2019年01月24日

◆認知症には「散歩」が効果

向市 眞知


以前、住友病院神経内科先生の「認知症」の講演を聴きに行きました。その時、「こんな症状があったら要注意!」という話から始まり、下記の11の指摘がありました。

1、同じことを何度も言ったり聞いたりする
2、ものの名前が出てこない
3、置き忘れやしまい忘れが目立つ
4、時間、日付、場所の感覚が不確かになった
5、病院からもらった薬の管理ができなくなった

6、以前はあった関心や興味が失われた
7、水道の蛇口やガス栓の閉め忘れが目立つ
8、財布を盗まれたといって騒ぐ
9、複雑なテレビドラマの内容が理解できない
10、計算のまちがいが多くなった
11、ささいなことで怒りっぽくなった

「これらがいくつかあったり、半年以上続いている時は、専門病院へ行きましょう」といわれました。

私自身、同じことを言ったり、物の名前が出てこなかったり、置き忘れやささいな事で怒りっぽくなったなあと思い当たるフシがいくつもありました。専門診療の対象といわれてしまうと本当にショックです。

「認知症」というと周りの人に迷惑をかけてしまう問題行動がクローズアップして、その印象が強いのですが、新しいことが覚えられない記憶障害もそうです。また、やる気がおこらない意欲の低下もそうですし、ものごとを考える思考力や判断する力、そして手順よくし処理する実行力の低下も「認知症」の症状です。

「認知症高齢者」のかた自身の不安は、時間や場所がわからなくなったり、体験そのものを忘れていく中で暮らしているのですから、自分以外の外界のすべてが不安要因になってしまうのです。

ご本人は真剣に外界を理解しようとしているのですが、家族は「ボケ」「痴呆」ということばの印象から、「認知症だからわからないだろう、理解できないだろう」と思い込んでいる例が多くみられます。
 
診察室でなんとご本人を目の前にして「認知症高齢者」の失態を平気でドクターに訴えたり、「母さんがボケてしまって」とはばかりもなく言ってしまったりします。

その瞬間に、ご本人はその家族に対してまた不安をつのらせてしまいます。また話を向けられたドクターも、ご本人を前にしてウンウンとうなづくべきか、ほんとうは困っているのです。

うなづけば家族は安心しますが、ご本人はドクターへの信頼感をなくしてしまいます。

よく「まだらボケ」とか言いますが、「正気の時もあるからやっかいだ」と表現されるご家族もあります。しかしそれは逆で、やっかいと考えるのではなく正気の部分があるのならその正気の部分を生かして日常生活を維持するようにしむけてみませんか。
 
「認知症」があっても、くりかえし続けている一定の日常生活はできるはずです。老年期以前の過去の生活を思い出させてあげると、高齢者は自分の価値を再発見し、意欲も湧いてくるとききました。

高齢者にとって脳機能の低下だけではなく、視覚や聴覚、味覚や嗅覚などの感覚もおとろえてきていることを理解してあげてください。

すべてを「認知症」の一言でかたづけてしまわないで下さい。見えやすくする、聞こえやすくするというような場面の工夫で問題行動が小さくなることもあります。
 
「認知症だからわからないだろう」と思い込むのは大まちがいです。「言ってもしかたない」と決めつけるのは悪循環です。「認知症」の方の感じる外界への不安を考えると、情報が遮断されると余計に不安が大きくなります。

どしどし情報を与えることが不安の軽減につながります。そのために外出しましょう。

「認知症」には「散歩」の効果があります。外界の空気は聴覚、視覚、嗅覚への刺激になり、脳の活性化につながります。
                       医療ソーシャルワーカー

2019年01月21日

◆人工関節手術で歩ける喜び

小池 達也(医者)


整形外科の分野ですばらしい発展を遂げていると考えられているのは、人工関節分野です。現在では、肩・肘・股・膝・足関節に人工関節手術が施されますし、手や足の指関節にも応用が始まっています。

特に、股関節と膝関節に関しては膨大な数の手術が毎年日本中で行われています。
成績も安定しており、それほど高度な手術でもなくなりつつあります。

しかし、本当に人工関節は進歩したのでしょうか。

1962年にチャンレイという先生が人工股関節手術を初めて実施されました。 今から振り返ってみても、良く考え抜かれたデザイン・材質・手術方法でした。やっぱりパイオニアと呼ばれる人たちには何か光るものがあります。

このチャンレイ型人工股関節は長期成績も良く、スタンダードとなりましたが、もちろん完璧ではないので、チャンレイ自身を含め様々な改良が加えられました。

ところが、それらの改良、良かれと思ったデザインや材質の変更は逆に長期成績を悪化させました。

そうすると、また改良が加えられ、猫の目のようにくるくるとデザインや果てはコンセプトまで変わっていきました。最近ようやく、コンセプトも成熟し成績も安定してきました。しかし、改良が加えられ続けていた時代に人工股関節手術を受けてしまった人は恩恵を受けることが出来なかったわけです。

最先端のものが最良とは限らない好例ではないでしょうか。これは人工関節の性格上、結果がすぐに出ないことが一番の理由です。そして、この危険性は今後も出てくる可能性はあります。

では、人工関節手術などすべきではないのでしょうか。

そうではありません。歩くことさえ大変な方が、人工関節手術を受けて痛みなく歩けるようになった時の喜びは、本人でない我々でさえ感じることの出来る大きなものです。
「人生が変わった」・「旅行に行けるようになった」・「歩くのって楽しい」など、多くの喜びの声を聴かせていただける、医者にとっては実にやりがいのある手術です。これを永続する喜びに変えるために、いくつかの合併症を克服してゆくのが、我々の今後の使命でしょう。

