、NHKをはじめ大手テレビが自粛して、軍歌を放映すること
がない。いったいシンガポールから、ガダルカナル、ペリリュー、サイパ
ン、沖縄までの戦場において先人たちが戦ったことが、そんなに恥しいこ
となのだろうか。

私は中曽根内閣で首相の顧問として、対米折衝を手伝った。中曽根総理が
昭和58年に訪米した時に、レーガン政権が首相が大戦中に海軍将校であっ
たことを知って、ホワイトハウスで軍楽隊が晴々しく『軍艦行進曲』を演
奏して、歓迎した。外国政府が日本の軍歌を公けの場で演奏するのに、ど
うして日本ではできないのだろうか。

昨年は、夏目漱石の没後100年に当たった。漱石は明治39年に『坊っ
ちゃん』を発表しているが、幼い漱石を溺愛した女中が清という名で、登
場する。「もと由緒あるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、つ
い奉公する様になった」と、書いている。

「瓦解」は、当時の人々によって徳川幕府が倒れて、封建制度が崩壊した
のを意味する言葉として、ひろく用いられていた。

私たちも72年前の敗戦によって、同じように瓦解を体験したが、時ととも
に国の芯が溶解してしまった。明治の先人たちが見たら、私たちは腑甲斐
無い民となった。

私は昨年末に、客観的な年齢によって80歳になったが、20代から働き盛り
が続いている。筆耕と講演に忙しい。

昨年、私は7冊の本を世に送ったが、書き下ろしが1冊、半分ずつ書いた
共著が2冊、対談本が2冊、著作選集の第2巻目と、20代で新潮社からで
た本を、祥伝社が復刻してくれた。

本誌の前号に、中島兄哥(あにい)の同人の花田紀凱さんが寄稿していた。
花田さんは、私にとっても古い仲間だ。今年に入って、花田さんの月刊
『HANADA』に、2回寄稿した。

私は20代から雑文を書いてきたが、『HANADA』4月号で当時を回想
した。あのころは活字の全盛期だった。

よく銀座で飲んだものだった。溜り場のようなクラブをどこか覗けば、新
潮社、文芸春秋、講談社の編集者や、物書き仲間が来ていた。私のような
駆け出しの筆者や、出版社の若い担当者でも、銀座の一流クラブで飲め
た。作家や、マスコミの“学割”値段があったし、勘定の取り立ても厳しく
なかった。

ジャーナリストの生活は酒と締め切りに、ちょっとだけ正義感を混ぜ合わ
せると、できあがった。それに筆記用具、電話や、人によって嵩(かさ)が
違う資料に、ちょっぴり自惚れ(うぬぼれ)を隠し味として、まぶせばよ
かった。

銀座の酒肆(しゅし)では、自民党、民社党、日本社会党、総評、創価学会
の幹部たちとよく行き合った。酒泉では誰も平等だった。こんな時には、
階級闘争も、宗教的な抗争も忘れて、和気藹々(あいあい)として憂さを晴
らした。

そのころでは、まだ陰と陽の世界の区別がはっきりとしていたから、クラ
ブの女性たちは、みなどこかで見えない苦労を背負っていた。もっとも、
全国民が「人生は苦の連続だ」という雰囲気を引きずっていたから、酒の
味も今よりほろ苦かった。

今ではクラブの娘たちは、人生が楽の連続だと決めている。陰陽の区別が
なくなって、OLや、シロウトがそのまま座っているようになっている。
『熟年ニュース』の表紙の客車の真っ直ぐに立った、木製の座席の背が懐
しい。

あの時代の男たちには、誰もが中島兄者のように侠気があった。酒肆のマ
ダムたちは、気立てがよかった。

いまでは、憂さといわずに、ストレスという。まるでロボットの部品が壊
れたようだ。

このごろのクラブの娘は、平気で本名を名乗る。気味悪い。源氏名(げん
じな)という言葉も、理解しない。シロウトの娘もフェイスブックを使っ
ているから、同じことだ。

「この丘に菜摘(なつ)ます児(こ) 家告(の)らせ名告(の)らさね」と、万
葉集の巻頭に雄略天皇の有名な御製がのっているが、女性が相手に名を明
かしたら、求愛に応じたことになった。『源氏物語』に登場する女性も一
人として本名はない。

