2019年05月15日

◆グアダル港に未来は無くなった

宮崎 正弘


令和元年(2019)5月15日(水曜日)弐 通巻第6078号 

 グアダル港に未来は無くなった。地元漁民たちの怒り
  バロチスタン州は政党乱立、テロ組織が跳梁跋扈し中国を敵視


5月13日、こんどはバロチスタン州の州都クエッタ近郊で警察の緊急展開
部隊のパトカーが襲撃され5人が死亡、十数人が重軽傷を負った。

パールコンチネンタルホテル襲撃事件から3日をおかずに、またテロ事件
が起きた。治安の悪さはまったく納まっていない。

パキスタン政府は、急遽、治安部隊をかき集める。おもに中国人の工事現
場の警備だが、退役軍人から予備役にも声をかけて、それでも足りずに民
間ガードマン会社に警備を依頼している。中国からも「中国版ブラック
ウォーター」がクエッタに派遣されている。中国人誘拐、殺人が頻発して
いるからだ。

どうしてこうまで中国がパキスタンで、怨嗟の的となったのか。

「われわれの漁場を政府は外国企業に売った。向こうは近代的大型船で漁
労、俺たちの生活が脅かされている。中国が開発に乗り出してから、最悪
の事態が連続している」

パキスタンの英字紙『ドーン』に掲載された現地の声である。

グアダル港にあって、親子代々漁業を営んでいた漁民の怒り、それを無視
してパキスタン政府は中国と協同で「一帯一路」プロジェクトを進めてき
た。「陸に上がって、いまからエンジニアになれと言われても、俺たちに
は漁業以外、なにも知らない」。

「なんのことはない。地元に裨益せず、利益の91%が中国の持って行かれ
るのだ」と不満を表明しているのは、なんとパキスタン政府の漁業大臣で
ある。漁民は新興住宅地に強制的に移住させられ、近く完成するという学
校でエンジニアリングを学ばせると良い等いわれた。その間に外国に漁業
権を売り払っていたのが州政府だった。

だからパキスタン軍や警察にテロをしかけるバロチスタン解放戦線の軍事
作戦も、かれらにとっては「正義の味方」と映る。


 ▼バロチスタンとは「バローチ人の国」という意味だ

バロチスタン州の住民たちにとって、前にも述べたようにパキスタンに帰
属するという意識は希薄である。もともとが独立潘王国だったのだ。

歴史は古く紀元前七世紀から3世紀にかけてインダス文明の一員として栄
え、文明の通り道ということは軍隊の通過地点でもあり、古くはアレキサ
ンダー大王、アッバース朝(イラン)の支配下、チンギスハーンの軍が攻
め込むとチムール帝国に組み入れられ、ようやく1638」年にカラーと藩王
国として半独立状態だった。

幾多の軍隊が通過するという歴史的な意味は、民族が複雑に構成され、言
語状況は多国語の世界となる。文化的にも混沌状態が通常となる。

8世紀にはイスラムが入ってきて、それまでにあった仏教遺跡などは破壊
された。

1947」年に英国保護下で独立したものの、藩王国としては1955年に消滅。
理由はパキスタン軍事力にかなわなかったからで、面積こそ広いが、人口
は800万、パキスタン全人口の5%でしかない。

地政学的要衝として、歴代の侵略国が重視したのも、現代人の感覚ではパ
キスタンの最西端だが、地誌的に見れば、「イラン高原の最東端」と見た
方がよい。

それゆえ宿命の対決を繰り返すインドは、グアダル港の頭越しに、イラン
の最東端にあるチャバハール港の開発を進めてきた。

このような歴史的経緯からバローチ人と一口に言っても、言語的にはパン
ジャブ語、シンドー語、ウルドウ語、ペルシア語が混在している。

パキスタンがバロチスタンを手放さないのは、豊富な鉱物資源ばかりか、
過疎地、砂漠地であるため核実験場として活用できるからで、ある意味で
はパキスタンにおけるウィグルのような状況と言えるかもしれない。


 ▲「中国の遣り方はかつての英国植民地時代の「東インド会社」そっくりだ

「いまの中国の進出はかつての英国の『東インド会社』だ」と言うのがバ
ロチスタン州に住む人たちの実直な感想であり、中国の進めるCPECに
賛成する人は少ない。というよりほとんどいない。

「中国がきたら儲かる」と期待した地元ビジネスマンも「結局、建材から
労働者まで中国からつれてきた。皮肉なことに、その中国人労働者をパキ
スタンの軍隊と警察が守っている。だから彼らへの恨みがテロとなってい
る」というのがバロチスタン住民の意見である。

夢は無惨に潰えた。

2015年4月に習近平がパキスタンを訪問し、一帯一路の一環プロジェクト
として開発を約束し、「パナマ運河の年収は25億ドル、スエズ運河は50億
ドル。だからグアダル港がハブ化すれば、最低でも20〜30億ドルになる」
などと根拠のうすい美辞麗句に騙されてしまった。

中国の示した青写真では「グアダル港は近代的に整備されるうえ、周辺に
は大学、病院、経済特区の建設で、いずれはドバイやアブダビやシンガ
ポールのようにピカピカの摩天楼が林立し、現在18万5000の人口は200万
人に増える、経済的判定は目の前だ」という夢物語だった。

2017年にクエッタで中国語教師が拉致され、身代金を要求された後、殺害
された。2018年にはカラチの中国領事館が自爆テロに襲われ、2019年4月
には中国労働者現場の警備に派遣途中の軍人がハイウェイで待ち伏せさ
れ、26人が殺害された。

2019 年5月には、グアダルの最高級ホテルが襲われて5 人が死亡、13日、
クエッタで警察車両が襲撃された。
       
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