人工関節の合併症で厄介なのは感染とゆるみです。ゆるみの方は、多くの研究により克服されつつありますが、異物を体の中へ入れる手術であることから、感染の危険性はなかなか解決されそうにはありません。また、スポーツも可能になるような丈夫な人工関節もまだ存在しません。真の人工関節出現はもう少し先になりそうです。
 
ところで、最近ではナビゲーションといって、コンピュータが人工関節を入れる方向を指示するシステムやロボットが人工関節を入れる方法も実用化されています。
あなたは、ロボットと人とどちらに手術して欲しいですか?(再掲)
         
(大阪市立大学大学院医学研究科リウマチ外科学 )

2019年01月11日

◆切らずに治せるがん治療

田中 正博 (医師)

がん治療の3本柱といえば、手術、化学療法(抗がん剤)と放射線療法です。副作用なく完治する治療法が理想ですが、現実にはどの治療法も多かれ少なかれ副作用があります。

がんの発生した部位と広がりにより手術が得意(第一選択)であったり、化学療法がよかったりします。
 
また病気が小さければ、負担の少ない内視鏡手術で治ることもあります。 放射線療法は手術と化学療法の中間の治療法と考えられています。 手術よりも広い範囲を治療できますし、化学療法よりも強力です。

昔から放射線療法は耳鼻咽喉科のがん(手術すると声が出なくなったり、食事が飲み込みにくくなる、など後遺症が強い。)や子宮頚がん(手術と同じ程度の治療成績)は得意でした。 

最近は抗がん剤と放射線療法を同時に併用することで、副作用は少し強くなりますが、治療成績が随分と向上しています。

食道がんでは手術と同程度の生存率といわれるようになってきました。手術不可能な進行したがんでも治癒する症例がでてきました。

また、手術と放射線療法を組み合わせることもしばしば行われています。 最新鋭の高精度放射線療法装置や粒子線治療装置を用いれば、副作用が少なく、T期の肺がん、肝臓がん、前立腺がんなどは本当に切らずに治るようになってきました。

また、残念ながら病気が進行していたり、手術後の再発や転移のため、今の医学では完治が難しいがんでも、放射線療法を受けることで、延命効果が期待できたり、痛みや呼吸困難などの症状が楽になることが知られています。

放射線療法以外の治療が一番いいがんも沢山ありますので、この短い文章だけで放射線療法がよいと判断することは危険ですが、がん治療=手術と決めつけずに、主治医の先生とよく相談されて、必要に応じてセカンドオピニオン(他病院での専門医の意見)を受けられて、納得できる治療を受けられることをお勧めします。      
          大阪市立総合医療センター 中央放射線部

2019年01月05日

◆リハビリって何?

向市 眞知


「リハビリ」という用語は訳さなくてもよいくらい、日本語になってしまいました。しかし、この用語がとても曲者なのです。皆がこの用語の前向きなところにごまかされ、便利にしかも安易に使ってしまいます。

医師は最後の医療としてリハビリに望みをつなげる言い方をします。家族は家にもどるためにはリハビリを頑張ってほしいと期待をかけます。患者もリハビリを頑張れば元どおりになれると思います。

リハビリとは「再び生きる」という用語と聞きました。この概念で考えるととても幅広い概念です。

病院にはリハビリテーション科があり、そのスタッフには理学療法士、作業療法士、言語聴覚訓練士という、国家資格をもった専門技師がそろっています。身体機能回復訓練に携わるスタッフです。

医師が「リハビリ」という用語を使う場合にはこのようなリハビリテーション科のスタッフによる訓練を指すだけではなく、「再び生きる」心構えをもちましょう、という意味を含んでいる場合が多いのです。

しかし、患者、家族の方はリハビリは療法士がするものと思い込んでいるケースが多いように思います。よく言われるのに「リハビリが少ない」、「リハビリをしてもらえない」というクレームがあります。療法士がするものだけがリハビリなら、診療報酬上点数がとれるのは一日20分から180分です。

「リハビリを受けさせたいから入院させてほしい」とよく言われますが、一日の何分の1かの時間のリハビリだけで「再び生きる」道のりを前に進むことはむずかしいものです。あとの時間をベッドに寝ているだけでは、何の意味もありません。「リハビリのために入院している」というだけの安心感の意味しかありません。

いくら日本一の理学療法士の訓練をうけたからといって、患者本人が「リハビリをする(再び生きる)」心構えになっていなければ、空振りに終わってしまいます。

マヒした身体に対して、拘縮してしまわないように理学療法士が外から力を加え訓練をすることはできます。でも、訓練が終わって身体を動かさなければもとの木阿弥です。

しかし、言語訓練はそうはいきません。本人が声を出そう、話そうとしなければ訓練になりません。「絶対話すものか!」と口をつぐんでいる患者に訓練は意味を為しません。まずは声を出してみよう、話してみようという気持ちになるように、心理的にリラックスしてもらうことから訓練を始められると聞きました。

このことからわかるように、リハビリは本人次第なのです。そしてやはりリハビリも療法士と患者の協同作業なのです。

療法士さんの訓練の20分が終われば、患者自らがもう一度リハビリのメニューをくりかえしてやってみることや、家族が面会時間に療法士に家族ができるリハビリを教えてもらい、リハビリの協力をしてみるなど、何倍にもふくらませていくことがリハビリの道のりなのです。