近頃の女性は放縦で、露骨で、はじらうことがない。男女の違いがなく
なった。いつのまにか「男港」「女港」「男坂」「女坂」といった言葉
も、死語になってしまった。

一事が万事だ。私たちの日本から、減(め)り張(は)りがなくなってしまっ
た。グローバリゼーションとか、国際化といった締りがない言葉が、日本
も外国も区別がない、のっぺらぼー――目鼻のない化け物のような、掴みど
ころがない社会をつくってしまった。

制定されてから71年たつ、日本の独立を奪う「平和“無抵抗”憲法」のせい
だろうか。

私たちの手に日本を取り戻すために、中島兄哥に先棒(さきぼう)を振って
もらわねばなるまい。

(中島繁治氏は日大OB誌『熟年ニュース』主催者)


2017年03月12日

◆誰にも止められない日米メディアの暴走

加瀬 英明



トランプ大統領が就任してからじきに1ヶ月たつが、日本のテレビをつけ
ると、“トランプ叩き”に熱中している。

正視できないほど、酷い。新聞もアメリカの主要メディアを模倣して、
“トランプ苛(いじ)め”を行ってきた。新聞は活字媒体だから、視覚や聴覚
を疲れさせないが、テレビは落着きがない。活字が本から生まれたのに対
して、テレビの出自が娯楽映画にあるからだろう。

アメリカの主要メディアは、大統領選挙中にこぞって知的支配体制(エス
タブリシメント)の旗手である、ヒラリー夫人を応援してきたのにもかか
わらず、大敗したために、その深い怨みがある。ニューヨーク・タイムズ
をとれば、日本でいえば“朝日新聞的良識”だといえよう。

日米のマスコミは、トランプ大統領が無知、恥知らずで、乱暴であるのに
対して、オバマ大統領が対照的に、知的で、節度があって、穏健だったと
いう、イメージを描いている。

だが、そうだろうか。オバマ大統領が8年前に受け継いだブッシュ息子政
権は、2001年にイスラム過激派のアル・カイーダによって、ニューヨーク
の世界貿易センター・ビルが破壊されると、アフガニスタンを攻撃した後
に、イラクに大挙して殴り込んで、サダム・フセイン政権を倒した。

オバマ大統領はこの2つの戦場を引き継いだが、2010年に“タカ派”のヒラ
リー・クリントン国務長官とともに、民主主義を中東に広めるという名分
を翳(かざ)して、リビアに軍事攻撃を加えて、カダフィ政権を倒した。

その勢いを駆って、シリアのアサド政権も倒すと宣言して、シリア全土を
戦場に変えた。大失敗だった。

オバマ大統領は躊躇(ためら)うことなく、国外に軍事介入してきた。そう
することによって、ブッシュ政権よりも戦場の数を2倍以上、増した。ア
メリカ国防省によれば、昨年だけでアメリカ空軍は、7つの国に対して2
万6000発以上の爆弾を投じている。

それに、ブッシュ大統領はアフガニスタン、イラクを攻撃した時に、議会
から事後に承認する決議を取りつけたが、オバマ大統領は任期中に国外に
軍事介入するのに当たって、大統領権限を行使するのにとどめ、一度も議
会の承認を求めていない。

オバマ政権は遠隔操作のドローンを使って、中東や、パキスタン、アフリ
カ諸国を攻撃するのを好んだ。前任者のブッシュ大統領は任期中にドロー
ンを50回も用いたために、「ドローン大統領(ザ・ドローン・プレジデ
ント)」とアダ名されたが、オバマ大統領はその10倍以上の506回も、ド
ローンによる攻撃を承認している。

