2014年04月30日

◆「核」が日中開戦を抑止する I

平井 修一


(承前)平松茂雄氏の論考「日本核武装の緊急性」から――。

            ・・・
中国は核ミサイル戦力がひとまず完成した1990年代以降、引き続き核ミサイル戦力の向上に重点を置くと同時に、通常戦力の迅速な構築に力を投入している。

それまでのような大規模な兵力を保有するのではなく、核ミサイル戦力の構築により大規模戦争は起きないとの前提に立って、自国の国境防衛、特に領土・領海問題に関する隣接国・地域での紛争、周辺地域・海域で生起する局地紛争、国内の都市ゲリラ、民族紛争など、小規模でも局部戦争に迅速に対応できる水準の高い軍事力の構築が進んでいる。

最近数年来の周辺海域での中国の活動を見ていると、中国は南シナ海、東シナ海、黄海に対するそれまでの権利の主張を超えて、積極的にそれらの海域の支配を実行する段階に移行してきているとみられる。

さらに西太平洋にも進出し始めており、このまま進展すると、台湾は南シナ海、東シナ海、西太平洋から、中国の海軍力によって包囲されることになる。中国の海洋進出の当面の目的は「台湾の包囲」による「台湾の統一」である。

こうした中国の活動の背景には、核ミサイル兵器の成長、それと緊密に結びついた宇宙開発がある。それほど遠くない将来、東アジアにおける米中間の軍事力バランスが均衡に近づくと、日本に対する米国の「核の傘」はさらに大きく揺らぐことになるであろう。

■墓穴を掘った対中ODA

このように飛躍的に成長した中国の軍事力を背後で支えてきたのは、日本の経済援助である。だが、そのことを日本人はほとんど知らない。なぜかといえば、誰もそれに触れようとしないからである。

筆者は平成19年(2007)に「中国は日本を奪い尽くす」(PHP研究所)で次のように書いたが、ほとんど注目されることはなかった。

日本は中国に対して昭和55年(1980)からODAなどで6兆円を超える資金・技術を援助し、中国経済発展の根幹となる鉄道・港湾・発電所などのインフラ建設を支援してきた。日本の対中ODAの最も重要な点は、金額ではなく、中国の経済成長の土台を築く上で重要な役割を果たしたことにある。

日本が整備したインフラがあってこそ欧米をはじめとする世界各国が中国に投資し、貿易を行うようになったのである。その経済効果は援助額の数百倍、数千倍、いやそれ以上に値する。今日の中国経済の発展は、日本のODA援助を抜きにして論じることはできない。

経済インフラは即、軍事インフラである。中国の軍事大国化の基盤は経済大国化にある。中国経済は昭和55年(1980)から平成22年(2010)の30年間に、毎年平均10.4%の成長率で増大した。この間にGDPは2020億ドルから5兆7451億ドルへと25倍以上に増大した。

軍事費はGDPの成長率をさらに上回って増加している。平成元年(1989)から平成19年(2007)までの18年間、基本的に毎年二桁台で伸びている。

日本は、自国を勢力圏に?み込むことを目標としている国に、巨大な経済援助・技術援助を行い、中国の大国化を積極的に支援してきたのである。そればかりか、ODA援助が完了した現在、別の形での支援を検討していると聞いている。

こうした趨勢の中で、日本はどうすべきか、どのように対応し、振る舞うべきかについて、日本の「最大のテーマ」であるにもかかわらず、中国の軍事力、核戦力について、わが国ではほとんど論じられていない。

世界で核ミサイル兵器を保有(公表)している8か国のうち、ロシア、中国、北朝鮮の3か国は我が国の隣国である。将来仮に台湾が中国と統一し、南北朝鮮が統一されると、わが国の周辺地域で、核兵器を持っていない国は日本だけとなる。しかも、わが国とそれらの国との間には、領土問題をはじめとして、いろいろ解決が難しい政治問題がある。

有事の際に、冷静に国家として行動するには、その事態が起きる前に、自国のおかれている事態を冷静に直視し、冷静に対応できるように備えておくとともに、それを対外的に示しておく必要がある。それが抑止力となる。