療法士さん任せにしないこと、繰り返しやっていくこと、退院しても療法士さんがいなくてもリハビリ、再び生きる道のりは続いていること、それを実行するのは自分であることを忘れないでいてほしいと願っています。

診療報酬改定で更にこの認識が重要になってきています。療法士による機能回復訓練が継続してうけられる回数の上限が、疾病により90日〜180日と定められました。これ以上の日数の訓練を続けても保険点数がつかないことになりました。医療機関は保険がきかなくなれば、リハビリを打ち切らざるをえません。

患者も10割自費で料金を支払ってまでリハビリを続けることはできないでしょう。リハビリは入院の中でしかできないものではなく、退院してからも自宅でリハビリを続けていく意気込みが大切です。
                                  (ソーシャルワーカー)

2019年01月03日

◆中性脂肪が気になる人の食事療法

庄司哲雄


<中性脂肪とは>

血液中の中性脂肪(トリグリセリドともいう)には二つの由来があり、食事で摂取した脂肪が小腸から吸収され血液中に現われたものと、肝臓で炭水化物から脂肪に作り変えられて血液中に放出されたものがあります。

いずれも、体の組織でエネルギーとして利用されるのですが、血液中の濃度が極端に(1000mg/dL以上)増えすぎますと、急性膵炎を引き起こすことがありますし、それほどでない場合でも(150mg/dL以上)動脈硬化の原因のひとつになります。

<中性脂肪を下げる食事の第一歩>

食事療法の基本は、摂取エネルギーの適正化です。脂肪の摂りすぎのみならず、炭水化物の過剰も中性脂肪を増やしてしまいますので、全てのトータルを適正にする必要があります。

身体活動度にもよりますが、標準体重1Kgあたり25〜30kcal/日程度が適切です。肥満気味の方は少なめにし、減量を目指します。アルコール多飲や運動不足は中性脂肪の大敵です。

<炭水化物と脂肪のどちらをひかえるか>
各人の食習慣により異なる場合がありえますが、炭水化物1グラムで4kcal、脂肪1グラムで9kcalですから、脂肪摂取を控えることが大変効果的です。

<ジアシルグリセロールとは>

少し難しくなりますが、中性脂肪とはグリセロールという物質に脂肪酸が3つ結合した構造(TAG)をしており、いわゆる「油」です。これに対して、脂肪酸が2つだけ結合した油もあり、これをジアシルグリセロール(DAG)といいます。同じような油であっても、小腸で吸収されてからの代謝が異なるため、中性脂肪の値や体脂肪への影響の程度に差があります。

通常の油TAGは、小腸で膵リパーゼという酸素のはたらきで、脂肪酸が2つはずれ、脂肪酸ひとつだけが結合したモノアシルグリセロール(MAG)に分解されます。それぞれは吸収された後、小腸でまた中性脂肪に再合成され、血液中に放出されます。

一方、DAGは中性脂肪へ再合成されにくいため、食後の中性脂肪の上昇が小さく、また体脂肪の蓄積も少ないといわれています。最近、DAGを利用した機能性食品が開発されています。しかし、DAGの取りすぎもカロリー 過剰につながりますので、通常の油TAGとの置き換え程度にすべきでしょう。

<脂質低下作用のある機能性食品>

動物に含まれるステロールという脂質の代表はコレステロールですが、
植物には植物ステロールという脂質が含まれます。これは小腸でのコレステロール吸収を抑制する働きがあります。

<専門医に相談すべき病気>

中性脂肪の増加する病態には、糖尿病やある種のホルモン異常、稀には先天的な代謝障害もありますので、一度は専門の先生にご相談いただくのも大切だと思います。(再掲)
        <大阪市立大学大学院代謝内分泌病態内科学>

2018年12月29日

◆「認知症」には「散歩」が効果

                       向市 眞知


以前、住友病院神経内科の宇高不可思先生の「認知症」の講演を聴きに行きました。その時、「こんな症状があったら要注意!」という話から始まり、次の11の質問がありました。

1、同じことを何度も言ったり聞いたりする
2、ものの名前が出てこない
3、置き忘れやしまい忘れが目立つ
4、時間、日付、場所の感覚が不確かになった
5、病院からもらった薬の管理ができなくなった
6、以前はあった関心や興味が失われた
7、水道の蛇口やガス栓の閉め忘れが目立つ
8、財布を盗まれたといって騒ぐ
9、複雑なテレビドラマの内容が理解できない
10、計算のまちがいが多くなった
11、ささいなことで怒りっぽくなった

「これらがいくつかあったり、半年以上続いている時は専門病院へ行きましょう」といわれました。

私自身、同じことを言ったり、物の名前が出てこなかったり、置き忘れやささいな事で怒りっぽくなったなあと思い当たるフシがいくつもありました。専門診療の対象といわれてしまうと本当にショックです。

認知症というと周りの人に迷惑をかけてしまう問題行動がクローズアップしてその印象が強いのですが、新しいことが覚えられない記憶障害もそうです。また、やる気がおこらない意欲の低下もそうですし、ものごとを考える思考力や判断する力、そして手順よくし処理する実行力の低下も認知症の症状です。

認知症高齢者のかた自身の不安は、時間や場所がわからなくなったり、体験そのものを忘れていく中で暮らしているのですから、自分以外の外界のすべてが不安要因になってしまうのです。

ご本人は真剣に外界を理解しようとしているのですが、家族は「ボケ」「痴呆」ということばの印象から「認知症だからわからないだろう、理解できないだろう」と思い込んでいる例が多くみられます。
 