オバマ大統領は国連総会で、「力は正義で(マイト・メイクス・ライト)は
なく、正義が力だ(バット・ライト・メイクス・マイト)」と演説したが、
何と虚ろな言葉だったろうか。

オバマ大統領は就任直後に、核兵器廃絶を訴えたことが認められて、ノー
ベル平和賞を受賞したが、その後、オバマ大統領が好戦的な政策をとって
きたために、ノーベル賞委員会のゲイアー・ルンドスタッド事務総長が、
オバマ大統領が受賞したのは「誤りだった」という、談話を発表している。

それでいながら、オバマ大統領は肚が据わらないために、中国が南シナ海
に7つの人工島を造成して軍事化し、ロシアのプチン大統領がウクライナ
に侵略して、クリミア半島を併合しても、手を拱(こまね)いて見過した。

日本の新聞や、テレビはトランプ大統領の就任直後に、有志による核科学
者委員会による「人類破滅の時計(ドゥームス・ディ・クロック)」の針
が、真夜中――破滅の2分30秒前のところまで、進められたことを報じていた。

私は1962年にソ連がキューバに核ミサイルを持ち込むことをはかって、米
ソが核全面戦争の一歩手前まできた時に、アメリカに留学していたが、こ
の「破滅時計」が真夜中の7分前まで進められたのを、憶えている。

 この時計も、マスコミの報道も、いい加減なものなのだ。

2017年03月01日

◆朝日新聞はポルノ新聞である

加瀬 英明



私と朝日新聞の付き合いは、長い。私は『文芸春秋』時代の花田さんにも
お世話になったが、朝日新聞批判の草分けの1人だ。

私は文芸春秋の田中健五氏が『諸君!』の編集長のころに、同誌によく新
聞批判を執筆した。そのうちに『文芸春秋』本誌(1975年11月号)に、
400字詰めで80枚以上にわたる、朝日新聞批判を書いた。田中氏はその時
に本誌の編集長だったが、「最近朝日新聞紙学」という、よい題名をつけ
てくれた。

朝日新聞がすぐに社会面で「事実無根の中傷」だといって、大きく取り上
げたうえで、謝罪を要求する内容証明書を送ってきた。

私 は福田恆存氏と親しかったが、ぜひ裁判をやろうといって、激励して
くれた。黛敏郎氏、村松剛氏や、香山健一氏も応援団に加わるといってく
れた。私は新聞の拡販戦争から偏向問題まで争われる、画期的な「新聞裁
判」になっただろうから、そうしたかった。

ところが、財界人や、『経済界』の佐藤正忠氏をはじめとする著名な人々
が、朝日側に立って仲裁を買ってでて、私に話し合うようにすすめた。結
局は朝日新聞社も、文芸春秋も戦いたくなかったので、曖昧きわまる形で
手打ちが行われた。

30年か、40年前までは、銀座の溜り場のようなクラブをどこか覗けば、新
潮社、文芸春秋、講談社の編集者や、物書き仲間が来ており、朝日新聞の
記者なども加わっていた。

新宿3丁目に小さな「チャオ」というバーがあったが、その常客のなか
に、朝日新聞の投書欄の『声』を担当していた、佐々克明氏がいた。私は
たいへんに親しかった。佐々氏の尊父は戦中戦後の朝日新聞の論説委員
で、終戦の前日の8月14日の「鬼畜米英を討て」という社説を書き、その
2日後に「平和の師表たれ」という社説を書いたことで知られた。

昨年12月8日から二十数年ぶりに朝日新聞を購読するようになったが、投
書欄はまだ『声』と呼ばれている。
 
佐々氏は常連の投稿者に、投書を発注するのが仕事だった。今でもそうな
のかもしれないが、当時は朝日御用達のセミプロの投稿者がいた。私は
佐々氏が常連の投稿者に、電話で発注する現場にいたことがある。

あのころから『声』のなかみは、いまでも変わっていない。民主主義は多
様な意見のうえに成り立っているのに、投書欄まで朝日新聞の論調に合わ
せている。読者に目隠しするものだ。

