2014年10月29日

◆岡崎久彦さんの想い出

室 佳之


元外交官の岡崎久彦さんが亡くなったことをニュースで知り、少なからぬ衝撃を受けている。岡崎さんからすれば、小生なぞ顔見知りでも何でもないただの他人だが、小生にとっての岡崎さんは、小生の歴史観を大転換させた方である。

小生と岡崎さんとの出会い(正確には岡崎さんの著書との出会い)は、15年前に遡る。99年の韓国留学中、1学期終了後の6月下旬だったか、何かの用で数日だけ日本に戻った。

再度渡韓しようと成田空港の出発ロビーで、ふと機内での退屈しのぎに本でも買おうかと本屋へ立ち寄った。その時に、小生の眼にとまったのが『小村寿太郎とその時代』(PHP)だった。

後から分かったことだが、この本は岡崎さんの近代日本外交史シリーズの先駆けとなる著書だった。以後『○○とその時代』という具合に、○○の部分に著名外務大臣の名前を付し、数冊に及ぶ外交史シリーズを著された。

小村寿太郎を通して知った近代日本は昭和52年生まれの小生にとって、それはそれは衝撃以外の何物でもなかった。1世紀前の日露戦争にて10倍近い兵力を誇るロシア軍勢に勝利した日本という国に、驚くとともに感動した。

頂門の一針読者には『こいつはそんなことも知らない、おバカ学生だったのか』と思われるかもしれない。何を隠そう20歳まで朝日新聞で育ち、真っ赤に染まっていたのだ。その後、少しずつ転向を始めていたのだが、トドメはこの『小村寿太郎とその時代』だった。

『留学中、おまえは何やってたの?』と訊かれれば、恥ずかしい話だが『日本近代史を学んでいた』と答えるので『え?何で韓国行ったの?』と訊き返されてしまう。

しかし、それほどまでに留学中は、母国日本に対する愛情が醸成された時期だったのだ。成田空港であの本屋へ立ち寄らなかったら今の自分はない。

帰国後は、同じ外交官出身で岡崎さんより2歳年下の教授のゼミに入った。今から思えば無謀とも云えるのだが専任教授に『岡崎久彦さんを呼んでお話してもらうことはできないでしょうか』などと平気で尋ねたことがある。

教授はいつもの冷静な表情で『岡崎某はね(教授は岡崎某と確かに云った!)、忙しいんだねぇ。月1回は会合で会うんだが、彼は23区より外へは出てこられないんだよ』(小生のキャンパスは八王子だった)』。月1回顔を合わせている専任教授が羨ましかった。

ちなみに、小生はこの15年のうち、小村寿太郎の生家である宮崎県飫肥に2度足を踏み、小村寿太郎の墓へ手を合わせてきた。小村寿太郎を真似て、鼻の下の髭だけ伸ばしたこともあるが、薄髭で全くサマにならず周りから随分と白い目で見られた。それもこれも、『小村寿太郎とその時代』に端を発している。

大学卒業後は、岡崎信奉者から少し変わって、岡崎さんから少し距離を取り始めた。云わずと知れた『日米同盟強化』をライフワークにされていた岡崎さん。でも、ある方面では『アメリカ追従主義者』のようなレッテルを張られていた。正直なところ小生もここ数年はそんな感じがした。

いや、岡崎さんに限ったことではない。メディアでもそうだ。ある時はアメリカの横暴に反発する割に、総理が靖国神社へ参拝しようものなら『アメリカが怒っている』などと都合よくアメリカの見解を引用して追従したりする。そういう風潮に辟易していたから、自然と『自主防衛』という言葉が小生にはしっくりくるようになった。

アメリカがどうのこうの云う前に、日本の国防を強化して、アメリカに何でもお伺い立てたり、顔色うかがうのをやめたいと思うようになった。必然的に、岡崎さんの主張することに、ん?となることが多くなった。

しかし、それでも15年前に、小生を日本人として目覚めさせたあの名著を世に知らしめた岡崎久彦さんは特別な存在である。小生が数年前から所属している日本李登輝友の会の副会長の一人であられた。

昨年だったか、間近でその姿を見ることもできた。さすがに、話しかけることはできなかったが。

岡崎さんは、韓国での駐在経験もあったから、韓国にも造詣が深かった。『隣の国で考えたこと』も小生の本棚に常に置かれている1冊である。 戦後の日本外交を第一線で担ってこられた岡崎久彦さんのご冥福をお祈り申し上げます。(むろ よしゆき)

            
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