2015年02月20日

◆いよいよ“宗教の世紀”の始まり?B

眞鍋 峰松



1990年春のある日、仕事の関係で偶然に当時国立民族博物館長をされていた梅棹忠夫先生にお会いし、じっくりとお話を伺う機会があった。 

その当時は、中東地域ではイラン・イラク戦争(1980〜1988年)がようやく停戦を迎えやっと落ち着きを取り戻した時期だったが、1900年夏のイラクによるクウェート侵攻の直前で、中東地域の随所で活発な軍事活動が行なわれていた時期。 

これらの軍事紛争の発生の故だったのか、梅棹先生の口から発せられた話題の一つが、イスラム教というのは一体如何なる宗教なのだろうか、何故同じイスラム教内部で血生臭い戦争までに至るような事態が起こるのだろうか、という慨嘆混じりのお話であったことを思い出す。

この高名な碩学の学者でも、当時は一般にイスラム教への理解が薄かった時代のことである。

それでは、ここ最近の中近東でのイスラム国を巡る戦闘やイスラム教を奉じる諸国での血生臭い内紛の状態、世界各所で頻発するイスラム過激派のテロ行為などを、今は亡き梅棹先生がご覧になったとしたら、どう仰るだろうかと想像する。

私は、“21世紀は宗教の世紀”、つまり、自由主義国と共産主義国との絶えざる紛争が世界中で勃発した20世紀からの変遷を論じるだけの知識・能力を全く持ち合せていない。 

だが、この“宗教の世紀”の名称付けに間違いが無いとしたら、そこから容易に想像できることは、宗教に関わる紛争は社会・経済制度の優劣・競争のような性質のものではなく、人間同士・民族間の信条に関する深刻な対立を齎し、当然のこととして、容易に決着の着くことではないだろう、また、簡単には根本的な解決法を見出し得ないだろう、という推測である。 

もし、それが宗教間における差別・優劣意識に結びつく場合には、諸々の国際的・国内的な経済力格差が少々改善されたとしても、容易く解決し得ないだろうという悲観的な見方が成り立つ。
   
ひろさちや氏は前出の本の中で、宗教とは何かについて、「それは人生や死後の世界について考える思想」とされ、別の本の中で、宗教は次の三つの条件、

つまり、
@人間は不完全な存在であると認識すること。(逆に言えば、超越的な存在を認める)、
A現実世界の価値観を否定し、彼岸的価値観に立脚していること。(平等・・神の前の平等)、
B人間としての決定的な生き方を教えてくれていること。(死後の世界の存在)、を充たすものとされる。 宗教は、このような人間存在の根源に関わる性格を有するが故に、宗教観を巡る紛争解決は非常に難しいのだ、と言える
  
幸い、日本という国は、色々な見方があろうとも、宗教については寛容な国柄である。 

それも、6世紀に遠くインドから中国・朝鮮を経て伝えられた仏教精神などから長年に渡り培われたお国柄のお陰と言えようか。

古く、インドのマウリヤ朝の第3代の王であるアショーカ王(BC268〜232年統治)の有名な岩石詔勅には「自らの宗教に対する熱烈な信仰により、自らの宗教をのみ賞揚し、あるいは他の宗教を非難する者は、こうするために、却って一層強く自らの宗教を害うのである。 

故にもっぱら互いに法を聴き合い、またそれを敬信するために(すべて)一致して和合することこそ善である。 けだし神々に愛される王の希望することは、願わくばすべての宗教が博学でその教義の善きものとなれかし、ということだからである」と示されている。          

アショーカ王は信教の自由を完全に認め、どの宗教も承認したのである。 この精神が遠く日本まで伝播したということだろう。 

中村 元東京大学名誉教授がその著書「東洋のこころ」(東京書房)の中で「アショーカ王における仏教は決して他の宗教と矛盾するものではありませんでした。ブッダというのは真理を覚った人です。真理を覚った人というのは、あらゆる真理を体得し実践する人です。だからその立場に立つと、他の教えと対立することがないのです。 

色々な思想が現れるのは現れるだけの理由があるので、それをよく見通してそれらすべてを生かして本質を発揮することを目指したのです。だから、彼の目指した仏教は、決して他の宗教に対立するような次元のものではない、こういう理想に基づいて帝王たちは統一国家を運営したのです。」と説いておられる。

“宗教の世紀”とは、現状から有体に言えば、今後とも世界中で血生臭い対立紛争が異宗教間、或いは同一宗教であっても異宗派間で発生するであろうとの意味だと解すれば、この他宗教・宗派への寛容さこそが、唯一の紛争解決の方策だと言わなければならないのだろう。 

だが、単なる政治・外交問題でないとしたら、果たしてこの解決の道筋を誰が示し得るのだろうか。 
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