今年1月3日の『声』をとると、「平和や環境分野で世界に貢献を」「戦
争せず国を守る方法考えて」「核廃絶で日本が先頭に立て」「米軍脅威か
ら国民の命守れ」といったように、朝日新聞社の眼鏡に適った主張だけ
が、並んでいる。

「平和環境分野で」という82歳の男性からの投書は、「シリアや南スーダ
ンで戦闘が続き、イスラム過激派による欧州でのテロも続いている。年末
にはロシアの駐トルコ大使射殺事件も起きた。(略)心が痛むばかりだ」
と述べ、「政府には今こそ、国際平和や人権、地球環境保護の分野で貢献
して、世界中から評価を得られるような外交を期待したい」と、勧めている。

人権、環境保全によって、戦争や、テロに対抗することはできない。あと
の投書も現実から目をとじるものばかりだ。自衛隊を増強して戦争を阻止
せよとか、中国が日本を核ミサイルの標的にしているのを放置してよいの
かという声を、採用することは絶対にない。

私は販売店に頼んで契約日より前の新聞も届けてもらった。読むと、12
月6日の『天声人語』も振るっていた。

「退位に反対する人の多くから、『天皇は国民にとってまず神道の大祭
司』『存在の継続が国民統合の要』『宮中でお祈り下さるだけで十分』
『いてくだされるだけでありがたい』といった発言が相次いだ。宮中祭祀
を天皇の公的行為と位置づけるべきだという訴えもある。これらの主張は
多くの国民の意識からかけ離れ、一部は政教分離の原則にも反する」

陛下は8月8日のお言葉のなかで、「私はこれまで天皇の務めとして、何
よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきました」と、仰
言せになられている。朝日新聞の主張は、陛下のお考えからかけ離れてい
るが、それならどうして陛下を批判しないのだろうか。

一つ覚えのようにひたすら護憲を宗旨としているのに、変わりがない。

12月19日の夕刊に、「『憲法くん』の魂 もっと広がれ」という見出し
で、『憲法くん』という絵本の表紙のカラー写真と、絵本のなかの2ペー
ジを載せていた。

「憲法くん」は、主人公の少年だ。見開きのページの下に、「わたし、憲
法くんといっしょにくらした70年間は、しあわせではなかったのです
か?」という、主人公の言葉が載っている。私なら「アメリカの軍事保護
のもとで、憲法くんといっしょにくらした‥‥」と、書き直したい。私はア
メリカが71年前に、日本を完全に非武装化することをはかって押しつけ
た現行憲法を、「平和憲法」よりも「平和無抵抗憲法」と呼ぶことにして
いる。

絵のなかに、平和に暮している親子や、遊びに興じる子どもたちや、のど
かな田舎の景色が描かれているが、在日米軍兵士の姿を加えるべきだった。

記事は「憲法くん」の「理想と現実がちがっていたら、ふつうは、現実を
理想に近づけるように、努力するものではありませんか」という言葉に
よって結ばれていた。

それだったら、朝日新聞記者が「憲法くん」と一緒に、「『憲法くん』の
魂、もっと広がれ!」と叫んで、中国の圧政下にあるモンゴルや、新疆、
チベットや、ウクライナや、シリアなどの戦場を訪れて、理想を説くべきだ。

少年の生命を危険に曝すことになるが、無事に日本に帰ってくることがで
きたら、どれだけ「現実を理想に近づける」ことができたか、記事を書い
てほしい。

朝日新聞の論説委員や、記者は、笑いの名工だ。だから、朝日新聞は他紙
よりも楽しい。

今日、日本が保守化して左翼が孤立化するようになったから、朝日新聞を
読むたびに気持よく笑えるが、1970年代には、朝日新聞が日本を滅ぼしか
ねなかったから、真剣に憂えた。

