渡邊 好造
筆者が最初に就職したのは、今から遡ること51年前の昭和36年(1961年)、ある中堅広告代理店の調査部だった。
仕事は市場調査を実施し、報告書にまとめる。そのかたわら会社が発行するPR用の広告専門誌の編集も担当した。こちらの方はすぐには執筆させてもらえず、大学やテレビ局の知名人に原稿を依頼し、催促し受取りにいくことで、いわば使い走りであった。当時はファクスもない時代で、面倒でもわざわざ受け取りにいく必要があった。
その代り執筆者のご高説を伺うこともでき、後々の仕事に大いに役立った。なかでも今もご存命の国立大学の先生から教わったいくつかのアドバイスは今も脳裏から離れない。そのうちの印象的なことを、、。
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<世の中の仕事には、「実業と虚業」の世界があるという。今では”虚業”という言葉は当たり前だが、当時は目新しかった。
言うまでもなく、「実業」とは農業・工業・商業・水産業など生産、経済に関する事業で、そうした事業に携わる人を実業家と称した。これに対して「虚業」とは、実業をもじった語で堅実でない、実を伴わない事業のこと。実務を伴わずただ権利譲渡などを目的とする名義だけの仕事に携わる人が虚業家である。
例えば、銀行などの金融業、証券の売買を主業務とする証券業、生命・傷害などを対象とした保険業、”物書き”ともいわれる評論家、広告代理店業も、その範疇に入る。>
さらに氏が強調されたのは、<「虚業の”物書き”として多少とも一目置かれるようになるには、常識的なことを言っていては駄目だ。世間で常識になっていることをまず否定してかかること。その否定の根拠を3つ以上あげればなるほどと納得させられる。このポイントを思いつかなければそれ以上論ずるのを諦めればいい。虚業家に徹している限り、多少の論点のミスはまず追求されることはなく、間違っていても許される。
しかし、実業家として生きようとするならこれは通用しない、今何が求められ、何をしなければならないかを真剣に考え、実行しなければならない。会社経営者・役員(虚業であっても)、公務員、教師、政治家などに間違いは許されない」という。>
いささか強引な論法であることは、言うまでもない。
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かく言う筆者も今やリタイヤしたものの虚業家の一員として勝手なことを放言してきたことは認めざるを得ない。とはいえ、先輩大先生のこれらの言葉を思い出しながら、ふと思い至ったのは今の政治家の有様である。
国の行く末を左右する政治家は、「実業家であって虚業家」であってはならない。世間受けすることだけの選挙民に媚びるだけの言葉では意味がない。何が何でも実行する責任感が求められる。
ところが、最近の政治家の発言は、どれも世間受けする虚業の評論家のそれと同じであることが多い。
まずその筆頭は”鳩山由紀夫”。選挙スローガンに「政治を科学する」、首相に就任するや「歴史を変えるのはわくわくする」、「日本の歴史が変わると思うと身震いする」として何をするのかと思っていたら、そのあととんでもないことを言い出した。
沖縄普天間米軍基地を「最低でも県外」、アメリカ大統領に「トラスト・ミー」、あげくに「あれはリップサービス」とのたまい、日米関係を悪化させ、沖縄県民を馬鹿にした。
”菅直人”は、独裁と反文明主義を賛美、自衛隊の指揮監督権が自らにあることも知らず、元財務大臣でありながら経済知識ゼロの発言を繰り返した。
”小沢一郎”は、心の片隅にも持ち合わせない「国民の生活が第一」などという変な名前の党をつくった。隠し金4億円の仕入れ先も説明しないで、国民の生活が第一とは聞いてあきれる。
虚業家の見本のような政治家として見落としてはならないのは、”橋下徹”大阪市長である。
この人は非現実的なプロパガンダをぶち上げて人びとを一旦喜ばせ、同時に社会不安を煽り、あたかも既成権力を解体するかのような錯覚を起こさせている。
教員の質の相対評価が低ければ分限免職にするとの条例案、水道局の民営化、大飯原発再稼働の政府案に対して倒閣宣言、「大阪都」構想実現の法案が成立すれば、大阪維新の会は国政進出しない、などなど大きな主張は、見事に撤回してしまった。
逆に、大阪市民として真面目に納税を果たしてきた今の高齢者に対し、「恩恵」として大阪市が心からの優遇策として永年試みてきた「敬老パス」を有料化するという高齢者いじめ。更には癌検診の廃止、文楽や交響楽団など文化事業への補助金打ち切りといった、チマチマとしたお題目の「節約」を断行する腹だ。
「節約」したかったら、利用していない見事な大川沿いの「市長公邸」、水道局のプール付の「研修所」など、無駄な市の施設を処分すべきではないか。
まず、高齢者いじめや文化振興の阻害なごを、国政を目指す首長がすすんでやることではあるまい。
この他、虚業家と化した政治家はまだまだいる。その見本が月刊誌「新潮45」7月号に掲載された”落選させたい政治家12人”ではないか。
この覧で取り上げた4人以外に、輿石東、田中直紀、原口一博、小宮山洋子、枝野幸男、福島瑞穂、石原伸晃、小泉進次郎ら、虚業家と化した政治家がずらりと並べられている。興味のある方はそちらの記事でどうぞ。(完)