2007年06月06日
◆「巴里だより」「子どもとレストラン」
岩本宏紀
・ レストランは大人のもの
ロンドン郊外の日本食レストランに入ると、隣のテーブルに二歳くらいの女の子を連れた日本人の家族がいた。女の子は始めは大人しかったが、そのうち大声で泣き始めた。おかあさんが宥めてもだめ。もちろんおとうさんでもだめ。我々が会話できないくらいの泣き声で、親御さんはひたすら恐縮しておられた。
ぼくが住んだことのある国、オランダとフランスではレストランは大人の領域だ。レストランで静かにできない子どもやナイフとフォークがきちんと使えない子どもは、 ベビーシッターと一緒に家で留守番するのが普通だ。
フランスの場合、大半の店が犬の同伴を認めている。足元の黒い毛皮が動き出してびっくりすることも珍しくない。きちんと躾けられた犬は、小さな子どもよりも確かに行儀がよい。この方針にぼくは賛成だ。
・デザートで釣る
さて、聞分けのない子であっても、十歳にもなれば大声で叱らなくても話せばわかるようになる。
そのとき急にレストランにデビューさせても子どもはまごつく。できることなら自分の娘には、
小さいときから少しずつレストランの雰囲気と作法に、慣れるようにしてやりたいと思っていた。
幼稚園と小学校低学年の二人の子を行儀よくさせるにはどうすればよいか、20年前ぼくが考えたのは次の2点だ。
(甲) 子どもが喜ぶ店に連れて行こう。(大好きな料理がある、お土産がもらえるなど)
(乙) デザートで釣ろう。
「いい子にしていたら、何でも好きなデザートを注文してあげるからね。その代わり、静かにできなかったらデザートは抜きだよ。わかった?」とレストランに入る前に言い聞かせるのである。
これは効果があった。駄々を捏ねたという記憶はまったくない。思い出すのはいつも、大人用の椅子にちょこなんと座り、デザートを待ちわびる嬉しそうな娘たちの笑顔である。
・椅子の高さ
この文章を書いていて、ふと思ったことがある。それは椅子の高さだ。高すぎると踵が床に着かず、落着かない。30分もすると膝や腿の裏が疲れてくる。ましてや脚が宙ぶらりんになっている子どもたちにとっては、大変な苦痛に違いない。
ピアニストの中村紘子がこんな経験を雑誌に書いていた。 教え子がレッスン中、いやに落着きが無い。ふと見ると脚をぶらぶらさせながら弾いている。そばにあったビール瓶のケースを持ってきて、その上に脚を乗せたら、急に落着いて弾くようになった。
レストランの高すぎる椅子に座らせられた娘たちは、脚が疲れて我慢できなくなっても、好きなデザートが食べたい一心で、大人しくしていたのだろう。いじらしい。どうしてこのことに気付かなかったのか、浅はかな父親だった自分を悔やむ。(了)
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