いま振り返っても、悪夢を見るように思い出すが、1972年に日中国交正常
化が行われた時の朝日新聞は顔を赧(あか)らめずに、読むことができな
かった。

田中角栄首相が北京空港に降りたった日の夕刊は、1面に「日中いま握
手」という大見出しが、横切っていた。

「〔北京25日=西村特派員〕その時の重く、鋭い静寂を、何と表現したら
いいだろう。広大な北京空港に、いっさいの音を失ったような静けさがお
ちてきた。1972年9月25日午前11時40分、赤いじゅうたんを敷いた飛行機
のタラップを、黒い服の田中首相がわずかに体を左右に振りながら降りて
きた。まぶしそうに空を見上げ、きっと口を横に一文字に結んで、周首相
の前に進んだ」

「‥‥これは夢なのか。いや夢ではない。今、間違いなく日中両国首相の手
が、かたく握られたのである」

「実際には、その時間は1分にも満たなかったはずであった。記者団の群
れにまじった欧米記者たちの不遠慮な声もしていたかもしれない。しか
し、その時間は、もっと長く感じられた。

なんの物音もしなかったと思う。40年も続きに続いた痛恨の時間の流れ
は、この時ついにとまった。その長い歳月の間に流れた日中両国民の血が
涙が、あふれる陽光のなかをかげろうのようにのぼっていく――ふと目まい
に誘われそうな瞬間のなかでそんな気がした‥‥」

私はこの朝日の特派員が、首相が北京空港に着くまで安酒を呷っていたの
ではないかと、心配した。

私は雑誌に、新聞記者はどのような状況に出会っても、目まいを起しては
ならない。それに日本であれ外国であれ、記者たちはいつも「不遠慮な
声」を出しているものではないかと、書いた。

社会面をひろげると両ページにわたって、「待ちかねた朝 東京 北京 
広く高い青空」とか、「ニーハオ こんにちは 日中新時代へ飛行 首
相、平静ななかに緊張 超党派の激励を背に『角さん、頼んだぞ!』 
TVに食入る市民の目」といった見出しが、散らばっていた。

朝日新聞はこの3日前の社説で、「日中新時代を開く田中首相の訪中」と
題して、田中訪中をきっかけにして日中ソ3国が「不可侵条約」を結ぶこ
とが可能になったと、主張していた。

「‥‥日中正常化は、わが国にとって、新しい外交・防衛政策の起点となら
ねばならない。日米安保条約によって勢力均衡の上に不安定な安全保障を
求める立場から、日中間に不可侵条約を結び、さらにその環にソ連をひろ
げる。あるいはアジア・極東地域に恒久的な中立地帯を設定する。そうし
た外交選択が可能となったのである」

これには、爆笑した。当時、中国は中ソ戦争に脅え、ソ連の侵攻を恐れ
て、全国にわたって人民がもう数年にもわたってシャベルを持って動員さ
れて、防空壕を掘り続けていた。

この時から、私は朝日新聞の縮刷版は滑稽本に分類すべきだと、信じるよ
うになった。笑い話だから、「憲法くん」の白昼夢のように、足が地に
まったくついていなかった。

私はいまでも朝日新聞記者や、編集幹部と親しくしている。

退社後におちあって、浅酌しながら内外の情勢について話すが、みんな、
まともな人たちだ。私とほとんど意見が変わらない。

ところが紙面を手に取ると、平和憲法を守れとか、日本は戦犯国家だか
ら、中国、韓国に配慮しなければならないといった、いつも変わらない
“朝日節”ばかりだ。

私はなぜまともな記者や、編集者が、あのような紙面をつくるのだろうか
と、思い悩んでいた。ある時、答が閃(ひらめ)いた。朝日新聞は「ポルノ
出版社」なのだ。朝日新聞の記者や、編集幹部も同じように、勤務中は煽
情的なポルノ記事を書かなければならない。

戦前、戦中は読者の戦意を高揚すべく勤しんだ。そのおかげで部数は伸び
たが、戦争が終わると朝日新聞社は2人がA級戦犯容疑者として、投獄さ
れた。主筆、副社長だった緒方竹虎氏と、副社長の後にNHK会長、内閣
情報局総裁だった下村海南氏だ。

