石岡 荘十
東京都にはドクターヘリを導入する考えのないことが、明らかになった。
8/5(火)、本メルマガで「5千フライトの検証」と題して、2007年度ドクターヘリの運用実績を分析したリポートをお届けした。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4184663/
これについて、8/9(土)、「頂門の一針」の常連執筆者、毛馬一三氏から「石岡の原稿は、実績検証にかこつけて、東京都のケツを叩く狙いがあるのでは?」とその意図を見通した的確なご指摘を頂いた。
http://www.melma.com/backnumber_108241_4188847/
じつはその通りで、都民の1人として海外先進国並のヘリ運用を期待していたのだが、その後、関係方面に確認したところ、都はその考えを事実上、まったく持っていないことが分かった。
その根拠は---。
まず、都・福祉保険局・救急災害課の室井豊課長。「・東京には救急車の数も多く、病院も多いので都心部でドクターヘリの必要はない。
島嶼部(離れ島など)や三多摩地域については、江東区・新木場にある消防庁へリポートから医師を乗せて飛ぶので問題ない」と素っ気無い。
これに対して、元警察庁長官で、ドクターヘリの普及に努めているNPO「Hem-Net」(救急ヘリ病院ネットワーク)の国松孝次理事長は、筆者へのメールでこう答えている。
「東京消防庁はドクターヘリを導入する気は、持っていません。東京は、たしかに、救急施設も救急車も、他の道府県と比べれば、圧倒的に多く、交通網もよく整備されていますから、へり救急の必要度は、比較的低いとは言えます。
ただ、三多摩地域など、島嶼部以外でも、ヘリを使った方がよいところは、無いないわけではありません。東京消防庁は、7機も消防ヘリを持っていますから、需要はまかなっていると言っています。
ただ、問題は、消防庁のヘリは、すべてへリポート常駐で、病院に置かれているわけではありませんし、常に救急仕様でスタンバイしているわけでもありませんから、ドクターリと比べて、医師を搭乗した迅速な現場出動には難点があります。
この点を改善し、手持ちの消防へりをもっとドクターヘリ的に運用するのが、課題だと思います」。
前にも書いたが、ヘリの利点は「過疎」だけでなく「過密」をも軽々と飛び越える機能を持っていることだ。したがって、ロンドンやベルリンの状況にみられるように、欧米の先進国では「都市部だからヘリが不必要で、田園部だからヘリが必要といった議論はあまり聞かれず、必要なら、どこでもヘリを使う、その用意をしておく」という考えだ。
ドイツには、「15分ルール」というのがあり、都市部(過密地域)、田園部(過疎地域)にかかわらず、全国どこでも15分でドクターヘリが患者の元に着き、直ちに治療を開始する体制になっている。
東京ではどう見たって、江東区新木場のヘリポートに医師が駆けつけるだけで15分はかかるだろう。それから現場に飛ぶわけだから、先進国のドクターヘリに較べ、間違いなく治療着手の時間は遅くなる。その分、救命率は下がる。
なるほど、人や車が過密な都市部にヘリを降ろすためには、安全に、地上にスペースを確保しにくいという困難な問題はある。しかし、ロンドンではピカデリーサーカスにだってふわりとドクターヘリは降りる。
銀座4丁目の交差点に降ろせないはずは無い。が、こんな芸当を実現するためには、警察や消防など地上の防災・救急関係機関との緊急の際のコミュニケーションが欠かせない。
東京都の担当者は、「そんな海外のケースなど研究したことも無い」と恬として自らの無知を恥ずる気配もない。「都市部でも効果があるか、大阪の実績を見守りたい」と他人事だ。
となると、「私どもは、いまのところ、置き去りにされている『地方』を重点に、そこに見られる救急医療の『格差』を解消するための有効な手段にドクターヘリがあるではないかということを専ら主張しており、その意味では、東京は、あまり眼中にありません。
決して、東京が完璧というわけではありませんが、それより先に地方だよね、というところです」という。国松理事長にも見捨てられたようなのだ。
霞ヶ関に巣食うで日本最高の頭脳集団(?)が、鉛筆なめなめ省益を描き、政治を振り回すのも困ったものだが、消防ヘリとドクターヘリの違いも分からない地方官僚に救命救急を託している都民も、気の毒だ。
大地震の懸念も指摘されている。数十万人と予想される被災者の搬送を、地上をのろのろ走る“お猿の駕籠屋”に、東京都はお任せするつもりらしい。 (ジャーナリスト)
20080813