2008年06月21日

◆健康百話・「先生への御礼は?」

向市 眞知
〜「先生への御礼はどうしたらよいでしょうか」という相談をうけて〜

 以前ある病院から転勤された医師が、「次の病院では麻酔科と手術室の力量のぐあいで、思うように手術ができない」とこぼしておられました。

 医療は医師一人の力で完成しているものではありません。レントゲン、CTやMRIなどを鮮明に写し出す技師、それを読影する放射線科医、血液透析や人工心肺の機械、手術中のさまざまな機器の管理をする臨床工学士、術中術後までかかわる麻酔科医。これらは患者に見えないところでのスタッフです。

 目に見えるところでは、患者の日々のお世話や診療の介助をおこなう看護師、機能回復のためのリハビリ訓練士、回復に向けて食事形態の工夫をおこなう栄養師、歯科衛生師や言語訓練士による口腔ケアや嚥下訓練など、様々なスタッフの能力が発揮されています。
 
こんな風に考えますと、1人の患者にかかわっているスタッフが何と多いことかと驚いてしまいます。
まさに「チーム医療」です。医師1人の力で退院にこぎつけることはできません。ですから、感謝の気持ちを医師一人にするのでは私は片手落ちだと考えています。

「先生への御礼はすべきでしょうか?」という質問に来られる患者さんに対して私は次のように答えました。

 「感謝の気持ち、御礼の気持ちがおありになるのなら、ぜひお願いしたいことがあります。コマーシャルをしてください。とても良い治療をうけ、安心して入院できたと、ご近所に紹介して下さい」。
 
気を使った密かな御礼よりも、「あそこの病院スタッフは良かったよ」と大いにPRしていただくことの方が、とっても有難い「御礼」だと思います。

                        ソーシャルワーカー

2008年03月08日

◆健康百話 「認知症」には「散歩」が効果

                      向市 眞知

以前、住友病院神経内科の宇高不可思先生の「認知症」の講演を聴きに行きました。その時、「こんな症状があったら要注意!」という話から始まり、次の11の質問がありました。

1、同じことを何度も言ったり聞いたりする
2、ものの名前が出てこない
3、置き忘れやしまい忘れが目立つ
4、時間、日付、場所の感覚が不確かになった
5、病院からもらった薬の管理ができなくなった
6、以前はあった関心や興味が失われた
7、水道の蛇口やガス栓の閉め忘れが目立つ
8、財布を盗まれたといって騒ぐ
9、複雑なテレビドラマの内容が理解できない
10、計算のまちがいが多くなった
11、ささいなことで怒りっぽくなった

「これらがいくつかあったり、半年以上続いている時は専門病院へ行きましょう」といわれました。

私自身、同じことを言ったり、物の名前が出てこなかったり、置き忘れやささいな事で怒りっぽくなったなあと思い当たるフシがいくつもありました。専門診療の対象といわれてしまうと本当にショックです。

認知症というと周りの人に迷惑をかけてしまう問題行動がクローズアップしてその印象が強いのですが、新しいことが覚えられない記憶障害もそうです。また、やる気がおこらない意欲の低下もそうですし、ものごとを考える思考力や判断する力、そして手順よくし処理する実行力の低下も認知症の症状です。

認知症高齢者のかた自身の不安は、時間や場所がわからなくなったり、体験そのものを忘れていく中で暮らしているのですから、自分以外の外界のすべてが不安要因になってしまうのです。

ご本人は真剣に外界を理解しようとしているのですが、家族は「ボケ」「痴呆」ということばの印象から「認知症だからわからないだろう、理解できないだろう」と思い込んでいる例が多くみられます。
 
診察室でなんとご本人を目の前にして認知症高齢者の失態を平気でドクターに訴えたり、「母さんがボケてしまって」とはばかりもなく言ってしまったりします。

その瞬間にご本人はその家族に対してまた不安をつのらせてしまいます。また話を向けられたドクターも、ご本人を前にしてウンウンとうなづくべきか、ほんとうは困っているのです。うなづけば家族は安心しますが、ご本人はドクターへの信頼感をなくしてしまいます。

よく「まだらボケ」とか言いますが、「正気の時もあるからやっかいだ」と表現されるご家族もあります。しかしそれは逆で、やっかいと考えるのではなく正気の部分があるのならその正気の部分を生かして日常生活を維持するようにしむけてみませんか。
 
認知症があってもくりかえし続けている一定の日常生活はできるはずです。老年期以前の過去の生活を思い出させてあげると、高齢者は自分の価値を再発見し、意欲も湧いてくるとききました。

高齢者にとって脳機能の低下だけではなく、視覚や聴覚、味覚や嗅覚などの感覚もおとろえてきていることを理解してあげてください。すべてを「認知症」の一言でかたづけてしまわないで下さい。見えやすくする、聞こえやすくするというような場面の工夫で問題行動が小さくなることもあります。
 