診察室でなんとご本人を目の前にして認知症高齢者の失態を平気でドクターに訴えたり、「母さんがボケてしまって」とはばかりもなく言ってしまったりします。

その瞬間にご本人はその家族に対してまた不安をつのらせてしまいます。また話を向けられたドクターも、ご本人を前にしてウンウンとうなづくべきか、ほんとうは困っているのです。うなづけば家族は安心しますが、ご本人はドクターへの信頼感をなくしてしまいます。

よく「まだらボケ」とか言いますが、「正気の時もあるからやっかいだ」と表現されるご家族もあります。しかしそれは逆で、やっかいと考えるのではなく正気の部分があるのならその正気の部分を生かして日常生活を維持するようにしむけてみませんか。
 
認知症があってもくりかえし続けている一定の日常生活はできるはずです。老年期以前の過去の生活を思い出させてあげると、高齢者は自分の価値を再発見し、意欲も湧いてくるとききました。

高齢者にとって脳機能の低下だけではなく、視覚や聴覚、味覚や嗅覚などの感覚もおとろえてきていることを理解してあげてください。すべてを「認知症」の一言でかたづけてしまわないで下さい。見えやすくする、聞こえやすくするというような場面の工夫で問題行動が小さくなることもあります。
 
「認知症だからわからないだろう」と思い込むのは大まちがいです。「言ってもしかたない」と決めつけるのは悪循環です。認知症の方の感じる外界への不安を考えると、情報が遮断されると余計に不安が大きくなります。

どしどし情報を与えることが不安の軽減につながります。そのために外出しましょう。認知症には散歩の効果があります。外界の空気は聴覚、視覚、嗅覚への刺激になり、脳の活性化につながります。

医療ソーシャルワーカー

2018年12月25日

◆三叉神経痛に有効な治療法!

〜ガンマナイフか?手術か?〜

中村 一仁  (脳神経外科医師)



「三叉神経痛」に対する治療方法は、内服、神経ブロック、ガンマナイフ、MVD(microvascular decompression: 微小血管減圧術)と、多岐にわたる。
 
患者は痛い治療は好まないので、近年の治療手段としては低侵襲性と有効性からガンマナイフ治療を選択することも多くなってきた。

本論のガンマナイフ治療とは、コバルト線を用いた放射線治療で非常に高い精度で目的とする病変に照射することが可能な装置である。

さて本題。「三叉神経痛」というと聞きなれないかも知れないが、簡単に言うと、顔面が痛くなる病気である。一般には「顔面神経痛」という単語が誤用されていることがある。顔が痛くなるので「顔面神経痛」という表現はわかりやすい。

ところが、顔面の感覚は三叉神経と呼ばれる第5脳神経に支配されていることもあり、正しくは「三叉神経痛」というわけである。因みに顔面神経は、第7脳神経で顔面の筋肉を動かす運動神経の働きを担っている。

三叉神経痛の原因の多くは、頭蓋骨の中の三叉神経に脳血管が接触・圧迫し刺激となることで痛みが発生するとされている。
 
<対象・方法>
さて、1999年11月から2003年10月の4年間に、当大阪市医療センターで治療を行った三叉神経痛31例のうち、経過を追跡した29例についての検討を行った。ガンマナイフ施行1年後の有効率は69%(20/29例)であり、31%(9/29例)が無効であった。

そこで、このガンマナイフ治療により、治癒しなかった「三叉神経痛9例」の特徴について検討した。

<結果>
ガンマナイフ治療が無効であった「三叉神経痛9例」のうち4例で、MVD(微小血管減圧術)による手術治療が施行された。4例全例で三叉神経痛は消失軽快した。

ガンマナイフ治療無効例の術中所見は、クモ膜の肥厚や周囲組織の癒着などは認めず、通常通りMVDが施行可能であった。

ガンマナイフ治療が無効であった9例について、平均年齢65.7歳(46-79歳)、男性5例、女性4例。平均罹病期間8.7年(1.5-20年)、患側は右側5例、左側4例だった。

全例MRI画像にて圧迫血管を確認した。上小脳動脈(superior cerebellar artery:SCA)による圧迫病変は通常の割合より少なく、静脈や椎骨動脈による圧迫が4例と多かった。

ガンマナイフ治療が有効であった症例との比較では性別、年齢、罹病期間、病変の左右、圧迫部位に統計学的な有意差は認めなかったが、圧迫血管についてはガンマナイフ治療無効例で有意に上小脳動脈によるものが少なかった(χ2検定,P<0.05)。

<考察>
一般に三叉神経痛は脳血管が三叉神経に接触・圧迫することで生じるとされている。その圧迫血管として最も頻度が高いとされているのであるが、今回の検討ではSCAによる圧迫が少なく、ガンマナイフ治療無効例に特徴的な所見であると考えられた。

わが国で三叉神経痛に対する治療としては、抗てんかん薬であるカルバマゼピンの内服、ガンマナイフ、MVDといった選択枝を選ぶことが多い。MVDによる三叉神経痛治療は脳神経外科医Janettaの手術手技の確立により、安全に行なわれるようになった。

しかし、高齢化および低侵襲手術への期待から、近年ではガンマナイフ治療の有効性が多く報告されるようになってきている。

当センターでの経験では、三叉神経痛に対するガンマナイフ治療の1年後の有効率は69%であり、過去の報告と大差はなかった。ガンマナイフ治療後の再発例に対して検討した報告は散見されるものの、その再発・無効の機序は明らかではなく、ガンマナイフ治療後の再発例についての検討が必要である。