我が国が3度核の被害国とならないためには「核抑止力」を持つことは不可欠である。

だが我が国には、世界で唯一の被爆国という「広島・長崎の呪縛」があることに加えて、中国が核ミサイル開発に邁進していた1970年代からの高度経済成長による「経済至上主義」の影響を受けて、政治指導者から国民に至るまで、国家意識とか安全保障に無関心になり、すべてを米国の軍事力、核戦力に依存し、「自分の国は自分で守る」という独立国家として至極当たり前の意識がなくなってしまった。

他方、1980年代以降、中国が進める「改革・開放」を積極的に支持し、経済的に支援していけば中国は経済成長につれて「近代社会」となり、日本と同じ「豊かな社会」となり、日本と同じ「普通の国」になるから、積極的に経済支援すべきであるという考え方が瀰漫した。

当時筆者は「とんでもない、そんなことをすれば、強くなった中国はかさにきて始末に負えなくなる」と警告したが、かえってバカにされたのである。

筆者が昭和35年(1960)に中国研究を始めたとき、指導教授から「中国人は相手より自分が強いと感じる場合にはかさにきてくることがある。よく覚えておくように」、またもう一人の教授から「中国人は右手で人の横面をひっぱたいておきながら、反対の手を出して金や物を要求することがある。気を付けるように」といわれたことがある。

当時の中国は後れた貧しい国であったから「まさか」と思ったが、いつの間にか「まさか」が現実になってしまった。そうなるうえで日本のODAおよび経済協力が重要な役割を果たしたのである。

■迫りくる脅威を前に

核武装の目的は「核抑止」、すなわち自国の核により他国からの核攻撃を抑止することにある。だが我が国には原発ですら反対する勢力がいるから、核武装はまさに論外ということになる。

日本の政治家やマスコミ、オピニオンリーダーたちに共通している情けない現実がある。やっかいな問題が起こる兆候には目を向けようとしないくせに、一度問題が起きるとにわかに関心が生まれ、過剰なまでに加熱するが、しばらくして沈静化すると忘れてしまう。これを飽きもせずに繰り返している。

最近の事例をあげるならば、中国漁船による尖閣諸島の領海侵犯である。これまでに何回も起きており、そのたびに政府は振り回されているが、しばらくするとニュースにならなくなり、国民も忘れてしまう。海上保安庁の巡視船に中国の漁船が衝突する事態が起きるまで何も問題とならず、報道もされなかった。

衝突事件がなければ、領海侵犯が多発していたことを国民は知らなかったことになる。だが衝突が報道されると、衝突にだけ関心が集まってしまい、この事件の日中関係に与える意味は主たるテーマにならず、そのうち衝突のビデオを持ち出した犯人探しになり、名乗りを上げた人物が出たら、肝心の尖閣諸島問題の本質はどこかに吹っ飛んでしまい、今回も1か月ほどでニュースにならなくなってしまった。

何年か経ってまたニュースとなるだろうが、その度に中国の態度は強硬になっていく。このままでは、いずれ中国によって尖閣諸島が占拠される日が来ることは間違いない。こんなことを何回も繰り返してよいはずがない。

政治家やマスコミ、オピニオンリーダーたちが専門家のふりをしながら本質を理解していないのに対して、日本国民は感覚的に「中国の脅威」「中国の核の脅威」を敏感に感じている。筆者の通う理髪店の主人やマッサージ師など一般の国民は中国や北朝鮮の核兵器に対して危機意識を持っている。

「日本の核武装と憲法改正問題」が筆者に与えられたテーマである。憲法改正には国会議員の3分の2以上の賛成票と、国民の過半数の賛成が必要である。さらに核不拡散条約(NPT)を脱退する必要がある。だが、日本が置かれている厳しい現実を国民が知るならば、案外すんなりと片付くのではないかと筆者はいつも思っている。

我が国の政治家、マスコミ、オピニオンリーダーたちは「憲法改正」を叫ぶ前に、日本の置かれた厳しい現実をしっかり国民に説明し、勇気を持って核武装の緊急性を訴えれば、憲法改正はそんなに難しい問題ではないであろう。
・・・
平松氏の論考紹介は今回で終わりにする。(つづく)(2014/4/30)

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