「認知症だからわからないだろう」と思い込むのは大まちがいです。「言ってもしかたない」と決めつけるのは悪循環です。認知症の方の感じる外界への不安を考えると、情報が遮断されると余計に不安が大きくなります。

どしどし情報を与えることが不安の軽減につながります。そのために外出しましょう。認知症には散歩の効果があります。外界の空気は聴覚、視覚、嗅覚への刺激になり、脳の活性化につながります。

医療ソーシャルワーカー
(おおさかシニアネットより転載許諾)

2007年10月10日

◆健康百話・「切らずに治せるがん治療」

田中正博(医師)


 がん治療の3本柱といえば、手術、化学療法(抗がん剤)と放射線療法です。副作用なく完治する治療法が理想ですが、現実にはどの治療法も多かれ少なかれ副作用があります。

がんの発生した部位と広がりにより手術が得意(第一選択)であったり、化学療法がよかったりします。
 
また病気が小さければ、負担の少ない内視鏡手術で治ることもあります。 放射線療法は手術と化学療法の中間の治療法と考えられています。 手術よりも広い範囲を治療できますし、化学療法よりも強力です。

昔から放射線療法は耳鼻咽喉科のがん(手術すると声が出なくなったり、食事が飲み込みにくくなる、など後遺症が強い。)や子宮頚がん(手術と同じ程度の治療成績)は得意でした。 最近は抗がん剤と放射線療法を同時に併用することで、副作用は少し強くなりますが、治療成績が随分と向上しています。

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2007年07月03日

◆脳梗塞「 2時間59分だとOK!」

安井敏裕 (大阪市立総合医療センター・脳神経外科部長) 

脳卒中とは、脳に酸素やブドウ糖などの栄養を送る血管が「詰まったり、切れたり、破裂して」、にわかに倒れる病気の総称である。脳卒中には、脳梗塞(詰まる)、脳出血(切れる)、くも膜下出血(破裂)の三種類ある。

 この病気の歴史は古く、「医学の父」と言われているヒポクラテスは既に今から2400年前の紀元前400年頃に、この脳卒中の存在を認識し「急に起こる麻痺」という表現で記載している。脳卒中による死亡率は日本では癌、心臓病に次ぎ、第三位で、毎年15万人程度の人が亡くなっている。

 しかし、本当に問題となるのは、脳卒中が原因で障害を持ち入院あるいは通院している人たちが、その約10倍の150万人もいることである。現在、脳卒中の中では、脳梗塞の発生頻度が突出して多い。2分20秒に一人が脳梗塞になっていると言うデータもあり、全脳卒中の70%程度を占めている。

 この最も多い脳卒中である「脳梗塞」について、大きな治療上の進歩があったので紹介する。

脳梗塞は、脳の動脈が血栓や塞栓という血の固まりのために詰まることで起こる。この血の固まりで閉塞さえた血管から血流を受けていた部分の脳は、いきなり脳梗塞という不可逆的な状態になってしまうのではなく、数時間の猶予があり、徐々に脳梗塞になる。

 この数時間の間に血流を再開してやれば、再度、機能を回復できることになる。いわば、「眠れる森の美女」のような状態で、医学的には、このような状態の部分の脳を「ペナンブラ」と言う。見方を変えると、この部分は、血流が再開しないと数時間後には脳梗塞という不可逆的な状態となってしまう訳である。

 このペナンブラの部分に血流を再開する方法として、古くは開頭手術をして、目的の血管を切開し、中に詰まっている血の固まりを取り除く方法を行っていたこともあるが、それでは、多くの場合に時間がかかりすぎ、再開通させた時には、ペナンブラの部分は既に脳梗塞になっている。また、間に合わないばかりか、出血性梗塞というさらに悪い状況になってしまうことさえある。

 開頭術の次に登場した再開通法は、カテーテルという長い管を血管の中に通し、その先端を詰まった部分にまで誘導して、血栓を溶かす薬を注入する方法である。

この方法では開頭手術よりも早く、血管を再開通させることができるが、この方法であっても、血管が閉塞してから6時間以内に再開通させないとペナンブラが脳梗塞になってしまうことが防げないし、間に合わずに血流を再開させた場合には、やはり脳出血が起こってしまう。

 このようなことから、一時、我々脳卒中に関わる医師は、口には出さないが、最も理屈にあった治療法である「急性期に閉塞血管を再開通させて脳梗塞になることを防ぐ」と言う治療を諦め、虚無的になっていた時期がある。再開通させることを諦め、梗塞に陥ってしまった脳自体の治療として、脳保護薬や低体温療法へと興味が移行していた時期もあった。

