名村 隆寛
【ソウル=名村隆寛】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記最側近の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)・朝鮮人民軍総政治局長ら高官が4日、仁川アジア大会の閉会式への出席を名目に「電撃的訪韓」(韓国メディア)をした。国際的に孤立する中で対南接触を図り、経済苦境の打破や韓国懐柔を狙った、金正恩指導部の決断とみられる。
アジア大会をめぐり北朝鮮は当初、大規模応援団の派遣を韓国側に提案した。韓国世論の懐柔が狙いとみられたが、韓国側と折り合いがつかず実現できなかった。こうした中、金第1書記は、最側近ら“大物”を急遽(きゅうきょ)、派遣した。
韓国メディアはいずれもトップニュースで報じ、実現しなかった朴槿恵(パク・クネ)大統領との会談や金第1書記の親書持参の可能性にまで触れ、南北関係改善への期待感を高めた。
北朝鮮と中国の関係は昨年12月、それまで中国とのパイプ役を果たしていた張成沢(チャン・ソンテク)氏が処刑されて以来、悪化を続けている。中国からの経済支援が絶たれ、北朝鮮の財政的な困難は一層深刻化している。
今年1月から北朝鮮は韓国に対話攻勢をかける一方、米韓合同演習などに反発してミサイルを発射。米国人3人を抑留したままで、米韓への牽制(けんせい)も続けている。拉致被害者の再調査で日本との交渉も停滞している。対外関係での明るい話題といえば、李秀勇(リ・スヨン)外相が最近のロシア訪問で行った外相会談くらいだった。
こうしたなかで北朝鮮は、アジア大会閉会式を利用して南北対話ムードを演出。韓国側の歓迎ぶりやメディアの報道を見る限り、現時点で北朝鮮の計画は成功したかのようだ。
ただ、サプライズで相手側を感激させ交渉事を自らのペースに持ち込むのは、金正日(ジョンイル)体制当時から北朝鮮が使ってきた伝統手法でもある。韓国の情報当局は、こうした北朝鮮の心理戦術も熟知している。
朝鮮半島の統一を最重要課題に掲げる朴槿恵政権の心中を見透かしたかのような北朝鮮の行動に、どう対処していくのか。突然の融和姿勢の真意を、韓国政府は見極めようとしている。産経新聞 10月5日(日)7時55分配信