加藤 達也
【珍島(チンド)(韓国南西部)=加藤達也】多数の船がひしめく海上には、鼻を突く油の臭いが漂っていた。19日に訪れた旅客船「セウォル号」の沈没現場。「無事発見」の知らせを願う安否不明者の家族の希望を背に、韓国海洋警察のダイバーたちは疲労をにじませながら必死の捜索を続けていた。
沈没した海域は珍島から南西に約20キロ。記者が乗った全長約15メートルの釣り船は午前7時50分、珍島の小漁港、西望(ソマン)を出港した。
中小の島々の間を縫うように進みながら、暗礁が潜む海域であることを実感する。うねりは想像以上に高く、風も強い。陸の気温は11度だったが、釣り船の船長は「風もあるし、体感温度は7、8度以下だろう」と話した。
出港から約1時間後、海上に巨大なクモの足のような物体が姿を現した。船体引き揚げに備えて投入された巨大クレーンだ。現時点では作業開始のメドは立っていない。
さらに進むと、強い油の臭いが鼻を突いた。甲板に出ると、沈没地点を示す大きなエアバッグのような形をした黄色いブイが見えた。おびただしい数の艦船が目に入る。
海軍の救難チームの隊員とみられるダイバーが、海上に頭を出してはボート上の隊員に引き上げられ、倒れ込む姿が見えた。鍛えられたダイバーでも潜水時間は十数分が限度という厳しい状況がうかがえた。
透明度の低い緑色の海面には油が漂う。セウォル号から流出した燃料やオイルだ。海域には海洋警察や海軍の艦船のほか、世界中のメディアがチャーターした船がひしめき合っていた。
しばらく徐行して進んでいると、側面に「海洋警察」と書かれたオレンジ色のボートが急接近してきた。記者が乗った釣り船にぶつかると、乗組員が「接近しすぎるな」と大声で怒鳴って走り去った。
時計を見ると、異常が起きたセウォル号が救難要請信号を発した午前9時前に近づいていた。
この海の下に、大勢の人々を乗せた巨大な船が転覆して沈んでいる。そう思った途端、釣り船が大きく揺れた。
冷たい手すりにつかまっていなければ海に投げ出されてしまいそうな激しさだ。もしも自分が乗った船が突然沈み、暗い船室に閉じ込められたら…。そんな恐怖感にとらわれた。
産経ニュース4月20日(日)7時55分配信