三叉神経痛の発症機序は、血管による圧迫と三叉神経根の部分的な脱髄により起こると考えられており、MVDにて減圧することでその症状は軽快する。

一方、ガンマナイフによる治療では、放射線照射に伴い三叉神経全体の機能低下が起こり疼痛制御されると推察されている。

このようにMVDとガンマナイフではその治療機序が異なるため、それぞれの利点を生かすべく、再発・無効例の検討を行い、治療適応を確立していく必要がある。

過去の報告ではガンマナイフ治療後の三叉神経痛に対してMVDを施行した6症例についてクモ膜肥厚や明らかな三叉神経の変化を認めず、ガンマナイフ治療後のMVDは安全に問題なく施行できるとしており、当センターでMVDを施行した2症例も同様の所見であった。

一方で、ガンマナイフ治療施行による血管傷害の例も報告されているが、再発との関連はないように思われる。

ガンマナイフ治療施行後の再発についての検討では、年齢、性別、罹病期間、以前の治療、三叉神経感覚障害の有無、照射線量、照射部位は再発と相関しなかったとの報告がある。

今回の検討では再発に関与する因子として、解剖学的な特徴に着目した。ガンマナイフ治療無効例では上小脳動脈による圧迫病変は通常の分布より有意に少なく、一般に頻度が低いとされている椎骨動脈やMVD後に再発し易いとされる静脈による圧迫が多かった。

このことはガンマナイフ治療無効例における何らかの解剖学的な特徴を示唆する。ガンマナイフ治療では画像上、三叉神経の同定の困難な症例や神経軸の歪みの大きい症例において正確にターゲットに照射することが困難な場合もあり、より広範囲に放射線照射を行うことも考慮されている。

前述の条件が揃うものにガンマナイフ治療の無効例は多いのかもしれないが、推論の域を出ない.この仮説が成り立つならば、MVDは直接的に血管を神経より減圧し、周囲のクモ膜を切開することで神経軸の歪みを修正することができるため、このような症例に対して有効な治療であるといえよう。

しかし、圧迫部位と再発に関連性なしとする報告や、MVD後再発再手術例の約50%で責任血管などの所見なしという報告、MVD無効後のガンマナイフ治療有効例が存在することも事実であり、解剖学的因子のみが治療方法の優劣を決定する要素とはならないのかもしれない。

また、初回のガンマナイフ治療で治癒しなかった三叉神経痛に対して、再度ガンマナイフによる治療を行なうことで症状が改善するとの報告もあるが、長期的な結果はなく、今後の検討課題のひとつである。

今回の研究ではガンマナイフ治療無効例にSCA(上小脳動脈)による圧迫が少なかったという解剖学的な点に着目したが、現時点では臨床的に三叉神経痛に対する治療としてのガンマナイフ治療とMVDは相補的な関係であるべきであり、今後さらに有効例、無効例を詳細に検討することで、各治療の術前評価においてその有効性が証明されることを期待したい。

<まとめ>
ガンマナイフ治療無効例に対して施行したMVDにて、4例中4例で三叉神経痛は消失軽快した。

ガンマナイフ治療無効例9例では静脈や椎骨動脈による圧迫を多く認め、ガンマナイフ治療有効例と比較して有意にSCAによる圧迫が少なかった。今後、ガンマナイフ治療無効例の特徴およびMVDの有用性について検討する必要があると考えられた。(完)

2018年12月08日

◆人工関節手術で歩ける喜び

小池 達也(医者)


整形外科の分野ですばらしい発展を遂げていると考えられているのは、人工関節分野です。現在では、肩・肘・股・膝・足関節に人工関節手術が施されますし、手や足の指関節にも応用が始まっています。

特に、股関節と膝関節に関しては膨大な数の手術が毎年日本中で行われています。
成績も安定しており、それほど高度な手術でもなくなりつつあります。

しかし、本当に人工関節は進歩したのでしょうか。

1962年にチャンレイという先生が人工股関節手術を初めて実施されました。 今から振り返ってみても、良く考え抜かれたデザイン・材質・手術方法でした。やっぱりパイオニアと呼ばれる人たちには何か光るものがあります。

このチャンレイ型人工股関節は長期成績も良く、スタンダードとなりましたが、もちろん完璧ではないので、チャンレイ自身を含め様々な改良が加えられました。

ところが、それらの改良、良かれと思ったデザインや材質の変更は逆に長期成績を悪化させました。

そうすると、また改良が加えられ、猫の目のようにくるくるとデザインや果てはコンセプトまで変わっていきました。最近ようやく、コンセプトも成熟し成績も安定してきました。しかし、改良が加えられ続けていた時代に人工股関節手術を受けてしまった人は恩恵を受けることが出来なかったわけです。

最先端のものが最良とは限らない好例ではないでしょうか。これは人工関節の性格上、結果がすぐに出ないことが一番の理由です。そして、この危険性は今後も出てくる可能性はあります。

では、人工関節手術などすべきではないのでしょうか。

そうではありません。歩くことさえ大変な方が、人工関節手術を受けて痛みなく歩けるようになった時の喜びは、本人でない我々でさえ感じることの出来る大きなものです。
「人生が変わった」・「旅行に行けるようになった」・「歩くのって楽しい」など、多くの喜びの声を聴かせていただける、医者にとっては実にやりがいのある手術です。これを永続する喜びに変えるために、いくつかの合併症を克服してゆくのが、我々の今後の使命でしょう。

人工関節の合併症で厄介なのは感染とゆるみです。ゆるみの方は、多くの研究により克服されつつありますが、異物を体の中へ入れる手術であることから、感染の危険性はなかなか解決されそうにはありません。また、スポーツも可能になるような丈夫な人工関節もまだ存在しません。真の人工関節出現はもう少し先になりそうです。
 