私にとって東京裁判は戦勝国によるおぞましい私刑(リンチ)だったが、こ
の社説は東京裁判の正当性を認めている。「勝者による裁きという批判も
ある」というなら、もっと説明してほしい。

日本は独立を回復するのに当たって、東京裁判の判決を執行することを受
け入れざるをえなかったが、裁判そのものは認めていない。

日本だけに戦争責任を問うことはできないが、朝日は「それでも、日本は
この裁判を受け入れ、平和国家としての一歩を踏み出したことを忘れては
ならない」という。

朝日新聞は先の戦争中には、「神州不滅」「一億玉特攻」を叫んで、大和
魂さえあれば勝てると説いたが、日本国憲法さえあれば、日本は不滅だと
いう精神論と、少しも変わっていない。

朝日新聞が売国的だといって憤っている人々がいるが、ポルノ出版社だと
思えば、怒ることができないだろう。



   

2017年02月26日

◆慌てる中国・習近平主席

加瀬 英明



トランプ政権は対中強硬派が勢揃い 慌てる中国・習近平主席

トランプ政権が発足した。トランプ大統領は、「メイク・アメリカ・グレ
イト・アゲイン!」(アメリカを再び偉大な国家としよう)というスロー
ガンを唱えて、ホワイトハウス入りした。

中国の習近平国家主席が「偉大なる5年の000の復興」を叫んでいるの
と、何と、よく似ていることだろうか。「メイク・チャイナ・グレイト・
アゲイン」と、訳することができる。

習主席は機会あるごとに公の席上で、「戦争に備えよ」と呼び掛けている。

他方、トランプ大統領候補は選挙事務所に、レーガン大統領と西部劇の名
優のジョン・ウェインの等身大の写真を飾っていた。大衆に訴えるため
に、乱暴な口調を使ってきたが、私には「メイク・アメリカ・タフ・アゲ
イン!」と、聞こえた。

トランプ大統領は、当選後に台湾の蔡英文総統に電話をしたうえで、
「“1つの中国”政策によって縛られない」と述べて、習主席という龍の鱗
(うろこ)を逆か撫でした。

習主席はトランプ大統領が中国がアメリカから一方的に巨額の貿易黒字を
稼ぎだしているのは、許せないというかたわら、ティラーソン国務長官が
中国が南シナ海に埋め立てた人工島に、近づけないようにすると発言した
のをはじめ、政権の中枢に対中強硬派が勢揃いしているのに、慌てふため
いているにちがいない。

これから、龍とアメリカ鷲が鱗と羽根を散らして、大喧嘩を始めるのだろ
うか?

習主席は2期目の5年をつとめるために、目前に改選を控えているから、
アメリカと波風を立てたくないはずだ。といって、タフな指導者を演じな
ければならないから、アメリカに対して断乎たる姿勢を、とらなければな
らない。

トランプ大統領からみれば、中国がアメリカ市場から年間3200億ドル(約
35兆円)以上の貿易黒字を稼ぎだして、海軍の拡張に注ぎ込むかたわら、
札束で周辺の諸国の頬を叩いて、アメリカ離れをはかっているのは、何と
も我慢できない。

習主席は中国がこれまで自由貿易のルールを蹂躙してきたのにかかわら
ず、トランプ大統領の就任直前に、ダボスにおける世界経済フォーラムに
出席して、似つかわしくない自由貿易の旗手として振舞った。いかに、た
じろいでいるか示した。

トランプ氏は“メガホン候補”だったが、「中国からの輸出に45%の関税
をかける」と、脅していた。

米ソの冷戦下で、ソ連はアメリカとの貿易に依存していなかったが、中国
は経済がアメリカ市場に寄生している。いま、習主席の中国は経済が断崖
まで追い詰められており、アメリカ鷲と渡り合ったら、体制の土台が大き
く揺れかねない。