 しかし、米国で1996年から特別な手技や道具が不要で、ただ静脈内注射するだけで詰まった血管の血栓を溶かしてくれるアルテプラーゼと言う薬の使用が始まり、2002年にはヨーロッパ連合(EU)でもこの薬剤による血栓溶解療法が認可された。

わが国でも日本脳卒中学会を中心にこの薬の早期承認を厚生労働省に求めたが、「日本人を対象とした治験で良い結果が出ない限り承認できない」という厚生労働省の方針に答える準備のために時間がかかり(drug lag)、米国から遅れること約10年の2005年10月11日に漸く承認された。

 この薬は血管に詰まった血栓を溶かしてくれる血栓溶解剤で、発症後3時間以内に静脈内注射するだけで良好な予後が得られる。

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2007年04月20日

◆最近の泌尿器科腹腔鏡手術

                        坂本 亘

最近の泌尿器科領域の腹腔鏡手術をご説明します。腹腔鏡手術とは、1cmぐらいの小さな穴をお腹に数箇所あけて、ガスで膨らませたお腹のなかを、小さな穴から挿入した内視鏡を使ってテレビ画面に写し、テレビ画面を見ながら、別の小さな穴から挿入した鉗子やはさみを使って行われる手術です。
 
最大のメリットは、小さな傷で手術が行われるため、術後の痛みが少ないこと、早期離床や早期退院が可能です。 問題は、手術は難しく一定の技術が必ず要求されることです。
 
泌尿器科で初めて主な腹腔鏡手術がなされたのは1991年の腹腔鏡下の腎摘出術ですが、その後、十数年の間に瞬く間に世界中に広まり、現在では、多くの施設で、さまざまな泌尿器科手術が、腹腔鏡で行われるようになっています。

 例を挙げますと、悪性腎腫瘍に対する腎全摘出術、腎部分切除術、腎尿管全摘除術、副腎腫瘍摘除術、睾丸腫瘍に対する後腹膜リンパ節郭清術、前立腺癌に対する前立腺全摘除、小児領域では腹腔内停留睾丸、水腎症に対する腎盂形成術、膀胱尿管新吻合術などがあります。
前立腺全摘除、腎部分切除、腎盂形成術など、腹腔鏡では特に難しいとされてきた縫合操作を必要とする手術も、普及してきています。

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2007年01月10日

◆3時間以内の搬送

                 毛馬一三
脳の病気も心臓の病気も怖い。父親が68歳で、また私のすぐ下の弟も45歳で、「脳溢血」で亡くなった。家系が高血圧症みたいで、私自身も40歳を境に血圧が閾値を越えるようなったため、以後病院の血圧降下剤を朝夕服用している。子供の頃から偏頭痛持ちで、加齢と共に頭痛に襲われる度に、「脳溢血」ではないかと身が縮む思いがする。

今は、大阪市総合医療センターで月1度、同センター脳神経外科の安井敏裕部長の外来診察を受けている。診察毎の問診、血圧測定に加え、定期的に血液検査やCT検査を受けて、「とくに症状に問題はない」との診断結果が出ると、ホット胸をナデ降ろす。

その安井敏裕部長が、1月20日(土)午後2時から大阪市総合医療センター3Fの「さくらホール」(定員350人)で開かれる市民公開講座で講演する。その講演の演題が、なんと「もし脳卒中になったら」だった。脳卒中になった本人があれこれ手筈できる訳はないので、<脳卒中になった肉親を発見したら、家族はどうしたらいいのか>、であろうと考えた。

数日前の定期診察のとき、安井部長に探りを入れてみた。部長はパワーポイントを使用して約1時間講演する予定だと説明したあと、腰を抜かすようなことを告げた。

<脳溢血で倒れたら、2時間59分以内に専門病院に搬送してください。3時間以内だと助かる可能性は大です。3年くらい前にその時間内だと助かる薬が出たからです>と述べた後、<大切なことは、倒れた時間をしっかり確認し、それを医師に必ず知らせることが必須条件。搬送後の各種検査には最低でも1時間かかります。一刻を争うことをしっかり認識していて欲しいです>。安井敏裕部長は今度の講演よく話したいと言っていた。

3時間が勝負の時間か。そういえば、元NHK同期記者の石岡荘十氏も、本欄で「脳溢血」「心筋梗塞」は、3時間内に病院に搬送されれば、救命率は高いと書いていた。

そこで、「3時間の搬送」とは内容が少し異なるが、石岡氏が日本一メルマガ「頂門の一針」に掲載した「異端の心臓外科医」を、同メルマガの許諾を得て転載することにした。心臓手術で生を与えてくれた一人の医師が浮かび上がる。命の尊さを考えるのにいい機会だと思うからである。

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