ところで、最近ではナビゲーションといって、コンピュータが人工関節を入れる方向を指示するシステムやロボットが人工関節を入れる方法も実用化されています。
あなたは、ロボットと人とどちらに手術して欲しいですか?(再掲)
         
大阪市立大学大学院医学研究科リウマチ外科学 

2018年12月04日

◆中性脂肪が気になる人の食事療法

庄司哲雄 医師


<中性脂肪とは>

血液中の中性脂肪(トリグリセリドともいう)には二つの由来があり、食事で摂取した脂肪が小腸から吸収され血液中に現われたものと、肝臓で炭水化物から脂肪に作り変えられて血液中に放出されたものがあります。

いずれも、体の組織でエネルギーとして利用されるのですが、血液中の濃度が極端に(1000mg/dL以上)増えすぎますと、急性膵炎を引き起こすことがありますし、それほどでない場合でも(150mg/dL以上)動脈硬化の原因のひとつになります。

<中性脂肪を下げる食事の第一歩>

食事療法の基本は、摂取エネルギーの適正化です。脂肪の摂りすぎのみならず、炭水化物の過剰も中性脂肪を増やしてしまいますので、全てのトータルを適正にする必要があります。
身体活動度にもよりますが、標準体重1Kgあたり25〜30kcal/日程度が適切です。肥満気味の方は少なめにし、減量を目指します。アルコール多飲や運動不足は中性脂肪の大敵です。

<炭水化物と脂肪のどちらをひかえるか>
各人の食習慣により異なる場合がありえますが、炭水化物1グラムで4kcal、脂肪1グラムで9kcalですから、脂肪摂取を控えることが大変効果的です。

<ジアシルグリセロールとは>

少し難しくなりますが、中性脂肪とはグリセロールという物質に脂肪酸が3つ結合した構造(TAG)をしており、いわゆる「油」です。これに対して、脂肪酸が2つだけ結合した油もあり、これをジアシルグリセロール(DAG)といいます。同じような油であっても、小腸で吸収されてからの代謝が異なるため、中性脂肪の値や体脂肪への影響の程度に差があります。

通常の油TAGは、小腸で膵リパーゼという酸素のはたらきで、脂肪酸が2つはずれ、脂肪酸ひとつだけが結合したモノアシルグリセロール(MAG)に分解されます。それぞれは吸収された後、小腸でまた中性脂肪に再合成され、血液中に放出されます。

一方、DAGは中性脂肪へ再合成されにくいため、食後の中性脂肪の上昇が小さく、また体脂肪の蓄積も少ないといわれています。最近、DAGを利用した機能性食品が開発されています。しかし、DAGの取りすぎもカロリー 過剰につながりますので、通常の油TAGとの置き換え程度にすべきでしょう。

<脂質低下作用のある機能性食品>

動物に含まれるステロールという脂質の代表はコレステロールですが、
植物には植物ステロールという脂質が含まれます。これは小腸でのコレステロール吸収を抑制する働きがあります。

<専門医に相談すべき病気>

中性脂肪の増加する病態には、糖尿病やある種のホルモン異常、稀には先天的な代謝障害もありますので、一度は専門の先生にご相談いただくのも大切だと思います。(再掲)
<大阪市立大学大学院代謝内分泌病態内科学>

2018年11月28日

◆三叉神経痛に有効な治療法!

〜ガンマナイフか?手術か?〜
中村 一仁  (脳神経外科医師)


「三叉神経痛」に対する治療方法は、内服、神経ブロック、ガンマナイフ、MVD(microvascular decompression: 微小血管減圧術)と、多岐にわたる。
 
患者は痛い治療は好まないので、近年の治療手段としては低侵襲性と有効性からガンマナイフ治療を選択することも多くなってきた。

本論のガンマナイフ治療とは、コバルト線を用いた放射線治療で非常に高い精度で目的とする病変に照射することが可能な装置である。

さて本題。「三叉神経痛」というと聞きなれないかも知れないが、簡単に言うと、顔面が痛くなる病気である。一般には「顔面神経痛」という単語が誤用されていることがある。顔が痛くなるので「顔面神経痛」という表現はわかりやすい。

ところが、顔面の感覚は三叉神経と呼ばれる第5脳神経に支配されていることもあり、正しくは「三叉神経痛」というわけである。因みに顔面神経は、第7脳神経で顔面の筋肉を動かす運動神経の働きを担っている。

三叉神経痛の原因の多くは、頭蓋骨の中の三叉神経に脳血管が接触・圧迫し刺激となることで痛みが発生するとされている。
 
<対象・方法>
さて、1999年11月から2003年10月の4年間に、当センターで治療を行った三叉神経痛31例のうち、経過を追跡した29例についての検討を行った。ガンマナイフ施行1年後の有効率は69%(20/29例)であり、31%(9/29例)が無効であった。

そこで、このガンマナイフ治療により、治癒しなかった「三叉神経痛9例」の特徴について検討した。

<結果>
ガンマナイフ治療が無効であった「三叉神経痛9例」のうち4例で、MVD(微小血管減圧術)による手術治療が施行された。4例全例で三叉神経痛は消失軽快した。

ガンマナイフ治療無効例の術中所見は、クモ膜の肥厚や周囲組織の癒着などは認めず、通常通りMVDが施行可能であった。

ガンマナイフ治療が無効であった9例について、平均年齢65.7歳(46-79歳)、男性5例、女性4例。平均罹病期間8.7年(1.5-20年)、患側は右側5例、左側4例だった。