日本では一部に、トランプ政権が日本の頭越しに米中が手を握って、日本
が孤立するのではないか、杞憂する声がある。つまらない取り越し苦労だ。

トランプ政権は、アメリカの歴代政権がこれまで中国に媚びて、台湾を軽
視してきたが、台湾を守る姿勢を明らかにしよう。

日台間には公的な関係がまったくないが、敵性勢力が台湾を支配下に置く
ことがあったら、日本は独立を維持することができない。アメリカが台湾
を重視するのを歓迎したい。


   

2017年01月27日

◆尖閣諸島に迫る危機

加瀬 英明



海洋覇権を夢想する中国 尖閣諸島に迫る危機

12月25日に中国初の空母『遼寧』が、駆逐艦、フリゲート艦5隻をとも
なって、宮古島沖を抜けて、はじめて太平洋へ向かった。

『遼寧』は冷戦終結後に、中国がウクライナからスクラップと偽って購入
し、空母に復元して、4年前に就航した。中国は大海軍の建設を進めてお
り、さらに2号艦、3号艦の空母を建造中である。

そのかたわら、中国は南シナ海に“海の長城”として、7つの人工島を造成
して、アメリカに軍事化しないと約束したのにもかかわらず、戦闘機、ミ
サイルの配備を始めている。

大陸国家が大海軍を建設して、成功した験しがない。日露戦争のロシアの
バルチック艦隊と黒海艦隊、第一次大戦のドイツ海軍が、そのよい例である。

太平洋を航行する『遼寧』は、日清戦争で巨艦を誇った北洋艦隊の再来の
ようなものだ。

私は北京郊外で、西大后がつくった頤和園を訪れた時に、池のなかに設ら
えられた巨大な大理石の船を見たことを、思い出した。

南シナ海に造成した人工島も、深く掘ったら海水がでてくるから、ミサイ
ルや、航空機などの堅固な掩体をつくることができない。舞台装置のよう
なもので、役に立たない。

習近平主席をはじめ中国の指導部は、愚かだ。

中国は海洋覇権を握ろうとして、大海軍を建設することによって、周辺諸
国を威嚇しているために、かえって孤立化を招いている。大陸国家が大海
軍を建造して、上手くゆくはずがない。それに、中国は陸上のことは理解
しても、海については無知だ。

中国が海軍力による海洋覇権を握ることを夢想することなく、尖閣諸島を
はじめとして、小さな島嶼をめぐって無用な領土紛争を起すことなく、巨
大な経済力を使って、周辺諸国と友好関係を結ぶことに努めたとしたら、
アジアが北京に靡いたにちがいない。

中国は習主席が「偉大な5年の中華文明の復興」を呼号しているように、
中国が世界の中心であると信じる、自己中心の中華思想によって、すっか
り毒されている。中華文明が5000年も遡るというのは神話であって、
科学的な根拠はない。

 このように、中国の為政者は自己中心であるために、他民族について理
解しようとせず、そのような能力を欠いている。

 中国人には、自己陶酔する性癖がある。京劇は国劇と呼ばれているが、
日本における歌舞伎と違って、中国人全員を酔わせる。

 中国人は打楽器などの耳を聾する音楽、頭の頂辺(てっぺん)からでる甲
高い歌声、派手に立ち回る幻想的な空間によって、誰もが快感に浸る。歴
代の中国皇帝から、西太后、毛沢東、周恩来、江沢民までが、京劇の虜と
なってきた。習主席も、例外でなかろう。

 中国人は昔から、「吃(食)喝(酒)嫖(淫らな遊女)賭(博打)去聴
戯」を、生き甲斐にするといわれてきた。「去聴戯」は、京劇のことだ。

 習主席が訪米した時に、アメリカと太平洋を二分しようと提案して、冷
笑を買ったが、海洋覇権を握ろうというのも、「去聴戯」だ。

 中国は“商人の国”で、臆病だから、全面戦争を戦おうとはしない。

 だが、政権が揺らぐ時には、軍事冒険を試みることによって、人民の人
気を博そうとしよう。尖閣諸島を奪いにくる、危険が迫っている。