全例MRI画像にて圧迫血管を確認した。上小脳動脈(superior cerebellar artery:SCA)による圧迫病変は通常の割合より少なく、静脈や椎骨動脈による圧迫が4例と多かった。

ガンマナイフ治療が有効であった症例との比較では性別、年齢、罹病期間、病変の左右、圧迫部位に統計学的な有意差は認めなかったが、圧迫血管についてはガンマナイフ治療無効例で有意に上小脳動脈によるものが少なかった(χ2検定,P<0.05)。

<考察>
一般に三叉神経痛は脳血管が三叉神経に接触・圧迫することで生じるとされている。その圧迫血管として最も頻度が高いとされているのであるが、今回の検討ではSCAによる圧迫が少なく、ガンマナイフ治療無効例に特徴的な所見であると考えられた。

わが国で三叉神経痛に対する治療としては、抗てんかん薬であるカルバマゼピンの内服、ガンマナイフ、MVDといった選択枝を選ぶことが多い。MVDによる三叉神経痛治療は脳神経外科医Janettaの手術手技の確立により、安全に行なわれるようになった。

しかし、高齢化および低侵襲手術への期待から、近年ではガンマナイフ治療の有効性が多く報告されるようになってきている。

当センターでの経験では、三叉神経痛に対するガンマナイフ治療の1年後の有効率は69%であり、過去の報告と大差はなかった。ガンマナイフ治療後の再発例に対して検討した報告は散見されるものの、その再発・無効の機序は明らかではなく、ガンマナイフ治療後の再発例についての検討が必要である。

三叉神経痛の発症機序は、血管による圧迫と三叉神経根の部分的な脱髄により起こると考えられており、MVDにて減圧することでその症状は軽快する。

一方、ガンマナイフによる治療では、放射線照射に伴い三叉神経全体の機能低下が起こり疼痛制御されると推察されている。

このようにMVDとガンマナイフではその治療機序が異なるため、それぞれの利点を生かすべく、再発・無効例の検討を行い、治療適応を確立していく必要がある。

過去の報告ではガンマナイフ治療後の三叉神経痛に対してMVDを施行した6症例についてクモ膜肥厚や明らかな三叉神経の変化を認めず、ガンマナイフ治療後のMVDは安全に問題なく施行できるとしており、当センターでMVDを施行した2症例も同様の所見であった。

一方で、ガンマナイフ治療施行による血管傷害の例も報告されているが、再発との関連はないように思われる。

ガンマナイフ治療施行後の再発についての検討では、年齢、性別、罹病期間、以前の治療、三叉神経感覚障害の有無、照射線量、照射部位は再発と相関しなかったとの報告がある。

今回の検討では再発に関与する因子として、解剖学的な特徴に着目した。ガンマナイフ治療無効例では上小脳動脈による圧迫病変は通常の分布より有意に少なく、一般に頻度が低いとされている椎骨動脈やMVD後に再発し易いとされる静脈による圧迫が多かった。

このことはガンマナイフ治療無効例における何らかの解剖学的な特徴を示唆する。ガンマナイフ治療では画像上、三叉神経の同定の困難な症例や神経軸の歪みの大きい症例において正確にターゲットに照射することが困難な場合もあり、より広範囲に放射線照射を行うことも考慮されている。

前述の条件が揃うものにガンマナイフ治療の無効例は多いのかもしれないが、推論の域を出ない.この仮説が成り立つならば、MVDは直接的に血管を神経より減圧し、周囲のクモ膜を切開することで神経軸の歪みを修正することができるため、このような症例に対して有効な治療であるといえよう。

しかし、圧迫部位と再発に関連性なしとする報告や、MVD後再発再手術例の約50%で責任血管などの所見なしという報告、MVD無効後のガンマナイフ治療有効例が存在することも事実であり、解剖学的因子のみが治療方法の優劣を決定する要素とはならないのかもしれない。

また、初回のガンマナイフ治療で治癒しなかった三叉神経痛に対して、再度ガンマナイフによる治療を行なうことで症状が改善するとの報告もあるが、長期的な結果はなく、今後の検討課題のひとつである。

今回の研究ではガンマナイフ治療無効例にSCA(上小脳動脈)による圧迫が少なかったという解剖学的な点に着目したが、現時点では臨床的に三叉神経痛に対する治療としてのガンマナイフ治療とMVDは相補的な関係であるべきであり、今後さらに有効例、無効例を詳細に検討することで、各治療の術前評価においてその有効性が証明されることを期待したい。

<まとめ>
ガンマナイフ治療無効例に対して施行したMVDにて、4例中4例で三叉神経痛は消失軽快した。

ガンマナイフ治療無効例9例では静脈や椎骨動脈による圧迫を多く認め、ガンマナイフ治療有効例と比較して有意にSCAによる圧迫が少なかった。今後、ガンマナイフ治療無効例の特徴およびMVDの有用性について検討する必要があると考えられた。(完)
                
脳神経外科速報17:86-90,2007を改編。メディカ出版より掲載許諾

2018年11月24日

◆健康百話・「肝臓をいたわっていますか?」

片山 和宏(医師)


肝臓は、右のわき腹からみぞおちのあたりにある、重さが約1kgちょっとの臓器です。

心臓のように「どきどき」したり、お腹が空いた時の胃や腸のように「グーグー」鳴ることもありませんが、ただひたすら黙って体の他の臓器に栄養を送ったり、いらなくなったごみを捨てたりしていますので、家族で言えばまさに最近の若いお母さん達にはとても少なくなった昔の良妻賢母型のお母さんの役割を果たしています。

だからといって、あまり無理ばかりをさせていると、ご主人を見捨てて家出してしまうかもしれません。ですから、ご主人であるあなたが普段からちゃんといたわってあげる必要があるわけです。
 
基本的に肝臓は、少しくらい弱っていても自覚症状が出にくい臓器です。しかし、血液検査をすると、実はとても早くから「SOS」のサインを出していることが多いのが特徴です。

 「沈黙の臓器」として有名な、自覚症状の出にくい肝臓も、血液にはちゃんと気持ちを伝えているわけで、血液検査は肝臓の気持ちを察して上げられる重要な検査です。

 これから、どのようにいたわってあげればいいかとか、文句を言いたそうだけど、どのようにすれば早めに察してあげられるかなどについて、シリーズでご紹介していきたいと思います。

            大阪厚生年金病院 

2018年11月19日

◆ノロウイルス食中毒の予防

柴谷涼子

老人保健施設などでノロウイルスの集団発生が報じられておりますが、ノロウイルスについて正しく理解し、ご自身も感染しないよう予防しましょう。

★ノロウイルス感染症とは・・・
 ノロウイルスが人の小腸で増殖して引き起こされる急性胃腸炎です。@カキや貝類を十分に加熱せず食べた場合A生ガキや貝類で汚染された調理器具で調理した生野菜などを食べた場合Bウイルスに感染したヒトの便や吐物に触れた手で調理をした場合・・・などに感染する可能性があります。

★症状
 年齢に関係なく感染は起こりますが、高齢者や抵抗力の弱ったヒトでは重症化する例もあります。嘔気・嘔吐・下痢が主症状です。
 腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛などを伴うこともあります。 高齢者の場合、症状が出て、水分摂取ができなくなるとすぐに脱水症状を起す可能性がありますので、早めに病院の診察を受けて下さい。

★予防
生のカキや貝類は内部まで十分に加熱してから食べるようにしましょう。
カキの処理に使用したまな板などは、よく水洗いし、熱湯消毒をしてから使用しましょう。

★ 感染予防としてもっとも重要なのは、普段からの手洗いやうがいです。
外から帰ったあとは必ず手洗いとうがいをする習慣をつけましょう。

 <参考文献;>

1.国立感染症研究所 感染症情報センター感染症発生動向調査週報 感染症の話
 http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_11.html
2.大阪府食の安全推進科    http://www.pref.osaka.jp/shokuhin/noro/
3.厚生労働省ノロウイルス食中毒の予防に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/tobou/040204-1.html

          (大阪厚生年金病院 看護部 看護ケア推進室 )

2018年11月18日

◆中性脂肪が気になる人の食事療法

庄司 哲雄



<中性脂肪とは>
血液中の中性脂肪(トリグリセリドともいう)には二つの由来があり、食事で摂取した脂肪が小腸から吸収され血液中に現われたものと、肝臓で炭水化物から脂肪に作り変えられて血液中に放出されたものがあります。

いずれも、体の組織でエネルギーとして利用されるのですが、血液中の濃度が極端に(1000mg/dL以上)増えすぎますと、急性膵炎を引き起こすことがありますし、それほどでない場合でも(150mg/dL以上)動脈硬化の原因のひとつになります。

<中性脂肪を下げる食事の第一歩>
食事療法の基本は、摂取エネルギーの適正化です。脂肪の摂りすぎのみならず、炭水化物の過剰も中性脂肪を増やしてしまいますので、全てのトータルを適正にする必要があります。

身体活動度にもよりますが、標準体重1Kgあたり25〜30kcal/日程度が適切です。肥満気味の方は少なめにし、減量を目指します。アルコール多飲や運動不足は中性脂肪の大敵です。

<炭水化物と脂肪のどちらをひかえるか>
各人の食習慣により異なる場合がありえますが、炭水化物1グラムで4kcal、脂肪1グラムで9kcalですから、脂肪摂取を控えることが大変効果的です。

<ジアシルグリセロールとは>
少し難しくなりますが、中性脂肪とはグリセロールという物質に脂肪酸が3つ結合した構造(TAG)をしており、いわゆる「油」です。

これに対して、脂肪酸が2つだけ結合した油もあり、これをジアシルグリセロール(DAG)といいます。同じような油であっても、小腸で吸収されてからの代謝が異なるため、中性脂肪の値や体脂肪への影響の程度に差があります。

通常の油TAGは、小腸で膵リパーゼという酸素のはたらきで、脂肪酸が2つはずれ、脂肪酸ひとつだけが結合したモノアシルグリセロール(MAG)に分解されます。それぞれは吸収された後、小腸でまた中性脂肪に再合成され、血液中に放出されます。

一方、DAGは中性脂肪へ再合成されにくいため、食後の中性脂肪の上昇が小さく、また体脂肪の蓄積も少ないといわれています。最近、DAGを利用した機能性食品が開発されています。しかし、DAGの取りすぎもカロリー 過剰につながりますので、通常の油TAGとの置き換え程度にすべきでしょう。

<脂質低下作用のある機能性食品>
動物に含まれるステロールという脂質の代表はコレステロールですが、
植物には植物ステロールという脂質が含まれます。これは小腸でのコレステロール吸収を抑制する働きがあります。

<専門医に相談すべき病気>
中性脂肪の増加する病態には、糖尿病やある種のホルモン異常、稀には先天的な代謝障害もありますので、一度は専門の先生にご相談いただくのも大切だと思います。(再掲)
<大阪市立大学大学院代謝内分泌病態内科学  >